説明

トランスミッションのシンクロ装置

【課題】 シンクロ装置のシンクロナイザリングの摩擦面の潤滑性能を簡単な構造で高める。
【解決手段】 回転軸に固定されたシンクロナイザハブに支持されたスリーブを摺動させると、スリーブの押圧力によってシンクロナイザリング17の摩擦面19aに摩擦力が発生してシンクロナイザハブの回転にギヤの回転が同期し、スリーブによるシンクロナイザハブ、シンクロナイザリングおよびギヤの結合がスムーズに行われる。摩擦面19aに形成されてシンクロナイザハブ側から供給された潤滑油を案内すべく回転軸の軸線L方向に延びる潤滑油溝19cは、シンクロナイザハブ側からギヤ側に向かって通路断面積が減少するので、簡単な構造で潤滑油が潤滑油溝19cから排出され難くし、潤滑油が潤滑油溝19cに留まる時間を長くして潤滑性能を高め、摩擦面19aに焼きつきや偏摩耗が発生するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に固定されたシンクロナイザハブと、前記回転軸に相対回転自在に支持されたギヤと、前記シンクロナイザハブおよび前記ギヤ間に配置されて前記シンクロナイザハブの回転を前記ギヤに伝達する摩擦面が形成されたシンクロナイザリングと、前記シンクロナイザハブに前記回転軸の軸線方向に摺動自在に支持されて前記シンクロナイザリングおよび前記ギヤに係合可能なスリーブとを備えるトランスミッションのシンクロ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マニュアルトランスミッション、オートマチック・マニュアルトランスミッション、デュアルクラッチトランスミッション等に用いられるシンクロ装置は、シンクロナイザリングに形成した摩擦面を相手側部材に圧接し、そこに発生する摩擦力で同期作用を発揮させるようになっている。同期作用が行われる過程でシンクロナイザリングの摩擦面は相手方部材に対して摺動するため、摩擦熱によって焼きつきや偏摩耗が発生しないように充分な潤滑を行う必要がある。
【0003】
マルチコーン式のシンクロ装置において、シンクロナイザリングのインナコーンの内部に回転軸の軸線方向および径方向に延びる潤滑油通路を形成し、この潤滑油通路を通して摩擦面に充分な量の潤滑油を供給するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−9952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来のものは、シンクロナイザリングのインナコーンの内部に回転軸の軸線方向および径方向に延びる潤滑油通路を形成する必要があるため、加工コストが増加するだけでなく、潤滑油通路にバリ等が存在すると焼きつきや偏摩耗が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、シンクロ装置のシンクロナイザリングの摩擦面の潤滑性能を簡単な構造で高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、回転軸に固定されたシンクロナイザハブと、前記回転軸に相対回転自在に支持されたギヤと、前記シンクロナイザハブおよび前記ギヤ間に配置されて前記シンクロナイザハブの回転を前記ギヤに伝達する摩擦面が形成されたシンクロナイザリングと、前記シンクロナイザハブに前記回転軸の軸線方向に摺動自在に支持されて前記シンクロナイザリングおよび前記ギヤに係合可能なスリーブとを備えるトランスミッションのシンクロ装置において、前記摩擦面は前記シンクロナイザハブ側から供給された潤滑油を案内すべく前記軸線方向に延びる潤滑油溝を備え、前記潤滑油溝は前記シンクロナイザハブ側から前記ギヤ側に向かって通路断面積が減少することを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記シンクロナイザリングは、前記シンクロナイザハブと一体に回転するアウタコーンと、前記アウタコーンと一体に回転するインナコーンと、前記アウタコーンおよび前記インナコーン間に配置されて前記ギヤと一体に回転するシンクロナイザコーンとで構成され、前記摩擦面は、前記アウタコーンの前記シンクロナイザコーンに対向する面と前記インナコーンの前記シンクロナイザコーンに対向する面とに形成されることを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記シンクロナイザリングは、前記シンクロナイザハブと一体に回転するアウタコーンと、前記アウタコーンと一体に回転するインナコーンと、前記アウタコーンおよび前記インナコーン間に配置されて前記ギヤと一体に回転するシンクロナイザコーンとで構成され、前記摩擦面は、前記シンクロナイザコーンの前記アウタコーンに対向する面と前記シンクロナイザコーンの前記インナコーンに対向する面と前記インナコーンの前記ギヤに対向する面とに形成されることを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の軸方向潤滑油溝19c,24c,25c,26cは本発明の潤滑油溝に対応し、実施の形態の第1〜第3摩擦面24a,25a,26aは本発明の摩擦面に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、回転軸に固定されたシンクロナイザハブに支持されたスリーブを回転軸の軸線方向に摺動させると、スリーブの押圧力によってシンクロナイザリングの摩擦面に摩擦力が発生してシンクロナイザハブの回転にギヤの回転が同期し、スリーブによるシンクロナイザハブ、シンクロナイザリングおよびギヤの結合がスムーズに行われる。シンクロナイザハブ側から供給された潤滑油を案内すべくシンクロナイザリングの摩擦面に形成されて回転軸の軸線方向に延びる潤滑油溝は、シンクロナイザハブ側からギヤ側に向かって通路断面積が減少するので、簡単な構造で潤滑油が潤滑油溝から排出され難くし、潤滑油が潤滑油溝に留まる時間長くして潤滑性能を高め、摩擦面に焼きつきや偏摩耗が発生するのを防止することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、シンクロナイザリングは、シンクロナイザハブと一体に回転するアウタコーンと、アウタコーンと一体に回転するインナコーンと、アウタコーンおよびインナコーン間に配置されてギヤと一体に回転するシンクロナイザコーンとで構成され、摩擦面はアウタコーンのシンクロナイザコーンに対向する面とインナコーンのシンクロナイザコーンに対向する面とに形成されるので、ダブルコーン型のシンクロ装置の二つの摩擦面の潤滑性能を高めることができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、シンクロナイザリングは、シンクロナイザハブと一体に回転するアウタコーンと、アウタコーンと一体に回転するインナコーンと、アウタコーンおよびインナコーン間に配置されてギヤと一体に回転するシンクロナイザコーンとで構成され、摩擦面はシンクロナイザコーンのアウタコーンに対向する面とシンクロナイザコーンのインナコーンに対向する面とインナコーンのギヤに対向する面とに形成されるので、トリプルコーン型のシンクロ装置の三つの摩擦面の潤滑性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トランスミッションのシンクロ装置の縦断面図。(第1の実施の形態)
【図2】図1の2部拡大図。(第1の実施の形態)
【図3】図2の3−3線断面図。(第1の実施の形態)
【図4】シンクロナイザハブおよびシンクロナイザリングの正面図。(第1の実施の形態)
【図5】図4の5A−5A線断面図および5B−5B線断面図。(第1の実施の形態)
【図6】シンクロナイザリングの斜視図。(第1の実施の形態)
【図7】図2の7−7線拡大矢視図。(第1の実施の形態)
【図8】前記図2に対応する図。(第2の実施の形態)
【図9】図8の9−9線矢視図。(第2の実施の形態)
【図10】アウタコーン、インナコーンおよびシンクロナイザコーンの正面図。(第2の実施の形態)
【図11】図10の11A−11A線、11B−11B線および11C−11C線断面図。(第2の実施の形態)
【図12】図8の12A−12A線および12B−12B線拡大矢視図。(第2の実施の形態)
【図13】前記図8に対応する図。(第3の実施の形態)
【図14】図13の14−14線拡大矢視図。(第3の実施の形態)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0016】
