ドーパントとしてフッ化イオン交換ポリマーを有するポリチエノチオフェンの水性ディスパージョン
【課題】デバイス性能および寿命が向上した二層デバイスを提供する。
【解決手段】ポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンを含む組成物が提供される。本発明の組成物から得られる膜は、例えば有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ等のエレクトロルミネッセンスデバイスを含む有機エレクトロニクスデバイスにおける正孔注入層として、有機光電デバイス等の有機オプトエレクトロニクスデバイスにおける正孔引抜き層として、金属ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブと組み合わせて薄膜電界効果トランジスタにおけるドレイン、ソースまたはゲート電極等の用途に有用である。
【解決手段】ポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンを含む組成物が提供される。本発明の組成物から得られる膜は、例えば有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ等のエレクトロルミネッセンスデバイスを含む有機エレクトロニクスデバイスにおける正孔注入層として、有機光電デバイス等の有機オプトエレクトロニクスデバイスにおける正孔引抜き層として、金属ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブと組み合わせて薄膜電界効果トランジスタにおけるドレイン、ソースまたはゲート電極等の用途に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスレファレンス
本願は、2005年3月24日に出願された仮出願番号60/665,026号および2004年10月13日に出願された仮出願第60/618,471号の利益を主張する。これらの出願の開示を参照することにより本明細書に取り込む。
【0002】
本願は、導電性チエノチオフェンポリマーを含む水性ディスパージョンであって、前記導電性ポリマーが少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の存在下で合成されている水性ディスパージョンに関する。
【背景技術】
【0003】
導電性ポリマーは、発光ディスプレイに用いるためのエレクトロルミネッセンス(EL)デバイスの開発等様々な有機エレクトロニクスデバイスに使用されてきた。導電性ポリマーを含む有機発光ダイオード(OLED)等のELデバイスに関して、そのようなデバイスは一般的に以下の構成を有する:
アノード/正孔注入層/EL層/カソード
【0004】
アノードは、通常、例えばインジウム/スズ酸化物(ITO)等、EL層に利用される半導性材料(material)の別な方法で(otherwise)満たされているπバンドに正孔を注入する能力のある材料である。アノードは所望によりガラスまたはプラスティック基材に支持されている。EL層は、通常、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリフルオレン、スピロポリフルオレンまたは他のELポリマー材料等の共役半導性ポリマーを含む半導性共役有機材料、8−ヒドロキノリンアルミニウム(Alq3)等の小分子蛍光染料、facトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)等の小分子燐光染料、デンドリマー、燐光染料でグラフトされた共役ポリマー、上述の材料を含むブレンドおよび組み合わせである。EL層は、無機量子ドットでもよいが、半導性有機材料と無機量子ドットとのブレンドでもよい。カソードは、典型的には、EL層の半導性有機材料の別な方法で空の状態であるπ*バンドに電子を注入する能力のある材料(例えば、CaまたはBa等)である。
【0005】
正孔注入層(HIL)は通常導電性ポリマーであり、アノードからEL層中の半導性有機材料への正孔注入を促進する。正孔注入層は正孔輸送層、正孔注入/輸送層またはアノードバッファ層とも呼ばれ、二層アノードの一部として特徴づけられることがある。正孔注入層として利用される典型的な導電性ポリマーには、ポリアニリンおよびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリジオキシチオフェンがある。これらの材料は、例えば、参照することにより本明細書に取り込まれる「Polythiophene dispersions, their production and their use」という名称の米国特許第5,300,575号に記載のとおり、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSSA)等の水溶性ポリマー酸の存在下の水溶液中でアニリンまたはジオキシチオフェンモノマーを重合して調製できる。公知のPEDOT/PSSA材料は、Baytron(登録商標)−Pであり、H. C. Starck, GmbH(ドイツ連邦、レーヴァークーゼン)から市販されている。
【0006】
導電性ポリマーは、放射エネルギーを電気エネルギーに変換する光電デバイスにも使用されてきた。そのようなデバイスは一般的に以下の構成を有する:
正極/正孔引抜き層(hole extraction layer)/光収穫層(複数可)/負極
【0007】
正極および負極は、上述のELデバイスのアノードおよびカソードに使用される材料から選択できる。正孔引抜き層は、通常、正極での収集のため光収穫(harvesting)層からの正孔引抜きを促進する導電性ポリマーである。光収穫層または複数の光収穫層は、通常、光放射を吸収し界面で別々の電荷を発生できる有機または無機の半導体からなる。
【0008】
水溶性ポリマー性スルホン酸により合成される導電性ポリマー水性ディスパージョンは、望ましくない低pHレベルを有する。低pHは、そのような正孔注入層を含むELデバイスのストレスライフ低下の一因になり、デバイス内の腐食の一因となる。したがって、改善された性能を持つ、組成物およびそれから調製された正孔注入層の必要性が当分野に存在する。
【0009】
導電性ポリマーには、薄膜電界効果トランジスタ等エレクトロニクスデバイス用の電極としての有用性もある。そのようなトランジスタでは、有機半導性膜がソース電極とドレイン電極の間に存在する。電極用途に有用であるには、導電性ポリマーおよび導電性ポリマーを分散または溶解するための液体は、導電性ポリマーまたは半導性ポリマーのいずれかの再溶解を避けるため、半導性ポリマーおよび半導性ポリマー用の溶媒と親和性がなければならない。導電性ポリマーから製造された電極の導電率は、10S/cm(Sはオームの逆数)より大きくなければならない。しかし、ポリマー酸によりつくられた導電性ポリチオフェンは、約10-3S/cm以下の範囲の導電率を通常提供する。導電率を高めるためには、ポリマーに導電性添加剤を加えてもよい。しかし、そのような添加剤が存在すると、導電性ポリチオフェンの加工性に悪影響を与えることがある。したがって、良好な加工性および向上した導電率を有する改善された導電性ポリマーの必要性が当分野に存在する。
【0010】
二重または二層デバイスの寿命が限られているので、より複雑なデバイス構造が、デバイス性能、特に寿命を延ばすために導入されてきた。例えば、「中間層」として知られる、正孔輸送および電子ブロック材料の薄層がデバイス性能および寿命の向上に効果的であることが示された。Cambridge Display Technologyは、OLEDs 2004カンファレンスで、中間層による寿命の向上を報告した[David Fyfe,“Advances in P-OLED Technology-Overcoming the Hurdles Fast", OLEDs 2004、San Diego, CA,2004年11月15日から17日;参照することにより本明細書に取り込む]。Soらは、PEDOT:PSSA正孔注入層と緑色ポリフルオレン発光層との間の架橋正孔輸送層(XL−HTL)の挿入により、効率の2倍向上および寿命の7倍向上を報告した[Wencheng Su, Dmitry Poplavskyy, Franky So, Howard Clearfield, Dean Welsh, and Weishi Wu,“Trilayer Polymer OLED Devices for Passive Matrix Applications”,SID 05 Digest,1871−1873頁;参照することにより本明細書に取り込む]。
【0011】
これらの三層デバイスは向上した性能および寿命を提供したが、追加の中間層はTACT時間および/または製造資本コストを上昇させ、デバイスの歩留まりを低下させることがある。デバイス性能および寿命が向上した二層デバイスの必要性が当分野に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,300,575号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】David Fyfe,“Advances in P-OLED Technology-Overcoming the Hurdles Fast", OLEDs 2004、San Diego, CA,2004年11月15日〜17日
【非特許文献2】Wencheng Su, Dmitry Poplavskyy, Franky So, Howard Clearfield, Dean Welsh, and Weishi Wu,“Trilayer Polymer OLED Devices for Passive Matrix Applications”,SID 05 Digest,1871−1873頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ポリチエノチオフェン(PTT)および少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供することにより、従来の材料に関連する問題を解決する。本発明の組成物は、例えば有機発光ダイオード(OLED)等の様々な有機エレクトロニクスデバイスにおける正孔注入層として、例えば有機光電デバイス(OPVD)等の様々な有機オプトエレクトロニクスデバイスにおける正孔引抜き層として、金属ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブ等の導電性フィラーと組み合わせて、他の用途の中でも特に、薄膜電界効果トランジスタにおけるドレイン電極、ソース電極またはゲート電極等の用途において有用である。
【0015】
ある態様によると、本発明は、本発明の組成物の正孔注入層を含むエレクトロルミネッセンスデバイスを含む有機エレクトロニクスデバイスに関する。本発明は、許容できる寿命性能を有する二層デバイスの製造を可能にする。「寿命」とは、連続運転デバイス(例えば、PLED)の初期輝度が、目的とする用途に許容できる初期輝度の割合(例えば初期輝度の50%)まで低下するのにかかる時間の長さを意味する。
【0016】
他の態様によると、本発明は、ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンの合成方法に関する。ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンの合成方法は、
【0017】
(a)少なくとも1種の酸化剤および/または少なくとも1種の触媒を含む水溶液を提供する工程;
【0018】
(b)コロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(c)酸化剤および/または触媒の水溶液を、コロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンと混合する工程;および
【0019】
(d)工程(c)の混合した水性ディスパージョンにチエノチオフェンモノマーを加える工程を含む。
【0020】
本発明のポリチエノチオフェンディスパージョンは、どのような好適な支持体上に塗布して乾燥してもよい。望まれる場合、ポリチエノチオフェンを塗布した支持体を、所望の導電率、デバイス性能および寿命性能を与えるに充分な条件下で加熱することもできる。
【0021】
本発明は、以下の態様[1]〜[20]を含むことができる。
【0022】
[1] ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョン(dispersion)。
【0023】
[2] 前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む[1]に記載のディスパージョン。
【0024】
[3] 前記コロイド形成性ポリマー酸が、少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む[1]に記載のディスパージョン。
【0025】
[4] 以下の工程を含む、ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを製造する方法:(a)少なくとも1種の酸化剤および/または少なくとも1種の触媒を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(b)少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(c)工程(a)の水性ディスパージョンを、工程(b)の水性ディスパージョンと混合する工程;および(d)工程(c)の混合した水性ディスパージョンにチエノチオフェンモノマーを加える工程;および(e)ポリチエノチオフェンを形成する工程。
【0026】
[5] 前記の少なくとも1種の酸化剤が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む[4]に記載の方法。
【0027】
[6] 前記の少なくとも1種の触媒が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)および硫酸セリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む[4]に記載の方法。
【0028】
[7] 前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む[4]に記載の方法。
【0029】
[8] 前記の少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸が、以下を含む構造を有する[4]に記載の方法。
【化1】
【0030】
[9] 前記ポリチエノチオフェンディスパージョンを少なくとも2種のイオン交換樹脂と接触させる工程を更に含む[4]に記載の方法。
【0031】
[10] 以下の工程を含む、導電性膜を支持体上に形成する方法:ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを形成するために、少なくとも1種のフッ化材料の存在下でチエノチオフェンモノマーを重合する工程、前記ディスパージョンを支持体上に塗布して膜を形成する工程、前記支持体および膜を加熱する工程;および膜を塗布された支持体を回収する工程。
【0032】
[11] 前記加熱が、膜の導電率を上昇させるに充分な温度および時間である[10]に記載の方法。
【0033】
[12] 前記加熱が、MALDIを利用して測定されるポリマー繰り返し単位の数を増加させるに充分である[10]に記載の方法。
【0034】
[13] 前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む[10]に記載の方法。
【0035】
[14] 前記の少なくとも1種のフッ化材料が少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む[10]に記載の方法。
【0036】
[15] 前記加熱が約130℃を超える温度で実施される[10]に記載の方法。
【0037】
[16] 前記膜が、鉄、カリウムおよびナトリウムからなる群から選択される少なくとも1金属を更に含む[10]に記載の方法。
【0038】
[17] 前記金属が鉄を含む[16]に記載の方法。
【0039】
[18] 少なくとも2つの電極、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む層および少なくとも1種の半導性材料を含む層を含むデバイス。
【0040】
[19] 前記デバイスが光電デバイスを含み、前記半導性材料が光活性である[18]に記載のデバイス。
【0041】
[20] 前記電極の1つがカソードを含み、片方がアノードを含み、前記半導性材料がエレクトロルミネッセンス層を含む[18]に記載のデバイス。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明による正孔注入層を含むエレクトロニクスデバイスの断面図を表す。
【0043】
【図2】図2は、本発明による電極を含む薄膜電界効果トランジスタの断面図を表す。
【0044】
【図3】図3は、実施例2のOLEDのELスペクトルを表す。
【0045】
【図4】図4は、実施例3のOLEDデバイスの電流密度−電圧−輝度曲線を表す。
【0046】
【図5】図5は、実施例6のデバイスの効率対輝度を表す。
【0047】
【図6】図6は、実施例6のデバイスの寿命(輝度対時間)を表す。
【0048】
【図7】図7は、実施例6のデバイスの時間の関数としての電圧変化を表す。
【0049】
【図8】図8は、実施例7のデバイスの寿命(輝度対時間)を表す。
【0050】
【図9】図9は、実施例7のデバイスの時間の関数としての電圧変化を表す。
【0051】
【図10】図10は、実施例8のOPVDの電流−電圧特性を表す。
【0052】
【図11】図11は、実施例10で調製した試料10A(上)および10C(下)のMALDIマススペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、ポリチエノチオフェンを含む水性ディスパージョン、そのようなディスパージョンを製造および塗布する方法ならびにポリチエノチオフェンを含む膜を取り入れたデバイスに関する。本発明のディスパージョンは、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含むポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸(例えば、少なくとも部分的にフッ化されているイオン交換ポリマー等)を含んでいてよい。本願で使用するとおり、「ディスパージョン」という用語は、微小なコロイド粒子の浮遊物を含む液体媒体を意味する。本発明によると、「液体媒体」は通常水性液体、例えば脱イオン水である。本願で使用するとおり、「水性」という用語は、かなりの部分が水である液体を意味し、ある態様においては、少なくとも約40重量%の水である。本願で使用するとおり、「コロイド」という用語は、液体媒体に懸濁している微小粒子を意味し、前記粒子は最大約1ミクロンの粒径(例えば、約20ナノメートルから約800ナノメートル、通常約30から約500ナノメートル)を有する。本願で使用するとおり、「コロイド形成性」という用語は、水溶液に分散したとき微小粒子を形成する材料を意味し、すなわち「コロイド形成性」ポリマー酸は水溶性ではない。
【0054】
本願で使用するとおり、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」またはそれらの他の変形は、非排他的含有物を含むと意図される。例えば、いくつかの要素を含むプロセス、方法、物品またはデバイスは、必ずしもこれらの要素のみに限定されず、明白に列記されておらずそのようなプロセス、方法、物品またはデバイスに固有でもない他の要素を含むことがある。更に、それと反対であると明白に述べられていない限り、「または(or)」は、包含的な「または」を意味し、排他的な「または」ではない。例えば、条件AまたはBは以下のいずれかにより満たされる。Aが真であり(または存在する)Bが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在しない)Bが真である(または存在する)、AとBの両方が真である(または存在する)。
【0055】
また、「a」または「an」の使用も、本発明の要素および構成成分の説明のために利用される。これは単に簡便のためにおよび本発明の一般的な意味を与えるためになされる。この記載は1つまたは少なくとも1つを含むように読むべきであり、単数は、そうでない場合を意味するのが明らかでない限り複数も含む。
【0056】
本発明の1態様において、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)等の導電性ポリチエノチオフェンを含む水性ディスパージョンは、(チエノ[3,4−b]チオフェン)モノマーを含むチエノチオフェンモノマーが、少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の存在下で化学的に重合する場合調製可能である。ポリチエノチオフェンまたはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)の水性ディスパージョンの調製において、水溶性でないポリマー酸を使用すると、優れた電気的性質(例えば約10-1から約10-6S/cm)を有する組成物が得られる。これらの水性ディスパージョンの利点の1つは、比較的長い期間水性媒体中で導電性粒子が(例えば、別な相を形成せずに)通常安定である点である(例えば、ディスパージョンは約14から約180日間安定である)。更に、導電性粒子は、いったん乾燥して膜になると一般的に再分散しない。
【0057】
本発明の1態様による組成物は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー酸が分散している水性連続相を含む。本発明に使用できるポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)は構造(1)を有するが、
【0058】
【化1】
【0059】
上式において、Rは、ハロゲン、炭素原子数1から8のアルキル、フェニル、置換フェニル、CmF2m+1、F、ClおよびSF5から選択され、nは約2より大きく20未満で、通常約4から約16である。本発明の組成物に使用できるチエノチオフェンは、上記のとおり構造(2)を有することもあり、上式においてR1およびR2は独立に上記のリストから選択される。ある特定の態様において、ポリチエノチオフェンは、RがHを含むポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む。
【0060】
本発明の実施における使用に企図されるコロイド形成性ポリマー酸は水に不溶であり、好適な水性媒体中に分散するときコロイドを形成する。ポリマー酸は、典型的には、約10,000から約4,000,000の範囲の分子量を有する。ある態様において、ポリマー酸は、約50,000から約2,000,000の分子量を有する。水に分散するときコロイド形成性であるポリマー酸はいずれも本発明の実施における使用に好適である。ある態様において、コロイド形成性ポリマー酸はポリマー性スルホン酸を含む。他の許容されるポリマー酸は、ポリマーリン酸、ポリマーカルボン酸およびポリマー性アクリル酸ならびにポリマー性スルホン酸を有する混合物を含むこれらの混合物の少なくとも1メンバーを含む。他の態様において、ポリマー性スルホン酸はフッ化された酸を含む。更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸は過フッ化化合物を含む。更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸はパーフルオロアルキレンスルホン酸を含む。
【0061】
更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー酸は、高度にフッ化されたスルホン酸ポリマー(「FSAポリマー」)を含む。「高度にフッ化された」とは、ポリマー中のハロゲンおよび水素原子の全数の少なくとも約50%がフッ素原子であり、ある態様において少なくとも約75%、他の態様において少なくとも約90%がフッ素原子であることを意味する。ある態様において、ポリマーは少なくとも1種の過フッ化化合物を含む。
【0062】
ポリマー酸はスルホネート官能基を含んでもよい。「スルホネート官能基」という用語は、スルホン酸基またはスルホン酸基の塩を意味し、ある態様においてアルカリ金属またはアンモニウムの塩の少なくとも1種を含む。前記官能基は式−SO3Xにより表され、前式においてXは「対イオン」としても知られるカチオンを含む。Xは、H、Li、Na、KまたはN(R1)(R2)(R3)(R4)からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含んでいてよく、R1、R2、R3およびR4は同一または異なっており、ある態様においてH、CH3またはC2H5である。他の態様において、XはHを含み、その場合にはポリマーは「酸形態」であるといわれる。Xは、Ca2+、Al3+、Fe2+およびFe3+等のイオンに表されるとおり多価でもよい。一般的にMn+により表される多価の対イオンの場合、対イオンあたりのスルホネート官能基の数は価数「n」に等しいであろう。
【0063】
ある態様において、FSAポリマーは、ポリマー骨格および骨格に結合している繰り返し側鎖を含み、前記側鎖がカチオン交換基を有する。ポリマーにはホモポリマーまたは2種以上のモノマーのコポリマーが含まれる。コポリマーは、非官能性モノマーおよびカチオン交換基またはその前駆体例えば、スルホニルフルオライド基(−SO2F)を有する第二のモノマーから通常形成されており、後に前記基を加水分解してスルホネート官能基にできる。例えば、第一のフッ化ビニルモノマーとともにスルホニルフルオライド基(−SO2F)を有する第二のフッ化ビニルモノマーを含むコポリマーを使用できる。好適な第一モノマーの例は、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)およびこれらの組み合わせの群から選択される少なくとも1メンバーを含む。TFEは望ましい第一モノマーである。
【0064】
他の態様において、第二モノマーの例は、スルホネート官能基またはポリマー中に望ましい側鎖を提供できる前駆体基を有するフッ化ビニルエーテルの少なくとも1種を含む。望まれる場合、エチレン、プロピレンおよびRが炭素原子数1から10の過フッ化アルキル基を含むR−CH=CH2を含む追加のモノマーを、これらのポリマーに取り込んでもよい。ポリマーは、本願においてランダムコポリマー(例えば、コモノマーの相対濃度が可能な限り一定に保たれている重合によりつくられるコポリマー)と称する種類のものでよく、そのためポリマー鎖に沿ったモノマーユニットの分布がその相対濃度および相対的な反応性と一致している。重合の間モノマーの相対濃度を変えることによりつくられるランダム性の低いコポリマーも使用してよい。欧州特許出願番号1026152A1(参照することにより本明細書に取り込む)に開示されているもの等、ブロックコポリマーと呼ばれる種類のポリマーも使用できる。
【0065】
ある態様において、本発明に使用するFSAポリマーは、少なくとも1種の高度にフッ化されているFSAを含み、ある態様において、過フッ化炭素骨格および以下の式により表される側鎖
