説明

ノイズキャンセル装置、ノイズキャンセル方法、ノイズキャンセルプログラム、ノイズキャンセルシステム、及び、基地局

【課題】 移動体通信端末にノイズキャンセル機能を搭載する必要がなく、通話音声から高い精度でノイズ成分を除去可能とする。
【解決手段】
一定範囲内端末検出部35は、音声通話中の回線を検出し、その音声通話中の複数の回線の中から、ノイズ除去対象回線の移動体通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の移動体通信端末(回線)を検出する。音データ収集部36は、一定範囲内端末検出部35にて検出された他の移動体通信端末の音データを収集する。音データ解析・ノイズ成分判定部37は、音データ収集部36にて収集された音データを解析して共通の周波数成分を検出し、その周波数成分をノイズ成分と判定する。ノイズ成分除去部38は、そのノイズ成分をノイズ除去対象回線の音声データから減算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話端末等にて音声通話が行われている際に、その通話音声から周囲雑音成分を除去するノイズキャンセル装置、ノイズキャンセル方法、ノイズキャンセルプログラム、ノイズキャンセルシステム、及び、基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信端末の代表例である携帯電話端末での音声通話は、人間の発した通話音声等を当該端末に搭載されているマイクロホンにより取り込み、その通話音声信号を、基地局及び携帯電話網を経由して通話相手側の端末へ伝達することにより行われる。
【0003】
但し、マイクロホンは、通話している人間が発した音声以外にも、周囲の不要な音(つまり環境雑音)をも取り込む。このため、通話相手側には、通話音声以外の上記周囲の不要な環境雑音も伝達されることになり、当該環境雑音が通話の妨げになるといった状況が屡々発生する。
【0004】
また従来より、携帯電話端末にノイズキャンセル機能を搭載することにより、環境雑音の問題を解決する技術が知られている。このノイズキャンセル機能は、マイクロホンより入力された音声信号の中で、或る特定の条件に合致する信号成分をノイズ成分と判断し、そのノイズ成分を音声信号から除去するような機能となされている。すなわち、当該ノイズ成分の除去は携帯電話端末内で行われるため、基地局側及びその基地局を経由した通話相手側の端末へは当該ノイズ成分の除去後の音声信号が送られることになる。
【0005】
その他にも、例えば特開2002−169599号の公開特許公報(特許文献1)には、入力音声信号を定められた時間単位のフレームに分割し、さらにフレームを所定の周波数帯域に分割し、その分割帯域毎に雑音の抑圧処理を行うノイズ抑制方法が開示されている。この公報記載のノイズ抑制方法では、音声フレームであると判定されたフレームの帯域別ゲイン値が、雑音フレームであると判定されたフレームの帯域別ゲイン値より小さい値を取り得るように、帯域別ゲイン値の設定を行うことで、ノイズ抑制を可能としている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−169599号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述したようなノイズ除去を行うためには、ノイズキャンセル機能を搭載した携帯電話端末が必要になる。しかしながら、ノイズキャンセル機能を搭載すると端末価格の上昇が避けられず、また、ノイズキャンセル処理の実行は端末内での処理負荷の増大をもたらすことになる。
【0008】
さらに、携帯電話端末にノイズキャンセル機能が搭載されている場合、実際にその機能を利用するためには、ユーザが自ら携帯電話端末を操作し、当該ノイズキャンセル機能を有効にする設定を行わなければなら、ユーザにとって非常に煩雑な操作が要求される。
【0009】
また従来のノイズキャンセル機能は、前述したように携帯電話端末の内蔵マイクロホンの入力音声信号からノイズ成分を検出するようになされている。このように、内蔵マイクロホンの入力音声信号のみを用いたノイズ成分検出は、必ずしも十分な精度を有しているとは言い難く、その結果、ノイズキャンセル精度も不十分になり易い。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、移動体通信端末にノイズキャンセル機能を搭載する必要がなく、通話音声から高い精度でノイズ成分を除去可能とするノイズキャンセル装置、ノイズキャンセル方法、ノイズキャンセルプログラム、ノイズキャンセルシステム、及び基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも、一定範囲内端末検出部と音信号収集部と音信号解析・ノイズ成分判定部とノイズ成分除去部によりノイズキャンセル処理を行う。