説明

チオラクトン

本発明は、新しい化合物、かかる化合物を含む薬学的組成物及び診断キット、ならびにNAALADase酵素活性を阻害する、NAALADase濃度が変化する疾患を検知する、血管形成を抑制する、TGF−β活性又はニューロン活性を作用させる、グルタメート異常、強迫性障害、ニューロパシー、疼痛、前立腺疾患、癌、ハンチントン舞踏病、糖尿病、網膜障害又は緑内障を治療するためにかかる化合物を使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照として本明細書にその全体が組み込まれた、2003年3月3日に提出された米国仮特許出願第60/450,648号の利益を請求する。
【0002】
本発明は、新規化合物、及びかかる化合物を含む薬学的組成物及び診断キット、ならびにNAALADase酵素活性を阻害し、NAALADase濃度が変化する疾患を検知し、血管形成を抑制し、TGF−β活性又はニューロン活性を作用させ、グルタメート異常、強迫性障害、ニューロパシー、疼痛、前立腺疾患、癌、ハンチントン舞踏病、糖尿病、網膜障害又は緑内障を治療するためにかかる化合物を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
NAALADase酵素は、前立腺特異的膜抗原(「PSMA」)及びヒトグルタメートカルボキシペプチダーゼII(「GCPII」)としても既知であり、神経ペプチドN−アセチル−アスパルチル-グルタメート(「NAAG」)のN−アセチル−アスパルテート(「NAA」)及びグルタメートへの加水分解を触媒する。アミノ酸配列相同性に基づいて、NAALADaseは、ペプチダーゼのM28ファミリーに割り当てられている。
【0004】
研究は、NAALADaseのインヒビターが虚血、脊髄損傷、脱髄疾患、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(「ALS」)、ハンチントン舞踏病、アルコール依存症、ニコチン依存症、コカイン依存症、オピオイド依存症、癌、ニューロパシー、疼痛及び統合失調症を治療し、及び血管形成を抑制するのに有用であることを示唆している。その潜在的な治療用途を考慮して、新しいNAALADaseインヒビター及びそのプロドラッグに対する要求が存在する。
【発明の開示】
【0005】
(発明の要約)
本発明は式I、II又はIII
【化7】

の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物を提供し、式中:
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここで前記アルキレン、前記アルケニレン、前記アルキニレン、前記シクロアルキレン又は前記シクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここで前記アルキル又は前記アルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここで前記フェニル、前記フェニルエチル又は前記ベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである。
【0006】
本発明は、さらに上記化合物を含む薬学的組成物及び診断キット、ならびにNAALADase酵素活性を阻害し、NAALADase濃度が変化する疾患を検知し、血管形成を抑制し、TGF−β活性又はニューロン活性を作用させ、グルタメート異常、強迫性障害、ニューロパシー、疼痛、前立腺疾患、癌、ハンチントン舞踏病、糖尿病、網膜障害又は緑内障を治療するためにかかる化合物を使用する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
詳細な説明
定義
「化合物B」は、2−(3−スルファニルプロピル)ペンタン二酸を指す。
【0008】
「化合物D」は、2−(2−スルファニルエチル)ペンタン二酸を指す。
【0009】
「化合物E」は、3−カルボキシ−アルファ−(3−メルカプトプロピル)ベンゼンプロパン酸を指す。
【0010】
「化合物F」は、3−カルボキシ−5−(1,1−ジメチルエチル)−アルファ−(3−メルカプトプロピル)ベンゼンプロパン酸を指す。
【0011】
「アルキル」は、1価の飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。限定はされないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル及びn−ヘキシルを含む。
【0012】
「アルキレン」は、2価の飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。
【0013】
「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素間二重結合を含む1価の不飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。限定はされないが、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、tert−ブテニル、n−ペンテニル及びn−ヘキセニルを含む。
【0014】
「アルケニレン」は、少なくとも1つの炭素間二重結合を含む2価の不飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。
【0015】
「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素間三重結合を含む1価の不飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。限定はされないが、エチニル、プロピニル、イソプロピニル、ブチニル、イソブチニル、tert−ブチニル、ペンチニル及びヘキシニルを含む。
【0016】
「アルキニレン」は、少なくとも1つの炭素間三重結合を含む2価の不飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素ラジカルを指す。
【0017】
「シクロアルキル」は、1価の環状アルキルラジカルを指す。限定はされないが、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルを含む。
【0018】
「シクロアルキレン」は、2価の環状アルキルラジカルを指す。
【0019】
「シクロアルケニル」は、1価の環状アルケニルラジカルを指す。限定はされないが、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル及びシクロオクテニルを含む。
【0020】
「シクロアルケニレン」は、2価の環状アルケニルラジカルを指す。
【0021】
「アルコキシ」は、酸素結合を通じて結合されたアルキル基を指す。
【0022】
「アルケノキシ」は、酸素結合を通じて結合されたアルケニル基を指す。
【0023】
「アリール」は、又は1又はそれ以上の閉環を有する環状芳香族炭化水素部分を指す。限定はされないが、フェニル、ベンジル、ナフチル、アントラセニル、フェナントラセニル及びビフェニルを含む。
【0024】
「ヘテロアリール」は、少なくとも1つの環に又は1又はそれ以上のヘテロ原子(たとえば硫黄、窒素又は酸素)を備えた又は1又はそれ以上の閉環を有する環状芳香族部分を指す。限定はされないが、ピリル、フラニル、チエニル、ピリジニル、オキサゾリル、チアゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル及びベンゾチエニルを含む。
【0025】
「炭素環」は、脂環式、芳香族、縮合及び/又は橋架けである又は1又はそれ以上の閉環を有する炭化水素環状部分を指す。限定はされないが、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ベンジル、ナフテン、アントラセン、フェナントラセン、ビフェニル及びピレンを含む。
【0026】
「複素環」は、環の少なくとも1つに又は1又はそれ以上のヘテロ原子(たとえば硫黄、窒素又は酸素)を備えた、脂環式、芳香族、縮合及び/又は橋架けである又は1又はそれ以上の閉環を有する環状部分を指す。限定はされないが、ピロリジン、ピロール、チアゾール、チオフェン、ピペリジン、ピリジン、イソオキサゾリジン及びイソオキサゾールを含む。
【0027】
「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ又はヨードラジカルを指す。
【0028】
「イソスター」は、異なる分子式を有するが、同様又は同一の物理特性を示す元素、官能基、置換基、分子又はイオンを指す。たとえばテトラゾールは、たとえ異なる分子式を有しても、カルボン酸の特性を模倣するため、カルボン酸のイソスターである。通例、2つのイソスター分子は同様又は同一の体積及び形状を有する。理想的にはイソスター分子は同一構造であり、共結晶化できることが望ましい。イソスター分子が通常共有する他の物理的特性は、沸点、密度、粘度及び熱伝導性を含む。しかしながら、ある特性:双極子モーメント、極性、分極、サイズ及び形状は、外部軌道が異なって混成されるため、異なることがある。「イソスター」という用語は、「バイオイソスター」を含む。
【0029】
「バイオイソスター」は、その物理的類似性に加えて、一部の生物学的特性を供給するイソスターである。通例、バイオイソスターは、同じ認識部位と相互作用するか、又は幅広く類似した生物学的効果を生成する。
【0030】
「有効量」は、所望の効果を生成するために、たとえばNAALADase酵素活性を阻害し、グルタメート異常を治療し、ニューロン活性を作用させ、前立腺疾患を治療し、癌を治療し、血管形成を抑制し、TGF−β活性を作用させ、ハンチントン舞踏病を治療し、糖尿病を治療し、網膜障害を治療し、又は緑内障を治療するために必要な量を指す。
【0031】
「代謝産物」は、代謝によって、又は代謝プロセスによって生成される物質を指す。
【0032】
「NAAG」は、N−アセチル−アスパルチル−グルタメートを指し、これは主要なインヒビターである神経伝達物質ガンマ−アミノ酪酸(GABA)に匹敵するレベル存在する、脳の重要なペプチド成分である。NAAGはニューロン特異的であり、シナプス小胞中に存在し、グルタメート作動性であると推定される複数の系でのニューロン刺激時に放出される。研究は、NAAGが、中枢神経系において神経伝達物質及び/又は神経修飾物質として、又は神経伝達物質グルタメートの前駆物質として機能することを示唆する。加えてNAAGは、II型代謝調節型グルタメートレセプター、特にmGluR3レセプターにおけるアゴニストである;NAALADaseを阻害可能な部分に結合されたときに、代謝調節型グルタメートレセプターリガンドが強力及び特異的なNAALADaseインヒビターを提供することが予想される。
【0033】
「NAALADase」は、NAAGをN−アセチルアスパルテート(「NAA」)及びグルタメート(「GLU」)に代謝する膜結合メタロペプチダーゼである、N−アセチル化α結合酸性ジペプチダーゼを指す:
NAALADaseによるNAAGの異化
【化8】

NAALADaseは、M28ペプチダーゼファミリーに割り当てられており、PSMA又はヒトGCPII、EC番号3.4.17.21とも呼ばれる。NAALADaseは、共触媒性亜鉛/亜鉛メタロペプチダーゼであると考えられている。NAALADaseは、540nMのKmで、NAAGに高い親和性を示す。NAAGは生物活性ペプチドであり、次にNAALADaseは、NAAGのシナプス作用を不活性化するように働く。あるいはNAAGがグルタメートの前駆物質として機能する場合、NAALADaseの主要な機能は、シナプスグルタメートの可用性を調節することである。
【0034】
酵素に関する文脈での「阻害」は、競合性、不競合性及び非競合性阻害などの可逆性酵素阻害を指す。競合性、不競合性及び非競合性阻害は、酵素の反応動力学に対するインヒビターの効果によって区別できる。競合性阻害は、インヒビターが、活性部位における結合について正常な基質と競合するような方法で、酵素と可逆的に結合するときに発生する。インヒビターと酵素との親和性は、インヒビター定数Kによって測定され、これは:
【数1】

