説明

トリプチセン構造を有する化合物、フォトレジスト基材及びフォトレジスト組成物

【課題】耐熱性に優れ、高感度、高解像度、高微細加工性等の特徴を具備するフォトレジスト基材及び組成物を提供する。
【解決手段】下記式(I)又は(II)で表されるトリプチセン構造を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体等の電気・電子分野や光学分野等で用いられるフォトレジスト基材、特に超微細加工用フォトレジスト基材に関する。
【背景技術】
【0002】
極端紫外光(Extream Ultra Violet Light:以下、EUVLと表記する場合がある)又は電子線によるリソグラフィーは、半導体等の製造において、高生産性、高解像度の微細加工方法として有用であり、それに用いる高感度、高解像度のフォトレジストが求められている。フォトレジストは、所望する微細パターンの生産性、解像度等の観点から、その感度を向上させることが欠かせない。
【0003】
EUVLによる超微細加工の際に用いられるフォトレジストとしては、例えば、公知のKrFレーザーによる超微細加工の際に用いられていた化学増幅型ポリヒドロキシスチレン系フォトレジストがある。このレジストでは、50nm程度までの微細加工が可能であることが知られている。しかしながら、このレジストで極端紫外光による超微細加工をし、極端紫外光による加工の最大の利点である50nm以細のパターンを作製すると、感度及びレジストアウトガスについては実用性を有するものの、最も重要であるラインエッジラフネスを低減させることができなかった。従って、極端紫外光本来の性能を十分に引き出しているとは言えず、より高性能のフォトレジストを開発することが求められていた。
【0004】
上記課題に対し、例えば、他のレジスト化合物と比較して光酸発生剤の濃度が高い化学増幅ポジ型フォトレジストを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、実施例である、ヒドロキシスチレン/スチレン/t−ブチルアクリレートからなるターポリマーからなる基材、全固形分中の少なくとも約5重量%のジ(t−ブチルフェニル)ヨードニウムオルト−トリフルオロメチルスルフォネートからなる光酸発生剤、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド乳酸塩及び乳酸エチルからなるフォトレジストに関しては、ラインエッジラフネスの観点から、電子線を用いた場合で例示された100nmまでの加工が限界であると考えられる。これは基材として用いる高分子化合物の集合体又は各々の高分子化合物分子が示す立体的形状が大きく、該作製ライン幅及びその表面粗さに影響を及ぼすことがその主原因と推定される。
【0005】
本発明者の1人は、既に高感度、高解像度のフォトレジスト材料としてカリックスレゾルシナレン化合物を提案している(特許文献2参照)。しかしながら、さらに、室温にてアモルファス状態である新規な低分子有機化合物が求められている。この際、半導体製造工程で問題となるエッチング耐性の向上等、諸性能の向上が並行して求められている。また、フォトレジスト基材は現行の半導体製造工程では、溶媒に溶解させて製膜工程に進めるため、塗布溶媒に対する高い溶解性が求められている。
【0006】
尚、特許文献3には、カリックスレゾルシナレン化合物が開示されているが、これらの化合物は一部溶解性が不十分と考えられる上、フォトレジスト基材としての用途が記載されていない。
【特許文献1】特開2002−055457号公報
【特許文献2】特開2004−191913号公報
【特許文献3】米国特許6093517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱性に優れ、高感度、高解像度、高微細加工性等の特徴を具備するフォトレジスト基材及び組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題が高分子化合物からなるフォトレジスト基材の立体的分子形状や分子構造、又はその分子構造中における保護基の構造に基づく反応性に起因することを突き止めた。そして、本発明者らはトリプチセン構造を有する化合物がフォトレジスト基材として有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下のトリプチセン構造を有する化合物等が提供される。
1.下記式(I)又は(II)で表されるトリプチセン構造を有する化合物。
【化4】

