説明

ナノチューブ状物質含有膜、それを用いた半導体装置及びそれらの製造方法

【課題】ナノチューブ状物質の混合物を有するナノチューブ状物質含有膜においては、誘電率が異なる二以上のナノチューブ状物質が混在しているため、特定の誘電率に基づく薄膜の特性が低下し、または、その特性にばらつきが生じるなど、ナノチューブ状物質含有膜の特性を制御することが困難である。
【解決手段】本発明のナノチューブ状物質含有膜は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも有し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の方向に配向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノチューブ状物質含有膜、それを用いた半導体装置及びそれらの製造方法に係り、特に、ナノチューブ状物質を含んだナノチューブ状物質含有膜、それを用いた半導体装置及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートル程度のサイズを持つチューブ状の物質からなるナノチューブ材料は、機械的、電気的、光学的な領域における応用が期待されている。ナノチューブ材料としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、窒化ホウ素(BN)ナノチューブ、有機ナノチューブ、シリコンナノワイヤ、酸化亜鉛ナノワイヤなどが知られている。これらのナノチューブ材料は、直径や構造の違いにより誘電率の異なるナノチューブ材料を含む混合材料となる場合がある。
【0003】
特に単層カーボンナノチューブについては、チューブの直径、巻き具合によって誘電率の異なるナノチューブが得られること、それらは金属性と半導体性という2つの異なる性質に分かれることが知られている。すなわち、現在知られている製造方法を用いて単層カーボンナノチューブを合成すると、図14に示すように、金属性を有する単層カーボンナノチューブ410と半導体性を有する単層カーボンナノチューブ420が統計的に1:2の割合で含まれ、それぞれがランダムな方向に配置している単層カーボンナノチューブの混合材料400が得られる。
【0004】
一方、半導体装置の分野では、半導体膜としてアモルファスまたは多結晶のシリコンを用いた薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が知られており、アクティブマトリックス液晶ディスプレイ等のスイッチング素子として実用化されている。
【0005】
近年、TFT用の半導体膜の材料としてナノチューブ材料を用いることが検討されている。例えば、単層カーボンナノチューブを含む薄膜を用いて作製したTFTの一例が特許文献1に記載されている。このような単層カーボンナノチューブを用いたTFTには、アモルファスまたは多結晶のシリコンを用いたTFTに比べ、製造プロセスの低温化が図れるという利点がある。そのため、プラスチック基板上への回路の形成が可能になり、装置の軽量化、低コスト化が図れるなど、多くの効果が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−071898号公報(段落「0024」、「0025」、「0030」、図1)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ナノ レターズ(NANO LETTERS)」、(米国)、アメリカ化学会(American Chemical Society)、2002年8月30日、第2巻、第10号、p.1137−1141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上述したように、現在の単層カーボンナノチューブの製造方法では、半導体性または金属性という異なる性質を有する二種類の単層カーボンナノチューブが含まれた混合材料しか得ることができない。したがって、単層カーボンナノチューブをチャネル層の薄膜として用いた関連するTFTにおいては、チャネル層の薄膜中に存在する金属性を有するカーボンナノチューブの影響により、TFTのOn/Off比の低下や短絡、TFT素子毎の電気特性のばらつきといった性能の低下が生じる。これは、薄膜中の金属性を有する単層カーボンナノチューブがチャネル間に流れる電流経路上に存在することにより、その経路中ではトランジスタ動作が生じないことによる。このことは、単層カーボンナノチューブに限らず、例えば、多層カーボンナノチューブ、窒化ホウ素(BN)ナノチューブなど、誘電率の異なるナノチューブを含む他の混合材料を用いた場合においても同様である。
【0009】
すなわち、関連するTFTのように、ナノチューブ状物質の混合物を有するナノチューブ状物質含有膜においては、誘電率が異なる二以上のナノチューブ状物質が混在しているため、特定の誘電率に基づく薄膜の特性が低下し、または、その特性にばらつきが生じるなど、ナノチューブ状物質含有膜の特性を制御することが困難である、という問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上述した課題であるナノチューブ状物質の混合物を有するナノチューブ状物質含有膜では、その特性を制御することが困難である、という課題を解決するナノチューブ状物質含有膜、それを用いた半導体装置及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のナノチューブ状物質含有膜は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも有し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の方向に配向している。
【0012】
