説明

トランスバーサル型SAWフィルタ

【課題】圧電基板上に3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、デバイスサイズを大きくすることなく減衰特性を改善することを目的とする。
【解決手段】圧電基板上のSAWの伝搬方向に沿ってIDT電極1〜3を所定の間隔をあけて配置する。IDT電極1は入出力端子10に接続し、IDT電極2、3はリード電極11により互いに接続すると共に入出力端子12に接続する。そして、IDT電極1に接続した入出力端子10とリード電極11との間隙にアースライン13を配置することにより、入出力端子間の電磁結合を抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SAWフィルタは通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴を有することから特に携帯電話等に多く用いられる。画像等のデータ通信の需要増により、携帯電話に用いられるIFフィルタには小型で、減衰特性の大きいフィルタ特性が要求され、このような仕様を満たすフィルタとしてはトランスバーサル型SAWフィルタが適している。
【0003】
図6は従来のトランスバーサル型SAWフィルタの平面図を示している。圧電基板101の主表面上にSAWの伝搬方向に沿って入力用のIDT電極102と出力用のIDT電極103を所定の間隔をあけて配置すると共に、IDT電極102、103の間に入出力端子間の直達波を遮蔽するためのシールド電極104を配置する。IDT電極102、103は互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対のくし形電極より構成されており、IDT電極102の一方のくし形電極を入力端子INに接続すると共に他方のくし形電極を接地し、IDT電極103の一方のくし形電極を接地すると共に他方のくし形電極を出力端子OUTに接続している。また、基板端面からの不要な反射波を抑圧するために、圧電基板101の長辺方向(SAWの伝搬方向)の両端に吸音材105を塗布している。
【0004】
前記トランスバーサル型SAWフィルタは、入力用IDT電極102で励起されたSAWが左右に等しく伝搬されるため、出力用IDT電極103でSAWをピックアップする時点で6dBもの双方向性損失が生じてしまうので、低損失化には不利であることが一般的に知られている。
【0005】
前記双方向性損失による挿入損失の劣化を避けるために、特開平57−129512号公報等で圧電基板の主表面上にSAWの伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタが考えられた。図7は前記トランスバーサル型SAWフィルタの代表的な構造を示しており、IDT電極111の両側にIDT電極112、113を配置し、IDT電極111の一方のくし型電極を入出力端子120に接続し、IDT電極112、113の一方のくし型電極同士をリード電極121で互いに接続すると共に入出力端子122に接続している。そして、IDT電極111〜113の他方のくし型電極をアース端子に接続してトランスバーサル型SAWフィルタを構成している。また、入出力端子間の直達波を防ぐためにIDT電極111とIDT電極112の間、及びIDT電極111とIDT電極113の間にシールド電極114を配置している。なお、図示していないがIDT電極112、113の外側に基板端面からの反射波を吸収するための吸音材、又は反射器等を設けている。
【0006】
前記トランスバーサル型SAWフィルタのように圧電基板上に3つのIDT電極を配置すると双方向性損失は3dBに減少し、図6の構造と比較して大幅に挿入損失を改善でき、低損失化には非常に有利である。
【特許文献1】特開平57−129512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図7のトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、IDT電極111に接続した入出力端子120と、IDT電極112、113に接続したリード電極121及び入出力端子122との間で電磁結合が生じ、フィルタの減衰特性が大きく劣化する問題があった。また、入出力端子120とリード電極121の間隙を十分に離せば電磁結合の影響を少なくすることができるが、その分、チップサイズが大きくなってしまうので小型化には不利である。
【0008】
上記問題点を解決すべく、本発明では、圧電基板上のSAWの伝搬方向に沿って3つのIDT電極を配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、デバイスサイズを大きくすることなくフィルタの減衰特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタの請求項1に記載の発明は、圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、中央に配置したIDT電極を第1のIDT電極、その両側に配置したIDT電極をそれぞれ第2のIDT電極及び第3のIDT電極とし、第1のIDT電極を構成する一方のくし形電極に入力或いは出力のいずれかの端子を接続し、第2及び第3のIDT電極を構成する一方のくし形電極同士をリード電極により互いに接続すると共に出力或いは入力のいずれかの端子に接続し、第1のIDT電極の一方のくし形電極に接続した端子とリード電極との間隙にアースラインを配置することを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、 