説明

トランスミッション制御装置

【課題】クラッチアクチュエータの能力低下状態を検出すると共に、クラッチアクチュエータの故障を未然に防止する。
【解決手段】第1のクラッチアクチュエータCA1に対し動力伝達の指令が与えられているにも関わらず、動力伝達能力低下検出手段108が第1のクラッチC1の動力伝達能力の低下を検出した場合、第1の歯車式変速機構T1を経由する動力伝達経路での動力伝達を禁止し、第2の歯車式変速機構T2を経由する動力伝達経路での動力伝達を行う。また、第2のクラッチアクチュエータC2に対し動力伝達の指令が与えられているにも関わらず、動力伝達能力低下検出手段108が第2のクラッチC2の動力伝達能力の低下を検出した場合、第2の歯車式変速機構T2を経由する動力伝達経路での動力伝達を禁止し、第1の歯車式変速機構T1を経由する動力伝達経路での動力伝達を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両に搭載されるトランスミッションを制御するトランスミッション制御装置に係り、特に、エンジンからの動力を2つの動力伝達経路に分割し、それぞれクラッチと変速機構を独立に備えたトランスミッションを制御するトランスミッション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンからの動力を2つの動力伝達経路に分割し、それぞれクラッチと変速機構を独立に備えて変速動作を行い、入力軸の動力を出力軸に伝達する、所謂、ツインクラッチ式トランスミッションが知られている。このツインクラッチ式トランスミッションにおいては、クラッチを動作させるアクチュエータとして電動モータが用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、ツインクラッチ式トランスミッションを制御するツインクラッチ式トランスミッション制御装置において、一方の変速段グループが故障した場合、他方の変速段グループを用いて変速動作を行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】ドイツLuk社のシンポジウム「8th Luk Symposium 2006」において配布された資料「Electromotoric actuators for double clutch transmissions」
【特許文献1】特開2006−132574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記非特許文献1に開示されたツインクラッチ式トランスミッションは、クラッチアクチュエータとして電動モータを用いており、電動モータの通電(動作)時に入力軸の動力を出力軸へ伝達し、電動モータの非通電(非動作)時には入力軸の動力を出力軸へ伝達しない、ノーマルオープン型のクラッチである。そして、入力軸からの動力を伝達するために電動モータに通電すると、電源電圧に応じた電流が流れる。この電動モータに流れた電流の大きさによって電動モータにトルクが発生し、発生したトルクが大きければ大きいほど、クラッチの入力軸から出力軸へ伝達するトルクが大きくなる構成になっている。
【0006】
ところで、電動モータは一般的に、電気エネルギーの一部を熱として消費しており、従って、通電時間が長くなるほど、電動モータに与えられるエネルギー量は大きくなり、電動モータは雰囲気温度との間に熱平衡が成立する温度まで上昇することになる。
【0007】
また、電動モータのトルクの大きさは、電動モータ内部のコイルに流れた電流により発生する磁束と、コイルの近傍に配置された永久磁石が発生する磁束とによって決定し、永久磁石は温度が上昇すると、発生する磁束の大きさが小さくなるという特性を持つものである。従って、電動モータに通電することによりコイルの温度が上昇すると、永久磁石の温度も上昇することから、同じ電気エネルギーを電動モータに与えても、永久磁石の温度が高くなることにより、電動モータで発生するトルクは小さくなる。このため、電動モータで発生するトルクがクラッチを保持するために必要なトルクを下回り、電動モータが能力低下の状態になると、クラッチの動力伝達能力も低下する。
【0008】
クラッチの伝達能力が低下すると、クラッチに滑りが生じ、この滑りによって摩擦が起きてクラッチ部で熱が発生する。その熱によってクラッチ付近が温められ、近接する電動
モータの温度が更に上昇することになる。電動モータのコイルは金属でできており、表面を絶縁物でコーティングされている。コイルの内部温度が故障限界温度以上となった場合、絶縁物の皮膜が高温により化学変化を起こし、導線の絶縁が破壊されたり、コイルの半田部分に断線が発生したりして、電動モータは故障に至る。
【0009】
前記のように、電動モータの能力低下の状態が継続し、モータ温度が高くなると、断線や短絡など故障の可能性が高くなるので、故障防止のためには、電動モータの能力低下状態を長時間継続させず、電動モータの温度が故障限界温度以上とならないようにする必要がある。
【0010】
ツインクラッチ式トランスミッションに用いられる電動モータの故障が未然に防止できずに一方の電動モータが故障した場合、当該電動モータはトルクを発生することができず、当該電動モータによって動作するクラッチは、入力軸から出力軸に動力を伝達することができなくなる。そのため、トランスミッションは他方の電動モータを含むクラッチのみで変速を行うことになるため、変速のギア比を燃費効果の高いギア比に設定することができない。また、適切なギア比を選択することができないため、運転者の意思通りの加速が得られなかったり、高回転での運転でエンジン音が煩かったりといった、ドライバビリティの悪化を招くことになる。更に、通常状態とは異なる離れたギア比での変速操作となるため、変速ショックも大きくなるなどの状態が継続されるという課題があった。
【0011】
また、前記特許文献1に開示されたトランスミッション制御装置は、クラッチアクチュエータに対し動作を指令した後、ストローク検知などにより、実際にアクチュエータが動作したかを検出し、故障を判定するものである。この特許文献1に開示されたトランスミッション制御装置においては、クラッチアクチュエータが故障した後であれば故障を検出することができるが、クラッチアクチュエータの駆動指令中に能力低下状態であることを検出することができず、クラッチアクチュエータが故障に至るまで動作し続けることになり、故障を未然に防ぐことができないなどの課題があった。
【0012】
この発明は前記のような課題を解消するためになされたもので、クラッチアクチュエータの能力低下状態を検出できると共に、クラッチアクチュエータの故障を未然に防止できるトランスミッション制御装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るトランスミッション制御装置は、エンジンの出力トルクを伝達するエンジン出力軸と、前記エンジン出力軸の動力をタイヤに伝達する第1の歯車式変速機構と、前記エンジン出力軸の動力をタイヤに伝達する第2の歯車式変速機構と、前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路に設置され、動力の伝達または切断を行う第1のクラッチと、前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路に設置され、動力の伝達又は切断を行う第2のクラッチと、電気信号によって作動し、前記第1のクラッチを動作させる第1のクラッチアクチュエータと、電気信号によって作動し、前記第2のクラッチを動作させる第2のクラッチアクチュエータと、を備えたトランスミッションを制御するトランスミッション制御装置において、前記トランスミッション制御装置は、前記第1のクラッチアクチュエータ及び前記第2のクラッチアクチュエータを制御するクラッチアクチュエータ制御装置と、前記第1のクラッチアクチュエータ又は前記第2のクラッチアクチュエータにおける動力伝達能力の低下を検出又は推定する動力伝達能力低下検出手段と、を備え、前記クラッチアクチュエータ制御装置が前記第1のクラッチアクチュエータに対し動力伝達の指令を与えているにも関わらず、前記動力伝達能力低下検出手段が前記第1のクラッチの動力伝達能力の低下を検出した場合、前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を禁止
