説明

ダブルラップスクロール流体機械

【課題】 従来のダブルラップスクロール流体機械における諸問題を解決するとともに、小型で、かつ構造を著しく簡素化したダブルラップスクロール流体機械を得る。
【解決手段】 駆動軸5の両端に形成した偏心軸部6に、それぞれ、外側面に旋回ラップ13を立設してなる旋回スクロール10を枢支するとともに、各旋回スクロール10の外側に、内側面に固定ラップ15を備える固定スクロール14を駆動軸5と同心的に設け、旋回ラップ13と固定ラップ15を噛合させることにより、両ラップの間に渦巻状の密閉室を形成し、かつ各旋回スクロール10の適所に、その自転運動を阻止するための複数の自転防止機構を設けてなるダブルラップスクロール流体機械において、駆動軸5を、外部動力により駆動するようにし、かつ自転防止機構を偏心軸型式のものとするとともに、その旋回スクロール10の内側方へ突出するクランク軸18をもって、両側の旋回スクロール10同士を連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機、スクロール真空ポンプ、スクロール膨張機、スクロール送風機等のスクロール流体機械であって、旋回スクロールにおける旋回ラップと、固定スクロールにおける固定ラップとを噛合させることにより、両ラップの間に渦巻状密閉室を形成した流体圧力可変ユニット2組を、ケーシングの両側に配置したダブルラップスクロール流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなダブルラップスクロール流体機械自体は公知であり、その代表的なものが、例えば特許文献1および2に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されている、旋回スクロールを外周で駆動する方式のものでは、3組の自転防止機構の中、ベルトをもって駆動される駆動軸と一体をなすクランク軸と、駆動力が作用していないクランク軸とは、常に正確に同期が保たれているとは限らない。
【0004】
そのため、左右の流体圧力可変ユニットにおける渦巻状密閉室内の対応部分における圧力に差が生じ、旋回スクロールの端板の旋回運動が、クランク軸の軸線と直交する面に対して傾斜したり、波打ち状態となったりするおそれがある。
【0005】
特許文献2に記載されているものにおいても、駆動力が作用していない旋回軸の両端における旋回スクロールにおいては同様の問題があり、かつ左右の流体圧力可変ユニットの間に、駆動源として電動機が設けられているため、全体寸法が大となるとともに、流体圧力可変ユニットに不具合が生じた場合には、これを、電動機とともに取外すか、あるいは交換しなければならず、面倒である。
【0006】
また、左右の流体圧力可変ユニットにおける旋回スクロールに作用する軸方向の荷重が不均等となった場合には、軸受や旋回スクロール端板に作用する負荷が大となる。
【特許文献1】特開2002−349456号公報
【特許文献2】特開2004−116471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は簡単な構成をもって上記した従来のダブルラップスクロール流体機械における諸問題を解決するとともに、小型で、かつ構造を著しく簡素化したダブルラップスクロール流体機械を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1)駆動軸の両端に形成した偏心軸部に、それぞれ、外側面に旋回ラップを立設してなる旋回スクロールを枢支するとともに、各旋回スクロールの外側に、内側面に固定ラップを備える固定スクロールを駆動軸と同心的に設け、前記旋回ラップと固定ラップを噛合させることにより、両ラップの間に渦巻状の密閉室を形成し、かつ各旋回スクロールの適所に、その自転運動を阻止するための複数の自転防止機構を設けてなるダブルラップスクロール流体機械において、前記駆動軸を、外部動力により駆動するようにし、かつ前記自転防止機構を偏心軸型式のものとするとともに、その前記旋回スクロールの内側方へ突出するクランク軸をもって、前記両側の旋回スクロール同士を連結する。
【0009】
(2)上記(1)項において、自転防止機構を、ハウジングの左右側壁間に架設した支持筒内に挿入した偏心筒内にクランク軸を枢支してなる偏心軸型式のものとする。
【0010】
