説明

トラック車両のための操舵駆動

差動操舵駆動装置はトラックのための駆動シャフトを相互接続する駆動差動装置と、操舵及びピボット旋回のためにトラックに対して加算的又は減算的な回転を与える操舵差動装置とを有する。高速トラック車両のための好ましい実施の形態においては、駆動差動装置は全歯車クラッチ無し形式の制限スリップ差動装置であり、操舵差動装置は無制限スリップ差動装置である。差動装置は直線経路を走行するか又は少なくとも1つのトラックが牽引力を有する場合に旋回を行わせるスリップ無しトラック作動を提供するように構成される。ピボット旋回低速オフロード車両のための別の実施の形態においては、駆動及び操舵差動装置の双方は全歯車クラッチ無し形式の制限スリップ差動装置である。さらに、両方の実施の形態は好ましくは各トラックに関連するそれぞれの対の駆動軸に送給されるトルクを分割するための付加的な左側及び右側の全歯車クラッチ無し形式の制限スリップ差動装置を含む。

【発明の詳細な説明】
【関連する出願に対するリファレンス】
【0001】
このPCT出願は「STEER DRIVE FOR TRACKED VEHICLES」という名称の2006年10月27日に出願された継続中の出願番号11/553,592号の一部継続出願である「STEER DRIVE FOR TRACKED VEHICLES」という名称の2007年10月25日に出願された継続中の米国特許出願番号11/924,022号明細書に開示された1又はそれ以上の発明を請求する。上述の出願は参照としてここに組み込む。
【技術分野】
【0002】
本発明はトラック車両の分野に関する。特に、本発明は極端に低い牽引状態の下でのトラック車両の改善された性能のための差動装置を備えた操舵駆動装置に関する。
【背景技術】
【0003】
トラック車両のための差動操舵システムは周知である。このような従来のトラック操舵システムはしばしば「二重差動装置」、「操舵駆動装置」及び「クロス駆動変速機」のような用語により特定され、このような従来の操舵システムは角度的に調整可能な旋回軸を有しない複車輪オフロード車両に等しく適用できる。この従来技術について、米国特許第4,776,235号明細書に開示されたグリースマン(Gleasman) 操舵駆動装置は、トルベク社(Torvec, Inc.)により作られた全地域トラック車両(「FTV」(登録商標名))で行われた試験において、比較的安価で、著しく効果的であることが証明された。グリースマン操舵駆動装置を使用すると、舗装高速道路を高速道路速度で走行する場合及びオフロード地域を走行する場合に、運転手は、各トラックに対して別個の左右の制御レバーを備えた更に昔のブルドーザー形式の駆動装置と対比して、従来の操舵輪即ちハンドルを備えたFTV車両を容易に操舵できる。
【0004】
従来技術の教示は、ある従来の形の無制限スリップ差動伝動装置のみが、駆動軸シャフトの差動的な回転を阻害しないように、車両のエンジンとトラック駆動装置との間で使用できることを示している。トラック車両のためのすべての従来の差動操舵装置は車両のエンジンとトラック駆動装置との間である従来の形の無制限スリップ差動伝動装置を使用する。明らかに、当業者は、このような駆動差動装置はいかなる制限スリップ装置をも持たない差動装置でなければならないものと信じてきた。
【0005】
広範囲にわたる試験中、FTVトラック車両が普通ではない低い牽引力を必要とする部分を含む地域上で旋回している場合に、問題が顕著化した。たとえば、車両の一方のトラックが極端に柔らかいぬかるみを走行する場合、そのトラックは時たますべての牽引力を失うことがあり、「スリップ」が開始する。これは、従来の無制限スリップ差動装置を備えたトラックにおいて生じる望ましくないスリップに似ており、この場合、1つの組の駆動車輪はぬかるみ、氷面又は雪面上でスリップを開始する。FTV車両が旋回し、車両の1側の全体のトラックが牽引力を失った場合、旋回が中断する。他の形式の差動駆動装置においては、トラックが旋回時にスリップを続けた場合、車両の駆動トルクが完全に失われることがある。
【0006】
米国特許第4,776,235号明細書で説明されているように、トラック車両が直線的に前進又は後進しており、操舵ホイール(ハンドル)が運転手により保持されている限り、グリースマン操舵駆動装置は「スリップ無し」である。このスリップ無し状態は、車両の操舵駆動装置の操舵ウォーム/ウォームホイールの組み合わせが無運動状態に保持される場合に、両方のトラックの駆動装置が一緒に係止(ロック)されるという事実から由来する。この状態の下では、トラック駆動装置のシャフトは、あたかも、いかなる分離差動装置をも伴わずに直線軸上にあるように、作動する。それにも拘わらず、この従来の操舵駆動装置の操舵モータ駆動が旋回のための異なるトラック速度を加えた場合、操舵ウォーム/ウォームホイールの組み合わせは回転し始め、この係止状態が失われる。すなわち、操舵駆動装置はトラック間に差動作用を導入するが、駆動シャフトが差動されているときには、1つの駆動軸が牽引力を失った場合にすべての従来の無制限スリップ差動装置において生じるような、駆動トルクの損失即ちスリップが生じることがある。
【0007】
各トラックのための別個の左右の制御レバーを備えた従来のブルドーザー形式の駆動装置が行うことのできる最も鋭角的な旋回は、他方のトラックを駆動している間に、一方のトラックを制動することにより、達成されるが、これは、制動したトラックに著しい応力を加える。グリースマン操舵駆動装置を使用するピボット旋回は車両の中心での枢動点の並進運動を殆んど又は全く伴わない車両の方向の変更を含む。ピボット旋回は実行すべきトルクを一層迅速に駆動することによりパワーアシスト又は全体的に稼動させることができる。車両がピボット旋回の発生時に前進又は後進運動のための駆動トルクを使用していないので、駆動トルクはピボット旋回を稼動させるために利用できる。トラックの1つが低牽引媒体内のぬかるみ内にある場合、先に述べた旋回スリップに類似するスリップがピボット旋回中に生じる。
【0008】