本発明の半導体装置は、ナノチューブ状物質含有膜と、ナノチューブ状物質含有膜の両端領域に接続してそれぞれ配置された第1の電極及び第2の電極と、ナノチューブ状物質含有膜に接して配置された絶縁膜と、絶縁膜を挟み、ナノチューブ状物質含有膜に対向して配置された第3の電極とを備え、ナノチューブ状物質含有膜は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも有し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の方向に配向している。
【0013】
本発明のナノチューブ状物質含有膜の製造方法は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも含むナノチューブ混合溶液を基板上に付着させ、ナノチューブ混合溶液に対して所定の方向に制御された電磁的作用を施し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の一方を、所定の方向と略平行な方向に配向させる。
【0014】
本発明の半導体装置の製造方法は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも含むナノチューブ混合溶液を基板上に付着させ、ナノチューブ混合溶液に対して偏光方向を制御したレーザー光を照射し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の一方を、偏光方向と略平行な方向に配向させたナノチューブ状物質含有膜を形成し、ナノチューブ状物質含有膜の両端領域に接続してそれぞれ第1の電極と第2の電極を形成し、ナノチューブ状物質含有膜に接して絶縁膜を形成し、絶縁膜を挟み、ナノチューブ状物質含有膜に対向して第3の電極を形成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のナノチューブ状物質含有膜は、その特性を制御することが容易であるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るナノチューブ状物質含有膜の平面図
【図2】本明細書におけるナノチューブ状物質の向きを模式的に示した概略図
【図3】本発明の第1の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図4】本発明の第1の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図5】本発明の第1の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図6】本発明の第2の実施形態に係るナノチューブ状物質含有膜の平面図
【図7】本発明の第2の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図8】本発明の第2の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図9】本発明の第2の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図10】本発明の第2の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図11】本発明の第2の実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明するための断面図及び平面図
【図12】本発明の第3の実施形態による薄膜トランジスタの(a)断面図及び(b)平面図
【図13】本発明の第3の実施形態による薄膜トランジスタの製造方法を説明するための平面図
【図14】関連する単層カーボンナノチューブの混合材料の平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るナノチューブ状物質含有膜100の平面図である。ナノチューブ状物質含有膜100は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質101と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質102とを少なくとも有し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の配向方向103に配向している。図1では、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質101のみが所定の配向方向103に配向している場合を示している。
【0019】
ここで、本明細書においてナノチューブ状物質とは、ナノチューブ材料およびシリコンナノワイヤ、酸化亜鉛ナノワイヤ、金属ナノロッド類などを含めたものをいう。ナノチューブ材料としては、単層カーボンナノチューブ、金属内包カーボンナノチューブ、フラーレン内包単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等のカーボンナノチューブ類が好適に用いられるが、これに限らず、窒化ホウ素(BN)ナノチューブ、有機ナノチューブなどを用いることもできる。
【0020】
また、本明細書における「ナノチューブ状物質の向き」について図2を用いて説明する。本明細書においては、ナノチューブ状物質110とナノチューブ状物質110を完全に内包する長方形の辺とが二点以上で接し、かつ、この長方形の面積が最小となる長方形の短辺111と長辺112の比が1:2となるとき、この長方形の長辺方向の向きを「ナノチューブ状物質の向き」113という。また本明細書においてナノチューブ状物質が「所定の方向に配向した状態」とは、所定の方向に対するナノチューブ状物質群の配向確率分布をp(θ)としたとき、p(θ)の半値全幅がθ=±15度以下である状態のことをいう。
【0021】
本実施形態による別のナノチューブ状物質含有膜として、例えば、第1のナノチューブ状物質が金属性を有するカーボンナノチューブであり、第2のナノチューブ状物質が半導体性を有するカーボンナノチューブであり、金属性を有するカーボンナノチューブが所定の方向に配向した構成とすることができる。
【0022】
