説明

トラクタ

【課題】大幅な部品の共通化及びコストダウンを可能とする操作力連係手段40を備えたトラクタを提供することを目的とする。
【解決手段】操作力連係手段40は、支持ブラケット42と、連結ロッド46と、操作アーム48とからなり、支持ブラケット42が、ミッションケース13上方を機体左右方向に亘ってデフロック操作部材12を支持する。デフロック操作部材12が、オペレータの踏み込み操作によって回動すると、連結ロッド46、操作アーム48を介して、連結部材49が回動し、連結部材49が回動することによってシフトアームがデフロックスリーブをディファレンシャルギアと噛合させ、デフロック手段を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの動力を伝動装置及びディファレンシャル装置を介して左右の後車輪に伝達すると共に、前記ディファレンシャル装置の差動機能を停止するデフロック手段を備えてなるトラクタに関し、詳しくはデフロック手段とデフロック手段を操作する操作部材とを連係する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧式無段変速装置を備えたトラクタにおいて、機体の進行方向右側に変速ペダル(変速操作部材)を配置し、ディファレンシャル装置による左右後輪の差動を停止させるデフロック装置(デフロック手段)を操作するデフロックペダル(デフロック操作部材)を、機体の進行方向左側に配置したものがある(特許文献1参照)。
【0003】
前記トラクタは、デフロックペダル(デフロック操作部材)の支持軸と、デフロック装置の操作軸(連結部材)とが機体の同一側に配置され、デフロックペダルの支持軸とデフロック装置の操作軸とを連係機構(操作力連係手段)によって直接連係する構造となっている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−96136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記操作力連係手段は、デフロック操作部材の支持軸をミッションケースに設けなければならず、また、デフロック操作部材の支持軸と、連結部材とを機体の同一側に配設しなければならない。
【0006】
そのため、連結部材が機体の一側に配設され、デフロック操作部材を機体の他側に配設しなければならない場合、ミッションケース内を経由させ、デフロック操作部材の支持軸と連結部材とを連係させる必要があり、ミッションケースへの機械加工が必要となる。また、デフロック操作部材の支持軸をミッションケースに設けるには、デフロック操作部材の支持軸を、オイルシールを介してミッションケースに組み付けなければならない。
【0007】
本発明は、デフロック操作部材と、デフロック手段とを、ミッションケース上方を機体左右方向に跨いで連係することによって、上記課題を解決したトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、エンジンからの動力をミッションケース(13)内に配置された伝動装置及びディファレンシャル装置(21)を介して左右の後車輪(3)に伝達すると共に、前記ディファレンシャル装置(21)の差動機能を停止するデフロック手段(22)を備えてなるトラクタにおいて、
前記ミッションケース(13)の左右一側に、前記デフロック手段(22)に連結して油密状に該ミッションケース(13)から外部に突出する連結部材(49)を配置し、
前記ミッションケースの左右他側に前記デフロック手段(22)を操作するデフロック操作部材(12)を配置し、
前記デフロック操作部材(12)から、前記ミッションケース(13)の上方を跨いで該ミッションケース(13)の一側に導かれ、前記連結部材(49)に連結するように、操作力連係手段(40)を配設した、
ことを特徴とするトラクタにある。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記伝動装置が油圧伝動装置であり、該油圧伝動装置を操作する変速操作部材(9)が、前記ミッションケース(13)の一側に配置されてなる、
請求項1記載のトラクタにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によると、ミッションケースの一側に、デフロック手段及び外部に油密状に突出するその連結部材が配置されているものにおいて、ミッションケースの他側にデフロック手段を操作するデフロック操作部材を配置したものであっても、ミッションケースの上方を跨ぐように配置した操作力連係手段により上記操作部材と連結部材とを連係したので、ミッションケースの内部を経由して両者を連係するものに比し、ミッションケースの機械加工及び操作部材の支持軸をオイルシールを介してミッションケースに組付ける作業等が不要となり、デフロック操作部材及び操作力連係手段の組立も簡単になることが相俟って、コストダウンを達成することができ、またデフロックの操作系を始めとしてメンテナンス性も向上することができる。
【0011】
