説明

チタンベースのメッシュをチタンベースの基板に接合するための方法

金属ワイヤメッシュを金属基板に冶金により接合して、脆くて目の粗いメッシュおよび/または薄壁基板の使用を可能にするための方法を提供する。薄いニッケルベースの層は、チタンベースの基板とチタンベースのワイヤメッシュとの間に配置される。メッシュおよび基板は、たとえばワイヤの巻付けにより、その間にあるニッケル中間層に対して密着するよう軽く締付けられる。次いで、そのサンドイッチ状のものまたはアセンブリ(すなわち、基板、中間層、メッシュ)が、チタンおよびニッケルの融点よりも低いが共晶チタン・ニッケル合金(たとえば、Ti2Ni)を形成するには十分な温度に加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、概して、冶金接合に関し、より特定的には、多孔質の金属層またはメッシュ、たとえばチタンを金属基板、たとえばチタンに接合するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
或る応用例では、多孔質の金属層を金属基板に取付けることが望まれる。たとえば、ある医療機器には生体適合性のある金属基板が用いられており、生体適合性のある金属メッシュを基板に取付けて骨および/または組織内殖を促進することが望まれる。2004年10月28日に発行された(引用によりこの明細書中に援用される)国際出願PCT/US2004/011079は、経皮的に突出たスタッドの周囲に取付けられた多孔質層を用いて、当該スタッドを固定し感染抵抗性バリアを作り出すよう組織内殖を促進するためのこのような一構造を記載している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
メッシュを基板に接合するためのさまざまな技術が説明されてきたが、これらは、概して、(たとえば、50〜200ミクロンのオーダの孔径および60〜95%の多孔率を有する)脆くて目の粗いメッシュ、ならびに/または、加える力によって容易に歪み得る薄い基板壁を用いる応用例には適していない。たとえば、接着接合はメッシュを基板に取付けるのに用いることができるが、接着剤は、典型的には、見えない状態でのプロセスでは調節することが難しいため、メッシュ開口部のうちのいくつかを不所望にふさいでしまう可能性がある。さらに、接着接合は、いくつかの用途に対しては強度が不十分であるかもしれず、生体適合性および/または組織反応性の問題を引起こす可能性がある。
【0004】
レーザ溶接および拡散接合などの冶金学的な解決策は、一般に、接着接合での制約を回避するが、薄い基板壁に脆くて目の粗いメッシュを取付けるための用途を制限する他の制約を引起こしてしまう。たとえば、(米国特許6,049,054および5,773,789において説明されている)直接的なレーザ溶接は一般に好適ではない。というのも、低密度のメッシュにより、メッシュワイヤが十分に合着せず、適切な接合が形成されないからである。充填剤でのレーザ溶接を用いることによってより優れた合着を達成することができるが、結果として得られる溶接物の大きさがメッシュにおける空間を塞ぐ可能性があるため、組織内殖を促進するためのメッシュの有効性が低減するおそれがある。このことは、このような多くの溶接物またはタックが必要な場合に特に当てはまる。
【0005】
メッシュパッドを金属基板に接合するための拡散接合も説明されている。典型的には、これは、まず、パッドを下層に拡散接合し、次いで、低温で当該下層を基板に接合するステップを含む。最初の拡散接合ステップでは、典型的には、比較的長期間にわたって高い接触圧力を用いることが必要とされる。脆くて目の粗いメッシュパッドに対して加えられるこのような高い圧力は、メッシュの開放性を歪ませて損なう可能性があり、さらに、場合によっては薄い基板壁を歪ませてしまう可能性がある。さらに、非平面の構成要素(すなわち、メッシュおよび基板)に高い圧力および高温を加える必要があるために、製造時の固定が困難になるといった問題が提起される。これにより費用や時間がかかってしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
この発明は、金属ワイヤメッシュを金属基板に冶金学的に接合するための方法に向けられており、当該方法は、(たとえば、50〜200ミクロンのオーダの孔径および60〜95%の多孔率を有する)脆くて目の粗いメッシュならびに/または薄壁基板を用いることを可能にする。より特定的に、この発明は、メッシュおよび/または基板構造を歪ませるのに十分に高い圧力を加える必要性をなくし、場合によってはメッシュの開放性を低減させる可能性のある接合材料の使用を回避する冶金接合プロセスに向けられる。
