ハイブリッド車両の制御装置
【課題】エンジントルクの反力を正確に把握できない場合であっても、乗員に違和感を生じさせることなく、変速モードの切り替えが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】回転要素は、エンジンのトルクにより回転する。ロック機構は、回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有する。回転電機は、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転要素にトルクを付与する。切り替え手段は、第1の伝達制御手段による制御から第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、回転電機の回転数が変化したときに、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。
【解決手段】回転要素は、エンジンのトルクにより回転する。ロック機構は、回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有する。回転電機は、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転要素にトルクを付与する。切り替え手段は、第1の伝達制御手段による制御から第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、回転電機の回転数が変化したときに、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、回転要素をロックするロック機構を備え、エンジントルクの反力をロック機構で受け持たせつつ、エンジントルクを駆動軸に伝達させる固定変速比モードと、エンジントルクの反力を回転要素にトルクを付与する回転電機に受け持たせつつ、エンジントルクを駆動軸に伝達させる無段変速モードとを有するハイブリッド車両が開示されている。また、このハイブリッド車両は、固定変速比モード中に回転電機にトルクを発生させ、これによる回転電機の回転数変化と、当該トルクとに基づき、エンジントルクを推定する。また、特許文献2には、停車時に電動機を回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える点が開示されている。さらに、特許文献3には、パーキングギヤを解除する場合、固定磁界制御を実行する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−096284
【特許文献2】特開2008−259328
【特許文献3】特開2008−074133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固定変速比モードから無段変速モードへ切り替える場合、ロック機構の解放中での回転を防ぐため、回転電機のトルクをエンジントルクの反力と釣り合わせることで、ロック機構にかかるトルクをなくし、その後ロック機構を解放することが行われる。しかしながら、エンジントルクの推定に誤差が生じ、実値と異なった場合、ロック機構内のガタに起因した衝突が発生し、異音が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジントルクの反力を正確に把握できない場合であっても、乗員に違和感を生じさせることなく、変速モードの切り替えが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、エンジンと、前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、前記回転電機の回転数が変化したときに、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える切り替え手段と、を備える。
【0007】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、エンジンと、回転要素と、ロック機構と、回転電機と、第1の伝達制御手段と、第2の伝達制御手段と、切り替え手段と、を備える。回転要素は、エンジンのトルクにより回転する。ロック機構は、回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有する。回転電機は、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転要素にトルクを付与する。第1の伝達制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、回転要素をロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第2の伝達制御手段は、例えばECUであり、回転要素を非ロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第1の伝達制御手段は、エンジンの回転数と駆動軸の回転数との比たる変速比が固定される所謂固定変速比モードに対応する。第2の伝達制御手段は、変速比が連続的に可変とされる所謂無段変速モードに対応する。切り替え手段は、例えばECUであり、第1の伝達制御手段による制御から第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、回転電機の回転数が変化したときに、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。
【0008】
このように、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の回転数が変化したタイミングで、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、エンジントルクの反力を正確に把握できなくても回転電機で当該反力を受け持つことができ、ロック機構にかかるトルクをなくすことができる。従って、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の回転数が変化した後、回転電機の回転数が0になるように保ち、ガタに起因した異音の発生を抑制することができる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記固定子の位相を前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずらし、前記固定子の磁界を強くすることで、前記回転電機の回転数を変化させる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界によって発生するトルクの、回転電機内の磁界の位相変化に対する変化勾配を大きくすることができる。従って、ハイブリッド車両の制御装置は、回転子の動く幅を小さくすることができ、乗員に違和感が生じるのを抑制することができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記回転子の回転加速度に基づき、固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを決定する。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定子の磁界の強さをエンジントルクの反力に応じて適切に定め、回転子の動く幅を小さくすることができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記切り替え手段は、前記制御モードを固定磁界制御に切り替えた後、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、ロック機構の遷移中にロック機構にトルクがかかるのを抑制しつつ、第2の伝達制御手段による制御へ移行することができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の観点では、エンジンと、前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える場合において、前記回転電機が付与するトルクと前記エンジンのトルクの反力を釣り合わせるとき、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替え、かつ、前記固定子の位相を、前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずれた位相から、前記回転子に最大のトルクがかかる位相へ遷移させる切り替え手段と、を備える。
【0013】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、エンジンと、回転要素と、ロック機構と、回転電機と、第1の伝達制御手段と、第2の伝達制御手段と、切り替え手段と、を備える。回転要素は、エンジンのトルクにより回転する。ロック機構は、回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有する。回転電機は、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転要素にトルクを付与する。第1の伝達制御手段は、例えばECUであり、回転要素をロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第2の伝達制御手段は、例えばECUであり、回転要素を非ロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を回転電機に受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。切り替え手段は、例えばECUであり、第1の伝達制御手段による制御から第2の伝達制御手段による制御へ切り替える場合に、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替え、かつ、固定子の位相を、回転子に最大のトルクがかかる位相からずれた位相から、回転子に最大のトルクがかかる位相へ遷移させることで、回転電機が付与するトルクとエンジンのトルクの反力を釣り合わせる。
【0014】
このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界によって発生するトルクの、回転電機内の磁界の位相変化に対する変化勾配を大きくし、回転子の動く幅を小さくすることができる。また、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、エンジントルクの反力を正確に把握できなくても回転電機で当該反力を受け持つことができ、ロック機構にかかるトルクをなくすことができる。また、ハイブリッド車両の制御装置は、固定子の位相を変化させることによって、回転電機が付与するトルクとエンジンのトルクの反力を釣り合わせるため、制御性及び応答性を高めることができる。
【0015】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記切り替え手段は、前記回転電機の回転数が変化したとき、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、ロック機構の遷移中にロック機構にトルクがかかるのを抑制しつつ、第2の伝達制御手段による制御へ移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の各実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】(a)ロック機構の一断面構成を例示する模式断面図、(b)矢線A方向にロック機構を見た模式的な断面図を示す。
【図4】(a)無段変速モードの場合の動作共線図を示す。(b)固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。
【図5】ロック機構のロック作用によりサンギヤが解放状態からロック状態に状態遷移する過程を説明する模式的な断面図である。
【図6】第1実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図7】(a)期間tw1の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロック機構の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図8】(a)時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)時刻t2でのロック機構の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図9】(a)期間tw2の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロック機構の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図10】第1実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図11】比較例の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図12】比較例における、負回転方向のトルクに基づきガタが消滅してロック機構内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。
【図13】比較例における、正回転方向のトルクに基づきガタが消滅してロック機構内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。
【図14】第2実施形態におけるロータ磁石位相及びMG1トルクのタイムチャートの一例を示す。
【図15】(a)第2実施形態において、期間tw2の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロック機構の位置関係及びMG1トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図16】第2実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図17】第3実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図18】(a)第3実施形態において、時刻tw1の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図19】(a)第3実施形態において、時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図20】(a)回転磁界制御から固定磁界制御への切り替え前後でのロータ磁石位相の移動幅を示す図である。(b)エンジン反力トルクの変化に対応するロータ磁石位相の移動幅を示す図である。
【図21】第3実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図22】第4実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図23】(a)第4実施形態において、期間tw1の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図24】(a)第4実施形態において、時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図25】第4実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0018】
[構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0019】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「第1の伝達制御手段」、「第2の伝達制御手段」、及び「切り替え手段」として機能する。なお、本発明に係る各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0020】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0021】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0022】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0023】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0024】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0025】
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0026】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸400、ロック機構500、MG2リダクション機構600及び減速機構700を備える。
【0027】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸400に連結されている。ここで、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。
【0028】
モータMG1は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。モータMG1は、本発明における「回転電機」の一例である。
【0029】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備える。
【0030】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。以後では、モータMG1のロータを「ロータRO」と呼び、モータMG1のステータを「ステータST」と呼ぶ。ロータROは、本発明の「回転子」の一例であり、ステータSTは、本発明の「固定子」の一例である。
【0031】
動力分割機構300は、遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられたリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC1とを備える。
【0032】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータROに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。サンギヤS1は、本発明における「回転要素」の一例である。また、リングギヤR1は、減速機構700及びMG2リダクション機構600の後述するリングギヤR2に連結されており、その回転数は、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。更に、キャリアC1は、エンジン200のクランク軸に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。
【0033】
MG2リダクション機構600は、動力分割機構300と同様の遊星歯車機構である。MG2リダクション機構600は、中心部に設けられたサンギヤS2と、サンギヤS2の外周に同心円状に設けられたリングギヤR2と、サンギヤS2とリングギヤR2との間に配置されてサンギヤS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC2とを備える。また、サンギヤS2には、モータMG2のロータが連結される。
【0034】
ここで、MG2リダクション機構600のリングギヤR2は、先に述べたように動力分割機構300のリングギヤR1と連結され、車軸と一義的な回転状態を呈する。また、キャリアC2は、固定要素により回転不能に固定されている。従って、残余の一回転要素たるサンギヤS2に固定されたモータMG2には、駆動軸OUTの回転がMG2リダクション機構600を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形で伝達される。このように、MG2リダクション機構600は、減速ギヤ機構として機能する。そして、MG2リダクション機構600と動力分割機構300とによって規定される複合型遊星歯車機構は、回転二自由度の差動機構である。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。
【0035】
減速機構700は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤ(符号省略)と、デファレンシャル(符号省略)とを含むギヤ機構である。各車軸の回転数は、減速機構700により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。この駆動軸OUTには、先に述べたようにリングギヤR1及びリングギヤR2が連結されており、各リングギヤが、車速Vと一義的な回転状態を呈する構造となっている。
【0036】
尚、モータMG2は、モータMG1及びエンジン200と異なり、駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも可能であり、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0037】
ハイブリッド駆動装置10は、図示破線枠A1及びA2に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。これら回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された回転数(回転角速度)は、夫々ECU100に対し一定又は不定の周期で送出されている。補足すると、図示破線枠A1に相当する部位の回転数とは、MG2回転数Nmg2であり、図示破線枠A2に相当する部位の回転数とは、MG1回転数Nmg1である。
【0038】
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構300は、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比「P」を定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤS1に作用するトルク「Tes」は下記(1)式により、また駆動軸OUTに現れるトルク(以後、「エンジン直達トルクTer」と呼ぶ。)は下記(2)式により、夫々表される。
【0039】
Tes=−Te×P/(1+P)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+P)・・・(2)
ロック機構500は、サンギヤS1の状態を、回転不能な状態にロックするロック状態と、サンギヤS1を回転可能な状態に解放する非ロック(解放)状態と、の間で選択的に切り替え可能に構成された係合装置である。言い換えると、ロック機構500は、係合状態の場合に、サンギヤS1をロック状態に保ち、解放状態の場合に、サンギヤS1を非ロック状態に保つ。ここで、サンギヤS1は、既に述べた通りモータMG1に連結されており、サンギヤS1がロック状態にある場合、モータMG1もまた回転不能なロック状態となる。
【0040】
ここで、図3を参照し、ロック機構500の詳細な構成について説明する。図3(a)は、ロック機構500の一断面構成を例示する模式断面図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0041】
図3(a)において、ロック機構500は、カム510、クラッチ板520、アクチュエータ530、リターンスプリング540及びカムボール550を備える。
【0042】
カム510は、サンギヤ軸310に連結され、サンギヤ軸310と一体に回転可能な、クラッチ板520と一対をなす略円板状の係合部材である。尚、カム510は、必ずしもサンギヤ310と直接的に連結されている必要はなく、各種連結部材を介してサンギヤ310と間接的に連結されていてもよい。
【0043】
クラッチ板520は、磁性金属材料により構成されると共にカム510と対向配置されてなる、カム510と一対をなす円板状の係合部材である。
【0044】
アクチュエータ530は、吸引部531、電磁石532及び摩擦部533を有する。吸引部531は、磁性金属材料により構成されると共に電磁石532を収容可能なアクチュエータ530の筐体である。吸引部531は、ハイブリッド駆動装置10の外郭部材と略一体に固定されたケースCSに対し固定されている。
【0045】
電磁石532は、バッテリ12からの電力供給を受けた不図示の駆動部から所定の励磁電流(以後、「ロック制御電流Ir」と呼ぶ。)が供給された励磁状態において磁力を発生可能な磁石である。励磁状態において電磁石532から発せられる磁力は、磁性金属材料により構成された吸引部531を介して、先述したクラッチ板520を吸引する。即ち、クラッチ板520に対しクラッチ板520を吸引する方向へ駆動力たる電磁力を付与する。尚、この駆動部は、ECU100と電気的に接続されており、電磁石532の励磁動作は、ECU100により上位に制御される。
【0046】
摩擦部533は、吸引部531におけるクラッチ板520との対向面に形成された摩擦機能体であり、形成されない場合と較べて、接触状態にある物体の移動をより大きく阻害し得るようにその摩擦係数が設定されている。
【0047】
リターンスプリング540は、一方の固定端がクラッチ板520に固定され、他方の固定端がカム510に固定された弾性体であり、クラッチ板520をカム510の方向へ付勢している。このため、クラッチ板520は、通常、このリターンスプリング540の付勢を受けて、所定の対向間隔GAPを隔てて吸引部531と対向する非接触位置(以後、「非接触位置Pn」と呼ぶ。)で停止している。
