ディーゼルエンジンの排気浄化装置
【課題】車両の動力性能等に影響を与えるのを抑制しつつ、パティキュレートフィルタの過昇温を防止可能なディーゼルエンジンの排気浄化装置を提供する。
【解決手段】コントロールユニットは、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタの温度を予測し、パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、パティキュレートフィルタの過昇温を抑制するために、排気温度を上昇させる後噴射を禁止する。
【解決手段】コントロールユニットは、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタの温度を予測し、パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、パティキュレートフィルタの過昇温を抑制するために、排気温度を上昇させる後噴射を禁止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関し、ディーゼルエンジンの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンにおいては、排気ガス中に含まれるカーボン等のパティキュレート(排気微粒子)を大気に放出しないよう排気通路に配設したパティキュレートフィルタ(以下、適宜フィルタという)により捕獲(トラップ)することが行われている。
【0003】
そして、このようにパティキュレートフィルタを備えた場合、フィルタに堆積した(トラップされた)パティキュレートの量がフィルタの飽和容量(堆積可能量)に達すると、この堆積した(トラップされた)パティキュレートを燃焼させ、フィルタ機能を再生する必要がある。
【0004】
そこで、パティキュレートフィルタに備えられたヒータを作動させたり、燃料噴射弁からの燃料噴射時期を通常時よりも遅角して後燃えを促進させ排気温度を上昇させる等行うことにより、パティキュレートを燃焼させ、フィルタを再生させることが知られている。
【0005】
しかしながら、前述のような先行技術では、パティキュレートフィルタ再生中に例えばエンジンの運転状態が減速状態に移行した時、フィルタの温度が許容温度以上に上昇し、フィルタの耐久性が低下するという問題がある。つまり、再生中は通常パティキュレートの燃焼によってフィルタの温度が上昇するが、減速によって排気ガス流量が減少すると、フィルタ内を排気ガスが通過することによるフィルタの温度低下作用(排気ガスとフィルタとの熱交換)が減少するため、パティキュレートフィルタ温度が急上昇し、過昇温状態となる虞があるのである。なお、減速時を一例として説明したが、減速時以外においても、例えばフィルタの再生を停止することができないような場合には、フィルタが過昇温状態となる虞がある。
【0006】
この問題に対処するため、本願出願人は、特願2002―205045号(特開2004−44524号公報、特許文献1)において、エンジンの吸気弁を開き気味に制御したり、変速機の変速マップを切換えることにより、排気ガス流量の低下を抑制することを提案している。
【0007】
【特許文献1】特開2004−44524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献1に記載のもののようにエンジンの吸気弁の開度を変更したり、変速マップの切換を行ったりすると、車両の動力性能に影響を与える虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、車両の動力性能等に影響を与えるのを抑制しつつ、パティキュレートフィルタの過昇温を防止可能なディーゼルエンジンの排気浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンの排気通路に配設されたパティキュレートフィルタと、該フィルタにトラップされたパティキュレートの量を検出するトラップ量検出手段と、該検出手段により検出されたパティキュレート量が所定量以上となったときに、このトラップされたパティキュレートを燃焼除去する除去手段とが備えられたディーゼルエンジンの排気浄化装置であって、現在から所定時間後の前記パティキュレートフィルタの温度を予測する温度予測手段と、該温度予測手段により前記パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、該パティキュレートフィルタの過昇温を抑制する過昇温抑制手段とが備えられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度を検出する排気温度検出手段と、該フィルタに流入する排気ガスの流量を直接的または間接的に検出する排気ガス流量検出手段とが備えられており、前記温度予測手段は、前記排気温度検出手段で検出された排気ガスの温度と、前記排気ガス流量検出手段で検出された排気ガス流量と、前記トラップ量検出手段で検出されたパティキュレート量とに基づいて、排気ガスとパティキュレートフィルタとの間の熱伝達、パティキュレート燃焼による発熱、パティキュレートフィルタ内部での熱伝導を解析して該フィルタの温度を算出する温度解析モデルにより構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記過昇温抑制手段は、排気温度を上昇させる追加噴射を禁止することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記過昇温抑制手段は、排気ガス流量の低下を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について説明する。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、パティキュレートフィルタにトラップされたパティキュレートの量が検出され、その量が所定量以上となったときに該パティキュレートが燃焼除去される。その場合に、現在から所定時間後の前記パティキュレートフィルタの温度が温度予測手段により予測され、該温度予測手段により前記パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、過昇温抑制手段により前記パティキュレートフィルタの過昇温が抑制されることとなる。したがって、許容できないような過昇温が予測されるときのみ、過昇温抑制手段が作動することとなり、該過昇温抑制手段の作動を必要最小限に抑制しつつ、過昇温を防止することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度、流量、パティキュレートのトラップ量に基づいて、パティキュレートフィルタの温度を精度よく予測することができる。
【0018】
そして、請求項3に記載の発明によれば、過昇温抑制手段により、パティキュレートフィルタを昇温させるための追加噴射が禁止されるので、パティキュレートフィルタの昇温が抑制されることとなる。
【0019】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、過昇温抑制手段により排気ガス流量の低下が抑制されるので、排気ガスによるパティキュレートフィルタの冷却効果が損なわれるのが抑制されることとなり、したがって、パティキュレートフィルタの過昇温が抑制されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0021】
本発明は、図1に示すディーゼルエンジン1に適用されている。このエンジン1は、例えば4気筒エンジンであって、エンジン本体2のシリンダボア内を上下動するピストン3が4つ備えられている(図1には1つのみ図示)。エンジン本体2のシリンダヘッドには気筒毎にインジェクタ4が備えられており、このインジェクタ4は気筒内燃焼室に燃料を直接噴射する。
【0022】
そして、図外の燃料タンクとインジェクタ4との間の燃料供給経路上に高圧燃料ポンプ5及びコモンレール6が配置されている。ポンプ5は燃料タンクからコモンレール6に燃料を圧送し、コモンレール6は圧送された燃料を蓄積する。インジェクタ4が開弁すると、コモンレール6に蓄積された燃料がインジェクタ4の噴口から高圧で噴射される。このとき、インジェクタ4の開弁時間とコモンレール6内の燃圧を制御することにより燃料噴射量が制御可能である。また、インジェクタ4の開弁時期を制御することにより燃料噴射時期が制御可能である。なお、図中、燃料供給経路上の矢印は燃料の流れを示す。
【0023】
吸気通路10には、上流側から順に、エアクリーナ11、エアフローセンサ12、過給機のコンプレッサ13、インタークーラ14、吸気量を調節する吸気絞り弁15、吸気圧センサ16、吸気温センサ17、そして吸気弁18が備えられている。
【0024】
排気通路20には、上流側から順に、排気弁21、過給機のタービン22、酸化触媒装置23、排気温センサ24、上流側排気圧力センサ25、排気ガス中のパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタ26、そして下流側排気圧力センサ27が備えられている。排気温センサ24は、パティキュレートフィルタ26に流入する排気ガスの温度を検出する。また、排気通路20の比較的上流部と吸気通路10の比較的下流部との間にEGR通路30が配設され、該通路30上には排気還流量を調節するEGR弁31が備えられている。
【0025】
エンジン本体2のクランクケースにはエンジン回転数センサ41と、冷却水温センサ42とが設けられている。車室にはアクセルペダル42の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ43が設けられている。
【0026】
このエンジン1のコントロールユニット50には、吸気流量、吸気圧、吸気温、パティキュレートフィルタ26に流入する排気ガスの温度、フィルタ26の上流側の排気圧力及び下流側の排気圧力、エンジン回転数、並びにアクセル開度(エンジン負荷)等の上記各センサで検出される信号が入力される。
【0027】