(3)上記(1)項において、自転防止機構を、各旋回スクロール端板の内側方へ突出させたクランク軸同士を、連結する中間軸を、ハウジングの左右側壁間に架設した支持筒に枢支してなる偏心軸型式のものとする。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、駆動軸を、外部動力により、ベルトをもって駆動するようにする。
【0012】
(5)上記(4)項において、ベルトを、1つの自転防止機構の外周部を経て、駆動軸に設けたプーリに掛け回わす。
【0013】
(6)上記(1)〜(5)項のいずれかにおいて、駆動軸の外周に従動ギアを形成し、この従動ギアに、外部動力で駆動される駆動ギアを噛合することにより、駆動軸を駆動するようにする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1および2に係る発明:−駆動軸により、両側の旋回スクロールは同期的に駆動され、かつ共通のクランク軸をもって、両側の自転防止機構は、常に同期運転される。
【0015】
請求項3係る発明:−ハウジングの左右の側壁の内側方へ突出するクランク軸同士を連結する中間軸の支持構造が簡単となる。
また、左右のクランク軸の偏心量を変えることにより、左右の旋回スクロールが偏心量を異にするものである場合に対応させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明:−左右の旋回スクロールの間に動力源がないので、駆動軸を、ベルト用プーリおよびベルトの運動を妨げない程度に短かくすることができ、それに応じて自転防止機構のクランク軸も短かくして、全体寸法を小としうるとともに、軽量化を図ることができる。
【0017】
請求項5に係る発明:−ベルトは、最短経路をもって駆動軸に設けたプーリに掛け回わされるので、ベルトの占守空間を小とすることができ、かつベルトは深く湾曲した状態で、駆動軸上のプーリに掛け回されることとなるので、ベルトの滑りは小となるとともに、その動力伝達効果は大となる。
【0018】
請求項6に係る発明:−スリップはないので、動力の損失は小さく、かつ左右の旋回スクロールの間に動力源がないので、 全体寸法を小とすることができ、また必要に応じて、外部動力を交換することができるとともに、本体に比して著しく大寸の外部動力を利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、請求項1、2、4、5に記載の本発明の好ましい実施形態を示す縦断正面図、図2は、図1におけるII−II線縦断面図である。
【0020】
正面視門形をなすハウジング(1)の左右側壁(2)の内面の対向個所には、それぞれ軸受筒(3)が突設され、左右の軸受筒(3)(3)内に固嵌したボールベアリング(4)(4)には、駆動軸(5)の両端よりやや内側部分が固嵌されている。
【0021】
駆動軸(5)の両端は偏心軸部(6)となっている。
駆動軸(5)の中央には大径のプーリ(7)が一体形成され、かつ前記偏心軸部(6)の径方向の反対側において、プーリ(7)の両側には、径方向のカウンタウエイト(8)が突設されている。
【0022】
駆動軸(5)の各偏心軸部(6)には、ローラベアリング(9)を介して旋回スクロール端板(10)と一体をなすボス(11)が枢支されている。
【0023】
旋回スクロール端板(10)の内側面には、多数の冷却フィン(12)が、同じく外側面には、旋回ラップ(13)が、それぞれ立設されている。
【0024】
旋回ラップ(13)には、周辺部がハウジング(1)に止着された固定スクロール端板(14)の内面に立設された固定ラップ(15)が、公知の要領で噛み合わされ、ハウジング(1)の両側に、それぞれ流体圧力可変ユニット(16)が形成されている。
【0025】
各旋回スクロール端板(10)の内面の同一円周上における等間隔の3か所には、受筒(17)が一体形成され、各受筒(17)内には、内方へ突出するクランク軸(18)の端部が固着されている。
【0026】
前記左右の受筒(17)(17)を結ぶ線上において、ハウジング(1)の左右側壁(2)(2)間には、支持筒(19)が架設され、支持筒(19)の内面に設けた厚肉部(20)内にベアリング(21)を介して挿入した偏心筒(22)内に、前記支軸(18)を、ベアリング(23)を介して枢支してある。偏心筒(22)の偏心量は、駆動軸(5)の偏心軸部(6)の偏心量と等しい。
【0027】
従ってクランク軸(18)は、支持筒(19)内において、その軸線まわりに偏心回転しうるようになっている。
このように構成された自転防止機構をもって、左右の旋回スクロール同士は、一体的に偏心回転するように連結されている。
