説明

ハイブリッド自動車

【課題】 ハイブリッド自動車において、バッテリーの蓄電量不足が生じるような状況下におけるエンジンの始動不良を、燃費性能の悪化を可及的に抑制しつつ実現する。
【解決手段】 モータ4による走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータ4によってコンプレッサを駆動する車両用空調装置41の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時、バッテリー5の蓄電量(残量)に対するエンジンの始動タイミングを、上記状態以外の場合よりも早める。この結果、上記始動タイミングが早められた分だけバッテリー5への蓄電期間が長くなり、該バッテリー5においては十分な蓄電量が確保され、該バッテリー5からの給電により駆動されるジェネレータによるエンジンの始動が確実ならしめられるものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、走行駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設したハイブリッド自動車に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ハイブリッド自動車は、エンジンとバッテリーから給電されるモータとを併用して走行することを基本構成とするものであり(例えば、特開平9−284914号公報参照)、環境の保護と資源の有効活用という近年の地球的な二大命題を背景として開発されたものである。従って、エンジンは、最も運転頻度の高い中負荷領域において燃費性能が良好な高効率運転が可能な構造であることが要求され、燃費性能が低下する低速・低負荷領域においては原則としてその運転が停止される。従って、例えば、渋滞路走行の如き低速走行を含む低速・低負荷運転領域においては、エンジンに代わってモータによる走行が行われる。
【0003】また、バッテリーは、上記モータに給電して該モータの駆動力により車両走行を行わしめるとともに、エンジン始動時にはジェネレータに給電して該ジェネレータをモータとして機能させてエンジンを始動させるものであることから、所定の端子電圧を得るためにはその蓄電量が所定値以上に維持されていることが必要である。従って、上記バッテリーは、その蓄電量(残量)に応じて適宜蓄電を行うようにしており、具体的には、このバッテリーへの蓄電は、上記エンジンで上記ジェネレータを駆動して発電を行わせることによる蓄電と、車両の減速時における上記モータの回生作用による蓄電とによって行われる。
【0004】尚、上記エンジンの始動は、予め予想される運転状態に応じて設定した基本制御マップ(図4参照)に基づいて実行され、アクセルペダルの動きに連動するスロットルバルブの開度(即ち、エンジン負荷)が所定値以上となり且つ開度変化率が所定以上となった時に車両駆動力の増大要求と判断してエンジンの始動操作が行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、このようなハイブリッド自動車に特有の駆動形態によれば、渋滞路走行の如き低速走行状態においてはエンジンに代わってモータのみによる走行が行われることから、以下に述べるような問題が生じることが従来より指摘されていた。
【0006】即ち、渋滞路走行の如く低速での走行が長時間継続される低速走行状態においては、走行風によるエンジンルーム内の冷却が期待できない。このため、上記エンジンルーム内に配置されたジェネレータは、その温度が上昇することで能力低下を招来し、出力される駆動力が常温時におけるそれに比して低下することになる。
【0007】また、エンジンルーム内に配置されている空調装置においては、該エンジンルーム内の雰囲気温度の上昇に伴って車内温度も上昇し車内の冷房負荷が増大することから、コンプレッサ駆動用のモータは高負荷運転を継続することになる。そして、このコンプレッサ駆動用モータの高負荷運転の継続は、該モータの温度上昇を招来しこれに伴って出力される駆動力が低下するとともに、該モータの温度上昇によって上記エンジンルームの雰囲気温度の上昇が助長され車内の冷房負荷の更なる増大により上記コンプレッサ駆動用モータの駆動負荷がさらに増大するという悪循環を繰り返し、結果的に、該コンプレッサ駆動用モータの消費電力の増大により上記バッテリーの蓄電量が急速に減少して蓄電量不足となりその端子電圧が低下することになる。さらに、上記バッテリーも、上記コンプレッサ駆動用モータへの放電継続によって次第にその温度が上昇することで、その蓄電量に対する端子電圧が低下することになる。かかるバッテリーの蓄電量不足による端子電圧の低下に起因して、該バッテリーから上記ジェネレータへの供給電流が低下することになる。