[式中、R及びRはそれぞれ水素、置換もしくは無置換の炭素数2〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐を有する脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシアルキル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基(置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のシリレン基、エステル基、炭酸エステル基、エーテル基、又はこれらの基が2以上結合してなる基)とが結合した構造を有する基である。ただし、R及びRがともに水素である場合は除く。
〜R12は、それぞれ水素又は置換基であり、a、d、e及びjはそれぞれ1又は2であり、b、c、f、g、h及びiはそれぞれ1〜4の整数である。]
2.前記R及びRの少なくとも1つが、下記式(1)〜(15)で示される基から選択される酸解離性溶解抑止基である1に記載のトリプチセン構造を有する化合物。
【化5】

(式(14)及び(15)中のrは、下記式(r−1)〜(r−15)から選択される一価の基である。)]
【化6】

3.上記1又は2に記載の前記式(I)及び/又は(II)のトリプチセン構造を有する化合物が、二価以上の基(単結合、エーテル基、エステル基、メチレン基、又はこれらが複数結合した構造を有する基)を介して2〜10個結合した構造を有するオリゴマー。
4.上記1又は2に記載の化合物又は3に記載のオリゴマーを含有するフォトレジスト基材。
5.上記4に記載のフォトレジスト基材と溶剤を含有するフォトレジスト組成物。
6.さらに、光酸発生剤を含有する5記載のフォトレジスト組成物。
7.さらに、塩基性有機化合物をクエンチャーとして含有する5又は6に記載のフォトレジスト組成物。
8.上記5〜7のいずれかに記載のフォトレジスト組成物を用いた微細加工方法。
9.上記8に記載の微細加工方法により作製した半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトリプチセン構造を有する化合物を使用したフォトレジスト基材及び組成物を用いて極端紫外光や電子線等のリソグラフィーによる超微細加工を行えば、高感度、高コントラスト、低ラインエッジラフネスで形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第一の態様は、下記式(I)又は(II)で表される構造を有する化合物である。
【化7】

【0012】
式中、R及びRはそれぞれ水素、置換もしくは無置換の炭素数2〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐を有する脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシアルキル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基とが結合した構造を有する基である。
【0013】
炭素数2〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が好ましい。
炭素数3〜12の分岐を有する脂肪族炭化水素基としては、t-ブチル基、iso−プロピル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が好ましい。
炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基としては、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、ジアマンチル基等が好ましい。
炭素数6〜10の芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基等が好ましい。
アルコキシアルキル基としては、メトキシメチレン基、エトキシメチル基、アダマンチルオキシメチル基等が好ましい。
シリル基としては、トリメチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等が好ましい。
尚、上記の各基は置換基を有していてもよく、具体的には、メチル基、エチル基等のアルキル基、ケトン基、エステル基、アルコキシル基、ニトリル基、ニトロ基、水酸基等が挙げられる。
【0014】
及びRは、上記の各基と二価の基が結合した構造を有する基でもよい。
二価の基としては、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のシリレン基、エステル基、炭酸エステル基(カーボネート基)、エーテル基、又はこれらの基が2以上結合してなる基が挙げられる。
アルキレン基としてはメチレン基、メチルメチレン基等が好ましく、アリーレン基としては、フェニレン基が好ましい。
【0015】
二価の基が2以上結合してなる基としては、下記の構造が好ましい。
【化8】

(式中、R’はそれぞれH又はアルキル基を示す。)
【0016】
尚、R及びRがともに水素である場合は本発明の化合物ではない。
【0017】
〜R12は、それぞれ水素又は置換基である。
置換基は、本発明の目的を損なうものでなければ特に限定されない。例えば、上述したR及びRの例と同様な基である炭素数1〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数3〜12の分岐を有する脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシアルキル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基とが結合した構造を有する基が挙げられる。尚、R〜R12は水素であることが好ましい。
【0018】
a〜iはそれぞれ環の置換基数を意味し、a、d、e及びjはそれぞれ1又は2であり、b、c、f、g、h及びiはそれぞれ1〜4の整数である。
【0019】
本発明の化合物では、R及びRの少なくとも1つが酸解離性溶解抑止基であることが好ましい。酸解離性溶解抑止基は、EUVL及び電子線に対し、高い反応性を有するため、感度の面で優れており、かつエッチング耐性の面でも優れる。そのため、超微細加工用のフォトレジスト基材として好適に使用できる。
【0020】
酸解離性溶解抑止基は、下記式(1)〜(15)から選択される基であることが好ましい。
【化9】