本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜は、配向したナノチューブ状物質の特性が配向方向に対して顕著に現れ、配向方向に垂直な方向に対しては顕著な特性を示さないという異方性を有する。そのため、ナノチューブ状物質含有膜に含まれるナノチューブ状物質の配向方向を制御することにより、異なる誘電率を有するナノチューブ状物質を互いに分離することなく、ナノチューブ状物質含有膜の特性を制御することができる。例えば、単層カーボンナノチューブを用いたナノチューブ状物質含有膜では、金属性を有する単層カーボンナノチューブが所定の方向に配向した構成とすることにより、この配向方向に対しては導電率が高く、配向方向と垂直な方向では導電率が低いナノチューブ状物質含有膜が得られる。この導電率の異方性を用いることにより、単層カーボンナノチューブを含む薄膜の特性を制御することができる。また、所定の方向に配向した構成とすることにより、その配向方向に対しては引張り強度が増大するという効果が得られる。
【0023】
次に、本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明する。ナノチューブ状物質は、単層カーボンナノチューブに代表されるように、その直径、巻き具合などによって誘電率が異なる。そのため、電磁的作用によりナノチューブ状物質に誘起される双極子モーメントに基づく力は、個々のナノチューブ状物質により異なる。したがって、電磁的作用を制御することにより、個々のナノチューブ状物質に作用する双極子モーメントに基づく力を制御することができる。その結果、特定の誘電率を有するナノチューブ状物質のみを所定の方向に配向させることができ、それによって本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜を製造することができる。ここで電磁的作用には、直線偏光を持つ電磁場であるレーザー光、交流電場、交流磁場などを用いることができる。
【0024】
以下に本実施形態によるナノチューブ状物質の配向について、さらに詳細に説明する。ここでは、電磁的作用として電場を印加する場合を例にとって説明する。ナノチューブ状物質と電場との相互作用は以下に示す式を用いて表すことができる。すなわち、孤立した一本のナノチューブ状物質において、ナノチューブ状物質の長さをL、ナノチューブ状物質と電場Eとの成す角をθ、ナノチューブ状物質の分極テンソルをαとすると、電場中のナノチューブ状物質に与えられるトルクTは次式で表される。
T(θ)=αLEsin(2θ) (1)
また、そのときにナノチューブ状物質が持つエネルギーUは
U(θ)=(1/2)αLEsin(θ) (2)
と表すことができる。ナノチューブ状物質が電場に対してθの角度へ向く確率p(θ)は、エネルギーの式とDebye−Lanqevinの式から、
p(θ)∝a×exp(−αELsin2θ/2kT) (3)
となる。ここで、aは規格化定数、kはボルツマン定数、Tはナノチューブの温度である。配向した状態に必要な電場強度は、上述の定義よりp(θ)の半値全幅がθ=±15度となるのに必要な電場であるから、次の式が成り立つ。
0.5p(0)=p(15) (4)
この式を用いて、半導体性を有する単層カーボンナノチューブ及び金属性を有する単層カーボンナノチューブについて、配向した状態に必要な電場強度を求めると以下のようになる。ここで各数値には、それぞれ一般的に知られている値として以下のものを用いた。半導体性を有する単層カーボンナノチューブの分極テンソルαは非特許文献1より1.1×10とし、単層カーボンナノチューブの長さは1μm、温度Tは300Kとした。このとき、式(4)を満たす電場の強度Esは約100V/mとなる。一方、金属性を有する単層カーボンナノチューブの場合、分極テンソルαは非特許文献1より7.8×10とし、単層カーボンナノチューブの長さは1μm、温度Tは300Kとした。このとき、式(4)を満たす電場の強度Emは約3V/mとなる。
【0025】
以上より、金属性を有する単層カーボンナノチューブと半導体性を有する単層カーボンナノチューブをそれぞれ所定の方向に配向させるために必要な電場の強度には、約2桁の相違があることがわかる。このことから、金属性を有する単層カーボンナノチューブと半導体性を有する単層カーボンナノチューブが混在する領域に電場を作用させ、その電場の強度を制御することにより、金属性または半導体性を有する単層カーボンナノチューブをそれぞれ異なる方向に配向させることができる。
【0026】
次に、本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法について、図3から図5を用いてさらに詳細に説明する。
【0027】
図3に示すように、まず、基板120の上にナノチューブ混合溶液を滴下し、ナノチューブ混合液滴121を形成する。基板120には、ポリイミド等のプラスチック基板、不純物添加された単結晶シリコン基板、酸化シリコンに覆われたシリコン基板、あるいはガラス基板や石英基板等を用いることができる。本実施形態では基板120として酸化シリコン膜に覆われたシリコン基板を用いた。
【0028】
ナノチューブ混合溶液には、水もしくは重水に界面活性剤を溶解させた界面活性剤溶液にナノチューブ状物質の混合材料を投入し、超音波分散及び超遠心分離を施してナノチューブ状物質を単分散させた溶液を好適に用いることができる。これに限らず、界面活性剤溶液にナノチューブ状物質の混合材料を投入し、超音波分散または攪拌によりナノチューブ状物質を単分散させた溶液を用いることとしてもよい。また、ナノチューブ状物質の混合材料をジクロロエタンなどの有機溶媒または水、重水、イオン性液体に投入し、その後、攪拌、超音波分散、または超音波分散後の長遠心分離などを施すことによって得られたナノチューブ混合溶液も用いることができる。
【0029】
本実施形態では、まず、半導体性を有する単層カーボンナノチューブと金属性を有する単層カーボンナノチューブの混合物を、溶媒としての界面活性剤水溶液中にホーン(Horn)型の超音波分散装置を用いて分散させた。この後に超遠心分離を行い、それによって得られた上澄みの溶液を分取しナノチューブ混合溶液とした。このナノチューブ混合溶液をシリコン基板上へ滴下し、ナノチューブ混合液滴121を形成した。ナノチューブ混合液滴121のサイズは直径約5mm程度、高さ約1mmとした。