し、前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を行い、前記クラッチアクチュエータ制御装置が前記第2のクラッチアクチュエータに対し動力伝達の指令を与えているにも関わらず、前記動力伝達能力低下検出手段が前記第2のクラッチの動力伝達能力の低下を検出した場合、前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を禁止し、前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を行うものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るトランスミッション制御装置によれば、動力伝達能力の低下により発生するクラッチの滑りを推定又は検出するので、クラッチアクチュエータが故障することを未然に防止でき、故障による燃費の悪化やドライバビリティの悪化を未然に防止できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して、この発明に係るトランスミッション制御装置について好適な実施の形態を説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るトランスミッション制御装置を説明するシステム構成図である。図1において、エンジン101は動力を出力し、エンジン出力軸102にその動力を伝達する。エンジン出力軸102に伝達された動力は、第1の動力伝達経路103Aを通って、第1の歯車式変速機構T1に伝達される。第1の歯車式変速機構T1は、トランスミッション制御装置104を構成する歯車式変速機構制御装置105によって指令された歯車で動力を伝達することにより、変速操作が可能である。
【0017】
同様に、エンジン出力軸102に伝達された動力は、第2の動力伝達経路103Bを通って、第2の歯車式変速機構T2に伝達される。歯車式変速機構制御装置105は、第2の歯車式変速機構T2にも指令を与え、変速操作を可能とする。
【0018】
第1の歯車式変速機構T1及び第2の歯車式変速機構T2から出力された動力は、それぞれ第1のクラッチC1と第2のクラッチC2を経由してタイヤ106に伝達される。第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2は、それぞれ第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2によって動作する構成になっている。第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2は、トランスミッション制御装置104を構成するクラッチアクチュエータ制御装置107によって制御され、第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2における動力の伝達あるいは切断を実施する。これにより、エンジン101からの動力はエンジン出力軸102を通って伝達され、第1の動力伝達経路103Aと第2の動力伝達経路103Bを通ってそれぞれ第1の歯車式変速機構T1及び第2の歯車式変速機構T2を経由し、それぞれ第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2によって、第1の動力伝達経路103A又は第2の動力伝達経路103Bのいずれか一方を選択して動力を伝達し、タイヤ106に伝達される。
【0019】
トランスミッション制御装置104は、第1の動力伝達経路103A、あるいは第2の動力伝達経路103Bにおけるトルクの伝達能力を検出する動力伝達能力低下検出手段108を内部に備えており、この動力伝達能力低下検出手段108は、第1の動力伝達経路103A及び第2の動力伝達経路103B中におけるトルクの伝達能力が低下したことを検出する。即ち、動力伝達能力低下検出手段108は、第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2の前後に設置されて、第1の動力伝達経路103A及び第2の動力伝達経路103Bの回転速度を計測する第1の回転センサ109、第2の回転センサ110、第3の回転センサ111、第4の回転センサ112の情報から、第1の動力伝達経路103A及び第2の動力伝達経路103B中におけるトルクの伝達能力が低下したことを検出するように構成されている。なお、図1中の実線は動力伝達経路、一点鎖線は制御信号経路、及び破線はセンサ信号経路を示している。
【0020】
図2は、実施の形態1に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。図2において、ステップS201では、クラッチアクチュエータ制御装置107が、第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2に対して、又は第1のクラッチC1、及び第2のクラッチC2に対してトルクの伝達を指令しているかどうかを判定する。判定が真であった場合、ステップS202に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0021】
ステップS202では、動力伝達能力低下検出手段108において、動力伝達能力が低下しているかどうかを判定する。動力伝達能力が低下していれば、ステップS203に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0022】
ステップS203では、第1のクラッチC1が動作中かを判定し、第1のクラッチC1が動作中であればステップS204に進み、それ以外の場合はステップS206に進む。
【0023】
ステップS204では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS205に進む。
【0024】
ステップS205では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0025】
ステップS206では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS207に進む。
【0026】
ステップS207では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0027】
なお、前記実施の形態1で説明したクラッチC1、C2は、エンジン101からの動力を歯車式変速機構T1、T2を通って変速された後、タイヤ106への動力を伝達あるいは切断する構成として示したが、歯車式変速機構T1、T2とクラッチC1、C2の位置を入れ替え、エンジン101に近い位置で動力の伝達及び切断を行う構成として実現してもよいことは勿論である。
【0028】
以上のように、実施の形態1に係るトランスミッション制御装置は、動力伝達能力低下検出手段108を備え、クラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出した場合、当該クラッチアクチュエータが能力低下状態から復帰するまでの間使用を禁止し、他方のクラッチアクチュエータを使用するようにしたため、能力低下状態を検出したクラッチアクチュエータの故障を未然に防止する効果を有する。
【0029】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係るトランスミッション制御装置について図3を用いて説明する。なお、システム構成については、実施の形態1で説明したトランスミッション制御装置と同様であるので、図1を用いることにする。