のように定義され、式中、[E]は酵素の濃度であり、[I]はインヒビターの濃度であり、[EI]は酵素とインヒビターとの反応によって形成された酵素−インヒビター錯体の濃度である。別途規定しない限り、Kは本発明の化合物とNAALADaseとの親和性を指す。実施形態は、当技術分野で既知の適切なアッセイを使用して決定したように、100μM未満、10μM未満、又は1μM未満のKiを含む。「IC50」は、標的酵素の50%阻害を引き起こすために必要である、化合物の濃度又は量を定義するために使用した関連用語である。
【0035】
「薬学的に許容される担体」は、対象化合物を1つの器官又は体の一部から別の器官又は体の一部へ携行又は運搬することに関与する、薬学的に許容される物質、組成物又はビヒクル、たとえば液体又は固体充填剤、希釈剤、賦形剤又は溶媒カプセル化物質を指す。各担体は、調合物の他の成分と適合性であり、患者による使用に適しているという意味で「許容される」。薬学的に許容される担体として作用できる物質としては、限定はされないが:(1)糖、たとえばラクトース、グルコース及びスクロース;(2)デンプン、たとえばコーンスターチ及びジャガイモデンプン;(3)セルロース及びその誘導体、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及びセルロースアセテート;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤、たとえばココアバター及び座剤ワックス;(9)油、たとえばラッカセイ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及びダイズ油;(10)グリコール、たとえばプロピレングリコール;(11)ポリオール、たとえばグリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコール;(12)エステル、たとえばエチルオレアート及びエチルラウレート;(13)寒天;(14)緩衝剤、たとえばマグネシウムヒドロキシド及びアルミニウムヒドロキシド;(15)アルギン酸;(16)発熱物質なしの水;(17)等張性食塩水;(18)リンゲル溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート及び/又はポリ無水物;及び(22)薬学的調合物で利用される他の非毒性適合性物質を含む。
【0036】
「薬学的に許容される同等物」は制限はされないが薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物、代謝産物、プロドラッグ及びイソスターを含む。多くの薬学的に許容される同等物は、本発明の化合物と同様又は類似のインビトロ又はインビボ活性を有することが予想される。
【0037】
「薬学的に許容される塩」は、本発明の化合物の酸性塩又は塩基性塩であり、その塩は所望の薬理活性を所有し、生物学的に又はそうでなくても望ましくなくはない。塩は、制限はされないが、アセテート、アジペート、アルギナート、アスパルテート、ベンゾアート、ベンゼンスルホナート、ビサルフェートブチラート、シトレート、カンファレート、カンファースルフォナート、シクロペンタンプロピオナート、ジグルコナート、ドデシルサルフェート、エタンスルホナート、フマレート、グルコヘプタノアート、グリセロホスフェート、ヘミサルフェート、ヘプタノアート、ヘキサノアート、ヒドロクロライドヒドロブロミド、ヒドロヨージド、2−ヒドロキシエタン−スルホナート、ラクテート、マレアート、メタンスルホナート、2−ナフタレンスルホナート、ニコチナート、オキサレート、チオシアナート、トシラート及びウンデカノアートを含む酸によって形成できる。塩基性塩の例としては、限定はされないが、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、たとえばナトリウム及びカリウム塩、アルカリ土類金属塩たとえばカルシウム及びマグネシウム塩、有機酸による塩、たとえばジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミン、ならびにアミノ酸たとえばアルギニン及びリジンによる塩を含む。一部の実施形態において、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド、たとえばメチル、エチル、プロピル及びブチルクロライド、ブロミド及びヨージド;ジアルキルサルフェート、たとえばジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミルサルフェート;長鎖ハライド、たとえばデシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルクロライド、ブロミド及びヨージド;及びアラルキルハライド、たとえばフェネチルブロミドを含む薬剤によって四級化できる。
【0038】
「プロドラッグ」は、その薬理効果を示す前に生体内変換、たとえば代謝を受ける本発明の化合物の誘導体を指す。プロドラッグは、化学的安定性の改善、患者の受入れ及び服薬率の改善、生物可用性の改善、作用期間の延長、器官選択性の改善、調合の改善(たとえば水溶性の改善)、及び/又は副作用の削減(たとえば毒性)の目的で調合される。プロドラッグは、本発明の化合物から従来の方法、たとえばBURGER'S MEDICINAL CHEMISTRY AND DRUG CHEMISTRY, Fifth Ed. , Vol. 1, pp. 172-178,949-982(1995)に述べられている方法で容易に調製できる。
【0039】
「誘導体」は、直接あるいは修飾又は部分置換によって別の物質から生成された物質を指す。
【0040】
「放射線増感剤」は、電磁放射によって治療できる疾患の治療を促進するために、治療的有効量で動物に投与される低分子量化合物を指す。電磁放射によって治療できる疾患としては、限定はされないが、腫瘍性疾患、良性及び悪性腫瘍、癌細胞を含む。本明細書に挙げていない他の疾患の電磁放射治療も、本発明によって検討される。
【0041】
「電磁放射」は制限はされないが、10−20〜10メートルの波長を有する放射を含む。限定はされないが、ガンマ放射(10−20〜10−13m)、X線放射(10−11〜10−9m)、紫外光(10nm〜400nm)、可視光(400nm〜700nm)、赤外放射(700nm〜1.0mm)及びマイクロ波放射(1mm〜30cm)を含む。
【0042】
「異性体」は、同じ番号及び原子の種類、それゆえ同じ分子量を有するが、原子の配列又は配置の点で異なる化合物を指す。
【0043】
「立体異性体」は、空間における原子の配列のみが異なる異性体を指す。
【0044】
「光学異性体」は、エナンチオマー又はジアステレオマーを指す。
【0045】
「ジアステレオマー」は、相互に鏡像でない立体異性体を指す。ジアステレオマーは、2つ以上の不斉炭素原子を有する化合物に発生する;それゆえかかる化合物は、2光学異性体を有し、ここでnは不斉炭素原子の数である。
【0046】
「エナンチオマー」は、相互に重ね合わせられない鏡像である立体異性体を指す。
【0047】
「エナンチオマーが豊富な」は、1つのエナンチオマーが優勢である混合物を指す。
【0048】
「ラセミ混合物」は、同等部の個々のエナンチオマーを含有する混合物を指す。
【0049】
「非ラセミ混合物」は、非同等部の個々のエナンチオマーを含有する混合物を指す。
【0050】
「血管形成」は、新しい毛細血管が形成される過程を指す。血管形成の「抑制」は、多くのパラメータによって測定され、たとえば新生血管構造出現の遅延、新生血管構造発達の減速、新生血管構造の発生減少、血管形成依存性疾患効果の減速又は減少、血管増殖の停止、又は以前の血管増殖の退行によって評価される。極度の完全な抑制は、本明細書では防止と呼ぶ。血管形成又は血管増殖に関連して、「防止」は、以前に何も発生していない場合、実質的な血管形成又は血管増殖のないことを、あるいは以前に増殖が発生した場合には、実質的にさらなる血管形成又は血管増殖のないことを指す。
【0051】
「血管形成依存性疾患」は制限はされないが、関節リウマチ、心循環器疾患、眼の新生血管疾患、末梢血管障害、皮膚潰瘍及び癌性腫瘍増殖、浸潤及び転移を含む。
【0052】
「動物」は、感覚及び随意運動の力を有し、その生存のために酸素及び有機食物を必要とする生体を指す。限定はされないが、ヒト、ウマ、ブタ、ウシ、ネズミ、イヌ及びネコ種の構成員である。ヒトの場合には、「動物」は患者とも呼ばれる。
【0053】
「哺乳類」は、温血脊椎動物を指す。
【0054】
「不安」は、制限はされないが、認識されていない精神内部の葛藤から表面的に生じた、実在しない又は想像上の危険の予想に対する精神生理反応より成る、感情状態を含む。生理的付随事項は、心拍数の増加、呼吸数の変化、発汗、振せん、衰弱、及び疲労を含む;心理的付随事項は、差し迫った危険の感覚、無力感、懸念、及び緊張を含む。Dorland's Illustrated Medical Dictionary, W. B. Saunders Co., 27th ed.(1988)。
【0055】
「不安障害」は制限はされないが、不安及び回避挙動が目立つ精神障害を含む。Dorland's Illustrated Medical Diction W. B. Saunders Co., 27th ed.(1988)。限定はされないが、パニック発作、広場恐怖症、パニック障害、急性ストレス障害、慢性ストレス障害、特定恐怖症、単純恐怖症、社会恐怖症、物質誘発性不安障害、器質性不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、全般性不安障害、及び不安障害NOSを含む。他の不安障害は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder(American Psychiatric Association 4th ed. 1994)に特徴付けられている。
【0056】
「注意力欠如障害」(「ADD」)は、活動過多を伴う、又は伴わない、発達上不適切な不注意及び衝動性を特徴とする障害を指す。「不注意」は、開始した作業を完了できないことを意味し、容易に注意散漫となること、表面的な注意の欠如、及び持続的注意を必要とする作業に集中することの困難さを意味する。「衝動性」とは、考える前に行動すること、交代することの困難さ、作業を体系化する問題、及び1つの活動から別の活動への絶え間ない変化を意味する。「活動過多」とは、着席して静かに座っているのが困難であること、そして過剰に走ったり、又は登ったりすることを意味する。
【0057】
「癌」は制限はされないが、ACTH産生腫瘍、急性リンパ性白血病、急性非リンパ性白血病、副腎皮質の癌、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頚癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸直腸癌、皮膚T細胞性リンパ腫、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング肉腫、胆嚢癌、毛様細胞白血病、頭頚部癌、ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎臓癌、肝臓癌、肺癌(小細胞及び/又は非小細胞)、悪性腹水、悪性胸水、メラノーマ、中皮腫、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、卵巣癌、卵巣(生殖細胞)癌、膵臓癌、陰茎癌、前立腺癌、網膜芽腫、皮膚癌、軟部組織肉腫、へん平上皮細胞癌、胃癌、睾丸癌、甲状腺癌、絨毛性腫瘍、子宮癌、膣癌、外陰癌、及びウィルムス腫瘍を含む。
【0058】
「強迫性障害」は、抑えがたい衝動性挙動を特徴とする障害を指す。強迫性障害としては、限定はされないが、物質依存症、摂食障害、病的賭博、ADD及びトゥレット症候群を含む。
【0059】
「脱髄疾患」は、参照として本明細書に組み込まれている米国特許第5,859,046号及び国際公開公報WO98/03178に定義されているような、神経組織を本来包囲している髄鞘の損傷又は除去を含む疾患を指す。限定はされないが、末梢脱髄疾患(たとえばギランバレー症候群、末梢ニューロパシー及びシャルコー・マリー・ツース病)及び中枢脱髄疾患(たとえば多発性硬化症)を含む。
【0060】
「疾患」は、一連の特徴的な症状及び徴候によって表される、及びその予後が既知又は未知である、体のいずれかの部分、器官又は系(又は組み合せ)の正常な構造又は機能からの逸脱、又はその中断を指す。Dorland's Illustrated Medical Dictionary,(W. B. Saunders Co.27th ed. 1988)。
【0061】
「障害」は、機能の撹乱又は異常;病的な身体又は精神状態を指す。Dorland's Illustrated Medical Dictionary, (W. B. Saunders Co. 27th ed. 1988)。
【0062】
「摂食障害」は、強迫的過食、肥満又は重度の肥満を指す。肥満は、標準身長−体重表を20%超えた体重を意味する。重度の肥満は100%超の過体重である。
【0063】
「緑内障」は制限はされないが、慢性(特発性)開放隅角緑内障(たとえば高圧、正常圧);瞳孔ブロック緑内障(たとえば急性閉塞隅角、亜急性閉塞隅角、慢性閉塞隅角、複合機構);発達性緑内障(たとえば先天性(乳児)、若年性、Anxenfeld-Rieger症候群、Peters奇形、無虹彩);他の眼の障害に関連する緑内障(たとえば角膜内皮、虹彩、毛様体、レンズ、網膜、脈絡膜又は硝子体の障害に関連する緑内障);上強膜静脈圧上昇に関連する緑内障(たとえば眼内圧上昇及び緑内障に関連する全身性疾患、コルチコステロイド誘発性緑内障);炎症及び外傷に関連する緑内障(たとえば角膜炎、上強膜炎、強膜炎、ブドウ膜炎、眼外傷及び出血に関連する緑内障);眼内手術後の緑内障(たとえば毛様体ブロック(悪性)緑内障、無水晶体症及び偽水晶体における緑内障、角膜手術に関連する緑内障、硝子体手術に関連する緑内障)を含む。
【0064】
「グルタメート異常」は、グルタメート濃度の上昇を包含する病的状態を含む、グルタメートが関与している疾患、障害又は状態を指す。グルタメート異常としては、限定はされないが、強迫性障害、脊髄損傷、てんかん、脳卒中、虚血、脱髄疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、ハンチントン舞踏病、統合失調症、疼痛、末梢ニューロパシー(これに限定されるわけではないが糖尿病性ニューロパシーを含む)、外傷性脳損傷、ニューロン損傷、炎症性疾患、不安、不安障害、記憶機能障害、緑内障及び網膜障害を含む。
【0065】
「虚血」は、動脈血の流入の妨害による局所組織の貧血を指す。全虚血は、心停止から起こるように血流がある期間にわたって停止したときに発生する。限局性虚血は、体の一部、たとえば脳が、大脳血管の血栓塞栓性閉塞、外傷性頭部損傷、浮腫又は脳腫瘍から起こるように、その正常な血液供給を奪われたときに発生する。たとえ一時的であっても、全虚血及び限局性虚血の両方は、広範囲に渡るニューロン損傷を生じる可能性がある。神経組織損傷が虚血の開始後、数時間又は数日にわたってさえ発生しても、一部の永久神経組織損傷は、脳への血流停止後の最初の数分後に発生する。この損傷の多くは、グルタメートの毒性及び組織の再潅流の二次的結果、たとえば損傷内皮細胞からの血管作用生成物の放出、及び損傷組織による細胞傷害性生成物、たとえばフリーラジカル及びロイコトリエンの放出に起因する。
【0066】
「記憶機能障害」は、過去の経験の、知識、概念、感覚、思考又は印象の精神的記録、保持及び想起の減少を指す。記憶機能障害は、短期及び長期情報の保持、空間的関係を用いる機能、記憶(リハーサル)戦略、ならびに言語的検索及び生成に影響を及ぼす。記憶機能障害の一般的な原因は、年齢、重篤な頭部外傷、脳の酸素欠乏症又は虚血、アルコール性栄養疾患、薬物中毒及び神経変性疾患である。たとえば記憶機能障害は、神経変性疾患、たとえばアルツハイマー病及びアルツハイマー型老人性認知症の一般的な特徴である。記憶機能障害は、他の種類の認知症、たとえば多発脳梗塞性認知症、血管性血管によって引き起こされた老人性認知症、及びパーキンソン病と関連する、又は関連しないアルツハイマー病のレヴィー小体変種によっても発生する。クロイツフェルト−ヤコブ病は、記憶機能障害が関連している稀な認知症である。それはプリオンタンパク質によって引き起こされたスポンジ形脳障害である;それは他の罹患者から伝染するか、又は遺伝子変異から発生する。記憶の損失は、脳損傷患者の一般的な特徴である。脳損傷はたとえば、古典的な脳卒中の後に、又は麻酔事故、頭部外傷、低血糖症、一酸化炭素中毒、リチウム中毒、ビタミン(B、チアミン及びB12)欠乏症、又は過剰なアルコールの使用の結果として発生する。コルサコフ健忘性精神病は、甚大な記憶喪失及び作話を特徴とする稀な障害であり、それにより患者は自分の記憶喪失を隠すために話を作り出す。それは過剰なアルコール摂取に頻繁に関連している。記憶機能障害はさらに年齢に関連している;情報、たとえば名前、場所及び単語を想起する能力は、年齢の増加とともに低下する。一時的記憶喪失は、大うつ病性障害に罹患している患者でも電気痙攣治療後に発生することがある。
【0067】
「記憶障害」は、悲惨な症状又は著しい機能障害の存在を特徴とする、臨床的に重要な行動的又は心理学的症候群を指す。精神障害は、心理学的又は器質的機能不全から発生すると想定される;概念は、個人と社会との間の本質的な葛藤(社会的逸脱)である障害を含まない。
【0068】
「転移」は、癌の細胞が広まって、不連続な部位に新しい増殖巣を形成する(すなわち転移を形成する)能力を指す。参照として本明細書に組み込まれている、Hill, R. P, "Metastasis", The Basic Science of Oncology, Tannock et al., Eds., McGraw-Hill, New York, pp. 178-195 (1992)を参照。インサイチュー腫瘍増殖から転移性疾患への移行は、原発部位の腫瘍細胞が局所組織に侵入し、組織バリアを通過する能力によって定義される。転移過程を開始するために、癌細胞は最初に上皮基底膜に浸透し、次に間質に侵入する。遠隔転移では、血管内異物侵入は、腫瘍細胞管外遊出の間にまた処理されねばならない内皮基底膜の腫瘍細胞浸潤を必要とする。悪性腫瘍の発生は、原発性腫瘍の拡大を可能にするだけでなく、新たに形成された血管の基底膜での血管による血管区画への容易な出入も可能にする、腫瘍誘発血管形成にも関連している。参照として本明細書に組み込まれている、Aznavoorian et al., Cancer(1993) 71: 1368-1383を参照。
【0069】
「ニューロパシー」は、神経の疾患又は機能不全を指す。ニューロパシーは制限はされないが、末梢性ニューロパシー、糖尿病性ニューロパシー、自立性ニューロパシー及びモノニューロパシーを含む。末梢ニューロパシーは特発性であるか、又は疾患(たとえばアミロイドーシス、アルコール依存症、HIV、梅毒、ウィルス、自己免疫障害、癌、ポルフィリン症、クモ膜炎、ヘルペス後神経痛、ギランバレー症候群、I型及びII型糖尿病を含む糖尿病)、化学薬品(たとえば毒素、鉛、ダプソン、ビタミン、パクリタキセル化学療法、HAART療法)及び特定の神経又は神経集網への物理的損傷(たとえば外傷、圧迫、狭窄)を含む原因によって誘発される。
【0070】
「神経防護の」は、神経傷害を減少、停止又は軽減する、及び神経傷害を被った神経組織を保護、蘇生又は回復させる効果を指す。
【0071】
「神経傷害」は、神経組織への任意の損傷及びそれから生じる任意の疾病又は死を指す。神経傷害の原因は、代謝性、毒性、神経毒性、医原性、熱性又は化学性であり、制限はされないが虚血、低酸素症、脳血管発作、外傷、手術、圧力、腫瘤効果、出血、放射、血管けいれん、神経変性疾患、神経変性過程、感染、パーキンソン病、ALS、髄鞘形成/脱髄過程、てんかん、認知障害、グルタメート異常及びその二次効果を含む。
【0072】
「神経組織」は、神経系を構成する各種の構成要素を指し、制限はされないが、ニューロン、ニューロン支持細胞、グリア、シュワン細胞、内部に含有され、これらの構造を供給する脈管構造、中枢神経系、脳、脳幹、脊髄、中枢神経系と末梢神経系との連結点、末梢神経系及び類似構造を含む。
【0073】
「疼痛」は、特化された神経終末の刺激から発生する不快、苦痛又は激痛の限局性感覚を指す。それは罹患者に源を除去させる、又は源から引き抜く場合、防護機構として作用する。Dorland's Illustrated Medical Dictionary, (W. B. Saunders Co. 27th ed.1988)。疼痛としては、限定はされないが、急性、慢性、癌性、火傷性、切開性、炎症性、神経原性及び背中の疼痛を含む。
【0074】
「神経原性疼痛」は、神経損傷に関連する疼痛の状態を指す。特定の症候群に応じて、疼痛は脳又は脊髄の変化によるか、又は神経自体の異常によるものである。神経原性疼痛は、特発性であるか、又は疾患(たとえばアミロイドーシス、アルコール依存症、HIV、梅毒、ウィルス、自己免疫障害、癌、ポルフィリン症、クモ膜炎、ヘルペス後神経痛、ギランバレー症候群、I型及びII型糖尿病を含む糖尿病)、化学薬品(たとえば毒素、鉛、ダプソン、ビタミン、パクリタキセル化学療法、HAART療法)及び特定の神経又は神経集網への物理的損傷(たとえば外傷、圧迫、狭窄)を含む原因によって誘発される。
【0075】
「病的賭博」は、賭博への没頭を特徴とする状態を指す。向精神物質乱用と同様に、その影響は、より多額の金を累進的に賭ける要求を伴う耐性の発現、離脱症状、及び家族や職業への深刻な悪影響にも関わらない連続賭博を含む。
【0076】
「前立腺疾患」は、前立腺に影響を及ぼす疾患を指す。前立腺疾患としては、限定はされないが、前立腺癌(たとえば前立腺の腺癌及び転移性癌)及び前立腺上皮細胞の異常増殖を特徴とする状態(たとえば良性前立腺肥大)を含む。
【0077】
「網膜障害」は、血管網膜症、たとえば高血圧性網膜症、糖尿病性網膜症(非増殖性又は増殖性)、網膜中心動脈閉塞、網膜中心静脈閉塞;加齢性黄斑変性;網膜剥離;又は網膜色素変性を指す。
【0078】
「統合失調症」は、思考(連合弛緩、妄想、幻覚)、気分(鈍麻、平坦、不適切な感情)、自意識及び外界との関係(自我境界の喪失、非現実的思考、及び自閉性引きこもり)、及び挙動(奇矯な、明らかに目的のない、ステレオタイプの活動又は無活動)の形式及び内容の障害を特徴とする、精神障害又は精神障害の群を指す。統合失調症の例としては、限定はされないが、急性、外来、境界性、緊張型、小児、解体型、破瓜型、潜伏、核、妄想型、パラフレニー、前精神病、過程、偽神経症性、偽精神病質、反応、残遺、感情障害及び鑑別不能型統合失調症を含む。Dorland's Illustrated Medical Dictionary, (W. B. Saunders Co. 27th ed. 1988)。
【0079】
「TGF−β」は、形質転換成長因子ベータを指す。TGF−βは多機能成長因子のプロトタイプとして認識されている。それは、細胞増殖及び分化、血管形成、創傷治癒、免疫反応、細胞外基質生成、細胞走化性、アポトーシス及び造血を含む、各種の細胞及び組織機能を調節する。
【0080】
「TGF−β異常」は、TGF−βの異常レベルを特徴とする疾患障害及び状態を含む、TGF−βが関与する疾患、障害又は状態を指す。
【0081】
「TGF−βの異常レベル」とは、既知の技法を使用して当業者によって決定されるような、TGF−βの正常レベルからの測定可能な変動を指す。
【0082】
「治療許容時間(Therapeutic window of opportunity)」又は「許容時間(window)」は、脳卒中に関連して、脳卒中の開始と有効の療法の開始との間の最大遅延を指す。
【0083】
「トゥレット症候群」は、強迫的悪態、多発性筋肉チック及び騒音を特徴とする、常染色体多発性チック障害を指す。チックは、単純又は複雑でありうる短く迅速な不随意運動である;それらは常同及び反復性であるが、律動的ではない。単純チック、たとえばまばたきは、神経質な癖として始まることが多い。複雑チックは、正常挙動の一部と似ていることが多い。
【0084】
特定の疾患、障害又は状態と併せて別途定義しない限り、「治療すること」は:
(i)疾患、障害及び/又は状態の素因があるが、まだそれを有すると診断されていない動物において、疾患、障害又は状態が発生するのを防止すること;
(ii)疾患、障害又は状態を抑制する、すなわちその発現を停止させること;及び/又は
(iii)疾患、障害又は状態を軽減する、すなわち疾患、障害及び/又は状態の後退を引き起こすこと;
を指す。
【0085】
「ALSを治療すること」は:
(i)ALSの素因があるが、まだそれを有すると診断されていない動物において、ALSが発生するのを防止すること;
(ii)ALSを抑制する、すなわちその発現を停止させること;
(iii)ALSを軽減する、たとえば疾患、障害及び/又は状態の後退を引き起こすこと;
(iv)ALS又はALS症状の開始を遅延させること;
(v)ALS又はALS症状の進行を減速させること;
(vi)ALSに罹患している動物の生存を延長させること;及び/又は
(vii)ALS症状を緩和すること;
を指す。
【0086】
「ハンチントン舞踏病を治療すること」は:
(i)ハンチントン舞踏病の素因があるが、まだそれを有すると診断されていない動物において、ハンチントン舞踏病が発生するのを防止すること;
(ii)ハンチントン舞踏病を抑制又は減速する、たとえばその発現を停止させること;
(iii)ハンチントン舞踏病を軽減、たとえばその後退を引き起こすこと;
(iv)ハンチントン舞踏病を有する動物の運動神経を改善すること;及び/又は
(v)ハンチントン舞踏病を有する動物の生存を延長させることを指す。
【0087】
「物質依存症を治療すること」は、再発を防止し;渇望を低下させ;耐性を抑圧し;離脱を防止、抑制及び/又は軽減し;感作を緩和し;物質誘発神経毒性を防止、抑制(すなわち発現を停止)及び/又は軽減し(すなわち後退を引き起こす);及び/又は胎児期アルコール症候群を防止、抑制及び/又は軽減することを指す。
【0088】
「渇望」は、物質に対する強力な欲望及び/又は強迫的な衝動及び/又は物質を使用したいという抗し難い衝動を指す。
【0089】
「依存症」は、臨床的に重大な障害又は苦痛に至る、物質使用における不適応なパターンを指す。依存症は通例、耐性及び/又は離脱を特徴とする。依存症が発現する物質は制限はされないが、抑制剤(オピオイド、合成麻薬、バルビツール酸塩、グルテチミド、メチプリロン、エスクロルビノール、メタカロン、アルコール);抗不安薬(ジアゼパム、クロルジアゼポキシド、アルプラゾラム、オキサゼパム、テマゼパム);興奮薬(アンフェタミン、メタンフェタミン、コカイン、ニコチン);及び幻覚剤(LSD、メスカリン、ペヨーテ、マリファナ)を含む。
【0090】
「オピオイド」は、半合成又は完全合成のいずれかである麻薬性鎮痛薬を指し、これに限定されるわけではないがコデイン、モルヒネ、ヘロイン、ヒドロモルホン(Dilaudid)、オキシコドン(Percodan)、オキシモルホン(Numorphan)、ヒドロコドン(Vicodin)、メペリジン(Demerol)、フェンタニル、メタドン(Dolophine)、ダルボン、タルウィンを含む。
【0091】
「再発」は、節制の期間後の、しばしば復元を伴う、物質使用への復帰を指す。
【0092】
「復元」は、節制の期間後に物質使用を再開した人における既存レベルの使用及び依存症への復帰を指す。
【0093】
「感作」は、物質への反応が反復使用により向上する状態を指す。
【0094】
「耐性」は、同じ用量の継続使用による効果の低下を特徴とする物質に対する後天的反応及び/又は以前により低い用量で達成された中毒又は所望の効果を達成するために用量を増加させる必要を指す。生理的及び心理社会的因子の両方が耐性の発現に寄与する。生理的耐性に関しては、代謝及び/又は機能耐性が発現する。物質の代謝速度を上昇させることによって、体は物質をより速く除去することができる。機能耐性は、物質に対する中枢神経系の感受性の低下として定義される。「オピオイド耐性」は制限はされないが、薬物の不変用量が時間に対して所望の薬理効果を維持できないこと、すなわち元の薬理効果を維持するために薬物の投薬量を増加させる必要を含む。
【0095】
「離脱」は、物質使用の中止又は削減、あるいは薬理的アンタゴニストの投与後に発生する、不都合な身体的変化を特徴とする症候群を指す。
【0096】
当業者は、上で定義した疾患、障害及び状態についての代わりの命名法、知識及び分類システムがあることと、そのようなシステムが医療科学の進歩によって出現することを認識するであろう。
【0097】
文脈が明確に別途指示しない限り、単数形の用語の定義は、その複数形が本願に登場する場合その複数形に推定して適用され得る;同様に複数形の用語の定義は、その単数形が本出願に登場する場合その単数形に推定して適用され得る。
【0098】
化合物
本発明は式I、II又はIII
【化9】