ここで、一定範囲内端末検出部は、接続状態となっている回線を検出すると共に、その接続状態となっている複数の回線の中から、ノイズ除去対象回線の通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の通信端末の回線を検出する。音信号収集部は、少なくとも、一定範囲内端末検出部にて検出された他の通信端末の回線の音信号を収集する。音信号解析・ノイズ成分判定部は、音信号収集部にて収集された音信号を解析して共通の信号成分を検出し、当該共通の信号成分をノイズ成分と判定する。ノイズ成分除去部は、音信号解析・ノイズ成分判定部にてノイズ成分と判定された信号成分を、ノイズ除去対象回線の音信号から除去する。これにより、本発明は上述の課題を解決している。
【0012】
すなわち、本発明によれば、回線接続中であり且つノイズ除去対象回線の通信端末から一定距離範囲内の他の通信端末を検出する。これら一定距離範囲内の他の通信端末の回線上の音信号には、ノイズ除去対象回線上の音信号に含まれているのと略々同じノイズ成分が含まれていると考えられる。したがって、それら一定距離範囲内の他の通信端末の回線上の音信号から得たノイズ成分を、ノイズ除去対象回線上の音信号から除去すれば、ノイズキャンセルが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、基地局にて、回線接続中で且つノイズ除去対象回線の端末から一定距離範囲内の他の通信端末の音信号を検出し、その音信号から求めたノイズ成分をノイズ除去対象回線の音信号から除去している。これにより、本発明においては、通信端末自体にノイズキャンセル機能を搭載する必要がなく、音声信号から高い精度でノイズ成分を除去可能となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
なお、以下の説明では、本発明にかかる通信回線の一例として携帯電話回線等の移動体通信回線を挙げ、また、本発明にかかる通信端末の一例として携帯電話端末等の移動体通信端末を挙げている。したがって、本実施形態において、基地局は、携帯電話網の携帯基地局となっている。勿論、本実施形態で挙げたものはあくまで一例であり、本発明はこの例に限定されないことは言うまでもない。
【0016】
[本発明実施形態のシステム構成例]
図1には、本発明実施形態の通信システムの概略構成を示す。
【0017】
図1において、移動体通信端末1,2,3,4は、基地局10のエリア内に存在しており、当該基地局10の管理下にあるものとする。また本実施形態では、当該基地局10のエリア内の移動体通信端末1,2,3,4のうち、例えば移動体通信端末1,2,3の回線が接続状態となっていて音声通話中であるとする。さらに、それら音声通話中の移動体通信端末1,2,3のうち、特に移動体通信端末1は、例えば別の基地局13のエリア内(管理下)に存在している移動体通信端末5と音声通話中となっているとする。一方、移動体通信端末2,3は、図示していない別の端末等と音声通話中であるとする。また、基地局10エリア内の各移動体通信端末1,2,3,4は、例えば展示会場や娯楽施設内のような同じ騒音環境下に存在しているとする。なお、基地局10と基地局13は、それぞれ同じ携帯電話網の基地局であっても良いし、別の携帯電話網の基地局であっても良い。図1の例では、基地局10の携帯電話網11と基地局13の携帯電話網12は別の携帯電話網であるとしている。
【0018】
[本発明実施形態の移動体通信端末の構成例]
図2には、本発明実施形態の移動体通信端末である携帯電話端末の概略構成を示す。
【0019】
図2において、通信アンテナ21は、通話や電子メール等の通信のための信号電波を送受信し、端末通信回路20は、それら送受信信号の周波数変換、変調と復調等を行う。
【0020】
スピーカ27は、携帯電話端末に設けられている受話用のスピーカやリンガ(着信音)、アラーム音等の音声出力用スピーカである。マイクロホン28は、送話用及び外部音声集音用のマイクロホンである。音声処理部26は、通話音声データや再生音楽等の音声に関連する各種の処理を行う。
【0021】
表示部23は、液晶ディスプレイや有機EL(ElectroLuminescent)ディスプレイ等の表示デバイスと、そのディスプレイの表示駆動回路からなる。
【0022】
端末メモリ部25は、例えばOS(Operating System)プログラムや、端末制御部22が各部を制御するための制御プログラム、その他各種のアプリケーションプログラム、各種データを記憶し、また、端末制御部22の作業領域として随時データを格納する。
【0023】
