説明

トロイダル型無段変速機

【課題】パワーローラのスラスト玉軸受において、内輪スピンコントロールとすることにより、パワーローラの温度低下に基づく動力伝達効率の向上を図ることが可能で、かつ、内輪スピンコントロールとすることによる外輪の発熱に対して耐久性を確保可能なトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機では、外輪28が、トラニオン15に対して軸を介して支持されることなく、トラニオン15の外輪28を向く内側面に沿って変位可能とされている。外輪28が耐熱性を有する高炭素鋼から形成されている。内輪としてのパワーローラが高炭素鋼より炭素含有量が少ない低炭素鋼から形成されるとともに浸炭窒化処理が施されている。外輪軌道溝の半径が、内輪軌道溝の半径より大きくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図3および図4に示すように構成されている。図3に示すように、ケーシング50の内側には入力軸(中心軸)1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図4参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図3中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図3の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図4は、図3のA−A線に沿う断面図である。図4に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図4においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図4の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図4の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図3の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図4で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図4の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図4の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、上述の例では、枢軸14により入力軸1方向の移動が規制されたトラニオン15に対して、パワーローラ11を入力軸方向に少しだけ変位可能とするために、パワーローラ11および外輪28を含むスラスト玉軸受24を、トラニオン15の円孔21に回転自在に支持された変位軸23の基端部23aを中心に揺動自在に支持している。それに対して、変位軸23に基端部23aを設けずに、トラニオン15の外輪28に対向する内側面に沿って外輪28をパワーローラ11とともにスライド移動させることにより、パワーローラ11を入力軸の長手方向に若干変位可能とするトロイダル型無段変速機も知られている。
【0017】
また、上述のように変位軸23に基端部23aを設けない構成とし、トラニオン15の外輪28に対向する内側面側に、断面円弧状の凸面を設け、この凸面に対向する外輪28の外側面に凸面に対応する断面円弧状の凹面を設け、凸面に凹面を当接させることにより、凸面を有するトラニオン15に対して外輪28をパワーローラ11と一体に回転可能とするトロイダル型無段変速機も知られている。このトロイダル型無段変速機においては、パワーローラ11が枢軸に対して偏心している軸回りに回転可能となることによって、パワーローラ11を入力軸の長手方向に若干変位させることができる。これらのトロイダル型無段変速機においては、パワーローラ11および外輪がトラニオン15に軸を介して支持された状態となっておらず、トラニオン15の内側面に沿った外輪28のスライド移動や回転移動によりパワーローラ11を入力軸の長手方向に若干移動することが可能となっている。
【0018】
以上のようなトロイダル型無段変速機においては、高いトルク伝達容量が必要とされる場合、例えば、大排気量の自動車に搭載される場合に、ディスクとパワーローラの接触点における発熱やパワーローラベアリング部(スラスト玉軸受24)における発熱により、パワーローラ11が焼戻しの進行に伴う残留オーステナイトの分解や軟化が発生し、耐久性が低下する虞や、トラクション面の温度上昇に伴うμ(運転トラクション係数)の設定値の低下(入出力側ディスク2,3とパワーローラ11との押し付け力の増加)および動力伝達効率の低下等の様々な問題が生じる。
【0019】