【0021】
式(14)及び(15)中のrは、下記式(r−1)〜(r−15)から選択される一価の基である。
【化10】

【0022】
本発明の第二の態様は、上述した式(I)及び/又は(II)のトリプチセン構造を有する化合物のオリゴマーである。即ち、式(I)及び/又は(II)の化合物が、二価以上の基を介して2〜10個結合した構造を有する。
二価以上の基としては、単結合、エーテル基、エステル基、メチレン基、又はこれらが複数結合した構造を有する基が挙げられる。
【0023】
本発明のオリゴマーとしては、例えば、下記式(III−1)の構造が挙げられる。
【化11】

【0024】
式(III−1)のオリゴマーは、上記式(I)の化合物を2つ結合した構造を有する。式中、Xは上述した二価の基であり、R等は上述した式(I)と同様である。尚、各トリプチセン構造を有する化合物を結合する二価の基の位置は特に限定されない。
【0025】
また、トリプチセン構造を有する化合物のオリゴマーは、複数の上記二価の基を介して2〜10個結合した構造を有してもよく、複数の二価の基の置換位置は同一の環上でも異なった環上でも良い。
この例としては、下記式(III−2)、(III−3)の構造が挙げられる。
【化12】

【0026】
式中、Xは上述した二価の基であり、R等は上述した式(I)と同様である。尚、2つのXは同一でも異なっていてもよい。
【0027】
さらに、トリプチセン構造を有する化合物のオリゴマーは、キノン環、ハイドロキノン環、ベンゼン環から選択される芳香環を含む四価の基を介して2〜10個結合した構造を有してもよい。
この例としては、下記式(III−4)、(III−5)の構造が挙げられる。
【化13】

(nは2〜8の整数)
【0028】
式中、R及びRは上述した式(I)と同様である。
本発明のオリゴマーの分子量は、溶解性の観点から5000以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の化合物及びオリゴマーでは、特に、オリゴマーではない化合物(単量体)が好ましい。これは、単量体は相対的に分子量が小さいため、ラインエッジラフネスや、フォトレジスト組成物を調製する際の溶媒への溶解性の観点で好ましいためである。
【0030】
特に好ましい化合物として、さらに分子量が小さい、下記式(I’)で表されるトリプチセン構造を有する化合物が例示される。
【化14】

