説明

ハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置

【課題】変速操作時の空走感をなくしつつ変速ショックを低減できるハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン2と自動変速機3とクラッチ4とモータジェネレータ5とを備えたハイブリッド車両用駆動装置1を制御対象とし、ドライバが操作するアクセル手段の操作量によって定められるドライバ要求トルクを指示する手段と、エンジン2が駆動輪91を駆動するとともにモータジェネレータ5を駆動して発電しているときに変速予備条件が成立するとエンジントルクの全部によるエンジン走行状態に移行する手段と、変速条件が成立するとエンジントルクを減少させるとともにモータジェネレータ5を駆動してアシストトルクを発生させクラッチ4を切断状態にし、ギヤトレーンを切り替えた後にクラッチ4を接続状態に戻す手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行駆動源としてエンジンおよびモータジェネレータを備えたハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行駆動源としてエンジンおよびモータを備えたハイブリッド車両が急速に普及しつつあり、各種方式の駆動装置が実用化されている。例えば、エンジンのアウトプットシャフトにクラッチを介して自動変速機の入力軸を連結し、自動変速機の出力軸と駆動輪との間にモータを連結した構成がある。この構成では、モータに発電機能を兼ねたモータジェネレータを採用することで、別体の発電機を不要とする場合が多い。また、自動変速機には、例えば、複数の歯車対のうちの1対を選択的に噛合させる手動変速機にアクチュエータを付加して自動化したAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)を用いることができる。入力側にクラッチを備えるAMTは、入力側にトルクコンバータを備える遊星歯車式自動変速機などと比較して、トルク伝達のダイレクト感に優れる特長を有している。
【0003】
上述したトルク伝達のダイレクト感は、変速操作の途中においても確保され、クラッチの切断状態においても空走感を生じないことが好ましい。本願出願人は、変速中の空走感をなくしたハイブリッド車両用動力伝達装置を特許文献1に開示している。特許文献1の動力伝達装置は、内燃機関と、変速機と、内燃機関と変速機との間に配設されたクラッチと、クラッチと駆動輪との間に配設された電動機と、制御部とを備えている。そして、制御部は、変速点を検出すると、クラッチを切断させるより前に電動機を駆動させることを特徴としている。これにより、クラッチが切断されて内燃機関の駆動トルクが伝達されなくなっても、電動機の駆動トルクが伝達されるので、駆動輪が完全な従動状態になることはないとされている。さらに、変速段の切換えの際にメカニカルなガタツキによる異音や振動が発生することがなく、また、変速中の空走感がなくなって変速フィーリングが向上する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−188716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の動力伝達装置では、変速段の切換えの直前において電動機が動作していなければ変速操作は比較的容易で効果を得やすいが、必ずしも万全ではない。例えば、電動機に代えてモータジェネレータが搭載されたハイブリッド車両では、バッテリの充電状態が低下すると発電しながら走行するケースが生じ得る。このとき、変速操作の途中でモータジェネレータを発電モードからアシストモードに切り換えることになり、駆動輪に伝達される駆動トルクが不連続になって変速ショックを生じがちになるという問題点がある。また、バッテリの充電状態が良好な状況下で燃費向上のためにエンジントルクにモータジェネレータのアシストトルクを加算してアシスト駆動しているケースで変速操作を行えば、やはり駆動トルクが不連続になって変速ショックを生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、エンジン、モータジェネレータ、クラッチ、および自動変速機を備えたハイブリッド車両用駆動装置を制御対象とし、変速操作時の空走感をなくしつつ変速ショックを低減できるハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係るハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置の発明は、車両に搭載されたエンジンのアウトプットシャフトから出力されるとともに出力制御機構により制御されるエンジントルクによって回転駆動されるように適合された入力軸と、駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸と前記出力軸とを異なる変速比で回転連結可能とする複数のギヤトレーンのうちの一つをギヤ切替機構により選択的に噛合結合する自動変速機と、前記エンジンの前記アウトプットシャフトと前記自動変速機の前記入力軸とをクラッチトルクの調整可能に回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とにクラッチ駆動機構により切り替え操作するクラッチと、前記自動変速機の前記出力軸および前記駆動輪に回転連結され、前記エンジントルクに加算可能なアシストトルクを発生して前記駆動輪をアシスト駆動し、または前記エンジントルクのうちの発電トルク分で駆動されて発電するモータジェネレータと、を備えたハイブリッド車両用駆動装置を制御対象とし、前記自動変速機の前記ギヤトレーンを切り替え制御する変速制御装置であって、ドライバが操作するアクセル手段の操作量によって定められ前記駆動輪に要求される駆動トルクを前記エンジントルクに換算したドライバ要求トルクとして指示するトルク指示手段と、前記エンジンが前記エンジントルクのうちの前記ドライバ要求トルク分で前記接続状態の前記クラッチを介して前記駆動輪を駆動するとともに、前記発電トルク分で前記モータジェネレータを駆動して発電しているときに、前記自動変速機の変速予備条件が成立すると、前記出力制御機構により前記発電トルク分をゼロまで漸減して前記エンジントルクの全部によるエンジン走行状態に移行する発電中断手段と、前記エンジン走行状態で前記自動変速機の変速条件が成立すると、前記出力制御機構により前記エンジントルクを減少させるとともに前記モータジェネレータを駆動して前記エンジントルクの減少分に対応するアシストトルクを発生させ、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記切断状態にし、前記ギヤ切替機構により前記ギヤトレーンを切り替えた後に、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記接続状態に戻す変速制御手段と、を備える。
