説明

ドアハンドル装置

【課題】外部からの指令信号を受信することでドアの開錠・施錠を行うシステムを搭載する車両において、システムの誤作動及び不作動のない金属調のドアハンドル装置を提供すること。
【解決手段】ドアに取り付けられるハンドル本体と、ハンドル本体に装着されるカバー部材3と、ハンドル本体とカバー部材3との間の空間に設けられ、ドアの施錠開錠指令信号を受信する信号受信部とを備え、カバー部材3の外表面側に、屈折率の低い絶縁性の酸化物からなる低屈折率層13aと、屈折率の高い絶縁性の酸化物からなる高屈折率層13bとを交互に積層してなる多層光干渉膜13を備えたドアハンドル装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スマートキーシステムを搭載した自動車のドアハンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車には、ユーザーがスマートキーを携帯するだけでドアロックの開錠・施錠が可能となるスマートキーシステムを搭載するものがある。
スマートキーシステムに用いられるドアハンドルには、スマートキーとの通信に供されるアンテナ、及びユーザーが触れたことを静電容量の変化で検知する静電容量式センサが内蔵されている。
スマートキーシステムの装置本体(車載機)は、アンテナとスマートキーとの間でIDコードの照合を行うことで車両へのユーザーの接近を認識して、次いでユーザーが静電容量式センサに触れることでユーザーの開錠・施錠意思を認識して、ドアロックを開錠・施錠する。
【0003】
ドアハンドル装置のハンドル本体及びカバー部材は、量産性、軽量化、低コスト化等の点から樹脂素材で構成することが多い。そのため、ドアハンドル装置の外観として金属光沢を有することが望まれる場合、これまではカバー部材の表面にメッキや蒸着によって金属粒子を付着させて金属薄膜層を形成していた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−142784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のドアハンドル装置の場合、金属薄膜層を形成したことによって、アンテナ出力の損失が大きくなり、通信エリアが狭くなるという問題があった。さらに、静電容量式センサと金属薄膜層との導通又は容量結合により、静電容量式センサの誤作動又は不作動を招くという問題があった。
本発明の目的は、外部からの指令信号を受信することでドアの開錠・施錠を行うシステムを搭載する車両において、システムの誤作動及び不作動のない金属調のドアハンドル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るドアハンドル装置の第1特徴構成は、ドアに取り付けられるハンドル本体と、前記ハンドル本体に装着されるカバー部材と、前記ハンドル本体と前記カバー部材との間の空間に設けられ、前記ドアの施錠開錠指令信号を受信する信号受信部とを備え、前記カバー部材の外表面側に、屈折率の低い絶縁性の酸化物からなる低屈折率層と、屈折率の高い絶縁性の酸化物からなる高屈折率層とを交互に積層してなる多層光干渉膜を備えた点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、カバー部材が低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層してなる多層光干渉膜を外表面側に備えるものであれば、これらの層数や層の厚さを適宜選択することにより光の干渉を利用して、所望の波長域の光を選択的に透過および反射させることが可能となる。その結果、金属粒子を使用しなくとも、樹脂製のカバー部材の外観が金属光沢を呈するように構成することができる。
さらに、本構成によれば、絶縁性の酸化物を使用するものであるため、例えばドアハンドル装置の内部にスマートキーシステムを内蔵するものである場合でも、そのアンテナ(信号受信部の一例)の出力損失を低減させることができ、また静電容量式センサ(信号受信部の一例)との間に導通又は容量結合が生じることもない。そのため、アンテナの通信エリアが狭められることもなく、さらに静電容量式センサの誤作動及び不作動の発生も防止され、アンテナや静電容量式センサといった信号受信部の性能に何ら悪影響を与えることもない。
【0008】
