説明

デジタルエンコーダ、および、それに用いたデジタルアナログ変換器

【課題】実装面積とノイズ抑圧性能とのトレードオフがあり、設計の自由度が低い。
【解決手段】ダイナミック素子整合(DEM)処理手段を、マスタDEM手段1とN個のスレーブDEM手段2に分ける。マスタDEM手段1は、マルチビットのデジタル入力信号IN0を、所定のDEMアルゴリズムに基づいて複数の出力ノードの配列に対応するパラレルコードC1にエンコードする。N個のスレーブDEM手段2は、それぞれ3以上の出力ノードを備え、マスタDEM手段1からのコードC1を、所定のDEMアルゴリズムに基づいて、3以上の出力ノードの配列に対応し、かつ重み付けが各コードで同じパラレルコードC2にエンコードし、3以上の出力ノードから並列に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチビットのデジタル入力信号を、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて、複数の出力ノードの配列に対応し、かつ重み付けが各コードで同じパラレルコードにエンコードするデジタルエンコーダと、それを用いたデジタルアナログ変換器とに関する。
【背景技術】
【0002】
素子間のミスマッチによる問題を低減する手法として、Dynamic Element Matching(ダイナミック素子整合:以下、DEM)と呼ばれる手法が提案されている。ここで「ミスマッチ」とは、複数の同じ構成の回路構成素子に製造誤差や発生ノイズレベル等の違いがあり、そのどれを選ぶかによって回路全体の性能が変化する誤差要因をいう。
DEMはランダム、もしくは、ある所定のアルゴリズムを用いて、任意の時点で使用される素子を決定し、各素子における使用率を平均化することにより、ミスマッチを低減する技術である。
【0003】
図8に、従来のDEM構成を示す。
DEM部100は、たとえばバイナリウエイトのデジタル入力信号IN0を入力し、素子数に相当する数Mで並列に出力され、重み付けが各コードで同じデジタルコード列に変換することから、一種のデジタルエンコーダである。DEM部100のM本の各出力ノードに素子101-1,102-2,…102-Mが順次結合している。
【0004】
選択または動作させる素子数が、当該DEM構成を内蔵した回路の、その時々の特性(たとえば出力信号レベル)を規定する。このためDEM部100から出力されるコード列内の素子を選択または動作させるコード(以下、アクティブコードという)の数が重要である。
DEMを行わない場合、たとえば入力信号IN0のレベルが一定の状態が続くと、ある領域の幾つかの素子ばかりが何度も選択または動作し、使用率に偏りが生じ、これがミスマッチの要因となる。
DEM部100は、その時々で必要なアクティブコード数を堅持しながら、素子の使用率を平均化するようにアクティブコードを出力する素子の割り当てを決定する。これによりミスマッチによる誤差が低減し、ミスマッチ低減が達成される。
DEMのミスマッチ低減手法として、単にランダマイズする方法のほか、ある範囲の使用履歴を保持し、その範囲で未使用のものから優先的にアクティブコードを割り当てる方法などがある。
【0005】
DEM内の使用素子の決定手法として、ミスマッチを低減する一次および二次のミスマッチ低減構成が主に用いられる。ここでいう次数は、ミスマッチ低減性能の高さを表し、たとえば上記のように使用履歴を保持する場合は、どこまで過去に遡って使用履歴を保持できるかにより、ミスマッチ低減性能が決まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次のミスマッチ低減構成は非常に高いノイズ抑圧性能を有している。ところが二次のミスマッチ低減構成は、素子数の増加に対し飛躍的に面積が増加する特性を持っており、素子数が多い場合に実装面積の増大が課題となる。
一方、一次のミスマッチ低減構成は小さい面積で実装可能であるが、性能が低く、大きなミスマッチを持つ素子の場合、ノイズ抑圧性能が不十分である。
このようにDEMによるミスマッチ低減手法は、ノイズ抑圧性能と実装面積とがトレードオフの関係にある。
【0007】
したがって、図8に示すDEM構成のデジタルエンコーダは、実装面積を抑制しながらノイズ抑圧性能を高めることが難しいという課題を有している。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、実装面積とノイズ抑圧性能とのトレードオフを緩和し、デジタルエンコーダについて、実装面積を抑制しながらノイズ抑圧性能を高めることができるように設計の自由度を上げることができる構成を提案することにある。
