説明

トラクタの機体構造

【課題】 エンジン、クラッチハウジング、ミッションケース、デフケース、等を順次連結して一体型の機体ボディを構成し、デフケースに後輪を軸支するとともに、エンジンの下部に備えた前フレームに前車軸ケースを支持したトラクタの機体構造において、機体ボディの左右外側面に沿って配備連結した補助フレームの機能を高いものにする。
【解決手段】 機体ボディAの左右外側面に沿う縦向き板材からなる補助フレーム31を、前フレーム10の後部からミッションケース5に亘って連結し、この補助フレーム31を機体ボディAの下端より下方に突出して配備するとともに、ミッションケース5の下部に備えたミッドPTO軸28を左右の前記補助フレーム31で囲まれた空間内に配備してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタの機体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
中型あるいは小型のトラクタは、エンジン、クラッチハウジング、ミッションケース、デフケース、等を順次連結して一体型の機体ボディを構成し、デフケースに後輪を軸支するとともに、エンジンの下部に備えた前フレームに前車軸ケースを支持した構造のものが多く、また、例えば、特許文献1に示されているように、モーアやフロントローダなどの作業装置を容易に連結することができるとともに、作業負荷や重量負荷に対する強度不足を補うために、機体ボディの左右横側に沿って前後に長い縦板状の補助フレームを連結することも行われている。
【0003】
【特許文献1】特開平2−177803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように補助フレームを導入することで、任意の仕様の作業装置を支持するのに好適な連結構造を容易に構成することができるとともに、作業負荷などに対応した補強を行うことができるものであり、本発明は、この補助フレームの機能を更に高めて一層実用性に優れたトラクタの機体構造を得られるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、エンジン、クラッチハウジング、ミッションケース、デフケース、等を順次連結して一体型の機体ボディを構成し、前記デフケースに後輪を軸支するとともに、前記エンジンの下部に備えた前フレームに前車軸ケースを支持したトラクタの機体構造であって、
前記機体ボディの左右外側面に沿う縦向き板材からなる補助フレームを、前記前フレームの後部からミッションケースに亘って連結し、この補助フレームを機体ボディの下端より下方に突出して配備するとともに、前記ミッションケースの下部に備えたミッドPTO軸を左右の前記補助フレームで囲まれた空間内に配備してあることを特徴とする。
【0006】
上記構成によると、凹凸の大きい作業地や残根や岩が露出しているような不整地を走行する際に、地面の隆起部や異物が機体ボディに接近しても、補助フレームの下端に先に当たることで、左右の補助フレームの間に隠されたミッドPTO軸に隆起部や異物が接触することが防止される。
【0007】
また、前後輪の間に昇降可能に装着したモーアをミッドPTO軸に軸連動して駆動する場合、モーアを大きく上昇さて移動走行する際に、モーアとミッドPTO軸とを連動連結する軸伝動機構の大部分が左右の補助フレームの間に隠されてしまうことになり、ミッドPTO軸を駆動したまま走行したとしても軸伝動機構に他物が接近して巻き付くようなことが未然に回避される。
【0008】
従って、第1の発明によると、補助フレームの導入によって任意の仕様の作業装置を支持するのに好適な連結構造を容易に構成することができるとともに、作業負荷などに対応した補強を行うことができるのみならず、補助フレームをミッドPTO軸やこれに連結された軸伝動機構の保護カバーとしの機能をも発揮させることができ、もって、補助フレームの機能を更に高めて一層実用性に優れたトラクタの機体構造を得ることができる。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記デフケースの下部に牽引ヒッチを連結するとともに、この牽引ヒッチの前部を左右に延出して前記補助フレームの後部に連結してあるものである。
【0010】
上記構成によると、牽引ヒッチに働く牽引負荷の一部が補助フレームに分散されることになり、補助フレームは所期の機能のみならず牽引負荷に対する強度メンバーとしも機能し、補助フレームの機能が更に高いものもとなる。また、補助フレーム後部の機体ボディへの連結強度が高いものとなり、牽引ヒッチと補助フレームとが互いに補強し合って機体ボディの強度向上に一層有効となる。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記牽引ヒッチに、作業装置連結用の3点リンク機構におけるロアーリンク支点を設けてあるものである。