【0008】このように、低速走行状態で且つ空調装置が作動した状態においては、上記ジェネレータの能力そのものが低下することに加えて、上記バッテリーの端子電圧の低下に伴って上記ジェネレータへの供給電流が低下することにより、該ジェネレータにおいてはエンジン始動のための駆動力を確保できなくなり、例えば蓄電要求を受けて、あるいは駆動力増大要求を受けて、該ジェネレータによりエンジンを始動させる場合にその始動が困難になることが考えられるものである。
【0009】尚、かかるジェネレータによるエンジン始動性を確保するための一つの手段として、エンジンを高出力運転してその駆動力によりジェネレータを駆動して発電させ、バッテリーへの蓄電量を増大させることが考えられるが、かかるエンジンの高出力運転による発電は燃費性能を大きく損ねる原因となることから、低燃費性というハイブリッド自動車の究極的な目的に照らして好ましくない。
【0010】そこで、本願発明では、上述の如き問題に鑑み、ハイブリッド自動車において、バッテリーの蓄電量不足が生じるような状況下におけるエンジンの始動不良を、燃費性能の悪化を可及的に抑制しつつ実現し得るようにすることを目的としてなされたものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0012】本願の第1の発明では、駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車において、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時には上記バッテリーの蓄電量に対するエンジンの始動タイミングを早めることを特徴としている。
【0013】本願の第2の発明では、駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車において、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時には上記エンジンの蓄電量に対する上記エンジンの停止タイミングを遅らせることを特徴としている。
【0014】本願の第3の発明では、駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車において、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段と、上記エンジンの駆動を検出するエンジン駆動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出されるとともに、上記エンジン駆動検出手段からの信号により上記エンジンの駆動が検出された時には、該エンジンを高効率運転させて該エンジンの駆動力による車両走行とジェネレータを駆動しての発電による上記バッテリーへの蓄電とを行わせるとともに、上記モータによる車両走行を規制することを特徴としている。
【0015】本願の第4の発明では、上記第3の発明にかかるハイブリッド自動車において、エンジンの駆動力による車両走行とジェネレータを駆動しての蓄電とが行われるとともに上記モータによる車両走行が規制される状態では、上記ジェネレータの発電電流を上記バッテリーを介することなく上記車両用空調装置のコンプレッサに直接供給することを特徴としている。
【0016】本願の第5の発明では、駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車において、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時には、上記エンジンを始動するジェネレータへの供給電流を低下させることを特徴としている。
【0017】
【発明の効果】本願発明ではかかる構成とすることにより次のような効果が得られる。
【0018】(a) 本願の第1の発明にかかるハイブリッド自動車によれば、モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時、即ち、バッテリーへの蓄電作用の低下と過度の電流消費によりバッテリーの蓄電量が不足してジェネレータの駆動力不足が生じる可能性のある状況下においては、上記バッテリーの蓄電量(残量)に対するエンジンの始動タイミングが、上記状態以外の場合よりも早められる。
【0019】この結果、例えばバッテリーの蓄電量に対するエンジン停止タイミングが一定である場合には、その始動タイミングが早められた分だけ全体としての蓄電期間が長くなり、該バッテリーにおいては十分な蓄電量が確保されることになる。従って、例えば渋滞路走行から加速走行に移行する場合の如く上記エンジンを始動して車両駆動力を増大させる必要があるような場合には、該バッテリーからジェネレータへの適正な電流供給によって上記エンジンを確実に始動させることができ、その始動性という面での信頼性が高められることになる。