1つのトラックがスリップする場合の操舵の中断又は駆動トルクの損失はすべての差動トラック駆動装置において特有であり、その発端以来操舵被駆動トラック車両において明白に生じていた。米国政府の承諾の下で公共テレビにおいて提供されるドキュメンタリー情報に示されるように、この同じスリップ状態は操舵駆動される米国陸軍アブラムズ(Abrams)タンクにおいて生じる。アブラムズタンクは、また各トラックのために別個の左右の制御レバーを備えた一層昔のブルドーザー形式の駆動装置に対比して、操舵輪形式の駆動装置を含む。この状態はトラック車両の多くの利点を損ねるのには不十分であるが、これは間違いなく長期間にわたってトラック車両を悩ませてきた問題であり、これはしばしば修正を正当化するのには厳しすぎるオフロード地域において生じる。このような望ましくない操舵問題の回避は高速道路速度で走行できる数少ないトラック車両にとって特に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,776,235号明細書
【特許文献2】米国特許第3,735,647号明細書
【特許文献3】米国特許第4,776,235号明細書
【特許文献4】米国特許第6,135,220号明細書
【特許文献5】米国特許第6,783,476号明細書
【特許文献6】米国特許出願番号第11/553,603号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来から、トルクが急激に減少したときにスリップを阻止し、極端に低い牽引状態の下でのトラック車両のためのピボット旋回を容易にする操舵駆動装置の要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
トラック車両のための差動操舵駆動装置はトラックのためのそれぞれの駆動シャフトを相互接続する駆動差動装置と、操舵及びピボット旋回のためにトラックに対してそれぞれ加算的及び減算的な回転を与えるための操舵差動装置とを含む。高速トラック車両のための好ましい実施の形態においては、駆動差動装置は全歯車クラッチ無し形式の制限スリップ差動装置であり、操舵差動装置は無制限スリップ差動装置である。2つの差動装置は、少なくとも1つのトラックが牽引力を有する限り、直線路を走行する際又はすべての状態の下で操舵するときにスリップ無しトラック作動を提供するように構成される。別の実施の形態においては、駆動差動装置及び操舵差動装置の双方は全歯車クラッチ無し形式の制限スリップ差動装置である。この第2の実施の形態はある低速移動オフロード車両をピボット旋回させるのに適する。
【0012】
車両のための差動操舵駆動装置は駆動差動装置及び操舵差動装置を含む。車両はそれぞれの左右の駆動トラック即ち駆動牽引素子と、エンジン駆動シャフトを備えた推進エンジンと、意図する走行方向を指示するために運転手により回転可能な操舵輪即ちハンドルとを含む。
【0013】
駆動差動装置はそれぞれの左右の駆動牽引素子を差動的に駆動するためにエンジン駆動シャフト及び一対のそれぞれの駆動シャフトを相互接続する。操舵作動装置は、第1の方向へのハンドルの回転が第1の方向への操舵差動装置の回転を生じさせ、反対方向へのハンドルの回転が反対方向への操舵差動装置の回転を生じさせるように、ハンドル及びそれぞれのトラック駆動シャフトを作動的に相互接続する。各方向における操舵差動装置の回転速度はハンドルの角度回転に比例する。第1の方向における操舵差動装置の回転は反対方向へのそれぞれのトラック駆動シャフトの回転を生じさせる。1つの実施の形態においては、駆動及び操舵差動装置の少なくとも一方は全歯車制限スリップ差動装置を含む。
【0014】
好ましい実施の形態においては、駆動差動装置は全歯車制限スリップ差動装置を含む。第2の実施の形態においては、駆動差動装置は全歯車制限スリップ差動装置を含み、操舵作動装置は全歯車制限スリップ差動装置を含む。
【0015】
両方の実施の形態はまた、各トラックに関連するそれぞれの対の駆動軸に送給されるトルクを分割するために、付加的な左側の全歯車制限スリップ差動装置及び右側の全歯車制限スリップ差動装置を提供するように拡張される。すなわち、第1の2つの全歯車制限スリップ差動装置はエンジントルクをそれぞれの左右のトラックに導くそれぞれの駆動シャフト間でトルクを分割するが、2つの付加的な全歯車制限スリップ差動装置はさらに各それぞれのトラックの前方及び後方の駆動軸間で各それぞれのトラックトルクを分割する。
【0016】
全歯車制限スリップ差動装置は好ましくは一対の側ギヤウォーム及び少なくとも2組の対をなす組み合わせ歯車を有する交差軸線歯車複合体を含む。各側ギヤウォームは出力軸線のまわりで回転するように装着され、それぞれの出力軸に固定される。各組み合わせ歯車は出力軸線に実質上垂直な回転軸線を有する。各組み合わせ歯車はまたウォームホイール部分から離間した第1の歯車部分を有する。組み合わせ歯車対の第1の歯車部分は互いに係合し、組み合わせ歯車対のウォームホイール部分は側ギヤウォームの対応する1つと係合する。全歯車制限スリップ差動装置は好ましくは対をなす側ギヤウォームの内側端部間で固定の位置に維持されたスラスト板を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明において使用する第1の完全牽引差動装置の部分断面側面図である。
【図2】図2Aは1部品ハウジング内に組み込まれた完全なウォーム/ウォームホイール歯車複合体を含む本発明において使用する第2の完全牽引差動装置の概略断面図であり、図2Bは図2Aの2B−2B線における概略断面図である。
【図3】本発明に係る操舵駆動装置の部分概略図である。
【図4】本発明により可能にされるピボット旋回を実行するトラック車両の概略図である。
【図5】トラック車両に使用する本発明の好ましい実施の形態の概略図である。
【図6】図5に示す左側及び右側の差動装置並びに駆動及び操舵差動装置の選択された部分の、図の明瞭のために一部を図示省略し、ハッチングした、拡大概略部分断面頂面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は1973年5月29日に発行された「SYNCLINAL GEARING」という名称の米国特許第3,735,647号、1988年10月11日に発行された「NO−SLIP IMPOSED DIFFERENTIAL REDUCTION DRIVE」という名称の米国特許第4,776,235号、2000年10月24日に発行された「MODULAR SYSTEM FOR TRACK−LAYING VEHICLE」という名称の米国特許第6,135,220号及び2004年8月31日に発行された「COMPACT FULL−TRACTION DIFFERENTIAL」という名称の米国特許第6,783,476号の要旨に関連し、そのすべては参照としてここに組み込む。
