説明

トルクリミッタ付きオーバーランニングデカップラ

回転動力を回転部材とハブとの間で伝達するよう構成されたオーバーランニングデカップラを製作する方法。オーバーランニングデカップラは、クラッチばねを備えた一方向クラッチと、クラッチばねに連結されたキャリヤと、キャリヤをハブに弾性的に連結する少なくとも1つのばねとを有する。この方法は、少なくとも1つのばねの所望の疲労寿命を定めるステップと、共振中における少なくとも1つのばねの設計撓みを定めるステップとを有し、共振中の設計撓み時における少なくとも1つのばねの撓みは、少なくとも1つのばねの疲労寿命を所望の疲労寿命以下には減少させず、この方法は、少なくとも1つのばねの最大撓みを制御して最大撓みが設計撓み以下であるようにすることによってオーバーランニングデカップラ中の共振を阻止するステップを更に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、駆動システムであって、回転動力が回転動力源と1つ又は2つ以上の被動コンポーネントとの間で伝達され、オーバーランニングデカップラが回転動力源から被動要素に伝達される捩じり荷重の変動を抑えると共に被動要素のうちの1つ又は2つ以上を回転動力源から連結解除したりこれに再び連結したりすることができ、それにより被動要素に対する回転動力源の減速の結果として生じる捩じり荷重を減少させ又はゼロにするよう用いられる駆動システムに関する。詳細には、本発明は、オーバーランニングデカップラの共振条件の発生を阻止する方法に関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本願は、2008年10月27日に出願された米国特許仮出願第61/108,600号の権益主張出願であり、この米国特許仮出願を参照により引用し、その開示内容を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
駆動システム中の1つ又は2つ以上の被動コンポーネントを連結解除して被動要素に対する回転動力源の減速の結果として生じる捩じり荷重を減少させ又はゼロにすることができるようにするオーバーランニングデカップラを駆動システムに設けることが知られている。例示のオーバーランニングデカップラは、米国特許出願第10/519,591号明細書、同第10/542,625号明細書、同第10/572,128号明細書及び同第10/581,097号明細書に開示されており、このような例示のオーバーランニングデカップラは、デッカプラ入力部材とデカップラ出力部材との間に捩じり弾性カップリングを採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第10/519,591号明細書
【特許文献2】米国特許出願第10/542,625号明細書
【特許文献3】米国特許出願第10/572,128号明細書
【特許文献4】米国特許出願第10/581,097号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人の注目したところによれば、或る荷重条件下におけるオーバーランニングデカップラの作動によりオーバーランニングデカップラの捩じり弾性カップリングが固有振動数で振動する(即ち、共振する)場合があり、このような共振は、オーバーランニングデカップラの作動寿命を著しく減少させる場合がある。捩じり弾性カップリングの共振は、被動付属装置により生じる捩じり荷重、回転動力源から駆動システムに入力される捩じり振動又はこれらの組み合わせによって引き起こされる場合がある。したがって、当該技術分野において、オーバーランニングデカップラの共振を減衰させ又は阻止すると共にデカップラ入力部材とデカップラ出力部材との間に設けられた捩じり弾性カップリングの共振を減衰させ又は阻止することができるオーバーランニングデカップラを提供する方法が要望され続けている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一形態では、本発明の教示により、回転動力を回転部材とハブとの間で伝達するよう構成されたオーバーランニングデカップラを製作する方法が提供される。オーバーランニングデカップラは、クラッチばねを備えた一方向クラッチと、クラッチばねに連結されたキャリヤと、キャリヤをハブに弾性的に連結する少なくとも1つのばねとを有する。この方法は、少なくとも1つのばねの所望の疲労寿命を定めるステップと、共振中における少なくとも1つのばねの設計撓みを定めるステップとを有し、共振中の設計撓み時における少なくとも1つのばねの撓みは、少なくとも1つのばねの疲労寿命を所望の疲労寿命以下には減少させず、この方法は、少なくとも1つのばねの最大撓みを制御して最大撓みが設計撓み以下であるようにすることによってオーバーランニングデカップラ中の共振を阻止するステップを更に有する。