の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物を提供し、式中:
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここでこのアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン又はシクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここでこのアルキル又はアルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここでこのフェニル、フェニルエチル又はベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである。
【0099】
式Iの化合物の1つの実施形態において、Lが結合であり、Xがエチルである場合、Yは−CR−でない。
【0100】
式Iの化合物の別の実施形態において:
Yは−CR−であり:
nは1又は2である。
【0101】
式Iの化合物のさらなる実施形態において:
Lは−CR−、−O−、−S−又はNHであり;
XはC−Cアルキレン又はArであり;
Arはフェニレン、ビフェニレン、ベンジレン又はナフチレンであり、ここでこのフェニレン、ビフェニレン、ベンジレン又はナフチレンは非置換であるか、又はカルボキシ、ハロ、ニトロ、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、フェニル、フェノキシ及びベンジルオキシから独立して選択された又は1又はそれ以上の置換基によって置換されている。
【0102】
式IIの化合物の1つの実施形態において:
Lは結合、−CR−又はO−であり;
nは2である。
【0103】
式IIの化合物の別の実施形態において:
XはC−Cアルキレン又はArであり;
Arは非置換であるか、又はカルボキシ、ハロ、ニトロ、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、フェノキシ及びベンジルオキシから独立して選択された又は1又はそれ以上の置換基によって置換された、フェニレン、ビフェニレン又はベンジレンである。
【0104】
式IIIの化合物の1つの実施形態において:
、R、R10及びR11は独立して水素又はカルボキシである。
【0105】
式IIIの化合物の別の実施形態において:
はカルボキシ、ハロ、C−Cアルキル及びC−Cアルコキシから独立して選択された又は1又はそれ以上の置換基によって置換されたフェニル又はベンジルである。
【0106】
X、Ar、R、R、R、R、R、R及びRが置換される又は1又はそれ以上の置換基としては、限定はされないが:C−Cアルキル、C−Cアルケニル、C−Cアルキニル、C−Cアルコキシ、C−Cアルケニルオキシ、フェノキシ、ベンジルオキシ、ヒドロキシ、カルボキシ、ヒドロペルオキシ、カルバミド、カルバモイル、カルバミル、カルボニル、カルボゾイル、アミノ、ヒドロキシアミノ、ホルムアミド、ホルミル、グアニル、シアノ、シアノアミノ、イソシアノ、イソシアナート、ジアゾ、アジド、ヒドラジノ、トリアザノ、ニトリロ、ニトロ、ニトロソ、イソニトロソ、ニトロソアミノ、イミノ、ニトロソイミノ、オキソ、C−Cアルキルチオ、スルファミノ、スルファモイル、スルフェノ、スルフヒドリル、スルフィニル、スルホ、スルホニル、チオカルボキシ、チオシアノ、イソチオシアノ、チオホルムアミド、ハロ、ハロアルキル、クロロシル、クロリル、パークロリル、トリフルオロメチル、ヨードシル、ヨージル、ホスフィノ、ホスフィニル、ホスホ、ホスホノ、アルシノ、セラニル、ジシラニル、シロキシ、シリル、シリレン及び炭素環状及び複素環状部分を含む。
【0107】
分子中の特定位置における任意の可変置換基の定義は、その分子内の別の場所におけるその定義から独立している。本発明の化合物の置換基及び置換パターンは、化学的に安定であり、本明細書で述べた方法と同様に、当技術分野で既知の技法によりただちに合成できる化合物を提供するために、当業者が選択することができる。
【0108】
本発明の化合物が又は1又はそれ以上の不斉炭素中心を所有するため、それらは光学異性体の形ではもちろんのこと、光学異性体のラセミ又は非ラセミ混合物の形でも存在する。光学異性体は、従来工程によるラセミ混合物の分割によって得ることができる。1つのかかる工程は、光学活性酸又は塩基を用いた処理によるジアステレオマー塩の形成、次の、結晶化によるジアステレオマーの混合物の分離、それに続く光学活性塩基の塩からの遊離を含む。適切な酸の例は、酒石酸、ジアセチル酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸及びカンファースルホン酸である。
【0109】
光学異性体を分離する別の工程は、エナンチオマーの分離を最大限にするために最適に選択されたキラルクロマトグラフィーカラムの使用を包含する。なお別の利用可能な工程は、本発明の化合物を活性形の光学活性酸、光学活性ジオール又は光学活性イソシアナートと反応させることによって、共有ジアステレオマー分子、たとえばエステル、アミド、アセタール及びケタールの合成を包含する。合成されたジアステレオマーは、従来の方法、たとえばクロマトグラフィー、蒸留、結晶化又は凝華によって分離し、次に加水分解してエナンチオマー的に純粋な化合物を与えることができる。一部の場合では、化合物はプロドラッグとして作用することができるため、「親」光学活性薬への加水分解は、患者への投与前に必ずしも必要ではない。本発明の光学活性化合物は、光学活性開始物質を利用することによって得られる。
【0110】
本発明の化合物は、個別の光学異性体はもちろんのこと、ラセミ及び非ラセミ混合物も含む。一部の非ラセミ混合物において、R配置が豊富になっているのに対して、非ラセミ混合物においては、S配置が豊富になっている。
【0111】
本発明の化合物としては、限定はされないが、表1に示す化合物を含む。
【表1】