【0030】
図3は、実施の形態2に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャ
ートである。図3において、ステップS301では、クラッチアクチュエータ制御装置107が、第1のクラッチアクチュエータCA1及び/又は第2のクラッチアクチュエータCA2に対して、クラッチC1及び/又はクラッチC2におけるトルクの伝達を指令しているかどうかを判定する。判定が真であった場合、ステップS302に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0031】
ステップS302では、第1のクラッチC1が動作中かを判定し、第1のクラッチC1が動作中であればステップS303に進み、それ以外の場合はステップS306に進む。
【0032】
ステップS303では、第1のクラッチC1において、動力伝達能力の低下により滑りが発生しているかどうかを判定する。第1の歯車式変速機構T1の出力回転速度を第1の回転センサ109で計測し、その値をNm1とする。第1のクラッチC1の出力回転速度を第2の回転センサ110で計測し、その値をNm2とする。動力が全て伝達されていれば、2つの回転センサ109、110の出力値は等しくなるため、Nm1−Nm2を計算し、その値が所定値以上であった場合はステップS304に進み、所定値未満であった場合はサブルーチンを終了する。
【0033】
ステップS304では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS305に進む。
【0034】
ステップS305では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0035】
ステップS306では、第2のクラッチC2において、動力伝達能力の低下により滑りが発生しているかどうかを判定する。第2の歯車式変速機構T2の出力回転速度を第3の回転センサ111で計測し、その値をNm3とする。第2のクラッチC2の出力回転速度を第4の回転センサ112で計測し、その値をNm4とする。動力が全て伝達されていれば、2つの回転センサ111、112の出力値は等しくなるため、Nm3−Nm4を計算し、その値が所定値以上であった場合はステップS307に進み、所定値未満であった場合はサブルーチンを終了する。
【0036】
ステップS307では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS308に進む。
【0037】
ステップS308では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0038】
以上のように、実施の形態2に係るトランスミッション制御装置は、回転センサ109、110、111、112によりクラッチC1あるいはクラッチC2の滑り量を正確に検出することができることから、従来のトランスミッション制御装置ではできなかったクラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出できると共に、クラッチアクチュエータCA1、CA2の故障を未然に防止することができ、より正確にクラッチC1、C2の能力低下状態を検出することができる。
【0039】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3に係るトランスミッション制御装置について図4及び図5を用いて説明する。図4は実施の形態3に係るトランスミッション制御装置を説明するシステム構成図である。図4において、エンジン401は動力を出力し、エンジン出力軸402に動力を伝達する。エンジン401から伝達された動力はエンジン出力軸402を通ってタイヤ403に伝達される。
【0040】
エンジン出力軸402から出力された動力は、エンジン出力軸402の動力伝達経路に設けられた歯車404a、404b、404cを介して、第1の歯車式変速機構T1に伝達される。第1の歯車式変速機構T1は、指令された歯車で動力を伝達することにより、変速操作が可能である。
【0041】
同様に、エンジン出力軸402から出力された動力は、エンジン出力軸402の動力伝達経路に設けられた歯車405a、405b、405cを介して第2の歯車式変速機構T2に伝達され、変速操作を可能とする。
【0042】
第1の歯車式変速機構T1及び第2の歯車式変速機構T2から出力された動力は、それぞれ第1のクラッチC1と第2のクラッチC2を経由してタイヤ403に伝達される。第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2は、それぞれ第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2によって動作する。この実施形態においては、第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2は電動モータで構成されている。
【0043】
第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2は、クラッチアクチュエータ制御装置406によって制御され、第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2における動力の伝達と切断を可能にする。
【0044】
第1のクラッチアクチュエータCA1の温度は、第1のクラッチアクチュエータ温度センサ407により計測され、第2のクラッチアクチュエータCA2の温度は、第2のクラッチアクチュエータ温度センサ408で計測される。また、第1の電流センサ409は、第1のクラッチアクチュエータCA1を作動させたときに流れる電流を計測し、第2の電流センサ410は、第2のクラッチアクチュエータCA2を作動させたときに流れる電流を計測する。
【0045】
クラッチアクチュエータ制御装置406は、動力伝達能力低下検出手段411を備えており、第1のクラッチアクチュエータ温度センサ407、第2クラッチアクチュエータ温度センサ408、第1の電流センサ409、及び第2の電流センサ410からの情報を得ることができる。そして、これらの情報から、第1のクラッチC1を経由した動力の伝達能力、及び第2のクラッチC2を経由した動力の伝達能力の低下を検出できるように構成されている。なお、符号412は、クラッチアクチュエータ制御装置406の電源となるバッテリを示している。また、図4中の一点鎖線は制御信号経路を示し、破線はセンサ信号経路を示している。
【0046】
図5は、実施の形態3に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。図5において、ステップS501では、クラッチアクチュエータ制御装置406が、第1のクラッチアクチュエータCA1又は第2のクラッチアクチュエータCA2に対して、第1のクラッチC1又は第2のクラッチC2におけるトルクの伝達を指令しているかどうかを判定する。判定が真であった場合、ステップS502に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0047】
ステップS502では、第1のクラッチC1が動作中かを判定し、第1のクラッチC1が動作中であればステップS503に進み、第2のクラッチC2が動作中であれば、ステップS506に進む。
【0048】
ステップS503では、第1のクラッチC1の動力伝達能力が低下しているかどうかを判定する。第1のクラッチアクチュエータCA1の発生トルクは、第1のクラッチアクチ
ュエータCA1を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなる。そこで、第1のクラッチアクチュエータ温度センサ407で計測した第1のクラッチアクチュエータCA1の温度をTempCA1とし、その値が所定値以上であった場合、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなっていると判定し、ステップS504に進み、所定値未満であった場合は、第1のクラッチ406における動力の伝達能力は低くなっていないと判定してサブルーチンを終了する。