また本発明の解決しようとする他の課題は、このデジタルエンコーダを用いることによってアナログ出力信号の誤差と実装面積の一方または双方を従来に比べ大幅に抑制したデジタルアナログ変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るデジタルエンコーダは、マルチビットのデジタル入力信号を、所定のパラレルコードにエンコードするマスタ処理手段と、それぞれ3以上の出力ノードを備え、前記マスタ処理手段からパラレルに出力されたコードを、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて、前記3以上の出力ノードの配列に対応し、かつ重み付けが各コードで同じパラレルコードにエンコードし、当該パラレルコードを3以上の出力ノードから並列に出力する複数のスレーブ処理手段とを有する。
【0010】
本発明に係るデジタルアナログ変換器は、デジタル入力信号を重み付けが各コードで同じコード列にエンコードして各コードを複数の出力ノードから並列に出力するデジタルエンコーダと、前記デジタルエンコーダから並列に出力されるコードをそれぞれ入力する複数の1ビット型デジタルアナログ変換部とを有するデジタルアナログ変換器であって、前記デジタルエンコーダが、前記入力信号を、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて複数の出力ノードの配列に対応するパラレルコードにエンコードするマスタ処理手段と、それぞれ3以上の出力ノードを備え、前記マスタ処理手段から並列に出力されたコードを、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて、前記3以上の出力ノードの配列に対応し、かつ重み付けが各コードで同じパラレルコードにエンコードし、当該パラレルコードを3以上の出力ノードから前記複数の1ビット型デジタルアナログ変換部に並列に出力する複数のスレーブ処理手段とを有する。
【0011】
本発明では、好適に、前記マスタ処理手段は、前記入力信号の値をスレーブ処理手段の個数であるNで割った余りを表現する剰余値を示す剰余コードと、複数のスレーブ処理手段に共通に与えられることによってNの逓倍値を示すことが可能なマルチプルコードとを算出して前記入力信号を前記剰余コードと前記マルチプルコードとに変換する入力変換手段と、前記入力変換手段から出力される前記剰余コードを入力し、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて前記剰余コードを複数の出力ノードの配列に対応するパラレルコードにエンコードするマスタDEM手段とを備え、前記スレーブ処理手段は、前記入力変換手段から出力される前記マルチプルコードと前記マスタDEM手段から出力されるパラレルコードとを入力し、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づくエンコードを行うスレーブDEM手段を備える。
本発明では、好適に、前記スレーブDEM手段の個数が2のベキ乗に設定されている。
この場合、さらに好適に、前記入力変換手段に、前記マルチプルコードをビットシフトして前記Nの逓倍値を出力する手段を含む。
あるいは好適に、前記スレーブ処理手段の各々の入力段に、前記マルチプルコードをビットシフトして前記Nの逓倍値を出力する手段を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実装面積とノイズ抑圧性能とのトレードオフを緩和し、デジタルエンコーダについて、実装面積を抑制しながらノイズ抑圧性能を高めることができるように設計の自由度を上げることができる。
また、このデジタルエンコーダを用いることによってアナログ出力信号の誤差と実装面積の一方または双方を従来に比べ大幅に抑制したデジタルアナログ変換器を提供するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明が適用されたデジタルエンコーダのブロック図を示す。
本発明では、素子をN組のグループに分け、各々のグループにおいてDEMによるミスマッチ低減手法を適用する。
より詳細には、DEMが適用されたブロック(スレーブ(Slave)処理手段)が、素子のグループ数Nと同じ数だけ設けられている。図1では、各スレーブ処理手段がスレーブDEM手段2から構成されている。
各スレーブDEM手段2は、並列出力ノードが3以上設けられ(本例では4)、各出力ノードに、対応するグループ内の素子Ea〜Edの各々が結合されている。このため、各グループの素子数も、1つのスレーブDEM手段2が有する出力ノード数と同じ、4である。
各スレーブDEM手段2は、その入力信号(パラレルコードC1の一部)をDEMの手法によって、並列出力ノードに割り当てるパレレルコードC2にエンコードする。このため、入力されるパラレルコードC1に応じてアクティブにする後段の素子数は同じ場合でも、その時々で、実際にアクティブにして使用する素子の組み合わせは動的に変化する。
【0014】