そして、コントロールユニット50は、エンジン回転数センサ41によるエンジン回転数とアクセル開度センサ45によるエンジン負荷とに基づいて、吸気温、EGR等を考慮した上で基本燃料噴射量を求め、この基本燃料噴射量を冷却水温、吸気流量、吸気圧、吸気温等で補正して目標燃料噴射量を算出し、この目標燃料噴射量に基づき、インジェクタ4及び高圧燃料ポンプ5を制御する。なお、後述する後噴射を行う場合は、この後噴射も考慮して、インジェクタ4及び高圧燃料ポンプ5を制御する。
【0028】
また、コントロールユニット50は、エンジン回転数と目標燃料噴射量とに基づいて吸気量を設定し、この吸気量となるように吸気絞り弁15の開度を制御すると共に、同じくエンジン回転数と目標燃料噴射量とに基づいて排気ガス還流量を設定し、この排気ガス還流量となるようにEGR弁31を制御する。
【0029】
また、コントロールユニット50は、パティキュレートフィルタ26に堆積している(トラップされている)パティキュレートの量(以下、適宜、パティキュレート堆積量という)を、フィルタ26の上流側の排気圧力と下流側の排気圧力との差圧に基づいて算出する。パティキュレート堆積量が多くなるとパティキュレートフィルタ26の上流側の排気圧力が高くなり、下流側の排気圧力との差圧が大きくなることから、この差圧に基づいてパティキュレータフィルタ堆積量を検出することが可能である。
【0030】
また、コントロールユニット50は、推定されたパティキュレータフィルタ堆積量が、パティキュレートフィルタ26の飽和許容量相当の第1所定量より多くなると、該第1所定量より小さい第2所定量(ほとんどゼロ)以下となるまで、パティキュレートフィルタ26の再生を行う。すなわち、ピストン3の圧縮行程上死点近傍での主噴射の後、膨張行程中に燃料を追加噴射(後噴射)を行って、当該後噴射で生成した未燃成分を酸化触媒装置23で酸化反応させることにより、酸化触媒装置23より下流側の排気ガス温度を昇温させ、パティキュレートフィルタ26に堆積しているパティキュレートを強制的に燃焼除去させる。
【0031】
ところで、パティキュレートフィルタ26の再生中は、このように該フィルタ26の温度が上昇することとなるが、例えば車両が減速状態となって排気ガスの流量が減少すると、背景技術において説明したように、パティキュレートフィルタ26内を排気ガスが通過することによるパティキュレートフィルタ26の温度低下作用(排気ガスとパティキュレートフィルタ26との熱交換)が減少し、パティキュレートフィルタ26の温度が、該フィルタ26の溶損等を防止可能な許容温度以上に過昇温する虞がある。
【0032】
この過昇温を防止するため、本願出願人は、特願2002―205045号(特開2004−44524号公報、特許文献1)において、エンジンの吸気弁15を開き気味に制御したり、変速機の変速マップを切換えることにより、減速状態における排気ガス流量の低下を抑制することを提案したところであるが、このような制御を行うと、車両の動力性能に影響を与える虞がある。一方、パティキュレートフィルタ26の温度上昇は、その時々の運転状態等にも左右され、減速状態になったからといって必ずしも許容温度以上となるわけではない。
【0033】
そこで、本実施の形態においては、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度を予測すると共に、この予測した温度が許容温度より高いときのみ、前述の後噴射を禁止するようにしたものであり、以下、この制御の詳細について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
まず、ステップS1で、各種センサの検出信号を読込む。
【0035】
次いで、ステップS2で、圧縮行程上死点近傍で噴射される主噴射の主噴射量をエンジン回転数とアクセル開度とのマップに基づいて設定するとともに、主噴射時期をエンジン回転数と燃料噴射量とのマップに基づいて設定する。
【0036】
次いで、ステップS3で、排気圧力センサ25、26で検出された上流側排気圧力と下流側排気圧力との差圧に基づいてパティキュレートフィルタ26に堆積パティキュレートの量、すなわちパティキュレート堆積量を算出する。
【0037】
次いで、ステップS4において、ステップS3で検出されたパティキュレート堆積量がパティキュレートフィルタ26の飽和許容量相当の第1所定量より多いか否かを判定する。
【0038】
そして、ステップS4でYESのとき、つまり、パティキュレート堆積量が第1所定量より多いときは、ステップS5で、後噴射量、後噴射時期(ここでは、いずれも一定値)を設定する。
【0039】
次いで、ステップS6で、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度を予測する。なお、この予測の具体方法については後述する。
【0040】
次いで、ステップS7で、車両が減速状態にあるかを判定する。ここで、車両が減速状態にあるか否かは、アクセル開度が所定開度(ほとんどゼロ)以下であるか否かにより判定される。
【0041】
そして、ステップS7でYESのときは、次いで、ステップS8において、ステップS6で予測された現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度が許容温度以上か否か、すなわち過昇温状態となるか否かを判定し、YESのときは、ステップS9で、後噴射を禁止して、ステップS10に進み、NOのときは、後噴射を禁止することなく、ステップS10に進む。
【0042】
そして、ステップS10において、燃料噴射弁4を、ステップS2で設定された主噴射量、主噴射時期、及びステップS5で設定された後噴射量、後噴射時期で燃料が噴射されるように駆動する。なお、ステップS9で後噴射が禁止されたときは、当然ながら主噴射のみが行われるように制御される。
【0043】
一方、ステップS4でNOのときは、ステップS11に進み、パティキュレート堆積量が第1所定量よりも小さく設定された第2所定量(略0相当の値)よりも小さいか否かを判定する。
【0044】
そして、ステップS11でNOのとき、すなわち、パティキュレート堆積量が依然として多いときは、ステップS5に進み、前述のとおり後噴射量、後噴射時期を設定する。
【0045】
一方、ステップS11でYESのとき、すなわち、パティキュレートフィルタ26の再生が十分に行われたときは、ステップS5からS9をバイパスしてステップS10に進み、燃料噴射弁4を、ステップS2で設定された主噴射量、主噴射時期で燃料が噴射されるように駆動する。
【0046】
また、ステップS7でNOのとき、すなわち減速状態でないときは、ステップS8,S9をバイパスしてステップS10に進み、燃料噴射弁4を、ステップS2で設定された主噴射量、主噴射時期、及びステップS5で設定された後噴射量、後噴射時期で燃料が噴射されるように駆動する。
【0047】
次に、前記フローチャートのステップS6で行われる現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度の予測について詳しく説明する。
【0048】
すなわち、本実施の形態においては、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度は、図3にブロック図で示すように、(1)排気ガスとパティキュレートフィルタ26との間の熱伝達、(2)パティキュレート燃焼による発熱、(3)パティキユレートフィルタ26内部での熱伝導等を考慮して算出され、図4のフローチャート(サブルーチン)に従って算出される。
【0049】
すなわち、まず、ステップS101で、時間tとして時間tに制御周期Δtsを加算した値を設定する。なお、右辺の時間tの初期値はゼロが設定されている。また、一制御周期Δtsは所定量であり、例えば1秒に設定されている。なお、この一制御周期Δtsとは、実際にこのフローチャートが繰り返される周期のことではなく、時間Δts後の温度を予測するために設定された値である。
【0050】
次いで、ステップS102で、前記(1)に相当する、排気ガスとパティキュレートフィルタ26(フローチャートにおいてはDPFと記載している)との熱伝達による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Twを計算する。ここで、本実施の形態においては、図5に示すように、パティキュレートフィルタ26の担体を排気ガスの流れ方向に均等に計算上n個のセル1〜nに分割し、各セル1〜nについてそれぞれ担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。なお、この具体的算出方法については後述する。
【0051】
次いで、ステップS103で、前記(2)に相当する、パティキュレートフィルタ26の再生に伴うパティキュレート燃焼による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)を計算する。なお、この具体的算出方法については後述するが、この担体温度Tw(1)〜Tw(n)は、ステップS2で算出された担体温度Tw(1)〜Tw(n)を基準として算出される(図3参照)。
【0052】
次いで、ステップS104で、前記(3)に相当する、パティキュレートフィルタ26を構成する前記各セル1〜n間での熱伝導を計算して、一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)を計算する。なお、この具体的算出方法については後述するが、この担体温度Twは、ステップS103で算出された担体温度Tw(1)〜Tw(n)を基準として算出される(図3参照)。
【0053】
