説明

チアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤、およびチアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法

【課題】チアミンラウリル硫酸塩を水に高濃度溶解することが可能な水溶性の粉末製剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、水溶性の粉末製剤を提供し、該粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とからなり、該粉末製剤を、該チアミンラウリル硫酸塩の濃度が0.1質量%となるように25℃の水に添加したときに溶解する。本発明はまた、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法を提供し、該方法は、チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とを水中で共存させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性のチアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤、およびチアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、栄養補助目的でビタミンBを使用する場合には、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩などが用いられている。しかし、チアミン塩酸塩およびチアミン硝酸塩は、分解され易いという問題点がある。そのため、これらの安定性について検討されているが(例えば、特許文献1〜4)、いずれも十分な成果は得られていない。
【0003】
安定性の高いビタミンBとして、チアミンラウリル硫酸塩が注目されている。このチアミンラウリル硫酸塩は、さらに抗菌効果を有し、食品の日持ち向上に寄与することから、様々な食品に利用されている。しかし、チアミンラウリル硫酸塩は、安定性に優れる反面、水への溶解度が低いことから、利用される食品が限定されるという問題がある。さらには、チアミンラウリル硫酸塩は、他のチアミン塩類同様、独特のビタミン臭を有するという問題もある。そして、食品によっては、チアミンラウリル硫酸塩が均一に含有されずに、効果が十分に発揮されないといった問題もある。
【0004】
上記の課題のうち、食品への風味の影響という問題については、いくつか検討されている。例えば、特許文献5および6には、食品の食感および風味に影響を与えることなく、優れた食品保存効果を発揮することを目的として、グルコン酸ナトリウムもしくはグルコン酸カリウムおよびグリシンの混合物と、ビタミンBラウリル硫酸塩とを含有する食品用保存剤が開示されている。
【0005】
しかし、上述のように、チアミンラウリル硫酸塩を食品に添加する場合、水への溶解性が問題となる。チアミンラウリル硫酸塩は25℃の水に0.02質量%しか溶解しないため、食品への使用において制限がある。特許文献7には、エチルアルコールを15〜50重量%含む水溶液に、チアミンラウリル硫酸塩を溶解させ、かつ炭酸アルカリまたは炭酸水素アルカリを0.3〜1.0重量%添加することを特徴とする安定化液状殺菌剤が開示されている。しかし、この液状殺菌剤は、有機溶媒であるエチルアルコールにチアミンラウリル硫酸塩を溶解させているにすぎず、チアミンラウリル硫酸塩自体の水への溶解性を高めているわけではない。さらにエチルアルコールは、揮発し易いため、チアミンラウリル硫酸塩が結晶化しやすいという問題もある。
【0006】
このように、有機溶媒を用いずに、チアミンラウリル硫酸塩自体の水への溶解度を向上させる検討は、ほとんどなされていないのが現状である。
【特許文献1】特開平1−132514号公報
【特許文献2】特開平8−143459号公報
【特許文献3】特開平10−67660号公報
【特許文献4】特開2000−128806号公報
【特許文献5】特開2000−201660号公報
【特許文献6】特開2001−258527号公報
【特許文献7】特開2000−178107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、チアミンラウリル硫酸塩を水に高濃度溶解することが可能な水溶性の粉末製剤を提供することにある。本発明の目的はまた、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水溶性の粉末製剤を提供し、該粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とからなり、該粉末製剤を、該チアミンラウリル硫酸塩の濃度が0.1質量%となるように25℃の水に添加したときに溶解する。
【0009】
好ましい実施態様においては、上記アルカリ金属塩は、無機酸のアルカリ金属塩、有機酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ金属の塩化物である。
【0010】
本発明はまた、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法を提供し、該方法は、チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とを水中で共存させる工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チアミンラウリル硫酸塩を水に高濃度溶解させることができる。そのため、例えば、チアミンラウリル硫酸塩を高濃度含有させても、外観に影響を与えず、かつ再結晶化の可能性も少ない液状の食品を得ることができる。さらに、本発明の粉末製剤を、水分含量が高い食品、液状食品などに適用する場合、食品中にチアミンラウリル硫酸塩を均一に含有させることができるため、抗菌効果を効率的に発揮することができる。本発明の粉末製剤は、特に食品などの保存性向上の目的あるいは栄養補助目的に利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、水溶性のチアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤、およびチアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法を提供する。まず、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法を説明した上で、水溶性のチアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤について説明する。