中央に配置したIDT電極を第1のIDT電極、その両側に配置したIDT電極をそれぞれ第2のIDT電極及び第3のIDT電極とし、第1のIDT電極を構成する一方のくし形電極に入力或いは出力のいずれかの端子を接続し、第2及び第3のIDT電極を構成する一方のくし形電極同士をリード電極により互いに接続すると共に出力或いは入力のいずれかの端子に接続し、第1のIDT電極と第2のIDT電極との間、及び、第1のIDT電極と第3のIDT電極との間にシールド電極を配置すると共にシールド電極同士をアースラインにより互いに接続し、該アースラインを第1のIDT電極の一方のくし形電極に接続した端子とリード電極との間隙に配置することを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、第1のIDT電極に接続した入出力端子とリード電極の間隔をD、アースラインの幅をWとした時にW/D≧0.2とすることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、第1〜第3のIDT電極の他方のくし形電極及びシールド電極は共通のアース端子に接続されていることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載のトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、入出力端子を平衡−平衡終端、又は不平衡−平衡終端とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、第1のIDT電極に接続した入出力端子と、第2及び第3のIDT電極に接続したリード電極との間にアースラインを配置することにより、入出力端子間の電磁結合を抑圧でき、デバイスサイズを大きくすることなく減衰特性を改善することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、各IDT電極の間隙にシールド電極を配置すると共にシールド電極同士をアースラインにより接続し、該アースラインを第1のIDT電極に接続した入出力端子と、第2及び第3のIDT電極を接続するリード電極との間に配置することにより、入出力端子間及びIDT電極間の電磁結合を抑圧でき、デバイスサイズを大きくすることなく減衰特性を更に改善することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、第1のIDT電極に接続した入出力端子とリード電極の間隔をD、アースラインの幅をWとした時にW/D≧0.2とするのが好ましい。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、第1〜第3のIDT電極及びシールド電極を共通のアース端子に接続することにより、ボンディングワイヤ又は金属バンプ等の接続部材の数を減らすことができ、SAWフィルタの小型化、低コスト化を実現できる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、良好な平衡度及び減衰特性を有した平衡−平衡終端、又は不平衡−平衡終端のトランスバーサル型SAWフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図面に図示した実施の形態例に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタを示している。圧電基板上にIDT電極1とその両側にIDT電極2、3を配置し、IDT電極1〜3はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし型電極により構成されており、IDT電極1の一方のくし型電極を入出力端子10に接続し、IDT電極2、3の一方のくし型電極同士をリード電極11により接続すると共に入出力端子12に接続する。そして、IDT電極1〜3の他方のくし型電極をアース端子14に接続する。また、IDT電極1とIDT電極2の間、及びIDT電極1とIDT電極3の間にシールド電極4、4を配置し、アースライン13により互いを接続する。なお、図示していないが、IDT電極2、3の外側に基板端面からの反射波を吸収するための吸音材、又は反射器等を設けている。
【0020】
上述のように、本実施例ではIDT電極1とIDT電極2の間、及び、IDT電極1とIDT電極3の間にシールド電極4、4を配置し、且つ、シールド電極4、4同士をアースライン13で接続し、該アースラインを入出力端子10とリード端子11との間に配置することにより、入出力端子間及びIDT電極間の電磁結合を抑圧した。
【0021】
図2は、前記トランスバーサル型SAWフィルタにおいて、入出力端子10とリード電極11との間の距離をD、アースライン13の幅をWとして、W/Dを変化させた時の減衰特性の比較を示している。同図のF1に示す特性はD=50μm、W=10μmとしてW/D=0.2としたときのフィルタ特性であり、F2に示す特性はD=50μm、W=30μmとしてW/D=0.6としたときのフィルタ特性を示している。また、F0に示す特性は比較のためのアースラインを設けていない図6の従来例のフィルタ特性を示している。なお、いずれの特性においても、中心周波数foを40(MHz)とし、圧電基板に回転YカットX伝搬LiNbO基板を用い、IDT電極1の対数を7対、IDT電極2、3の対数を5対とし、各IDT電極の交差幅を7λ(λ:IDT電極の周期)としている。
【0022】
図2に示すように、従来例の特性F0と比較してアースラインを設けた本発明の特性F1、F2の方が通過帯域近傍の減衰特性が大きいことが分かる。また、W/D=0.2としたF1よりもW/D=0.6としたF2の方が減衰特性が大きくなっており、W/D≧0.2とすることにより減衰特性が更に改善されることを確認した。
【0023】
図3は本実施例の変形例を示しており、図1との違いはIDT電極1〜3及びシールド電極4、4に接続するアース端子14を共通にした点である。本構造では、アース端子に接続するボンディングワイヤ又は金属バンプ等の接続部材の数を減らすことができるので、SAWフィルタの小型化、低コスト化を実現できる。
【0024】
図4は本実施例の別の変形例を示しており、図1との違いは各IDT電極の間隙にシールド電極を配置せず、アースライン13を入出力端子10とリード電極11との間に配置し、且つ、入出力端子10を取り囲むように独立して配置した点である。本構造では、入出力端子間の電磁結合を抑圧できるので良好な減衰特性が得られ、また、SAWフィルタの小型化を実現できる。