【0008】
請求項2に係るハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置の発明は、車両に搭載されたエンジンのアウトプットシャフトから出力されるとともに出力制御機構により制御されるエンジントルクによって回転駆動されるように適合された入力軸と、駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸と前記出力軸とを異なる変速比で回転連結可能とする複数のギヤトレーンのうちの一つをギヤ切替機構により選択的に噛合結合する自動変速機と、前記エンジンの前記アウトプットシャフトと前記自動変速機の前記入力軸とをクラッチトルクの調整可能に回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とにクラッチ駆動機構により切り替え操作するクラッチと、前記自動変速機の前記出力軸および前記駆動輪に回転連結され、前記エンジントルクに加算可能なアシストトルクを発生して前記駆動輪をアシスト駆動し、または前記エンジントルクのうちの発電トルク分で駆動されて発電するモータジェネレータと、を備えたハイブリッド車両用駆動装置を制御対象とし、前記自動変速機の前記ギヤトレーンを切り替え制御する変速制御装置であって、ドライバが操作するアクセル手段の操作量によって定められ前記駆動輪に要求される駆動トルクを前記エンジントルクに換算したドライバ要求トルクとして指示するトルク指示手段と、前記エンジンが前記エンジントルクで前記接続状態の前記クラッチを介して前記駆動輪を駆動するとともに、前記モータジェネレータが前記ドライバ要求トルクから前記エンジントルクを差し引いた分に対応するアシストトルクを発生して前記駆動輪をアシスト駆動しているときに、前記自動変速機の変速予備条件が成立すると、前記出力制御機構により前記アシストトルクをゼロまで漸減して前記エンジントルクのみによるエンジン走行状態に移行するアシスト中断手段と、前記エンジン走行状態で前記自動変速機の変速条件が成立すると、前記出力制御機構により前記エンジントルクを減少させるとともに前記モータジェネレータを駆動して前記エンジントルクの減少分に対応するアシストトルクを発生させ、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記切断状態にし、前記ギヤ切替機構により前記ギヤトレーンを切り替えた後に、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記接続状態に戻す変速制御手段と、を備える。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記変速制御手段は、前記エンジン走行状態で前記自動変速機の前記変速条件が成立すると、前記モータジェネレータを駆動して前記ドライバ要求トルクから前記エンジントルクを差し引いた分に対応するアシストトルクを発生させる。
【0010】
請求項4係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記変速制御手段の動作開始前に、前記エンジントルクが前記モータジェネレータで発生し得る最大アシストトルクを超過している場合に、前記エンジントルクを前記最大アシストトルクと等しくなるまで漸減するエンジントルク漸減手段をさらに備える。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係るハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置の発明では、エンジンから出力されるエンジントルクのうちのドライバ要求トルク分で駆動輪を駆動するとともに発電トルク分でモータジェネレータを駆動して発電しているときに変速予備条件が成立すると、発電トルク分をゼロまで漸減してエンジントルクの全部によるエンジン走行状態に移行する。その後に変速条件が成立すると、エンジントルクを減少させるとともにアシストトルクを発生させ、クラッチおよび自動変速機による変速操作を行う。
【0012】
このため、変速操作時に駆動輪を駆動するための駆動トルクをエンジントルクからアシストトルクにスムーズに移し替えることができ、空走感は発生しない。また、クラッチおよび自動変速機を動作させる以前にモータジェネレータの発電を中断するので、変速操作中のトルク移し替えの動作が安定して駆動トルクの変動が抑制され、変速ショックを低減できる。仮に、発電を中断せずに変速操作を始めるとクラッチを切断状態にするまでアシストトルクを発生できず、駆動トルクをエンジントルクからアシストトルクにスムーズに移し替えることが困難になる。
【0013】
請求項2に係る発明では、エンジンから出力されるエンジントルクで駆動輪を駆動するとともにモータジェネレータでアシストトルクを発生して駆動輪をアシスト駆動しているときに変速予備条件が成立すると、アシストトルクをゼロまで漸減してエンジントルクのみによるエンジン走行状態に移行する。その後に変速条件が成立すると、エンジントルクを減少させるとともにアシストトルクを発生させ、クラッチおよび自動変速機による変速操作を行う。
【0014】
このため、変速操作時に駆動輪を駆動するための駆動トルクをエンジントルクからアシストトルクにスムーズに移し替えることができ、空走感は発生しない。また、クラッチおよび自動変速機を動作させる以前にモータジェネレータのアシスト駆動を一旦中断するので、変速操作中のトルク移し替えの動作が安定して駆動トルクの変動が抑制され、変速ショックを低減できる。仮に、アシスト駆動を中断せずに変速操作を始めると、変速操作開始直前のアシストトルクの発生量が毎回異なるため、変速操作中のアシストトルクの制御が難しくなり、駆動トルクをエンジントルクからアシストトルクにスムーズに移し替えることが困難になる。
【0015】
請求項3に係る発明では、請求項1において、変速条件が成立すると、モータジェネレータを駆動してドライバ要求トルクからエンジントルクを差し引いた分に対応するアシストトルクを発生させる。したがって、変速操作の期間を通して、駆動輪に伝達される駆動トルクがドライバ要求トルクに一致し、空走感が全く発生せず、変速ショックも殆ど生じない。
【0016】
請求項4に係る発明では、請求項1〜3のいずれか一項において、変速制御手段の動作開始前に、エンジントルクがモータジェネレータで発生し得る最大アシストトルクを超過している場合に、エンジントルクを最大アシストトルクと等しくなるまで漸減する。変速操作を開始する以前にエンジントルクを漸減することで、変速操作中に駆動トルクのトルク段差が発生しなくなり、変速ショックを低減できる。仮に、エンジントルクの漸減を行わないと、変速操作時に駆動トルクをエンジントルクから最大アシストトルクに移し替えたときにトルク段差が発生して変速ショックが生じる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の変速制御装置の制御対象となるハイブリッド車両用駆動装置の装置構成を模式的に説明する図である。