【0048】
カムボール550は、カム510の係合面511とクラッチ板520の係合面521とに挟持された球状物体である。ロック機構500は、サンギヤS1及びサンギヤ軸310を介してカム510に伝達されるMG1トルクTmg1が、このカムボール550を伝達要素としてクラッチ板520に伝達される。
【0049】
図3(b)は、図3(a)において矢線A方向にロック機構500を見た模式的な断面図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0050】
図3(b)において、カム510及びクラッチ板520の各々における対向面は、夫々中心部へ向かう程、当該各々における、サンギヤ軸310の伸長方向への厚みが小さくなるように形成されており、上記カムボール550は、通常、両者間の対向空間が最も広い中心部付近に挟持されている。このため、クラッチ板520が非接触位置Pnにある場合、カム510とクラッチ板520とは、このカムボール550をトルクの伝達要素として、モータMG1の回転方向と等しい方向へ略一体に回転する。従って、クラッチ板520が非接触位置Pnにある場合、モータMG1の回転は、少なくとも実質的には何ら阻害されない。尚、図3(b)では、図示下方がモータMG1の正回転方向と定義されるが、モータMG1は、係る正回転方向のみならず、係る正回転方向と真逆の負回転方向(図示省略)にも同様に回転可能である。
【0051】
なお、ロック機構500は、図3に示す電磁カムロック式の係合装置に限定されない。これに代えて、ロック機構500は、例えば、一対の係合要素の各々に形成された歯状部材を相互に噛合させることにより係合要素同士を係合させる電磁ドグクラッチ等の噛合式係合装置であってもよい。他の例では、ロック機構500は、不図示の油圧制御機構により供給される制御油圧に応じて相互に係合及び解放可能に構成された複数の係合要素を備えた湿式多板型ブレーキ装置であってもよい。
【0052】
[基本制御]
以下では、ECU100が各実施形態で共通して実行する制御方法について具体的に説明する。
【0053】
(各変速モードでの基本制御)
ハイブリッド車両1は、ロック対象となる動力分割機構300のサンギヤS1の状態に応じて、固定変速比モード及び無段変速モードを選択可能である。以下、各変速モードでの基本的な制御について説明する。
【0054】
図4(a)、(b)は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。具体的には、図4(a)は、無段変速モードの場合の動作共線図を示す。また、図4(b)は、固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0055】
図4(a)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギヤS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータMG2(一義的に駆動軸OUT)を表す。
【0056】
ここで、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1のうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。
【0057】
図4(a)において、車速V及び出力回転数Noutと一義的な関係にあるモータMG2の動作点が動作点「m1」であるとする。この場合、モータMG1の動作点が動作点「g1」であれば、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点「e1」となる。この際、ECU100は、出力回転数Noutを維持したままモータMG1の動作点を動作点「g2」及び動作点「g3」に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々動作点「e2」及び動作点「e3」へと変化する。
【0058】
即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を回転数制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。このように、無段変速モードでは、動力分割機構300は、一種のCVT(Continuously Variable Transmisson:無段変速装置)として機能する。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(以後、「エンジン動作点」と呼ぶ。)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)に制御される。なお、この場合のエンジン動作点とは、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する。
【0059】
ここで、無段変速モードでは、MG1回転数Nmg1は可変である必要がある。このため、ECU100は、無段変速モードを選択する場合、ロック機構500を、サンギヤS1が解放状態となるように制御する。
【0060】
また、駆動軸OUTにエンジン直達トルクTerを供給するため、ECU100は、エンジントルクTeに応じてサンギヤS1の回転軸であるサンギヤ軸310に現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符号が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクを、モータMG1からこのサンギヤ軸310に供給する。この場合、動作点g1或いは動作点g2といった正回転領域の動作点で、モータMG1は正回転負トルクの電力回生状態(即ち、発電状態)となる。このように、ECU100は、無段変速モードでは、モータMG1を反力要素として機能させることにより、駆動軸OUTにエンジントルクTeの一部を供給しつつ、サンギヤ軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で電力回生(発電)を行う。駆動軸OUTに対し要求されるトルクがエンジン直達トルクTerで不足する場合、ECU100は、この回生電力を利用する形で、或いは適宜バッテリ12から電力を持ち出して、モータMG2から駆動軸OUTに対し適宜アシストトルクとしてのMG2トルクTmg2を供給する。
【0061】
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えば出力回転数Noutが高い割にエンジン回転数Neが低く済むような運転条件では、モータMG1が、例えば動作点g3の如き負回転領域の動作点となる。モータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しているから、この場合、モータMG1は、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータMG1の入出力トルクであるMG1トルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸OUTに伝達される。他方、ECU100は、エンジン直達トルクTerとMG2トルクTmg2との総和がドライバの要求するトルクに合致するように、エンジン200、モータMG1及びモータMG2が相互に協調的に制御する。従って、このようにモータMG1が力行状態に陥った場合、モータMG2は、駆動軸OUTに供給される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータMG2は、正回転負トルクの状態となって電力回生状態となる。このような状態においては、モータMG1からの駆動力をモータMG2での電力回生に利用し、この回生電力によりモータMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
【0062】
そこで、ECU100は、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構500によりサンギヤS1をロック状態に制御する。その様子が図4(b)に示される。ロック機構500によりサンギヤS1がロック状態に移行すると、モータMG1の動作点は、回転数「0」に対応する図示動作点「g4」に固定される。
【0063】
この場合、出力回転数Noutとこの0回転とにより、残余のエンジン回転数Neは一義的に固定され、その動作点は図示動作点「e4」となる。即ち、サンギヤS1がロックされた場合、エンジン回転数Neは、車速Vと一義的なMG2回転数Nmg2により一義的に決定される。即ち、この場合、変速比が一定となる。この状態に対応する変速モードが固定変速比モードである。
【0064】
固定変速比モードでは、ECU100は、本来モータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクを、ロック機構500の物理的な係合力により代替させる。即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を電力回生状態にも力行状態にも制御する必要がないため、モータMG1を停止させる。従って、基本的には、モータMG2を稼動させる必要もなくなり、モータMG2は、言わば空転状態となる。結局、固定変速比モードでは、駆動軸OUTに現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸OUT側に分割された直達トルクTerのみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
【0065】
尚、固定変速比モードにおいて、ECU100は、モータMG2を必ずしも停止させる必要はない。例えば、ハイブリッド車両1には、各種の電装補器類が備わっており、それら電装補器類の駆動には然るべき駆動電力が必要となる。モータMG2は、この駆動電力に対応する電力をバッテリ12に供給するために、小規模の電力回生を行ってもよい。この場合、ECU100は、エンジントルクTeの直達成分がハイブリッド車両1を走行させるために要求されるトルクに対し余剰となるようにエンジントルクTeを制御し、余剰分のトルクをモータMG2で回生させる。また、ECU100は、エンジン直達トルクTerのみでは駆動トルクが不足する場合、モータMG2を力行駆動させ、MG2トルクTmg2によって駆動トルクを適宜アシストする。
【0066】
(ロック機構の制御)
ECU100は、ロック制御電流Irを制御することで、ロック機構500を係合状態と解放状態との間で選択的に切り替える。具体的には、ECU100は、ロック制御電流Irを大きくすることで、ロック機構500を係合状態へ移行させ、ロック制御電流Irを小さくすることで、ロック機構500を解放状態に移行させる。
【0067】
ここで、図5を参照して、ロック機構500によるサンギヤS1のロック作用について説明する。ここに、図5は、ロック機構500のロック作用によりサンギヤS1が解放状態からロック状態に状態遷移する過程を説明する模式的な断面図である。尚、同図において、図2又は図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0068】
図5(a)は、先の図3と同様の状態を表しており、クラッチ板520と摩擦部533との間に対向空間GAPが介在する。この場合、クラッチ板520は、摩擦部533による抑止力の影響を受けることなく回転可能である。このため、カムボール550の作用によりカム510とクラッチ板520とは略一体に回転可能である。ここで、カム510は、サンギヤ軸310を介してモータMG1のロータに連結されており、このロータは、サンギヤ軸310を介してサンギヤS1に連結されている。従って、ハイブリッド駆動装置10において、カム510は、サンギヤS1と一体に回転する回転要素として扱うことができる。即ち、図5(a)に示される状態では、サンギヤS1もまたクラッチ板520の制約を受けずに回転可能である。この状態は、本発明に係る「非ロック状態」の一例に相当する。
【0069】
図5(b)は、アクチュエータ530の電磁石532にロック制御電流Irが所定の基準値(以後、「基準値Irth」と呼ぶ。)だけ供給された状態を示す。基準値Irthは、例えばエンジントルクTeに基づき所定のマップ等を参照して定められ、ECU100のメモリに記憶される。電磁石532にロック制御電流Irが供給された場合、ロック制御電流Irに基づき電磁石532から発せられる電磁力が吸引部531を介してクラッチ板520に及ぶ。そして、クラッチ板520は、リターンスプリング540の付勢に打ち勝って図5(a)に示される非接触位置Pnと対極の図5(b)に示される接触位置(以後、「接触位置Pt」と呼ぶ。)まで移動し、吸引部531に吸着される。その結果、対向空間GAPは消滅する。また、励磁による電磁石の供給と共に、摩擦部533がクラッチ板520に対し摩擦力を発揮する形となり、クラッチ板520の正回転又は負回転方向への動作が阻害される。即ち、この状態において、クラッチ板520は、電磁石532と摩擦部533とにより、その動作が阻害され、アクチュエータ530に対し、即ちケースCSに対して静止する。
【0070】
一方、このようにクラッチ板520が吸引部531に吸着された状態では、消滅した対向空間GAPの代わりに、カムボール550とクラッチ板520との間に、回転方向に沿ったガタ「GT」が形成される。従って、カム510がモータMG1の回転の影響を受けて正回転方向又は負回転方向へ回転すると、カム510とカムボール550のみが、その回転方向へ移動する。尚、ここでは、これらが正回転方向へ移動するものとして説明を継続する。ここで、新たに形成されたガタGTは、先に述べたように断面視逆テーパ状となっており、カムボール550が回転方向に進行するにつれて徐々に詰められ、遂にはガタGTが消滅した状態(以後、「ガタ詰め完了状態」と呼ぶ。)となる。ガタ詰め完了状態においては、再びカム510、カムボール550及びクラッチ板520が相互に接触する。
【0071】
図5(c)は、ガタ詰め完了状態を示す図である。このガタ詰め完了状態でカム510が正回転方向に回転しようとした場合、この逆テーパ形状の対向面の作用によって、カムボール550には、クラッチ板520を更にアクチュエータ530の方向へ押圧する押圧力が発生する。その結果、カム510に対し正回転方向への正トルクが加わっている限り、ECU100が電磁石532への励磁を停止しても三者の接触状態が変化しない。そして、この場合、カム510は、当該押圧力と摩擦部533から与えられる摩擦力とによって所謂セルフロック状態となる。
【0072】
このセルフロック状態では、カム510もまたクラッチ板520と同様にケースCSに対し静止、即ち固定された状態となる。その結果、カム510と一体に回転するサンギヤS1もまたケースCSに対し固定された状態となる。この状態がロック状態である。ロック状態では、サンギヤS1の回転数、即ちMG1回転数Nmg1が「0」となる。
【0073】
尚、ここでは、ロック機構500は、上記セルフロック作用を有するものとしたが、カム510及びクラッチ板520における対向面の各々の形状等を調整することにより、この種のセルフロック作用を有さぬ構成とすることもできる。その場合、電磁石532への励磁が停止されると、リターンスプリング540の作用により、クラッチ板520は元の非接触位置Pnへと復帰する。
【0074】
[ロック機構の解放時の制御]
次に、ロック機構500を係合状態から解放状態に遷移させる場合、即ち、変速モードを固定比変速モードから無段変速モードに切り替える場合にECU100が実行する制御について説明する。
【0075】
なお、以後では、「回転磁界制御」とは、ステータSTの回転磁界によってロータROが回転駆動されるようにモータMG1を制御することを指し、「固定磁界制御」とは、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転が制限されるようにモータMG1を制御することを指す。
【0076】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係るECU100の制御について説明する。概略的には、第1実施形態では、ECU100は、まず、変速モードを固定比変速モードから無段変速モードに切り替えるべきと判断した場合、MG1トルクTmg1を、エンジン200の反力トルクに相当するトルクTes(「エンジン反力トルクTes」とも呼ぶ。)と釣り合わせる。次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が変化したタイミングで、モータMG1の制御を回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替え、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる。そして、ECU100は、ロック機構500が解放状態に遷移した後、再び固定磁界制御から回転磁界制御へモータMG1の制御を切り替え、無段変速モードを開始する。これにより、ECU100は、エンジン200の反力を正確に把握できなくても、モータMG1で当該反力を受け持ち、異音やショックの発生を抑制する。
【0077】
1.タイムチャート
図6は、第1実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。図6のグラフ「A1」乃至「A6」は、順に、MG1トルクTmg1の時間変化、MG1回転数Nmg1の時間変化、ロータROの永久磁石の位相を示す「ロータ磁石位相Tpr」の時間変化、ロック機構500が保持するトルクを示す「ロック機構トルクTh」の時間変化、非接触位置Pn及び接触位置Ptを結ぶ方向でのクラッチ板520の変位を示す「ストローク量Lr」の時間変化、及びモータMG1の磁界の制御モードを示す「モータ制御モード」の時間変化を示している。ここで、ロック機構トルクThは、具体的には、エンジン反力トルクTesとMG1トルクTmg1との差分に相当する。なお、図6のMG1トルクTmg1の破線グラフ「A7」は、固定磁界制御でモータMG1に所定の大きさの電流を印加した場合でのMG1トルクTmg1の最大値(「磁界最大トルクTmax」とも呼ぶ。)を指す。また、「ロック時停止位相」とは、ロック機構500が係合状態の場合に対応するロータ磁石位相Tprを指す。さらに、「CVT目標回転数Nmcv」とは、無段変速モードでのMG1回転数Nmg1の目標回転数を指す。
【0078】
まず、時刻「t1」において、ECU100は、変速モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきと判断する。そして、時刻t1以後では、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesと釣り合うように変更する(グラフA1参照)。これにより、ロック機構トルクThは、0Nmに向かって変化する(グラフA4参照)。そして、時刻「t1a」で、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesと同じ大きさとなり(グラフA1参照)、時刻t1a以後、MG1回転数Nmg1が「0rpm」の状態から負値に変化すると共に、ロータ磁石位相Tprがロック時停止位相から負回転方向へ変化する(グラフA2、A3参照)。
【0079】
そして、時刻「t2」で、ECU100は、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprが変化したことを、レゾルバ等の回転センサで検出する。そして、ECU100は、時刻t2以後、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える(グラフA6参照)。これにより、時刻t2以後では、ステータSTの磁界の向きが固定され、ロータROの回転が制限される。
【0080】
そして、ECU100は、時刻t2から時刻「t3」にかけて、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる(グラフA5参照)。なお、時刻t2から時刻t3にかけてエンジン反力トルクTesが変化した場合であっても、固定磁界制御により、MG1トルクTmg1は、エンジン反力トルクTesとの釣り合いを保つ。従って、この場合でも、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprは緩やか且つ小幅に変化し(グラフA2、A3参照)、ガタGTが急激に埋まることに起因したロック機構500内の衝突が抑制される。
【0081】
次に、ロック機構500の係合状態から解放状態への移行が完了した時刻t3で、ECU100は、モータ制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える(グラフA5、A6参照)。そして、ECU100は、時刻t3以後、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvになるように、MG1トルクTmg1を制御する(グラフA1、A2参照)。そして、時刻「t4」において、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvになり、固定変速比モードから無段変速モードへの変速モードの移行が完了する。
【0082】
次に、時刻t2の前後にわたるそれぞれのモータMG1及びロック機構500の状態について、図7乃至図10を参照して説明する。
【0083】
まず、時刻t1から時刻t2より前までの期間「tw1」でのモータMG1及びロック機構500の状態について図7(a)乃至(c)を用いて説明する。
【0084】
図7(a)は、期間tw1の一時点でのステータSTの磁極(「ステータ磁極Lst」とも呼ぶ。)とロータROの永久磁石(「ロータ磁石Lro」とも呼ぶ。)との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図7(b)は、ロック機構500の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図7(c)は、各ロータ磁石位相TprにおいてモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P1」は、図7(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0085】
上述したように、期間tw1では、ECU100は、回転磁界制御を実行しつつ、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesに近づける。従って、この期間では、図7(a)及び図7(b)に示すように、矢印「Y3」に示される正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが、矢印「Y2」に示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも大きくなる。そして、その差分に相当するロック機構トルクThが、矢印「Y1」に示すように負回転方向に作用する。ここで、ロック機構トルクThの大きさは、図7(c)に示す両矢印「Y4」の幅、即ち動作点P1のトルクとエンジン反力トルクTesとの差分に相当する。このように、期間tw1では、モータMG1を回転させるトルクがないため、MG1回転数Nmg1は「0」となる。
【0086】
次に、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える直前に相当する時刻t2でのモータMG1及びロック機構500の状態について図8(a)乃至(c)を用いて説明する。
【0087】
図8(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図8(b)は、時刻t2でのロック機構500の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図8(c)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P2」は、図8(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0088】
時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなるため、矢印「Y5」に示される負回転方向のトルクにより、矢印「Y6」に示されるようにロータROが負回転方向に回転する。そして、ロータROの回転と共に、ステータ磁極Lstも回転する。ここで、矢印Y5に相当するトルクは、図8(c)の矢印「Y7」が示す幅、即ち動作点P2のトルクとエンジン反力トルクTesとの差分である。
【0089】
次に、固定磁界制御を行う時刻t2以後時刻t3までの期間「tw2」でのモータMG1及びロック機構500の状態について図9(a)乃至(c)を用いて説明する。
【0090】
図9(a)は、期間tw2の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図9(b)は、ロック機構500の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図9(c)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P3」は、ロータ磁石位相Tprがエンジン反力トルクTesとMG1トルクTmg1とが釣り合う位相(以後、「釣り合い位相Tpe」とも呼ぶ。)の場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0091】