【0020】(b) 本願の第2の発明にかかるハイブリッド自動車によれば、モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時、即ち、バッテリーへの蓄電作用の低下と過度の電流消費によりバッテリーの蓄電量が不足してジェネレータの駆動力不足が生じる可能性のある状況下においては、上記バッテリーの蓄電量(残量)に対するエンジンの停止タイミングが、上記状態以外の場合よりも遅らせられる。
【0021】この結果、例えばバッテリーの蓄電量に対するエンジン始動タイミングが一定である場合には、その停止タイミングが遅れる分だけ全体としての蓄電期間が長くなり、該バッテリーにおいてはそ十分な電量が確保されることになる。従って、例えば渋滞路走行から加速走行に移行する場合の如く上記エンジンを始動して車両駆動力を増大させる必要があるような場合には、該バッテリーからジェネレータへの適正な電流供給によって上記エンジンを確実に始動させることができ、その始動性という面での信頼性が高められることになる。
【0022】(c) 本願の第3の発明にかかるハイブリッド自動車によれば、モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態で且つ該モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置が作動した状態、即ち、バッテリーへの蓄電作用の低下と過度の電流消費によりバッテリーの蓄電量が不足してジェネレータの駆動力不足が生じる可能性のある状況下において、上記エンジンの駆動が検出された時には、該エンジンを高効率運転させてその駆動力により車両走行を行うとともに上記モータによる車両走行を規制することでバッテリーの蓄電量の減少が抑制されるとともに、低速走行状態であることから上記エンジンの駆動力に余力がありこの余力をジェネレータによる発電に振り向けることで上記バッテリーの蓄電量の増大が図られる。
【0023】このようなバッテリーの蓄電量減少の抑制と該バッテリーへの蓄電の実行とによって、該バッテリーの蓄電量の維持が難しい低速走行状態で且つ空調作動状態であるにも拘わらず、該バッテリーの蓄電量が常時適正に維持される。従って、例えば、蓄電のためのエンジン駆動が停止された後に、渋滞路走行から加速走行に移行し上記エンジンを始動して車両駆動力を増大させるような場合には、該バッテリーからジェネレータに適正な電流供給が行われ、該エンジンを確実に始動させることができるものである。
【0024】(d) 本願の第4の発明にかかるハイブリッド自動車によれば、上記(c)に記載の効果に加えて次のような特有の効果が奏せられる。即ち、この発明のハイブリッド自動車では、エンジンの駆動力による車両走行とジェネレータを駆動しての蓄電とが行われるとともに上記モータによる車両走行が規制される状態では、上記ジェネレータの発電電流を上記バッテリーを介することなく上記車両用空調装置のコンプレッサに直接供給するようにしているので、該コンプレッサへの供給電流は上記バッテリーにおける電圧降下の影響を受けない。この結果、発電電流の有効利用、延いてはエンジン駆動力の有効利用による燃費性能の維持が図れるものである。
【0025】(e) 本願の第5の発明にかかるハイブリッド自動車によれば、モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時、即ち、バッテリーへの蓄電作用の低下と過度の電流消費によりバッテリーの蓄電量が不足してジェネレータの駆動力不足が生じる可能性のある状況下においては、上記エンジンを始動するジェネレータへの供給電流が低下せしめられる。
【0026】この結果、ジェネレータへの供給電流が低下せしめられる分だけ上記バッテリーの蓄電量の減少が抑制されるとともに、該ジェネレータへの供給電流の低下によって上記エンジンの始動は幾分ゆっくりと行われるが、その走行状態が元々、駆動力増大の応答性がさほど要求されない低速走行状態であるので、エンジン始動性という点において問題は生じない。即ち、この発明のハイブリッド自動車によれば、バッテリーの蓄電量不足が生じるような状況下においても、バッテリーの蓄電量の維持とエンジンの始動性の維持との両立が可能となるものである。
【0027】
