説明

ドラムブレーキ

【課題】走行時にはサーボ効果を低くして効きを安定させ且つ駐車時にはサーボ効果を高めて高い効きを発生させると共に、車両内でのブレーキケーブルの配置の自由度を向上させるドラムブレーキを提供する。
【解決手段】パーキングブレーキケーブル78がバッキングプレート16に対して略垂直方向に引っ張られて一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bが拡開するので、パーキングブレーキケーブル78の配置方向がバッキングプレート16に対して略垂直方向に向き車両内でのパーキングブレーキケーブル78の配置の自由度が向上する。また、ドラムブレーキ10は、走行時にはホイールシリンダ22を作動させてリーディングトレーリング制動状態となり且つ駐車時には拡開装置32を作動させてデュオサーボ制動状態となるため、走行時にはサーボ効果を低くして効きを安定させ且つ駐車時にはサーボ効果を高めて高い効きを発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、特にそのドラムブレーキの性能を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、例えば特許文献1に示すリーディングトレーリング型ドラムブレーキのように、(a) 車輪と一体的に回転する回転ドラムと、(b) バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状を成す一対のブレーキシューと、(c) その一対のブレーキシューの一端部間に配設されその一対のブレーキシューの一端部を拡開させる第1拡開機構と、(d) その一対のブレーキシューの一端部間に掛け渡され非制動時のその一対のブレーキシューとその回転ドラムの内周面との間隔を規定するストラットと、(e) その一対のブレーキシューの一端部を互いに接近する方向に付勢する第1スプリングと、(f) その一対のブレーキシューの他端部間に固設されたアンカー部材と、(g) その一対のブレーキシューの他端部を互いに接近する方向に付勢する第2スプリングと、(h) その一対のブレーキシューに配設されその一対のブレーキシューの一端部を拡開させる第2拡開機構とを備え、(i) 前記第1拡開機構または前記第2拡開機構により一端部が離間させられた前記一対のブレーキシューによって前記回転ドラムを制動するリーディングトレーリング制動状態を有するものである。
【0003】
また、上記リーディングトレーリング型ドラムブレーキの第2拡開機構は、平板状のパーキングブレーキレバーを備え、そのパーキングブレーキレバーの基端部が上記一対のブレーキシューのうちの一方のシューウェブの一端部にピンによって相対回動可能に連結されるものであって、そのパーキングブレーキレバーの先端部に連結されたブレーキケーブルが前記バッキングプレートに対して略平行方向に引っ張られることによってパーキングブレーキレバーの先端部が上記ピン回りに回動させられて上記一対のブレーキシューの一端部が拡開させられるものである。また、上記ブレーキケーブルは、アウタチューブ内に収容されて、一端部が上記パーキングレバーの先端部に連結され他端部がイコライザ等を介してパーキングブレーキ操作装置に連結されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−278331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記のようなリーディングトレーリング型ドラムブレーキは、比較的サーボ(倍力)効果が低く効きが安定していることから油圧作動によるサービスブレーキには向いているが、その反面、パーキングブレーキのように比較的小さな操作力で高い効きが要求される場合にはサーボ効果が低いので、サービスブレーキおよびパーキングブレーキを共にリーディングトレーリング型ドラムブレーキとして作動すると効率が悪くなるという問題があった。
【0006】
さらに、前記のようなリーディングトレーリング型ドラムブレーキにおいて、前記ブレーキケーブルの引っ張り方向は前記バッキングプレートから前記パーキングブレーキ操作装置方向と略同様であるため、車両内の前記バッキングプレートと前記パーキングブレーキ操作装置との間において前記ブレーキケーブルの配置方向が予め前記パーキングブレーキ操作装置側に向くことから、車両内の前記バッキングプレートと前記パーキングブレーキ操作部材との間における前記ブレーキケーブルの配置の選択範囲が狭くなり車両内での前記ブレーキケーブルの配置の自由度が低くなるという問題もあった。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、車両走行時にはサーボ効果を低くして効きを安定させ且つ駐車時にはサーボ効果を高めて高い効きを発生させると共に、車両内でのブレーキケーブルの配置の自由度を向上させるドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) 