そこで、スラスト玉軸受24の内輪であるパワーローラ11の転動体26が転動する内輪軌道溝の半径(内輪軌道溝内周面の曲率半径)に対して、外輪の転動体26が転動する外輪軌道溝の半径(外力動溝内周面の曲率半径)を大きくすることにより、内輪−転動体間が純転がりをし、外輪−転動体間がスピン滑りをする内輪スピンコントロール状態とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。内輪スピンコントロールとすることによって、スラスト玉軸受24では外輪側の発熱が大きくなり、内輪であるパワーローラ11側の発熱を抑制することができる。このパワーローラ11の発熱の抑制により、トラクション係数を向上させ、動力伝達効率の向上を図ることができる。
【0020】
また、パワーローラ11に対して、外輪28は厚みが薄いため、変形し易い。さらに、浸炭、浸炭窒化、高周波焼入れ等の表面硬化処理において、表面硬化層深さを深くできない。そこで、外輪の損傷を防止するために、上述の例とは逆に、外輪軌道溝の半径に対して、内輪軌道溝の半径を大きくすることにより外輪スピンコントロール状態として外輪の温度低下を図って、外輪の損傷を防止することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0021】
一方、フルトロイダル型無段変速機のローラに使用される材料の組成に基づいて、ローラの耐熱性を高めることにより、ローラの耐久性を確保することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、トロイダル型無段変速機のパワーローラ11に使用される材料の組成と、表面硬化処理とにより、パワーローラ11の転動疲労特性を向上することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2001−122200号公報
【特許文献2】特許3733992号公報
【特許文献3】特許4100072号公報
【特許文献4】特開平8−326862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ところで、特許文献1のように、パワーローラ11のスラスト玉軸受24において、内輪スピンコントロールとして、内輪であるパワーローラ11の発熱を抑制した場合に、特許文献2に記載されるように、外輪側の損傷が問題となる。また、スラスト玉軸受24において、外輪28側の方が発熱が大きくなることから、外輪28の耐熱性や耐久性が問題となる。
【0024】
また、特許文献2のように、パワーローラ11のスラスト玉軸受24において、外輪スピンコントロールとして、外輪28の損傷を防止した場合に、スラスト玉軸受24において外輪28より内輪であるパワーローラ11で発熱が大きくなる。したがって、パワーローラ11の温度上昇に基づく上述の動力伝達効率の低下などの多くの問題が発生する虞がある。
【0025】
また、特許文献3は、ハーフトロイダル型ではなくフルトロイダル型の無段変速機のローラに好適となるように提案された材料の組成である。フルトロイダル型のローラに対して、ハーフトロイダル型のパワーローラ11に作用する曲げ応力が大きいことから、特許文献3に示される組成で、パワーローラ11を製造した場合に、割れの発生が懸念される。
【0026】
また、特許文献4によれば、パワーローラ11の材料の組成を高周波焼入れに適したものとしているが、スラスト玉軸受24における発熱や、その他の構成と材料特性との関係について考慮されていない。したがって、スラスト玉軸受24の構成や、外輪28の構成によっては、最適な材料組成となっていない虞がある。
【0027】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、パワーローラのスラスト玉軸受において、内輪スピンコントロールとすることによって、パワーローラの温度低下に基づく動力伝達効率の向上を図ることが可能で、かつ、内輪スピンコントロールとすることによる外輪の発熱の増大に対して耐久性を確保可能なトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に介在され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト玉軸受とを備え、
前記スラスト玉軸受は、前記パワーローラである内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間で転動する玉とを有し、前記内輪に前記玉が転動する内輪軌道溝が設けられ、前記外輪に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられているトロイダル型無段変速機であって、
前記外輪は、前記トラニオンに対して軸を介して支持されることなく、前記トラニオンの前記外輪側を向く内側面に沿って変位可能とされ、
前記外輪が耐熱性を有する高炭素鋼から形成され、
