説明

ナノコンポジット樹脂の成形方法、および光学部材用プリフォームの製造方法

【課題】無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂を用いて光学特性に優れた光学部材を安価に且つ大量に形成することができるナノコンポジット樹脂の成形方法、およびナノコンポジット樹脂からなる光学部材用プリフォームの製造方法を提供する。
【解決手段】プリフォーム1は、無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂からなり、表裏に凸曲面が形成されている。このプリフォーム1は、ナノコンポジット樹脂と、ナノコンポジット樹脂に流動性を付与する1種以上の溶媒と、を含む溶液2を、ナノコンポジット樹脂が不溶な液相4および液相4に重なる気相に対して界面を与えるように配置し、液相4と接触する溶液2の第1界面2a、および気相と接触する溶液2の第2界面2bを界面張力によって凸曲面とし、溶液2から少なくとも1種の溶媒を除去して溶液2をゲル化する工程を経て成形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂の成形方法、およびナノコンポジット樹脂からなる光学部材用プリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯カメラや、DVD、CD、MOドライブといった光情報記録機器の高性能化、小型化、低コスト化に伴って、これらの光学機器に用いられる光学レンズやフィルタ等の光学部材についても、光学特性の向上、小型化、低コスト化が強く望まれている。また、プラスチックレンズは、様々な形状に加工でき、ガラスレンズに比べて軽量で割れにくく、また、ガラスレンズよりもコスト面で有利となるため、眼鏡レンズのみならず、上記の光学機器のレンズとしても急速に普及しつつある。
【0003】
これに伴い、プラスチックレンズの小型化、薄肉化のためにプラスチックレンズの材料を高屈折率化することや、プラスチックレンズの屈折率を熱膨張や温度変化に対して安定させることなどが求められるようになっている。その解決策の一つとして、プラスチックレンズの材料として、金属酸化物微粒子などの無機微粒子を熱可塑性樹脂中に分散させたナノコンポジット樹脂を用い、それにより、屈折率を向上させ、熱膨張や温度変化に伴う屈性率の変動を抑える試みが種々行われている。
【0004】
ナノコンポジット樹脂からなる光学部材の屈折率や熱安定性は、典型的には無機微粒子の添加量を増大させることで向上するが、その一方で、ナノコンポジット樹脂の流動性が低下する。特に、屈折率向上のためには多量に無機微粒子を分散させる必要があり、近年の高屈折率化の要望に伴ってナノコンポジット樹脂の流動性の低下は顕著となっている。そのため、ナノコンポジット樹脂では射出成形に必要な樹脂の流動性が得られ難く、射出成形によると、微細構造の転写不良が懸念される。そこで従来、ナノコンポジット樹脂からなるプリフォームを熱プレス成形して、光学部材を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そして、ナノコンポジット樹脂を用いてプリフォームを製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂および無機微粒子を溶融して混合し、射出成形する方法(例えば特許文献1参照)や、溶媒に熱可塑性樹脂および無機微粒子を混合した溶液を金属やセラミックなどの型に投入し、溶媒を熱などによって除去する方法(例えば特許文献2、3参照)などが、知られている。
【0006】
また、プラスチック等の可塑性物質の成形方法として、2つの液相間に可塑性物質を配置し、各液相と接触する界面の形状を界面張力により制御して、例えば凸曲面形状に成形する技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。この技術において、可塑性物質としては、熱可塑性物質などの非重合性物質や、光などの電磁波により重合する重合性物質が用いられ、必要に応じて有機、無機、金属材料などの粉体が添加される。
【特許文献1】特開2006−343387号公報
【特許文献2】特開2003−147090号公報
【特許文献3】特開2002−047425号公報
【特許文献4】特開2003−181856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、プリフォームを熱プレス成形して、所望の光学部材を形成するようにしている。ここで、ナノコンポジット樹脂は流動性に乏しく、熱プレス成形時にナノコンポジット樹脂同士の接着界面ができてしまった場合に、接着界面でのナノコンポジット樹脂の混じりあいが不十分となる。その結果、界面には、光学的欠陥となるウェルドラインが生じる虞がある。よって、熱プレス成形時にナノコンポジット樹脂同士の接着界面ができないようにする必要がある。
【0008】
また、ナノコンポジット樹脂を用いてプリフォームを製造する場合に、射出成形によると、ナノコンポジット樹脂は高温にしても樹脂の流動性が得られ難いため、成形が困難となる場合があり、また、無機微粒子が局所的に凝集して分散密度が一定にならず、所望の光学特性(透明性・屈折率など)が得られ難いという問題がある。また、光学部材には高品質が求められ、射出成形でランナーに残った材料は品質低下の虞があるため再利用されずに廃棄されるが、そのため、射出成形によると、ナノコンポジット樹脂材料のロスが比較的多く、プリフォームの製造コストの削減を阻害する要因となる。