次いで、ステップS105で、時間tが所定時間tm(特許制御の範囲における所定時間)となったか否かを判定し、所定時間tm未満であれば(NO)、ステップS101に戻り、以後の処理を繰り返す。そして、所定時間tmとなったときは(YES、t=tm)、ステップS106において、ステップS104で算出された各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)のうち、最大の値を現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度として記憶した後、メインルーチンに戻り、ステップS7を実行する。ここで、所定時間tmは、例えば30秒に設定されている。したがって、例えば、このフローチャートが30回繰り返し行われることにより、現在から所定時間後(30秒後)のパティキュレートフィルタ26の温度が予測される。
【0054】
次に、前記ステップS102で行われる、排気ガスとパティキュレートフィルタ26との熱伝達による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Twの具体的算出方法について説明する。
【0055】
すなわち、本実施の形態においては、前述したように、パティキュレートフィルタ26の担体を排気ガスの流れ方向に計算上n個のセル1〜nに分割し、各セル1〜nについてそれぞれ担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。
【0056】
その場合に、これらの担体温度Tw(1)〜Tw(n)は、上流側から、セル1、セル2、…セルnと順番に、前セルの計算結果を利用して計算される。以下、図6のフローチャート及び図7のブロック構成図を利用して説明する。
【0057】
まず、ステップS201で、計算対象のセル番号iとして1を設定する。すなわち、最上流側のセル1に設定する。
【0058】
次いで、ステップS202で、計算対象のセルiにおける、排気ガスとセルiの担体との熱伝達による一制御周期Δts後の当該セルiの担体温度Tw(i)、及び当該セルiの下流側のセルi+1における、排気ガス温度Tin(i+1)を算出する。その場合に、この担体温度Tw(i)、及び排気ガス温度Tin(i+1)は、図7に示す複数の入力パラメータを用いて数式1〜4により算出される。なお、数式1によりΔTin(i)が算出されて、このΔTin(i)が数式2に代入され、数式3によりΔTw(i)が算出されて、このΔTw(i)が数式4に代入される。
[ 数式1 ]
ΔTin(i)=(S(i)×Δtc×α×(Tin(i) −Tw(i))/Cex(i)
ここで、ΔTin(i)は、排気ガスがセルiを通過する際の排気ガスの温度変化量である。S(i)は、セルiにおけるパティキュレートフィルタ26と排気ガスとの接触面積であり、パティキュレートフィルタ26の形状等に基づいて定まった値である。Δtcは、排気ガスがセルiを通過するのに要する時間であり、1つのセルの空間容積と排気ガス流量とから算出される。この排気ガス流量は、エアフローセンサ14により算出された空気量とエンジン回転センサ41により検出されたエンジン回転数とに基づいて推定されるが、排気ガス流量センサを設けて直接検出するようにしてもよい。なお、各セルは排気ガスの流れ方向に均等に分割されているので、Δtcは各セル同一の値となる。αは、排気ガスからセルiの担体への熱伝達率である。Tin(i)は、セルiに流入する排気ガスの温度であり、i=1のとき、すなわちセル1においては、排気温センサ24の検出値が設定され、i>1のとき、すなわちセル2以後においては、前周期に数式2で算出されたTin(i+1)が設定される。Tw(i)は、セルiの担体温度であり、全てのセルにおいて、前周期に後述するステップS104で算出されたTw(i)が設定される(例えば、セル1においては、前周期にステップS104で算出されたセル1のTw(1)が、セル2においては前周期にステップS104で算出されたセル2のTw(2)が設定される)。ただし、制御開始後1周期目においては、全てのセルにおいてTw(i)としてセル担体初期温度Tw0が設定される。Cex(i)は、セルiを通過する排気ガスの熱容量であり、排気温センサ24で検出された排気ガス温度と前述のように求められた排気ガス流量とから排気ガス質量を求め、この質量と比熱とから求められる。なお、図3、図7、図9における各パラメータのボックスの左上にある黒四角はセンサによる計測値であり、白四角は計算値であり、無印は所定値であることを示す。
[ 数式2 ]
Tin(i+1)=Tin(i)−ΔTin(i)
ここで、Tin(i+1)は、下流側のセルi+1における排気ガスの温度である。なお、Tin(i)は、数式1におけるTin(i)と同様のものであり、 ΔTin(i)は、数式1で算出された値である。
[ 数式3 ]
ΔTw(i)=(S(i)×Δts×α×(Tin(i)−Tw(i))/Cc(i)
ここで、ΔTw(i)は、排気ガスがセルiを通過する際のセルiの温度変化量である。Δtsは、前述の制御周期である。Cc(i)は、セルiの担体の熱容量である。なお、S(i)、α、Tin(i)、 Tw(i)は、数式1と同様である。
[ 数式4 ]
Tw(i)=Tw(i)+ΔTw(i)
ここで、左辺のTw(i)は、計算結果としての、すなわちこの制御周期中における排気ガスとの間での熱伝達による温度変化量ΔTw(i)が考慮されたセルiの担体温度であり、右辺のTw(i)は、前周期において、後述するステップS104において算出されたTw(i)であり、制御開始後1周期目においては、全てのセルにおいてTw(i)としてセル担体初期温度Tw0が設定される。ΔTw(i)は、数式3で算出された値である。
【0059】
そして、数式1〜4の計算後、次に、ステップS203で、計算対象のセル番号iに1を加算する。
【0060】
次いで、ステップS204で、計算対象のセル番号iがnよりも大きくなったか、すなわち本パティキュレートフィルタ26の最下流側のセルnまでステップS202の計算が完了したか否かを判定し、セル番号iがnよりも大きくないときは(NO)、ステップS202に戻って次の対象セルについて計算を行い、セル番号iがnよりも大きくなったときは(YES)、図4のフローチャートに戻り、ステップS103の処理を行う。
【0061】
次に、このステップS103で行われる、パティキュレートフィルタ26の再生に伴うパティキュレート燃焼による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)の具体的算出方法について説明する。
【0062】
すなわち、このステップS103の計算においても、ステップS102同様、パティキュレートフィルタ26の担体を排気ガスの流れ方向に計算上n個のセル1〜nに分割し、各セル1〜nについてそれぞれ担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。以下、図8のフローチャート及び図9のブロック図を利用して説明する。
【0063】
まず、ステップS301で、計算対象のセル番号iとして1を設定する。すなわち、最上流側のセル1に設定する。
【0064】
次いで、ステップS302で、計算対象のセルiにおける、パティキュレート燃焼による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。その場合に、この担体温度Tw(i)は、図9に示す複数の入力パラメータを用いて、以下のようにパティキュレート燃焼量等を求めた後、数式5〜8により算出される。
【0065】
すなわち、コントロールユニット50は、パティキュレート堆積量毎(一定の範囲毎)に、図10に示すような複数の再生量算出テーブルを記憶している。各再生量算出テーブルにはセルの担体温度Tw(i)に対応する再生量a11,a12…が定義されている。なお、このテーブルは各セル1〜nで共通して用いられる。
【0066】
コントロールユニット50は、まず、前周期において算出されたパティキュレート堆積量Pt(i)に今周期中に新たにエンジンから排出されるパティキュレートの量Pn(i)を加算した値、すなわちPt(i)+Pn(i)に基づいて使用すべき再生量算出テーブルを決定する。そして、この再生量算出テーブルを参照して現在のセルiの担体温度Tw(i)に対応する再生量を求める。ここで、この再生量算出テーブルでは、フィルタ26全体が同一温度であるときの、フィルタ26全体で再生される量が定義されており、各セルiにおける再生量(燃焼量)Pf(i)は、前記テーブルから求めた再生量に、フィルタ26全体に対する当該セルiの容積比率を乗算することにより算出される。なお、この容積比率は、記憶されており、またはパラメータとして入力される。
【0067】
そして、数式5〜8により,一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼による熱発生量Qu(i)を算出し、この熱発生量Qu(i)を数式6に代入してパティキュレート燃焼による一制御周期Δts後のセルiの温度変化量ΔTw(i)を算出し、この温度変化量ΔTw(i)を数式7に代入して、パティキュレート燃焼による一制御周期Δts後のセルiの担体温度Tw(i)を算出する。
[ 数式5 ]
Qu(i)=Pf(i)×Qp
ここで、Qu(i)は、セルiにおける、一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼による熱発生量である。Pf(i)は、前記テーブルから求められた一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼量(再生量)である。Qpは、パティキュレートが単位量燃焼したときの発熱量である。
[ 数式6 ]
ΔTw(i)=Qu(i)/Cc(i)
ここで、ΔTw(i)は、パティキュレート燃焼による一制御周期Δts後のセルiの温度変化量である。Qu(i)は、数式5により算出された、セルiにおける一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼による熱発生量である。Cc(i)は、セルiの担体の熱容量である。
[ 数式7 ]
Tw(i)=Tw(i)+ΔTw(i)
ここで、左辺のTw(i)は、計算結果としての、すなわちこの制御周期中におけるパティキュレート燃焼による温度変化量ΔTw(i)が考慮されたセルiの担体温度であり、右辺のTw(i)は、同一周期中にステップS102(数式4)で算出されたTw(i)である。ΔTw(i)は、数式6で算出された値である。