前記内輪が前記高炭素鋼より炭素含有量が少ない低炭素鋼から形成されるとともに浸炭窒化処理が施され、
前記外輪軌道溝の半径が、前記内輪軌道溝の半径より大きくされていることを特徴とする。
【0029】
請求項1に記載の発明においては、外輪軌道溝の半径を、内輪軌道溝の半径より大きくすることによって、上述のように転動体としての玉を内輪スピンコントロール状態とする。この場合、スラスト玉軸受においては、内輪であるパワーローラより外輪側が発熱することになる。これにより、パワーローラの温度上昇を抑制することによって、トロイダル型無段変速機の動力伝達効率を向上し、燃費の向上を図ることができる。また、外輪側を耐熱性の高炭素鋼とすることによって、スラスト玉軸受24において内輪側より外輪側がより発熱する構成となっていても外輪の耐久性を向上することができる。
【0030】
また、外輪を高炭素鋼とした場合に、曲げ応力に対して割れの発生が懸念されるが、外輪をトラニオンに軸を介して支持させずに、トラニオンの内側面に沿って変位させることによって、外輪における曲げ応力を低減することができるので、外輪を高炭素鋼から構成しても外輪の割れを防止することができる。
また、内輪には、大きな曲げ応力が作用するが、内輪を低炭素鋼から構成することにより芯部硬度を低く抑え、かつ、表面側に浸炭窒化処理を施すことによって、内輪に十分な表面高度を持たせながら、内輪の割れを防止することができる。なお、ここで、炭素含有量が0.5%以上の炭素鋼を高炭素鋼とし、それより炭素含有量の少ない炭素項を低炭素鋼とする。
【0031】
請求項2に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項1に記載の発明において、前記トラニオンの内側面と、前記外輪の外側面とが面接触していることを特徴とする。
【0032】
請求項2に記載の発明においては、トラニオンと外輪とが面接触することにより、外輪の熱がトラニオンに熱伝導されやすくなり、外輪の温度低下を図ることができる。これにより、さらに外輪の耐久性の向上を図ることができる。
【0033】
請求項3に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項1または請求項2に記載の発明において、
前記内輪は、C:0.1〜0.4重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む低炭素鋼から形成され、かつ、硬化熱処理として浸炭窒化処理後に焼入れおよび焼戻しが施され、
前記外輪は、C:0.5〜1.3重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、Si、MoおよびMnを合計で1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む高炭素鋼から形成され、かつ、硬化熱処理として焼入れおよび200℃以上での焼戻しが施されていることを特徴とする。
【0034】
請求項3に記載の発明においては、外輪より大きな曲げ応力が作用するパワーローラに、炭素の濃度が低く、靱性が相対的に高い鋼を用い、かつ、浸炭窒化処理により表面硬度を高めることによって、パワーローラの耐久性を向上することができる。また、上述のように内輪スピンコントロールとすることにより高い硬度と耐熱性が要求される外輪には、炭素濃度の高い鋼を用いることにより耐久性を向上することができる。また、外輪に浸炭窒化処理を行わずに、焼入れ焼戻し処理を施す構成とすれば、コストの低減を図ることができる。
【0035】
請求項4に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項3に記載の発明において、前記外輪の硬化熱処理として、浸炭窒化処理後に焼入れおよび200℃以上での焼戻しを行うことを特徴とする。
【0036】
請求項4に記載の発明においては、外輪の表面硬度を浸炭窒化処理によりさらに高めることができる。
【0037】
請求項5に記載のトロイダル型無段変速機は、請求項3または請求項4記載の発明において、
前記内輪は、C:0.1〜0.4重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、Si、MoおよびMnを合計で1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む低炭素鋼から形成され、かつ、硬化熱処理として浸炭窒化処理後に焼入れおよび200℃以上での焼戻しが施されていることを特徴とする。
【0038】
