ハイブリッド車両の発電制御装置
【課題】トラクション制御介入時、バッテリへの過充電を防止しつつ、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現すること。
【解決手段】ハイブリッド車両の発電制御装置は、エンジン3と、発電機5と、バッテリ8と、駆動モータ11と、トラクション制御手段(図4)と、トラクション制御対応発電制御手段(図2)と、を備える。トラクション制御手段は、駆動輪13,13がスリップする車輪スリップ発生時、駆動モータ11へのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行う。トラクション制御対応発電制御手段は、トラクション制御の介入により、バッテリ8への充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、発電電力を低下させる機能を有する(図7)。
【解決手段】ハイブリッド車両の発電制御装置は、エンジン3と、発電機5と、バッテリ8と、駆動モータ11と、トラクション制御手段(図4)と、トラクション制御対応発電制御手段(図2)と、を備える。トラクション制御手段は、駆動輪13,13がスリップする車輪スリップ発生時、駆動モータ11へのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行う。トラクション制御対応発電制御手段は、トラクション制御の介入により、バッテリ8への充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、発電電力を低下させる機能を有する(図7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動される発電機を備え、車輪スリップを抑制するトラクション制御を行うハイブリッド車両の発電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両コントローラにおいて、走行用モータの回転数に基づいて車輪の加速度を演算し、演算された車輪加速度と、走行用モータのトルク指令値に基づいて算出される車体加速度から、車輪のスリップの有無を判定する。そして、車輪スリップ有りと判定された場合は、走行用モータへのトルク指令値を減少させてモータコントローラへ指令する(以下、「トラクション制御」という。)。車輪スリップ無しと判定された場合は、走行用モータへのトルク指令値をアクセルペダル踏込量に応じた通常走行の指令値となるように制御する。これにより、摩擦抵抗の低い路面における走行をスムーズに行なえるようにすることを狙いとしている電気自動車の駆動制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−182118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、充放電可能電力が制限されている場合において先行技術の駆動制御を行うと、車輪スリップ有りと判断された場合、駆動電力を減少させるような制御を実施することになり、発電電力と駆動電力にて大きな電力差が発生してしまう。ところが、充放電可能電力の制限によりバッテリ充放電可能電力の許容値が少なく、トラクション制御で必要としている目標値まで駆動力を減少させることができない。そのため、狙い通りのトラクションを得ることができず、所望の加速が得られなくなる、という問題があった。
【0005】
また、充放電可能電力を超えてバッテリへ充電した場合、狙い通りのトラクションが得られるが、過度な充電による内部抵抗上昇により、極度な電圧上昇が発生し、バッテリの耐久信頼性を損なわせる可能性がある、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、トラクション制御介入時、バッテリへの過充電を防止しつつ、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現することができるハイブリッド車両の発電制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の発電制御装置は、エンジンと、発電機と、バッテリと、駆動モータと、トラクション制御手段と、トラクション制御対応発電制御手段と、を備える手段とした。
前記発電機は、前記エンジンにより駆動され、車両駆動用の電力を生成する。
前記バッテリは、前記発電機による発電電力を充電により蓄える。
前記駆動モータは、前記バッテリの放電による駆動電力により駆動輪を駆動する。
前記トラクション制御手段は、前記駆動輪がスリップする車輪スリップ発生時、前記駆動モータへのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行う。
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御の介入により、前記バッテリへの充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、前記発電電力を低下させる機能を有する。
【発明の効果】
【0008】
したがって、トラクション制御の介入により、バッテリへの充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、トラクション制御対応発電制御手段において、発電電力を低下させる制御が行われる。
すなわち、発電走行中にトラクション制御が介入すると駆動電力が低下するが、このとき充放電量許容範囲を超える分の発電電力を低下させる制御を行うことにより、駆動電力と発電電力との間で発生する電力差が小さく抑えられ、バッテリの充放電量が、予め定められた充放電量許容範囲内に収められる。
このため、トラクション制御介入時であって、バッテリへの充放電可能電力が制限されている場合、バッテリの充電量許容範囲を超える過充電が防止される。そして、トラクション制御介入時、バッテリへの充放電可能電力が制限されている場合においても駆動力の減少が許容されることにより、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御が高応答に実現される。
この結果、トラクション制御介入時、バッテリへの過充電を防止しつつ、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の発電制御装置が適用されたシリーズハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の全体システムを示すシステム構成図である。
【図2】実施例1の発電制御装置におけるシステムコントローラにて実行される発電制御動作の流れを示すフローチャートである。
【図3】図2の発電制御動作のうち目標トルク算出処理で用いられるアクセル開度と回転数とトルクの関係テーブルを示すトルクマップ図である。
【図4】図2の発電制御動作のうちトラクション制御部の処理を示すブロック図である。
【図5】図2の発電制御動作のうち駆動トルク算出処理を示すブロック図である。
【図6】図2の発電制御動作のうち駆動トルク算出処理で用いられる電池温度に対する充放電可能電力を示す充放電可能パワーマップ図である。
【図7】図2の発電制御動作のうち目標発電電力演算処理を示す制御ブロック図である。
【図8】図2の発電制御動作のうち発電制御で用いられる回転数とトルクの関係テーブルを示す運転点マップ図である。
【図9】スリップ時の減少電力と加算回転数の関係テーブルを示すトラクション制御対応マップ図である。
【図10】図2の発電制御動作のうちトラクション制御部の処理を示すフローチャートである。
【図11】車輪速サーボ系を示す制御ブロック図である。
【図12】図2の発電制御動作のうち駆動トルク算出処理を示すフローチャートである。
【図13】図2の発電制御動作のうち目標トルクと目標回転数の算出処理を示すブロック図である。
【図14】図2の発電制御動作のうち目標トルクと目標回転数の算出処理を示すフローチャートである。
【図15】比較例において充放電可能電力が制限されているときのアクセル開度・実モータ回転数・CAN車速・駆動電力・発電電力・充放電電力・発電機回転数・発電機トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【図16】実施例1において充放電可能電力が制限されているときのアクセル開度・実モータ回転数・CAN車速・駆動電力・発電電力・充放電電力・発電機回転数・発電機トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハイブリッド車両の発電制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の発電制御装置が適用されたシリーズハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の全体システムを示すシステム構成図である。以下、図1に基づき全体構成を説明する。
【0012】
実施例1のシリーズハイブリッド車両は、図1に示すように、システムコントローラ1と、エンジンコントローラ2と、エンジン3と、発電機コントローラ4と、発電機5と、発電機インバータ6と、バッテリコントローラ7と、バッテリ8と、駆動モータコントローラ9と、駆動インバータ10と、駆動モータ11と、減速機12と、駆動輪13,13と、を備えている。なお、14は車輪速度センサ、15はモータ回転センサ、16は電流センサである。
【0013】
前記シリーズハイブリッド車両は、エンジン3を発電のみに使用し、駆動モータ11を駆動輪13,13の駆動と回生のみに使用するシリーズ方式(直列方式)のハイブリッド車両である。簡単に言うと、発電システムを搭載した電気自動車である。よって、走行モードとしては、エンジン3を用いる走行モードが無く、電気自動車走行モード(=EV走行モード)のみである。
【0014】
前記エンジン3は、発電のための駆動力を発電機5へ伝達する。前記発電機5は、エンジン3の駆動力によって回転して発電する。つまり、発電装置は、主にエンジン3と発電機5から構成される。また、発電機5は、モータとしての機能も併せて有し、エンジン始動時にクランキングさせることや、エンジン3を発電機5の駆動力を用いて力行回転させることで、電力を消費することができる。
【0015】
前記発電機インバータ6は、発電機5とバッテリ8と駆動インバータ10に接続され、発電機5が発電する交流の電力を直流に変換、あるいは、逆変換を行う。
【0016】
前記バッテリ8は、発電機5と駆動モータ11それぞれの回生電力の充電、駆動電力の放電を行う。
【0017】
前記駆動インバータ10は、バッテリ8と発電機インバータ6から供給される直流の電力を、駆動モータ11の交流電流に変換、あるいは、逆変換を行う。
【0018】
前記駆動モータ11は、駆動力を発生し減速機12を通して駆動輪13,13に駆動力を伝達する。そして、車両の走行時、駆動輪13,13に連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることでエネルギーを回生する。
【0019】
前記エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値を実現するために、エンジン3の回転数や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を調整する。
【0020】