第2特徴構成は、前記低屈折率層の屈折率が1.3〜1.5であり、前記高屈折率層の屈折率が1.7〜2.5である点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、多層光干渉膜がより金属調の光沢を呈するように構成することができる。
【0010】
第3特徴構成は、前記多層光干渉膜の上に保護膜を設けてある点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、保護膜の存在によって多層光干渉膜の耐候性及び耐食性が向上するため、ドアハンドル装置の外観意匠性が長期にわたって維持される。
【0012】
第4特徴構成は、前記保護膜の膜厚が10μm〜40μmである点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
本構成の膜厚であれば、塗装に際して塗料の垂れ落ちなどを生じさせずに1回の塗装作業で形成可能であるため、保護膜を形成する際の塗装作業性も良く、また保護膜として耐久性を維持するための必要最小限の膜厚でもあるため効果的に多層光干渉膜を保護することができる。
【0014】
第5特徴構成は、前記カバー部材と前記多層光干渉膜との間に平滑膜を設けてある点にある。
【0015】
〔作用及び効果〕
本構成によれば、カバー部材の外表面にある微細な凹凸を平滑膜によって平坦化することができる。これにより、カバー部材の外表面における光の乱反射が抑えられるため、より金属調の光沢を得ることができる。
【0016】
第6特徴構成は、前記平滑膜の膜厚が10μm〜40μmである点にある。
【0017】
〔作用及び効果〕
本構成の膜厚であれば、塗装に際して塗料の垂れ落ちなどを生じさせずに1回の塗装作業で形成可能であるため、平滑膜を形成する際の塗装作業性も良く、また平滑膜として耐久性を維持するための必要最小限の膜厚でもあるため効率良くカバー部材の外表面の微細な凹凸をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のドアハンドル装置の正面図である。
【図2】図1中の矢視線II−IIの横断面図である。
【図3】図2中の矢視線III−IIIの縦断面図である。
【図4】カバー部材の意匠膜の形成方法を示したフローチャートである。
【図5】カバー部材の外表面の断面を模式的に示した図である。
【図6】カバー部材の外表面の断面(別形態)を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態として、自動車用の運転席ドアに取り付けられるドアハンドル装置1を図面に基づいて説明する。
〔実施形態〕
図1〜図3に示すように、ドアハンドル装置1は、その内側部分を形成するハンドル本体2と、外側部分を形成するカバー部材3とを備えて構成される。尚、図2に示すようにカバー部材3とドアボディ8との間には、ユーザーの手を挿入可能な把持用空間15が形成されている。
【0020】
図2及び図3に示すように、ドアハンドル装置1の中には、運転席ドアの施錠開錠指令信号(スマートキーから送信されるIDコードやユーザーの接触入力等)を受信する信号受信部としてのアンテナ4、ロックセンサ5、及びアンロックセンサ6、並びにこれらの信号受信部を制御する回路基板7が内蔵されている。
【0021】
アンテナ4は、ユーザーが携帯するスマートキーとの通信に供されるものであり、ロックセンサ5及びアンロックセンサ6は、ユーザーが触れたことを静電容量の変化で検知する静電容量式センサである。
【0022】
図2に示すように、カバー部材3は、ドアボディ8に係合可能な第1及び第2係合部3a,3bを有しており、ボルト締めによってハンドル本体2に装着させることができる。カバー部材3をハンドル本体2に装着させることによって、カバー部材3とハンドル本体2との間に、第1収容空間9及び第2収容空間10が形成される。
【0023】
第1収容空間9には、回路基板7に取り付けられたロックセンサ5が収容され、第2収容空間10には、アンテナ4とアンロックセンサ6が収容される。尚、図2に示すように、アンテナ4の一端が回路基板7に接続されており、アンロックセンサ6はアンテナ4とハンドル本体2との間に密着した状態で設置される。また図3に示すように、ロックセンサ5は、逆V字状に折り曲げられた状態でその一端が回路基板7に接続されて、他端がカバー部材3の内側面に密着した状態で設置される。
【0024】
ハンドル本体2及びカバー部材3は、例えばポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタル(PC/PBT)等の樹脂を基材とする射出成形品として構成される。
【0025】
