説明

テラヘルツパルス光測定装置

【課題】折り返しミラーの移動動作に起因する所定光時間遅延からのずれを補正することができるテラヘルツパルス光測定装置の提供。
【解決手段】光時間遅延のために折り返しミラー13を駆動するディレイステージ15と、ディレイステージ15を移動可能に支持し、ディレイステージ15の移動時の反力を吸収する移動可能な支持部32と、レーザー光の光路中に挿入されるように支持部32に固定され、入射光および反射光の各光軸が折り返しミラー13の移動方向と一致する光カウンターミラー19とを備え、ディレイステージ15の移動動作に起因する所定光時間遅延からのずれを、光カウンターミラー19により補正する。その結果、折り返しミラー13の揺れの影響を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツパルス光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツパルス光測定装置では、周波数が0.01THz〜100THzのテラヘルツパルス光を利用して、分光測定、誘電率測定、電気的物性量の測定、イメージング化等を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来、このようなテラヘルツパルス光測定装置では、テラへルツ光発生器およびテラへルツ光検出器のいずれか一方に入射するレーザー光の到達時間を変えるための光時間遅延装置が設けられている。そして、テラへルツ光検出器において光時間遅延量に応じた電場強度を計測することで、テラへルツ光検出器に入射するテラヘルツパルス光の時系列波形を取得するようにしている。
【0004】
一般的には、光時間遅延装置としては、光路中に配置された可動ミラー(折り返しミラー)を移動させ、光路長を変えて到達時間を変更するようにしている。そして、電場強度の時系列波形を高速で取得するためには可動ミラーを高速で移動させる必要があるため、振動子やボイスコイルモータを用いたリニアアクチュェータを用いて可動ミラーを移動させる場合が多い。
【0005】
【特許文献1】特開2002−98634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、可動ミラーが設けられた可動部を振動子やボイスコイルモータにより振動移動させる場合に、可動部が振動の端点から折り返す際に生じる反力により、可動機構を支える構造体にねじれ応力が発生する。その結果、可動ミラーに揺れが発生して光軸が変化し、SN比の悪化を招くという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、折り返しミラーを移動することにより、テラヘルツ光発生器またはテラヘルツ光検出器に入射するレーザー光の光時間遅延を生成し、テラヘルツパルス光の測定を行うテラヘルツパルス光測定装置に適用され、光時間遅延のために折り返しミラーを駆動するディレイステージと、ディレイステージを移動可能に支持し、ディレイステージの移動時の反力を吸収する移動可能なカウンター部材と、レーザー光の光路中に挿入されるようにカウンター部材に固定され、入射光および反射光の各光軸が前記折り返しミラーの移動方向と一致する光カウンターミラーとを備え、ディレイステージの移動動作に起因する所定光時間遅延からのずれを、光カウンターミラーにより補正することを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のテラヘルツパルス光測定装置において、カウンター部材は、ディレイステージの移動方向に沿ったガイド部材と、ガイド部材上に配設され、ディレイステージおよび光カウンターミラーを支持するテーブルとを備えたものである。
請求項3の発明は、請求項2に記載のテラヘルツパルス光測定装置において、テーブルの移動を減衰させて衝撃を吸収する衝撃吸収手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光カウンターミラーをレーザー光の光路中に設けたことにより、折り返しミラーの移動動作に起因する所定光時間遅延からのずれを補正することができ、SN比の悪化を防止して測定精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は、本発明によるテラヘルツパルス光測定装置の一実施の形態を示すブロック図である。このテラヘルツパルス光測定装置は、被測定用の試料Sにテラヘルツパルス光を照射し、試料Sを透過したテラへルツパルス光の電場強度の時間変化を検出する。そして、検出信号をフーリエ変換することにより、各周波数における振幅情報と位相情報とを得るものである。