【0068】
なお、このステップS302では、前述のようにして算出された再生量(パティキュレート燃焼量)Pf(i)、エンジンから新たに排出されるパティキュレートの量(以後、パティキュレート排出量という)Pn(i)、及び前周期で算出されたパティキュレート堆積量Pt(i)に基づいて、このように再生された後に当該セルiに残留するパティキュレートの残量、すなわちパティキュレート堆積量Pt(i)を算出する。ここで、新たに排出されたパティキュレートはフィルタ26内に均一に堆積するものと仮定しており、パティキュレート排出量Pn(i)は、一制御周期Δts内にエンジンから新たに排出されるパティキュレートの全量に、フィルタ26全体に対する当該セルiの容積比率を乗算することにより算出される。
[ 数式8 ]
Pt(i)=Pt(i)+Pn(i)−Pf(i)
ここで、左辺のPt(i)は、計算結果としてのパティキュレート堆積量であり、右辺のPt(i)は、前制御周期において算出されたパティキュレート堆積量である。Pn(i)は、この一制御周期Δts中にエンジンから新たに排出されるパティキュレート量(パティキュレート排出量)である。Pf(i)は、前記テーブルから求められた再生量(パティキュレート燃焼量)である。
【0069】
そして、数式5〜8の計算後、次に、ステップS303で、計算対象のセル番号iに1を加算する。
【0070】
次いで、ステップS304で、計算対象のセル番号iがnよりも大きくなったか、すなわち本パティキュレートフィルタ26の最下流側のセルnまでステップS302の計算が完了したか否かを判定し、セル番号iがnよりも大きくないときは(NO)、ステップS302に戻って次の対象セルについて計算を行い、セル番号iがnよりも大きくなったときは(YES)、図4のフローチャートに戻り、ステップS103の処理を行う。
【0071】
次に、図4のフローチャートのステップS104で行われる、パティキュレートフィルタ26を構成する前記各セル1〜n間での熱伝導を解析することによる、一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)の算出方法について説明する。
【0072】
各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)は、数式9に示す熱伝導方程式を解くことにより求められる。
[ 数式9 ]
ρ・C・dT/dt=λ・d2T/dx2
ここで、ρは、セルiの担体密度である。Cは、セルiの担体の熱容量C(前述のCd)である。dT/dtは、熱伝導方程式における非定常項である。なお、dは偏微分記号の代用である。λは、担体の熱伝導率である。d2T/dx2は、熱伝導方程式における拡散項である。なお、dは偏微分記号の代用である。また、この方程式を解く際、なお、ステップS103で算出された一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)がパラメータとして利用される。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態によれば、パティキュレートフィルタ26にトラップされたパティキュレートが第1所定量以上となったときに、該パティキュレートが燃焼除去される。その場合に、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度が予測され(温度予測手段)、許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、後噴射が禁止されることにより、図11に実線で示すように、禁止しない場合(点線で示す)よりもパティキュレートフィルタ26の昇温が抑制され、過昇温状態(許容温度以上の状態)となることが防止されることとなる(過昇温抑制手段)。つまり、許容できないような過昇温が予測されるときのみ、後噴射が禁止されることとなり(過昇温抑制手段が作動することとなり)、後噴射の禁止を(該過昇温抑制手段の作動を)必要最小限に抑制しつつ、過昇温を防止することができる。また、減速が生じたときに一様に後噴射を禁止する場合よりも、パティキュレートフィルタ26の再生が中断される時間及び頻度が少なくなり、再生が迅速かつ効率的に行われることとなる。
【0074】
また、前述したように、複数のパラメータを用いて、前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度、流量、パティキュレートのトラップ量等の複数のパラメータに基づいて、パティキュレートフィルタの温度を予測するので、予測精度が良好なものとなる。
【0075】
なお、本実施の形態においては、ステップS8で過昇温が予測されるときに、過昇温となるのを防止するためにステップS9で後噴射を禁止するようにしたが(請求項3に対応する)、ステップS9ではパティキュレートフィルタ12に流入する排気ガスの流量の低下を抑制する処理を行ってもよい(請求項4に対応する)。
【0076】
具体的には、まず一例目として、吸気絞り弁8の開度を、過昇温となる虞がないときよりも増大させるのである。これによれば、過昇温が予測されるときには、エンジンに吸入される空気量が増加することとなり、その増加分だけエンジンから排出される排気ガス流量が増加し、パティキュレートフィルタ12の温度上昇が抑制されることとなる。
【0077】
また二例目として、変速機のシフトパターンの変更を行ってもよい。すなわち、変速機の変速特性として、通常状態用と過昇温防止用との2つを設けておき、過昇温が予測されるときに、変速ラインを、図12に示すように、実線で示す通常状態用ラインから点線で示す過昇温防止用ラインに切り替えて高速側に補正するのである。これによれば、過昇温が予測されるときには、自動変速機の変速比が高速側に補正されることによりエンジン回転数が上昇して、エンジンに吸入される空気量が増加することとなり、その増加分だけエンジンから排出される排気ガス流量が増加し、パティキュレートフィルタ12の温度上昇が抑制されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、パティキュレートフィルタにトラップされたパティキュレートを燃焼除去するように構成されたディーゼルエンジンに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置のシステム構成図である。
【図2】コントロールユニットにより行われる主制御のフローチャートである。
【図3】パティキュレートフィルタの温度予測の構成図である。
【図4】パティキュレートフィルタの温度予測のメインフローチャートである(図2のフローチャートのステップS6のサブルーチンのフローチャートである)。
【図5】パティキュレートフィルタの温度予測の際の該フィルタの分割図である。
【図6】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、熱伝達を計算するフローチャートである(図4のフローチャートのステップS102のサブルーチンのフローチャートである)。
【図7】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、熱伝達を計算する部分の構成図である。
【図8】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、パティキュレート燃焼による熱発生を計算するフローチャートである(図4のフローチャートのステップS103のサブルーチンのフローチャートである)。
【図9】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、パティキュレート燃焼による熱発生を計算する部分の構成図である。
【図10】パティキュレート燃焼量を求めるためのテーブルの構成図である。
【図11】本制御の作用を示すタイムチャートである。
【図12】他の例における変速パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 ディーゼルエンジン
24 排気温センサ(排気温度検出手段)
25 上流側排気圧力センサ(トラップ量検出手段)
26 パティキュレートフィルタ
27 下流側排気圧力センサ(トラップ量検出手段)
50 コントロールユニット(トラップ量検出手段、除去手段、温度予測手段、過昇温抑制手段、排気ガス流量検出手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置に関し、ディーゼルエンジンの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンにおいては、排気ガス中に含まれるカーボン等のパティキュレート(排気微粒子)を大気に放出しないよう排気通路に配設したパティキュレートフィルタ(以下、適宜フィルタという)により捕獲(トラップ)することが行われている。
【0003】
そして、このようにパティキュレートフィルタを備えた場合、フィルタに堆積した(トラップされた)パティキュレートの量がフィルタの飽和容量(堆積可能量)に達すると、この堆積した(トラップされた)パティキュレートを燃焼させ、フィルタ機能を再生する必要がある。
【0004】
そこで、パティキュレートフィルタに備えられたヒータを作動させたり、燃料噴射弁からの燃料噴射時期を通常時よりも遅角して後燃えを促進させ排気温度を上昇させる等行うことにより、パティキュレートを燃焼させ、フィルタを再生させることが知られている。
【0005】
しかしながら、前述のような先行技術では、パティキュレートフィルタ再生中に例えばエンジンの運転状態が減速状態に移行した時、フィルタの温度が許容温度以上に上昇し、フィルタの耐久性が低下するという問題がある。つまり、再生中は通常パティキュレートの燃焼によってフィルタの温度が上昇するが、減速によって排気ガス流量が減少すると、フィルタ内を排気ガスが通過することによるフィルタの温度低下作用(排気ガスとフィルタとの熱交換)が減少するため、パティキュレートフィルタ温度が急上昇し、過昇温状態となる虞があるのである。なお、減速時を一例として説明したが、減速時以外においても、例えばフィルタの再生を停止することができないような場合には、フィルタが過昇温状態となる虞がある。