時刻t2以後では、ECU100は、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替えることにより、ステータ磁界Lstを固定する。これにより、図9(c)に示すように、ロータ磁石位相Tprは、徐々に釣り合い位相Tpeに移動する。これに合わせて、MG1トルクTmg1は、矢印「Y8」に示される挙動をし、釣り合い位相Tpeに対応する動作点P3へ収束する。従って、この場合、図9(a)に示すように、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesと負回転方向に作用するMG1トルクTmg1とが釣り合い、ロータROの回転が停止する。
【0092】
2.処理フロー
次に、第1実施形態の処理手順について図10を参照して説明する。図10は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図10に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0093】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定する(ステップS101)。そして、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS101;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS102;Yes)、ステップS103以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS101;No)、及び、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS102;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0094】
次に、ステップS103乃至S111までの処理について説明する。まず、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに釣り合うように変更する(ステップS103)。言い換えると、ECU100は、モータMG1に印加する電流(「MG1電流Img1」とも呼ぶ。)を徐々に大きくすることで、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を徐々に大きくする。
【0095】
そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定する(ステップS104)。即ち、ECU100は、MG1回転数Nmg1が変化したか否か判定する。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS104;Yes)、固定磁界制御に切り替える(ステップS105)。そして、ECU100は、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS106)。即ち、ECU100は、クラッチ板520の接触位置Ptから非接触位置Pnへの移行を開始する。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS104;No)、引き続きステップS103でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0096】
次に、ECU100は、ロック機構500を解放状態へ移行する間、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS107)。言い換えると、ECU100は、磁界最大トルクTmaxがエンジン反力トルクTesの大きさを下回らないようにMG1電流Img1をモータMG1に印加する。この具体例について説明する。まず、ECU100は、車速V及びアクセル開度Taに基づき、所定のマップ等を参照し、運転者の操作に基づく要求パワー(ドライバ要求パワー)を求める。また、ECU100は、エンジン200の出力パワーを、車速Vによって決まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びドライバ要求パワーにより求める。そして、ECU100は、エンジントルクTeを、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びエンジン200の出力パワーにより求める。そして、ECU100は、必要な固定磁界の強さを、上述のエンジントルクTeにより求め、当該固定磁界の強さに基づき、MG1電流Img1を定める。このとき、好適には、ECU100は、推定したエンジン反力トルクTesの誤差を考慮し、MG1電流Img1に余裕分を加える。具体的には、ECU100は、当該誤差が生じた場合であっても、エンジン反力トルクTesの大きさよりも、磁界最大トルクTmaxが下回らないようにMG1電流Img1を定める。
【0097】
そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定する(ステップS108)。そして、ECU100は、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS108;Yes)、ステップS109へ処理を進める。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS108;No)、引き続きステップS107でMG1電流Img1を調整する。
【0098】
次に、ECU100は、ロック機構500が解放状態になった場合、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS109)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS110)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvになった場合(ステップS111;Yes)、フローチャートの処理を終了する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvではない場合(ステップS111;No)、引き続きステップS110でMG1トルクTmg1を調整する。
【0099】
3.効果
次に、第1実施形態の効果について、比較例を参照して説明する。
【0100】
図11は、比較例の処理概要を示すタイムチャートの一例である。図11は、上から順に、MG1トルクTmg1の時間変化、MG1回転数Nmg1の時間変化、ロータ磁石位相Tprの時間変化、ロック機構トルクThの時間変化、及びストローク量Lrの時間変化を示す。
【0101】
まず、時刻t1において、ECU100は、固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきであると判断する。そして、第1実施形態と同様、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesと釣り合うように変更する(グラフB1参照)。
【0102】
そして、時刻t2において、ECU100は、ロータ磁石位相Tpr及びMG1回転数Nmg1が変化したことを検出し(グラフB2、B3参照)、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる(グラフB5参照)。そして、時刻t2以後、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに合わせて保持する。ここで、エンジン反力トルクTesの推定誤差やMG1トルクTmg1の出力の遅れなどに起因して、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesと負回転方向に作用するMG1トルクTmg1とには、トルク差が生じる。これにより、ロック機構500が解放状態への遷移中に、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprが変化する(グラフB2、B3参照)。これにより、後述するように、比較例では、ガタGTが急激に埋まり、ショックや異音が発生する。これについては、図12及び図13でさらに場合分けして詳しく説明する。
【0103】
そして、ロック機構500の解放状態への移行が完了する時刻t3以後では、ECU100は、第1実施形態と同様、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を制御する(グラフB1、B2参照)。
【0104】
図12は、比較例における、負回転方向に作用するトルクに基づきガタGTが消滅してロック機構500内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。まず、時刻t2で、ECU100は、ロータ磁石位相Tpr及びMG1回転数Nmg1が変化したことを検出し、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる。そして、時刻t2以後、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに合わせて保持する。しかし、エンジン反力トルクTesの推定誤差などに起因して、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が大きくなる。
【0105】
従って、この場合、ロータROの回転、即ちMG1回転数Nmg1が負回転方向に加速し、時刻「t2a」で、ガタGTが急激に埋まり、ロック機構500内で衝突が発生する。そして、時刻t2aでは、モータMG1の回転が急停止すると共に、ロック機構トルクThが急激に上下する。これにより、ショックや異音が発生する。そして、時刻t3でロック機構500の解放状態への移行が完了する。
【0106】
図13は、比較例における、正回転方向に作用するトルクに基づきガタGTが消滅してロック機構500内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。
【0107】
まず、時刻t2で、ECU100は、ロータ磁石位相Tpr及びMG1回転数Nmg1が変化したことを検出し、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる。
【0108】
そして、時刻t2以後、ECU100は、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも大きいと判断し、当該MG1トルクTmg1を小さくする。しかしながら、エンジン反力トルクTesの推定誤差等に起因して、今度は、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが大きくなる。
【0109】
これにより、時刻t2以後では、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprは、一旦負回転方向に変化した後、正回転方向への変化に転じる。その結果、時刻「t2b」において、ロック機構500内で衝突が発生する。そして、時刻t2bでは、モータMG1の回転が急停止すると共に、ロック機構トルクThが急激に上下する。これにより、ショックや異音が発生する。そして、時刻t3でロック機構500の解放状態への移行が完了する。
【0110】
以上を勘案し、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が変化し始めた時刻t2でモータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。これにより、ECU100は、エンジン反力トルクTesを正確に把握できなくても、モータMG1でエンジン200の反力を受け持つことができ、ロック機構500にかかるトルクをなくすことができる。従って、ECU100は、ガタGTが急激に消滅することに起因したショックや異音の発生を低減することができる。
【0111】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に加えて、ECU100は、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える際、ステータSTの磁界の強さ(「ステータ磁界強度Hst」とも呼ぶ。)を、当該切り替え判定時のステータ磁界強度Hstと、ロータROの回転加速度と、に基づき定める。これにより、ECU100は、固定磁界制御への切り替え後のロータ磁石位相Tprの動く幅を小さくし、早期に釣り合い位相Tpeに収束させる。
【0112】
以後では、前の説明と同様の部分については適宜同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。第3実施形態及び第4実施形態でも同様とする。
【0113】
1.タイムチャート
まず、図14のタイムチャートを参照し、第2実施形態の処理の詳細について説明する。図14は、第2実施形態におけるロータ磁石位相Tpr及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。
【0114】
まず、時刻t2では、第1実施形態で説明した図8と同様、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなるため、ロータROが負回転方向に回転する。
【0115】
次に、時刻t2以後の期間tw2でのモータMG1及びロック機構500の状態について図15(a)乃至(c)を参照して説明する。
【0116】
図15(a)は、期間tw2の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図15(b)は、ロック機構500の位置関係及びMG1トルクTmg1の方向を示した図である。図15(c)は、ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。なお、図15(c)において、破線のグラフは、第1実施形態の場合、即ちモータ制御モードの切り替え前後でステータ磁界強度Hstを変更しない場合のMG1トルクTmg1のグラフを示し、実線のグラフは、第2実施形態において固定磁界で発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。また、動作点「P4」は、第2実施形態において、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0117】
図15(c)に示すように、ECU100は、時刻t2でのモータ制御モードを固定磁界制御へ切り替え後に、ステータ磁界強度Hstを弱くする。このようにすることで、第2実施形態では、ステータ磁界強度Hstを変更しない場合と比較して、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeへ移動する際のロータROの動く幅が小さくなる。具体的には、図15(c)に示すように、動作点P4が示す位相は、動作点P3が示す位相よりも、時刻t2でのロータ磁石位相Tprから矢印「Y10」の幅だけ近い。
【0118】
ここで、期間tw2で設定するステータ磁界強度Hstの算出方法の具体例について説明する。ECU100は、図2の破線枠A2に相当する回転センサの検出信号に基づき、ロータ磁石位相Tprの二階微分に相当するロータROの回転加速度を求める。そして、ECU100は、回転の運動方程式の関係に基づき、ロータROの回転加速度からMG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとの偏差の推定値(「推定偏差トルクTd」とも呼ぶ。)を求める。推定偏差トルクTdは、エンジン反力トルクTesが大きい場合を正とする。従って、時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも大きいため、推定偏差トルクTdは、負値となる。そして、ECU100は、時刻t2での回転磁界制御でのステータ磁界強度Hstに、推定偏差トルクTdに相当する磁界の強さを加算した値を、エンジン反力トルクTesに釣り合うMG1トルクTmg1を発生させるのに必要なステータ磁界強度Hstとする。そして、ECU100は、当該ステータ磁界強度Hstに、さらに正値の余裕分を加えた値を、固定磁界制御で出力すべきステータ磁界強度Hstに設定し、これに相当するMG1電流Img1をモータMG1に印加する上述の余裕分とは、具体的には、推定偏差トルクTdの推定誤差、及び、MG1電流Img1に対して発生するMG1トルクTmg1の誤差等を勘案し予め実験等に基づき定められる。ここで、推定偏差トルクTdは負値であることから、算出したステータ磁界強度Hstは、時刻t2でのステータ磁界強度Hstよりも小さい値に設定される。
【0119】
このように、第2実施形態では、ECU100は、モータ制御モードを切り替える際にステータ磁界強度Hstを変更することで、固定磁界制御への切り替え後でのロータROの動く幅を抑制する。これにより、ECU100は、釣り合い位相Tpeを探す際のMG1トルクTmg1の変化率を大きくし、ロータ磁石位相Tprを釣り合い位相Tpeに早期に移行させることができる。
【0120】
2.処理フロー
次に、第2実施形態の処理手順について図16を参照して説明する。図16は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図16に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0121】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定し(ステップS201)、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS201;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS202)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS202;Yes)、ステップS203以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS201;No)、又は、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS202;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0122】
次に、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに釣り合うように変更する(ステップS203)。具体的には、ECU100は、MG1電流Img1を徐々に大きくすることで、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を徐々に大きくする。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定し(ステップS204)、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS204;Yes)、モータ制御モードを固定磁界制御に切り替える(ステップS205)。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS204;No)、引き続きステップS203でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0123】
そして、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを変更する(ステップS206)。具体的には、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを、時刻t2でのロータROの回転加速度に基づき変更し、MG1電流Img1を調整する。そして、ECU100は、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS207)。これにより、ECU100は、ステータSTの磁界の強さを変更しない場合と比較して、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeに遷移するまでのロータROの動く幅を小さくすることができ、早期にロータ磁石位相Tprを釣り合い位相Tpeに遷移させることができる。
【0124】
次に、ECU100は、ロック機構500を解放状態へ移行する間、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS208)。そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定し(ステップS209)、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS209;Yes)、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS210)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS211、ステップS212)。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS209;No)、引き続きステップS208でモータMG1に流す電流を調整する。
【0125】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第1実施形態において、変速モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断し、エンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する際、ステータ磁極LstをMG1トルクTmg1が最大となる位相(「トルク最大位相」とも呼ぶ。)からずらし、ステータ磁界強度Hstを強くしていく。これにより、ECU100は、ロータROが釣り合い位相Tpeに遷移する際の移動幅を小さくする。
【0126】
1.タイムチャート
図17のタイムチャートを参照し、第3実施形態の処理の詳細について説明する。図17は、上から順に、ステータ磁極Lstの位相(「ステータ磁極位相Tps」とも呼ぶ。)、ロータ磁石位相Tpr、ステータ磁界強度Hstを示す。図17において、実線のグラフ「C1」、「C4」、「C5」は、第3実施形態での各要素の時間変化を示し、破線のグラフ「C2」、「C6」は、第1実施形態での各要素の時間変化を示し、一点鎖線のグラフ「C3」は、ステータSTのトルク最大位相の時間変化を示す。
【0127】
まず、時刻t1で変速モードを固定比変速モードから無段変速モードへ切り替えるべきと判断した後、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを上げる(グラフC5参照)。このとき、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsを、トルク最大位相から正回転方向にずらす(グラフC1、C3参照)。
【0128】
そして、期間tw1では、ECU100は、エンジン反力トルクTesにMG1トルクTmg1を釣り合わせるため、ステータ磁界強度Hstを徐々に強めていく(グラフC5参照)。また、ECU100は、ステータSTのトルク最大位相の変化に応じて、ステータ磁極位相Tpsとトルク最大位相とのずれ幅(「位相ずれ幅Wtp」とも呼ぶ。)を保つように、ステータ磁極位相Tpsを変化させる(グラフC1、C3参照)。
【0129】
ここで、期間tw1でのモータMG1の状態について、さらに図18(a)、(b)を参照して説明する。図18(a)は、期間tw1の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図18(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P5」は、図18(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。また、図18(a)において、斜線の破線枠「Fn」は、MG1トルクTmg1が最大となるステータ磁極LstのN極の位置を示し、破線枠「Fs」は、MG1トルクTmg1が最大となるステータ磁極LstのS極の位置を示す。
【0130】
図18(a)の矢印「Y12」、「Y13」に示すように、期間tw1では、ステータ磁極位相Tpsは、トルク最大位相よりも正回転方向にずれている。位相ずれ幅Wtpは、図18(c)に示すように、動作点P5に対応するロータ磁石位相TprとロータROのトルク最大位相との差に相当する。なお、ステータ磁極位相Tpsがトルク最大位相から正回転方向にずれることにより、図18(b)に示すように、ロータ磁石位相Tprはトルク最大位相から負回転方向にずれる。
【0131】
また、期間tw1では、図18(a)に示すように、矢印Y3に示される正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが、矢印Y2に示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも大きくなる。そして、その差分に相当するロック機構トルクThが、矢印Y1に示すように負回転方向に作用する。ここで、ロック機構トルクThの大きさは、図18(b)に示す両矢印「Y15」の幅、即ち動作点P5のトルクとエンジン反力トルクTesとの差に相当する。このように、期間tw1では、モータMG1を回転させるトルクがないため、MG1回転数Nmg1は「0」となる。
【0132】
次に、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える直前に相当する時刻t2でのモータMG1の状態について図19(a)、(b)を用いて説明する。図19(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図19(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P6」は、図19(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。また、動作点「P7」は、釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0133】