【0112】
使用方法
本発明の化合物は一般にNAALADaseインヒビターのプロドラッグであるが、本発明の化合物はそれ自体、NAALADase阻害活性も示す。NAALADase活性を阻害することによって、インビボでNAALADase活性を阻害する化合物に変換することによって、又は別の作用機構によってのいずれかで、本発明の化合物は以下の治療用途において有用である。
【0113】
NAALADase酵素活性を阻害する方法
本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類においてNAALADase酵素活性を阻害する方法をさらに提供する。
【0114】
グルタメート異常を治療する方法
いかなる特定の作用機構に縛られることなく、本発明の化合物は、シナプス後グルタメートレセプターと相互作用せずに、グルタメート放出をシナプス前で遮断する。かかる化合物は、シナプス後グルタメートアンタゴニストと関連する行動毒性を欠いている。それゆえ本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類においてグルタメート異常を治療する方法をさらに含む。
【0115】
本発明の方法によって治療されるグルタメート異常は、強迫性障害、脳卒中、虚血、脱髄疾患、パーキンソン病、ALS、ハンチントン舞踏病、統合失調症、糖尿病性ニューロパシー、疼痛、不安、不安障害、記憶機能障害及び緑内障から選択される。1つの実施形態において、本発明の方法は、アルコール、ニコチン、コカイン及びオピオイド依存症から選択される強迫性障害を治療するためのものである。別の実施形態において、本発明のオピオイド耐性を治療するためである。
【0116】
脳卒中患者は、虚血の開始と治療の開始との間に著しい時間的遅延を経験することが多い。それゆえ長い治療許容時間を備えた神経防護剤への要求がある。本発明の化合物は、少なくとも1時間の治療許容時間を有することが期待される。したがってグルタメート異常が脳卒中であるとき、本発明の化合物は、動物又は哺乳類に脳卒中の開始の60分後、120分後又はそれ以上までに投与される。
【0117】
ニューロン活性を作用させる方法
本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類においてニューロン活性を作用させる方法をさらに提供する。
【0118】
本発明の方法で作用させられるニューロン活性は、損傷ニューロンの刺激、ニューロン再生の促進、神経変性の防止又は神経障害の治療である。
【0119】
本発明の方法によって治療される神経障害としては、限定はされないが:三叉神経痛;舌咽神経痛;ベル麻痺;重症筋無力症;筋ジストロフィー;ALS;進行性筋萎縮症;遺伝性進行性延髄性筋萎縮;ヘルニア化、破裂又は脱出椎間円板症候群;頚部脊椎症;神経叢障害;胸郭出口破壊症候群;ニューロパシー;疼痛;アルツハイマー病;パーキンソン病;ALS;及びハンチントン舞踏病を含む。
【0120】
1つの実施形態において、本発明の方法は、ニューロパシー(たとえば末梢ニューロパシー又は糖尿病性ニューロパシー)、疼痛(たとえば神経原性疼痛、たとえば糖尿病によって誘発された神経原性疼痛)、外傷性脳損傷、脊髄への物理的損傷、脳損傷に関連する脳卒中、脱髄疾患及び神経変性に関連する神経障害から選択される神経障害を治療するためのものである。
【0121】
神経障害が疼痛である場合、本発明の化合物は、モルヒネの有効量と組み合せて投与される。
【0122】
神経変性に関連する神経障害としては、限定はされないが、アルツハイマー病、パーキンソン病及びALSである。
【0123】
前立腺疾患を治療する方法
本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類において前立腺疾患を治療する方法をさらに提供する。1つの実施形態において、前立腺疾患は前立腺癌である。
【0124】
癌を治療する方法
本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類において癌を治療する方法をさらに提供する。1つの実施形態において、癌は、NAALADaseが常駐する組織、たとえば脳、腎臓及び睾丸にある。
【0125】
血管形成を抑制する方法
本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類において血管形成を抑制する方法をさらに提供する。
【0126】
血管形成は、生殖能力又は癌腫瘍の転移に必要であるか、又は血管形成依存性疾患に関連している。それゆえ本発明は、血管形成依存性疾患を治療する方法をさらに提供する。血管形成依存性疾患としては、限定はされないが、関節リウマチ、心疾患、眼の新生血管疾患、末梢血管障害、皮膚潰瘍及び癌性腫瘍増殖、浸潤又は転移を含む。
【0127】
TGF−β活性を作用させる方法
本発明は、上で定義したように式I、II又はIIIの化合物の有効量を動物又は哺乳類に投与することを含む、動物又は哺乳類においてTGF−β活性を作用させる方法をさらに提供する。
【0128】
TGF−β活性を作用させることは、TGF−β濃度を上昇、低下又は調節すること、及びTGF−β異常を治療することを含む。本発明の方法によって治療されるTGF−β異常の例は、神経変性障害、細胞外基質形成障害、細胞増殖関連疾患、感染性疾患、免疫関連疾患、上皮組織瘢痕化、膠原病、線維増殖性障害、結合組織障害、炎症、炎症性疾患、呼吸窮迫症候群、不妊症及び糖尿病を含む。
【0129】
神経変性障害の例としては、限定はされないが、虚血、再潅流傷害、髄鞘形成又は神経変性から生じる神経組織損傷を含む。
【0130】
細胞増殖関連疾患の例としては、限定はされないが、腎臓細胞、造血性細胞、リンパ球、上皮細胞及び内皮細胞に影響を及ぼす障害を含む。
【0131】
感染性疾患の例としては、限定はされないが、マクロファージ病原体、特に細菌、酵母、真菌、ウィルス、原虫、クルーズトリパノソーマ、ヒストプラスマ・カプスラタム、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・パラプシロシス、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、サルモネラ、ニューモシスティス、トキソプラズマ、リステリア、マイコバクテリア、リケッチア及びリーシュマニアから選択されるマクロファージ病原体によって引き起こされる疾患を含む。マイコバクテリアとしては、限定はされないが、結核菌及びハンセン菌を含む。トキソプラズマとしては、限定はされないが、トキソプラズマ・ゴンジを含む。リケッチアとしては、限定はされないが、R.prowazekii、R.coronii及びR.tsutsugamushiを含む。感染性疾患の他の例は、単発性又は多発性皮膚病変、粘膜疾患、シャーガス病、後天性免疫不全症候群(AIDS)、トキソプラズマ症、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、住血吸虫症、クリプトスポリジウム症、マイコバクテリウム・アビウム感染症、カリニ肺炎及びハンセン病を含む。
【0132】
免疫関連疾患の例としては、限定はされないが、自己免疫障害;免疫機能障害;及び感染性疾患、特にトリパノソーマ感染、ウィルス感染、ヒト免疫抑制ウィルス、ヒトT細胞白血病ウィルス(HTLV-1)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウィルス又は肝炎に関連する免疫抑制を含む。
【0133】
膠原病の例としては、限定はされないが、全身性進行性硬化症(「PSS」)、多発性筋炎、強皮症、皮膚筋炎、好酸球性筋膜炎、限局性強皮症、レイノー症候群、間質性肺線維症、強皮症及び全身性紅斑性狼瘡を含む。
【0134】
線維増殖性障害の例としては、限定はされないが、糖尿病性ニューロパシー、腎臓疾患、増殖性硝子体網膜症、肝硬変、胆管線維症及び骨髄線維症を含む。腎臓疾患としては、限定はされないが、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎、糖尿病性ニューロパシー、腎間質線維症、シクロスポリンを摂取している移植患者の腎線維症、HIV関連ネフロパシーを含む。
【0135】
結合組織障害の例としては、限定はされないが、強皮症、骨髄線維症、及び肝、眼内及び肺線維症を含む。
【0136】
特定の作用機構に縛られることなく、本発明の化合物は、TGF−βを調節することによって、及び/又はミエロペルオキシダーゼを阻害することによって、炎症性疾患を治療する。本発明の方法によって治療される炎症性疾患としては、限定はされないが、PSSに関連する疾患、多発性筋炎、強皮症、皮膚筋炎、好酸球性筋膜炎、限局性強皮症、レイノー症候群、間質性肺線維症、強皮症、全身性紅斑性狼瘡、糖尿病性ニューロパシー、腎臓疾患、増殖性硝子体網膜症、肝硬変、胆管線維症、骨髄線維症、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎、糖尿病性ニューロパシー、腎間質線維症、シクロスポリンを摂取している移植患者の腎線維症、およびHIV関連ネフロパシーを含む。
【0137】
本発明の化合物のTGF−β調節特性に関連する他の用途は:
組織、線又は器官の成長、特に乳汁産生又は体重増加を増進する成長を刺激し;
細胞増殖、特に線維芽細胞、間葉細胞又は上皮細胞の増殖を刺激し;
特に上皮細胞、内皮細胞、T及びBリンパ球又は胸腺細胞の細胞増殖を抑制し;
脂肪、骨格筋又は造血表現型の発現、新生物、非殺細胞ウィルス又は他の病原体感染あるいは自己免疫障害を抑制し;
疾患耐性又は感受性を仲介し;
細胞免疫反応を抑制し;
たとえば事故による負傷、外科手術、外傷誘発裂傷又は他の外傷から生じた創傷によって、あるいは過剰な結合組織形成が腹部癒着である腹膜を包含する創傷によって損傷された皮膚又は他の上皮組織における瘢痕組織形成を抑制し;
ワクチン、特にたとえばダスト又は花粉症に対するアレルギーのワクチンの有効性を向上させ;
ポリープ形成を抑制すること;
を含む。
【0138】
投与及び用量
本発明の化合物は、当業者に既知の任意の手段によっても投与できる。たとえば本発明の化合物は、経口的に、非経口的に、吸引スプレーによって、局所的、経直腸的、経鼻的、口腔的に、経膣的、又は埋め込みリザーバーを介して投与される。「非経口的」という用語は本明細書で使用するように、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、脳室内、胸骨内、頭蓋内、及び骨内注射及び輸液技法を含む。正確な投与プロトコルは、患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別及び食餌を含む各種の因子に応じて変化するであろう;具体的な投与手順の決定は、当業者にとって慣例である。
【0139】
本発明の化合物は、単回用量、複数回個別用量又は連続輸液によって投与される。ポンプ手段、特に皮下ポンプ手段は連続輸液に有用である。
【0140】
本発明の化合物約0.001mg/kg/d〜約10,000mg/kg/dの用量濃度は、本発明の方法に有用である。1つの実施形態において、用量濃度は約0.1mg/kg/d〜約1,000mg/kg/dである。別の実施形態において、用量濃度は約1mg/kg/d〜約100mg/kg/dである。特定の患者の具体的な用量濃度は、採用した特定の化合物の活性及び考えられる毒性;患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別及び食餌;投与時間;排出速度;薬剤の組み合せ;鬱血性心不全の重症度;及び投与形を含む各種の因子に応じて変化するであろう。通例、インビトロ投薬量−効果結果は、患者投与のための適正な用量について有用な指針を与える。動物モデルでの実験も役立つ。適正用量濃度の決定についての考慮事項は当技術分野で周知であり、一般の医師の技量の範囲内である。
【0141】
薬剤送達のタイミング及び順序を調節する既知の投与計画はどれも本発明の方法における治療を実施するために必要に応じて使用及び反復できる。計画は、追加の治療剤を用いた前治療及び/又は同時投与を含む。
【0142】
本発明の化合物は、単独で、又は同時、個別又は連続使用のために又は1又はそれ以上の追加の治療剤と組み合せて投与できる。追加の治療剤としては、限定はされないが、本発明の化合物;ステロイド(たとえばヒドロコルチゾン、たとえばメチルプレドニゾロン);抗炎症又は抗免疫薬、たとえばメトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミド又はシクロスポリンA;インターフェロン−β;抗体、たとえば抗CD4抗体;二次虚血性現象の危険を低下できる薬剤、たとえばチクロピジン;化学療法剤;免疫治療組成物;電磁放射線増感剤;及びモルヒネを含む。本発明の化合物は、(i)単一の剤形で一緒に、又は(ii)それぞれの活性剤の最適放出速度のために設計された個々の剤形で個別に、のいずれかで、又は1又はそれ以上の追加の治療剤と共に同時投与できる。
【0143】
診断方法及びキット
本発明はさらに:
(i)体組織又は体液のサンプルを上で定義したような式I、II又はIIIの化合物と接触させ、そこで化合物がサンプル中のNAALADaseと結合し;
(ii)サンプルに結合したNAALADaseの量を測定し;
を含み、ここで、該NAALADaseの量が、疾患、障害又は状態の徴候である、NAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態をインビトロ又はインビボで検知するための方法を提供する。
【0144】
本発明の方法によって検知できる疾患、障害又は状態の例としては、限定はされないが、神経障害、グルタメート異常、ニューロパシー、疼痛、強迫性障害、前立腺疾患、癌、TGF−β異常、ハンチントン舞踏病、糖尿病、網膜障害及び緑内障を含む。
【0145】
本発明の方法で使用される体組織又は体液としては、限定はされないが、前立腺組織、射精液、精嚢液、前立腺液、尿、血液、唾液、涙、汗、リンパ液及び痰を含む。
【0146】
本発明の化合物は、当技術分野で既知の技法を使用してマーカーによって標識できる。有用なマーカーは制限はされないが、酵素マーカー及び造影試薬を含む。造影試薬の例は、放射性標識、たとえば131I、111In、123I、99Tc、32P、125I、H及び14C;蛍光標識、たとえばフルオレセイン及びローダミン;ならびに化学発光剤、たとえばルシフェリンを含む。
【0147】
NAALADaseの量は、当技術分野で既知の技法によって測定できる。そのような技法としては、限定はされないが、アッセイ(たとえば免疫測定、熱量測定、濃度測定、分光写真及びクロマトグラフアッセイ)及び撮像技法(たとえば磁気共鳴分光法(MRS)、磁気共鳴映像法(MRI)、単光子放射線コンピュータ断層撮影(SPECT)及び陽電子放射断層撮影(PET))を含む。
【0148】
本発明は、マーカーによって標識された、上で定義したような式I、II又はIIIの化合物を含む、NAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態を検知するための診断キットをさらに提供する。キットは、又は1又はそれ以上の緩衝剤、背景干渉を低下させるための薬剤、対照試薬及び/又は疾患、障害又は状態を検知するための装置をさらに含む。
【0149】
本発明は:
(i)上で定義したような式I、II又はIIIの化合物を造影試薬で標識し;
(ii)動物又は哺乳類に標識化合物の有効量を投与し;
(iii)標識化合物を局在化させて、動物又は哺乳類内のNAALADaseに結合させ;
(iv)標識化合物に結合したNAALADaseの量を測定し;
を含み、ここで該NAALADaseの量が、疾患、障害又は状態の徴候である、動物又は哺乳類においてNAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態を検知する方法をさらに提供する。
【0150】
NAALADaseの量は、上述のような既知の撮像技法を使用してインビボで測定できる。
【0151】
参照としての組み込み
NAALADaseインヒビター及びグルタメートの関係、ならびに各種の疾患、障害及び状態の治療及び検知でのNAALADaseインヒビターの有効性は、米国特許第5,672,592号、第5,795,877号、第5,804,602号、第5,824,662号、第5,863,536号、第5,977,090号、第5,981,209号、第6,011,021号、第6,017,903号、第6,025,344号、第6,025,345号、第6,046,180号、第6,228,888号、第6,265,609号、第6,372,726号、第6,395,718号、第6,444,657号、第6,452,044号、第6,458,775号及び第6,586,623号;国際公開公報WO 01/91738、WO 01/92274及びWO 03/057154;ならびに当技術分野で一般に既知の他の参考文献で述べられている。本発明者らは、上述の参考文献の内容全体、特に、血管形成を抑制することにおける;TGF−β活性を作用させることにおける;疾患、障害又は状態を診断することにおける;グルタメート異常、強迫性障害、虚血、脊髄損傷、脱髄疾患、パーキンソン病、ALS、アルコール依存症、ニコチン依存症、コカイン依存症、前立腺疾患、癌、糖尿病性ニューロパシー、疼痛、統合失調症、不安、不安障害、記憶機能障害、ハンチントン舞踏病、糖尿病、網膜障害及び緑内障を治療することにおける、NAALADaseインヒビターの有効性に関するその考察、図及びデータを、本明細書で完全に述べられているかのように、参照により本明細書に組み入れている。本発明者らにより、本発明の化合物がNAALADase活性を阻害し、NAALADase活性を阻害する化合物に変換することが見出されたため、それらは、参照として組み込まれた特許及び公報に開示されたNAALADaseインヒビターと同様の用途を有することが予想される。
【0152】
薬学的組成物
本発明は:
(i)式I、II又はIIIの化合物の有効量と;
(ii)薬学的に許容される担体と;
を含む薬学的組成物をさらに提供する。
【0153】
本発明の薬学的組成物は、制限はされないが又は1又はそれ以上の湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料、着香料、甘味料及び追加の治療剤を含む、又は1又はそれ以上の追加の薬学的に許容される成分を含む。
【0154】
本発明の薬学的組成物は、以下のために固体又は液体形に調合できる:(1)たとえば水薬(水性又は非水性懸濁剤)、錠剤(たとえば口腔、舌下、又は全身吸収用に標的化)、ボーラス、粉剤、顆粒剤、舌への塗布のためのペースト、硬質ゼラチンカプセル剤、軟質ゼラチンカプセル剤、マウススプレー、乳剤及びマイクロエマルジョンとしての、経口投与;(2)たとえば皮下、筋肉内、静脈内又は硬膜外注射による、たとえば滅菌溶液、懸濁剤又は持続放出剤形としての、非経口投与;(3)たとえばクリーム、軟膏、又は皮膚に適用する制御放出パッチ又はスプレーとしての、局所適用;(4)たとえばペッサリー、クリーム又はフォームとしての、膣内又は直腸内投与;(5)舌下投与;(6)眼投与;(7)経皮投与;又は(8)経鼻投与。
(実施例)
【実施例1】
【0155】
3−(2−オキソ−テトラヒドロ−チオピラン−3−イル)プロピオン酸の調製(化合物1)
【化10】