【図2】図1中のエンジン、自動変速機、およびクラッチの概略構成を説明する図である。
【図3】クラッチのトルク伝達特性を例示説明する図である。
【図4】自動変速機の変速予備線および変速線を例示説明する図である。
【図5】モータジェネレータで発電しながら走行しているときの変速制御動作を説明する図である。
【図6】モータジェネレータでアシスト駆動しながら走行しているときの変速制御動作を説明する図である。
【図7】モータジェネレータで発電しながら走行しているときであって、エンジントルクが最大アシストトルクを超過している場合の変速制御動作を説明する図である。
【図8】実施形態の変速制御装置の変速制御フローを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態のハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置について、図1〜図8を参考にして説明する。図1は、実施形態の変速制御装置の制御対象となるハイブリッド車両用駆動装置1の装置構成を模式的に説明する図である。ハイブリッド車両用駆動装置1はFFタイプ(フロントエンジンフロントドライブタイプ)の駆動装置であり、走行駆動源としてエンジン2およびモータジェネレータ5をシャーシ90の前方寄りに並列に搭載し、いずれか一方または両者により駆動前輪91を駆動できるように構成されている。ハイブリッド車両用駆動装置1は、他に自動変速機3やクラッチ4などを備えている。図2は、図1中のエンジン2、自動変速機3、およびクラッチ4の概略構成を説明する図である。図1および図2において、構成装置間を結ぶ破線の矢印は制御の流れを示している。
【0019】
エンジン2は、図1に示されるように、シャーシ90上の駆動前輪91の車軸92よりも前側に横置きに配設されている。エンジン2、クラッチ4、および自動変速機3の三者は、記載した順番で車幅方向に並べて配設され、エンジン2のアウトプットシャフト21から自動変速機3の入力軸31までの間は回転軸線を共有している。エンジン2のアウトプットシャフト21の近傍には、シャフト21の回転数を検出する非接触式のエンジン回転数センサ22が設けられている。また、図2に模式的に示されるように、エンジン2には、空気吸入量を調整するスロットルバルブ23、および空気吸入量に関連して燃料供給量を調整する図略のインジェクタが設けられている。さらに、スロットルバルブ23のスロットル開度Sltを調整するスロットル用アクチュエータ24、およびスロットル開度Sltを検出するスロットルセンサ25が設けられている。スロットルバルブ23およびインジェクタは、アウトプットシャフト21から出力するエンジントルクTeを制御する出力制御機構に相当する。
【0020】
クラッチ4は、乾式・単板式で油圧操作タイプの摩擦クラッチである。クラッチ4は、フライホイール41、クラッチディスク42、プレッシャプレート44、ダイヤフラムスプリング45、クラッチカバー46、油圧ダイレクトシリンダ(コンセントリックスレーブシリンダ)47、およびクラッチアクチュエータ48などにより構成されている。図2に示されるように、フライホイール41は、厚い円板状で慣性を維持する質量を有し、エンジン2のアウトプットシャフト21に同軸に固定されている。フライホイール41のエンジン2とは逆側の外周寄りから軸線方向に向けて、略筒状のクラッチカバー46が立設されている。クラッチカバー46の内側でフライホイール41に隣接して略円板状のクラッチディスク42が配設されている。クラッチディスク42は、中心部で自動変速機3の入力軸31にスプライン結合されて一体的に回転し、その外周寄りの両面にはクラッチフェージング43が固着されている。
【0021】
クラッチディスク42に隣接して、略環状のプレッシャプレート44が軸線方向に移動可能に設けられている。プレッシャプレート44を駆動する部材として、ダイヤフラムスプリング45および油圧ダイレクトシリンダ47が設けられている。さらに、クラッチ駆動機構として、油圧ダイレクトシリンダ47を操作するクラッチアクチュエータ48が設けられている。クラッチアクチュエータ48は、直流モータ481、ウォームギヤからなる減速機構482、出力ホイール483、出力ロッド484、マスターシリンダー485、アシストスプリング486、およびストロークセンサ487などにより構成されている。
【0022】
クラッチアクチュエータ48の直流モ−タ481が回動駆動されると、減速機構482を介して出力ホイール483が回動され、出力ロッド484が前方(図2において左方)または後方(図2において右方)に移動する。すると、マスターシリンダー485で油圧が発生し、油圧が伝達されて油圧ダイレクトシリンダ47が駆動され、ダイヤフラムスプリング45を介してプレッシャプレート44が軸線方向に駆動されるようになっている。プレッシャプレート44は、フライホイール41との間にクラッチディスク42を挟み込んで押圧し、フライホイール41に対して摺動回転するクラッチディスク42のクラッチフェージング43の圧着荷重を変化させることができる。なお、アシストスプリング486は出力ロッド484の前方への動作をアシストし、ストロークセンサ487は出力ロッド484の操作量Maを検出する。
【0023】
これにより、クラッチ4は、エンジン2のアウトプットシャフト21と自動変速機3の入力軸31とをクラッチトルクTcの調整可能に回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とに切り替え操作することができる。図3は、クラッチ4のトルク伝達特性を例示説明する図である。図3で、横軸はクラッチアクチュエータ48の出力ロッド484の操作量Ma、縦軸は伝達可能なクラッチトルクTcを示している。クラッチ4は、操作量Ma=0でクラッチトルクTcが最大の全接続状態となる常時接続タイプのクラッチであり、操作量Maが増加するにしたがって半接続状態における伝達可能なクラッチトルクTcが減少し、操作量Ma=Mmaxで切断状態になる特性を有している。
【0024】
自動変速機3は、ドライバのシフトレバー操作により複数のギヤトレーン33のうちの一つを選択的に噛合結合させる手動変速機に、アクチュエータ34、35を付加して変速操作を自動化したAMT(オートメイテッドマニュアルトランスミッション)である。図1に破線で示されるように、自動変速機3は、平行配置された入力軸31と出力軸32との間に前進5段・後進1段のギヤトレーン33を有する平行軸歯車噛合式の構造を有している。入力軸31は、クラッチ4を介して、エンジン2から出力されるエンジントルクによって回転駆動されるようになっている。入力軸31の近傍に、入力軸31への入力回転数を検出する回転数センサ37が設けられている。出力軸32は、車幅方向の中央に配設された差動装置93の入力側とギヤ結合され、差動装置93を介して駆動前輪91に回転連結されている。