(式中、R及びRはそれぞれ水素又は上述した式(1)〜(15)から選択される基であり、R及びRの少なくとも一方は式(1)〜(15)から選択される基である。)
【0031】
本発明のトリプチセン構造を有する化合物(オリゴマーを含む、以下同じ)は、フォトレジスト基材、特に、極端紫外光(波長15nm以下)や電子線等のリソグラフィーによる超微細加工の際に用いるフォトレジスト基材として有用である。
【0032】
また、上記のトリプチセン構造を有する化合物は多環芳香族化合物であるため耐熱性に優れる。従って、フォトレジスト組成物を現像する際のベーク工程において110℃以上、400℃以下の温度範囲を採用できることから、フォトレジスト組成物の感度が向上する。
尚、耐熱性が極めて高いことを活用し、種々の耐熱性材料として用いることも可能である。
【0033】
さらに、本発明のトリプチセン構造を有する化合物をフォトレジスト基材に使用することにより、レジストアウトガスを低減できる。これは、本発明の化合物の主構造が環状構造であるので、レジストアウトガスの構成分子である低分子量化合物が放出され難いためである。
【0034】
また、本発明の化合物は、フォトレジスト基材として使用する条件(通常は室温下)において、アモルファス状態となる。このため、基材として用いると、フォトレジスト組成物としての塗布性やフォトレジスト膜としての強度の点で好ましい。
【0035】
さらに、本発明の基材は、極端紫外光や電子線による超微細加工の特徴である20〜50nmの加工に用いたときに、ラインエッジラフネスを2nm以下、好ましくは1nm以下(3σ)に抑制することができる。これは本発明の化合物又はオリゴマーの分子の平均直径が、所望のパターンのサイズ、具体的には、100nm以下、特に50nm以下のサイズにおいて求められているラインエッジラフネスの値(5nm以下)よりも小さいためである。
【0036】
尚、本発明のフォトレジスト基材は、一種単独で用いてもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0037】
上述した式(I)又は(II)の化合物は、例えば、後述する製造例のような前駆体化合物を合成し、R等の基に対応する化合物をエステル化反応、エーテル化反応、アセタール化反応等により前駆体に導入することで合成できる。具体例は、後述する実施例で説明する。
また、オリゴマーは上述した式(I)又は(II)を用いた酸化カップリング反応、遷移金属触媒を用いた芳香族カップリング反応、ディールス・アルダー反応等で合成できる。
尚、式(1)〜(15)に対応する構造を有する化合物(アダマンタンのハロゲン化メチルエーテル等)は公知物質であり、例えば、SYNTHESIS,11,1982,942−944(「シンセシス」1982年、第11号、942〜944頁)を参照することができる。
【0038】
本発明の化合物をフォトレジスト基材として用いる場合、精製して塩基性不純物(例えば、アンモニア、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン、Ca、Ba等のアルカリ土類金属イオン等)等を除くことが好ましい。このとき、基材を精製する前に含まれていた不純物の量の1/10以下に減少することが好ましい。具体的には、塩基性不純物の含有量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは2ppm以下である。塩基性不純物の含有量を10ppm以下にすることにより、この化合物からなるフォトレジスト基材の極端紫外光や電子線に対する感度が劇的に向上し、その結果、フォトレジスト組成物のリソグラフィーによる微細加工パターンが好適に作製可能となる。
【0039】
精製方法としては、例えば、酸性水溶液洗浄、イオン交換樹脂、又は超純水を用いた再沈殿で処理する方法が挙げられる。これらの洗浄方法を組み合わせて精製してもよい。例えば、酸性水溶液として酢酸水溶液を用いて洗浄処理した後に、イオン交換樹脂処理又は超純水を用いる再沈殿処理をする。
用いる酸性水溶液の種類、イオン交換樹脂の種類は、除去すべき塩基性不純物の量や種類、又は処理する基材の種類等に応じて、最適なものを適宜選択すればよい。
【0040】
本発明のフォトレジスト組成物は、上述した本発明のフォトレジスト基材とこれを溶解させ液体状組成物とするための溶媒を含む。フォトレジスト組成物は、超微細加工を施すべき基板等にスピンコーティング、ディップコーティング、ペインティング等の手法で均一に塗布するために液体状組成物にすることが必要である。
【0041】
溶媒としては、フォトレジストの分野において一般に用いられているものが使用できる。好ましくは、2−メトキシエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール類、乳酸エチル、乳酸メチル等の乳酸エステル類、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート等のプロピオネート類、メチルセルソルブアセテート等のセルソルブエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルアミルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン等のケトン類、酢酸ブチル等の単独溶媒、もしくは2種以上の混合溶媒が例示される。
使用する溶媒は、フォトレジスト基材の溶解度や製膜特性等に合わせて適宜選択すればよい。
【0042】
本発明のフォトレジスト組成物は、基材の分子が、EUVL及び/又は電子線に対して活性なクロモフォアを含み単独でフォトレジストとしての能力を示す場合には特に添加剤は必要としない。しかし、フォトレジストとしての性能(感度)を増強する必要がある場合は、必要に応じて、クロモフォアとして光酸発生剤(PAG)等を添加してもよい。
【0043】
光酸発生剤としては、以下の構造で例示される公知のものの他、同様の作用を持つ他の化合物であっても一般に使用できる。好ましいPAGの種類及び量は、本発明の基材、所望する微細パターンの形状やサイズ等に合わせて規定できる。
【0044】
【化15】