【0007】
別の形態では、本発明の教示により、無端動力伝達要素及びオーバーランニングデカップラを有する駆動システムの作動方法が提供される。オーバーランニングデカップラは、ハブと、回転部材と、ハブと回転部材との間に設けられた一方向クラッチとを有する。一方向クラッチは、キャリヤと、クラッチばねと、キャリヤとハブとの間に設けられた1つ又は2つ以上のばねとを有する。クラッチばねは、キャリヤに係合した第1の端部を有し、クラッチばねは、回転部材に駆動的に連結されるよう構成されている。この方法は、駆動システムを回転部材へのクラッチばねの連結がオーバーランニングデカップラを介するトルクの伝達を容易にするようにする第1の組をなす作動条件下で作動させるステップと、オーバーランニングデカップラを所定のばね撓み以上の量の少なくとも1つのばねの撓みに応答して連結解除するステップとを有する。所定のばね撓みは、少なくとも1つのばねの共振条件の開始を阻止するよう選択される。
【0008】
別の形態では、本発明の教示により、回転動力を回転部材とハブとの間で伝達するよう構成されたオーバーランニングデカップラを製作する方法が提供される。オーバーランニングデカップラは、クラッチばねを備えたクラッチと、クラッチばねに連結されたキャリヤと、キャリヤをハブに弾性的に連結する少なくとも1つのばねとを有する。この方法は、少なくとも1つのばねの所望の疲労寿命を定めるステップと、共振中に少なくとも1つのばねを介して伝達可能な設計トルクを定めるステップとを有し、共振中に少なくとも1つのばねを介する設計トルクの伝達は、少なくとも1つのばねの疲労寿命を所望の疲労寿命以下には減少させず、この方法は、デカップラを介して伝達される最大トルクを制御して最大トルクが設計トルク以下であるようにすることによってオーバーランニングデカップラの共振を阻止するステップを更に有する。
【0009】
さらに別の形態では、本発明の教示により、回転部材、ハブ、ハブと回転部材との間に設けられている一方向クラッチ及び共振阻止クラッチを有するオーバーランニングデカップラが提供される。一方向クラッチは、ばねキャリヤ、螺旋巻きばね及びばねキャリヤとハブとの間に設けられた捩じり弾性カップリングを有する。螺旋巻きばねは、回転部材に係合する複数個のコイル、第1の端部及び第2の端部を有する。螺旋巻きばねの第1の端部は、ばねキャリヤに駆動的に係合する。共振阻止クラッチは、捩じり弾性カップリングの撓みが所定の撓みを越えたときに一方向クラッチが回転部材を離脱させるよう構成されている。
【0010】
本発明の別の利用可能分野は、本明細書において提供される説明から明らかになろう。理解されるべきこととして、説明及び特定の実施例は、例示目的で提供されているに過ぎず、本発明の範囲、その用途及び/又は使用を何ら限定するものではない。
【0011】
本明細書において説明する図面は、例示目的に過ぎず、本発明の範囲を何ら制限するものではない。類似又は同一の要素には、種々の図全体を通じて一貫した参照符号が与えられている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の教示に従って構成されたオーバーランニングデカップラを採用するフロントエンジン付属駆動システムを備えたエンジンのフロントの略図であり、オーバーランニングデカップラが回転動力をオルタネータに伝達するために用いられている状態を示す図である。
【図2】本発明の教示に従って構成されたオーバーランニングデカップラを採用するフロントエンジン付属駆動システムを備えたエンジンのフロントの略図であり、オーバーランニングデカップラが回転動力をエンジンのクランクシャフトから無端動力伝達要素に伝達するために用いられている状態を示す図である。
【図3】図1のオーバーランニングデカップラの一部分を切り欠いた斜視図である。
【図4】図1のオーバーランニングデカップラの一部分の分解組立て斜視図である。
【図5】図1のオーバーランニングデカップラの一部分の平面図であり、クラッチばねキャリヤの一部分の例示の形態を示す図である。
【図6】図1のオーバーランニングデカップラの一部分の平面図であり、ハブの例示の形態を示す図である。
【図7】図1のオーバーランニングデカップラの一部分の斜視図であり、共振阻止クラッチを不作動状態で示す図である。
【図8】図1のオーバーランニングデカップラの一部分の斜視図であり、共振阻止クラッチを作動状態で示す図である。
【図9】先行技術のオーバーランニングデカップラを備えたオルタネータの作動と関連した幾つかの動作特性を示すプロットを含むグラフ図である。
【図10】先行技術のオーバーランニングデカップラのプーリ及びハブの回転変位を示すプロットを含むグラフ図である。