【0025】
また、図2に示されるように、自動変速機3は、ギヤトレーン33のうちの一つを選択的に噛合結合するギヤ切替機構として、シフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35を有している。シフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35の駆動方法については公知であるので詳細な説明は省略する(例えば、特開2004−176894を参照)。
【0026】
モータジェネレータ5は、図1に示されるように、シャーシ90上の駆動前輪91の車軸92よりも後側に配設されている。モータジェネレータ5は、ハイブリッド車両で一般的に使用される三相交流回転電機である。モータジェネレータ5の図略のアウトプットシャフトは、図略の減速機構を介して差動装置93の入力側に回転連結されている。したがって、モータジェネレータ5のアウトプットシャフトは、自動変速機3の出力軸32と、駆動前輪91の両方に回転連結されていることになる。
【0027】
モータジェネレータ5を駆動するために、インバータ55およびバッテリ56がシャーシ90の後側に搭載されている。付言すると、シャーシ90の前側にエンジン2および自動変速機3を搭載し、後側にバッテリ56を搭載することで、シャーシ90前後の重量バランスを均衡させている。インバータ55は入出力端子として交流端子55Aおよび直流端子55Dを有し、交流端子55Aはモータジェネレータ5の電源端子5Aに接続され、直流端子55Dはバッテリ56の端子56Dに接続されている。インバータ55は、バッテリ56から出力される直流電力を周波数可変の交流電力に変換してモータジェネレータ5に供給する直流/交流変換機能、および、モータジェネレータ5で発電した交流電力を直流電力に変換してバッテリ56を充電する交流/直流変換機能の両方を具備している。なお、バッテリ56は、走行駆動専用に設けることができ、他の用途と兼用するようにしでもよい。
【0028】
モータジェネレータ5は、交流電力を供給されると電動機として機能し、エンジントルクTeに加算可能なアシストトルクTastを発生して駆動前輪91をアシスト駆動することができる。また、モータジェネレータ5は、エンジントルクTeの一部の発電トルクTgen分で駆動されると発電機として機能し、バッテリ56を充電することができる。
【0029】
駆動装置1を構成する各部をそれぞれ受け持って制御するために、それぞれ電子制御装置(以降ではECUと略称する)が設けられている。すなわち、図1に示されるように、エンジンECU61、変速機ECU62、モータECU63、およびバッテリECU64が設けられている。さらに、駆動装置1の全体を総括的に制御するHV−ECU65が設けられている。各部をそれぞれ受け持つECU61〜64は、HV−ECU65に接続されて相互に必要な情報を交換するとともに、HV−ECU65によって管理および制御されている。各ECU61〜65はそれぞれ、演算処理を実行するCPU部と、プログラムや各種マップなどを保存するROMやRAMなどの記憶部と、情報を交換するための入出力部とを備えて構成されている。
【0030】
エンジンECU61は、イグニッションスイッチ27(図1示)の操作に応じてスターター26(図1示)を駆動し、エンジン2を始動する。また、エンジンECU61は、エンジン回転数センサ22からアウトプットシャフト21のエンジン回転数Neの信号を取得し、スロットルセンサ25からスロットル開度Sltの信号を取得する。そして、エンジンECU61は、アウトプットシャフト21のエンジン回転数Neを監視しながら、スロットル用アクチュエータ24に指令を発してスロットルバルブ23を開閉し、またインジェクタを制御することにより、エンジントルクTeおよびエンジン回転数Neを制御する。なお、本実施形態においては、エンジン回転数Neは、ドライバが踏み込むアクセルペダルの踏み込み操作量のみによって制御されるものではなく、HV−ECU65からの指令により優先制御される構成となっている。
【0031】
変速機ECU62は、クラッチ4および自動変速機3を関連付けて制御することにより、変速制御を実行する。変速機ECU62は、クラッチアクチュエータ48の直流モ−タ481を駆動して、伝達可能なクラッチトルクTcを制御し、さらに、ストロークセンサ487から出力ロッド484の操作量Maの信号を取得して、その時点におけるクラッチトルクTcを把握する。また、変速機ECU62は、自動変速機3の回転数センサ37から入力回転数を取得し、さらに、シフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35を駆動して、ギヤトレーン33のうちの一つを選択的に噛合結合して変速段を切り替え制御する。
【0032】
変速機ECU62は、各ギヤトレーン33の変速段ごとに設定された変速予備線および変速線のマップデータを記憶部に保持している。図4は、自動変速機3の変速予備線および変速線を例示説明する図である。図4で、横軸は車速Vspd、縦軸はエンジン2のスロットルバルブ23のスロットル開度Sltであり、第1速から第2速へのアップシフト変速操作時の変速予備線が破線で示され、変速線が実線で示されている。図示されるように、変速予備線と変速線は類似した形状の曲線であり、変速線のほうがわずかに車速Vspdの高い側に位置している。
【0033】
図4で、点P0に例示されるように自動変速機3のギヤトレーン33を第1速として車両が走行していて、車速Vspdが徐々に増加して変速予備線上の点P1に到達すると、変速機ECU62は変速予備条件が成立したと判定する。さらに車速Vspdが増加して変速線上のP2に到達すると、変速機ECU62は変速条件が成立したと判定する。このように、変速予備条件の成立は、変速条件の成立が近いことを予想するものである。ただし、変速予備条件の成立は必ずしも変速条件の成立に直結するものではなく、一旦変速予備条件が成立しても変速条件が不成立のままで変速予備条件が解消されるケースもあり得る。変速予備条件および変速条件が成立したときの変速制御の内容は、後の変速制御装置の動作の説明で詳述する。
【0034】
モータECU63は、インバータ55を制御することでモータジェネレータ5の動作を制御する。例えば、インバータ55からモータジェネレータ5に交流電力を供給するように制御することで、モータジェネレータ5を電動機として機能させアシストトルクTastを発生することができる。交流電力の周波数は、自動変速機3の出力軸32の回転数に見合った値に制御する必要がある。また、例えばPWM制御により交流電力の実効値の大きさを可変に制御することで、アシストトルクTastの大きさを調整することができる。また、モータECU63は、モータジェネレータ5で発生する交流電力をインバータ55で受け取るように制御することで、モータジェネレータ5を発電機として機能させることができる。