【0006】
この問題に対処するため、本願出願人は、特願2002―205045号(特開2004−44524号公報、特許文献1)において、エンジンの吸気弁を開き気味に制御したり、変速機の変速マップを切換えることにより、排気ガス流量の低下を抑制することを提案している。
【0007】
【特許文献1】特開2004−44524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献1に記載のもののようにエンジンの吸気弁の開度を変更したり、変速マップの切換を行ったりすると、車両の動力性能に影響を与える虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、車両の動力性能等に影響を与えるのを抑制しつつ、パティキュレートフィルタの過昇温を防止可能なディーゼルエンジンの排気浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンの排気通路に配設されたパティキュレートフィルタと、該フィルタにトラップされたパティキュレートの量を検出するトラップ量検出手段と、該検出手段により検出されたパティキュレート量が所定量以上となったときに、このトラップされたパティキュレートを燃焼除去する除去手段とが備えられたディーゼルエンジンの排気浄化装置であって、現在から所定時間後の前記パティキュレートフィルタの温度を予測する温度予測手段と、該温度予測手段により前記パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、該パティキュレートフィルタの過昇温を抑制する過昇温抑制手段とが備えられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度を検出する排気温度検出手段と、該フィルタに流入する排気ガスの流量を直接的または間接的に検出する排気ガス流量検出手段とが備えられており、前記温度予測手段は、前記排気温度検出手段で検出された排気ガスの温度と、前記排気ガス流量検出手段で検出された排気ガス流量と、前記トラップ量検出手段で検出されたパティキュレート量とに基づいて、排気ガスとパティキュレートフィルタとの間の熱伝達、パティキュレート燃焼による発熱、パティキュレートフィルタ内部での熱伝導を解析して該フィルタの温度を算出する温度解析モデルにより構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記過昇温抑制手段は、排気温度を上昇させる追加噴射を禁止することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、前記過昇温抑制手段は、排気ガス流量の低下を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
次に、本発明の効果について説明する。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、パティキュレートフィルタにトラップされたパティキュレートの量が検出され、その量が所定量以上となったときに該パティキュレートが燃焼除去される。その場合に、現在から所定時間後の前記パティキュレートフィルタの温度が温度予測手段により予測され、該温度予測手段により前記パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、過昇温抑制手段により前記パティキュレートフィルタの過昇温が抑制されることとなる。したがって、許容できないような過昇温が予測されるときのみ、過昇温抑制手段が作動することとなり、該過昇温抑制手段の作動を必要最小限に抑制しつつ、過昇温を防止することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度、流量、パティキュレートのトラップ量に基づいて、パティキュレートフィルタの温度を精度よく予測することができる。
【0018】
そして、請求項3に記載の発明によれば、過昇温抑制手段により、パティキュレートフィルタを昇温させるための追加噴射が禁止されるので、パティキュレートフィルタの昇温が抑制されることとなる。
【0019】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、過昇温抑制手段により排気ガス流量の低下が抑制されるので、排気ガスによるパティキュレートフィルタの冷却効果が損なわれるのが抑制されることとなり、したがって、パティキュレートフィルタの過昇温が抑制されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0021】
本発明は、図1に示すディーゼルエンジン1に適用されている。このエンジン1は、例えば4気筒エンジンであって、エンジン本体2のシリンダボア内を上下動するピストン3が4つ備えられている(図1には1つのみ図示)。エンジン本体2のシリンダヘッドには気筒毎にインジェクタ4が備えられており、このインジェクタ4は気筒内燃焼室に燃料を直接噴射する。
【0022】
そして、図外の燃料タンクとインジェクタ4との間の燃料供給経路上に高圧燃料ポンプ5及びコモンレール6が配置されている。ポンプ5は燃料タンクからコモンレール6に燃料を圧送し、コモンレール6は圧送された燃料を蓄積する。インジェクタ4が開弁すると、コモンレール6に蓄積された燃料がインジェクタ4の噴口から高圧で噴射される。このとき、インジェクタ4の開弁時間とコモンレール6内の燃圧を制御することにより燃料噴射量が制御可能である。また、インジェクタ4の開弁時期を制御することにより燃料噴射時期が制御可能である。なお、図中、燃料供給経路上の矢印は燃料の流れを示す。
【0023】
吸気通路10には、上流側から順に、エアクリーナ11、エアフローセンサ12、過給機のコンプレッサ13、インタークーラ14、吸気量を調節する吸気絞り弁15、吸気圧センサ16、吸気温センサ17、そして吸気弁18が備えられている。
【0024】
排気通路20には、上流側から順に、排気弁21、過給機のタービン22、酸化触媒装置23、排気温センサ24、上流側排気圧力センサ25、排気ガス中のパティキュレートを捕集するパティキュレートフィルタ26、そして下流側排気圧力センサ27が備えられている。排気温センサ24は、パティキュレートフィルタ26に流入する排気ガスの温度を検出する。また、排気通路20の比較的上流部と吸気通路10の比較的下流部との間にEGR通路30が配設され、該通路30上には排気還流量を調節するEGR弁31が備えられている。
【0025】
エンジン本体2のクランクケースにはエンジン回転数センサ41と、冷却水温センサ42とが設けられている。車室にはアクセルペダル42の踏み込み量を検出するアクセル開度センサ43が設けられている。
【0026】
このエンジン1のコントロールユニット50には、吸気流量、吸気圧、吸気温、パティキュレートフィルタ26に流入する排気ガスの温度、フィルタ26の上流側の排気圧力及び下流側の排気圧力、エンジン回転数、並びにアクセル開度(エンジン負荷)等の上記各センサで検出される信号が入力される。
【0027】
そして、コントロールユニット50は、エンジン回転数センサ41によるエンジン回転数とアクセル開度センサ45によるエンジン負荷とに基づいて、吸気温、EGR等を考慮した上で基本燃料噴射量を求め、この基本燃料噴射量を冷却水温、吸気流量、吸気圧、吸気温等で補正して目標燃料噴射量を算出し、この目標燃料噴射量に基づき、インジェクタ4及び高圧燃料ポンプ5を制御する。なお、後述する後噴射を行う場合は、この後噴射も考慮して、インジェクタ4及び高圧燃料ポンプ5を制御する。
【0028】
また、コントロールユニット50は、エンジン回転数と目標燃料噴射量とに基づいて吸気量を設定し、この吸気量となるように吸気絞り弁15の開度を制御すると共に、同じくエンジン回転数と目標燃料噴射量とに基づいて排気ガス還流量を設定し、この排気ガス還流量となるようにEGR弁31を制御する。
【0029】
また、コントロールユニット50は、パティキュレートフィルタ26に堆積している(トラップされている)パティキュレートの量(以下、適宜、パティキュレート堆積量という)を、フィルタ26の上流側の排気圧力と下流側の排気圧力との差圧に基づいて算出する。パティキュレート堆積量が多くなるとパティキュレートフィルタ26の上流側の排気圧力が高くなり、下流側の排気圧力との差圧が大きくなることから、この差圧に基づいてパティキュレータフィルタ堆積量を検出することが可能である。
【0030】
また、コントロールユニット50は、推定されたパティキュレータフィルタ堆積量が、パティキュレートフィルタ26の飽和許容量相当の第1所定量より多くなると、該第1所定量より小さい第2所定量(ほとんどゼロ)以下となるまで、パティキュレートフィルタ26の再生を行う。すなわち、ピストン3の圧縮行程上死点近傍での主噴射の後、膨張行程中に燃料を追加噴射(後噴射)を行って、当該後噴射で生成した未燃成分を酸化触媒装置23で酸化反応させることにより、酸化触媒装置23より下流側の排気ガス温度を昇温させ、パティキュレートフィルタ26に堆積しているパティキュレートを強制的に燃焼除去させる。
【0031】
ところで、パティキュレートフィルタ26の再生中は、このように該フィルタ26の温度が上昇することとなるが、例えば車両が減速状態となって排気ガスの流量が減少すると、背景技術において説明したように、パティキュレートフィルタ26内を排気ガスが通過することによるパティキュレートフィルタ26の温度低下作用(排気ガスとパティキュレートフィルタ26との熱交換)が減少し、パティキュレートフィルタ26の温度が、該フィルタ26の溶損等を防止可能な許容温度以上に過昇温する虞がある。
【0032】