【0025】
次に、本発明の第2の実施例について図5を用いて説明する。図5は本発明の第2の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタを示している。圧電基板上にIDT電極21とその両側にIDT電極22、23を配置し、IDT電極21〜23はそれぞれ互いに間挿し合う複数本の電極指を有する一対のくし型電極により構成されており、IDT電極21の一方のくし型電極に平衡用入出力端子30を、他方のくし型電極に平衡用入出力端子40を接続し、IDT電極22、23の一方のくし型電極同士をリード電極31により互いに接続すると共に平衡用入出力端子32に接続し、他方のくし型電極同士をリード電極41により互いに接続すると共に平衡用入出力端子42に接続する。また、IDT電極21とIDT電極22の間、及びIDT電極21とIDT電極23の間にシールド電極24、24を配置し、シールド電極同士をアースライン33、43により互いに接続する。なお、アースライン33は平衡用入出力端子30とリード電極31の間に配置し、アースライン43は平衡用入出力端子40とリード電極41の間に配置している。
【0026】
本実施例のトランスバーサル型SAWフィルタは、入出力端子を平衡−平衡終端とし、入出力端子とリード電極との間にアースラインを配置することにより、入出力端子間で生じる電磁結合を抑圧したので、良好な平衡度と減衰特性を実現することができる。また、同様に入出力端子を不平衡−平衡終端としたトランスバーサル型SAWフィルタについても本発明を適用できることは言うまでもない。
【0027】
以上の実施例では、圧電基板に回転YカットX伝搬LiNbOを用いたが、これに限らず水晶、LiTaO、LBO等の他の圧電基板を用いても良い。また、IDT電極の電極指に重み付けを施したり、一方向性SAW変換器を用いた場合においても同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタを説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、W/Dを変化させたときのフィルタ特性の比較を示す。
【図3】本発明の第1の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタの変形例を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタの別の変形例を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係るトランスバーサル型SAWフィルタを説明する図である。
【図6】従来のトランスバーサル型SAWフィルタを説明する図である。
【図7】従来の圧電基板上に3つのIDT電極を配置したトランスバーサル型SAWフィルタを説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
1、2、3、21、22、23:IDT電極
4、24:シールド電極
10、12:入出力端子
11、31、41:リード電極
13、33、43:アースライン
14:アース端子
30、32、40、42:平衡用入出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、
中央に配置したIDT電極を第1のIDT電極、その両側に配置したIDT電極をそれぞれ第2のIDT電極及び第3のIDT電極とし、第1のIDT電極を構成する一方のくし形電極に入力或いは出力のいずれかの端子を接続し、第2及び第3のIDT電極を構成する一方のくし形電極同士をリード電極により互いに接続すると共に出力或いは入力のいずれかの端子に接続し、
第1のIDT電極の一方のくし形電極に接続した端子とリード電極との間隙にアースラインを配置することを特徴としたトランスバーサル型SAWフィルタ。
【請求項2】
圧電基板上の弾性表面波(SAW)の伝搬方向に沿って3つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したトランスバーサル型SAWフィルタにおいて、
中央に配置したIDT電極を第1のIDT電極、その両側に配置したIDT電極をそれぞれ第2のIDT電極及び第3のIDT電極とし、第1のIDT電極を構成する一方のくし形電極に入力或いは出力のいずれかの端子を接続し、第2及び第3のIDT電極を構成する一方のくし形電極同士をリード電極により互いに接続すると共に出力或いは入力のいずれかの端子に接続し、
第1のIDT電極と第2のIDT電極との間、及び、第1のIDT電極と第3のIDT電極との間にシールド電極を配置すると共にシールド電極同士をアースラインにより互いに接続し、該アースラインを第1のIDT電極の一方のくし形電極に接続した端子とリード電極との間隙に配置することを特徴としたトランスバーサル型SAWフィルタ。
【請求項3】
前記トランスバーサル型SAWフィルタにおいて、第1のIDT電極に接続した入出力端子とリード電極の間隔をD、アースラインの幅をWとした時にW/D≧0.2とすることを特徴とした請求項1又は2に記載のトランスバーサル型SAWフィルタ。
【請求項4】
前記トランスバーサル型SAWフィルタにおいて、第1〜第3のIDT電極の他方のくし形電極及びシールド電極は共通のアース端子に接続されていることを特徴とした請求項1乃至3のいずれかに記載のトランスバーサル型SAWフィルタ。
【請求項5】
前記トランスバーサル型SAWフィルタにおいて、入出力端子を平衡−平衡終端、又は不平衡−平衡終端とすることを特徴とした請求項1乃至4のいずれかに記載のトランスバーサル型SAWフィルタ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−287782(P2006−287782A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107395(P2005−107395)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】