【図11】図1のオーバーランニングデッカプラを備えたオルタネータの作動と関連した幾つかの動作特性を示すプロットを含むグラフ図である。
【図12】図1のオーバーランニングデカップラの回転部材及びハブの回転変位を示すプロットを含むグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面のうちの図1を参照すると、本発明の教示に従って構成されたオーバーランニングデカップラが全体を参照符号10で示されている。図示の特定のオーバーランニングデカップラ10は、回転動力源18、例えばエンジン又はトランスミッションからの無端動力伝達要素16、例えばベルト又はチェーンを用いた駆動システム14の被動装置12、例えばオルタネータ又はスーパーチャージャ(機械駆動過給機)用として特に適している。オーバーランニングデカップラ10は、別形式の駆動システム(例えば、歯車を採用した駆動システム)に使用可能に構成できると共に/或いはオーバーランニングデカップラ10は、図2に示すように回転動力をシャフト20から駆動システムに伝達するよう採用可能であることは、当業者であれば解る。したがって、本発明の教示は、米国特許出願第10/572,128号明細書及び同第10/542,625号明細書に開示されているクランクシャフトデカップラに類似したクランクシャフトデカップラに利用できることは理解されよう。なお、これら米国特許出願を参照により引用し、これらの開示内容を本明細書の一部とする。
【0014】
図3及び図4において、オーバーランニングデカップラ10は、一方向クラッチ30、回転部材32、ハブ34及び共振阻止クラッチ36を有するのが良い。本明細書において説明した内容を除き、一方向クラッチ30、ハブ34及び回転部材32は、米国特許出願第10/519,591号明細書及び/又は同第10/542,625号明細書に記載されているように構成されるのが良い。
【0015】
一方向クラッチ30は、弾性トルク伝達カップリング40、クラッチばねキャリヤ42及びクラッチばね44を有するのが良い。弾性トルク伝達カップリング40は、クラッチばねキャリヤ42とハブ34を捩じり弾性的に連結するよう構成されており、この弾性トルク伝達カップリングは、1つ又は2つ以上のばねから成るのが良い。提供されている特定の実施例では、弾性トルク伝達カップリング40は、オーバーランニングデカップラ10の回転軸線48を中心として同心状に設けられた単一の螺旋捩じりばね46を有するが、理解されるように、他の捩じり応従性カップリング、例えば米国特許出願第10/572,128号明細書に開示されている2つ又は3つ以上の弧状コイル圧縮ばねを用いても良いことは理解されよう。捩じりばね46は、所望の断面形状(例えば、丸形、正方形、長方形)の適当なばねワイヤで形成されるのが良く、この捩じりばねは、研削されていても良く研削されていなくても良い端部を有するのが良い。提供された特定の実施形態では、捩じりばね46は、研削されていない閉鎖端部50を有する。
【0016】
図4及び図5において、クラッチばねキャリヤ42は、弾性トルク伝達カップリング40並びにクラッチばね44に捩じり連結されるのが良い。提供されている特定の実施形態では、捩じりばね46の端部のうちの対応の1つ50に当接するよう構成された螺旋軌道52、当接部54及びクラッチばね溝56を有する。当接部54は、捩じりばね46の端部50を螺旋軌道52に当接させると、捩じりばね46を形成しているワイヤの軸方向端面58に当接するよう構成されているのが良い。クラッチばね溝56は、クラッチばねキャリヤ42の周方向外面60からクラッチばねキャリヤ42の半径方向内側部分内に延びるのが良く、このクラッチばね溝は、クラッチばね当接部62で終端するのが良い。
【0017】
クラッチばね44は、ばねワイヤ材料で形成されるのが良く、このクラッチばねは、第1の端部66、第2の端部68及び第1の端部66と第2の端部68との間に設けられた複数個の螺旋コイル70を有するのが良い。ばねワイヤ材料は、所望の断面形状を有して良く、例えば、正方形、長方形又は丸形の断面を有し、このばねワイヤ材料は、被覆されていなくても良く(即ち、裸であっても良く)又は適当なめっき材及び/又は被覆材で被覆されていても良い。さらに、クラッチばね44の螺旋コイル70に潤滑剤、例えばグリース潤滑剤を施して用いるのが良い。第1の端部66は、クラッチばね溝56内に軸方向に受け入れられるのが良く、この第1の端部は、第1の端部66がクラッチばねキャリヤ42に対して半径方向及び周方向に保持されるようクラッチばね溝56と協働するのが良い。さらに、第1の端部44を形成しているワイヤの軸方向端部72は、回転動力をクラッチばね当接部62と第1の端部66の軸方向端部72との接触によりばねキャリヤ42とクラッチばね44との間で(即ち、ばねキャリヤ42からクラッチばね44に又はクラッチばね44からばねキャリヤ42に)伝達することができるようクラッチばね当接部62に当接するのが良い。
