説明

テンショナ

【課題】テンショナアームに対して固定部とプーリが同じ側に設けられたテンショナにおいて、ブッシュの耐摩耗性を向上させる。
【解決手段】テンショナアーム30のフランジ付シャフト13が挿入される支持穴32とフランジ付シャフト13の円筒状外周面との間に円筒部材21を設ける。円筒部材21とは異なる材料から成形されるフランジ部材22を、フランジ付シャフト13のフランジ部17とテンショナアーム30の上面との間に装着する。フランジ部材22の限界PV値は円筒部材21の限界PV値よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンの補機を駆動する無端ベルトに張力を付与するために設けられるテンショナに関し、より詳しくはテンショナアームとシャフトの間に装着されるブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このようなテンショナとして、テンショナアームに対してテンショナカップ等の固定部とプーリが同じ側に設けられたものが知られている(例えば特許文献1)。すなわち、テンショナアームは固定部に設けられたフランジ付シャフトに揺動自在に支持され、テンショナアームの揺動端に設けられたプーリは、テンショナアームに対してフランジ付シャフトと同じ側に設けられている。
【0003】
テンショナアームとフランジ付シャフトの間にはブッシュが設けられる。ブッシュは例えばナイロンを主成分とする樹脂材で成形され、円筒部とフランジ部を有しており、円筒部によってテンショナアームのスムーズな揺動が確保される。フランジ部はテンショナアームの上面とフランジ付シャフトのフランジ部との間に挟まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−200460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベルトからの荷重がプーリに作用すると、テンショナアームにはフランジ付シャフトの頂部中心を支点とするモーメントが発生し、このモーメントによって、ブッシュのフランジ部はフランジ付シャフトのフランジ部の下面に大きな力で押付けられる。このため、テンショナの長期の使用の間にブッシュのフランジ部が摩耗し、破損するおそれが生じる。また、プーリに作用する荷重によって、ブッシュの円筒部の下端部(フランジ部とは反対側)に偏摩耗が発生しやすくなり、この偏摩耗により生じた隙間のために、ブッシュのフランジ部にモーメントがより作用しやすくなってフランジ部の摩耗が促進することとなる。
【0006】
本発明は、テンショナアームに対して固定部とプーリが同じ側に設けられたテンショナにおいて、ブッシュの耐摩耗性を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るテンショナは、テンショナアームのフランジ付シャフトが挿入される支持穴とフランジ付シャフトの円筒状外周面との間に設けられる円筒部材と、円筒部材とは異なる材料から成形され、フランジ付シャフトのフランジ部とテンショナアームの上面との間に装着されるフランジ部材とを備え、フランジ部材の限界PV値が円筒部材の限界PV値よりも大きいことを特徴としている。
【0008】
フランジ部材は例えばバックメタル層と、このバックメタル層の上に形成された樹脂層とを備え、樹脂層の表面がフランジ付シャフトのフランジ部に摺接する摺動面である。すなわちフランジ部材の一方の面だけが摺動面であるが、フランジ部材の複数の突起がフランジ付シャフトの軸心に直交する直線に関して非対称の位置にあるので、テンショナの組立て作業においてフランジ部材が裏返しに取付けられるおそれはない。
【0009】
このようなフランジ部材において、好ましくは、樹脂層が四フッ化エチレン樹脂層であり、青銅焼結層を介してバックメタル層に結合される。
【0010】
フランジ部材に複数の突起が形成されるとともに、テンショナアームに突起が係合する凹部が形成されてもよい。この場合、突起はフランジ部材の外周部から径方向外方に突出するように構成されることが好ましい。この構成によれば、フランジ部材が金属製である場合、その成形が容易である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フランジ部材を耐摩耗性の高い材料によって成形することが簡単になり、ブッシュの耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態であるブッシュが装着されたテンショナを分解して示す斜視図である。
【図2】図1に示すテンショナが組立てられた状態における断面図である。
【図3】円筒部材とフランジ部材を示す斜視図である。
【図4】フランジ部材を示す平面図である。
【図5】テンショナアームのフランジ付シャフトの部分を示す平面図である。
【図6】フランジ部材の材料組成を示す断面図である。