【0066】
−(O−CF2CFRf)a−O−CF2CFR’fSO3X
【0067】
上式において、RfおよびR’fは、F、Clまたは炭素原子数1から10の過フッ化アルキル基から独立に選択され、aは0、1または2であり、XはH、Li、Na、KまたはN(R1)(R2)(R3)(R4)の少なくとも1つを含み、R1、R2、R3およびR4は同一または異なっており、ある態様においてH、CH3またはC2H5である。他の態様において、XはHを含む。上述のとおり、Xは多価でもよい。
【0068】
他の態様において、FSAポリマーは、例えば、米国特許第3,282,875号、第4,358,545号および第4,940,525号(全て参照することにより本明細書に取り込む)に開示されているポリマーを含む。有用なFSAポリマーの例は、パーフルオロカーボン骨格および以下の式により表される側鎖を含むが、
【0069】
−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO3X
【0070】
上式においてXは上記で定義されたとおりである。この種のFSAポリマーは米国特許第3,282,875号に開示されており、テトラフルオロエチレン(TFE)および過フッ化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO2F、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオライド)(PDMOF)の共重合の後、スルホニルフルオライド基の加水分解によりスルホネート基に変換し、必要に応じイオン交換して所望のイオン形態に変換することにより製造できる。米国特許第4,358,545号および第4,940,525号に開示されているこの種のポリマーの例は、−O−CF2CF2SO3X側鎖を有するが、Xは前記で定義したとおりである。このコポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)および過フッ化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF2SO2F、パーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオライド)(POPF)の共重合の後、加水分解および更に必要に応じてイオン交換することにより製造できる。
【0071】
他の態様において、FSAポリマーには、例えば、参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2004/0121210A1に開示されているポリマーがある。有用なFSAポリマーの例は、テトラフルオロエチレン(TFE)および過フッ化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF2CF2CF2SO2Fの共重合の後、スルホニルフルオライド基の加水分解によりスルホネート基に変換し、望まれる場合イオン交換してフルオライド基を所望のイオン形態に変換することにより製造できる。他の態様において、FSAポリマーには、例えば、参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2005/0037265A1に開示されているポリマーがある。有用なFSAポリマーの例は、CF2=CFCF2OCF2CF2SO2Fおよびテトラフルオロエチレンの共重合の後、スルホニルフルオライド基をKOHによる加水分解によりスルホネート基に変換し、酸によりイオン交換してカリウムイオン塩を酸形態に変換することにより製造できる。
【0072】
他の態様において、本発明に使用するFSAポリマーは典型的には、約33未満のイオン交換比を有する。「イオン交換比」または「IXR」は、カチオン交換基に対するポリマー骨格中の炭素原子数を意味する。約33未満の範囲内では、IXRは特定の用途に望まれるとおり変えることができる。ある態様において、IXRは約3から約33であり、他の態様において、約8から約23である。
【0073】
ポリマーのカチオン交換容量は、当量(EW)により表されることが多い。本願の目的には、当量(EW)は、1当量の水酸化ナトリウムの中和に要する酸形態のポリマーの重量であると定義される。ポリマーがパーフルオロカーボン骨格を有し、側鎖が−O−CF2−CF(CF3)−O−CF2CF2SO3H(またはその塩)を含むスルホネートポリマーの場合には、約8から約23のIXRに相当する当量範囲は約750EWから約1500EWである。このポリマーのIXRは、式:50IXR+344=EWを利用して当量と関連づけることができる。米国特許第4,358,545号および第4,940,525号(参照することにより本明細書に取り込む)に開示されているスルホネートポリマー、例えば、−O−CF2CF2SO3H(またはその塩)の側鎖を有するポリマーに対して同じIXR範囲が利用される場合、当量は幾分低くなるが、それはカチオン交換基を含むモノマーユニットの分子量が低いためである。約8から約23のIXR範囲では、対応する当量範囲は約575EWから約1325EWである。このポリマーのIXRは、式:50IXR+178=EWを利用して当量と関連づけることができる。
【0074】
FSAポリマーはコロイド水性ディスパージョンとして調製できる。それらは、他の媒体中の懸濁液の形態でもよく、他の媒体の例としてはアルコール、テトラヒドロフラン等の水溶性エーテル、水溶性エーテルの混合物およびこれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。ディスパージョンをつくる際に、ポリマーを酸形態で使用できる。米国特許第4,433,082号、第6,150,426号および国際公開番号03/006537(参照することにより本明細書に取り込む)は、水性アルコールディスパージョンをつくる方法を開示している。ディスパージョンがつくられた後、FSA濃度およびディスパージョン体組成は当業界に公知の方法により調整可能である。
【0075】
FSAポリマー等のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンは、安定したコロイドが形成される限り、できるだけ小さな粒径を有するのが典型的である。FSAポリマーの水性ディスパージョンは、E. I. du Pont de Nemours and Company(デラウェア州、ウィルミントン)からナフィオン(Nafion;登録商標)ディスパージョンとして市販されている。好適なFSAポリマーの例は、以下の構造を有するコポリマーを含む:
【0076】
【化2】
【0077】
コポリマーは、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(4−メチル−3,6−ジオキサ−7−オクテン−1−スルホン酸)を含み、mが1である。
【0078】
米国特許出願公開番号2004/0121210A1または米国特許出願公開番号2005/0037265A1から得られるFSAポリマーの水性ディスパージョンは、米国特許第6,150,426号に開示されている方法を利用してつくることができる。前出の米国特許および特許出願の開示を参照することにより本明細書に取り込む。
【0079】
ポリチエノチオフェンの対イオン/分散剤として使用できる好適なポリマー酸は以下の構造を有し:
【0080】
【化3】
【0081】
上式において、m、n、pおよびqの少なくとも2つはゼロより大きい整数であり;A1、A2およびA3は、アルキル、ハロゲン、yがゼロより大きい整数であるCyF2y+1、O−R(Rはアルキル、パーフルオロアルキルおよびアリールからなる群から選択される)、CF=CF2、CN、NO2およびOHからなる群から選択され;Xは、SO3H、PO2H2、PO3H2、CH2PO3H2、COOH、OPO3H2、OSO3H、Arが芳香族であるOArSO3H、NR3+(Rがアルキル、パーフルオロアルキルおよびアリールからなる群から選択される)およびCH2NR3+(Rがアルキル、パーフルオロアルキルおよびアリールからなる群から選択される)からなる群から選択される。A1、A2、A3およびX置換基は、オルト、メタおよび/またはパラ位に位置してよい。コポリマーは、二元でも、三元でも、四元でもよい。
【0082】
ある態様において、チエノチオフェンまたはチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーは、ポリマー酸コロイドを含む水性媒体中で酸化重合される。典型的には、チエノチオフェンまたはチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーは、少なくとも1種の重合触媒、少なくとも1種の酸化剤およびコロイド状ポリマー酸粒子を含む水性ディスパージョンと混合され、またはそれに加えられる。この態様において、重合反応が進行する準備ができるまで酸化剤および触媒がモノマーと通常混合されないならば、混合または添加の順序を変えてもよい。重合触媒は、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、硫酸セリウム(III)等およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含むが、これらに限定されない。酸化剤は、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含むが、これらに限定されない。場合によっては、酸化剤および触媒が同じ化合物を含んでいてもよい。酸化重合により、コロイド内に含まれるポリマー酸の負の電荷を有する(例えば、スルホネートアニオン、カルボキシラートアニオン、アセチレートアニオン、ホスホナートアニオン、組み合わせ等)側鎖により電荷のバランスがとれている、正の電荷を持つ導電性ポリマー性チエノチオフェンおよび/またはチエノ[3,4−b]チオフェンを含む安定な水性ディスパージョンが得られる。好適なプロセス条件ならばどのような条件でもチエノチオフェンの重合に利用してよいが、約8から約95℃の温度範囲ならびにディスパージョンの取得、混合および維持に充分な条件およびデバイスを利用するのが有用である。
【0083】
本発明のある態様において、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)および少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンの製造方法は、以下の工程を含む:(a)少なくとも1種のポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(b)少なくとも1種の酸化剤を工程(a)のディスパージョンに加える工程;(c)少なくとも1種の触媒または酸化剤を工程(b)のディスパージョンに加える工程;および(d)チエノ[3,4−b]チオフェンモノマーを工程(c)のディスパージョンに加える工程。この方法の別な態様は、酸化剤を加える前に、ポリマー酸の水性ディスパージョンにチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーを加える工程を含む。他の態様は、水およびチエノ[3,4−b]チオフェンを含む水性ディスパージョンの形成(例えば水中のチエノ[3,4−b]チオフェンの濃度はどの程度でもよく、通常チエノ[3,4−b]チオフェンが約0.05重量%から約50重量%の範囲である)、このチエノ[3,4−b]チオフェン混合物を、酸化剤および触媒の添加前またはその後に、ポリマー酸の水性ディスパージョンに加える工程を含む。更に他の態様において、チエノチオフェンモノマーは水と親和性のある有機溶媒に溶解され、この溶解されたモノマー溶液が、酸化剤および/または触媒の添加前またはその後に、ポリマー酸の水性ディスパージョンに加えられる。
【0084】
場合によっては、ディスパージョンが少なくとも1種の金属を含むことがある(例えば少なくとも1種のイオン)。ディスパージョンに添加または存在してよい金属の例は、特に、Fe2+、Fe3+、K+およびNa+、これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。酸化剤:モノマーモル比は、通常約0.05から約10であり、一般的に約0.5から約5の範囲である(例えば、本発明の重合工程の間)。望まれる場合、ディスパージョンをカチオン性およびイオン交換樹脂に曝し、金属の量を低減または除去することも可能である。
【0085】
チエノチオフェンモノマーの重合は、通常水と混和性である共ディスパージョン体の存在下で実施できる。好適な共ディスパージョン体の例は、エーテル、アルコール、エーテル、環状エーテル、ケトン、ニトリル、スルホキシドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。ある態様において、共ディスパージョン体の量は約30体積%未満である。ある態様において、共ディスパージョン体の量は約60体積%未満である。ある態様において、共ディスパージョン体の量は約5%から約50体積%である。ある態様において、共ディスパージョン体は少なくとも1種のアルコールを含む。ある態様において、共ディスパージョン体は、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール、メタノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンの群から選択される少なくとも1メンバーを含む。共ディスパージョン体は、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、酢酸、これらの混合物等からなる群から選択される少なくとも1メンバー等の有機酸を含んでいてよい。あるいは、前記酸は、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)等の水溶性ポリマー酸または上述の第二コロイド形成性酸を含んでいてもよい。酸の組み合わせも使用できる。
【0086】
有機酸は、酸化剤またはチエノチオフェンモノマーのいずれか最後に加えられるものの添加より先に工程のどの時点で重合混合物に加えることもできる。ある態様において、有機酸は、チエノチオフェンモノマーおよびコロイド形成性ポリマー酸の両者より先に加えられ、酸化剤が最後に加えられる。ある態様において、チエノチオフェンモノマーの添加より先に有機酸が加えられ、その後コロイド形成性ポリマー酸が加えられ、最後に酸化剤が加えられる。他の態様において、合成したままの水性ディスパージョンがイオン交換樹脂(複数可)により処理された後、ポリマー共酸を水性ディスパージョンに加えることもできる。共ディスパージョン体は、酸化剤、触媒またはモノマーのいずれか最後に加えられるものの添加より先に、どの時点でも重合混合物に加えることができる。
【0087】
本発明の他の態様において、上述の方法のいずれかの完了および重合の完了後、合成したままの水性ディスパージョンを、安定した水性ディスパージョンを製造するのに好適な条件下で少なくとも1種のイオン交換樹脂と接触させる。ある態様において、合成したままの水性ディスパージョンを、第一イオン交換樹脂および第二イオン交換樹脂と接触させる。他の態様において、第一イオン交換樹脂は、上述のスルホン酸カチオン交換樹脂等の酸性カチオン交換樹脂を含み、第二イオン交換樹脂は、3級アミンまたは4級交換樹脂等の塩基性アニオン交換樹脂を含む。
【0088】
イオン交換は、流体媒質(水性ディスパージョン等)中のイオンが、流体媒質に不溶の固定された固体粒子に結合している同じような電荷を持つイオンと交換する、可逆性の化学反応を含む。「イオン交換樹脂」という用語は、本願においてそのような材料全てを意味するように使用される。樹脂は、イオン交換基が結合しているポリマー性基材の架橋性により不溶性にされている。イオン交換樹脂は、交換用に正の電荷を持つ可動イオンが利用できる酸性カチオン交換樹脂と、交換可能なイオンが負の電荷を持つ塩基性アニオン交換樹脂に分類される。
【0089】
酸性カチオン交換樹脂および塩基性アニオン交換樹脂の両方とも本発明に使用できる。ある態様において、酸性カチオン交換樹脂は、スルホン酸カチオン交換樹脂等の有機酸カチオン交換樹脂を含む。本発明の実施における使用に企図されるスルホン酸カチオン交換樹脂は、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノール−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼン−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含んでよい。他の態様において、酸性カチオン交換樹脂は、カルボン酸、アクリル酸またはリン酸カチオン交換樹脂およびこれらの混合物等の有機酸カチオン交換樹脂を少なくとも1種含む。更に、異なるカチオン交換樹脂の混合物を使用してもよい。多くの場合、塩基性イオン交換樹脂を利用してpHを望まれるレベルに調整できる。場合によっては、特に水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化セシウムおよびこれらの混合物の溶液等の塩基性水溶液によりpHを更に調整することもできる。
【0090】
他の態様において、塩基性アニオン交換樹脂は、少なくとも1種の3級アミンアニオン交換樹脂を含む。本発明の実施における使用に企図される3級アミンアニオン交換樹脂は、3級アミン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、3級アミン化架橋スチレンポリマー、3級アミン化フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、3級アミン化ベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含んでよい。更なる態様において、塩基性アニオン交換樹脂は、少なくとも1種の4級アミンアニオン交換樹脂またはこれらと他の交換樹脂との混合物を含む。
【0091】
第一および第二イオン交換樹脂が合成したままの水性ディスパージョンと接触するのは、同時でも連続的でもよい。例えば、ある態様において、導電性ポリマーを含む合成したままの水性ディスパージョンに両樹脂を同時に加え、少なくとも約1時間、例えば約2時間から約20時間ディスパージョンと接触させておいてよい。次いで、イオン交換樹脂を濾過によりディスパージョンから除去できる。あるイオン濃度を得るために、この手順を望まれるとおり繰り返すことが可能である。フィルターのサイズは、比較的大きいイオン交換樹脂粒子が除かれる一方で、より小さいディスパージョン粒子が通過するように選択される。理論または説明により拘束されるのを望まないが、イオン交換樹脂は重合を停止させ、合成したままの水性ディスパージョンからイオン性および非イオン性不純物ならびに未反応モノマーのほとんどを効果的に除去すると考えられている。更に、塩基性アニオン交換樹脂および/または酸性カチオン交換樹脂はディスパージョンのpHを上昇させる。一般的に、酸化剤のミリ当量あたり約1−2gのイオン交換樹脂を使用して酸化剤を除去する。ある態様において、Fe2(SO4)3*H2Oの1gあたり5−10gのイオン交換樹脂が使用される。一般的に、コロイド形成性ポリマー酸の約1グラムあたり少なくとも1グラムのイオン交換樹脂が使用される。ある態様において、Bayer GmbHから市販の弱塩基性アニオン交換樹脂であるLewatit(登録商標)MP62 WSの約1グラムおよびBayer GmbHから市販の強酸性酸カチオン交換樹脂であるLewatit(登録商標)MonoPlus S100の約1グラムが、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)および少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の組成物のグラムあたりに使用される。通常、ディスパージョンのpHは約1から約5の範囲である。
【0092】
ある態様において、フッ化ポリマー性スルホン酸コロイドによる、またはその存在下でのチエノ[3,4−b]チオフェンの重合から得られる水性ディスパージョンが、フッ化ポリマーを含む水性ディスパージョンとともに最初に反応容器に入れられる。ディスパージョンに、順に、酸化剤およびチエノ[3,4−b]チオフェンモノマー;または順にチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーおよび酸化剤(例えば、場合によっては、1つの材料が酸化剤および触媒として機能することがある)。ディスパージョンが混合され、制御された温度で重合が進行する(例えば、ディスパージョンを維持するために混合する)。重合が完了すると、混合物は強酸性カチオン樹脂および塩基性アニオン交換樹脂で停止され、攪拌および濾過される。あるいは、ナフィオン(登録商標)ディスパージョンの添加に先立ちチエノ[3,4−b]チオフェンが水に加えられ分散し、その後触媒および/または酸化剤が加えられる。酸化剤:モノマーモル比は約0.05から約10、一般的に約0.5から約5の範囲である。チエノ[3,4−b]チオフェンモノマーに対するフッ化ポリマーの重量比は、約1から約100、一般的に約5から約50の範囲である。全体的な固形分は、一般的に約0.1%から約10%の範囲であり、ある態様において約2%から約5%である。重合温度は一般的に約8℃から約95℃の範囲であり、ある態様において約15℃から約80℃である。重合時間は一般的に約1から約24時間の範囲であり、ある態様において約4から約6時間である。
【0093】
ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化ポリマー性スルホン酸コロイドを含むポリチエノチオフェンポリマー酸コロイドを含む合成したままの水性ディスパージョンは、広範囲のpHを持つことがあり、典型的には約1から約8の間に調整でき、一般的には約2から約3のpHを有する。酸性度は腐食性なので、より高いpHを持つことがしばしば望ましい。公知の技術を利用して、例えばイオン交換または塩基性水溶液による滴定によりpHを調整できることが見いだされた。ポリチエノチオフェンおよび他のコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンを同様に処理して、pHを調整することができる。
【0094】
他の態様において、導電性の高い添加剤をポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンに加えて、より導電性の高いディスパージョンが形成される。比較的pHの高いディスパージョンが形成できるので、導電性添加剤、特に金属添加剤は、通常、ディスパージョン中の酸により攻撃されない。更に、ポリマー酸はその性質としてコロイド状であり、その表面が大部分酸基を含んでいるので、コロイド表面に導電性ポリチエノチオフェンが形成可能である。この独特な構造のため、望まれる場合、導電性の高い添加剤を比較的低重量パーセント使用して、浸透閾値に達することができる。好適な導電性添加剤の例は、金属粒子およびナノ粒子、ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、グラファイトファイバまたは粒子、カーボン粒子およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。
【0095】
本発明の他の態様において、1態様としてポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー酸を含む、ポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸を含む正孔注入層水性ディスパージョンが提供される。ある態様において、正孔注入層は、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸を含む水性ディスパージョンからキャストされる(例えば、特にスピンコーティング、インクジェット印刷によるキャスト)。ある態様において、正孔注入層は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化ポリマー酸コロイドを含む水性ディスパージョンからキャストされる。他の態様において、フッ化ポリマー酸コロイドは、フッ化ポリマー性スルホン酸コロイドである。更に他の態様において、正孔注入層は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびパーフルオロエチレンスルホン酸コロイドを含む水性ディスパージョンからキャストされる。
【0096】
本発明のある態様において、正孔注入層のキャストされた薄膜または層は、典型的には高温でアニーリングされる(例えば、約250℃まで)。「アニーリング」とは、ポリマー繰り返し単位を増加させる(例えばMALDIにより測定)に充分な条件下で膜が処理されることを意味する。どのような理論または説明にも拘束されることを望まないが、高温でのアニーリングは、キャストされた正孔注入層の導電性を高めることができる。MALDI−TOF質量分析法により、アニーリング後に導電性ポリマー鎖中の繰り返し単位の数が増加することが確認できる。アニーリングされた膜のこのような向上した性質が、同じ電圧でのより高い輝度および長いデバイス寿命等デバイス性能の向上をもたらす。どのような好適なアニーリング雰囲気を利用してもよいが、好適な雰囲気の例は、特に酸素、窒素を含む。
【0097】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間(TOF)質量分析法は、本発明で合成される導電性ポリマー中のポリチエノチオフェン鎖の分子量を決定するのに使用される。導電性ポリマーディスパージョンからドロップキャストされた膜は、MALDI質量分析法を用いて分析された。膜が高温で(例えば約180から250℃)処理された後、ポリチエノチオフェン鎖中の繰り返し単位の数が増加することが見いだされた。この結果は、導電性ポリマー膜が高温でアニーリングされると、固体状態で更なる重合が起こり、それにより導電性ポリマーの鎖長が増加することを示している。
【0098】
他の態様において、正孔注入層は、ポリマー性チエノ[3,4−b]チオフェンを含むポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸を追加の水溶性または水分散性材料と混合して含む水性ディスパージョンからキャストされる。材料の最終用途により、添加可能な追加の水溶性または水分散性材料の例には、ポリマー、染料、コーティング助剤、カーボンナノチューブ、ナノワイヤー、界面活性剤(RfがF(CH2CH2)yであり、xが0から約15であり、yが1から約7である構造RfCH2CH2O(CH2CH2O)xHを有するZonyl(登録商標)FSOシリーズ非イオンフッ素界面活性剤(例えばDuPontから市販)等のフッ素界面活性剤、Dynol(登録商標)およびSurfynol(登録商標)シリーズ(Air Products and Chemicals, Incから市販)等のアセチレンジオール系界面活性剤)、有機および無機の導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、架橋剤およびこれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。前記材料は簡単な分子でもポリマーでもよい。他の好適な水溶性または水分散性ポリマーの例は、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアミン、ポリピロール、ポリアセチレンおよびこれらの組み合わせ等の少なくとも1種の導電性ポリマーを含む。