【0030】
次に、図4(a)に示すように、基板120上にレーザー光130を照射し、ナノチューブ混合液滴121を含む領域に光照射領域131を形成する。レーザー光源にはナノ秒パルスレーザーを好適に用いることができるが、ピコ秒パルスレーザー、フェムト秒パルスレーザー、連続発振レーザーを用いることとしてもよい。本実施形態では、レーザー光源としてナノ秒パルスレーザーを出力10Wで使用し、非分散減衰フィルターを用いて照射パワーの調整を行った。レーザー光の強度は、光照射領域131の範囲において均一であることが望ましい。偏光子を透過させることによってレーザー光を直線偏光とし、その偏光方向を制御することができる。
【0031】
本実施形態では、光照射領域131におけるレーザー光の偏光方向132を図4(a)中の矢印の方向に制御した。光照射領域131におけるレーザー光の強度を約5×10W/cmに制御することにより、光電場の強度を約10V/mとした。この光電場の作用により、上述したように、この場合は金属性を有する単層カーボンナノチューブだけを配向させることができる。その後、ナノチューブ混合液滴121中の溶媒が蒸発し、乾燥するまでレーザー光130の照射を行う。
【0032】
また、図4(b)に示すように、ナノチューブ混合液滴121に端子140を介して交流電場を印加することとしてもよい。端子140の形状、位置などは特に制限されず、ナノチューブ混合液滴121に電場を与えることができるものであればよい。この交流電場の作用により、上述したように、ナノチューブ混合液滴121に含まれる単層カーボンナノチューブを交流電場の振動方向に配向させることができる。
【0033】
本実施形態では、端子140として白金端子を用いた。端子140をナノチューブ混合液滴121に接触させ、端子140の配置により交流電場の振動方向142を図4(b)中の矢印の方向に制御した。周波数が1kHz〜100kHzの交流電場を用い、ナノチューブ混合液滴121の領域内において金属性カーボンナノチューブが配向を行うために必要な電場の強度である10V/mとなるように、交流電場の電圧を設定した。具体的には、端子140間の距離を5mmとし、電圧振幅が0.05Vの交流電場を印加した。印加する交流電場の周波数は、1kHz〜100kHzとしたが、これに限られることはない。また、印加する交流電場の電圧振幅は配向させるナノチューブの誘電率に応じて選択することができる。
【0034】
さらに、図4(c)に示すように、ナノチューブ混合液滴121に電磁石150などを近接させ、交流磁場を印加することとしてもよい。電磁石150の形状、位置などは特に制限されず、ナノチューブ混合液滴121に磁場を与えることができるものであればよい。この交流磁場の作用により、上述したように、ナノチューブ混合液滴121に含まれる単層カーボンナノチューブを交流磁場の振動方向に配向させることができる。
【0035】
本実施形態では、周波数が1kHz〜100kHzの交流磁場を用い、電磁石150の配置により交流磁場の振動方向152を図4(c)中の矢印の方向に制御した。印加する交流磁場の周波数は、1kHz〜100kHzとしたが、これに限られることはない。また、印加する交流磁場の振幅の大きさは、配向させるナノチューブの誘電率に応じて選択することができる。
【0036】
上述したレーザー光の照射、交流電場または交流磁場の印加などの電磁的作用を、ナノチューブ混合液滴121中の溶媒である水が完全に乾燥するまで続けることにより、図5に示すナノチューブ状物質含有膜160が得られる。この後、基板120上のナノチューブ状物質含有膜160を原子間力顕微鏡および共焦点ラマン(Raman)顕微鏡により測定した。その結果、金属性を有する単層カーボンナノチューブが、レーザー光の偏光方向132、交流電場の振動方向142、または交流磁場の振動方向152のいずれかの方向に配向していることが確認できた。
【0037】
次に、ナノチューブ状物質含有膜160の評価手法について、さらに詳細に説明する。本実施形態におけるナノチューブ状物質の薄膜内における形態の測定には、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)、走査プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope;SPM)などを用いることができる。SPMの一種である原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)は探針により物質表面をなぞることにより、その表面形状を測定する装置である。このAFMを用いて薄膜内のナノチューブ状物質の形態を好適に観察することができる。
【0038】
また、ナノチューブ状物質の物性の評価には顕微ラマン分光装置を用いることができる。この顕微ラマン分光装置によって物質からのラマン発光を調べることにより物質構造の違いを確認することができる。また、SPMの一種である近接場光顕微鏡(Scanning Near−field Optical Microscope;SNOM)を用い、その光の吸収や発光、蛍光を測定することによりナノチューブ状物質の個々の物性を評価することができる。ナノチューブ状物質の導電率評価には、AFMの探針と基板との間に電圧を印加し、その電流量を測定することによりナノチューブ状物質の伝導率を測定する伝導-原子間力顕微鏡(Conductive−AFM;C−AFM)を用いることができる。
【0039】
また、走査型近接場光学/原子間力顕微鏡(Scanning Near−Field Optical/Atomic Force Microscope;SNOAM)を用いることにより、薄膜内の表面形態を測定し、同時に各々のナノチューブ状物質の透過像、反射像、蛍光像といった光学的な情報を得ることができる。
【0040】
さらに、共焦点Raman顕微鏡によるRaman散乱像とAFMの像を組み合わせることにより、薄膜内の表面形態の測定から各々のナノチューブ状物質の方向を確認し、同時に各ナノチューブ状物質の物性を測定することができる。
