説明

ダビガトランエテキシラートを含有する医薬組成物

本発明は、ダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ダビガトランエテキシラート(3−[(2−{[4−(ヘキシロキシカルボニルアミノ−イミノ−メチル)−フェニルアミノ]−メチル}−1−メチル−1H−ベンゾイミダゾール−5−カルボニル)−ピリジン−2−イル−アミノ]−プロピオン酸エチルエステル)は以下の化学式で表される。
【化1】

【0003】
この活性物質は、国際公開第98/37075号により既に公知であり、その主要な適応領域は、術後の深部静脈血栓症の予防および脳卒中の予防である。
【0004】
この活性物質の水への溶解度は、わずか1.8mg/mlである。また、この活性物質の溶解度はpH依存性が強く、酸性環境で大幅に増大する。したがって、従来の経口用医薬組成物には、この活性物質の溶解度が患者の胃内pH値に依存するため生物学的利用率が大きく変動するという問題がある。このことは、生理的変動、病気または前投薬(例えばPP阻害剤)により胃内pH値が変化する患者において特に問題となる。したがって、胃内pH値に非依存的な放出特性を有しひいては有効成分の生体内利用に適した、活性物質ダビガトランエテキシラートの経口用医薬組成物が必要とされている。
【0005】
国際公開第03/074056号では、ダビガトランエテキシラートに加えて、20℃の水溶解度が1g/250mlより高い薬学的に許容される有機酸を1以上含む、経口で用いられる医薬組成物が示唆されている。しかし、このような医薬組成物は、患者、特に、胃酸過多の症状を有する患者に対しては禁忌となる可能性がある。さらに、有機酸の配合により、適切な錠剤またはカプセル剤に含有させることの可能な有効成分量は制限される。この問題は、有機酸の緩衝能が一般に低く、適切な錠剤の溶出時に周囲環境のpH値に影響を及ぼすには比較的多くの量を配合しなくてはならないという事実によって、さらに厄介なものとなる。
【0006】
さらに、国際公開第03/074056号には、有効成分と結合剤とで構成される分散液をコア表面に噴霧することにより調製される医薬組成物が記載されている。実施例によれば、有効成分と結合剤との比率は5:1であり、有効成分が結合剤よりもかなり多く使用されている。この場合、有効成分の粒子は実質的に残っており、使用された結晶質形態のままで存在している。このことは、図1に示す、同様の方法で調製された市販品Pradaxa(登録商標)の粉末X線回折パターンによって裏付けられており、この回折パターンには、結晶質ダビガトランエテキシラートの特徴的な複数のピークが認められる。
【0007】
含有成分の混合または造粒によって調製される、ダビガトランエテキシラートを有効成分として含むその他の医薬製剤は、国際公開第98/37075号、国際公開第2006/114415号、国際公開第2006/131491号および国際公開第2005/018615号により公知である。また、国際公開第2005/028468号には、結晶質ダビガトランエテキシラートメシル酸塩の種々の多形体が開示されている。
【0008】
最後に、国際公開第2005/023249号には、有効成分としてのダビガトランエテキシラートと、液体、固体または半固体の薬学的に許容される親油性キャリアシステムとを組み合わせた医薬組成物が開示されている。この医薬組成物の調製方法の1つとして、有効成分を液体の(融解した)キャリアシステムに撹拌下で分散させて分散液を調製する方法が挙げられる。この条件下では、有効成分はキャリアシステムに溶解せず、分散液である最終組成物中に、キャリアシステムに内包される固体の有効成分粒子として存在する。
【0009】
ダビガトランエテキシラートを有効成分として提供する、pH値に可能な限り依存しない放出特性を有する形態の医薬組成物であって、その製剤にpH調整剤として酸が含まれていないことを特徴とする医薬組成物が依然として必要とされている。さらに、この製剤は加工が容易で、物理的にも化学的にも安定な形態で有効成分を提供するものでなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、有効成分としてのダビガトランエテキシラートまたは薬学的に許容される塩が非晶質形態で提供されるという特徴により、上述した問題だけでなくその他の問題も解決できることが分かった。したがって、本発明は、非晶質形態のダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】市販品Pradaxa(登録商標)の粉末X線回折パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ダビガトランエテキシラートの薬学的に許容される塩として特に好適な塩は、メシル酸塩、すなわちメタンスルホン酸の塩である。
【0013】
有効成分が結晶質形態であるか非晶質形態であるかは、例えばDSC測定または粉末X線回折パターンにより識別することができる。結晶質の有効成分粒子の場合、粉末X線回折パターンにおいて、非晶質の有効成分の場合には見られない特徴的な複数のピークが認められる(例えば図1を参照のこと)。
【0014】