【0099】
他の態様において、本発明は、エレクトロニクスデバイスであって、前記デバイスの層の少なくとも1つが本発明の正孔注入層を含む、2つの電気接点層の間に位置する少なくとも1つの電気活性層(通常半導体共役小分子またはポリマー)を含むエレクトロニクスデバイスに関する。本発明の1態様が図1に示すOLEDデバイスにより表されている。図1を参照すると、図1はアノード層110、正孔注入層120、エレクトロルミネッセンス層130、カソード層150を含むデバイスを表す。カソード層150に隣接して、任意の電子注入/輸送層140がある。正孔注入層120とカソード層150(または任意の電子注入/輸送層140)の間に、エレクトロルミネッセンス層130がある。あるいは、通常中間層と呼ばれる正孔輸送および/または電子ブロック層が、正孔注入層120とエレクトロルミネッセンス層130の間に挿入されていてもよい。
【0100】
前記デバイスは、アノード層110またはカソード層150に隣接してよい基材または支持体(図示せず)を含んでもよい。基材がアノード層110に隣接していることが最も多い。基材は柔軟性でも剛直でもよく、有機でも無機でもよい。一般的に、ガラスまたは柔軟な有機フィルムが基材として用いられる(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレン−2,6−ジカルボキシレート)およびポリスルホンを含む柔軟な有機フィルム)。アノード層110は、カソード層150に比べると正孔注入がより効率的である電極を含む。アノードは、金属、混合金属、合金、金属酸化物または混合酸化物を含む材料を含んでいてよい。好適な材料は、2族元素(例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、11族元素、4、5および6族の元素、および8−10族遷移元素の混合酸化物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む(全体を通してIUPACナンバーシステムを使用しており、前記システムでは周期律表の族が左から右へ1−18として番号づけられている[CRC Handbook of Chemistry and Physics、第81版、2000年])。アノード層110が光透過性である場合、酸化インジウム−酸化スズ等の12、13および14族元素の混合酸化物を使用してよい。本願で使用するとおり、「混合酸化物」という言葉は、2族元素または12、13または14族元素から選択される2種以上の異なるカチオンを有する酸化物を意味する。アノード層110の材料の非限定的な具体例は、酸化インジウム−酸化スズ(「ITO」)、酸化アルミニウム−酸化スズ、ドーピングされている酸化亜鉛、金、銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。アノードは、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはポリピロール等の導電性有機材料も含むことがある。
【0101】
アノード層110は、化学蒸着法または物理蒸着法あるいはスピンキャスト法により形成できる。化学蒸着法は、プラズマ増強化学蒸着法(「PECVD」)または有機金属化学蒸着法(「MOCVD」)として実施できる。物理蒸着法は、イオンビームスパッタリングを含む全形態のスパッタリングならびに電子線蒸発および抵抗蒸発を含む。物理蒸着法の具体的な形態には、RFマグネトロンスパッタリングおよび誘導結合プラズマ物理蒸着(「IMP−PVD」)がある。これらの蒸着技術は、半導体製造分野で公知である。
【0102】
アノード層110はリソグラフィー操作の間にパターニングすることができる。パターンは望まれるとおりに変えてよい。前記層は、例えば第一の電気接点層材料の塗布より先に第一の柔軟性のある複合バリア構造上にパターンを有するマスクまたはレジストを置くことにより、パターンに形成できる。あるいは、前記層を、オーバーオール層(overall layer)(ブランケット堆積(blanket deposit)とも呼ばれる)として塗布し、その後、例えばパターンを有するレジスト層および湿式化学エッチングまたは乾式エッチング技術を利用してパターニングしてもよい。当分野に公知である他のパターニング法も利用できる。エレクトロニクスデバイスがアレイ中に設置される場合、アノード層110は、典型的には、実質的に同方向へ伸びる長さを有する実質的に平行なストリップへと形成される。
【0103】
正孔注入層120は、通常、当業者に公知の様々な技術を利用して支持体上にキャストされる。典型的なキャスト技術には、例えば、特に、溶液キャスト法、ドロップキャスト法、カーテンキャスト法(curtain casting)、スピンコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷がある。正孔注入層がスピンコーティングにより塗布される場合、ディスパージョンの粘度および固形分ならびに回転速度を利用して、得られる膜の厚さを調整できる。スピンコーティングにより塗布される膜は一般的に連続的でパターンがない。別法として、参照することにより本明細書に取り込む米国特許第6,087,196号に記載のインクジェット印刷等数々の堆積方法を利用して、正孔注入層をパターニングできる。
【0104】
エレクトロルミネッセンス(EL)層130は、典型的には、PPVと略されるポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリフルオレン、スピロポリフルオレンまたは他のELポリマー材料等の共役ポリマーでよい。EL層は、8−ヒドロキノリンアルミニウム(Alq3)およびトリス(2−(4−トリル)フェニルピリジン)イリジウム(III)等の比較的小さな分子の蛍光または燐光染料、デンドリマー、上述の材料を含むブレンドおよび組み合わせを含んでもよい。EL層は、無機量子ドットまたは半導性有機材料と無機量子ドットとのブレンドを含んでよい。選択される特定の材料は、特殊な用途、操作中に利用される電位または他の因子に依存することがある。エレクトロルミネッセンス有機材料を含むEL層130は、スピンコーティング、キャスティングおよび印刷を含むどのような従来技術によっても溶液から塗布することができる。EL有機材料は、材料の性質によっては蒸着法により直接塗布することもできる。他の態様において、ELポリマー前駆体を塗布し、次いで、典型的には熱または他の外部エネルギー源(例えば可視光またはUV光)によりポリマーに変換することもできる。
【0105】
任意の層140は、電子注入/輸送の両方を促進するように機能できるが、層の界面で消光反応を防止するための閉込め層(confinement layer)としても作用することができる。すなわち、層140は、電子移動度を増進し、層130および150が直接接触している場合に起こりうる消光反応の可能性を低下させることができる。任意の層140のための材料の例は、金属キレート化オキシノイド化合物(例えばAlq3等);フェナントロリン系化合物(例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DDPA」)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DPA」)等);アゾール化合物(例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(「PBD」等)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(「TAZ」等);他の類似化合物;またはこれらの1つまたは複数の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。あるいは、任意の層140は無機でもよく、特に、BaO、CaO、LiF、CsF、NaCl、Li2O、これらの混合物を含む。
【0106】
カソード層150は、電子すなわち負電荷のキャリアを注入するのに特に効率のよい電極を含む。カソード層150は、第一の電気接点層(この場合アノード層110)よりも低い仕事関数を有する好適な金属または非金属ならばどのようなものでも含んでよい。本願で使用するとおり、「より低い仕事関数」という用語は、約4.4eV以下の仕事関数を有する材料を意味する。本願で使用するとおり、「より高い仕事関数」は、少なくとも約4.4eVの仕事関数を有する材料を意味する。
【0107】
カソード層のための材料は、1族のアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)、2族金属(例えば、Mg、Ca、Ba等)、12族金属、ランタニド(例えば、Ce、Sm、Eu等)およびアクチニド(Th、U等)から選択できる。アルミニウム、インジウム、イットリウムおよびこれらの組み合わせ等の材料も利用できる。カソード層150のための材料の非限定的な具体例は、カルシウム、バリウム、リチウム、セリウム、セシウム、ユーロピウム、ルビジウム、イットリウム、マグネシウム、サマリウムならびにこれらの合金および組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。Ca、BaまたはLi等の反応性のある低仕事関数金属が使用される場合、銀またはアルミニウム等より不活性な金属の保護膜を使用して、反応性金属を保護し、カソード抵抗を下げることができる。
【0108】
カソード層150は、通常、化学蒸着法または物理蒸着法により形成される。一般的に、カソード層は、アノード層110に関して上記で議論したようにパターニングされるであろう。デバイスがアレイ内にある場合、カソード層150は実質的に平行なストリップにパターニングされ、そこではカソード層ストリップの長さが実質的に同じ方向に伸び、アノード層ストリップの長さに対し実質的に垂直である。画素と呼ばれるエレクトロニクス素子はクロスポイント(アレイを上から見た場合、アノード層ストリップがカソード層ストリップと交差する点)に形成される。トップ発光デバイス(top emitting device)には、CaおよびBa等の低仕事関数金属の非常に薄い層とITO等のより厚い層の透明導電体の組み合わせが透明カソードとして使用できる。トップ発光デバイスは、より大きなアパーチャ比が実現できるのでアクティブマトリックスディスプレイに有利である。そのようなデバイスの例は、参照することにより本明細書に取り込むC.C.Wuらの「Integration of Organic LED’s and Amorphous Si TFT’s onto Flexible and Lightweight Metal Foil Substrates」、IEEE Electron Device Letters、18巻、12号、12月、1997年に記載されている。
【0109】
他の態様において、追加の層(複数可)が有機エレクトロニクスデバイス内に存在してもよい。例えば、正孔注入層120とEL層130の間の層(図示せず)が、他の機能の中でも特に、正の電荷の輸送、層間のエネルギーレベルのマッチングを促進し、保護層として機能することができる。同様に、EL層130とカソード層150の間の追加層(図示せず)が、他の機能の中でも特に、負の電荷の輸送、層の間のエネルギーレベルのマッチングを促進し、保護層として機能することができる。当業界に公知の層も含まれてよい。更に、上述の層はいずれも、2つ以上の層からできていてよい。あるいは、無機アノード層110、正孔注入層120、EL層130およびカソード層150のいくつかまたは全てを表面処理して、電荷キャリア輸送効率を高めてもよい。構成層のそれぞれのための材料の選択は、高デバイス効率およびより長いデバイス寿命の提供という目標を、製造コスト、製造の複雑さまたは潜在的な他の因子とバランスをとって決定できる。
【0110】
異なる層はどのような好適な厚さを持ってもよい。無機アノード層110は、通常約500nm以下、例えば約10−200nmであり;正孔注入層120は、通常約300nm以下、例えば約30−200nmであり;EL層130は、通常約1000nm以下、例えば約30−500nmであり;任意の層140は、通常約100nm以下、例えば約20−80nmであり;カソード層150は、通常約300nm以下、例えば、約1−150nmである。アノード層110またはカソード層150が少なくともいくらかの光を透過する必要がある場合、そのような層の厚さは約150nm以下のことがある。
【0111】
エレクトロニクスデバイスの用途により、EL層130は、信号により作用する発光層(発光ダイオード内等)でもよく、放射エネルギーに反応して印加電圧があってもなくても信号を発する材料(検出器または光電池等)の層でもよい。発光材料は、添加剤がある場合でもない場合でも他の材料のマトリックスに分散されてよいが、単独で層を形成してもよい。EL層130は一般的に約30−500nmの範囲の厚さを有する。
【0112】
ポリマー酸コロイドとともにつくられたポリチエノチオフェンを含む水性ディスパージョンを含む1つまたは複数の層を有することから利益を得る他の有機エレクトロニクスデバイスの例には以下のものがある:(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(例えば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザー)、(2)エレクトロニクスプロセスにより信号を検出するデバイス(例えば、光検出器(例えば光導電素子、光抵抗器、光電スイッチ、フォトトランジスタ、光電管)、IR検出器)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(例えば光電デバイスまたは太陽電池)および(4)1つまたは複数の有機半導体層を含む1つまたは複数のエレクトロニクス部品を含むデバイス(例えば、トランジスターまたはダイオード)。
【0113】
有機発光ダイオード(OLED)は、電子および正孔を、それぞれカソード150およびアノード110層からEL層130に注入し、ポリマー中に負の電荷および正の電荷を有するポーラロンを形成する。これらのポーラロンは、加えられた電界の影響下で移動し、反対の電荷を持つポーラロンによりエキシトンを形成し、その後放射再結合をうける。通常約12ボルト未満、多くの場合約5ボルト以下の、アノードとカソードの間の充分な電位差をデバイスに印加してよい。実際の電位差は、より大きなエレクトロニクス部品中のデバイスの用途に依存する。多くの態様において、エレクトロニクスデバイスの運転中、アノード層110は正の電圧にバイアスがかかっており、カソード層150は、実質的に地電位すなわちゼロボルトである。図示していない電池または他の電源(複数可)を、回路の一部としてエレクトロニクスデバイスに電気的に接続してよい。
【0114】
ポリマー性チエノ[3,4−b]チオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンからキャストされた正孔注入層が与えられているOLEDは、はるかに遅い輝度低下および電圧上昇とともに向上した寿命を持つことが見いだされた。正孔注入層は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化ポリマー性スルホン酸コロイドを合わせることにより得られる水性ディスパージョンからキャストされ、ある態様において、pHが約3.5を超える値に調整できる(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化セシウム等の塩基性化合物の添加により)水性ディスパージョンを含む。
【0115】
本発明により、デバイス製造の間ITO層のエッチングをはるかに少なくすることができる、酸性の低いまたはpHが中性の材料の使用が可能であり、次にはOLEDのポリマー層に拡散するInまたはSnイオンの濃度を低減できる。どのような理論または説明にもとらわれることを希望しないが、InおよびSnイオンは操作寿命の低下の一因になりうると考えられている。酸性が低いと、製造の間および長期間の保存の間、ディスプレイの金属部品(例えば導体パッド)の腐食も少なくなる。本発明は、残留水分と反応してディスプレイ中に酸を放出しゆっくりとした腐食につながるPEDOT/PSSA残渣の存在も除去する。
【0116】
酸性PEDOT/PSSAの供給に使用されるデバイスは、PEDOT/PSSAの比較的強い酸性を扱うために特別設計が必要である。例えば、ITO支持体上へのPEDOT/PSSAの塗布に使用するクロムメッキスロットダイ塗布ヘッドは、PEDOT/PSSAの酸性により腐食することが分かった。塗布された膜がクロム粒子により汚染されるので、ヘッドは使用できなくなる。PEDOT/PSSA系は、OLEDディスプレイの製造に使用できる特定のインクジェット印刷ヘッドにも悪影響を与える。前記ヘッドは、ディスプレイの正確な位置に正孔注入層および発光ポリマー層の両方を供給するために使用される。これらの印刷ヘッドは、インク中の粒子の内部トラップとしてニッケルメッシュフィルターを含んでいる。ニッケルフィルターは、酸性のPEDOT/PSSAにより分解し、使用できなくなる。これらの腐食問題は、本発明のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)の水性ディスパージョンを使用することにより、排除できないとしても低減可能である。
【0117】
更に、ある発光ポリマーは酸性条件に敏感であることが分かり、その発光能力は酸性の正孔注入層に接触していると低下する。低い酸性または中性のため、本発明のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)水性ディスパージョンを使用して正孔注入層を形成することは有利である。
【0118】
2種以上の異なる発光材料を利用するフルカラーまたはエリアカラーディスプレイの製造は、各発光材料がその性能を最大限にするため異なるカソード材料を必要とするならば、複雑になる。ディスプレイデバイスは、典型的には、光を発する多数の画素を含む。マルチカラーデバイスでは、少なくとも異なる2種の画素(サブピクセルと呼ばれることもある)が異なる色の光を発している。サブピクセルは、異なる発光材料で構成されている。発光材料の全てに良好なデバイス性能を与える単一のカソード材料を有することが望ましい。これにより、デバイス製造の複雑さが最小限になる。正孔注入層が本発明の水性ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)からつくられているマルチカラーデバイスでは共通のカソードを使用可能であることが見いだされた。カソードは、上記で議論した材料のいずれからもつくることができ、バリウムとより不活性な金属、例えば銀またはアルミニウム等による保護膜の組み合わせでよい。
【0119】
ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含むポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンを含む1つまたは複数の層を有することから利益を得る他の有機エレクトロニクスデバイスには以下のものがある:(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(例えば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザー)、(2)エレクトロニクスプロセスにより信号を検出するデバイス(例えば、光検出器(例えば光導電素子、光抵抗器、光電スイッチ、フォトトランジスタ、光電管)、IR検出器)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(例えば光電デバイスまたは太陽電池)および(4)1つまたは複数の有機半導体層を含む1つまたは複数のエレクトロニクス部品を含むデバイス(例えば、トランジスタまたはダイオード)。
【0120】
望まれる場合、正孔注入層は、水溶液または溶媒から塗布される導電性ポリマーの層により上塗りすることができる。導電性ポリマーは電荷輸送を促進し、被覆性も向上させる。好適な導電性ポリマーの例は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチエノチオフェン/ポリスチレンスルホン酸、ポリジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸、ポリアニリン−ポリマー酸コロイド、PEDOT−ポリマー酸コロイドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。
【0121】
更に他の態様において、本発明は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー性スルホン酸を含む電極を含む薄膜電界効果トランジスタに関する。薄膜電界効果トランジスタにおいて電極として使用するために、導電性ポリマーおよび前記導電性ポリマーを分散または溶解させる液体は、半導性ポリマーおよびその溶媒と親和性がある(例えば、ポリマーまたは半導性ポリマーの再溶解防止のため)。導電性ポリマーから製造される薄膜電界効果トランジスタ電極は、約10S/cmを超える導電率を有さなければならない。しかし、水溶性ポリマー酸によりつくられる導電性ポリマーは、通常、約10-3S/cm以下の範囲の導電率を提供する。したがって、本発明のある態様において、電極は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化コロイド形成性ポリマー性スルホン酸を、特にナノワイヤー、カーボンナノチューブ等の導電率向上剤と組み合わせて含む。本発明の更に他の態様において、電極は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性パーフルオロエチレンスルホン酸を、特にナノワイヤー、カーボンナノチューブ等の導電率向上剤と組み合わせて含む。本発明の組成物は、ゲート電極、ドレイン電極またはソース電極として薄膜電界効果トランジスタに使用できる。
【0122】
本発明の他の態様は図2に示す薄膜電界効果トランジスタを含む。図2を参照すると、図2は、ゲート電極220を片面に、ドレイン電極およびソース電極、それぞれ230および240を他の面に有する誘電性ポリマーまたは誘電性酸化物薄膜210を表す。ドレイン電極とソース電極の間には、有機半導性膜250が堆積している。ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブを含む本発明の水性ディスパージョンは、溶液薄膜析出における有機系誘電性ポリマーおよび半導性ポリマーとの親和性のため、ゲート、ドレインおよびソース電極の用途に理想的である。本発明の導電性組成物、例えばある態様においてポリチエノチオフェンおよびコロイド状パーフルオロエチレンスルホン酸は、コロイド状ディスパージョンとして存在できるので、高導電率への浸透閾値に達するのに必要な導電性フィラーの重量パーセントが(水溶性ポリマー性スルホン酸を含む組成物に比べて)低くて済む。
【0123】
有機薄膜トランジスタ(OTFT)デバイスにおいて、ソース電極からチャンネル材料への電荷注入は、電極の仕事関数の不一致とチャンネル材料のエネルギーレベルにより限定されうるが、これは電極とチャンネル材料の間の接点において著しい電圧低下をもたらす。その結果、見かけの電荷移動度は低下し、OTFTデバイスは低電流しか通せない。OLEDにおける正孔注入層としての用途と同様に、本発明の導電性ポリマー膜の薄層をOTFTデバイスのソース電極とチャンネル材料の間に塗布し、エネルギーレベルの一致を向上させ、接点電圧低下を低減させ、電荷注入を向上させることができる。その結果、OTFTデバイスにおいて、より多い電流およびより高い電荷移動度が達成できる。
【0124】
本発明の更に他の態様において、チエノチオフェンモノマーをポリマー性スルホン酸コロイドの存在下で重合させる工程を含む、ポリチエノチオフェンの水性ディスパージョンの製造方法に関する。本発明の方法のある態様において、ポリチエノチオフェンは、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含み、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸はフッ化されている。本発明の方法の他の態様において、ポリチエノチオフェンはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含み、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸は過フッ化されている。更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸は、パーフルオロエチレンスルホン酸を含む。重合は水の存在下で実施される。得られる混合物をイオン交換樹脂で処理し、副生成物を除去することができる。
【0125】
本発明を、以下の非限定的実施例を参照してより詳細に説明する。以下の実施例は本発明のある態様を説明したが、本願に添付する特許請求範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0126】
実施例1
ディスパージョンA
0.0575グラム(0.111ミリモル)の硫酸鉄(III)水和物(97%、Sigma-Aldrich Chemical Co)および0.135グラム(0.515ミリモル)の過硫酸カリウム(99+%、Fischer Scientific Co.)を、44.53gの脱イオン水とともに60mlのジャケット付き反応フラスコに加えた。固形物が溶解するまで、系を5分間混合した。15.47グラム(1.406ミリ当量)の10%ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョン(Aldrich Chemical Co.から入手)を反応器に加えた。反応器を反応混合物で完全に満たした。ジャケット付き反応フラスコを調整し、16℃の反応温度に維持した。0.0807g(0.576ミリモル)のチエノ[3,4−b]チオフェンを反応混合物に加えた。重合の間、反応器の内容物をよく混合し、確実に安定なディスパージョンとした。反応塊(reaction mass)は、20分以内に、急速に明るい緑からエメラルドグリーンに、不透明な濃青色に変わった。モノマーの導入後、重合を4時間進行させた。反応生成物をカチオン樹脂アンバーライト(Amberlite;登録商標)IR−120(プラス)およびアニオンイオン交換樹脂ルワティット(Lewatit;登録商標)MP62により精製した。
【0127】
ディスパージョンB
15gのディスパージョンAを、連続的に、2.8gのアンバーライト(登録商標)IR−120カチオン交換樹脂(シグマ−アルドリッチ ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Co))および2.8gのルワティット(登録商標)MP−62アニオン交換樹脂(Fluka, シグマ−アルドリッチ ケミカル社)に通して精製し、不透明な濃青色のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)/ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョンを得た。
【0128】
