説明

ニンジン配合液剤

【課題】本発明は、ニンジンエキスを含有する液剤において、高温下に滅菌した後、冷蔵保存しても沈殿が生成しない液剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ニンジンエキスを含有する液剤において、分岐シクロデキストリン類を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニンジンエキスを含有する液剤に関する。さらに詳しくは、ニンジンエキスを含有した液剤において、高温殺菌後に冷蔵保存もしくは長期保存した場合に沈殿の生成が抑制された安定な液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬用のニンジンは滋養強壮剤や清涼飲料などに配合され、広く利用されてきた。ニンジンの主な薬効として、強壮、長生、鎮静、興奮及び利尿作用などが明らかにされており、また、各種漢方の構成生薬としても知られている。
【0003】
ニンジンを含有する液剤には、通常ニンジンエキスが使用されているが、さらに他の生薬エキス、ビタミン類、糖類や酸味剤が含まれていることが多い。そのため、ニンジン含有の液剤は、酸性を呈している。ニンジンエキスに含まれる成分の中には酸性の環境下において、沈殿を生成するものがある。この沈殿は、商品価値を下げるばかりではなく、沈殿の中に薬効成分が含まれていた場合は、十分な薬効を期待できない可能性があるため好ましくない。特に、高温殺菌工程を経たものは、その沈殿が顕著になる。さらに、滋養強壮剤や清涼飲料水は、冷蔵した後服用することが多く、このような状況に於いて沈殿を生じやすくなる。
【0004】
ニンジンエキスにサイクロデキストリンを加えて、沈殿の生成を抑制する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2)。この技術では、高温殺菌(80℃で25分加熱)後は沈殿の生成が見られないが、冷蔵保存した場合は沈殿が生成するため十分ではない。
【特許文献1】特開平3−95197号公報
【特許文献2】特開平4−31179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ニンジンエキスを含有する液剤において、高温下に滅菌した後、冷蔵保存しても沈殿が生成しない液剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ニンジンエキスを含有する液剤において、分岐シクロデキストリン類を配合することにより、高温殺菌後冷却保存もしくは長期保存しても沈殿の生成が抑制され、外観が損なわれことなく性状安定性がすぐれていることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、(1)ニンジンエキスを含有する液剤において、分岐シクロデキストリン類を配合し、沈殿の生成が抑制されたことを特徴とする高温殺菌処理を施した液剤、(2)pHが2〜6である請求項1記載の液剤、および(3)ニンジンエキスを含有する液剤において、分岐シクロデキストリン類を配合することにより高温殺菌後の沈殿の生成を抑制する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明において、分岐シクロデキストリン類を用いることによりニンジンエキスを高温殺菌後の冷蔵保存及び長期保存時に生じる沈澱を抑制する。そのため、本発明により、外観を損なうこと無く、性状的に安定なニンジンエキスを含有する液を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いるニンジンは、例えばオタネニンジン(Panax ginseng C.A. Meyer)、チクセツニンジン(Panax japonicus C.A. Meyer)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、三七ニンジン(Panax notoginseng (Burk) F.H. Chen)等を用いることができる。
【0010】
ニンジンエキスは、前記ニンジンを通常の方法を用いて抽出することにより得られる。抽出溶媒として、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール、水等、もしくはその混合物を用いることが出来る。
【0011】
このニンジンエキスの中には、配糖体であるサポニン類を多く含む。このサポニン類が、ニンジンエキスの沈殿の主要な成分であると考えられている。このサポニン類は、例えばジンセノサイドRg1、ジンセノサイドRb1、ジンセノサイドRc、ジンセノサイドRdなど多種知られており、代謝物、分解物により糖の一部が切れた状態の配糖体も存在する。
【0012】
分岐シクロデキストリン類とは、シクロデキストリンにグルコース分子などの糖分子が直接α−1、6結合したシクロデキストリンの誘導体である。この分岐シクロデキストリン類は一般に市販されており、食品分野では広く使用されている。
【0013】
分岐シクロデキストリン類は、例えばマルトシル−α−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−γ−シクロデキストリン、グルコシル−α−シクロデキストリン、グルコシル−β−シクロデキストリン、グルコシル−γ−シクロデキストリン、あるいはそれらの混合物が用いられる。特にマルトシル−β−シクロデキストリン及びグルコシル−β−シクロデキストリンが好ましい。
【0014】
本発明で用いる分岐シクロデキストリン類の使用量は、発明の効果を奏する限り特に限定されないが、ニンジンエキス1質量部に対して、通常10質量部以上であることが好ましい。10重量部以上では沈殿抑制効果に優れ、水に対する溶解性がより良好となる。また、サポニン類に換算するとサポニン類1質量部に対して、100質量部以上である。
【0015】
本発明の液剤のpHは、飲料としたときの防腐性、風味等を考慮すると、通常pH2〜6、好ましくはpH2.5〜5である。
【0016】