【0049】
ステップS504では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS505に進む。
【0050】
ステップS505では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0051】
ステップS506では、第2のクラッチC2の動力伝達能力が低下しているかどうかを判定する。第2のクラッチアクチュエータCA2の発生トルクは、第2のクラッチアクチュエータCA2を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなる。そこで、第2のクラッチアクチュエータ温度センサ408で計測した第2のクラッチアクチュエータCA2の温度をTempCA2とし、その値が所定値以上であった場合、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなっていると判定しステップS507に進み、所定値未満であった場合は、第2のクラッチC2における動力の伝達能力は低くなっていないと判定してサブルーチンを終了する。
【0052】
ステップS507では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS508に進む。
【0053】
ステップS508では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0054】
以上のように、実施の形態3に係るトランスミッション制御装置は、第1及び第2のクラッチアクチュエータ温度センサ407、408により正確に第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の温度を検出できるので、従来のトランスミッション制御装置ではできなかった第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出できると共に、第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の故障を未然に防止することができ、実施の形態1あるいは実施の形態2よりも正確に第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出することができる。
【0055】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4に係るトランスミッション制御装置について図6を用いて説明する。なお、システム構成については、実施の形態3で説明したトランスミッション制御装置と同様であるので、図4を用いることにする。
【0056】
図6は、実施の形態4に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。図6において、ステップS601では、クラッチアクチュエータ制御装置406が、第1のクラッチアクチュエータCA1又は第2のクラッチアクチュエータCA2に対して、第1のクラッチC1又は第2のクラッチC2におけるトルクの伝達を指令しているかどうかを判定する。判定が真であった場合、ステップS602に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0057】
ステップS602では、第1のクラッチC1が動作中かを判定し、第1のクラッチC1が動作中であればステップS603に進み、第2のクラッチC2が動作中であれば、ステップS607に進む。
【0058】
ステップS603では、第1のクラッチC1が動作を開始してからの電流を、次の式1を用いて積算してステップS604に進む。
Integral Cur1(n)=Integral Cur1(n−1)
+Cur1×S_Time ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式1)
ここで、Integral Cur1(n)は、第1のクラッチアクチュエータCA1の電流積算値(今回の計算値)であり、Integral Cur1(n−1)は、第1のクラッチアクチュエータCA1の電流積算値(前回の計算値)である。また、Cur1は、第1のクラッチアクチュエータCA1に流れる今回の電流値であり、S_Timeは
、前回計算してから今回計算するまでの時間である。
【0059】
ステップS604では、第1のクラッチC1の動力伝達能力が低下しているかどうかを積算電流値から判定する。第1のクラッチアクチュエータCA1の発生トルクは、第1のクラッチアクチュエータCA1を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなる。
【0060】
外部から加熱されることがなければ、第1のクラッチアクチュエータCA1の温度上昇は、第1のクラッチアクチュエータCA1の内部に供給された電力量に比例する。電力量は、電流の2乗と抵抗から求められるため、抵抗を一定と考えると、電力量は電流の2乗に比例する。このことから、電流の積算値をもとに、第1のクラッチアクチュエータCA1内部の温度上昇を推定することができる。
【0061】
以上のことから、ステップS604では、ステップS603で計算された第1のクラッチアクチュエータCA1の電流積算値Integral Cur1(n)が所定値以上であった場合、第1のクラッチアクチュエータCA1内部の温度が高くなっていると推定され、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなっていると判定してステップS605に進む。また、第1のクラッチアクチュエータCA1の電流積算値Integral Cur1(n)が所定値未満であった場合は、第1のクラッチC1における動力の伝達能力は低くなっていないと判定してサブルーチンを終了する。
【0062】
ステップS605では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS606に進む。
【0063】
ステップS606では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0064】
ステップS607では、第2のクラッチC2が動作開始してからの電流を、以下の式2を用いて積算してステップS608に進む。
Integral Cur2(n)=Integral Cur2(n−1)
+Cur2×S_Time ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(式2)
ここで、Integral Cur2(n)は、第2のクラッチアクチュエータ409の電流積算値(今回の計算値)であり、Integral Cur2(n−1)は、第2のクラッチアクチュエータCA2の電流積算値(前回の計算値)である。また、Cur2は、第2のクラッチアクチュエータCA2に流れる今回の電流値であり、S_Timeは
、前回計算してから今回計算するまでの時間である。
【0065】
ステップS608では、第2のクラッチC2の動力伝達能力が低下しているかを積算電流値から判定する。第2のクラッチアクチュエータCA2の発生トルクは、第2のクラッチアクチュエータCA2を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなる。
【0066】
外部から加熱されることがなければ、第2のクラッチアクチュエータCA2の温度上昇は、第2のクラッチアクチュエータCA2内部に供給された電力量に比例する。電力量は、電流の2乗と抵抗から求められるため、抵抗を一定と考えると、電力量は電流の2乗に比例する。このことから、電流の積算値をもとに、第2のクラッチアクチュエータCA2内部の温度上昇を推定することができる。