前記ディスパージョンを、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)により残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(7ppm以下);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(2ppm以下);Mg(3ppm未満);Mn(1ppm未満);Ni(4ppm未満);Zn(5ppm未満);Na(2ppm未満);K(1ppm未満)。
【0129】
ディスパージョンC
別に、15gのディスパージョンAを、5.0gのアンバーライト(登録商標)IR−120および5.0gのルワティット(登録商標)MP−62イオン交換樹脂を加えて精製し、不透明な濃青色のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)/ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョンと樹脂とのスラリーを得た。終夜の交換の後、スラリーを0.45ミクロンフィルターに通して濾過し、精製されたディスパージョンからイオン交換樹脂を分離した。
【0130】
前記ディスパージョンを、ICP−MSにより残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(7ppm以下);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(86ppm);Mg(5ppm);Mn(1ppm未満);Ni(7ppm以下);Zn(5ppm未満);Na(2ppm未満);K(59ppm)。
【0131】
ディスパージョンD
終夜の交換の後、ディスパージョンAスラリーの残りの30グラムを、5.0μmフィルターに通して濾過し、精製されたディスパージョンからイオン交換樹脂を分離した。
【0132】
前記ディスパージョンを、ICP−MSにより残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(3ppm未満);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(96ppm);Mg(6ppm);Mn(1ppm未満);Ni(9ppm以下);Zn(5ppm未満);Na(2ppm未満);K(91ppm)。
【0133】
ディスパージョンE
217グラムの脱イオン水を500mlのジャケット付き反応器に加えた。79.87グラム(72.6ミリ当量)の10%ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョン(Aldrich Chemical Co.)を反応器に加え、オーバーヘッドスターラーで5分間混合した。ジャケット付き反応フラスコを調整し、16℃の反応温度を維持した。0.7973グラム(5.7ミリモル)のチエノ[3,4−b]チオフェンを、52.3グラムの脱イオン水に溶かした3.3グラム(6.4ミリモル)のFe2(SO4)3*H2Oとともに、反応器に別に共供給した。反応塊は、20分以内に、明るい緑からエメラルドグリーンに、濃青色に変わった。モノマーおよび酸化剤の導入後、重合を4時間進行させた。次いで、反応器の内容物を、17.5グラムのアンバーライト(登録商標)IR−120カチオン交換樹脂(シグマ−アルドリッチ ケミカル社)および17.5グラムのルワティット(登録商標)MP−62アニオン交換樹脂(Fluka,シグマ−アルドリッチ ケミカル社)を含む500mlのNalgene(登録商標)ボトルに加えることにより、得られたディスパージョンを精製すると、不透明な濃青色のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)/ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョンが得られた。前記ディスパージョンを、連続的に、10、5、0.65および0.45ミクロンの細孔径のフィルターに通して濾過した。
【0134】
前記ディスパージョンを、ICP−MSにより残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(1ppm未満);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(156ppm);Mg(1ppm未満);Mn(1ppm未満);Ni(1ppm未満);Zn(1ppm未満);Na(3ppm);K(1ppm未満)。
【0135】
比較例
デバイス性能の比較のため、参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号第2005−0151122−A1にしたがい、ポリマー対イオン/ドーパント/分散剤としてポリ(スチレンスルホン酸)を利用してポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)のディスパージョンを作成した。前記ディスパージョンをPTT:PSSAと称する。
【0136】
導電率および濾過性
ディスパージョンBは、0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターを用いて濾過可能である。ディスパージョンBのドロップキャスト膜(1インチ×1インチのガラス支持体上に0.5mL)は、窒素雰囲気下180℃で15分間アニーリングした後、導電率が2.56×10-2S/cmの膜を与えた。アニーリング前のドロップしたままの膜の導電率は9.03×10-7S/cmであった。導電率は、4点プローブ法を利用しアルゴンを充満させたグローブボックス中で測定した。
【0137】
ディスパージョンCは、0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターを用いて濾過可能である。ディスパージョンCのドロップキャスト膜(1インチ×1インチのガラス支持体上に0.5mL)は、窒素雰囲気下180℃で15分間アニーリングした後、導電率が1.77×10-3S/cmの膜を与えた。アニーリング前のドロップしたままの膜の導電率は6.32×10-7S/cmであった。導電率は、4点プローブ法を利用しアルゴンを充満させたグローブボックス中で測定した。
【0138】
ディスパージョンDは、0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターを用いて濾過可能である。ディスパージョンDのドロップキャスト膜(1インチ×1インチのガラス支持体上に0.5mL)は、窒素雰囲気下180℃で15分間アニーリングした後、導電率が1.26×10-1S/cmの膜を与えた。アニーリング前のドロップしたままの膜の導電率は7.92×10-7S/cmであった。導電率は、4点プローブ法を利用しアルゴンを充満させたグローブボックス中で測定した。
【0139】
デバイス実施例
実施例2
19.8mgのMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ、5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−p−フェニレン−ビニレン)、ADS130RE、カナダ国、ケベック州、Baie D’UrfeのAmerican Dye Source製)を60℃のホットプレート上で2時間2.84gのトルエンに溶解させて、発光ポリマーMEH−PPVのトルエン溶液を調製し、次いで、0.45μmPVDFフィルターで濾過した。前記溶液を以下で溶液Aと称する。この実施例により得られたデバイスを図2に示すが、任意の層140はない。
【0140】
酸化インジウム酸化スズを塗布したガラス支持体(2.5×2.5×0.7cm、表面抵抗約12Ω/スクエア)を、連続的に、洗剤を入れた脱イオン水、脱イオン水、メタノール、イソプロパノールおよびアセトンにより、それぞれ5−10分間超音波洗浄した。ITO支持体を、異なる洗浄溶媒の間に乾燥させた。次いで、ITO支持体を、SPI Prep IIプラズマエッチャー中で酸素プラズマにより約10分間処理した。その後、ITO支持体に、Laurell Model WS−400−N6PPスピナー上で、1500rpmで1分間、ディスパージョンBをスピンコートした。ディスパージョンBは、スピンコートの前に0.45ミクロンPVDFフィルターで濾過した。PTT:ナフィオンの均一な膜が得られた。PTT:ナフィオン層の厚さは約40nmであった。PTTを塗布したITO支持体を、窒素保護下で、130℃で15分間アニーリングした。次いで、約60nmの厚さのMEH−PPVを、2000rpmの回転速度で、溶液AからPTT:ナフィオン正孔注入/輸送層上にスピンコートした。次いで、試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に置かれている真空エバポレーターのチャンバー中に移した。20nmの厚さのCa層を、1.5−3.0Å/sの速度でマスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さのAg層を、堆積速度約3.0Å/sでCa層の上に真空堆積した。デバイスの作用面積は約6.2mm2であった。次いで、LEDデバイスをグローブボックスから出し、室温および空気中での試験を行った。厚さは、KLA Tencor P-15 Profilerで測定した。電流−電圧特性は、Keithley 2400 SourceMeterで測定した。デバイスのエレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは、Oriel InstaSpec
IV CCDカメラを利用して測定し、図3に示す。EL発光のパワーは、較正済みSiフォトダイオードと連結しているNewport 2835−C多機能光学計を利用して測定した。輝度は、EL発光のランバート分布を仮定しELフォワード出力およびデバイスのELスペクトルを利用して計算し、Photo Research PR650比色計により裏付けた。前記デバイスは、約2.4Vで1cd/cm2に達した。最大外部量子効率は0.60%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは1,290cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は13,400cd/cm2であった。
【0141】
実施例3
ディスパージョンCを正孔注入/輸送層として用い、実施例2と同様にOLEDデバイスを作成した。スピンコートの前に、ディスパージョンCを0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターで濾過した。厚さが約78nmのPTT:ナフィオンの均一な膜が、1500rpmの回転速度で得られた。このデバイスの構造を図2に示すが、任意の層140はない。デバイスは、約2.1Vで1cd/cm2に達し、最大外部量子効率は1.26%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは3,040cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は26,400cd/cm2であった。この実施例により得られたデバイスを運転した性能結果を図4に示す。
【0142】
実施例4
66.2mgのポリ(N−ビニルカルバゾール)(アメリカ合衆国、ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチ ケミカル社(Aldrich Chemical Company,Inc)製)、38.7mgの2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(アルドリッチ ケミカル社.)、24.8mgのN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(アルドリッチ ケミカル社.)および8.5mgのトリプレットエミッター(triplet emitter)トリス(2−(4−トリル)フェニルピリジン)イリジウム(III)(American Dye Source, Inc.製)を5.38gのクロロベンゼンに溶解させ、溶液を調製した。溶液を、60℃のホットプレート上で2時間加熱し、次いで0.2ミクロンフィルターで濾過し、以下で溶液Bと称する。溶液Cは溶液B1.0mL中に0.5mLのクロロベンゼンを加えて調製し、デバイス製造に用いた。
【0143】
ディスパージョンBをHILとして用いてOLEDデバイスを調製した。このデバイスの構造を図2に示すが、任意の層140はない。ディスパージョンBのHILは実施例2と同様に製造した。層を130℃で15分間アニーリングした後、発光層を溶液Cから2000rpmでスピンコートした。デバイス製造の残りの部分とデバイスの試験は実施例2と同様に実施した。デバイスは、約5.6Vで1cd/cm2に達し、最大外部量子効率は1.84%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは4,450cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は51,500cd/cm2であった。
【0144】
実施例5
ディスパージョンCを正孔注入/輸送層として用いて、実施例4と同様にOLEDデバイスを調製した。このデバイスの構造を図2に示すが、任意の層140はない。デバイスは、約5.9Vで1cd/cm2に達し、最大外部量子効率は2.02%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは6,630cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は48,900cd/cm2であった。
【0145】
実施例6
表面抵抗10−15オーム/スクエアの3つのパターニングされたITO支持体を実施例2と同様に洗浄した。次いで、ITO支持体に、1500rpmの回転速度で、それぞれ、ディスパージョンC、ディスパージョンDおよび参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2005−0151122−A1に開示されている手順にしたがい製造したPTT:PSSAディスパージョンをスピンコートした。次いで、ITO支持体を180から200℃で15分間アニーリングした。アニーリングの後、約80nmの厚さのLUMATION Green 1304(住友化学(株)製)の層をトルエン溶液からスピンコートした。次いで、試料を、窒素ガス保護下で、ホットプレート上で、130℃で20分間ベーキングした。次いで、試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に置かれている真空エバポレーターのチャンバー中に移した。5nmの厚さのBa層を、約1.5Å/sの速度でマスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さのAg層を、堆積速度約3.0−4.0Å/sでBa層の上に真空堆積した。次いで、デバイスを、アルゴングローブボックス中でガラスカバー蓋およびUV硬化エポキシで密封した。デバイスをグローブボックスから取りだし、実施例2と同様にIV曲線および輝度に関して測定した。デバイスの効率を図5に示した。キャラクタリゼーションの後、デバイスをCDT Eclipse PLED Lifetime Tester上に置き、初期輝度2000cd/cm2でDC寿命試験を行った。図6は寿命試験結果を示す。ディスパージョンCおよびDを利用したデバイスは、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べ著しく長い寿命を示した。デバイスの半減期は、デバイスの輝度が初期値2000cd/cm2の50%、すなわち1000cd/cm2に達するのにかかる時間として定義される。デバイスの半減期は、PTT:PSSAデバイスでは289時間であるが、PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンCおよびディスパージョンDのPTT:ナフィオン(登録商標)系デバイスでは1870時間および1650時間であった。図7に示すとおり、ディスパージョンCおよびDを利用したデバイスの動作電圧は、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べはるかに安定していた。PTT:PSSAデバイスの電圧上昇率は、289時間で0.6Vであった。PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンCおよびDに基づくデバイスでは電圧上昇率は1870時間で0.6Vおよび1650時間で0.5Vであった。
【0146】
実施例7
表面抵抗10−15オーム/スクエアの3つのパターニングされたITO支持体を実施例2と同様に洗浄した。次いで、ITO支持体に、1500rpmの回転速度で、それぞれ、ディスパージョンB、ディスパージョンCおよび参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2005−0151122−A1に開示されている手順にしたがい製造したPTT:PSSAディスパージョンをスピンコートした。次いで、ITO支持体を180から200℃で15分間アニーリングした。アニーリングの後、約80nmの厚さのLUMATION Blue LEP発光ポリマー(住友化学(株)製)の層をトルエン溶液からスピンコートした。次いで、試料を、窒素ガス保護下で、ホットプレート上で、130℃で20分間ベーキングした。次いで、試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に置かれている真空エバポレーターのチャンバー中に移した。5nmの厚さのBa層を、約1.5Å/sの速度でマスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さのAg層を、堆積速度約3.0−4.0Å/sでBa層の上に真空堆積した。次いで、デバイスを、アルゴングローブボックス中でガラスカバー蓋およびUV硬化エポキシで密封した。デバイスをグローブボックスから取りだし、実施例2と同様にIV曲線および輝度に関して測定した。キャラクタリゼーションの後、デバイスをCDT Eclipse PLED Lifetime Tester上に置き、初期輝度1000cd/cm2でDC寿命試験を行った。図8は寿命試験結果を示す。ディスパージョンCおよびBを利用したデバイスは、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べ著しく長い寿命を示した。デバイスの半減期は、PTT:PSSAデバイスでは42時間であるが、PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンBおよびディスパージョンC系デバイスでは122時間および175時間であった。図9に示すとおり、PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンCおよびDを利用したデバイスの動作電圧は、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べはるかに安定していた。PTT:PSSAデバイスの電圧上昇率は、42時間で2.3Vであった。PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンBおよびディスパージョンCに基づくデバイスでは電圧上昇率は122時間で0.9Vおよび175時間で0.8Vであった。
【0147】
実施例8
8.4mgの位置規則性ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT、Riek Metals,Inc製)および8.9mgのN,N’−ビス(2,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレンジカルボキシミド(PDCBI、Sigma−Aldrich製)を1.0gのクロロベンゼンに溶解させて、正孔および電子輸送材料としてのP3HTおよびPDCBIの溶液を調製した。溶液を、細孔径0.2ミクロンのPTFEフィルターで濾過した。前記溶液を本願で溶液Eと称する。パターニングされたITO支持体を正極としBaを負極としてPVデバイスを製造した。ITO支持体は、洗剤を含む脱イオン水ならびにメタノールおよびイソプロパノールを用いて超音波洗浄機で洗浄した。溶媒洗浄の後、ITO支持体を、SPI Desktop II酸素プラズマエッチャー中で10分間酸素プラズマで洗浄した。正孔引抜き層(HEL)用に、実施例1で合成したPTT:ナフィオン(登録商標)またはBaytron P Al4083(ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSSA、Bayer製)をその水性ディスパージョンから、1500rpmの回転速度でスピンコートし、空気中で180℃で15分間硬化した。PTT:ナフィオン(登録商標)およびPEDOT:PSSAディスパージョンを、0.45ミクロンPVDFフィルターで濾過してから、スピンコートした。アニーリングの後、P3HT:PDCBIブレンドの層を、溶液EからHEL上へ2000rpmの回転速度で1分間スピンコートした。次いで、試料をマスクし、アルゴン雰囲気のドライボックス内に置かれた真空エバポレーターのチャンバーに移した。5nmの厚さのバリウム(Ba)層を、マスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さの銀(Ag)層をBa層の上に真空堆積し、電極抵抗を下げBa層に保護を与えた。次いで、デバイスを、アルゴングローブボックス中でガラスカバー蓋およびUV硬化エポキシ(UV15、Master Bond,Inc製)で密封した。デバイス試験を室温および空気中で実施した。膜の厚さは、KLA Tencor P15表面プロファイラーで測定した。電流−電圧特性は、Keithley 2400 SourceMeterで測定した。Thermal Oriel製の150Wのオゾンレスキセノンランプを、PVデバイスのキャラクタリゼーションのための照明光源として使用した。HELとしてディスパージョンEからスピンコートしたPTT:ナフィオン(登録商標)膜を利用すると、より高い開回路電圧および短絡電流が得られた。
【0148】
表1 OPVDデバイスの性能の概要
【表1】
【0149】
実施例9
実験1のディスパージョンEに記載の手順にしたがい、ディスパージョンを作成した。3mLのディスパージョンを1インチ×3インチのガラス支持体にドロップキャストした。ディスパージョンを乾燥した後、支持体を、3つの1インチ×1インチ試料に切断し、それらを以下で試料10A、試料10Bおよび試料10Cと称する。次いで、試料10Bおよび10Cを、ホットプレートを用いて空気中で、それぞれ160および180℃で15分間アニーリングした。3試料全てについて、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ビルリカのBruker Daltonics製のBiflex IIIデバイスで、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDI−TOF)質量分析法により分子量を分析した。7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン(TCQN、Aldrich製)をマトリックスとして使用した。試料調製には、試料10A、10Bまたは10Cの薄膜の薄片のいくつかを約3mgのTCNQとMALDIプレート上で混合した。MALDI−TOF質量分析の結果は、高温でのアニーリングの後、より多数の繰り返し単位を持つポリチエノチオフェンがより多くあることを示した。図11は、試料10Aおよび10CのMALDI−TOFマススペクトルを示す。この結果は、導電性ポリマー膜が高温でアニーリングされると、更なる重合が固体状態で起こり、導電性ポリマーの鎖長が増すことを示している。
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスレファレンス
本願は、2005年3月24日に出願された仮出願番号60/665,026号および2004年10月13日に出願された仮出願第60/618,471号の利益を主張する。これらの出願の開示を参照することにより本明細書に取り込む。
【0002】
本願は、導電性チエノチオフェンポリマーを含む水性ディスパージョンであって、前記導電性ポリマーが少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の存在下で合成されている水性ディスパージョンに関する。
【背景技術】
【0003】
導電性ポリマーは、発光ディスプレイに用いるためのエレクトロルミネッセンス(EL)デバイスの開発等様々な有機エレクトロニクスデバイスに使用されてきた。導電性ポリマーを含む有機発光ダイオード(OLED)等のELデバイスに関して、そのようなデバイスは一般的に以下の構成を有する:
アノード/正孔注入層/EL層/カソード
【0004】
アノードは、通常、例えばインジウム/スズ酸化物(ITO)等、EL層に利用される半導性材料(material)の別な方法で(otherwise)満たされているπバンドに正孔を注入する能力のある材料である。アノードは所望によりガラスまたはプラスティック基材に支持されている。EL層は、通常、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリフルオレン、スピロポリフルオレンまたは他のELポリマー材料等の共役半導性ポリマーを含む半導性共役有機材料、8−ヒドロキノリンアルミニウム(Alq3)等の小分子蛍光染料、facトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)等の小分子燐光染料、デンドリマー、燐光染料でグラフトされた共役ポリマー、上述の材料を含むブレンドおよび組み合わせである。EL層は、無機量子ドットでもよいが、半導性有機材料と無機量子ドットとのブレンドでもよい。カソードは、典型的には、EL層の半導性有機材料の別な方法で空の状態であるπ*バンドに電子を注入する能力のある材料(例えば、CaまたはBa等)である。
【0005】
正孔注入層(HIL)は通常導電性ポリマーであり、アノードからEL層中の半導性有機材料への正孔注入を促進する。正孔注入層は正孔輸送層、正孔注入/輸送層またはアノードバッファ層とも呼ばれ、二層アノードの一部として特徴づけられることがある。正孔注入層として利用される典型的な導電性ポリマーには、ポリアニリンおよびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリジオキシチオフェンがある。これらの材料は、例えば、参照することにより本明細書に取り込まれる「Polythiophene dispersions, their production and their use」という名称の米国特許第5,300,575号に記載のとおり、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSSA)等の水溶性ポリマー酸の存在下の水溶液中でアニリンまたはジオキシチオフェンモノマーを重合して調製できる。公知のPEDOT/PSSA材料は、Baytron(登録商標)−Pであり、H. C. Starck, GmbH(ドイツ連邦、レーヴァークーゼン)から市販されている。
【0006】
導電性ポリマーは、放射エネルギーを電気エネルギーに変換する光電デバイスにも使用されてきた。そのようなデバイスは一般的に以下の構成を有する:
