説明

トコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン

【課題】
健康食品用途で使用される抗酸化原料であるトコトリエノールに対し、シクロデキストリン(CyD)を用いることにより、原料1分子に対し数分子のCyDで包接された擬ロタキサン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
トコトリエノールがシクロデキストリンに包接されて、擬ロタキサンを形成しているトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トコトリエノールをシクロデキストリン (以下、CyDと示す)に包接させた擬ロタキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康食品分野で抗酸化活性を有する原料として知られているトコトリエノール等は、光や紫外線で劣化する或いは原料の取り扱いなどのハンドリングが劣るなどの問題点を有している。
【0003】
特許文献1(特開2006−249050 号公報)は、ファルネソール、メナキノン、トコフェロール、コエンザイムQ10をγシクロデキストリンに包接させることにより、安定化された複合体とすることができ、飲食品、化粧品、医薬品へ適用される旨記載されている。製法としては混練法が用いられている。
【0004】
特許文献2(2003−238402号公報)には、α-トコフェロールと濃縮された水性のβ又はγ-CyD を用いて強力に攪拌又は混練することにより複合体を形成する方法が記載されているが、反応時間が1時間以上かかる。
本発明の製造方法ではトコフェロールと類似化合物のトコトリエノールにて約5分の短時間の反応時間にて複合体が形成されることを確認できている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−249050号公報
【特許文献2】特開2003−238402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、健康食品用途で使用される抗酸化原料であるトコトリエノールに対し、シクロデキストリン(CyD)を用いることにより、原料1分子に対し数分子のCyDで包接された擬ロタキサン及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、健康食品用途で使用される抗酸化原料であるトコトリエノールとCyDを、溶解度法を用いて、分子レベルにて接触させることにより、原料自体の安定性等の物性改善や原料の取り扱いなどに関するハンドリング性の改善された擬ロタキサン粉末を製造する方法である。更に、溶媒除去、遠心分離、乾燥などの工程を加えることにより性状の優れた擬ロタキサン粉末を製造することができる。
【0008】
(1)トコトリエノールがシクロデキストリンに包接されて、擬ロタキサンを形成しているトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン
(2)シクロデキストリンが、βシクロデキストリン又はγシクロデキストリンであることを特徴とする(1)記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
(3) 擬ロタキサンを形成しているモル比は、トコトリエノール:シクロデキストリン=1:2であることを特徴とする(1)又は(2)記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた粉末剤、顆粒剤又は錠剤。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた経口剤。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた皮膚外用剤。
(7)(1)〜(3)のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた健康食品。
(8)(1)〜(3)のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた化粧料。
(9)トコトリエノールを、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、トコトリエノールをシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法であって、前記シクロデキストリンの量として、擬ロタキサンを形成するトコトリエノールとシクロデキストリンのモル比に対して、シクロデキストリンのモル比を高い量とすることを特徴とするトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
トコトリエノールをシクロデキストリン(CyD)に溶解度法を用いて包接することにより、安定性、保存性、ハンドリング性が向上した、擬ロタキサンを形成する粉末を製造することができる。
