説明

ノズル基板の製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法

【課題】シリコン基板の薄板化の工程で発生する異物を効率的に除去でき、歩留まりを向上することが可能なノズル基板の製造方法等を提供する。
【解決手段】シリコン基板100の一方の面に、ノズル孔11の噴射口部分となる第1の凹部と、第1の凹部に連通し、液滴の導入口部分となる第2の凹部とを形成する工程と、シリコン基板100の一方の面に、ノズル孔11から吐出する液滴に対する耐液体性及び耐エッチング性を有するSiN膜106を形成する工程と、SiN膜106の上にSiO2膜107を形成する工程と、シリコン基板100の一方の面に支持基板120を貼り合わせる工程と、シリコン基板100を他方の面から薄板化する工程と、支持基板120をシリコン基板100から剥離する工程と、支持基板120を剥離したシリコン基板100のSiO2膜107をエッチング除去する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するためのノズル孔を有するノズル基板の製造方法及び液滴吐出
ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載さ
れるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴
を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合され
ノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する圧力室、リザーバ等のインク流路が形成され
たキャビティ基板とを備え、駆動部により圧力室に圧力を加えることによりインク滴を選
択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利
用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用するバブルジェット(登録商標
)方式等がある。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まり
、そのため高密度化並びに吐出性能の向上が強く要求されている。このような背景から、
インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。
【0004】
インクジェットヘッドにおいて、インク吐出特性を改善するためには、ノズル孔部での
流路抵抗を調整し、ノズル長さが最適な長さになるように基板の厚みを調整することが望
ましい。また、ノズル形状を、全体として円筒状のノズル孔とするのではなく、径を異な
らせた第1ノズル部と第2ノズル部とからなる2段ノズル形状とし、ノズル孔に加わるイ
ンク圧力の方向をノズル軸線方向に揃えることで吐出特性を改善する方法もある。
【0005】
これらの要求を満たしたノズル基板を製造する方法として、従来、予めシリコン基板を
所望の厚みに研削した後、シリコン基板の両面にそれぞれドライエッチング加工を施して
第1ノズル部及び第2ノズル部を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、この方法では、ドライエッチングで第1ノズル部と第2ノズル部を形成
する前にシリコン基板を研削して薄板化するため、製造工程の途中でシリコン基板が割れ
たり、欠けたりしてしまうことがあるという課題があった。さらに、ドライエッチング加
工の際に、加工形状が安定するように基板裏面からHeガス等で冷却を行うが、ノズル孔
の貫通時にHeガスがリークしてエッチングが不可能になる場合があった。
【0007】
そこで、従来、予めシリコン基板にノズル孔となる凹部を形成し、その凹部形成面側に
支持基板を貼り合わせ、シリコン基板の凹部形成面と反対面側から所望の厚さになるまで
研削を行い、薄板化と同時にノズル孔を貫通させる方法があった(例えば、特許文献2参
照)。
【0008】
また、特許文献2と略同様の方法を用い、シリコン基板と支持基板との貼り合わせの方
法を異ならせた方法として、例えば特許文献3の方法がある。この方法は、接着性を有す
る樹脂をノズル孔となる凹部内に埋め込むようにしてシリコン基板の表面全体に塗布し、
樹脂を硬化させることでシリコン基板と支持基板との貼り合わせを行うようにしたもので
ある(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平9−57981号公報(第2−3頁、図1、図2)
【特許文献2】特開2006−159661号公報(図4−図6)
【特許文献3】特開2006−315217号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献2の方法では、シリコン基板の研削によりノズル部を貫通させるため、ノ
ズル孔内に研削屑が詰まり、歩留まりが低下するという問題があった。
【0011】
また、特許文献3の方法では、ノズル孔となる凹部内に樹脂が充填されるため、シリコ