本発明の液は、乳糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、トレハロース、ステビア抽出物、スクラロース、アセスルファムカリウム等を甘味剤またはエネルギー源として配合することが出来る。
【0017】
その他の成分として、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸およびその塩類、生薬および生薬抽出物、ローヤルゼリー、カフェイン、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどを本発明の効果を損なわない範囲で配合することが出来る。
【0018】
必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存料、pH調整剤などの製剤技術一般に使用される物質を配合することができる。さらに、界面活性剤などを溶解補助剤として本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0019】
本発明の液は常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。通常、各成分をとり適量の精製水で溶解させた後、pHを調整し、残りの精製水を加えて全量調整する。
【0020】
本発明の液剤は、高温殺菌処理を行う。具体的には、通常65℃で10分間もしくはこれと同等、又は同等以上の殺菌効果を奏する条件で行う。好ましくは70℃で10分間以上である。
【0021】
冷蔵保存の温度条件は、本発明の液剤を快適に服用できる範囲で保存する。具体的には0〜10℃で、4〜6℃程度が好ましい。
本発明の液剤には、医薬品・医薬部外品における内服液剤等だけでなく、食品等の分野における飲料が含まれ、ドリンク剤や健康飲料などの各種飲料として提供することができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
(実施例1)
0.5質量%クエン酸水溶液に、50%エタノール抽出ニンジンエキスを9.0×10-2質量%、(ニンジンサポニンとして10.8×10-2w/v)および6−O−α−マルトシル−β−シクロデキストリン1.0質量%を配合し、1mol/L-NaOHによりpH2.8に調製した。これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、高温殺菌処理(80℃で25分加熱)し、実施例1とした。
(実施例2)
0.5質量%クエン酸水溶液に、50%エタノール抽出ニンジンエキスを9.0×10-2質量%、(ニンジンサポニンとして10.8×10-2w/v)および6−O−α−グルコシル−β−シクロデキストリン1.0質量%を配合し、1mol/L-NaOHによりpH2.8に調製した.これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、高温殺菌処理(80℃で25分加熱)、実施例2とした。
(比較例1)
0.5質量%クエン酸水溶液に、50%エタノール抽出ニンジンエキスを9.0×10-2質量%、(ニンジンサポニンとして10.8×10-2w/v)およびβ−シクロデキストリン1.0質量%を配合し、1mol/L-NaOHによりpH2.8に調製した。これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、高温殺菌処理(80℃で25分加熱)、比較例1とした。
(比較例2)
0.5質量%クエン酸水溶液に、50%エタノール抽出ニンジンエキスを9.0×10-2質量%、(人参サポニンとして10.8×10-2w/v)およびα−シクロデキストリン0.2質量%を配合し、1mol/L-NaOHによりpH2.8に調製した。これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、高温殺菌処理(80℃で25分加熱)、比較例2とした。
(比較例3)
0.5質量%クエン酸水溶液に、50%エタノール抽出ニンジンエキスを9.0×10-2質量%、(ニンジンサポニンとして10.8×10-2w/v)を配合し、1mol/L-NaOHによりpH2.8に調製した.これらをガラス瓶に充填し、キャップを施し、高温殺菌処理(80℃で25分加熱)、比較例3とした。
評価方法
実施例1、2および比較例1から3で得た本発明の液を殺菌直後、65℃恒温槽にて2週間、内溶液の沈澱および浮遊物を目視により観察した。実験の結果を表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明により、高温殺菌時及び長期保存時にも性状安定にニンジンエキスを配合した液を作成できた。また実施例1及び2においては、40℃恒温槽にて6ヵ月間および5℃恒温槽にて6ヵ月間保管後においても性状は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明において、分岐シクロデキストリン類を用いることによりニンジンエキスを高温殺菌後の冷蔵保存及び長期保存時に生じる沈澱を抑制する。そのため、本発明により、外観を損なうこと無く、性状的に安定な商品性の高いニンジンエキスを含有する液を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンジンエキスを含有する液剤において、分岐シクロデキストリン類を配合し、沈殿の生成が抑制されたことを特徴とする高温殺菌処理を施した液剤。
【請求項2】
pHが2〜6である請求項1記載の液剤。
【請求項3】
ニンジンエキスを含有する液剤において、分岐シクロデキストリン類を配合することにより高温殺菌後の沈殿の生成を抑制する方法。

【公開番号】特開2009−131271(P2009−131271A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53966(P2009−53966)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【分割の表示】特願2003−327317(P2003−327317)の分割
【原出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】