この過昇温を防止するため、本願出願人は、特願2002―205045号(特開2004−44524号公報、特許文献1)において、エンジンの吸気弁15を開き気味に制御したり、変速機の変速マップを切換えることにより、減速状態における排気ガス流量の低下を抑制することを提案したところであるが、このような制御を行うと、車両の動力性能に影響を与える虞がある。一方、パティキュレートフィルタ26の温度上昇は、その時々の運転状態等にも左右され、減速状態になったからといって必ずしも許容温度以上となるわけではない。
【0033】
そこで、本実施の形態においては、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度を予測すると共に、この予測した温度が許容温度より高いときのみ、前述の後噴射を禁止するようにしたものであり、以下、この制御の詳細について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
まず、ステップS1で、各種センサの検出信号を読込む。
【0035】
次いで、ステップS2で、圧縮行程上死点近傍で噴射される主噴射の主噴射量をエンジン回転数とアクセル開度とのマップに基づいて設定するとともに、主噴射時期をエンジン回転数と燃料噴射量とのマップに基づいて設定する。
【0036】
次いで、ステップS3で、排気圧力センサ25、26で検出された上流側排気圧力と下流側排気圧力との差圧に基づいてパティキュレートフィルタ26に堆積パティキュレートの量、すなわちパティキュレート堆積量を算出する。
【0037】
次いで、ステップS4において、ステップS3で検出されたパティキュレート堆積量がパティキュレートフィルタ26の飽和許容量相当の第1所定量より多いか否かを判定する。
【0038】
そして、ステップS4でYESのとき、つまり、パティキュレート堆積量が第1所定量より多いときは、ステップS5で、後噴射量、後噴射時期(ここでは、いずれも一定値)を設定する。
【0039】
次いで、ステップS6で、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度を予測する。なお、この予測の具体方法については後述する。
【0040】
次いで、ステップS7で、車両が減速状態にあるかを判定する。ここで、車両が減速状態にあるか否かは、アクセル開度が所定開度(ほとんどゼロ)以下であるか否かにより判定される。
【0041】
そして、ステップS7でYESのときは、次いで、ステップS8において、ステップS6で予測された現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度が許容温度以上か否か、すなわち過昇温状態となるか否かを判定し、YESのときは、ステップS9で、後噴射を禁止して、ステップS10に進み、NOのときは、後噴射を禁止することなく、ステップS10に進む。
【0042】
そして、ステップS10において、燃料噴射弁4を、ステップS2で設定された主噴射量、主噴射時期、及びステップS5で設定された後噴射量、後噴射時期で燃料が噴射されるように駆動する。なお、ステップS9で後噴射が禁止されたときは、当然ながら主噴射のみが行われるように制御される。
【0043】
一方、ステップS4でNOのときは、ステップS11に進み、パティキュレート堆積量が第1所定量よりも小さく設定された第2所定量(略0相当の値)よりも小さいか否かを判定する。
【0044】
そして、ステップS11でNOのとき、すなわち、パティキュレート堆積量が依然として多いときは、ステップS5に進み、前述のとおり後噴射量、後噴射時期を設定する。
【0045】
一方、ステップS11でYESのとき、すなわち、パティキュレートフィルタ26の再生が十分に行われたときは、ステップS5からS9をバイパスしてステップS10に進み、燃料噴射弁4を、ステップS2で設定された主噴射量、主噴射時期で燃料が噴射されるように駆動する。
【0046】
また、ステップS7でNOのとき、すなわち減速状態でないときは、ステップS8,S9をバイパスしてステップS10に進み、燃料噴射弁4を、ステップS2で設定された主噴射量、主噴射時期、及びステップS5で設定された後噴射量、後噴射時期で燃料が噴射されるように駆動する。
【0047】
次に、前記フローチャートのステップS6で行われる現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度の予測について詳しく説明する。
【0048】
すなわち、本実施の形態においては、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度は、図3にブロック図で示すように、(1)排気ガスとパティキュレートフィルタ26との間の熱伝達、(2)パティキュレート燃焼による発熱、(3)パティキユレートフィルタ26内部での熱伝導等を考慮して算出され、図4のフローチャート(サブルーチン)に従って算出される。
【0049】
すなわち、まず、ステップS101で、時間tとして時間tに制御周期Δtsを加算した値を設定する。なお、右辺の時間tの初期値はゼロが設定されている。また、一制御周期Δtsは所定量であり、例えば1秒に設定されている。なお、この一制御周期Δtsとは、実際にこのフローチャートが繰り返される周期のことではなく、時間Δts後の温度を予測するために設定された値である。
【0050】
次いで、ステップS102で、前記(1)に相当する、排気ガスとパティキュレートフィルタ26(フローチャートにおいてはDPFと記載している)との熱伝達による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Twを計算する。ここで、本実施の形態においては、図5に示すように、パティキュレートフィルタ26の担体を排気ガスの流れ方向に均等に計算上n個のセル1〜nに分割し、各セル1〜nについてそれぞれ担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。なお、この具体的算出方法については後述する。
【0051】
次いで、ステップS103で、前記(2)に相当する、パティキュレートフィルタ26の再生に伴うパティキュレート燃焼による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)を計算する。なお、この具体的算出方法については後述するが、この担体温度Tw(1)〜Tw(n)は、ステップS2で算出された担体温度Tw(1)〜Tw(n)を基準として算出される(図3参照)。
【0052】
次いで、ステップS104で、前記(3)に相当する、パティキュレートフィルタ26を構成する前記各セル1〜n間での熱伝導を計算して、一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)を計算する。なお、この具体的算出方法については後述するが、この担体温度Twは、ステップS103で算出された担体温度Tw(1)〜Tw(n)を基準として算出される(図3参照)。
【0053】
次いで、ステップS105で、時間tが所定時間tm(特許制御の範囲における所定時間)となったか否かを判定し、所定時間tm未満であれば(NO)、ステップS101に戻り、以後の処理を繰り返す。そして、所定時間tmとなったときは(YES、t=tm)、ステップS106において、ステップS104で算出された各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)のうち、最大の値を現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度として記憶した後、メインルーチンに戻り、ステップS7を実行する。ここで、所定時間tmは、例えば30秒に設定されている。したがって、例えば、このフローチャートが30回繰り返し行われることにより、現在から所定時間後(30秒後)のパティキュレートフィルタ26の温度が予測される。
【0054】
次に、前記ステップS102で行われる、排気ガスとパティキュレートフィルタ26との熱伝達による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Twの具体的算出方法について説明する。
【0055】
すなわち、本実施の形態においては、前述したように、パティキュレートフィルタ26の担体を排気ガスの流れ方向に計算上n個のセル1〜nに分割し、各セル1〜nについてそれぞれ担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。
【0056】
その場合に、これらの担体温度Tw(1)〜Tw(n)は、上流側から、セル1、セル2、…セルnと順番に、前セルの計算結果を利用して計算される。以下、図6のフローチャート及び図7のブロック構成図を利用して説明する。
【0057】
まず、ステップS201で、計算対象のセル番号iとして1を設定する。すなわち、最上流側のセル1に設定する。
【0058】
次いで、ステップS202で、計算対象のセルiにおける、排気ガスとセルiの担体との熱伝達による一制御周期Δts後の当該セルiの担体温度Tw(i)、及び当該セルiの下流側のセルi+1における、排気ガス温度Tin(i+1)を算出する。その場合に、この担体温度Tw(i)、及び排気ガス温度Tin(i+1)は、図7に示す複数の入力パラメータを用いて数式1〜4により算出される。なお、数式1によりΔTin(i)が算出されて、このΔTin(i)が数式2に代入され、数式3によりΔTw(i)が算出されて、このΔTw(i)が数式4に代入される。
[ 数式1 ]
ΔTin(i)=(S(i)×Δtc×α×(Tin(i) −Tw(i))/Cex(i)