【0041】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態に係るナノチューブ状物質含有膜200の平面図である。ナノチューブ状物質含有膜200は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質201と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質202とを少なくとも有し、第1のナノチューブ状物質は第1の配向方向203に配向し、第2のナノチューブ状物質は第2の配向方向204に配向している。第1のナノチューブ状物質201としては、例えば金属性を有する単層カーボンナノチューブを、第2のナノチューブ状物質202としては、例えば半導体性を有する単層カーボンナノチューブを用いることができる。
【0042】
本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜は、配向した第1または第2のナノチューブ状物質の特性がそれぞれの配向方向に対してのみ顕著に現れ、それ以外の方向、例えば異なる誘電率を有するナノチューブ状物質の配向方向に対しては顕著な特性を示さないという異方性を有する。そのため、ナノチューブ状物質含有膜に含まれるナノチューブ状物質の配向方向を制御することにより、異なる誘電率を有するナノチューブ状物質を互いに分離することなく、ナノチューブ状物質含有膜の特性を制御することができる。例えば、金属性を有する単層カーボンナノチューブと半導体性を有する単層カーボンナノチューブのそれぞれの配向方向がなす角度を約30度〜90度とした場合には、金属性を有する単層カーボンナノチューブの配向方向に対しては導電率が高く、半導体性を有する単層カーボンナノチューブの配向方向に対しては導電率の低いナノチューブ状物質含有膜が得られる。
【0043】
次に、本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法を説明する。上述したように、電磁的作用によりナノチューブ状物質に誘起される双極子モーメントに基づく力は、個々のナノチューブ状物質の誘電率の大きさにより異なる。したがって、誘電率の大きいナノチューブ状物質は低強度の電磁的作用によって配向を開始させることができるが、誘電率の小さいナノチューブ状物質を配向させるためには、より強度が大きな電磁的作用を印加する必要がある。これより誘電率が異なる2群以上のナノチューブ状物質群をそれぞれ異なる方向へ配向させることができる。すなわち、例えば、異なる誘電率を持つ2群以上のナノチューブ状物質群が混合した溶液に対して、まず、誘電率の低いナノチューブ状物質群と誘電率の高いナノチューブ状物質群の両者が配向し得る強度で1回目の電磁的作用を印加する。その後に、電磁的作用の強度を低下させ、1回目と異なる印加方向に対して2回目の電磁的作用を印加し、誘電率の大きいナノチューブ状物質群のみを配向させる。以上より、誘電率が異なる2群以上のナノチューブ状物質群をそれぞれ異なる方向へ配向させることができる。ここで電磁的作用としては、レーザー光、交流電場、または交流磁場などを用いることができる。
【0044】
次に、本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜の製造方法について、図7から図11を用いてさらに詳細に説明する。
【0045】
図7に示すように、まず、基板220として、ポリイミド等のプラスチック基板、不純物添加された単結晶シリコン基板、酸化シリコンに覆われたシリコン基板、あるいはガラス基板や石英基板等を用意する。本実施形態では、基板220として酸化シリコン膜に覆われたシリコン基板を用い、その上にナノチューブ混合溶液を滴下し、ナノチューブ混合液滴221を形成した。
【0046】
ナノチューブ混合溶液には、水もしくは重水に界面活性剤を溶解させた界面活性剤溶液にナノチューブ状物質の混合材料を投入し、超音波分散及び超遠心分離を施してナノチューブ状物質を単分散させた溶液を好適に用いることができる。これに限らず、界面活性剤溶液にナノチューブ状物質の混合材料を投入し、超音波分散または攪拌によりナノチューブ状物質を単分散させた溶液を用いることとしてもよい。また、ナノチューブ状物質の混合材料をジクロロエタンなどの有機溶媒または水、重水、イオン性液体に投入し、その後、攪拌、超音波分散、または超音波分散後の長遠心分離などを施すことによって得られたナノチューブ混合溶液を用いることもできる。
【0047】
本実施形態では、まず、半導体性を有する単層カーボンナノチューブと金属性を有する単層カーボンナノチューブの混合物を、溶媒としての界面活性剤水溶液中にHorn型の超音波分散装置を用いて分散させた。この後に超遠心分離を行い、それによって得られた上澄みの溶液を分取しナノチューブ混合溶液とした。このナノチューブ混合溶液をシリコン基板上へ滴下し、ナノチューブ混合液滴221を形成した。ナノチューブ混合液滴221のサイズは直径約5mm程度、高さ約1mmとした。
【0048】
次に、図8(a)に示すように、ナノチューブ混合液滴221の表面に第1のレーザー光230を照射し、第1の光照射領域231を形成する。レーザー光源にはナノ秒パルスレーザーを好適に用いることができるが、ピコ秒パルスレーザー、フェムト秒パルスレーザー、連続発振レーザーを用いることとしてもよい。偏光子を透過させることによってレーザー光を直線偏光とし、その偏光方向を制御することができる。本実施形態では、第1の光照射領域231における第1のレーザー光230の偏光方向232を図8(a)中の矢印の方向に制御した。このとき、半導体性を有する単層カーボンナノチューブと金属性を有する単層カーボンナノチューブの双方を配向させる。そのため第1のレーザー光230は、誘電率が小さい半導体性を有する単層カーボンナノチューブを配向させるのに充分な強度とした。続いて、半導体性を有する単層カーボンナノチューブが、第1のレーザー光230の照射を中止してもナノチューブ混合液滴221内を拡散しなくなる条件まで第1のレーザー光230を照射し、溶媒を蒸発させる。このときの条件は、単層カーボンナノチューブの種類等によって異なるが、例えば、ナノチューブ混合液滴の厚さが滴下時の約1/2となる条件とすることができる。