スレーブDEM手段2の前段に、共通の1つのブロック(マスタ(Master)処理手段)が設けられている。マスタ処理手段は、DEMによるミスマッチ低減手法が適用されたマスタDEM手段1を有する。
マスタDEM手段1は、マルチビットの入力信号IN0を、マスタ処理手段に固有のDEMの手法によって、4つのスレーブDEM手段2に割り当てるパレレルコードC1にエンコードする。このため、入力信号IN0に応じて選択するスレーブDEM手段2の数は同じでも、その時々で、実際に選択されるスレーブDEM手段2の組み合わせは動的に変化する。
【0015】
なお、図1に示すグループ数Nは2以上なら任意の整数であり、また各グループ内の素子数も4に限らず、3以上なら任意の整数である。
【0016】
本実施の形態では、この構成において、たとえば、マスタDEM手段1、スレーブDEM手段2でともに二次のミスマッチ低減構成を用いることによって、実装面積の削減とDEM性能の向上を図る。
【0017】
図8において、通常の二次のミスマッチ低減構成を用いた場合の実装面積Snormalは、その後段に結合される素子数を「M」、比例定数を「A」とすると、おおよそ次式(1)で表すことができる。
【0018】
[数1]
normal=A×M …(1)
【0019】
これに対し図1に示す本実施の形態のように素子をN個のグループに分けた場合、一つのグループの素子数は(M/N)となり、カスケードDEM構成の実装面積Scascadedは次式(2)となる。
【0020】
[数2]
cascaded=(N+1)×A(M/N)
=[(N+1)/N]×AM…(2)
【0021】
また、通常の二次のミスマッチ低減構成単独のDEM性能(ノイズ抑圧性能)Pnormalは、素子のミスマッチ率「X」に比例し、シェービング係数「B」とオーバーサンプリング比「O」のそれぞれに反比例することから、次式(3)で表すことができる。
【0022】
【数3】

【0023】
ここで係数「B」は、DEMの次数が大きくなればなるほど小さな値をとる係数である。また、オーバーサンプリング比「O」が高ければ高いほど、素子の使用率の平均化の速度が高くなるため、そのファクターをオーバーサンプリング比「O」として式に入れてある。
【0024】
これに対し図1に示すように、本実施の形態に係るカスケードDEM構成のDEM性能Pcascadedは次式(4)となる。
【0025】
【数4】

【0026】
図2は、これらの数式を基にして、素子数Mを16とした場合の素子グループ数Nと実装面積比およびDEM性能比(図中、「Ratio」と表示)との関係をグラフ化したものである。このグラフの縦軸にとった「Ratio」は、通常の二次のDEM構成単独の場合の実装面積SnormalあるいはDEM性能Pnormalを1とした場合に、本実施の形態におけるカスケードDEM構成の実装面積ScascadedまたはDEM性能Pcascadedの相対値を表している。
【0027】
このグラフからわかるように、素子数Mが16の場合に本発明を適用することにより、グループ数2以上で従来型より高いDEM性能を、より小さい実装面積で実現できる。
また、素子グループ数Nを増やせば、それだけ二次のスレーブDEMの出力ノード数(出力に結合された素子数)が減ることから、内部の比較回路や履歴情報保持のための回路の面積が減ることになり、二次のスレーブDEMの実装面積が徐々に低下する。なお、比較回路や履歴情報保持のための回路等のDEM内部構成についは後述する。
これに対しDEM性能には最適値があり、図示例の場合、素子グループ数Nと、一つの二次のスレーブDEMが担う素子数とがバランスするN=4の付近でDEM性能が最も高くなっている。素子数MやDEMの構成を変えれば、この傾向も変化する可能性がある。また、誤差要因であるミスマッチのばらつき方によっても、図2に示すグラフの変化の度合いが変わってくる。そのため一概にはいえないが、一般的に、実装面積に対し性能を優先させる場合は、素子グループ数Nと一つのスレーブDEMが担う素子数とをバランスさせることが望ましい。
【0028】
図3に、スレーブDEMの次数は二次のままで、マスタDEMを一次のミスマッチ低減構成に変更した場合を示す。
この場合、マスタDEMとして二次のミスマッチ低減構成をとった図1の場合と比較すると、DEM性能は多少低下するが実装面積をさらに削減することができる。なお、図3は変更例のほんの一例であり、本実施の形態ではスレーブ側とマスタ側の次数を任意に変更できる。
【0029】
このように、本実施の形態ではミスマッチ低減性能(DEM性能)と実装面積のどちらに対しより要求が高いかに応じて、自由に構成を変えることができる。
ミスマッチ低減性能より実装面積を優先させたい場合は、図3のようにマスタ側またはスレーブ側でミスマッチ低減構成をより低い次数のものに変更するとよい。その一方、実装面積の削減よりDEM性能の向上を優先させたい場合は、マスタ側またはスレーブ側で、より次数が高いミスマッチ低減構成に変更するとよい。この場合、3次以上のミスマッチ低減構成の採用も可能であり、そのとき個々のDEM構成の実装面積が格段に大きくなる可能性があることから、実装面積の増大を抑制するための工夫が必要となる。