【図7】テンショナアームの初期位置からの傾き経時変化を計測した試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図示された実施形態を参照して本発明を説明する。
図1および図2は本発明の一実施形態であるテンショナを示している。本実施形態のテンショナは、自動車用エンジンにおいて、クランクプーリの回転駆動力を種々の補機に伝達する無端状ベルトの張力を調整するために設けられる。
【0014】
テンショナは円板状のベース11を介してエンジンブロック(図示せず)に固着される。ベース11の中央部に設けられた取付け穴12にはフランジ付シャフト13の先端部が圧入され、フランジ付シャフト13には、テンショナをエンジンブロックに固定するためのボルト(図示せず)が挿入される穴14が形成される。ベース11の下面にはエンジンブロックに形成された穴に嵌合される位置決めピン15が設けられ、またベース11の上面には回り止め突起16が設けられる。
【0015】
フランジ付シャフト13において、円筒状外周面には円筒部材21が嵌合され、円筒状外周面のフランジ部17に隣接した部位にはフランジ部材22が嵌合される。テンショナアーム30の基部31に形成された支持穴32は円筒部材21に嵌合され、これによりテンショナアーム30はフランジ付シャフト13に揺動自在に支持される。テンショナアーム30の揺動端には、軸受け41を介してプーリ42が回転自在に設けられる。軸受け41はボルト43によってテンショナアーム30に固定され、ボルト43と軸受け41の間には、軸受け41に異物が侵入するのを防止するためのダストシールド44が設けられる。
【0016】
フランジ付シャフト13とプーリ42の回転軸(すなわちボルト43の軸心)とは平行であり、テンショナアーム30から同一方向(図1、2において下方)に延びている。この構成により、テンショナの厚さはフランジ付シャフト13の長さと略同じとなり、薄型化が図られる。
【0017】
テンショナアーム30の基部31は、ベース11の外縁と略同径の外周筒33とベース11の取付け穴12よりも大径の内周筒34とを有し、内周筒34によって囲まれる空間が支持穴32である。外周筒33と内周筒34の間に形成された収容室には、捩じりバネ51と減衰機構52が設けられる。減衰機構52は、上方から見るとC型を呈する金属製の支持部材53と、円弧状の2つの合成樹脂製の減衰部材54、55とから成る。減衰部材54、55はL形の断面を有し、支持部材53の外周面に取付けられ、ベース11の上面に載置される。減衰部材54、55の外周面は基部31の外周筒33の内周壁面に摺接する。支持部材53と減衰部材54、55の端部は回り止め突起16に係止可能である。
【0018】
捩じりバネ51はテンショナアーム30を揺動方向に付勢するために設けられ、その一端はテンショナアーム30の基部31に係合し、他端は減衰機構52の支持部材53に係合する。テンショナは、テンショナアーム30が捩じりバネ51に抗して捩じられた状態で、プーリ42をベルトに係合させてエンジンブロックに取付けられ、これによりベルトは常時捩じりバネ51のバネ力に応じた張力を付与される。
【0019】
エンジンの駆動時、ベルトの張力が変動しようとすると、ベルトの振動に応じてテンショナアーム30が揺動し、ベルトの張力の変動が抑えられる。テンショナアーム30の揺動の振幅は、減衰機構52において、減衰部材54、55と外周筒33の内周壁面との間の摩擦抵抗によって抑えられる。
【0020】
テンショナアーム30は従来、合成樹脂によって一体的に成形されたフランジ付ブッシュを介して、フランジ付シャフトにより支持されていたが、本実施形態では、上述したように円筒部材21とフランジ部材22を介して支持される。すなわち円筒部材21とフランジ部材22は別部材であり、異なる材料から成形される。円筒部材21は例えばナイロンを主成分とする合成樹脂から成形されるが、フランジ部材22は金属から成形される。
【0021】
円筒部材21は、テンショナアーム30のフランジ付シャフト13が挿入される支持穴32とフランジ付シャフト13の円筒状外周面との間に設けられ、これによりテンショナアーム30のスムーズな揺動が確保される。フランジ部材22は、テンショナアーム30の上面に形成された環状段部35に設けられ、フランジ付シャフト13のフランジ部17とテンショナアーム30の上面との間に装着される。フランジ部材22は、後述するように、プーリ42に作用するベルト荷重のモーメントによって早期に摩耗しないように構成されている。
【0022】
図3は円筒部材21とフランジ部材22を示している。円筒部材21に設けられたスリット23は、テンショナアーム30の支持穴32との嵌め合い誤差を吸収するためであり、円筒面の母線に対して傾斜している。フランジ部材22は金属板から成形され、フランジ付シャフト13のフランジ部17と略同じ環状を有する。フランジ部材22のテンショナアーム30に対する位置決めのために、フランジ部材22の外周部からは3つの突起24、25、26が径方向外方に突出している。