【0010】
テラヘルツ光発生器5は試料Sに照射するテラヘルツパルス光を発生し、レーザ光源1からのレーザパルス光L2がポンプパルス光として入力される。一方、テラヘルツ光検出器8は試料Sを透過したテラへルツパルス光を検出し、レーザ光源1からのレーザパルス光L3がプローブパルス光として入力される。テラヘルツ光発生器5は、光スイッチ素子5aとバイアス回路5bとを備えている。テラヘルツ光検出器8は光スイッチ素子8aとIV変換回路8bとを備えている。
【0011】
図2(a)はテラヘルツ光発生器5の動作を説明する図であり、図2(b)はテラヘルツ光検出器8の動作を説明する図である。光スイッチ素子5aは、例えば、半絶縁性GaAs基板上に低温成長GaAs光伝導薄膜を形成し、その光伝導薄膜上にギャップGの微小ダイポールアンテナを有する一対の平行伝送線路50を形成したものである。この一対の平行伝送線路50間には、バイアス回路5bにより直流電圧Vbが印加されている。
【0012】
レーザ光源1からのポンプパルス光L2がギャップGの領域に入射すると、テラヘルツパルス光L4が発生する。テラヘルツ光発生器5で発生したテラヘルツパルス光L4は、テラヘルツ光発生器5に設けられたシリコン半球レンズ51(より詳しくは、シリコン超半球レンズ)を介して出射される。
【0013】
一方、図2(b)に示すように、テラヘルツ光検出器8にも、上述した光スイッチ素子5aと同様の光スイッチ素子8aが設けられている。試料Sからのテラヘルツパルス光L5は、シリコン半球レンズ81を介して光スイッチ素子8aに入射する。このテラヘルツパルス光L5の入射タイミングに合わせてプローブパルス光L3をダイポールアンテナ80のギャップ間に照射すると、照射時に入射したテラヘルツパルス光L5の電場振幅に比例した電流ImがIV変換回路8bを流れる。IV変換回路8bはこの電流Imを電圧Vmに変換して出力する。この電圧Vmを検出することにより、テラヘルツパルス光L5の電場振幅を測定することができる。
【0014】
図1に戻って、レーザ光源1は、数10フェムト秒のパルス幅を有する近赤外波長領域のレーザパルス光L1を発光するものであり、その繰り返し周波数は数10MHzにおよぶ。レーザ光源1から出射されたレーザパルス光L1は、ビームスプリッタ2により上述したポンプパルス光L2とプローブパルス光L3の二つに分岐される。ビームスプリッタ2を透過したポンプパルス光L2は、ミラー3およびミラー4で反射されてテラへルツ光発生器5に入射する。
【0015】
図2(a)で説明したように、ポンプパルス光L2がテラへルツ光発生器5の光スイッチ素子5aに入射すると、テラへルツ光発生器5からテラヘルツパルス光L4が出射される。出射したテラヘルツパルス光L4は楕円面鏡7に入射し、楕円面鏡7で集光されて試料Sに照射される。試料Sを透過したテラヘルツパルス光L5は、楕円面鏡9で集光されてテラヘルツ光検出器8に入射する。
【0016】
一方、ビームスプリッタ2で反射されたプローブパルス光L3は、光遅延ユニット100のディレイステージ15に搭載された折り返しミラー13に入射する。プローブパルス光L3は、折り返しミラー13により反射されて折り返された後、ミラー12,16,17,18の順に反射されて光カウンターミラー19に入射する。プローブパルス光L3は光カウンターミラー19で反射されて折り返された後に、ミラー20,21,22の順に反射されてテラへルツ光検出器8の光スイッチ素子8aに照射される。
【0017】
ディレイステージ15は、モーターによりプローブパルス光L3の光軸に沿って精密移動するステージを構成している。ディレイステージ15の位置は、リニアエンコーダ14等の直線移動検出器により精密に計測される。なお、ディレイステージ15は、ステージコントローラ25によって制御される。プローブパルス光L3の光路長は、折り返しミラー13がディレイステージ15で移動されることにより変化する。その結果、テラへルツ光検出器8に照射されるプローブパルス光L3に時間遅延を生じさせることができ、その時間遅延は、光スイッチ素子8aにおけるテラへルツパルス光L5の受信波形の再現に利用される。
【0018】