【0019】
従来の操舵駆動装置の教示は、従来の形の無制限スリップ差動伝動装置のみが駆動軸シャフトの差動回転を阻害しないように車両のエンジンとトラック駆動装置との間で使用できることを示している。しかし、車両が操舵されているときに、望ましくないスリップがしばしばトラック車両内に生じる。その理由は、操舵駆動モータが操舵差動装置のロックアップ駆動を行わせ、従って両方の差動装置が差動するからである。この状態の下で、トラックの一方が突然牽引力を失った場合、トルク負荷は平衡から大幅に外れ、スリップしているトラックの速度の増大を許容し、スリップしているトラックの増大した速度に関連して他方のトラックの速度及び駆動トルクを減少させる。[注:当業者なら、ここで参照する牽引素子は主として「トラック」であるが、トラックを支持し、駆動するために使用される多重車輪ユニットはそれ自体車両牽引素子として使用でき、使用されてきており、それ故、本発明の開示した差動操舵駆動装置はまたこのような多重車輪車両を操舵するためのこのようなそれぞれの左右の多重車輪牽引素子の駆動シャフトを制御するために適当に使用することができる。]
本発明の駆動及び操舵差動装置の少なくとも一方は、従来技術で教示された従来の無制限スリップ差動装置とは対照的に、全歯車制限スリップ形式の差動装置である。制限スリップ差動装置は差動出力シャフトの回転速度の差を許容するが、設定量を越えて増大するような差を許容しない。ある全歯車差動装置は、牽引力が失われたときにトルクバイアスを提供するように歯車を一緒に結合するか又はハウジングに対して結合させる。しかし、本発明の好ましい全歯車制限スリップ差動装置は旋回部のまわりでの通常の差動作用を許容するように組み合わせ歯車のウォームホイールデザインに対して作動する側ギヤウォーム様のデザインの機械的な利点を使用し、1つの駆動素子の下での牽引力が他の駆動素子の下での牽引力よりも大幅に小さくなった場合は、この同じ機械的な利点は少ない牽引力により駆動素子への過剰なトルクの伝達を阻止する。各駆動素子に伝達されているトルクの差が所定のトルクバイアス比に到達するまで、ますます大きなトルクは一層大きな牽引力を有する牽引素子に伝達される。歯車デザインはトルクバイアス比を決定し、この比は一層小さな牽引力を有する素子に適用されるトルクに対する良好な牽引力を備えた牽引素子に伝達されるトルクの比である。
【0020】
好ましい実施の形態においては、駆動差動装置は全歯車制限スリップ形式の差動装置であり、操舵差動装置は普通の無制限スリップ差動装置である。第2の実施の形態においては、駆動差動装置及び操舵差動装置は共に全歯車制限スリップ形式の差動装置である。さらなる実施の形態は上述の実施の形態を付加的な右側及び左側の差動装置と組み合わせることにより各実施の形態を拡張し、この場合、右側及び左側の差動装置の双方は車両のそれぞれの左右の駆動牽引素子の各々のための前方及び後方の駆動軸にトルクを分配するための、全歯車制限スリップ形式の差動装置である。
【0021】
操舵駆動装置の駆動差動装置としての全歯車制限スリップ形式の差動装置の使用は、1つの駆動部材の下で牽引力が突然減少する場合に生じるような上述の状態を阻止する。任意の全歯車制限スリップ差動装置は本発明の任意の操舵駆動装置に使用できるが、ここで述べた全歯車差動装置が好ましい;すなわち、商標「Torsen(登録商標名)」の下に幅広く使用された図1に示す古い交差軸線デザイン又は図2A、2Bに示し、商標「IsoTorque(商標名)」により商業的に特定された一層近代的でコンパクトな交差軸線デザインである。すぐ上で述べたように、このような望ましくない操舵問題の回避は高速道路速度で走行できる数少ないトラック車両にとって特に重要である。しかし、この重要な改正は原型の操舵駆動装置の基本的な特質の作動に影響を与えず、そのため、その装置は同じ方法で機能し続ける。すなわち、車両が直線方向に駆動されているとき、差動装置は依然として共に直線軸として作用し、車両の運転手が車両のハンドルを旋回させることにより方向の変更を指示したときは、操舵モータは依然として前進方向又は後進方向に操舵差動装置のハウジングを旋回させ、トラックの速度は上記の米国特許第4,776,235号明細書で説明したように方向の変更を達成するためにそれぞれ増大及び減少する。
【0022】
制限スリップ差動装置の本発明の使用により、ピボット旋回はなお、車両の中心でのピボット地点の並進運動を殆ど又は全く伴わずに、車両の方向を変更する。ピボット旋回は好ましくは別個の差動操舵システムのモータにより提供される実質的なトルクによって全体的に稼動される。その理由は、この操舵モータのトルクがウォーム/ウォームホイール伝動装置比(好ましくは≧1)により大幅に増大するからである。
【0023】
従来の操舵システムでのこのようなピボット旋回中、車両の運転手は一般にブレーキを適用するか又はエンジンの駆動シャフトを係止状態に保持する。しかし、重量があって比較的低速で運動するオフロード車両でピボット旋回する場合、エンジンの駆動シャフトを係止することが望ましくないような状態が起こる。このような後者の例において、トラック間で分配されている牽引負荷が著しく不平衡になった場合、旋回運動は完全に停止することがある。従来の操舵システムにおけるこのピボット旋回の問題は、伝統的な操舵差動装置を、このようなトルク不平衡の発生時にスリップを生じない全歯車制限スリップ形式の差動装置に交換することにより、本発明において回避される。それにも拘わらず、迅速運動するすべてのトラック車両に対して、操舵差動装置は好ましくは従来の無制限スリップ全歯車形式を維持すべきである。
制限スリップ差動装置
図1に示すように、本発明に使用するための制限スリップ差動装置の第1の実施の形態は回転可能な歯車ハウジング10と、ハウジング10の側部に形成されたボア内に受け入れられた一対の駆動軸11、12とを含む。米国特許第3,735,647号明細書に開示されているようなこの形式の差動装置はTorsen(登録商標名)という商標の下で世界中にわたってかなり広く使用され知れ渡っていた。全歯車差動装置であるこの制限スリップ差動装置はスリップ板又は他の形のクラッチ装置を含まず、「複合遊星歯車複合体」フォーマットにおける交差軸線又は平行軸線構成のいずれかを使用する。このようなフォーマットのいずれをも使用できるが、交差軸線差動フォーマットが好ましく、このフォーマットのみを特別に以下に説明する。