【0013】
(チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法)
本発明のチアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法は、チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とを水中で共存させる工程を含む。
【0014】
本発明に用いられるチアミンラウリル硫酸塩は、水に難溶な白色粉末であり、例えば、25℃の水における溶解度は、約0.02質量%である。チアミンラウリル硫酸塩は、酸性、中性、およびアルカリ性溶液中においても、他のビタミンB塩類に比べて非常に安定である。
【0015】
本発明においては、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、または塩基性アミノ酸およびその重合体が用いられる。これらは、チアミンラウリル硫酸塩と水中で共存させた場合に、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を増大させる化合物が用いられる。本明細書においては、このような化合物を溶解度向上物質という。溶解度向上物質は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記アルカリ金属塩とは、酸に含まれている1以上の水素イオンをアルカリ金属イオンで置換した化合物をいう。アルカリ金属塩は、用いる酸に応じて、無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ金属の塩化物、および有機酸のアルカリ金属塩に分類される。
【0017】
無機酸のアルカリ金属塩は、具体的には、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸二カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸水素ナトリウムである。好ましくはトリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムである。
【0018】
アルカリ金属の塩化物は、具体的には、塩化ナトリウムである。
【0019】
有機酸のアルカリ金属塩は、具体的には、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、グルコン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、5’−リボヌクレオチド二ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、およびグルタミン酸ナトリウムである。好ましくはクエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、および酢酸ナトリウムである。
【0020】
アルカリ金属塩は、上記に例示した化合物をそのまま用いてもよいが、化合物を構成する酸と、アルカリ金属とをそれぞれ用いた場合にも同様の効果を得ることができる。例えば、塩酸と水酸化ナトリウムとを水に添加した場合は、塩化ナトリウムを水に添加した場合と同様に、チアミンラウリル硫酸塩の溶解度を高めることができる。
【0021】
上記アルカリ金属塩の水酸化物は、具体的には、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムである。
【0022】
上記塩基性アミノ酸は、具体的には、リシン、アルギニン、リシンアスパラギン酸ナトリウム、リシングルタミン酸ナトリウムである。塩基性アミノ酸の重合体は、具体的には、ポリリシンである。塩基性アミノ酸およびその重合体の中で、好ましくはアルギニンおよびポリリシンである。
【0023】
上記溶解度向上物質の中でも、溶解したときの安定性が高い点、得られる粉末製剤を用いた場合に、食品に与える味覚への影響が少ない点、および得られる粉末製剤が有する殺菌効果が高い点から、クエン酸三ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、またはアルギニンが最も好適に用いられる。
【0024】
本発明の方法は、上記チアミンラウリル硫酸塩と、上記溶解度向上物質とを水中で共存させる。共存させる手段は、特に制限されない。例えば、チアミンラウリル硫酸塩を含有する懸濁液に、溶解度向上物質を添加してもよく、溶解度向上物質を含有する水溶液に、チアミンラウリル硫酸塩を添加してもよく、あるいはチアミンラウリル硫酸塩と溶解度向上物質との混合物を水に添加してもよい。
【0025】
チアミンラウリル硫酸塩と、溶解度向上物質との割合は、溶解度向上物質の種類、溶解する水の水温などに応じて、適宜設定することができる。好ましくは、チアミンラウリル硫酸塩が25℃の水に0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上溶解するように、チアミンラウリル硫酸塩と、溶解度向上物質との割合を設定する。このように、目的とするチアミンラウリル硫酸塩の水溶液中の濃度に応じて、溶解度向上物質の量を変動させる。具体的に例示すると、以下のように設定される。
【0026】
溶解度向上物質としてトリポリリン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。
【0027】
