ノイズフィルタ
【課題】新たな部品を追加することなくプリントパターンだけで、コモンモードチョークコイル間の浮遊容量を小さくしてフィルタ特性の改善を図る。
【解決手段】電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入され、少なくとも2つのコモンモードチョークコイル2A,2Bおよびコンデンサ(図示なし)を含む素子から構成され、これらの素子をプリント配線基板1に実装して構成されるノイズフィルタにおいて、プリント配線基板1のコイルやコンデンサ等の素子を実装する面をほぼベタパターン4Aとし、このベタパターン4Aをアース電位に接続するようにする。
【解決手段】電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入され、少なくとも2つのコモンモードチョークコイル2A,2Bおよびコンデンサ(図示なし)を含む素子から構成され、これらの素子をプリント配線基板1に実装して構成されるノイズフィルタにおいて、プリント配線基板1のコイルやコンデンサ等の素子を実装する面をほぼベタパターン4Aとし、このベタパターン4Aをアース電位に接続するようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置等に用いて好適なノイズフィルタの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のノイズフィルタとして、特許文献1に開示された図6の例がある。
図6に示すように、フィルタは一対の電源ライン間に接続された2段の線間コンデンサCX0,CX1と、電源ラインに直列に接続された2段のコモンモードチョークコイルL1,L2と、一対の電源ラインのそれぞれとアース電位とを接続する2段の接地コンデンサCY1,CY2とを有しており、各素子が入力側よりCX0,L1,CX1, CY1,L2,CY2の順に接続されている。
【0003】
線間コンデンサCX0,CX1はノーマルモードノイズを低減し、コモンモードチョークコイルL1,L2および接地コンデンサCY1,CY2は主にコモンモードノイズを低減する。ここで、ノーマルモードノイズは2本の交流電源ラインの線間に流れるものであり、コモンモードノイズはアースを流れ、交流電源ラインの2線を通して同相で戻って来るものである。
【0004】
図7に、ノイズフィルタの実装例を示す。ここでは、プリント配線基板AとコモンモードチョークコイルL1,L2のみ表示し、他の部品は省略している。
プリント配線基板Aはプリント配線パターンを有し、ノイズフィルタの構成素子を装着する。コモンモードチョークコイルL1,L2は、コアに一対の電源ラインを、一対の電源ラインを往復する電流にて誘起される磁束が、互いに打ち消し合う極性となるような方向に巻いたものである。
【0005】
従来のノイズフィルタは以上のように構成され、コモンモードノイズはコモンモードチョークコイルL1,L2のインダクタンスによる大インピーダンス作用と、接地コンデンサCY1,CY2の小インピーダンス作用により低減され、ノーマルモードノイズはコモンモードチョークコイルL1,L2の漏れインダクタンスによる大インピーダンス作用と、線間コンデンサCX0,CX1の小インピーダンス作用により低減される。
【0006】
しかし、上記ノイズフィルタには、以下のような課題がある。コモンモードチョークコイルL1,L2は、小型化のために近接して配置される。その結果、コモンモードチョークコイルL1,L2の間には少なからず浮遊静電容量が存在し、等価回路的には図9のように示すことができる。この浮遊静電容量CS,CS’は2個のコモンモードチョークコイルL1,L2をバイパスするため、コモンモードチョークコイルのインダクタンスによるノイズ低減効果を阻害するように作用し、結果としてノイズフィルタの減衰特性を悪化させる。
【0007】
2つの導電体間の浮遊容量は、これら導電体をグランド(アース)に近接配置することで抑制することが、例えば非特許文献1〜3に開示されている。
一方、上記の課題を解決するため、特許文献2が提案されている。これは、ノイズフィルタの減衰特性を悪化させる要因となる、複数のチョークコイル間の浮遊静電容量を小さくするために、図10に示すようにコモンモードチョークコイルL1,L2の間に、アース電位に接続した金属板Bを配置するものである。これは、非特許文献1〜3の考え方を利用するものと言える。
【0008】
また、目的は異なるが、上記課題に対して同様の効果が得られる従来例として、例えば特許文献3がある。これは、図11に示すように、フィルタ部品を実装するプリント配線基板の裏面に金属基板(40)を布設することで、アース電位の安定や放熱を図ることを目的としている。
【0009】
【特許文献1】特開平01−160357号公報
【特許文献2】特開平11−346472号公報
【特許文献3】特開平05−161268号公報
【非特許文献1】伊藤健一著,日刊工業新聞社’75発行「アースと誘導」p.75
【非特許文献2】古谷勝美著,産業図書(株)’92発行「ノイズ対策のポイント 」p.58〜59