【0024】
フランジ13は好ましくは、外部の動力源から(典型的には車両のエンジンから)回転動力を提供するためのリングギヤ(図示せず)を装着するためにハウジング10の一端に形成される。ハウジング10内の歯車構成はしばしば「交差軸線複合遊星歯車複合体」と呼ばれ、好ましくは軸11、12の内側端部にそれぞれ固定された一対の側ギヤウォーム14、15と、対となって体系化された数組の組み合わせ歯車16とを含む。各組み合わせ歯車は好ましくは「ウォームホイール」部分18から離間した一体の平歯車部分17と一緒に形成された外側端部を有する。標準の歯車専門用語は「ウォーム」に番うものとして説明するために用語「ウォームギヤ」を使用するが、これはしばしば、全歯車差動装置の種々の伝動装置を説明する際に混乱を起こす。それ故、ここで使用するように、ウォームに番うものは「ウォームホイール」と呼ぶことにする。
【0025】
各対の組み合わせ歯車16は好ましくは、各組み合わせ歯車が側ギヤウォーム14、15の回転軸線に実質上垂直な軸線上で回転するように、ハウジング10の主要な本体内に形成された溝穴又はボア内に装着される。組立てを容易にするため、各組み合わせ歯車16は好ましくは全長軸穴を有し、この穴を通して、それぞれの装着シャフト19がハウジング10内に形成されたジャーナル内で回転支持のために受け入れられる。
【0026】
組み合わせ歯車は一体のハブを有することが知られており、これらのハブはハウジング10のジャーナル内に受け入れられるが、ハウジングの設計及び組立てを容易にするため、大半の現在使用されているこの形式の制限スリップ差動装置の組み合わせ歯車はシャフトに装着される。各対の組み合わせ歯車16の平歯車部分17は互いに噛み合い、一方、ウォームホイール部分18はそれぞれ軸端部11、12間でトルクを伝達し分割するために側ギヤウォーム14、15の1つと噛み合う。大半の自動車の荷重を支持するために、この形式の従来の差動装置は普通各側ギヤウォーム14、15の周辺部のまわりでほぼ120°の間隔で位置する3組の対をなす組み合わせ歯車を使用する。
【0027】
この形式の差動装置は大半の状態の下で望ましくない車輪スリップを阻止する顕著な仕事を行う。事実、これらの制限スリップ差動装置の1又はそれ以上は世界中にわたって少なくとも8つの大手の自動車会社により現在売られている車両に対して標準のものか又は随意のものであり、あらゆる米国陸軍HMMWV(「ヒューマー」)車両における2つのTorsen(登録商標名)交差軸線制限スリップ差動装置があり、一方は前輪間で差動を行い、他方は後輪間で差動を行う。
【0028】
本発明に使用するための制限スリップ差動装置の一層近代的なデザインの第2の実施の形態は図2A、2Bに示す。この第2の実施の形態は2006年10月27日に出願された「Full−Traction Differential with Hybrid Gearing」という名称の継続中の出願番号第11/553,603号明細書に一層詳細に開示されており、「IsoTorque(商標名)」という名前の下に現在市販されている。この新たなデザインの接触パターンは、一定の荷重を支持するために(それぞれ120°の間隔で離間した)従来の3つの対ではなく、(それぞれ180°の間隔で離間した)2対のみの組み合わせ歯車を使用することが可能であるようなかなり幅広い領域にわたって荷重を拡散する。すなわち、この改善された歯デザインは一層大きな歯係合領域を生じさせると共に、任意の一定の時間に接触する歯の数を増大させ、2つの少数の歯で自動車の仕様を満たすことを可能にする。もちろん、この同じ歯デザインは従来の3対の組み合わせ歯車で顕著に一層大きな荷重を支持することを可能にすることができる。また、荷重を集中させる従来の線接触とは異なり、この伝動装置の接触パターンは比較的大きな領域にわたって荷重を拡散し、潤滑油フィルムのせん断を一層少なくし、それによって一層低粘度の潤滑油の使用を許容し、部品の長寿命化を保証する。
【0029】
高牽引差動装置の交差軸線歯車複合体の顕著な特徴は、車両の車輪と差動装置との間の歯車列におけるウォーム/ウォームホイール組み合わせ体から由来する機械的な利点である。車両が曲線のまわりで走行するとき、車両の重量及び慣性は路面上において異なる速度で車輪を同時に回転させ、差動の必要性を生じさせる。このような差動の開始は側ギヤウォームとそれに番うウォームホイールとの間の機械的な利点により大幅に向上する。もちろん、この同じ伝動装置は、トルクが反対方向に伝達されているときに、機械的な欠点を招く。IsoTorque(商標名)差動装置の好ましい実施の形態は全牽引及び差動の比較的容易化の双方を提供するためにウォーム/ウォームホイール歯に対して35°/55°を選択し、この選択は牽引制御を有する自動制動システム(ABS)を含む車両に対して差動装置を特に適切にする。
【0030】
IsoTorque(商標名)差動装置のさらなる特徴は、走行方向に関係なく前進又は後進駆動されているときに、車両の旋回中にそれぞれの側ギヤウォーム上の端スラストを均等化するトルクバランス(平衡)を提供する。スラスト板は組の対をなす組み合わせ歯車を支持する同じ装着体により支持され、スラスト板は横方向の運動に対して固定され、側ギヤウォームの内側端部間に維持される。したがって、左方へのスラストの下では、右側のウォームはスラスト板に対してスラスト力xを与え、左側のウォームは、先の差動装置におけるような2xの力ではなく、ハウジングに対してそれ自身のスラスト力xのみを与える。同様に、右方へのスラストの下では、左側のウォームはスラスト板に対してスラスト力xを与え、右側のウォームはハウジングに対してそれ自身のスラスト力xのみを与える。
【0031】
上述したこのトルクバランス特徴は図2A、2Bに示す第2の実施の形態において見ることができる。差動装置は完全なウォーム/ウォームホイール歯車複合体を組み込んでいる。ハウジングは好ましくは粉末金属から1部品として形成され、3つのみの開口を有する。すなわち、第1の組の適当な開口121、122は出力軸(図示せず)のそれぞれの内側端部を受け入れるために第1の軸線125に沿って整合し、矩形の形状で、ハウジング120を通して直接延びるたった1つの別の開口126は軸線125に垂直にセンタリングされる。
【0032】