【0018】
図3及び図4において、回転部材32は、特定の駆動システムにおいて回転動力を伝達するよう形作られ又は違ったやり方で構成された外面80及び円筒形内面82を有するのが良い。提供されている実施例では、回転部材32は、ポリ‐V字形ベルトに係合するよう構成されている外面を備えたプーリであるが、回転部材32は、これとは異なるプーリの形態を備え或いは例えばローラ、摩擦ローラ、スプロケット又は歯車の形態を備えても良いことは理解されよう。円筒形内面82は、クラッチばね44の螺旋コイル70に摩擦係合するよう寸法決めされているのが良い。提供される特定の実施例では、クラッチばね44の螺旋コイル70は、締まり嵌めにより円筒形内面82に係合する。
【0019】
図4及び図6において、ハブ34は、弾性トルク伝達カップリング40に捩じり連結されるのが良く、このハブは、ヘッド又はフランジ部分90及びシャンク部分92を有するのが良い。提供される特定の実施例では、フランジ部分90は、捩じりばね46の端部のうちの対応の1つ50に当接するよう構成された螺旋軌道100及び捩じりばね46の端部50を螺旋軌道100に当接させると、捩じりばね46を形成しているワイヤの軸方向端面104に当接するよう構成されるのが良い当接部102を有する。シャンク部分92は、任意適当な手段、例えば締まり嵌め、つがい関係をなすスプライン又は歯付き幾何学的形状、ねじ山、ねじ山付き締結具、キー等により被動付属装置12(図1)又は回転動力源の出力部材16(図1A)に連結されるよう構成されているのが良く、その結果、ハブ34は、付属装置の入力部材又は動力源の出力部材と共に回転するようになる。ハブ34は、オーバーランニングデカップラ10の取り付けを助ける1つ又は2つ以上の特徴部、例えば付属装置の入力部材又は動力源の出力部材に対してハブ34を保持し又は回すよう使用できる六角凹部108を有するのが良い。シャンク部分92は、クラッチばねキャリヤ42がシャンク部分に回転可能に嵌められるよう一方向クラッチ30中に受け入れられるのが良い。
【0020】
一方向クラッチ30をハブ34に対して軸方向に保持するようスラストワッシャ110をクランク部分92に固定的に連結するのが良い。提供されている特定の実施例では、スラストワッシャ110は又、捩じりばね46を軸方向圧縮状態に維持するのが良い。スラストワッシャ110及びクラッチばねキャリヤ42は、クラッチばねキャリヤ42の螺旋軌道52(図5)と捩じりばね46の対応の端部50との相対回転を阻止するよう米国特許出願第10/581,097号明細書に開示されているように互いに協働するよう構成されているのが良い。
【0021】
回転部材32をハブ34上に回転可能に支持するために軸受及び/又はブッシュを採用するのが良い。提供される特定の実施形態では、ブッシュ120は、フランジ部分90と回転部材32との間に配置されるのが良く、支承ボール又はローラを採用した密封型又は非密封型軸受組立体122をシャンク部分92と回転部材32との間に設けるのが良い。また、オーバーランニングデカップラ10の内部へのほこり、デブリ及び水分の流入を阻止すると共にオーバーランニングデカップラ10の内部からのクラッチばね44の螺旋コイル70に施されている潤滑剤の流出を阻止するために回転部材32とシャンク部分92との間に1つ又は2つ以上のシール又はシールド(遮蔽体)124を設けるのが良い。
【0022】
改めて図3及び図4を参照すると、回転動力がオーバーランニングデカップラ10を介して伝達される場合、第1の回転方向における回転部材32とハブ34の相対回転により、クラッチばね44は、ほどけ又は巻き出る傾向があり、その結果、その周方向外面130が回転部材32の円筒形内面82に掴み状態で係合し、それによりオーバーランニングデカップラ10を介する回転動力の伝達が可能になる。物体(即ち、図1の被動付属装置又は図2の駆動システム)の回転慣性が逆の第2の回転方向における回転部材32とハブ34の十分な量の相対回転を引き起こすのに十分高い場合、クラッチばね44は、より均一にコイル状に巻回状態になる傾向があり、その結果、回転部材32及びハブは、互いに独立して回転することができるようになる。
【0023】
共振阻止クラッチ36は、回転動力をオーバーランニングデカップラ10を介して伝達する場合に一方向クラッチ30を離脱させて弾性トルク伝達カップリング40の撓みを制限する任意の手段を有するのが良い。提供される特定の実施形態では、共振阻止クラッチ36は、クラッチばね44の第2の端部68及びハブ34のフランジ部分90上に形成されたクラッチ特徴部140を有する。
【0024】