図5に示すように、カバー部材3の外表面には、平滑膜12、多層光干渉膜13、及び保護膜14が順に積層される意匠膜11が設けられている。
【0026】
平滑膜12は、カバー部材3の外表面に微細な凹凸が存在することで光の乱反射が生じる場合に、平滑膜12でその凹凸を埋めて平坦化することによって、光の乱反射を抑えるものである。平滑膜12を形成するために使用される材料としては、例えば、アクリル系塗料やアクリルウレタン系塗料等が挙げられる。平滑膜12の厚みとしては、10μm〜40μmとするのが機能性及び塗装作業性の点で好適である。つまり、膜厚がこの範囲であれば、塗装に際して塗料の垂れ落ちなどを生じさせずに1回の塗装作業で形成可能であるため、平滑膜12を形成する際の塗装作業性も良く、また平滑膜12として耐久性を維持するための必要最小限の膜厚でもあるため効率良くカバー部材3の外表面の微細な凹凸をなくすことができる。
【0027】
また図6に示すように、カバー部材3の外表面に特に問題になるような凹凸がなく、光の乱反射が生じないものであれば、平滑膜12を設けずにカバー部材3の外表面に多層光干渉膜13を直接形成するようにしても良い。
【0028】
多層光干渉膜13は、カバー部材3の外観意匠性を高めるために施されるものである。多層光干渉膜13は、屈折率の低い絶縁性の酸化物からなる低屈折率層13aと、屈折率の高い絶縁性の酸化物からなる高屈折率層13bとを交互に積層して多層化し、層数や層の厚さを適宜選択することにより光の干渉を利用して、所望の波長域の光を選択的に透過および反射させるものである。
【0029】
屈折率の低い絶縁性の酸化物としては1.3〜1.5の屈折率を有するものが望ましく、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、フッ化マグネシウム(MgF2)等が挙げられる。
屈折率の高い絶縁性の酸化物としては1.7〜2.5の屈折率を有するものが望ましく、例えば、酸化チタン(TiO2)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、五酸化タンタル(Ta25)、五酸化ニオブ(Nb25)等が挙げられる。
【0030】
特に多層光干渉膜13が金属光沢を呈するように構成する場合には、低屈折率層13aの厚みを30μm〜90μmとし、高屈折率層13bの厚みを70μm〜180μmとして、層数を25層〜35層とすると好適である。
また、多層光干渉膜13の反射率を所望の値に補正あるいは調整するために、屈折率1.5〜1.7の中間屈折率層、例えば、酸化アルミニウム(Al23)層等を多層光干渉膜13に含めても良い。
【0031】
保護膜14は、多層光干渉膜13を保護するために施される透明性を有する膜である。保護膜14を形成するために使用される材料としては、例えば、アクリル系塗料やアクリルウレタン系塗料が挙げられる。保護膜14の厚みとしては、10μm〜40μmとするのが機能性及び塗装作業性の点で好適である。つまり、膜厚がこの範囲であれば、塗装に際して塗料の垂れ落ちなどを生じさせずに1回の塗装作業で形成可能であるため、保護膜14を形成する際の塗装作業性も良く、また保護膜14として耐久性を維持するための必要最小限の膜厚でもあるため効果的に多層光干渉膜13を保護することができる。
【0032】
以下、図4に基づいて上記意匠膜11の形成方法について説明する。
(1)平滑塗装
スプレー等を用いて樹脂塗料(アクリルウレタン系塗料等)をカバー部材3の外表面に塗装する。
(2)焼付処理
次いで、上記平滑塗装した樹脂塗料を熱乾燥方式によって熱硬化させて、カバー部材3の外表面に平滑膜12を形成する。塗装した樹脂塗料がUV硬化樹脂の場合には、UV照射によって硬化させるようにしても良い。
(3)蒸着処理
次いで、公知の蒸着法によって、屈折率の低い絶縁性の酸化物からなる低屈折率層13aと、屈折率の高い絶縁性の酸化物からなる高屈折率層13bとを交互に積層して、多層光干渉膜13を形成する。尚、多層光干渉膜13を形成するためには、蒸着法の他にも、公知のスパッタリング法やイオンプレーティング法等を使用しても良い。
(4)保護塗装
次いで、スプレー等を用いて透明な樹脂塗料(アクリルウレタン系塗料等)を多層光干渉膜13の上に塗装する。
(5)焼付処理
最後に、上記保護塗装した樹脂塗料を熱乾燥方式によって熱硬化させて、多層光干渉膜13の上に保護膜14を形成する。尚、塗装した樹脂塗料がUV硬化樹脂の場合には、UV照射によって硬化させるようにしても良い。