[式中、Ar、Ar、Arは、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基であり、R、R、R、R、Rは、置換又は非置換の炭素数6〜20の芳香族基、置換又は非置換の炭素数1〜20の脂肪族基であり、X、X、Y、Zは、脂肪族スルホニウム基、フッ素を有する脂肪族スルホニウム基、テトラフルオロボレート基、ヘキサフルオロホスホニウム基である。]
【0045】
PAGの配合量は、フォトレジスト基材に対して0.1〜20重量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0046】
さらに必要に応じて、PAGの過剰な反応を抑制するクエンチャーを添加してもよい。これにより、対極端紫外光感度や対電子線解像度を向上できる。クエンチャーとしては、従来公知のものの他、同様の作用を持つ他の化合物であっても一般に使用できる。
クエンチャーには、フォトレジスト組成物への溶解度やフォトレジスト層における分散性や安定性の観点から、塩基性有機化合物を用いることが好ましい。具体的には、キノリン、インドール、ピリジン、ビピリジン等のピリジン類の他、ピリミジン類、ピラジン類、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、トリエチルアミン、トリオクチルアミン等の脂肪族アミン類の他、水酸化テトラブチルアンモニウム等が上げられる。
尚、好ましいクエンチャーの種類及び量は、本発明の基材、PAG、所望する微細パターンの形状やサイズ等に合わせて規定できる。
【0047】
クエンチャーの配合量は、フォトレジスト基材に対して10〜1×10−3重量%、又は、PAGに対して50〜0.01重量%の範囲で用いるのが一般的である。
【0048】
本発明のフォトレジスト組成物には、その他、感光助剤、可塑剤、スピード促進剤、感光剤、増感剤、酸増殖機能材料、エッチング耐性増強剤等を添加してもよい。これらは同一の機能を持つ成分の複数の混合物であっても、異なった機能を持つ成分の複数の混合物であっても、これらの前駆体の混合物であってもよい。これらの配合比については、用いる成分の種類により異なるため一概に規定できないが、従来公知のフォトレジストと類似の配合比で用いることができる。
【0049】
組成物中の溶媒以外の成分、即ちフォトレジスト固形分の量は所望のフォトレジスト層の膜厚を形成するために適する量とするのが好ましい。具体的にはフォトレジスト組成物の全重量の0.1〜50重量パーセントが一般的であるが、用いる基材や溶媒の種類、あるいは、所望のフォトレジスト層の膜厚等に合わせて規定できる。
【0050】
本発明のフォトレジスト組成物を用いて微細加工する方法の例を以下に説明する。
本発明のフォトレジスト組成物は、スピンコーティング、ディップコーティング、ペインティング等の方法により液体コーティング組成物として基板に塗布し、溶媒を除くため、フォトレジストコーティング層が不粘着性になるまで、例えば80℃〜160℃に加熱して乾燥するのが一般的である。また、基板との密着性向上等の目的で、例えばヘキサメチルジシラザン(HMDS)等を中間層として用いることができる。これらの条件は、用いる基材や溶媒の種類、あるいは、所望のフォトレジスト層の膜厚等に合わせて規定できる。
【0051】
加熱乾燥後、上記フォトレジストコーティング層が不粘着性になった基板をEUVLによりフォトマスクを用いて露光、あるいは電子線を任意の方法で照射することにより、基材に含まれる保護基を脱離させ、フォトレジストコーティング層の露光及び非露光領域間における溶解度の相違を生じさせる。さらに溶解度の相違を大きくするために露光後ベークする。この後レリーフイメージを形成するため、アルカリ現像液等で現像する。このような操作により、基板上に超微細加工されたパターンが形成される。上記の条件は用いる基材や溶媒の種類、あるいは、所望のフォトレジスト層の膜厚等に合わせて規定できる。
【0052】
本発明のフォトレジスト組成物を用いて極端紫外光や電子線のリソグラフィーによる超微細加工を行えば、100nm以細、特に50nm以細の孤立ライン、ライン/スペース(L/S)=1/1、ホール等のパターンを、高感度、高コントラスト、低ラインエッジラフネスで形成することが可能となる。
【0053】
本発明の微細加工方法により、例えば、ULSI、大容量メモリデバイス、超高速ロジックデバイス等の半導体装置を製造することができる。
【実施例】
【0054】
製造例1
下記式に示す前駆体(1)を合成した。
【化16】