正極/正孔引抜き層(hole extraction layer)/光収穫層(複数可)/負極
【0007】
正極および負極は、上述のELデバイスのアノードおよびカソードに使用される材料から選択できる。正孔引抜き層は、通常、正極での収集のため光収穫(harvesting)層からの正孔引抜きを促進する導電性ポリマーである。光収穫層または複数の光収穫層は、通常、光放射を吸収し界面で別々の電荷を発生できる有機または無機の半導体からなる。
【0008】
水溶性ポリマー性スルホン酸により合成される導電性ポリマー水性ディスパージョンは、望ましくない低pHレベルを有する。低pHは、そのような正孔注入層を含むELデバイスのストレスライフ低下の一因になり、デバイス内の腐食の一因となる。したがって、改善された性能を持つ、組成物およびそれから調製された正孔注入層の必要性が当分野に存在する。
【0009】
導電性ポリマーには、薄膜電界効果トランジスタ等エレクトロニクスデバイス用の電極としての有用性もある。そのようなトランジスタでは、有機半導性膜がソース電極とドレイン電極の間に存在する。電極用途に有用であるには、導電性ポリマーおよび導電性ポリマーを分散または溶解するための液体は、導電性ポリマーまたは半導性ポリマーのいずれかの再溶解を避けるため、半導性ポリマーおよび半導性ポリマー用の溶媒と親和性がなければならない。導電性ポリマーから製造された電極の導電率は、10S/cm(Sはオームの逆数)より大きくなければならない。しかし、ポリマー酸によりつくられた導電性ポリチオフェンは、約10-3S/cm以下の範囲の導電率を通常提供する。導電率を高めるためには、ポリマーに導電性添加剤を加えてもよい。しかし、そのような添加剤が存在すると、導電性ポリチオフェンの加工性に悪影響を与えることがある。したがって、良好な加工性および向上した導電率を有する改善された導電性ポリマーの必要性が当分野に存在する。
【0010】
二重または二層デバイスの寿命が限られているので、より複雑なデバイス構造が、デバイス性能、特に寿命を延ばすために導入されてきた。例えば、「中間層」として知られる、正孔輸送および電子ブロック材料の薄層がデバイス性能および寿命の向上に効果的であることが示された。Cambridge Display Technologyは、OLEDs 2004カンファレンスで、中間層による寿命の向上を報告した[David Fyfe,“Advances in P-OLED Technology-Overcoming the Hurdles Fast", OLEDs 2004、San Diego, CA,2004年11月15日から17日;参照することにより本明細書に取り込む]。Soらは、PEDOT:PSSA正孔注入層と緑色ポリフルオレン発光層との間の架橋正孔輸送層(XL−HTL)の挿入により、効率の2倍向上および寿命の7倍向上を報告した[Wencheng Su, Dmitry Poplavskyy, Franky So, Howard Clearfield, Dean Welsh, and Weishi Wu,“Trilayer Polymer OLED Devices for Passive Matrix Applications”,SID 05 Digest,1871−1873頁;参照することにより本明細書に取り込む]。
【0011】
これらの三層デバイスは向上した性能および寿命を提供したが、追加の中間層はTACT時間および/または製造資本コストを上昇させ、デバイスの歩留まりを低下させることがある。デバイス性能および寿命が向上した二層デバイスの必要性が当分野に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,300,575号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】David Fyfe,“Advances in P-OLED Technology-Overcoming the Hurdles Fast", OLEDs 2004、San Diego, CA,2004年11月15日〜17日
【非特許文献2】Wencheng Su, Dmitry Poplavskyy, Franky So, Howard Clearfield, Dean Welsh, and Weishi Wu,“Trilayer Polymer OLED Devices for Passive Matrix Applications”,SID 05 Digest,1871−1873頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ポリチエノチオフェン(PTT)および少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供することにより、従来の材料に関連する問題を解決する。本発明の組成物は、例えば有機発光ダイオード(OLED)等の様々な有機エレクトロニクスデバイスにおける正孔注入層として、例えば有機光電デバイス(OPVD)等の様々な有機オプトエレクトロニクスデバイスにおける正孔引抜き層として、金属ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブ等の導電性フィラーと組み合わせて、他の用途の中でも特に、薄膜電界効果トランジスタにおけるドレイン電極、ソース電極またはゲート電極等の用途において有用である。
【0015】
ある態様によると、本発明は、本発明の組成物の正孔注入層を含むエレクトロルミネッセンスデバイスを含む有機エレクトロニクスデバイスに関する。本発明は、許容できる寿命性能を有する二層デバイスの製造を可能にする。「寿命」とは、連続運転デバイス(例えば、PLED)の初期輝度が、目的とする用途に許容できる初期輝度の割合(例えば初期輝度の50%)まで低下するのにかかる時間の長さを意味する。
【0016】
他の態様によると、本発明は、ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンの合成方法に関する。ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンの合成方法は、
【0017】
(a)少なくとも1種の酸化剤および/または少なくとも1種の触媒を含む水溶液を提供する工程;
【0018】
(b)コロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(c)酸化剤および/または触媒の水溶液を、コロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンと混合する工程;および
【0019】
(d)工程(c)の混合した水性ディスパージョンにチエノチオフェンモノマーを加える工程を含む。
【0020】
本発明のポリチエノチオフェンディスパージョンは、どのような好適な支持体上に塗布して乾燥してもよい。望まれる場合、ポリチエノチオフェンを塗布した支持体を、所望の導電率、デバイス性能および寿命性能を与えるに充分な条件下で加熱することもできる。
【0021】
本発明は、以下の態様[1]〜[20]を含むことができる。
【0022】
[1] ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョン(dispersion)。
【0023】
[2] 前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む[1]に記載のディスパージョン。
【0024】
[3] 前記コロイド形成性ポリマー酸が、少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む[1]に記載のディスパージョン。
【0025】
[4] 以下の工程を含む、ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを製造する方法:(a)少なくとも1種の酸化剤および/または少なくとも1種の触媒を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(b)少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(c)工程(a)の水性ディスパージョンを、工程(b)の水性ディスパージョンと混合する工程;および(d)工程(c)の混合した水性ディスパージョンにチエノチオフェンモノマーを加える工程;および(e)ポリチエノチオフェンを形成する工程。
【0026】
[5] 前記の少なくとも1種の酸化剤が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む[4]に記載の方法。
【0027】
[6] 前記の少なくとも1種の触媒が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)および硫酸セリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む[4]に記載の方法。
【0028】
[7] 前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む[4]に記載の方法。
【0029】
[8] 前記の少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸が、以下を含む構造を有する[4]に記載の方法。
【化1】
【0030】
[9] 前記ポリチエノチオフェンディスパージョンを少なくとも2種のイオン交換樹脂と接触させる工程を更に含む[4]に記載の方法。
【0031】
[10] 以下の工程を含む、導電性膜を支持体上に形成する方法:ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを形成するために、少なくとも1種のフッ化材料の存在下でチエノチオフェンモノマーを重合する工程、前記ディスパージョンを支持体上に塗布して膜を形成する工程、前記支持体および膜を加熱する工程;および膜を塗布された支持体を回収する工程。
【0032】
[11] 前記加熱が、膜の導電率を上昇させるに充分な温度および時間である[10]に記載の方法。
【0033】
[12] 前記加熱が、MALDIを利用して測定されるポリマー繰り返し単位の数を増加させるに充分である[10]に記載の方法。
【0034】
[13] 前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む[10]に記載の方法。
【0035】
[14] 前記の少なくとも1種のフッ化材料が少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む[10]に記載の方法。
【0036】
[15] 前記加熱が約130℃を超える温度で実施される[10]に記載の方法。
【0037】
[16] 前記膜が、鉄、カリウムおよびナトリウムからなる群から選択される少なくとも1金属を更に含む[10]に記載の方法。
【0038】
[17] 前記金属が鉄を含む[16]に記載の方法。
【0039】
[18] 少なくとも2つの電極、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む層および少なくとも1種の半導性材料を含む層を含むデバイス。
【0040】
[19] 前記デバイスが光電デバイスを含み、前記半導性材料が光活性である[18]に記載のデバイス。
【0041】
[20] 前記電極の1つがカソードを含み、片方がアノードを含み、前記半導性材料がエレクトロルミネッセンス層を含む[18]に記載のデバイス。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、本発明による正孔注入層を含むエレクトロニクスデバイスの断面図を表す。
【0043】
【図2】図2は、本発明による電極を含む薄膜電界効果トランジスタの断面図を表す。
【0044】
【図3】図3は、実施例2のOLEDのELスペクトルを表す。
【0045】
【図4】図4は、実施例3のOLEDデバイスの電流密度−電圧−輝度曲線を表す。
【0046】
【図5】図5は、実施例6のデバイスの効率対輝度を表す。
【0047】
【図6】図6は、実施例6のデバイスの寿命(輝度対時間)を表す。
【0048】
【図7】図7は、実施例6のデバイスの時間の関数としての電圧変化を表す。
【0049】
【図8】図8は、実施例7のデバイスの寿命(輝度対時間)を表す。
【0050】
【図9】図9は、実施例7のデバイスの時間の関数としての電圧変化を表す。
【0051】
【図10】図10は、実施例8のOPVDの電流−電圧特性を表す。
【0052】
【図11】図11は、実施例10で調製した試料10A(上)および10C(下)のMALDIマススペクトルを表す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は、ポリチエノチオフェンを含む水性ディスパージョン、そのようなディスパージョンを製造および塗布する方法ならびにポリチエノチオフェンを含む膜を取り入れたデバイスに関する。本発明のディスパージョンは、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含むポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸(例えば、少なくとも部分的にフッ化されているイオン交換ポリマー等)を含んでいてよい。本願で使用するとおり、「ディスパージョン」という用語は、微小なコロイド粒子の浮遊物を含む液体媒体を意味する。本発明によると、「液体媒体」は通常水性液体、例えば脱イオン水である。本願で使用するとおり、「水性」という用語は、かなりの部分が水である液体を意味し、ある態様においては、少なくとも約40重量%の水である。本願で使用するとおり、「コロイド」という用語は、液体媒体に懸濁している微小粒子を意味し、前記粒子は最大約1ミクロンの粒径(例えば、約20ナノメートルから約800ナノメートル、通常約30から約500ナノメートル)を有する。本願で使用するとおり、「コロイド形成性」という用語は、水溶液に分散したとき微小粒子を形成する材料を意味し、すなわち「コロイド形成性」ポリマー酸は水溶性ではない。
【0054】
本願で使用するとおり、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」またはそれらの他の変形は、非排他的含有物を含むと意図される。例えば、いくつかの要素を含むプロセス、方法、物品またはデバイスは、必ずしもこれらの要素のみに限定されず、明白に列記されておらずそのようなプロセス、方法、物品またはデバイスに固有でもない他の要素を含むことがある。更に、それと反対であると明白に述べられていない限り、「または(or)」は、包含的な「または」を意味し、排他的な「または」ではない。例えば、条件AまたはBは以下のいずれかにより満たされる。Aが真であり(または存在する)Bが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在しない)Bが真である(または存在する)、AとBの両方が真である(または存在する)。
【0055】
また、「a」または「an」の使用も、本発明の要素および構成成分の説明のために利用される。これは単に簡便のためにおよび本発明の一般的な意味を与えるためになされる。この記載は1つまたは少なくとも1つを含むように読むべきであり、単数は、そうでない場合を意味するのが明らかでない限り複数も含む。
【0056】
本発明の1態様において、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)等の導電性ポリチエノチオフェンを含む水性ディスパージョンは、(チエノ[3,4−b]チオフェン)モノマーを含むチエノチオフェンモノマーが、少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の存在下で化学的に重合する場合調製可能である。ポリチエノチオフェンまたはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)の水性ディスパージョンの調製において、水溶性でないポリマー酸を使用すると、優れた電気的性質(例えば約10-1から約10-6S/cm)を有する組成物が得られる。これらの水性ディスパージョンの利点の1つは、比較的長い期間水性媒体中で導電性粒子が(例えば、別な相を形成せずに)通常安定である点である(例えば、ディスパージョンは約14から約180日間安定である)。更に、導電性粒子は、いったん乾燥して膜になると一般的に再分散しない。
【0057】
本発明の1態様による組成物は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー酸が分散している水性連続相を含む。本発明に使用できるポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)は構造(1)を有するが、
【0058】
【化1】
【0059】
上式において、Rは、ハロゲン、炭素原子数1から8のアルキル、フェニル、置換フェニル、CmF2m+1、F、ClおよびSF5から選択され、nは約2より大きく20未満で、通常約4から約16である。本発明の組成物に使用できるチエノチオフェンは、上記のとおり構造(2)を有することもあり、上式においてR1およびR2は独立に上記のリストから選択される。ある特定の態様において、ポリチエノチオフェンは、RがHを含むポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む。
【0060】
本発明の実施における使用に企図されるコロイド形成性ポリマー酸は水に不溶であり、好適な水性媒体中に分散するときコロイドを形成する。ポリマー酸は、典型的には、約10,000から約4,000,000の範囲の分子量を有する。ある態様において、ポリマー酸は、約50,000から約2,000,000の分子量を有する。水に分散するときコロイド形成性であるポリマー酸はいずれも本発明の実施における使用に好適である。ある態様において、コロイド形成性ポリマー酸はポリマー性スルホン酸を含む。他の許容されるポリマー酸は、ポリマーリン酸、ポリマーカルボン酸およびポリマー性アクリル酸ならびにポリマー性スルホン酸を有する混合物を含むこれらの混合物の少なくとも1メンバーを含む。他の態様において、ポリマー性スルホン酸はフッ化された酸を含む。更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸は過フッ化化合物を含む。更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸はパーフルオロアルキレンスルホン酸を含む。
【0061】
更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー酸は、高度にフッ化されたスルホン酸ポリマー(「FSAポリマー」)を含む。「高度にフッ化された」とは、ポリマー中のハロゲンおよび水素原子の全数の少なくとも約50%がフッ素原子であり、ある態様において少なくとも約75%、他の態様において少なくとも約90%がフッ素原子であることを意味する。ある態様において、ポリマーは少なくとも1種の過フッ化化合物を含む。
【0062】
ポリマー酸はスルホネート官能基を含んでもよい。「スルホネート官能基」という用語は、スルホン酸基またはスルホン酸基の塩を意味し、ある態様においてアルカリ金属またはアンモニウムの塩の少なくとも1種を含む。前記官能基は式−SO3Xにより表され、前式においてXは「対イオン」としても知られるカチオンを含む。Xは、H、Li、Na、KまたはN(R1)(R2)(R3)(R4)からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含んでいてよく、R1、R2、R3およびR4は同一または異なっており、ある態様においてH、CH3またはC2H5である。他の態様において、XはHを含み、その場合にはポリマーは「酸形態」であるといわれる。Xは、Ca2+、Al3+、Fe2+およびFe3+等のイオンに表されるとおり多価でもよい。一般的にMn+により表される多価の対イオンの場合、対イオンあたりのスルホネート官能基の数は価数「n」に等しいであろう。
【0063】
ある態様において、FSAポリマーは、ポリマー骨格および骨格に結合している繰り返し側鎖を含み、前記側鎖がカチオン交換基を有する。ポリマーにはホモポリマーまたは2種以上のモノマーのコポリマーが含まれる。コポリマーは、非官能性モノマーおよびカチオン交換基またはその前駆体例えば、スルホニルフルオライド基(−SO2F)を有する第二のモノマーから通常形成されており、後に前記基を加水分解してスルホネート官能基にできる。例えば、第一のフッ化ビニルモノマーとともにスルホニルフルオライド基(−SO2F)を有する第二のフッ化ビニルモノマーを含むコポリマーを使用できる。好適な第一モノマーの例は、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルフルオライド、ビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)およびこれらの組み合わせの群から選択される少なくとも1メンバーを含む。TFEは望ましい第一モノマーである。
【0064】
他の態様において、第二モノマーの例は、スルホネート官能基またはポリマー中に望ましい側鎖を提供できる前駆体基を有するフッ化ビニルエーテルの少なくとも1種を含む。望まれる場合、エチレン、プロピレンおよびRが炭素原子数1から10の過フッ化アルキル基を含むR−CH=CH2を含む追加のモノマーを、これらのポリマーに取り込んでもよい。ポリマーは、本願においてランダムコポリマー(例えば、コモノマーの相対濃度が可能な限り一定に保たれている重合によりつくられるコポリマー)と称する種類のものでよく、そのためポリマー鎖に沿ったモノマーユニットの分布がその相対濃度および相対的な反応性と一致している。重合の間モノマーの相対濃度を変えることによりつくられるランダム性の低いコポリマーも使用してよい。欧州特許出願番号1026152A1(参照することにより本明細書に取り込む)に開示されているもの等、ブロックコポリマーと呼ばれる種類のポリマーも使用できる。
【0065】
ある態様において、本発明に使用するFSAポリマーは、少なくとも1種の高度にフッ化されているFSAを含み、ある態様において、過フッ化炭素骨格および以下の式により表される側鎖
【0066】
−(O−CF2CFRf)a−O−CF2CFR’fSO3X
【0067】
上式において、RfおよびR’fは、F、Clまたは炭素原子数1から10の過フッ化アルキル基から独立に選択され、aは0、1または2であり、XはH、Li、Na、KまたはN(R1)(R2)(R3)(R4)の少なくとも1つを含み、R1、R2、R3およびR4は同一または異なっており、ある態様においてH、CH3またはC2H5である。他の態様において、XはHを含む。上述のとおり、Xは多価でもよい。
【0068】
他の態様において、FSAポリマーは、例えば、米国特許第3,282,875号、第4,358,545号および第4,940,525号(全て参照することにより本明細書に取り込む)に開示されているポリマーを含む。有用なFSAポリマーの例は、パーフルオロカーボン骨格および以下の式により表される側鎖を含むが、
【0069】
−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO3X
【0070】
上式においてXは上記で定義されたとおりである。この種のFSAポリマーは米国特許第3,282,875号に開示されており、テトラフルオロエチレン(TFE)および過フッ化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO2F、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオライド)(PDMOF)の共重合の後、スルホニルフルオライド基の加水分解によりスルホネート基に変換し、必要に応じイオン交換して所望のイオン形態に変換することにより製造できる。米国特許第4,358,545号および第4,940,525号に開示されているこの種のポリマーの例は、−O−CF2CF2SO3X側鎖を有するが、Xは前記で定義したとおりである。このコポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)および過フッ化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF2SO2F、パーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオライド)(POPF)の共重合の後、加水分解および更に必要に応じてイオン交換することにより製造できる。
【0071】
他の態様において、FSAポリマーには、例えば、参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2004/0121210A1に開示されているポリマーがある。有用なFSAポリマーの例は、テトラフルオロエチレン(TFE)および過フッ化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF2CF2CF2SO2Fの共重合の後、スルホニルフルオライド基の加水分解によりスルホネート基に変換し、望まれる場合イオン交換してフルオライド基を所望のイオン形態に変換することにより製造できる。他の態様において、FSAポリマーには、例えば、参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2005/0037265A1に開示されているポリマーがある。有用なFSAポリマーの例は、CF2=CFCF2OCF2CF2SO2Fおよびテトラフルオロエチレンの共重合の後、スルホニルフルオライド基をKOHによる加水分解によりスルホネート基に変換し、酸によりイオン交換してカリウムイオン塩を酸形態に変換することにより製造できる。
【0072】
他の態様において、本発明に使用するFSAポリマーは典型的には、約33未満のイオン交換比を有する。「イオン交換比」または「IXR」は、カチオン交換基に対するポリマー骨格中の炭素原子数を意味する。約33未満の範囲内では、IXRは特定の用途に望まれるとおり変えることができる。ある態様において、IXRは約3から約33であり、他の態様において、約8から約23である。
【0073】
ポリマーのカチオン交換容量は、当量(EW)により表されることが多い。本願の目的には、当量(EW)は、1当量の水酸化ナトリウムの中和に要する酸形態のポリマーの重量であると定義される。ポリマーがパーフルオロカーボン骨格を有し、側鎖が−O−CF2−CF(CF3)−O−CF2CF2SO3H(またはその塩)を含むスルホネートポリマーの場合には、約8から約23のIXRに相当する当量範囲は約750EWから約1500EWである。このポリマーのIXRは、式:50IXR+344=EWを利用して当量と関連づけることができる。米国特許第4,358,545号および第4,940,525号(参照することにより本明細書に取り込む)に開示されているスルホネートポリマー、例えば、−O−CF2CF2SO3H(またはその塩)の側鎖を有するポリマーに対して同じIXR範囲が利用される場合、当量は幾分低くなるが、それはカチオン交換基を含むモノマーユニットの分子量が低いためである。約8から約23のIXR範囲では、対応する当量範囲は約575EWから約1325EWである。このポリマーのIXRは、式:50IXR+178=EWを利用して当量と関連づけることができる。