ン基板を薄板化する際にノズル孔となる凹部内に研削屑が詰まるのを防止できるという利
点がある。しかし、その一方で、支持基板を剥がす際に、ノズル孔内に充填された樹脂を
除去しきれずノズル孔となる凹部内に残存してしまい、樹脂を除去する工程が必要となり
歩留まりが低下するという結果を招いていた。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、ノズル基板となる被加工基板の薄板化の
工程で発生する異物を効率的に除去でき、歩留まりを向上することが可能なノズル基板の
製造方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るノズル基板の製造方法は、被加工基板の一方の面に、液滴を吐出するため
のノズル孔の噴射口部分となる第1の凹部と、第1の凹部に連通し、液滴の導入口部分と
なる第2の凹部とを形成する工程と、被加工基板の一方の面に、ノズル孔から吐出する液
滴に対する耐液体性及び耐エッチング性を有する第1の膜を形成する工程と、第1の膜の
上に第2の膜を形成する工程と、第1の膜と第2の膜を形成した被加工基板の一方の面に
、支持基板を貼り合わせる工程と、被加工基板を他方の面から薄板化し、第1の凹部の先
端を開口する工程と、支持基板を被加工基板から剥離する工程と、支持基板を剥離した被
加工基板の第2の膜をエッチング除去する工程とを有するものである。
これにより、薄板化の際にノズル孔内に研削屑が付着したとしても、最後のエッチング
工程の際に第2の膜とともにリフトオフにより除去することができる。このように、薄板
化の工程で発生する異物を効率的に除去でき、歩留まりを向上することができる。
【0014】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、被加工基板と支持基板とを両面接着シー
トを用いて貼り合わせるものである。
このように、被加工基板と支持基板との貼り合わせは、両面接着シートを用いて行うこ
とができる。
【0015】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、被加工基板と支持基板とを樹脂を用いて
貼り合わせるものである。
このように、被加工基板と支持基板との貼り合わせは、樹脂を用いて行うことができる

【0016】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、被加工基板を薄板化する工程において、
バックグラインド、ドライポリッシュ、CMPの何れかの方法を用いてシリコン基板を研
磨加工するものである。
被加工基板の薄板化加工をバックグラインド、ドライポリッシュ、CMPの何れかの方
法を用いることにより、被加工基板の表面をきれいに仕上げることが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、第1の膜を、SiN、DLC、Ti、T
iN、 TiO2、HfO、ZrO2、Ta25 、ITOの何れかで構成するものである。
このように、第1の膜として、SiN、DLC、Ti、TiN、 TiO2、HfO、Z
rO2、Ta25、ITOの何れかの膜を用いることができる。
【0018】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、第2の膜はSiO2 膜であり、第2の膜
をエッチング除去する工程では、沸酸を用いてエッチングするものである。
このように、第2の膜として形成したSiO2 膜を、沸酸を用いてエッチングできる。
【0019】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、第1の凹部及び第2の凹部はそれぞれ円
筒状であり、第2の凹部の径は第1の凹部の径よりも大きいものである。
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、第1の凹部が円筒状であり、第2の凹部
が第1の凹部から離れるに従って断面積が漸増するテーパー状であるものである。
このように、ノズル孔の形状として、上記形状を採用することができる。また、このよ
うな2段形状とすることにより、液滴を吐出する際の直進性を向上させることができ、安
定したインク吐出特性を発揮させることができる。
【0020】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出するための複数のノズル
孔と、各ノズル孔に連通して設けられて液滴に圧力を加えるための圧力室と、圧力室に液
滴を供給する液滴供給路と、液滴を吐出するための吐出圧力を圧力室に発生させる圧力発
生手段とを有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、複数のノズル孔を有するノズル基
板を、上記の何れかのノズル基板の製造方法により製造するものである。
これにより、歩留まりを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のノズル基板の製造方法で製造されたノズル基板を備える液滴吐出ヘッド