【0007】
この発明に従った好ましい接合プロセスについて、目の粗いワイヤメッシュ構造(たとえば、ワイヤ直径が0.0027″であり、幅開口部が100ミクロンであるチタンの150×150メッシュツイル)を、薄いハウジング壁または基板(たとえば、壁厚が0.005″であるチタン)に取付けることを必要とする医療器具の応用例に関して記載することとする。
【0008】
この発明に従うと、薄いニッケルベースの層は、チタンベースの基板とチタンベースのワイヤメッシュとの間に配置される。メッシュと基板とは、たとえばワイヤの巻付けにより、その間にあるニッケル中間層に対して密着するよう軽く締付けられる。次いで、そのサンドイッチ状のものまたはアセンブリ(すなわち、基板、中間層、メッシュ)が、チタンおよびニッケルの融点よりも低いが共晶チタン・ニッケル合金(たとえば、Ti2Ni)を形成するには十分な温度に加熱される。たとえば、好ましい一実施例においては、アセンブリは以下のとおり処理される。
【0009】
A.)真空中にアセンブリを配置。
B.)20分で600℃に加熱。
【0010】
C.)600℃で10分間休止。
D.)35分で1035℃に加熱。
【0011】
E.)1035℃で10分間休止。
F.)5分で600℃に冷却。
【0012】
G.)600℃で5分間休止。
H.)真空下で2〜3時間で周囲温度に冷却。
【0013】
I.)真空を開放。
上述の手順により、ニッケルがチタン(メッシュおよび/または基板)中に拡散して、基板表面の下方に少し離れて延在する生体適合性のある合金が形成される。ニッケルがメッシュおよび基板の両方に接しているところであれば、合金がメッシュワイヤと基板とを接合する。
【0014】
十分に薄いニッケルの層が用いられる場合、ニッケル全体は、それが基板またはメッシュと接触する区域において完全に吸収され、これにより、最小限の量の液体合金がもたらされることとなる。ニッケル中間層は、個別にニッケル箔のシートで、または、蒸着、無電解ニッケルもしくは電気めっきされたニッケルなどの従来のプロセスにより、導入され得る。.0001"の厚さのニッケルは、基板との過度の合金またはメッシュ開口部の充填を回避しつつ、上に規定されるような例示的なメッシュ構造のための冶金接合を形成するのに適している。ニッケルがより厚ければ、たとえば.0002"よりも厚ければ、液体合金が過度に形成されることとなり、これがメッシュ開口部を埋め、基板中に拡散する可能性がある。メッシュの他の構成についてのニッケルの適切な厚さと基板の厚さとは、実験によって容易に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
詳細な説明
この発明は、多孔質の金属層を金属基板に接合するための方法と、これによって得られる接合された構造とに向けられる。この発明は、さまざまな応用例において有利に用いることができるが、この明細書中では、主に、組織内殖を促進するよう適合されたワイヤメッシュを担持する埋込み可能な医療器具に関連して説明される。
【0016】
好ましい医療器具10(図1〜図3に図示)は、生体適合性のある材料、典型的にはチタン、で形成されたハウジング12で構成される。ハウジングは、概して、外側に延在する側方フランジ16を有する中空の円筒形のスタッド14を含む。スタッド14は、外周面20および内周面22を有する薄いチタン壁18で構成される。内周面22は、機能構成要素、たとえば変換器および駆動電子機器(図示せず)を収容するよう意図された内部容積24を囲んでいる。フランジ16は、スタッド外周面20と隣接する側方の肩部表面26を規定する。
【0017】
上述の国際出願PCT/US2004/011079において説明されるように、感染抵抗性バリアを作り出し、有効に器具を固定するよう組織内殖を促進するために、多孔質層をスタッド外周面20および/またはフランジ肩部表面26に取付けることが望ましい。さまざまな多孔質構造を用いることができるが、ここで想定される好ましい多孔質層は、50〜200ミクロンのオーダの孔径および60〜95%の多孔率を有するチタンワイヤメッシュ27を含む。
【0018】
図3は、スタッド外周面20の周りに装着された折重ねられたメッシュ層から形成されるスタッドワイヤメッシュ構造28と、肩部表面26上に装着され周面20の周りに延在する第2の肩部メッシュ構造29とを示す。メッシュ構造29は、スタッド14を収容するよう開口部を備えた芯板32上において支持される複数のメッシュ層30、31で構成される。
【0019】