【発明の実施の形態】以下、本願発明にかかるハイブリッド自動車を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0028】図1には、本願発明にかかるハイブリッド自動車の駆動系システムを示しており、同図において、符号1はエンジン、2は自動変速機ユニット、3は伝動機構13を介して上記エンジン1に連結されたエンジン側モータ、4は駆動側モータ、5はバッテリー、6は電流制御コントローラ、7はコンバータ,8はシステムコントローラである。また、上記自動変速機ユニット2には、トルクコンバータ21とクラッチ23と自動変速機22及びギヤトレイン24が備えられるとともに、該自動変速機ユニット2の上記ギヤトレイン24には車軸14を介して駆動輪となる前輪15,15が連結されるとともに、上記駆動側モータ4がモータ出力軸12を介して連結されている。そして、上記エンジン1は、例えば可変バルブ機構を備え、2000〜3000rpm付近の回転数域において低燃費の高効率運転を行うように構成されている。また、上記エンジン側モータ3は、上記バッテリー5からの電流により駆動されて上記エンジン1のクランキングを行うとともに、特定の走行状態(後述する)では上記伝動機構13を介してその駆動力を上記エンジン1側に走行駆動力として伝達する一方、上記エンジン1により駆動されることで発電して上記バッテリー5を蓄電する。また、上記駆動側モータ4は、上記バッテリー5から供給される電流により駆動される。
【0029】さらに、符号31はブレーキペダルであって、該ブレーキペダル31の変位はブレーキ信号としてブレーキコントローラ33に入力され、該ブレーキコントローラ33からの制御信号により上記前輪15の制動制御が行われる。また、符号32はアクセルペダルであって、該アクセルペダル32の変位はアクセル信号としてアクセルコントローラ34に入力され、該アクセルコントローラ34からの制御信号により上記エンジン1の運転制御が行われる。
【0030】また、符号41は車内の空調と共に、エンジンルーム内に配置された上記駆動側モータ4の冷却をも行うヒートポンプ式の空調装置であり、図示しないモータとこれにより駆動されるコンプレッサとを備えている。また、符号42は車両側の電気機器を制御するビークルシステム、43はパワーステアリングモータ、44はパワーステアリング用オイルポンプ、45はパワートレイン用オイルポンプである。
【0031】上記ハイブリッド自動車は、主駆動源として、上述のように、上記エンジン1と上記駆動側モータ4とを備えるとともに、副駆動源としてジェネレータとしても機能する上記エンジン側モータ3を備え、これら各駆動源を車両の走行状態に応じて選択使用することで低燃費の運転を実現するものである。尚、図1においては、電流の供給経路を黒塗矢印で示している。
【0032】ここで、このハイブリッド自動車の基本制御(マップ制御)を、図3及び図4を参照して説明する。
【0033】図4には、車両の各走行状態毎に、駆動系、即ち、上記エンジン1とエンジン側モータ3と駆動側モータ4及びバッテリー5の作動状態を示している。ここで、走行状態としては、「停車時」と「発進時」と「エンジン起動時」と「定常走行時」と「急加速時」及び「減速時」の6つの状態を設定している。また、上記「発進時」については、さらにこれを「緩発進」と「急発進」とに分けている。さらに、上記「定常走行時」については、これを「低負荷」と「中負荷」と「高負荷」とに分けている。これら各走行状態における駆動系の作動状態は次の通りである。
【0034】A:停車時(図3に■で示す状態)における作動エンジン1は、原則として停止される。但し、停車時であっても、暖機の必要なエンジン冷機時と、蓄電を必要とするバッテリー容量の低下時(即ち、バッテリー5の蓄電量の減少時)とにおいては、例外的に運転される。
【0035】エンジン側モータ3は、原則として停止される。但し、停車時であってもエンジン1が運転されている場合にはこれによって駆動され、発電を行う。
【0036】駆動側モータ4は、例外なく、停止される。
【0037】バッテリー5は、エンジン側モータ3が発電を行っているときには、該エンジン側モータ3からの発電電流を受けて蓄電を行う。
【0038】尚、上記バッテリー5の蓄電の要否は、蓄電量が予め設定した開始基準蓄電量と停止基準蓄電量との比較によって判断され、例えば、蓄電量が開始基準蓄電量まで減少した時点で蓄電要求を出して蓄電を開始する(エンジン1を始動する)とともに、蓄電の進行により蓄電量が停止基準蓄電量にまで達するとその時点で蓄電停止要求を出して蓄電を停止させる(エンジン1を停止させる)のが基本的な制御である。しかし、この実施形態においては、後述するように、特定の走行状態においては、開始基準蓄電量よりも蓄電量が多い時点で蓄電を開始させたり(図2のステップS3を参照)、停止基準蓄電量よりも蓄電量が多い時点で蓄電を停止させたりする(図2のステップS4を参照)ことで、蓄電期間を延長して所要の蓄電量を確保するようにしている。
【0039】B:発進時における作動B−1:緩発進時(図3の■で示す状態)における作動エンジン1は、停止される。