請求項5に記載の発明においては、内輪に耐熱性を必要とする場合、Si、MoおよびMnの合計が1.0〜3.0重量%とすることにより、高温で焼戻しを行った後の大きな硬度低下を防止することができる。これにより高温での焼戻しを行うことによって、高温での使用の耐久性を向上することができる。また、内輪であるパワーローラ表面の残留オーステナイトの量を多くすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、外輪に高い曲げ応力が作用しない構造とするとともに、スラスト玉軸受の発熱量が内輪側より外輪側が多くなるようにし、かつ、大きな曲げ応力が作用するパワーローラを靱性が高い鋼で形成するとともに浸炭窒化処理により表面硬度を高め、外輪を耐熱性の高い炭素含有量の多い鋼で形成することによりパワーローラを含むスラスト玉軸受の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機のパワーローラを含むスラスト玉軸受およびトラニオンを示す断面図である。
【図2】変形例としてのトロイダル型無段変速機のパワーローラを備えたトラニオンを示す斜視図である。
【図3】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、本発明の特徴は、スラスト玉軸受24の内輪であるパワーローラ11の構造および材質と、外輪28の構造および材質にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図3および図4と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0042】
図1に示すように、この実施の形態のトラニオン15およびパワーローラ11は、トラニオン15の支持板部16のスラスト玉軸受24の外輪28に対向する内側面に対して、パワーローラ11を含むスラスト玉軸受24が枢軸14の軸方向に直交する方向にスライド移動することにより、パワーローラ11を入力軸方向に変位可能としたものである。
【0043】
したがって、トラニオン15の支持板部16には、従来の変位軸の基端部が挿入される円孔が形成されておらず、スラスト玉軸受24のパワーローラ11および外輪28には、支持板部16の円孔に挿入される変位軸の基端部が設けられていない。
この実施の形態の外輪28は、スラスト玉軸受24の外輪を形成する概略円板状の外輪本体部28aと、この外輪本体部28aの内側面の中心から垂直に延び、パワーローラ11を回転可能に支持する軸部28bとから成っている(前述した従来構造の外輪28と変位軸23の先端部23bとが一体となって、変位軸23の基端部23aを取り除いた構造を成している)。外輪本体部28aは、パワーローラ11の回転中心軸すなわち軸部28bの回転中心軸と同心の外周面110を有している。
【0044】
外輪28は、トラニオン15の内側の凹状のポケット部P内に収容されており、トラニオン15には、この外輪本体部28aの外周面110に対向する位置に、互いに対向しかつパワーローラ11の回転中心軸(回転軸)と直交捩れ方向に沿って延びる一対の案内面部120,120が形成されている。
【0045】
また、トラニオン15と外輪本体部28aとの間には、パワーローラ11に加わるスラスト方向(パワーローラ11の小端面側から大端面側に向かう方向)の荷重を支承するスラスト転がり軸受130が介挿されている。
また、軸部28bとパワーローラ11との間には、ラジアル転がり軸受140が介挿されている。
【0046】
また、パワーローラ11には、外輪本体部28aを向く面に、内輪として転動体(玉)26が転動する内輪軌道溝141が形成されている。内輪軌道溝141は、断面円弧状であり、かつ、パワーローラ11の回転中心を中心とする円環状に形成されている。
また、外輪本体部28aには、パワーローラ11を向く面に、転動体26が転動する外輪軌道溝142が形成されている。外輪軌道溝142は、断面円弧状であり、前記内輪軌道溝141と対向するように円環状に形成されている。
【0047】
この実施の形態において、内輪軌道溝141の半径、すなわち、内輪軌道溝141の断面円弧状の内周面の曲率半径が、外輪軌道溝142の半径、すなわち、外輪軌道溝142の断面円弧状の内周面の曲率半径より少し小さくなっている。
【0048】
外輪28は、C:0.5〜1.3重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、Si、MoおよびMnを合計で1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む鋼からなっている。上述のように炭素の含有量を0.5%以上を高炭素鋼とした場合に、外輪28は、高炭素鋼からなる。
また、外輪28は、硬化熱処理として焼入れおよび200℃以上での焼き戻しが施されている。なお、焼入れは、一般熱処理としてのずぶ焼熱処理を行う。
【0049】
パワーローラ11である内輪は、C:0.1〜0.4重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む鋼から形成されている。また、内輪には、硬化熱処理として浸炭窒化処理後に焼入れおよび焼戻しが施されている。
【0050】
