説明

ドリフトピン

【課題】
打ち込み装置を用いた場合の利便性に優れたドリフトピンを提供すること。
【解決手段】
両端部3a,3bを先細り状に形成し、且つ両端面の中央部分に平面状の扁平面4を形成しており、さらに側周面2には、線状に隆起している凸条部5を周方向に間隔を空けながら並設して、しかも凸条部5の捻れ角θを15度以下に抑制していることを特徴とするドリフトピン1によって、打ち込みの際、両端部3a,3bを先頭として使用でき、しかも部材との間に強力な摩擦が発生して抜け落ちを防止でき、自動打ち込み装置を使用する場合の利便性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅などの木造建築物を施工する際、柱や梁などの締結に使用するドリフトピンに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅などの木造建築の施工において、柱と梁などの部材を組み合わせて骨格を構成する在来工法(木造軸組工法)を採用する場合、剛性を確保するため部材同士を強固に締結する必要がある。そのため部材の締結部には、ホゾとホゾ溝を形成して双方を噛み合わせるなどの対策が講じられているが、ホゾの加工には手間が掛かるほか、部材の断面積が減少するといった問題があり、最近では各種の金具を介して部材同士を締結する場合が多い。
【0003】
金具は、部材に加工された溝や孔などの中に埋め込まれて、さらに金具と部材とを一体化するためにボルトやピンなどを使用する。このピンは一般にドリフトピンと呼ばれており、部材を締結する際、あらかじめ部材に加工された孔と、金具に形成された孔とを同芯に揃えた後、部材の側面から打ち込んで双方を一体化する。なおドリフトピンは部材との摩擦だけで固定されるため、部材に加工する孔は十分な精度を確保する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、住宅を始めとする木造建築においてもコストダウンや工期短縮が厳しく要求されており、現地での作業を軽減できるよう、金具の組み付けやドリフトピンの打ち込みなどは、可能な限り工場内で実施する傾向がある。しかしドリフトピンの打ち込みを工場内で人手に依存して実施した場合、作業の抜け落ちなどの人為的な不具合が発生する恐れがある。そこで管理コンピュータからの指令に基づいて自動的にドリフトピンを打ち込む装置をラインに組み込んで、信頼性を高めるといった対策が講じられている。しかし一般に流通しているドリフトピンは、一端面のみが先鋭になっているため、装置にドリフトピンを供給する際には、その向きを揃える必要があり、余計な手間が掛かるほか、誤ってドリフトピンを逆向きに供給すると打ち込みができないなど、自動化に対する問題が生じている。
【0005】
またドリフトピンを打ち込む際には、あらかじめ部材に孔加工を行う必要があるが、この孔の直径は、ドリルの磨耗や部材の乾燥などの要因で微妙に変化する。もし孔径が大きくなると、ドリフトピンとの間に十分な摩擦が発生しない上、前記のような打ち込み装置は人手に比べて押し込みの際の力が強いため、ドリフトピンが孔を突き抜けて反対面から抜け落ちる恐れがある。さらに工場内でドリフトピンを打ち込んだ場合には、輸送時や据え付け時の振動や衝撃で抜け落ちる可能性もある。なお現状のドリフトピンについても、摩擦を確保するため周囲にローレットを加工しているが、これによる微細な凹凸がヤスリのように作用して、孔の内面を削り取って摩擦が低下するという問題があり、抜け止め対策としては不十分である。また下記特許文献のようなドリフトピンも提案されているが、いずれも形状が従来と大幅に異なり、前記のような打ち込み装置が使用できず、コストも増大する。
【特許文献1】特開平10−159186号公報
【特許文献2】特開2000−46024号公報
【0006】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、打ち込み装置を用いた場合の利便性に優れたドリフトピンの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、両端部を先細り状に形成し且つ両端部の端面中央部分に扁平面を形成していることを特徴とするドリフトピンである。
【0008】