【0012】
上記構成によると、ロアーリンク支点に作用する作業装置の重量負荷や牽引負荷の一部が補助フレームに分散されることになり、第2の発明の上記効果を助長する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、本発明に係る機体構造を備えたトラクタが示されている。このトラクタは、エンジン1、クラッチハウジング2、板金構造のハウジングフレーム3、主変速装置4、ミッションケース5、および、デフケース6が縦列状に順次連結されて機体ボディAが構成された構造となっており、デフケース6に左右の後輪7が軸支されるとともに、左右の前輪8を操向自在に備えた前車軸ケース9が、エンジン1の下部に連結された前フレーム10の下部にローリング自在に装着支持されている。また、デフケース6の上部にリフトシリンダ11を内装したシリンダケース12が連結されるとともに、リフトシリンダ11で駆動されるリフトアーム13が装備されており、デフケース6の後部に装備された3点リンク機構14がリフトアーム13によって揺動駆動されるようになっている。
【0014】
図5の縦断面図に示すように、前記ハウジングフレーム3は、板材を下向きコの字状に屈曲した主材3aと底板材3bとをL形の補強材3cを介して溶接連結して前後方向に向かう筒状に構成されるとともに、図6に示すように、主材3aの後部から補強板3dがミッションケース5の前部上面まで延出されて主変速装置4およびミッションケース5の上面にボルト連結され、ハウジングフレーム3と主変速装置4およびミッションケース5の連結強度が高められている。また、図7に示すように、デフケース6の上部に連結されたシリンダケース12の下部フランジ12aがミッションケース5の上にまで延出され、ミッションケース5の上面に沿って配備した補強板15と下部フランジ12aとが共締め状態でミッションケース5とデフケース6とに亘ってボルト連結され、もって、ミッションケース5とデフケース6との連結強度が高められている。
【0015】
図2のこのトラクタの伝動系が示されている。前記エンジン1からの動力はクラッチハウジング2に内装された主クラッチ21介して主変速装置4に入力され、ここで正逆に無段変速された走行系の変速動力が副ギヤ変速機構22に伝達され、この副ギヤ変速機構22で3段に変速された走行系動力がデフ機構23に伝達された後、左右の後輪7に伝達される。また、副ギヤ変速機構22から出力された走行系動力の一部は主変速装置4を貫通する前輪駆動軸24を介して前方に出力されて前車軸ケース9に伝達されるようになっている。
【0016】
なお、主変速装置4は、周知構造の油圧式無段変速装置(HST)が利用されており、可変容量型のアキシャルプランジャポンプPの斜板角度を運転部でのペダル操作によって変更して吐出方向および吐出油量を変更することで、定容量型のアキシャルプランジャモータMの回転方向および回転速度を無段階に変更し、もって、前後進の切換えと零速発進が可能な無段変速走行を行うよう構成されている。
【0017】
そして、アキシャルプランジャポンプPに入力されたエンジン動力の一部はそのままミッションケース5に伝えられ、PTOクラッチ25、PTOモード選択機構26を経た後、デフケース後部に突設されたリヤPTO軸27、および、ミッションケース5の下端部に前向きに突設したミッドPTO軸28に伝達可能となっている。ここで、前記PTOモード選択機構26は、シフト部材29を前後にシフト操作することで、リヤPTO軸27のみを駆動するモード、リヤPTO軸27とミッドPTO軸28を共に駆動するモード、および、ミッドPTO軸28のみを駆動するモードのいずれか一つを選択することができるものであり、作業形態に応じたPTO駆動形態を得ることができるようになっている。また、PTOモード選択機構26の伝動上手に配備されたPTOクラッチ25は油圧操作式の多板クラッチで構成され、選択されたリヤPTO軸27およびミッドPTO軸28への動力伝達を運転部でのレバー操作によって任意に断続することができるものである。
【0018】