【0055】
十分乾燥し窒素ガスにて置換したジム・ロート氏冷却管と、温度計を設置した三口フラスコ(容量500ミリリットル)に、窒素気流下でアントラセン(30g、168ミリモル)とp−ベンゾキノン(22.5g、208ミリモル)及び脱水キシレン(180ミリリットル)を封入した。メカニカルスターラーで撹拌しつつ、フラスコをオイルバスに浸漬し、オイル温度を室温から175℃まで上昇させることにより加熱還流を開始させ、加熱還流開始後から2時間反応を行った。反応中、白色不溶物の生成を確認した。反応終了後、放冷することにより、多量に生成した白色不溶物を濾別した。この白色固体をキシレン(300ミリリットル)で洗浄した後、事前に65℃に加熱したイオン交換水(450ミリリットル)で洗浄した。減圧乾燥することにより上記の前駆体(1)(41g、収率85%)を得た。尚、前駆体(1)は、H−NMR(図1)によりその構造を確認した。
【0056】
製造例2
下記式に示す前駆体(2)を合成した。
【化17】

【0057】
十分乾燥し窒素ガスにて置換したジム・ロート氏冷却管、温度計、滴下ロートを設置した四口フラスコ(容量500ミリリットル)に、窒素気流下、製造例1で合成した前駆体(1)(35g、122ミリモル)と酢酸(350ミリリットル)を封入した。メカニカルスターラーで撹拌しつつ、内容物をオイルバス中でオイル温度120℃まで上昇させることにより113℃まで加熱し薄黄色の均一溶液を得た。臭化水素酸(4ミリリットル)を、滴下ロートでゆっくりと滴下することにより白色固体が次第に生成することを確認した。滴下終了後1時間加熱撹拌を継続することにより反応を行い、反応終了後、放冷した。生成した白色の析出物を濾別し、イオン交換水で洗浄し、洗浄した白色固体をアセトンに溶解させた後、ヘキサンに滴下し再沈殿させることにより白色固体を得た。白色固体を濾別し減圧乾燥することにより、前駆体(2)(26g、収率73%)を得た。尚、前駆体(2)は、H−NMR(図2)によりその構造を確認した。
【0058】
実施例1
下記式(IV)に示すトリプチセン構造を有する化合物を合成した。
【化18】

【0059】
十分乾燥し窒素ガスにて置換したジム・ロート氏冷却管、温度計を設置した三口フラスコ(容量100ミリリットル)に、窒素気流下、製造例2で合成した前駆体(2)(5g、17ミリモル)とピリジン(36ミリリットル)、テトラヒドロフラン(20ミリリットル)を封入した。磁気撹拌子で撹拌し懸濁液を得た。この懸濁液にトリエチルアミン(5.1ミリリットル、37ミリモル)とジ−tert−ブチルジカーボネート(8.5ミリリットル、37ミリモル)を順に入れ、室温下、10分撹拌することにより緑色の均一溶液を得て、さらに11時間撹拌を継続した。溶液の色が橙色に変化したことを確認後、内容物をイオン交換水(400ミリリットル)に滴下し白色固体を得た。白色固体を濾別し減圧乾燥することにより、上記式(IV)に示すトリプチセン構造を有する化合物(7.4g、収率89%)を得た。尚、トリプチセン構造を有する化合物は、H−NMR(図3)によりその構造を確認した。
【0060】
比較例1
フォトレジスト基材として下記式(V)に示す化合物を合成した。
【化19】

