説明

デバイスの製造方法

【課題】生産性が高く大型化を可能にした、デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】蒸着源302から有機材料を基材10A上に斜方蒸着することで有機半導体層を形成するデバイスの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(デバイス)の分野では、エネルギー変換効率を高めるために、複数の太陽電池素子膜を積層してなる太陽電池(所謂タンデム型太陽電池)の開発が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。
このような太陽電池は、比較的短い波長の光を吸収する太陽電池素子膜(結晶系単位セルが非晶質半導体)を受光面の近くに配置し、比較的長い波長の光を吸収する太陽電池素子膜(結晶系単位セルが結晶質半導体)を受光面から離れた位置に配置することで幅広い波長帯域の光を効果的に吸収するようになっている。
【特許文献1】特公平6−50782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、このような太陽電池を製造するには、例えばプラズマCVD法などを用いて複数の太陽電池素子膜を基板上に並べて形成するといった方法が採用されていた。しかしながら、従来の方法では、生産性が低いことから太陽電池を大型化するのが難しかった。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、生産性が高く大型化を可能にした、デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のデバイスの製造方法は、蒸着源から有機材料を基材上に斜方蒸着することで有機半導体層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0006】
本発明のデバイスの製造方法によれば、基材上に所定の角度で配列された柱状構造物(カラム)から構成される有機半導体層が形成される。この有機半導体層は、後述する実験結果に示されるように太陽電池の構成材料として好適である。また、蒸着法を用いることで有機半導体層を大型基材上に効率的に形成することができる。
【0007】
また、上記デバイスの製造方法においては、前記蒸着源として、前記基材の幅に対応するライン状蒸着源を用いるのが好ましい。
この構成によれば、基材の幅に対応したライン状蒸着源を用いることで基材上に均一な膜厚の有機半導体層を形成することができる。すなわち、本発明は大型基材上に均一な有機半導体層が形成されたデバイスを製造する場合に特に有効である。
【0008】
また、上記デバイスの製造方法においては、前記蒸着源としてフラーレンを用いるのが好ましい。
このような材料を蒸着源として用いることで、斜めに成長したカラムを多数有する有機半導体層が形成され、太陽電池の構成材料として好適なものを得ることができる。
【0009】
また、上記デバイスの製造方法においては、前記有機半導体層の形成工程において、異なる有機材料を斜方蒸着して積層有機半導体構造を形成するのが好ましい。
この構成によれば、例えばタンデム構造の太陽電池における単位セルのような有機半導体層積層構造を良好に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0011】
以下の実施形態では、デバイスの製造方法として太陽電池を製造する場合を例として説明する。はじめに本実施形態にかかる製造方法によって製造された太陽電池の構成について図面を参照しつつ説明する。図1は太陽電池1の概略断面構成を示す図である。
【0012】
太陽電池1は、pin単位セルを2個以上有する所謂タンデム構造の太陽電池であり、具体的に本実施形態では2つの第一単位セル(積層有機半導体構造)A1と第二単位セル(積層有機半導体構造)A2とを備えるものである。太陽電池1は、ガラス2上に設けた透明電極3と金属電極6との間に上記第一単位セルA1と第二単位セルA2とが挟持された構成となっている。
【0013】
また、第一単位セルA1と透明電極3との間にはコンタクトを良好にするための有機バッファー層4が形成されている。また、第二単位セルA2と金属電極6との間にも同様に有機バッファー層5が形成されている。
【0014】
第一単位セルA1はpin単位セルから構成され、具体的にはp型半導体層(有機半導体層)7、i型半導体層(有機半導体層)8、及びn型半導体層(有機半導体層)9から構成されている。