【0067】
以上のことから、ステップS608では、ステップS607で計算された第2のクラッチアクチュエータCA2の電流積算値Integral Cur2(n)が所定値以上であった場合、第2のクラッチアクチュエータCA2内部の温度が高くなっていると推定され、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなっていると判定し、ステップS609に進む。また、第2のクラッチアクチュエータCA2の電流積算値Integral Cur2(n)が所定値未満であった場合は、第2のクラッチC2における動力の伝達能力は低くなっていないと判定してサブルーチンを終了する。
【0068】
ステップS609では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS610に進む。
【0069】
ステップS610では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0070】
以上のように、実施の形態4に係るトランスミッション制御装置は、第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の電流を計測することにより、第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の動作状態を推定することができるので、従来のトランスミッション制御装置ではできなかった第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出できると共に、第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の故障を未然に防止することができ、実施の形態1ないし実施の形態3よりも簡単な構成で実現することができる。
【0071】
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5に係るトランスミッション制御装置について図7及び図8を用いて説明する。図7は実施の形態5に係るトランスミッション制御装置を説明するシステム構成図である。図7において、エンジン701は動力を出力し、エンジン出力軸702に動力を伝達する。エンジン出力軸702に伝達された動力は、第1の動力伝達経路703Aを通って、第1の歯車式変速機構T1に伝達される。第1の歯車式変速機構T1は、トランスミッション制御装置704を構成する歯車式変速機構制御装置705によって指令された歯車で動力を伝達することにより、変速操作が可能である。
【0072】
同様に、エンジン出力軸702から出力された動力は、第2の動力伝達経路703Bを通って、第2の歯車式変速機構T2に伝達される。歯車式変速機構制御装置705は、第2の歯車式変速機構T2にも指令を与え、変速操作を可能とする。
【0073】
第1の歯車式変速機構T1及び第2の歯車式変速機構T2から出力された動力は、それ
ぞれ第1のクラッチC1と第2のクラッチC2を経由してタイヤ706に伝達される。
【0074】
以上の構成により、エンジン701からの動力は、エンジン出力軸702を通り、第1の動力伝達経路703Aと第2の動力伝達経路703Bを通ってそれぞれ第1の歯車式変速機構T1及び第2の歯車式変速機構T2に伝達される。そして、第1の歯車式変速機構T1及び第2の歯車式変速機構T2に伝達された動力は、それぞれ第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2によって第1の動力伝達経路703A又は第2の動力伝達経路703Bのいずれか一方を選択してタイヤ706に伝達されることになる。
【0075】
第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2は、第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2によってそれぞれ動作する。第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2は、トランスミッション制御装置704を構成するクラッチアクチュエータ制御装置707からの指令によって、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708及び第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709が駆動することによって動作し、第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2における動力の伝達と切断を可能とする。
【0076】
トランスミッション制御装置704は、内部に第1の動力伝達経路703A、あるいは第2の動力伝達経路703Bにおけるトルクの伝達能力を検出する動力伝達能力低下検出手段710を備えている。この動力伝達能力低下検出手段710は、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708及び第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709の近傍に設置されてその周辺温度を計測する第1の基板温度センサ711及び第2の基板温度センサ712からの情報により、第1のクラッチC1及び第2のクラッチC2の前後における動力伝達能力が低下することを検出できるように構成されている。
【0077】
また、動力伝達能力低下検出手段710は、第1の基板温度センサ711及び第2の基板温度センサ712からの情報と、第1のクラッチアクチュエータCA1又は第2のクラッチアクチュエータCA2が動力伝達禁止となってからの時間を計測する時間計測用カウンタ713からの情報により、第1のクラッチアクチュエータCA1及び第2のクラッチアクチュエータCA2が動力伝達可能であることを判定できるように構成されている。なお、図7における符号714は、第1のクラッチアクチュエータCA1の温度を計測する第1のクラッチアクチュエータ温度センサで、符号715は、第2のクラッチアクチュエータCa2の温度を計測する第2のクラッチアクチュエータ温度センサを示している。また、図7中の実線は動力の伝達経路、一点鎖線は制御信号経路を示し、破線はセンサ信号経路を示している。
【0078】
図8は、この発明の実施の形態5に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。図8において、ステップS801では、クラッチアクチュエータ制御装置707が、第1のクラッチアクチュエータCA1又は第2のクラッチアクチュエータCA2に対して、第1のクラッチC1又は第2のクラッチC2おけるトルクの伝達を指令しているかどうかを判定する。判定が真であった場合、ステップS802に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0079】
ステップS802では、第1のクラッチC1が動作中かを判定し、第1のクラッチC1が動作中であればステップS803に進み、それ以外の場合はステップS806に進む。
【0080】
ステップS803では、第1のクラッチC1の動力伝達能力が低下しているかどうかを判定する。第1のクラッチアクチュエータCA1の発生トルクは、第1のクラッチアクチュエータCA1を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなる。
【0081】
外部から加熱されることがなければ、第1のクラッチアクチュエータCA1の温度上昇は、第1のクラッチアクチュエータCA1の内部に供給された電力量に比例する。電力量は、電流の2乗と抵抗から求められるため、抵抗を一定と考えると、電力量は電流の2乗に比例する。
【0082】