尚、上述の方法は、意匠膜形成方法の一例であり、カバー部材3の外表面に特に問題になるような凹凸がなく、光の乱反射が生じないものであれば、上記(1)平滑塗装及び(2)焼付処理を実施しなくとも良い。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタル(PC/PBT)を基材とするカバー部材に対して、アクリルウレタン系塗料を塗装したのち熱乾燥方式により熱硬化させて平滑膜(膜厚20μm)を形成した。
次いで、屈折率の低い絶縁性の酸化物として屈折率1.46の酸化ケイ素(SiO2)を使用し、屈折率の高い絶縁性の酸化物として屈折率2.4の酸化チタン(TiO2)を使用して、これらの酸化物を交互に蒸着させることによって、低屈折率層(14層)及び高屈折率層(14層)が交互に積層してなる多層光干渉膜(28層)を形成した。
最後に、アクリルウレタン系塗料を塗装したのち熱乾燥方式により熱硬化させて保護膜(膜厚30μm)を形成した。
【0034】
(比較例1)
平滑膜と保護膜との間にアルミ(Al)からなる金属膜(膜厚10nm)を形成した以外は、上記実施例1と同様の構成を有する比較例1を作製した。
【0035】
(比較例2)
平滑膜と保護膜との間にアルミ(Al)からなる金属膜(膜厚50nm)を形成した以外は、上記実施例1と同様の構成を有する比較例2を作製した。
【0036】
上記実施例1、比較例1及び2について、性能比較試験を実施した。結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の表面抵抗に示すように、実施例1については絶縁性が確認された。
アンテナ性能については、実施例1、比較例1、及び比較例2のいずれの試料についても、送信周波数134.2kHzの表皮深さに対して十分に薄く設定すれば特に影響はなく、アンテナ出力の損失が低減されて安定した通信エリアを確保することができるものであった。
センサ性能については、実施例1ではハンドル装置を正常に作動させることができたが、比較例1及び2については、カバー部材の外表面のどこを触ってもロックセンサ又はアンロックセンサが反応して誤作動が生じた。また、比較例1及び2については、例えばカバー部材の外表面が、グランド接地された他の車両ドアと接触した場合、ロックセンサ又はアンロックセンサの不作動を招来する虞があると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係るドアハンドル装置は、乗用車に限らず、貨物車、特殊作業車など様々な車両に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ドアハンドル装置
2 ハンドル本体
3 カバー部材
4 アンテナ(信号受信部)
5 ロックセンサ(信号受信部)
6 アンロックセンサ(信号受信部)
12 平滑膜
13 多層光干渉膜
13a 低屈折率層
13b 高屈折率層
14 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアに取り付けられるハンドル本体と、
前記ハンドル本体に装着されるカバー部材と、
前記ハンドル本体と前記カバー部材との間の空間に設けられ、前記ドアの施錠開錠指令信号を受信する信号受信部とを備え、
前記カバー部材の外表面側に、屈折率の低い絶縁性の酸化物からなる低屈折率層と、屈折率の高い絶縁性の酸化物からなる高屈折率層とを交互に積層してなる多層光干渉膜を備えたドアハンドル装置。
【請求項2】
前記低屈折率層の屈折率が1.3〜1.5であり、前記高屈折率層の屈折率が1.7〜2.5である請求項1に記載のドアハンドル装置。
【請求項3】
前記多層光干渉膜の上に保護膜を設けてある請求項1又は2に記載のドアハンドル装置。
【請求項4】
前記保護膜の膜厚が10μm〜40μmである請求項3に記載のドアハンドル装置。
【請求項5】
前記カバー部材と前記多層光干渉膜との間に平滑膜を設けてある請求項1〜4のいずれか1項に記載のドアハンドル装置。
【請求項6】
前記平滑膜の膜厚が10μm〜40μmである請求項5に記載のドアハンドル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−41745(P2012−41745A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184184(P2010−184184)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】