溶解度向上物質としてピロリン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは20〜400質量部、さらに好ましくは20〜350質量部である。
【0028】
溶解度向上物質としてピロリン酸カリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは20〜200質量部、さらに好ましくは30〜150質量部である。
【0029】
溶解度向上物質としてヘキサメタリン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは500質量部以上、より好ましくは1000質量部以上である。
【0030】
溶解度向上物質としてリン酸三ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは10質量部以上である。好ましくは100質量部以下であり、より好ましくは50質量部以下である。より好ましくは10〜40質量部である。
【0031】
溶解度向上物質としてリン酸三カリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは10〜50質量部、より好ましくは10〜20質量部である。
【0032】
溶解度向上物質としてリン酸二ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上である。
【0033】
溶解度向上物質としてリン酸二カリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20〜100質量部、より好ましくは20〜50質量部である。
【0034】
溶解度向上物質としてリン酸一ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは1000質量部以上、より好ましくは2000質量部以上、さらに好ましくは3000質量部以上である。
【0035】
溶解度向上物質として炭酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは10質量部以上である。好ましくは100質量部以下である。より好ましくは10〜50質量部である。
【0036】
溶解度向上物質として炭酸カリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは10〜50質量部である。
【0037】
溶解度向上物質として炭酸水素ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上である。
【0038】
溶解度向上物質として塩化ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは500〜4000質量部、より好ましくは600〜3000質量部である。
【0039】
溶解度向上物質としてクエン酸三ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上、最も好ましくは150質量部以上である。
【0040】
溶解度向上物質としてクエン酸三カリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは50〜300質量部、より好ましくは80〜200質量部である。
【0041】
溶解度向上物質としてグルコン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは1000質量部以上、より好ましくは1600質量部以上、さらに好ましくは2000質量部以上である。
【0042】
溶解度向上物質として酒石酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは400質量部以上、より好ましくは500質量部以上、さらに好ましくは1000質量部以上である。
【0043】
溶解度向上物質としてリンゴ酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは100質量部以上、より好ましくは200質量部以上、さらに好ましくは250質量部以上、最も好ましくは300質量部以上である。
【0044】
溶解度向上物質として酢酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、さらに好ましくは300質量部以上である。
【0045】
溶解度向上物質としてコハク酸二ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは100質量部以上、より好ましくは200質量部以上、さらに好ましくは300質量部以上である。
【0046】
溶解度向上物質としてアスコルビン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは300質量部以上、より好ましくは350質量部以上、さらに好ましくは1000質量部以上である。
【0047】
溶解度向上物質としてエリソルビン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは400質量部以上、より好ましくは500質量部以上、さらに好ましくは1500質量部以上である。
【0048】
溶解度向上物質としてエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上である。
【0049】
溶解度向上物質として5’−リボヌクレオチド二ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは300質量部以上である。
【0050】
溶解度向上物質としてプロピオン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、さらに好ましくは400質量部以上である。
【0051】
溶解度向上物質として安息香酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、さらに好ましくは1000質量部以上である。
【0052】
