説明

ハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置

【課題】変速機入力軸に配設されたモータと、クラッチを介して変速機入力軸に接続されるエンジンとを備えたハイブリッド電気自動車において、簡易な構成でクラッチの断接判定を短時間で確実に行なうことができ、走行中のドライバに違和感を与えないクラッチ断接判定装置を提供する。
【解決手段】
クラッチ2の入力側の回転速度を検出する入力側回転速度検出手段11と、クラッチ2の出力側の回転速度を検出する出力側回転速度検出手段21と、クラッチ2を制御するクラッチ制御手段60aと、モータ3の作動を制御するモータ制御手段60bと、クラッチ制御手段60aにクラッチ2を接続状態から遮断状態への切り替えを要求すると共に、モータ制御手段60bを通じモータ3の回転速度を変化させ、出力側回転速度に対する入力側回転速度の追従状態に基づき、クラッチ2が遮断状態であるかを判定するクラッチ状態判定手段60cと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の変速機として、バスやトラック等の中,大型の自動車においては、駆動トルクの伝達量が大きいため、トルクコンバータではその駆動トルクを十分に伝達することが困難であり、通常、摩擦クラッチ(以下、クラッチと言う)を用いて走行駆動源と変速機との間を断接する。変速機の作動時には、変速機機構の同期等を行なうため、クラッチが遮断され、変速機へのトルク伝達は遮断される。
【0003】
また、近年、自動車の走行駆動源として、内燃機関(以下、エンジンとも言う)と電動発電機(以下、モータとも言う)とを搭載したハイブリッド自動車が実用化されている。このようなハイブリッド電気自動車には、エンジンと変速機との間にクラッチを設け、モータを変速機の入力軸部分に設けて、モータは変速機の入力軸に常時接続しているが、エンジンはクラッチが接続されたときだけ変速機の入力軸に接続する構成のものがある。
【0004】
この場合、エンジンを使用しての走行中に変速機の変速段を切り替える場合には、接続されていたクラッチを一旦遮断し、変速段の切り替えが完了したら再びクラッチを接続する。これに加えて、モータ単体走行する場合にはエンジンのトルク伝達を遮断するためにクラッチは遮断され、エンジンとモータとの併用走行の場合にはこれらのトルクを伝達するために、クラッチが接続される。
【0005】
いずれの場合も、クラッチが遮断されたか接続されたかに応じて制御を実施するので、このようなクラッチの断接時には、クラッチの実際の断接状態を確認した上で制御を実施しないと、制御に支障があるだけでなく、車両の挙動等にも影響してしまう。したがって、変速機の作動や駆動源の取捨選択にあたり、クラッチの断接状態を判定することが必要となる。
【0006】
クラッチの実際の断接状態の確認は、クラッチストロークセンサ又はクラッチ圧力センサを用いて行なうことができるが、このようなセンサ類を車両に新たに装備するにはコスト増を招くため、このようなセンサ類を要することなく、クラッチの断接状態を短時間かつ確実に判定したい。
そこで、例えば特許文献1には、上記のセンサ類を用いずに簡易な構成でハイブリッド電気自動車のクラッチの固着判定(断接判定)をする技術が提案されている。
【0007】
この特許文献1に開示された技術は、第1クラッチが介装されたエンジン及びモータからなる駆動源と、この駆動源と第2クラッチを介して接続された変速機とをそなえ、駆動源と変速機との間の第2クラッチの断接判定を行なうものが例示されている。この技術では、第1クラッチを遮断しモータからエンジンを切り離してモータのみを用いて走行している際の加速要求時に、要求トルクに所定上昇トルクを付加したモータトルクをモータに出力させ、要求トルク及び所定上昇トルクを加算したトルクでは滑りが生じるクラッチ締結圧にクラッチを制御する。そして、この場合のクラッチ入力軸と出力軸との回転数差を求め、この回転数差が、所定回転数差以上であればクラッチは遮断されていると判定し、所定回転数差以下であればクラッチは固着(接続)されていると判定する。
【0008】
また、特許文献1には、上記の第2クラッチの固着判定(断接判定)の技術を、第1クラッチにも適用できることが記載されている。この場合、モータトルクの制御に替えて、エンジン出力を制御することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−151193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1の技術では、通常走行中に駆動源(モータ或いはエンジン)のトルクとクラッチ締結圧とを変化させ、半クラッチ状態を作り出してクラッチの固着判定を行なう。しかし、通常走行中は、例えば加速要求や制動要求により、駆動源の負荷が変動するため、駆動源のトルク制御による回転の上昇の仕方が変化するため、回転数差によるクラッチの断接判定は難しい。