【0049】
この条件に達した後、第1のレーザー光230の照射を中止し、図8(b)に示すように、誘電率がより大きい金属性を有する単層カーボンナノチューブのみを配向させる強度を有する第2のレーザー光233を照射し、第2の光照射領域234を形成する。偏光子を透過させることによって、第2のレーザー光233の偏光方向235を、第1のレーザー光230の偏光方向232とは異なる図8(b)中の矢印の方向に制御した。
【0050】
本実施形態では、第1のレーザー光および第2のレーザー光のいずれもレーザー光源としてナノ秒パルスレーザーを出力10Wで使用し、非分散減衰フィルターを用いて照射パワーの調整を行った。第1の光照射領域231における第1のレーザー光230の強度を約5×10W/cmに制御することにより、光電場の強度を約6×10V/mとした。第2のレーザー光233については、レーザー光源の出力が100分の1になるように調整した。この結果、第1のレーザー光230の照射により半導体性および金属性を有する単層カーボンナノチューブのいずれもが第1のレーザー光230の偏光方向232に配向し、第2のレーザー光233の照射により金属性を有する単層カーボンナノチューブだけが第2のレーザー光233の偏光方向235に配向した構成とすることができる。なお、レーザー光の強度はいずれも、それぞれの光照射領域231、234の範囲において均一であることが望ましい。
【0051】
また、図9に示すように、ナノチューブ混合液滴221に端子240を介して交流電場を印加することとしてもよい。端子240の形状、位置などは特に制限されず、ナノチューブ混合液滴221に電場を与えることができるものであればよい。この交流電場の作用により、上述したように、ナノチューブ混合液滴221に含まれる単層カーボンナノチューブを交流電場の振動方向に配向させることができる。ナノチューブ混合液滴221へ印加する電圧は、配向させるナノチューブ状物質の誘電率の大きさに応じて設定する。交流電場の周波数は例えば、1kHz〜100kHzの範囲とすることができる。
【0052】
本実施形態では、まず、図9(a)に示すように、誘電率が小さい半導体性を有する単層カーボンナノチューブが配向するために必要な電場を与える第1の交流電場を印加し、半導体性を有する単層カーボンナノチューブと金属性を有する単層カーボンナノチューブの双方を配向させた。端子240の配置により第1の交流電場の振動方向242を図9(a)中の矢印の方向に制御した。続いて、半導体性を有する単層カーボンナノチューブが、交流電場の印加を中止してもナノチューブ混合液滴221内を拡散しなくなる条件まで第1の交流電場を印加し、溶媒を蒸発させる。このときの条件は、単層カーボンナノチューブの種類等によって異なるが、例えば、ナノチューブ混合液滴の厚さが滴下時の約1/2となる条件とすることができる。
【0053】
この条件に達した後、第1の交流電場の印加を中止し、誘電率がより大きい金属性を有する単層カーボンナノチューブのみを配向させる電場を与える第2の交流電場を印加する。このとき、図9(b)に示すように、端子240の配置により、第2の交流電場の振動方向245を、第1の交流電場の振動方向242とは異なる方向に制御した。
【0054】
さらに、図10(a)に示すように、ナノチューブ混合液滴221に電磁石250などを近接させ、交流磁場を印加することとしてもよい。電磁石250の形状、位置などは特に制限されず、ナノチューブ混合液滴221に磁場を与えることができるものであればよい。この交流磁場の作用により、上述したように、ナノチューブ混合液滴221に含まれる単層カーボンナノチューブを交流磁場の振動方向に配向させることができる。ナノチューブ混合液滴221へ印加する磁場の大きさは、配向させるナノチューブ状物質の誘電率の大きさに応じて設定する。交流磁場の周波数は例えば、1kHz〜100kHzの範囲とすることができる。
【0055】
本実施形態では、まず、図10(a)に示すように、誘電率が小さい半導体性を有する単層カーボンナノチューブが配向するために必要な磁場を与える第1の交流磁場を印加し、半導体性を有する単層カーボンナノチューブと金属性を有する単層カーボンナノチューブの双方を配向させた。電磁石250の配置により第1の交流磁場の振動方向252を図10(a)中の矢印の方向に制御した。続いて、半導体性を有する単層カーボンナノチューブが、交流磁場の印加を中止してもナノチューブ混合液滴221内を拡散しなくなる条件まで第1の交流磁場を印加し、溶媒を蒸発させる。このときの条件は、単層カーボンナノチューブの種類等によって異なるが、例えば、ナノチューブ混合液滴の厚さが滴下時の約1/2となる条件とすることができる。
【0056】
この条件に達した後、第1の交流磁場の印加を中止し、誘電率がより大きい金属性を有する単層カーボンナノチューブのみを配向させる磁場を与える第2の交流磁場を印加する。このとき、図10(b)に示すように、電磁石250の配置により、第2の交流磁場の振動方向255を、第1の交流磁場の振動方向252とは異なる方向に制御した。
【0057】
上述した第2のレーザー光の照射、第2の交流電場または第2の交流磁場の印加などの電磁的作用を、ナノチューブ混合液滴221中の溶媒である水が完全に蒸発し乾燥するまで行うことにより、図11に示すナノチューブ状物質含有膜260が得られる。この後、基板220上のナノチューブ状物質含有膜260を原子間力顕微鏡および共焦点Raman顕微鏡により測定した。その結果、半導体性を有する単層カーボンナノチューブが、第1のレーザー光の偏光方向232、第1の交流電場の振動方向242、または第1の交流磁場の振動方向252のいずれかの方向に配向しており、金属性を有する単層カーボンナノチューブが、第2のレーザー光の偏光方向235、第2の交流電場の振動方向245、または第2の交流磁場の振動方向255のいずれかの方向に配向していることが確認できた。