ここで、ΔTin(i)は、排気ガスがセルiを通過する際の排気ガスの温度変化量である。S(i)は、セルiにおけるパティキュレートフィルタ26と排気ガスとの接触面積であり、パティキュレートフィルタ26の形状等に基づいて定まった値である。Δtcは、排気ガスがセルiを通過するのに要する時間であり、1つのセルの空間容積と排気ガス流量とから算出される。この排気ガス流量は、エアフローセンサ14により算出された空気量とエンジン回転センサ41により検出されたエンジン回転数とに基づいて推定されるが、排気ガス流量センサを設けて直接検出するようにしてもよい。なお、各セルは排気ガスの流れ方向に均等に分割されているので、Δtcは各セル同一の値となる。αは、排気ガスからセルiの担体への熱伝達率である。Tin(i)は、セルiに流入する排気ガスの温度であり、i=1のとき、すなわちセル1においては、排気温センサ24の検出値が設定され、i>1のとき、すなわちセル2以後においては、前周期に数式2で算出されたTin(i+1)が設定される。Tw(i)は、セルiの担体温度であり、全てのセルにおいて、前周期に後述するステップS104で算出されたTw(i)が設定される(例えば、セル1においては、前周期にステップS104で算出されたセル1のTw(1)が、セル2においては前周期にステップS104で算出されたセル2のTw(2)が設定される)。ただし、制御開始後1周期目においては、全てのセルにおいてTw(i)としてセル担体初期温度Tw0が設定される。Cex(i)は、セルiを通過する排気ガスの熱容量であり、排気温センサ24で検出された排気ガス温度と前述のように求められた排気ガス流量とから排気ガス質量を求め、この質量と比熱とから求められる。なお、図3、図7、図9における各パラメータのボックスの左上にある黒四角はセンサによる計測値であり、白四角は計算値であり、無印は所定値であることを示す。
[ 数式2 ]
Tin(i+1)=Tin(i)−ΔTin(i)
ここで、Tin(i+1)は、下流側のセルi+1における排気ガスの温度である。なお、Tin(i)は、数式1におけるTin(i)と同様のものであり、 ΔTin(i)は、数式1で算出された値である。
[ 数式3 ]
ΔTw(i)=(S(i)×Δts×α×(Tin(i)−Tw(i))/Cc(i)
ここで、ΔTw(i)は、排気ガスがセルiを通過する際のセルiの温度変化量である。Δtsは、前述の制御周期である。Cc(i)は、セルiの担体の熱容量である。なお、S(i)、α、Tin(i)、 Tw(i)は、数式1と同様である。
[ 数式4 ]
Tw(i)=Tw(i)+ΔTw(i)
ここで、左辺のTw(i)は、計算結果としての、すなわちこの制御周期中における排気ガスとの間での熱伝達による温度変化量ΔTw(i)が考慮されたセルiの担体温度であり、右辺のTw(i)は、前周期において、後述するステップS104において算出されたTw(i)であり、制御開始後1周期目においては、全てのセルにおいてTw(i)としてセル担体初期温度Tw0が設定される。ΔTw(i)は、数式3で算出された値である。
【0059】
そして、数式1〜4の計算後、次に、ステップS203で、計算対象のセル番号iに1を加算する。
【0060】
次いで、ステップS204で、計算対象のセル番号iがnよりも大きくなったか、すなわち本パティキュレートフィルタ26の最下流側のセルnまでステップS202の計算が完了したか否かを判定し、セル番号iがnよりも大きくないときは(NO)、ステップS202に戻って次の対象セルについて計算を行い、セル番号iがnよりも大きくなったときは(YES)、図4のフローチャートに戻り、ステップS103の処理を行う。
【0061】
次に、このステップS103で行われる、パティキュレートフィルタ26の再生に伴うパティキュレート燃焼による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)の具体的算出方法について説明する。
【0062】
すなわち、このステップS103の計算においても、ステップS102同様、パティキュレートフィルタ26の担体を排気ガスの流れ方向に計算上n個のセル1〜nに分割し、各セル1〜nについてそれぞれ担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。以下、図8のフローチャート及び図9のブロック図を利用して説明する。
【0063】
まず、ステップS301で、計算対象のセル番号iとして1を設定する。すなわち、最上流側のセル1に設定する。
【0064】
次いで、ステップS302で、計算対象のセルiにおける、パティキュレート燃焼による一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)を算出する。その場合に、この担体温度Tw(i)は、図9に示す複数の入力パラメータを用いて、以下のようにパティキュレート燃焼量等を求めた後、数式5〜8により算出される。
【0065】
すなわち、コントロールユニット50は、パティキュレート堆積量毎(一定の範囲毎)に、図10に示すような複数の再生量算出テーブルを記憶している。各再生量算出テーブルにはセルの担体温度Tw(i)に対応する再生量a11,a12…が定義されている。なお、このテーブルは各セル1〜nで共通して用いられる。
【0066】
コントロールユニット50は、まず、前周期において算出されたパティキュレート堆積量Pt(i)に今周期中に新たにエンジンから排出されるパティキュレートの量Pn(i)を加算した値、すなわちPt(i)+Pn(i)に基づいて使用すべき再生量算出テーブルを決定する。そして、この再生量算出テーブルを参照して現在のセルiの担体温度Tw(i)に対応する再生量を求める。ここで、この再生量算出テーブルでは、フィルタ26全体が同一温度であるときの、フィルタ26全体で再生される量が定義されており、各セルiにおける再生量(燃焼量)Pf(i)は、前記テーブルから求めた再生量に、フィルタ26全体に対する当該セルiの容積比率を乗算することにより算出される。なお、この容積比率は、記憶されており、またはパラメータとして入力される。
【0067】
そして、数式5〜8により,一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼による熱発生量Qu(i)を算出し、この熱発生量Qu(i)を数式6に代入してパティキュレート燃焼による一制御周期Δts後のセルiの温度変化量ΔTw(i)を算出し、この温度変化量ΔTw(i)を数式7に代入して、パティキュレート燃焼による一制御周期Δts後のセルiの担体温度Tw(i)を算出する。
[ 数式5 ]
Qu(i)=Pf(i)×Qp
ここで、Qu(i)は、セルiにおける、一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼による熱発生量である。Pf(i)は、前記テーブルから求められた一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼量(再生量)である。Qpは、パティキュレートが単位量燃焼したときの発熱量である。
[ 数式6 ]
ΔTw(i)=Qu(i)/Cc(i)
ここで、ΔTw(i)は、パティキュレート燃焼による一制御周期Δts後のセルiの温度変化量である。Qu(i)は、数式5により算出された、セルiにおける一制御周期Δts間でのパティキュレート燃焼による熱発生量である。Cc(i)は、セルiの担体の熱容量である。
[ 数式7 ]
Tw(i)=Tw(i)+ΔTw(i)
ここで、左辺のTw(i)は、計算結果としての、すなわちこの制御周期中におけるパティキュレート燃焼による温度変化量ΔTw(i)が考慮されたセルiの担体温度であり、右辺のTw(i)は、同一周期中にステップS102(数式4)で算出されたTw(i)である。ΔTw(i)は、数式6で算出された値である。
【0068】
なお、このステップS302では、前述のようにして算出された再生量(パティキュレート燃焼量)Pf(i)、エンジンから新たに排出されるパティキュレートの量(以後、パティキュレート排出量という)Pn(i)、及び前周期で算出されたパティキュレート堆積量Pt(i)に基づいて、このように再生された後に当該セルiに残留するパティキュレートの残量、すなわちパティキュレート堆積量Pt(i)を算出する。ここで、新たに排出されたパティキュレートはフィルタ26内に均一に堆積するものと仮定しており、パティキュレート排出量Pn(i)は、一制御周期Δts内にエンジンから新たに排出されるパティキュレートの全量に、フィルタ26全体に対する当該セルiの容積比率を乗算することにより算出される。
[ 数式8 ]
Pt(i)=Pt(i)+Pn(i)−Pf(i)
ここで、左辺のPt(i)は、計算結果としてのパティキュレート堆積量であり、右辺のPt(i)は、前制御周期において算出されたパティキュレート堆積量である。Pn(i)は、この一制御周期Δts中にエンジンから新たに排出されるパティキュレート量(パティキュレート排出量)である。Pf(i)は、前記テーブルから求められた再生量(パティキュレート燃焼量)である。
【0069】
そして、数式5〜8の計算後、次に、ステップS303で、計算対象のセル番号iに1を加算する。
【0070】
次いで、ステップS304で、計算対象のセル番号iがnよりも大きくなったか、すなわち本パティキュレートフィルタ26の最下流側のセルnまでステップS302の計算が完了したか否かを判定し、セル番号iがnよりも大きくないときは(NO)、ステップS302に戻って次の対象セルについて計算を行い、セル番号iがnよりも大きくなったときは(YES)、図4のフローチャートに戻り、ステップS103の処理を行う。
【0071】
次に、図4のフローチャートのステップS104で行われる、パティキュレートフィルタ26を構成する前記各セル1〜n間での熱伝導を解析することによる、一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)の算出方法について説明する。
【0072】
各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)は、数式9に示す熱伝導方程式を解くことにより求められる。
[ 数式9 ]
ρ・C・dT/dt=λ・d2T/dx2