【0040】エンジン側モータ3は、エンジン1の停止に対応して、停止される。
【0041】駆動側モータ4は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によって車両の走行を行う「力行」状態とされる。
【0042】バッテリー5は、上記駆動側モータ4を駆動させるべく該駆動側モータ4へ放電を行う。
【0043】従って、緩発進時には、上記駆動側モータ4の駆動力のみによって車両の走行(発進)が行われる。
【0044】B−2:急発進時(図3の■で示す状態)における作動エンジン1は、起動後、高出力運転される。
【0045】エンジン側モータ3は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によって車両の走行を行う「力行」状態とされる。
【0046】駆動側モータ4は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によって車両の走行を行う「力行」状態とされる。
【0047】バッテリー5は、エンジン側モータ3及び駆動側モータ4を共に駆動させるべくエンジン側モータ3と駆動側モータ4へ放電を行う。
【0048】従って、急発進時には、上記エンジン1とエンジン側モータ3と駆動側モータ4の三者の駆動力の共働により車両の走行(発進)が行われる。
【0049】C:エンジン起動時(図3の■で示す状態)における作動エンジン1は、エンジン側モータ3から駆動力を受けて起動される。
【0050】エンジン側モータ3は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によってエンジン1の起動を行う「力行」状態とされる。
【0051】駆動側モータ4は、停止される。
【0052】バッテリー5は、エンジン側モータ3を駆動させるべく該エンジン側モータ3へ放電を行う。
【0053】尚、上記エンジン1の起動は、上記エンジン側モータ3の駆動力により行われるものであり、該エンジン側モータ3の発生駆動力は、上記バッテリー5から供給される電流値に左右されるが、この実施形態においては、後述するように、特定の走行状態においては敢えてエンジン側モータ3への供給電流を低下させて(図2のステップS7を参照)、上記バッテリー5の蓄電量の減少を抑制するようにしている。
【0054】D:定常走行時における作動D−1:低負荷領域(図3の■で示す状態)での作動エンジン1は、原則として停止される。但し、低負荷時であっても、暖機の必要なエンジン冷機時と、蓄電を必要とするバッテリ容量の低下時とにおいては、例外的に運転される。
【0055】エンジン側モータ3は、原則として停止される。但し、低負荷時であってもエンジン1が運転されている場合にはこれによって駆動され、発電を行う。
【0056】駆動側モータ4は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によって車両の走行を行う「力行」状態とされる。
【0057】バッテリー5は、駆動側モータ4を駆動させるべく該駆動側モータ4へ放電を行うとともに、エンジン側モータ3が発電を行っているときには、該エンジン側モータ3の発電電流を受けて蓄電を行う。
【0058】従って、低負荷での定常走行は、上記駆動側モータ4の駆動力のみによって車両の走行が行われる。
【0059】D−2:中負荷領域(図3の■で示す状態)での作動エンジン1は、高効率運転を行い、その駆動力により車両を走行させる。
【0060】エンジン側モータ3は、エンジン1により駆動され、発電を行う。
【0061】駆動側モータ4は、前輪15側からの駆動力を受けて空回りする無出力状態とされる。
【0062】バッテリー5は、エンジン側モータ3の発電電流を受けて蓄電される。
【0063】従って、中負荷での定常走行は、上記エンジン1の駆動力のみによって車両の走行が行われる。
【0064】D−3:高負荷領域(図3での図示は省略)での作動エンジン1は、高出力運転を行い、その駆動力により車両を走行させる。
【0065】エンジン側モータ3は、エンジン1の駆動力に余裕がある場合にはこれを受けて発電を行い、それ以外の場合においてはバッテリー5からの電流を受けて駆動され、車両の走行を行う力行状態とされる。
【0066】駆動側モータ4は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によって車両の走行を行う「力行」状態とされる。
【0067】バッテリー5は、エンジン側モータ3と駆動側モータ4を駆動させるべくこれらに放電を行う。
【0068】従って、高負荷での定常走行は、上記エンジン1と上記駆動側モータ4の駆動力と、上記エンジン側モータ3が力行状態にある場合にはその駆動力を合算した駆動力で車両の走行が行われる。