本発明は、2つの異なる非晶質形態のダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を提供する。一実施形態において、本発明は、固体溶媒と、該固体溶媒に溶解したダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩とを含む固溶体である。本発明の第2の実施形態は、無定形の有効成分を、安定化を目的として1以上の親水性ポリマーと組み合わせた組成物として提供する。上記の固溶体と、この無定形の有効成分を含む組成物とは以下の点で異なる。該固溶体においては有効成分は分子として分散して存在するが、該組成物においてはポリマー粒子以外に無定形の有効成分粒子も存在する。したがって、上記の固溶体は分子レベルでの混合物であるが、上記の組成物は巨視的な粒子の混合物である。
【0015】
したがって、本明細書において、固溶体とは、温度23℃、圧力101kPaで固体であり、成分が均一に分散している物質と理解される。よって、固体溶媒中に有効成分が分子として分散している。したがって、固溶体には有効成分の粒子が実質的に存在しない。本明細書において、「有効成分の粒子が実質的に存在しない」とは、有効成分の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、例えば少なくとも99重量%が固体溶媒に溶解した状態にあり、分子として分散して存在することを意味する。固体溶媒中に有効成分が完全に分子として分散していることが最も好ましい。残存する有効成分粒子は無定形でも結晶質でもよい。有効成分の分子が分散して、その結果溶液が生じている場合は、例えば、電子顕微鏡写真、DSC測定、または粉末X線回折パターンに特徴が見られ、粉末X線回折パターンにおいては、結晶質の有効成分粒子が固体溶媒に溶解すると結晶質の有効成分粒子に特徴的な複数のピークが小さくなるという特徴が見られる。
【0016】
本明細書において、「固体溶媒」とは、温度23℃、圧力101kPaで固体として存在する溶媒と理解される。有効成分であるダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩に好適な固体溶媒としては、例えば親水性ポリマーが挙げられる。親水性ポリマーは単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
【0017】
一般に、「親水性ポリマー」の定義には、極性基を有するポリマーが包含される。極性基の例としては、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、エーテル基、エステル基およびスルホン酸基が挙げられるが、ヒドロキシ基が特に好ましい。
【0018】
本発明における親水性ポリマーは、23℃の水溶解度が0.01mg/mlより高いものが好ましい。
【0019】
本発明の固溶体の調製方法については後述するが、その方法によっては、親水性ポリマーの融点も問題となる。固体溶媒を融解して調製する場合、融解中に有効成分の分解が進むことを避けるため、親水性ポリマーの融点は、有効成分の融点より低い温度になるように選択されるべきである。この場合、親水性ポリマーの融点は140℃未満であることが好ましく、120℃未満であることがより好ましい。噴霧乾燥によって調製する場合は、融点に関係なくポリマーを選択することができる。
【0020】
親水性ポリマーの平均分子量は、通常1,000〜250,000g/mol、好ましくは2,000〜100,000g/mol、特に好ましくは4,000〜85,000g/molである。さらに、親水性ポリマーを純水に溶解した2%(w/w)溶液の粘度は、25℃において0.2〜18mPasであることが好ましい。この粘度は、欧州薬局方(Ph.Eur.)、第6版、2.2.10章に従って測定されるものである。
【0021】
さらに、親水性ポリマーのガラス転移点(Tg)は、20〜220℃であることが好ましく、25〜170℃であることがさらに好ましい。ガラス転移点(Tg)とは、親水性ポリマーがこの温度を境にして低温では脆性になり、高温では柔軟性を有する温度のことを言う。このことは、親水性ポリマーはガラス転移点を超える温度では柔らかくなり、分断されることなく可塑的に変形し得ることを意味する。このガラス転移点は、昇温速度10℃/分および降温速度15℃/分の条件下、メトラートレド(登録商標)社製の示差走査熱量測定装置DSC 1を用いて測定されるものである。
【0022】
好適な親水性ポリマーの例として、セルロース誘導体、具体的にはセルロースの親水性誘導体(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(好ましくはナトリウム塩またはカルシウム塩として)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC))、デンプン、アラビアゴム、トラガカントゴム、ポリビニルピロリドン(PVP)、好ましくは分子量が10,000〜60,000g/molであるPVP、PVPの共重合体、好ましくは構成単位としてビニルピロリドンと酢酸ビニルとを含む共重合体(例えばポビドン、VA64、BASF)であって、分子量が40,000〜70,000g/molである共重合体、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリ(オキシエチレン)脂肪酸エステル(例えばソルトール)、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体(ポロキサマー、プルロニック)、ポリメタクリレート誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体(例えばポリエチレングリコールグリセリド、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステル)およびショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。