ここで、ρは、セルiの担体密度である。Cは、セルiの担体の熱容量C(前述のCd)である。dT/dtは、熱伝導方程式における非定常項である。なお、dは偏微分記号の代用である。λは、担体の熱伝導率である。d2T/dx2は、熱伝導方程式における拡散項である。なお、dは偏微分記号の代用である。また、この方程式を解く際、なお、ステップS103で算出された一制御周期Δts後の各セル1〜nの担体温度Tw(1)〜Tw(n)がパラメータとして利用される。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態によれば、パティキュレートフィルタ26にトラップされたパティキュレートが第1所定量以上となったときに、該パティキュレートが燃焼除去される。その場合に、現在から所定時間後のパティキュレートフィルタ26の温度が予測され(温度予測手段)、許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、後噴射が禁止されることにより、図11に実線で示すように、禁止しない場合(点線で示す)よりもパティキュレートフィルタ26の昇温が抑制され、過昇温状態(許容温度以上の状態)となることが防止されることとなる(過昇温抑制手段)。つまり、許容できないような過昇温が予測されるときのみ、後噴射が禁止されることとなり(過昇温抑制手段が作動することとなり)、後噴射の禁止を(該過昇温抑制手段の作動を)必要最小限に抑制しつつ、過昇温を防止することができる。また、減速が生じたときに一様に後噴射を禁止する場合よりも、パティキュレートフィルタ26の再生が中断される時間及び頻度が少なくなり、再生が迅速かつ効率的に行われることとなる。
【0074】
また、前述したように、複数のパラメータを用いて、前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度、流量、パティキュレートのトラップ量等の複数のパラメータに基づいて、パティキュレートフィルタの温度を予測するので、予測精度が良好なものとなる。
【0075】
なお、本実施の形態においては、ステップS8で過昇温が予測されるときに、過昇温となるのを防止するためにステップS9で後噴射を禁止するようにしたが(請求項3に対応する)、ステップS9ではパティキュレートフィルタ12に流入する排気ガスの流量の低下を抑制する処理を行ってもよい(請求項4に対応する)。
【0076】
具体的には、まず一例目として、吸気絞り弁8の開度を、過昇温となる虞がないときよりも増大させるのである。これによれば、過昇温が予測されるときには、エンジンに吸入される空気量が増加することとなり、その増加分だけエンジンから排出される排気ガス流量が増加し、パティキュレートフィルタ12の温度上昇が抑制されることとなる。
【0077】
また二例目として、変速機のシフトパターンの変更を行ってもよい。すなわち、変速機の変速特性として、通常状態用と過昇温防止用との2つを設けておき、過昇温が予測されるときに、変速ラインを、図12に示すように、実線で示す通常状態用ラインから点線で示す過昇温防止用ラインに切り替えて高速側に補正するのである。これによれば、過昇温が予測されるときには、自動変速機の変速比が高速側に補正されることによりエンジン回転数が上昇して、エンジンに吸入される空気量が増加することとなり、その増加分だけエンジンから排出される排気ガス流量が増加し、パティキュレートフィルタ12の温度上昇が抑制されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、パティキュレートフィルタにトラップされたパティキュレートを燃焼除去するように構成されたディーゼルエンジンに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るディーゼルエンジンの排気浄化装置のシステム構成図である。
【図2】コントロールユニットにより行われる主制御のフローチャートである。
【図3】パティキュレートフィルタの温度予測の構成図である。
【図4】パティキュレートフィルタの温度予測のメインフローチャートである(図2のフローチャートのステップS6のサブルーチンのフローチャートである)。
【図5】パティキュレートフィルタの温度予測の際の該フィルタの分割図である。
【図6】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、熱伝達を計算するフローチャートである(図4のフローチャートのステップS102のサブルーチンのフローチャートである)。
【図7】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、熱伝達を計算する部分の構成図である。
【図8】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、パティキュレート燃焼による熱発生を計算するフローチャートである(図4のフローチャートのステップS103のサブルーチンのフローチャートである)。
【図9】パティキュレートフィルタの温度予測のうち、パティキュレート燃焼による熱発生を計算する部分の構成図である。
【図10】パティキュレート燃焼量を求めるためのテーブルの構成図である。
【図11】本制御の作用を示すタイムチャートである。
【図12】他の例における変速パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
1 ディーゼルエンジン
24 排気温センサ(排気温度検出手段)
25 上流側排気圧力センサ(トラップ量検出手段)
26 パティキュレートフィルタ
27 下流側排気圧力センサ(トラップ量検出手段)
50 コントロールユニット(トラップ量検出手段、除去手段、温度予測手段、過昇温抑制手段、排気ガス流量検出手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設されたパティキュレートフィルタと、該フィルタにトラップされたパティキュレートの量を検出するトラップ量検出手段と、該検出手段により検出されたパティキュレート量が所定量以上となったときに、このトラップされたパティキュレートを燃焼除去する除去手段とが備えられたディーゼルエンジンの排気浄化装置であって、
現在から所定時間後の前記パティキュレートフィルタの温度を予測する温度予測手段と、
該温度予測手段により前記パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、該パティキュレートフィルタの過昇温を抑制する過昇温抑制手段とが備えられていることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置
【請求項2】
前記請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度を検出する排気温度検出手段と、該フィルタに流入する排気ガスの流量を直接的または間接的に検出する排気ガス流量検出手段とが備えられており、
前記温度予測手段は、前記排気温度検出手段で検出された排気ガスの温度と、前記排気ガス流量検出手段で検出された排気ガス流量と、前記トラップ量検出手段で検出されたパティキュレート量とに基づいて、排気ガスとパティキュレートフィルタとの間の熱伝達、パティキュレート燃焼による発熱、パティキュレートフィルタ内部での熱伝導を解析して該フィルタの温度を算出する温度解析モデルにより構成されていることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記過昇温抑制手段は、排気温度を上昇させる追加噴射を禁止することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記過昇温抑制手段は、排気ガス流量の低下を抑制することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設されたパティキュレートフィルタと、該フィルタにトラップされたパティキュレートの量を検出するトラップ量検出手段と、該検出手段により検出されたパティキュレート量が所定量以上となったときに、このトラップされたパティキュレートを燃焼除去する除去手段とが備えられたディーゼルエンジンの排気浄化装置であって、
現在から所定時間後の前記パティキュレートフィルタの温度を予測する温度予測手段と、
該温度予測手段により前記パティキュレートフィルタの温度が許容温度以上に過昇温することが予測されるときに、該パティキュレートフィルタの過昇温を抑制する過昇温抑制手段とが備えられていることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置
【請求項2】
前記請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記パティキュレートフィルタに流入する排気ガスの温度を検出する排気温度検出手段と、該フィルタに流入する排気ガスの流量を直接的または間接的に検出する排気ガス流量検出手段とが備えられており、
前記温度予測手段は、前記排気温度検出手段で検出された排気ガスの温度と、前記排気ガス流量検出手段で検出された排気ガス流量と、前記トラップ量検出手段で検出されたパティキュレート量とに基づいて、排気ガスとパティキュレートフィルタとの間の熱伝達、パティキュレート燃焼による発熱、パティキュレートフィルタ内部での熱伝導を解析して該フィルタの温度を算出する温度解析モデルにより構成されていることを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記過昇温抑制手段は、排気温度を上昇させる追加噴射を禁止することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項4】
前記請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置において、
前記過昇温抑制手段は、排気ガス流量の低下を抑制することを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−106709(P2008−106709A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292085(P2006−292085)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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