【0058】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図12は本実施形態による、ナノチューブ状物質含有膜を用いた薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;TFT)300の断面図(a)及び平面図(b)である。図12(a)に示すように、薄膜トランジスタ300は、チャネル層としてのナノチューブ状物質含有膜310と、ナノチューブ状物質含有膜310の両端領域に接続してそれぞれ配置された第1の電極であるソース電極311及び第2の電極であるドレイン電極312と、ナノチューブ状物質含有膜310に接して配置されたゲート絶縁膜313と、ゲート絶縁膜313を挟み、ナノチューブ状物質含有膜310に対向して配置された第3の電極であるゲート電極314とを基板315上に備えている。ナノチューブ状物質含有膜310は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも有し、第1のナノチューブ状物質または第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の方向に配向している。このような構成を採用することにより、特定の誘電率を有するナノチューブ状物質によるトランジスタ特性への影響を制御することができるので、薄膜トランジスタ300の特性の低下、または、その特性のばらつきを抑制することができる。
【0059】
ここで、ナノチューブ状物質の配向方向は、チャネル層を流れる電流の方向に対して、平行な方向から垂直な方向まで変化させることができる。例えば、単層カーボンナノチューブのように半導体性または金属性を有するナノチューブ状物質が混在したナノチューブ状物質含有膜の場合には、金属性を有する単層カーボンナノチューブを配向させることにより、金属性を有する単層カーボンナノチューブがチャネル層を流れる電流に及ぼす影響を制御することができる。
【0060】
図12(b)に、第1のナノチューブ状物質として金属性を有する単層カーボンナノチューブ301を、第2のナノチューブ状物質として半導体性を有する単層カーボンナノチューブ302を用いた場合の一例を示す。金属性を有する単層カーボンナノチューブ301と半導体性を有する単層カーボンナノチューブ302は共にナノチューブ状物質含有膜310の領域内に混在している。ここで、金属性を有する単層カーボンナノチューブ301は、ソース電極311とドレイン電極312間を流れる電流方向321と略垂直なチャネル幅方向322に配向している。そのため、金属性を有する単層カーボンナノチューブがチャネル層を流れる電流に及ぼす影響は著しく小さい。その結果、薄膜トランジスタ300の特性は半導体性を有する単層カーボンナノチューブの電気的特性のみにより決定されるので、その特性の向上を図ることができる。
【0061】
次に、本実施形態によるナノチューブ状物質含有膜を用いた薄膜トランジスタの製造方法について、図13を用いて説明する。
【0062】
まず、半導体性を有する単層カーボンナノチューブと金属性を有する単層カーボンナノチューブの混合物を溶媒である界面活性剤水溶液中に分散させる。本実施形態では、分散処理にHorn型超音波分散装置を用い、約一時間程度処理を行った。分散処理の後、超遠心分離装置を用いて分離操作を実施した。分離操作後に得られた溶液から上澄みの約80%を分取することによりナノチューブ混合溶液を作成した。
【0063】
次に、基板315上にゲート電極314、ゲート絶縁膜313をこの順に形成し、さらにゲート絶縁膜313上にソース電極311、ドレイン電極312をそれぞれ形成した。続いて、ソース電極311とドレイン電極312との間にナノチューブ混合溶液を滴下し、ナノチューブ混合液滴331を形成した(図13(a))。ナノチューブ混合液滴のサイズは直径約5mm程度、高さ約1mmとした。
【0064】
この後、ナノチューブ混合液滴331の全領域にレーザー光を照射した。本実施形態では、レーザー光源としてナノ秒パルスレーザーを出力10Wで使用し、非分散減衰フィルターを用いて照射パワーの調整を行った。偏光子を透過させることによってレーザー光を直線偏光とし、その偏光方向を制御することができる。本実施形態では、レーザー光の偏光方向はソース電極311とドレイン電極312間を流れる電流方向321と略垂直なチャネル幅方向322とした。レーザー光の強度を制御することにより、金属性を有する単層カーボンナノチューブだけをチャネル幅方向322に配向させた(図13(b))。
【0065】
続いて、ナノチューブ混合液滴中の溶媒が蒸発し乾燥するまでレーザー光の照射を行い、ナノチューブ状物質含有膜310を形成した。以上により、金属性を有する単層カーボンナノチューブがチャネル幅方向322に配向した薄膜トランジスタ(TFT)が完成する。
【0066】
ナノチューブ状物質含有膜310を原子間力顕微鏡および共焦点Raman顕微鏡を用いて測定し、金属性を有する単層カーボンナノチューブがチャネル幅方向322に配向していることを確認した。また、金属性を有する単層カーボンナノチューブがランダムに配置された薄膜トランジスタ(TFT)と本実施形態による薄膜トランジスタ(TFT)についてトランジスタ特性を比較したところ、本実施形態による薄膜トランジスタ(TFT)ではソース電極−ドレイン電極間の電流変調のOn/Off比等において顕著な改善が図れた。
【0067】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0068】
100、160、200、260、310 ナノチューブ状物質含有膜
101、201 第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質
102、202 第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質
103 配向方向
110 ナノチューブ状物質
111 ナノチューブ状物質を内包する長方形の短辺
112 ナノチューブ状物質を内包する長方形の長辺
113 ナノチューブ状物質の向き
120、220、315 基板
121、221、331 ナノチューブ混合液滴
130 レーザー光
131 光照射領域
132 レーザー光の偏光方向