【0011】
特に、エンジンとモータとの間の第1クラッチの断接判定の場合、エンジンのトルク制御を行なうことになるが、エンジンはモータと比べると応答性が悪いため、エンジンのトルク制御を利用した回転数差によるクラッチの断接判定は一層難しい。
また、走行中にドライバの意図しないモータ回転数やエンジン回転数が発生することになるので、ドライバに違和感を与えるおそれがある。
【0012】
また、クラッチ接続状態を一旦半クラッチ状態にしてクラッチの断接判定をするため、判定までに時間がかかるという課題もある。
また、故意にクラッチが滑る状況を作り出す動的なクラッチ断接判定であるため、非走行状態(例えば、Nレンジという)から走行状態(例えば、Dレンジという)へ移行して発進する場合等の停車時には、クラッチの断接判定をすることができない。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、ドライバに違和感を与えずに、非走行状態から走行状態への移行時であってもクラッチの断接判定を短時間で確実に行なうことができるようにした、ハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)上記の目的を達成するために、本発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置は、エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に介装されたクラッチと、入力軸に前記モータが配設され、前記エンジン及び前記モータの少なくとも何れかの入力回転を変速して駆動輪に伝達する変速機と、を備えたハイブリッド電気自動車における、前記クラッチの断接を判定する装置であって、前記クラッチの入力側の回転速度を検出する入力側回転速度検出手段と、前記クラッチの出力側の回転速度を検出する出力側回転速度検出手段と、前記クラッチを断接制御するクラッチ制御手段と、前記モータの作動を制御するモータ制御手段と、前記クラッチ制御手段に前記クラッチを接続状態から遮断状態への切り替えを要求すると共に、前記モータ制御手段を通じて前記モータの回転速度を変化させて、前記出力側回転速度検出手段により検出された出力側回転速度に対する前記入力側回転速度検出手段により検出された入力側回転速度の追従状態に基づいて、前記クラッチが遮断状態であるか接続状態であるかを判定するクラッチ状態判定手段と、を備えていることを特徴としている。
【0015】
(2)また、前記クラッチ状態判定手段は、前記モータの回転速度を変化させてから、前記モータの前記出力側回転速度と前記入力側回転速度との回転速差が予め設定された所定回転数差以上になったら、前記モータ制御手段によって前記モータを0トルク状態に制御して、この制御中に前記回転速差が前記所定回転数差以上の状態が所定時間経過したら前記クラッチが遮断状態であると判定することが好ましい。
(3)また、前記クラッチ状態判定手段は、前記モータの回転速度を変化させてから所定時間経過した時点で、前記入力側回転速度が前記出力側回転速度に追従しなければ、前記クラッチが遮断状態であると判定し、前記所定時間経過した時点で、前記入力側回転速度が前記出力側回転速度に追従したら、前記クラッチが接続状態であると判定することが好ましい。
(4)前記クラッチ制御手段は、前記変速機が非走行状態に設定されていると前記クラッチを接続状態とし、前記変速機が非走行状態から走行状態に切り替えられる際には前記クラッチを遮断し、前記クラッチ状態判定手段は、前記変速機に対して非走行状態から走行状態への切り替えが要求された場合に前記判定を開始することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置によれば、クラッチ状態判定手段は、モータ制御手段を通じてモータの回転速度を変化させ、クラッチの出力側回転速度に対するクラッチの入力側回転速度の追従状態に基づいて、クラッチが遮断状態であるか接続状態であるかを判定するため、クラッチの断接判定を短時間で確実に行なうことができる。また、クラッチストロークセンサやクラッチ圧力センサといったクラッチ特性のセンサ類が不要であり、簡易でコスト増を抑制できる構成で、クラッチの遮断判定をすることができる。さらに、停車発進時であっても、クラッチ断接判定をすることができる。
【0017】
モータを0トルク状態に制御した状態で所定時間経過後にクラッチの断接を判定するため、確実に判定をすることができる。