【0030】
その工夫の一つとして、一つのスレーブDEMが担う素子数を減らすために素子グループ数、すなわちスレーブDEMの個数を増やす手法がある。ただし、この手法は、場合によって実装面積の削減に寄与するが、一方でスレーブDEMが出力ノードに結合された各素子にダイナミック素子整合のための処理を行う平均サイクル時間が短くなり、DEM効率が向上する意味では、性能向上に寄与することがある。この手法が、面積削減と性能向上のどちらに多く寄与するかは、他の因子、たとえばDEM構成の次数やその具体的回路構成などにより決まる。
【0031】
このように、本実施の形態では、DEM構成をマスタ側とスレーブ側に分けたことにより、要求される設計優先事項の違いによってDEM性能と実装面積のバランスをとる際の自由度が高く、その結果、最適な設計が容易となる。言い換えると、素子グループ数(スレーブDEM数)、マスタ側とスレーブ側のミスマッチ低減構成における次数を最適化することによって、DEM性能と実装面積とのトレードオフ関係で、そのバランス点を連続的に、かつ任意に選択可能となり、設計者の意図通りの性能と面積の構成が達成できる。
【0032】
つぎに、より具体的な実装をΔΣ型のデジタルアナログ変換器に、当該カスケードDEM構成のデジタルエンコーダを組み込んだ場合を例として説明する。ここではカスケードDEM構成を、マスタ側を一次とし、スレーブ側を二次とした場合を示すが、これに限るものではない。なお、カスケードDEM構成の実装例は、以下に説明するΔΣ型のデジタルアナログ変換器に限るものではなく、同一の重みを持つ複数の1ビット型デジタルアナログ変換部を含むさまざまな形態のデジタルアナログ変換器への本発明の適用も可能である。
【0033】
図4に、ΔΣ変調器を用いたオーバーサンプリング型のデジタルアナログ変換器の基本構成ブロックを示す。また、図6(A)〜図6(C)に、本構成によるノイズ抑圧の様子を、横軸が周波数、縦軸が信号あるいはノイズパワーのグラフで模式的に示す。図6(A)はDEMなしの場合であり、図6(B)は一次のミスマッチ低減構成の場合であり、図6(C)は二次のミスマッチ低減構成の場合である。
図解したデジタルアナログ変換器は、インターポレータ9、ΔΣ変調器10、サーモメータエンコーダ11、DEM処理手段12、マッチングエラーの発生要因となる前記素子としてのN個の1ビットデジタルアナログ変換器(1-bit DAC)13-1,13-2,…,13-(N-1),13-N、加算器14、および、ローパスフィルタ15を備える。
【0034】
ΔΣ変調器を用いたオーバーサンプリング型のデジタルアナログ変換器おけるオーバーサンプリングはインターポレータによって行われ、たとえばDSP(Digital Signal Processor)などのマイクロプロセッサなどにより実行される。
オーバーサンプリングされたデータはΔΣ変調器の入力とされる。たとえばΔΣ変調はDSP(Digital Signal Processor)などにより実行される。図5におけるΔΣ変調器10内の量子化器32において発生する量子化ノイズは、ループフィルタ31により高域に移動するため、図6(A)に示すように信号帯域における量子化ノイズは低減される。量子化器の出力はバイナリウエイトのマルチビットのデジタル信号IN0であり、次段のサーモメータエンコーダ11に渡される。尚、図5において、33は減算器である。
【0035】
このサーモメータエンコーダ11から加算器14までの実装例を、図7に示す。
図7において、マスタDEM手段20および4つのスレーブDEM手段21により、図4におけるDEM処理手段12が構成される。ただし、図1に示す本実施の形態に係るデジタルエンコーダの機能の分け方として「マスタ処理手段」と「スレーブ処理手段」があるが、この図7では、サーモメータエンコーダ11とマスタDEM手段20が「マスタ処理手段」に属し、個々のスレーブDEM手段21が「スレーブ処理手段」に属するように記述している。
【0036】
本実装例におけるサーモメータエンコーダ11は、バイナリウエイトの入力信号IN0をサーモメータコードに変換する機能と、入力信号値(10進数)をスレーブ処理手段の数「4」で割ることに相当する除算を実行し、入力信号値を、その剰余コードを示す剰余コードC0と、複数のスレーブ処理手段に共通に与えられるべきNの逓倍値を示すマルチプルコードC1multipleとに変換する機能を有する。この機能は、本発明の「入力変換手段」の機能の実施例である。また、サーモメータエンコーダ11は、Nの逓倍値を示すマルチプルコードC1multipleを求める際に、除算結果を2ビット分シフトするシフトレジスタ機能も備える。
【0037】