前記発電機コントローラ4は、システムコントローラ1から指令される発電機トルク指令値を実現するために、発電機の回転数や電圧などの状態に応じて、発電機インバータ6をスイッチング制御する。
【0021】
前記バッテリコントローラ7は、バッテリ8へ充放電される電流や電圧を元にバッテリSOC(バッテリ充電状態をいい、SOCは「State Of Charge」の略)を計測し、システムコントローラ1へ出力する。また、バッテリ8の温度、バッテリ8の充電効率、バッテリSOCに応じた入力可能パワー、バッテリSOCに応じた出力可能パワーを演算し、システムコントローラ1へ出力する。
【0022】
前記駆動コントローラ9は、システムコントローラ1から指令される駆動トルクを実現するために、駆動モータ11の回転数や電圧などの状態に応じて、駆動インバータ10をスイッチング制御する。
【0023】
前記システムコントローラ1は、運転者のアクセルペダル操作量、車速、(路面)勾配などの車両状態、バッテリコントローラ7からのバッテリSOC、入力可能パワー、出力可能パワー、発電機5の発電電力などに応じて、駆動モータ11へ駆動トルクを指令する。さらに、バッテリ8へ充電し、駆動モータ11へ供給するための目標発電電力PGを演算する。
【0024】
次に、システムコントローラ1の動作について、図2に示す制御フローチャートに基づいて説明する(トラクション制御対応発電制御手段)。この動作は、バッテリ温度が低下していてバッテリ8への充放電が制限されている(バッテリ入力可能電力(PIN)=小、バッテリ出力可能電力(POUT)=小)ときの、駆動要求に応じた電力を発電し、発電電力に応じた駆動電力の消費を行うダイレクト配電中に、スリップが発生し、トラクション制御を行っている場合を例にとる。なお、これらの演算は、システムコントローラ1において制御演算周期(例えば、10msec)毎に実行される。
【0025】
ステップS1の入力処理では、以下で説明する制御演算に必要な信号を、センサ入力、または、他のコントローラより通信にて取得する。
発電機5の発電機回転数ωgは、レゾルバやエンコーダなどのモータ回転センサにより取得する。駆動モータ4の駆動モータ回転数ωmも同様に、レゾルバやエンコーダなどのモータ回転センサ15により取得する。ドライバー操作によるアクセル開度θは、アクセル開度センサにより取得する。バッテリ8の電圧は、直流電圧値Vdc[V]は、直流電源ラインに備え付けられた電圧センサ、またはバッテリコントローラ7より送信される電源電圧値により求める。実発電電力Pgは、バッテリ8の直流電圧値Vdc[V]、バッテリ電流センサ値[A]、駆動電流センサ値[A]より、実際に発電機5で発電された電力を求める。
【0026】
ステップS2の目標トルク算出処理では、アクセル開度θおよび車速Vに基づき、図3に示すアクセル開度-トルクテーブルより、目標トルク指令値Tmを設定する。
【0027】
ステップS3のトラクション制御では、図4に示すように、モータ回転数ωm、従動輪車輪速ωvに基づいて駆動輪13,13のスリップ状態を判断し、スリップを解消するスリップトルク指令値Tslipを算出する。トルク制御処理については、スリップ有りと判定された場合は今回の演算したスリップトルク指令値をTslipとし、スリップ無しと判定された場合は、ステップS2で設定したトルク指令値をTmとなるように制御する。トラクション制御部の処理については、詳細を後述する。
【0028】
ステップS4の駆動トルク算出処理では、スリップトルク指令値Tslip、LB入力可能電力Pin、LB出力可能電力Pout、駆動制御用発電電力Pg、駆動モータ回転数ωmに基づいて、図5に示すブロック図より、駆動トルクTDを設定する。充放電可能電力は、バッテリコントローラ7で演算された値であり、図6で示すような電池温度に対する充放電可能パワーマップを使う。駆動トルク算出フローは、駆動で消費した駆動制御用発電電力Pgと、バッテリへ充電可能な電力Pinを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより下限駆動トルクTminをマップより算出する。同様に駆動制御用発電電力Pgと、バッテリから出力可能な電力Poutを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより、上限駆動トルクTmaxをマップより算出する。
【0029】
ステップS5の目標発電電力演算処理では、スリップトルク指令値Tslip、駆動トルクTD、駆動モータ回転数ωm、スリップ介入前の目標発電電力PGaに基づいて、図7に示すブロック図より、バッテリ8への充放電が許容されない減少電力Pdownと、目標発電電力PGと、を設定する。目標発電電力演算処理については、詳細を後述する。
【0030】
ステップS6の発電制御においては、目標発電電力PGを実現するためにエンジン3と発電機5を制御する。非トラクション制御時は、燃費や応答性を考慮して発電電力を得るために予め設定した、発電機5の回転数とエンジン1のトルクの関係であり、図8の実線に示す運転点マップ(α線)を用いて発電機回転数目標値とエンジントルク目標値を求め、エンジンコントローラ2へエンジントルク目標値を出力するとともに発電機回転数目標値を発電機コントローラ4へ出力する。
【0031】
トラクション制御時は、目標発電電力PGとスリップ時の減少電力Pdown、スリップ前の回転数ωGaに基づいて、目標トルクTGと目標回転数ωGを設定する。これは、図9に示すスリップ時の減少電力Pdownと加算回転数ωGbのマップにより、トラクション制御時に加算したい加算回転数ωGbを算出し、スリップ前の回転数ωGaと加算することで、目標回転数ωGを設定する。ここで、スリップ時の減少電力Pdownが大きいほど加算回転数ωGbを増やす理由は、スリップ時の減少電力Pdownが大きい程、トルクを抜いた瞬間に上昇するエンジン回転数が高いため、それを予め見越した目標回転数に設定しておくためである。
【0032】
発電制御では、発電機インバータ6と発電機5の損失を考慮して、実際に発電する発電電力PGを演算し、発電機インバータ6へ出力する。そして、エンジン回転数目標値である目標回転数ωGをエンジンコントローラ2へ出力すると共に、発電機5のトルク目標値である目標トルクTGを、発電機コントローラ4へ出力することで、エンジン3と発電機5、発電機インバータ6が、所望の発電量で発電することができる。
【0033】
次に、駆動モータコントローラ9と発電機コントローラ4、エンジンコントローラ2での処理を説明する。
まず、駆動モータコントローラ9の電流指令値算出処理では、ステップS5で算出した駆動トルク指令値TDと駆動モータ回転数ωmおよび直流電圧値Vdcから、dq軸電流目標値id*、iq*をテーブルより参照して求める。そして電流制御では、まず三相電流値iu、iv、iwと駆動モータ回転数ωmからdq軸電流値id、iqを演算する。電流指令値算出処理で演算したdq軸電流目標値id*、iq*とdq軸電流id、iqとの偏差からdq軸電圧指令値vd、vqを演算する。なお、この部分には非干渉制御を加えることもある。次に、dq軸電圧指令値vd、vqと駆動モータ回転数ωmから三相電圧指令値vu、vv、vwを演算する。この三相電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧VdcからPWM信号(on duty)tu[%]、tv[%]、tw[%]を演算する。このようにして求めたPWM信号によりインバータ10のスイッチング素子を開閉制御することにより、駆動モータ11をトルク指令値で指示された所望のトルクで駆動することができる。発電機コントローラ4も同様に、システムコントローラ1より目標発電電力PGを受け、駆動モータコントローラ9と同様な電流指令値算出処理と電流制御の演算を行う。エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値を実現するために、エンジン3の回転数や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル、点火時期、燃料噴射量を調整する。
【0034】
次に、トラクション制御に関して、図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
トラクション制御は、車輪スリップ時に、モータ回転数ωmから演算した駆動輪速度を目標車速に追従させるように車輪速サーボを行う。車輪速サーボは、図11に示すロバストモデルマッチング制御を用いスリップトルク指令値Tslipを演算する。このスリップトルク指令値Tslipが、バッテリ充放電電力にて予め定められた許容範囲を超える場合は発電電力を調整する機能を有しており、調整するか否かでモデルマッチング補償器の時定数を変更することを特徴とする。目標駆動輪速度ωtは、従動輪速度ωvに一定の値(例えば、5km/h)を加算した値とする。
【0035】
ステップS3-1では、駆動モータ回転数ωmと、従動輪速度ωvよりスリップ状態を判断する。
【0036】
ステップS3-2では、発電機5を使用する(バッテリ充放電電力にて予め定められた許容範囲を超える)か否かを判断する。発電機5を使用する場合はステップS3-3へ、使用しない場合はステップS3-4へそれぞれ進む。
【0037】
ステップS3-3では、車輪速サーボで使うモデルマッチング補償器のゲインをLOW値(低ゲイン値)に設定し、ステップ3-5へ進む。
【0038】
ステップS3-4では、車輪速サーボで使うモデルマッチング補償器のゲインをHI値(高ゲイン値)に設定し、ステップ3-5へ進む。
【0039】
ステップS3-5では、車輪速サーボ演算を行い、駆動輪速度ωmが目標駆動輪速度ωtに一致するために必要な駆動輪トルク指令値Tslipを求める。尚、車輪速サーボにおけるモデルマッチング補償器の時定数は、ステップS3-3、ステップS3-4で設定した値を使う。
【0040】
次に、駆動トルク算出処理部の詳細に関して、図12に示す駆動トルク算出処理部のフローチャートに基づいて説明する。
駆動トルク算出処理では、スリップトルク指令値Tslip、LB入力可能電力Pin、LB出力可能電力Pout、駆動制御用発電電力Pg、駆動モータ回転数ωmに基づいて、駆動トルクTDを設定する。駆動で消費した駆動制御用発電電力Pgと、バッテリ8へ充電可能な電力Pinを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより下限駆動トルクTminをマップより算出する。同様に駆動制御用発電電力Pgと、バッテリ8から出力可能な電力Poutを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより、上限駆動トルクTmaxをマップより算出する。
尚、これらの演算は、システムコントローラ1において制御演算周期(例えば、10msec)毎に実行される。
【0041】
ステップS4-1では、駆動制御用発電電力PgからLB入力可能電力Pinを減算し、発電可能下限電力Pminに格納する。
【0042】
ステップS4-2では、発電可能下限電力Pminと駆動モータ回転数ωmから、最小駆動トルクマップより駆動要求可能下限トルクTminを算出する。
【0043】
ステップS4-3では、駆動制御用発電電力PgからLB入力可能電力Poutを減算し、発電可能上限電力Poutに格納する。
【0044】
ステップS4-4では、発電可能上限電力Pmaxと駆動モータ回転数ωmから、最大駆動トルクマップより駆動要求可能上限トルクTmaxを算出する。