操作部24は、携帯電話端末の筐体上に設けられているテンキーや発話キー、終話/電源キー等の各キーや十字キー等のキーデバイスと、それらキーデバイスが押下操作等された時の操作信号を発生する操作信号発生器とからなる。
【0024】
端末制御部22は、CPU(中央処理ユニット)からなり、本実施形態の携帯電話端末の各部の制御と各種信号処理の演算及び制御等を行う。
【0025】
その他、図2には図示を省略しているが、本実施形態の移動体通信端末は、一般的な携帯電話端末に設けられる各構成要素についても備えている。
【0026】
[本発明にかかる基地局の概略的な動作及び構成例]
図3には、本発明実施形態の基地局の概略構成を示す。
【0027】
図3において、通信アンテナ32は、移動体通信端末(携帯電話端末)との間で信号電波を送受信し、また、基地局無線通信回路31は、その送受信信号の周波数変換、変調及び復調等を行う。
【0028】
基地局メモリ部33は、例えばOSプログラムや、基地局制御部30が各部を制御するための制御プログラムや、本発明にかかるノイズキャンセルプログラム、信号処理用プログラム、その他各種データを記憶し、また、基地局制御部30の作業領域として随時データを格納する。なお、当該基地局メモリ部33に格納されている本発明にかかるノイズキャンセルプログラムは、ディスク状記録媒体や外部半導体メモリ等を介して格納されたり、外部インターフェースを通じたケーブル或いは無線を介して格納されたものであっても良い。
【0029】
基地局制御部30は、CPU(中央処理ユニット)からなり、本実施形態の基地局の各部の制御と各種信号処理の演算及び制御等を行う。
【0030】
一定範囲内端末検出部35は、当該基地局の管理下にあり音声通話中の複数の回線の移動体通信端末の内で、互いに一定距離範囲内に存在している各移動体通信端末(つまり各移動体通信端末の回線)を検出する。なお、一定距離範囲内の各移動体通信端末の検出処理の詳細については後述する。
【0031】
音データ収集部36は、当該基地局の管理下にあり、また、音声通話中で且つ一定距離範囲内に存在している全移動体通信端末の通話音声データを収集する。すなわち、音データ収集部36では、それら各移動体通信端末のマイクロホンにて集音され、それら各移動体通信端末から通話音声データとして当該基地局へ送信されてきている音データを収集する。
【0032】
音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上記音データ収集部36による収集音データの解析を行い、ノイズ除去に使用可能な信号成分を求め、その信号成分をノイズ成分と判定する。なお、上記ノイズ成分の判定処理の詳細については後述する。
【0033】
ノイズ成分除去部38は、上記一定距離範囲内に存在している各移動体通信端末の音データから、上記ノイズ成分を減算する。これにより、当該ノイズ成分除去部38からは、上記一定距離範囲内に存在している各移動体通信端末の音データからそれぞれノイズ成分が除去された音データが得られることになる。
【0034】
そして、基地局は、上記ノイズ成分除去部38によりノイズ成分が除去された後の音データを、上記音声通話中の各移動体通信端末から各通話相手先へ送信される音声データとする。すなわち、各通話相手先には、周囲環境ノイズの成分が除去(ノイズキャンセル)されたクリアな通話音声データが送信されることになる。
【0035】
なお、一定範囲内端末検出部35、音データ収集部36、音データ解析・ノイズ成分判定部37、ノイズ成分除去部38は、本発明のノイズキャンセルプログラムの実行によりソフトウェア的に形成されても良いし、ハードウェアとして構成されていても良い。
【0036】
[システム全体の動作シーケンス]
図4には、本実施形態の基地局によるノイズキャンセル処理の概略的な動作シーケンス例を示す。
【0037】
この図4の例では、移動体通信端末1の回線をノイズキャンセル処理の対象回線として挙げ、基地局10が当該回線の音声データにノイズキャンセルを施す場合のシステム全体の動作シーケンス例を示している。なお、以下の説明では、ノイズキャンセル処理の対象回線を移動体通信端末1の回線に限定して述べているが、本発明の基地局は、その管理下にある全ての回線をノイズキャンセル処理対象回線として扱うことができる。
【0038】
基地局10は、基地局無線通信回路31を通じ、移動体通信端末1から音声通話開始の要求(T1)を受け取ると、基地局制御部30により本実施形態のノイズキャンセル処理のための動作を開始する。またこの時、当該移動体通信システム全体では、移動体通信端末1と移動体通信端末5との間で音声通話が開始される。
【0039】