車輪と一体的に回転する回転ドラムと、(b) バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状を成す一対のブレーキシューと、(c) その一対のブレーキシューの一端部間に配設されその一対のブレーキシューの一端部を拡開させる第1拡開機構と、(d) その一対のブレーキシューの一端部間に掛け渡され非制動時のその一対のブレーキシューとその回転ドラムの内周面との間隔を規定するストラットと、(e) その一対のブレーキシューの一端部を互いに接近する方向に付勢する第1スプリングと、(f) その一対のブレーキシューの他端部間に固設されたアンカー部材と、(g) その一対のブレーキシューの他端部を互いに接近する方向に付勢する第2スプリングと、(h) その一対のブレーキシューの他端部間に配設されその一対のブレーキシューの他端部を拡開させる第2拡開機構とを備え、(i) 前記第1拡開機構により一端部が離間させられた前記一対のブレーキシューによって前記回転ドラムを制動するリーディングトレーリング制動状態と、(j) 前記第2拡開機構によって他端部が離間させられた前記一対のブレーキシューによって前記回転ドラムを制動するデュオサーボ制動状態とを有する2モード型ドラムブレーキであって、(k) 前記一対のブレーキシューの一方の一端部と他端部との間の回動軸心まわりに回動可能に設けられ、一端部が前記ストラットに係合し他端部が前記第2拡開機構に係合する回動レバーを含み、(l) 前記第2拡開機構は、前記一対のブレーキシューの他端部の一方に内接させられた本体部材と、その本体部材の一端部に前記バッキングプレートと平行な連結ピンにより回動可能に支持されたレバー部材と、前記バッキングプレートの裏面からそのバッキングプレートに設けられた挿通孔を通り先端部を前記レバー部材の他端部に掛止するブレーキケーブルとを備え、そのブレーキケーブルにより前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレート側に回動させられることによって前記一対のブレーキシューの他端部を拡開させ且つ前記回動レバーの他端部を外周側へ回動させるものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明のドラムブレーキによれば、前記ブレーキケーブルにより前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレート側に回動させられることによって前記一対のブレーキシューの他端部間を離間させ且つ前記回動レバーの他端部を外周側へ回動させられる。そのため、前記ブレーキケーブルが前記バッキングプレートに対して略垂直方向に引っ張られることによって前記レバー部材の他端部が前記連結ピン回り前記バッキングプレート側に回動させられて前記一対のブレーキシューの他端部が拡開するので、前記ブレーキケーブルの配置方向が前記バッキングプレートに対して略垂直方向に向くことから従来のブレーキケーブルの配置方向がパーキングブレーキ操作装置側に向くブレーキケーブルに比較して前記バッキングプレートと前記パーキングブレーキ操作部材との間における前記ブレーキケーブルの配置の選択範囲が広がり車両内での前記ブレーキケーブルの配置の自由度が向上する。また、前記ドラムブレーキは、車両走行時には前記第1拡開機構によって前記一対のブレーキシューの一端部を拡開させることによってリーディングトレーリング制動状態となり且つ車両駐車時には前記第2拡開機構によって前記一対のブレーキシューの他端部を拡開させることによってデュオサーボ制動状態となるため、車両走行時にはサーボ効果を低くして効きを安定させ且つ車両駐車時にはサーボ効果を高めて高い効きを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用された2モード型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】図1のIII-III視断面図である。
【図4】図1のIV-IV視断面図である。
【図5】図4の拡開装置のパーキングブレーキケーブルが引っ張られて一対のブレーキシューの一方の他端部およびリアクションプレートの他端部がバッキングプレートの外周側に押圧される状態を説明する図である。
【図6】図4の拡開装置のパーキングブレーキケーブルが引っ張られて一対のブレーキシューの他端部が拡開することを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、車輪と一体的に回転する有底円筒形状のブレーキドラム(回転ドラム)12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0013】
ドラムブレーキ10には、円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0014】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aすなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられた油圧式のホイールシリンダ(第1拡開機構)22と、一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aの間に掛け渡され非制動時における一対のブレーキシュー18,20とブレーキドラム12の内周面14との間隔すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構24と、一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを互いに接近する方向に常時付勢してシュー間隙自動調節機構24に当接させるために、その一端部18a,20aの間に張設されたコイル状のリターンスプリング(第1スプリング)26と、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bすなわち図1の下端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたアンカ部材28と、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bを互いに接近する方向に常時付勢してアンカ部材28に当接させるために、その他端部18b,20bの間に張設されたコイル状のリターンスプリング(第2スプリング)30と、一対のブレーキシュー18,20の他端部18a,20aの間においてバッキングプレート16に配設された拡開装置(第2拡開機構)32とが備えられている。