時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなる。これにより、矢印Y5に示される負回転方向のトルクにより、ロータROが負回転方向に回転する(矢印Y6、グラフC4参照)。ここで、矢印Y5に相当するトルクは、図19(c)の矢印「Y16」が示す幅である。また、図19(a)、(b)に示すように、時刻t2では、引き続き、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相に対して正回転方向へ位相ずれ幅Wtpを保っている(矢印Y12、Y13参照)。
【0134】
そして、時刻2以後の期間tw2では、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeに遷移する。即ち、この場合、MG1トルクTmg1の動作点は、動作点P6から動作点P7へ遷移する。
【0135】
ここで、図20(a)、(b)を参照して、第3実施形態による効果について補足説明する。
【0136】
図20(a)は、回転磁界制御から固定磁界制御への切り替え前後でのロータ磁石位相Tprの移動幅を示す図である。図20(a)において、グラフ「D1」は、第3実施形態に係るロータ磁石位相TprとMG1トルクTmg1との関係を示すグラフであり、グラフ「D2」は、第1実施形態に係るロータ磁石位相TprとMG1トルクTmg1との関係を示すグラフである。また、「切り替え時ロータ磁石位相」とは、時刻t2に対応するロータ磁石位相Tprを指す。さらに、動作点「P8」は、切り替え時ロータ磁石位相に対応するMG1トルクTmg1の動作点を示し、動作点「P9」は、第3実施形態での釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示し、動作点「P10」は、第1実施形態での釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0137】
図20(a)に示すように、第3実施形態において、切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移するまでにロータROの動く幅は、矢印「Y18」の長さに相当する。また、第1実施形態において、切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移するまでにロータROの動く幅は、矢印「Y19」の長さに相当する。このように、第3実施形態では、ECU100がステータ磁極位相Tpsを位相ずれ幅Wtpだけずらしたことにより、第1実施形態の場合と比較して、ロータROの動く幅が小さい。具体的には、第3実施形態では、ECU100が切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、ロータ磁石位相Tprを切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移する場合に、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化勾配が大きくなる。これにより、ECU100は、時刻t2以後でのロータROの動く幅を小さくすることができ、乗員の違和感を低減することができる。
【0138】
また、スリップや路面の凹凸などに起因してタイヤなどから伝わるトルクの変動、その他エンジン200のトルク変動等によって、エンジン反力トルクTesが変動した場合であっても、第3実施形態では、ロータROの動く幅が低減される。これについて図20(b)を参照して説明する。
【0139】
図20(b)は、エンジン反力トルクTesの変化に対応するロータ磁石位相Tprの移動幅を示す図である。図20(b)において、動作点「P11a」及び動作点「P11b」は、第3実施形態において、エンジン反力トルクTesが変動する範囲の境界値に対応するMG1トルクTmg1の動作点を示し、動作点「P12a」及び動作点「P12b」は、第1実施形態において、エンジン反力トルクTesが変動する範囲の境界値に対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0140】
図20(b)に示すように、第3実施形態では、エンジン反力トルクTesの変動幅に対して、矢印「Y20」が示す幅、即ち、動作点P11aと動作点P11bとの位相差だけロータ磁石位相Tprが変化する。一方、第1実施形態では、エンジン反力トルクTesの変動幅に対して、矢印「Y21」が示す幅、即ち、動作点P12aと動作点P12bとの位相差だけロータ磁石位相Tprが変化する。そして、矢印Y20が示す幅は、矢印Y21が示す幅よりも小さい。このように、第3実施形態では、エンジン反力トルクTesが変動した場合であっても、ECU100は、切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化の勾配を大きくし、ロータROの動く幅を低減することができる。
【0141】
2.処理フロー
次に、第3実施形態の処理手順について図21を参照して説明する。図21は、第3実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図21に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0142】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定する(ステップS301)。そして、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS301;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS302)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS302;Yes)、ステップS303以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS301;No)、又は、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS302;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0143】
次に、ステップS303乃至S315までの処理について説明する。まず、ECU100は、設定すべきステータSTの位相ずれ幅Wtpを算出する(ステップS303)。ECU100は、例えばエンジントルクTeの要求値等に基づき、所定のマップ又は式等を参照して位相ずれ幅Wtpを算出する。上述のマップ等は、実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0144】
次に、ECU100は、設定すべきステータ磁界強度Hstを算出する(ステップS304)。例えば、ECU100は、現在のステータ磁界強度Hstに所定値加えた値を設定すべきステータ磁界強度Hstとする。上述の所定値は、例えばMG1トルクTmg1の急な上昇によりMG1回転数Nmg1の変化を検出できずにロック機構500内で衝突が発生しない範囲の値に、実験等に基づき予め定められる。
【0145】
次に、ECU100は、ステップS304で求めたステータ磁界強度Hstが所定値Hth以下であるか否か判定する(ステップS305)。ここで、所定値Hthは、ステータ磁界強度Hstの設定可能な上限値に相当し、例えば実験等に基づき予め定められる。
【0146】
そして、ECU100は、ステータ磁界強度Hstが所定値Hth以下であると判断した場合(ステップS305;Yes)、当該ステータ磁界強度Hst及び位相ずれ幅Wtpに基づき、ステータSTの磁界を出力する(ステップS306)。これにより、ECU100は、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させることができる。
【0147】
一方、ECU100は、ステータ磁界強度Hstが所定値Hthより大きいと判断した場合(ステップS305;No)、現在のステータ磁界強度Hstを保持したまま、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相へ遷移させる(ステップS307)。これにより、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを上昇させられない場合であっても、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させることができる。
【0148】
そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定する(ステップS308)。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS308;Yes)、固定磁界制御に切り替える(ステップS309)。そして、ECU100は、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS310)。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS308;No)、引き続きステップS304乃至S307でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0149】
次に、ECU100は、ロック機構500の解放状態への遷移中に、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS311)。そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定し(ステップS312)、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS312;Yes)、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS313)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS314、ステップS315)。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS312;No)、引き続きステップS311でモータMG1に流す電流を調整する。
【0150】
<第4実施形態>
第4実施形態では、第3実施形態に代えて、ECU100は、固定比変速モードから無段変速モードへ切り替える場合、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合わせる前にモータ制御モードを固定磁界制御に切り替え、ステータSTをトルク最大位相からずらした状態からトルク最大位相へ徐々に変化させる。
【0151】
1.タイムチャート
図22のタイムチャートを参照し、第4実施形態の処理の詳細について説明する。図22は、上から順に、ステータ磁極位相Tps、ロータ磁石位相Tpr、及びステータ磁界強度Hstを示す。図22において、実線のグラフ「E1」、「E4」、「E5」は、第4実施形態での各要素の時間変化を示し、破線のグラフ「E2」、「E6」は、第1実施形態での各要素の時間変化を示し、一点鎖線のグラフ「E3」は、ステータSTのトルク最大位相の時間変化を示す。
【0152】
まず、時刻t1で固定比変速モードから無段変速モードへ切り替えるべきと判断した後、ECU100は、モータ制御モードを固定磁界制御にし、ステータ磁界強度Hstを上げる(グラフE5参照)。このとき、ECU100は、まず、一時的にステータ磁極位相Tpsを位相ずれ幅Wtpだけトルク最大位相から正回転方向にずらす(グラフE1、E3参照)。この場合の位相ずれ幅Wtpを、特に「初期位相ずれ幅Wtps」とも呼ぶ。そして、ECU100は、期間tw1でステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相へ徐々に変化させる。即ち、ECU100は、位相ずれ幅Wtpを初期位相ずれ幅Wtpsから徐々に減少させる。
【0153】
ここで、期間tw1でのモータMG1の状態について、さらに図23(a)、(b)を参照して説明する。図23(a)は、期間tw1の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図23(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P14」は、図23(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0154】
図23(a)に示すように、ステータ磁極位相Tpsは、トルク最大位相よりも正回転方向にずれている。これにより、図23(b)に示すように、ロータ磁石位相Tprはトルク最大位相から負回転方向にずれる。そして、期間tw1では、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相へ徐々に変化させる。これにより、ロータ磁石位相Tprは、トルク最大位相へ徐々に近づく。
【0155】
また、期間tw1では、図23(a)に示すように、矢印Y3に示される正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが、矢印Y2に示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも大きくなる。そして、その差分に相当するロック機構トルクThが、矢印Y1に示すように負回転方向に作用する。ここで、ロック機構トルクThの大きさは、図23(b)に示す両矢印「Y25」の幅に相当する。このように、当該期間では、モータMG1を回転させるトルクがないため、MG1回転数Nmg1は「0」となる。
【0156】
次に、MG1回転数Nmg1が変化する時刻t2でのモータMG1の状態について図24(a)、(b)を用いて説明する。図24(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図24(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P15」は、図24(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。また、動作点「P16」は、釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0157】
時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなる。これにより、矢印Y5に示される負回転方向のトルクにより、ロータROが負回転方向に回転する(矢印Y6、グラフE4参照)。ここで、矢印Y5に相当するトルクの大きさは、図24(b)の矢印「Y27」が示す幅、即ち動作点P15が示すトルクとエンジン反力トルクTesとの差に相当する。また、図24(a)、(b)に示すように、時刻t2では、引き続き、ステータ磁極位相Tpsは、トルク最大位相に対して正回転方向へずれている(矢印Y28、Y29参照)。
【0158】
そして、時刻2以後の期間tw2では、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeに遷移する。この場合、MG1トルクTmg1の動作点は、動作点P15から動作点P16へ遷移する。
【0159】
このように、第4実施形態では、ECU100は、切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、第3実施形態と同様、ロータ磁石位相Tprを切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移させる場合に、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化の勾配を大きくしている。これにより、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替える場合のロータROの動く幅を小さくすることができ、乗員の違和感を低減することができる。また、ECU100は、エンジン反力トルクTesが変動した場合であっても、切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化の勾配を大きくし、ロータROの動く幅を低減することができる。
【0160】
さらに、第4実施形態では、ECU100は、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesに釣り合わせる場合に、ステータ磁界強度Hstを変更せず、ステータ磁極位相Tpsのみを変化させる。このため、第4実施形態による制御は、制御性がよく、応答が速い。
【0161】
2.処理フロー
次に、第4実施形態の処理手順について図25を参照して説明する。図25は、第4実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図25に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0162】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定する(ステップS401)。そして、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS401;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS402)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS402;Yes)、ステップS403以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS401;No)、又は、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS402;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0163】
次に、ステップS403乃至S416までの処理について説明する。まず、ECU100は、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える(ステップS403)。そして、ECU100は、初期位相ずれ幅Wtpsを算出する(ステップS404)。例えば、ECU100は、エンジントルクTeの要求値等に基づき、所定のマップ又は式等を参照して初期位相ずれ幅Wtpsを算出する。上述のマップ等は、実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0164】
次に、ECU100は、設定すべきステータ磁界強度Hstを算出する(ステップS405)。ここで、ステータ磁界強度Hstは、エンジン反力トルクTesの変動範囲を考慮し、磁界最大トルクTmaxがエンジン反力トルクTesを下回らない値に、実験等に基づき予め定められる。
【0165】
次に、ECU100は、設定すべきステータ磁極位相Tpsを算出する(ステップS406)。具体的には、ECU100は、ステップS406を実行するごとに、段階的にステータ磁極位相Tpsがトルク最大位相に近づくように、ステータ磁極位相Tpsを定める。
【0166】
そして、ECU100は、現在のステータ磁極位相Tpsがトルク最大位相に達しているか否か判定する(ステップS407)。そして、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsがまだトルク最大位相に達していないと判断した場合(ステップS407;No)、算出したステータ磁極位相Tpsに基づきステータSTの磁界を出力する(ステップS408)。これにより、ECU100は、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させる。
【0167】
一方、ECU100は、ステータ磁極位相が既にトルク最大位相に達していると判断した場合(ステップS407;Yes)、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相に保持したまま、ステータ磁界強度Hstを上昇させる(ステップS409)。これにより、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsが既にトルク最大位相に達している場合であっても、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させることができる。
【0168】
そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定する(ステップS410)。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS410;Yes)、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS411)。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS410;No)、引き続きステップS406乃至S409でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0169】
次に、ECU100は、ロック機構500を解放状態へ移行する間、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS412)。そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定し(ステップS413)、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS413;Yes)、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS414)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS415、ステップS416)。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS413;No)、引き続きステップS412でMG1電流Img1を調整する。
【符号の説明】
【0170】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
100 ECU
200 エンジン
300 動力分割機構
400 入力軸
500 ロック機構
600 MG2リダクション機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、回転要素をロックするロック機構を備え、エンジントルクの反力をロック機構で受け持たせつつ、エンジントルクを駆動軸に伝達させる固定変速比モードと、エンジントルクの反力を回転要素にトルクを付与する回転電機に受け持たせつつ、エンジントルクを駆動軸に伝達させる無段変速モードとを有するハイブリッド車両が開示されている。また、このハイブリッド車両は、固定変速比モード中に回転電機にトルクを発生させ、これによる回転電機の回転数変化と、当該トルクとに基づき、エンジントルクを推定する。また、特許文献2には、停車時に電動機を回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える点が開示されている。さらに、特許文献3には、パーキングギヤを解除する場合、固定磁界制御を実行する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−096284
【特許文献2】特開2008−259328
【特許文献3】特開2008−074133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固定変速比モードから無段変速モードへ切り替える場合、ロック機構の解放中での回転を防ぐため、回転電機のトルクをエンジントルクの反力と釣り合わせることで、ロック機構にかかるトルクをなくし、その後ロック機構を解放することが行われる。しかしながら、エンジントルクの推定に誤差が生じ、実値と異なった場合、ロック機構内のガタに起因した衝突が発生し、異音が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジントルクの反力を正確に把握できない場合であっても、乗員に違和感を生じさせることなく、変速モードの切り替えが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、エンジンと、前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、前記回転電機の回転数が変化したときに、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える切り替え手段と、を備える。