【0009】
これに対して、ナノコンポジット樹脂を含む溶液を型に投入して成形する溶液法によれば、射出成形に起因する上記の問題を解消することができる。しかしながら、溶液法によると、溶媒が除去される間は型が占有されてしまい、プリフォームを多量に製造するにあたって多数の型が必要となり、コストがかかる。
【0010】
特許文献4に開示された界面張力により成形する方法によれば、型を必要としないため、コストの低減を図ることができる。しかしながら、ナノコンポジット樹脂は、上述のとおり高温にしても流動性が得られにくく、界面の形状を界面張力により制御することが困難であり、また、無機微粒子の分散密度が一定にならず、所望の光学特性が得られ難いという問題がある。また、熱可塑性樹脂に替えて光硬化性樹脂を用いるとすると、樹脂の種類が制限されてしまう。
【0011】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたもので、無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂を用いて光学特性に優れた光学部材を安価に且つ大量に形成することができるナノコンポジット樹脂の成形方法、およびナノコンポジット樹脂からなる光学部材用プリフォームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記のナノコンポジット樹脂の成形方法によって達成される。
(1)無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂の成形方法であって、前記ナノコンポジット樹脂と、該ナノコンポジット樹脂に流動性を付与する1種以上の溶媒と、を含む溶液を、該ナノコンポジット樹脂が不溶な液相および該液相に重なる流体相に対して界面を与えるように配置し、前記液相と接触する前記溶液の第1界面、および前記流体相と接触する該溶液の第2界面を界面張力によって凸曲面とし、前記溶液から少なくとも1種の前記溶媒を除去して、該溶液をゲル化する溶媒除去工程を備えることを特徴とするナノコンポジット樹脂の成形方法。
(2)無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂の成形方法であって、前記ナノコンポジット樹脂と、該ナノコンポジット樹脂に流動性を付与する1種以上の溶媒と、を含む溶液を、該ナノコンポジット樹脂が不溶な液相中に配置し、前記液相と接触する前記溶液の界面を界面張力によって凸曲面とし、前記溶液から少なくとも1種の前記溶媒を除去して、該溶液をゲル化する溶媒除去工程を備えたことを特徴とするナノコンポジット樹脂の成形方法。
(3)前記溶媒除去工程において除去される前記溶媒が前記液相に可溶であり、該溶媒を該液相に吸収させることを特徴とする(1)または(2)に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
(4)前記溶液が、前記ナノコンポジット樹脂を溶解させてゲル組成物を形成する第1溶媒と、前記ゲル組成物をゾル化する第2溶媒と、を含み、前記溶媒除去工程において、前記溶液から前記第2溶媒を除去し、該溶液をゲル化することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
(5)前記第1溶媒がトルエンであり、前記第2溶媒がエタノールであることを特徴とする(4)に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
(6)前記液相が水であることを特徴とする(5)に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
【0013】
また、本発明の上記目的は、下記のプリフォームの製造方法によって達成される。
(7)無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂からなる光学部材用プリフォームの製造方法であって、(1)〜(6)のいずれかに記載されたナノコンポジット樹脂の成形方法により、表裏を凸曲面に成形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るナノコンポジット樹脂の成形方法によれば、溶媒を用いてナノコンポジット樹脂に流動性を付与している。それにより、これらナノコンポジット樹脂および溶媒を含む溶液の界面の形状を界面張力によって制御することを容易とし、また、無機微粒子を均一に分散させて、光学特性の向上を図ることができる。そして、溶液を、液相と該液相に重なる流体相との間、または液相中に配置し、溶液の界面を界面張力によって凸曲面に成形して溶媒を除去している。それにより、型を不要とし、コストの低減を図ることができる。このようにして成形されたナノコンポジット樹脂は、表裏を凸曲面に成形される。
【0015】