【0023】
好ましい親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールグリセリド、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンである。
【0024】
本発明の固溶体において、固体溶媒に対する有効成分の重量比は、特に限定されず、当業者が自由に選択することができる。しかし、固体溶媒の量は、少なくとも有効成分が溶解する程度の量となるよう選択することが重要である。固体溶媒の必要量は、特に、用いる製造方法によって異なる。例えば、比較的高温および高圧のもとで行う溶融押出法を用いれば、融解した溶媒に有効成分を加えて単に撹拌する場合より、一定量の溶媒に溶解可能な有効成分量は多くなる。しかし、あまりにも多量の有効成分を溶媒に溶解すると、得られた固溶体が冷却後に十分な安定性を保てず、有効成分が再結晶するというリスクがある。通常、本発明の固溶体において、固体溶媒に対するダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1以下とするべきであり、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下である。例えば、該重量比としては、1/10〜1の範囲、好ましくは1/6〜1の範囲が挙げられる。ただし、特に、後に詳述する噴霧乾燥により固溶体を調製する場合は、有効成分の割合は10倍まで、好ましくは5倍までとさらに高くすることも可能である。
【0025】
さらに、本発明の固溶体は、固体溶媒および有効成分以外に、薬学的に許容される添加剤をさらに含むこともできる。好ましくは、本発明の固溶体は1以上の結晶化抑制剤をさらに含む。この結晶化抑制剤は、本発明の固溶体の長期保存安定性に対して有益な効果をもたらす。好適な結晶化抑制剤としては、例えば塩化アンモニウムなどの無機塩、または有機塩が挙げられる。尿素も結晶化抑制剤の好適な例として挙げられる。
【0026】
他の好適な添加剤としては、例えば公知の酸化防止剤が挙げられる。
【0027】
本発明の一実施形態において、本発明の固溶体は、有効成分および固体溶媒以外にいかなる酸性成分も、具体的にはいかなる有機酸および/または無機酸も含まない。
【0028】
特に、後に詳述する溶融押出法を用いた本発明の固溶体の調製方法においては、表面積が1.5m/gを超える高融点の添加剤を固体溶媒にさらに加えることは有利かもしれない。このような添加剤は、最終溶融物の共融点を上昇させる。この目的に好適な添加剤の例としては、微結晶セルロース、高分散シリカおよびリン酸カルシウムが挙げられる。また、低融点のポリマーと高融点のポリマーを組み合わせて用いることも可能である。
【0029】
本発明の固溶体は、適切な固溶体を調製するための公知の方法を任意に用いて調製してもよい。例えば、有効成分を固体溶媒の融解液に溶解した後、得られた溶液を冷却してもよい。固体溶媒の融解液への有効成分の溶解は、溶融押出法により行われることが好ましい。次いで、冷却後、必要に応じて、得られた固溶体を粉砕および篩過して、そのまま充填して例えばカプセル剤としてもよく、あるいはその前にさらなる添加剤を加えてもよい。あるいは、得られた溶融顆粒をそのまま圧縮して、またはさらなる添加剤と共に圧縮して錠剤とすることもできる。
【0030】
高融点のポリマーを使用してまずプレエマルションを調製し、これを凍結乾燥した後に加工することも有利かもしれない。
【0031】
別の実施形態において、本発明の固溶体は噴霧乾燥により調製してもよい。この場合、固体溶媒および有効成分の両方を、別の溶媒、例えばエタノールと水との混合溶媒に溶解した後、公知の方法で噴霧乾燥させる。固体溶媒も有効成分も最初は溶解した状態で存在しているため、得られた顆粒において固体溶媒中に有効成分が分子として分散して存在するよう噴霧乾燥条件を選択して、噴霧乾燥した顆粒が所望の固溶体となるようにしてもよい。噴霧乾燥による調製方法の利点の1つは、融点に関係なくポリマーを選択できるという点である。
【0032】
噴霧乾燥して得られた顆粒は、粉砕および篩過した後、そのまま充填してカプセル剤としてもよく、あるいはさらなる添加剤を加えてもよい。あるいは、噴霧乾燥した顆粒をそのまま圧縮して、またはさらなる添加剤と共に圧縮して錠剤とすることもできる。
【0033】
非晶質形態のダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を提供する本発明の第2の実施形態は、無定形のダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩と1以上の親水性ポリマーとを含む組成物である。上述した固溶体とは異なり、この組成物においては、親水性ポリマーの粒子以外に、無定形の有効成分粒子も存在する。上述した固溶体とこの組成物との違いは、例えば電子顕微鏡写真において認められ、またDSC測定によっても見出すことができる。
【0034】
本発明の組成物は、結晶質の有効成分粒子が実質的に存在しないものでなくてはならない。「結晶質の有効成分粒子が実質的に存在しない」とは、有効成分の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、例えば少なくとも99重量%が無定形で存在することを意味する。有効成分が完全に無定形であることが最も好ましい。