【0015】
一対のブレーキシュー18,20は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ34,36と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム38,40と、それらシューリム38,40の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング42,44とによってそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー18,20は、シューウェブ34およびシューウェブ36にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置46,48によってバッキングプレート16上へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー18には、そのシューウェブ34の板面と平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が略円弧状に湾曲したリアクションプレート(回動レバー)50がシューホールドダウン装置46まわりに回動可能に配置されている。バッキングプレート16、シューウェブ34,36、シューリム38,40は、いずれも鋼板から打ち抜かれ且つ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。
【0016】
シューホールドダウン装置46は、図2に示すように、ばね材から成る断面円形の線材がコイル状に複数回巻回されたシューホールドダウンスプリング52と、そのシューホールドダウンスプリング52上に載置された略円板状のカップ部材54と、そのカップ部材54の中心部に貫通されて設けられた長手状の掛止穴54aと、バッキングプレート16の所定位置に貫通されて設けられた円状の取付穴16aと、シューウェブ34の中間部の所定位置に貫通されて設けられた円形の嵌合穴34aと、リアクションプレート50の中間部の所定位置に貫通されて設けられた円形の嵌合穴50aと、それら嵌合穴34a、50aに嵌め入れられる円筒形状の円筒部56aとその円筒部56aのバッキングプレート16とは反対側の端部から外周側に突き出し、シューホールドダウンスプリング52が載置される円板形状の円板部56bとを有するカラー56と、一端部である大径基部58aが取付穴16aの周縁に掛止されるとともに他端部である扁平頭部58bがカラー56の円筒部56aの中心部とシューホールドダウンスプリング52の中心部とを通りカップ部材54の掛止穴54aを挿通する略円柱形状のシューホールドダウンピン58とによって構成され、予圧されたシューホールドダウンスプリング52の弾性復帰力をカップ部材54およびシューホールドダウンピン58を介してバッキングプレート16に伝達することによってシューウェブ34すなわちブレーキシュー18をバッキングプレート16側に常時押圧する。また、シューホールドダウン装置46のカラー56によって、リアクションプレート50は、ブレーキシュー18の一端部18aと他端部18bとの間の回動軸心Cすなわちシューホールドダウンピン58回りに回動可能にシューウェブ34に連結されている。
【0017】
シュー間隙自動調節装置24は、図3に示すように、一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aの間に掛け渡され非制動時の一対のブレーキシュー18,20とブレーキドラム12の内周面14との間隔を規定するストラット60と、そのストラット60に備えられたアジャストレバー62とによって構成されている。
【0018】
ストラット60は、図3に示すように、シューウェブ36に係合する第1ストラット部材64と、シューウェブ34およびリアクションプレート50の一端部50aに係合する第2ストラット部材66と、略円板形状のアジャストホイール68aを備えて第1ストラット部材64と第2ストラット部材66との間に配設され第2ストラット部材66と螺合する調節軸68とによって構成されている。
【0019】
調節軸68は、図3に示すように、円板形状のアジャストホイール68aの中心部から第1ストラット部材64側に円柱形状に突き出す嵌合軸部68bと、円板形状のアジャストホイール68aの中心部からその嵌合軸部68bとは反対方向すなわち第2ストラット部材66側に円柱形状に突設するとともにその外周面の一部にねじ山が形成された雄螺子部68cを有する長手状の軸部68dとから構成されており、嵌合軸部68bは第1ストラット部材64に穿設された略円柱形状の嵌合穴64aに相対回転可能に嵌め入れられている。