次に、基地局10は、上記移動体通信端末1と移動体通信端末5との間の音声通話の開始を受けて、当該基地局の管理下にある全ての移動体通信端末(図1の例では端末1,2,3,4)について音声通話状態にあるかどうか確認する。そして、基地局10は、全ての音声通話状態にある移動体通信端末の中で、上記移動体通信端末1と当該端末1に対して一定距離範囲内に存在している移動体通信端末2,3に対して、それぞれ各端末のマイクロホンにて集音されている音データを要求(T2)する。この時、各移動体通信端末1,2,3は、当該音データの送信要求(T2)に対する応答として、各端末のマイクロホンにて集音している音データを当該基地局10へ送信(T3)する。なお、図4のシーケンスでは、音データの送信要求(T2)とその応答(T3)がなされる例を挙げているが、この時点で各端末が既に音声通話状態となっている場合には、それら要求(T2)と応答(T3)の処理を省くことも可能である。
【0040】
次に、基地局10は、前述のように、音データ収集部36により、上記音声通話中で且つ一定距離範囲内の各移動体通信端末1,2,3の音声データを収集し、また、音データ解析・ノイズ成分判定部37により、当該収集した音データの解析及びノイズ成分判定処理を行う(T4)。さらに、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、音声通話中で且つ一定距離範囲内の各端末より収集された音データから、共通の周波数と共通の位相成分(同時間軸成分)を有する信号成分を抽出し、その信号成分を当該基地局の管理下における共通の環境ノイズと判定する。
【0041】
そして、基地局10は、移動体通信端末1から送信(T5)されてきている通話音声信号から、ノイズ成分除去部38にて上記環境ノイズ成分を除去(T6)する。当該ノイズ除去後の通話音声信号は、基地局13へ送信(T7)され、その基地局13を経由して通話相手先の移動体通信端末5へ送られる。
【0042】
[本発明にかかる基地局の処理フロー]
以下、図5に示すフローチャートを参照しながら、本発明実施形態の基地局10において、前述のような音データの収集、解析、ノイズ成分判定、ノイズ除去処理について説明する。なお、図5の例は、主に基地局制御部30が本発明のノイズキャンセルプログラムを実行して各部を制御することにより行われる場合のフローチャートを示している。勿論、本発明のノイズキャンセルプログラムの実行により、一定範囲内端末検出部35、音データ収集部36、音データ解析・ノイズ成分判定部37、ノイズ成分除去部38がソフトウェア的に形成される場合もこのフローチャートに含まれる。
【0043】
基地局制御部30は、図4の例のように移動体通信端末10が音声通話を開始すると、その時点で図5のフローチャートの処理を開始する。
【0044】
図5のフローチャートの処理開始後、先ず、基地局制御部30は、ステップS1の処理として、基地局無線通信回路31を通じて、当該基地局管理下にある回線網を監視し、上記移動体通信端末1の他にも音声通話を行っている回線があるかどうかを確認する。そして、基地局制御部30は、ステップS1にて他に音声通話中の回線があると判定した場合にはステップS2へ処理を進め、他に音声通話中の回線が無いと判定した場合には当該フローチャートの処理を終了する。
【0045】
ステップS2の処理に進むと、基地局制御部30は、一定範囲内端末検出部35により、上記移動体通信端末1の位置情報を確認させると共に、その他に音声通話を行っている移動体通信端末の位置情報を確認させる。またこの時の基地局制御部30は、ステップS3の処理として、一定範囲内端末検出部35により、上記移動体通信端末1の位置から一定距離範囲内に、音声通話中の他の移動体通信端末が存在するか否か判断させる。なお、各端末の位置確認と一定距離範囲内か否かの判定処理の具体例については後述する。そして、基地局制御部30は、一定距離範囲内に音声通話中の他の移動体通信端末が存在していると判定した場合にはステップS4へ処理を進め、一方存在しないと判定した場合には当該フローチャートの処理を終了する。
【0046】
ステップS4の処理に進むと、基地局制御部30は、音データ収集部36により、移動体通信端末1と上記一定距離範囲内の他の移動体通信端末における全ての回線の音声信号波形データを収集させる。
【0047】
そして、基地局制御部30は、音データ解析・ノイズ成分判定部37により、上記収集音声信号波形データから二つ以上の回線で音声信号波形成分が一致する箇所を判定させ、その一致箇所の波形成分を抽出させる。なお、音声信号波形成分の一致は、周波数成分と位相成分(時間軸成分)の一致を見ることにより行うことができる。当該同じ時間の周波数成分,位相成分(時間軸成分)の一致判定処理の具体例については後述する。
【0048】