【0045】
ステップS4-5では、スリップトルク指令値Tslipに対し、Tminで値の下限値をリミットしTmaxで値の上限値をリミットし、駆動トルクTDとする。そしてENDへ進む。
【0046】
次に、目標発電電力演算処理の詳細に関して、図7に示す目標発電電力演算処理ブロック図に基づいて説明する。
目標発電電力演算処理では、目標発電電力PGと減少電力Pdownを算出する。
算出式は、スリップ介入直前の発電電力Pga、スリップトルク指令値Tslip、駆動モータ回転数ωm、駆動トルクTDを考慮した計算式を用いて行う。計算式は、
PDt=Tslip・ωm
PD=TD・ωm
Pdown=PD−PDt
Pdown=TD・ωm−Tslip・ωm
Pdown=(TD−Tslip)ωm
PG=PGa−Pdown
PG=PGa−(TD−Tslip)ωm …式(1)
である。
ここで、
Tslip:スリップトルク指令値
ωm:駆動モータ回転数
PDt:スリップ駆動指令電力
TD:駆動トルク指令値
PD:実駆動指令電力
PGa:スリップ介入直前の発電電力
Pdown:減少電力
PG:目標発電電力
である。
【0047】
次に、発電制御の詳細に関して、図13に示す発電制御のブロック図に基づいて説明する。目標発電電力PGとスリップ介入直前の回転数ωGaとスリップ時の減少電力Pdownよる加算回転数ωGb、目標トルクTGと目標回転数ωGを決定する。計算式は、
ωG=ωGa+ωGb
TG=PG/ωG
TG={PGa−(TD−Tslip)ωm}/(ωGa+ωGb) …式(2)
である。
ここで、
ωG:目標回転数
ωGa:スリップ介入前の回転数
ωGb:加算回転数
TG:目標トルク
である。
【0048】
尚、目標発電電力PGを実現するためにエンジン3と発電機5を制御する。通常走行の非スリップ時は、燃費や応答性を考慮して発電電力を得るために予め設定した、発電機5の回転数とエンジン3のトルクの関係である図8の実線に示す運転点マップを用い、発電機回転数目標値とエンジントルク目標値を求め、エンジンコントローラ2へエンジントルク目標値を出力するとともに発電機回転数目標値を回転数制御に出力する。しかし、トラクション制御時は、運転点マップ(α線)を外し、目標発電電力PGとスリップ時の減少電力Pdown、スリップ前の回転数ωGaに基づいて、目標トルクTGと目標回転数ωGを設定する。これは、スリップ時の減少電力Pdownと加算回転数ωGbのマップより、トラクション制御時に加算したい回転数を算出し、スリップ前の回転数ωGaと加算することで、目標回転数ωGを設定する。そして、目標発電電力PGから目標回転数ωgを割った値が目標トルクとなる。スリップ時の減少電力が大きいほど加算回転数を増加させることで、スリップ減少電力が大きい程、フリクションによるトルクを抜いた瞬間にエンジン回転数の上昇も大きくなるため、それを予め見越した目標回転数にするためである。
【0049】
次に、図14に示すフローチャートに基づいて、目標回転数ωGと目標トルクTGの算出処理を説明する。
【0050】
ステップS6-1では、加算回転数マップ(図9)を使い、スリップ介入時の減少電力値Pdownより、加算回転数ωGbを算出する。
【0051】
ステップS6-2では、スリップ介入直前の回転数をωGaに格納する。
【0052】
ステップS6-3では、ステップS6-1で算出した加算回転数ωGbと、ステップS6-2において格納したスリップ介入直前の回転数ωGaを加算し、エンジン回転数目標値である目標回転数ωGを算出する。この目標回転数ωGは、エンジンコントローラ2へ出力する。
【0053】
ステップS6-4では、目標発電電力PGを目標回転数ωGで割ることで、発電機5のトルク目標値である目標トルクTGを算出し、ENDへ進む。この目標トルクTGは、発電機コントローラ4へ出力する。
【0054】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の発電制御における課題について」の説明を行う。続いて、実施例1のハイブリッド車両の発電制御装置における作用を、「トラクション制御対応発電制御作用」、「トラクション制御対応発電制御による効果確認作用」に分けて説明する。
【0055】
[比較例の発電制御における課題について]
比較例は、発電制御とトラクション制御が互いに独立に行われ、トラクション制御において、車輪スリップ有りと判定された場合、摩擦抵抗の低い路面における走行をスムーズに行なうことを目的とし、モータトルク指令値を減少させる制御を実施するものとする。
【0056】
ところで、所謂、シリーズハイブリッド車両において、温度低下などによってバッテリの入出力電力である充放電可能電力が制限されている場合、バッテリへの充放電が行われないようにすることを目的とし、ダイレクト配電制御を実施する必要が生ずる。
ここで、ダイレクト配電制御とは、駆動力の要求値に応じて発電機に電力を発生させ、当該発電機が発電した実発電電力を過不足なく駆動電力で消費する制御をいう。つまり、ダイレクト配電制御は、アクセル開度や車速などから算出される所望の駆動トルクを実現するために必要な駆動電力を演算し、必要な駆動電力分を過不足なく発電電力指令値として発電機を制御することで実現することになる。
【0057】
しかしながら、温度低下などでバッテリの内部抵抗が高く、充放電可能電力が制限されている場合において比較例のトラクション制御を行うと、車輪スリップ有りと判断された場合には、駆動電力を減少させるような制御を実施することとなり、発電電力と駆動電力にて大きな電力差が発生してしまう。ところが、制限によりバッテリ充放電可能電力の許容値が少なく、トラクション制御で必要としている目標値まで駆動力を減少させることが出来ない。そのため、狙い通りのトラクションを得る事が出来ず、所望の加速が得られなくなる。
【0058】
また、充放電可能電力を超えてバッテリへ充電した場合、狙い通りのトラクションが得られるが、過度な充電による内部抵抗上昇により、極度な電圧上昇が発生し、バッテリの耐久信頼性を損なわせてしまう可能性もある。
【0059】
図15に比較例の問題点を示すタイムチャートを示す。
図15は、充放電可能電力が制限されている時の発電制御および駆動制御の様子を示しており、通常走行時はダイレクト配電で走行し、スリップ発生時のトラクション制御時は一定電力で発電を行っている様子を示している。まず、時刻T1では加速中にスリップが発生し、実モータ回転数ωmが急上昇する。時刻T2では、モータ回転の加速度やスリップ率などよりスリップ有りと判断している。この時、トラクション制御が開始されるが、充電電力が制限値(Pin)を超えて充電を行っていることが分かる。そして、時刻T3では、トラクションが回復すると、放電可能電力が制限値(Pout)を超えて放電していることが分かる。
【0060】
[トラクション制御対応発電制御作用]
充放電可能電力が制限されている発電走行時、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6へと進む流れを所定の制御周期毎に繰り返す。この制御処理動作により、トラクション制御が介入してもこの制御介入に対応する発電制御が行われる。
すなわち、ステップS1では、制御演算に必要な情報を取得する入力処理が行われる。ステップS2では、アクセル開度θと車速Vに基づき目標トルク指令値Tmが設定される。ステップS3のトラクション制御では、駆動輪13,13のスリップ状態を判断し、スリップ有りと判定された場合はスリップトルク指令値をTslipとし、スリップ無しと判定された場合はトルク指令値をTmとなるように駆動トルクが制御される。ステップS4の駆動トルク算出処理では、スリップトルク指令値Tslip、LB入力可能電力Pin、LB出力可能電力Pout、駆動制御用発電電力Pg、駆動モータ回転数ωmに基づいて、図5に示すブロック図より、駆動トルクTDが設定される。ステップS5の目標発電電力演算処理では、スリップトルク指令値Tslip、駆動トルクTD、駆動モータ回転数ωm、スリップ介入前の目標発電電力PGaに基づいて、図7に示すブロック図より、バッテリ8への充放電が許容されない減少電力Pdownと、目標発電電力PGと、が設定される。ステップS6の発電制御においては、目標発電電力PGを実現するためにエンジン3と発電機5が制御される。
【0061】
実施例1では、車輪スリップ時におけるトラクション制御により、駆動電力が減少されてバッテリ充放電電力が予め定められた許容範囲を超える場合は、発電電力を下げる機能を有する。具体的には、図7および式(1)に示すように、バッテリ8への充放電が許容されない減少電力Pdownが、軸駆動指令電力PDとスリップ駆動指令電力PDtの差により算出される。そして、目標発電電力PGが、スリップ介入前の目標発電電力PGaと減少電力Pdownの差により算出される。
すなわち、発電走行中にトラクション制御が介入すると駆動電力(スリップ駆動指令電力PDt)が低下するが、このとき充放電量許容範囲を超える分の発電電力を低下させる制御を行うことにより、駆動電力と発電電力との間で発生する電力差が小さく抑えられ、バッテリ8の充放電量が、予め定められた充放電量許容範囲内に収められる。
このため、トラクション制御介入時であって、バッテリ8への充放電可能電力が制限されている場合、バッテリ8の充電量許容範囲を超える過充電が防止される。そして、トラクション制御介入時、バッテリ8への充放電可能電力が制限されている場合においても駆動力の減少が許容されることにより、バッテリ8への充放電量許容範囲内でトラクション制御が高応答に実現される。つまり、バッテリ8への充放電可能電力の制限が緩やかな常温時などにおいては、目標値までの駆動力減少により狙いのトラクション制御が高応答に実現される。バッテリ8への充放電可能電力の制限が厳しい低温時などについては、充放電許容範囲限界までの駆動力減少によりトラクション制御が高応答に実現される。
【0062】
実施例1では、スリップ介入前の目標発電電力PGaから減少電力Pdownを減算した目標発電電力PGを実現するため、少なくとも発電機回転数はスリップ発生前の回転数を維持し、発電機トルクを絞ることで発電電力を下げるようにしている。すなわち、トラクション制御時、エンジン3の燃費最適線(所望の出力を得るのに最も燃料効率の良いトルク・回転数の動作点を、各出力毎に繋いだ動作線=α線)を外した運転点を使う(図8)。
このように、燃費の良いα線を外した運転点とすることで、発電機回転数を低下させずに発電機トルクを絞り、発電電力を低下させるために生ずるエンジン回転数変動で発生する応答遅れを少なくすることができる。
なぜなら、α線上で運転点を動かし、発電機回転数を低下させるためには、まずトルクを少し増加させてエンジン3のイナーシャトルクを打ち消す必要があり、目標発電電力PGに静定させるためには時間がかかる。しかし、エンジン回転数を低下させずにトルクを絞ることでこの課題を回避でき、高応答に目標発電電力PGに静定させることができる。また、トラクション制御において、一度低下させた発電電力を再度増加させる場合にも同様に、エンジン回転数を一度低下させると目標のエンジン回転数に復帰させるには応答遅れがある。
【0063】
実施例1では、トラクション制御介入時、発電制御での目標回転数ωGは、スリップ介入直前の発電機回転数ωGaに比べて、より高い回転数としている。すなわち、図9に示すように、スリップ時の減少電力Pdownに比例した値により加算回転数ωGbを決め、図13に示すように、目標回転数ωGは、スリップ介入直前の発電機回転数ωGaに加算回転数ωGbを加えて得るようにしている。
