説明

ニッケル−燐コーティングを有するころがり軸受

軌道面を有する少なくとも一つの軌道輪と転動要素を備えたころがり軸受。二硫化水素を含む環境での耐疲労特性を改善するために、ころがり軸受の関連部分がニッケル−隣コーティングを施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前文によるころがり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
そのようなころがり軸受は非特許文献1の論文において知られている。
【0003】
非特許文献1の論文には、機械要素の摩擦性能の改善のための方法が開示されている。ここでは、無電解Ni−P合金めっきと硫化処理との比較がなされている。Ni−Pを使用したとき、約10回で破壊が観察されることが示されている。
【非特許文献1】A.Yoshida, M.Fujii, Tribology International, part 35, no.12, 2002, pages 837-847
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これはころがり軸受の多くの用途では受け入れられないので、本発明はころがり軸受の特性を改善することを目的とする。このようなころがり軸受での特殊な用途は石油産業での使用である。軸受は石油製品における圧縮機や他の取扱装置に使用される。天然ガスのような石油製品は二硫化水素を含むことがある。もしガス田が涸渇状態に近いならば、二硫化水素の割合はかなり高いことがある。そのような環境の下で、軸受の油潤滑において、二硫化水素の存在のために、ころがり軸受が早期破壊を生じることが分かった。そのような軸受には、アンギュラコンタクト玉軸受そしてころ軸受が含まれる。しかしながら、本発明は石油産業におけるそのような軸受やその応用には制限されないと理解されるべきである。他の環境でも応力腐食割れに起因すると考えられる早期破壊が観察された。例えば、水が混入してしまった状態での潤滑である。
【0005】
二つの形態の早期破壊の発生が観察された。
【0006】
破壊の第1のタイプは、軌道輪または転動要素のいずれかでの軸受の関連部分表面での腐食である。亀裂は最初に表面に入り、軸受材料の内部へ生長する。表面亀裂では、脆性亀裂の原因となる高い硫黄成分が計測された。硫黄の存在により、そのような亀裂は二硫化水素による腐食の結果で成ると考えられる。これは典型的な応力腐食割れによる破壊である。
【0007】
観察されたもう一つの破壊メカニズムは、材料の剥離、より詳細には、内輪軌道面の剥離につながる表面下での初期亀裂である。表面下での亀裂の開始および生長は硫化マンガンの核生成に見い出された。これは、水素脆性による水素が存在していることを示している。
【0008】
二硫化水素の存在により、これが硫黄と水素に分解し、一方では硫黄がころがり軸受の構成部品の表面に付着するとともに、他方では水素原子が硫化マンガン介在物での脆性亀裂の生成、特に核状の生成により鋼内部に深く浸透する。
【0009】
高応力と二硫化水素の存在が伴うと、早期破壊につながることが示された。黄銅または鋼製の、ころがり軸受用保持器には高荷重が作用しないので、保持器は二硫化水素に侵食されにくいと考えられる。通常、かかる保持器は黄銅で作られている。
【0010】
本発明は、簡素かつ比較的低コストで製造できるとともに、軸受に高荷重が作用していても二硫化水素の存在による破壊に対して十分抵抗できるころがり軸受の構成要素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、この目的は請求項1の特徴により実現される。少なくとも9重量%、好ましくは11重量%まで、さらに好ましくは11〜13重量%まで燐成分を増加させることにより、耐用寿命がかなり延びることが分かった。
【0012】
これは、燐成分の割合が低い場合、基材上に施されたニッケル−燐コーティングに引っ張り応力が作用し、これに対し、燐の割合が高い場合、基材上のコーティングは圧縮状態にあるという事実によるものと考えられる。これは耐腐食特性を良好とする。しかしながら、これは理論上の考察であり、請求項の有効性がそれに拘束されるものではないことを強調しておく。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、ニッケル−燐コーティングが施される前に、後に施されるニッケル−燐コーティングの接着力を改善するストライキング層(striking−layer)が施されるならば、ころがり軸受の構成要素の耐用寿命はかなり延びる。より詳細には、このストライキング層は電解により施されており、ニッケル層を有する。しかしながら、このニッケル層は、他の手段でも基材上に形成できる。そのようなストライキング層の厚さは、好ましくは1μmより薄く、特に0.5μmより薄いのが良い。
【0014】