【非特許文献3】http//www.miyazaki-gijutsu.jp/series2/noise081.html 「実用ノイズ対策技術 10.AC電源線からのノイズ」の項参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2,3のような構成では、金属板や金属基板が必要となり、製造工程が煩雑になるだけでなくコストが増加するという問題がある。
したがって、この発明の課題は、新たな部品の追加を必要としない構成、つまりプリントパターンを用いてコモンモードチョークコイル間の浮遊容量を小さくし、フィルタ特性の改善を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記プリント配線基板の前記素子を実装する面をほぼベタパターンとし、このベタパターンをアース電位に接続することを特徴とする。
この請求項1の発明においては、前記ベタパターンの厚みを、10μm〜200μmの範囲とすることができ(請求項2の発明)、請求項1または2の発明においては、前記ベタパターンは、少なくとも1つのコモンモードチョークコイルを実装している部分をカバーする面積を有することができる(請求項3の発明)。
【0012】
請求項4の発明では、少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記少なくとも2つのコモンモードチョークコイル間を接続するプリント配線パターンは前記プリント配線基板の素子を実装する一方の面に配置し、コモンモードチョークコイルと電源とを接続する第1のプリント配線パターン、およびコモンモードチョークコイルと他の電気機器とを接続する第2のプリント配線パターンはプリント配線基板の他方の面に配置し、前記第1,第2のプリント配線パターン間にはアース電位に接続する第3のプリント配線パターンを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、従来と同様の製造工程およびコストによって製造可能であり、かつ多段構成のノイズフィルタ減衰特性を飛躍的に改善できる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はこの発明の実施の形態を示す断面図、図2はその機能を説明するための等価回路図である。
図1に示すように、プリント配線基板1には、コモンモードチョークコイル2A(L1),2B(L2)が配置されている。線間コンデンサおよび接地コンデンサもプリント配線基板1上に配置されているが、ここでは図示を省略している。この場合、プリント配線基板1のコイル2A(L1),2B(L2)を配置する面(表面ともいう)には、一面にプリント配線パターン4Aが布設され、この配線パターン4Aはアース電位に接続される(ベタアースパターンともいう)。
【0015】
一方、電源ラインを接続するプリント配線パターン4Bは、ビア(メッキ穴)3を介して表面とは反対側(裏面ともいう)に布設される。つまり、素子や部品は表面に配置し、それらの間を接続するプリント配線パターン4Bは裏面に配置される。なお、ベタアースパターンは2つのコモンモードチョークコイル間に存在する浮遊容量による結合を十分小さくする程度に所定の面積が必要である。
【0016】
図1のように構成されたノイズフィルタの機能について、図2を参照して説明する。コモンモードチョークコイル2A(L1),2B(L2)に近接した位置にアース電位が存在することで、2つのコイル間に存在する浮遊容量は小さくなり、代わりにコイルとベタアースパターンとの間に浮遊静電容量(CS11,CS12,CS21,CS22,CS11’,CS12’,CS21’,CS22’)が発生し、この浮遊静電容量は接地コンデンサの役目を果たすことになる。しかも、この浮遊容量は接地コンデンサCY1,CY2と比較して十分小さいため、これら浮遊容量の影響をほとんど無視することができる。
【0017】
つまり、フィルタの減衰特性を悪化させる浮遊静電容量が微小になること、および新たに形成される浮遊静電容量が接地コンデンサ対して十分小さく無視できるため、フィルタの減衰特性は向上する。なお、新たな部品を追加する必要が無いことから、従来と変わらぬ製造工程で製作できることになる。
また、プリント配線パターンは10μm〜200μmとするが、これはプリント配線パターンとしては一般的な値であり、特別にアース電極を必要としない厚さでもある。
【0018】
図3はこの発明の他の実施の形態を示す上面図である。
図1のようにノイズフィルタ単体で基板を構成する場合のほかに、ノイズフィルタの後段に電力変換装置等の電気機器が、同一のプリント配線基板に実装される場合があり、図3はこのような場合を想定している。ここで、コモンモードチョークコイル2の実装方法や、ベタアースパターン4Aを表面に配置する点については図1と同様であるが、ベタアースパターン4Aの布設位置を、プリント配線基板1の一部11に限定した点で異なる。
【0019】