【0023】
図4はフランジ部材22を上方から見た図である。直線Lはフランジ付シャフト13の軸心に直交しており、フランジ部材22の円の中心Cを通り、かつ第1および第2の突起24、25の中間を通る。第3の突起26は直線Lに対して第1の突起24側にある。すなわち3つの突起24、25、26は直線Lに関して非対称の位置にある。一例として、直線Lに対する第1および第2の突起24、25の角度位置は25°であり、第3の突起26の角度位置は15°である。
【0024】
図5はテンショナアーム30のフランジ付シャフト13の部分を上から見た図である。テンショナアーム30の上面に設けられた環状段部35には、フランジ部材22の突起24、25、26が係合する3つの凹部36が形成されている。この係合により、フランジ部材22はテンショナアーム30に対して相対回転することはない。
【0025】
図6はフランジ部材22の材料組成を示している。フランジ部材22はバックメタル層22aと、このバックメタル層22aの上に形成された樹脂層22bとを有する。樹脂層22bの表面22cがフランジ付シャフト13のフランジ部17に摺接する摺動面である。樹脂層22bは四フッ化エチレン樹脂層であり、青銅焼結層22dを介してバックメタル層に結合される。
【0026】
このようにフランジ部材22は、表面22cだけが摺動面であり、裏面は摺動面ではない。したがってテンショナの組立て工程において、フランジ部材22をテンショナアーム30の環状段部35に装着するときに、フランジ部材22の表面22cが上方を向くようにしなければならないが、3つの突起24、25、26が直線Lに関して非対称の位置に定められ、環状段部35にも、これらの突起に対応させて凹部36が設けられているので、フランジ部材22の表裏が誤った状態で組み付けられることはない。
【0027】
円筒部材21は合成樹脂製であるので、円筒部材21の成形において、テンショナアーム30を鋳造により成形するときの型を利用することができる。したがって円筒部材21の形状を支持穴32に合わせることが容易になり、円筒部材21を嵌合するために支持穴32に機械加工を施す必要はない。また、フランジ部材22は金属製であるので、打ち抜き加工によって簡単に成形することができる。したがって、円筒部材21とフランジ部材22から成るブッシュの全体的な製造コストを最小限に抑えることができる。
【0028】
次にフランジ部材22の耐摩耗性について説明する。
合成樹脂の摩耗は、その樹脂に作用する圧力Pと摺動速度Vの積であるPV値に関係する。限界PV値は合成樹脂毎に異なり、その限界値を超えると摩耗し、限界値以下であれば耐久性に問題は生じない。上記実施形態における円筒部材21の合成樹脂の限界PV値は0.5MPa・m/sである。エンジンの低速時では、円筒部材21における計算PV値は0.06MPa・m/sであり、またフランジ部材22における計算PV値は0.15MPa・m/sであるので、摩耗に関する問題は生じない。しかしエンジンの高速時では、円筒部材21における計算PV値は0.21MPa・m/sであるのに対して、フランジ部材22における計算PV値は0.81MPa・m/sであり、限界値を超えている。
【0029】
そこで上記実施形態では、バックメタル層22aの上に樹脂層22cが形成されたフランジ部材22を採用した。このフランジ部材22の限界PV値は1.47MPa・m/sであり、したがってエンジンの高速時においても摩耗の問題は生じない。
【0030】
なお、ブッシュ全体を金属から成形することも可能であるが、この場合、ブッシュは金属板から鍛造により成形されるので、テンショナアーム30の支持穴32に対する嵌め合いの精度が低くなるので支持穴32に切削加工を施すことが必要になるという問題が生じることとなり、製造コストが高くなる。これに対してフランジ部材22を採用すれば、製造コストを抑えることができる。
【0031】
図7は、円筒部材21とフランジ部材22を実際に製造し、テンショナに組み込んでエンジンに取り付け、テンショナアーム30の初期位置からの傾き経時変化を計測した試験結果を示している。
【0032】
比較例として、樹脂ブッシュ1、2とメタルブッシュ1、2を製造した。樹脂ブッシュ1、2は合成樹脂から一体的に成形したものであり、円筒部の端部にフランジ部が一体的に連設されている。メタルブッシュ1、2は金属材料から一体的に成形したものであり、樹脂ブッシュと同様に、円筒部の端部にフランジ部が一体的に連設されている。比較例のブッシュはいずれも、テンショナアームとの嵌め合い誤差を吸収するために、円筒部とフランジ部にスリットが設けられている。
【0033】
実施例のメタルフランジ1、2は、合成樹脂から成形した円筒部材21と、金属材料から成形したフランジ部材22とから成るブッシュを組み込んだテンショナである。
【0034】