なぜなら、トラクション制御時に発電機5の回転数を上昇させるため、一度低下させた発電電力を再度上昇させる時、発電電力量は発電機5の回転数とトルクの積となるため、回転数を高い状態で保持している方が、少ないトルクで、より多くの発電電力を増加させることができる。これにより、発電機5の回転を、低回転を保つよりも高回転で保った方が高応答による発電量制御が可能となる。また、トラクション制御状態に入った時に、発電機5の回転数が上昇することで、ドライバーに車輪スリップへの注意喚起を促すことができる。
【0064】
実施例1では、トラクション制御介入時の発電制御において、エンジン3で回転数制御を行い、発電機5でトルク制御を行うようにしている。すなわち、図13に示すように、エンジン回転数目標値である目標回転数ωGをエンジンコントローラ2へ出力すると共に、発電機5のトルク目標値である目標トルクTGを、発電機コントローラ4へ出力する。
なぜなら、エンジン3でのトルク制御は、発電機5でのトルク制御に比べ、応答が遅く、かつ、不確かなトルクを発生する。このため、トラクション制御で必要としている発電電力を正確に実現するため、より高応答で制御可能な発電トルクを基本制御量としている。このように、発電機5でトルク制御を行うことで、エンジン3でトルク制御を行うよりも、高応答で正確なトルクを得ることができる。また、発電機5により目標発電電力PGとなるようなトルク制御を行うことで、トルクを高応答に低下させることができ、かつ、正確な発電電力を得ることができる。
【0065】
実施例1では、トラクション制御において、減算した目標発電電力PGを実現する発電機使用トラクション制御の場合と、目標発電電力PGの減算を必要とせずにバッテリ8のみの充放電による発電機不使用トラクション制御の場合とで、トラクション制御の制御ゲインを変更するようにしている。すなわち、図10に示すように、発電機5を使用するトラクション制御では、モデルマッチング補償器のゲインをLOW値に設定し、発電機5を使用しないトラクション制御では、モデルマッチング補償器のゲインをHI値に設定する。
なぜなら、バッテリ8のみでトラクション制御を行う場合(高応答)と、発電機5の応答も考慮したトラクション制御を行う場合(低応答)では応答遅れに違いが生ずる。このため、トラクション制御の制御ゲインを変更することで、エンジン3がハンチングすることもなく、エンジン3を併用しても狙い通りのトラクション制御が実現できる。
【0066】
[トラクション制御対応発電制御による効果確認作用]
図16に実施例1の効果を示すタイムチャートを示す。
図16は、比較例の図15と同様に、充放電可能電力が制限されている時の発電制御および駆動制御の様子を示しており、トラクション制御に入る時刻T1までは、ダイレクト配電で走行を行っている様子を示している。
まず、時刻T1では、加速中にスリップが発生し、実モータ回転数ωmが急上昇する。時刻T2では、ステップS3で述べたように、モータ回転数から算出した加速度とスリップ率よりスリップ有りと判断している。この時、ステップS4、ステップS5で述べたように、バッテリ充放電可能電力分で補えない減少電力Pdownを演算し、スリップ介入直前の発電電力PGaと加算することで目標発電電力PG(発電電力)が決まる。そして、発電機回転数は、ステップS6で述べたように、減少電力Pdownからエンジン3のフリクション等を考慮したマップを使い加算回転数ωGbが決まり、スリップ介入直前の回転数ωGaを加算した目標回転数ωGまで上昇させる。その時の発電機トルクは、目標発電電力PGを実現するようなトルクを指令値としている。時刻T3では、時刻T2で設定した目標回転数ωGに追従し、その後は一定で保持しているが、発電機トルクを高応答に動かすことで、駆動電力と同等な発電電力を得ることができている。
この結果、時刻T2〜時刻T3間では、充電電力が制限値(Pin)内で許容されていることが分かる。
【0067】
以上のように、充放電可能電力が制限されている状態でも、トラクション制御時は、充放電可能電力で許容されない減少電力Pdownは、目標発電電力PGを下げることで、電力収支を良好に保ち、また、α線を外し、エンジン回転数を下げずにエンジントルクを大きく絞ることで、狙い通りの発電電力を高応答に実現する。そして、エンジン回転数を、減少電力Pdownに応じて上げることで、エンジン3のフリクションを考慮した目標発電電力PGとなる。また、エンジン回転数を高い領域を使うことで、発電電力の復帰も高応答に実現する。
【0068】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の発電制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0069】
(1) エンジン3と、
前記エンジン3により駆動され、車両駆動用の電力を生成する発電機5と、
前記発電機5による発電電力を充電により蓄えるバッテリ8と、
前記バッテリ8の放電による駆動電力により駆動輪13,13を駆動する駆動モータ11と、
前記駆動輪13,13がスリップする車輪スリップ発生時、前記駆動モータ11へのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行うトラクション制御手段(図4)と、
前記トラクション制御の介入により、前記バッテリ8への充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、前記発電電力を低下させる機能を有するトラクション制御対応発電制御手段(図2)と、
を備える。
このため、トラクション制御介入時、バッテリ8への過充電を防止しつつ、バッテリ8への充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現することができる。
【0070】
(2) 前記トラクション制御対応発電制御手段(図2)は、前記トラクション制御介入後の前記発電機5の発電機回転数を、少なくとも前記トラクション制御介入前の発電機回転数に維持したままで、発電機トルクを下げることにより、前記発電電力を低下させる(図8)。
このため、(1)の効果に加え、発電電力を低下させるとき、発電機回転数を下げる応答性よりも発電トルクを下げる応答性が高いことで、発電電力低下の応答遅れを防止することができる。
【0071】
(3) 前記トラクション制御対応発電制御手段(図2)は、前記トラクション制御介入後の前記発電機5の発電機回転数を、前記トラクション制御介入前の発電機回転数より高い回転数とする(図9、図14)。
このため、(2)の効果に加え、高応答による発電量制御を行うことができると共に、トラクション制御状態に入った時、発電機5の回転数上昇により、ドライバーに車輪スリップへの注意喚起を促すことができる。
【0072】
(4) 前記トラクション制御対応発電制御手段(図2)は、前記トラクション制御の介入により前記発電電力を低下させるとき、前記エンジン3により回転数制御を行い、前記発電機5によりトルク制御を行う(図13、図14)。
このため、(2)または(3)の効果に加え、エンジン3でトルク制御を行うよりも高応答で正確なトルクを得ることができると共に、発電機5により目標発電電力PGとなるようなトルク制御を行うことで、トルクを高応答に低下させることができ、かつ、正確な発電電力を得ることができる。
【0073】
(5) 前記トラクション制御手段(図4)は、前記発電電力を低下させてトラクション制御を実行する場合と、前記発電電力を低下させることなく前記バッテリ8の充放電によりトラクション制御を実行する場合とで、トラクション制御の制御ゲインを変更する(図10)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、発電機5を使用するか使用しないかによる応答遅れの違いが抑制され、エンジン3がハンチングすることもなく、エンジン3を併用しても狙い通りのトラクション制御を実現することができる。
【0074】
以上、本発明のハイブリッド車両の発電制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0075】
実施例1では、発電制御において、エンジン回転数目標値ωGをエンジンコントローラ2へ出力すると共に、発電機5のトルク目標値TGを発電機コントローラ4へ出力する、つまり、エンジン3の回転数制御と発電機5のトルク制御による例を示した。しかし、発電機コントローラ4へ回転数指令ωGを行うことで、発電機5にて回転数制御を行い、エンジンコントローラ2へトルク指令を行うことでエンジン3にてトルク制御を行い、所望の発電を行うようにしても良い。
【0076】
実施例1では、車両用自動車速制御装置(ASCD)等の車速サーボ系で採用しており、モデルマッチング制御を駆動輪速度サーボ系に用いた例を示した。しかし、PI制御等を用いてサーボ系を構成した場合でも同様の効果を得ることができる。このように、PI制御等を駆動輪速度サーボ系に用いた場合は、図16におけるロバスト補償器の制御定数の変更の代わりに、PIゲイン等を変更することになる。
【0077】
実施例1では、発電制御装置をシリーズハイブリッド車両へ適用した例を示した。しかし、プラネタリギアを用いた動力分割装置にエンジンと発電用モータジェネレータと走行用モータジェネレータが連結されたパラレルハイブリッド車両、あるいは、エンジンに発電用モータジェネレータと走行用モータジェネレータが連結されたアシストハイブリッド車両などに対しても適用することができる。要するに、エンジンにより駆動される発電機(発電用モータジェネレータ)と、駆動輪を駆動する駆動モータ(走行用モータジェネレータ)とを備えたハイブリッド車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1:システムコントローラ
2:エンジンコントローラ
3:エンジン
4:発電機コントローラ
5:発電機
6:発電機インバータ
7:バッテリコントローラ
8:バッテリ
9:駆動モータコントローラ
10:駆動インバータ
11:駆動モータ
12:減速機
13:駆動輪
14:車輪速度センサ
15:モータ回転センサ
16:電流センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動される発電機を備え、車輪スリップを抑制するトラクション制御を行うハイブリッド車両の発電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両コントローラにおいて、走行用モータの回転数に基づいて車輪の加速度を演算し、演算された車輪加速度と、走行用モータのトルク指令値に基づいて算出される車体加速度から、車輪のスリップの有無を判定する。そして、車輪スリップ有りと判定された場合は、走行用モータへのトルク指令値を減少させてモータコントローラへ指令する(以下、「トラクション制御」という。)。車輪スリップ無しと判定された場合は、走行用モータへのトルク指令値をアクセルペダル踏込量に応じた通常走行の指令値となるように制御する。これにより、摩擦抵抗の低い路面における走行をスムーズに行なえるようにすることを狙いとしている電気自動車の駆動制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−182118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、充放電可能電力が制限されている場合において先行技術の駆動制御を行うと、車輪スリップ有りと判断された場合、駆動電力を減少させるような制御を実施することになり、発電電力と駆動電力にて大きな電力差が発生してしまう。ところが、充放電可能電力の制限によりバッテリ充放電可能電力の許容値が少なく、トラクション制御で必要としている目標値まで駆動力を減少させることができない。そのため、狙い通りのトラクションを得ることができず、所望の加速が得られなくなる、という問題があった。