折り返しミラー13を徐々に移動させることで時間遅延が徐々に変化し、テラへルツ光検出器8からは、繰り返し到来するテラへルツパルス光L5の各遅延時間の時点における電場強度が、電気信号として順次出力される。その結果、テラへルツパルス光L5の電場強度の時系列波形E(t)が計測されることになる。光スイッチ素子8aから出力される電流信号は、上述したようにIV変換回路8bにより電圧信号に変換され、その電圧信号はAD変換部23でデジタル量に変換され制御演算装置26に入力される。
【0019】
この際のAD変換のトリガーはリニアエンコーダ14からの信号をエンコーダカウンタ24でカウントし、あらかじめ設定した一定移動距離毎にAD変換部23に対し出力することにより管理される。また、エンコーダカウンタ部24により取得された位置情報も制御演算装置26に入力される。図3は検出された電圧データの一例を示す図であり、横軸はエンコーダカウンタ部24の位置情報から算出される遅延時間、縦軸は検出電圧である。このテラへルツ時間波形は表示装置27に表示される。
【0020】
図4は、光遅延ユニット100の概略構成を示す斜視図である。光遅延ユニット100には、上述した折り返しミラー13、リニアエンコーダ14、ディレイステージ15および光カウンターミラー19の他に、光カウンタースライダーテーブル28、直動ガイド29、衝撃力吸収材30、ベース31および支持部32を備えている。
【0021】
ディレイステージ15は、光カウンタースライダーテーブル28上に固定された支持部32に搭載されており、支持部32上をR方向に往復動する。ディレイステージ15を駆動する駆動部は、支持部32に設けられている。光カウンタースライダーテーブル28は、直動ガイド29上をディレイステージ15の移動方向と同一方向に移動可能に構成されている。この光カウンタースライダーテーブル28は、ベース31に固定された一対の衝撃力吸収材30により挟持されることにより、所定の位置に位置決めされている。光カウンターミラー19は、光カウンタースライダーテーブル28上に固定されている。
【0022】
テラヘルツパルス光測定における時間遅延動作の際には、振動子やボイスコイルモータ等を用いてディレイステージ15を矢印R方向に高速移動(往復移動)させる。前述したように、従来の装置では、この高速移動の際に可動機構(ディレイステージ15)を支える構造体(支持部32)にねじれ応力による変位が生じ、それが折り返しミラー13の揺れの原因となるという問題があった。
【0023】
図5は支持部32の変位を説明するための概念図であり、光カウンタースライダーテーブル28と、その座面A上に固定された支持部32とを示す。時間遅延動作時には、ディレイステージ15は、支持部32上においてX方向の往復水平移動を繰り返す。そして、ディレイステージ15を往復移動させる際の反力が支持部32側に働く。特に、ディレイステージ15が移動方向を反転するときに反力が大きくなる。その結果、移動方向に応じて、座面Aを支点としてaおよびcの向きに、または、a’およびc’の向きにねじれ応力が働く。実際には、それらに加えて、bおよびdの向きまたはb’およびd’の向きのねじれ応力も働く。
【0024】
これは、座面Aより見た変位として考えると、衝撃力に対する構造体の応答性が各象限で一様でないためと言える。このような支持部32の振動のために、ディレイステージ15上に固定された折り返しミラー13も振動することになり、プローブパルス光L3に微小な光軸変化を生じさせたり、プローブパルス光L3の光路長が変化したりしてしまう。
【0025】
しかしながら、本実施の形態では、支持部32が固定されている光カウンタースライダーテーブル28は、直動ガイド29のスライダー部に取り付けられている。直動ガイド29のガイド方向はディレイステージ15の移動方向と同一方向に設定されているので、光カウンタースライダーテーブル28は、その上に固定されている全てのものと一体に、ディレイステージ15の移動方向と同一方向に移動することができる。
【0026】
そのため、ディレイステージ15の往復移動時に上述したような反力が発生すると、それは光カウンタースライダーテーブル28を直動ガイド29のガイド方向に移動させる移動力となる。そして、光カウンタースライダーテーブル28が僅かでも移動すると、衝撃力吸収材30により移動力が吸収され減衰する。
【0027】
図6は、光カウンタースライダーテーブル28が距離fだけミラー2側(図示右側)に変位した場合を示す図である。この場合、光カウンタースライダーテーブル28に固定されている光カウンターミラー19も、往復移動しているディレイステージ15(不図示)上の折り返しミラー13も、光カウンタースライダーテーブル28とともに右側に距離fだけ移動する。
【0028】