2−[3−(トリチルチオ)メルカプトプロピル]ペンタン二酸(150g、0.33mol)のジクロロメタン溶液(500mL)に、トリフルオロ酢酸(110mL)を30分間にわたって滴加した。さらに30分間攪拌した後、トリエチルシラン(45mL、0.33mol)のジクロロメタン溶液(50mL)を添加し、混合物を45℃にて1時間攪拌した。揮発性物質を真空中で除去し、残留物をヘキサン(500mLx2)により粉砕した。油性残留物を10−カンファースルホン酸(14g)を含有するトルエン(500mL)に溶解させ、6時間にわたって還流した。Dean−Stork共沸アダプタを使用して遊離水を除去した。次にトルエンを蒸発させ、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン、1/4)によって精製した。次のEtOAc/ヘキサンからの結晶化によって、3−(2−オキソテトラヒドロ−2H−チオピラン−3−イル)プロパン酸23.3gを白色固体として得た(収率37%):H NMR(CDOD)δ1.65−1.78(m,2H),2.05−2.18(m,4H),2.35−2.48(m,2H),2.65−2.74(m,1H),3.13−3.29(m,2H);13C NMR(CDOD)δ23.3,27.4,29.3,31.2,32.3,50.0,177.0,206.4. C12Sについて計算した解析:C,51.04;H,6.43;S,17.03。実測値:C,51.08;H,6.38;S,17.16。
【実施例2】
【0156】
3−[2−オキソテトラヒドロ−2H−チオピラン−3−イル]メチル]安息香酸の調製
【化11】