【0005】
また、充放電可能電力を超えてバッテリへ充電した場合、狙い通りのトラクションが得られるが、過度な充電による内部抵抗上昇により、極度な電圧上昇が発生し、バッテリの耐久信頼性を損なわせる可能性がある、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、トラクション制御介入時、バッテリへの過充電を防止しつつ、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現することができるハイブリッド車両の発電制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の発電制御装置は、エンジンと、発電機と、バッテリと、駆動モータと、トラクション制御手段と、トラクション制御対応発電制御手段と、を備える手段とした。
前記発電機は、前記エンジンにより駆動され、車両駆動用の電力を生成する。
前記バッテリは、前記発電機による発電電力を充電により蓄える。
前記駆動モータは、前記バッテリの放電による駆動電力により駆動輪を駆動する。
前記トラクション制御手段は、前記駆動輪がスリップする車輪スリップ発生時、前記駆動モータへのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行う。
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御の介入により、前記バッテリへの充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、前記発電電力を低下させる機能を有する。
【発明の効果】
【0008】
したがって、トラクション制御の介入により、バッテリへの充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、トラクション制御対応発電制御手段において、発電電力を低下させる制御が行われる。
すなわち、発電走行中にトラクション制御が介入すると駆動電力が低下するが、このとき充放電量許容範囲を超える分の発電電力を低下させる制御を行うことにより、駆動電力と発電電力との間で発生する電力差が小さく抑えられ、バッテリの充放電量が、予め定められた充放電量許容範囲内に収められる。
このため、トラクション制御介入時であって、バッテリへの充放電可能電力が制限されている場合、バッテリの充電量許容範囲を超える過充電が防止される。そして、トラクション制御介入時、バッテリへの充放電可能電力が制限されている場合においても駆動力の減少が許容されることにより、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御が高応答に実現される。
この結果、トラクション制御介入時、バッテリへの過充電を防止しつつ、バッテリへの充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の発電制御装置が適用されたシリーズハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の全体システムを示すシステム構成図である。
【図2】実施例1の発電制御装置におけるシステムコントローラにて実行される発電制御動作の流れを示すフローチャートである。
【図3】図2の発電制御動作のうち目標トルク算出処理で用いられるアクセル開度と回転数とトルクの関係テーブルを示すトルクマップ図である。
【図4】図2の発電制御動作のうちトラクション制御部の処理を示すブロック図である。
【図5】図2の発電制御動作のうち駆動トルク算出処理を示すブロック図である。
【図6】図2の発電制御動作のうち駆動トルク算出処理で用いられる電池温度に対する充放電可能電力を示す充放電可能パワーマップ図である。
【図7】図2の発電制御動作のうち目標発電電力演算処理を示す制御ブロック図である。
【図8】図2の発電制御動作のうち発電制御で用いられる回転数とトルクの関係テーブルを示す運転点マップ図である。
【図9】スリップ時の減少電力と加算回転数の関係テーブルを示すトラクション制御対応マップ図である。
【図10】図2の発電制御動作のうちトラクション制御部の処理を示すフローチャートである。
【図11】車輪速サーボ系を示す制御ブロック図である。
【図12】図2の発電制御動作のうち駆動トルク算出処理を示すフローチャートである。
【図13】図2の発電制御動作のうち目標トルクと目標回転数の算出処理を示すブロック図である。
【図14】図2の発電制御動作のうち目標トルクと目標回転数の算出処理を示すフローチャートである。
【図15】比較例において充放電可能電力が制限されているときのアクセル開度・実モータ回転数・CAN車速・駆動電力・発電電力・充放電電力・発電機回転数・発電機トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【図16】実施例1において充放電可能電力が制限されているときのアクセル開度・実モータ回転数・CAN車速・駆動電力・発電電力・充放電電力・発電機回転数・発電機トルクの各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のハイブリッド車両の発電制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の発電制御装置が適用されたシリーズハイブリッド車両(ハイブリッド車両の一例)の全体システムを示すシステム構成図である。以下、図1に基づき全体構成を説明する。
【0012】
実施例1のシリーズハイブリッド車両は、図1に示すように、システムコントローラ1と、エンジンコントローラ2と、エンジン3と、発電機コントローラ4と、発電機5と、発電機インバータ6と、バッテリコントローラ7と、バッテリ8と、駆動モータコントローラ9と、駆動インバータ10と、駆動モータ11と、減速機12と、駆動輪13,13と、を備えている。なお、14は車輪速度センサ、15はモータ回転センサ、16は電流センサである。
【0013】
前記シリーズハイブリッド車両は、エンジン3を発電のみに使用し、駆動モータ11を駆動輪13,13の駆動と回生のみに使用するシリーズ方式(直列方式)のハイブリッド車両である。簡単に言うと、発電システムを搭載した電気自動車である。よって、走行モードとしては、エンジン3を用いる走行モードが無く、電気自動車走行モード(=EV走行モード)のみである。
【0014】
前記エンジン3は、発電のための駆動力を発電機5へ伝達する。前記発電機5は、エンジン3の駆動力によって回転して発電する。つまり、発電装置は、主にエンジン3と発電機5から構成される。また、発電機5は、モータとしての機能も併せて有し、エンジン始動時にクランキングさせることや、エンジン3を発電機5の駆動力を用いて力行回転させることで、電力を消費することができる。
【0015】
前記発電機インバータ6は、発電機5とバッテリ8と駆動インバータ10に接続され、発電機5が発電する交流の電力を直流に変換、あるいは、逆変換を行う。
【0016】
前記バッテリ8は、発電機5と駆動モータ11それぞれの回生電力の充電、駆動電力の放電を行う。
【0017】
前記駆動インバータ10は、バッテリ8と発電機インバータ6から供給される直流の電力を、駆動モータ11の交流電流に変換、あるいは、逆変換を行う。
【0018】
前記駆動モータ11は、駆動力を発生し減速機12を通して駆動輪13,13に駆動力を伝達する。そして、車両の走行時、駆動輪13,13に連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることでエネルギーを回生する。
【0019】
前記エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値を実現するために、エンジン3の回転数や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を調整する。
【0020】
前記発電機コントローラ4は、システムコントローラ1から指令される発電機トルク指令値を実現するために、発電機の回転数や電圧などの状態に応じて、発電機インバータ6をスイッチング制御する。
【0021】
前記バッテリコントローラ7は、バッテリ8へ充放電される電流や電圧を元にバッテリSOC(バッテリ充電状態をいい、SOCは「State Of Charge」の略)を計測し、システムコントローラ1へ出力する。また、バッテリ8の温度、バッテリ8の充電効率、バッテリSOCに応じた入力可能パワー、バッテリSOCに応じた出力可能パワーを演算し、システムコントローラ1へ出力する。
【0022】
前記駆動コントローラ9は、システムコントローラ1から指令される駆動トルクを実現するために、駆動モータ11の回転数や電圧などの状態に応じて、駆動インバータ10をスイッチング制御する。
【0023】
前記システムコントローラ1は、運転者のアクセルペダル操作量、車速、(路面)勾配などの車両状態、バッテリコントローラ7からのバッテリSOC、入力可能パワー、出力可能パワー、発電機5の発電電力などに応じて、駆動モータ11へ駆動トルクを指令する。さらに、バッテリ8へ充電し、駆動モータ11へ供給するための目標発電電力PGを演算する。
【0024】
次に、システムコントローラ1の動作について、図2に示す制御フローチャートに基づいて説明する(トラクション制御対応発電制御手段)。この動作は、バッテリ温度が低下していてバッテリ8への充放電が制限されている(バッテリ入力可能電力(PIN)=小、バッテリ出力可能電力(POUT)=小)ときの、駆動要求に応じた電力を発電し、発電電力に応じた駆動電力の消費を行うダイレクト配電中に、スリップが発生し、トラクション制御を行っている場合を例にとる。なお、これらの演算は、システムコントローラ1において制御演算周期(例えば、10msec)毎に実行される。
【0025】
ステップS1の入力処理では、以下で説明する制御演算に必要な信号を、センサ入力、または、他のコントローラより通信にて取得する。
発電機5の発電機回転数ωgは、レゾルバやエンコーダなどのモータ回転センサにより取得する。駆動モータ4の駆動モータ回転数ωmも同様に、レゾルバやエンコーダなどのモータ回転センサ15により取得する。ドライバー操作によるアクセル開度θは、アクセル開度センサにより取得する。バッテリ8の電圧は、直流電圧値Vdc[V]は、直流電源ラインに備え付けられた電圧センサ、またはバッテリコントローラ7より送信される電源電圧値により求める。実発電電力Pgは、バッテリ8の直流電圧値Vdc[V]、バッテリ電流センサ値[A]、駆動電流センサ値[A]より、実際に発電機5で発電された電力を求める。
【0026】
ステップS2の目標トルク算出処理では、アクセル開度θおよび車速Vに基づき、図3に示すアクセル開度-トルクテーブルより、目標トルク指令値Tmを設定する。
【0027】