【0007】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、エンジンと、回転要素と、ロック機構と、回転電機と、第1の伝達制御手段と、第2の伝達制御手段と、切り替え手段と、を備える。回転要素は、エンジンのトルクにより回転する。ロック機構は、回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有する。回転電機は、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転要素にトルクを付与する。第1の伝達制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、回転要素をロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第2の伝達制御手段は、例えばECUであり、回転要素を非ロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第1の伝達制御手段は、エンジンの回転数と駆動軸の回転数との比たる変速比が固定される所謂固定変速比モードに対応する。第2の伝達制御手段は、変速比が連続的に可変とされる所謂無段変速モードに対応する。切り替え手段は、例えばECUであり、第1の伝達制御手段による制御から第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、回転電機の回転数が変化したときに、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。
【0008】
このように、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の回転数が変化したタイミングで、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、エンジントルクの反力を正確に把握できなくても回転電機で当該反力を受け持つことができ、ロック機構にかかるトルクをなくすことができる。従って、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の回転数が変化した後、回転電機の回転数が0になるように保ち、ガタに起因した異音の発生を抑制することができる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記固定子の位相を前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずらし、前記固定子の磁界を強くすることで、前記回転電機の回転数を変化させる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界によって発生するトルクの、回転電機内の磁界の位相変化に対する変化勾配を大きくすることができる。従って、ハイブリッド車両の制御装置は、回転子の動く幅を小さくすることができ、乗員に違和感が生じるのを抑制することができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記回転子の回転加速度に基づき、固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを決定する。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定子の磁界の強さをエンジントルクの反力に応じて適切に定め、回転子の動く幅を小さくすることができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記切り替え手段は、前記制御モードを固定磁界制御に切り替えた後、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、ロック機構の遷移中にロック機構にトルクがかかるのを抑制しつつ、第2の伝達制御手段による制御へ移行することができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の観点では、エンジンと、前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える場合において、前記回転電機が付与するトルクと前記エンジンのトルクの反力を釣り合わせるとき、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替え、かつ、前記固定子の位相を、前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずれた位相から、前記回転子に最大のトルクがかかる位相へ遷移させる切り替え手段と、を備える。
【0013】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、エンジンと、回転要素と、ロック機構と、回転電機と、第1の伝達制御手段と、第2の伝達制御手段と、切り替え手段と、を備える。回転要素は、エンジンのトルクにより回転する。ロック機構は、回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有する。回転電機は、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転要素にトルクを付与する。第1の伝達制御手段は、例えばECUであり、回転要素をロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。第2の伝達制御手段は、例えばECUであり、回転要素を非ロック状態にすることで、エンジンのトルクの反力を回転電機に受け持たせつつ、エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う。切り替え手段は、例えばECUであり、第1の伝達制御手段による制御から第2の伝達制御手段による制御へ切り替える場合に、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替え、かつ、固定子の位相を、回転子に最大のトルクがかかる位相からずれた位相から、回転子に最大のトルクがかかる位相へ遷移させることで、回転電機が付与するトルクとエンジンのトルクの反力を釣り合わせる。
【0014】
このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界によって発生するトルクの、回転電機内の磁界の位相変化に対する変化勾配を大きくし、回転子の動く幅を小さくすることができる。また、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、エンジントルクの反力を正確に把握できなくても回転電機で当該反力を受け持つことができ、ロック機構にかかるトルクをなくすことができる。また、ハイブリッド車両の制御装置は、固定子の位相を変化させることによって、回転電機が付与するトルクとエンジンのトルクの反力を釣り合わせるため、制御性及び応答性を高めることができる。
【0015】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記切り替え手段は、前記回転電機の回転数が変化したとき、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える。これにより、ハイブリッド車両の制御装置は、ロック機構の遷移中にロック機構にトルクがかかるのを抑制しつつ、第2の伝達制御手段による制御へ移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の各実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】(a)ロック機構の一断面構成を例示する模式断面図、(b)矢線A方向にロック機構を見た模式的な断面図を示す。
【図4】(a)無段変速モードの場合の動作共線図を示す。(b)固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。
【図5】ロック機構のロック作用によりサンギヤが解放状態からロック状態に状態遷移する過程を説明する模式的な断面図である。
【図6】第1実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図7】(a)期間tw1の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロック機構の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図8】(a)時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)時刻t2でのロック機構の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図9】(a)期間tw2の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロック機構の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図10】第1実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図11】比較例の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図12】比較例における、負回転方向のトルクに基づきガタが消滅してロック機構内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。
【図13】比較例における、正回転方向のトルクに基づきガタが消滅してロック機構内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。
【図14】第2実施形態におけるロータ磁石位相及びMG1トルクのタイムチャートの一例を示す。
【図15】(a)第2実施形態において、期間tw2の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロック機構の位置関係及びMG1トルクの方向を示した図である。(c)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図16】第2実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図17】第3実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図18】(a)第3実施形態において、時刻tw1の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図19】(a)第3実施形態において、時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図20】(a)回転磁界制御から固定磁界制御への切り替え前後でのロータ磁石位相の移動幅を示す図である。(b)エンジン反力トルクの変化に対応するロータ磁石位相の移動幅を示す図である。
【図21】第3実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図22】第4実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。
【図23】(a)第4実施形態において、期間tw1の一時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図24】(a)第4実施形態において、時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクのグラフを示す。
【図25】第4実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0018】
[構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0019】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「第1の伝達制御手段」、「第2の伝達制御手段」、及び「切り替え手段」として機能する。なお、本発明に係る各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0020】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0021】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0022】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。
【0023】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0024】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0025】
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0026】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸400、ロック機構500、MG2リダクション機構600及び減速機構700を備える。
【0027】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸400に連結されている。ここで、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。
【0028】
モータMG1は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。モータMG1は、本発明における「回転電機」の一例である。
【0029】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備える。
【0030】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。以後では、モータMG1のロータを「ロータRO」と呼び、モータMG1のステータを「ステータST」と呼ぶ。ロータROは、本発明の「回転子」の一例であり、ステータSTは、本発明の「固定子」の一例である。
【0031】
動力分割機構300は、遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられたリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC1とを備える。
【0032】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータROに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。サンギヤS1は、本発明における「回転要素」の一例である。また、リングギヤR1は、減速機構700及びMG2リダクション機構600の後述するリングギヤR2に連結されており、その回転数は、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。更に、キャリアC1は、エンジン200のクランク軸に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。
【0033】
MG2リダクション機構600は、動力分割機構300と同様の遊星歯車機構である。MG2リダクション機構600は、中心部に設けられたサンギヤS2と、サンギヤS2の外周に同心円状に設けられたリングギヤR2と、サンギヤS2とリングギヤR2との間に配置されてサンギヤS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC2とを備える。また、サンギヤS2には、モータMG2のロータが連結される。
【0034】
ここで、MG2リダクション機構600のリングギヤR2は、先に述べたように動力分割機構300のリングギヤR1と連結され、車軸と一義的な回転状態を呈する。また、キャリアC2は、固定要素により回転不能に固定されている。従って、残余の一回転要素たるサンギヤS2に固定されたモータMG2には、駆動軸OUTの回転がMG2リダクション機構600を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形で伝達される。このように、MG2リダクション機構600は、減速ギヤ機構として機能する。そして、MG2リダクション機構600と動力分割機構300とによって規定される複合型遊星歯車機構は、回転二自由度の差動機構である。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。
【0035】
減速機構700は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤ(符号省略)と、デファレンシャル(符号省略)とを含むギヤ機構である。各車軸の回転数は、減速機構700により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。この駆動軸OUTには、先に述べたようにリングギヤR1及びリングギヤR2が連結されており、各リングギヤが、車速Vと一義的な回転状態を呈する構造となっている。
【0036】
尚、モータMG2は、モータMG1及びエンジン200と異なり、駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも可能であり、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0037】
ハイブリッド駆動装置10は、図示破線枠A1及びA2に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。これら回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された回転数(回転角速度)は、夫々ECU100に対し一定又は不定の周期で送出されている。補足すると、図示破線枠A1に相当する部位の回転数とは、MG2回転数Nmg2であり、図示破線枠A2に相当する部位の回転数とは、MG1回転数Nmg1である。
【0038】
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構300は、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比「P」を定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤS1に作用するトルク「Tes」は下記(1)式により、また駆動軸OUTに現れるトルク(以後、「エンジン直達トルクTer」と呼ぶ。)は下記(2)式により、夫々表される。
【0039】
Tes=−Te×P/(1+P)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+P)・・・(2)
ロック機構500は、サンギヤS1の状態を、回転不能な状態にロックするロック状態と、サンギヤS1を回転可能な状態に解放する非ロック(解放)状態と、の間で選択的に切り替え可能に構成された係合装置である。言い換えると、ロック機構500は、係合状態の場合に、サンギヤS1をロック状態に保ち、解放状態の場合に、サンギヤS1を非ロック状態に保つ。ここで、サンギヤS1は、既に述べた通りモータMG1に連結されており、サンギヤS1がロック状態にある場合、モータMG1もまた回転不能なロック状態となる。
【0040】
ここで、図3を参照し、ロック機構500の詳細な構成について説明する。図3(a)は、ロック機構500の一断面構成を例示する模式断面図である。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0041】
図3(a)において、ロック機構500は、カム510、クラッチ板520、アクチュエータ530、リターンスプリング540及びカムボール550を備える。
【0042】
カム510は、サンギヤ軸310に連結され、サンギヤ軸310と一体に回転可能な、クラッチ板520と一対をなす略円板状の係合部材である。尚、カム510は、必ずしもサンギヤ310と直接的に連結されている必要はなく、各種連結部材を介してサンギヤ310と間接的に連結されていてもよい。
【0043】
クラッチ板520は、磁性金属材料により構成されると共にカム510と対向配置されてなる、カム510と一対をなす円板状の係合部材である。
【0044】
アクチュエータ530は、吸引部531、電磁石532及び摩擦部533を有する。吸引部531は、磁性金属材料により構成されると共に電磁石532を収容可能なアクチュエータ530の筐体である。吸引部531は、ハイブリッド駆動装置10の外郭部材と略一体に固定されたケースCSに対し固定されている。
【0045】
電磁石532は、バッテリ12からの電力供給を受けた不図示の駆動部から所定の励磁電流(以後、「ロック制御電流Ir」と呼ぶ。)が供給された励磁状態において磁力を発生可能な磁石である。励磁状態において電磁石532から発せられる磁力は、磁性金属材料により構成された吸引部531を介して、先述したクラッチ板520を吸引する。即ち、クラッチ板520に対しクラッチ板520を吸引する方向へ駆動力たる電磁力を付与する。尚、この駆動部は、ECU100と電気的に接続されており、電磁石532の励磁動作は、ECU100により上位に制御される。
【0046】
摩擦部533は、吸引部531におけるクラッチ板520との対向面に形成された摩擦機能体であり、形成されない場合と較べて、接触状態にある物体の移動をより大きく阻害し得るようにその摩擦係数が設定されている。
【0047】
リターンスプリング540は、一方の固定端がクラッチ板520に固定され、他方の固定端がカム510に固定された弾性体であり、クラッチ板520をカム510の方向へ付勢している。このため、クラッチ板520は、通常、このリターンスプリング540の付勢を受けて、所定の対向間隔GAPを隔てて吸引部531と対向する非接触位置(以後、「非接触位置Pn」と呼ぶ。)で停止している。
【0048】
カムボール550は、カム510の係合面511とクラッチ板520の係合面521とに挟持された球状物体である。ロック機構500は、サンギヤS1及びサンギヤ軸310を介してカム510に伝達されるMG1トルクTmg1が、このカムボール550を伝達要素としてクラッチ板520に伝達される。
【0049】
図3(b)は、図3(a)において矢線A方向にロック機構500を見た模式的な断面図である。尚、同図において、図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0050】
図3(b)において、カム510及びクラッチ板520の各々における対向面は、夫々中心部へ向かう程、当該各々における、サンギヤ軸310の伸長方向への厚みが小さくなるように形成されており、上記カムボール550は、通常、両者間の対向空間が最も広い中心部付近に挟持されている。このため、クラッチ板520が非接触位置Pnにある場合、カム510とクラッチ板520とは、このカムボール550をトルクの伝達要素として、モータMG1の回転方向と等しい方向へ略一体に回転する。従って、クラッチ板520が非接触位置Pnにある場合、モータMG1の回転は、少なくとも実質的には何ら阻害されない。尚、図3(b)では、図示下方がモータMG1の正回転方向と定義されるが、モータMG1は、係る正回転方向のみならず、係る正回転方向と真逆の負回転方向(図示省略)にも同様に回転可能である。
【0051】
なお、ロック機構500は、図3に示す電磁カムロック式の係合装置に限定されない。これに代えて、ロック機構500は、例えば、一対の係合要素の各々に形成された歯状部材を相互に噛合させることにより係合要素同士を係合させる電磁ドグクラッチ等の噛合式係合装置であってもよい。他の例では、ロック機構500は、不図示の油圧制御機構により供給される制御油圧に応じて相互に係合及び解放可能に構成された複数の係合要素を備えた湿式多板型ブレーキ装置であってもよい。
【0052】
[基本制御]
以下では、ECU100が各実施形態で共通して実行する制御方法について具体的に説明する。
【0053】
(各変速モードでの基本制御)
ハイブリッド車両1は、ロック対象となる動力分割機構300のサンギヤS1の状態に応じて、固定変速比モード及び無段変速モードを選択可能である。以下、各変速モードでの基本的な制御について説明する。
【0054】
図4(a)、(b)は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。具体的には、図4(a)は、無段変速モードの場合の動作共線図を示す。また、図4(b)は、固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0055】
図4(a)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギヤS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータMG2(一義的に駆動軸OUT)を表す。
【0056】
ここで、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1のうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。
【0057】
図4(a)において、車速V及び出力回転数Noutと一義的な関係にあるモータMG2の動作点が動作点「m1」であるとする。この場合、モータMG1の動作点が動作点「g1」であれば、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点「e1」となる。この際、ECU100は、出力回転数Noutを維持したままモータMG1の動作点を動作点「g2」及び動作点「g3」に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々動作点「e2」及び動作点「e3」へと変化する。
【0058】