本願発明により、光、紫外線、空気による酸化など要因によるトコトリエノールの劣化を減少させる擬ロタキサン粉末を製造することができた。液状であるトコトリエノールは、粉末化させることにより原料取り扱いなど、ハンドリング性を向上させることができる剤型に製造することができる。トコトリエノールなどは光に対し不安定である為、褐色瓶など遮光の保存容器を用いる必要があるが、本発明品は保存容器に関しても透明容器の適用も可能となる。トコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンは、経時安定性に優れた効果が期待でき、酸化が抑制されるのでハンドリング性が向上し、医薬品や健康食品に用いる粉末剤、顆粒剤、錠剤、分散剤に加工性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう「擬ロタキサン」とは、「擬ロタキサン」あるいは「擬ロタキサン」類似の複合体に由来する沈殿物となる超分子複合体のことをいう。
本発明の「擬ロタキサン」とは、環状分子の開口部(回転子:rotator) が直鎖状分子 (軸:axis) によって、串刺し状に包接されたような構造体のことであり、安定性が高められた加工原料又は加工粉末となりうる。超分子複合体とも呼ぶことができる。なお、ロタキサン は、貫通した直鎖状分子である軸の両末端に嵩高い部位が形成されていて、立体障害で環状分子のリングが軸から抜けなくなった状態の構造物である。擬ロタキサンは、軸であるゲスト化合物をホストの環状化合物から分離して、利用しやすいと考えて本発明を検討した。また、ロタキサンを形成するためには、食品, 健康食品分野では使用できない反応試薬を利用しなければならないため、本発明には適さない。
【0011】
<CyD>
本発明に使用した CyD とは、数分子のグルコースがα (1→4)グルコシド結合によって結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種(図1参照)である。グルコースの個数により異なるα (6個)、β (7個)、γ (8個) 型を用いることができる。とりわけβおよびγ型が本発明には適している。
【0012】
CyD は分子内に疎水性の空洞を有し、空洞径に応じて種々のゲスト分子を取り込んで包接複合体を形成することが知られている。CyD の超分子的な包接特性は、難水溶性薬物の可溶化や安定性の改善、放出制御、バイオアベイラビリティーの改善、苦味・悪臭および局所刺激性の軽減、油状あるいは低融点物質の粉体化、揮発性の防止など、食品、化粧品、医薬品などの多方面で利用されている。
【0013】
<トコトリエノール>
本発明に用いたトコトリエノールは総トコトリエノール65%以上、総トコフェロール類としては92%以上含有する黄色〜赤褐色を呈する粘性の液体である。
【0014】
【化1】

【0015】
<製法>
本発明に使用したトコトリエノールを CyD に包接させる方法として、溶解度法を用いる。溶解度法とは、CyD の溶液を調製し、一定量のゲスト化合物、すなわち、トコトリエノールを添加し、攪拌混合することにより、沈殿物を得て、液成分除去後乾燥させることにより包接体を単離する方法である。CyD溶液が飽和溶液の場合、飽和溶液法或いは飽和水溶液法と呼ぶこともできる。また溶解度法を用いる際に、イソプレノイド化合物原料を飽和溶液に添加した直後に超音波を短時間施すことにより、分散性を向上させ、反応しやすくすることができる。
溶解度法では、多量の水を使用していることで、水を反応媒体として、薬物とCyDが相互作用しやすく、短時間で複合体形成性のよい粉末が得られ、単離も容易であるので、トコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを得ることができる。なお、混練法では、ペースト状になった混練体が得られ、生成効率が悪く、未反応物を除去する工程が多く、単離作業が繁雑であって、擬ロタキサンが生成したとしても非包接トコトリエノールが混在するので、酸化が避けられず、製剤用素材としては不適当である。混練法は、通常混練作業が開放状態で行われるので、空気 (酸素) に接触し、反応中にこの酸化が進行することとなる。溶解度法では密閉した状態で振とう攪拌が可能であるので、製造工程の酸化防止管理も容易である
なお、混練法とはシクロデキストリンと一定量のゲスト化合物に水を少量加えて、ミキサーなどの攪拌機を用いてペースト状にし、乾燥などにより水分を除去することにより複合体を得る方法である。この混練法は、少量の水を反応媒体に用いている為、水に不安定な薬物などに対しては、加水分解反応などによるデメリット面を極力防ぎ、少量の水を反応媒体としてミキサー攪拌によるせん断力などの作用により包接複合体を形成させる製法である。ミキサーから回収するときにペースト状のためハンドリング性も悪い。
【0016】
溶解度法を用いて本発明品を調製する場合、トコトリエノールと CyD の量を多くする。これは、トコトリエノールと反応しやすくする作用、及び、反応中であっても溶液中に溶解している CyD 量を確保し続け、擬ロタキサン形成反応を効率よく維持することができる。
本発明の溶解度法では、攪拌 (振とう) 時間を5分という短時間でも擬ロタキサンの形成が認められ、きわめて短時間に擬ロタキサンが形成できることが確認できた。
【0017】
反応して得られた沈殿物の事後処理として、減圧乾燥処理によって、乾燥粉末とすることが好ましい。凍結乾燥法は、擬ロタキサンの構造が壊れる可能性がある。
