説明

ドライエッチング方法および装置

【課題】高マイクロ波の特性であるプラズマのモードジャンプにより、高電力側の高選択比領域を使用できず、一定のマージンだけ離れたところでプロセス開発を行ってきた問題点を解決し、エッチングに有効なプロセス領域を拡大し、特により高密度領域、すなわち高電力側への拡大を実現し、ゲート酸化膜とシリコン膜との高選択比のドライエッチング方法及び装置を提供する。
【解決手段】プラズマを発生させるためのマイクロ波をパルス状にパルス変調し、オン時のマイクロ波電力値をカットオフ現象が生じる電力値より高く設定し、デューティー比を65%以下、好ましくは50%以下に変化させることにより、マイクロ波の平均電力を制御する。さらに、パルスのオフ時間が50μs以上になるようにパルスの繰り返し周波数を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子のドライエッチング装置に関わり、安定して放電を維持できるドライエッチング方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライエッチング装置でプラズマをパルス状にパルス変調する技術に関しては、例えば、特許文献1には、プラズマ中のラジカル密度を測定しながら、プラズマをパルス変調してラジカル密度を制御することにより高精度エッチングを達成する方法が述べられている。
【0003】
また、特許文献2には、プラズマをパルス変調すると同時にウエハに印加する高周波バイアスの位相プラズマのオンオフと同期をとることによりプラズマ中の電子温度を制御して、処理ウエハ上の酸化膜の絶縁破壊を防ぐ方法が述べられている。また、特許文献3にはプラズマを10〜100μsでパルス変調してかつウエハに600KHz以下の高周波バイアスを印加し酸化膜の絶縁破壊を防ぐと同時に高速異方性エッチングを達成する方法が述べられている。
【0004】
更に、特許文献4にはプラズマを生成するマイクロ波をパルス変調してその周波数とデューティー比を一定値にすることにより反応性ガスの分解を制御して高精度エッチングを行う方法が述べられている。また、特許文献5にはプラズマを発生するためのマイクロ波を10KHz以上の周波数でパルス変調してラジカルを制御しかつプラズマの不安定性を抑えてイオン温度を低下させる方法が述べられている。
【0005】
現在、半導体素子の量産に用いられているドライエッチング装置の一つにECR(Electron Cyclotron Resonance)型の装置がある。この装置ではプラズマに磁場を印加してマイクロ波の周波数と電子のサイクロトロン周波数とが共振するように磁場強度を設定することで高密度のプラズマが発生できる特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−185999号公報
【特許文献2】特開平09−092645号公報
【特許文献3】特開平08−181125号公報
【特許文献4】特開平07−094130号公報
【特許文献5】特開平06−267900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の半導体素子の微細化に伴い、ゲート酸化膜の厚さは5nm以下となっている。そのため、プラズマエッチング加工の制御性、ゲート酸化膜とシリコン膜との高選択比の実現が必要となっている。
【0008】
ECR型のドライエッチング装置ではこれらの加工に対応するために、今まで以上に広いプロセスウインドウが必要とされている。マイクロ波電力に関しては、高マイクロ波電力側(高密度領域)に高選択比領域が存在する。しかし、高マイクロ波電力側では、プラズマ密度の上昇に伴いカットオフ現象が生じて、プラズマ密度のチャンバ内での分布が変化する、モードジャンプが発生する。この現象が生じるとプラズマの発光強度やバイアス電圧のピーク値(Vpp電圧)が急激に変化し、これに伴いエッチング速度のウエハ面内分布も大きく変わるためにモードジャンプ前後の電力は使用できない課題があった。
【0009】
本発明の目的は、エッチングに有効なプロセス領域の拡大で、特により高密度領域、すなわち高電力側への拡大を実現するドライエッチング方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のドライエッチング方法及び装置は、プラズマを発生させるためのマイクロ波をパルス状に変調し、オン時のマイクロ波電力値をカットオフ現象が生じる電力値より高く設定し、デューティー比を変化させることにより、マイクロ波の平均電力を制御する。さらに、パルスのオフ時間を50μs以上になるようにパルスの繰り返し周波数およびデューティー比を制御する。
【発明の効果】
【0011】
マイクロ波をパルス変調することで、高マイクロ波電力側で発生するモードジャンプを回避でき、エッチングに有効なプロセス領域を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明のエッチング方法を実施するためのドライエッチング装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2はマイクロ波に対するシリコン/酸化シリコンの選択比を示すグラフである。
【図3】図3は本発明のマイクロ波に対するO(酸素)/Br(臭素)の発光強度比を示すグラフである。
【図4】図4は本発明のパルスマイクロ波に対するシリコン/酸化シリコンの選択比を示すグラフである。