図1および図2に示すように、ツインクラッチ式のトランスミッションのシングルコーン型のシンクロ装置Sは、トランスミッションの回転軸11にボス部12aがスプライン嵌合するシンクロナイザハブ12と、シンクロナイザハブ12のボス部12aの径方向外側に環状溝部12bを介して連続するスリーブ支持部12cの外周に形成したチャンファ12d…に軸方向摺動自在に係合する環状のスリーブ13と、回転軸11の外周に嵌合して一体に回転する筒軸14にニードルベアリング15を介して相対回転自在に支持されたギヤ16と、シンクロナイザハブ12およびギヤ16間に相対回転自在に配置された環状のシンクロナイザリング17と、シンクロナイザハブ12およびシンクロナイザリング17間に配置された環状のシンクロナイザスプリング18とを備える。
【0017】
スリーブ13の内周にはシンクロナイザハブ12の外周のチャンファ12d…に係合するチャンファ13a…が形成され、シンクロナイザリング17の外周にはスリーブ13のチャンファ13a…に係合可能なチャンファ17a…が形成され、ギヤ16に圧入されたドグ歯形成部材16aの外周にはスリーブ13のチャンファ13a…に係合可能なドグ歯16b…が形成される。シンクロナイザリング17の内周には環状の摩擦部材19が設けられ、ギヤ16のドグ歯形成部材16aの外周には前記シンクロナイザリング17の摩擦部材19に当接するコーン面16cが形成される。
【0018】
回転軸11の内部を軸方向に延びる潤滑油通路11aから径方向に分岐する潤滑油孔11bが、シンクロナイザハブ12のボス部12aのスプラインに連通するように回転軸11の外周面に開口する。シンクロナイザハブ12のボス部12aの端部に臨む筒軸14の端部に切欠き14aがされるとともに、この切欠き14aの径方向外側に位置するギヤ16のドグ歯形成部材16aの端部に切欠き16dが形成される。
【0019】
スリーブ13の外周面に形成したフォーク溝13bに、図示せぬ油圧アクチュエータによって回転軸11の軸線L方向に移動可能なシフトフォーク20が嵌合しており、シフトフォーク20の右動によって右側のギヤ16が回転軸11に結合され、シフトフォーク20の左動によって左側のギヤ16が回転軸11に結合される。
【0020】
シンクロ装置Sの右半部の構造と左半部の構造とは実質的に同一であるため、その代表して右半部の構造を更に説明する。
【0021】
図3〜図6に示すように、シンクロナイザリング17のシンクロナイザハブ12側の側面には、径方向外側に突出する3個の台形状の凸部17bが円周方向に120°間隔で形成されており、各凸部17bの径方向外側位置で1個のチャンファ17aが切り欠かれている。一方、回転軸11の外周にスプライン嵌合するシンクロナイザハブ12のスリーブ支持部12cのシンクロナイザリング17側の側面には、径方向内外に連通するように3個の凹部12e…が円周方向に120°間隔で形成されており、各凹部12eの径方向外側位置で1個のチャンファ12dと、その両側の2個のチャンファ12d,12dの一部とが切り欠かれている。
【0022】
シンクロナイザハブ12にシンクロナイザリング17を組付けたとき、シンクロナイザハブ12の凹部12e…にシンクロナイザリング17の凸部17b…が係合するが、凹部12e…の円周方向の幅は凸部17b…の円周方向幅よりも大きいため、シンクロナイザリング17はシンクロナイザハブ12に対してチャンファ12d…,17a…の半ピッチ分だけ相対回転可能である。シンクロナイザハブ12の凹部12eの円周方向中央にシンクロナイザリング17の凸部17bが位置するとき、シンクロナイザハブ12のチャンファ12d…の位相とシンクロナイザリング17のチャンファ17a…の位相とが一致する。
【0023】
図3に拡大して示すように、シンクロナイザリング17の凸部17bの円周方向両端には一対の接触面a,aが形成されるとともに、シンクロナイザハブ12の凹部12eの円周方向両端にはシンクロナイザリング17の前記一対の接触面a,aに面接触可能な一対の接触面b,bが形成される。シンクロナイザリング17の凸部17bの一対の接触面a,aは径方向外側で間隔が狭まるように軸線Lを通る径方向のラインRに対して傾斜しており、シンクロナイザハブ12の凹部12eの一対の接触面b,bも径方向外側で間隔が狭まるように軸線Lを通る径方向のラインRに対して傾斜している。