試験条件は以下の通りである。試験条件は、実施例のほうが比較例よりも厳しく、例えばテンショナアームの振動範囲は、樹脂ブッシュ1、2では、全振幅が4.5mm、メタルブッシュ1、2では全振幅が5.0mmであるのに対し、メタルフランジ1、2では全振幅が6.0mmである。
【0035】
【表1】

【0036】
図7から理解されるように、樹脂ブッシュ1、2を備えたテンショナでは、試験時間が約400時間に達するとテンショナアームの傾き角が限界値に近付いている。これに対して、メタルブッシュ1、2とメタルフランジ1、2を備えたテンショナでは、試験時間が約400時間に達してもテンショナアームの傾き角は樹脂ブッシュ1、2の場合の傾き角の半分程度であった。すなわち、実施例のようにフランジ部材を金属にすることにより、ブッシュの耐久性が2倍に伸び、また円筒部とフランジ部を金属材料から一体的に成形した構成と比較して、同等の性能を発揮することが理解される。
【0037】
なお、上記実施形態ではフランジ部材22は金属から成形されているが、円筒部材21よりも耐摩耗性の優れた材料であれば合成樹脂であってもよく、例えば、円筒部材21よりも限界PV値が大きい材料を採用することも可能である。その例としては、ポリカーボネート樹脂、強化剤あるいは潤滑剤を添加したナイロン6/6樹脂、ポリフタルアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂が考えられる。これらの限界PV値は下記の通りである。
【0038】
【表2】

【0039】
また突起24、25、26はフランジ部材22の外周部から径方向外方に突出しているが、下方に突出する構成でもよく、この場合、突起に係合する凹部はテンショナアーム30の環状段部35の上面に形成される。
【符号の説明】
【0040】
13 フランジ付シャフト
21 円筒部材
22 フランジ部材
24、25、26 突起
30 テンショナアーム
32 支持穴
36 凹部
42 プーリ
L 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジ付シャフトに揺動自在に支持されたテンショナアームの揺動端にプーリが回転自在に設けられ、前記シャフトと前記プーリの回転軸が平行であり、かつ前記テンショナアームから同一方向に延びるテンショナにおいて、
前記テンショナアームの前記シャフトが挿入される支持穴と前記シャフトの円筒状外周面との間に設けられる円筒部材と、
前記円筒部材とは異なる材料から成形され、前記シャフトのフランジ部と前記テンショナアームの上面との間に装着されるフランジ部材とを備え、
前記フランジ部材の限界PV値が前記円筒部材の限界PV値よりも大きいことを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記フランジ部材はバックメタル層と、このバックメタル層の上に形成された樹脂層とを備え、前記樹脂層の表面が前記シャフトのフランジ部に摺接する摺動面であることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記樹脂層が四フッ化エチレン樹脂層であり、青銅焼結層を介して前記バックメタル層に結合されることを特徴とする請求項2に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記フランジ部材に複数の突起が形成されるとともに、前記テンショナアームに、前記突起が係合する凹部が形成され、
前記複数の突起が、前記シャフトの軸心に直交する直線に関して非対称の位置にあることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項5】
前記突起が前記フランジ部材の外周部から径方向外方に突出することを特徴とする請求項4に記載のテンショナ。
【請求項6】
フランジ付シャフトに揺動自在に支持されたテンショナアームの揺動端にプーリが回転自在に設けられ、前記シャフトと前記プーリの回転軸が平行であり、かつ前記テンショナアームから同一方向に延びるテンショナに設けられるブッシュであって、
前記テンショナアームの前記シャフトが挿入される支持穴と前記シャフトの円筒状外周面との間に設けられる円筒部材と、
前記円筒部材とは異なる材料から成形され、前記シャフトのフランジ部と前記テンショナアームの上面との間に装着されるフランジ部材とを備え、
前記フランジ部材の限界PV値が前記円筒部材の限界PV値よりも大きいことを特徴と
ることを特徴とするテンショナのブッシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−252537(P2011−252537A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126123(P2010−126123)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】