図4は図1〜図3の医療器具の分解図であり、ワイヤメッシュ構造をハウジング12の表面に接合するための、この発明に従った好ましい方法を示すのに有用である。この発明に従うと、ニッケルベースの材料の薄層48、たとえばニッケル箔は、スタッド14を囲む肩部表面26上に配置される。次いで、(板32上に装着されたメッシュ層30、31で構成される)肩部メッシュ構造29は、ニッケル層48上においてスタッド14の周りに配置される。その後、ニッケルベースの材料の薄層50、たとえばニッケル箔、がスタッド周面20の周りに配置される。次に、スタッドメッシュ構造28がニッケル層50の周りに配置される。そして、(たとえば、ワイヤラップ54によって)メッシュ構造28の周りに軽く圧力を加えて、ニッケル中間層50がチタン基板(すなわち、スタッド周面20)およびメッシュ構造28のチタンワイヤの両方に密着することを確実にする。ワイヤラップ54によって加えられる圧力は、メッシュ構造28および/または薄壁基板18を歪ませないように十分に軽いものでなければならない。また、(たとえばワイヤラップ(図示せず)によって)軽い圧力を加えて、肩部表面26に対してメッシュ構造29を押圧して、その間にニッケル中間層48を挟むようにする。ニッケル中間層48がチタン基板、すなわち肩部表面26、およびメッシュ構造29の両方と密着することが重要であるが、基板またはメッシュ構造を歪ませないようにすることが大いに望まれる。挿入的に、図3および図4が示す隔膜またはキャップ60が、内部容積24を封止するようハウジング壁18の上端部に固定可能であることも指摘される。
【0020】
このように形成されたアセンブリが次いで加熱冷却手順に供されて、メッシュを基板に接合するための、ニッケルおよびチタンからなる生体適合性のある共晶合金が形成される
。図4において作製されたアセンブリの好ましい処理は以下のステップを含む。
【0021】
A.)真空中にアセンブリを配置。
B.)20分で600℃に加熱。
【0022】
C.)600℃で10分間休止。
D.)35分で1035℃に加熱。
【0023】
E.)1035℃で10分間休止。
F.)5分で600℃に冷却。
【0024】
G.)600℃で5分間休止。
H.)真空下で2〜3時間で周囲温度に冷却。
【0025】
I.)真空を開放。
上述の手順により、ニッケルが約1035℃の共晶温度でチタン中に拡散して、生体適合性のあるチタン・ニッケル合金(たとえば、Ti2Ni)が形成される。ニッケルがチタン基板およびチタンメッシュワイヤの両方と接触するところであれば、合金によって接合が形成される。
【0026】
十分に薄いニッケル中間層が用いられる場合、ニッケル全体は、それが基板、メッシュワイヤまたはこれら両方と接触する区域において完全に吸収され、これにより、最小限の量の液体合金がもたらされることとなる。ニッケル中間層は、個別にニッケル箔のシートで、または、蒸着、無電解ニッケルもしくは電気めっきされたニッケルなどの従来のプロセスにより、導入され得る。.0001"の厚さのニッケルは、基板との過度の合金またはメッシュ開口部の充填を回避しつつ、上に規定されるような例示的なメッシュ構造のための好適な冶金接合を形成する。ニッケルがより厚ければ、たとえば.0002"よりも厚ければ、液体合金が過度に形成されることとなり、これがメッシュ開口部を埋め、基板中に拡散する可能性がある。メッシュのさまざまな構成についてのニッケルの適切な厚さと基板の厚さとは、実験によって容易に決定することができる。
【0027】
図5は、ニッケルのチタン基板への例示的な侵入を示すグラフである。基板表面(すなわち、0の深さ)においては、共晶合金Ti2Niは容易に識別可能である。ニッケルの濃度は、深さに応じて、基板表面における約33%から0.001インチの深さにおける約0まで低減する。対照的に、チタンの濃度は、基板表面における約66%から0.001インチの深さにおける約100%まで増大する。
【0028】
上述のプロセスは、少なくとも以下の属性を特徴とする。まず、当該プロセスが必要とする圧力は、メッシュとニッケル中間層と基板との間における接触を維持するのに十分なものであればよい。このように軽い締付けは、たとえばワイヤの巻付けを用いて高温で作製および維持する場合に、典型的には拡散接合に必要なより強い締付けを行うよりもはるかに簡単である。第二に、基板もメッシュもどちらも、高温に晒される中空の基板または目の粗いメッシュにとって特に問題となるであろう変形圧力にさらされない。第三に、アセンブリ全体が高温に晒される時間が最小限となる。第四に、当該プロセスでは、ごくわずかな量のニッケルだけが、指定された共晶温度(すなわち、約1035℃)で急速にチタンメッシュおよび基板と合金になればよい。第五に、レーザ溶接におけるように不連続な数のタック点においてのみ保持されるのではなく、拡散接合または接着接合の場合と同様に、メッシュおよび基板の境界面にわたって接合が連続的になされている。第六に、ニッケルの中間層は、ニッケルとチタンとの生体適合性のある合金の形成時に完全に吸収され、これによりメッシュの多孔性の低下が回避される。これらの複数の属性は、脆くて目