そのため、折り返しミラー13で反射されるプローブパルス光L3の光路長変化が−2fであるのに対して、光カウンターミラー19で反射されるプローブパルス光L3の光路長変化は+2fとなり、ミラー2からミラー20までの光路長は変化していない。すなわち、プローブパルス光L3への折り返しミラー13の揺れの影響を、排除することができる。従来の場合には、光カウンターミラー19が設けられていないので、図6に示す状況においては光路長が−2fだけ短くなり、その分だけ遅延時間が短くなってしまうことになる。
【0029】
図7は、光カウンターミラー19の効果を説明する図である。図7(a)において、曲線L10は、テラヘルツ光検出器8で検出されるテラヘルツパルス光L5の電場強度を検出電圧に変換して示したものである。実際には、複数の異なる遅延時間でテラヘルツパルス光L5を検出することにより、黒丸で示すような電圧データが計測される。これは、折り返しミラー13の揺れの影響が無い場合のデータであって、本実施の形態のように光カウンターミラー19を配置することにより、このようなデータを取得することができる。
【0030】
一方、白丸データD1’,D2’は、光カウンターミラー19を配置しなかった場合に検出されるデータを示している。本来、データD1,D2を測定すべくディレイステージ15を移動したにもかかわらず、折り返しミラー13の揺れのためにデータD1’,D2’が検出されてしまったものである。
【0031】
データD1’を検出するときの設定遅延時間はt1であって、設定遅延時間t1となるように光路長が光遅延ユニット100により制御されている。しかしながら、データD1’を検出した際の折り返しミラー13の揺れによる光路長変化がプラスであったために、実際の遅延時間がΔpsだけ長くなってしまい、遅延時間t3(=t1+Δps)のデータD1’が検出されてしまっている。従来は、折り返しミラー13の揺れの影響を考慮しておらず、図7(b)に示すように、データD1’は設定遅延時間t1におけるデータとして取り扱われてしまう。
【0032】
一方、データD2’の場合には、データD2’を検出した際の折り返しミラー13の揺れによる光路長変化がマイナスであったために、実際の遅延時間がΔpsだけ短くなってしまい、遅延時間t4(=t2−Δps)のデータD2’が検出されてしまっている。そして、そのデータD2’は、図7(b)に示すように設定遅延時間t4におけるデータとして取り扱われてしまう。
【0033】
その結果、光カウンターミラー19を用いていない従来の装置による検出結果は、図7(b)の折れ線L12のようになる。一方、本実施の形態の装置による検出結果は、折れ線L11のようになる。このように、光カウンターミラー19を配置したことにより、検出精度の向上を図ることができる。
【0034】
[変形例1]
図8は、上述した実施の形態の第1の変形例を示す図である。図1に示した実施の形態では、光カウンタースライダーテーブル28上に光カウンターミラー19を設け、光カウンターミラー19の反射方向が折り返しミラー13の反射方向と反対になるように光カウンターミラー19を配置した。この場合、光カウンターミラー19はプローブパルス光L3の光路中に配設されることになる。
【0035】
一方、図8に示す第1の変形例では、光カウンターミラー19をポンプパルス光L2の光路中に配置するようにした。なお、図8では、図1と同様の構成には同一符号を付し、以下では異なる部分を中心に説明する。上述した実施の形態と同様に、レーザ光源1から出射されたレーザパルス光L1は、ビームスプリッタ2によりポンプパルス光L2とプローブパルス光L3とに分岐される。
【0036】
ビームスプリッタ2を透過したポンプパルス光L2はミラー16により反射され、光遅延ユニット100に設けられた光カウンターミラー19に入射する。変形例1では、光カウンターミラー19は折り返しミラー13と同様の向きで配置されており、同一方向に入射光を反射する。光カウンターミラー19で反射されたポンプパルス光L2は、ミラー32,33および4の順に反射されて、テラヘルツ光発生器5に入射する。すなわち、変形例1の装置では、ポンプパルス光L2の光路長を変えることにより、ポンプパルス光L2がテラヘルツ光発生器5に入射するタイミングを遅延させて、テラヘルツパルス光L5の時系列波形を検出するようにしている。
【0037】
一方、ビームスプリッタ2で反射されたプローブパルス光L3は、光遅延ユニット100のディレイステージ15に搭載された折り返しミラー13に入射する。折り返しミラー13で反射されたプローブパルス光L3は、ミラー12で反射されてテラヘルツ光検出器8に入射する。