2対の組み合わせ歯車131、132及び129、130は、各々、上述のように設計され、製造された砂時計形状のウォームホイール部分134により分離された平歯車部分133を有する。各対のそれぞれの平歯車部分133は互いに噛み合い、これらすべての組み合わせ歯車は対向する対の装着板138、139と一体的に形成された組の対をなすハブ136、137上で回転自在に支持される。組み合わせ歯車対131、132のそれぞれのウォームホイール部分134は1対の側ギヤウォーム141、142のそれぞれ1つと噛み合い、一方、組み合わせ歯車対129、130のそれぞれのウォームホイール部分134は同様にそれぞれ同じ対の側ギヤウォーム141、142と噛み合う。
【0033】
側ギヤウォーム141、142の内側端部の中間には、スラスト板150が位置する。スラスト板150はそれぞれの軸受表面152、153と、装着タブ156、157と、重量節約潤滑開口(図示せず)とを有する。装着タブ156、157は同一の装着板138、139の中央に形成された溝穴160、161と番うように設計される。溝穴160、161は側ギヤウォーム141、142の内側端部の中間でスラスト板150を位置決めするのみならず、スラスト板150の横方向の運動を阻止する。それゆえ、特に図2Aを参照すると、側ギヤウォーム141、142に適用された駆動トルクが左方へのスラストを生じさせたとき、ウォーム142はスラスト板150の固定の軸受表面152に対して移動し、一方、ウォーム141はスラスト板150の固定の軸受表面153から離れてハウジング120に当接(又はウォーム141とハウジング120との間に普通位置している適当なワッシャに当接)するように移動する。ウォーム141の回転に対するその結果の摩擦はウォーム142に作用するスラスト力により影響を受けない。
【0034】
同様に、側ギヤウォーム141、142に適用された駆動トルクが右方へのスラストを生じさせたとき、ウォーム141はスラスト板150の固定の軸受表面153に対して移動し、一方、ウォーム142はスラスト板150の固定の軸受表面152から離れてハウジング120に当接(又はこれまたウォーム142とハウジング120との間に普通位置している適当なワッシャに当接)するように移動する。同様に、ウォーム142の回転に対するその結果の摩擦はウォーム141に作用するスラスト力により影響を受けない。したがって、駆動トルクの方向に関係なく、各側ギヤウォームの回転に対して作用する摩擦は他方の側ギヤウォームに作用するスラスト力により影響を受けない。差動装置のトルクバイアスが摩擦力により影響を受けるので、付加的なスラスト力のこの阻止はトルク不平衡即ち異なる方向への車両の旋回中のトルクにおける差を最小にする補助を行う。
操舵駆動構造体
図3に示すように、本発明の操舵駆動20が車両に適用された場合、シャフト21を介して歯車22を旋回させるエンジンの動力入力はリングギヤ23及び駆動差動装置25のケース24を回転させる。駆動差動装置25は車両の両側でそれぞれの左右の駆動牽引素子を差動的に駆動するための一対のそれぞれの軸シャフト26、27を駆動するように接続される。駆動差動装置25は駆動される車両に対して適当に寸法決めされる。これは小さな庭用のトラクタ及び耕作器から大型のトラクタ及び土工機械までの範囲とすることができる。
【0035】
ケース29を有する操舵差動装置30は軸駆動シャフト26、27と駆動関係で相互接続された一対の操舵制御シャフト32、33間で接続される。一方の操舵制御シャフト33及び一方の軸駆動シャフト27は同じ方向に回転するように接続され、他方の操舵制御シャフト32及び他方の軸駆動シャフト26は反対方向に回転するように接続される。これにより、軸シャフト26、27が同じ方向に回転するときに、制御シャフト32、33のカウンタ回転即ち差動回転を生じさせ、逆に、制御シャフト32、33が同じ方向に回転するときに、軸シャフト26、27の差動回転を生じさせる。
【0036】
本発明の差動装置25、30の少なくとも一方は全歯車制限スリップ形式の差動装置(例えば、米国特許第3,735,647号明細書に開示された「シンクリナル伝動装置」、米国特許第6,783,476号明細書に開示された「コンパクト全牽引差動装置」又は2006年10月27日に出願された継続中の出願番号第11/553,603号明細書に開示された「全牽引差動装置」)である。これは無制限スリップ差動装置のみの使用を明確に教示する従来の教示に対立する。本発明の好ましい実施の形態においては、駆動差動装置25は全歯車制限スリップ形式の差動装置であり、操舵差動装置30は従来の無制限スリップ差動装置である。本発明の別の実施の形態においては、駆動差動装置25は従来の無制限スリップ差動装置であり、操舵差動装置30は全歯車制限スリップ形式の差動装置である。
【0037】
図3に示すように、大型及び一層強力な車両に対しては、操舵制御シャフトと軸駆動シャフトとの間の歯車接続が好ましい。このような接続は軸シャフト26、27にそれぞれ固定された軸シャフト歯車35、36と、制御シャフト32、33にそれぞれ固定された制御シャフト歯車37、38を含む。制御シャフト歯車37と噛み合う軸シャフト歯車35は軸シャフト26と制御シャフト32との間で反対方向の回転を提供し、アイドラ歯車34と噛み合う軸シャフト歯車36及び制御シャフト歯車38の双方は軸シャフト27及び制御シャフト33に対して同じ方向の回転を提供する。
【0038】
操舵制御シャフトと軸駆動シャフトとの間の歯車接続は好ましくは駆動差動装置25及び操舵差動装置30の双方を収容する拡大したハウジング内に組み込まれる。後に説明する理由のため、操舵差動装置30は、完全な組立体が不当に大きくない差動ハウジング内に嵌合できるように、駆動差動装置25により支えられる力の半分を支えるように寸法決めすることができる。
【0039】
一層小型か又は弱力の車両は歯車の代わりにベルト又はチェーンのような相互接続素子を使用することができる。また、シャフト相互接続は軸差動装置の領域に限定される必要はなく、軸シャフトの外側端部の方に向かうことができる。
【0040】
操舵制御シャフトと軸駆動シャフトとの間の歯車比即ち駆動比は好ましくは1:1である。しかし、軸及び制御差動装置の両側で同じである限り、この比は変更することができる。
【0041】
入力操舵歯車40は操舵差動装置30のケーシング29に固定されたリングギヤ31と噛み合い、システムに対して差動回転を与える。歯車40は好ましくはウォームギヤであり、リングギヤ31は好ましくは、リングギヤ31が歯車40の旋回時のみに旋回するように、ウォームホイールである。