このようなトロイダル型無段変速機においては、パワーローラ11を含むスラスト玉軸受24が、トラニオン15に変位軸を介して支持されていないので、外輪28で生じる曲げ応力を変位軸を用いた場合より小さくすることができる。
【0051】
ここで、パワーローラ11の周面と入出力側ディスク2,3の内側面との摩擦に伴って、パワーローラ11に枢軸14の軸方向の力(パワーローラ11の入出力側ディスク2,3との接触部における接線方向の力)が加わる。この力は、所謂2Ftと呼ばれるもので、その大きさは、入力側ディスク2から出力側ディスク3に伝達する力(トルク)に比例する。このような2Ftにより、変位軸を用いてトラニオン15に対してスラスト玉軸受24を支持した場合に、外輪28の変位軸の基端部に接触する部分に大きな曲げ応力が作用する状態となる。
【0052】
それに対して、変位軸がなく、支持板部16の内側面に沿って移動可能なこの実施の形態の外輪本体部28aでは、2Ftが作用した場合に、この2Ftを外輪本体部28aの外周面110や、外輪本体部28aのトラニオンを向く側面の外周部分で受けるため、変位軸を有する場合よりも、外輪本体部28aで発生する曲げ応力を小さくすることができる。このように発生する曲げ応力が小さくなった外輪28に対してパワーローラ11には、大きな曲げ応力が作用するものとなっている。
【0053】
また、内輪軌道溝141の半径に対して、外輪軌道溝142の半径を大きくすることにより、内輪(パワーローラ11)−転動体26間が純転がりをし、外輪28−転動体26間がスピン滑りをする内輪スピンコントロール状態としている。これによりスラスト玉軸受24においては、外輪28側で転動体26がスピン滑りをするので、パワーローラ11より外輪28側での発熱量が多くなり、外輪28の温度が高くなる。
【0054】
これらのことから、この実施の形態の外輪28においては、曲げ応力が小さくなり、温度が高くなる傾向となる。それに対して、外輪29の材質を上述のように炭素含有量が高いものとすることによって、耐熱性と硬度を高めて対応している。また、炭素含有量が高いことにより、硬度が高くなり、浸炭、浸炭窒化等の表面硬化処理をしなくとも、焼入れ、焼戻しで耐久性を確保することができる。なお、炭素含有量を高くして硬度を高めた場合に靱性が不足し、大きな曲げ応力が作用すると割れが生じる虞があるので、上述のように外輪28で生じる曲げ応力を小さくしている。
【0055】
外輪28の素材となる高炭素鋼においては、炭素(C)の含有量が0.5重量%を下回ると、完成品の耐久性を確保するのに十分な硬さが得られない。耐久性を確保できる十分な硬さとは表面においてHV700(ビッカース硬さ)以上である。また、炭素含有量が1.3重量%を上回ると素材の段階で粗大な炭化物が形成される虞がある。
【0056】
また、外輪28の素材においては、クロム(Cr)の含有量は、焼入れ焼戻し語の十分な硬度や耐摩耗性を確保するために1.0重量%以上含有されていることが好ましい。また、クロムを必要以上に添加すると、コスト増につながるため、クロムの含有量は、3.0重量%以下とすることが好ましい。
【0057】
また、外輪28の素材においては、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)およびマンガン(Mn)の合計の含有量を上述のように1.0重量%以上3.0重量%以下とするとともに焼戻し温度を200℃以上としている。これらの合計の含有量が1.0重量%を下回ると、高温の焼戻しを行った後の硬度低下が大きく十分な耐久性が得られない。また、焼戻し後の完成品表面の残留オーステナイトが20%以上とならない場合がある。また、これらの合計含有量が3.0%以上を上回る場合、加工性の低下や、素材のコスト増や、熱伝導率の低下に伴う外輪軌道溝142直下となる部分の温度上昇等の不具合が懸念される。また、焼戻し温度は、上述の素材からなる部材、すなわち、外輪28の使用される温度と時間を考慮して決定され、焼戻し温度が高いほど高温での使用が可能となる。すなわち、耐熱性が高くなるが、この実施形態において外輪28の焼戻し温度は、上述のように200℃以上とすることが好ましい。
【0058】
スラスト玉軸受24の内輪であるパワーローラ11は、上述のように内輪スピンコントロールとするので、スラスト玉軸受24で発生する熱においては外輪28より発熱量が少なくなる。したがって、スラスト玉軸受24において内輪スピンコントロールとしてスラスト玉軸受24におけるパワーローラ11の発熱量を減らすことにより、パワーローラ11の温度低下を図ることができる。これにより、パワーローラ11におけるトラクション面(周面11a)の入出力側ディスク2,3との接触部における温度の低下を図ることができ、結果的にトラクション面の接触部の動力伝達係数μを高く設定することができる。なお、トロイダル無段変速機に使用されるトラクションオイルは温度が高くなるとスリップμが低下する)。
【0059】