【0015】
第二単位セルA2についてもpin単位セルから構成され、具体的にはp型半導体層(有機半導体層)10、i型半導体層(有機半導体層)11、及びn型半導体層(有機半導体層)12から構成されている。
【0016】
上記各層の膜厚は、p型半導体層7,10を5nmとし、i型半導体層8,11を15nmとし、n型半導体層9,12を30nmとし、各単位セルA1,A2においてトータル膜厚が50nmに設定される。これら第一、第二単位セルA1,A2は、後述する蒸着装置を用いた真空蒸着法によって形成される。
【0017】
p型半導体層7,10は、フタロシアニンの誘導体(ZnPc)から構成される。また、n型半導体層9,12は、フラーレン(C60)から構成される。また、i型半導体層8,11は、ZnPcとC60とを混合したナノ構造層(ZnPc:C60)から構成される。このナノ構造層(ZnPc:C60)は電子と正孔の数が略同数であるため、マクロには真性半導体層とみなすことができる。このようなナノ構造体を導入することで分子レベルでのp−n接合形成を可能とするナノp−n接合が多数形成されることで光電変換層の実効的厚みが増加し、高いエネルギー変換効率が得られるようになっている。
【0018】
続いて、上記太陽電池1の製造方法に一実施形態について説明する。本発明の製造方法は、太陽電池1における上記第一、第二単位セルA1,A2を、有機半導体材料を蒸着することで形成する点に特徴を有しており、それ以外の工程については従来技術で用いられる手法と同様である。したがって、以下の説明では第一、第二単位セルA1,A2の製造工程を主に説明することとし、それ以外の工程については説明を省略若しくは簡略化する。
【0019】
まず、上記第一、第二単位セルA1,A2を形成するための製造装置について説明する。
図2は上記第一、第二単位セルA1,A2(太陽電池1)の製造に用いられる蒸着装置の概略構成を示した全体図である。
この蒸着装置300は、上述した第一、第二単位セルA1,A2を構成する材料からなる蒸着源302と、基材10Aを蒸着源302に対して所定角度傾斜させて配設する基板配設部307とを具備する蒸着室308と、蒸着室308を真空にするための真空ポンプ310と、を備えている。なお、本実施形態の蒸着装置300では、図2(b)に示すように、上記蒸着源302としてライン状蒸着源302aを用いている。
【0020】
ライン状蒸着源302bを用いることにより、図2(b)に示すようにライン方向(長手方向)に沿って材料が広範囲に拡がるようになっている。したがって、材料が放射状に分布する点状蒸着源を用いた場合に比べ、ライン状蒸着源302bは、ライン方向における材料の分布の均一性が高く、したがってライン方向に沿って材料を均一に成膜することができる。
【0021】
また、上記ライン状蒸着源302aの長さは、被蒸着体となる基材10Aの幅とほぼ同じとなっている。これにより、上記基板10Aをライン状蒸着源302aに対して、図2(a)中矢印A方向に移動させることにより、基材10A(有機バッファー層5が形成された金属電極6)上に有機半導体材料を成膜し、第一、第二単位セルA1,A2を形成することができる。
【0022】
また、上記ライン状蒸着源302aと上記基板10Aとの間には、ライン状蒸着源302aを挟むようにして相対向する規制板303が一対設けられている。なお、上記規制板303はライン方向、すなわち図2(b)に示したライン状蒸着源302aの長手方向に沿って設けられている。このような構成により、上記ライン方向(長手方向)に直交する方向への蒸着材料の拡がりが上記規制板303によって規制される。
【0023】
また、上記規制板303の外面側にはランプヒータ(図示せず)等の加熱手段が設けられていて、これにより上記規制板303の少なくとも内面側を加熱することで加熱面としている。また、上記加熱手段として、上記規制板303にニクロム線などを埋め込んだ抵抗加熱型のものを採用してもよい。なお、この加熱面の温度としては、上記ライン状蒸着源302bから蒸発した材料が衝突した際に、材料が加熱面に付着しない程度の温度に設定される。これにより、上記材料が衝突した際に、材料が規制板303の内面(加熱面)に付着することなく反射することができる。
【0024】
続いて、上記蒸着装置300を用いて基材10A(バッファー層5が形成された金属電極6)上に例えば第二単位セルA2を形成する方法について説明する。
まず、真空ポンプ310を作動させることで蒸着室308を真空化し、さらに加熱装置(図示略)により蒸着源302を加熱することで蒸着源302からフラーレン(C60)の蒸気を発生させる。