剰余コードC0は、入力信号値(10進数)の「0」,「1」,「2」,「3」をそれぞれ表す4つのパラレルコードであり、マルチプルコードC1multipleは、入力信号値(10進数)の「4」,「8」,「12」をそれぞれ表す3つのパラレルコードである。
剰余コードC0はマスタDEM手段20に入力され、マルチプルコードC1multipleは4つのスレーブ処理手段21に並列に入力される。
【0038】
また、サーモメータエンコーダ11は、入力信号IN0が「16」(10進数)の場合に例外処理を行い、剰余コードC0に「4」を出力し、マルチプルコードC1multipleに「12」を出力する。この動作により、入力信号値(10進数)「0」から「16」すべてに対応する出力を生成する。
【0039】
マスタDEM手段20は、入力した剰余コードC0を、パラレルコードC1res.にエンコードし、1コードずつ4つのスレーブSEM部21に割り当てる。
スレーブDEM手段21は、サーモメータエンコーダ11からのマルチプルコードC1multipleと、マスタDEM手段20からの1つのパラレルコードC1とをパラレルに入力する。マルチプルコードC1multipleとパラレルコードC1res.とでパラレルコードC1を構成し、各スレーブDEM手段21に入力されるパラレルコードを、以下、「INA」と表記する(図6参照)。スレーブDEM手段21は、4値のパラレルコードINAを、4値のパラレルコードC2にエンコードし、対応するグループに属する1ビット型デジタルアナログ変換部に1コードずつ出力する。
【0040】
マスタDEM手段20とスレーブDEM手段21は、それぞれ固有のDEMアルゴリズムに基づいて、入力した4つのコードを、4つの出力ノードに割り当てる。そのアルゴリズムは任意であり、たとえば、2値を示すコードを、単なるランダマイズする方法と、履歴情報を参照して出力ノードの配列に対して今までと異なる配列のコードパターンにする方法とがある。
【0041】
図8は、履歴情報を参照するDEMアルゴリズムが適用された場合のDEM部の一実装例で、その基本概念を示す図である。図8(A)に一次のミスマッチ低減構成(本例ではマスタDEM手段)を、図8(B)に二次のミスマッチ低減構成(本例ではスレーブDEM手段)を、それぞれ示す。
【0042】
図8(A)に示す一次のミスマッチ低減構成のマスタDEM手段20は、いわゆるベクタ・量子化器(VQ)22、積分器23Aおよびビット反転器24を有する。
ベクタ・量子化器22は、入力パラレルコードINAを並べ替えて出力する。このとき並べ替えの規則を、制御入力に入る4つの制御パラレルコードINBを参照して決める。制御パラレルコードINBは、並べ替え後に出力される出力パラレルコードC1res.をビット反転した後、積分器で1入力信号処理時間だけ蓄積したものである。この蓄積したコードを、次の入力信号処理時に読み出して制御パラレルコードINBとして用いる。
この構成では、前回処理時の出力パラレルコードC1res.が反転され、その大きさが比較され、その結果を参照して、前回処理時に「0」が出力された出力ノードに、1ビット型デジタルアナログ変換部を動作させるアクティブコード「1」が優先的に割り当てられる。つまり、1入力信号分の履歴を参照して、前回動作しなかった1ビット型デジタルアナログ変換部を優先的に動作させ、その結果として、前回動作した1ビットDACを今回はできるだけ動作させない。
【0043】
図8(B)に示す二次のミスマッチ低減構成のスレーブDEM手段21は、図8(A)の構成にもう一つ積分器23Bが追加されている。2つの積分器23Aと23Bは直列に結合され、積分器23Bの出力が係数アンプ25Bを介して加算器26の一方の入力に結合されている。積分器23Aの出力が他の係数アンプ25Aを介して加算器26の他の入力に結合されている。加算器26の出力は、制御パラレルコードINBとしてベクタ・量子化器22に入力される。
この構成では、前回と前々回の処理時の履歴情報が参照される。この2回の処理時の履歴情報をどのような比率で重み付けるかは係数アンプ25Aと25Bのゲイン比で決まる。一次のミスマッチ低減構成の制御パラレルコードINBの値は、「1」と「0」の二値しかないので、優先順位を決める精度が相対的に低くなりやすいが、二次のミスマッチ低減構成は前回と前々回の履歴情報を重み付けされた値が用いられることから、その値が多様であり、より精度よく優先順位を決めることができる。
また、この構成では係数アンプ25を通るフィードフォワードループによって発振防止が図られ、動作が安定する。
【0044】
このように二次のミスマッチ低減構成では、履歴情報の参照範囲が一次の場合より広く、かつ精度が高いことから、図6(B)と図6(C)に比較して示すように、1ビット型デジタルアナログ変換部の特にアナログ素子などの製造バラツキ等に起因したミスマッチ・トーンが抑制され、より高いミスマッチ低減性能が得られる。また、このときゲイン比を最適化することによって、ミスマッチ低減性能の最適化が可能である。