また、パワーローラ11の上述の接触部における動力伝達係数μを高く設定できるので、同じトルクを伝達するために必要な入力軸方向の押し付け力を低くすることができる。このことにより、回転に関わる部位でのフリクションロス等を低下させることができる。フリクションロスを低下させることができれば、動力伝達効率が向上するため、トロイダル型無段変速機を車両に適用した場合に、燃費向上をもたらすことができる。
【0060】
パワーローラ11では、大きな曲げ応力が生じるので、上述のように曲げ応力を小さくした外輪28のように炭素含有量が0.5%以上の高炭素鋼を用いると割れが生じる虞があり、パワーローラ11の素材では、炭素含有量が0.5%より小さく、大きな曲げ応力に対して十分な靱性を有する低炭層鋼を用いている。
【0061】
内輪であるパワーローラ11の素材である低炭素鋼においては、炭素含有量が0.1重量%を下回ると、硬化熱処理後の硬度が低くなるため、十分な強度が得られない虞がある。また、炭素含有量が0.4重量%を上回ると、硬化熱処理後の硬度が高くなり過ぎるため、靱性が低下し、大きな曲げ応力が生じた場合の割れが懸念される。
【0062】
上述のように、耐熱性を確保する上では、クロム含有量は、焼入れ焼戻し後の十分な硬度や、耐摩耗性を確保するために1.0重量%以上含有されていることが好ましい。しかしながら、必要以上にクロムを添加すると、コスト増につながるため、3.0重量%以下とすることが好ましい。
【0063】
また、パワーローラ11の素材においては、上述のように炭素含有量が低いため、そのまま焼入れ焼戻しを行ってもパワーローラ11の完成品表面に必要とされるHV700以上の硬度(ビッカース硬度)を得られない。そこで、パワーローラ11に対しては熱硬化表面処理として浸炭窒化処理を行った後に焼入れ焼戻しを行う。浸炭窒化処理を行う理由としては、浸炭よりも、高い硬度を得易い点と、同じ硬度でも残留オーステナイト量が高い点と、耐摩耗性が高い点等の利点があることである。
【0064】
このトロイダル型無段変速機にあっては、内輪軌道溝141の半径を、外輪軌道溝142の半径より小さくして内輪スピンコントロール状態とすることにより、スラスト玉軸受24において内輪側の発熱量を減少させるとともに外輪側の発熱量を高くすることによって、内輪であるパワーローラ11の温度低下を図り、パワーローラ11の温度低下により、上述のように動力伝達効率の向上を図ることができ、燃費の向上を図ることができる。
【0065】
この際に、外輪28をトラニオン15に軸で支持せずに、トラニオン15の支持板部16の内側面に沿ってスライド移動する構成としているので、外輪28で生じる曲げ応力を減少させることができる。また、外輪28の耐熱性と硬度とを高めるために、外輪28の素材として炭素含有量が0.5%以上の高炭素鋼を用いることにより、外輪28に必要な耐熱性を持たせることができるとともに、外輪28の表面硬度を焼入れ焼戻しにより、浸炭や浸炭窒化等の熱硬化表面処理をしなくとも必要十分な硬度とすることができる。これにより、スラスト玉軸受24で内輪スピンコントロール状態として、外輪28の温度を高くするものとしても、外輪28の温度上昇に対して低コストで対応して、外輪28の耐久性を確保できる。
【0066】
また、パワーローラ11では、上述のような外輪28より大きな曲げ応力が生じるので、炭素含有量が0.5%より低い0.4%以下の低炭素鋼とすることにより、大きな曲げ応力が生じても割れの発生を抑制できる高い靱性を有するものにできる。また、低炭素鋼とすることによって、不足する虞のある表面硬度を、浸炭窒化処理を行うことにより必要十分なレベルにすることができ、パワーローラ11に十分な耐久性を持たせることができる。
以上のことから、スラスト玉軸受24において、パワーローラ11や外輪28の耐久性を向上しつつ、コストの低減を図ることができる。
【0067】
なお、前記実施の形態では、外輪28に浸炭窒化処理等の熱硬化表面処理を施さないことにより、コストの低減を図っているが、外輪28の耐久性をさらに高めるために、外輪28に浸炭窒化処理を施すものとしてもよい。外輪28に浸炭窒化処理を施すことにより、表面硬度をさらに高くできる点、耐摩耗性を向上できる点、残留オーステナイトの量が多くなり易くなる点等の利点があり、コストが許す限り硬化表面熱処理として浸炭窒化処理を施すことが好ましい。
【0068】
また、この実施の形態では、スラスト玉軸受24で内輪スピンコントロール状態とすることによって、パワーローラ11側の発熱量が低下し、パワーローラ11の温度低下を図っている。しかし、外輪28と比較した場合に、パワーローラ11は、スラスト玉軸受24での発熱に加えて、入出力側ディスク2,3とのトラクション面においても発熱を生じており、外輪28より高温となる虞がある。
【0069】
そこで、上述のように焼戻し温度を高めることにより、高温での使用を可能とすることが考えられるが、この際に、高温での焼戻しにより硬度低下を招かないようするために、シリコン、モリブデンおよびマンガンを合計で1.0重量%以上添加することが好ましい。これにより、高温で焼戻しを行った後の硬度低下を抑制することができる。また、パワーローラ11の完成品表面の残留オーステナイトを20%以上とすることが可能となる。