本発明によるドリフトピンは真円断面の棒形状を基調としており、この点においては従来と何ら変わりがない。しかし従来のドリフトピンは、その一端面だけが円錐状に加工されており、他端面は半径方向に切り落とされているのに対して、本願発明では両端部とも先細り状に形成している点が特徴である。なお先細り状とは、端面付近の周縁部全体を削り落として中央部分だけが突出している状態であるが、その具体的な形状については何らの限定もなく、円錐状やクサビ状など自在に選択可能である。さらに両端部の形状を必ずしも同一に仕上げる必要はなく、双方で相違していても構わない。また扁平面は、打ち込みの際にカナヅチなどと接触する部分であり、半径方向に展開する平面を指している。この扁平面については、必ずしも幾何学的な平面である必要はなく、わずかな曲面は許容される。
【0009】
次に請求項2記載の発明は、側周面には、線状に隆起している凸条部が周方向に間隔を空けながら並設してあり、各凸条部の捻れ角が15度以下であることを特徴とするドリフトピンである。
【0010】
凸条部とは、ドリフトピンの側周面を転造などによって隆起させた箇所を指している。ローレットなどの表面加工を施さない単純なドリフトピンの場合、側周面は凹凸のない平面状であるが、本発明による凸条部は、この平面状の側周面から突出するように形成されるものであり、溝状に切削することで形成されるものは対象外である。また凸条部は、針のように点在するものではなく、山脈状に細長く直線状に形成される。さらに凸条部は、一本のドリフトピンについて一列だけが形成される訳ではなく、周方向に所定の間隔を空けて複数が連続的に形成され、しかも凸条部同士が交差することはない。
【0011】
捻れ角とは、ネジの仕様を示す際の用語の一つで、リード角の余角であり、ネジ山を形成する螺旋を平面に展開した際に現れる傾斜線と、ネジの軸線方向との交角を意味している。この捻れ角の値が大きいとネジのピッチは小さくなり、逆に小さいとピッチは大きくなる。本発明では、線状に延びる凸条部をネジ山と同様に扱い、その捻れ角を0度から15度までの範囲に限定している。そのため凸条部は、軸線方向と平行あるいは微少な交角を有することになり、打ち込みの際には、この捻れ角に応じてドリフトピンが軸線を中心として回転する。
【0012】
凸条部の隆起高さについては何らの制限もないが、ドリフトピンを打ち込む際、金具の孔を問題なく通過できる程度に抑える必要がある。また部材との間に過度の摩擦が発生することも好ましくなく、これらの点を考慮して最適な条件を定める必要がある。そのほか凸条部は、ドリフトピンの側周面全体に形成してもよいが、金具や部材などの形状や、作業性などを考慮して、中央部に限定あるいは両端部だけというように、部分的に形成してもよい。
【0013】
このように構成することで、ドリフトピンを打ち込む際、両端部を先頭として使用できるため、打ち込み装置にドリフトピンを供給する際、その向きを揃える必要がない。また線状に延びる凸条部については、軸線方向に対して平行もしくは微少な交角を有しているため、打ち込みの際、凸条部が部材の内面を削り取ることなく突き刺さっていき、凸条部と部材との間に強力な摩擦が発生するため、打ち込み装置を使用して強力に押し込んだ場合でも、不用意に抜け落ちることがない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明のように、ドリフトピンの両端部を先細り状に形成することで、部材にドリフトピンを打ち込む際、両端部を先頭として使用できるため、自動打ち込み装置にドリフトピンを供給する際、その向きを揃える作業を省略できる。そのため打ち込み装置を用いた場合の利便性に優れており、労務コストを軽減でき人為的な不具合も防止できる。
【0015】
請求項2記載の発明のように、ほぼ軸線方向に延びる凸状部を側周面に形成することで、打ち込みの際、凸条部が木質繊維を押し広げながら部材の中に突き刺さっていくため、従来のローレットのように部材を削り取る恐れがなく、ドリフトピンと部材との間に強力な摩擦が発生する。そのためドリフトピンを強い力で押し込んだ場合でも、反対側に抜け落ちることを防止でき、打ち込み装置を用いた場合の利便性に優れている。しかも強力な摩擦により、輸送時や据え付け時の振動でドリフトピンが脱落することも防止できる。これら一連の特徴により、ドリフトピンの打ち込みを工場内で確実に実施でき、現地での打ち込み作業を削減でき、木造建築物の工期の短縮、コストの低減、信頼性の向上といった効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明によるドリフトピンの形態例を示すもので、図1(A)は正面図で、図1(B)は拡大平面図で、図1(C)はC−C線の拡大端面図で、図1(D)はD−D線の拡大断面図である。ドリフトピン1は、強度やコストや加工性から鋼製の丸棒を素材としており、図1(A)のように、ドリフトピン1の両端部3a,3bは、周縁部を削り落とした円錐状であり、部材の中に打ち込む際には、いずれの端部3a,3bとも、先頭として使用可能である。ただしドリフトピン1の端部3は、ハンマーなどの工具に接触するため、極度に先鋭化することは好ましくない。そこで図のように端部3の中央部については、軸線Aに対して直交する方向に延びる平面状の扁平面4を形成している。なお図中の扁平面4は完全な平面だが、リベットの頭部のように緩やかな起伏を持たせることも可能である。
【0017】
図1のドリフトピン1は、側周面2の中央部にだけ凸条部5を形成しており、その他の箇所は図1(C)のように単純な真円断面が連続している。凸条部5は図1(D)のように、真円断面の側周面2を転造加工によって三角形状に隆起させたもので、一断面あたり計二十個の凸条部5が周方向に所定の角度を隔てて連続的に形成されており、隣接する二つの凸条部5の中間は、側周面2を彫り込んだ谷部となる。さらに凸条部5は、図1(A)のように軸線Aに対してわずかに傾斜しながら直線的に延びている。なおドリフトピン1の長さや直径については多様だが、この図は使用頻度の高い全長118mm、直径12mmの物品を基に作成しており、中央に形成されている凸条部5は、軸線Aに沿って32mmの長さとしている。
【0018】
図1(A)の右側は、凸条部5が形成されている中央付近について、軸線Aを基準として展開した状態を示している。各凸条部5は平行に延びており、凸条部5の延びる方向と軸線Aとの交角が捻れ角θになる。本図の捻れ角は約7度であり、この程度の角度であれば打ち込みの際、凸条部5が部材に食い込むことでドリフトピン1全体が回転しながら前進していくため、凸条部5が部材を削ることなく突き刺さっていく。なお凸条部5の突出高さは約0.3mmであり、部材との摩擦を維持しながら、過度の抗力が発生することもない。
【0019】
図2は、図1とは別形態のドリフトピン1であり、図2(A)は拡大平面図で、図2(B)はB−B線の拡大断面図で、図2(C)は正面図である。このドリフトピン1の基本形状は図1に示すものと同じだが、凸条部5を軸線A方向に沿って形成したことを特徴としている。本発明では捻れ角θを15度以下としているため、捻れ角θを0度とすることもできる。この場合、ドリフトピン1を部材に埋め込む際、凸条部5が軸線A方向に沿って部材の中に突き進んでいき、双方の間で摩擦が発生する。なお凸条部5が所定の間隔を空けながら側周面2を取り囲んでいる点は、図1と同様である。
【0020】
図3は、本発明によるドリフトピン1の他の形態例を示しており、図3(A)は側周面2のほぼ全域に凸条部5を形成したもので、図3(B)は凸条部5を二分割して形成したものである。凸条部5の配置については自在に決めることができ、部材との間で強力な摩擦を確保したい場合、図3(A)のように側周面2のほぼ全面に形成することも可能である。この際、凸条部5の捻れ角は、打ち込みの際の過度な回転を抑制するため、0度に近づけることが好ましい。また図3(B)は、凸条部5を両端近傍にだけ形成している。この場合は、凸条部5の総延長を抑制しながら、広範囲に部材と凸条部5とが接触するため、部材の局所的な変形による影響を受けにくく、しかも打ち込みの際の抗力を抑制できるという特徴がある。
【0021】
図4は本発明によるドリフトピン1を使用して部材を締結する方法例を示す斜視図であり、第一部材Fの側面に第二部材Sの端面を接触させて丁字状の締結部を構成する。第一部材Fと第二部材Sとは金具Kを介して結合しており、この金具Kは鋼板をコの字状に折り曲げて形成している。金具Kは、中央の前板11と、この前板11の両側から直角方向に延びる側板12とで構成されており、前板11には円柱状に突出するホゾ13が上下に二個並んでいる。このホゾ13は中空であり、ボルト21の頭部22を収納することができ、またホゾ13の中央にはボルト21の先部23を通過させるための係止孔14が形成されている。そのほか側板12には、ドリフトピン1を差し込むための上溝15、保持孔16、下溝17が形成されており、これらは左右同一形状になっている。
【0022】