【0042】
操舵の目的で、操舵歯車40は相対負荷に応じて数個の機構により旋回させることができる。操舵機構は歯車40を旋回させるための種々の形式の適当に寸法決めされたモータを使用することができる。たとえば、DCスタータモータ41は操舵システム内の加減抵抗器を介して電気的に付勢することができ、または、液圧又は空気モータ41は操舵信号に応答して車両の液圧又は空気システムにより旋回させることができる。好ましくは、モータ41は液圧式であり、ウォーム40/ウォームホイール31の比は少なくとも15:1である。
【0043】
上述のように、車両が操舵されているときに従来の差動操舵システムにおいてスリップが生じる。その理由は、操舵駆動モータが別な方法で操舵差動装置のロックアップウォーム/ウォームホイール駆動を行わせ、従って両方の差動装置が差動するからである。この状態の下で、トラックの一方が突然牽引力を失った場合、トルク不平衡がスリップしているトラックの速度の増大を許容し、従来のシステムにおいてスリップしているトラックの増大した速度に関連して他方のトラックの駆動トルク及び速度を減少させる。
【0044】
駆動差動装置25のための従来の差動操舵システムにより使用される従来の差動装置が、本発明の好ましい実施の形態においては上述のように、トルクの突然の減少時にスリップしない全歯車制限スリップ差動装置(例えば米国特許第6,783,476号明細書に記載されたIsoTorque(登録商標名)差動装置)と交換された場合、この望ましくない状態が阻止される。
【0045】
しかし、この改正が基本的な操舵駆動装置の作動に影響を与えず、同じ方法で機能し続けることに留意することは重要である。すなわち、車両が直線方向において駆動されているとき、操舵歯車40/リングギヤ31の組み合わせの非回転が依然として両方の差動装置を直線軸として作用させ、車両の運転手が車両のハンドルを旋回させることにより方向の変更を指示したときに、操舵モータは差動装置のハウジングを前進方向又は後進方向のいずれかに旋回させ、トラックの速度は米国特許第4,776,235号明細書で説明したような方向の変化を達成するようにそれぞれ増大及び減少する。
【0046】
しかし、本発明の駆動差動装置25が全歯車制限スリップ差動装置なので、トラックにより分配されるトルク負荷が不平衡になり始めると、駆動差動装置25のトルクバイアスがエンジンの入力シャフト21から受け取った駆動トルクの実質的な部分を(例えば8:1の差動におけるトルクほどに大きな8倍までの)良好な牽引力を有するトラックに直ちに伝達する。したがって、いずれかのトラック上の牽引負荷が顕著な負荷不平衡を生じさせるや否や、駆動トルクの十分な部分はトラック車両の運動を維持するために良好な牽引力を有するトラックに送給される。
スリップ無し操舵駆動作動及びピボット旋回
軸駆動差動装置25及び軸シャフト26、27に対する操舵差動装置30及びその制御シャフト32、33の相互接続から、2つの重要な効果が生じる。一方は、スリップが車両の両側で一度に生じない限り、車輪又はトラックがスリップするのを阻止するスリップ無し駆動である。他方の効果は車両をピボット即ち旋回させるために操舵を達成できる強制(imposed)差動回転である。
【0047】
スリップ無し駆動が生じる理由は、軸駆動シャフト26、27が操舵差動装置30を介して一緒に連動されるからである。牽引力を失った車両の側において軸シャフトに適用された動力は同じ側の接続制御シャフトに伝達され、差動装置30を介して反対側の制御シャフトに伝達され、反対側の軸シャフトに戻り、そこで、牽引力を有する側に付加される。そのため、一方の軸シャフトが牽引力を失った場合、反対側の軸シャフトが一層きつく駆動し、スリップが生じることのある唯一の状況は、両方の軸シャフトが牽引力を同時に失った場合である。
【0048】
これを詳しく述べるため、その軸シャフト26、27が同じ方向で一様に旋回している状態で、直線前進している車両を考察する。操舵歯車40は前進運動に対しては静止しており、操舵歯車40が好ましくはウォームギヤなので、操舵差動装置30のウォームホイール31は旋回できない。制御シャフト32、33は、軸駆動シャフトとのその駆動接続により、反対方向に差動的に回転し、これが操舵差動装置30を調整する。
【0049】
駆動差動装置25はエンジンの駆動シャフト21からの動力入力を等しく分割し、各軸シャフト26、27に入力動力の半分を適用する。軸シャフト26により駆動されているトラック又は車輪が牽引力を失った場合、シャフト26上で利用できる動力を適用することができず、スリップする傾向がある。しかし、実際のスリップは生じることができない。その理由は、軸シャフト26がシャフト32を制御するように連動するからである。そのため、牽引力のない車輪又はトラックがシャフト26上に動力を適用できない場合、これは制御シャフト32に伝達され、このシャフトを軸シャフト26とは反対方向に回転させる。リングギヤ31が旋回できないので、制御シャフト32上の回転動力は制御シャフト33の反対方向の回転を生じさせるように差動装置30を通して伝達される。これはアイドラ歯車34を介して軸シャフト27と連動し、そのため、制御シャフト33上の動力は前進方向のシャフト27を押圧するように軸シャフト27に適用され、牽引力を有する車輪又はトラックを駆動し、利用できる動力を受け入れることができる。利用できる全動力のうちの半分のみが差動装置30及びその制御シャフトを介して一方の軸シャフトから他方の軸シャフトへ伝達できるので、これらは軸差動装置25及びその軸シャフトにより支えられる力の半分の力を支えるように寸法決めすることができる。
【0050】
もちろん、軸シャフト27上で利用可能な不使用の動力は、車両のその側での牽引力の欠如のため、同じ制御シャフト及び制御差動ルートを通して反対側の軸シャフト26に伝達される。この構成は最良の牽引力を有する車輪又はトラックに大半の動力を適用し、これは車両を前進させるのには理想的である。牽引力を失った車輪又はトラックは地面との転がり係合を維持し、一方、他方の車輪又はトラックは駆動する。車輪又はトラックがスリップする可能性のある時期は、これらの双方が同時に牽引力を失った場合のみである。
【0051】