溶解度向上物質としてアルギン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは200質量部以上、より好ましくは400質量部以上、さらに好ましくは1000質量部以上である。
【0053】
溶解度向上物質としてグルタミン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは400質量部以上、より好ましくは500質量部以上、さらに好ましくは1500質量部以上である。
【0054】
溶解度向上物質としてアスパラギン酸ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは500質量部以上、より好ましくは900質量部以上、さらに好ましくは2000質量部以上である。
【0055】
溶解度向上物質として水酸化ナトリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは4質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは10〜100質量部である。
【0056】
溶解度向上物質として水酸化カリウムを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは10〜20質量部である。
【0057】
溶解度向上物質としてリシンまたはその塩を用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは40質量部以上である。
【0058】
溶解度向上物質としてポリリシンを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、さらに好ましくは200質量部以上である。
【0059】
溶解度向上物質としてアルギニンを用いる場合、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上である。
【0060】
なお、上記溶解度向上物質において、上限値が記載されていない場合は、コスト面、味の影響、量に見合う効果などの観点から、チアミンラウリル硫酸塩100質量部に対して、好ましくは10000質量部以下、より好ましくは5000質量部以下、さらに好ましくは2000質量部以下、さらにより好ましくは1000質量部以下、最も好ましくは500質量部以下に設定する。
【0061】
さらに、上記溶解度向上物質の量は、コスト面、味の影響などの点から、上記範囲内でより低濃度であることが好ましい。特に、水溶液が強アルカリ性を呈する溶解度向上物質(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウムなど)を用いる場合、その量は、チアミンラウリル硫酸塩の安定性の面からも、上記範囲内でより低濃度であることが好ましい。なお、溶解度向上物質を2以上組み合わせる場合は、それらの合計量に対応する濃度が、該組み合わせの中で、最も低濃度範囲で使用することが好ましい物質の濃度範囲内であることが好ましい。
【0062】
(チアミンラウリル硫酸塩含有粉末製剤)
本発明はまた、上記チアミンラウリル硫酸塩と、上記溶解度向上物質とからなる水溶性の粉末製剤を提供する。この粉末製剤は、例えば、チアミンラウリル硫酸塩と溶解度向上物質とを適宜混合することによって得られる。混合量は前述したとおりであり、上記所定の量比で混合することによって、例えば、上記粉末製剤を水(例えば、25℃の水)に添加したときに、チアミンラウリル硫酸塩が水に0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上溶解することができる。本発明の粉末製剤は、水溶性であり、安定的な抗菌力を発揮する。
【0063】
本発明の粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が0.1質量%となるように水(例えば、25℃の水)に添加したときに溶解する。この粉末製剤は、含有される溶解度向上物質の種類に応じて、チアミンラウリル硫酸塩が10質量%を超えて水に溶解するように調製することも可能である。しかし、コスト面、味の影響、量に見合う効果などを考慮すると、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、さらにより好ましくは2質量%以上、最も好ましく5質量%以上水に溶解するように調製される。
【0064】
本発明の粉末製剤は、粉末状、顆粒状などであり得る。粉末製剤の調製方法に特に制限はない。例えば、チアミンラウリル硫酸塩の粉末と、溶解度向上物質の粉末とをV型混合機などを用いて単純混合してもよいし、上記粉末同士をジェットミルなどにより微粉砕混合してもよいし、一旦、水に溶解した後、噴霧乾燥、凍結乾燥、ドラム乾燥などの通常行われる乾燥方法を用いて再粉末化してもよいし、あるいは粉末同士を顆粒化してもよい。さらに上記方法を適宜組み合わせてもよい。得られる粉末製剤がより高いチアミンラウリル硫酸塩の水への溶解性を発揮する点から、微粉砕混合すること、再粉末化すること、または顆粒化することが好ましい。
【0065】
本発明の粉末製剤は、目的に応じて、種々の食品などに使用される。例えば、食品と粉末製剤とを直接混ぜ合わせる、液状食品に粉末製剤をそのまま添加する、食品を粉末製剤の溶解液とともに調理する、あるいは食品を粉末製剤の溶解液に漬け込むなどにより使用される。本発明の粉末製剤は、チアミンラウリル硫酸塩の濃度が0.1質量%となるように水に添加した場合にも溶解するため、食品に適用した場合、高濃度のチアミンラウリル硫酸塩を効率よく含有させることができ、十分な抗菌効果を発揮することができる。
【実施例】
【0066】
(実施例1:チアミンラウリル硫酸塩の溶解性の検討1)