【0074】
FSAポリマーはコロイド水性ディスパージョンとして調製できる。それらは、他の媒体中の懸濁液の形態でもよく、他の媒体の例としてはアルコール、テトラヒドロフラン等の水溶性エーテル、水溶性エーテルの混合物およびこれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。ディスパージョンをつくる際に、ポリマーを酸形態で使用できる。米国特許第4,433,082号、第6,150,426号および国際公開番号03/006537(参照することにより本明細書に取り込む)は、水性アルコールディスパージョンをつくる方法を開示している。ディスパージョンがつくられた後、FSA濃度およびディスパージョン体組成は当業界に公知の方法により調整可能である。
【0075】
FSAポリマー等のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンは、安定したコロイドが形成される限り、できるだけ小さな粒径を有するのが典型的である。FSAポリマーの水性ディスパージョンは、E. I. du Pont de Nemours and Company(デラウェア州、ウィルミントン)からナフィオン(Nafion;登録商標)ディスパージョンとして市販されている。好適なFSAポリマーの例は、以下の構造を有するコポリマーを含む:
【0076】
【化2】
【0077】
コポリマーは、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(4−メチル−3,6−ジオキサ−7−オクテン−1−スルホン酸)を含み、mが1である。
【0078】
米国特許出願公開番号2004/0121210A1または米国特許出願公開番号2005/0037265A1から得られるFSAポリマーの水性ディスパージョンは、米国特許第6,150,426号に開示されている方法を利用してつくることができる。前出の米国特許および特許出願の開示を参照することにより本明細書に取り込む。
【0079】
ポリチエノチオフェンの対イオン/分散剤として使用できる好適なポリマー酸は以下の構造を有し:
【0080】
【化3】
【0081】
上式において、m、n、pおよびqの少なくとも2つはゼロより大きい整数であり;A1、A2およびA3は、アルキル、ハロゲン、yがゼロより大きい整数であるCyF2y+1、O−R(Rはアルキル、パーフルオロアルキルおよびアリールからなる群から選択される)、CF=CF2、CN、NO2およびOHからなる群から選択され;Xは、SO3H、PO2H2、PO3H2、CH2PO3H2、COOH、OPO3H2、OSO3H、Arが芳香族であるOArSO3H、NR3+(Rがアルキル、パーフルオロアルキルおよびアリールからなる群から選択される)およびCH2NR3+(Rがアルキル、パーフルオロアルキルおよびアリールからなる群から選択される)からなる群から選択される。A1、A2、A3およびX置換基は、オルト、メタおよび/またはパラ位に位置してよい。コポリマーは、二元でも、三元でも、四元でもよい。
【0082】
ある態様において、チエノチオフェンまたはチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーは、ポリマー酸コロイドを含む水性媒体中で酸化重合される。典型的には、チエノチオフェンまたはチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーは、少なくとも1種の重合触媒、少なくとも1種の酸化剤およびコロイド状ポリマー酸粒子を含む水性ディスパージョンと混合され、またはそれに加えられる。この態様において、重合反応が進行する準備ができるまで酸化剤および触媒がモノマーと通常混合されないならば、混合または添加の順序を変えてもよい。重合触媒は、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、硫酸セリウム(III)等およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含むが、これらに限定されない。酸化剤は、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含むが、これらに限定されない。場合によっては、酸化剤および触媒が同じ化合物を含んでいてもよい。酸化重合により、コロイド内に含まれるポリマー酸の負の電荷を有する(例えば、スルホネートアニオン、カルボキシラートアニオン、アセチレートアニオン、ホスホナートアニオン、組み合わせ等)側鎖により電荷のバランスがとれている、正の電荷を持つ導電性ポリマー性チエノチオフェンおよび/またはチエノ[3,4−b]チオフェンを含む安定な水性ディスパージョンが得られる。好適なプロセス条件ならばどのような条件でもチエノチオフェンの重合に利用してよいが、約8から約95℃の温度範囲ならびにディスパージョンの取得、混合および維持に充分な条件およびデバイスを利用するのが有用である。
【0083】
本発明のある態様において、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)および少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンの製造方法は、以下の工程を含む:(a)少なくとも1種のポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(b)少なくとも1種の酸化剤を工程(a)のディスパージョンに加える工程;(c)少なくとも1種の触媒または酸化剤を工程(b)のディスパージョンに加える工程;および(d)チエノ[3,4−b]チオフェンモノマーを工程(c)のディスパージョンに加える工程。この方法の別な態様は、酸化剤を加える前に、ポリマー酸の水性ディスパージョンにチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーを加える工程を含む。他の態様は、水およびチエノ[3,4−b]チオフェンを含む水性ディスパージョンの形成(例えば水中のチエノ[3,4−b]チオフェンの濃度はどの程度でもよく、通常チエノ[3,4−b]チオフェンが約0.05重量%から約50重量%の範囲である)、このチエノ[3,4−b]チオフェン混合物を、酸化剤および触媒の添加前またはその後に、ポリマー酸の水性ディスパージョンに加える工程を含む。更に他の態様において、チエノチオフェンモノマーは水と親和性のある有機溶媒に溶解され、この溶解されたモノマー溶液が、酸化剤および/または触媒の添加前またはその後に、ポリマー酸の水性ディスパージョンに加えられる。
【0084】
場合によっては、ディスパージョンが少なくとも1種の金属を含むことがある(例えば少なくとも1種のイオン)。ディスパージョンに添加または存在してよい金属の例は、特に、Fe2+、Fe3+、K+およびNa+、これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。酸化剤:モノマーモル比は、通常約0.05から約10であり、一般的に約0.5から約5の範囲である(例えば、本発明の重合工程の間)。望まれる場合、ディスパージョンをカチオン性およびイオン交換樹脂に曝し、金属の量を低減または除去することも可能である。
【0085】
チエノチオフェンモノマーの重合は、通常水と混和性である共ディスパージョン体の存在下で実施できる。好適な共ディスパージョン体の例は、エーテル、アルコール、エーテル、環状エーテル、ケトン、ニトリル、スルホキシドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。ある態様において、共ディスパージョン体の量は約30体積%未満である。ある態様において、共ディスパージョン体の量は約60体積%未満である。ある態様において、共ディスパージョン体の量は約5%から約50体積%である。ある態様において、共ディスパージョン体は少なくとも1種のアルコールを含む。ある態様において、共ディスパージョン体は、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール、メタノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンの群から選択される少なくとも1メンバーを含む。共ディスパージョン体は、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、酢酸、これらの混合物等からなる群から選択される少なくとも1メンバー等の有機酸を含んでいてよい。あるいは、前記酸は、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)等の水溶性ポリマー酸または上述の第二コロイド形成性酸を含んでいてもよい。酸の組み合わせも使用できる。
【0086】
有機酸は、酸化剤またはチエノチオフェンモノマーのいずれか最後に加えられるものの添加より先に工程のどの時点で重合混合物に加えることもできる。ある態様において、有機酸は、チエノチオフェンモノマーおよびコロイド形成性ポリマー酸の両者より先に加えられ、酸化剤が最後に加えられる。ある態様において、チエノチオフェンモノマーの添加より先に有機酸が加えられ、その後コロイド形成性ポリマー酸が加えられ、最後に酸化剤が加えられる。他の態様において、合成したままの水性ディスパージョンがイオン交換樹脂(複数可)により処理された後、ポリマー共酸を水性ディスパージョンに加えることもできる。共ディスパージョン体は、酸化剤、触媒またはモノマーのいずれか最後に加えられるものの添加より先に、どの時点でも重合混合物に加えることができる。
【0087】
本発明の他の態様において、上述の方法のいずれかの完了および重合の完了後、合成したままの水性ディスパージョンを、安定した水性ディスパージョンを製造するのに好適な条件下で少なくとも1種のイオン交換樹脂と接触させる。ある態様において、合成したままの水性ディスパージョンを、第一イオン交換樹脂および第二イオン交換樹脂と接触させる。他の態様において、第一イオン交換樹脂は、上述のスルホン酸カチオン交換樹脂等の酸性カチオン交換樹脂を含み、第二イオン交換樹脂は、3級アミンまたは4級交換樹脂等の塩基性アニオン交換樹脂を含む。
【0088】
イオン交換は、流体媒質(水性ディスパージョン等)中のイオンが、流体媒質に不溶の固定された固体粒子に結合している同じような電荷を持つイオンと交換する、可逆性の化学反応を含む。「イオン交換樹脂」という用語は、本願においてそのような材料全てを意味するように使用される。樹脂は、イオン交換基が結合しているポリマー性基材の架橋性により不溶性にされている。イオン交換樹脂は、交換用に正の電荷を持つ可動イオンが利用できる酸性カチオン交換樹脂と、交換可能なイオンが負の電荷を持つ塩基性アニオン交換樹脂に分類される。
【0089】
酸性カチオン交換樹脂および塩基性アニオン交換樹脂の両方とも本発明に使用できる。ある態様において、酸性カチオン交換樹脂は、スルホン酸カチオン交換樹脂等の有機酸カチオン交換樹脂を含む。本発明の実施における使用に企図されるスルホン酸カチオン交換樹脂は、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノール−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼン−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含んでよい。他の態様において、酸性カチオン交換樹脂は、カルボン酸、アクリル酸またはリン酸カチオン交換樹脂およびこれらの混合物等の有機酸カチオン交換樹脂を少なくとも1種含む。更に、異なるカチオン交換樹脂の混合物を使用してもよい。多くの場合、塩基性イオン交換樹脂を利用してpHを望まれるレベルに調整できる。場合によっては、特に水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化セシウムおよびこれらの混合物の溶液等の塩基性水溶液によりpHを更に調整することもできる。
【0090】
他の態様において、塩基性アニオン交換樹脂は、少なくとも1種の3級アミンアニオン交換樹脂を含む。本発明の実施における使用に企図される3級アミンアニオン交換樹脂は、3級アミン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、3級アミン化架橋スチレンポリマー、3級アミン化フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、3級アミン化ベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含んでよい。更なる態様において、塩基性アニオン交換樹脂は、少なくとも1種の4級アミンアニオン交換樹脂またはこれらと他の交換樹脂との混合物を含む。
【0091】
第一および第二イオン交換樹脂が合成したままの水性ディスパージョンと接触するのは、同時でも連続的でもよい。例えば、ある態様において、導電性ポリマーを含む合成したままの水性ディスパージョンに両樹脂を同時に加え、少なくとも約1時間、例えば約2時間から約20時間ディスパージョンと接触させておいてよい。次いで、イオン交換樹脂を濾過によりディスパージョンから除去できる。あるイオン濃度を得るために、この手順を望まれるとおり繰り返すことが可能である。フィルターのサイズは、比較的大きいイオン交換樹脂粒子が除かれる一方で、より小さいディスパージョン粒子が通過するように選択される。理論または説明により拘束されるのを望まないが、イオン交換樹脂は重合を停止させ、合成したままの水性ディスパージョンからイオン性および非イオン性不純物ならびに未反応モノマーのほとんどを効果的に除去すると考えられている。更に、塩基性アニオン交換樹脂および/または酸性カチオン交換樹脂はディスパージョンのpHを上昇させる。一般的に、酸化剤のミリ当量あたり約1−2gのイオン交換樹脂を使用して酸化剤を除去する。ある態様において、Fe2(SO4)3*H2Oの1gあたり5−10gのイオン交換樹脂が使用される。一般的に、コロイド形成性ポリマー酸の約1グラムあたり少なくとも1グラムのイオン交換樹脂が使用される。ある態様において、Bayer GmbHから市販の弱塩基性アニオン交換樹脂であるLewatit(登録商標)MP62 WSの約1グラムおよびBayer GmbHから市販の強酸性酸カチオン交換樹脂であるLewatit(登録商標)MonoPlus S100の約1グラムが、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)および少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の組成物のグラムあたりに使用される。通常、ディスパージョンのpHは約1から約5の範囲である。
【0092】
ある態様において、フッ化ポリマー性スルホン酸コロイドによる、またはその存在下でのチエノ[3,4−b]チオフェンの重合から得られる水性ディスパージョンが、フッ化ポリマーを含む水性ディスパージョンとともに最初に反応容器に入れられる。ディスパージョンに、順に、酸化剤およびチエノ[3,4−b]チオフェンモノマー;または順にチエノ[3,4−b]チオフェンモノマーおよび酸化剤(例えば、場合によっては、1つの材料が酸化剤および触媒として機能することがある)。ディスパージョンが混合され、制御された温度で重合が進行する(例えば、ディスパージョンを維持するために混合する)。重合が完了すると、混合物は強酸性カチオン樹脂および塩基性アニオン交換樹脂で停止され、攪拌および濾過される。あるいは、ナフィオン(登録商標)ディスパージョンの添加に先立ちチエノ[3,4−b]チオフェンが水に加えられ分散し、その後触媒および/または酸化剤が加えられる。酸化剤:モノマーモル比は約0.05から約10、一般的に約0.5から約5の範囲である。チエノ[3,4−b]チオフェンモノマーに対するフッ化ポリマーの重量比は、約1から約100、一般的に約5から約50の範囲である。全体的な固形分は、一般的に約0.1%から約10%の範囲であり、ある態様において約2%から約5%である。重合温度は一般的に約8℃から約95℃の範囲であり、ある態様において約15℃から約80℃である。重合時間は一般的に約1から約24時間の範囲であり、ある態様において約4から約6時間である。
【0093】
ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化ポリマー性スルホン酸コロイドを含むポリチエノチオフェンポリマー酸コロイドを含む合成したままの水性ディスパージョンは、広範囲のpHを持つことがあり、典型的には約1から約8の間に調整でき、一般的には約2から約3のpHを有する。酸性度は腐食性なので、より高いpHを持つことがしばしば望ましい。公知の技術を利用して、例えばイオン交換または塩基性水溶液による滴定によりpHを調整できることが見いだされた。ポリチエノチオフェンおよび他のコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンを同様に処理して、pHを調整することができる。
【0094】
他の態様において、導電性の高い添加剤をポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンに加えて、より導電性の高いディスパージョンが形成される。比較的pHの高いディスパージョンが形成できるので、導電性添加剤、特に金属添加剤は、通常、ディスパージョン中の酸により攻撃されない。更に、ポリマー酸はその性質としてコロイド状であり、その表面が大部分酸基を含んでいるので、コロイド表面に導電性ポリチエノチオフェンが形成可能である。この独特な構造のため、望まれる場合、導電性の高い添加剤を比較的低重量パーセント使用して、浸透閾値に達することができる。好適な導電性添加剤の例は、金属粒子およびナノ粒子、ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、グラファイトファイバまたは粒子、カーボン粒子およびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。
【0095】
本発明の他の態様において、1態様としてポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー酸を含む、ポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸を含む正孔注入層水性ディスパージョンが提供される。ある態様において、正孔注入層は、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸を含む水性ディスパージョンからキャストされる(例えば、特にスピンコーティング、インクジェット印刷によるキャスト)。ある態様において、正孔注入層は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化ポリマー酸コロイドを含む水性ディスパージョンからキャストされる。他の態様において、フッ化ポリマー酸コロイドは、フッ化ポリマー性スルホン酸コロイドである。更に他の態様において、正孔注入層は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびパーフルオロエチレンスルホン酸コロイドを含む水性ディスパージョンからキャストされる。
【0096】
本発明のある態様において、正孔注入層のキャストされた薄膜または層は、典型的には高温でアニーリングされる(例えば、約250℃まで)。「アニーリング」とは、ポリマー繰り返し単位を増加させる(例えばMALDIにより測定)に充分な条件下で膜が処理されることを意味する。どのような理論または説明にも拘束されることを望まないが、高温でのアニーリングは、キャストされた正孔注入層の導電性を高めることができる。MALDI−TOF質量分析法により、アニーリング後に導電性ポリマー鎖中の繰り返し単位の数が増加することが確認できる。アニーリングされた膜のこのような向上した性質が、同じ電圧でのより高い輝度および長いデバイス寿命等デバイス性能の向上をもたらす。どのような好適なアニーリング雰囲気を利用してもよいが、好適な雰囲気の例は、特に酸素、窒素を含む。
【0097】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間(TOF)質量分析法は、本発明で合成される導電性ポリマー中のポリチエノチオフェン鎖の分子量を決定するのに使用される。導電性ポリマーディスパージョンからドロップキャストされた膜は、MALDI質量分析法を用いて分析された。膜が高温で(例えば約180から250℃)処理された後、ポリチエノチオフェン鎖中の繰り返し単位の数が増加することが見いだされた。この結果は、導電性ポリマー膜が高温でアニーリングされると、固体状態で更なる重合が起こり、それにより導電性ポリマーの鎖長が増加することを示している。
【0098】
他の態様において、正孔注入層は、ポリマー性チエノ[3,4−b]チオフェンを含むポリチエノチオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸を追加の水溶性または水分散性材料と混合して含む水性ディスパージョンからキャストされる。材料の最終用途により、添加可能な追加の水溶性または水分散性材料の例には、ポリマー、染料、コーティング助剤、カーボンナノチューブ、ナノワイヤー、界面活性剤(RfがF(CH2CH2)yであり、xが0から約15であり、yが1から約7である構造RfCH2CH2O(CH2CH2O)xHを有するZonyl(登録商標)FSOシリーズ非イオンフッ素界面活性剤(例えばDuPontから市販)等のフッ素界面活性剤、Dynol(登録商標)およびSurfynol(登録商標)シリーズ(Air Products and Chemicals, Incから市販)等のアセチレンジオール系界面活性剤)、有機および無機の導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、架橋剤およびこれらの組み合わせがあるが、これらに限定されない。前記材料は簡単な分子でもポリマーでもよい。他の好適な水溶性または水分散性ポリマーの例は、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアミン、ポリピロール、ポリアセチレンおよびこれらの組み合わせ等の少なくとも1種の導電性ポリマーを含む。
【0099】
他の態様において、本発明は、エレクトロニクスデバイスであって、前記デバイスの層の少なくとも1つが本発明の正孔注入層を含む、2つの電気接点層の間に位置する少なくとも1つの電気活性層(通常半導体共役小分子またはポリマー)を含むエレクトロニクスデバイスに関する。本発明の1態様が図1に示すOLEDデバイスにより表されている。図1を参照すると、図1はアノード層110、正孔注入層120、エレクトロルミネッセンス層130、カソード層150を含むデバイスを表す。カソード層150に隣接して、任意の電子注入/輸送層140がある。正孔注入層120とカソード層150(または任意の電子注入/輸送層140)の間に、エレクトロルミネッセンス層130がある。あるいは、通常中間層と呼ばれる正孔輸送および/または電子ブロック層が、正孔注入層120とエレクトロルミネッセンス層130の間に挿入されていてもよい。
【0100】
前記デバイスは、アノード層110またはカソード層150に隣接してよい基材または支持体(図示せず)を含んでもよい。基材がアノード層110に隣接していることが最も多い。基材は柔軟性でも剛直でもよく、有機でも無機でもよい。一般的に、ガラスまたは柔軟な有機フィルムが基材として用いられる(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレン−2,6−ジカルボキシレート)およびポリスルホンを含む柔軟な有機フィルム)。アノード層110は、カソード層150に比べると正孔注入がより効率的である電極を含む。アノードは、金属、混合金属、合金、金属酸化物または混合酸化物を含む材料を含んでいてよい。好適な材料は、2族元素(例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)、11族元素、4、5および6族の元素、および8−10族遷移元素の混合酸化物からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む(全体を通してIUPACナンバーシステムを使用しており、前記システムでは周期律表の族が左から右へ1−18として番号づけられている[CRC Handbook of Chemistry and Physics、第81版、2000年])。アノード層110が光透過性である場合、酸化インジウム−酸化スズ等の12、13および14族元素の混合酸化物を使用してよい。本願で使用するとおり、「混合酸化物」という言葉は、2族元素または12、13または14族元素から選択される2種以上の異なるカチオンを有する酸化物を意味する。アノード層110の材料の非限定的な具体例は、酸化インジウム−酸化スズ(「ITO」)、酸化アルミニウム−酸化スズ、ドーピングされている酸化亜鉛、金、銀、銅およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。アノードは、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはポリピロール等の導電性有機材料も含むことがある。
【0101】
アノード層110は、化学蒸着法または物理蒸着法あるいはスピンキャスト法により形成できる。化学蒸着法は、プラズマ増強化学蒸着法(「PECVD」)または有機金属化学蒸着法(「MOCVD」)として実施できる。物理蒸着法は、イオンビームスパッタリングを含む全形態のスパッタリングならびに電子線蒸発および抵抗蒸発を含む。物理蒸着法の具体的な形態には、RFマグネトロンスパッタリングおよび誘導結合プラズマ物理蒸着(「IMP−PVD」)がある。これらの蒸着技術は、半導体製造分野で公知である。
【0102】
アノード層110はリソグラフィー操作の間にパターニングすることができる。パターンは望まれるとおりに変えてよい。前記層は、例えば第一の電気接点層材料の塗布より先に第一の柔軟性のある複合バリア構造上にパターンを有するマスクまたはレジストを置くことにより、パターンに形成できる。あるいは、前記層を、オーバーオール層(overall layer)(ブランケット堆積(blanket deposit)とも呼ばれる)として塗布し、その後、例えばパターンを有するレジスト層および湿式化学エッチングまたは乾式エッチング技術を利用してパターニングしてもよい。当分野に公知である他のパターニング法も利用できる。エレクトロニクスデバイスがアレイ中に設置される場合、アノード層110は、典型的には、実質的に同方向へ伸びる長さを有する実質的に平行なストリップへと形成される。
【0103】
正孔注入層120は、通常、当業者に公知の様々な技術を利用して支持体上にキャストされる。典型的なキャスト技術には、例えば、特に、溶液キャスト法、ドロップキャスト法、カーテンキャスト法(curtain casting)、スピンコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷がある。正孔注入層がスピンコーティングにより塗布される場合、ディスパージョンの粘度および固形分ならびに回転速度を利用して、得られる膜の厚さを調整できる。スピンコーティングにより塗布される膜は一般的に連続的でパターンがない。別法として、参照することにより本明細書に取り込む米国特許第6,087,196号に記載のインクジェット印刷等数々の堆積方法を利用して、正孔注入層をパターニングできる。