【0020】
第2ストラット部材66には、図3に示すように、調節軸68の軸部68dを嵌め入れる開口を一端に有し且つ他端が閉じられた略円柱形状の嵌合穴66aと、その嵌合穴66aの内周面の一部に調節軸68の雄螺子部68cと螺合する雌螺子部66bとが形成されている。
【0021】
そのため、アジャストレバー62によってアジャストホイール68aが所定方向に回動させられると、調節軸68の軸部68dの雄螺子部68cと第2ストラット部材66の嵌合穴66aの雌螺子部66bとのねじの作用によって第2ストラット部材66がブレーキシュー18側に移動させられてストラット60が伸長する。また、ブレーキシュー18および20には、図1に示すように第1ストラット部材64および第2ストラット部材66すなわちストラット60を支持するために相手に向かって突出した支持突起18cおよび20cがそれぞれ形成されている。
【0022】
アジャストレバー62は、例えば鋼板からプレス加工により成形されており、その厚み方向にプレス加工により一体に突設された軸部62aがブレーキシュー20のシューウェブ36に穿設された略円柱形状の係合穴36aに相対回転可能に嵌め入れられることにより、アジャストレバー62はその軸部62a回りに回動可能にブレーキシュー20のシューウェブ36に配設されている。
【0023】
また、アジャストレバー62は、上記軸部62aが備えられた回動中心部からアジャストホイール68a側に長手状に延長される延長部62bと、その延長部62bの先端部から略円板形状のアジャストホイール68aの外周面に備えられた複数の係合歯68eの一つに伸長し図示されていないブレーキペダル操作によるブレーキ制動時にその係合歯68eと係合する平板状の係合板62cと、延長部62bの中間部から第1ストラット部材64側に伸長しその第1ストラット部材64の一端部に当接する当接部62dとを一体的に備えている。また、アジャストレバー62には、図1に示すようにアジャストレバー62をその軸部62a回り矢印F方向に回動するように常時付勢するために、延長部62bの中間部とブレーキシュー20の他端部20bとの間に張設されたコイル状のスプリング70が備えられている。
【0024】
ブレーキペダルが操作されないブレーキ非制動時において、アジャストレバー62は、上記スプリング70の付勢力によってその軸部62a回り矢印F方向に回動しようとするが当接部62dが第1ストラット部材64に当接され止められていることによって、軸部62a回りの回動が抑止される。また、リターンスプリング26の付勢力は、スプリング70の付勢力より大きいため、スプリング70の付勢力によってアジャストレバー62の当接部62dが第1ストラット部材64すなわちストラット60をブレーキシュー18側へ移動するように付勢しても一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aは拡開しない。
【0025】
ブレーキペダル操作によるブレーキ制動時において、ホイールシリンダー22が作動し一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aが拡開すると、アジャストレバー62の当接部62dは上記スプリング70の付勢力によって第2ストラット部材66がブレーキシュー18と当接するようにストラット60をブレーキシュー18側に移動させる。すなわち、ブレーキペダル操作によるブレーキ制動時において、一対のブレーキシュー18,20の拡開量と第1ストラット部材64とブレーキシュー20との隙間とは略同じであり、一対のブレーキシュー18,20の拡開量に応じてアジャストレバー62はその当接部62dが第1ストラット部材64と当接して止められるまで軸部62a回り矢印F方向に回動する。
【0026】
ブレーキペダル操作が繰り返し使用されてライニング42,44が摩耗しシュー間隙が大きくなると、ホイールシリンダ22により一対のブレーキシュー18、20の一端部18a,20aが拡開させられることによって、アジャストレバー62の係合板62cはアジャストレバー62の軸部62a回りの回動に連動してアジャストホイール68aの係合歯68eと係合して噛み合いライニング42,44の摩耗量によってそのアジャストホイール68aが軸部68d回りに回動させられる。それにより、ストラット60が伸長させられシュー間隙が調節される。
【0027】
ブレーキペダル操作解除時には、リターンスプリング26の付勢力に従ってブレーキシュー20と第1ストラット部材64とが当接するまでストラット60がブレーキシュー20側へ移動させられるのに伴い、アジャストレバー62はスプリング70の付勢力に抗してその軸部62aの矢印F方向とは反対方向に回動させられる。また、ブレーキペダル操作解除時のアジャストレバー62の戻り回動時には、軸部68d等の摩擦による回転抵抗によってアジャストホイール68aの戻り回転が阻止され、平板状の係合板62cが係合歯68eを乗り越えるようになっている。
【0028】