表1に記載のアルカリ金属塩(無機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ金属塩の塩化物)を25℃のイオン交換水に溶解し、アルカリ金属塩を0.02質量%、0.04質量%、0.06質量%、0.08質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.3質量%、0.4質量%、0.5質量%、0.6質量%、0.8質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、および10質量%含有する水溶液をそれぞれ調製した。なお、25℃の水に対する飽和溶解度が10質量%以下のアルカリ金属塩については、飽和溶解度を上限濃度として水溶液を調製した。
【0067】
上記で得られた各濃度のアルカリ金属塩含有水溶液50gにチアミンラウリル硫酸塩を0.1g添加して5分間攪拌した(チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%含有)。その後、25℃にて30分間放置し、目視にて以下の基準で溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(評価基準)
白濁、沈殿、および結晶がみられない :○
薄い白濁またはごく僅かな浮遊物がみられる :△
明らかな白濁、溶け残り、沈殿、または結晶がみられる :×
なお、△は、実用上なんの問題もない。
【0069】
上記のアルカリ金属塩含有水溶液のうち、適当な濃度の水溶液を用いたこと、およびチアミンラウリル硫酸塩の添加量を、上記水溶液に応じて、0.25g(0.5質量%)、0.5g(1質量%)、または1g(2質量%)と適宜設定したこと以外は、上記と同様にして溶解性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1の結果から明らかなように、試験区で挙げられたアルカリ金属塩(無機酸のアルカリ金属塩またはアルカリ金属塩の塩化物)を用いることによって、チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%以上溶解することができた。このことは、チアミンラウリル硫酸塩単独の場合の25℃の水における溶解度が0.02質量%であることを考慮すると、本発明の方法を用いることによって、溶解度が約10倍高められることを示す。なお、塩化ナトリウムを用いて、チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%溶解させた溶液のpHは3.9であり、その他のアルカリ金属塩または塩基性アミノ酸を用いた場合にも、溶液のpHは3.9より高い値であった。チアミンラウリル硫酸塩0.2質量%加温水溶液(約40℃)のpHが3.8であること、および0.02質量%水溶液のpHが4.1であることを考慮すると、チアミンラウリル硫酸塩の溶解度向上がpHのみに依存するものではないと考えられる。
【0072】
(実施例2:チアミンラウリル硫酸塩の溶解性の検討2)
表2に記載のアルカリ金属塩(有機酸のアルカリ金属塩)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の溶解性について評価した。なお、アルギン酸ナトリウムを用いる場合は、アルギン酸ナトリウム2質量%含有液に、チアミンラウリル硫酸塩を添加して30分間撹拌し、その後、泡が消失するまで25℃にて放置(撹拌終了後約2時間)して溶解性を評価した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2の結果から明らかなように、試験区で挙げられた有機酸のアルカリ金属塩を用いることによって、チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%以上溶解することができた。このことは、チアミンラウリル硫酸塩の溶解度が約10倍高められることを示す。なお、比較的低分子の電解質多糖類であるアルギン酸ナトリウムを用いた場合は、アルギン酸ナトリウムの膨潤に時間がかかり、得られる水溶液の粘度が高かった。それにもかかわらず、チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%以上溶解することができた。
【0075】
(実施例3:チアミンラウリル硫酸塩の溶解性の検討3)
アルカリ金属塩の代わりに、表3に記載の塩基性アミノ酸またはその重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、チアミンラウリル硫酸塩の溶解性について評価した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3の結果から明らかなように、試験区で挙げられた塩基性アミノ酸およびその重合体を用いることによって、チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%以上溶解することができた。このことは、チアミンラウリル硫酸塩の溶解度が約10倍高められることを示す。
【0078】
(実施例4:チアミンラウリル硫酸塩の溶解性の検討4)
イオン交換水100gにチアミンラウリル硫酸塩を0.2g懸濁させた(チアミンラウリル硫酸塩を約0.2質量%含有)。この懸濁液を攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが急激に上昇しないように滴下した。懸濁液が透明となった時点でチアミンラウリル硫酸塩が溶解したと判断し、滴下量を測定した。結果を表4に示す。なお、水酸化ナトリウム水溶液の滴下量は、液中のpHが12を大きく超えない範囲で添加した(例えば、チアミンラウリル硫酸塩を約0.2質量%含有する懸濁液の場合は、滴下量は最大で5mlであり、後述するチアミンラウリル硫酸塩を約2質量%含有する懸濁液の場合は、滴下量は最大で9mlである)。
【0079】
チアミンラウリル硫酸塩の量を0.5g(約0.5質量%)、1g(約1質量%)、または2g(約2質量%)としたこと以外は、上記と同様にして水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を測定して溶解性を評価した。結果を表4に併せて示す。
【0080】
(実施例5)
1Nの水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、1Nの水酸化カリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、溶解性を評価した。結果を表4に併せて示す。