【0038】
図9は光カウンターミラー19の機能を説明する図であり、上述した図6と同様の図である。図9に示すように、光カウンタースライダーテーブル28が距離fだけミラー2側(図示右側)に変位した場合、折り返しミラー13で反射されるプローブパルス光L3の光路長変化は−2fとなる。一方、光カウンターミラー19で反射されるポンプパルス光L2の場合も、光路長変化は−2fとなる。
【0039】
そのため、ポンプパルス光L2およびプローブパルス光L3が各々テラヘルツ光発生器5およびテラヘルツ光検出器8に到達する時間の変化は、いずれも光路長変化は−2fに対応する値となる。その結果、テラヘルツパルス光L5を検出するタイミングに変化が生じることはなく、折り返しミラー13の揺れの影響を排除することができる。
【0040】
[変形例2]
図10は第2の変形例を示す図であり、光遅延ユニット100を図1のB方向から見た図である。ここでは、光カウンタースライダーテーブル28の中央部28aを、直動ガイド29の部分よりも下方に下げて、中央部28a上に支持部32を固定するようにした。ディレイステージ15の往復動による反力は、支持部32の上部が力点となり、支持部32の固定部(上述した座面A)が支点となっている。そのため、図10に示すように支持部32の載置位置を直動ガイド29の支持位置よりも下げて、反力の位置を直動ガイド29に近づけることで、反力を効率よく移動力に変えて光カウンターミラー19の光カウンター効果を高めるようにした。
【0041】
なお、図10に示した変形例では、支持部32の載置位置を直動ガイド29の支持位置より下げて光カウンター効率を高めるようにしたが、ステージ可動部の高さを低く抑えた構造のディレイステージ15を搭載して、移動体重心の高さを直動ガイド29の高さに近づけることでも光カウンター効率を高めることができる。
【0042】
上述した実施の形態では、支持部32をスライド移動可能な光カウンタースライダーテーブル28に固定し、その光カウンタースライダーテーブル28に光カウンターミラー19を配設したが、図11に示すように光カウンタースライダーテーブル28を省略して、支持部32に光カウンターミラー19を配設するようにしても良い。
【0043】
支持部32は反力によって変位するが、その変位が小さく、かつ、変位の方向がディレイステージ15の移動方向にほぼ限られるような場合には、支持部32に設けられた光カウンターミラー19で折り返しミラー13の揺れの影響を排除することが可能である。なお、図11に示した例では、プローブパルス光L3の光路中に光カウンターミラー19を配置したが、光カウンターミラー19を支持部32の反対側の面に設けてポンプパルス光L2の光路中に配置するようにしても良い。
【0044】
上述した本実施の形態のテラヘルツパルス光測定装置では、次のような作用効果を奏することができる。
(1)折り返しミラー13を移動することにより、テラヘルツ光発生器5またはテラヘルツ光検出器8に入射するレーザー光の光時間遅延を生成し、テラヘルツパルス光の測定を行うテラヘルツパルス光測定装置において、入射光および反射光の各光軸が折り返しミラー13の移動方向と一致し、折り返しミラー13の移動動作に起因する所定光時間遅延からのずれを補正する光カウンターミラー19を、レーザー光の光路中に設けたことにより、折り返しミラー13の揺れの影響を低減することができる。
(2)また、折り返しミラー13を駆動するディレイステージ15と、ディレイステージ15を移動可能に支持し、ディレイステージ15の移動時の反力を吸収する支持部32(カウンター部材)と、レーザー光の光路中に挿入されるように支持部32に固定され、入射光および反射光の各光軸が折り返しミラー13の移動方向と一致する光カウンターミラー19とを備えたことにより、折り返しミラー13の揺れの影響(所定光時間遅延からのずれ)を低減することができる。
【0045】
(3)例えば、ディレイステージ15の移動方向に沿った直動ガイド29と、直動ガイド29上に設置され、ディレイステージ15および光カウンターミラー19を支持する光カウンタースライダーテーブル28とを備えるようにしても良い。支持部32に反力が働いた場合、その反力は光カウンタースライダーテーブル28の移動力に効率良く変換され、支持部32の変形を防止できる。その結果、光カウンターミラー19による補正効果を高めることができる。