【0024】
ギヤ16のドグ歯形成部材16aの外周に形成されたコーン面16cはシンクロナイザハブ12側からギヤ16側に向かって拡径するようにテーパしており、このコーン面16cに当接する摩擦部材19の内周の摩擦面19aもシンクロナイザハブ12側からギヤ16側に向かって拡径するようにテーパしている。図6から明らかなように、摩擦部材19の摩擦面19aには、円周方向に延びる3本の環状の円周方向潤滑油溝19b…と、軸線L方向に相互に平行に延びる多数の直線状の軸方向潤滑油溝19c…とが形成される。円周方向潤滑油溝19bの幅は一定であるが、軸方向潤滑油溝19c…の幅はシンクロナイザハブ12側からギヤ16側に向かって幅狭になるようにテーパーしている。
【0025】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0026】
先ず、図1に基づいてシンクロ装置Sの同期作用を説明する。
【0027】
図示した中立状態にあるスリーブ13をシフトフォーク20で例えば右方向に駆動すると、スリーブ13はそのチャンファ13a…をシンクロナイザハブ12のチャンファ12d…に案内されながら移動し、スリーブ13のチャンファ13a…の歯先に押圧されたシンクロナイザスプリング18の荷重がシンクロナイザリング17に伝達さることで、シンクロナイザリング17がギヤ16に向けて付勢される。
【0028】
スリーブ13が更に前進すると、スリーブ13のチャンファ13a…の歯先とシンクロナイザリング17のチャンファ17a…の歯先とが当接し、かつギヤ16のコーン面16cとシンクロナイザリング17の摩擦材19の摩擦面19aとが接触して摩擦力によるトルクが発生する。スリーブ13が更に前進すると、前記トルクによりギヤ16の回転にスリーブ13の回転(即ち回転軸11の回転)が同期し、スリーブ13のチャンファ13a…がシンクロナイザリング17のチャンファ17a…を掻き分けることが可能になる。
【0029】
ギヤ16の回転にスリーブ13の回転が同期すると前記トルクが消滅するため、スリーブ13が更に前進すると、スリーブ13のチャンファ13a…がシンクロナイザリング17のチャンファ17a…を掻き分けてスリーブ13およびシンクロナイザリング17が一体に結合され、更にスリーブ13のチャンファ13a…がギヤ16のドグ歯16b…を掻き分けて係合することで変速が完了する。
【0030】
ところで、シンクロ装置Sが中立状態にあるとき、シンクロナイザハブ12の凹部12e…に凸部17b…を係合させたシンクロナイザリング17は該シンクロナイザハブ12と一体に回転するため、シンクロナイザリング17は回転軸11に対して相対回転するギヤ16に対して相対回転し、ギヤ16のコーン面16cとシンクロナイザリング17の摩擦材19の摩擦面19aとの間に発生する引きずりトルクがフリクションロスの原因となる。このフリクションロスを低減するには、径方向にフローティング状態にあるシンクロナイザリング17を軸線Lに対して調芯し、シンクロナイザリング17の摩擦材19の摩擦面19aがギヤ16のコーン面16cにできるだけ接触しないようにすることが必要である。
【0031】
次に、ギヤ16のコーン面16cと摩擦材19の摩擦面19aとの間に発生する無駄な摩擦力の低減について説明する。
【0032】
本実施の形態では、シンクロ装置Sが中立状態にあるときに、車両の加速や減速によって回転軸11およびギヤ16の相対回転が増加すると、ギヤ16のコーン面16cに摩擦材19の摩擦面19aを引きずられたシンクロナイザリング17と、回転軸11と一体に回転するシンクロナイザハブ12とが相対回転するため、図3に拡大して示すように、シンクロナイザハブ12の凹部12eの一対の接触面b,bの一方にシンクロナイザリング17の凸部17bの一対の接触面a,aの一方が押し付けられる。
【0033】