車両をピボット即ち旋回させるように軸シャフト26、27上に差動回転を与えるためには、操舵歯車40を回転させることだけが必要である。これは差動的に軸シャフトを回転させて車両を旋回即ちピボットさせる。その理由は車両の両側で車輪又はトラックを差動的に回転させることにより走行する距離が異なるからである。
【0052】
操舵歯車40が旋回すると、これが歯車31を回転させ、これが操舵差動装置30のケーシング29を旋回させて制御シャフト32、33を同じ方向に回転させる。軸駆動シャフト26、27との制御シャフト32、33の接続は、制御シャフト32、33の同じ方向への回転を、駆動差動装置25により用立てられるような、軸シャフト26、27の反対方向の差動回転に変更する。これは、操舵歯車40の回転方向に応じて、車両の一側で車輪又はトラックを前進駆動し、車両の他の側で後進駆動する。
【0053】
このような差動回転はその時点で生じている軸シャフトの前進又は後進回転に付加される。そのため、操舵歯車40の旋回時に車両が前進又は後進運動する場合、差動回転は反対側の軸シャフトを前進又は後退させ、車両を旋回させる。
【0054】
逆に、操舵歯車40の旋回時に車両が運動していない場合、車両の左右の駆動牽引素子(車輪又はトラック)は、車両が中心地点のまわりでピボットするように、一側で前進を行い、他の側で後進を行う。このようなピボット旋回は、一対のトラック85、86を有する車両に対して、図4に概略的に示す。右側のトラック86´を前進方向に駆動し、左側のトラック85´を後進方向に駆動することにより、車両が中心地点87のまわりで回転するときに、両方のトラックは地面に対して転がり係合することができる。トラックはある前端から後端までの引きずり運動を体験するが、これは、他方のトラックが駆動されている間のブレーキによる一方のトラックの伝統的な係止により生じるものよりも一層小さな応力及び地面抵抗を生じさせる。ピボット旋回はまた、一方のトラックが制動され他方のトラックが駆動されている場合に行わなければならないようないかなる方向における運動をも必要とせずに、1つの地点87での車両のスピンを生じさせる。
【0055】
従来の操舵駆動装置においては、車両が直線前進又は直線後進しており、操舵歯車40及び操舵差動装置30が車両のハンドルの運転手による回転に応答して作動していない限りにおいてのみ、上述のスリップ無し駆動が機能する。しかし、上述のように、従来の操舵駆動装置においては、操舵差動装置30が差動を行い、トラックの1つが完全に牽引力を失った場合、操舵駆動装置はトラック間に差動作用を導入するが、そのトラックがスリップし続ける場合、車両の駆動トルクは完全に失われることがある。ここでの本発明の改善された操舵駆動装置では、駆動トルクのこの全体の損失は生じない。
【0056】
すなわち、駆動差動装置25が全歯車制限スリップ差動装置なので、トラックにより分配されたトルク負荷が突然不平衡になったとき、駆動差動装置25のトルクバイアスはエンジンの入力シャフト21から受け取った駆動トルクの実質的な部分を良好な牽引力を有するトラックに直ちに伝達する(たとえば、駆動トルクの伝達は8:1の差動における8倍のトルク不平衡まで生じる)。したがって、いずれかのトラック上の牽引負荷が重大な負荷不平衡をもたらすや否や、駆動トルクの十分な部分が良好な牽引力を有するトラックに送給され、トラック車両の運動を維持する。
【0057】
改善されたピボット旋回
上述のように、従来の差動操舵システムでのピボット旋回中、トラック車両の運転手は一般にエンジン駆動シャフトにブレーキを適用するか、さもなければエンジン駆動シャフトを係止状態に保持する。トラック間で牽引力が大幅に変化することのあるような地域で作動する重量があって比較的低速で運動するオフロード車両では、ピボット旋回が望ましいがエンジン駆動シャフトの通常の係止が適当ではないような状態が発生する。上述のように、このような状態の下では、厳しい牽引力不平衡がピボット旋回運動の望ましくない損失を招くことがある。
【0058】
このような車両のためのピボット旋回を容易にするため、本発明は、伝統的な操舵差動装置を、上述のように、トルク不平衡の発生時にスリップしない全歯車制限スリップ形式の差動装置(例えばIsoTorque(商標名)差動装置)に置き換える。この簡単な変更は、一方のトラックが牽引力を保持する限り、すべての状態の下でピボット旋回の問題を克服する。すなわち、すぐ前で述べた本発明の第2の実施の形態においては、操舵差動装置30は、低速オフロードトラック車両のピボット旋回時に1つのトラックの牽引力が突然減少したときに、スリップを阻止する全歯車制限スリップ形式の差動装置である。
【0059】
向上した両方の実施の形態
すぐ前で述べた実施の形態は共に、各トラックに関連するそれぞれ一対の駆動軸に送給されるトルクを分割するために付加的な左側の全歯車制限スリップ差動装置及び付加的な右側の全歯車制限スリップ差動装置を提供することにより、向上させることができる。この拡張した実施の形態は図5、6に概略的に示す。図5は2つの付加的な全歯車制限スリップ差動装置即ち右側の差動装置250及び左側の差動装置251と組み合わせた本発明の全歯車制限スリップ操舵駆動装置218を(薄い線で)示す、トラック車両の駆動素子の概略頂面図であり、一方、図6はこれら4つの最後に述べた差動装置の拡大部分概略図である。
【0060】
(図5、6に示す)トラック車両のための駆動経路は次の通りである:エンジン210は操舵駆動ユニット218へ駆動トルクを送給する一対の傘歯車220、221を駆動する中央の駆動シャフト214にトルクを伝達するためのトランスミッション212に接続され、傘歯車221は、詳細に上述した方法で、それぞれ右側駆動シャフト226及び左側駆動シャフト227を介して車両のそれぞれ左右の駆動牽引素子に差動的な駆動及び操舵トルクを提供する。
【0061】
それぞれの駆動シャフト226、227は右側の差動装置250及び左側の差動装置251に駆動トルクを送給するそれぞれの傘歯車253、254及び255、256を作動させ、これらの差動装置はそれぞれ更にそのそれぞれの前方駆動シャフト258、259及び後方駆動シャフト260、261を介してそのそれぞれの駆動トルクを差動させ、駆動シャフト258、259及び260、261は前方の直角ボックス262、263及び後方の直角ボックス264、265にそれぞれ接続される。当業界で周知のように、直角ボックスはそれぞれのトルクを前方及び後方の対をなす駆動軸即ち前方の右側及び左側の駆動軸266、267並びに後方の右側及び左側の駆動軸268、269に送給する対をなす傘歯車(図示せず)を含む。各駆動軸は一対のタンデムホイール間に位置し、たとえば、前方の右側駆動軸266はタンデム対のホイール270、271間に位置し、それぞれのチェーン272により各タンデム対の少なくとも1つのホイールを駆動する。