つまり、同一基板1の上に実装される後段の電力変換装置部分12には、ベタアースパターンを布設する必要が無いことを示している。ベタアースパターンの面積により、コモンモードチョークコイル間の結合の大きさが変わるため、効果をより期待する場合は図3のように、ベタアースパターン4Aは2つのコモンモードチョークコイル2を覆う面積をカバーすべきである。しかし、原理的には1つのコモンモードチョークコイル2の面積をカバーする領域にベタアースパターンがあれば、このベタアースパターンとコイルとの結合を強化できるため、チョークコイル間の浮遊容量を低減することが可能である。なお、
このフィルタによる減衰特性改善の原理は図1に示すものと同じなので、説明は省略する。
【0020】
図4はこの発明のさらに他の実施の形態を示す断面図である。
フィルタ減衰特性を悪化させる原因は、チョークコイル間の浮遊容量だけでなく、コモンモードチョークコイルに接続するプリント配線パターン間の浮遊容量もあり、図4はこの浮遊容量を低減するものである。図1と同様に、プリント配線基板1には、コモンモードチョークコイル2A(L1),2B(L2)が配置されている。線間コンデンサおよび接地コンデンサもプリント配線基板1上に配置されているが、ここでも図示を省略している。
【0021】
図4では、コイル2A(L1)と2B(L2)との間を接続するプリント配線パターン4B3はプリント配線基板1の表面に、系統電源とコイル2A(L1)を接続するプリント配線パターン4B1と、コイル2B(L2)とインバータ等の電気機器を接続するプリント配線パターン4B2とは基板1の裏面に布設し、プリント配線パターン4B1と4B2との間にはアース電位に接続するプリント配線パターン4 Aを布設する。このプリント配線パターン4 Aは、プリント配線パターン4B1と4B2との間に存在する浮遊容量による結合を分断する程度に、所定の面積を有するものとする。
【0022】
コイルを例えば図7のように実装した場合、図8のようにコモンモードチョークコイル間の浮遊容量CS,CS’と、プリント配線パターン間の浮遊容量CSP,CSP’とは並列接続の形で存在する。そこで、図4のように構成することで、前者の浮遊容量は変化しないが、後者の浮遊容量を小さくすることができ、代わりにプリント配線パターン4B1,4B2とアースパターン4 A間に浮遊容量CS1,CS2,CS1’,CS2’が発生し、等価回路は図8から図5に変わる。つまり、コモンモードチョークコイル2A(L1) ,2B(L2)間をバイパスし、コモンモードチョークコイルによるノイズ低減効果を阻害する浮遊容量CSおよびCS’のみとなり、トータルとして小さくなるため、ノイズフィルタの減衰特性が改善されることになる。
【0023】
以上では、ノイズフィルタは単相回路を想定して説明したが、三相回路についても同様に有効である。また、コモンモードチョークコイルを横向きに実装した例を挙げたが、縦向きに実装した場合にも同様の効果が得られ、実装方向を問わないものである。さらに、2段構成のノイズフィルタを例に説明したが、フィルタの段数も問わず多段構成のフィルタでも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態を示す構成図
【図2】図1の機能を説明するための等価回路図
【図3】この発明の他の実施の形態を示す構成図
【図4】この発明のさらに他の実施の形態を示す構成図
【図5】図4の機能を説明するための等価回路図
【図6】特許文献1に開示のノイズフィルタを示す等価回路図
【図7】ノイズフィルタの第1従来例の実装図
【図8】図7の機能を説明するための等価回路図
【図9】コイル間の浮遊容量を説明するための等価回路図
【図10】ノイズフィルタの第2従来例の実装図
【図11】ノイズフィルタの第3従来例の実装図
【符号の説明】
【0025】
1…プリント配線基板、11…フィルタ回路実装部、12…主回路実装部、2,2A,2B
…コモンモードチョークコイル、21…コア、22…巻き線、3…ビア(メッキ穴)、4A,4B,4B1,4B2,4B3…プリント配線パターン、5…絶縁基板。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電力変換装置等に用いて好適なノイズフィルタの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のノイズフィルタとして、特許文献1に開示された図6の例がある。
図6に示すように、フィルタは一対の電源ライン間に接続された2段の線間コンデンサCX0,CX1と、電源ラインに直列に接続された2段のコモンモードチョークコイルL1,L2と、一対の電源ラインのそれぞれとアース電位とを接続する2段の接地コンデンサCY1,CY2とを有しており、各素子が入力側よりCX0,L1,CX1, CY1,L2,CY2の順に接続されている。
【0003】
線間コンデンサCX0,CX1はノーマルモードノイズを低減し、コモンモードチョークコイルL1,L2および接地コンデンサCY1,CY2は主にコモンモードノイズを低減する。ここで、ノーマルモードノイズは2本の交流電源ラインの線間に流れるものであり、コモンモードノイズはアースを流れ、交流電源ラインの2線を通して同相で戻って来るものである。
【0004】