クラッチばね44の第2の端部68は、螺旋コイル70から所望の方向に遠ざかって延びるのが良い。提供される特定の実施例では、第2の端部68は、螺旋コイル70により定められた管状ゾーン146ではオーバーランニングデカップラ10の回転軸線48に平行に延びる。しかしながら、第2の端部68は、別の方向、例えば半径方向内方又は半径方向外方に延びても良いことは理解されよう。
【0025】
クラッチ特徴部140は、クラッチ部材150を有するのが良く、このクラッチ部材は、クラッチばね44が密にコイル状に巻回状態になり、それにより弾性トルク伝達カップリング40の所定の量の撓みに応答して円筒形内面82を離脱させるようクラッチばね44の第2の端部68に係合するのが良い。提供される特定の実施例では、フランジ部分90には弧状窓又は孔が形成され、クラッチ部材150は、孔の側部で形成され又は画定される。クラッチばね44の第2の端部68は、回転動力がオーバーランニングデカップラ10を介して伝達されるときに孔内に収納されるのが良く、クラッチ部材150は、弾性トルク伝達カップリング40の撓みが増減すると、それぞれ、クラッチばね44の第2の端部68に近づいたりこれから遠ざかったりかるよう回転することができる。上述したように、所定の設計撓み時における弾性トルク伝達カップリング40の撓みの結果として、クラッチ部材150と第2の端部68の接触が生じ、それにより、クラッチばね44は、緊密にコイル状に巻回状態になり、それにより回転部材32を離脱させる。図7は、弾性トルク伝達カップリング40の撓みが所定量よりも少ない所与の大きさの状態にあるときの第2の端部68とクラッチ部材150の相対的位置決め状態を示しており、これに対し、図8は、弾性トルク伝達カップリング40の撓みが所定量に等しい大きさの状態にあるときの第2の端部68とクラッチ部材150の相対的位置決め状態を示している。理解されるように、クラッチばね44の形態及び弾性トルク伝達カップリング40の所定の撓み量の大きさに応じて、クラッチばね44が円筒形内面82を離脱させるようにするクラッチばね44の締め付け(コイル状巻回)は、図8に示されている場合よりも多かれ少なかれ必要なことがある。
【0026】
図9を参照すると、先行技術のオーバーランニングデカップラを介して駆動されるオルタネータの動作の種々の観点を示すプロットが図示されている。プロット200は、時間の関数としての先行技術のオーバーランニングデカップラのプーリの回転速度を表し、プロット202は、時間の関数としてのオルタネータ界磁電圧を表し、プロット204は、時間の関数としての先行技術のオーバーランニングデッカプラのハブの回転速度を表している。これらプロットを生じさせた試験は、試験台について実施したが、理解されるべきこととして、試験は、自動車に通常用いられている形式のフロントエンジン付属駆動装置を介するオルタネータの駆動をシミュレートするよう構成されていた。この点に関し、本出願人は、プーリの回転速度の変化が大きいように思われるが、オルタネータプーリの直径がクランクシャフトプーリと比較して比較的小さく、その結果、エンジン回転速度の比較的僅かなばらつきがクランクシャフトプーリの周長とオルタネータプーリの周長のほぼ関連付けられた量だけ大きくなることが注目されるべきことに注目している。
【0027】
他の捩じり入力がない場合、先行技術のオーバーランニングデカップラは、プーリの速度の変動というハブに対する効果を減衰させるよう構成されており、したがって、ハブの回転速度がプーリの回転速度のピーク間ばらつきの大きさよりも小さな大きさのピーク間ばらつきを呈する変動を有することが予想される。
【0028】
プロット202では、オルタネータの調整器がオフ又はオンに切り換わると、オルタネータ界磁電圧の大きさの突然の変化が生じている。オルタネータを回転させるのに必要なトルクは、オルタネータ界磁電圧に関連しているので、オルタネータのオンオフ切り換えにより、オーバーランニングデカップラの捩じり荷重の突然の変化が生じる。プーリを介する先行技術のオーバーランニングデカップラへの捩じり振動入力とハブを介する先行技術のオーバーランニングデカップラへの捩じり荷重入力は、互いに組み合わさって捩じり弾性カップリングを図10に示されているように共振状態に駆動し、図10は、プーリに対するハブの角変位を示している。図10の破線で表された水平線は、所与のサイクルに関して角変位の上限と下限を0.0555秒間隔にわたり約81.5°として示している。
【0029】