【0035】
本発明の組成物のさらに別の実施形態において、該組成物におけるダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩の粒径(d90)は、50μm未満、好ましくは30μm未満、最も好ましくは10μm未満である。
【0036】
本発明の組成物に好適な親水性ポリマーは、本発明の固溶体に関連して記載した前述の親水性ポリマーである。また、前述した本発明の固溶体に使用するさらなる添加剤を、本発明の組成物に使用してもよい。
【0037】
本発明の組成物において、親水性ポリマーに対するダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩の重量比は、通常1/30〜10とするべきであり、好ましくは1/10〜10、最も好ましくは1/5〜5である。
【0038】
驚くべきことに、本発明の組成物は、有効成分であるダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を、親水性ポリマーとともに十分に粉砕することにより得られることが分かった。結晶質形態の有効成分を用いても、親水性ポリマーの存在下で粉砕することにより、有効成分の粒子が非晶化する。さらに、親水性ポリマーは有効成分粒子の非晶質状態を安定化するため、粉砕後に得られた組成物は物理的にも化学的にも安定しており、医薬組成物に加工することができる。
【0039】
したがって、本発明は、ダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を、1以上の親水性ポリマーの存在下で粉砕することを含む、上記の組成物を調製する方法にも関する。粉砕は、乾式粉砕あるいは湿式粉砕のいずれの方法でも行うことができる。例えば液体窒素を用いて、冷却しながら乾式粉砕を行うことが好ましい。適切な粉砕方法および好適な粉砕機は当業者に公知である。
【0040】
本発明の組成物が、微粉化された/非晶相の有効成分を安定化させることを目的として、有効成分および親水性ポリマー以外に乳化剤をさらに含むことは有利かもしれない。この乳化剤は、HLB値が12を超える乳化剤であることが好ましい。好適な乳化剤は天然由来のものでも、合成由来のものでもよい。例えば、レシチン、ステアリル硫酸ナトリウム、ツウィーン80、MrijおよびBrijが好適である。
【0041】
本発明は、上述した本発明の固溶体または組成物を含む医薬組成物にも関する。本発明の医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、サシェ剤、粉剤、顆粒剤またはペレット剤であってもよい。
【0042】
本発明の医薬組成物は、固体溶媒すなわち親水性ポリマー以外に、例えば増量剤、滑沢剤、流動調整剤、離型剤および崩壊剤などの薬学的に許容される添加剤を1以上さらに含むことができる(“Lexikon der Hilfsstoffe fur Pharmazie,Kosmetik und angrenzende Gebiete(医薬品、化粧品及び関連分野のための補助剤辞典)” H.P.Fiedler編、第4版;ならびに“Handbook of Pharmaceutical Excipients(医薬品添加物ハンドブック)” 第3版、Arthur H.Kibbe編、American Pharmaceutical Association,Washington,USAおよびPharmaceutical Press,Londonを参照のこと)。
【0043】
増量剤:本発明の医薬組成物は1以上の増量剤を含むことができる。一般に増量剤は、混合物のかさ容積を増やして、得られる剤形のサイズを増大させる物質である。増量剤の好ましい例としては、ラクトースおよびリン酸水素カルシウムが挙げられる。増量剤の含有量は、本発明の組成物の総重量に対して、0〜80重量%であってよく、10〜60重量%であることが好ましい。
【0044】
滑沢剤:滑沢剤の機能は、ペレットの成形および排出における固形物とダイ壁との摩擦を低減することである。滑沢剤は、アルカリ土類金属のステアリン酸塩、またはステアリン酸などの脂肪酸であることが好ましい。滑沢剤の含有量は、本発明の医薬組成物の総重量に対して、通常0〜2重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0045】
崩壊剤:通常、崩壊剤とは、液体と接した錠剤を速やかに細かく分散させることのできる物質のことを言う。好ましい崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)またはナトリウムカルボキシメチルグリコラート(例えばエキスプロタブ)および炭酸水素ナトリウムが挙げられる。崩壊剤の含有量は、本発明の組成物の総重量に対して、通常0〜20重量%、好ましくは1〜15重量%である。
【0046】
流動調整剤:流動調整剤としては、例えばコロイドシリカを使用することができる。流動調整剤の含有量は、本発明の組成物の総重量に対して、好ましくは0〜8重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。
【0047】
離型剤:離型剤は、例えば滑石であってよく、その含有量は、本発明の組成物の重量に対して、0〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0048】