ステップS3のトラクション制御では、図4に示すように、モータ回転数ωm、従動輪車輪速ωvに基づいて駆動輪13,13のスリップ状態を判断し、スリップを解消するスリップトルク指令値Tslipを算出する。トルク制御処理については、スリップ有りと判定された場合は今回の演算したスリップトルク指令値をTslipとし、スリップ無しと判定された場合は、ステップS2で設定したトルク指令値をTmとなるように制御する。トラクション制御部の処理については、詳細を後述する。
【0028】
ステップS4の駆動トルク算出処理では、スリップトルク指令値Tslip、LB入力可能電力Pin、LB出力可能電力Pout、駆動制御用発電電力Pg、駆動モータ回転数ωmに基づいて、図5に示すブロック図より、駆動トルクTDを設定する。充放電可能電力は、バッテリコントローラ7で演算された値であり、図6で示すような電池温度に対する充放電可能パワーマップを使う。駆動トルク算出フローは、駆動で消費した駆動制御用発電電力Pgと、バッテリへ充電可能な電力Pinを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより下限駆動トルクTminをマップより算出する。同様に駆動制御用発電電力Pgと、バッテリから出力可能な電力Poutを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより、上限駆動トルクTmaxをマップより算出する。
【0029】
ステップS5の目標発電電力演算処理では、スリップトルク指令値Tslip、駆動トルクTD、駆動モータ回転数ωm、スリップ介入前の目標発電電力PGaに基づいて、図7に示すブロック図より、バッテリ8への充放電が許容されない減少電力Pdownと、目標発電電力PGと、を設定する。目標発電電力演算処理については、詳細を後述する。
【0030】
ステップS6の発電制御においては、目標発電電力PGを実現するためにエンジン3と発電機5を制御する。非トラクション制御時は、燃費や応答性を考慮して発電電力を得るために予め設定した、発電機5の回転数とエンジン1のトルクの関係であり、図8の実線に示す運転点マップ(α線)を用いて発電機回転数目標値とエンジントルク目標値を求め、エンジンコントローラ2へエンジントルク目標値を出力するとともに発電機回転数目標値を発電機コントローラ4へ出力する。
【0031】
トラクション制御時は、目標発電電力PGとスリップ時の減少電力Pdown、スリップ前の回転数ωGaに基づいて、目標トルクTGと目標回転数ωGを設定する。これは、図9に示すスリップ時の減少電力Pdownと加算回転数ωGbのマップにより、トラクション制御時に加算したい加算回転数ωGbを算出し、スリップ前の回転数ωGaと加算することで、目標回転数ωGを設定する。ここで、スリップ時の減少電力Pdownが大きいほど加算回転数ωGbを増やす理由は、スリップ時の減少電力Pdownが大きい程、トルクを抜いた瞬間に上昇するエンジン回転数が高いため、それを予め見越した目標回転数に設定しておくためである。
【0032】
発電制御では、発電機インバータ6と発電機5の損失を考慮して、実際に発電する発電電力PGを演算し、発電機インバータ6へ出力する。そして、エンジン回転数目標値である目標回転数ωGをエンジンコントローラ2へ出力すると共に、発電機5のトルク目標値である目標トルクTGを、発電機コントローラ4へ出力することで、エンジン3と発電機5、発電機インバータ6が、所望の発電量で発電することができる。
【0033】
次に、駆動モータコントローラ9と発電機コントローラ4、エンジンコントローラ2での処理を説明する。
まず、駆動モータコントローラ9の電流指令値算出処理では、ステップS5で算出した駆動トルク指令値TDと駆動モータ回転数ωmおよび直流電圧値Vdcから、dq軸電流目標値id*、iq*をテーブルより参照して求める。そして電流制御では、まず三相電流値iu、iv、iwと駆動モータ回転数ωmからdq軸電流値id、iqを演算する。電流指令値算出処理で演算したdq軸電流目標値id*、iq*とdq軸電流id、iqとの偏差からdq軸電圧指令値vd、vqを演算する。なお、この部分には非干渉制御を加えることもある。次に、dq軸電圧指令値vd、vqと駆動モータ回転数ωmから三相電圧指令値vu、vv、vwを演算する。この三相電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧VdcからPWM信号(on duty)tu[%]、tv[%]、tw[%]を演算する。このようにして求めたPWM信号によりインバータ10のスイッチング素子を開閉制御することにより、駆動モータ11をトルク指令値で指示された所望のトルクで駆動することができる。発電機コントローラ4も同様に、システムコントローラ1より目標発電電力PGを受け、駆動モータコントローラ9と同様な電流指令値算出処理と電流制御の演算を行う。エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値を実現するために、エンジン3の回転数や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル、点火時期、燃料噴射量を調整する。
【0034】
次に、トラクション制御に関して、図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
トラクション制御は、車輪スリップ時に、モータ回転数ωmから演算した駆動輪速度を目標車速に追従させるように車輪速サーボを行う。車輪速サーボは、図11に示すロバストモデルマッチング制御を用いスリップトルク指令値Tslipを演算する。このスリップトルク指令値Tslipが、バッテリ充放電電力にて予め定められた許容範囲を超える場合は発電電力を調整する機能を有しており、調整するか否かでモデルマッチング補償器の時定数を変更することを特徴とする。目標駆動輪速度ωtは、従動輪速度ωvに一定の値(例えば、5km/h)を加算した値とする。
【0035】
ステップS3-1では、駆動モータ回転数ωmと、従動輪速度ωvよりスリップ状態を判断する。
【0036】
ステップS3-2では、発電機5を使用する(バッテリ充放電電力にて予め定められた許容範囲を超える)か否かを判断する。発電機5を使用する場合はステップS3-3へ、使用しない場合はステップS3-4へそれぞれ進む。
【0037】
ステップS3-3では、車輪速サーボで使うモデルマッチング補償器のゲインをLOW値(低ゲイン値)に設定し、ステップ3-5へ進む。
【0038】
ステップS3-4では、車輪速サーボで使うモデルマッチング補償器のゲインをHI値(高ゲイン値)に設定し、ステップ3-5へ進む。
【0039】
ステップS3-5では、車輪速サーボ演算を行い、駆動輪速度ωmが目標駆動輪速度ωtに一致するために必要な駆動輪トルク指令値Tslipを求める。尚、車輪速サーボにおけるモデルマッチング補償器の時定数は、ステップS3-3、ステップS3-4で設定した値を使う。
【0040】
次に、駆動トルク算出処理部の詳細に関して、図12に示す駆動トルク算出処理部のフローチャートに基づいて説明する。
駆動トルク算出処理では、スリップトルク指令値Tslip、LB入力可能電力Pin、LB出力可能電力Pout、駆動制御用発電電力Pg、駆動モータ回転数ωmに基づいて、駆動トルクTDを設定する。駆動で消費した駆動制御用発電電力Pgと、バッテリ8へ充電可能な電力Pinを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより下限駆動トルクTminをマップより算出する。同様に駆動制御用発電電力Pgと、バッテリ8から出力可能な電力Poutを加算した値と、駆動モータ回転数ωmにより、上限駆動トルクTmaxをマップより算出する。
尚、これらの演算は、システムコントローラ1において制御演算周期(例えば、10msec)毎に実行される。
【0041】
ステップS4-1では、駆動制御用発電電力PgからLB入力可能電力Pinを減算し、発電可能下限電力Pminに格納する。
【0042】
ステップS4-2では、発電可能下限電力Pminと駆動モータ回転数ωmから、最小駆動トルクマップより駆動要求可能下限トルクTminを算出する。
【0043】
ステップS4-3では、駆動制御用発電電力PgからLB入力可能電力Poutを減算し、発電可能上限電力Poutに格納する。
【0044】
ステップS4-4では、発電可能上限電力Pmaxと駆動モータ回転数ωmから、最大駆動トルクマップより駆動要求可能上限トルクTmaxを算出する。
【0045】
ステップS4-5では、スリップトルク指令値Tslipに対し、Tminで値の下限値をリミットしTmaxで値の上限値をリミットし、駆動トルクTDとする。そしてENDへ進む。
【0046】
次に、目標発電電力演算処理の詳細に関して、図7に示す目標発電電力演算処理ブロック図に基づいて説明する。
目標発電電力演算処理では、目標発電電力PGと減少電力Pdownを算出する。
算出式は、スリップ介入直前の発電電力Pga、スリップトルク指令値Tslip、駆動モータ回転数ωm、駆動トルクTDを考慮した計算式を用いて行う。計算式は、
PDt=Tslip・ωm
PD=TD・ωm
Pdown=PD−PDt
Pdown=TD・ωm−Tslip・ωm
Pdown=(TD−Tslip)ωm
PG=PGa−Pdown
PG=PGa−(TD−Tslip)ωm …式(1)
である。
ここで、
Tslip:スリップトルク指令値
ωm:駆動モータ回転数
PDt:スリップ駆動指令電力
TD:駆動トルク指令値
PD:実駆動指令電力
PGa:スリップ介入直前の発電電力
Pdown:減少電力
PG:目標発電電力
である。
【0047】
次に、発電制御の詳細に関して、図13に示す発電制御のブロック図に基づいて説明する。目標発電電力PGとスリップ介入直前の回転数ωGaとスリップ時の減少電力Pdownよる加算回転数ωGb、目標トルクTGと目標回転数ωGを決定する。計算式は、
ωG=ωGa+ωGb
TG=PG/ωG
TG={PGa−(TD−Tslip)ωm}/(ωGa+ωGb) …式(2)
である。
ここで、
ωG:目標回転数
ωGa:スリップ介入前の回転数
ωGb:加算回転数
TG:目標トルク
である。
【0048】
尚、目標発電電力PGを実現するためにエンジン3と発電機5を制御する。通常走行の非スリップ時は、燃費や応答性を考慮して発電電力を得るために予め設定した、発電機5の回転数とエンジン3のトルクの関係である図8の実線に示す運転点マップを用い、発電機回転数目標値とエンジントルク目標値を求め、エンジンコントローラ2へエンジントルク目標値を出力するとともに発電機回転数目標値を回転数制御に出力する。しかし、トラクション制御時は、運転点マップ(α線)を外し、目標発電電力PGとスリップ時の減少電力Pdown、スリップ前の回転数ωGaに基づいて、目標トルクTGと目標回転数ωGを設定する。これは、スリップ時の減少電力Pdownと加算回転数ωGbのマップより、トラクション制御時に加算したい回転数を算出し、スリップ前の回転数ωGaと加算することで、目標回転数ωGを設定する。そして、目標発電電力PGから目標回転数ωgを割った値が目標トルクとなる。スリップ時の減少電力が大きいほど加算回転数を増加させることで、スリップ減少電力が大きい程、フリクションによるトルクを抜いた瞬間にエンジン回転数の上昇も大きくなるため、それを予め見越した目標回転数にするためである。
【0049】
次に、図14に示すフローチャートに基づいて、目標回転数ωGと目標トルクTGの算出処理を説明する。
【0050】