また、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708と第1のクラッチアクチュエータCA1に流れる電流の大きさは等しく、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708内にも抵抗が存在するため、第1のクラッチアクチュエータCA1の内部で温度上昇に使われたエネルギーと、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708内で温度上昇に使われたエネルギーは比例関係にある。このことから、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708の周辺温度を計測することで、第1のクラッチアクチュエータCA1内部の温度上昇を推定することができる。
【0083】
そこで、第1の基板温度センサ711で計測した第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708の周辺温度をTempCAD1とし、TempCAD1が所定値以上であった場合、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなっていると判定し、ステップS804に進み、所定値未満であった場合は、第1のクラッチC1における動力の伝達能力は低くなっていないとしてサブルーチンを終了する。
【0084】
ステップS804では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS805に進む。
【0085】
ステップS805では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0086】
ステップS806では、第2のクラッチC2の動力伝達能力が低下しているかどうかを判定する。第2のクラッチアクチュエータCA2の発生トルクは、第2のクラッチアクチュエータCA2を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなる。
【0087】
外部から加熱されることがなければ、第2のクラッチアクチュエータCA2の温度上昇は、第2のクラッチアクチュエータCA2の内部に供給された電力量に比例する。電力量は電流の2乗と抵抗から求められるため、抵抗を一定と考えると、電力量は電流の2乗に比例する。
【0088】
また、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709と第2のクラッチアクチュエータCA2に流れる電流の大きさは等しく、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709内にも抵抗が存在するため、第2のクラッチアクチュエータCA2内部で温度上昇に使われたエネルギーと、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709内で温度上昇に使われたエネルギーは比例関係にある。
【0089】
このことから、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709の周辺温度を計測することにより、第2のクラッチアクチュエータCA2内部の温度上昇を推定することができる。そこで、第2の基板温度センサ712で計測した第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709の周辺温度をTempCAD2とし、TempCAD2が所定値以上であった場合、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなっていると判定し、ステップS807に進み、所定値未満であった場合は、第2のクラッチC2における動力の
伝達能力は低くなっていないとしてサブルーチンを終了する。
【0090】
ステップS807では、第2のクラッチC2及び第2のクラッチアクチュエータCA2を用いた動力の伝達を禁止し、ステップS808に進む。
【0091】
ステップS808では、第1のクラッチC1及び第1のクラッチアクチュエータCA1を用いて動力の伝達を行い、サブルーチンを終了する。
【0092】
以上のように、実施の形態5に係るトランスミッション制御装置は、第1及び第2のクラッチアクチュエータのドライブ回路708、709の周辺温度を計測することにより、従来のトランスミッション制御装置ではできなかった第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出できると共に、第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の故障を未然に防止することができる。更に、トランスミッション制御装置704内に温度センサ711、712を配置する構成のため、トランスミッション制御装置704から温度センサ711、712までの配線が短くて済み、実施の形態1ないし実施の形態4よりも簡単かつ安価な構成で実現できる。
【0093】
実施の形態6.
次に、この発明の実施の形態6に係るトランスミッション制御装置について図9を用いて説明する。なお、システム構成については、実施の形態5で説明したトランスミッション制御装置と同様であるので、図7を用いることにする。
【0094】
図9は、実施の形態6に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。図9において、ステップS901では、クラッチアクチュエータ制御装置707が、第1のクラッチアクチュエータCA1又は第2のクラッチアクチュエータCA2に対して、第1のクラッチC1又は第2のクラッチC2におけるトルクの伝達を指令しているかどうかを判定する。判定が真であった場合、ステップS902に進み、それ以外の場合は、サブルーチンを終了する。
【0095】
ステップS902では、第1のクラッチC1における動力伝達が禁止中であればステップS903に進み、それ以外の場合は、ステップS907に進む。
【0096】
ステップS903からステップS905では、第1のクラッチC1の動力伝達能力が機能回復しているかどうかを判定する。第1のクラッチアクチュエータCA1の発生トルクは、第1のクラッチアクチュエータCA1を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が低くなる。雰囲気温度が第1のクラッチアクチュエータCA1の使用限界温度よりもある程度低く限られた範囲の中で推移する環境でクラッチアクチュエータを使用する場合、第1のクラッチアクチュエータCA1の駆動により温度が上昇した後駆動を停止すると、時間の経過と共にその温度は雰囲気温度に近づくため、やがて動力伝達のために必要なトルクを発生できる温度範囲に到達する。
【0097】
このことから、ステップS903ではクラッチアクチュエータが動力伝達禁止となってからの時間を計測し、第1のクラッチアクチュエータCA1が動力伝達禁止となってから所定時間経過した場合はステップS904へ進み、経過していない場合は第1のクラッチC1における動力伝達能力が回復していないとしてサブルーチンを終了する。
【0098】
ステップS904では、第1のクラッチアクチュエータCA1の温度を第1のクラッチアクチュエータ温度センサ714により計測し、その値をTempCA1とする。Tem
pCA1が所定値以下の場合は、ステップS905に進み、それ以外の場合は第1のクラッチC1における動力伝達能力が回復していないとしてサブルーチンを終了する。
【0099】
外部から加熱されることがなければ、第1のクラッチアクチュエータCA1の温度上昇は、第1のクラッチアクチュエータCA1の内部に供給された電力量に比例する。電力量は、電流の2乗と抵抗から求められるため、抵抗を一定と考えると、電力量は電流の2乗に比例する。また、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708と第1のクラッチアクチュエータCA1に流れる電流の大きさは等しく、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708内にも抵抗が存在するため、第1のクラッチアクチュエータCA1内部で温度上昇に使われたエネルギーと第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708内で温度上昇に使われたエネルギーは比例関係にある。