本発明の医薬組成物は、有効成分が本質的にpH非依存的に放出されるという利点を有する。このように特殊な放出挙動は、理論に縛られることなく、非晶質形態の有効成分と固体溶媒(具体的には親水性ポリマー)の存在との組み合わせによるものであると考えられる。本発明における有効成分は非晶質形態であるため、極めて速やかに溶出すると考えられる。しかし一般に、非晶質の有効成分では、しばしば溶出直後に再結晶化するという問題が起こる。この問題は、おそらく、親水性ポリマーの存在により解決されると考えられる。なぜなら、同様に溶出する親水性ポリマーには、本発明の医薬組成物の直接的な環境において、過飽和状態にある有効成分溶液を安定化し、結果として再結晶化を防止する能力があると考えられるからである。
【実施例】
【0049】
これより、以下の実施例を参照しつつ、本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【0050】
実施例1〜6では、記載のポリマーを融解して、これに有効成分を溶解し、任意で配合してもよい添加剤をさらに添加した後、得られた溶融液を冷却することにより、固溶体を調製した。
【0051】
実施例7および8では、記載の成分をエタノールと水との混合溶液に溶解した後、得られた溶液を噴霧乾燥(Buchi社)した。
【0052】
<実施例1>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
PEG 6000 86.55mg
<実施例2>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
プルロニック F127 432.75mg
<実施例3>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
Gelucire 50/13 86.55mg
プルロニック F127 12.5mg
<実施例4>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
プルロニック F68 25mg
<実施例5>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
Gelucire 55/13 432.75mg
アビセル 101 35.8mg
<実施例6>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
PEG 6000 86.55mg
ソルトール HS 3.0mg
<実施例7>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
HPMC(ファーマコート 603) 86.55mg
ソルトール HS 3.0mg
<実施例8>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
ポビドン VA64 200.00mg
<実施例9>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
ファーマコート 603(HPMC) 17.31mg
SDS 4.32mg
【0053】
有効成分をHPMCおよびSDSとともに、Netzsch社のMicroCerを用いて、回転数3,000/分で1.5時間、水中で粉砕した。得られた懸濁液を、凍結乾燥もしくは噴霧乾燥するか、またはアビセルおよびHPMCの混合物表面に付着させて造粒した。
【0054】
<実施例10>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
Sepitrab(ツウィーン80) 437.75mg
この混合物をボールミル(Retsch社)を用いて2時間粉砕した。
【0055】
<実施例11>
ダビガトランエテキシラートメシル酸塩 86.55mg
Lyocoat(エンドウ豆デンプン) 200.00mg
この混合物をボールミル(Retsch社)を用いて2時間粉砕した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質形態のダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
固体溶媒と、該固体溶媒に溶解したダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩とを含む固溶体。
【請求項3】
前記固体溶媒が1以上の親水性ポリマーから選択される請求項2に記載の固溶体。
【請求項4】
前記親水性ポリマーの平均分子量が1,000〜250,000g/molである請求項3に記載の固溶体。
【請求項5】
前記親水性ポリマーのガラス転移点が20〜220℃である請求項3または請求項4に記載の固溶体。
【請求項6】
前記親水性ポリマーがセルロース誘導体、デンプン、アラビアゴム、トラガカントゴム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリ(オキシエチレン)脂肪酸エステル、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリ(メタクリレート)誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体およびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される、請求項3〜5のいずれか1項に記載の固溶体。
【請求項7】