このとき、相互に接触する二つの接触面a,bの方向は径方向のラインRに対して角度αだけ傾斜しているため、接触面a,bの垂直抗力の分力として径方向の荷重Fが作用する。この荷重Fは回転軸11に固定されたシンクロナイザハブ12の凹部12e…に対してシンクロナイザリング17の凸部17b…を径方向内側に付勢するように作用し、かつ前記荷重Fは円周方向に120間隔で離間した三つの位置に均等に作用するため、シンクロナイザリング17はシンクロナイザハブ12に対して、つまり回転軸11の軸線Lに対して調芯される。その結果、シンクロナイザリング17はシンクロナイザハブ12に対して、つまり回転軸11の軸線Lに対して偏心しなくなり、シンクロナイザリング17の摩擦材19の摩擦面19aがギヤ16のコーン面16cに偏当りして無駄な摩擦力が発生するのが防止されることで、フリクションロスが最小限に抑えられる。
【0034】
次に、シンクロナイザリング17の摩擦材19の摩擦面19aとギヤ16のコーン面16cとの接触部の潤滑について説明する。
【0035】
図1において、図示せぬオイルポンプから回転軸11の潤滑油通路11aに供給された潤滑油は、回転軸11の潤滑油孔11b、シンクロナイザハブ12のボス部12aの内周面のスプラインの歯溝および筒軸14の切欠き14aを通過してニードルベアリング15を潤滑し、更にギヤ16のドグ歯形成部材16aの切欠き16dを通過して遠心力で径方向外側に飛散することで、シンクロナイザリング17の摩擦材19の摩擦面19aとギヤ16のコーン面16cとの接触部を潤滑する。即ち、図7に示すように、前記潤滑油は摩擦材19の軸線L方向に延びる軸方向潤滑油溝19c…のシンクロナイザハブ12側の端部から流入してギヤ16側の端部から排出される間に、円周方向に延びる3本の円周方向潤滑油溝19b…に流入することで、摩擦面19aおよびコーン面16cの接触部を隈なく潤滑する。
【0036】
このとき、仮に軸方向潤滑油溝19c…の通路断面積が潤滑油の流れ方向に一定であるとすると、軸方向潤滑油溝19c…の内部の潤滑油は簡単にギヤ16側に流出して円周方向潤滑油溝19b…に充分に流入することができず、摩擦面19aおよびコーン面16cの接触部の潤滑が不充分になって焼きつきや偏摩耗の原因となる可能性がある。しかしながら本実施の形態によれば、軸方向潤滑油溝19c…の通路断面積が上流のシンクロナイザハブ12側から下流のギヤ16側に向かって次第に狭くなっているので、軸方向潤滑油溝19c…内の潤滑油をギヤ16側に排出され難くして円周方向潤滑油溝19b…に積極的に流入させ、摩擦面19aおよびコーン面16cの接触部の潤滑性能を高めることができる。しかも既存の軸方向潤滑油溝19c…の形状を変更するだけで実現可能であるため、コストの増加を最小限に抑えることができる。
【0037】
次に、図8〜図12に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0038】
第1の実施の形態のシンクロ装置Sはシングルコーン型のものであるが、第2の実施の形態のシンクロ装置Sはダブルコーン型のものである。
【0039】
図8〜図11に示すように、ダブルコーン型のシンクロ装置Sのシンクロナイザリング17は、径方向外側に位置するアウタコーン21と、径方向内側に位置するインナコーン22と、アウタコーン21およびインナコーン22に挟まれたシンクロナイザコーン23とで構成される。
【0040】
アウタコーン21は、第1の実施の形態のシンクロナイザリング17と類似の構造を有するもので、その外周にスリーブ13のチャンファ13a…が係合可能なチャンファ21a…と、シンクロナイザハブ12の3個の凹部12e…(不図示)に所定範囲で相対回転可能に係合する3個の凸部21b…とを備えるとともに、その内周に60°間隔で内向きに突出する6個の凸部21c…を備え、更に内周面に第1摩擦材24が設けられる。
【0041】
尚、第1の実施の形態では、シンクロナイザハブ12の凹部12e…とシンクロナイザリング17の凸部17b…とが径方向のラインRに対して傾斜した接触面a,a;b,bで接触することで、シンクロナイザリング17を径方向内側に付勢していたが、第2の実施の形態ではアウタコーン21を径方向内側に付勢する必要がないため、前記傾斜した接触面a,a;b,bは不要であり、単にシンクロナイザハブ12およびシンクロナイザリング17の相対回転を所定範囲に規制するための接触面を備えていれば良い。つまり、シンクロナイザハブ12の凹部12e…およびシンクロナイザリング17の凸部17b…の接触面は傾斜している必要はなく、径方向のラインRに沿っていれば良い。
【0042】