また、本発明に係るプリフォームの製造方法によれば、その表裏は凸曲面に成形される。このように成形されたプリフォームが、凸曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際には、その形状が近似することにより、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。また、平面または凹曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際にも、プリフォームの中央部から熱プレスが進行するため、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。それにより、光学的欠陥となるウェルドラインの発生を防止し、光学特性に優れた光学部材を形成することができる。さらに、プリフォームの中央部から熱プレスが進行するために空気が押し出されやすくなっており、それにより、気泡の発生を防止して歩留まりを向上させることができる。
【0016】
以上、本発明によれば、無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂を用いて光学特性に優れた光学部材を安価に且つ大量に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明に係るナノコンポジット樹脂の成形方法およびプリフォームの製造方法の好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のナノコンポジット樹脂の成形方法およびプリフォームの製造方法における各工程を示す図である。本実施形態では、無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂を用いて、表裏が凸曲面に成形されたプリフォーム1を形成する。尚、本発明に用いるナノコンポジット樹脂の詳細については後述する。
【0019】
図1(A)に示すように、ナノコンポジット樹脂と、このナノコンポジット樹脂に流動性を付与する溶媒と、を含む溶液2は、ディスペンサ等の計量器を用いて所定量計量され、容器3に滴下されて供給されている。この容器3には、ナノコンポジット樹脂が不溶な液4が収容されている。
【0020】
本実施形態において、ナノコンポジット樹脂を含む溶液2の比重は、容器3に収容された液4の比重よりも小さくなっている。よって、図1(B)に示すように、容器3に供給された溶液2は、液4の表面に浮き、即ち、溶液2は、液(液相)4と雰囲気(気相(流体相))との間で、液相4および気相に対して界面を与えるように配置される。
【0021】
尚、本実施形態においては、液相4と気相との間に溶液2を配置しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、気相に替えて、ナノコンポジット樹脂が不溶な液相(流体相)を液相4の上に重ねて、2つの液相の間に溶液2を配置するようにしてもよい。また、詳細は後述するが、溶液2の比重を液相4の比重と略等しくし、液相4の中に溶液2を配置するようにしてもよい。
【0022】
また、本実施形態においては、溶液2を滴下して供給しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記した2つの液相の間に溶液2を配置する場合に、2つの液相の間を臨む位置にノズルの吐出口を設け、このノズルから溶液2を吐出して溶液2を配置するようにしてもよく、また、溶液2を滴下して下層の液相4の表面に浮かべ、その後に上層の液相を被せるようにしてもよい。
【0023】
液相4と接触する溶液2の第1界面2aは、液相4との間で作用する界面張力により凸曲面となっている。また、気相と接触する溶液2の第2界面2bは、気相との間で作用する界面張力により凸曲面となっている。
【0024】
溶液2に含まれるナノコンポジット樹脂の濃度は、好ましくは10wt.%〜90wt.%、より好ましくは15wt.%〜50wt.%である。溶液2が接触する相(液相4や気相)にもよるが、ナノコンポジット樹脂の濃度が10wt.%未満では、界面が凸曲面となり難い。ナノコンポジット樹脂の濃度が15wt.%以上あれば、厚みや界面の凸曲面の曲率半径ともに様々な形状に対応可能である。また、ナノコンポジット樹脂の濃度が90wt.%超では、溶液2の流動性が足りず、界面張力によって界面の形状を制御することが困難となる。界面を現実的な時間で凸曲面に成形することができるのは、ナノコンポジット樹脂の濃度が50wt.%以下である。
【0025】
図1(C)および図1(D)に示すように、溶液2の第1界面2aおよび第2界面2bの凸曲面形状を維持して、溶液2から溶媒が除去される。溶液2から溶媒が除去されることにより、ナノコンポジット樹脂は、その流動性を失ってゲル化し、最終的に固化する。
【0026】
溶液2は、その第1界面2aにおいて液相4と接触しており、この液相4により溶液2に含まれる少なくとも1種の溶媒を吸収して、溶液2から溶媒を除去することができる。例えば、液相4としては、取り扱いの容易性から水を好ましく用いることができ、溶媒を親水性として液相4に吸収させ、それにより溶媒を除去することができる。また、本実施形態において、溶液2は、その第2界面2bにおいて気相に接触しており、揮発性の溶媒などは気化させて除去することもできる。
【0027】
本発明において、溶液2に含まれる溶媒は、ナノコンポジット樹脂に流動性を付与することができる限り1種の溶媒であってもよいが、複数種の溶媒を組み合わせることによっても高い流動性を実現することができる。本実施形態において、溶液2には、ナノコンポジット樹脂を溶解させてゲル組成物を形成する第1溶媒と、このゲル組成物をゾル化する第2溶媒と、が含まれ、これら第1溶媒および第2溶媒によりナノコンポジット樹脂に流動性が付与されている。
【0028】