ここで、移動体通信端末1の音声信号波形が例えば図6のような波形であり、音声通話中で且つ上記移動体通信端末1から一定距離範囲内に存在している移動体通信端末2と端末3の音声信号波形が例えば図7と図8のような波形であったとする。この場合、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、図6〜図8の各回線の音声信号波形のうち、二つ以上の回線において音声信号波形成分が一致している箇所を求め、その一致した箇所の信号波形成分を抽出する。すなわち、図6〜図8の例によれば、例えば図7と図8に示した二つの回線の信号波形成分が略々一致しており、一方、図6の音声信号波形はそれら図7と図8の信号波形に例えば人の通話時の音声信号波形成分mが重畳されたものとなっている。したがってこの場合、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上記人の通話時の音声信号波形成分mを除く信号波形、具体的には図7と図8の信号波形成分を、図9に示すように波形成分として抽出する。
【0049】
次に、基地局制御部30は、ステップS5へ処理を進め、上記ステップS4で抽出した信号波形成分をノイズ成分とし、ノイズ成分除去部38により、移動体通信端末1の通話音声信号波形と時間軸基準を合わせた上で、当該通話音声信号波形から上記ノイズ成分を減算させる。すなわちこの場合のノイズ成分除去部38では、例えば図9に示した波形成分(ノイズ成分)を、時間軸を合わせた上で、図6に示した移動体通信端末1の音声信号波形から減算する。これにより、当該ノイズ成分除去部38からは、図10に示すようなノイズ成分除去後の音声信号波形Mが得られることになる。
【0050】
そして、基地局制御部30は、上記ノイズ成分除去部38にて周囲環境ノイズが除去された後の通話音声信号を、ステップS6の処理として、携帯電話用通信回路34から携帯電話網11へ送出させ、通話相手先の移動体通信端末5へ送るようにする。
【0051】
その後、基地局制御部30は、ステップS7の処理として、上記移動体通信端末1の音声通話が継続しているか判定し、継続している時にはステップS1へ処理を戻し、一方、音声通話が継続しなくなった時にはこのフローチャートの処理を終了する。すなわち、基地局制御部30は、移動体通信端末1の音声通話が継続しており、且つ、その端末1の一定距離範囲内に音声通話を行っている他の移動体通信端末の回線が存在する限り、このフローチャートの処理を繰り返す。
【0052】
[一定距離範囲内に存在する移動体通信端末の判定方法]
以下、基地局10の一定範囲内端末検出部35において、各移動体通信端末が一定距離範囲内か否かを判定する際の詳細な処理について、図11と図12を参照しながら説明する。
【0053】
一定範囲内端末検出部35は、図11に示すように、当該基地局の管理下にある各回線の音声信号波形をそれぞれ一定時間間隔で時分割し、それら時分割された各時間スロットt1,t2,t3,・・・毎に、各回線の移動体通信端末が一定距離範囲内か否かの判定の処理を行う。なお、図11,図12の例では、当該基地局の管理下にある各回線として回線A〜回線Eの5個の回線が存在している場合を挙げている。また図11,図12の例では、ノイズキャンセル処理の対象回線を回線Aとして説明する。
【0054】
すなわちこの例の場合、一定範囲内端末検出部35は、それら各回線A〜回線Eの各音声信号波形を同じ時間軸でそれぞれ時分割し、各回線の各時間スロットの信号成分を用いて、回線B〜回線Eの各移動体通信端末が上記ノイズキャンセル処理対象回線Aの移動体通信端末から一定距離範囲内であるか否かの判定処理を行う。
【0055】
ここで、上記判定処理について、時間スロットt3の区間の音声信号波形を例に挙げて説明する。
【0056】
一定範囲内端末検出部35は、各回線A〜回線Eについてそれぞれ時間スロットt3の区間内の信号波形を周波数成分に分解する。図12には、上記時間スロットt3の信号波形を周波数成分に展開した後の、各回線A〜回線Eの周波数成分とその振幅の一例を示す。
【0057】
次に、一定範囲内端末検出部35は、上記周波数成分を、人の通話音声から得られる音声帯域とそれ以外の非音声帯域とに分ける。図12の例では、人の通話音声による音声帯域と、その音声帯域よりも低域側の非音声帯域と、その音声帯域よりも高域側の非音声帯域に分けられている。
【0058】
次に、一定範囲内端末検出部35は、上記非音声帯域の中で図12中矢印で示すような幾つかの周波数ポイントに対して周波数成分の振幅を比較する。なお、図12の例では、図中矢印で示すように、例えば10個の周波数ポイントを抽出している。すなわち、一定範囲内端末検出部35は、それら10個の各周波数ポイント全てに対して、ノイズキャンセル処理対象回線Aの周波数成分との間の振幅差分を求め、それら各振幅差分が所定閾値以内(例えば±30%以内)となっている回線を求める。
【0059】