即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を回転数制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。このように、無段変速モードでは、動力分割機構300は、一種のCVT(Continuously Variable Transmisson:無段変速装置)として機能する。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(以後、「エンジン動作点」と呼ぶ。)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)に制御される。なお、この場合のエンジン動作点とは、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する。
【0059】
ここで、無段変速モードでは、MG1回転数Nmg1は可変である必要がある。このため、ECU100は、無段変速モードを選択する場合、ロック機構500を、サンギヤS1が解放状態となるように制御する。
【0060】
また、駆動軸OUTにエンジン直達トルクTerを供給するため、ECU100は、エンジントルクTeに応じてサンギヤS1の回転軸であるサンギヤ軸310に現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符号が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクを、モータMG1からこのサンギヤ軸310に供給する。この場合、動作点g1或いは動作点g2といった正回転領域の動作点で、モータMG1は正回転負トルクの電力回生状態(即ち、発電状態)となる。このように、ECU100は、無段変速モードでは、モータMG1を反力要素として機能させることにより、駆動軸OUTにエンジントルクTeの一部を供給しつつ、サンギヤ軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で電力回生(発電)を行う。駆動軸OUTに対し要求されるトルクがエンジン直達トルクTerで不足する場合、ECU100は、この回生電力を利用する形で、或いは適宜バッテリ12から電力を持ち出して、モータMG2から駆動軸OUTに対し適宜アシストトルクとしてのMG2トルクTmg2を供給する。
【0061】
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えば出力回転数Noutが高い割にエンジン回転数Neが低く済むような運転条件では、モータMG1が、例えば動作点g3の如き負回転領域の動作点となる。モータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しているから、この場合、モータMG1は、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータMG1の入出力トルクであるMG1トルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸OUTに伝達される。他方、ECU100は、エンジン直達トルクTerとMG2トルクTmg2との総和がドライバの要求するトルクに合致するように、エンジン200、モータMG1及びモータMG2が相互に協調的に制御する。従って、このようにモータMG1が力行状態に陥った場合、モータMG2は、駆動軸OUTに供給される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータMG2は、正回転負トルクの状態となって電力回生状態となる。このような状態においては、モータMG1からの駆動力をモータMG2での電力回生に利用し、この回生電力によりモータMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
【0062】
そこで、ECU100は、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構500によりサンギヤS1をロック状態に制御する。その様子が図4(b)に示される。ロック機構500によりサンギヤS1がロック状態に移行すると、モータMG1の動作点は、回転数「0」に対応する図示動作点「g4」に固定される。
【0063】
この場合、出力回転数Noutとこの0回転とにより、残余のエンジン回転数Neは一義的に固定され、その動作点は図示動作点「e4」となる。即ち、サンギヤS1がロックされた場合、エンジン回転数Neは、車速Vと一義的なMG2回転数Nmg2により一義的に決定される。即ち、この場合、変速比が一定となる。この状態に対応する変速モードが固定変速比モードである。
【0064】
固定変速比モードでは、ECU100は、本来モータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクを、ロック機構500の物理的な係合力により代替させる。即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を電力回生状態にも力行状態にも制御する必要がないため、モータMG1を停止させる。従って、基本的には、モータMG2を稼動させる必要もなくなり、モータMG2は、言わば空転状態となる。結局、固定変速比モードでは、駆動軸OUTに現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸OUT側に分割された直達トルクTerのみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
【0065】
尚、固定変速比モードにおいて、ECU100は、モータMG2を必ずしも停止させる必要はない。例えば、ハイブリッド車両1には、各種の電装補器類が備わっており、それら電装補器類の駆動には然るべき駆動電力が必要となる。モータMG2は、この駆動電力に対応する電力をバッテリ12に供給するために、小規模の電力回生を行ってもよい。この場合、ECU100は、エンジントルクTeの直達成分がハイブリッド車両1を走行させるために要求されるトルクに対し余剰となるようにエンジントルクTeを制御し、余剰分のトルクをモータMG2で回生させる。また、ECU100は、エンジン直達トルクTerのみでは駆動トルクが不足する場合、モータMG2を力行駆動させ、MG2トルクTmg2によって駆動トルクを適宜アシストする。
【0066】
(ロック機構の制御)
ECU100は、ロック制御電流Irを制御することで、ロック機構500を係合状態と解放状態との間で選択的に切り替える。具体的には、ECU100は、ロック制御電流Irを大きくすることで、ロック機構500を係合状態へ移行させ、ロック制御電流Irを小さくすることで、ロック機構500を解放状態に移行させる。
【0067】
ここで、図5を参照して、ロック機構500によるサンギヤS1のロック作用について説明する。ここに、図5は、ロック機構500のロック作用によりサンギヤS1が解放状態からロック状態に状態遷移する過程を説明する模式的な断面図である。尚、同図において、図2又は図3と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略することとする。
【0068】
図5(a)は、先の図3と同様の状態を表しており、クラッチ板520と摩擦部533との間に対向空間GAPが介在する。この場合、クラッチ板520は、摩擦部533による抑止力の影響を受けることなく回転可能である。このため、カムボール550の作用によりカム510とクラッチ板520とは略一体に回転可能である。ここで、カム510は、サンギヤ軸310を介してモータMG1のロータに連結されており、このロータは、サンギヤ軸310を介してサンギヤS1に連結されている。従って、ハイブリッド駆動装置10において、カム510は、サンギヤS1と一体に回転する回転要素として扱うことができる。即ち、図5(a)に示される状態では、サンギヤS1もまたクラッチ板520の制約を受けずに回転可能である。この状態は、本発明に係る「非ロック状態」の一例に相当する。
【0069】
図5(b)は、アクチュエータ530の電磁石532にロック制御電流Irが所定の基準値(以後、「基準値Irth」と呼ぶ。)だけ供給された状態を示す。基準値Irthは、例えばエンジントルクTeに基づき所定のマップ等を参照して定められ、ECU100のメモリに記憶される。電磁石532にロック制御電流Irが供給された場合、ロック制御電流Irに基づき電磁石532から発せられる電磁力が吸引部531を介してクラッチ板520に及ぶ。そして、クラッチ板520は、リターンスプリング540の付勢に打ち勝って図5(a)に示される非接触位置Pnと対極の図5(b)に示される接触位置(以後、「接触位置Pt」と呼ぶ。)まで移動し、吸引部531に吸着される。その結果、対向空間GAPは消滅する。また、励磁による電磁石の供給と共に、摩擦部533がクラッチ板520に対し摩擦力を発揮する形となり、クラッチ板520の正回転又は負回転方向への動作が阻害される。即ち、この状態において、クラッチ板520は、電磁石532と摩擦部533とにより、その動作が阻害され、アクチュエータ530に対し、即ちケースCSに対して静止する。
【0070】
一方、このようにクラッチ板520が吸引部531に吸着された状態では、消滅した対向空間GAPの代わりに、カムボール550とクラッチ板520との間に、回転方向に沿ったガタ「GT」が形成される。従って、カム510がモータMG1の回転の影響を受けて正回転方向又は負回転方向へ回転すると、カム510とカムボール550のみが、その回転方向へ移動する。尚、ここでは、これらが正回転方向へ移動するものとして説明を継続する。ここで、新たに形成されたガタGTは、先に述べたように断面視逆テーパ状となっており、カムボール550が回転方向に進行するにつれて徐々に詰められ、遂にはガタGTが消滅した状態(以後、「ガタ詰め完了状態」と呼ぶ。)となる。ガタ詰め完了状態においては、再びカム510、カムボール550及びクラッチ板520が相互に接触する。
【0071】
図5(c)は、ガタ詰め完了状態を示す図である。このガタ詰め完了状態でカム510が正回転方向に回転しようとした場合、この逆テーパ形状の対向面の作用によって、カムボール550には、クラッチ板520を更にアクチュエータ530の方向へ押圧する押圧力が発生する。その結果、カム510に対し正回転方向への正トルクが加わっている限り、ECU100が電磁石532への励磁を停止しても三者の接触状態が変化しない。そして、この場合、カム510は、当該押圧力と摩擦部533から与えられる摩擦力とによって所謂セルフロック状態となる。
【0072】
このセルフロック状態では、カム510もまたクラッチ板520と同様にケースCSに対し静止、即ち固定された状態となる。その結果、カム510と一体に回転するサンギヤS1もまたケースCSに対し固定された状態となる。この状態がロック状態である。ロック状態では、サンギヤS1の回転数、即ちMG1回転数Nmg1が「0」となる。
【0073】
尚、ここでは、ロック機構500は、上記セルフロック作用を有するものとしたが、カム510及びクラッチ板520における対向面の各々の形状等を調整することにより、この種のセルフロック作用を有さぬ構成とすることもできる。その場合、電磁石532への励磁が停止されると、リターンスプリング540の作用により、クラッチ板520は元の非接触位置Pnへと復帰する。
【0074】
[ロック機構の解放時の制御]
次に、ロック機構500を係合状態から解放状態に遷移させる場合、即ち、変速モードを固定比変速モードから無段変速モードに切り替える場合にECU100が実行する制御について説明する。
【0075】
なお、以後では、「回転磁界制御」とは、ステータSTの回転磁界によってロータROが回転駆動されるようにモータMG1を制御することを指し、「固定磁界制御」とは、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転が制限されるようにモータMG1を制御することを指す。
【0076】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係るECU100の制御について説明する。概略的には、第1実施形態では、ECU100は、まず、変速モードを固定比変速モードから無段変速モードに切り替えるべきと判断した場合、MG1トルクTmg1を、エンジン200の反力トルクに相当するトルクTes(「エンジン反力トルクTes」とも呼ぶ。)と釣り合わせる。次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が変化したタイミングで、モータMG1の制御を回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替え、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる。そして、ECU100は、ロック機構500が解放状態に遷移した後、再び固定磁界制御から回転磁界制御へモータMG1の制御を切り替え、無段変速モードを開始する。これにより、ECU100は、エンジン200の反力を正確に把握できなくても、モータMG1で当該反力を受け持ち、異音やショックの発生を抑制する。
【0077】
1.タイムチャート
図6は、第1実施形態の処理概要を示すタイムチャートの一例である。図6のグラフ「A1」乃至「A6」は、順に、MG1トルクTmg1の時間変化、MG1回転数Nmg1の時間変化、ロータROの永久磁石の位相を示す「ロータ磁石位相Tpr」の時間変化、ロック機構500が保持するトルクを示す「ロック機構トルクTh」の時間変化、非接触位置Pn及び接触位置Ptを結ぶ方向でのクラッチ板520の変位を示す「ストローク量Lr」の時間変化、及びモータMG1の磁界の制御モードを示す「モータ制御モード」の時間変化を示している。ここで、ロック機構トルクThは、具体的には、エンジン反力トルクTesとMG1トルクTmg1との差分に相当する。なお、図6のMG1トルクTmg1の破線グラフ「A7」は、固定磁界制御でモータMG1に所定の大きさの電流を印加した場合でのMG1トルクTmg1の最大値(「磁界最大トルクTmax」とも呼ぶ。)を指す。また、「ロック時停止位相」とは、ロック機構500が係合状態の場合に対応するロータ磁石位相Tprを指す。さらに、「CVT目標回転数Nmcv」とは、無段変速モードでのMG1回転数Nmg1の目標回転数を指す。
【0078】
まず、時刻「t1」において、ECU100は、変速モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきと判断する。そして、時刻t1以後では、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesと釣り合うように変更する(グラフA1参照)。これにより、ロック機構トルクThは、0Nmに向かって変化する(グラフA4参照)。そして、時刻「t1a」で、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesと同じ大きさとなり(グラフA1参照)、時刻t1a以後、MG1回転数Nmg1が「0rpm」の状態から負値に変化すると共に、ロータ磁石位相Tprがロック時停止位相から負回転方向へ変化する(グラフA2、A3参照)。
【0079】
そして、時刻「t2」で、ECU100は、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprが変化したことを、レゾルバ等の回転センサで検出する。そして、ECU100は、時刻t2以後、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える(グラフA6参照)。これにより、時刻t2以後では、ステータSTの磁界の向きが固定され、ロータROの回転が制限される。
【0080】
そして、ECU100は、時刻t2から時刻「t3」にかけて、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる(グラフA5参照)。なお、時刻t2から時刻t3にかけてエンジン反力トルクTesが変化した場合であっても、固定磁界制御により、MG1トルクTmg1は、エンジン反力トルクTesとの釣り合いを保つ。従って、この場合でも、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprは緩やか且つ小幅に変化し(グラフA2、A3参照)、ガタGTが急激に埋まることに起因したロック機構500内の衝突が抑制される。
【0081】
次に、ロック機構500の係合状態から解放状態への移行が完了した時刻t3で、ECU100は、モータ制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える(グラフA5、A6参照)。そして、ECU100は、時刻t3以後、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvになるように、MG1トルクTmg1を制御する(グラフA1、A2参照)。そして、時刻「t4」において、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvになり、固定変速比モードから無段変速モードへの変速モードの移行が完了する。
【0082】
次に、時刻t2の前後にわたるそれぞれのモータMG1及びロック機構500の状態について、図7乃至図10を参照して説明する。
【0083】
まず、時刻t1から時刻t2より前までの期間「tw1」でのモータMG1及びロック機構500の状態について図7(a)乃至(c)を用いて説明する。
【0084】
図7(a)は、期間tw1の一時点でのステータSTの磁極(「ステータ磁極Lst」とも呼ぶ。)とロータROの永久磁石(「ロータ磁石Lro」とも呼ぶ。)との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図7(b)は、ロック機構500の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図7(c)は、各ロータ磁石位相TprにおいてモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P1」は、図7(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0085】
上述したように、期間tw1では、ECU100は、回転磁界制御を実行しつつ、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesに近づける。従って、この期間では、図7(a)及び図7(b)に示すように、矢印「Y3」に示される正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが、矢印「Y2」に示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも大きくなる。そして、その差分に相当するロック機構トルクThが、矢印「Y1」に示すように負回転方向に作用する。ここで、ロック機構トルクThの大きさは、図7(c)に示す両矢印「Y4」の幅、即ち動作点P1のトルクとエンジン反力トルクTesとの差分に相当する。このように、期間tw1では、モータMG1を回転させるトルクがないため、MG1回転数Nmg1は「0」となる。
【0086】
次に、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える直前に相当する時刻t2でのモータMG1及びロック機構500の状態について図8(a)乃至(c)を用いて説明する。
【0087】
図8(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図8(b)は、時刻t2でのロック機構500の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図8(c)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P2」は、図8(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0088】
時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなるため、矢印「Y5」に示される負回転方向のトルクにより、矢印「Y6」に示されるようにロータROが負回転方向に回転する。そして、ロータROの回転と共に、ステータ磁極Lstも回転する。ここで、矢印Y5に相当するトルクは、図8(c)の矢印「Y7」が示す幅、即ち動作点P2のトルクとエンジン反力トルクTesとの差分である。
【0089】
次に、固定磁界制御を行う時刻t2以後時刻t3までの期間「tw2」でのモータMG1及びロック機構500の状態について図9(a)乃至(c)を用いて説明する。
【0090】
図9(a)は、期間tw2の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図9(b)は、ロック機構500の位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図9(c)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P3」は、ロータ磁石位相Tprがエンジン反力トルクTesとMG1トルクTmg1とが釣り合う位相(以後、「釣り合い位相Tpe」とも呼ぶ。)の場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0091】
時刻t2以後では、ECU100は、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替えることにより、ステータ磁界Lstを固定する。これにより、図9(c)に示すように、ロータ磁石位相Tprは、徐々に釣り合い位相Tpeに移動する。これに合わせて、MG1トルクTmg1は、矢印「Y8」に示される挙動をし、釣り合い位相Tpeに対応する動作点P3へ収束する。従って、この場合、図9(a)に示すように、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesと負回転方向に作用するMG1トルクTmg1とが釣り合い、ロータROの回転が停止する。
【0092】
2.処理フロー
次に、第1実施形態の処理手順について図10を参照して説明する。図10は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図10に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0093】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定する(ステップS101)。そして、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS101;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS102;Yes)、ステップS103以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS101;No)、及び、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS102;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0094】
次に、ステップS103乃至S111までの処理について説明する。まず、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに釣り合うように変更する(ステップS103)。言い換えると、ECU100は、モータMG1に印加する電流(「MG1電流Img1」とも呼ぶ。)を徐々に大きくすることで、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を徐々に大きくする。
【0095】
そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定する(ステップS104)。即ち、ECU100は、MG1回転数Nmg1が変化したか否か判定する。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS104;Yes)、固定磁界制御に切り替える(ステップS105)。そして、ECU100は、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS106)。即ち、ECU100は、クラッチ板520の接触位置Ptから非接触位置Pnへの移行を開始する。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS104;No)、引き続きステップS103でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0096】
次に、ECU100は、ロック機構500を解放状態へ移行する間、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS107)。言い換えると、ECU100は、磁界最大トルクTmaxがエンジン反力トルクTesの大きさを下回らないようにMG1電流Img1をモータMG1に印加する。この具体例について説明する。まず、ECU100は、車速V及びアクセル開度Taに基づき、所定のマップ等を参照し、運転者の操作に基づく要求パワー(ドライバ要求パワー)を求める。また、ECU100は、エンジン200の出力パワーを、車速Vによって決まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びドライバ要求パワーにより求める。そして、ECU100は、エンジントルクTeを、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びエンジン200の出力パワーにより求める。そして、ECU100は、必要な固定磁界の強さを、上述のエンジントルクTeにより求め、当該固定磁界の強さに基づき、MG1電流Img1を定める。このとき、好適には、ECU100は、推定したエンジン反力トルクTesの誤差を考慮し、MG1電流Img1に余裕分を加える。具体的には、ECU100は、当該誤差が生じた場合であっても、エンジン反力トルクTesの大きさよりも、磁界最大トルクTmaxが下回らないようにMG1電流Img1を定める。