【0018】
<擬ロタキサン確認手段>
得られた複合体が擬ロタキサンであるか否かは、粉末X線回折を用いて確認することができる。擬ロタキサンと断定するには、厳密的には単結晶X線構造解析或いは原子間力顕微鏡により証明する必要がある。また、擬ロタキサンはその性質上、沈殿物として得られる可能性が高いため、肉眼観察によりある程度予測することはできる。
粉末X線回折により、擬ロタキサン類似の超分子複合体を示す回折ピークと、既知の別の擬ロタキサンとを比較して、擬ロタキサン構造形成の有無を確認している。
【0019】
<トコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン粉末の用途>
本発明品は、その使用用途により、カプセル剤、錠剤、散剤、液剤、軟膏、クリーム剤等の剤形に製剤配合処方成分の一つとして用いることができる。特に、安全性の点で経口摂取用、経皮吸収用、皮膚外用剤として適している。
本発明品は、混練法よりも比較的高純度の擬ロタキサン粉末を得ることが可能である為、混練体に比べ、粉末の経時的安定性に優れ、粉末の未包接或いは擬ロタキサン化されていない箇所について薬物の部分的な劣化等が生じ難いものと考えられる。その結果、長期における保存安定性が確保されたり (品質保持期限の長期設定)、他原料との配合による薬物劣化の抑制 (製剤処方の簡便化) などに繋がる。
また、擬ロタキサン形成性が高い粉末であることは、擬ロタキサンからの薬物のコントロールドリリースなどの製剤処方設計を行う上では重要なファクターとなりうる。
【0020】
特に錠剤の配合処方の一つとして使用する場合、錠剤の製造方法として直接粉末圧縮法(直打法) の利用に適している。直打法は、湿式顆粒圧縮法 (通常のいわゆる湿式法) に比べ、その製造工程上、工業的にも安価な製法である。
【実施例】
【0021】
1. 試料および溶媒
(1)トコトリエノール
トコトリエノール((Tocotrienol)エーザイフード・ケミカル (株) 製トコリット 92)を用いた。
(2)CyD(シクロデキストリン)
β-CyD、γ-CyD(日本食品化工 (株)製)を用いた。
(3)溶媒
溶媒としての H2O はイオン交換精製水を 2 回蒸留して用いた。
【0022】
2. トコトリエノール/CyDs 複合体の調製
【0023】
2-1. トコトリエノール/γ-CyDおよびトコトリエノール/β-CyD溶解度法調製品の調製方法
実験操作は、窒素置換、遮光下で行った。 トコトリエノール98 mgに232 mg/mL γ-CyD 水溶液 5.1 mL を添加、またはトコトリエノール24.5 mg に18.5 mg/mLβ-CyD 水溶液 12.8 mL を添加し、激しく攪拌した。 超音波を 数十秒あて、一定時間振とう (100 rpm) した。 反応液を7000 rpm、10 分間遠心後、上清を除去し、未反応のβ-CyD またはγ-CyD を取り除いた。 数時間〜一晩減圧乾燥することで、本発明品を得た。なお振とうは各々、5分間の設定条件にて実施した。
【0024】
2-2.トコトリエノール/β-CyD混練体の調製(混練法)
実験操作は遮光下で行った。 トコトリエノール とβ-CyD (モル比約 1:2〜1:3) を H2O を添加しながら瑪瑙乳鉢で混練し、一晩減圧乾燥することで、混練体を得た。なお混練時間は各々、5分間とし、添加したH2O量はトトコトリエノール/β-CyD(モル比約1:2)の場合3.3ml、トコトリエノール/β-CyD(モル比約1:3)の場合5mlの設定条件にて実施した。試料の配合量を以下に示す。
[トコトリエノール/β-CyD(モル比約1:2)] トコトリエノール854.00mg、β-CyD粉末4.540g
[トコトリエノール/β-CyD(モル比約1:3)] トコトリエノール854.00mg、β-CyD粉末6.810g
【0025】
3.沈殿物形成の肉眼的観察
一般に CyDの擬ロタキサンは隣接する CyD 間で水素結合するため、水分子との水素結合ができなくなり難水溶性となる。本実験では、トコトリエノール各々を、予め調製した各種CyD飽和水溶液に添加し、溶解度法の調製条件にしたがって調製した溶液について肉眼観察を行い、写真撮影を行った。なお、比較溶液としてH2Oのみに添加した状態の観察及び写真撮影も行った。
図2はイソプレノイド化合物/CyD 超分子複合体の調製終了時における溶液を肉眼観察した結果を示す。
【0026】
Tocotrienol単独において、水では油状に分離した。一方、β- および γ-CyD 水溶液を添加した系では白色沈殿物が確認された。トコトリエノールは通常液体であるので、これによって、粉末状態で保存や処理ができることとなる。
【0027】
トコトリエノール は β- または γ-CyD と超分子複合体を形成する可能性が示唆された。
トコトリエノールがどの CyD と 擬ロタキサン類似の超分子複合体を形成するかに関しては、目視観察以外に確認検討が必要であるが、イソプレノイド側鎖の二重結合の位置やメチル基の間隔がそれぞれのイソプレノイド化合物で異なることから、分子の柔軟性や太さなどが擬ロタキサン類似の超分子複合体形成の可否に関係していると予想されるので、擬ロタキサン類似物質の形成を予期することができる。