そして、一定範囲内端末検出部35は、上記振幅差分が所定閾値以内となっている回線の移動体通信端末を、上記ノイズキャンセル処理対象回線Aの移動体通信端末から一定距離範囲内に存在している端末として検出する。なお、図12の例の場合、回線B,回線C,回線Dの上記振幅差分が±30%以内となっているため、一定範囲内端末検出部35は、それら回線B,C,Dの端末が、回線Aの端末から一定距離範囲内に存在していると判定する。一方、回線Eの端末については、上記振幅差分が±30%から外れているため、一定範囲内端末検出部35は、当該回線Eの端末は回線Aの端末から一定距離範囲内に存在していないと判定する。
【0060】
なお、各回線A〜回線Eの移動体通信端末がGPS(Global Positioning System)デバイスを搭載しており、当該GPSデバイスからの位置情報が基地局へ提供される設定になっているような場合、一定範囲内端末検出部35は、それら各回線A〜回線Eの端末から得られるGPS位置情報を基に、各端末が一定距離範囲内であるか否かを判定しても良い。
【0061】
[ノイズ成分の判定方法]
次に、基地局10の音データ解析・ノイズ成分判定部37において、一定距離範囲内の各端末の信号波形成分から、ノイズ除去に使用可能な信号成分を求め、その信号成分をノイズ成分と判定する際の詳細な処理について、図13を参照しながら説明する。
【0062】
音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上述の一定範囲内端末検出部35にて一定距離範囲内である判定された各回線B,C,Dの音声信号波形を、前記図11と同様にそれぞれ時分割し、さらに各時間スロットの区間内の信号波形を周波数成分に分解する。また、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、前述同様、上記周波数成分に展開された後の周波数成分を、人の通話音声による音声帯域とそれ以外の非音声帯域とで分ける。
【0063】
ここで、音データ解析・ノイズ成分判定部37におけるノイズ成分の判定処理について、時間スロットt6の区間の音声信号波形を例に挙げて説明する。図13には、時間スロットt6の信号波形を周波数成分に展開した後の、回線B,C,Dの周波数成分とその振幅の一例を示す。
【0064】
音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上記人の通話音声による音声帯域の中で、図13中矢印で示すような幾つかの周波数ポイントを抽出し、それら周波数ポイントの周波数成分と、所定の振幅値(以下、音声信号判定リミット値と呼ぶ。)とを比較する。なお、図13の例の場合、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、図中矢印で示すように例えば5個の周波数ポイントを抽出し、それら5個の各周波数ポイントにおける周波数成分の振幅値と、音声信号判定リミット値とを比較する。
【0065】
また、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上記各周波数ポイントの周波数成分の振幅値のうち、一つでも上記音声信号判定リミット値を超えた場合、その回線には人の通話音声信号が含まれていると判断する。すなわち図13の例の場合、回線Cの周波数成分の振幅値が上記音声信号判定リミット値を超えているため、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、当該回線Cには通話音声信号が含まれていると判断する。
【0066】
次に、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上記回線Cの信号成分を、ノイズ除去に使用可能な信号成分の候補から除外する。すなわち、当該回線Cの信号成分を除外するのは、人の通話音声による音声信号が含まれていると考えられる信号成分をノイズ除去に使用してしまうのは好ましくないためである。
【0067】
そして、音データ解析・ノイズ成分判定部37は、上記回線Cを除いた残りの回線Bとい回線Dの信号成分の振幅平均をとり、その振幅平均後の信号成分をノイズ成分としてノイズ成分除去部38へ送る。
【0068】
[まとめ]
以上説明したように、本実施形態によれば、基地局は、その管理下にある複数の移動体通信端末のうち、音声通話中で且つ相互に一定距離範囲内の複数の端末を検出し、それら各端末の通話音声信号から周囲環境のノイズ成分を求め、そのノイズ成分を通話音声信号から除去している。
【0069】
すなわち、本実施形態によれば、例えば展示会場や娯楽施設等のように多くの人が集まる一定範囲の場所内で発生している特有の環境雑音を、基地局が高い精度で検出でき、さらに、その環境雑音を基地局が通話音声信号から除去できるため、通話相手先端末へは高品質の通話音声信号が送られることになる。