の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、静電駆
動式のインクジェットヘッドについて図1及び図2を参照して説明する。なお、アクチュ
エータ(圧力発生手段)は静電駆動方式に限られたものではなく、その他の圧電素子や発
熱素子等を利用する方式であってもよい。
【0022】
図1は、本実施形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図
であり、一部を断面で表してある。図2は、図1の右半分の概略構成を示すインクジェッ
トヘッドの断面図である。なお、図1及び図2では、通常使用される状態とは上下逆に示
されている。
【0023】
本実施の形態のインクジェットヘッド10は、図1及び図2に示すように、複数のノズ
ル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にイ
ンク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して
個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0024】
以下、各基板の構成を更に詳しく説明する。
ノズル基板1は、後述する製造方法により、所要の厚さ(例えば厚さが280μmから
60μm程度)に薄くされたシリコン基板から作製されている。
インク滴を吐出するためのノズル孔11は、例えば径の異なる2段の円筒状に形成され
たノズル孔部分、すなわち径が小さくインク滴の噴射口部分となる第1ノズル部11aと
、第1ノズル部11aに連通し、第1ノズル部11aよりも径が大きく液滴の導入部分と
なる第2ノズル部11bとから構成されている。第1ノズル部11a及び第2ノズル部1
1bは基板面に対して垂直にかつ同軸上に設けられており、第1ノズル部11aは先端が
ノズル基板1の表面に開口し、第2ノズル部11bはノズル基板1の裏面(キャビティ基
板2と接合される接合側の面)に開口している。
【0025】
このように、ノズル孔11を第1ノズル部11aとこれよりも径の大きい第2ノズル部
11bとから2段に構成することにより、インク滴を吐出する際の直進性を向上させるこ
とができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛
翔方向のばらつきがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のばら
つきを抑制することができる。また、ノズル密度を高密度化することが可能である。
【0026】
また、ノズル基板1の吐出面(キャビティ基板2と接合される面とは反対の表面)には
撥インク膜(図示せず)が形成されており、ノズル基板1の裏面には、ノズル孔11から
吐出する液体に対しての耐液体性(本例では吐出液体がインク滴であるため、耐アルカリ
性)を有する窒化シリコン(SiN)膜106(図2参照)がインク保護膜として形成さ
れている。なお、本例のインク保護膜には、耐アルカリ性の他、後述の製造方法との関係
から後述の(O)の工程のウェットエッチングに対する耐エッチング性(具体的にはフッ
酸に対する耐エッチング性)も必要とされており、窒化シリコンの他に例えばDLC(D
iamond Like Carbon)、Ti(チタン)、TiN(窒化チタン)、T
iO2(酸化チタン)、HfO(酸化ハフニウム)、ZrO2 (酸化ジルコニウム)、T
25(5酸化タンタル)、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫
酸化物)を用いることもできる。
【0027】
キャビティ基板2は、例えば厚さが525μmのシリコン基板から作製されている。こ
のシリコン基板にウェットエッチングを施すことにより、インク流路の圧力室21となる
凹部25、オリフィス23となる凹部26、及びリザーバ24となる凹部27が形成され
る。凹部25は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、
図2に示すようにノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部25は圧力室2
1を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフ
ィス23ともそれぞれ連通している。そして、圧力室21(凹部25)の底壁が振動板2
2となっている。
【0028】
凹部26は、細溝状のオリフィス23を構成し、この凹部26を介して凹部25(圧力
室21)と凹部27(リザーバ24)とが連通している。
凹部27は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各圧力室21に共通の
リザーバ(共通インク室)24を構成する。そして、リザーバ24(凹部27)はそれぞ
れオリフィス23を介して全ての圧力室21に連通している。なお、オリフィス23(凹
部26)は前記ノズル基板1の裏面(キャビティ基板2との接合側の面)に設けることも