また第1の実施の形態ではドグ歯形成部材16aがギヤ16と別部材で構成されて一体に結合されているが、第2の実施の形態のギヤ16はドグ歯形成部材16aを備えておらず、ギヤ16にドグ歯16b…が一体に形成されている。
【0043】
インナコーン22は、軸線L方向の一端にアウタコーン21の6個の凸部21c…が所定範囲で相対回転可能に嵌合する6個の凹部22a…が形成され、かつ外周面に第2摩擦材25が設けられる。
【0044】
シンクロナイザコーン23は、その外周面に前記第1摩擦材24に接触する第1コーン面23aが形成されるとともに、その内周面に前記第2摩擦材25に接触する第2コーン面23bが形成され、更に軸線L方向の一端にギヤ16の端面に形成した3個の凹部16e…に所定範囲で相対回転自在に嵌合する3個の凸部23c…が120°間隔で形成される。
【0045】
図9から明らかなように、アウタコーン21の凸部21cの円周方向両端には一対の接触面c,cが形成されるとともに、インナコーン22の凹部22aの円周方向両端にはアウタコーン21の凸部21cの前記一対の接触面c,cに面接触可能な一対の接触面d,dが形成される。アウタコーン21の凸部21bの一対の接触面c,cは径方向外側で間隔が広がるように軸線Lを通る径方向のラインRに対して傾斜しており、インナコーン22の凹部22aの一対の接触面d,dも径方向外側で間隔が広がるように軸線Lを通る径方向のラインRに対して傾斜している。
【0046】
図12から明らかなように、第1摩擦部材24の第1摩擦面24aには、円周方向に延びる3本の環状の円周方向潤滑油溝24b…と、軸線L方向に相互に平行に延びる多数の直線状の軸方向潤滑油溝24c…とが形成される。円周方向潤滑油溝24bの幅は一定であるが、軸方向潤滑油溝24c…の幅はシンクロナイザハブ12側からギヤ16側に向かって幅狭になるようにテーパーしている。同様に、第2摩擦部材25の第2摩擦面25aには、円周方向に延びる3本の環状の円周方向潤滑油溝25b…と、軸線L方向に相互に平行に延びる多数の直線状の軸方向潤滑油溝25c…とが形成される。円周方向潤滑油溝25bの幅は一定であるが、軸方向潤滑油溝25c…の幅はシンクロナイザハブ12側からギヤ16側に向かって幅狭になるようにテーパーしている。
【0047】
次に、上記構成を備えた第2の実施の形態の作用を説明する。
【0048】
第2の実施の形態はダブルコーン型のシンクロ装置Sであるため、その同期作用が第1の実施の形態のシングルコーン型のシンクロ装置Sと異なっている。即ち、スリーブ13の軸線L方向の摺動によってシンクロナイザスプリング18を介してシンクロナイザリング17のアウタコーン21がギヤ16側に付勢されると、その付勢力によってアウタコーン21の内周の第1摩擦材24がシンクロナイザコーン23の外周の第1コーン面23aに押し付けられ、同時にシンクロナイザコーン23の内周の第2コーン面23bがインナコーン22の外周の第2摩擦材25に押し付けられることで、シンクロナイザハブ12の回転にシンクロナイザコーン23の回転が同期し、このシンクロナイザコーン23の凸部23c…に凹部16e…が嵌合するギヤ16の回転がシンクロナイザハブ12の回転に同期する。その結果、シンクロナイザハブ12に摺動自在に嵌合するスリーブ13のチャンファ13a…が、アウタコーン21のチャンファ21a…およびギヤ16のドグ歯16b…にスムーズに係合し、所望の変速段が確立される。
【0049】
ところで、シンクロ装置Sが中立状態にあるとき、シンクロナイザハブ12の凹部12e…に凸部21b…を係合させたアウタコーン21は該シンクロナイザハブ12と一体に回転し、かつアウタコーン21の凸部21c…に凹部22a…を係合させたインナコーン22はアウタコーン21と一体に回転するため、ギヤ16と一体に回転するシンクロナイザコーン23との間に相対回転が発生する。その結果、アウタコーン21の第1摩擦材24の第1摩擦面24aとシンクロナイザコーン23の第1コーン面23aとの間に引きずりトルクが発生し、かつインナコーン22の第2摩擦材25の第2摩擦面25aとシンクロナイザコーン23の第2コーン面23bとの間に引きずりトルクが発生し、これがフリクションロスの原因となる。このフリクションロスを低減するには、径方向にフローティング状態にあるアウタコーン21およびインナコーン22を相互に離反する方向に付勢し、アウタコーン21の第1摩擦材24およびインナコーン22の第2摩擦材25をシンクロナイザコーン23の第1、第2コーン面23a,23bにできるだけ接触しないようにすることが必要である。