【0035】
バッテリECU64は、バッテリ56の充電状態SOCを管理する。充電状態SOCの情報はHV−ECU65に送出され、各種の制御の際に参照される。また、充電状態SOCが低下した場合や過昇した場合は、速やかに良好な状態に戻る制御が行われる。
【0036】
HV−ECU65は、各部をそれぞれ受け持つECU61〜64との間で必要な情報を共有して、駆動装置1の全体を総括的に制御する。HV−ECU65は、アクセル開度センサ71からアクセル開度の情報を取得し、車速センサ72から車速Vspdの情報を取得する。アクセル開度センサ71は、ドライバが操作するアクセルペダル(アクセル手段)の踏み込み操作量すなわちアクセル開度を検出するセンサである。アクセル開度の大きさから、車両を推進させるために駆動前輪91に要求される駆動トルクが定められる。要求される駆動トルクに対して実際に発生するトルクが不足すると、自ら変速操作を行っていないドライバは空走感を感じることになる。なお、この空走感は、マニュアル操作のクラッチおよび変速機を備える駆動装置では、ドライバ自身が変速操作を行うので問題にならない。
【0037】
本実施形態の変速制御装置は、トルク指示手段(請求項1、2、および4に共通)、発電中断手段(請求項1)、アシスト中断手段(請求項2)、変速制御手段(請求項1、2、および4に共通)、ならびにエンジントルク漸減手段(請求項4)の5手段を備えている。上記5手段は各ECU61〜65のソフトウェアにより実現されており、各ECU61〜65が協調して動作することにより実行される。したがって、実施形態の変速制御装置は、請求項1、2および4の発明を1つの駆動装置1に対して実施できるようになっている。
【0038】
トルク指示手段は、前述した駆動前輪91に要求される駆動トルクをエンジントルクTeに換算したドライバ要求トルクTdrvとして指示する手段である。駆動トルクの大きさは、自動変速機3の入力軸31側と出力軸32側との間の変速比などに依存して変わるので、エンジン2のアウトプットシャフト21を基準位置として換算を行い、ドライバ要求トルクTdrvを指示する。以降では、モータジェネレータ5を駆動する発電トルクTgenやモータジェネレータ5が発生するアシストトルクTastも基準位置における値に統一して説明する。
【0039】
発電中断手段は、エンジン2がエンジントルクTeのうちのドライバ要求トルクTdrv分で接続状態のクラッチ4を介して駆動前輪91を駆動するとともに、発電トルクTgen分でモータジェネレータ5を駆動して発電しているときに動作する手段であり、自動変速機3の変速予備条件が成立すると動作する。このとき、発電中断手段は、スロットルバルブ23を調整して発電トルクTgen分をゼロまで漸減して発電を中断し、エンジントルクTeの全部によるエンジン走行状態に移行する。
【0040】
アシスト中断手段は、エンジン2がエンジントルクTeで接続状態のクラッチ4を介して駆動前輪91を駆動するとともに、モータジェネレータ5がドライバ要求トルクTdrvからエンジントルクTeを差し引いた分に対応するアシストトルクTastを発生して駆動前輪91をアシスト駆動しているときに動作する手段であり、自動変速機3の変速予備条件が成立すると動作する。このとき、アシスト中断手段は、インバータ55を制御してモータジェネレータ5のアシストトルクTastをゼロまで漸減してアシスト駆動を一旦中断し、エンジントルクTeのみによるエンジン走行状態に移行する。
【0041】
変速制御手段は、発電中断手段やアシスト中断手段に続いて動作する手段である。変速制御手段は、エンジン走行状態で自動変速機3の変速条件が成立すると、まずスロットルバルブ23を調整してエンジントルクTeを減少させるとともにモータジェネレータ5を電動機として駆動してエンジントルクTeの減少分に対応するアシストトルクTastを発生させる。変速制御手段は、2番目にクラッチアクチュエータ48を操作してクラッチ4を切断状態にし、3番目にシフトアクチュエータ34およびセレクトアクチュエータ35によりギヤトレーン33を切り替える。その後、変速制御手段は、4番目にクラッチアクチュエータ48を操作してクラッチ4を接続状態に戻す。
【0042】
エンジントルク漸減手段は、変速制御手段の動作開始前に、エンジントルクTeがモータジェネレータ5で発生し得る最大アシストトルクTaMを超過している場合に、エンジントルクTeを最大アシストトルクTaMと等しくなるまで漸減する手段である。本実施形態で、エンジントルク漸減手段は、発電中断手段またはアシスト中断手段に続いて動作する。
【0043】
次に、実施形態の変速制御装置の動作について説明する。図5は、モータジェネレータ5で発電しながら走行しているときの変速制御動作を説明する図である。また図6は、モータジェネレータ5でアシスト駆動しながら走行しているときの変速制御動作を説明する図である。さらに、図7は、モータジェネレータ5で発電しながら走行しているときであって、エンジントルクTeが最大アシストトルクTaMを超過している場合の変速制御動作を説明する図である。図5〜図7で、横軸は時間t、縦軸はトルクを示し、太い実線はエンジントルクTeの時間的変化を示している。また、横線を付した領域はエンジントルクTeのうちの発電トルクTgen分、斜線を付した領域はモータジェネレータ5のアシストトルクTastをそれぞれ示している。
【0044】
図5で、はじめは自動変速機3のギヤトレーン33が第1速で、エンジントルクTeのうちのドライバ要求トルクTdrv分で駆動前輪91を駆動するとともに、発電トルクTgen分でモータジェネレータ5を駆動して発電している。この状態は、アクセルペダル71のアクセル開度が比較的小さく、したがってドライバ要求トルクTdrv小さくてエンジントルクTeに余力のあるときや、バッテリ56の充電状態が低下して充電を要求されているときなどに発生する。また、ドライバ要求トルクTdrvは、変速期間を通して概ね一定とする。車速Vspdが徐々に増加して時刻t1で変速予備条件が成立すると、発電中断手段が動作を開始する。発電中断手段は、スロットルバルブ23およびインジェクタを制御して発電トルクTgen分をゼロまで漸減し、時刻t2でエンジントルクTeの全部によるエンジン走行状態に移行する。
【0045】