R=H:40モル%
R=tert−ブチルオキシカルボニルメチル基:60モル%
【0061】
十分乾燥し窒素ガスにて置換したジム・ロート氏冷却管、温度計を設置した二口フラスコ(容量100ミリリットル)に、式(V)のRが全て水素基であるポリヒドロキシスチレン(分子量8000、0.46g、モノマー単位として3.8ミリモル)と炭酸ナトリウム(3.18g、30ミリモル)、15−クラウン−5(0.77g、3.5ミリモル)を封入し窒素置換した。
次いで、アセトン38ミリリットルを加えて溶液とした後に、ブロモ酢酸tert−ブチル(0.94g、4.8ミリモル)を加えて、窒素雰囲気下、75℃のオイルバス中において、24時間撹拌しながら加熱還流した。放冷し室温に到達させた後、反応溶液に氷水を注ぎ1時間撹拌することにより白色沈殿として得た。これを濾別し、ジエチルエーテル(10ミリリットル)に溶解し、酢酸水溶液(0.5モル/リットル、300ミリリットル)に注ぎ白色結晶を得た。これを濾別、減圧乾燥することにより精製した。精製した化合物をフォトレジスト基材とした。
尚、このフォトレジスト基材の、H−NMR等による測定の結果、式(V)のRの60モル%がtert−ブチルオキシカルボニルメチル基であり、40モル%が水酸基であるフォトレジスト基材であることを確認した。
【0062】
実施例2
(1)フォトレジスト組成物の調製
実施例1のフォトレジスト基材(式(IV))を87重量部、PAGとしてトリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート10重量部、クエンチャーとして1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン3重量部を使用した(固形分合計:100重量部)。固形分濃度が10重量%となるように、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートに溶解しフォトレジスト組成物を作製した。
【0063】
(2)フォトレジスト組成物の評価
上記(1)で調製したフォトレジスト組成物をシリコンウェハ上にスピンコートし、105℃で180秒加熱することにより薄膜を形成させた。次いで、この薄膜を有する基板に対してEUV露光装置を用いて、EUV光(波長13.5nm)を照射した。
その後、100℃で60秒ベークし、2.38重量%濃度の水性水酸化テトラメチルアンモニウム溶液で60秒処理し、純水にて洗浄、窒素気流下で乾燥した。
【0064】
上記処理により得た露光後の薄膜(露光領域の残膜)について、表面粗さを原子間力走査型顕微鏡で測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
比較例2
フォトレジスト基材として、比較例1で合成した式(V)の化合物を使用した他は、実施例2と同様にして、フォトレジスト組成物を調製し評価した。結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のフォトレジスト基材及びその組成物は、半導体装置等の電気・電子分野や光学分野等において好適に用いられる。これにより、ULSI等の半導体装置の性能を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】前駆体(1)のH−NMRスペクトルである。
【図2】前駆体(2)のH−NMRスペクトルである。
【図3】式(IV)に示す化合物のH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)又は(II)で表されるトリプチセン構造を有する化合物。
【化1】

[式中、R及びRはそれぞれ水素、置換もしくは無置換の炭素数2〜20の直鎖状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜12の分岐を有する脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数3〜20の環状脂肪族炭化水素基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10の芳香族基、アルコキシアルキル基、シリル基、又はこれらの基と二価の基(置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のシリレン基、エステル基、炭酸エステル基、エーテル基、又はこれらの基が2以上結合してなる基)とが結合した構造を有する基である。ただし、R及びRがともに水素である場合は除く。
〜R12は、それぞれ水素又は置換基であり、a、d、e及びjはそれぞれ1又は2であり、b、c、f、g、h及びiはそれぞれ1〜4の整数である。]
【請求項2】
前記R及びRの少なくとも1つが、下記式(1)〜(15)で示される基から選択される酸解離性溶解抑止基である請求項1に記載のトリプチセン構造を有する化合物。
【化2】

(式(14)及び(15)中のrは、下記式(r−1)〜(r−15)から選択される一価の基である。)]
【化3】

【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記式(I)及び/又は(II)のトリプチセン構造を有する化合物が、二価以上の基(単結合、エーテル基、エステル基、メチレン基、又はこれらが複数結合した構造を有する基)を介して2〜10個結合した構造を有するオリゴマー。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の化合物又は請求項3に記載のオリゴマーを含有するフォトレジスト基材。
【請求項5】
請求項4に記載のフォトレジスト基材と溶剤を含有するフォトレジスト組成物。
【請求項6】
さらに、光酸発生剤を含有する請求項5記載のフォトレジスト組成物。
【請求項7】
さらに、塩基性有機化合物をクエンチャーとして含有する請求項5又は6に記載のフォトレジスト組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載のフォトレジスト組成物を用いた微細加工方法。
【請求項9】
請求項8に記載の微細加工方法により作製した半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308433(P2008−308433A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157159(P2007−157159)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】