【0045】
ただし、二次のミスマッチ低減構成は、2つの積分器23Aと23Bを搭載しており、加算器26や係数アンプ25Aと25Bなどの他の構成も一次の構成の場合に対して付加されている。積分器23Aと23Bの各々は、たとえばメモリにデータを格納して読み出す構成が採られ、実装面積が大きくなりやすい。このため二次のミスマッチ低減構成は、性能は高いが実装面積が一次の場合より大きい。
これに対し、一次のミスマッチ低減構成は、前回の反転情報を保持するだけでよいので制御パラレルコードINBの生成が、簡単なシフタ動作で実現でき実装面積は随分と小さい。
【0046】
なお、後段の1グループ内の1ビット型デジタルアナログ変換部数もミスマッチ低減構成の面積に密接に関係する。この数が減れば積分器23A,23Bのメモリ容量が減り、またベクタ・量子化器22内で、優先順位を決めるための制御コード値の大小比較を並列に行う構成がより簡素にできることから、ミスマッチ低減構成の実装面積が減る。
さらに、後段の1グループ内の1ビット型デジタルアナログ変換部数が小さいと、その平均の使用率が均一化しやすく、その意味でミスマッチ低減性能も良くなる。
【0047】
本実施の形態では、図4に示す1ビットDAC13-1〜13-Nは入力が「1」の場合のみ動作してアナログの電流または電圧を出力し、N個のDAC出力が加算器14によって加算されることによってアナログ出力y[N]が得られる。これをローパスフィルタ15に通すことによって広域ノイズ成分が除去されたアナログ出力信号OUTが得られる。
【0048】
つぎに、実装例におけるバリエーションを説明する。
図7において、サーモメータエンコーダ11によるサーモメータエンコーディングの機能は、各スレーブ処理手段の入力段に持たせることができる。
また、マルチプルコードC1multipleを生成するときのビットシフトの機能も各スレーブ処理手段の入力段に置いてもよい。
【0049】
さらに、この実装例では、マスタDEM手段20は剰余コードC0を各スレーブ処理手段に対しDEM手法に基づいて割り当てる制御を行うが、剰余値は頻繁に変化し、マルチプルコードC1multipleが示す逓培値に比べるとランダム性が高い。また、剰余値に対してスレーブDEMで再度DEM処理が行われる。そのため、マスタDEM手段20自体を省略することができ、このようにしても大きくミスマッチ低減性能が劣ることはない。この場合、マスタ処理手段の機能としては、入力信号値を剰余値とNの逓倍値に分ける機能とサーモメータエンコーディングの機能のみとなる。
【0050】
図7に示すサーモメータエンコーダ11からスレーブDEM手段21までのデジタルエンコーダの機能は、その一部または全部をプログラム処理に置き換えが可能である。具体的には、たとえば、その前段のΔΣ変調器10におけるDSPで、これらの機能の一部または全部を実行させることが可能である。とくに図6に示すサーモメータエンコーダ11が担う機能は比較的容易にDSPに取り込めることができ、またマスタDEM手段20、さらにはスレーブDEM手段21が行う処理手順は比較、遅延、メモリの処理手順の集合であることからDSPによるデジタル処理が可能であり、そのプログラム手順に置き換え可能である。
つまり本発明における「マスタ処理手段」、「スレーブ処理手段」、「マスタDEM手段」、「スレーブDEM手段」、「入力変換手段」の一部または全部をプログラム手順に置き換え、これらの手順をDSP等のコンピュータに実行させることが可能である。なお、本発明でDEM手段が行う処理をプログラムの処理手順に置き換える場合、実装面積という観点はなく、処理効率とミスマッチ低減性能のトレードオフの緩和が、本発明の目的であり効果となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係るデジタルエンコーダのブロック図である。
【図2】素子数を16とした場合の素子グループ数と実装面積比およびDEM性能比との関係を示すグラフである。
【図3】スレーブDEMの次数は二次のままで、マスタDEMを一次のシェービング構成に変更した場合を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るΔΣ型のデジタルアナログ変換器の基本構成を示すブロック図である。
【図5】ΔΣ変調部10の構成を示すブロック図である。
【図6】(A)〜(C)は、ノイズ抑圧の様子を、横軸が周波数、縦軸が信号あるいはノイズパワーで模式的に示すグラフである。
【図7】サーモメータエンコーダから加算器までの実装例を示すブロック図である。
【図8】(A)は一次のミスマッチ低減構成(本例ではマスタDEM手段)の基本構成を示す図、(B)は二次のミスマッチ低減構成(本例ではスレーブDEM手段)の基本構成を示す図である。
【図9】従来のDEM構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0052】