【0025】
本実施形態においては、上述したようにライン方向に沿ってのみ規制板303を形成しているものの、蒸着源302としてライン状のもの(ライン状蒸着源302b)を用いるために材料をライン方向に均一に拡がらせることができる。
【0026】
上記蒸着源302から拡がった材料が規制板303に衝突する。このとき、上記規制板303の内面側は上述したように加熱面となっているので、材料は規制板303の内面側に衝突した際に付着することなく反射される。
【0027】
そして、規制板303に挟まれた領域内で、材料の衝突、及び反射が繰り返されることにより、規制板303の直交方向(ライン方向の直交方向)における材料の分布が均一化される。すなわち、材料は、上述したライン方向、及びライン方向に直交する方向の分布が均一となっているので、基材10A上に均質な膜状体を形成することができる。
【0028】
材料は、上記規制板303に挟まれた領域を通過した後、所定の角度で基材10Aの表面に成膜される。
ここで、上記規制板303を通過した後の材料は均一な分布を有しているものの、各粒子の方向性にはバラツキが生じている。本蒸着装置300では規制板303の端部と基材10Aとを所定の距離だけ離間して配置することで所望の方向以外の材料が基材10A上に成膜されるのを防止している。
これにより、基材10A上に上記n型半導体層12を形成することができる。ここで、n型半導体層12はフラーレン(C60)分子が基材10A上に所定角度で配列された柱状構造物(カラム)から構成される(図3参照)。以下同様にしてi型半導体層11、p型半導体層11を蒸着装置300によって積層し、第二単位セルA2を形成できる。なお、第一単位セルA1についても同様に蒸着装置300を用いて形成できる。
【0029】
このようにして形成された第一、第二単位セルA1,A2を有する太陽電池1は、後述する実験結果に示される特性を有するとともに高い光エネルギー変換効率を得ることができる。
【0030】
以下に上記蒸着装置300により斜め蒸着されたフラーレン(C60)から構成される上記n型半導体層9,12を例に挙げ、その特性について説明する。
【0031】
図3は上記蒸着装置300によって成膜されたフラーレンから構成される半導体層(n型半導体層9,12)のSEM写真を示すものである。上記実施形態に係る製造方法によって製造されたフラーレン(n型半導体層9,12)は、図3に示されるように所定の角度で配列された柱状構造物(カラム)から構成されていることが確認できる。このような柱状構造物から構成される上記n型半導体層9,12は後述するように太陽電池の構成要素として特に好適である。
【0032】
図4は上記蒸着装置300によって形成したフラーレン(n型半導体層9,12)に対してX線結晶構造解析を行った結果を示すグラフであり、同図(a)はフラーレン(C60)の粉末に対応し、同図(b)はフラーレン(C60)が斜方蒸着されたn型半導体層9,12に対応するものである。
【0033】
ここで、X線回折とはX線が結晶格子によって回折される現象である。すなわち、X線構造解析とは、上記X線回折現象を利用して物質の結晶構造を調べるものであって、X線の回折の結果を解析して結晶内部で原子がどのように配列しているかを決定することができる。
【0034】
以下、X線結晶構造解析について簡単に説明する。
X線結晶構造解析では、具体的に有機半導体層100の試料を粉末にしてホルダーに詰めて解析装置内にセットし、試料に対してX線を入射角θで当て、反射光の反射角θを検出する。なお、X線の波長としては通常用いられる、1.5406ÅのCuから出る単色光を用いる。
【0035】
X線結晶構造解析において、例えば(100)面で回折が起こるような角度(θ1)にX線管と検出器が来たときには、試料粉末(n型半導体層9,12)中には(100)面がホルダー面と平行になる粒子が必ず存在している。この場合、検出器には反射光が入射する。
また、例えば(111)面で回折が起こるような角度(θ2)にX線管と検出器が来たときにも、試料粉末(n型半導体層9,12)中には(111)面がホルダー面と平行になる粒子が存在する。この場合、検出器には反射光が入射する。
【0036】
このようにして、角度θを変化させて行くことで結晶のすべての面からの回折を観測し測定した結果が図4に示されるものである。同図中、横軸は反射光が検出された角度(2θ)であり、縦軸の反射光強度である。
【0037】