前記親水性ポリマーがポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールグリセリド、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される、請求項6に記載の固溶体。
【請求項8】
前記固体溶媒に対するダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩の重量比が1以下、好ましくは1/5以下である、請求項2〜7のいずれか1項に記載の固溶体。
【請求項9】
結晶化抑制剤をさらに含む、請求項2〜8のいずれか1項に記載の固溶体。
【請求項10】
前記結晶化抑制剤が塩化アンモニウムおよび尿素から選択される請求項9に記載の固溶体。
【請求項11】
無定形のダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩と1以上の親水性ポリマーとを含む組成物。
【請求項12】
ダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩の粒径(d90)が50μm未満である請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記親水性ポリマーの平均分子量が1,000〜250,000g/molである請求項11または12に記載の組成物。
【請求項14】
前記親水性ポリマーのガラス転移点が20〜220℃である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記親水性ポリマーがセルロース誘導体、デンプン、アラビアゴム、トラガカントゴム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリ(オキシエチレン)脂肪酸エステル、エチレンオキシド−プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリ(メタクリレート)誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体およびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される、請求項11〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記親水性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレアートおよびデンプンからなる群より選択される請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記親水性ポリマーに対するダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩の重量比が1/30〜10である、請求項11〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
乳化剤をさらに含む、請求項11〜17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記乳化剤がレシチン、ステアリル硫酸ナトリウム、ツウィーン80、MrijおよびBrijから選択される請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記溶媒にダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を溶解することを含む、請求項2〜10のいずれか1項に記載の固溶体を調製する方法。
【請求項21】
前記溶解が前記溶媒の融解液で行われる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記溶解が溶融押出法により行われる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記固体溶媒とダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩とをさらに別の溶媒に溶解して得られた溶液を噴霧乾燥する間に前記溶解が行われる請求項20に記載の方法。
【請求項24】
ダビガトランエテキシラートまたはその薬学的に許容される塩を、1以上の親水性ポリマーの存在下で粉砕することを含む、請求項11〜19のいずれか1項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項25】
請求項2〜10のいずれか1項に記載の固溶体または請求項11〜19のいずれか1項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【請求項26】
錠剤、カプセル剤、サシェ剤、粉剤、顆粒剤またはペレット剤の形態である請求項25に記載の医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2013−521318(P2013−521318A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556453(P2012−556453)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053236
【国際公開番号】WO2011/110478
【国際公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(501249043)ラティオファルム ゲー・エム・ベー・ハー (7)
【Fターム(参考)】