【0081】
【表4】

【0082】
表4の結果から明らかなように、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いることによって、チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%以上溶解することができた。このことは、チアミンラウリル硫酸塩とアルキル金属の水酸化物とを水中で共存させることによって、チアミンラウリル硫酸塩の溶解度を高めることができることを示す。
【0083】
(実施例6:粉末製剤の溶解性)
チアミンラウリル硫酸塩、溶解度向上物質、およびその他の成分を表5に記載の割合で混合して、粉末製剤を得た。この粉末製剤を、チアミンラウリル硫酸塩濃度が0.2質量%となるように水に添加して5分間攪拌した(粉末製剤2質量%含有液)。得られた液のpHを測定後、25℃にて30分間放置し、目視にて実施例1と同様の基準で溶解性を評価した。結果を表5に示す。
【0084】
(実施例7〜16)
チアミンラウリル硫酸塩、溶解度向上物質、およびその他の成分を表5に記載の割合で混合して、粉末製剤を得た。各粉末製剤を用いたこと以外は、実施例6と同様にして溶解性を評価した。結果を表5に併せて示す。
【0085】
(比較例1〜4)
チアミンラウリル硫酸塩およびその他の成分を表5に記載の割合で混合して、粉末製剤を得た。各粉末製剤を用いたこと以外は、実施例6と同様にして溶解性を評価した。結果を表5に併せて示す。
【0086】
【表5】

【0087】
表5の結果から明らかなように、実施例6〜16の粉末製剤を用いることによって、チアミンラウリル硫酸塩を25℃の水に0.2質量%溶解させることができ、さらに30分間放置した場合にも、これらの溶液は澄明を維持していた。
【0088】
(実施例17:抗菌効果)
実施例11で得られた粉末製剤Fを2質量%および精製塩を0.5質量%含有する試験液を調製した(チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%含有)。この粉末製剤F(チアミンラウリル硫酸塩およびクエン酸三ナトリウムを含有)と、精製塩とを含む試験液(粉末製剤F含有水溶液とする)は、完全溶解されていた。
【0089】
上記粉末製剤F含有水溶液を5℃に冷却し、魚肉(ギンダラ)のカット品40gを3時間浸漬した。浸漬された魚肉を液切りした後、コンベクションオーブンを用いて、200℃にて9分間焼成した。25℃まで冷却した後、菌数を計測した。さらに25℃にて保存し、保存24時間後および36時間後の菌数を計測し、抗菌効果を評価した。結果を表6に示す。
【0090】
(比較例5〜8)
比較例1で得られた粉末製剤Lを2質量%含有する比較試験液1(チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%含有、溶解度向上物質非含有、比較例5)、比較例3で得られた粉末製剤Nを0.8質量%含有する比較試験液2(チアミンラウリル硫酸塩を0.2質量%含有、溶解度向上物質非含有、比較例6)、およびクエン酸三ナトリウムを0.6%含有する比較試験液3(比較例7)をそれぞれ調製した。なお比較試験液1および2は、チアミンラウリル硫酸塩が完全に溶解できず、不溶物が観察された。
【0091】
粉末製剤F含有水溶液の代わりに、比較試験液1〜3(比較例5〜7)、または水(比較例8)を用いたこと以外は、実施例17と同様にして、抗菌効果を評価した。結果を表6に併せて示す。
【0092】
【表6】

【0093】
表6の結果から、チアミンラウリル硫酸塩とクエン酸三ナトリウムとを含む粉末製剤Fを用いた場合(実施例17)は、チアミンラウリル硫酸塩およびクエン酸三Naのいずれか一方のみを含む粉末製剤を用いた場合(比較例5〜7)に比べて、菌の増殖が少なく、より優れた抗菌効果が得られることがわかる。このような優れた効果は、チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度が上がり、そのため、魚肉に効率よくチアミンラウリル硫酸塩が含有されたことに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、チアミンラウリル硫酸塩を水に高濃度溶解させることができる。そのため、例えば、チアミンラウリル硫酸塩を高濃度含有させても、外観に影響を与えず、かつ再結晶化の可能性も少ない液状の食品を得ることができる。さらに、本発明の粉末製剤を、水分含量が高い食品、液状食品などに適用する場合、食品中にチアミンラウリル硫酸塩を均一に含有させることができるため、抗菌効果を効率的に発揮することができる。本発明の粉末製剤は、特に食品などの保存性向上の目的あるいは栄養補助目的に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とからなる水溶性の粉末製剤であって、
該粉末製剤を、該チアミンラウリル硫酸塩の濃度が0.1質量%となるように25℃の水に添加したときに溶解する、水溶性の粉末製剤。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩が、無機酸のアルカリ金属塩、有機酸のアルカリ金属塩、またはアルカリ金属の塩化物である、請求項1に記載の水溶性の粉末製剤。
【請求項3】
チアミンラウリル硫酸塩の水への溶解度を高める方法であって、
チアミンラウリル硫酸塩と、アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および塩基性アミノ酸およびその重合体からなる群より選択される少なくとも1種とを水中で共存させる工程を含む、方法。

【公開番号】特開2007−137874(P2007−137874A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282965(P2006−282965)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】