この後、車速Vspdがさらに増加して時刻t3で変速条件が成立すると、変速制御手段が動作を開始する。変速制御手段は、スロットルバルブ23およびインジェクタを制御してエンジントルクTeを減少させるとともに、モータジェネレータ5を駆動してエンジントルクTeの減少分に対応するアシストトルクTastを発生させる。つまり、ドライバ要求トルクTdrvからエンジントルクTeを差し引いた分に対応するアシストトルクTastを発生させる。これにより、駆動前輪91を駆動する駆動トルクが徐々に移し替えられ、時刻t4でエンジントルクTeはゼロとなり、クラッチアクチュエータ48によりクラッチ4が切断される。駆動前輪91は、ドライバ要求トルクTdrvに略一致したアシストトルクTastのみにより駆動される。また、時刻t4で自動変速機3のアクチュエータ34、35によるギヤトレーン33の切り替え操作が始まり、時刻t5で第2速の噛合結合が終了する。時刻t4〜t5の間、エンジントルクTeは負値となって制動力が作用し、エンジン回転数Neが減速される。
【0046】
時刻t5で、クラッチ4のクラッチアクチュエータ48による接続状態への駆動が始まり、以降スロットルバルブ23およびインジェクタの制御によりエンジントルクTeが増加するとともに、増加分を相殺するようにアシストトルクTastが減少する。これにより、時刻t6でクラッチ4は全接続状態となり、エンジントルクTeがドライバ要求トルクTdrvに一致し、アシストトルクTastがゼロになって変速制御動作が終了する。その後の時刻t7で、エンジントルクTeへの発電トルクTgen分の加算が開始されてモータジェネレータ5の発電が再開され、発電トルクTgenが徐々に増加して時刻t8ではじめのレベルまで戻る。
【0047】
また図6で、はじめは自動変速機3のギヤトレーン33が第1速で、エンジントルクTeで駆動前輪91を駆動するとともに、モータジェネレータ5がドライバ要求トルクTdrvからエンジントルクTeを差し引いた分に対応するアシストトルクTastを発生して駆動前輪91をアシスト駆動している。この状態は、アクセルペダル71のアクセル開度が比較的大きく、したがってドライバ要求トルクTdrvが大きくてエンジントルクTeが不足するときや、バッテリ56の充電状態が良好で放電によるアシスト駆動により燃費を向上したいときなどに発生する。また、ドライバ要求トルクTdrvは、変速期間を通して概ね一定とする。車速Vspdが徐々に増加して時刻t11で変速予備条件が成立すると、アシスト中断手段が動作を開始する。アシスト中断手段は、モータジェネレータ5を停止させてアシストトルクTastをゼロまで漸減する。このとき、アクセルペダル71のアクセル開度が一定であってもアシスト中断手段の指令が優先されるので、駆動前輪91に伝達される駆動トルクはドライバ要求トルクTdrvよりも小さくなり、時刻t12でエンジントルクTeのみによるエンジン走行状態に移行する。
【0048】
この後、車速Vspdがさらに増加して、時刻t13で変速条件が成立すると、変速制御手段が動作を開始する。変速制御手段は、エンジントルクTeを減少させるとともに、モータジェネレータ5を駆動してエンジントルクTeの減少分に対応するアシストトルクTastを発生させる。これにより、時刻t14でエンジントルクTeはゼロとなり、クラッチアクチュエータ48によりクラッチ4が切断状態とされ、アシストトルクTastによってドライバ要求トルクTdrvの一部が供給される。また、時刻t14で自動変速機3のアクチュエータ34、35によるギヤトレーン33の切り替え操作が始まり、時刻t15で第2速の噛合結合が終了する。時刻t14〜t15の間、エンジントルクTeは負値となって制動力が作用し、エンジン回転数Neが減速される。
【0049】
時刻t15で、クラッチ4のクラッチアクチュエータ48による接続状態への駆動が始まり、以降スロットルバルブ23およびインジェクタの制御によりエンジントルクTeが増加するとともに、増加分を相殺するようにアシストトルクTastが減少する。これにより、時刻t16でクラッチ4は全接続状態となり、エンジントルクTeがはじめのレベルまで戻り、アシストトルクTastがゼロになって変速制御動作が終了する。その後の時刻t17で、モータジェネレータ5のアシスト駆動が再開されてアシストトルクTastが発生し、アシストトルクTastが徐々に増加して時刻t18ではじめのドライバ要求トルクTdrvのレベルまで戻る。
【0050】
さらに図7で、はじめは自動変速機3のギヤトレーン33が第1速で、エンジントルクTeのうちのドライバ要求トルクTdrv分で駆動前輪91を駆動するとともに、発電トルクTgen分でモータジェネレータ5を駆動して発電している。この状態で、車速Vspdが徐々に増加して時刻t21で変速予備条件が成立すると、発電中断手段が動作を開始する。発電中断手段は、スロットルバルブ23およびインジェクタを制御して発電トルク分Tgenをゼロまで漸減し、時刻t22でエンジントルクTeの全部によるエンジン走行状態に移行する。このとき、エンジントルクTeがモータジェネレータ5で発生し得る最大アシストトルクTaMを超過している場合に該当し、エンジントルク漸減手段が動作を開始する。エンジントルク漸減手段は、時刻t22からエンジントルクTeを漸減し、時刻t23でエンジントルクTeが最大アシストトルクTaMと等しくなると漸減を止める。
【0051】
この後、車速Vspdがさらに増加して時刻t24で変速条件が成立すると、変速制御手段が動作を開始する。変速制御手段は、エンジントルクTeを減少させるとともにモータジェネレータ5を駆動してエンジントルクTeの減少分に対応するアシストトルクTastを最大アシストトルクTaMの範囲内で発生させる。これにより、駆動前輪91を駆動する駆動トルクが徐々に移し替えられ、時刻t25でエンジントルクTeはゼロとなり、クラッチアクチュエータ48によりクラッチ4が切断される。駆動前輪91は、ドライバ要求トルクTdrvの一部に相当する最大アシストトルクTaMにより駆動される。また、時刻t25で自動変速機3のアクチュエータ34、35によるギヤトレーン33の切り替え操作が始まり、時刻t26で第2速の噛合結合が終了する。時刻t25〜t26の間、エンジントルクTeは負値となって制動力が作用し、エンジン回転数Neが減速される。
【0052】
時刻t26で、クラッチ4のクラッチアクチュエータ48による接続状態への駆動が始まり、以降スロットルバルブ23およびインジェクタの制御によりエンジントルクTeが増加するとともに、増加分を相殺するようにアシストトルクTastが減少する。これにより、時刻t27でクラッチ4は全接続状態となり、エンジントルクTeが最大アシストトルクTaMに一致し、アシストトルクTastがゼロになる。この後、さらにエンジントルクTeが増加して、時刻t28でドライバ要求トルクTdrvに略一致し、変速制御動作が終了する。その後の時刻t29で、エンジントルクTeへの発電トルクTgenの加算が開始されてモータジェネレータ5の発電が再開され、発電トルクTgenが徐々に増加して時刻t30ではじめのレベルまで戻る。
【0053】