図4に示すように、拡開装置32は、ブレーキシュー18の他端部18bに内接させられた長手状の本体部材72と、その本体部材72の一端部72aにバッキングプレート16と略平行な連結ピン74により回動可能に支持された長手状のレバー部材76とによって構成されており、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bの間に本体部材72とレバー部材76の一端部76aとが内接させられている。また、拡開装置32は、レバー部材76の他端部76bに掛止されたパーキングブレーキケーブル(ブレーキケーブル)78がバッキングプレート16に対して略垂直方向である車両内側に引っ張られることによって、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bの間が離間させられるものである。
【0029】
また、図4に示すように、一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bの間におけるバッキングプレート16の表面16bには、複数本のボルト80によってアンカー部材28の固定部28aがバッキングプレート16と共にアクスルハウジングやサスペンション装置等の車体側部材82に一体的に固定されており、拡開装置32は、それらボルト80の頭部80a上に当接して支持されている。また、アンカー部材28の固定部28aおよびバッキングプレート16にはパーキングブレーキケーブル78を挿通させるための挿通孔28b,16cが設けられている。
【0030】
レバー部材76は、2枚の金属板によって構成されており、レバー部材76の一端部76aがその2枚の金属板が互いに密着されるように曲成され、レバー部材76の他端部76bがその2枚の金属板がパーキングブレーキケーブル78が通る程度の寸法だけ離間されるように曲成されている。また、レバー部材76の一端部76aには連結ピン74がその連結ピン74まわりに相対回動可能に係合する係合孔76cとシューウェブ36すなわちブレーキシュー20の他端部20bに係合する係合凹部76dとが備えられ、レバー部材76の他端部76bにはパーキングブレーキケーブル78の先端部に固定されたレバー部材76の他端部76bの2枚の金属板の間隔より大きい直径を有した円柱状の掛止部材84を掛止する掛止部76eが備えられている。
【0031】
本体部材72は、図1および図4に示すように、バッキングブレート16に略垂直な板状を成してレバー部材76の両側に隔てられ互いに略平行な一対の側壁部72bと、その一対の側壁部76bのバッキングプレート16から離れた側の端縁を相互に連結する連結部72cとによって構成されている。一対の側壁部72bには、その一端部72aに連結ピン74がその連結ピン74まわりに相対回動可能に係合する一対の係合孔72dと、その他端部72eにシューウェブ34すなわちブレーキシュー18の他端部18bおよびリアクションプレート50の他端部50bに係合する係合凹部72fとが備えられている。
【0032】
図4に示すように、一対の側壁部72bの他端部72eには、一枚の金属板が曲成されることにより形成されたケーブル案内部材86が取り付けられており、そのケーブル案内部材86によって、パーキングブレーキケーブル78の掛止部材84が容易にレバー部材76の掛止部76eに掛け止めることができると共に一旦パーキングブレーキケーブル78の掛止部材84がレバー部材76の掛止部76eに掛け止められると振動等によって掛止部材84がレバー部材76の掛止部76eから脱落しようとすると掛止部材84がケーブル案内部材86に当接して掛止部材84の脱落を防止することができる。また、図4に示すように、ドラムブレーキ10の非制動時において、一対の側壁部72bの係合凹部72fとシューウェブ34すなわちブレーキシュー18の他端部18bとの間には所定距離離れた間隙aが設けられている。
【0033】
以上のように構成された拡開装置32は、図5に示すように、パーキングブレーキケーブル78がバッキングプレート16に対して略垂直方向すなわち矢印G方向に引っ張られることによって、レバー部材76が連結ピン74回りに矢印H方向に回動してその他端部76bをバッキングプレート16側に回動させると共にレバー部材76の係合凹部76dがブレーキシュー20側に移動する。それにより、拡開装置32の長手方向の幅が伸長してブレーキシュー20の他端部20bはバッキングレート16の外周側すなわち矢印I方向に押圧させられると共にリアクションプレート50の他端部50aはそのブレーキシュー20の他端部20bを押圧する力の反力によってバッキングプレート16の外周側すなわち矢印J方向に押圧させられる。図5で示す一点鎖線は、レバー部材76の他端部76bがパーキングブレーキケーブル78に引っ張られることによって連結ピン74回りに矢印H方向に回動した状態を示すものである。
【0034】
図6に示すように、リアクションプレート50の他端部50bが拡開装置32によって矢印J方向に押圧されると、リアクションプレート50の他端部50bはバッキングプレート16の外周側に回動すなわち回動軸心Cまわりに矢印K方向に回動させられてそのリアクションプレート50の一端部50aでストラット60をブレーキシュー20側に押圧すると共にブレーキシュー20の一端部20aがバッキングプレート16の外周側に押圧される。また、リアクションプレート50の一端部50aがストラット60を押圧する力の反力によってリアクションプレート50がバッキングプレート16の外周側に押圧されると共にカラー56を介してブレーキシュー18がバッキングプレート16の外周側に押圧されるので、ブレーキシュー18の他端部18bがバッキングプレート16の外周側へ拡開する。また、ブレーキシュー20の他端部20bが拡開装置32によって矢印I方向に押圧されるとブレーキシュー20の他端部20bがバッキングプレート16の外周側へ拡開する 。