溶液2に含まれる溶媒としては、例えば、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ベンゼン、t−ブタノール、二硫化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、シクロヘキサン、シクロペンタン、デカリン、ジブロモメタン、o−ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレンZ、1,2−ジクロロエチレンE、1,1−ジクロロエチレン、ジクロロメタン、ジメトキシメタン、ジメチルアセトアミド、炭酸ジメチル、ジメチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、炭酸エチレン、ジクロロジフルオロメタン、クロロジグルオロメタン、ホルムアミド、ヘキサクロロアセトン、ヘキサフルオロジクロロプロパン、ヘキサメチルホスホルアミド、メチルクロライド、モルホリン、ニトロメタン、ピリジン、キノリン、二酸化硫黄、2,2−テトラクロロエタン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トルエン、トリクロロエチレン、酢酸ブチルなどの中から選ばれるが、この限りではない。
【0029】
上記の第1溶媒および第2溶媒を含む溶液2は、第2溶媒が除去されることにより流動性を失ってゲル化し、さらに第1溶媒が除去されることにより固化する。これら第1溶媒および第2溶媒のうち少なくとも1種の溶媒を液相4に吸収させて除去するにあたり、取り扱いの容易性の観点から液相4に水を用いた場合には、第1溶媒および第2溶媒の組み合わせとして、いずれか一方を親水性の溶媒とし、他方を疎水性の溶媒とするのが好ましい。例えば、本実施形態においては、液相4を水として、第1溶媒に疎水性のトルエンが用いられ、第2溶媒に親水性のエタノールが用いられている。このように構成された溶液2は、図1(C)に示すように、第2溶媒であるエタノールが液相4に吸収されて除去され、それによりゲル化する。また、図1(C)および図1(D)に示すように、第1溶媒であるトルエンは揮発性であり、気化して気相中に放出され、溶液2から除去される。
【0030】
溶液2から第1溶媒であるトルエンおよび第2溶媒であるエタノールが除去されることにより、図1(E)に示すように、自重でも変形しない程度に固まった固形分1´が形成される。この固形分1´には水分や溶媒が若干残っており、これらの水分や溶媒が乾燥によって除去され、図1(F)に示すプリフォーム1が形成される。乾燥条件としては、真空乾燥、送風乾燥いずれでもよく、100℃以下で行うことが好ましい。100℃を超える温度で乾燥した場合、内部の水分が急激に膨張し、固形分1´内に気泡が発生する虞がある。
【0031】
以上のようにして形成されたプリフォーム1は、その表裏が凸曲面に成形されている。このように成形されたプリフォーム1が、例えば凸曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際には、その形状が近似することにより、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。また、平面または凹曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際にも、プリフォーム1の中央部から熱プレスが進行するため、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。
【0032】
以上、説明したように、本実施形態のナノコンポジット樹脂の成形方法によれば、溶媒を用いてナノコンポジット樹脂に流動性を付与している。それにより、これらナノコンポジット樹脂および溶媒を含む溶液2の界面2a、2bの形状を界面張力によって制御することを容易とし、また、無機微粒子を均一に分散させて、光学特性の向上を図ることができる。そして、溶液2を液相4と気相との間に配置し、溶液2の界面2a、2bを界面張力によって凸曲面に成形して溶媒を除去している。それにより、型を不要とし、コストの低減を図ることができる。このようにして成形されたナノコンポジット樹脂は、表裏を凸曲面に成形される。
【0033】
また、本実施形態のプリフォームの製造方法によれば、プリフォーム1の表裏は凸曲面に成形される。このように成形されたプリフォーム1が、凸曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際には、その形状が近似することにより、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。また、平面または凹曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際にも、プリフォーム1の中央部から熱プレスが進行するため、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。それにより、光学的欠陥となるウェルドラインの発生を防止し、光学特性に優れた光学部材を形成することができる。さらに、プリフォーム1の中央部から熱プレスが進行するために空気が押し出されやすくなっており、それにより、気泡の発生を防止して歩留まりを向上させることができる。
【0034】
以上によれば、無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂を用いて光学特性に優れた光学部材を安価に且つ大量に形成することができる。