【0100】
このことから、第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708の周辺温度を計測することにより、第1のクラッチアクチュエータCA1内部の温度上昇を推定することができる。そこで、ステップS905では、第1の基板温度センサ711で計測した第1のクラッチアクチュエータドライブ回路708の温度をTempCAD1とし、TempCAD1が所定値以下であった場合ステップS906に進み、所定値未満であった場合は第1のクラッチC1における動力伝達能力が回復していないとしてサブルーチンを終了する。
【0101】
ステップS906では、ステップS903からS905の判定において、第1のクラッチC1における動力の伝達能力が回復していると推定できるため、禁止していた第1のクラッチC1を用いた動力の伝達の禁止を解除(許可)し、サブルーチンを終了する。
【0102】
ステップS907において、第2のクラッチC2における動力伝達が禁止中の場合は、ステップS908に進み、それ以外の場合はサブルーチンを終了する。
【0103】
ステップS908からステップS910では、第2のクラッチC2の動力伝達能力が機能回復しているかどうかを判定する。第2のクラッチアクチュエータCA2の発生トルクは、第2のクラッチアクチュエータCA2を構成する磁石の磁束の大きさに比例し、その大きさは温度が高くなるほど小さくなることから、高温時には十分な締結トルクを発生させることができず、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が低くなる。雰囲気温度が使用限界温度よりもある程度低く限られた範囲の中で推移する環境でクラッチアクチュエータを使用する場合、第2のクラッチアクチュエータCA2の駆動により温度が上昇した後駆動を停止すると、時間の経過と共にその温度は雰囲気温度に近づくため、やがて動力伝達のために必要なトルクを発生できる温度範囲に到達する。
【0104】
このことから、ステップS908ではクラッチアクチュエータが動力伝達禁止となってからの時間を計測し、第2のクラッチアクチュエータCA2が動力伝達禁止となってから所定時間経過した場合はステップS909へ進み、経過していない場合は第2のクラッチC2における動力伝達能力が回復していないとしてサブルーチンを終了する。
【0105】
ステップS909では、第2のクラッチアクチュエータCA2の温度を第2のクラッチアクチュエータ温度センサ715により計測し、その値をTempCA2とする。TempCA2が所定値以下の場合は、ステップS910に進み、それ以外の場合は第2のクラッチC2における動力伝達能力が回復していないとしてサブルーチンを終了する。
【0106】
外部から加熱されることがなければ、第2のクラッチアクチュエータCA2の温度上昇は、第2のクラッチアクチュエータCA2の内部に供給された電力量に比例する。電力量は、電流の2乗と抵抗から求められるため、抵抗を一定と考えると、電力量は電流の2乗に比例する。また、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709と第2のクラッチ
アクチュエータCA2に流れる電流の大きさは等しく、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709内にも抵抗が存在するため、第2のクラッチアクチュエータCA2内部で温度上昇に使われたエネルギーと第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709内で温度上昇に使われたエネルギーは比例関係にある。
【0107】
このことから、第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709の周辺温度を計測することにより、第2のクラッチアクチュエータCA2内部の温度上昇を推定することができる。そこでステップS910では、第2の基板温度センサ712で計測した第2のクラッチアクチュエータドライブ回路709の温度をTempCAD2とし、TempCAD2が所定値以下であった場合ステップS911に進み、所定値未満であった場合は第2のクラッチC2における動力伝達能力が回復していないとしてサブルーチンを終了する。
【0108】
ステップS911では、ステップS908からS909の判定において、第2のクラッチC2における動力の伝達能力が回復していると推定できるため、禁止していた第2のクラッチC2を用いた動力の伝達の禁止を解除(許可)し、サブルーチンを終了する。
【0109】
以上のように、実施の形態6に係るトランスミッション制御装置は、禁止されたクラッチアクチュエータの動作を、所定の条件が成立した場合に解除する構成としたので、従来のトランスミッション制御装置ではできなかった第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の能力低下状態を検出できると共に、第1及び第2のクラッチアクチュエータCA1、CA2の故障を未然に防止することができる。更に、実施の形態1ないし実施の形態5では実現できなかった動作の禁止された歯車式変速機構及びクラッチのグループによる変速を再び可能にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
この発明に係るトランスミッション制御装置は、エンジンからの動力を2つの動力伝達経路に分割し、それぞれクラッチと変速機構を独立に備えたトランスミッションを制御するトランスミッション制御装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】実施の形態1この発明に係るトランスミッション制御装置を説明するシステム構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態3に係るトランスミッション制御装置を説明するシステム構成図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態4に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図7】この発明の実施の形態5に係るトランスミッション制御装置を説明するシステム構成図である。
【図8】この発明の実施の形態5に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図9】この発明の実施の形態6に係るトランスミッション制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0112】
101、401、701 エンジン
102、402、702 エンジン出力軸
103A、703A 第1の動力伝達経路
103B 第2の動力伝達経路
T1 第1の歯車式変速機構
T2 第2の歯車式変速機構
C1 第1のクラッチ
C2 第2のクラッチ
CA1 第1のクラッチアクチュエータ
CA2 第2のクラッチアクチュエータ
104、704 トランスミッション制御装置
105、705 歯車式変速機構制御装置
106、403、706 タイヤ
107、406、707 クラッチアクチュエータ制御装置
108、411、710 動力伝達能力低下検出手段
109 第1の回転センサ
110 第2の回転センサ
111 第3の回転センサ
112 第4の回転センサ
404a、404b、404c、405a、405b、405c 歯車
407、714 第1のクラッチアクチュエータ温度センサ
408、715 第2のクラッチアクチュエータ温度センサ