【0028】
駆動軸(5)と一体をなすプーリ(7)には、外部に設けたモータその他の動力により駆動され、かつ1つの支持筒(19)の両側方を近接して走行する無端ベルト(24)が巻回されている。
【0029】
適宜の外部動力をもって無端ベルト(24)を駆動すると、駆動軸(5)を介して、流体圧力可変ユニット(16)における旋回スクロール端板(10)は偏心回転させられ、流体を流体圧力可変ユニット(16)の外側部から吸入して、中心方向へ向うに従い、加圧もしくは減圧する。
【0030】
前記プーリ(7)に代わり、図示は省略するが、駆動軸(5)の外周に、適宜の従動ギアを刻設するか、あるいは従動ギアを固嵌し、この従動ギアに、外部動力をもって駆動される駆動ギアを噛合することにより、駆動軸(5)を駆動するようにしてもよい。
【0031】
自転防止機構を、図3に示すように、各旋回スクロール端板(10)の内側方へ突出させたクランク軸(25)(25)同士を、前記偏心軸部(6)と等しい偏心量をもって、中間軸(26)をもって連結し、この中間軸(26)を、ハウジング(1)の左右側壁(2)(2)間に架設した支持筒(27)に枢支したものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態を示す縦断正面図である。
【図2】図1におけるII−II線縦断面図である。
【図3】異なる型式の自転防止機構を設けた本発明の実施形態を示す縦断正面図である。
【符号の説明】
【0033】
(1)ハウジング
(2)側壁
(3)軸受筒
(4)ボールベアリング
(5)駆動軸
(6)偏心軸部
(7)プーリ
(8)カウンタウエイト
(9)ローラベアリング
(10)旋回スクロール端板
(11)ボス
(12)冷却フィン
(13)旋回ラップ
(14)固定スクロール
(15)固定ラップ
(16)流体圧力可変ユニット
(17)受筒
(18)クランク軸
(19)支持筒
(20)厚肉部
(21)ベアリング
(22)偏心筒
(23)ベアリング
(24)無端ベルト
(25)クランク軸
(26)中間軸
(27)支持筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の両端に形成した偏心軸部に、それぞれ、外側面に旋回ラップを立設してなる旋回スクロールを枢支するとともに、各旋回スクロールの外側に、内側面に固定ラップを備える固定スクロールを駆動軸と同心的に設け、前記旋回ラップと固定ラップを噛合させることにより、両ラップの間に渦巻状の密閉室を形成し、かつ各旋回スクロールの適所に、その自転運動を阻止するための複数の自転防止機構を設けてなるダブルラップスクロール流体機械において、
前記駆動軸を、外部動力により駆動するようにし、かつ
前記自転防止機構を偏心軸型式のものとするとともに、その前記旋回スクロールの内側方へ突出するクランク軸をもって、前記両側の旋回スクロール同士を連結したことを特徴とするダブルラップスクロール流体機械。
【請求項2】
自転防止機構を、ハウジングの左右側壁間に架設した支持筒内に挿入した偏心筒内にクランク軸を枢支してなる偏心軸型式のものとしたことを特徴とする請求項1記載のダブルラップスクロール流体機械。
【請求項3】
自転防止機構を、各旋回スクロール端板の内側方へ突出させたクランク軸同士を、連結する中間軸を、ハウジングの左右側壁間に架設した支持筒に枢支してなる偏心軸型式のものとしたことを特徴とする請求項1記載のダブルラップスクロール流体機械。
【請求項4】
駆動軸を、外部動力により、ベルトをもって駆動するようにしてなる請求項1〜3のいずれかに記載のダブルラップスクロール流体機械。
【請求項5】
ベルトを、1つの自転防止機構の外周部を経て、駆動軸に設けたプーリに掛け回わしてなる請求項4記載のダブルラップスクロール流体機械。
【請求項6】
駆動軸の外周に従動ギアを形成し、この従動ギアに、外部動力で駆動される駆動ギアを噛合することにより、駆動軸を駆動するようにしてなる請求項1〜5のいずれかに記載のダブルラップスクロール流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−170130(P2006−170130A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366241(P2004−366241)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】