【0050】
本実施の形態では、シンクロ装置Sが中立状態にあるときに、車両の加速や減速によって回転軸11およびギヤ16の相対回転が増加すると、回転軸11に引きずられるアウタコーン21とギヤ16に引きずられるインナコーン22とが相対回転するため、図9に拡大して示すように、アウタコーン21の凸部21cの一対の接触面c,cの一方がインナコーン22の凹部22a一対の接触面d,dの一方に押し付けられる。
【0051】
このとき、相互に接触する二つの接触面c,dの方向は径方向のラインRに対して角度αだけ傾斜しているため、接触面c,dの垂直抗力の分力として径方向の荷重Fが作用し、かつ前記荷重Fは円周方向に60°間隔で離間した六つの位置に均等に作用するため、アウタコーン21およびインナコーン22は相互に離反する方向に付勢される。その結果、アウタコーン21の第1摩擦材24およびインナコーン22の第2摩擦材25はシンクロナイザコーン23の第1、第2コーン面23a,23bから離反し、そこに無駄な摩擦力が発生するのが防止されることで、フリクションロスを最限に抑えることができる。
【0052】
また図示せぬオイルポンプから供給された潤滑油は、回転軸11の潤滑油通路11a→回転軸11の潤滑油孔11b→シンクロナイザハブ12のボス部12aの内周面のスプラインの歯溝→筒軸14の切欠き14a→ギヤ16の切欠き16dの経路で流れ、シンクロナイザリング17のアウタコーン21の第1摩擦材24の第1摩擦面24aと、シンクロナイザリング17のインナコーン12の第2摩擦材25の第2摩擦面25aに流入し、シンクロナイザコーン13の第1、第2コーン面23a,23bとの接触部を潤滑する。
【0053】
このとき、第1、第2摩擦材24,25の軸方向潤滑油溝24c…,25c…の通路断面積が上流のシンクロナイザハブ12側から下流のギヤ16側に向かって次第に狭くなっているので、軸方向潤滑油溝24c…,24c…内の潤滑油をギヤ16側に排出され難くして円周方向潤滑油溝24b…,25bに積極的に流入させ、第1、第2摩擦面24a,25aおよび第1、第2コーン面23a,23bの接触部の潤滑性能を高めることができる。しかも既存の軸方向潤滑油溝24c…,25c…の形状を変更するだけで実現可能であるため、コストの増加を最小限に抑えることができる。
【0054】
次に、図13および図14に基づいて本発明の第3の実施の形態を説明する。
【0055】
第2の実施の形態のシンクロ装置Sはダブルコーン型のものであるが、第3の実施の形態のシンクロ装置Sはトリプルコーン型のものである。
【0056】
第2の実施の形態では、アウタコーン21の内周面にシンクロナイザコーン23の第1コーン面23aに対向する第1摩擦材24が設けられ、インナコーン22の外周面にシンクロナイザコーン23の第2コーン面23bに対向する第2摩擦材25が設けられているが、第3の実施の形態では、シンクロナイザコーン23の外周面にアウタコーン21の内周のコーン面21dに対向するの第1摩擦材24が設けられ、シンクロナイザコーン23の内周面にインナコーン22の外周のコーン面22bに対向する第2摩擦材25が設けられ、更にインナコーン22の内周面にギヤ16の外周のコーン面16cに対向する第3摩擦材26が設けられている。
【0057】
インナコーン22の第3摩擦材26の第3摩擦面26aには、第1、第2摩擦材24,25の第1、第2摩擦面24a,25aの円周方向潤滑油溝24b…,25b…および軸方向潤滑油溝24c…,25c…と同一の構造を有する円周方向潤滑油溝26b…および軸方向潤滑油溝26c…が形成される。
【0058】
この第3の実施の形態によれば、第1〜第3摩擦材24〜26に発生する摩擦力で一層効率的な同期作用を得ることができるだけでなく、第3摩擦材26の第3摩擦面26aの円周方向潤滑油溝26b…および軸方向潤滑油溝26c…により、第1、第2摩擦部材24,25の第1、第2摩擦面24a,25aの円周方向潤滑油溝24b…,25b…および軸方向潤滑油溝24c…,25c…と同一の作用効果を得ることができる。