クラッチ状態判定手段が、モータの回転速度を変化させてから所定時間経過した時点で、入力側回転速度が出力側回転速度に追従しなければ、クラッチが遮断状態であると判定し、所定時間経過した時点で、入力側回転速度が出力側回転速度に追従したら、クラッチが接続状態と判定することにより、クラッチの断接判定をより確実に行なうことができる。
【0018】
クラッチ制御手段が、変速機が非走行状態に設定されているとクラッチを接続状態とし、変速機が非走行状態から走行状態に切り替えられる際にはクラッチを遮断する場合、クラッチ状態判定手段が、変速機に対して非走行状態から走行状態への切り替えが要求された場合に、クラッチの断接状態判定を開始することにより、非走行状態でのクラッチ接続状態から走行状態のクラッチ遮断状態への切り替えを利用して、クラッチの断接状態を判定することができる。
【0019】
モータやエンジンの回転数変化,車速の変化を伴う発進時に、非走行状態でのクラッチ接続状態から走行状態のクラッチ遮断状態への切り替えを利用してクラッチの断接判定を行なうため、ドライバへ違和感を与えることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド電気自動車の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるクラッチ断接判定時のエンジン回転数Ne及びモータ回転数Nmを示す図であり、(a)はエンジン回転数Neがモータ回転数Nmに追従しない場合を示し、(b)はエンジン回転数Neがモータ回転数Nmに追従する場合を示す。
【図3】本発明の一実施形態にかかるクラッチ断接判定の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
〔一実施形態〕
図1〜図3は、本発明の一実施形態にかかるハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置を説明するもので、図1はその全体構成を示す図、図2(a),(b)はクラッチ断接判定時のエンジン回転数Ne及びモータ回転数Nmを示す図、図3はクラッチ断接判定の制御を示すフローチャートである。
【0022】
〔動力系の構成〕
まず、本実施形態にかかるクラッチ断接判定装置が適用されるハイブリッド電気自動車の動力系の構成を説明する。なお、回転速度については、単位時間(例えば、1分)当たりの回転数として扱うので、ここでは、回転速度を回転数という。
本実施形態にかかるハイブリッド電気自動車は、例えば、トラック又はバスといった商用車であり、中でも、乗用車に比べて車体の大きい大型車,中型車であり、ディーゼルエンジンを搭載している。
【0023】
図1に示すように、車両の前部には、駆動系として、エンジン(内燃機関)1,クラッチ2,モータ(電動発電機)3及び変速機(トランスミッション)4を備えている。
クラッチ2は、エンジン1とモータ3との間に介装され、クラッチ2を遮断すれば、エンジン1は車両の駆動系から切り離されて動力伝達はなされず、クラッチ2を接続すれば、エンジン1は車両の駆動系に加わり動力伝達がなされる。
【0024】
つまり、クラッチ2の入力側の回転数はエンジン1の回転数と同じであり、クラッチ2の出力側の回転数はモータ3の回転数と同じである。
モータ3は、その直下流側の変速機4と常時接続されており、インバータ41によって作動を制御される。インバータ41は、力行時には、バッテリ(例えば、リチウムイオン電池等の充放電可能な二次電池の単電池(セル)が複数個直列接続された電池群)40からモータ3に電力を供給して出力トルクを発生させる電動機として機能させ、回生制動時には、車両の運動エネルギを用いて電力を発電(回生発電)する発電機としてモータ3を機能させ、回生発電による電力をバッテリ40の充電に用いるよう構成される。
【0025】
変速機4は、その入力軸がモータ3の回転軸に接続されており、この変速機4の出力軸は、プロペラシャフト5,ディファレンシャル6,ドライブシャフト7等を備えた動力伝達系を介して、駆動輪(ここでは、左右の後輪)8に接続されている。本実施形態の変速機4は、機械式自動変速機であり、図示しないギヤシフトユニットを通じて走行状態に応じた変速段ギヤへの切り替えが行なわれる。また、図示しないシフトレバーを装備しており、このシフトレバーのポジション(シフトレバーポジション)に応じて変速機4の制御範囲が選定される。
【0026】
したがって、車両の走行時には、変速機4の入力軸に入力された駆動トルクを、選択された変速段に応じた変速比で変速して動力伝達系に出力する。この場合、クラッチ2を接続すれば、このクラッチ2を介して伝達されたエンジン1およびモータ3の両出力トルクが変速機4に入力され、クラッチ2を遮断すれば、モータ3のみの出力トルクが変速機4に入力される。