【0035】
<第2実施形態>
図2は、第2実施形態のナノコンポジット樹脂の成形方法およびプリフォームの製造方法における各工程を示す図である。尚、上述した第1実施形態と共通する要素には、図中、同一の符号を付すことにより、説明を省略あるいは簡略する。
【0036】
図2に示すように、本実施形態では、ナノコンポジット樹脂を含む溶液2の比重を、容器3に収容された液4の比重と実質的に等しくし、液相4の中に溶液2を配置するようにしている。尚、溶液2を吐出するノズルの吐出口を液相4の中に設け、このノズルから溶液2を吐出して溶液2を配置する場合に、溶液2の比重によってノズルの向きを変える必要がある。例えば、溶液2の比重が液相4の比重よりも小さい場合には、ノズルの向きは上向きとされる。
【0037】
液相4の中に配置された溶液2は、液相4との間で作用する界面張力により略球形状を呈する。そして、図2(C)および図2(D)に示すように、溶液2の略球形状を維持して、溶液2から溶媒が除去される。溶液2から溶媒が除去されることにより、ナノコンポジット樹脂は、その流動性を失ってゲル化し、最終的に固化する。
【0038】
ここで、本実施形態においても、液相4は水とし、溶液2には、ナノコンポジット樹脂を溶解させてゲル組成物を形成する第1溶媒としてのトルエンと、このゲル組成物をゾル化する第2溶媒としてのエタノール、が含まれている。液相4の中に配置された溶液2からは、主として親水性のエタノールが液相4に吸収されて除去され、それにより、溶液2がゲル化する。尚、疎水性のトルエンについても、揮発させて除去する場合に比べて時間を要するが、液相4に徐々に吸収され、除去される。
【0039】
溶液2から第1溶媒であるトルエンおよび第2溶媒であるエタノールが除去されることにより、図2(E)に示すように、自重でも変形しない程度に固まった固形分11´が形成される。この固形分11´が乾燥されて図2(F)に示すプリフォーム11が形成される。
【0040】
以上のようにして形成されたプリフォーム11は、略球形状をなし、上半分を表、下半分を裏として、その表裏が凸曲面に成形されている。このように成形されたプリフォーム11が、例えば凸曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際には、その形状が近似することにより、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。また、平面または凹曲面の光学面を有する光学部材に熱プレス成形される際にも、プリフォーム1の中央部から熱プレスが進行するため、ナノコンポジット樹脂同士の接着界面の発生が回避される。
【0041】
〈ナノコンポジット樹脂〉
以下に、本発明で用いられるナノコンポジット樹脂について、詳細に説明する。
【0042】
[無機微粒子]
本発明で用いられる有機無機複合材料には、数平均粒子サイズが1〜15nmの無機微粒子としている。無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズは1〜15nmにすることが必要であり、好ましくは2〜13nmであり、より好ましくは3〜10nmである。
【0043】
本発明で用いられる無機微粒子としては、例えば、酸化物微粒子、硫化物微粒子、セレン化物微粒子、テルル化物微粒子等が挙げられる。より具体的には、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、ジルコニア微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができ、好ましくは、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子、硫化亜鉛微粒子であり、より好ましくはチタニア微粒子、ジルコニア微粒子であるが、これらに限定されるものではない。本発明では、1種類の無機微粒子を用いてもよいし、複数種の無機微粒子を併用してもよい。
【0044】
本発明で用いられる無機微粒子の波長589nmにおける屈折率は、1.90〜3.00であることが好ましく、1.90〜2.70であることがより好ましく、2.00〜2.70であることがさらに好ましい。屈折率が1.90以上である無機微粒子を用いれば屈折率が1.65より大きい有機無機複合材料を作成しやすくなり、屈折率が3.00以下の無機微粒子を用いれば透過率が80%以上の有機無機複合材料を作成しやすい傾向がある。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社DR−M4)にて波長589nmの光について25℃で測定した値である。
【0045】
[熱可塑性樹脂]
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の構造には特に制限がなく、たとえば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルカルバゾール、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリチオエーテ、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の公知の構造を有する樹脂を例示することができるが、本発明では少なくとも、高分子鎖末端、または側鎖に無機微粒子と任意の化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂が特に好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、