できる。また、リザーバ24の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられ、こ
の孔のインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給される
ようになっている。
【0029】
また、キャビティ基板2の全面には例えば熱酸化によりSiO2 膜からなる絶縁膜28
(図2参照)が膜厚0.1μmで施されている。この絶縁膜28は、インクジェットヘッ
ドを駆動させた時の絶縁破壊や短絡を防止する目的で設けられる。
【0030】
電極基板3は、例えば厚さ約1mmのガラス基板から作製される。中でも、キャビティ
基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適して
いる。これは、電極基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が
近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、そ
の結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2を強固に接合するこ
とができるからである。なお、前記ノズル基板1も同様の理由から硼珪酸系のガラス基板
を用いることができる。
【0031】
電極基板3には、キャビティ基板2の各振動板22に対向する面の位置にそれぞれ凹部
32が設けられている。凹部32は、エッチングにより深さ約0.3μmで形成されてい
る。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide)
からなる個別電極31が、例えば0.1μmの厚さでスパッタにより形成される。したが
って、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)は、この凹部32
の深さ、個別電極31及び振動板22を覆う絶縁膜28の厚さにより決まることになる。
このギャップはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響するため、高精度に形成さ
れる。
【0032】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される
端子部31bとを有する。端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティ
基板2の末端部が開口された電極取り出し部30内に露出している。
【0033】
上述したように、ノズル基板1、キャビティ基板2及び電極基板3は、図2に示すよう
に貼り合わせることによりインクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、
キャビティ基板2と電極基板3は陽極接合により接合され、そのキャビティ基板2の上面
(図2において上面)にノズル基板1が接着等により接合される。さらに、振動板22と
個別電極31との間に形成される電極間ギャップの開放端部はエポキシ等の樹脂による封
止材35で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止
することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
【0034】
そして最後に、図2に簡略化して示すように、ドライバIC等の駆動制御回路5が各個
別電極31の端子部31bとキャビティ基板2上に設けられた共通電極29とに前記フレ
キシブル配線基板(図示せず)を介して接続される。
以上により、インクジェットヘッド10が完成する。
【0035】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路5は、個別電極31に電荷の供給及び停止を制御する発振回路である。こ
の発振回路は例えば24kHzで発振し、個別電極31に例えば0Vと30Vのパルス電
位を印加して電荷供給を行う。発振回路が駆動し、個別電極31に電荷を供給して正に帯
電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22間に静電気力(クーロ
ン力)が発生する。したがって、この静電気力により振動板22は個別電極31に引き寄
せられて撓む(変位する)。これによって圧力室21の容積が増大する。そして、個別電
極31への電荷の供給を止めると振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、圧力
室21の容積が急激に減少するため、そのときの圧力により圧力室21内のインクの一部
がインク滴としてノズル孔11より吐出する。振動板22が次に同様に変位すると、イン
クがリザーバ24からオリフィス23を通じて圧力室21内に補給される。
【0036】
本実施形態のインクジェットヘッド10は、前述したように、ノズル孔11がノズル基
板1の表面(吐出面)に対して垂直な筒状の第1ノズル部11aと、この第1ノズル部1
1aと同軸上に設けられ第1ノズル部11aよりも径の大きい第2ノズル部11bとから