また、シリコン、モリブデンおよびマンガンの含有量は合計で3.0重量%以下とすることが好ましく、3.0重量%を上回る場合、加工性の低下、素材のコスト増、熱伝導率の低下に伴う内輪軌道溝141直下となる部分の温度上昇等の不具合が懸念される。
【0070】
上述の範囲で、シリコン、モリブデンおよびマンガンを添加した際に、パワーローラ11の浸炭窒化処理後の焼入れ焼戻しの処理において、焼戻し温度がパワーローラ11が使用される温度と時間を考慮して決定され、上述のように焼戻し温度が高いほど高温での使用が可能となる。ここでは、焼戻し温度を200℃以上とすることが好ましい。
【0071】
また、上述のようにパワーローラ11および外輪28の完成品表面の残留オーステナイト量を20%以上とすることが好ましいものとしたが、トロイダル型無段変速機が使用されるトランスミッション内では、様々な部位から発生する磨耗粉等の異物が存在する。これらの異物を内輪軌道溝141や外輪軌道溝142の軌道面(内周面)に噛み込んだ場合に、軌道面に圧痕が形成される虞がある。圧痕が形成されてしまうと、圧痕の淵に応力集中が生じ、軌道面で早期に剥離が生じてしまう虞がある。このような圧痕の発生を防止するためには、パワーローラ11および外輪の完成品表面の残留オーステナイト量を20%以上とすることが好ましい。また、残留オーステナイトは、表面の硬度低下を招くため、完成品表面において十分な硬度を確保する上では、完成品表面の残留オーステナイト量を40%以下とすることが好ましい。
【0072】
上述の実施形態では、トラニオン15の支持板部16の外輪28に対向する内側面と、外輪28の支持板部16に対向する外側面との間にスラスト転がり軸受(スラストニードル軸受)130が介在しており、支持板部16の内側面と外輪28の外側面とが面接触しない構成となっているが、外輪28の外側面と支持板部16の内側面との間にスラスト転がり軸受130を設けずに、支持板部16の内側面と、外輪28の外側面とが接触した状態で支持板部16に対して外輪28が滑って移動するものとしてもよい。
【0073】
これにより、外輪28とトラニオン15の支持板部16との間の熱伝導が容易となり、スラスト玉軸受24における発熱により高温になる外輪28から外輪28より温度が低いトラニオン15に熱が伝導され、外輪28が冷却される。そのため、外輪28の熱影響を少なくして、外輪28の耐久性を高めることができる。
【0074】
また、トロイダル型変速機においては、スラスト玉軸受24の部分が、トラニオン15に軸で固定されず、トラニオン15の外輪28に対抗する側面に沿って外輪28が変位可能となっていればよい。図2は、前記実施の形態の変形例として、支持板部16の内側面と、外輪28の外側面とをそれぞれ平面とした上述のトロイダル型無段変速機に代えて、トラニオン15aの外輪28cに対向する内側面を断面円弧状の凸面152とし、外輪28cのトラニオン15aに対向する外側面を断面円弧状の凹面153としたトロイダル型無段変速機を用いたものである。
【0075】
変形例のトロイダル型無段変速機では、トラニオン15aが内側面が略平面となった支持板部16に代えて支持梁部151とされている。支持梁部151においては、外輪28aを向く内側面が断面円弧状の凸面152となっている。凸面152は、円筒(円柱)を軸方向に沿って切断した形状を有するものであり、円筒の外周面の一部となる形状を有している。
また、一部がこの凸面51となる円筒体の中心軸は、枢軸14(図2においてラジアルニードル軸受30に覆われた状態となって図示されていない。)の中心軸に対して平行でかつ偏心した状態となっている。
【0076】
また、パワーローラ11とトラニオン15との間に介在してパワーローラ11を回転自在に支持するスラスト玉軸受24aの外輪28cは、トラニオン15の支持梁部151に対向する外側面に、支持梁部151の断面円弧状の凸面152に対応する断面円弧状の凹面153が形成されている。これら凸面152と凹面153の曲率半径は、略同じとなっており、トラニオン15aの凸面152に沿って、外輪28cの凹面153が移動可能となっている。これにより外輪28cおよびパワーローラ11を有するスラスト玉軸受24aが、上述の凸面152の中心軸を回転中心として、回転移動(揺動変位)可能となっている。
【0077】
これにより、上述のように押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合に、外輪28cおよびパワーローラ11を含むスラスト玉軸受24aが、支持梁部151の凸面152の周囲に沿って揺動変位することにより、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