140、240 端子
142 交流電場の振動方向
150、250 電磁石
152 交流磁場の振動方向
203 第1の配向方向
204 第2の配向方向
230 第1のレーザー光
231 第1の光照射領域
232 第1のレーザー光の偏光方向
233 第2のレーザー光
234 第2の光照射領域
235 第2のレーザー光の偏光方向
242 第1の交流電場の振動方向
245 第2の交流電場の振動方向
252 第1の交流磁場の振動方向
255 第2の交流磁場の振動方向
300 薄膜トランジスタ
301、410 金属性を有する単層カーボンナノチューブ
302、420 半導体性を有する単層カーボンナノチューブ
311 ソース電極
312 ドレイン電極
313 ゲート絶縁膜
314 ゲート電極
321 電流方向
322 チャネル幅方向
400 関連する単層カーボンナノチューブの混合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも有し、前記第1のナノチューブ状物質または前記第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の方向に配向していることを特徴とするナノチューブ状物質含有膜。
【請求項2】
前記第1のナノチューブ状物質は第1の方向に配向し、前記第2のナノチューブ状物質は第2の方向に配向していることを特徴とする請求項1に記載のナノチューブ状物質含有膜。
【請求項3】
前記第1のナノチューブ状物質は金属性を有し、前記第2のナノチューブ状物質は半導体性を有することを特徴とする請求項1または2に記載のナノチューブ状物質含有膜。
【請求項4】
前記第1のナノチューブ状物質または前記第2のナノチューブ状物質はカーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のナノチューブ状物質含有膜。
【請求項5】
前記第1のナノチューブ状物質は金属性を有するカーボンナノチューブを含み、前記第2のナノチューブ状物質は半導体性を有するカーボンナノチューブを含み、前記金属性を有するカーボンナノチューブが所定の方向に配向していることを特徴とする請求項1に記載のナノチューブ状物質含有膜。
【請求項6】
ナノチューブ状物質含有膜と、前記ナノチューブ状物質含有膜の両端領域に接続してそれぞれ配置された第1の電極及び第2の電極と、前記ナノチューブ状物質含有膜に接して配置された絶縁膜と、前記絶縁膜を挟み、前記ナノチューブ状物質含有膜に対向して配置された第3の電極とを備え、前記ナノチューブ状物質含有膜は、第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と、第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも有し、前記第1のナノチューブ状物質または前記第2のナノチューブ状物質の少なくとも一方が所定の方向に配向していることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
前記第1のナノチューブ状物質は、金属性を有し、かつ、前記ナノチューブ状物質含有膜を通して前記第1の電極と前記第2の電極との間を流れる電流の方向に対して略垂直な方向に配向していることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも含むナノチューブ混合溶液を基板上に付着させ、前記ナノチューブ混合溶液に対して所定の方向に制御された電磁的作用を施し、
前記第1のナノチューブ状物質または前記第2のナノチューブ状物質の一方を、前記所定の方向と略平行な方向に配向させることを特徴とするナノチューブ状物質含有膜の製造方法。
【請求項9】
前記電磁的作用は偏光方向を制御したレーザー光を照射するものであり、前記所定の方向は前記偏光方向であることを特徴とする請求項8に記載のナノチューブ状物質含有膜の製造方法。
【請求項10】
前記電磁的作用は交流電場を印加するものであり、前記所定の方向は前記交流電場の振動方向であることを特徴とする請求項8に記載のナノチューブ状物質含有膜の製造方法。
【請求項11】
前記電磁的作用は磁場を印加するものであり、前記所定の方向は前記磁場の方向であることを特徴とする請求項8に記載のナノチューブ状物質含有膜の製造方法。
【請求項12】
第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも含むナノチューブ混合溶液を基板上に付着させ、前記ナノチューブ混合溶液に対して偏光方向を制御した第1のレーザー光を照射し、前記第1のナノチューブ状物質及び前記第2のナノチューブ状物質を、前記第1のレーザー光の偏光方向と略平行な方向に配向させ、前記第1のレーザー光と異なる偏光方向を有する第2のレーザー光を照射し、前記第1のナノチューブ状物質または前記第2のナノチューブ状物質の一方を、前記第2のレーザー光の偏光方向と略平行な方向に配向させることを特徴とするナノチューブ状物質含有膜の製造方法。
【請求項13】
第1の誘電率を有する第1のナノチューブ状物質と第2の誘電率を有する第2のナノチューブ状物質とを少なくとも含むナノチューブ混合溶液を基板上に付着させ、前記ナノチューブ混合溶液に対して偏光方向を制御したレーザー光を照射し、前記第1のナノチューブ状物質または前記第2のナノチューブ状物質の一方を、前記偏光方向と略平行な方向に配向させたナノチューブ状物質含有膜を形成し、前記ナノチューブ状物質含有膜の両端領域に接続してそれぞれ第1の電極と第2の電極を形成し、前記ナノチューブ状物質含有膜に接して絶縁膜を形成し、前記絶縁膜を挟み、前記ナノチューブ状物質含有膜に対向して第3の電極を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−208914(P2010−208914A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58850(P2009−58850)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】