構成されているため、インク滴をノズル孔11の中心軸方向に真っ直ぐに吐出させること
ができ、きわめて安定した吐出特性を有する。
【0037】
なお、ノズル孔11の第1ノズル部11a及び第2ノズル部11bの横断面形状は特に
限定されるものではなく、角形や円形などに形成される。但し、円形にする方が吐出特性
や加工性の面で有利となるので好ましい。
【0038】
次に、このインクジェットヘッド10の製造方法を用いて説明する。図3は本発明の実
施の形態に係るノズル基板を示す上面図、図4〜図6はノズル基板の製造工程を示す断面
図(図3をA−A線で切断した断面図)である。なお、キャビティ基板及び電極基板の製
造方法は従来公知の方法(例えば、特開2007−076141号公報参照)を採用でき
、ここではその詳細な説明は省略する。
【0039】
以下、ノズル基板1の製造工程を、図4〜図6を用いて説明する。
(A)まず、被加工基板として、基板厚み280μmのシリコン基板100を用意し、熱
酸化装置(図示せず)にセットして酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気
の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理し、シリコン基板100の表面に膜厚1μmのSiO
2 膜101を均一に成膜する。
(B)シリコン基板100の接合面(キャビティ基板2と接合されることとなる面)10
0aにレジスト102をコーティングし、ノズル孔11の第2ノズル部11bとなる部分
110aをパターニングする。
【0040】
(C)シリコン基板100を、バッファードフッ化水素酸(BHF:Buffered
Hydrogen Fluoride)等のフッ化水素酸(HF)系のエッチング液でハ
ーフエッチングし、SiO2 膜101を薄くする。このとき、インク吐出側の面100b
のSiO2 膜101もエッチングされ、SiO2 膜101の厚みが薄くなる。
(D)レジスト102を硫酸+過酸化水素水による洗浄により剥離する。
(E)再度、シリコン基板100の接合面100a側にレジスト103をコーティングし
、ノズル孔11の第2ノズル部11bとなる部分110bをパターニングする。
【0041】
(F)そして、RIEドライエッチングを用いてノズル孔となる部分110bのSiO2
膜101を開口する。このとき、インク吐出側の面100bのSiO2 膜101もエッチ
ングされ、完全に除去される。
(G)レジスト103を、硫酸+過酸化水素水による洗浄により剥離する。
【0042】
(H)次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)放電に
よるドライエッチングによってSiO2 膜101の開口部を、例えば深さ25μmで垂直
に異方性ドライエッチングして、ノズル孔11の第1ノズル部11aとなる第1の凹部1
04を形成する。この場合、エッチングガスとして、例えば、C48(フッ化炭素)、S
6 (フッ化硫黄)を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで
、C48は第1の凹部104の側面方向にエッチングが進行しないように第1の凹部10
4の側面を保護するために使用し、SF6 は第1の凹部104の垂直方向のエッチングを
促進するために使用する。
【0043】
(I)次に、ノズル孔11の第2ノズル部11bとなる部分110cのSiO2 膜101
のみが無くなるように、例えばバッファードフッ化水素酸(BHF:Buffered
Hydrogen Fluoride)等のフッ化水素酸(HF)系のエッチング液でハ
ーフエッチングする。
(J)そして、再度ICP放電によるドライエッチングによりSiO2 膜101の開口部
を、例えば40μmの深さで垂直に異方性ドライエッチングし、第2ノズル部11bとな
る第2の凹部105を形成する。
【0044】
(K)次に、シリコン基板100の表面に残るSiO2 膜101をフッ酸水溶液で除去し
た後、シリコン基板100にインク保護膜(第1の膜)としての例えばSiN膜106を
成膜する。この成膜方法は特に限定されず熱CVD、プラズマCVD、スパッタ等を用い
ることができる。
(L)そして、SiN膜106上に第2の膜としてのSiO2膜107を形成する。
【0045】
(M)次に、シリコン基板100の接合面100aに、両面接着シート50を介して、ガ
ラス等の透明材料よりなる支持基板120を貼り付ける。この両面接着シート50には、
例えば、セルファBG(登録商標:積水化学工業)を用いる。両面接着シート50は自己
剥離層51を持ったシート(自己剥離型シート)で、その両面には接着面を有し、その一
方の面にはさらに自己剥離層51を備え、この自己剥離層51は紫外線または熱などの刺
激によって接着力が低下するようになっている。
本実施の形態では、両面接着シート50の接着面のみからなる面50aを支持基板12
0の面と向かい合わせ、両面接着シート50の自己剥離層51を備えた側の面50bをシ
リコン基板100の接合面100aと向かい合わせ、これらの面を減圧環境下(10Pa