(1)高分子鎖末端、または側鎖に下記から選ばれる官能基を有する熱可塑性樹脂;
【化1】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SOH、−OSOH、−COH、または−Si(OR15m1163−m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]
(2)疎水性セグメントおよび親水性セグメントで構成されるブロック共重合体;
が好ましい例として挙げられる。
【0046】
[熱可塑性樹脂(1)]
以下、熱可塑性樹脂(1)について、詳細に説明する。本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)は、高分子鎖末端、側鎖に無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられ、官能基が複数存在する場合は、それぞれ無機微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、有機溶媒中において熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が無機微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが無機微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が無機微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0047】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するコポリマーであることが特に好ましい。このようなコポリマーは、下記一般式(2)で表わされるビニルモノマーを共重合することにより得ることができる。
【化2】

【0048】
【化3】

【0049】
一般式(1)および一般式(2)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、および、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選ばれる2価の連結基を表し、より好ましくは−CO−またはp−フェニレン基である。
【0050】
Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表す。炭素数は1〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。具体的には、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基を挙げることができ、好ましくはアルキレン基である。
【0051】
qは0〜18の整数を表す。より好ましくは0〜10の整数であり、さらに好ましくは0〜5の整数であり、特に好ましくは0〜1の整数である。
【0052】
Zは、前記[化1]に示される官能基である。
【0053】
以下に一般式(2)で表されるモノマーの具体例を挙げるが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。
【化4】

【0054】
本発明において一般式(2)で表わされるモノマーと共重合可能な他の種類のモノマーとしては、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを用いることができる。
【0055】
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0056】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)の重量平均分子量は1,000〜500,000であることが好ましく、3,000〜300,000であることがさらに好ましく、10,000〜100,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂(1)の重量平均分子量を500,000以下とすることにより、成形加工性が向上する傾向にあり、1,000以上とすることにより力学強度が向上する傾向にある。
【0057】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)において、無機微粒子と結合する上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂(1)が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、無機微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
【0058】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(1)のガラス転移温度は80℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0059】