【0104】
エレクトロルミネッセンス(EL)層130は、典型的には、PPVと略されるポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリフルオレン、スピロポリフルオレンまたは他のELポリマー材料等の共役ポリマーでよい。EL層は、8−ヒドロキノリンアルミニウム(Alq3)およびトリス(2−(4−トリル)フェニルピリジン)イリジウム(III)等の比較的小さな分子の蛍光または燐光染料、デンドリマー、上述の材料を含むブレンドおよび組み合わせを含んでもよい。EL層は、無機量子ドットまたは半導性有機材料と無機量子ドットとのブレンドを含んでよい。選択される特定の材料は、特殊な用途、操作中に利用される電位または他の因子に依存することがある。エレクトロルミネッセンス有機材料を含むEL層130は、スピンコーティング、キャスティングおよび印刷を含むどのような従来技術によっても溶液から塗布することができる。EL有機材料は、材料の性質によっては蒸着法により直接塗布することもできる。他の態様において、ELポリマー前駆体を塗布し、次いで、典型的には熱または他の外部エネルギー源(例えば可視光またはUV光)によりポリマーに変換することもできる。
【0105】
任意の層140は、電子注入/輸送の両方を促進するように機能できるが、層の界面で消光反応を防止するための閉込め層(confinement layer)としても作用することができる。すなわち、層140は、電子移動度を増進し、層130および150が直接接触している場合に起こりうる消光反応の可能性を低下させることができる。任意の層140のための材料の例は、金属キレート化オキシノイド化合物(例えばAlq3等);フェナントロリン系化合物(例えば、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DDPA」)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DPA」)等);アゾール化合物(例えば、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(「PBD」等)、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(「TAZ」等);他の類似化合物;またはこれらの1つまたは複数の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。あるいは、任意の層140は無機でもよく、特に、BaO、CaO、LiF、CsF、NaCl、Li2O、これらの混合物を含む。
【0106】
カソード層150は、電子すなわち負電荷のキャリアを注入するのに特に効率のよい電極を含む。カソード層150は、第一の電気接点層(この場合アノード層110)よりも低い仕事関数を有する好適な金属または非金属ならばどのようなものでも含んでよい。本願で使用するとおり、「より低い仕事関数」という用語は、約4.4eV以下の仕事関数を有する材料を意味する。本願で使用するとおり、「より高い仕事関数」は、少なくとも約4.4eVの仕事関数を有する材料を意味する。
【0107】
カソード層のための材料は、1族のアルカリ金属(例えば、Li、Na、K、Rb、Cs)、2族金属(例えば、Mg、Ca、Ba等)、12族金属、ランタニド(例えば、Ce、Sm、Eu等)およびアクチニド(Th、U等)から選択できる。アルミニウム、インジウム、イットリウムおよびこれらの組み合わせ等の材料も利用できる。カソード層150のための材料の非限定的な具体例は、カルシウム、バリウム、リチウム、セリウム、セシウム、ユーロピウム、ルビジウム、イットリウム、マグネシウム、サマリウムならびにこれらの合金および組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。Ca、BaまたはLi等の反応性のある低仕事関数金属が使用される場合、銀またはアルミニウム等より不活性な金属の保護膜を使用して、反応性金属を保護し、カソード抵抗を下げることができる。
【0108】
カソード層150は、通常、化学蒸着法または物理蒸着法により形成される。一般的に、カソード層は、アノード層110に関して上記で議論したようにパターニングされるであろう。デバイスがアレイ内にある場合、カソード層150は実質的に平行なストリップにパターニングされ、そこではカソード層ストリップの長さが実質的に同じ方向に伸び、アノード層ストリップの長さに対し実質的に垂直である。画素と呼ばれるエレクトロニクス素子はクロスポイント(アレイを上から見た場合、アノード層ストリップがカソード層ストリップと交差する点)に形成される。トップ発光デバイス(top emitting device)には、CaおよびBa等の低仕事関数金属の非常に薄い層とITO等のより厚い層の透明導電体の組み合わせが透明カソードとして使用できる。トップ発光デバイスは、より大きなアパーチャ比が実現できるのでアクティブマトリックスディスプレイに有利である。そのようなデバイスの例は、参照することにより本明細書に取り込むC.C.Wuらの「Integration of Organic LED’s and Amorphous Si TFT’s onto Flexible and Lightweight Metal Foil Substrates」、IEEE Electron Device Letters、18巻、12号、12月、1997年に記載されている。
【0109】
他の態様において、追加の層(複数可)が有機エレクトロニクスデバイス内に存在してもよい。例えば、正孔注入層120とEL層130の間の層(図示せず)が、他の機能の中でも特に、正の電荷の輸送、層間のエネルギーレベルのマッチングを促進し、保護層として機能することができる。同様に、EL層130とカソード層150の間の追加層(図示せず)が、他の機能の中でも特に、負の電荷の輸送、層の間のエネルギーレベルのマッチングを促進し、保護層として機能することができる。当業界に公知の層も含まれてよい。更に、上述の層はいずれも、2つ以上の層からできていてよい。あるいは、無機アノード層110、正孔注入層120、EL層130およびカソード層150のいくつかまたは全てを表面処理して、電荷キャリア輸送効率を高めてもよい。構成層のそれぞれのための材料の選択は、高デバイス効率およびより長いデバイス寿命の提供という目標を、製造コスト、製造の複雑さまたは潜在的な他の因子とバランスをとって決定できる。
【0110】
異なる層はどのような好適な厚さを持ってもよい。無機アノード層110は、通常約500nm以下、例えば約10−200nmであり;正孔注入層120は、通常約300nm以下、例えば約30−200nmであり;EL層130は、通常約1000nm以下、例えば約30−500nmであり;任意の層140は、通常約100nm以下、例えば約20−80nmであり;カソード層150は、通常約300nm以下、例えば、約1−150nmである。アノード層110またはカソード層150が少なくともいくらかの光を透過する必要がある場合、そのような層の厚さは約150nm以下のことがある。
【0111】
エレクトロニクスデバイスの用途により、EL層130は、信号により作用する発光層(発光ダイオード内等)でもよく、放射エネルギーに反応して印加電圧があってもなくても信号を発する材料(検出器または光電池等)の層でもよい。発光材料は、添加剤がある場合でもない場合でも他の材料のマトリックスに分散されてよいが、単独で層を形成してもよい。EL層130は一般的に約30−500nmの範囲の厚さを有する。
【0112】
ポリマー酸コロイドとともにつくられたポリチエノチオフェンを含む水性ディスパージョンを含む1つまたは複数の層を有することから利益を得る他の有機エレクトロニクスデバイスの例には以下のものがある:(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(例えば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザー)、(2)エレクトロニクスプロセスにより信号を検出するデバイス(例えば、光検出器(例えば光導電素子、光抵抗器、光電スイッチ、フォトトランジスタ、光電管)、IR検出器)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(例えば光電デバイスまたは太陽電池)および(4)1つまたは複数の有機半導体層を含む1つまたは複数のエレクトロニクス部品を含むデバイス(例えば、トランジスターまたはダイオード)。
【0113】
有機発光ダイオード(OLED)は、電子および正孔を、それぞれカソード150およびアノード110層からEL層130に注入し、ポリマー中に負の電荷および正の電荷を有するポーラロンを形成する。これらのポーラロンは、加えられた電界の影響下で移動し、反対の電荷を持つポーラロンによりエキシトンを形成し、その後放射再結合をうける。通常約12ボルト未満、多くの場合約5ボルト以下の、アノードとカソードの間の充分な電位差をデバイスに印加してよい。実際の電位差は、より大きなエレクトロニクス部品中のデバイスの用途に依存する。多くの態様において、エレクトロニクスデバイスの運転中、アノード層110は正の電圧にバイアスがかかっており、カソード層150は、実質的に地電位すなわちゼロボルトである。図示していない電池または他の電源(複数可)を、回路の一部としてエレクトロニクスデバイスに電気的に接続してよい。
【0114】
ポリマー性チエノ[3,4−b]チオフェンおよびコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンからキャストされた正孔注入層が与えられているOLEDは、はるかに遅い輝度低下および電圧上昇とともに向上した寿命を持つことが見いだされた。正孔注入層は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化ポリマー性スルホン酸コロイドを合わせることにより得られる水性ディスパージョンからキャストされ、ある態様において、pHが約3.5を超える値に調整できる(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化セシウム等の塩基性化合物の添加により)水性ディスパージョンを含む。
【0115】
本発明により、デバイス製造の間ITO層のエッチングをはるかに少なくすることができる、酸性の低いまたはpHが中性の材料の使用が可能であり、次にはOLEDのポリマー層に拡散するInまたはSnイオンの濃度を低減できる。どのような理論または説明にもとらわれることを希望しないが、InおよびSnイオンは操作寿命の低下の一因になりうると考えられている。酸性が低いと、製造の間および長期間の保存の間、ディスプレイの金属部品(例えば導体パッド)の腐食も少なくなる。本発明は、残留水分と反応してディスプレイ中に酸を放出しゆっくりとした腐食につながるPEDOT/PSSA残渣の存在も除去する。
【0116】
酸性PEDOT/PSSAの供給に使用されるデバイスは、PEDOT/PSSAの比較的強い酸性を扱うために特別設計が必要である。例えば、ITO支持体上へのPEDOT/PSSAの塗布に使用するクロムメッキスロットダイ塗布ヘッドは、PEDOT/PSSAの酸性により腐食することが分かった。塗布された膜がクロム粒子により汚染されるので、ヘッドは使用できなくなる。PEDOT/PSSA系は、OLEDディスプレイの製造に使用できる特定のインクジェット印刷ヘッドにも悪影響を与える。前記ヘッドは、ディスプレイの正確な位置に正孔注入層および発光ポリマー層の両方を供給するために使用される。これらの印刷ヘッドは、インク中の粒子の内部トラップとしてニッケルメッシュフィルターを含んでいる。ニッケルフィルターは、酸性のPEDOT/PSSAにより分解し、使用できなくなる。これらの腐食問題は、本発明のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)の水性ディスパージョンを使用することにより、排除できないとしても低減可能である。
【0117】
更に、ある発光ポリマーは酸性条件に敏感であることが分かり、その発光能力は酸性の正孔注入層に接触していると低下する。低い酸性または中性のため、本発明のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)水性ディスパージョンを使用して正孔注入層を形成することは有利である。
【0118】
2種以上の異なる発光材料を利用するフルカラーまたはエリアカラーディスプレイの製造は、各発光材料がその性能を最大限にするため異なるカソード材料を必要とするならば、複雑になる。ディスプレイデバイスは、典型的には、光を発する多数の画素を含む。マルチカラーデバイスでは、少なくとも異なる2種の画素(サブピクセルと呼ばれることもある)が異なる色の光を発している。サブピクセルは、異なる発光材料で構成されている。発光材料の全てに良好なデバイス性能を与える単一のカソード材料を有することが望ましい。これにより、デバイス製造の複雑さが最小限になる。正孔注入層が本発明の水性ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)からつくられているマルチカラーデバイスでは共通のカソードを使用可能であることが見いだされた。カソードは、上記で議論した材料のいずれからもつくることができ、バリウムとより不活性な金属、例えば銀またはアルミニウム等による保護膜の組み合わせでよい。
【0119】
ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含むポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸の水性ディスパージョンを含む1つまたは複数の層を有することから利益を得る他の有機エレクトロニクスデバイスには以下のものがある:(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(例えば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザー)、(2)エレクトロニクスプロセスにより信号を検出するデバイス(例えば、光検出器(例えば光導電素子、光抵抗器、光電スイッチ、フォトトランジスタ、光電管)、IR検出器)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(例えば光電デバイスまたは太陽電池)および(4)1つまたは複数の有機半導体層を含む1つまたは複数のエレクトロニクス部品を含むデバイス(例えば、トランジスタまたはダイオード)。
【0120】
望まれる場合、正孔注入層は、水溶液または溶媒から塗布される導電性ポリマーの層により上塗りすることができる。導電性ポリマーは電荷輸送を促進し、被覆性も向上させる。好適な導電性ポリマーの例は、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチエノチオフェン/ポリスチレンスルホン酸、ポリジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸、ポリアニリン−ポリマー酸コロイド、PEDOT−ポリマー酸コロイドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む。
【0121】
更に他の態様において、本発明は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性ポリマー性スルホン酸を含む電極を含む薄膜電界効果トランジスタに関する。薄膜電界効果トランジスタにおいて電極として使用するために、導電性ポリマーおよび前記導電性ポリマーを分散または溶解させる液体は、半導性ポリマーおよびその溶媒と親和性がある(例えば、ポリマーまたは半導性ポリマーの再溶解防止のため)。導電性ポリマーから製造される薄膜電界効果トランジスタ電極は、約10S/cmを超える導電率を有さなければならない。しかし、水溶性ポリマー酸によりつくられる導電性ポリマーは、通常、約10-3S/cm以下の範囲の導電率を提供する。したがって、本発明のある態様において、電極は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびフッ化コロイド形成性ポリマー性スルホン酸を、特にナノワイヤー、カーボンナノチューブ等の導電率向上剤と組み合わせて含む。本発明の更に他の態様において、電極は、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)およびコロイド形成性パーフルオロエチレンスルホン酸を、特にナノワイヤー、カーボンナノチューブ等の導電率向上剤と組み合わせて含む。本発明の組成物は、ゲート電極、ドレイン電極またはソース電極として薄膜電界効果トランジスタに使用できる。
【0122】
本発明の他の態様は図2に示す薄膜電界効果トランジスタを含む。図2を参照すると、図2は、ゲート電極220を片面に、ドレイン電極およびソース電極、それぞれ230および240を他の面に有する誘電性ポリマーまたは誘電性酸化物薄膜210を表す。ドレイン電極とソース電極の間には、有機半導性膜250が堆積している。ナノワイヤーまたはカーボンナノチューブを含む本発明の水性ディスパージョンは、溶液薄膜析出における有機系誘電性ポリマーおよび半導性ポリマーとの親和性のため、ゲート、ドレインおよびソース電極の用途に理想的である。本発明の導電性組成物、例えばある態様においてポリチエノチオフェンおよびコロイド状パーフルオロエチレンスルホン酸は、コロイド状ディスパージョンとして存在できるので、高導電率への浸透閾値に達するのに必要な導電性フィラーの重量パーセントが(水溶性ポリマー性スルホン酸を含む組成物に比べて)低くて済む。
【0123】
有機薄膜トランジスタ(OTFT)デバイスにおいて、ソース電極からチャンネル材料への電荷注入は、電極の仕事関数の不一致とチャンネル材料のエネルギーレベルにより限定されうるが、これは電極とチャンネル材料の間の接点において著しい電圧低下をもたらす。その結果、見かけの電荷移動度は低下し、OTFTデバイスは低電流しか通せない。OLEDにおける正孔注入層としての用途と同様に、本発明の導電性ポリマー膜の薄層をOTFTデバイスのソース電極とチャンネル材料の間に塗布し、エネルギーレベルの一致を向上させ、接点電圧低下を低減させ、電荷注入を向上させることができる。その結果、OTFTデバイスにおいて、より多い電流およびより高い電荷移動度が達成できる。
【0124】
本発明の更に他の態様において、チエノチオフェンモノマーをポリマー性スルホン酸コロイドの存在下で重合させる工程を含む、ポリチエノチオフェンの水性ディスパージョンの製造方法に関する。本発明の方法のある態様において、ポリチエノチオフェンは、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含み、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸はフッ化されている。本発明の方法の他の態様において、ポリチエノチオフェンはポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含み、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸は過フッ化されている。更に他の態様において、コロイド形成性ポリマー性スルホン酸は、パーフルオロエチレンスルホン酸を含む。重合は水の存在下で実施される。得られる混合物をイオン交換樹脂で処理し、副生成物を除去することができる。
【0125】
本発明を、以下の非限定的実施例を参照してより詳細に説明する。以下の実施例は本発明のある態様を説明したが、本願に添付する特許請求範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0126】
実施例1
ディスパージョンA
0.0575グラム(0.111ミリモル)の硫酸鉄(III)水和物(97%、Sigma-Aldrich Chemical Co)および0.135グラム(0.515ミリモル)の過硫酸カリウム(99+%、Fischer Scientific Co.)を、44.53gの脱イオン水とともに60mlのジャケット付き反応フラスコに加えた。固形物が溶解するまで、系を5分間混合した。15.47グラム(1.406ミリ当量)の10%ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョン(Aldrich Chemical Co.から入手)を反応器に加えた。反応器を反応混合物で完全に満たした。ジャケット付き反応フラスコを調整し、16℃の反応温度に維持した。0.0807g(0.576ミリモル)のチエノ[3,4−b]チオフェンを反応混合物に加えた。重合の間、反応器の内容物をよく混合し、確実に安定なディスパージョンとした。反応塊(reaction mass)は、20分以内に、急速に明るい緑からエメラルドグリーンに、不透明な濃青色に変わった。モノマーの導入後、重合を4時間進行させた。反応生成物をカチオン樹脂アンバーライト(Amberlite;登録商標)IR−120(プラス)およびアニオンイオン交換樹脂ルワティット(Lewatit;登録商標)MP62により精製した。
【0127】
ディスパージョンB
15gのディスパージョンAを、連続的に、2.8gのアンバーライト(登録商標)IR−120カチオン交換樹脂(シグマ−アルドリッチ ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Co))および2.8gのルワティット(登録商標)MP−62アニオン交換樹脂(Fluka, シグマ−アルドリッチ ケミカル社)に通して精製し、不透明な濃青色のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)/ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョンを得た。
【0128】
前記ディスパージョンを、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)により残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(7ppm以下);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(2ppm以下);Mg(3ppm未満);Mn(1ppm未満);Ni(4ppm未満);Zn(5ppm未満);Na(2ppm未満);K(1ppm未満)。
【0129】
ディスパージョンC
別に、15gのディスパージョンAを、5.0gのアンバーライト(登録商標)IR−120および5.0gのルワティット(登録商標)MP−62イオン交換樹脂を加えて精製し、不透明な濃青色のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)/ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョンと樹脂とのスラリーを得た。終夜の交換の後、スラリーを0.45ミクロンフィルターに通して濾過し、精製されたディスパージョンからイオン交換樹脂を分離した。
【0130】
前記ディスパージョンを、ICP−MSにより残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(7ppm以下);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(86ppm);Mg(5ppm);Mn(1ppm未満);Ni(7ppm以下);Zn(5ppm未満);Na(2ppm未満);K(59ppm)。
【0131】
ディスパージョンD
終夜の交換の後、ディスパージョンAスラリーの残りの30グラムを、5.0μmフィルターに通して濾過し、精製されたディスパージョンからイオン交換樹脂を分離した。
【0132】
前記ディスパージョンを、ICP−MSにより残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(3ppm未満);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(96ppm);Mg(6ppm);Mn(1ppm未満);Ni(9ppm以下);Zn(5ppm未満);Na(2ppm未満);K(91ppm)。
【0133】
ディスパージョンE
217グラムの脱イオン水を500mlのジャケット付き反応器に加えた。79.87グラム(72.6ミリ当量)の10%ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョン(Aldrich Chemical Co.)を反応器に加え、オーバーヘッドスターラーで5分間混合した。ジャケット付き反応フラスコを調整し、16℃の反応温度を維持した。0.7973グラム(5.7ミリモル)のチエノ[3,4−b]チオフェンを、52.3グラムの脱イオン水に溶かした3.3グラム(6.4ミリモル)のFe2(SO4)3*H2Oとともに、反応器に別に共供給した。反応塊は、20分以内に、明るい緑からエメラルドグリーンに、濃青色に変わった。モノマーおよび酸化剤の導入後、重合を4時間進行させた。次いで、反応器の内容物を、17.5グラムのアンバーライト(登録商標)IR−120カチオン交換樹脂(シグマ−アルドリッチ ケミカル社)および17.5グラムのルワティット(登録商標)MP−62アニオン交換樹脂(Fluka,シグマ−アルドリッチ ケミカル社)を含む500mlのNalgene(登録商標)ボトルに加えることにより、得られたディスパージョンを精製すると、不透明な濃青色のポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)/ナフィオン(登録商標)水性ディスパージョンが得られた。前記ディスパージョンを、連続的に、10、5、0.65および0.45ミクロンの細孔径のフィルターに通して濾過した。
【0134】
前記ディスパージョンを、ICP−MSにより残留金属イオンについて分析したところ、以下のイオンが検出された:Al(1ppm未満);Ba(1ppm未満);Ca(20ppm未満);Cr(1ppm未満);Fe(156ppm);Mg(1ppm未満);Mn(1ppm未満);Ni(1ppm未満);Zn(1ppm未満);Na(3ppm);K(1ppm未満)。
【0135】
比較例
デバイス性能の比較のため、参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号第2005−0151122−A1にしたがい、ポリマー対イオン/ドーパント/分散剤としてポリ(スチレンスルホン酸)を利用してポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)のディスパージョンを作成した。前記ディスパージョンをPTT:PSSAと称する。
【0136】
導電率および濾過性
ディスパージョンBは、0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターを用いて濾過可能である。ディスパージョンBのドロップキャスト膜(1インチ×1インチのガラス支持体上に0.5mL)は、窒素雰囲気下180℃で15分間アニーリングした後、導電率が2.56×10-2S/cmの膜を与えた。アニーリング前のドロップしたままの膜の導電率は9.03×10-7S/cmであった。導電率は、4点プローブ法を利用しアルゴンを充満させたグローブボックス中で測定した。