以下)、例えば真空中で貼り合わせる。こうすることによって、接着界面に気泡が残らず
、きれいな接着が可能になる。接着界面に気泡が残ると、研磨加工で薄板化されるシリコ
ン基板100の板厚がばらつく原因となる。
このように自己剥離層51を備えた両面接着シート50を用いて支持基板120を貼り
合わせるようにしたので、シリコン基板100の薄板化加工時には、シリコン基板100
に支持基板120を強固に接着してシリコン基板100を破損することなく加工すること
ができ、処理後には後述するように支持基板120をシリコン基板100から容易に剥離
することができる。
【0046】
(N)次に、シリコン基板100のインク吐出側の面100b側からバックグラインダー
(図示せず)によって研削加工を行い、第1の凹部104の先端が開口するまでシリコン
基板100を薄く(薄板化)する。これにより、第1ノズル部11a及び第2ノズル部1
1bからなるノズル孔11が形成される。薄板化後、さらに、ポリッシャー、CMP装置
によってインク吐出側の面100bを研磨しても良い。
【0047】
(O)支持基板120側からUV光を照射し、両面接着シート50の自己剥離層51をシ
リコン基板100の接合面100a面から剥離させ、支持基板120をシリコン基板10
0から取り外す。そして、シリコン基板100をバッファードフッ化水素酸(BHF:B
uffered Hydrogen Fluoride)でエッチングし、シリコン基板
100表面のSiO2 膜107を除去する。これにより、工程(N)の研削加工の際にノ
ズル孔11内に研削屑が付着しても、その研削屑がSiO2 膜107とともにリフトオフ
により除去される。
以上の工程を経ることにより、シリコン基板100よりノズル基板1を形成する。
【0048】
次に、上記のようにして構成したノズル基板1の接合面100aに、予め陽極接合され
たキャビティ基板2と電極基板3との接合基板のキャビティ基板2側の表面を貼り合せる
(接合工程は図示せず)。
以上の工程を経ることにより、ノズル基板1、キャビティ基板2及び電極基板3の接合
体を形成し、インクジェットヘッド10が完成する。
【0049】
このように、本発明に係るノズル基板の製造方法では、ノズル基板1となるシリコン基
板100にノズル孔11となる凹部(第1の凹部104、第2の凹部105)を形成し、
シリコン基板100の凹部形成面側に、耐インク性及び耐エッチング性を有するインク保
護膜106と、最終的にエッチング除去されるSiO2 膜107とを順次形成する。そし
て、シリコン基板100を研削により薄板化し、その後、インク保護膜106をエッチン
グストップ層としてSiO2 膜107をエッチングする。このようにすることにより、薄
板化の際にノズル孔11内に研削屑が付着したとしても、最後のエッチング工程の際にS
iO2 膜107とともにリフトオフにより除去することができる。このように、薄板化の
工程で発生する異物を効率的に除去でき、歩留まりを向上することができる。
【0050】
なお、本例では、支持基板120を両面接着シート50を用いて貼り合わせるようにし
たが、従来の特許文献2と同様に、樹脂を用いて貼り合わせを行うようにしてもよい。こ
の場合も、ノズル基板1から樹脂を剥離した後もノズル孔11内に残存する樹脂部分を上
記(O)のエッチング工程で除去することができる。
【0051】
なお、この実施の形態では、ノズル孔11を径の異なる2つの円柱状のノズル部で形成
した例を示しているが、本発明のノズル基板の製造方法では、ノズル孔11の形状はこの
形状に限定するものではない。例えば、図7に示すように第2ノズル部11bを第1ノズ
ル部11aから離れるに従ってノズル断面積が漸増するテーパー状としても良い。また、
テーパー状の第2ノズル部11bの製造方法は特に限定するものではなく、従来公知の方
法(例えば、特開平10−315461号公報)を採用できる。
【0052】
また、本実施の形態では、ノズル基板、キャビティ基板及び電極基板を備えた3層構造
のインクジェットヘッドにおけるノズル基板の製造方法について説明したが、ノズル基板
、リザーバ基板、キャビティ基板及び電極基板を備えた4層構造のインクジェットヘッド
(例えば、特開平2007−50522号公報)におけるノズル基板の製造方法としても
、本発明を適用できる。
【0053】
上記の実施の形態では、ノズル基板1の製造方法及びインクジェットヘッドの製造方法
について述べたが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術
思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、ノズル孔より吐出される液状材料を
変更することにより、図8に示すインクジェットプリンタのほか、液晶ディスプレイのカ
ラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、プリント配線基板製造装置に
て製造する配線基板の配線部分の形成、生体液滴の吐出(プロテインチップやDNAチッ