3−(2−カルボキシ−5−メルカプトペンチル)安息香酸(5.12g、20mmol)及び10−カンファースルホン酸(500mg)のトルエン溶液(30mL)を6時間にわたって還流させた。Dean−Stork共沸アダプタを使用して遊離水を除去した。次に減圧下でトルエンを蒸発させ、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン、1/4)によって精製した。生成物を含有する画分を収集、蒸発させ、EtOAc/ヘキサンから再結晶させて、3−[(2−オキソテトラヒドロ−2H−チオピラン−3−イル)メチル]安息香酸3.2gを白色固体として得た(収率67%):H NMR(CDCl)δ1.58−1.68(m,1H),1.90−2.02(m,2H),2.04−2.13(m,1H),2.68(m,1H),2.78−2.86(m,1H),3.08−3.19(m,2H),3.37−3.44(m,1H),7.38−7.48(m,2H),7.93(brs,1H),7.94−8.02(m,1H);13C NMR(CDC1)δ22.6,27.8,31.1,36.8,52.0,128.8,129.2,129.8,131.3,135.3,140.1,172.6,203.7。C1314Sについて計算した解析:C,62.38;H,5.64;S,12.81.実測値:C,62.19;H,5.65;S,12.59。
【実施例3】
【0157】
4−{[(1−オキソ−3,4−ジヒドロ−1H−イソチオクロメン−8−イル)オキシ]メチル}安息香酸の調製
【化12】

2−[(4−カルボキシベンジル)オキシル−6−(2−メルカプトエチル)安息香酸(1.66g、5.0mmol)のエタノール(80mL)溶液に、4% NaOH水溶液(20mL)及びベンジルブロミド(0.89g、5.2mmol)のエタノール溶液(20mL)を0℃にて添加した。反応混合物を0℃にて3時間攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残留物EtOAcに溶解させた。有機溶液を12N HClで洗浄した。有機層をMgSO上で乾燥させ、濃縮して、白色固体2.0gを得た。この固体をトリフルオロ酢酸無水物(15mL)に溶解させ、得られた混合物を60℃にて2時間攪拌した。揮発性物質を真空中で除去し、残留物を0℃にて飽和NaHCO水溶液に溶解させ、続いて12N HClで酸性化を行った。得られた沈殿物を濾過によって回収し、水で十分に洗浄した。回収した固体をシリカゲルクロマトグラフィー(EtOAc/ヘキサン/AcOH、1/1/0.02)で精製し、4−{[(1−オキソ−3,4−ジヒドロ−1H−イソチオクロメン−8−イル)オキシ]メチル}安息香酸0.8gを白色固体として得た(収率54%):H NMR(DMSO−d)δ3.15−3.30(m,4 H),5.26(s,2H),7.02−7.07(m,1H),7.20−7.27(m,1H),7.53−7.60(m,1H),7.66−7.72(m,2H),8.00−8.05(m,2H);13C NMR(DMSO−d)δ28.7,31.6,69.2,113.2,121.2,121.5,126.6,123.3,130,0,134.0,142,0,143.8,156.2,167.1,187.2.
1314Sについて計算した解析:C,62.38;H,5.64;S,12.81.実測値:C,62.19;H,5.65;S,12.59.
【実施例4】
【0158】
3−(1−オキソ−3,4−ジヒドロ−1H−イソチオクロメン−8−イル)安息香酸の調製
【化13】

3−(2−メルカプトエチル)−[1h,1’−ビフェニル]−2,3’−ジカルボン酸を使用する以外は実施例3において前に概説した方法によって、3−(1−オキソ−3,4−ジヒドロ−1H−イソチオクロメン−8−イル)安息香酸を作成した(収率34%):H NMR(DMSO−d)δ3.21−3.42(m,4H),7.27−7.37(m,1H),7.45−7.53(m,3H),7.57−7.64(m,1H),7.75−7.79(m,1H),7.87−7.94(m,1H)。
【実施例5】
【0159】
網膜障害の治療におけるNAALADaseインヒビターの効力
4つのグループのラットに、グルコース濃度を約350mg/dlに維持するためにインシュリン注射を毎日与えた。NAALADaseインヒビター2−(3−スルファニルプロピル)−ペンタン二酸(化合物B)を高血糖の開始から始めて、BB/Wラットの1グループに10mg/kgの用量で、BB/Wラットの第2のグループに30mg/kgの用量で、6ヶ月間にわたって毎日投与した。BB/Wラットの第3のグループ及び非糖尿病ラットの第4のグループには、毎日ビヒクル処置を受けさせた(50mM Hepes緩衝生理的食塩水)。
【0160】
化合物Bによる処置又はビヒクル処置の6ヵ月後、ラットを殺処分して、その眼を除去した。各ラットより、一方の眼をエラスターゼ消化のために処理して、もう一方の眼を透過電子顕微鏡法(TEM)及び基底膜(BM)厚のために処理した。
【0161】
エラスターゼ消化
網膜消化物は、Layer, N., Invest Ophthalmol Vis Sci (1993)34:2097に述べられているように、網膜上でエラスターゼを使用して調製した。最近殺処分したBB/Wラット(n=30)及び同じ年齢を一致させた遺伝子導入対照(n=12)から眼を除去した。網膜(n=12)は、室温にて眼全体(角膜輪部にスリット)を8%スクロースを含む50mmol/L Na−Kリン酸緩衝液中の4%(w/v)パラホルムアルデヒドに浸漬することによって固定した。固定した網膜を脱イオン水で洗浄し、37℃の攪拌水浴内で、150mmol/L NaCl及び5mmol/L エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含むNa−Kリン酸緩衝液、pH6.5中の40単位/mL エラスターゼで3分間インキュベートした。組織を100mmol/L Tris−HCL(pH8.5)中で一晩洗浄し、次に遊離した硝子体及び消化された神経要素の除去のために脱イオン水に移して、閉じた鉗子の側面及び非常に細かいブラシの側面や端部を使用して静かに攪拌した。すべての遊離した組織を除去した後、網膜を新しい酵素中でもう1回、3分間にわたってインキュベートし、次にTris−HCl緩衝液中で室温にて2回目の洗浄を一晩受けさせた。3日目に、消化された神経要素のさらなる除去のために、網膜を再度脱イオン水に移した。非血管要素を完全に含まない血管網目をCa2+及びMg2+を含まないダルベッコリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)中での浮揚によってシリコン処理スライド(#S1308,Oncor,ゲティスバーグ、メリーランド州)上に平らに配置した。ほこりのない環境で空気乾燥させた後、Luna, L., ed.Manual of Histologic Staining Methods of the Armed Forces Institute of Pathology (1968) McGraw-Hill, New York, NYに述べられているように、網膜微小血管系のマウントを過ヨウ酸シッフ反応及びヘマトキシリン対比染色を用いて染色した。次に調製物を光学顕微鏡によって検査し、写真撮影した。
【0162】
内皮/周皮細胞(E/P)比
Cuthbertson, R., Invest Ophthalmol Vis Sci.(1986)27: 1659-1664)に述べられているように、染色した無傷の網膜全体のマウントをコード付け及びカウントした。
【0163】
以前に説明された形態学的基準(Kuwabara,T., ArchOpAthalmol.(1960)64: 904-911を参照)で以前に述べられたように、内皮及び周皮細胞について10個の視野を倍率100倍でカウントした。各サンプルにおいて、網膜の中央区域から少なくとも200個の細胞をカウントした。内皮細胞/周皮細胞(E/P)比の平均値は最初に、ラット4グループのそれぞれからの3個の網膜で計算した。
【0164】
BM厚の評価
各眼を4%グルタルアルデヒドで固定し、強膜及び脈絡膜がないよう切開し、次にトリミングして、1%四酸化オスミウム中で後固定した。脱水及び埋め込みの後、薄切片をウラニルアセテート及びクエン酸鉛で染色した。最初に、ビヒクルを与えた非糖尿病ラット3匹、10mg/kgの化合物Bを与えた糖尿病動物3匹、及び30mg/kgの化合物Bを与えた糖尿病ラット3匹からの網膜毛細血管のBM厚を、ビヒクルを与えた糖尿病ラット3匹比較した。内顆粒層及び網状層から眼1個につき少なくとも10本の毛細血管を倍率10,000xで写真撮影した。正確な倍率は、28,800ライン/インチの校正グリッドを用いてネガの各セットについて決定した。ネガを3xに拡大した。Bendayan, M., J. ElectronMicrosc Techs(1984) 1: 243-270;及びGunderson, J. Microscopy(1980)121: 65-73)に述べられているように、内皮細胞周囲のBMの最短近接0.25mmまでの測定値を作成し、BM平面に対して垂直に得た。各毛細血管について少なくとも20個の測定値を得て、BM厚を測定値20個の平均として表した。
【0165】
統計解析
グループ間の比較のために、一元配置分散分析(ANOVA)及びStudentのt検定を使用して統計解析を実施した。有意性は、p<0.05の値として定義した。値は、別途示さない限り、平均±平均からの標準誤差(SEM)として報告した。
【0166】
エラスターゼ消化調製及びE/P比の結果
網膜消化物の無傷のマウント全体にて、内皮細胞核は容器壁内で内方に見ると、大きく、楕円形で、薄く染色されており、内腔に突出していた。周皮細胞核はさらに側面に沿って見ると、黒っぽく染色され、小さく円形であり、容器壁から顕著に離れて突出していた。E/Pカウントは、網膜の中央区域から取った。添付図は、対照の非糖尿病ラットからの(図1)、対照の、ビヒクルを用いた6ヶ月の処置後の糖尿病ラットからの(図2)、化合物Bを用いた6ヶ月の処置後の糖尿病ラットからの(図3)網膜血管の27,000x拡大写真を示す。
【0167】
NAALADase阻害は、血糖又は体重に対する影響を持っていなかった。化合物Bを用いた高用量(30mg/kg)処置は、BM厚の29.0%の減少を引き起こしたのに対し(糖尿病ビヒクル=101.0±14.81nm及び糖尿病NAALADase30=71.7±4.07nm)、化合物Bを用いた低用量(10mg/kg)処置は、BM厚の18.5%の減少(NAALADase10=82.3±4.07nm)を引き起こした。化合物Bを用いた高用量処置は、内皮細胞対周皮細胞比の33.0%の低下も引き起こしたのに対して(糖尿病ビヒクル=3.0±0.1及びNAALADase30=2.0±0.9)、化合物Bを用いた低用量処置は、同じ細胞比の16.7%の低下を引き起こした(NAALADase10=2.5±0.5)。表IIを参照。
【表2】