図7に、ノイズフィルタの実装例を示す。ここでは、プリント配線基板AとコモンモードチョークコイルL1,L2のみ表示し、他の部品は省略している。
プリント配線基板Aはプリント配線パターンを有し、ノイズフィルタの構成素子を装着する。コモンモードチョークコイルL1,L2は、コアに一対の電源ラインを、一対の電源ラインを往復する電流にて誘起される磁束が、互いに打ち消し合う極性となるような方向に巻いたものである。
【0005】
従来のノイズフィルタは以上のように構成され、コモンモードノイズはコモンモードチョークコイルL1,L2のインダクタンスによる大インピーダンス作用と、接地コンデンサCY1,CY2の小インピーダンス作用により低減され、ノーマルモードノイズはコモンモードチョークコイルL1,L2の漏れインダクタンスによる大インピーダンス作用と、線間コンデンサCX0,CX1の小インピーダンス作用により低減される。
【0006】
しかし、上記ノイズフィルタには、以下のような課題がある。コモンモードチョークコイルL1,L2は、小型化のために近接して配置される。その結果、コモンモードチョークコイルL1,L2の間には少なからず浮遊静電容量が存在し、等価回路的には図9のように示すことができる。この浮遊静電容量CS,CS’は2個のコモンモードチョークコイルL1,L2をバイパスするため、コモンモードチョークコイルのインダクタンスによるノイズ低減効果を阻害するように作用し、結果としてノイズフィルタの減衰特性を悪化させる。
【0007】
2つの導電体間の浮遊容量は、これら導電体をグランド(アース)に近接配置することで抑制することが、例えば非特許文献1〜3に開示されている。
一方、上記の課題を解決するため、特許文献2が提案されている。これは、ノイズフィルタの減衰特性を悪化させる要因となる、複数のチョークコイル間の浮遊静電容量を小さくするために、図10に示すようにコモンモードチョークコイルL1,L2の間に、アース電位に接続した金属板Bを配置するものである。これは、非特許文献1〜3の考え方を利用するものと言える。
【0008】
また、目的は異なるが、上記課題に対して同様の効果が得られる従来例として、例えば特許文献3がある。これは、図11に示すように、フィルタ部品を実装するプリント配線基板の裏面に金属基板(40)を布設することで、アース電位の安定や放熱を図ることを目的としている。
【0009】
【特許文献1】特開平01−160357号公報
【特許文献2】特開平11−346472号公報
【特許文献3】特開平05−161268号公報
【非特許文献1】伊藤健一著,日刊工業新聞社’75発行「アースと誘導」p.75
【非特許文献2】古谷勝美著,産業図書(株)’92発行「ノイズ対策のポイント 」p.58〜59
【非特許文献3】http//www.miyazaki-gijutsu.jp/series2/noise081.html 「実用ノイズ対策技術 10.AC電源線からのノイズ」の項参照
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献2,3のような構成では、金属板や金属基板が必要となり、製造工程が煩雑になるだけでなくコストが増加するという問題がある。
したがって、この発明の課題は、新たな部品の追加を必要としない構成、つまりプリントパターンを用いてコモンモードチョークコイル間の浮遊容量を小さくし、フィルタ特性の改善を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記プリント配線基板の前記素子を実装する面をほぼベタパターンとし、このベタパターンをアース電位に接続することを特徴とする。
この請求項1の発明においては、前記ベタパターンの厚みを、10μm〜200μmの範囲とすることができ(請求項2の発明)、請求項1または2の発明においては、前記ベタパターンは、少なくとも1つのコモンモードチョークコイルを実装している部分をカバーする面積を有することができる(請求項3の発明)。
【0012】
請求項4の発明では、少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記少なくとも2つのコモンモードチョークコイル間を接続するプリント配線パターンは前記プリント配線基板の素子を実装する一方の面に配置し、コモンモードチョークコイルと電源とを接続する第1のプリント配線パターン、およびコモンモードチョークコイルと他の電気機器とを接続する第2のプリント配線パターンはプリント配線基板の他方の面に配置し、前記第1,第2のプリント配線パターン間にはアース電位に接続する第3のプリント配線パターンを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、従来と同様の製造工程およびコストによって製造可能であり、かつ多段構成のノイズフィルタ減衰特性を飛躍的に改善できる利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はこの発明の実施の形態を示す断面図、図2はその機能を説明するための等価回路図である。