(4)また、光カウンタースライダーテーブル28の移動を減衰させて衝撃を吸収する衝撃力吸収材30を設けることにより、光カウンタースライダーテーブル28の移動による衝撃を緩和して、折り返しミラー13の揺れを低減することができる。
(5)光カウンタースライダーテーブル28を支持してディレイステージ15と同一方向にガイドする直動ガイド29を備え、ガイドの支持点よりも下方に位置する光カウンタースライダーテーブル28の載置面に支持部32を固定することにより、反力が移動力へと効率よく変換される。
【0046】
なお、上述した実施の形態では、折り返しミラー13を水平移動させる装置を例に説明したが、折り返しミラー13を垂直方向に移動させる装置にも本発明は適用できる。さらに、本発明を走査型イメージング化装置に応用すれば、短時間でより精度の高い分光情報や画像情報を得ることができる。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明によるテラヘルツパルス光測定装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】(a)はテラヘルツ光発生器5の動作を説明する図であり、(b)はテラヘルツ光検出器8の動作を説明する図である。
【図3】検出された電圧データの一例を示す図である。
【図4】光遅延ユニット100の概略構成を示す斜視図である。
【図5】構造体の変位を説明するための概念図である。
【図6】光カウンタースライダーテーブル28が、距離fだけミラー2側(図示右側)に変位した場合を示す図である。
【図7】光カウンターミラー19の効果を説明する図であり、(a)はデータ検出タイミングを示す図であり、(b)は従来のデータと本実施の形態によるデータとを示す図である。
【図8】上述した実施の形態の第1の変形例を示す図である。
【図9】変形例1における光カウンターミラー19の機能を説明する図である。
【図10】第2の変形例を示す図である。
【図11】支持部32に設けられた光カウンターミラー19を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1:レーザ光源、5:テラヘルツ光発生器、8:テラヘルツ光検出器、13:折り返しミラー、15:ディレイステージ、19:光カウンターミラー、28:光カウンタースライダーテーブル、29:直動ガイド、30:衝撃力吸収材、32:支持部、100:光遅延ユニット、L2:ポンプパルス光、L3:プローブパルス光、S:試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り返しミラーを移動することにより、テラヘルツ光発生器またはテラヘルツ光検出器に入射するレーザー光の光時間遅延を生成し、テラヘルツパルス光の測定を行うテラヘルツパルス光測定装置において、
前記光時間遅延のために前記折り返しミラーを駆動するディレイステージと、
前記ディレイステージを移動可能に支持し、前記ディレイステージの移動時の反力を吸収する移動可能なカウンター部材と、
前記レーザー光の光路中に挿入されるように前記カウンター部材に固定され、入射光および反射光の各光軸が前記折り返しミラーの移動方向と一致する光カウンターミラーとを備え、
前記ディレイステージの移動動作に起因する所定光時間遅延からのずれを、前記光カウンターミラーにより補正することを特徴とするテラヘルツパルス光測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のテラヘルツパルス光測定装置において、
前記カウンター部材は、前記ディレイステージの移動方向に沿ったガイド部材と、
前記ガイド部材上に配設され、前記ディレイステージおよび前記光カウンターミラーを支持するテーブルとを備えたことを特徴とするテラヘルツパルス光測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載のテラヘルツパルス光測定装置において、
前記テーブルの移動を減衰させて衝撃を吸収する衝撃吸収手段を備えたことを特徴とするテラヘルツパルス光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−14815(P2008−14815A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186736(P2006−186736)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(592171153)株式会社栃木ニコン (34)
【Fターム(参考)】