【0027】
もちろん、クラッチ2を接続して、モータ3を無負荷状態とすれば、エンジン1のみの出力トルクが変速機4に入力される。
また、回生制動時には、車両の運動エネルギによる回転トルクが駆動輪8から動力伝達系7,6,5を経て変速機4に入力され、駆動輪8からの入力回転が変速機4の変速段に応じた変速比で変速されて、発電機として機能するモータ3を回転駆動し、車両の制動と共に回生発電を実施することができる。この場合、クラッチ2を遮断すれば、車両の運動エネルギが発電機としてのモータ3の駆動のみに利用され、効率よくエネルギ回収を行なうことができる。また、クラッチ2を接続すれば、インバータ41によるモータ3の制御による回生ブレーキとエンジンブレーキとの併用や、エンジンブレーキのみの作動を行なうことができる。
【0028】
〔制御系の構成〕
エンジン1,クラッチ2,モータ3,変速機4,バッテリ40及びインバータ41の制御又は管理は、コンピュータを用いた電子制御によって行なわれるようになっている。
エンジン1を制御するためにエンジンECU31が、モータ3を操作するインバータ41を制御するためにインバータECU32が、バッテリ40を管理するためにバッテリECU33が、それぞれ設けられ、これらのエンジンECU31,インバータECU32,バッテリECU33,クラッチ2及び変速機4を制御するために、車両ECU60が設けられている。
【0029】
これらの各ECU60,31,32,33は、CPU,ROM,RAM,入出力回路等からなるコンピュータであって、適宜の機器類が付設又は接続されている。
車両ECU60は、車両の走行状態(例えば、車速),車両への駆動又は制動指令の状態(例えば、アクセル操作量やブレーキ操作量)や、バッテリ40の充電量等に基づいて、エンジンECU31,インバータECU32,バッテリECU33,クラッチ2及び変速機4を制御する。特に、クラッチ2の制御は、後述するクラッチ制御手段60aが行ない、モータ3の制御は、インバータECU32を介して後述するモータ制御手段60bが行ない、変速機4の制御は、後述する変速機制御手段60dが行なう。
【0030】
また、エンジン1の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ11と、モータ3の回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21とは、両センサ11,21により検出されたエンジン回転数Ne及びモータ回転数Nmが車両ECU60に入力されるように接続される。
また、ドライバによる図示しないシフトレバーの操作によるシフトポジションを検出するシフトポジションスイッチ71が備えられ、このシフトポジションスイッチ71により検出されたシフトポジション情報が車両ECU60に入力されるように接続される。シフトポジションスイッチ71は、例えば、ドライバが、非走行状態であるNレンジやPレンジから走行状態であるDレンジへの切り替えを要求するに際してはシフトレバーが操作されて、シフトポジションスイッチ71がその旨を検出する。
【0031】
バッテリECU33には、バッテリ40の充放電電流を検出するバッテリ電流センサ51と、バッテリ40の充放電電圧を検出するバッテリ電圧センサ52と、バッテリ40の充放電回数を検出するバッテリ充放電カウンタ54とが接続されており、バッテリ40の充電量は、このバッテリECU33によって、バッテリ40の充放電時の電流,電圧に基づいて算出される。
【0032】
これらの各センサ51,52やカウンタ54は、バッテリ40の各セルに接続され、この各セルの電流,電圧,充放電回数を検出してもよいし、幾つかのセルに対して一つのセンサが接続され、この幾つかのセルの電流,電圧,温度,充放電回数を検出してもよいし、これらの各セルに対してまたは幾つかのセルに対して1つのセンサを接続することを適宜組み合わせて各センサを配設してもよい。
【0033】
また、インバータECU32は、インバータ41を制御することにより、インバータ41に接続されたモータ3及びバッテリ40の電力の授受を管理する。例えば、モータ3の回生発電による発電電力をバッテリ40の充電にあてたり、バッテリ40からモータ3へ給電させてモータ3を駆動したりする。
車両ECU60は、駆動時には、アクセル操作量に基づいて、車両に必要な駆動トルクを設定すると共に、エンジン1とモータ3との何れを使用するか或いは両方を使用するかを設定し、エンジン1とモータ3との両方を使う場合には駆動トルクの配分を行なう。エンジンECU31やインバータECU32は、車両ECU60により設定された駆動トルクを出力するようにエンジン1又はモータ3の作動を制御する。車両ECU60は、この駆動トルクを設定するとともに、この駆動トルク及び車速等に基づいて、変速機4の変速段の設定も行なう。