【0062】
図示の好ましいトラック車両においては、各ホイールは二重ホイールであり、それぞれ右側及び左側のトラック274、275は、すべて当業界で周知であって、上記米国特許第6,135,220号明細書で詳細に説明された方法で、車両の各側に装着された組をなす二重ホイールの番い表面上に位置する。
【0063】
図6を参照すると、操舵差動装置230及びその接続シャフト231、232及び歯車233、234、235、236、237、238はすべて、図3に示し詳細に上述した対応する部品と正確に同じ方法で作動する。操舵ギヤウォーム240及び操舵ギヤウォーム240を旋回させるためのモータ241もまた図6に示す。モータ241は好ましくは車両のハンドルにより発生される車両の所望の作動方向の指示に応答するDCモータ又は液圧モータのいずれかである。
【0064】
各付加的な全歯車制限スリップ差動装置250、251は(a)トラックの支持車輪が不均一な地域上において異なる時間で上下運動するときに生じることのある、そのそれぞれのトラックの前方及び後方部分間の「ワインドアップ即ち緊縮」を阻止し、(b)任意の与えられた時点でトラックに対する最良の摩擦接続を提供するそれぞれの駆動軸へ一層のトルクを導くことにより、前方及び後方のトラック駆動装置の効率を増大させる。
【0065】
したがって、すぐ前で述べた本発明の好ましい実施の形態の「向上した」バージョンによれば、操舵駆動装置218の全歯車制限スリップ駆動差動装置224はエンジントルクをそれぞれ右側及び左側のトラックに導くそれぞれの駆動シャフト226、227間でトルクを分割し、一方、2つの付加的な全歯車制限スリップ差動装置250、251はさらに各それぞれのトラックの前方及び後方の駆動軸間で各それぞれのトラックトルクを分割する。
【0066】
従って、ここで述べた本発明の実施の形態は本発明の原理の適用の単なる例示であることを理解すべきである。図示の実施の形態の詳細についてのここでの参照は特許請求の範囲の要旨を限定することを意図するものではなく、特許請求の範囲はそれ自体本発明にとって本質であると思われる特徴を列挙する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ左右の駆動牽引素子と、エンジン駆動シャフトを備えた推進エンジンと、意図する走行方向を指示するために運転手により回転可能なハンドルとを有する車両のための差動操舵駆動装置において、
上記エンジンの駆動シャフトと上記それぞれ左右の駆動牽引素子を差動的に駆動するための一対のそれぞれのトラック駆動シャフトとを相互接続する駆動差動装置;及び
上記ハンドルと上記それぞれのトラック駆動シャフトとを作動的に相互接続する操舵差動装置であって、第1の方向への上記ハンドルの回転が第1の方向への上記操舵差動装置の回転を生じさせ、反対方向への当該ハンドルの回転が反対方向への当該操舵差動装置の回転を生じさせ、各方向への該操舵差動装置の回転速度が該ハンドルの角度回転に比例し;第1の方向への該操舵差動装置の回転が反対方向への当該それぞれのトラック駆動シャフトの回転をもたらすようになった操舵差動装置;
を有し、
上記差動操舵駆動装置がさらに、
(a)上記駆動及び操舵差動装置の少なくとも一方が全歯車制限スリップ差動装置で構成される組み合わせ;及び
(b)上記駆動差動装置及び上記操舵差動装置が各々全歯車制限スリップ差動装置で構成される組み合わせ;
のうちの一方の組み合わせを有することを特徴とする差動操舵駆動装置。
【請求項2】
各上記それぞれ左右の駆動牽引素子がさらに、
少なくとも一対の駆動軸に作動的に接続されたそれぞれ複数の車輪と;
各々が上記それぞれの対の駆動軸のうちの一方の各駆動軸にそれぞれ分割されたトルクをそれぞれ送給する左側の差動装置及び右側の差動装置と;
を有し、
上記左側及び右側の差動装置が各々上記それぞれ左右の駆動牽引素子を差動的に駆動するために上記対のそれぞれの駆動シャフトによりそれぞれ駆動され;
上記左側及び右側の差動装置がまた各々全歯車制限スリップ差動装置で構成されることを特徴とする請求項1に記載の差動操舵駆動装置。
【請求項3】
上記それぞれ左右の駆動牽引素子が各々上記それぞれ複数の車輪に駆動接触する無端トラックを有することを特徴とする請求項2に記載の差動操舵駆動装置。
【請求項4】
各上記それぞれの複数の車輪が上記無端トラックに接触する少なくとも1対のタンデムホイールを有し、上記それぞれの駆動軸の1つが上記対のタンデムホイールの間に位置することを特徴とする請求項3に記載の差動操舵駆動装置。
【請求項5】
上記全歯車制限スリップ差動装置が歯車複合体を有し、同歯車複合体が、
各々出力軸線のまわりで回転するように装着され、それぞれの出力軸に固定された一対の側ギヤウォームと;
少なくとも2組の対をなす組み合わせ歯車であって、各対の各組み合わせ歯車が(a)上記出力軸線に実質上垂直な回転軸線及び(b)ウォームホイール部分から離間した第1の歯車部分を有し、当該組み合わせ歯車対の上記第1の歯車部分が互いに番い係合し、該組み合わせ歯車対の上記ウォームホイール部分がそれぞれ上記側ギヤウォームのそれぞれ1つと番い係合しているような少なくとも2組の対をなす組み合わせ歯車と;
を有することを特徴とする請求項1に記載の差動操舵駆動装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−508194(P2010−508194A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534887(P2009−534887)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/082650
【国際公開番号】WO2008/055062
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(501050955)トーヴェック・インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】