【0035】
上記により拡開装置32は、パーキングブレーキケーブル78がバッキングプレート16に対して略垂直方向すなわち矢印G方向に引っ張られることによってレバー部材76の他端部76bが連結ピン74回りバッキングプレート16側に回動させられて一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bが拡開するので、パーキングブレーキケーブル78の配置方向がバッキングプレート16に対して略垂直方向すなわち矢印G方向に向くことから従来のパーキングブレーキケーブルの配置方向がパーキングブレーキ操作装置側に向くパーキングブレーキケーブルに比較してバッキングプレート16とそのパーキングブレーキ操作装置との間におけるパーキングブレーキケーブル78の配置の選択範囲が広がり車両内でのパーキングブレーキケーブル78の配置の自由度が向上する。
【0036】
以上のように構成されたドラムブレーキ10は、例えば車両走行中すなわちブレーキドラムが矢印L方向に回転している時において、図示されていないブレーキペダル操作に伴ってホイールシリンダ22のピストンが突き出されることにより一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aが拡開されてその一対のブレーキシュー18,20がブレーキドラム12の内周面14に当接すると、一対のブレーキシュー18,20がブレーキドラム12と共に連れ回されてブレーキシュー18の他端部18bがアンカー部材28に当接されるので、ブレーキシュー18がブレーキドラム12の内周面14に強く押し付けられてそのブレーキドラム12の回転が制動される。
【0037】
また、ドラムブレーキ10は、上記のように車両走行時にはホイールシリンダ22によって一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを拡開させてブレーキドラム12を制動するリーディングトレーリング型ドラムブレーキとして作動しており、そのリーディングトレーリング型ドラムブレーキのリーディングトレーリング制動状態では比較的サーボ効果が低く効きが安定しているので車両走行時に使用される油圧作動によるサービスブレーキに適している。
【0038】
また、ドラムブレーキ10は、例えば車両駐車時において、図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されてパーキングブレーキケーブル78が引っ張られると、拡開装置32によって一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bが拡開して一対のブレーキシュー18,20がブレーキドラム12の内周面14に当接させられる。
【0039】
上記パーキングブレーキ操作装置が操作されている時において、車輪すなわちブレーキドラム14が例えば矢印L方向に回動しようとすると、一対のブレーキシュー18,20がブレーキドラム12と共に連れ回されてブレーキシュー18の他端部18bがアンカー部材28に当接されてブレーキシュー18がブレーキドラム12の内周面14に強く押し付けられると共にブレーキシュー20がブレーキシュー18およびストラット60を介してブレーキドラム12の内周面14に強く押し付けられるため、ブレーキドラム12の回転が制動される。
【0040】
また、ドラムブレーキ10は、上記のように車両駐車時には拡開装置32によって一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bを拡開させてブレーキドラム12を制動するデュオサーボ型ドラムブレーキとして作動しており、そのデュオサーボ型ドラムブレーキのデュオサーボ制動状態ではサーボ効果を高めて高い効きを発生することができるので車両駐車時に使用されるパーキングブレーキに適している。
【0041】
以上のように、ドラムブレーキ10は、車両走行時にはホイールシリンダー22によって一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを拡開させることによってリーディングトレーリング型ドラムブレーキとして制動するリーディングトレーリング制動状態となり且つ車両駐車時には拡開装置32によって一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bを拡開させることによってデュオサーボ型ドラムブレーキとして制動するデュオサーボ制動状態となるため、車両走行時にはサーボ効果を低くして効きを安定させ且つ車両駐車時にはサーボ効果を高めて高い効きを発生させることができる。
【0042】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、パーキングブレーキケーブル(ブレーキケーブル)78によりレバー部材76の他端部76bがバッキングプレート16側に回動させられることによって一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bの間を離間させ且つリアクションプレート50の他端部50bを外周側へ回動させられる。