第一部材Fには、ホゾ13を差し込むためのホゾ穴31が加工されており、このホゾ穴31と同芯で第一部材Fを貫通するキリ孔32が加工されており、その先にナット24を収納する座グリ穴33が加工されている。一方の第二部材Sには、側板12を差し込むためのスリット41が二列加工されており、さらに端面には両スリット41の間を削り落とした段差部43が加工されている。そのほか第二部材Sの側面には、スリット41を経て反対面にまで到達するピン孔42が計三個加工されている。このピン孔42は、金具Kの上溝15および二組の保持孔16と同芯になるように加工されている。
【0023】
図5は、図4の両部材を実際に締結する際の手順を示す斜視図であり、図5(A)は前段階を、図5(B)は後段階を示している。第一部材Fや第二部材Sが柱や梁などの長大な部材であれば、第一部材Fと第二部材Sとの締結を工場内で実施するのは不可能であり、それぞれを現地に輸送した後に締結作業を行うことになるが、現地での作業をできるだけ削減するため、図5(A)のように金具Kの固定は工場内で実施される。また第二部材Sには計三個のピン孔42が加工されているが、このうち一番上にある一箇所についても、工場内でドリフトピン1を打ち込むことが可能である。工場内でドリフトピン1を打ち込む場合、本願発明では両端部を先頭として使用できるため、打ち込み装置にドリフトピン1を供給する際、その向きを揃える必要がなく、しかも部材との摩擦が十分に確保できるため、ピン孔42の直径がわずかに大きくなった場合でも抜け落ちることがない。
【0024】
図5(A)のように、第一部材Fと第二部材Sとが分離している状態で両部材を現地に輸送した後、最終的な締結作業が行われる。本発明によるドリフトピン1は、摩擦を向上しているため輸送時や施工時の振動などで抜け落ちることはない。図5(A)のように第一部材Fに固定された金具Kの側板12の真上に第二部材Sのスリット41を一致するように位置調整をした後、第二部材Sを徐々に降下していく。そうするとやがて図5(B)のように、側板12がスリット41の中に差し込まれていき、既に埋め込まれているドリフトピン1が側板12の上溝15に受け止められて、第二部材Sの仮置きが完了する。その後、図5(B)のように第二部材Sのピン孔42に計二本のドリフトピン1を打ち込むと、これらが第二部材Sと金具Kの保持孔16とを貫通して、最終的に第一部材Fと第二部材Sの締結が完了する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるドリフトピンの形態例を示すもので、(A)は正面図で、(B)は拡大平面図で、(C)はC−C線の拡大端面図で、(D)はD−D線の拡大断面図である。
【図2】図1とは別形態のドリフトピンであり、(A)は拡大平面図で、(B)はB−B線の拡大断面図で、(C)は正面図である。
【図3】本発明によるドリフトピンの他の形態例を示しており、(A)は側周面のほぼ全域に凸条部を形成したもので、(B)は凸条部を二分割して形成したものである。
【図4】本発明によるドリフトピンを使用して部材を締結する方法例を示す斜視図である。
【図5】図4の両部材を実際に締結する際の手順を示す斜視図であり、(A)は前段階を、(B)は後段階を示している。
【符号の説明】
【0026】
1 ドリフトピン
2 側周面
3 端部
4 扁平面
5 凸条部
11 前板
12 側板
13 ホゾ
14 係止孔
15 上溝
16 保持孔
17 下溝
21 ボルト
22 頭部
23 先部
24 ナット
31 ホゾ穴
32 キリ孔
33 座グリ穴
41 スリット
42 ピン孔
43 段差部
A 軸線
F 第一部材
S 第二部材
K 金具
θ 捻れ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部(3a,3b)を先細り状に形成し且つ両端部(3a,3b)の端面中央部分に扁平面(4)を形成していることを特徴とするドリフトピン。
【請求項2】
側周面(2)には、線状に隆起している凸条部(5)が周方向に間隔を空けながら並設してあり、各凸条部(5)の捻れ角(θ)が15度以下であることを特徴とするドリフトピン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−106796(P2008−106796A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287893(P2006−287893)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(502204137)有限会社グランドフォーム (23)
【Fターム(参考)】