【0028】
4. トコトリエノール/CyDs 複合体の構造
4-1. 粉末 X 線回折装置
粉末 X 線回折測定により、粉末試料を用いた場合に、横軸に回折角, 縦軸に回折強度をとった粉末X線回折図を作成することができる。粉末X線回折は、試料の同定, 結晶性の評価, 結晶化度etc.の測定に用いられる。今回は主に試料の同定に用いている。
粉末 X 線回折は理学電気(株) 製 RINT 2500 VL 型自動X 線回折装置を使用し、試料をガラスセルに固定して測定した。 測定条件は以下の通りである。 Cu-Ka 線 (1.542 A); 管電圧:40 kV; 管電流:40 mA; 走査速度:1°/min; 回折角:5°〜35°; スリット:1°-1°-0.15 mm
一般にCyD 複合体結晶の構造はかご型、層状、筒型構造の 3 つに分類される。このうちCyD 擬ロタキサン の結晶構造は筒型構造を形成することが知られている。そこで超分子複合体中の CyD とトコトリエノールとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末 X 線回折測定を行った。
【0029】
4-3. 連続変化法
一定量のトコトリエノール、に各濃度の γ-CyD 水溶液 (0, 58, 116, 174, 232 mg/mL) または β-CyD 水溶液(0, 4.625, 9.25, 13.875, 18.5 mg/mL) を添加し、上記のトコトリエノール/CyD超分子複合体の調製時と同様の操作を行った。振とう時間は全て1日とした。 得られた沈殿物の重量より収率を算出した。
【0030】
5.トコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの分析結果
5−1.トコトリエノール/β-, γ-CyD 溶解度法調製品の粉末 X 線回折の結果
トコトリエノール/β- およびγ-CyD複合体の固体試料の粉末 X 線回折パターンから、β- およびγ-CyD はこれら化合物のトコトリエノール側鎖を包接し、CyD 超分子複合体は筒型構造を形成することが示唆された。試料として、溶解度法によって得られた試料及び混練法によって得られた試料は、上記2で調製して得られた試料を用いた。
【0031】
本発明品粉末中のトコトリエノールとβ-およびγ-CyDとの固体状態における相互作用を確認するために、粉末X線回折測定を行った。なお比較原料として、β-CyD単独, γ-CyD単独, トコトリエノール/β-CyD混練体および擬ロタキサンの形成が確認されているPPG/β-CyD 複合体およびPPG/γ-CyD 複合体の回折パターンを以下に示す (図3,4)。なお、本発明品及び混練体は各々5分間、振とう或いは混練して調製した粉末である。図3はトコトリエノール/γ--CyD、図4は トコトリエノール/β-CyD系の比較図である。
【0032】
図3の粉末X線回折パターン結果より、トコトリエノール/γ-CyD溶解度法調製品において、PPG/γ-CyD 複合体と同様の筒型構造に特徴的な回折パターンを示したことから、溶解度法調製品は超分子複合体を形成しているものと考えられる。
【0033】
図4の粉末X線回折パターン結果より、β-CyD単独では10.7°、12.5°及び19.5°付近に特徴的なピークを有し、PPG/β-CyDでは、6.6〜7.0°及び11.7°付近に特徴的なピークを有していることがわかる。混練体 (モル比1:2, 1:3) においては、β-CyD 由来の10.7°、12.5°及び19.5°付近の特徴的なピークが認められた。このことより、混練体においてはトコトリエノールと未反応のβ-CyDが多く存在することを示している。
一方、溶解度法調製品においては、β-CyD 由来の12.5°及び19.5°付近の特徴的なピークが認められず、PPG/β-CyD由来の6.6〜7.0°及び11.7付近の特徴的なピークが顕著に認められ、全体的な回折パターンも類似していることから、溶解度法調製品は擬ロタキサン様の複合体の形成性が高い、すなわち純度の高い目的とする複合体が得られていると考えられる。なお、溶解度法調製品のトコトリエノール/β-CyD複合体のモル比は、HPLC測定により、ほぼ1:2であるという結果が得られた為、混練体より優位に複合体が形成されていることが言える。
【0034】
5−2 HPLC (高速液体クロマトグラフィー)による定量
「トコリット92」はトコトリエノールとトコフェロールの混合溶液であり、内トコトリエノールを65%以上含有し、トコフェロールを加えた溶液としては全体の92%以上含有する混合溶液である。このような多成分混合溶液の場合、1H-NMRスペクトル測定よりもHPLCによる定量測定の方が適切であると考え、その有効成分含量を算出することによりトコトリエノール/γ-CyD複合体およびトコトリエノール/β-CyD複合体のおおよその組成を導き出すことにした。トコトリエノールとトコフェロールは構造式が類似しており、その分子量も比較的近いことから、正確な数値は算出できないが、おおよその数値は算出できるものと考えられる。
【0035】
<トコトリエノール / β-CyD及びγ-CyD溶解度法調製品 HPLC分析条件>
トコトリエノールは、食品添加物公定書 第8版 のトコトリエノールの定量法に従い測定した。