【0097】
そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定する(ステップS108)。そして、ECU100は、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS108;Yes)、ステップS109へ処理を進める。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS108;No)、引き続きステップS107でMG1電流Img1を調整する。
【0098】
次に、ECU100は、ロック機構500が解放状態になった場合、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS109)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS110)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvになった場合(ステップS111;Yes)、フローチャートの処理を終了する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数Nmcvではない場合(ステップS111;No)、引き続きステップS110でMG1トルクTmg1を調整する。
【0099】
3.効果
次に、第1実施形態の効果について、比較例を参照して説明する。
【0100】
図11は、比較例の処理概要を示すタイムチャートの一例である。図11は、上から順に、MG1トルクTmg1の時間変化、MG1回転数Nmg1の時間変化、ロータ磁石位相Tprの時間変化、ロック機構トルクThの時間変化、及びストローク量Lrの時間変化を示す。
【0101】
まず、時刻t1において、ECU100は、固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきであると判断する。そして、第1実施形態と同様、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesと釣り合うように変更する(グラフB1参照)。
【0102】
そして、時刻t2において、ECU100は、ロータ磁石位相Tpr及びMG1回転数Nmg1が変化したことを検出し(グラフB2、B3参照)、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる(グラフB5参照)。そして、時刻t2以後、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに合わせて保持する。ここで、エンジン反力トルクTesの推定誤差やMG1トルクTmg1の出力の遅れなどに起因して、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesと負回転方向に作用するMG1トルクTmg1とには、トルク差が生じる。これにより、ロック機構500が解放状態への遷移中に、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprが変化する(グラフB2、B3参照)。これにより、後述するように、比較例では、ガタGTが急激に埋まり、ショックや異音が発生する。これについては、図12及び図13でさらに場合分けして詳しく説明する。
【0103】
そして、ロック機構500の解放状態への移行が完了する時刻t3以後では、ECU100は、第1実施形態と同様、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を制御する(グラフB1、B2参照)。
【0104】
図12は、比較例における、負回転方向に作用するトルクに基づきガタGTが消滅してロック機構500内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。まず、時刻t2で、ECU100は、ロータ磁石位相Tpr及びMG1回転数Nmg1が変化したことを検出し、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる。そして、時刻t2以後、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに合わせて保持する。しかし、エンジン反力トルクTesの推定誤差などに起因して、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が大きくなる。
【0105】
従って、この場合、ロータROの回転、即ちMG1回転数Nmg1が負回転方向に加速し、時刻「t2a」で、ガタGTが急激に埋まり、ロック機構500内で衝突が発生する。そして、時刻t2aでは、モータMG1の回転が急停止すると共に、ロック機構トルクThが急激に上下する。これにより、ショックや異音が発生する。そして、時刻t3でロック機構500の解放状態への移行が完了する。
【0106】
図13は、比較例における、正回転方向に作用するトルクに基づきガタGTが消滅してロック機構500内で衝突が発生する場合のタイムチャートの一例である。
【0107】
まず、時刻t2で、ECU100は、ロータ磁石位相Tpr及びMG1回転数Nmg1が変化したことを検出し、ロック機構500を係合状態から解放状態へ遷移させる。
【0108】
そして、時刻t2以後、ECU100は、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも大きいと判断し、当該MG1トルクTmg1を小さくする。しかしながら、エンジン反力トルクTesの推定誤差等に起因して、今度は、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが大きくなる。
【0109】
これにより、時刻t2以後では、MG1回転数Nmg1及びロータ磁石位相Tprは、一旦負回転方向に変化した後、正回転方向への変化に転じる。その結果、時刻「t2b」において、ロック機構500内で衝突が発生する。そして、時刻t2bでは、モータMG1の回転が急停止すると共に、ロック機構トルクThが急激に上下する。これにより、ショックや異音が発生する。そして、時刻t3でロック機構500の解放状態への移行が完了する。
【0110】
以上を勘案し、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が変化し始めた時刻t2でモータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。これにより、ECU100は、エンジン反力トルクTesを正確に把握できなくても、モータMG1でエンジン200の反力を受け持つことができ、ロック機構500にかかるトルクをなくすことができる。従って、ECU100は、ガタGTが急激に消滅することに起因したショックや異音の発生を低減することができる。
【0111】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に加えて、ECU100は、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える際、ステータSTの磁界の強さ(「ステータ磁界強度Hst」とも呼ぶ。)を、当該切り替え判定時のステータ磁界強度Hstと、ロータROの回転加速度と、に基づき定める。これにより、ECU100は、固定磁界制御への切り替え後のロータ磁石位相Tprの動く幅を小さくし、早期に釣り合い位相Tpeに収束させる。
【0112】
以後では、前の説明と同様の部分については適宜同一の符号を付し、適宜その説明を省略する。第3実施形態及び第4実施形態でも同様とする。
【0113】
1.タイムチャート
まず、図14のタイムチャートを参照し、第2実施形態の処理の詳細について説明する。図14は、第2実施形態におけるロータ磁石位相Tpr及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。
【0114】
まず、時刻t2では、第1実施形態で説明した図8と同様、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなるため、ロータROが負回転方向に回転する。
【0115】
次に、時刻t2以後の期間tw2でのモータMG1及びロック機構500の状態について図15(a)乃至(c)を参照して説明する。
【0116】
図15(a)は、期間tw2の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図15(b)は、ロック機構500の位置関係及びMG1トルクTmg1の方向を示した図である。図15(c)は、ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。なお、図15(c)において、破線のグラフは、第1実施形態の場合、即ちモータ制御モードの切り替え前後でステータ磁界強度Hstを変更しない場合のMG1トルクTmg1のグラフを示し、実線のグラフは、第2実施形態において固定磁界で発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。また、動作点「P4」は、第2実施形態において、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0117】
図15(c)に示すように、ECU100は、時刻t2でのモータ制御モードを固定磁界制御へ切り替え後に、ステータ磁界強度Hstを弱くする。このようにすることで、第2実施形態では、ステータ磁界強度Hstを変更しない場合と比較して、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeへ移動する際のロータROの動く幅が小さくなる。具体的には、図15(c)に示すように、動作点P4が示す位相は、動作点P3が示す位相よりも、時刻t2でのロータ磁石位相Tprから矢印「Y10」の幅だけ近い。
【0118】
ここで、期間tw2で設定するステータ磁界強度Hstの算出方法の具体例について説明する。ECU100は、図2の破線枠A2に相当する回転センサの検出信号に基づき、ロータ磁石位相Tprの二階微分に相当するロータROの回転加速度を求める。そして、ECU100は、回転の運動方程式の関係に基づき、ロータROの回転加速度からMG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとの偏差の推定値(「推定偏差トルクTd」とも呼ぶ。)を求める。推定偏差トルクTdは、エンジン反力トルクTesが大きい場合を正とする。従って、時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも大きいため、推定偏差トルクTdは、負値となる。そして、ECU100は、時刻t2での回転磁界制御でのステータ磁界強度Hstに、推定偏差トルクTdに相当する磁界の強さを加算した値を、エンジン反力トルクTesに釣り合うMG1トルクTmg1を発生させるのに必要なステータ磁界強度Hstとする。そして、ECU100は、当該ステータ磁界強度Hstに、さらに正値の余裕分を加えた値を、固定磁界制御で出力すべきステータ磁界強度Hstに設定し、これに相当するMG1電流Img1をモータMG1に印加する上述の余裕分とは、具体的には、推定偏差トルクTdの推定誤差、及び、MG1電流Img1に対して発生するMG1トルクTmg1の誤差等を勘案し予め実験等に基づき定められる。ここで、推定偏差トルクTdは負値であることから、算出したステータ磁界強度Hstは、時刻t2でのステータ磁界強度Hstよりも小さい値に設定される。
【0119】
このように、第2実施形態では、ECU100は、モータ制御モードを切り替える際にステータ磁界強度Hstを変更することで、固定磁界制御への切り替え後でのロータROの動く幅を抑制する。これにより、ECU100は、釣り合い位相Tpeを探す際のMG1トルクTmg1の変化率を大きくし、ロータ磁石位相Tprを釣り合い位相Tpeに早期に移行させることができる。
【0120】
2.処理フロー
次に、第2実施形態の処理手順について図16を参照して説明する。図16は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図16に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0121】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定し(ステップS201)、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS201;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS202)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS202;Yes)、ステップS203以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS201;No)、又は、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS202;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0122】
次に、ECU100は、MG1トルクTmg1を、エンジン反力トルクTesに釣り合うように変更する(ステップS203)。具体的には、ECU100は、MG1電流Img1を徐々に大きくすることで、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を徐々に大きくする。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定し(ステップS204)、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS204;Yes)、モータ制御モードを固定磁界制御に切り替える(ステップS205)。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS204;No)、引き続きステップS203でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0123】
そして、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを変更する(ステップS206)。具体的には、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを、時刻t2でのロータROの回転加速度に基づき変更し、MG1電流Img1を調整する。そして、ECU100は、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS207)。これにより、ECU100は、ステータSTの磁界の強さを変更しない場合と比較して、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeに遷移するまでのロータROの動く幅を小さくすることができ、早期にロータ磁石位相Tprを釣り合い位相Tpeに遷移させることができる。
【0124】
次に、ECU100は、ロック機構500を解放状態へ移行する間、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS208)。そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定し(ステップS209)、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS209;Yes)、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS210)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS211、ステップS212)。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS209;No)、引き続きステップS208でモータMG1に流す電流を調整する。
【0125】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第1実施形態において、変速モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断し、エンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する際、ステータ磁極LstをMG1トルクTmg1が最大となる位相(「トルク最大位相」とも呼ぶ。)からずらし、ステータ磁界強度Hstを強くしていく。これにより、ECU100は、ロータROが釣り合い位相Tpeに遷移する際の移動幅を小さくする。
【0126】
1.タイムチャート
図17のタイムチャートを参照し、第3実施形態の処理の詳細について説明する。図17は、上から順に、ステータ磁極Lstの位相(「ステータ磁極位相Tps」とも呼ぶ。)、ロータ磁石位相Tpr、ステータ磁界強度Hstを示す。図17において、実線のグラフ「C1」、「C4」、「C5」は、第3実施形態での各要素の時間変化を示し、破線のグラフ「C2」、「C6」は、第1実施形態での各要素の時間変化を示し、一点鎖線のグラフ「C3」は、ステータSTのトルク最大位相の時間変化を示す。
【0127】
まず、時刻t1で変速モードを固定比変速モードから無段変速モードへ切り替えるべきと判断した後、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを上げる(グラフC5参照)。このとき、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsを、トルク最大位相から正回転方向にずらす(グラフC1、C3参照)。
【0128】
そして、期間tw1では、ECU100は、エンジン反力トルクTesにMG1トルクTmg1を釣り合わせるため、ステータ磁界強度Hstを徐々に強めていく(グラフC5参照)。また、ECU100は、ステータSTのトルク最大位相の変化に応じて、ステータ磁極位相Tpsとトルク最大位相とのずれ幅(「位相ずれ幅Wtp」とも呼ぶ。)を保つように、ステータ磁極位相Tpsを変化させる(グラフC1、C3参照)。
【0129】
ここで、期間tw1でのモータMG1の状態について、さらに図18(a)、(b)を参照して説明する。図18(a)は、期間tw1の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図18(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P5」は、図18(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。また、図18(a)において、斜線の破線枠「Fn」は、MG1トルクTmg1が最大となるステータ磁極LstのN極の位置を示し、破線枠「Fs」は、MG1トルクTmg1が最大となるステータ磁極LstのS極の位置を示す。
【0130】
図18(a)の矢印「Y12」、「Y13」に示すように、期間tw1では、ステータ磁極位相Tpsは、トルク最大位相よりも正回転方向にずれている。位相ずれ幅Wtpは、図18(c)に示すように、動作点P5に対応するロータ磁石位相TprとロータROのトルク最大位相との差に相当する。なお、ステータ磁極位相Tpsがトルク最大位相から正回転方向にずれることにより、図18(b)に示すように、ロータ磁石位相Tprはトルク最大位相から負回転方向にずれる。
【0131】
また、期間tw1では、図18(a)に示すように、矢印Y3に示される正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが、矢印Y2に示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも大きくなる。そして、その差分に相当するロック機構トルクThが、矢印Y1に示すように負回転方向に作用する。ここで、ロック機構トルクThの大きさは、図18(b)に示す両矢印「Y15」の幅、即ち動作点P5のトルクとエンジン反力トルクTesとの差に相当する。このように、期間tw1では、モータMG1を回転させるトルクがないため、MG1回転数Nmg1は「0」となる。
【0132】
次に、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える直前に相当する時刻t2でのモータMG1の状態について図19(a)、(b)を用いて説明する。図19(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図19(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P6」は、図19(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。また、動作点「P7」は、釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0133】
時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなる。これにより、矢印Y5に示される負回転方向のトルクにより、ロータROが負回転方向に回転する(矢印Y6、グラフC4参照)。ここで、矢印Y5に相当するトルクは、図19(c)の矢印「Y16」が示す幅である。また、図19(a)、(b)に示すように、時刻t2では、引き続き、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相に対して正回転方向へ位相ずれ幅Wtpを保っている(矢印Y12、Y13参照)。
【0134】
そして、時刻2以後の期間tw2では、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeに遷移する。即ち、この場合、MG1トルクTmg1の動作点は、動作点P6から動作点P7へ遷移する。
【0135】
ここで、図20(a)、(b)を参照して、第3実施形態による効果について補足説明する。
【0136】
図20(a)は、回転磁界制御から固定磁界制御への切り替え前後でのロータ磁石位相Tprの移動幅を示す図である。図20(a)において、グラフ「D1」は、第3実施形態に係るロータ磁石位相TprとMG1トルクTmg1との関係を示すグラフであり、グラフ「D2」は、第1実施形態に係るロータ磁石位相TprとMG1トルクTmg1との関係を示すグラフである。また、「切り替え時ロータ磁石位相」とは、時刻t2に対応するロータ磁石位相Tprを指す。さらに、動作点「P8」は、切り替え時ロータ磁石位相に対応するMG1トルクTmg1の動作点を示し、動作点「P9」は、第3実施形態での釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示し、動作点「P10」は、第1実施形態での釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0137】
図20(a)に示すように、第3実施形態において、切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移するまでにロータROの動く幅は、矢印「Y18」の長さに相当する。また、第1実施形態において、切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移するまでにロータROの動く幅は、矢印「Y19」の長さに相当する。このように、第3実施形態では、ECU100がステータ磁極位相Tpsを位相ずれ幅Wtpだけずらしたことにより、第1実施形態の場合と比較して、ロータROの動く幅が小さい。具体的には、第3実施形態では、ECU100が切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、ロータ磁石位相Tprを切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移する場合に、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化勾配が大きくなる。これにより、ECU100は、時刻t2以後でのロータROの動く幅を小さくすることができ、乗員の違和感を低減することができる。
【0138】
また、スリップや路面の凹凸などに起因してタイヤなどから伝わるトルクの変動、その他エンジン200のトルク変動等によって、エンジン反力トルクTesが変動した場合であっても、第3実施形態では、ロータROの動く幅が低減される。これについて図20(b)を参照して説明する。
【0139】
図20(b)は、エンジン反力トルクTesの変化に対応するロータ磁石位相Tprの移動幅を示す図である。図20(b)において、動作点「P11a」及び動作点「P11b」は、第3実施形態において、エンジン反力トルクTesが変動する範囲の境界値に対応するMG1トルクTmg1の動作点を示し、動作点「P12a」及び動作点「P12b」は、第1実施形態において、エンジン反力トルクTesが変動する範囲の境界値に対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0140】