409 第1の電流センサ
410 第2の電流センサ
412 バッテリ
708 第1のクラッチアクチュエータドライブ回路
709 第2のクラッチアクチュエータドライブ回路
711 第1の基板温度センサ
712 第2の基板温度センサ
713 時間計測用カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力トルクを伝達するエンジン出力軸と、
前記エンジン出力軸の動力をタイヤに伝達する第1の歯車式変速機構と、
前記エンジン出力軸の動力をタイヤに伝達する第2の歯車式変速機構と、
前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路に設けられ、動力の伝達または切断を行う第1のクラッチと、
前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路に設けられ、動力の伝達又は切断を行う第2のクラッチと、
電気信号によって作動し、前記第1のクラッチを動作させる第1のクラッチアクチュエータと、
電気信号によって作動し、前記第2のクラッチを動作させる第2のクラッチアクチュエータと、
を備えたトランスミッションを制御するトランスミッション制御装置において、
前記トランスミッション制御装置は、
前記第1のクラッチアクチュエータ及び前記第2のクラッチアクチュエータを制御するクラッチアクチュエータ制御装置と、
前記第1のクラッチアクチュエータ又は前記第2のクラッチアクチュエータにおける動力伝達能力の低下を検出又は推定する動力伝達能力低下検出手段と、
を備え、
前記クラッチアクチュエータ制御装置が前記第1のクラッチアクチュエータに対し動力伝達の指令を与えているにも関わらず、前記動力伝達能力低下検出手段が前記第1のクラッチの動力伝達能力の低下を検出した場合、前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を禁止し、前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を行い、
前記クラッチアクチュエータ制御装置が前記第2のクラッチアクチュエータに対し動力伝達の指令を与えているにも関わらず、前記動力伝達能力低下検出手段が前記第2のクラッチの動力伝達能力の低下を検出した場合、前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を禁止し、前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を行うことを特徴とするトランスミッション制御装置。
【請求項2】
前記動力伝達能力低下検出手段は、
前記第1のクラッチの前後におけるそれぞれの回転速度を計測する第1及び第2の回転速度検出センサからの情報と、前記第2のクラッチの前後におけるそれぞれの回転速度を計測する第3及び第4の回転速度検出センサからの情報とを入力し、
前記第1及び第2の回転速度検出センサにより計測された回転速度の差が所定値以上になったときに、前記第1のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出し、
前記第3及び第4の回転速度検出センサにより計測された回転速度の差が所定値以上になったときに、前記第2のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション制御装置。
【請求項3】
前記動力伝達能力低下検出手段は、
前記第1のクラッチアクチュエータの温度を計測する第1のクラッチアクチュエータ温度センサの情報と、前記第2のクラッチアクチュエータの温度を計測する第2のクラッチアクチュエータ温度センサの情報とを入力し、
前記第1のクラッチアクチュエータ温度センサにより計測された前記第1のクラッチアクチュエータの温度が所定値以上となったときに、前記第1のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出し、
前記第2のクラッチアクチュエータ温度センサにより計測された前記第2のクラッチアクチュエータの温度が所定値以上となったときに、前記第2のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション制御装置。
【請求項4】
前記動力伝達能力低下検出手段は、
前記第1のクラッチアクチュエータに流れる電流を計測する第1の電流センサの情報と、前記第2のクラッチアクチュエータに流れる電流を計測する第2の電流センサの情報とを入力し、
前記第1の電流センサにより計測された電流の時間積算値が所定値以上となったときに、前記第1のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出し、
前記第2の電流センサにより計測された電流の時間積算値が所定値以上となったときに、前記第2のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション制御装置。
【請求項5】
前記動力伝達能力低下検出手段は、
前記クラッチアクチュエータ制御装置に設置され、前記第1のクラッチアクチュエータを動作させる第1のクラッチアクチュエータドライブ回路の周辺温度を計測する第1の基板温度センサの情報と、前記クラッチアクチュエータ制御装置に設置され、前記第2のクラッチアクチュエータを動作させる第2のクラッチアクチュエータドライブ回路の周辺温度を計測する第2の基板温度センサの情報とを入力し、
前記第1の基板温度センサにより計測された前記第1のクラッチアクチュエータドライブ回路の周辺温度が所定値以上となったときに、前記第1のクラッチアクチュエータにより動作する第1のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出し、
前記第2の基板温度センサにより計測された前記第2のクラッチアクチュエータドライブ回路の周辺温度が所定値以上となったときに、前記第2のクラッチアクチュエータにより動作する第2のクラッチにおける動力伝達能力の低下を検出することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション制御装置。
【請求項6】
前記エンジン出力軸から前記第1の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達、あるいは前記エンジン出力軸から前記第2の歯車式変速機構を経由して前記タイヤに至るまでの動力伝達経路での動力伝達を禁止した後、所定時間経過したことを条件とする第1の動力伝達許可条件と、
前記動力伝達を禁止されている動力伝達経路に含まれる前記第1のクラッチアクチュエータ又は前記第2のクラッチアクチュエータの温度が所定値以下となったことを条件とする第2の動力伝達許可条件と、
前記第1のクラッチアクチュエータを動作させる第1のクラッチアクチュエータドライブ回路と、前記第2のクラッチアクチュエータを動作させる第2のクラッチアクチュエータドライブ回路と、を備え、前記動力伝達を禁止されている動力伝達経路に含まれる前記第1のクラッチアクチュエータドライブ回路の周辺温度又は前記第2のクラッチアクチュエータドライブ回路の周辺温度が所定値以下となったことを条件とする第3の動力伝達許可条件と、
の3つの動力伝達許可条件の少なくとも一つの動力伝達許可条件が成立した場合、前記動力伝達を禁止されている動力伝達経路での動力伝達を許可することを特徴とする請求項1に記載のトランスミッションの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−257522(P2009−257522A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109111(P2008−109111)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】