図1に示すように、プリント配線基板1には、コモンモードチョークコイル2A(L1),2B(L2)が配置されている。線間コンデンサおよび接地コンデンサもプリント配線基板1上に配置されているが、ここでは図示を省略している。この場合、プリント配線基板1のコイル2A(L1),2B(L2)を配置する面(表面ともいう)には、一面にプリント配線パターン4Aが布設され、この配線パターン4Aはアース電位に接続される(ベタアースパターンともいう)。
【0015】
一方、電源ラインを接続するプリント配線パターン4Bは、ビア(メッキ穴)3を介して表面とは反対側(裏面ともいう)に布設される。つまり、素子や部品は表面に配置し、それらの間を接続するプリント配線パターン4Bは裏面に配置される。なお、ベタアースパターンは2つのコモンモードチョークコイル間に存在する浮遊容量による結合を十分小さくする程度に所定の面積が必要である。
【0016】
図1のように構成されたノイズフィルタの機能について、図2を参照して説明する。コモンモードチョークコイル2A(L1),2B(L2)に近接した位置にアース電位が存在することで、2つのコイル間に存在する浮遊容量は小さくなり、代わりにコイルとベタアースパターンとの間に浮遊静電容量(CS11,CS12,CS21,CS22,CS11’,CS12’,CS21’,CS22’)が発生し、この浮遊静電容量は接地コンデンサの役目を果たすことになる。しかも、この浮遊容量は接地コンデンサCY1,CY2と比較して十分小さいため、これら浮遊容量の影響をほとんど無視することができる。
【0017】
つまり、フィルタの減衰特性を悪化させる浮遊静電容量が微小になること、および新たに形成される浮遊静電容量が接地コンデンサ対して十分小さく無視できるため、フィルタの減衰特性は向上する。なお、新たな部品を追加する必要が無いことから、従来と変わらぬ製造工程で製作できることになる。
また、プリント配線パターンは10μm〜200μmとするが、これはプリント配線パターンとしては一般的な値であり、特別にアース電極を必要としない厚さでもある。
【0018】
図3はこの発明の他の実施の形態を示す上面図である。
図1のようにノイズフィルタ単体で基板を構成する場合のほかに、ノイズフィルタの後段に電力変換装置等の電気機器が、同一のプリント配線基板に実装される場合があり、図3はこのような場合を想定している。ここで、コモンモードチョークコイル2の実装方法や、ベタアースパターン4Aを表面に配置する点については図1と同様であるが、ベタアースパターン4Aの布設位置を、プリント配線基板1の一部11に限定した点で異なる。
【0019】
つまり、同一基板1の上に実装される後段の電力変換装置部分12には、ベタアースパターンを布設する必要が無いことを示している。ベタアースパターンの面積により、コモンモードチョークコイル間の結合の大きさが変わるため、効果をより期待する場合は図3のように、ベタアースパターン4Aは2つのコモンモードチョークコイル2を覆う面積をカバーすべきである。しかし、原理的には1つのコモンモードチョークコイル2の面積をカバーする領域にベタアースパターンがあれば、このベタアースパターンとコイルとの結合を強化できるため、チョークコイル間の浮遊容量を低減することが可能である。なお、
このフィルタによる減衰特性改善の原理は図1に示すものと同じなので、説明は省略する。
【0020】
図4はこの発明のさらに他の実施の形態を示す断面図である。
フィルタ減衰特性を悪化させる原因は、チョークコイル間の浮遊容量だけでなく、コモンモードチョークコイルに接続するプリント配線パターン間の浮遊容量もあり、図4はこの浮遊容量を低減するものである。図1と同様に、プリント配線基板1には、コモンモードチョークコイル2A(L1),2B(L2)が配置されている。線間コンデンサおよび接地コンデンサもプリント配線基板1上に配置されているが、ここでも図示を省略している。
【0021】
図4では、コイル2A(L1)と2B(L2)との間を接続するプリント配線パターン4B3はプリント配線基板1の表面に、系統電源とコイル2A(L1)を接続するプリント配線パターン4B1と、コイル2B(L2)とインバータ等の電気機器を接続するプリント配線パターン4B2とは基板1の裏面に布設し、プリント配線パターン4B1と4B2との間にはアース電位に接続するプリント配線パターン4 Aを布設する。このプリント配線パターン4 Aは、プリント配線パターン4B1と4B2との間に存在する浮遊容量による結合を分断する程度に、所定の面積を有するものとする。
【0022】
コイルを例えば図7のように実装した場合、図8のようにコモンモードチョークコイル間の浮遊容量CS,CS’と、プリント配線パターン間の浮遊容量CSP,CSP’とは並列接続の形で存在する。そこで、図4のように構成することで、前者の浮遊容量は変化しないが、後者の浮遊容量を小さくすることができ、代わりにプリント配線パターン4B1,4B2とアースパターン4 A間に浮遊容量CS1,CS2,CS1’,CS2’が発生し、等価回路は図8から図5に変わる。つまり、コモンモードチョークコイル2A(L1) ,2B(L2)間をバイパスし、コモンモードチョークコイルによるノイズ低減効果を阻害する浮遊容量CSおよびCS’のみとなり、トータルとして小さくなるため、ノイズフィルタの減衰特性が改善されることになる。