オーバーランニングデカップラ10(図3)を介して駆動されるオルタネータの作動の種々の観点を示すプロットが図11及び図12に図示されている。図11では、プロット300は、時間の関数としての回転部材32(図3)の回転速度を表し、プロット302は、時間の関数としてのオルタネータ界磁電圧を表し、プロット304は、時間の関数としてのハブ34(図3)の回転速度を表している。図12では、プロットは、回転部材32(図3)に対するハブ34(図3)の角変位を示している。図12の破線で示された水平線は、所与のサイクルに関して角変位の上限と下限を0.0198秒間隔にわたり約35.0°として示している。上述の実施例の場合と同様、これらプロットを生じさせた試験は、図9及び図10と関連したプロットを生じさせるよう用いられた条件と同一条件下において試験台について実施された。しかしながら、図12に示されているように、オーバーランニングデカップラ10(図1)は、共振状態にはない。
【0030】
改めて図3及び図4を参照すると、弾性トルク伝達カップリングを備えたオーバーランニングデカップラを有する駆動システムの作動のための方法が本明細書に提供されていることが解る。具体的に説明すると、駆動システムを第1の組をなす作動条件下で作動させて回転部材32に対する一方向クラッチ30の連結を生じさせてオーバーランニングデカップラ10を介するトルクの伝達を容易にするのが良く、オーバーランニングデカップラを弾性トルク伝達カップリング40における共振条件の開始を阻止するよう選択された所定の撓みに等しい量だけの一方向クラッチ30内における弾性トルク伝達カップリング40の撓みに応答して連結解除するのが良い。
【0031】
また、本発明の教示に従って構成されたオーバーランニングデカップラ(即ち、非共振型オーバーランニングデカップラ)を製作する方法が本明細書において提供されている。この方法は、弾性トルク伝達カップリング40(又はオーバーランニングデカップラ10)の所望の疲労寿命を定めるステップと、弾性トルク伝達カップリング40の最大撓みを制御して弾性トルク伝達カップリング40の受ける最大撓みが設計撓み以下であるようにすることによって弾性トルク伝達カップリング40の共振を阻止するステップとを有するのが良い。
【0032】
弾性トルク伝達カップリング40の所望の疲労寿命を多くの仕方で、即ち、分析手段、実験、選択又はこれらの組み合わせによって定めることができるということが解る。代表的には、オーバーランニングデカップラ10は、所定量の試験又は動作サイクルを含む所定の形態又は系統的計画に耐え抜くことが必要とされる。例えば、自動車のフロントエンジン付属駆動装置で用いられるオーバーランニングデカップラは、所定回数のエンジン始動例えば50万回のエンジン始動を含む試験形態に耐え抜くことが必要な場合がある。より複雑精巧な試験形態は、第1の回数のエンジン始動、第2の回数のエンジンアイドリングセグメント(所定の時間にわたる自動車のエンジンのアイドリングをシミュレートしている)、第3の回数の加速セグメント(所定の時間にわたると共に所定の割合での自動車のエンジンの加速をシミュレートしている)及び第4の回数の減速セグメント(所定の時間にわたると共に所定の割合での自動車のエンジンの減速をシミュレートしている)を含む場合がある。このような状況では、弾性トルク伝達カップリング40を当初設計し、次に、トルク伝達装置(例えばデカップラ組立体10)のコスト又は製造性を含む基準を考慮して弾性トルク伝達カップリング40を改造し、しかる後、試験中に集められたデータに応答して弾性トルク伝達カップリング40を改造することが望ましい場合がある。変形例として、所望の疲労寿命を単に選択により、例えば、所望の疲労寿命を有するものとして知られている非共振型オーバーランニングデカップラへの弾性トルク伝達カップリング40の模倣或いは非共振型オーバーランニングデカップラにより駆動されるべき1つ又は複数の装置の慣性及び非共振型オーバーランニングデカップラにより駆動されるべき1つ又は複数の装置を駆動するためのピークトルクのうちの少なくとも一方に基づく1つ又は2つ以上の非共振型オーバーランニングデカップラからの非共振型オーバーランニングデカップラの選択によって定めても良い。
【0033】
設計撓みは、弾性トルク伝達カップリング40の疲労寿命を所望の疲労寿命以下に減少させないで弾性トルク伝達カップリング40が共振中に受ける場合のある撓みである。設計撓みは、必ずしも、最大撓みである必要はなく、このような設計撓みを多くの方法で、例えば、分析手段、実験、選択又はこれらの組み合わせによって定めることができる。例えば、設計撓みは、弾性トルク伝達カップリング40の疲労寿命を所望の疲労寿命以下に減少させないで弾性トルク伝達カップリング40が共振中に受ける場合のある最大撓みよりも低いレベルに設定され又は選択することができる。変形例として、設計撓みを単に選択により、例えば、所望の疲労寿命を有しているものとして知られている非共振型オーバーランニングデカップラからの動作又は物理的特性の模倣により定めることができる。
【0034】