【0070】
このように、本実施形態によれば、基地局にてノイズ成分の検出と除去が行われるため、移動体通信端末が個別にノイズキャンセル機能を搭載する必要がない。また、移動体通信端末にノイズキャンセル機能を搭載する必要がないため、当該端末のユーザは、ノイズキャンセル機能を有効に設定する等の操作を行わなくても済む。
【0071】
なお、上述した実施形態の説明は、本発明の一例である。このため、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明実施形態の通信システムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明実施形態の移動体通信端末である携帯電話端末の概略構成を示すブロック回路図である。
【図3】本発明実施形態の基地局の概略構成を示すブロック回路図である。
【図4】本実施形態の基地局によるノイズキャンセル処理の概略的な動作シーケンス図である。
【図5】本実施形態の基地局における音データの収集、解析、ノイズ成分判定、ノイズ除去処理のフローチャートである。
【図6】ノイズキャンセル処理の対象回線となっている移動体通信端末の音声信号波形の一例を示す波形図である。
【図7】音声通話中で且つノイズキャンセル処理対象回線の移動体通信端末から一定距離範囲内の他の移動体通信端末の音声信号波形の一例を示す波形図である。
【図8】音声通話中で且つノイズキャンセル処理対象回線の移動体通信端末から一定距離範囲内のさらに他の移動体通信端末の音声信号波形の一例を示す波形図である。
【図9】図7と図8の信号波形成分からノイズ成分として抽出される信号波形の一例を示す波形図である。
【図10】図6の音声信号波形から図9のノイズ成分が除去された後の音声信号波形の一例を示す波形図である。
【図11】基地局において管理下の各回線の音声信号波形をそれぞれ時分割した各時間スロットの説明に用いる図である。
【図12】図11の時間スロットt3の信号波形を周波数成分に展開した後の各回線の周波数成分とその振幅の一例を示し、各移動体通信端末が一定距離範囲内か否かの判定の説明に用いる周波数−振幅特性図である。
【図13】図11の時間スロットt6の信号波形を周波数成分に展開した後の各回線の周波数成分とその振幅の一例を示し、一定距離範囲内の各端末の信号波形成分からノイズ除去に使用可能な信号成分を求める際のノイズ成分判定の説明に用いる図である。
【符号の説明】
【0073】
1〜5 移動体通信端末(携帯電話端末)、10,13 基地局、11,12 携帯電話網、20 端末通信回路、21 移動体通信端末の通信アンテナ、22 端末制御部、23 表示部、24 操作部、25 端末メモリ部、26 音声処理部、27 スピーカ、28 マイクロホン、30 基地局制御部、31 基地局無線通信回路、32 基地局の通信アンテナ、33 基地局メモリ部、34 携帯電話網通信回路、35 一定範囲内端末検出部、36 音データ収集部、37 音データ解析・ノイズ成分判定部、38 ノイズ成分除去部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続状態となっている回線を検出すると共に、上記接続状態となっている複数の回線の中から、ノイズ除去対象回線の通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の通信端末の回線を検出する一定範囲内端末検出部と、
少なくとも上記一定範囲内端末検出部にて検出された他の通信端末の回線の音信号を収集する音信号収集部と、
上記音信号収集部にて収集された音信号を解析して共通の信号成分を検出し、当該共通の信号成分をノイズ成分と判定する音信号解析・ノイズ成分判定部と、
上記音信号解析・ノイズ成分判定部にてノイズ成分と判定された信号成分を、上記ノイズ除去対象回線の音信号から除去するノイズ成分除去部と、
を有するノイズキャンセル装置。
【請求項2】
上記一定範囲内端末検出部は、接続状態となっている回線上の音信号を音声信号成分と非音声信号成分に分け、上記接続状態の回線上の音信号の非音声信号成分と上記ノイズ除去対象回線上の音信号の非音声信号成分との間の差分が、所定閾値以内となっている回線を、上記他の通信端末の回線として検出する請求項1記載のノイズキャンセル装置。
【請求項3】
上記一定範囲内端末検出部は、接続状態となっている回線上の音信号を一定時間間隔の時間スロット毎に周波数成分に分解し、当該時間スロット毎の周波数成分を音声周波数帯域成分と非音声周波数帯域成分とに分けて、当該非音声周波数帯域成分について上記差分を求める請求項2記載のノイズキャンセル装置。
【請求項4】