【0059】
第3の実施の形態のその他の構成および作用効果は、第2の実施の形態のそれと同じである。
【0060】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0061】
例えば、実施の形態では摩擦材19,24,25の軸方向潤滑油溝19c…,24c…25c…の幅をシンクロナイザハブ12側からギヤ16側に向かって次第に幅狭になるようにテーパーさせることで通路断面積を減少させているが、軸方向潤滑油溝19c…,24c…25c…の幅を一定にしたまま深さを次第に浅くすることで通路断面積を減少させても良い。
【符号の説明】
【0062】
11 回転軸
12 シンクロナイザハブ
13 スリーブ
16 ギヤ
17 シンクロナイザリング
19a 摩擦面
19c 軸方向潤滑油溝(潤滑油溝)
21 アウタコーン
22 インナコーン
23 シンクロナイザコーン
24a 第1摩擦面(摩擦面)
24c 軸方向潤滑油溝(潤滑油溝)
25a 第2摩擦面(摩擦面)
25c 軸方向潤滑油溝(潤滑油溝)
26a 第3摩擦面(摩擦面)
26c 軸方向潤滑油溝(潤滑油溝)
L 回転軸の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(11)に固定されたシンクロナイザハブ(12)と、
前記回転軸(11)に相対回転自在に支持されたギヤ(16)と、
前記シンクロナイザハブ(12)および前記ギヤ(16)間に配置されて前記シンクロナイザハブ(12)の回転を前記ギヤ(16)に伝達する摩擦面(19a,24a,25a,26a)が形成されたシンクロナイザリング(17)と、
前記シンクロナイザハブ(12)に前記回転軸(11)の軸線(L)方向に摺動自在に支持されて前記シンクロナイザリング(17)および前記ギヤ(16)に係合可能なスリーブ(13)とを備えるトランスミッションのシンクロ装置において、
前記摩擦面(19a,24a,25a,26a)は前記シンクロナイザハブ(12)側から供給された潤滑油を案内すべく前記軸線(L)方向に延びる潤滑油溝(19c,24c,25c,26c)を備え、前記潤滑油溝(19c,24c,25c,26c)は前記シンクロナイザハブ(12)側から前記ギヤ(16)側に向かって通路断面積が減少することを特徴とするトランスミッションのシンクロ装置。
【請求項2】
前記シンクロナイザリング(17)は、
前記シンクロナイザハブ(12)と一体に回転するアウタコーン(21)と、前記アウタコーン(21)と一体に回転するインナコーン(22)と、前記アウタコーン(21)および前記インナコーン(22)間に配置されて前記ギヤ(16)と一体に回転するシンクロナイザコーン(23)とで構成され、前記摩擦面(24a,25a)は、前記アウタコーン(21)の前記シンクロナイザコーン(23)に対向する面と前記インナコーン(22)の前記シンクロナイザコーン(23)に対向する面とに形成されることを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッションのシンクロ装置。
【請求項3】
前記シンクロナイザリング(17)は、
前記シンクロナイザハブ(12)と一体に回転するアウタコーン(21)と、前記アウタコーン(21)と一体に回転するインナコーン(22)と、前記アウタコーン(21)および前記インナコーン(22)間に配置されて前記ギヤ(16)と一体に回転するシンクロナイザコーン(23)とで構成され、前記摩擦面(24a,25a,26a)は、前記シンクロナイザコーン(23)の前記アウタコーン(21)に対向する面と前記シンクロナイザコーン(23)の前記インナコーン(22)に対向する面と前記インナコーン(22)の前記ギヤ(16)に対向する面とに形成されることを特徴とする、請求項1に記載のトランスミッションのシンクロ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−122578(P2012−122578A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275343(P2010−275343)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】