ステップS6-1では、加算回転数マップ(図9)を使い、スリップ介入時の減少電力値Pdownより、加算回転数ωGbを算出する。
【0051】
ステップS6-2では、スリップ介入直前の回転数をωGaに格納する。
【0052】
ステップS6-3では、ステップS6-1で算出した加算回転数ωGbと、ステップS6-2において格納したスリップ介入直前の回転数ωGaを加算し、エンジン回転数目標値である目標回転数ωGを算出する。この目標回転数ωGは、エンジンコントローラ2へ出力する。
【0053】
ステップS6-4では、目標発電電力PGを目標回転数ωGで割ることで、発電機5のトルク目標値である目標トルクTGを算出し、ENDへ進む。この目標トルクTGは、発電機コントローラ4へ出力する。
【0054】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の発電制御における課題について」の説明を行う。続いて、実施例1のハイブリッド車両の発電制御装置における作用を、「トラクション制御対応発電制御作用」、「トラクション制御対応発電制御による効果確認作用」に分けて説明する。
【0055】
[比較例の発電制御における課題について]
比較例は、発電制御とトラクション制御が互いに独立に行われ、トラクション制御において、車輪スリップ有りと判定された場合、摩擦抵抗の低い路面における走行をスムーズに行なうことを目的とし、モータトルク指令値を減少させる制御を実施するものとする。
【0056】
ところで、所謂、シリーズハイブリッド車両において、温度低下などによってバッテリの入出力電力である充放電可能電力が制限されている場合、バッテリへの充放電が行われないようにすることを目的とし、ダイレクト配電制御を実施する必要が生ずる。
ここで、ダイレクト配電制御とは、駆動力の要求値に応じて発電機に電力を発生させ、当該発電機が発電した実発電電力を過不足なく駆動電力で消費する制御をいう。つまり、ダイレクト配電制御は、アクセル開度や車速などから算出される所望の駆動トルクを実現するために必要な駆動電力を演算し、必要な駆動電力分を過不足なく発電電力指令値として発電機を制御することで実現することになる。
【0057】
しかしながら、温度低下などでバッテリの内部抵抗が高く、充放電可能電力が制限されている場合において比較例のトラクション制御を行うと、車輪スリップ有りと判断された場合には、駆動電力を減少させるような制御を実施することとなり、発電電力と駆動電力にて大きな電力差が発生してしまう。ところが、制限によりバッテリ充放電可能電力の許容値が少なく、トラクション制御で必要としている目標値まで駆動力を減少させることが出来ない。そのため、狙い通りのトラクションを得る事が出来ず、所望の加速が得られなくなる。
【0058】
また、充放電可能電力を超えてバッテリへ充電した場合、狙い通りのトラクションが得られるが、過度な充電による内部抵抗上昇により、極度な電圧上昇が発生し、バッテリの耐久信頼性を損なわせてしまう可能性もある。
【0059】
図15に比較例の問題点を示すタイムチャートを示す。
図15は、充放電可能電力が制限されている時の発電制御および駆動制御の様子を示しており、通常走行時はダイレクト配電で走行し、スリップ発生時のトラクション制御時は一定電力で発電を行っている様子を示している。まず、時刻T1では加速中にスリップが発生し、実モータ回転数ωmが急上昇する。時刻T2では、モータ回転の加速度やスリップ率などよりスリップ有りと判断している。この時、トラクション制御が開始されるが、充電電力が制限値(Pin)を超えて充電を行っていることが分かる。そして、時刻T3では、トラクションが回復すると、放電可能電力が制限値(Pout)を超えて放電していることが分かる。
【0060】
[トラクション制御対応発電制御作用]
充放電可能電力が制限されている発電走行時、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6へと進む流れを所定の制御周期毎に繰り返す。この制御処理動作により、トラクション制御が介入してもこの制御介入に対応する発電制御が行われる。
すなわち、ステップS1では、制御演算に必要な情報を取得する入力処理が行われる。ステップS2では、アクセル開度θと車速Vに基づき目標トルク指令値Tmが設定される。ステップS3のトラクション制御では、駆動輪13,13のスリップ状態を判断し、スリップ有りと判定された場合はスリップトルク指令値をTslipとし、スリップ無しと判定された場合はトルク指令値をTmとなるように駆動トルクが制御される。ステップS4の駆動トルク算出処理では、スリップトルク指令値Tslip、LB入力可能電力Pin、LB出力可能電力Pout、駆動制御用発電電力Pg、駆動モータ回転数ωmに基づいて、図5に示すブロック図より、駆動トルクTDが設定される。ステップS5の目標発電電力演算処理では、スリップトルク指令値Tslip、駆動トルクTD、駆動モータ回転数ωm、スリップ介入前の目標発電電力PGaに基づいて、図7に示すブロック図より、バッテリ8への充放電が許容されない減少電力Pdownと、目標発電電力PGと、が設定される。ステップS6の発電制御においては、目標発電電力PGを実現するためにエンジン3と発電機5が制御される。
【0061】
実施例1では、車輪スリップ時におけるトラクション制御により、駆動電力が減少されてバッテリ充放電電力が予め定められた許容範囲を超える場合は、発電電力を下げる機能を有する。具体的には、図7および式(1)に示すように、バッテリ8への充放電が許容されない減少電力Pdownが、軸駆動指令電力PDとスリップ駆動指令電力PDtの差により算出される。そして、目標発電電力PGが、スリップ介入前の目標発電電力PGaと減少電力Pdownの差により算出される。
すなわち、発電走行中にトラクション制御が介入すると駆動電力(スリップ駆動指令電力PDt)が低下するが、このとき充放電量許容範囲を超える分の発電電力を低下させる制御を行うことにより、駆動電力と発電電力との間で発生する電力差が小さく抑えられ、バッテリ8の充放電量が、予め定められた充放電量許容範囲内に収められる。
このため、トラクション制御介入時であって、バッテリ8への充放電可能電力が制限されている場合、バッテリ8の充電量許容範囲を超える過充電が防止される。そして、トラクション制御介入時、バッテリ8への充放電可能電力が制限されている場合においても駆動力の減少が許容されることにより、バッテリ8への充放電量許容範囲内でトラクション制御が高応答に実現される。つまり、バッテリ8への充放電可能電力の制限が緩やかな常温時などにおいては、目標値までの駆動力減少により狙いのトラクション制御が高応答に実現される。バッテリ8への充放電可能電力の制限が厳しい低温時などについては、充放電許容範囲限界までの駆動力減少によりトラクション制御が高応答に実現される。
【0062】
実施例1では、スリップ介入前の目標発電電力PGaから減少電力Pdownを減算した目標発電電力PGを実現するため、少なくとも発電機回転数はスリップ発生前の回転数を維持し、発電機トルクを絞ることで発電電力を下げるようにしている。すなわち、トラクション制御時、エンジン3の燃費最適線(所望の出力を得るのに最も燃料効率の良いトルク・回転数の動作点を、各出力毎に繋いだ動作線=α線)を外した運転点を使う(図8)。
このように、燃費の良いα線を外した運転点とすることで、発電機回転数を低下させずに発電機トルクを絞り、発電電力を低下させるために生ずるエンジン回転数変動で発生する応答遅れを少なくすることができる。
なぜなら、α線上で運転点を動かし、発電機回転数を低下させるためには、まずトルクを少し増加させてエンジン3のイナーシャトルクを打ち消す必要があり、目標発電電力PGに静定させるためには時間がかかる。しかし、エンジン回転数を低下させずにトルクを絞ることでこの課題を回避でき、高応答に目標発電電力PGに静定させることができる。また、トラクション制御において、一度低下させた発電電力を再度増加させる場合にも同様に、エンジン回転数を一度低下させると目標のエンジン回転数に復帰させるには応答遅れがある。
【0063】
実施例1では、トラクション制御介入時、発電制御での目標回転数ωGは、スリップ介入直前の発電機回転数ωGaに比べて、より高い回転数としている。すなわち、図9に示すように、スリップ時の減少電力Pdownに比例した値により加算回転数ωGbを決め、図13に示すように、目標回転数ωGは、スリップ介入直前の発電機回転数ωGaに加算回転数ωGbを加えて得るようにしている。
なぜなら、トラクション制御時に発電機5の回転数を上昇させるため、一度低下させた発電電力を再度上昇させる時、発電電力量は発電機5の回転数とトルクの積となるため、回転数を高い状態で保持している方が、少ないトルクで、より多くの発電電力を増加させることができる。これにより、発電機5の回転を、低回転を保つよりも高回転で保った方が高応答による発電量制御が可能となる。また、トラクション制御状態に入った時に、発電機5の回転数が上昇することで、ドライバーに車輪スリップへの注意喚起を促すことができる。
【0064】
実施例1では、トラクション制御介入時の発電制御において、エンジン3で回転数制御を行い、発電機5でトルク制御を行うようにしている。すなわち、図13に示すように、エンジン回転数目標値である目標回転数ωGをエンジンコントローラ2へ出力すると共に、発電機5のトルク目標値である目標トルクTGを、発電機コントローラ4へ出力する。
なぜなら、エンジン3でのトルク制御は、発電機5でのトルク制御に比べ、応答が遅く、かつ、不確かなトルクを発生する。このため、トラクション制御で必要としている発電電力を正確に実現するため、より高応答で制御可能な発電トルクを基本制御量としている。このように、発電機5でトルク制御を行うことで、エンジン3でトルク制御を行うよりも、高応答で正確なトルクを得ることができる。また、発電機5により目標発電電力PGとなるようなトルク制御を行うことで、トルクを高応答に低下させることができ、かつ、正確な発電電力を得ることができる。
【0065】
実施例1では、トラクション制御において、減算した目標発電電力PGを実現する発電機使用トラクション制御の場合と、目標発電電力PGの減算を必要とせずにバッテリ8のみの充放電による発電機不使用トラクション制御の場合とで、トラクション制御の制御ゲインを変更するようにしている。すなわち、図10に示すように、発電機5を使用するトラクション制御では、モデルマッチング補償器のゲインをLOW値に設定し、発電機5を使用しないトラクション制御では、モデルマッチング補償器のゲインをHI値に設定する。
なぜなら、バッテリ8のみでトラクション制御を行う場合(高応答)と、発電機5の応答も考慮したトラクション制御を行う場合(低応答)では応答遅れに違いが生ずる。このため、トラクション制御の制御ゲインを変更することで、エンジン3がハンチングすることもなく、エンジン3を併用しても狙い通りのトラクション制御が実現できる。
【0066】
[トラクション制御対応発電制御による効果確認作用]
図16に実施例1の効果を示すタイムチャートを示す。
図16は、比較例の図15と同様に、充放電可能電力が制限されている時の発電制御および駆動制御の様子を示しており、トラクション制御に入る時刻T1までは、ダイレクト配電で走行を行っている様子を示している。