図20(b)に示すように、第3実施形態では、エンジン反力トルクTesの変動幅に対して、矢印「Y20」が示す幅、即ち、動作点P11aと動作点P11bとの位相差だけロータ磁石位相Tprが変化する。一方、第1実施形態では、エンジン反力トルクTesの変動幅に対して、矢印「Y21」が示す幅、即ち、動作点P12aと動作点P12bとの位相差だけロータ磁石位相Tprが変化する。そして、矢印Y20が示す幅は、矢印Y21が示す幅よりも小さい。このように、第3実施形態では、エンジン反力トルクTesが変動した場合であっても、ECU100は、切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化の勾配を大きくし、ロータROの動く幅を低減することができる。
【0141】
2.処理フロー
次に、第3実施形態の処理手順について図21を参照して説明する。図21は、第3実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図21に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0142】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定する(ステップS301)。そして、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS301;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS302)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS302;Yes)、ステップS303以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS301;No)、又は、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS302;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0143】
次に、ステップS303乃至S315までの処理について説明する。まず、ECU100は、設定すべきステータSTの位相ずれ幅Wtpを算出する(ステップS303)。ECU100は、例えばエンジントルクTeの要求値等に基づき、所定のマップ又は式等を参照して位相ずれ幅Wtpを算出する。上述のマップ等は、実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0144】
次に、ECU100は、設定すべきステータ磁界強度Hstを算出する(ステップS304)。例えば、ECU100は、現在のステータ磁界強度Hstに所定値加えた値を設定すべきステータ磁界強度Hstとする。上述の所定値は、例えばMG1トルクTmg1の急な上昇によりMG1回転数Nmg1の変化を検出できずにロック機構500内で衝突が発生しない範囲の値に、実験等に基づき予め定められる。
【0145】
次に、ECU100は、ステップS304で求めたステータ磁界強度Hstが所定値Hth以下であるか否か判定する(ステップS305)。ここで、所定値Hthは、ステータ磁界強度Hstの設定可能な上限値に相当し、例えば実験等に基づき予め定められる。
【0146】
そして、ECU100は、ステータ磁界強度Hstが所定値Hth以下であると判断した場合(ステップS305;Yes)、当該ステータ磁界強度Hst及び位相ずれ幅Wtpに基づき、ステータSTの磁界を出力する(ステップS306)。これにより、ECU100は、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させることができる。
【0147】
一方、ECU100は、ステータ磁界強度Hstが所定値Hthより大きいと判断した場合(ステップS305;No)、現在のステータ磁界強度Hstを保持したまま、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相へ遷移させる(ステップS307)。これにより、ECU100は、ステータ磁界強度Hstを上昇させられない場合であっても、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させることができる。
【0148】
そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定する(ステップS308)。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS308;Yes)、固定磁界制御に切り替える(ステップS309)。そして、ECU100は、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS310)。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS308;No)、引き続きステップS304乃至S307でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0149】
次に、ECU100は、ロック機構500の解放状態への遷移中に、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS311)。そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定し(ステップS312)、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS312;Yes)、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS313)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS314、ステップS315)。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS312;No)、引き続きステップS311でモータMG1に流す電流を調整する。
【0150】
<第4実施形態>
第4実施形態では、第3実施形態に代えて、ECU100は、固定比変速モードから無段変速モードへ切り替える場合、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合わせる前にモータ制御モードを固定磁界制御に切り替え、ステータSTをトルク最大位相からずらした状態からトルク最大位相へ徐々に変化させる。
【0151】
1.タイムチャート
図22のタイムチャートを参照し、第4実施形態の処理の詳細について説明する。図22は、上から順に、ステータ磁極位相Tps、ロータ磁石位相Tpr、及びステータ磁界強度Hstを示す。図22において、実線のグラフ「E1」、「E4」、「E5」は、第4実施形態での各要素の時間変化を示し、破線のグラフ「E2」、「E6」は、第1実施形態での各要素の時間変化を示し、一点鎖線のグラフ「E3」は、ステータSTのトルク最大位相の時間変化を示す。
【0152】
まず、時刻t1で固定比変速モードから無段変速モードへ切り替えるべきと判断した後、ECU100は、モータ制御モードを固定磁界制御にし、ステータ磁界強度Hstを上げる(グラフE5参照)。このとき、ECU100は、まず、一時的にステータ磁極位相Tpsを位相ずれ幅Wtpだけトルク最大位相から正回転方向にずらす(グラフE1、E3参照)。この場合の位相ずれ幅Wtpを、特に「初期位相ずれ幅Wtps」とも呼ぶ。そして、ECU100は、期間tw1でステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相へ徐々に変化させる。即ち、ECU100は、位相ずれ幅Wtpを初期位相ずれ幅Wtpsから徐々に減少させる。
【0153】
ここで、期間tw1でのモータMG1の状態について、さらに図23(a)、(b)を参照して説明する。図23(a)は、期間tw1の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図23(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P14」は、図23(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0154】
図23(a)に示すように、ステータ磁極位相Tpsは、トルク最大位相よりも正回転方向にずれている。これにより、図23(b)に示すように、ロータ磁石位相Tprはトルク最大位相から負回転方向にずれる。そして、期間tw1では、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相へ徐々に変化させる。これにより、ロータ磁石位相Tprは、トルク最大位相へ徐々に近づく。
【0155】
また、期間tw1では、図23(a)に示すように、矢印Y3に示される正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesが、矢印Y2に示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1よりも大きくなる。そして、その差分に相当するロック機構トルクThが、矢印Y1に示すように負回転方向に作用する。ここで、ロック機構トルクThの大きさは、図23(b)に示す両矢印「Y25」の幅に相当する。このように、当該期間では、モータMG1を回転させるトルクがないため、MG1回転数Nmg1は「0」となる。
【0156】
次に、MG1回転数Nmg1が変化する時刻t2でのモータMG1の状態について図24(a)、(b)を用いて説明する。図24(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図24(b)は、ロータ磁石位相Tprに対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。動作点「P15」は、図24(a)に示すロータ磁石位相Tprの場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。また、動作点「P16」は、釣り合い位相Tpeに対応するMG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0157】
時刻t2では、負回転方向に作用するMG1トルクTmg1が正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesより大きくなる。これにより、矢印Y5に示される負回転方向のトルクにより、ロータROが負回転方向に回転する(矢印Y6、グラフE4参照)。ここで、矢印Y5に相当するトルクの大きさは、図24(b)の矢印「Y27」が示す幅、即ち動作点P15が示すトルクとエンジン反力トルクTesとの差に相当する。また、図24(a)、(b)に示すように、時刻t2では、引き続き、ステータ磁極位相Tpsは、トルク最大位相に対して正回転方向へずれている(矢印Y28、Y29参照)。
【0158】
そして、時刻2以後の期間tw2では、ロータ磁石位相Tprが釣り合い位相Tpeに遷移する。この場合、MG1トルクTmg1の動作点は、動作点P15から動作点P16へ遷移する。
【0159】
このように、第4実施形態では、ECU100は、切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、第3実施形態と同様、ロータ磁石位相Tprを切り替え時ロータ磁石位相から釣り合い位相Tpeへ遷移させる場合に、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化の勾配を大きくしている。これにより、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替える場合のロータROの動く幅を小さくすることができ、乗員の違和感を低減することができる。また、ECU100は、エンジン反力トルクTesが変動した場合であっても、切り替え時ロータ磁石位相をトルク最大位相からずらしたことにより、ロータ磁石位相Tprの変化に対するMG1トルクTmg1の変化の勾配を大きくし、ロータROの動く幅を低減することができる。
【0160】
さらに、第4実施形態では、ECU100は、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesに釣り合わせる場合に、ステータ磁界強度Hstを変更せず、ステータ磁極位相Tpsのみを変化させる。このため、第4実施形態による制御は、制御性がよく、応答が速い。
【0161】
2.処理フロー
次に、第4実施形態の処理手順について図25を参照して説明する。図25は、第4実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図25に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0162】
まず、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであるか否か判定する(ステップS401)。そして、ECU100は、モータ制御モードが固定変速比モードであると判断した場合(ステップS401;Yes)、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるか否か判定する(ステップS402)。そして、ECU100は、モータ制御モードを無段変速モードへ切り替えるべきと判断した場合(ステップS402;Yes)、ステップS403以後の処理を行う。一方、ECU100は、モータ制御モードが無段変速モードであると判断した場合(ステップS401;No)、又は、モータ制御モードを固定変速比モードから無段変速モードへ切り替えるべきでないと判断した場合(ステップS402;No)、フローチャートの処理を終了する。
【0163】
次に、ステップS403乃至S416までの処理について説明する。まず、ECU100は、モータ制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える(ステップS403)。そして、ECU100は、初期位相ずれ幅Wtpsを算出する(ステップS404)。例えば、ECU100は、エンジントルクTeの要求値等に基づき、所定のマップ又は式等を参照して初期位相ずれ幅Wtpsを算出する。上述のマップ等は、実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0164】
次に、ECU100は、設定すべきステータ磁界強度Hstを算出する(ステップS405)。ここで、ステータ磁界強度Hstは、エンジン反力トルクTesの変動範囲を考慮し、磁界最大トルクTmaxがエンジン反力トルクTesを下回らない値に、実験等に基づき予め定められる。
【0165】
次に、ECU100は、設定すべきステータ磁極位相Tpsを算出する(ステップS406)。具体的には、ECU100は、ステップS406を実行するごとに、段階的にステータ磁極位相Tpsがトルク最大位相に近づくように、ステータ磁極位相Tpsを定める。
【0166】
そして、ECU100は、現在のステータ磁極位相Tpsがトルク最大位相に達しているか否か判定する(ステップS407)。そして、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsがまだトルク最大位相に達していないと判断した場合(ステップS407;No)、算出したステータ磁極位相Tpsに基づきステータSTの磁界を出力する(ステップS408)。これにより、ECU100は、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させる。
【0167】
一方、ECU100は、ステータ磁極位相が既にトルク最大位相に達していると判断した場合(ステップS407;Yes)、ステータ磁極位相Tpsをトルク最大位相に保持したまま、ステータ磁界強度Hstを上昇させる(ステップS409)。これにより、ECU100は、ステータ磁極位相Tpsが既にトルク最大位相に達している場合であっても、MG1トルクTmg1をエンジン反力トルクTesと釣り合うように遷移させることができる。
【0168】
そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したか否か判定する(ステップS410)。そして、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化したと判断した場合(ステップS410;Yes)、ロック機構500を解放状態に遷移させる(ステップS411)。一方、ECU100は、ロータ磁石位相Tprが変化していないと判断した場合(ステップS410;No)、引き続きステップS406乃至S409でエンジン反力トルクTesに釣り合うようにMG1トルクTmg1を変更する。
【0169】
次に、ECU100は、ロック機構500を解放状態へ移行する間、エンジン反力トルクTesに応じてMG1電流Img1を調整する(ステップS412)。そして、ECU100は、ロック機構500の解放状態への移行が完了したか否か判定し(ステップS413)、解放状態への移行が完了したと判断した場合(ステップS413;Yes)、モータ制御モードを回転磁界制御に切り替える(ステップS414)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1がCVT目標回転数NmcvになるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS415、ステップS416)。一方、ECU100は、解放状態への移行が完了していないと判断した場合(ステップS413;No)、引き続きステップS412でMG1電流Img1を調整する。
【符号の説明】
【0170】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
100 ECU
200 エンジン
300 動力分割機構
400 入力軸
500 ロック機構
600 MG2リダクション機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、
前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、
固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、
前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、
前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、
前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、前記回転電機の回転数が変化したときに、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える切り替え手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記固定子の位相を前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずらし、前記固定子の磁界を強くすることで、前記回転電機の回転数を変化させる請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記回転子の回転加速度に基づき、固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを決定する請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記切り替え手段は、
前記制御モードを固定磁界制御に切り替えた後、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、
当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
エンジンと、
前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、
前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、
固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、
前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、
前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、
前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える場合において、前記回転電機が付与するトルクと前記エンジンのトルクの反力を釣り合わせるとき、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替え、かつ、前記固定子の位相を、前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずれた位相から、前記回転子に最大のトルクがかかる位相へ遷移させる切り替え手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記切り替え手段は、
前記回転電機の回転数が変化したとき、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、
当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える請求項5に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、
前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、
固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、
前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、
前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、
前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える際、前記回転電機の回転数が変化したときに、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える切り替え手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記固定子の位相を前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずらし、前記固定子の磁界を強くすることで、前記回転電機の回転数を変化させる請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記切り替え手段は、前記制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える時に、前記回転子の回転加速度に基づき、固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを決定する請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記切り替え手段は、
前記制御モードを固定磁界制御に切り替えた後、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、
当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
エンジンと、
前記エンジンのトルクにより回転する回転要素と、
前記回転要素を回転不能なロック状態と、回転可能な非ロック状態との間で切り替え可能であって、回転方向にガタを有するロック機構と、
固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて前記回転要素にトルクを付与する回転電機と、
前記回転要素を前記ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を当該ロック機構で受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを駆動軸に伝達させるように制御を行う第1の伝達制御手段と、
前記回転要素を前記非ロック状態にすることで、前記エンジンのトルクの反力を前記回転電機に受け持たせつつ、前記エンジンのトルクを前記駆動軸に伝達させるように制御を行う第2の伝達制御手段と、
前記第1の伝達制御手段による制御から前記第2の伝達制御手段による制御へ切り替える場合において、前記回転電機が付与するトルクと前記エンジンのトルクの反力を釣り合わせるとき、前記回転電機の制御モードを回転磁界制御から固定磁界制御に切り替え、かつ、前記固定子の位相を、前記回転子に最大のトルクがかかる位相からずれた位相から、前記回転子に最大のトルクがかかる位相へ遷移させる切り替え手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記切り替え手段は、
前記回転電機の回転数が変化したとき、前記回転要素を前記ロック状態から前記非ロック状態へ遷移させ、
当該非ロック状態への遷移が完了した場合、前記制御モードを固定磁界制御から回転磁界制御に切り替える請求項5に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−101736(P2012−101736A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253619(P2010−253619)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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