【0168】
結論
BB/Wラットは、通例、糖尿病性網膜症に関連する早期変化を示したが(周皮細胞喪失及びBM肥厚化)、同じく糖尿病性網膜症に特徴的な著しい数の小血管瘤、又はさらに進行した疾患で通常見られる無細胞毛細血管の区域を示さなかった。BB/Wラットで観察された網膜症は、Chakrabarti, Diabetes(1989)38:1181-1186で以前に特徴付けられている。
【0169】
結果は、NAALADaseインヒビターを用いた治療が網膜病変の改善を引き起こすことを示している。特に、NAALADaseインヒビターは、網膜血管の周皮細胞喪失及びBM肥厚化を防止した。
【実施例6】
【0170】
実験的ラット緑内障におけるNAALADaseインヒビターの保護効果
実験プロトコル
すべての実験は、Association for Research in Vision and Ophthalmology Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従った。それぞれ重さ約250gmのオスのブラウンノルウェーラット82匹(Rattus norvegicus)を、ジョンズホプキンス医科大学(Johns Hopkins University School of Medicine)の動物実験委員会(Animal Care Committee)が承認したプロトコルを使用して処置した。ラットは、12時間明/12時間暗サイクルで収容し、自由に餌を取らせた。
【0171】
実験的緑内障
Morrison, J. et al., IOVS(March 1998)39:526-531に述べられている手順に従って、強膜上静脈への高張食塩水の微量注射によって、眼圧(「IOP」)の片側上昇をラット56匹に引き起こした。ラットはIOP上昇の日から開始して、ビヒクル(50mM HEPES緩衝生理的食塩水を用いてラット23匹)又はNAALADaseインヒビター(化合物A 10mg/kgを用いてラット11匹、化合物B 10mg/kgを用いてラット22匹)のいずれかの腹腔内注射を用いて毎日処置した。生理的食塩水処置ラット11匹、化合物A処置ラット11匹及び化合物B処置ラット11匹を最初の眼圧上昇の8週後に、残りのラットを12週後に殺処分した。
【0172】
視神経の横切
腹腔内ペントバルビタール麻酔下で、ラット26匹の視神経を片側だけ横切した。結膜をはさみで開き、視神経を外眼筋への牽引によって露出させた。横切は、主要な眼血管への損傷を回避するよう特に注意して、眼球の5mm後でマイクロシザーズによって実施した。横切直後に網膜を検眼鏡で検査して、網膜動脈血液供給が中断していないことを確認した。結膜を吸収性縫合糸で閉じ、眼を抗生物質軟膏で処置した。ラットは横切日から開始して、ビヒクル(50mM HEPES緩衝生理的食塩水を用いてラット9匹)又はNAALADaseインヒビター(化合物A 10mg/kgを用いてラット8匹、化合物B 10mg/kgを用いてラット9匹)のいずれかの腹腔内注射を用いて毎日処置した。生理的食塩水処置ラット5匹、化合物A処置ラット3匹及び化合物B処置ラット4匹を横切の2週後に、残りのラットを4週後に殺処分した。
【0173】
視神経の集計
ラットは、深いペントバルビタール麻酔下で放血によって殺処分した。ラットに0.1Mリン酸緩衝液、pH7.2中の2%パラホルムアルデヒド/2%グルタルアルデヒドを、心臓を通じて潅流させ、視神経の付着した眼を除去した。両方の実験(緑内障又は横切)及び対照眼の視神経の断面を、眼球の後1.5mmにて厚さ1mmで除去し、緩衝液中の2%四酸化オスミウム中で後固定した。これらをエポキシ樹脂中へ処理し、1ミクロンに切断し、トルイジンブルーで染色した。
【0174】
各視神経断面の面積を画像解析システム(Universal Imaging Corp., ウェストチェスター、ペンシルベニア州)上でSynsysデジタルカメラ及びMetamorphソフトウェアを使用して倍率10xにてその外部境界の輪郭線を描くことによって測定した。3個の面積測定値を得て、平均値を決定した。密度及び線維直径分布を測定するために、100x位相差対物レンズを用いて、各神経の10個の異なる面積から画像を得た。これらを編集して非神経物体を削除し、髄鞘内部の各軸索のサイズ(その最小直径)及び軸索/平方mmの密度を各画像及び神経について計算した。平均密度に総神経面積を掛けて、各神経の線維数を得た。緑内障又は横切神経の総線維数を各ラットの正常な他眼と比較して、喪失パーセント値を得た。10個の画像でカウントした軸索の数は、正常ラット神経における80〜90,000の軸索の約20%であった。軸索の数の測定者には、神経に対して実施したプロトコルは隠されていた。
【0175】
結果
実験的緑内障の結果
生理的食塩水処置された、対照ラットの平均線維パーセント差はその正常眼と比較すると、その緑内障眼で著しく低く、平均線維喪失は、8週間の追跡グループで14.44±5.75%(n=ラット11匹;表III)、12週間の追跡グループで8.15±7.84%(n=ラット12匹;表IV)であった。
【0176】
それに反して、8週間及び12週間のNAALADaseインヒビター処置ラットのどちらも、著しい線維喪失はなかった。各NAALADaseインヒビター処置グループの平均線維喪失パーセントは、生理的食塩水処置された、対照グループの喪失よりも統計的に低かった(8週にて、化合物Aではp=0.05、化合物Bではp=0.02)。
【表3】

【表4】

IOP積分差=各ラットにおける緑内障眼と正常眼とのIOP暴露の差(mmHg−日)。
パーセント差=各ラットにおける緑内障と正常眼との線維数の平均パーセント差(正の値は、緑内障眼で線維がより少ないことを示す)。
IOP積分差の相違は、有意ではない(p>0.05)。損傷8週後の薬剤処置と生理的食塩水処置の対照ラットとのパーセント差の相違は、有意である(p=0.05及びp=0.02**)。
【0177】
視神経横切
横切実験データは、横切2週後のNAALADaseインヒビター処置ラットにおける最終的な網膜神経節細胞(RGC)の死の遅延又は死からの救出を示唆している。横切2週間で、両方の薬剤処置グループは、各ラットの線維の絶対数又は横切眼と正常眼とのパーセント差(表V)のいずれかによって判断されるように、生理的食塩水処置、対照グループよりも多くの残存RGC軸索を有していた。化合物A及び化合物Bで処置したラットは、生理的食塩水処置ラットよりも、それぞれ3倍及び2倍多くの残存軸索を有していた。すべて又はほぼすべてのRGCは、いずれの薬理学的処置にもかかわらず、横切後最初の2ヵ月以内に死ぬ。それゆえ横切4週後までに、すべてのグループでRGC軸索の80%超が死んだ(表VI)。横切4週後において、薬剤処置ラットと生理的食塩水処置ラットとの有意差はなかった。
【表5】

【表6】

パーセント差=各ラットにおける緑内障と正常眼との線維数の平均パーセント差(正の値は、緑内障眼で線維がより少ないことを示す)。
薬剤処置と生理的食塩水処置、対照ラットとのパーセント差の相違は、統計的に有意ではない(p=0.05)。
【実施例7】
【0178】
モルヒネ耐性の発現に対するNAALADaseインヒビターの効果
実験プロトコル
対象
体重22〜24gのオスC57/BLマウス(IMP, ウッチ、ポーランド)を標準の実験用ケージで群飼し、12時間明/暗サイクル(点灯:07:00、消灯:19:00)で温度制御されたコロニー室(21±2℃)に置いた。市販の食物と水道水は自由に与えた。各実験グループは、処置当たり7〜28匹のマウスで構成されていた。すべてのマウスは1回だけ使用した。
【0179】
実験1〜2の装置
放射熱源によって感度「10」に調整し、自動タイマーに接続した標準テールフリック式鎮痛効果測定装置(コロンバス、オハイオ州、米国、モデル33)を使用して、抗侵害反応を評価した。熱刺激の強度は、基準テールフリック潜時が−3秒になるように調整した。尾への損傷を最小限にするために、最大潜時10秒(すなわちカットオフ)を使用した。尾退避潜時は、熱刺激の開始からマウスが尾の不リックを示すまで測定した。各反応の評価は、尾の別の部分(1.5〜2cm隔設)で得た、15秒隔てた2つの個別の測定値より構成された。
【0180】
モルヒネ抗侵害有効性は、使用動物の数の最小化を可能にする累積用量依存曲線の使用によって調査した(Paronis and Holtzman 1991)。順化及び基準試験の後、各マウスに低用量のモルヒネ(1mg/kg)を皮下注射した。30分後、マウスを再試験し、対数単位の4分の1増加させたモルヒネの次の用量を注射した。それゆえモルヒネの初期用量が1.0mg/kgであったため、累積用量2.8mg/kgでは、次の用量は1.78mg/kgであった。潜時が1つの用量から次の用量まで増加しないように、マウスがカットオフ時間内にその尾を動かさなくなるまで、あるいは用量依存曲線の平坦域が存在するまで、この手順を継続した。各鎮痛反応動物は、さらなるテールフリック評価を受けなかったが、所定の試験中に各動物が同じ総用量のモルヒネを投与されるように、次の用量のモルヒネを注射した。
【0181】
モルヒネ耐性に対する効果(実験1)及びテールフリック試験における急性効果(実験2)
実験1は、モルヒネ耐性の発現に対する2−PMPAの効果を調査するために実施した。第1日(試験#1)に、モルヒネ抗侵害有効性の最初の測定を実施し、6日間の1日2回のモルヒネ注射(10mg/kg、皮下、7:30及び17:30)を続けた(Elliott et al.1994;Popik et al. 2000b)。第2〜7日には、2−(ホスホノメチル)ペンタン二酸(2-PMPA;30、50又は100mg/kg、腹腔内)又はメマンチン(7.5mg/kg、皮下、「正の対照」)を用いた前処理を各モルヒネ用量の30分前に行った。第8日(試験#2)にモルヒネ抗侵害有効性の2回目の測定を実施した。モルヒネ耐性の程度は、試験#1及び#2で得たモルヒネ抗侵害有効性(累積用量依存曲線)を比較することによって評価した。
【0182】
実験2は、2-PMPAがそれ自体、抗侵害効果を生成するかどうか、及び/又はモルヒネの抗侵害効果に影響を及ぼすかどうかを判定するために設計した。モルヒネ(1.5又は3mg/kg、皮下)を、腹腔内投与した2-PMPA 100mg/kg又はプラセボの注射30分後に投与した。これらの試験条件では、3mg/kgのモルヒネ用量が抗侵害ED50用量に相当する(データは示さず)。
【0183】
結果
モルヒネ耐性の発現に対するNAALADaseインヒビターの効果(実験1)
グループ間で試験#1の抗侵害モルヒネED50値の差はなかった(表VII)。1日2回のモルヒネ10mg/kgによる処置は、試験#2で判定されたED50値の6.44倍の上昇を引き起こした。これに対して、モルヒネの各用量の前に与えたメマンチン、2−PMPA 50又は100(しかし30を除く)mg/kgを用いた前処置は、モルヒネ耐性の発現を軽減させた。2-PMPAの効果は、用量に関連付けられた。このことは、プラセボ+モルヒネ(表VII)を投与された対照グループと比較して、試験#2のED50値の著しい低下(用量100mg/kgでは統計的に有意)ならびに用量100及び50mg/kgの2−PMPAの抗侵害モルヒネ倍変動の両方によって証明された。同様にメマンチン(7.5mg/kg)は、モルヒネ耐性の阻害を生じた。
【表7】