が粗いかまたは密度の低いメッシュ構造を薄壁基板に接合する際に特に重要であるが、固定および処理が容易であるため、この方法も、整形外科で一般に用いられるような中実のインプラントにさらに高密度のメッシュパッドを取付ける既存の方法に対して有意な利点を提供することが理解されるはずである。
【0029】
共晶合金を形成してチタンベースのワイヤをチタンベースの基板に接合するための特定の好ましい方法を上述したが、当業者であれば、発明の精神と一致し、添付の特許請求の意図された範囲内である変更例および変形例を容易に想起し得ることが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に従って作製することのできる例示的な医療器具を示す外側斜視図である。
【図2】図1の医療器具の外側平面図である。
【図3】実質的に図2の面3−3に沿った断面図である。
【図4】図1〜図3の医療器具の複数の構成要素を示す分解斜視図である。
【図5】この発明に従った、チタン基板へのニッケルの拡散を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属メッシュを金属基板に接合する方法であって、
ニッケルベースの材料の層をチタンベースの基板の表面上に配置するステップと、
チタンベースのメッシュ構造をニッケルベースの材料の前記層上に配置するステップと、
前記基板表面および前記メッシュ構造を前記層と密着させて保持することによりアセンブリを形成するステップと、
チタンおよびニッケルの融点よりも低いが前記メッシュ構造および前記基板を接合するチタン・ニッケル合金を形成するのに十分な温度に前記アセンブリを加熱するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記加熱するステップは、前記アセンブリを共晶温度に加熱するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱するステップは、前記アセンブリを約1035℃の温度に加熱するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱するステップは、60分のオーダの期間にわたり真空下で前記アセンブリを約1035℃の共晶温度に加熱し、10分のオーダの期間にわたり前記共晶温度で休止するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
2〜3時間のオーダの期間にわたり前記真空下にある間に前記アセンブリを周囲温度に冷却するステップをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記メッシュ構造が、50〜200ミクロンのオーダのメッシュ開口部を形成するチタンベースのワイヤで構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アセンブリを形成する前記ステップは、前記メッシュ構造または基板を著しく歪ませるには不十分な力で、前記基板および前記メッシュ構造を密着させて保持するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
患者の身体に埋込むのに適した医療器具であって、
チタン接合面を規定する基板と、
チタンワイヤで構成される多孔質のパッドと、
複数の前記チタンワイヤを前記チタン接合面に接合するチタン・ニッケル合金とを含む、医療器具。
【請求項9】
前記合金が前記接合面に拡散される、請求項8に記載の器具。
【請求項10】
前記合金がチタンおよびニッケルの共晶混合物を含む、請求項8に記載の器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−507647(P2009−507647A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530058(P2008−530058)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/031515
【国際公開番号】WO2007/030274
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(505166672)メディカル・リサーチ・プロダクツ−ビィ・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】MEDICAL RESEARCH PRODUCTS−B, INC.
【Fターム(参考)】