請求項2に係る本発明によると、伝動装置に油圧伝動装置を用い、その操作用の変速操作部材をミッションケースの一側に配置することが可能となり、大幅な部品の共通化により、製品の多様化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1に示すように、本実施の形態に係るトラクタは、前輪(車軸2を示す)及び後輪(車軸3を示す)によって支持されている走行機体1を有している。走行機体1の前方中央部にはボンネット4に覆われたエンジンが搭載されており、ボンネット4の後方にはステアリングハンドル5等を有する操作部が設けられている。ステアリングハンドル5の後方には運転座席6が設けられており、運転座席6の下方位置にはエンジンからの回転動力を左右後輪に伝達する油圧式無段変速装置が設けられている。
【0013】
運転座席6の前部床面10には、機体進行方向右側に左右ブレーキペダル11a、11b及び変速ペダル(変速操作部材)9が設けられており、機体進行方向左側には、クラッチペダル7及び後述するデフロック装置22をロック状態及び解除状態に切り換えるデフロックペダル(デフロック操作部材)12が設けられている。
【0014】
図2に示すように、エンジンからの回転動力を伝動する入力軸20は、ディファレンシャルギア(ディファレンシャル装置)21と噛合し、ディファレンシャルギア21は、左右一対のデフシャフト24と噛合している。該デフシャフト24は、アクセルシャフト34に挿通されたギア35と噛合し、エンジンからの回転動力をアクセルシャフト34に伝動することによって、左右後輪3を回転駆動させる構成となっている。
【0015】
また、機体進行方向右側に設けられたデフシャフト24には、デフロック装置22が装備されている。該デフロック装置22の一部を形成するデフロックスリーブ25は、デフシャフト24にスプライン嵌合しており、シフトアーム28の回動によって、スプリング26に抗してディファレンシャルギア21と噛合する。デフロック装置22は、デフロックスリーブ25と、ディファレンシャルギア21と、が噛合することによって、解除状態からロック状態へと切り換わる構造になっている。
【0016】
更に、左右のデフシャフト24の機体外側端部には、2枚のディスク30と、ディスク30間に介装されたセパレータ31と、からなる湿式多板ブレーキ機構が、アクセルケース14の内側と、ホルダー板32と、の間に同軸上に配設されている。これらブレーキ機構は、アクセルケース14を貫通して外部に突設されたブレーキアーム33を、ブレーキペダル11a、11bの踏込操作により左右別々に操作することによって制動する。
【0017】
図3及び図4に示すように、前記デフロック装置22を操作するデフロックペダル12は、そのペダル部12aが走行機体1の進行方向左側に設けられており、該デフロックペダル12は、連係機構(操作力連係手段)40によりミッションケース13の上方を跨いで、機体右側のミッションケース13から突出したデフロック装置22の操作軸49と連結している。
【0018】
連係機構40は、デフロックペダル12を支持する支持ブラケット42と、デフロックペダル12からの動力を、デフロック装置22の操作軸49に伝動する連結ロッド46及び操作アーム48から成り立っている。
【0019】
支持ブラケット42は、ボルトによってミッションケース13上方かつ機体左右方向に亘って立設されている板状部材であり、立設部43と、支持部44と、から成り立っている。立設部43は、ミッションケース13の機体左右方向両端にボルトによって立設されており、支持部44は、立設部43間を渡すように(ミッションケース13上方を跨ぐように)、立設部43上に固設されている。また、支持部44は、断面半円形状の切欠き部44aと、円孔部44bと、をその両端に有しており、デフロックペダル12が、支持部44の右端に設けられた円孔部44bに挿通され、かつ、他端に設けられた切欠き部44a上に載置されることによって、デフロックペダル12を支持している。
【0020】
デフロックペダル12は、先端にペダル部12aを有するL字状の長い丸棒状の部材からなり、機体右側端において連結ロッド46と連結しており、連結ロッド46は、連結アーム48と連結している。連結アーム48は、デフロック装置22の操作軸49と連結している。なお、連結ロッド46は、ボールジョイントであり、その全長を調節可能な構成となっている。
【0021】
以下、上記構成の連係機構40を有したトラクタの作用について説明する。
【0022】
圃場等の作業を行う場合、オペレータは、機体右側に配置された変速ペダル9を操作することによってトラクタを無段階に変速させて走行しつつ、作業機により作業を行う。また、該トラクタは、旋回の際には、ステアリングハンドル5を旋回したい方向に操作すると、ディファレンシャル装置21によって、回転内側の後車輪よりも回転外側の後車輪が多く回転して旋回し、これにより、連続して作業を行うことができる。
【0023】
しかし、軟弱地や、砂地等の土壌条件が悪い場所での作業では、トラクタは、通常直進走行時でも、泥土等によって、片車輪がスリップして空転してしまう場合がある。このような場合、トラクタのオペレータは、機体左側に配置されたデフロックペダル12を踏み込む。