さらに、ニッケル−燐層の厚さは、本発明の好ましい実施形態によれば8μmより厚く、特に約15μmであるのが良い。これによって、水素の拡散が効果的に防止され、さらにころがり軸受の耐用寿命が延びる。
【0015】
驚いたことには、動的条件の下で上記コーティングが用いられると、二硫化水素に対して十分に対抗できることが分かった。
【0016】
これは注目すべきことである。他のコーティングは先行技術において広くに知られており、そのようなコーティングは機能しないことが分かっていた。例えば、ニッケルコーティングと同様に、亜鉛コーティング、亜鉛−ニッケルコーティング、クロム−低密度クロムコーティング、錫コーティング、ビスマスコーティングがすでに実施されている。しかし、これらのコーティングのいずれもが静的条件の下で適切に機能せず、本願で得られたような、所望の結果をもたらさなかった。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、コーティングは少なくとも70重量%のニッケルおよび少なくとも3〜20重量%の燐を含む。コーティングの厚さは、好ましくは2〜30μm、より好ましくは10〜20μm、さらに好ましくは約15μmである。玉軸受鋼には各種の鋼があるが、二硫化水素の存在を除き、1重量%の炭素、1.5重量%のクロム、そして残部が鉄である通常の玉軸受鋼が応用例で十分に機能するのであれば、それと同じ鋼は、ころがり軸受の要素に本発明によるコーティングを施して、これを同じ応用例に用いても十分であることが分かった。
【0018】
しかしながら、他の通常の玉軸受としては浸炭低/中炭素鋼のようなものも使用可能であることは理解されるべきである。
【0019】
本発明が適用される軸受の軌道輪または転動要素は、いくつかの使用条件において軸受特性を最適化するために、窒化珪素で作られた玉やころ、ダイヤモンド状炭素膜でコーティングされた玉やころのような、特別な用途に供される転動要素と組み合わせることが可能である。
【0020】
本発明は、軌道面を有する少なくとも一つの軌道輪と該軌道面上で転動する転動要素を備え、上記軌道輪と軌道面が玉軸受鋼で作られており、上記軌道輪および転動要素の少なくとも一方にニッケル−燐のコーティングが施されたころがり軸受の製造方法にも関する。
【0021】
この方法の好ましい実施形態によれば、まず第一には、標準玉軸受鋼から作られた標準ころがり軸受の部品に適用される。後のニッケル−燐コーティングによる増加寸法を計算した後、関連する一つまたは複数の構成要素は機械加工され、より小さい寸法とされた後、コーティングが施される。通し焼入れ玉軸受鋼を使用すれば、関連する構成部品の機械加工が表面特性に問題をもたらすことはない。コーティングをできるだけ良好なものとするためには、コーティングする前に、例えば、予備洗浄を行う通常の工程が設けられなければならない。
【0022】
この方法に係る好ましい実施形態によれば、ニッケル−燐コーティングは無電解めっき、すなわち、化学的な溶着により施される。軌道輪が部分的にコーティングされるとき、この軌道輪は静的に槽の中で懸吊される。転動要素がコーティングされなければならないときは、好ましくは、それらはバレルの中に投入され、コーティングされるべき転動要素の全ての面が均一な層としてコーティングされることが可能となる。一般的に、ニッケル−燐コーティングを施す方法は先行技術において知られている。先行技術において知られている応用例は、自動車、燃料機器の部品やその応用のような産業機器の部品である。鋼材の予備洗浄以外については、好ましい実施形態によるコーティングはブレーキング(braking)が施された後に施される。オランダおよび他の国におけるいくつかの企業はニッケル−燐を化学薬品槽で施している。
【0023】
一般的に、コーティング後、ころがり軸受の用途で直ちに好適されるような滑らかな表面が得られる。これは、コーティングの次の工程が、ころがり軸受を得るための複数の部品の組立てであることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、実施例を参照するとさらに明瞭になるであろう。
【0025】
(実施例1)
高炭素(1重量%の炭素)鋼は、ニッケル−燐コーティングを施すために、溶液中に浸された。接着の問題に対処するため、関連する構成部品には電解エッチング処理が施され、ニッケル−燐コーティングを施す前にニッケルのストライキング層の形成がされた。これはニッケル−燐コーティングの接着力に改善をもたらすことが分かった。コーティング溶液は、10−14重量%、9−12重量%、3−7重量%の燐をそれぞれ含む商用ニッケル−燐コーティングを含有する。そのようなコーティングが施された構成部品は最も高い耐腐食特性を有し、天然ガスや原油を扱うポンプのハウジングあるいはストップ弁での使用に好適となる。コーティングを施した後、コーティングの微小硬さは、鋼基材のいかなる影響をも回避するために、0.2kgの低荷重のもとでビッカース硬度により測定された。その硬度はビッカース硬度(HV)500−720であり、ころがり軸受の通常の使用に十分であった。燐成分をより少なくすると硬度は増加する。