【図5】図5はモードジャンプが生じる電力の測定を自動化する装置の処理の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明のドライエッチング方法を実施するためのエッチング装置の一例を示す概略断面図であり、プラズマ生成手段にマイクロ波と磁場を利用したECR型プラズマエッチング装置である。この装置は、内部を真空排気できるチャンバ101と被処理物であるウエハ102を配置する試料台103とチャンバ101の上面に設けられた石英などのマイクロ波透過窓104と、その上方に設けられた導波管105、マグネトロン106と、チャンバ101の周りに設けられたソレノイドコイル107と、試料台103に接続された静電吸着電源108、高周波電源109とから成る。
【0015】
ウエハ102はウエハ搬入口110からチャンバ101内に搬入された後、静電吸着電源108によって試料台103に静電吸着される。次にプロセスガスがチャンバ101に導入される。チャンバ101内は、真空ポンプ(図示省略)により減圧排気され、所定の圧力(例えば、0.1Pa〜50Pa)に調整される。次に、マグネトロン106から周波数2.45GHzのマイクロ波が発振され、導波管105を通してチャンバ101内に伝播される。マイクロ波とソレノイドコイル107によって発生された磁場との作用によって処理ガスが励起され、ウエハ102上部の空間にプラズマ111が形成される。
【0016】
一方、試料台103には、高周波電源109によってバイアスが印加され、プラズマ111中のイオンがウエハ102上に垂直に加速され入射する。プラズマ111からのラジカルとイオンの作用によってウエハ102が異方的にエッチングされる。また、マグネトロン106にはパルスジェネレータ112が取り付けられており、これによりマイクロ波をパルス変調することができる。本実施例で使用したエッチング装置は直径300mmのウエハ102を処理する装置で、チャンバ101の内径は44.2cmでウエハ102とマイクロ波透過窓104との距離は24.3cm(プラズマが発生する空間の体積37267cm)の装置を用いた。
【0017】
次に、図1の装置でウエハ102をエッチングする条件の例を表1に示す。
【表1】

【0018】
表1の条件(ただし、Vpp電圧は一定)を用いて、表面全体がシリコンのウエハ102と表面全体が酸化シリコンのウエハ102をエッチング処理し、各々の削れ量の比から選択比を求めた。その結果を図2に示す。図2においてCWは連続放電でDutyはパルス放電のデューティー比を表す。
【0019】
図3にマイクロ波電力と、O(酸素)とBr(臭素)の発光強度比の関係を示す。図2から分るように、高マイクロ波電力側では対酸化シリコンの選択比が上昇する傾向にある。これは、図3のように高マイクロ波側ではO(酸素)の発光強度、すなわちOラジカルの密度が上がるため、酸化シリコンの削れを抑制することが原因と考えられる。
【0020】
しかしながら、マイクロ波電力値を更に上げると、図3に示すように、CW(連続放電)では、マイクロ波電力値900W以上で、発光強度の急激な変化、すなわち、前記のモードジャンプ現象(CW時)301が発生する。このため、連続放電では高マイクロ波領域を使用できない。
【0021】
そこで、本発明では、マイクロ波をパルス化し、オン時のピーク電力をモードジャンプが発生する電力値より十分高く設定して、デューティー比を制御する。デューティー65%以下では、発光強度比(図3)は急激な変化がなく、すなわちモードジャンプを回避していることがわかる。
【0022】
この理由を次のように推定する。CW(連続放電)では、マイクロ波電力値とともに電子密度が上昇し、プラズマ111の振動と電磁波の周波数が共鳴する密度に達する電力値からモードが変化する。一方、パルス化したマイクロ波では、オフ時に自由電子は数μsecの間に殆どが原子、分子に捕縛され、プラズマ111は、その大部分が陰イオンと陽イオンになる。このため、オンオフを繰り返すパルスマイクロ波では、電子密度の上昇が起こらない。
【0023】
図4に、表1の条件を用いて、高マイクロ波電力側を評価した選択比結果を示す。CW(連続放電)ではマイクロ波電力値900W以上でモードジャンプの影響から選択比が低下する(不安定になる)のに対し、マイクロ波をパルス化することで、高マイクロ波電力側が使用となり、高選択比を得ることができる。
【0024】
一般に、パルス放電では、電力オフ後50μsで電子密度は1桁以上減衰することが知られている。従って、放電をパルス化して、そのオフ時間が50μs以上になるようにパルスの繰り返し周波数とデューティー比を設定すれば、十分にモードジャンプを回避できる。
【0025】
以上、本発明では、マイクロ波をパルス変調することで、高マイクロ波電力側で発生するモードジャンプを回避でき、エッチングに有効なプロセス領域を拡大できる。
【実施例2】
【0026】
次に、このモードジャンプ領域を自動的に回避する方法および装置に付いて述べる。モードジャンプは図3に示すように、およそマイクロ波電力900W 以上の高電力領域で生じるが、ガスの圧力やガスの種類によりプラズマ111の密度は異なるので、モードジャンプが生じる電力もこれらの条件に依存して異なる。
【0027】
これを回避する方法はまず、あらかじめ使用する条件でモードジャンプが生じる電力値を測定しておき、装置はエッチング条件とその条件でモードジャンプが生じる電力を記憶しておき、その条件を使用するときは、自動的にマイクロ波電力をパルス変調する機能を備えるようにする。この機能がある装置では、誤ってモードジャンプ領域を使用する誤操作を防ぐことができる。
【0028】
さらに、あらかじめモードジャンプが生じる電力の測定を自動化する装置について述べる。図5にモードジャンプが生じる電力の測定を自動化する装置の処理の流れ図を示す。通常、エッチングはロット(25枚)単位で処理をするが、ロットを処理する前にダミーウエハ処理501をこれから処理する条件と同じ条件で行う。
【0029】