試験品の総トコトリエノール約0.025gに対応する量を精密に量り、水5mL、ヘキサン10mLを加え5分間激しく攪拌し、3,000rpm5分間遠心分離し、ヘキサン層を回収した。N-ヘキサンにて、正確に100mLとし検液とした。別に定量用d-α-トコフェロール、定量用d-β-トコフェロール、定量用d-γ-トコフェロール、定量用d-δ-トコフェロールをそれぞれ約0.05gずつ精密に量り、それぞれ褐色メスフラスコに入れ、ヘキサンを加えて正確に100mLとし、標準原液とした。試料中のトコトリエノール同族体の組成比と対応するトコフェロール同族体の組成がほぼ同じになるように標準原液を正確に量って混合し、標準液とした。検液及び標準液をそれぞれ10μLずつ量り、次の操作条件で液体クロマトグラフィーを行った。
【0036】
カラム Shiseido Silica SG120 (5μm 4.6mmID×250mm)
カラム温度 40℃
検出器 紫外吸光光度計(UV295nm)
移動相 ヘキサン:ジオキサン:2プロパノール 985:10:5
流速 1mL/min
【0037】
HPLCによる定量試験を実施した結果、得られた本発明品において、トコトリエノール一分子に対し、約2分子のCyDを有しているという結果が得られた。
【0038】
5-3. 連続変化法による擬ロタキサンの生成結果
Tocotrienol/CyD 超分子複合体の収率は一次関数的に増大することが確認できた。この結果から、Tocotrienol超分子複合体は濃度依存的に収率が上昇することが示唆された。
【0039】
Tocotrienol/CyD超分子複合体の収率
Tocotrienolを用いてCyD超分子複合体の収率に対する濃度の影響を検討した。(図5)β- およびγ-CyD いずれの系においても、CyDs 濃度の上昇に伴い超分子複合体の収率は一次関数的に増大し、154 mg/mLβ-CyD 水溶液は約 43 %、232 mg/mLγ-CyD は約 80 % まで達した。
【0040】
6.結果
前記の分析試験によって、溶解度法を用いた製造方法によって有利にトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン粉末が製造できることが判明した。
溶解度法を用いることにより、Tocotrienolは、ゲスト化合物としてシクロデキストリンに包接された粉末状の擬ロタキサンが製造できた。
Tocotrienol に β- および γ-CyD 水溶液を添加し、5分間振とうすると、擬ロタキサン類似のTocotrienol/β- および γ-CyD 超分子複合体の沈殿物が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】シクロデキストリン環状構造を表す図
【図2】トコトリエノール/CyD超分子複合体調整溶液の肉眼用写真
【図3】X線回析パターン(トコトリエノール/γ−CyD)
【図4】X線回析パターン(トコトリエノール/β−CyD)
【図5】トコトリエノール/CyD超分子複合体の収率を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコトリエノールがシクロデキストリンに包接されて、擬ロタキサンを形成しているトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
【請求項2】
シクロデキストリンが、βシクロデキストリン又はγシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
【請求項3】
擬ロタキサンを形成しているモル比は、トコトリエノール:シクロデキストリン=1:2であることを特徴とする請求項1又は2記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた粉末剤、顆粒剤又は錠剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた経口剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた健康食品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンを用いた化粧料。
【請求項9】
トコトリエノールを、飽和溶解度以上のシクロデキストリンを添加した水溶液に混合して、振とう攪拌することにより、トコトリエノールをシクロデキストリンに包接させて擬ロタキサンを製造する方法であって、前記シクロデキストリンの量として、擬ロタキサンを形成するトコトリエノールとシクロデキストリンのモル比に対して、シクロデキストリンのモル比を高い量とすることを特徴とするトコトリエノール/シクロデキストリン包接型擬ロタキサンの製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−269828(P2009−269828A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119165(P2008−119165)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】