【0069】E:急加速時(図3での図示は省略)における作動エンジン1は、高出力運転を行い、その駆動力により車両を走行させる。
【0070】エンジン側モータ3は、バッテリー5からの電流を受けて駆動され、車両の走行を行う力行状態とされる。
【0071】駆動側モータ4は、バッテリー5から供給される電流により駆動され、その駆動力によって車両の走行を行う「力行」状態とされる。
【0072】バッテリー5は、エンジン側モータ3と駆動側モータ4を駆動させるべくこれらに放電を行う。
【0073】従って、急加速時には、上記エンジン1とエンジン側モータ3と駆動側モータ4の三者の駆動力によって車両の走行が行われる。
【0074】F:減速時(図3の■で示す状態)における作動エンジン1は、停止される。
【0075】エンジン側モータ3は、停止される。
【0076】駆動側モータ4は、前輪15側から駆動力を受けて駆動されることで発電を行う回生状態とされる。
【0077】バッテリー5は、駆動側モータ4からの回生電流を受けて蓄電を行う。
【0078】以上のように、車両の走行状態に応じて、駆動源である上記エンジン1とエンジン側モータ3と駆動側モータ4とがそれぞれ選択作動されることで低燃費の運転というハイブリッド自動車の本来的な目的が達成されるものである。
【0079】ところで、このような制御形態をもつハイブリッド自動車に特有の駆動形態によれば、渋滞路走行の如き低速走行状態においてはエンジンに代わってモータのみによる走行が行われ、しかも走行風による各モータ3,4及びバッテリー5の冷却が行われず、これに代わって消費電流の大きいコンプレッサをもつ空調装置41により冷却が行われることから、バッテリー5の蓄電量不足が生じてエンジン1の始動性が損なわれる惧れのあることは既述の通りである。
【0080】そこで、この実施形態のハイブリッド自動車においては、本願発明を適用して、低速走行状態での良好なエンジン始動性を、燃費性能の悪化を極力抑制しつつ実現するようにしている。
【0081】以下、かかる目的を達成するためのハイブリッド自動車の駆動系の制御を、図2に示すフローチャートを参照して具体的に説明する。
【0082】図2のフローチャートにおいて、制御開始後、先ず、ステップS1において、電流消費の多い空調装置41の作動の有無を判定する。ここで、空調装置41が作動していないと判断された場合には、上記バッテリー5の蓄電量不足の事態は起こらないものと判断し、通常のマップ制御(図4の基本制御)を実行する(ステップS8)。
【0083】一方、空調装置41が作動していると判断された場合には、さらにステップS2において、現在車両は渋滞路走行状態であるのか否かを判定する。そして、渋滞路走行ではないと判断される場合には、例え上記空調装置41が作動していても、上記バッテリー5の蓄電量不足の事態は起こらないものと判断し、通常のマップ制御を実行する(ステップS8)。
【0084】これに対して、渋滞路走行であると判断された場合には、上記バッテリー5の蓄電期間を延長して蓄電量の増大を図るべく、ステップS3においては蓄電量に対するエンジン1の始動タイミングを早期側に補正し、またステップS4においては蓄電量に対するエンジン1の停止タイミングを遅れ側に補正すると共に、さらにステップS5においては、上記バッテリー5の蓄電量の減少を抑制すべく、上記エンジン1の始動時における上記エンジン側モータ3(即ち、ジェネレータ)の供給電流を低下させる。
【0085】しかる後、ステップS6において、エンジン1の始動要求の有無を判定する。ここで、始動要求がないと判断された場合には、上記ステップS3〜ステップS5での対応により上記バッテリー5の蓄電量不足の事態は回避可能と判断されるため、そのまま制御をリターンする。
【0086】これに対して、車両駆動力の不足からエンジン1の始動要求が出されたと判断される場合には、燃費性能を良好に維持しつつ、所要の車両駆動力を確保し且つ上記バッテリー5の蓄電量不足を解消すべく、ステップS7の制御が実行される。即ち、先ず、エンジン1の始動に伴い上記駆動側モータ4を停止させて上記バッテリー5の蓄電量の減少を抑制する。また、上記エンジン1を高効率運転し、その駆動力により車両を走行させると共に、渋滞路走行であることから該エンジン1の駆動力に余力があるため、この余力によって上記エンジン側モータ3を駆動しその発電電流を上記バッテリー5に蓄電してその蓄電量の増大を図る。さらに、上記エンジン側モータ3の発電電流をより有効に利用して上記空調装置41の運転を行うことで良好な燃費性能を維持すべく、上記エンジン側モータ3の発電電流を上記バッテリー5を介することなく直接に上記空調装置41のコンプレッサに供給し、該バッテリー5を介することによる電圧降下の影響を排除している。