そのため、パーキングブレーキケーブル78がバッキングプレート16に対して略垂直方向に引っ張られることによってレバー部材76の他端部76bが連結ピン74回りバッキングプレート16側に回動させられて一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bが拡開するので、パーキングブレーキケーブルの配置方向がバッキングプレート16に対して略垂直方向に向くことから従来のパーキングブレーキケーブルの配置方向がパーキングブレーキ操作装置側に向くパーキングブレーキケーブルに比較してバッキングプレート16とパーキングブレーキ操作部材との間におけるパーキングブレーキケーブル78の配置の選択範囲が広がり車両内でのパーキングブレーキケーブル78の配置の自由度が向上する。また、ドラムブレーキ10は、車両走行時にはホイールシリンダ(第1拡開機構)22によって一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを拡開させることによってリーディングトレーリング制動状態となり且つ車両駐車時には拡開装置(第2拡開機構)32によって一対のブレーキシュー18,20の他端部18b,20bを拡開させることによってデュオサーボ制動状態となるため、車両走行時にはサーボ効果を低くして効きを安定させ且つ車両駐車時にはサーボ効果を高めて高い効きを発生させることができる。
【0043】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0044】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10において、一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを拡開させるためにホイールシリンダ22が使用されたが必ずしもホイールシリンダ22が使用される必要はなく一対のブレーキシュー18,20の一端部18a,20aを拡開させるものであれば何であっても良い。
【0045】
また、本実施例のドラムブレーキ10は、ホイールシリンダ22および拡開装置32を作動させることによって車輪すなわちブレーキドラム12の矢印L方向の回転を制動させたがブレーキドラム12の矢印L方向と反対方向の回転もホイールシリンダ22および拡開装置32によって制動することができる。
【0046】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
10:ドラムブレーキ
12:ブレーキドラム(回転ドラム)
14:内周面
16:バッキングプレート
16c:挿通孔
18,20:一対のブレーキシュー
18a,20a:一端部
18b,20b:他端部
22:ホイールシリンダ(第1拡開機構)
26:リターンスプリング(第1スプリング)
28:アンカー部材
30:リターンスプリング(第2スプリング)
32:拡開装置(第2拡開機構)
50:リアクションプレート(回動レバー)
50a:一端部
50b:他端部
60:ストラット
72:本体部材
74:連結ピン
76:レバー部材
76b:他端部
78:パーキングブレーキケーブル(ブレーキケーブル)
C:回動軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体的に回転する回転ドラムと、バッキングプレート上に拡開可能に配設された円弧状を成す一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一端部間に配設され該一対のブレーキシューの一端部を拡開させる第1拡開機構と、該一対のブレーキシューの一端部間に掛け渡され非制動時の該一対のブレーキシューと該回転ドラムの内周面との間隔を規定するストラットと、該一対のブレーキシューの一端部を互いに接近する方向に付勢する第1スプリングと、該一対のブレーキシューの他端部間に固設されたアンカー部材と、該一対のブレーキシューの他端部を互いに接近する方向に付勢する第2スプリングと、該一対のブレーキシューの他端部間に配設され該一対のブレーキシューの他端部を拡開させる第2拡開機構とを備え、前記第1拡開機構により一端部が離間させられた前記一対のブレーキシューによって前記回転ドラムを制動するリーディングトレーリング制動状態と、前記第2拡開機構によって他端部が離間させられた前記一対のブレーキシューによって前記回転ドラムを制動するデュオサーボ制動状態とを有する2モード型ドラムブレーキであって、
前記一対のブレーキシューの一方の一端部と他端部との間の回動軸心まわりに回動可能に設けられ、一端部が前記ストラットに係合し他端部が前記第2拡開機構に係合する回動レバーを含み、
前記第2拡開機構は、前記一対のブレーキシューの他端部の一方に内接させられた本体部材と、該本体部材の一端部に前記バッキングプレートと平行な連結ピンにより回動可能に支持されたレバー部材と、前記バッキングプレートの裏面から該バッキングプレートに設けられた挿通孔を通り先端部を前記レバー部材の他端部に掛止するブレーキケーブルとを備え、該ブレーキケーブルにより前記レバー部材の他端部が前記バッキングプレート側に回動させられることによって前記一対のブレーキシューの他端部を拡開させ且つ前記回動レバーの他端部を外周側へ回動させるものであることを特徴とする2モード型ドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−7270(P2011−7270A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151659(P2009−151659)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】