プの製造)など、様々な用途の液滴吐出装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態のノズル基板を備えた液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの概略縦断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係るノズル基板を示す上面図。
【図4】ノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図5】図4に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図7】ノズル孔の他の構成例を示す図。
【図8】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドを使用したインクジェットプリンタの斜視図。
【符号の説明】
【0055】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板、3 電極基板、10 インクジェットヘッド、
11 ノズル孔、21 圧力室、22 振動板(圧力発生手段)、31 個別電極(圧力
発生手段)、34 インク供給孔、50 両面接着シート、100 シリコン基板、10
4 第1の凹部、105 第2の凹部、106 SiN膜(第1の膜、インク保護膜)、
107 SiO2膜(第2の膜)、120 支持基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工基板の一方の面に、液滴を吐出するためのノズル孔の噴射口部分となる第1の凹
部と、前記第1の凹部に連通し、液滴の導入口部分となる第2の凹部とを形成する工程と

前記被加工基板の一方の面に、前記ノズル孔から吐出する液滴に対する耐液体性及び耐
エッチング性を有する第1の膜を形成する工程と、
前記第1の膜の上に第2の膜を形成する工程と、
前記第1の膜と前記第2の膜を形成した前記被加工基板の一方の面に、支持基板を貼り
合わせる工程と、
前記被加工基板を他方の面から薄板化し、前記第1の凹部の先端を開口する工程と、
前記支持基板を前記被加工基板から剥離する工程と、
前記支持基板を剥離した前記被加工基板の前記第2の膜をエッチング除去する工程と
を有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項2】
前記被加工基板と前記支持基板とを両面接着シートを用いて貼り合わせることを特徴と
する請求項1記載のノズル基板の製造方法。
【請求項3】
前記被加工基板と前記支持基板とを樹脂を用いて貼り合わせることを特徴とする請求項
1記載のノズル基板の製造方法。
【請求項4】
前記被加工基板を薄板化する工程では、バックグラインド、ドライポリッシュ、CMP
の何れかの方法を用いて前記被加工基板を研磨加工することを特徴とする請求項1乃至請
求項3の何れかに記載のノズル基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1の膜は、SiN、DLC、Ti、TiN、 TiO2 、HfO、ZrO2、Ta
25、ITOの何れかで構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記
載のノズル基板の製造方法。
【請求項6】
前記第2の膜はSiO2 膜であり、前記第2の膜をエッチング除去する工程では、沸酸
を用いてエッチングすることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のノズル
基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1の凹部及び前記第2の凹部はそれぞれ円筒状であり、前記第2の凹部の径は前
記第1の凹部の径よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の
ノズル基板の製造方法。
【請求項8】
前記第1の凹部は円筒状であり、前記第2の凹部は前記第1の凹部から離れるに従って
断面積が漸増するテーパー状であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記
載のノズル基板の製造方法。
【請求項9】
液滴を吐出するための複数のノズル孔と、各ノズル孔に連通して設けられて液滴に圧力
を加えるための圧力室と、前記圧力室に液滴を供給する液滴供給路と、液滴を吐出するた
めの吐出圧力を前記圧力室に発生させる圧力発生手段とを有する液滴吐出ヘッドの製造方
法であって、
前記複数のノズル孔を有するノズル基板を、請求項1乃至請求項8の何れかに記載のノ
ズル基板の製造方法により製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−284825(P2008−284825A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133800(P2007−133800)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】