この場合も、外輪28cがトラニオン15aに軸を介して支持された構造とならず、トラニオン15の支持梁部151の凸面152に沿って外輪28cが移動する構造なので、外輪28cで大きな曲げ応力が生じるのを防止することができる。
【0078】
なお、外輪28cの外周面110aは、折れ曲がり壁部20a、20aの互いに対向する面の支持梁部151の凸面152の周囲となる部分に形勢された案内面154に当接するようになっている。また、外輪28cは、上述の実施の形態と同様に軸部28dが一体に形成され、軸部28dの周囲にラジアル転がり軸受を介してパワーローラ11が回転自在となっている。変形例では、軸部28dがパワーローラ11を貫通した状態となっている。
【0079】
この変形例においては、外輪28cの外側面と、トラニオン15aの外輪28aに対向する内側面とがそれそれ平面ではなく、円弧状の凸面152と凹面153となったことを除いて基本的な構成は上述の実施の形態と同様である。
したがって、この変形例となるトロイダル型無段変速機にあっても、上述の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
また、変形例においては、トラニオン15aの凸面152と、外輪28aの凹面153とが面接触するようになっており、外輪28aからトラニオン15aへの熱伝導効率が高くなっており、外輪28aの温度低下を図ることにより、さらなる外輪28aの耐久性の向上が可能となっている。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ(内輪)
14 枢軸
15,15a トラニオン
24 スラスト玉軸受
26 転動体(玉)
28,28a 外輪
141 内輪軌道溝
142 外輪軌道溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記パワーローラと前記トラニオンとの間に介在され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト玉軸受とを備え、
前記スラスト玉軸受は、前記パワーローラである内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間で転動する玉とを有し、前記内輪に前記玉が転動する内輪軌道溝が設けられ、前記外輪に前記玉が転動する外輪軌道溝が設けられているトロイダル型無段変速機であって、
前記外輪は、前記トラニオンに対して軸を介して支持されることなく、前記トラニオンの前記外輪側を向く内側面に沿って変位可能とされ、
前記外輪が耐熱性を有する高炭素鋼から形成され、
前記内輪が前記高炭素鋼より炭素含有量が少ない低炭素鋼から形成されるとともに浸炭窒化処理が施され、
前記外輪軌道溝の半径が、前記内輪軌道溝の半径より大きくされていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記トラニオンの内側面と、前記外輪の外側面とが面接触していることを特徴とする。
請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記内輪は、C:0.1〜0.4重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む低炭素鋼から形成され、かつ、硬化熱処理として浸炭窒化処理後に焼入れおよび焼戻しが施され、
前記外輪は、C:0.5〜1.3重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、Si、MoおよびMnを合計で1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む高炭素鋼から形成され、かつ、硬化熱処理として焼入れおよび200℃以上での焼戻しが施されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記外輪の硬化熱処理として、浸炭窒化処理後に焼入れおよび200℃以上での焼戻しを行うことを特徴とする請求項3に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記内輪は、C:0.1〜0.4重量%と、Cr:1.0〜3.0重量%と、Si、MoおよびMnを合計で1.0〜3.0重量%と、不可避不純物と、残部Feとを含む低炭素鋼から形成され、かつ、硬化熱処理として浸炭窒化処理後に焼入れおよび200℃以上での焼戻しが施されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−2275(P2012−2275A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136889(P2010−136889)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】