その後、ロット処理502、酸素のプラズマ111などによるチャンバ101のクリーニング503と続く。ダミーウエハ処理501は、マイクロ波電力を設定した値、例えば800Wから1200Wまで自動でスキャンしてこの期間のプラズマ111の発光強度をホトダイオード等で測定するステップであるマイクロ波電力自動スキャン測定504を含む。
【0030】
次に、エッチング装置制御用パソコン507は、このデータから発光強度が急激に変わる領域を抽出、記憶するモードジャンプ電力識別505を行って、さらにレシピを入力した際にマイクロ波電力がモードジャンプする領域に相当した場合に自動的にパルス変調をする、自動レシピ生成506を行う機能を備える。この機能により、作業者はモードジャンプ領域に煩わされることなく、エッチングを行うことができる。
【0031】
また、マイクロ波電力をスキャンした際に測定する物理量は発光強度に限らず、バイアス電圧のピーク値(Vpp)などモードジャンプに対応して急激に変化する量ならば同じ機能を果たせる。また、本発明で述べたマイクロ波電力の絶対値は主にチャンバ101の大きさすなわち処理対象のウエハ102の直径に応じて大きく変わる。目安としてはチャンバ101の体積で規格化した値を用いるとチャンバ101の体積に依存しない量に変換することができる。例えば、以上の実施例では900Wは0.024W/cmに相当する。
【符号の説明】
【0032】
101 チャンバ
102 ウエハ
103 試料台
104 マイクロ波透過窓
105 導波管
106 マグネトロン
107 ソレノイドコイル
108 静電吸着電源
109 高周波電源
110 ウエハ搬入口
111 プラズマ
112 パルスジェネレータ
301 モードジャンプ現象(CW時)
501 ダミーウエハ処理
502 ロット処理
503 クリーニング
504 マイクロ波電力自動スキャン測定
505 モードジャンプ電力識別
506 自動レシピ生成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空にして反応性ガスを導入できるチャンバと前記チャンバの中に放電プラズマを生成するためのプラズマ生成用電源と前記チャンバ内にウエハを設置する試料台とを備えた半導体素子のドライエッチング装置を用いたドライエッチング方法において、
前記プラズマ生成用電源の出力電力をパルス変調して、かつ、オン時のピーク電力を連続放電にてモードジャンプ領域より十分に高い電力値に設定して、パルス変調のデューティー比を変えることにより電力の時間平均値を制御するステップを備えていることを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項2】
請求項1記載のドライエッチング方法において、前記プラズマ発生用電源をマイクロ波領域の電磁波として、前記チャンバの外側に電磁コイルを設け、磁場とマイクロ波の相互作用によりプラズマを発生させることを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項3】
請求項2記載のドライエッチング方法において、被処理膜としてシリコン、マスク又は下地に酸化シリコンを有するウエハをエッチングするドライエッチングする際に、デューティー比を65%以下、かつ、オフの時間を50μs以上になるように制御されたエッチングステップを有することを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のドライエッチング方法において、マイクロ波電力を自動的にスキャンしてその期間の発光強度あるいはバイアス電圧など装置パラメータを計測して、その変化率に応じて自動的にプラズマを発生させる電力をパルス変調することを特徴とするドライエッチング方法。
【請求項5】
内部を真空にして反応性ガスを導入できるチャンバと前記チャンバの中に放電プラズマを生成するためのプラズマ生成用電源と前記チャンバ内にウエハを設置する試料台とを備えた半導体素子のドライエッチング装置において、
前記プラズマ生成用電源の出力電力をパルス変調して、かつ、オン時のピーク電力を連続放電にてモードジャンプ領域より十分に高い電力値に設定して、パルス変調のデューティー比を変えることにより電力の時間平均値を制御する手段を備えていることを特徴とするドライエッチング装置。
【請求項6】
請求項5記載のドライエッチング装置において、前記プラズマ発生用電源をマイクロ波領域の電磁波として、前記チャンバの外側に電磁コイルを設け、磁場とマイクロ波の相互作用によりプラズマを発生させる手段を備えていることを特徴とするドライエッチング装置。
【請求項7】
請求項6記載のドライエッチング装置において、被処理膜としてシリコン、マスク又は下地に酸化シリコンを有するウエハをエッチングするドライエッチングする際に、デューティー比を65%以下、かつ、オフの時間を50μs以上になるように制御するエッチング手段を備えていることを特徴とするドライエッチング装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載のドライエッチング装置において、マイクロ波電力を自動的にスキャンしてその期間の発光強度あるいはバイアス電圧など装置パラメータを計測して、その変化率に応じて自動的にプラズマを発生させる電力をパルス変調する手段を備えていることを特徴とするドライエッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−74091(P2013−74091A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211896(P2011−211896)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】