【0024】
オペレータがデフロックペダル12を踏み込むと、デフロックペダル12は、デフロックペダル12に固設されたストッパ部材50が、支持ブラケット42の底部44cと当接するまで回動する。デフロックペダル12は、支持ブラケット42によって支持され、ミッションケース13の上方を跨いで、走行機体右側まで延設しており、その右側端部において連結ロッド46と連結している。そのため、デフロックペダル12が回動すると、連結ロッド46が連動する。連結ロッド46は、操作アーム48と連結しているため、連結ロッド46が、デフロックペダル12の回動と連動すると、操作アーム48が回動する。
【0025】
操作アーム48は、デフロック装置22の操作軸49と連結されており、操作アーム48が回動すると、デフロック装置22の操作軸49も回動する。また、デフロック装置22の操作軸49は、ミッションケース13内に設けられたシフトアーム28と連係しており、操作軸49が回動することによって、シフトアーム28も回動する。
【0026】
スプリング26によって機体外方に付勢されていたデフロックスリーブ25は、シフトアーム28の回動動作により摺動し、ディファレンシャルギア21と噛合する。デフロックスリーブ25がディファレンシャルギア21と噛合すると、ディファレンシャル装置21による左右後輪3の差動が停止する。
【0027】
オペレータは、左右後輪3が同一回転数で回転することによって、泥土によるスリップからトラクタを効果的に脱出させることができ、上記スリップを未然に回避することもできる。そのため、上記トラクタは、土壌条件の悪い場所においても継続して円滑に作業をすることができる。
【0028】
また、本発明に係るトラクタは、連係装置40をミッションケース13上方に跨ぐ形で構成したため、デフロックペダル12の支持軸と、デフロック装置22の操作軸49と、が機体の同一側になくても良く、例えば、GEAR変速のトラクタのミッションケースを、油圧式無段変速装置により変速するトラクタが使用することも可能となる。
【0029】
更に、ミッションケース13の上方に設けられた支持ブラケット42は、ミッションケース13のボルトによって固設されているため、ミッションケース13に対して新たな機械加工を必要としなく、デフロックペダル12の支持軸をミッションケース13に設ける必要もない。
【0030】
よって、オイルシールを介してデフロックペダル12をミッションケース13に組付ける必要も無く、大幅な部品の共通化や、連係機構40及びデフロックペダル12の組立工程が容易になり、それと相俟ってコストダウン及び製品の多様化を計ることができる。また、連係機構系40のメンテナンス性も向上する。
【0031】
なお、本実施の形態では、連係機構40を、デフロックペダル12を機体左側、デフロック装置22の操作軸49を機体の右側に設けたトラクタ用に構成したが、デフロックペダル12を機体右側、デフロック装置22の操作軸49を機体左側に設けたトラクタに対して用いられるように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るトラクタの平面図。
【図2】伝動装置の内部を示した要部断面図。
【図3】機体正面視右側からのデフロックペダルの連係機構を表した斜視図。
【図4】機体正面視左側からのデフロックペダルの連係機構を表した斜視図。
【符号の説明】
【0033】
9 変速ペダル(変速操作部材)
12 デフロックペダル(デフロック操作部材)
13 ミッションケース
21 ディファレンシャルギア(ディファレンシャル装置)
22 デフロック装置(デフロック手段)
40 連係機構(操作力連係手段)
49 操作軸(連結部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力をミッションケース内に配置された伝動装置及びディファレンシャル装置を介して左右の後車輪に伝達すると共に、ディファレンシャル装置の差動機能を停止するデフロック手段を備えてなるトラクタにおいて、
前記ミッションケースの左右一側に、前記デフロック手段に連結して油密状に該ミッションケースから外部に突出する連結部材を配置し、
前記ミッションケースの左右他側に前記デフロック手段を操作するデフロック操作部材を配置し、
前記デフロック操作部材から、前記ミッションケースの上方を跨いで該ミッションケースの一側に導かれ、前記連結部材に連結するように、操作力連係手段を配設した、
ことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記伝動装置が油圧伝動装置であり、該油圧伝動装置を操作する変速操作部材が、前記ミッションケースの一側に配置されてなる、
請求項1記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−162375(P2008−162375A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353165(P2006−353165)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】