次に、図5〜図7に例示説明した変速制御を実行するフローについて説明する。図8は、実施形態の変速制御装置の変速制御フローを説明する図である。なお、フロー中のモータトルクTmはモータジェネレータ5から出力されるトルクを示し、正値は駆動前輪91を駆動するアシストトルクTastを表し、負値はエンジントルクTeのうちの発電トルクTgen分を表している。
【0054】
図8の変速制御フローのステップS1で、変速予備条件が成立しているか否かを判定し、成立しているとステップS2に進む。ステップS2では、モータトルクTmの正値、ゼロ、また負値を判定し、判定結果に応じてステップS3、S5、S4のいずれかに進む。モータトルクTmが正値のときのステップS3では、モータトルクTmを制御量ΔT1だけ減少して(アシストトルクTastをゼロに近付けて)ステップS5に進む。モータトルクTmが負値のときのステップS4では、モータトルクTmを制御量ΔT1だけ増加して(発電トルクTgenをゼロに近付けて)ステップS5に進む。ステップS5で、モータトルクTmがゼロになったか否かを判定し、不成立のときステップS1に戻る。
【0055】
したがって、変速予備条件が成立した状態でステップS1〜S5が繰り返され、モータトルクTmはゼロになるまで漸減される。モータトルクTmが正値のときに、ステップS1、S2、S3、およびS5を繰り返してモータトルクTmをゼロにする処理がアシスト中断手段に対応する。また、モータトルクTmが負値のときに、ステップS1、S2、S4、およびS5を繰り返してモータトルクTmをゼロにする処理が発電中断手段に対応する。なお、初回のステップS2で既にモータトルクTmがゼロであるときは、モータジェネレータ5がアシスト駆動も発電も行っていなかったことに相当する。
【0056】
ステップS5で、モータトルクTmがゼロになっていると、ステップS6に進む。ステップS6で、エンジントルクTeが最大アシストトルクTaMを超過しているか否か判定し、超過しているときステップS7に進む。ステップS7では、エンジントルクTeを制御量ΔT2だけ減少してステップS8に進む。ステップS8で、エンジントルクTeが最大アシストトルクTaM以下になったか否かを判定し、不成立のときステップS1に戻る。したがって、変速予備条件が成立している状態でかつモータトルクTmがゼロになると、ステップS1、S2、およびS5〜S8が繰り返され、エンジントルクTeが最大アシストトルクTaM以下になるまで漸減される。このステップS6〜S8の繰り返し処理が、エンジントルク漸減手段に対応する。
【0057】
ステップS6で、始めからエンジントルクTeが最大アシストトルクTaM以下になっているとき、および、ステップS6〜S8の繰り返し処理でエンジントルクTeが最大アシストトルクTaM以下になったときに、ステップS9に進む。ステップS9で、変速条件が成立しているか否かを判定し、不成立のときステップS1に戻り、ステップS1〜S8を繰り返しながら変速条件の成立を待つ。ステップS9で変速条件が成立すると、変速制御手段に相当するステップ10〜S13を実行する。
【0058】
ステップS10では、エンジントルクTeを減少させるとともにモータジェネレータ5を駆動し、駆動前輪91を駆動する駆動トルクをエンジントルクTeからアシストトルクTastに移し替える。次にステップS11でクラッチ4を切断状態にし、ステップS12でギヤトレーン33を切り替える。最後にステップS13で、クラッチ4を接続状態に戻して、一連の変速制御動作が終了する。
【0059】
この後、再度ステップS1に戻り、次の変速段の変速予備条件および変速条件による変速制御フローが繰り返される。なお、モータトルクTmの漸減や、エンジントルクTeの漸減、あるいは変速条件の成立を待っている途中で、変速予備条件が解消されたときは、ステップS1からステップS14に進む。ステップS14では、漸減途中のモータトルクTmやエンジントルクTeを元の値に復旧して、元のアシスト駆動や発電の状態に戻る。
【0060】
本実施形態のハイブリッド車両用駆動装置1の変速制御装置によれば、図5および図6に示されるように、変速操作時に駆動前輪91を駆動するための駆動トルクをエンジントルクTeからアシストトルクTastにスムーズに移し替えることができ、空走感は発生しない。また、クラッチ4および自動変速機3を動作させる以前にモータジェネレータ5の発電やアシスト駆動を中断するので、変速操作中のトルク移し替えの動作が安定して駆動トルクの変動が抑制され、変速ショックを低減できる。
【0061】
さらに、図5に示される発電トルクTgen分でモータジェネレータ5を駆動して発電しているときの変速制御動作では、変速期間(t1〜t8)を通して駆動前輪91に伝達される駆動トルクがドライバ要求トルクTdrvに一致する。したがって、空走感が全く発生せず、変速ショックも殆ど生じない。また、図6に示されるモータジェネレータ5でアシスト駆動しながら走行しているときの変速制御動作では、変速期間(t11〜t18)を通して駆動前輪91に伝達される駆動トルクが連続的に変化する。したがって、駆動トルクは一時的にドライバ要求トルクTdrvよりも減少するが、トルク段差は発生せず、変速ショックは殆ど生じない。
【0062】
また、図7に示されるように、エンジントルクTeがモータジェネレータ5で発生し得る最大アシストトルクTaMを超過している場合に、エンジントルクTeを最大アシストトルクTaMと等しくなるまで漸減する。これにより、駆動トルクをエンジントルクTeからアシストトルクTastに移し替えるときのトルク段差がなくなり、変速ショックを低減できる。
【0063】
なお、発電中断手段およびアシスト中断手段はいずれか一方のみを実施するようにしてもよく、エンジントルク漸減手段を併用するか否かも任意である。また、駆動装置1は、エンジントルクTeなしでモータジェネレータ5のアシストトルクTastのみによる発進や走行が可能であり、制動時には駆動前輪91からの駆動によりモータジェネレータ5で回生発電を行えるようになっている。駆動装置1の装置構成は、図1に例示された構成に限定されない。その他、本発明は様々な変速制御方法の応用や装置構成の変形などが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1:ハイブリッド車両用駆動装置
2:エンジン
21:アウトプットシャフト 22:エンジン回転数センサ
23:スロットルバルブ(出力制御機構) 24:スロットル用アクチュエータ
25:スロットルセンサ 26:スターター 27:イグニッションスイッチ
3:自動変速機
31:入力軸 32:出力軸 33:ギヤトレーン
34:シフトアクチュエータ(ギヤ切替機構)
35:セレクトアクチュエータ(ギヤ切替機構)
37:回転数センサ
4:クラッチ
41:フライホイール 42:クラッチディスク
43:クラッチフェージング 44:プレッシャプレート
45:ダイヤフラムスプリング 46:クラッチカバー
47:油圧ダイレクトシリンダ(コンセントリックスレーブシリンダ)