【0087】以上の制御が低速走行状態において継続的に実行されることで、上記バッテリー5の蓄電量不足の事態が未然に防止され、上記エンジン1の始動性が良好に維持されるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明にかかるハイブリッド自動車の駆動系システム図である。
【図2】図1に示したハイブリッド自動車の制御フローチャートである。
【図3】図1に示したハイブリッド自動車の車速マップである。
【図4】図1に示したハイブリッド自動車における基本制御特性図である。
【符号の説明】
1はエンジン、2は自動変速機ユニット、3はエンジン側モータ(ジェネレータ)、4は駆動側モータ、5はバッテリー、6は電流制御コントローラ、7はコンバータ、8はシステムコントローラ、11はエンジン出力軸、12はモータ出力軸、13は伝動機構、14は車軸、15は前輪、21はトルクコンバータ、22は自動変速機、23はクラッチ、24はギヤトレイン、31はブレーキペダル、32はアクセルペダル、33はブレーキコントローラ、34はアクセルコントローラ、41は空調装置、42はビークルシステム、43はパワーステアリングモータ、44はパワーステアリング用オイルポンプ、45はパワートレイン用オイルポンプである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車であって、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時には上記バッテリーの蓄電量に対する上記エンジンの始動タイミングを早めることを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】 駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車であって、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時には上記バッテリーの蓄電量に対する上記エンジンの停止タイミングを遅らせることを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項3】 駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車であって、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段と、上記エンジンの駆動を検出するエンジン駆動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出されるとともに、上記エンジン駆動検出手段からの信号により上記エンジンの駆動が検出された時には、該エンジンを高効率運転させて該エンジンの駆動力による車両走行とジェネレータを駆動しての発電による上記バッテリーへの蓄電とを行わせるとともに、上記モータによる車両走行を規制することを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項4】 請求項3において、エンジンの駆動力による車両走行とジェネレータを駆動しての蓄電とが行われるとともに上記モータによる車両走行が規制される状態では、上記ジェネレータの発電電流を上記バッテリーを介することなく上記車両用空調装置のコンプレッサに直接供給することを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項5】 駆動源としてエンジンとバッテリーから給電されるモータとを併設し、走行負荷が低い走行領域では上記エンジンを停止させて上記モータのみによって走行駆動するようにしたハイブリッド自動車であって、上記モータによる走行期間が過多となるような低速走行状態を検出する低速走行状態検出手段と、上記モータによってコンプレッサを駆動する車両用空調装置の作動を検出する空調作動検出手段とを備え、上記低速走行状態検出手段と空調作動検出手段からの信号に基づき上記低速走行状態で且つ空調作動状態であることが検出された時には、上記エンジンを始動するジェネレータへの供給電流を低下させることを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2000−50412(P2000−50412A)
【公開日】平成12年2月18日(2000.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−208822
【出願日】平成10年7月24日(1998.7.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】