1,20…マスタDEM手段、2,21…スレーブDEM手段、10…ΔΣ変調部、11…サーモメータエンコーダ、12…DEM処理手段、13-1〜13-N…1ビットDAC、14…加算器、15…ローパスフィルタ、22…ベクタ・量子化器、23A,23B…積分器、24…ビット反転器、25A,25B…係数アンプ、26…加算器、IN0…入力信号、OUT…アナログ出力信号、C1,C1res.,C2,INA…パラレルコード、C0…剰余コード、C1multiple…マルチプルコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチビットのデジタル入力信号を、所定のパラレルコードにエンコードするマスタ処理手段と、
それぞれ3以上の出力ノードを備え、前記マスタ処理手段からパラレルに出力されたコードを、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて、前記3以上の出力ノードの配列に対応し、かつ重み付けが各コードで同じパラレルコードにエンコードし、当該パラレルコードを3以上の出力ノードから並列に出力する複数のスレーブ処理手段と、
を有するデジタルエンコーダ。
【請求項2】
前記マスタ処理手段におけるデジタル入力信号のパラレルコードへのエンコードが所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて複数の出力ノードの配列に対応するように行なわれる請求項1に記載のデジタルエンコーダ。
【請求項3】
前記マスタ処理手段は、
前記入力信号の値をスレーブ処理手段の個数であるNで割った余りを表現する剰余値を示す剰余コードと、複数のスレーブ処理手段に共通に与えられることによってNの逓倍値を示すことが可能なマルチプルコードとを算出して前記入力信号を前記剰余コードと前記マルチプルコードとに変換する入力変換手段と、
前記入力変換手段から出力される前記剰余コードを入力し、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて前記剰余コードを複数の出力ノードの配列に対応するパラレルコードにエンコードするマスタDEM手段とを備え、
前記スレーブ処理手段は、前記入力変換手段から出力される前記マルチプルコードと前記マスタDEM手段から出力されるパラレルコードとを入力し、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づくエンコードを行うスレーブDEM手段を備える
請求項2に記載のデジタルエンコーダ。
【請求項4】
前記スレーブDEM手段の個数が2のベキ乗に設定されている
請求項3に記載のデジタルエンコーダ。
【請求項5】
前記入力変換手段に、前記マルチプルコードをビットシフトして前記Nの逓倍値を出力する手段を含む
請求項4に記載のデジタルエンコーダ。
【請求項6】
前記スレーブ処理手段の各々の入力段に、前記マルチプルコードをビットシフトして前記Nの逓倍値を出力する手段を含む
請求項4に記載のデジタルエンコーダ。
【請求項7】
前記剰余コードと前記マルチプルコードのうち、少なくとも剰余コードについて、前記入力信号を入力してから前記スレーブDEM手段に入力されるまでの経路で、当該経路上の信号をサーモメータコードに変換するサーモメータエンコーダをさらに有する
請求項3〜6の何れかに記載のデジタルエンコーダ。
【請求項8】
デジタル入力信号を重み付けが各コードで同じコード列にエンコードして各コードを複数の出力ノードから並列に出力するデジタルエンコーダと、前記デジタルエンコーダから並列に出力されるコードをそれぞれ入力する複数の1ビット型デジタルアナログ変換部とを有するデジタルアナログ変換器であって、
前記デジタルエンコーダが、
前記入力信号を、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて複数の出力ノードの配列に対応するパラレルコードにエンコードするマスタ処理手段と、
それぞれ3以上の出力ノードを備え、前記マスタ処理手段から並列に出力されたコードを、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて、前記3以上の出力ノードの配列に対応し、かつ重み付けが各コードで同じパラレルコードにエンコードし、当該パラレルコードを3以上の出力ノードから前記複数の1ビット型デジタルアナログ変換部に並列に出力する複数のスレーブ処理手段と、
を有するデジタルアナログ変換器。
【請求項9】
前記マスタ処理手段は、
前記入力信号の値をスレーブ処理手段の個数であるNで割った余りを表現する剰余値を示す剰余コードと、複数のスレーブ処理手段に共通に与えられることによってNの逓倍値を示すことが可能なマルチプルコードとを算出して前記入力信号を前記剰余コードと前記マルチプルコードとに変換する入力変換手段と、