【0137】
ディスパージョンCは、0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターを用いて濾過可能である。ディスパージョンCのドロップキャスト膜(1インチ×1インチのガラス支持体上に0.5mL)は、窒素雰囲気下180℃で15分間アニーリングした後、導電率が1.77×10-3S/cmの膜を与えた。アニーリング前のドロップしたままの膜の導電率は6.32×10-7S/cmであった。導電率は、4点プローブ法を利用しアルゴンを充満させたグローブボックス中で測定した。
【0138】
ディスパージョンDは、0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターを用いて濾過可能である。ディスパージョンDのドロップキャスト膜(1インチ×1インチのガラス支持体上に0.5mL)は、窒素雰囲気下180℃で15分間アニーリングした後、導電率が1.26×10-1S/cmの膜を与えた。アニーリング前のドロップしたままの膜の導電率は7.92×10-7S/cmであった。導電率は、4点プローブ法を利用しアルゴンを充満させたグローブボックス中で測定した。
【0139】
デバイス実施例
実施例2
19.8mgのMEH−PPV(ポリ(2−メトキシ、5−(2’−エチル−ヘキシルオキシ)−p−フェニレン−ビニレン)、ADS130RE、カナダ国、ケベック州、Baie D’UrfeのAmerican Dye Source製)を60℃のホットプレート上で2時間2.84gのトルエンに溶解させて、発光ポリマーMEH−PPVのトルエン溶液を調製し、次いで、0.45μmPVDFフィルターで濾過した。前記溶液を以下で溶液Aと称する。この実施例により得られたデバイスを図2に示すが、任意の層140はない。
【0140】
酸化インジウム酸化スズを塗布したガラス支持体(2.5×2.5×0.7cm、表面抵抗約12Ω/スクエア)を、連続的に、洗剤を入れた脱イオン水、脱イオン水、メタノール、イソプロパノールおよびアセトンにより、それぞれ5−10分間超音波洗浄した。ITO支持体を、異なる洗浄溶媒の間に乾燥させた。次いで、ITO支持体を、SPI Prep IIプラズマエッチャー中で酸素プラズマにより約10分間処理した。その後、ITO支持体に、Laurell Model WS−400−N6PPスピナー上で、1500rpmで1分間、ディスパージョンBをスピンコートした。ディスパージョンBは、スピンコートの前に0.45ミクロンPVDFフィルターで濾過した。PTT:ナフィオンの均一な膜が得られた。PTT:ナフィオン層の厚さは約40nmであった。PTTを塗布したITO支持体を、窒素保護下で、130℃で15分間アニーリングした。次いで、約60nmの厚さのMEH−PPVを、2000rpmの回転速度で、溶液AからPTT:ナフィオン正孔注入/輸送層上にスピンコートした。次いで、試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に置かれている真空エバポレーターのチャンバー中に移した。20nmの厚さのCa層を、1.5−3.0Å/sの速度でマスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さのAg層を、堆積速度約3.0Å/sでCa層の上に真空堆積した。デバイスの作用面積は約6.2mm2であった。次いで、LEDデバイスをグローブボックスから出し、室温および空気中での試験を行った。厚さは、KLA Tencor P-15 Profilerで測定した。電流−電圧特性は、Keithley 2400 SourceMeterで測定した。デバイスのエレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは、Oriel InstaSpec
IV CCDカメラを利用して測定し、図3に示す。EL発光のパワーは、較正済みSiフォトダイオードと連結しているNewport 2835−C多機能光学計を利用して測定した。輝度は、EL発光のランバート分布を仮定しELフォワード出力およびデバイスのELスペクトルを利用して計算し、Photo Research PR650比色計により裏付けた。前記デバイスは、約2.4Vで1cd/cm2に達した。最大外部量子効率は0.60%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは1,290cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は13,400cd/cm2であった。
【0141】
実施例3
ディスパージョンCを正孔注入/輸送層として用い、実施例2と同様にOLEDデバイスを作成した。スピンコートの前に、ディスパージョンCを0.45ミクロンの細孔径のPVDFフィルターで濾過した。厚さが約78nmのPTT:ナフィオンの均一な膜が、1500rpmの回転速度で得られた。このデバイスの構造を図2に示すが、任意の層140はない。デバイスは、約2.1Vで1cd/cm2に達し、最大外部量子効率は1.26%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは3,040cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は26,400cd/cm2であった。この実施例により得られたデバイスを運転した性能結果を図4に示す。
【0142】
実施例4
66.2mgのポリ(N−ビニルカルバゾール)(アメリカ合衆国、ウィスコンシン州、ミルウォーキーのアルドリッチ ケミカル社(Aldrich Chemical Company,Inc)製)、38.7mgの2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(アルドリッチ ケミカル社.)、24.8mgのN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(アルドリッチ ケミカル社.)および8.5mgのトリプレットエミッター(triplet emitter)トリス(2−(4−トリル)フェニルピリジン)イリジウム(III)(American Dye Source, Inc.製)を5.38gのクロロベンゼンに溶解させ、溶液を調製した。溶液を、60℃のホットプレート上で2時間加熱し、次いで0.2ミクロンフィルターで濾過し、以下で溶液Bと称する。溶液Cは溶液B1.0mL中に0.5mLのクロロベンゼンを加えて調製し、デバイス製造に用いた。
【0143】
ディスパージョンBをHILとして用いてOLEDデバイスを調製した。このデバイスの構造を図2に示すが、任意の層140はない。ディスパージョンBのHILは実施例2と同様に製造した。層を130℃で15分間アニーリングした後、発光層を溶液Cから2000rpmでスピンコートした。デバイス製造の残りの部分とデバイスの試験は実施例2と同様に実施した。デバイスは、約5.6Vで1cd/cm2に達し、最大外部量子効率は1.84%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは4,450cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は51,500cd/cm2であった。
【0144】
実施例5
ディスパージョンCを正孔注入/輸送層として用いて、実施例4と同様にOLEDデバイスを調製した。このデバイスの構造を図2に示すが、任意の層140はない。デバイスは、約5.9Vで1cd/cm2に達し、最大外部量子効率は2.02%であった。100mA/cm2の電流密度で、前記デバイスは6,630cd/cm2の輝度を示した。1000mA/cm2の電流密度で、輝度は48,900cd/cm2であった。
【0145】
実施例6
表面抵抗10−15オーム/スクエアの3つのパターニングされたITO支持体を実施例2と同様に洗浄した。次いで、ITO支持体に、1500rpmの回転速度で、それぞれ、ディスパージョンC、ディスパージョンDおよび参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2005−0151122−A1に開示されている手順にしたがい製造したPTT:PSSAディスパージョンをスピンコートした。次いで、ITO支持体を180から200℃で15分間アニーリングした。アニーリングの後、約80nmの厚さのLUMATION Green 1304(住友化学(株)製)の層をトルエン溶液からスピンコートした。次いで、試料を、窒素ガス保護下で、ホットプレート上で、130℃で20分間ベーキングした。次いで、試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に置かれている真空エバポレーターのチャンバー中に移した。5nmの厚さのBa層を、約1.5Å/sの速度でマスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さのAg層を、堆積速度約3.0−4.0Å/sでBa層の上に真空堆積した。次いで、デバイスを、アルゴングローブボックス中でガラスカバー蓋およびUV硬化エポキシで密封した。デバイスをグローブボックスから取りだし、実施例2と同様にIV曲線および輝度に関して測定した。デバイスの効率を図5に示した。キャラクタリゼーションの後、デバイスをCDT Eclipse PLED Lifetime Tester上に置き、初期輝度2000cd/cm2でDC寿命試験を行った。図6は寿命試験結果を示す。ディスパージョンCおよびDを利用したデバイスは、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べ著しく長い寿命を示した。デバイスの半減期は、デバイスの輝度が初期値2000cd/cm2の50%、すなわち1000cd/cm2に達するのにかかる時間として定義される。デバイスの半減期は、PTT:PSSAデバイスでは289時間であるが、PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンCおよびディスパージョンDのPTT:ナフィオン(登録商標)系デバイスでは1870時間および1650時間であった。図7に示すとおり、ディスパージョンCおよびDを利用したデバイスの動作電圧は、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べはるかに安定していた。PTT:PSSAデバイスの電圧上昇率は、289時間で0.6Vであった。PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンCおよびDに基づくデバイスでは電圧上昇率は1870時間で0.6Vおよび1650時間で0.5Vであった。
【0146】
実施例7
表面抵抗10−15オーム/スクエアの3つのパターニングされたITO支持体を実施例2と同様に洗浄した。次いで、ITO支持体に、1500rpmの回転速度で、それぞれ、ディスパージョンB、ディスパージョンCおよび参照することにより本明細書に取り込む米国特許出願公開番号2005−0151122−A1に開示されている手順にしたがい製造したPTT:PSSAディスパージョンをスピンコートした。次いで、ITO支持体を180から200℃で15分間アニーリングした。アニーリングの後、約80nmの厚さのLUMATION Blue LEP発光ポリマー(住友化学(株)製)の層をトルエン溶液からスピンコートした。次いで、試料を、窒素ガス保護下で、ホットプレート上で、130℃で20分間ベーキングした。次いで、試料を、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に置かれている真空エバポレーターのチャンバー中に移した。5nmの厚さのBa層を、約1.5Å/sの速度でマスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さのAg層を、堆積速度約3.0−4.0Å/sでBa層の上に真空堆積した。次いで、デバイスを、アルゴングローブボックス中でガラスカバー蓋およびUV硬化エポキシで密封した。デバイスをグローブボックスから取りだし、実施例2と同様にIV曲線および輝度に関して測定した。キャラクタリゼーションの後、デバイスをCDT Eclipse PLED Lifetime Tester上に置き、初期輝度1000cd/cm2でDC寿命試験を行った。図8は寿命試験結果を示す。ディスパージョンCおよびBを利用したデバイスは、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べ著しく長い寿命を示した。デバイスの半減期は、PTT:PSSAデバイスでは42時間であるが、PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンBおよびディスパージョンC系デバイスでは122時間および175時間であった。図9に示すとおり、PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンCおよびDを利用したデバイスの動作電圧は、PTT:PSSAを正孔注入層として利用したデバイスに比べはるかに安定していた。PTT:PSSAデバイスの電圧上昇率は、42時間で2.3Vであった。PTT:ナフィオン(登録商標)ディスパージョンBおよびディスパージョンCに基づくデバイスでは電圧上昇率は122時間で0.9Vおよび175時間で0.8Vであった。
【0147】
実施例8
8.4mgの位置規則性ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT、Riek Metals,Inc製)および8.9mgのN,N’−ビス(2,5−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,4,9,10−ペリレンジカルボキシミド(PDCBI、Sigma−Aldrich製)を1.0gのクロロベンゼンに溶解させて、正孔および電子輸送材料としてのP3HTおよびPDCBIの溶液を調製した。溶液を、細孔径0.2ミクロンのPTFEフィルターで濾過した。前記溶液を本願で溶液Eと称する。パターニングされたITO支持体を正極としBaを負極としてPVデバイスを製造した。ITO支持体は、洗剤を含む脱イオン水ならびにメタノールおよびイソプロパノールを用いて超音波洗浄機で洗浄した。溶媒洗浄の後、ITO支持体を、SPI Desktop II酸素プラズマエッチャー中で10分間酸素プラズマで洗浄した。正孔引抜き層(HEL)用に、実施例1で合成したPTT:ナフィオン(登録商標)またはBaytron P Al4083(ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSSA、Bayer製)をその水性ディスパージョンから、1500rpmの回転速度でスピンコートし、空気中で180℃で15分間硬化した。PTT:ナフィオン(登録商標)およびPEDOT:PSSAディスパージョンを、0.45ミクロンPVDFフィルターで濾過してから、スピンコートした。アニーリングの後、P3HT:PDCBIブレンドの層を、溶液EからHEL上へ2000rpmの回転速度で1分間スピンコートした。次いで、試料をマスクし、アルゴン雰囲気のドライボックス内に置かれた真空エバポレーターのチャンバーに移した。5nmの厚さのバリウム(Ba)層を、マスクを通して1×10-7トール未満で真空堆積させ、120nmの厚さの銀(Ag)層をBa層の上に真空堆積し、電極抵抗を下げBa層に保護を与えた。次いで、デバイスを、アルゴングローブボックス中でガラスカバー蓋およびUV硬化エポキシ(UV15、Master Bond,Inc製)で密封した。デバイス試験を室温および空気中で実施した。膜の厚さは、KLA Tencor P15表面プロファイラーで測定した。電流−電圧特性は、Keithley 2400 SourceMeterで測定した。Thermal Oriel製の150Wのオゾンレスキセノンランプを、PVデバイスのキャラクタリゼーションのための照明光源として使用した。HELとしてディスパージョンEからスピンコートしたPTT:ナフィオン(登録商標)膜を利用すると、より高い開回路電圧および短絡電流が得られた。
【0148】
表1 OPVDデバイスの性能の概要
【表1】
【0149】
実施例9
実験1のディスパージョンEに記載の手順にしたがい、ディスパージョンを作成した。3mLのディスパージョンを1インチ×3インチのガラス支持体にドロップキャストした。ディスパージョンを乾燥した後、支持体を、3つの1インチ×1インチ試料に切断し、それらを以下で試料10A、試料10Bおよび試料10Cと称する。次いで、試料10Bおよび10Cを、ホットプレートを用いて空気中で、それぞれ160および180℃で15分間アニーリングした。3試料全てについて、アメリカ合衆国、マサチューセッツ州、ビルリカのBruker Daltonics製のBiflex IIIデバイスで、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDI−TOF)質量分析法により分子量を分析した。7,7’,8,8’−テトラシアノキノジメタン(TCQN、Aldrich製)をマトリックスとして使用した。試料調製には、試料10A、10Bまたは10Cの薄膜の薄片のいくつかを約3mgのTCNQとMALDIプレート上で混合した。MALDI−TOF質量分析の結果は、高温でのアニーリングの後、より多数の繰り返し単位を持つポリチエノチオフェンがより多くあることを示した。図11は、試料10Aおよび10CのMALDI−TOFマススペクトルを示す。この結果は、導電性ポリマー膜が高温でアニーリングされると、更なる重合が固体状態で起こり、導電性ポリマーの鎖長が増すことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョン(dispersion)。
【請求項2】
前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む請求項1に記載のディスパージョン。
【請求項3】
前記コロイド形成性ポリマー酸が、少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む請求項1に記載のディスパージョン。
【請求項4】
以下の工程を含む、ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを製造する方法:(a)少なくとも1種の酸化剤および/または少なくとも1種の触媒を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(b)少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(c)工程(a)の水性ディスパージョンを、工程(b)の水性ディスパージョンと混合する工程;および(d)工程(c)の混合した水性ディスパージョンにチエノチオフェンモノマーを加える工程;および(e)ポリチエノチオフェンを形成する工程。
【請求項5】
前記の少なくとも1種の酸化剤が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記の少なくとも1種の触媒が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)および硫酸セリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記の少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸が、以下を含む構造を有する請求項4に記載の方法。
【化1】
【請求項9】
前記ポリチエノチオフェンディスパージョンを少なくとも2種のイオン交換樹脂と接触させる工程を更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、導電性膜を支持体上に形成する方法:ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを形成するために、少なくとも1種のフッ化材料の存在下でチエノチオフェンモノマーを重合する工程、前記ディスパージョンを支持体上に塗布して膜を形成する工程、前記支持体および膜を加熱する工程;および膜を塗布された支持体を回収する工程。
【請求項11】
前記加熱が、膜の導電率を上昇させるに充分な温度および時間である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱が、MALDIを利用して測定されるポリマー繰り返し単位の数を増加させるに充分である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記の少なくとも1種のフッ化材料が少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記加熱が約130℃を超える温度で実施される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記膜が、鉄、カリウムおよびナトリウムからなる群から選択される少なくとも1金属を更に含む請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記金属が鉄を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2つの電極、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む層および少なくとも1種の半導性材料を含む層を含むデバイス。
【請求項19】
前記デバイスが光電デバイスを含み、前記半導性材料が光活性である請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記電極の1つがカソードを含み、片方がアノードを含み、前記半導性材料がエレクトロルミネッセンス層を含む請求項18に記載のデバイス。
【請求項1】
ポリチエノチオフェンおよび少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョン(dispersion)。
【請求項2】
前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む請求項1に記載のディスパージョン。
【請求項3】
前記コロイド形成性ポリマー酸が、少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む請求項1に記載のディスパージョン。
【請求項4】
以下の工程を含む、ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを製造する方法:(a)少なくとも1種の酸化剤および/または少なくとも1種の触媒を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(b)少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸を含む水性ディスパージョンを提供する工程;(c)工程(a)の水性ディスパージョンを、工程(b)の水性ディスパージョンと混合する工程;および(d)工程(c)の混合した水性ディスパージョンにチエノチオフェンモノマーを加える工程;および(e)ポリチエノチオフェンを形成する工程。
【請求項5】
前記の少なくとも1種の酸化剤が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記の少なくとも1種の触媒が、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)および硫酸セリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1メンバーを含む請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記の少なくとも1種のコロイド形成性ポリマー酸が、以下を含む構造を有する請求項4に記載の方法。
【化1】
【請求項9】
前記ポリチエノチオフェンディスパージョンを少なくとも2種のイオン交換樹脂と接触させる工程を更に含む請求項4に記載の方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、導電性膜を支持体上に形成する方法:ポリチエノチオフェンを含むディスパージョンを形成するために、少なくとも1種のフッ化材料の存在下でチエノチオフェンモノマーを重合する工程、前記ディスパージョンを支持体上に塗布して膜を形成する工程、前記支持体および膜を加熱する工程;および膜を塗布された支持体を回収する工程。
【請求項11】
前記加熱が、膜の導電率を上昇させるに充分な温度および時間である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記加熱が、MALDIを利用して測定されるポリマー繰り返し単位の数を増加させるに充分である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリチエノチオフェンがポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記の少なくとも1種のフッ化材料が少なくとも1種のフッ化スルホン酸ポリマーを含む請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記加熱が約130℃を超える温度で実施される請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記膜が、鉄、カリウムおよびナトリウムからなる群から選択される少なくとも1金属を更に含む請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記金属が鉄を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2つの電極、ポリ(チエノ[3,4−b]チオフェン)を含む層および少なくとも1種の半導性材料を含む層を含むデバイス。
【請求項19】
前記デバイスが光電デバイスを含み、前記半導性材料が光活性である請求項18に記載のデバイス。
【請求項20】
前記電極の1つがカソードを含み、片方がアノードを含み、前記半導性材料がエレクトロルミネッセンス層を含む請求項18に記載のデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−222588(P2010−222588A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−115219(P2010−115219)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【分割の表示】特願2005−298675(P2005−298675)の分割
【原出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115219(P2010−115219)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【分割の表示】特願2005−298675(P2005−298675)の分割
【原出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】
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