弾性トルク伝達カップリング40の撓みは、弾性トルク伝達カップリング40を介して伝達されるトルクの大きさに直接関連しているので、設計撓みは、非共振型オーバーランニングデカップラを介して回転動力を受け取る1つ又は複数のコンポーネントをあらゆる条件下で駆動できるようにするのに十分に大きなサイズのものであるのが良いことは理解されよう。例えば、状況によっては、非共振型オーバーランニングデカップラを介して回転動力を受け取るべき1つ又は複数の装置のピークトルクを定めると共にピークトルクの伝達時における弾性トルク伝達カップリング40の撓みが所望の撓みよりも小さいようにすることが望ましい場合がある。
【0035】
上述の説明は、例示に過ぎず、本発明の内容、その用途又は使用を限定するものではない。特定の実施例が明細書に記載されると共に図面に示されているが、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、これら実施例の種々の変更を行なうことができると共にこのような実施例の要素に代えて均等例を用いても良い。さらに、種々の実施例相互間における特徴、要素及び/又は機能の混合及び整合は、本明細書において明示的に想定され、その結果、当業者であればこの開示内容から1つの実施例の特徴、要素及び/又は機能を必要ならば別の実施例に組み込むことができることが理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させる多くの改造例を想到できる。したがって、本発明の内容は、本発明の教示を具体化するために現時点に想定された最適実施態様として図面に示されると共に本明細書において説明した特定の実施例に限定されず、本発明の範囲は、上記説明及び特許請求の範囲の記載に含まれるどのような実施形態をも含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力を回転部材とハブとの間で伝達するよう構成されたオーバーランニングデカップラを製作する方法であって、前記オーバーランニングデカップラは、クラッチばねを備えた一方向クラッチと、前記クラッチばねに連結されたキャリヤと、前記キャリヤを前記ハブに弾性的に連結する少なくとも1つのばねとを有する方法において、
前記少なくとも1つのばねの所望の疲労寿命を定めるステップと、
共振中における前記少なくとも1つのばねの設計撓みを定めるステップであって、共振中の前記設計撓み時における前記少なくとも1つのばねの撓みは、前記少なくとも1つのばねの疲労寿命を前記所望の疲労寿命以下には減少させないステップと、
前記少なくとも1つのばねの最大撓みを制御して前記最大撓みが前記設計撓み以下であるようにすることによって前記オーバーランニングデカップラの共振を阻止するステップと、を備えている、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記設計撓みは、前記少なくとも1つのばねの疲労寿命を前記所望の疲労寿命以下には減少させない、共振中の前記少なくとも1つのばねの最大撓みである、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記設計撓みは、少なくとも一部が、前記オーバーランニングデカップラを介して駆動される少なくとも1つの装置の回転慣性に基づいて定められる、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記設計撓みは、少なくも一部が、前記オーバーランニングデカップラを介して駆動される1つ又は2つ以上の装置のピークトルクに基づいて定められる、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記オーバーランニングデカップラからの回転動力を受け取るべき装置のピーク駆動トルクを定めるステップを更に有し、
前記少なくとも1つのばねの最大撓みは、前記ピーク駆動トルクに等しい大きさを持つトルクが前記オーバーランニングデカップラを介して伝達されるときに、前記少なくとも1つのばねの撓みよりも大きい、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記クラッチばねは、前記オーバーランニングデカップラの回転軸線を中心として同心状に配置されているコイルを備えた螺旋捩じりばねから成る、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
無端動力伝達要素及びオーバーランニングデカップラを有する駆動システムの作動方法であって、前記オーバーランニングデカップラは、ハブと、回転部材と、前記ハブと前記回転部材との間に設けられた一方向クラッチとを有し、前記一方向クラッチは、キャリヤと、クラッチばねと、前記キャリヤと前記ハブとの間に設けられた1つ又は2つ以上のばねとを有し、前記クラッチばねは、前記キャリヤに係合した第1の端部を有し、前記クラッチばねは、前記回転部材に駆動的に連結されるよう構成されている方法において、