上記のように、本発明で用いられるナノコンポジット樹脂は、特定の構造を有する単位構造を樹脂中にもたせることにより、無機微粒子が分散している有機無機複合材料の高屈折性と高透明性を損なうことなく、成形金型からの離型性を向上させることができる。
【0060】
上記の材料によれば、優れた離型性と高屈折性と透明性とを併せ持つ有機無機複合材料、およびそれを含んで構成される、高精度と高透明性と高屈折性とを併せ持つ光学部材が提供できる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を説明する。
【0062】
ナノコンポジット樹脂、および、ナノコンポジット樹脂と溶媒を含んだ溶液は、以下のとおり調製した。
・熱可塑性樹脂:スチレン系ポリマー
・無機微粒子:ジルコニア粒子(粒径5nm)
・溶媒:トルエン、エタノール(混合比(トルエン:エタノール) 95:5)
・ナノコンポジット樹脂濃度:36.1wt.%
【0063】
上記の溶液を、武蔵エンジニアリング製ディスペンサ「Measuring Master mpp−1」を用いて277マイクロリットル計量し、水(液相)と雰囲気(気相)との間に配置した。その状態で6時間維持し、固形分が自重でも変形しないことを確認し取り出した。取り出した固形分を、送風乾燥機を用いて100℃で24時間乾燥し、プリフォームを形成した。上記の条件で、直径7〜8mm、水と接していた側の表面の曲率半径が3〜4mm、雰囲気と接していた側の表面の曲率半径が3.5〜4.5mmの範囲で、表裏がともに凸曲面に成形されたプリフォームを形成することができた。
【0064】
直径8mmで曲率半径4.5mmの凹曲面の成形面を上型および下型ぞれぞれに有するプレス装置用いて、上記のプリフォームを熱プレス成形した。熱プレス成形の条件は下記のとおりである。
・プリフォーム予熱時間:180℃、30s
・プレス温度:180℃
・プレス力:1.95MPa
・プレス保持時間:2min.
・冷却速度:2℃/s
・取り出し温度:30℃
上記条件にてプリフォームを熱プレス成形したところ、ウェルドラインのない良好な成形品を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態のナノコンポジット樹脂の成形方法およびプリフォームの製造方法における各工程を示す図である。
【図2】第2実施形態のナノコンポジット樹脂の成形方法およびプリフォームの製造方法における各工程を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 プリフォーム
2 溶液
2a 溶液の第1界面
2b 溶液の第2界面
3 容器
4 液相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂の成形方法であって、
前記ナノコンポジット樹脂と、該ナノコンポジット樹脂に流動性を付与する1種以上の溶媒と、を含む溶液を、該ナノコンポジット樹脂が不溶な液相および該液相に重なる流体相に対して界面を与えるように配置し、
前記液相と接触する前記溶液の第1界面、および前記流体相と接触する該溶液の第2界面を界面張力によって凸曲面とし、
前記溶液から少なくとも1種の前記溶媒を除去して、該溶液をゲル化する溶媒除去工程を備えることを特徴とするナノコンポジット樹脂の成形方法。
【請求項2】
無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂の成形方法であって、
前記ナノコンポジット樹脂と、該ナノコンポジット樹脂に流動性を付与する1種以上の溶媒と、を含む溶液を、該ナノコンポジット樹脂が不溶な液相中に配置し、
前記液相と接触する前記溶液の界面を界面張力によって凸曲面とし、
前記溶液から少なくとも1種の前記溶媒を除去して、該溶液をゲル化する溶媒除去工程を備えたことを特徴とするナノコンポジット樹脂の成形方法。
【請求項3】
前記溶媒除去工程において除去される前記溶媒が前記液相に可溶であり、該溶媒を該液相に吸収させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
【請求項4】
前記溶液が、前記ナノコンポジット樹脂を溶解させてゲル組成物を形成する第1溶媒と、前記ゲル組成物をゾル化する第2溶媒と、を含み、
前記溶媒除去工程において、前記溶液から前記第2溶媒を除去し、該溶液をゲル化することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
【請求項5】
前記第1溶媒がトルエンであり、前記第2溶媒がエタノールであることを特徴とする請求項4に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
【請求項6】
前記液相が水であることを特徴とする請求項5に記載のナノコンポジット樹脂の成形方法。
【請求項7】
無機微粒子および熱可塑性樹脂を含有したナノコンポジット樹脂からなる光学部材用プリフォームの製造方法であって、
請求項1〜6のいずれか一項に記載されたナノコンポジット樹脂の成形方法により、表裏を凸曲面に成形することを特徴とするプリフォームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−269197(P2009−269197A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119101(P2008−119101)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】