【0023】
以上では、ノイズフィルタは単相回路を想定して説明したが、三相回路についても同様に有効である。また、コモンモードチョークコイルを横向きに実装した例を挙げたが、縦向きに実装した場合にも同様の効果が得られ、実装方向を問わないものである。さらに、2段構成のノイズフィルタを例に説明したが、フィルタの段数も問わず多段構成のフィルタでも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態を示す構成図
【図2】図1の機能を説明するための等価回路図
【図3】この発明の他の実施の形態を示す構成図
【図4】この発明のさらに他の実施の形態を示す構成図
【図5】図4の機能を説明するための等価回路図
【図6】特許文献1に開示のノイズフィルタを示す等価回路図
【図7】ノイズフィルタの第1従来例の実装図
【図8】図7の機能を説明するための等価回路図
【図9】コイル間の浮遊容量を説明するための等価回路図
【図10】ノイズフィルタの第2従来例の実装図
【図11】ノイズフィルタの第3従来例の実装図
【符号の説明】
【0025】
1…プリント配線基板、11…フィルタ回路実装部、12…主回路実装部、2,2A,2B
…コモンモードチョークコイル、21…コア、22…巻き線、3…ビア(メッキ穴)、4A,4B,4B1,4B2,4B3…プリント配線パターン、5…絶縁基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記プリント配線基板の前記素子を実装する面をほぼベタパターンとし、このベタパターンをアース電位に接続することを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項2】
前記ベタパターンの厚みを、10μm〜200μmの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記ベタパターンは、少なくとも1つのコモンモードチョークコイルを実装している部分をカバーする面積を有することを特徴とする請求項1または2に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記少なくとも2つのコモンモードチョークコイル間を接続するプリント配線パターンは前記プリント配線基板の素子を実装する一方の面に配置し、コモンモードチョークコイルと電源とを接続する第1のプリント配線パターン、およびコモンモードチョークコイルと他の電気機器とを接続する第2のプリント配線パターンはプリント配線基板他方の面に配置し、前記第1,第2のプリント配線パターン間にはアース電位に接続する第3のプリント配線パターンを配置することを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項1】
少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記プリント配線基板の前記素子を実装する面をほぼベタパターンとし、このベタパターンをアース電位に接続することを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項2】
前記ベタパターンの厚みを、10μm〜200μmの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記ベタパターンは、少なくとも1つのコモンモードチョークコイルを実装している部分をカバーする面積を有することを特徴とする請求項1または2に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
少なくとも2つのコモンモードチョークコイルおよびコンデンサを含む素子からなり、プリント配線基板に実装されて電力変換器を含む電気機器の交流電源ラインまたは入力電流整流後の直流ラインに挿入されるノイズフィルタにおいて、
前記少なくとも2つのコモンモードチョークコイル間を接続するプリント配線パターンは前記プリント配線基板の素子を実装する一方の面に配置し、コモンモードチョークコイルと電源とを接続する第1のプリント配線パターン、およびコモンモードチョークコイルと他の電気機器とを接続する第2のプリント配線パターンはプリント配線基板他方の面に配置し、前記第1,第2のプリント配線パターン間にはアース電位に接続する第3のプリント配線パターンを配置することを特徴とするノイズフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−267596(P2009−267596A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112513(P2008−112513)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
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