48:クラッチアクチュエータ(クラッチ駆動機構)
5:モータジェネレータ 55:インバータ 56:バッテリ
61:エンジンECU 62:変速機ECU 63:モータECU
64:バッテリECU 65:HV−ECU
71:アクセル開度センサ 72:車速センサ
90:シャーシ 91:駆動前輪 92:車軸 93:差動装置
Tdrv:ドライバ要求トルク Te:エンジントルク
Tgen:発電トルク Tast:アシストトルク TaM:最大アシストトルク
t1、t11、t21:変速予備条件の成立時刻
t3、t13、t24:変速条件の成立時刻
Ma:クラッチアクチュエータの操作量 Tcクラッチトルク
Vspd:車速 Slt:スロットル開度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンのアウトプットシャフトから出力されるとともに出力制御機構により制御されるエンジントルクによって回転駆動されるように適合された入力軸と、駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸と前記出力軸とを異なる変速比で回転連結可能とする複数のギヤトレーンのうちの一つをギヤ切替機構により選択的に噛合結合する自動変速機と、
前記エンジンの前記アウトプットシャフトと前記自動変速機の前記入力軸とをクラッチトルクの調整可能に回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とにクラッチ駆動機構により切り替え操作するクラッチと、
前記自動変速機の前記出力軸および前記駆動輪に回転連結され、前記エンジントルクに加算可能なアシストトルクを発生して前記駆動輪をアシスト駆動し、または前記エンジントルクのうちの発電トルク分で駆動されて発電するモータジェネレータと、を備えたハイブリッド車両用駆動装置を制御対象とし、前記自動変速機の前記ギヤトレーンを切り替え制御する変速制御装置であって、
ドライバが操作するアクセル手段の操作量によって定められ前記駆動輪に要求される駆動トルクを前記エンジントルクに換算したドライバ要求トルクとして指示するトルク指示手段と、
前記エンジンが前記エンジントルクのうちの前記ドライバ要求トルク分で前記接続状態の前記クラッチを介して前記駆動輪を駆動するとともに、前記発電トルク分で前記モータジェネレータを駆動して発電しているときに、前記自動変速機の変速予備条件が成立すると、前記出力制御機構により前記発電トルク分をゼロまで漸減して前記エンジントルクの全部によるエンジン走行状態に移行する発電中断手段と、
前記エンジン走行状態で前記自動変速機の変速条件が成立すると、前記出力制御機構により前記エンジントルクを減少させるとともに前記モータジェネレータを駆動して前記エンジントルクの減少分に対応するアシストトルクを発生させ、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記切断状態にし、前記ギヤ切替機構により前記ギヤトレーンを切り替えた後に、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記接続状態に戻す変速制御手段と、
を備えたハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置。
【請求項2】
車両に搭載されたエンジンのアウトプットシャフトから出力されるとともに出力制御機構により制御されるエンジントルクによって回転駆動されるように適合された入力軸と、駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸と前記出力軸とを異なる変速比で回転連結可能とする複数のギヤトレーンのうちの一つをギヤ切替機構により選択的に噛合結合する自動変速機と、
前記エンジンの前記アウトプットシャフトと前記自動変速機の前記入力軸とをクラッチトルクの調整可能に回転連結する接続状態と連結解除する切断状態とにクラッチ駆動機構により切り替え操作するクラッチと、
前記自動変速機の前記出力軸および前記駆動輪に回転連結され、前記エンジントルクに加算可能なアシストトルクを発生して前記駆動輪をアシスト駆動し、または前記エンジントルクのうちの発電トルク分で駆動されて発電するモータジェネレータと、を備えたハイブリッド車両用駆動装置を制御対象とし、前記自動変速機の前記ギヤトレーンを切り替え制御する変速制御装置であって、
ドライバが操作するアクセル手段の操作量によって定められ前記駆動輪に要求される駆動トルクを前記エンジントルクに換算したドライバ要求トルクとして指示するトルク指示手段と、
前記エンジンが前記エンジントルクで前記接続状態の前記クラッチを介して前記駆動輪を駆動するとともに、前記モータジェネレータが前記ドライバ要求トルクから前記エンジントルクを差し引いた分に対応するアシストトルクを発生して前記駆動輪をアシスト駆動しているときに、前記自動変速機の変速予備条件が成立すると、前記出力制御機構により前記アシストトルクをゼロまで漸減して前記エンジントルクのみによるエンジン走行状態に移行するアシスト中断手段と、
前記エンジン走行状態で前記自動変速機の変速条件が成立すると、前記出力制御機構により前記エンジントルクを減少させるとともに前記モータジェネレータを駆動して前記エンジントルクの減少分に対応するアシストトルクを発生させ、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記切断状態にし、前記ギヤ切替機構により前記ギヤトレーンを切り替えた後に、前記クラッチ駆動機構により前記クラッチを前記接続状態に戻す変速制御手段と、
を備えたハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記変速制御手段は、前記エンジン走行状態で前記自動変速機の前記変速条件が成立すると、前記モータジェネレータを駆動して前記ドライバ要求トルクから前記エンジントルクを差し引いた分に対応するアシストトルクを発生させるハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、
前記変速制御手段の動作開始前に、前記エンジントルクが前記モータジェネレータで発生し得る最大アシストトルクを超過している場合に、前記エンジントルクを前記最大アシストトルクと等しくなるまで漸減するエンジントルク漸減手段をさらに備えるハイブリッド車両用駆動装置の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−71541(P2013−71541A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211007(P2011−211007)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】