図4(a),(b)に示されるグラフからn型半導体層9,12は結晶構造的にはアモルファスであることが確認できる。
【0038】
続いて、n型半導体層9,12における光透過率及び吸光度測定の結果を図5に示す。ここで、吸光度とは、特定の波長の光に対して物質の吸収強度を示す尺度である。図5に示されるように波長600nm以下では吸光度が高くなると共に透過率が低下しているのが分かる。すなわち、n型半導体層9,12は600nm以下の光を吸収する特性を有している。
【0039】
図6、7は分光エリプソメータを用いて分光エリプソ測定を行った結果を示すものであり、図6は比較対象としてのシリコン基板における測定結果を示すものであり、図7はフラーレン(C60)(n型半導体層9,12)における測定結果を示すものである。
【0040】
ここで、分光エリプソとは物質の表面で光が反射するときの偏光状態の変化(入射と反射)を観測し、そこから物質に関する情報を求める方法である。図6、7のそれぞれ(a)に示されるグラフでは、縦軸がs偏光とp偏光の反射振幅比角ψを示し、横軸が入射光の波長を示している。また、図6、7のそれぞれ(b)に示されるグラフでは、縦軸がs偏光とp 偏光の位相差Δを示し、横軸が入射光の波長を示している。なお、各グラフには入射光の入射方位を異ならせた測定結果を示す複数のプロットが図示されている。
【0041】
ところで、上述したようにn型半導体層9,12は、分子構造がシンメトリーで結晶性のない薄膜であるものの、図6、図7に示されるように光学的には光入射方位によって振幅・位相差が変化するものであることが分かる。
【0042】
すなわち、n型半導体層9,12は複屈折性を呈する。
この複屈折性はn型半導体層9,12を構成する所定角度で配列される柱状構造物(カラム)に起因するものである。
【0043】
上述したように柱状構造物(カラム)によって、第一、第二単位セルA1,A2に含まれるp型半導体(ZnPc)分子とn型半導体(C60)分子とが互いの接触面積が増加している。
【0044】
よって、このような特性を有するn型半導体層9,12を含んで構成される第一、第二単位セルA1,A2を有する上記太陽電池1は、高エネルギー変換効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】太陽電池の概略断面構成を示す図である。
【図2】太陽電池の製造に用いられる蒸着装置の概略構成図である。
【図3】フラーレンのSEM写真を示す図である。
【図4】n型半導体層に対して行ったX線結晶構造解析の結果を示す図である。
【図5】n型半導体層における光透過度及び吸光度測定の結果を示す図である。
【図6】分光エリプソ測定の結果を示す参考図である。
【図7】n型半導体層における分光エリプソ測定の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1…太陽電池(デバイス)、7…p型半導体層(有機半導体層)、8…i型半導体層(有機半導体層)、9…n型半導体層(有機半導体層)、10…p型半導体層(有機半導体層)、11…i型半導体層(有機半導体層)、12…n型半導体層(有機半導体層)、302…蒸着源、302a…ライン状蒸着源、A1…第一単位セル(積層有機半導体構造)、A2…第二単位セル(積層有機半導体構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着源から有機材料を基材上に斜方蒸着することで有機半導体層を形成する工程を有することを特徴とするデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記蒸着源として、前記基材の幅に対応するライン状蒸着源を用いることを特徴とする請求項1に記載のデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記蒸着源としてフラーレンを用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記有機半導体層の形成工程において、異なる有機材料を斜方蒸着して積層有機半導体構造を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−81275(P2009−81275A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249545(P2007−249545)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】