上記のように構成された機体ボディAの左右外側面に沿って補助フレーム31が配備連結されている。この補助フレーム31は、図4に示すように、前後に長い縦向きの厚板材で構成されており、前記前フレーム10の後部からミッションケース5に亘って配備されて、前フレーム10、クラッチハウジング2、主変速装置4の横側面にそれぞれボルト連結されている。そして、図3および図5に示すように、この補助フレーム31の下端は、機体ボディAの下端より下方に突出されており、左右の補助フレーム31で囲まれた空間内に前記ミッドPTO軸28が配備されている。
【0019】
前記デフケース6の下方には、トレーラや各種牽引型の作業装置を連結する牽引ヒッチ32が装備されている。この牽引ヒッチ32は、図4中に示すように、前後方向に向かう角筒材からなるヒッチ本体32aと、その左右に連設したブラケット32bと、ヒッチ本体32aの前端に連設された幅広いのステー部32cとで構成されており、ブラケット32bがデフケース6の後端面にボルト連結されている。また、牽引ヒッチ32のブラケット32bは前記3点リンク機構14を構成するロアーリンク14aの基端を枢支連結するロアーリンク支点xとしても機能するものである。そして、牽引ヒッチ32の前端に連設されたステー部32cの左右外側面に前記補助フレーム31の後端部が重合されてボルト連結されている。
【0020】
前記補助フレーム31には、前後輪間にモーア35を昇降可能に装着する場合の昇降アーム支点となる透孔36が予め設けられている。図8,9,10に示すように、前記透孔36に挿通された支点軸37から左右一対の昇降アーム38が延出され、この昇降アーム38にモーア支持用の吊り下げリンク39が連結される。なお、支点軸37の一端に設けた操作アーム40と、前記ブラケット32bに枢支連結した駆動アーム41とがロッド42を介して連結され、油圧駆動されて上方揺動されるロアーリンク14aで駆動アーム41に備えた突片41aを係合して上方に回動させることで昇降アーム38を上昇揺動させるようになっている。
【0021】
〔他の実施例〕
【0022】
(1)図11に示すように、前記補助フレーム31を前フレーム10の後部からデフケース6の後部に亘る長さにして実施することもできる。
【0023】
(2)前記主変速装置4をミッションケース5に内装し、エンジン1とミッションケース5とを板金構造のハウジングフレーム3で連結するよう機体ボディAを構成したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】トラクタの全体側面図
【図2】伝動系統図
【図3】機体ボディの側面図
【図4】補助フレームの斜視図
【図5】ハウジングフレーム部位の縦断正面図
【図6】機体ボディの一部を示す斜視図
【図7】機体ボディの後部を示す斜視図
【図8】モーア装着仕様に構成されたトラクタの全体側面図
【図9】モーア昇降構造を示す側面図
【図10】モーア昇降構造を示す平面図
【図11】別実施例の補助フレームを取付けた機体ボディの側面図
【符号の説明】
【0025】
1 エンジン
2 クラッチハウジング
5 ミッションケース
6 デフケース
7 後輪
9 前車軸ケース
10 前フレーム
14 3点リンク機構
28 ミッドPTO軸
32 牽引ヒッチ
A 機体ボディ
x ロアーリンク支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、クラッチハウジング、ミッションケース、デフケース、等を順次連結して一体型の機体ボディを構成し、前記デフケースに後輪を軸支するとともに、前記エンジンの下部に備えた前フレームに前車軸ケースを支持したトラクタの機体構造であって、
前記機体ボディの左右外側面に沿う縦向き板材からなる補助フレームを、前記前フレームの後部からミッションケースに亘って連結し、この補助フレームを機体ボディの下端より下方に突出して配備するとともに、前記ミッションケースの下部に備えたミッドPTO軸を左右の前記補助フレームで囲まれた空間内に配備してあることを特徴とするトラクタの機体構造。
【請求項2】
前記デフケースの下部に牽引ヒッチを連結するとともに、この牽引ヒッチの前部を左右に延出して前記補助フレームの後部に連結してある請求項1記載のトラクタの機体構造。
【請求項3】
前記牽引ヒッチに、作業装置連結用の3点リンク機構におけるロアーリンク支点を設けてある請求項1または2記載のトラクタの機体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−25737(P2006−25737A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211761(P2004−211761)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】