前記駆動システムを前記回転部材への前記クラッチばねの連結が前記オーバーランニングデカップラを介するトルクの伝達を容易にするようにする第1の組をなす作動条件下で作動させるステップと、
前記オーバーランニングデカップラを所定のばね撓み以上の量の前記少なくとも1つのばねの撓みに応答して連結解除するステップと、を有し、
前記所定のばね撓みは、前記少なくとも1つのばねの共振条件の開始を阻止するよう選択される、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのばねは、前記オーバーランニングデカップラの回転軸線を中心として同心状に設けられた螺旋コイルばねから成る、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記クラッチばねは、前記第1の端部と反対側に第2の端部を有し、前記第2の端部は、前記少なくとも1つのばねの撓み量が前記所定のばね撓み以上である場合、前記クラッチばねの少なくとも一部分を前記回転部材から遠ざかる方向にコイル状に巻いてオーバーランニングデカップラの連結解除を開始させるよう前記ハブと接触する、
請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記回転部材は、プーリ、ローラ、又はスプロケットから成る、
請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記所定のばね撓みは、前記少なくとも1つのばねに所定の疲労寿命を与えるよう選択されている、
請求項7記載の方法。
【請求項12】
回転動力を回転部材とハブとの間で伝達するよう構成されたオーバーランニングデカップラを製作する方法であって、前記オーバーランニングデカップラは、クラッチばねを備えたクラッチと、前記クラッチばねに連結されたキャリヤと、前記キャリヤを前記ハブに弾性的に連結する少なくとも1つのばねとを有する方法において、
前記少なくとも1つのばねの所望の疲労寿命を定めるステップと、
共振中に前記少なくとも1つのばねを介して伝達可能な設計トルクを定めるステップであって、共振中に前記少なくとも1つのばねを介する前記設計トルクの伝達は、前記少なくとも1つのばねの疲労寿命を前記所望の疲労寿命以下には減少させないステップと、
前記デカップラを介して伝達される最大トルクを制御して前記最大トルクが前記設計トルク以下であるようにすることによって前記オーバーランニングデカップラの共振を阻止するステップとを、備えている、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記設計トルクは、前記少なくとも1つのばねの疲労寿命を前記所望の疲労寿命以下に減少させることなく共振中に前記少なくとも1つのばねを介して伝達可能な最大トルクである、
請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記オーバーランニングデカップラからの回転動力を受け取るべき装置のピーク駆動トルクを定めるステップを更に有し、前記オーバーランニングデカップラを介して伝達される前記最大トルクは、前記ピーク駆動トルクよりも大きい、
請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記設計トルクは、少なくとも一部が、前記オーバーランニングデカップラを介して駆動される少なくとも1つの装置の回転慣性に基づいて定められる、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記設計トルクは、少なくも一部が、前記オーバーランニングデカップラを介して駆動される1つ又は2つ以上の装置のピークトルクに基づいて定められる、
請求項12記載の方法。
【請求項17】
前記クラッチばねは、前記オーバーランニングデカップラの回転軸線を中心として同心状に配置されているコイルを備えた螺旋捩じりばねから成る、
請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−506975(P2012−506975A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532473(P2011−532473)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001803
【国際公開番号】WO2010/048732
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(504039362)リテンズ オートモーティヴ パートナーシップ (9)
【Fターム(参考)】