まず、時刻T1では、加速中にスリップが発生し、実モータ回転数ωmが急上昇する。時刻T2では、ステップS3で述べたように、モータ回転数から算出した加速度とスリップ率よりスリップ有りと判断している。この時、ステップS4、ステップS5で述べたように、バッテリ充放電可能電力分で補えない減少電力Pdownを演算し、スリップ介入直前の発電電力PGaと加算することで目標発電電力PG(発電電力)が決まる。そして、発電機回転数は、ステップS6で述べたように、減少電力Pdownからエンジン3のフリクション等を考慮したマップを使い加算回転数ωGbが決まり、スリップ介入直前の回転数ωGaを加算した目標回転数ωGまで上昇させる。その時の発電機トルクは、目標発電電力PGを実現するようなトルクを指令値としている。時刻T3では、時刻T2で設定した目標回転数ωGに追従し、その後は一定で保持しているが、発電機トルクを高応答に動かすことで、駆動電力と同等な発電電力を得ることができている。
この結果、時刻T2〜時刻T3間では、充電電力が制限値(Pin)内で許容されていることが分かる。
【0067】
以上のように、充放電可能電力が制限されている状態でも、トラクション制御時は、充放電可能電力で許容されない減少電力Pdownは、目標発電電力PGを下げることで、電力収支を良好に保ち、また、α線を外し、エンジン回転数を下げずにエンジントルクを大きく絞ることで、狙い通りの発電電力を高応答に実現する。そして、エンジン回転数を、減少電力Pdownに応じて上げることで、エンジン3のフリクションを考慮した目標発電電力PGとなる。また、エンジン回転数を高い領域を使うことで、発電電力の復帰も高応答に実現する。
【0068】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の発電制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0069】
(1) エンジン3と、
前記エンジン3により駆動され、車両駆動用の電力を生成する発電機5と、
前記発電機5による発電電力を充電により蓄えるバッテリ8と、
前記バッテリ8の放電による駆動電力により駆動輪13,13を駆動する駆動モータ11と、
前記駆動輪13,13がスリップする車輪スリップ発生時、前記駆動モータ11へのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行うトラクション制御手段(図4)と、
前記トラクション制御の介入により、前記バッテリ8への充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、前記発電電力を低下させる機能を有するトラクション制御対応発電制御手段(図2)と、
を備える。
このため、トラクション制御介入時、バッテリ8への過充電を防止しつつ、バッテリ8への充放電量許容範囲内でトラクション制御を高応答に実現することができる。
【0070】
(2) 前記トラクション制御対応発電制御手段(図2)は、前記トラクション制御介入後の前記発電機5の発電機回転数を、少なくとも前記トラクション制御介入前の発電機回転数に維持したままで、発電機トルクを下げることにより、前記発電電力を低下させる(図8)。
このため、(1)の効果に加え、発電電力を低下させるとき、発電機回転数を下げる応答性よりも発電トルクを下げる応答性が高いことで、発電電力低下の応答遅れを防止することができる。
【0071】
(3) 前記トラクション制御対応発電制御手段(図2)は、前記トラクション制御介入後の前記発電機5の発電機回転数を、前記トラクション制御介入前の発電機回転数より高い回転数とする(図9、図14)。
このため、(2)の効果に加え、高応答による発電量制御を行うことができると共に、トラクション制御状態に入った時、発電機5の回転数上昇により、ドライバーに車輪スリップへの注意喚起を促すことができる。
【0072】
(4) 前記トラクション制御対応発電制御手段(図2)は、前記トラクション制御の介入により前記発電電力を低下させるとき、前記エンジン3により回転数制御を行い、前記発電機5によりトルク制御を行う(図13、図14)。
このため、(2)または(3)の効果に加え、エンジン3でトルク制御を行うよりも高応答で正確なトルクを得ることができると共に、発電機5により目標発電電力PGとなるようなトルク制御を行うことで、トルクを高応答に低下させることができ、かつ、正確な発電電力を得ることができる。
【0073】
(5) 前記トラクション制御手段(図4)は、前記発電電力を低下させてトラクション制御を実行する場合と、前記発電電力を低下させることなく前記バッテリ8の充放電によりトラクション制御を実行する場合とで、トラクション制御の制御ゲインを変更する(図10)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、発電機5を使用するか使用しないかによる応答遅れの違いが抑制され、エンジン3がハンチングすることもなく、エンジン3を併用しても狙い通りのトラクション制御を実現することができる。
【0074】
以上、本発明のハイブリッド車両の発電制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0075】
実施例1では、発電制御において、エンジン回転数目標値ωGをエンジンコントローラ2へ出力すると共に、発電機5のトルク目標値TGを発電機コントローラ4へ出力する、つまり、エンジン3の回転数制御と発電機5のトルク制御による例を示した。しかし、発電機コントローラ4へ回転数指令ωGを行うことで、発電機5にて回転数制御を行い、エンジンコントローラ2へトルク指令を行うことでエンジン3にてトルク制御を行い、所望の発電を行うようにしても良い。
【0076】
実施例1では、車両用自動車速制御装置(ASCD)等の車速サーボ系で採用しており、モデルマッチング制御を駆動輪速度サーボ系に用いた例を示した。しかし、PI制御等を用いてサーボ系を構成した場合でも同様の効果を得ることができる。このように、PI制御等を駆動輪速度サーボ系に用いた場合は、図16におけるロバスト補償器の制御定数の変更の代わりに、PIゲイン等を変更することになる。
【0077】
実施例1では、発電制御装置をシリーズハイブリッド車両へ適用した例を示した。しかし、プラネタリギアを用いた動力分割装置にエンジンと発電用モータジェネレータと走行用モータジェネレータが連結されたパラレルハイブリッド車両、あるいは、エンジンに発電用モータジェネレータと走行用モータジェネレータが連結されたアシストハイブリッド車両などに対しても適用することができる。要するに、エンジンにより駆動される発電機(発電用モータジェネレータ)と、駆動輪を駆動する駆動モータ(走行用モータジェネレータ)とを備えたハイブリッド車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0078】
1:システムコントローラ
2:エンジンコントローラ
3:エンジン
4:発電機コントローラ
5:発電機
6:発電機インバータ
7:バッテリコントローラ
8:バッテリ
9:駆動モータコントローラ
10:駆動インバータ
11:駆動モータ
12:減速機
13:駆動輪
14:車輪速度センサ
15:モータ回転センサ
16:電流センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動され、車両駆動用の電力を生成する発電機と、
前記発電機による発電電力を充電により蓄えるバッテリと、
前記バッテリの放電による駆動電力により駆動輪を駆動する駆動モータと、
前記駆動輪がスリップする車輪スリップ発生時、前記駆動モータへのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行うトラクション制御手段と、
前記トラクション制御の介入により、前記バッテリへの充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、前記発電電力を低下させる機能を有するトラクション制御対応発電制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御介入後の前記発電機の発電機回転数を、少なくとも前記トラクション制御介入前の発電機回転数に維持したままで、発電機トルクを下げることにより、前記発電電力を低下させることを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御介入後の前記発電機の発電機回転数を、前記トラクション制御介入前の発電機回転数より高い回転数とすることを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御の介入により前記発電電力を低下させるとき、前記エンジンにより回転数制御を行い、前記発電機によりトルク制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御手段は、前記発電電力を低下させてトラクション制御を実行する場合と、前記発電電力を低下させることなく前記バッテリの充放電によりトラクション制御を実行する場合とで、トラクション制御の制御ゲインを変更することを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンにより駆動され、車両駆動用の電力を生成する発電機と、
前記発電機による発電電力を充電により蓄えるバッテリと、
前記バッテリの放電による駆動電力により駆動輪を駆動する駆動モータと、
前記駆動輪がスリップする車輪スリップ発生時、前記駆動モータへのトルク指令値を減少させるトラクション制御を行うトラクション制御手段と、
前記トラクション制御の介入により、前記バッテリへの充放電量が予め定められた充放電量許容範囲を超えるとき、前記発電電力を低下させる機能を有するトラクション制御対応発電制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御介入後の前記発電機の発電機回転数を、少なくとも前記トラクション制御介入前の発電機回転数に維持したままで、発電機トルクを下げることにより、前記発電電力を低下させることを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御介入後の前記発電機の発電機回転数を、前記トラクション制御介入前の発電機回転数より高い回転数とすることを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御対応発電制御手段は、前記トラクション制御の介入により前記発電電力を低下させるとき、前記エンジンにより回転数制御を行い、前記発電機によりトルク制御を行うことを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載されたハイブリッド車両の発電制御装置において、
前記トラクション制御手段は、前記発電電力を低下させてトラクション制御を実行する場合と、前記発電電力を低下させることなく前記バッテリの充放電によりトラクション制御を実行する場合とで、トラクション制御の制御ゲインを変更することを特徴とするハイブリッド車両の発電制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−45996(P2012−45996A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187975(P2010−187975)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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