ED50平均値を試験#1(モルヒネ前)及び試験#2(モルヒネ後)の間に決定したSEMと共に、得られた倍変動と同様に示した。アスタリスク()は、モルヒネ耐性の発現中に生理的食塩水及びモルヒネを投与されたプラセボ+モルヒネグループと比較して、統計的に著しい有意差を示す(p<0.05、Newman−Keul検定)。
【0184】
テールフリック反応に対する2−PMPAの効果及びモルヒネの抗侵害効果(実験2)
曲線下面積(AUC)の解析は、プラセボ+モルヒネ1.5及び3mg/kgを用いた処置が、プラセボ+プラセボ処置と比較して統計的に有意なより長いテールフリック反応を生じることを示した。これに対して、2−PMPA 100mg/kg+プラセボ処置は、プラセボ+プラセボ処置と比較して、テールフリック反応に影響を与えなかった。その上、2−PMPAのこの用量は、モルヒネ1.5又は3mg/kgの抗侵害効果に影響を及ぼさなかった(図4)。
【0185】
図4に、2−PMPA及びモルヒネの組み合せによって処置したマウスのテールフリック反応の経時変化を示す。Nをカッコ内に与える。図5に、同じデータについて計算した平均±S.E.M.曲線下面積(AUC)値を示す。一元配置ANOVA F(5,48)=19.28、P<0.0001及び事後Newman−Keul検定は、プラセボ+モルヒネ1.5mg/kgを用いた、及び2-PMPA 100mg/kg+モルヒネ1.5mg/kgを用いた処置がプラセボ+プラセボ処置とは有意に異なることを明らかにした(**,P<0.01)。同様に、プラセボ+モルヒネ3mg/kgを用いた、及び2−PMPA 100mg/kg+モルヒネ3mg/kgを用いた処置は、プラセボ+プラセボ処置とは有意に異なっていた(***,P<0.001)。2−PMPA 100mg/kg+プラセボ処置の効果は、プラセボ+プラセボ治療とは異ならなかった。プラセボ+モルヒネの各用量の効果は、2-PMPA+モルヒネの各用量の効果とは異ならなかった。
【実施例8】
【0186】
患者は、上述の疾患、障害又は状態のいずれかを含む、NAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態に罹患している。次に患者に、本発明の化合物の有効量を投与する。かかる処置の後に、患者は、疾患、障害又は状態による著しい損傷に苦しむことがなく、疾患、障害又は状態によるさらなる損傷から防護され、あるいは疾患、障害又は状態から回復することが予想される。
【0187】
上で示したすべての公報、特許及び特許出願は、参照として本明細書に組み込まれている。
【0188】
本発明をこのように述べ、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、本発明を多くの方法で変更できることが当業者に明らかになるであろう。そのような変更は、請求される本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】対照の非糖尿病ラットによる網膜血管の倍率27,000xの写真である。
【図2】ビヒクルを用いた処置の6ヶ月後の、糖尿病ラットによる網膜血管の倍率27,000xの写真である。
【図3】化合物Bを用いた処置の6ヵ月後の、糖尿病ラットによる網膜血管の倍率27,000xの写真である。
【図4】プラセボ、NAALADaseインヒビター、モルヒネ、又はモルヒネを加えたNAALADaseインヒビターで処置したマウスのテールフリック反応をプロットしたグラフである。
【図5】平均±S.E.M.曲線下面積(AUC)値をプロットした棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I、II又はIII:
【化1】

(式中、
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここでアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン又はシクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここで前記アルキル又は前記アルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここで前記フェニル、前記フェニルエチル又は前記ベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシであり;
化合物が式Iであり、Lが結合であり、Xがエチルであるときに、Yは−CRでないという条件である)
の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物。
【請求項2】
化合物が式Iの化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Yが−CR−であり:
nが1又は2である;
請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
Lが−CR−、−O−、−S−又はNHであり;
XがC−Cアルキレン又はArであり;
Arがフェニレン、ビフェニレン、ベンジレン又はナフチレンであり、ここで前記フェニレン、前記ビフェニレン、前記ベンジレン又は前記ナフチレンが非置換であるか、又はカルボキシ、ハロ、ニトロ、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、フェニル、フェノキシ及びベンジルオキシから独立して選択された又は1又はそれ以上の置換基によって置換されている;
請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
3−[(2−オキソテトラヒドロ−2H−チオピラン−3−イル)メチル]安息香酸又はその薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が式IIの化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
Lが結合、−CR−又はO−であり;
nが2である;
請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
XがC−Cアルキレン又はArであり;
Arが非置換であるか、又はカルボキシ、ハロ、ニトロ、C−Cアルキル、C−Cアルコキシ、フェノキシ及びベンジルオキシから独立して選択された又は1又はそれ以上の置換基によって置換された、フェニレン、ビフェニレン又はベンジレンである;
請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
3−(1−オキソ−イソチオクロマン−8−イル)−安息香酸;
3−(1−オキソ−イソチオクロマン−8−イルオキシメチル)−安息香酸;又は
その薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
化合物が式IIIの化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項11】
、R、R10及びR11が独立して水素又はカルボキシである、
請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
がカルボキシ、ハロ、C−Cアルキル及びC−Cアルコキシから独立して選択された又は1又はそれ以上の置換基によって置換されたフェニル又はベンジルである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
3−(1−オキソ−3,4−ジヒドロ−1H−2−チア−9−アザ−フルオレン−9−イル)−安息香酸である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
NAALADase酵素活性を阻害し、グルタメート異常を治療し、ニューロン活性を作用させ、前立腺疾患を治療し、癌を治療し、血管形成を抑制し、TGF−β活性を作用させし、ハンチントン舞踏病を治療し、糖尿病を治療し、網膜障害を治療し、又は緑内障を治療するための方法であって、かかる阻害、治療又は効果が必要な哺乳類に式I、II又はIII
【化2】

(式中、
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここでアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン又はシクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここで前記アルキル又は前記アルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここで前記フェニル、前記フェニルエチル又は前記ベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである)
の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物の有効量を投与することを含む方法。
【請求項15】
前記方法が強迫性障害、脳卒中、脱髄疾患、統合失調症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、不安、不安障害、記憶機能障害及び緑内障から選択されるグルタメート異常を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記グルタメート異常が、アルコール、ニコチン、コカイン又はオピオイド依存症である強迫性障害である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、損傷ニューロンの刺激、ニューロン再生の促進、神経変性の防止又は神経障害の治療から選択されたニューロン活性を作用させるためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ニューロン活性が、疼痛、糖尿病性ニューロパシー、末梢ニューロパシー、外傷性脳損傷、脊髄への物理的損傷、脳損傷に関連する脳卒中、脱髄疾患又は神経変性に関連する神経障害である神経障害の治療である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記末梢ニューロパシーがHIV誘発性、化学薬品誘発性又はビタミン誘発性である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記疼痛が糖尿病性神経原性疼痛である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物がモルヒネの有効量と組み合せて投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記神経変性に関連する神経障害がパーキンソン病である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記神経変性に関連する神経障害が筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が前立腺癌である前立腺疾患を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記方法が癌を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記癌が脳腫瘍、腎臓癌又は睾丸癌である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記方法が血管形成を抑制するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
前記方法がTGF−β活性を作用させるためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
前記TGF−β活性を作用させることが、TGF−β濃度を上昇、低下又は調節すること、あるいはTGF−β異常を治療することである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記TGF−β異常が、神経変性障害、細胞外基質産生障害、細胞増殖関連疾患、感染性疾患、免疫関連疾患、上皮組織瘢痕化、膠原病、線維増殖性障害、結合組織障害、炎症、炎症性疾患、呼吸窮迫症候群、不妊症及び糖尿病である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記方法がハンチントン舞踏病を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項32】
前記方法がI型又はII型真性糖尿病である糖尿病を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項33】
方法が糖尿病性網膜症である網膜障害を治療するためである、請求項14に記載の方法。
【請求項34】
前記方法が加齢性黄斑変性である網膜障害を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項35】
前記方法が緑内障を治療するためのものである、請求項14に記載の方法。
【請求項36】
NAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態を検知する方法であって:
(i)体組織又は体液のサンプルを式I、II又はIII
【化3】

(式中、
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここで前記アルキレン、前記アルケニレン、前記アルキニレン、前記シクロアルキレン又は前記シクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここでアルキル又はアルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここで前記フェニル、前記フェニルエチル又は前記ベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである)
の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物の有効量と接触させ、化合物がサンプル中のNAALADaseと結合し;
(ii)サンプルに結合したNAALADaseの量を測定すること;
を含み、ここで、該NAALADaseの量が、疾患、障害又は状態の徴候である、方法。
【請求項37】
哺乳類において、NAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態を検知する方法であって:
(i)式I、II又はIII
【化4】

(式中、
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここで前記アルキレン、前記アルケニレン、前記アルキニレン、前記シクロアルキレン又は前記シクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここで前記アルキル又は前記アルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここで前記フェニル、前記フェニルエチル又は前記ベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである)
の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物を造影試薬の有効量で標識し;
(ii)哺乳類に標識化合物の有効量を投与し;
(iii)標識化合物を局在化させて、哺乳類内のNAALADaseに結合させ;
(iv)標識化合物に結合したNAALADaseの量を測定すること;
を含み、ここで、該NAALADaseの量が、疾患、障害又は状態の徴候である、方法。
【請求項38】
NAALADase濃度が変化する疾患、障害又は状態を検知するための診断キットであって:
式I、II又はIII
【化5】

(式中、
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここで前記アルキレン、前記アルケニレン、前記アルキニレン、前記シクロアルキレン又は前記シクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここで前記アルキル又は前記アルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここで前記フェニル、前記フェニルエチル又は前記ベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである)
の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物を含み、化合物がマーカーで標識されている、キット。
【請求項39】
(i)式I、II又はIII:
【化6】

(式中、
Xは、C−Cアルキレン、C−Cアルケニレン、C−Cアルキニレン、C−Cシクロアルキレン、C−Cシクロアルケニレン又はArであり、ここで前記アルキレン、前記アルケニレン、前記アルキニレン、前記シクロアルキレン又は前記シクロアルケニレンは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換され;
Lは、結合、−CR−、−O−、−S−、−SO−又はNR−であり;
Yは、−O−、−S−、−CR−又はNR−であり;
Zは、−(CR−であり;
nは、1、2、3又は4であり;
Arは、非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換された2価アリール又はヘテロアリールラジカルであり;
、R、R、R、R及びRは独立して水素、C−Cアルキル又はC−Cアルケニルであり、ここで前記アルキル又は前記アルケニルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されており;
は、水素、フェニル、フェニルエチル又はベンジルであり、ここでフェニル、フェニルエチル又はベンジルは非置換であるか、又は1又はそれ以上の置換基によって置換されでおり;
、R、R10及びR11は独立して、水素、カルボキシ、ヒドロキシ、ハロ、ニトロ、シアノ、C−Cアルキル又はC−Cアルコキシである)
の化合物あるいは該化合物の薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物の有効量と;
(ii)薬学的に許容される担体と;
を含む薬学的組成物。
【請求項40】
3−(2−オキソ−テトラヒドロチオピラン−3−イル)−プロピオン酸あるいはその薬学的に許容される同等物、光学異性体又は異性体の混合物である化合物。
【請求項41】
NAALADase酵素活性を阻害しする、グルタメート異常を治療し、ニューロン活性を作用させ、前立腺疾患を治療し、癌を治療し、血管形成を抑制し、TGF−β活性を作用させ、ハンチントン舞踏病を治療し、糖尿病を治療し、網膜障害を治療し、又は緑内障を治療するための方法であって、かかる阻害、治療又は効果が必要な哺乳類に請求項40に記載の化合物の有効量を投与することを含む方法。
【請求項42】
(i)請求項40に記載の化合物の有効量と;
(ii)薬学的に許容される担体と;
を含む薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−519858(P2006−519858A)
【公表日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508945(P2006−508945)
【出願日】平成16年3月3日(2004.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/006178
【国際公開番号】WO2004/078742
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(300046119)ギルフォード ファーマシュウティカルズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】