上記一定範囲内端末検出部は、接続状態となっている回線の通信端末の位置情報を求め、当該位置情報を基に、上記ノイズ除去対象回線の通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の通信端末の回線を検出する請求項1記載のノイズキャンセル装置。
【請求項5】
上記音信号解析・ノイズ成分判定部は、上記音信号収集部にて収集された音信号を音声信号成分と非音声信号成分に分けて、上記音声信号成分と所定のリミット値とを比較し、上記音声信号成分が上記所定のリミット値以内である音信号成分をノイズ成分と判定する請求項1記載のノイズキャンセル装置。
【請求項6】
上記音信号解析・ノイズ成分判定部は、上記音信号収集部にて収集された音信号を一定時間間隔の時間スロット毎に周波数成分に分解し、当該時間スロット毎の周波数成分を音声周波数帯域成分と非音声周波数帯域成分とに分けて、当該音声周波数帯域成分と上記所定のリミット値とを比較する請求項5記載のノイズキャンセル装置。
【請求項7】
上記音信号解析・ノイズ成分判定部は、上記所定のリミット値以内の複数の音声周波数帯域成分を平均した後の音声周波数帯域成分を上記ノイズ成分と判定する請求項6記載のノイズキャンセル装置。
【請求項8】
一定範囲内端末検出部が、接続状態となっている回線を検出すると共に、上記接続状態となっている複数の回線の中から、ノイズ除去対象回線の通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の通信端末の回線を検出するステップと、
音信号収集部が、少なくとも上記一定範囲内端末検出部にて検出された他の通信端末の回線の音信号を収集するステップと、
音信号解析・ノイズ成分判定部が、上記音信号収集部にて収集された音信号を解析して共通の信号成分を検出し、当該共通の信号成分をノイズ成分と判定するステップと、
上記音信号解析・ノイズ成分判定部にてノイズ成分と判定された信号成分を、ノイズ成分除去部が上記ノイズ除去対象回線の音信号から除去するステップと、
を有するノイズキャンセル方法。
【請求項9】
接続状態となっている回線を検出すると共に、上記接続状態となっている複数の回線の中から、ノイズ除去対象回線の通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の通信端末の回線を検出する一定範囲内端末検出部と、
少なくとも上記一定範囲内端末検出部にて検出された他の通信端末の回線の音信号を収集する音信号収集部と、
上記音信号収集部にて収集された音信号を解析して共通の信号成分を検出し、当該共通の信号成分をノイズ成分と判定する音信号解析・ノイズ成分判定部と、
上記音信号解析・ノイズ成分判定部にてノイズ成分と判定された信号成分を、上記ノイズ除去対象回線の音信号から除去するノイズ成分除去部として、
コンピュータを機能させるノイズキャンセルプログラム。
【請求項10】
複数の回線を管理下に置く基地局と、
当該基地局による管理の基で他の端末との間で回線が接続される複数の通信端末とを有し、
上記基地局は、接続状態となっている回線を検出すると共にその接続状態となっている複数の回線の中からノイズ除去対象回線の通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の通信端末の回線を検出し、当該検出した他の通信端末の回線の音信号を収集し、その収集した音信号を解析して検出した共通の信号成分をノイズ成分として判定し、当該ノイズ成分と判定した信号成分を上記ノイズ除去対象回線の音信号から除去する、
ノイズキャンセルシステム。
【請求項11】
接続状態となっている回線を検出すると共に、上記接続状態となっている複数の回線の中から、ノイズ除去対象回線の移動体通信端末に対して一定距離範囲内に存在する他の移動体通信端末の回線を検出する一定範囲内端末検出部と、
少なくとも上記一定範囲内端末検出部にて検出された他の移動体通信端末の回線の音信号を収集する音信号収集部と、
上記音信号収集部にて収集された音信号を解析して共通の信号成分を検出し、当該共通の信号成分をノイズ成分と判定する音信号解析・ノイズ成分判定部と、
上記音信号解析・ノイズ成分判定部にてノイズ成分と判定された信号成分を、上記ノイズ除去対象回線の音信号から除去するノイズ成分除去部と、
を有する基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−10856(P2010−10856A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165285(P2008−165285)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(502087507)ソニー エリクソン モバイル コミュニケーションズ, エービー (823)
【Fターム(参考)】