【0026】
引っかき試験(接着臨界荷重試験)ではいかなる問題もなかった。この試験は乾燥すべり摩擦測定にも適用される。コーティングされていない2枚の鋼製の回転円板により、コーティングされた棒材に荷重をかけることとするころがり接触疲労試験中、最大2500MPaの最大接触圧力および毎分10000回転の速度で回転された。この接触圧力は通常の使用時の圧力よりはるかに高い。24時間の試験後でも破壊は観察されなかった。
【0027】
また、塩噴霧腐食試験でも、予想される破壊のいかなる兆候も見られなかった。ニッケル−燐コーティングの接触圧力は多重格子法を使用して計算された。ころがり接触の下での剥離はおそらく生じない。
【0028】
以上の考察から、ニッケル−燐コーティングは、二硫化水素が存在する環境において、ころがり軸受の構成部品に動的荷重が作用している状態での使用が可能であることは明らかである。
【0029】
当業者は、以上の説明に基づいて、ころがり軸受の部品の特性をより一層改善するコーティング時に、さらなる(前又は後の)処理が可能であることを直ちに結論付けるであろう。そのような付加的な工程は当業者が考え得る範囲内にあり、本願特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面を有する少なくとも一つの軌道輪と該軌道面上で転動する転動要素を備え、上記軌道輪と軌道面は玉軸受鋼で作られており、上記軌道輪および転動要素の少なくとも一方がニッケル−燐のコーティングを有するころがり軸受において、上記コーティングは少なくとも9重量%の燐を含んでいることを特徴とするころがり軸受。
【請求項2】
コーティングが、少なくとも70重量%のニッケルおよび9〜20重量%の燐を含むこととする請求項1に記載のころがり軸受。
【請求項3】
軸受鋼とコーティングとの間に接着層が設けられていることとする請求項1または請求項2に記載のころがり軸受。
【請求項4】
層がニッケル層であることとする請求項3に記載のころがり軸受。
【請求項5】
層が1μmより小さい厚さであることとする請求項4に記載のころがり軸受。
【請求項6】
コーティングは2〜30μm、好ましくは10〜20μm、さらに好ましくは約15μmの厚さであることとする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載のころがり軸受。
【請求項7】
玉軸受鋼は、約1重量%が炭素、1.5重量%がクロム、残部が鉄であることとする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載のころがり軸受。
【請求項8】
転動要素はセラミック材の外面を有していることとする請求項1から請求項7のいずれか一つに記載のころがり軸受。
【請求項9】
転動要素の外面は減摩コーティングであることとする請求項1から請求項8のいずれか一つに記載のころがり軸受。
【請求項10】
軌道面を有する少なくとも一つの軌道輪と該軌道面上で転動する転動要素を備え、上記軌道輪と軌道面は玉軸受鋼で作られており、上記軌道輪および転動要素の少なくとも一方にはニッケル−燐のコーティングが施されたころがり軸受の製造方法において、転動要素のコーティングを施す前にストライキング層を設けることを特徴とするころがり軸受の製造方法。
【請求項11】
ストライキング層は電解により転動要素に施されていることとする請求項10に記載のころがり軸受の製造方法。
【請求項12】
軌道輪および転動要素の少なくとも一方は玉軸受鋼で作られており、硬化又は硬化および仕上げ後に、その後のニッケル−燐コーティングの溶着とほぼ同量の材料の除去が機械加工工程でなされることとする請求項10または請求項11に記載のころがり軸受の製造方法。
【請求項13】
コーティングは化学的溶着であることとする請求項10から請求項12のいずれか一つに記載のころがり軸受の製造方法。
【請求項14】
転動要素がコーティングされ、該コーティングは、コーティング中に槽の中で転動要素を動かしてなされることとする請求項10から請求項13のいずれか一つに記載のころがり軸受の製造方法。
【請求項15】
転動要素および軌道輪はコーティング後に直接組み立てられることとする請求項10から請求項14のいずれか一つに記載のころがり軸受の製造方法。

【公表番号】特表2007−524045(P2007−524045A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545259(P2006−545259)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000890
【国際公開番号】WO2005/059204
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(503046530)アクチボラゲット エス ケイ エフ (13)
【Fターム(参考)】