前記入力変換手段から出力される前記剰余コードを入力し、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて前記剰余コードを複数の出力ノードの配列に対応するパラレルコードにエンコードするマスタDEM手段とを備え、
前記スレーブ処理手段は、前記入力変換手段から出力される前記マルチプルコードと前記マスタDEM手段から出力されるパラレルコートとを入力し、所定のダイナミック素子整合アルゴリズムに基づくエンコードを行うスレーブDEM手段を備える
請求項8に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項10】
前記スレーブDEM手段の個数が2のベキ乗に設定されている
請求項9に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項11】
前記入力変換手段に、前記マルチプルコードをビットシフトして前記Nの逓倍値を出力する手段を含む
請求項10に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項12】
前記スレーブ処理手段の各々の入力段に、前記マルチプルコードをビットシフトして前記Nの逓倍値を出力する手段を含む
請求項10に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項13】
前記剰余コードと前記マルチプルコードのうち、少なくとも剰余コードについて、前記入力信号を入力してから前記スレーブDEM手段に入力されるまでの経路で、当該経路上の信号をサーモメータコードに変換するサーモメータエンコーダをさらに有する
請求項9〜12の何れかに記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項14】
第1ダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいてマルチビットのデジタル信号を第1配列に対応する第1コード列にエンコードする第1処理手段と、
第2ダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて前記第1コード列のコードを各コードの重み付けが同じでありかつ第2配列に対応する第2コード列にそれぞれエンコードする複数の第2処理手段と、
前記第2コード列のコードをそれぞれ入力する複数の1ビット型デジタルアナログ変換手段と、
前記複数の1ビット型デジタルアナログ変換手段の各出力を加算する加算手段と、
を有するデジタルアナログ変換器。
【請求項15】
前記第1ダイナミック素子整合アルゴリズムが一次のミスマッチ低減構成により実現され、前記第2ダイナミック素子整合アルゴリズムが二次のミスマッチ低減構成により実現される請求項14に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項16】
前記第1ダイナミック素子整合アルゴリズム及び前記第2ダイナミック素子整合アルゴリズムが二次のミスマッチ低減構成により実現される請求項14に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項17】
前記第1処理手段が、
前記第2処理手段の数であるNで前記デジタル信号を除算した結果の剰余を示す剰余コードと、前記除算の商に対応して前記Nの逓倍値を示すマルチプルコードとを算出し、前記デジタル信号を前記剰余コードと前記マルチプルコードとに変換する変換手段と、
前記剰余コードを入力して前記第1ダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいて前記剰余コードを所定の配列に対応するコード列にエンコードする第1DEM手段と、
を有し、
前記第2処理手段が、前記マルチプルコードと前記第1DEM手段のエンコード結果とを入力して前記第2ダイナミック素子整合アルゴリズムに基づいてエンコードを行なう第2DEM手段を有する請求項14に記載のデジタルアナログ変換器。
【請求項18】
前記第1ダイナミック素子整合アルゴリズムが一次のミスマッチ低減構成により実現され、前記第2ダイナミック素子整合アルゴリズムが二次のミスマッチ低減構成により実現される請求項17に記載のデジタルアナログ変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−19988(P2006−19988A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194984(P2004−194984)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(390020248)日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 (219)
【Fターム(参考)】