【0034】
車両ECU60には、前記モータ制御手段60bと、変速機4の図示しないギヤユニットを制御する変速機制御手段60dがコンピュータソフトウェアとして設けられている。この変速機制御手段60dは、図示しないギヤユニットのギヤ抜き,ギヤ入れ及びこれらの同期,係合等を制御する。なお、モータ制御手段60bは、これらのギヤ抜き,ギヤ入れを行なう際の変速機4に直結されたモータ3の回転数を、車速に相当する回転数に制御する。例えば、発進時であればモータ制御手段60bはモータ回転数を0にし、変速機制御手段60dはギヤ抜き,ギヤ入れ等を行なう。
【0035】
また、制動時には、基本的には、クラッチ2を遮断して駆動輪8の回転エネルギをモータ3のみに送って回生発電を行なう。この回生発電による電力は、バッテリ40の充電に用いられる。
車両ECU60には、前記のモータ制御手段60b,変速機制御手段60dに加えてクラッチ制御手段60aと、クラッチ状態判定手段60cとが、何れもコンピュータソフトウェアによる機能要素として設けられている。以下、これらを説明する。
【0036】
〔クラッチ断接判定の制御〕
クラッチ制御手段60aは、クラッチ2の遮断及び接続を制御する。例えば、変速機4が何れの変速段とも噛合していないNレンジが選択された状態(非走行状態)においては、クラッチ2を接続状態に制御する。これにより、エンジン1とモータ3とが接続され、両者は等しい回転数で作動し、モータ3をエンジン1の出力トルクによって発電する発電機として機能させ充電することもできる。
【0037】
発進時には、変速機4がNレンジからDレンジ(走行状態)へと切り替えられ、クラッチ制御手段60aはクラッチ2を遮断状態にし、変速機制御手段60dは何れかの変速段(大型車の場合、例えば2速段)に接続してモータ3の出力トルクによって発進する。
モータ制御手段60bは、モータ3の作動を回転数に基づく制御(回転数制御)又はトルクに基づく制御(トルク制御)によって制御することができる。また、トルク制御の一つとして、後述のクラッチ断接判定時には、モータ3の出力トルクを自身の機械抵抗等をキャンセルするだけの大きさとする0トルク制御も行なう。この0トルク制御時には、他の回転要素が付加されない限りその際の回転数を維持する。
【0038】
クラッチ状態判定手段60cは、クラッチが遮断状態又は接続状態であるかを判定する。
ここでは、クラッチ状態判定手段60cは、発進時において、シフトポジションスイッチ71によりNレンジからDレンジへのドライバの選択要求が検出されると、このタイミングを利用して、発進処理と連動してクラッチ状態判定を開始する。
【0039】
つまり、発進時に変速機4のレンジがNレンジからDレンジへと切り替えられると、発進処理として、クラッチ制御手段60aにより、クラッチ2を接続状態から遮断状態へと切り替えてエンジン1を切り離した上で、変速機制御手段60dが発進変速段(例えば、2速)のギヤを接続してモータ3の出力トルクにより発進する。
なお、発進開始時には、変速機4はNレンジであるとともにクラッチ2は接続状態に制御されており、エンジン回転数センサ11により検出されるエンジン1の回転数Neはアイドリング回転数であり、モータ回転数センサ21により検出されるモータ3の回転数Nmもエンジン1のアイドリング回転数Neと同じである。
【0040】
クラッチ状態判定手段60cは、クラッチ状態判定を開始する場合、クラッチ制御手段60aによりクラッチ2を接続状態から遮断状態への切り替え指令がされ、モータ制御手段60bによりモータ3の回転数Nmがアイドル回転数とは異なる目標回転数(例えばアイドル回転数よりも高回転)Nmtとなるように制御(回転数制御)され、これによって変化するモータ3の回転数Nmに対するエンジン1の回転数Neの追従状態に基づいて、クラッチ2の断接状態を判定する。
【0041】
詳細には、図2(a)に示すように、変化するモータ回転数Nmにエンジン回転数Neが追従しなければ、モータ回転数Nmは目標回転数付近となるのに対して、エンジン回転数Neはアイドル回転数付近にあり、モータ回転数Nmとエンジン回転数Neとは所定回転数差ΔN0以上の差ΔNが生じる。したがって、差ΔNが所定回転数差ΔN0以上になれば、クラッチ2は切り離されたと推定できるが、本装置では、クラッチ2が滑りながら接続している(半クラッチ)場合を想定して、モータ制御手段60bによりモータ3の前述の0トルク制御を行なう。
【0042】
この0トルク制御は、半クラッチの場合に、エンジン回転数Neの追従が遅れる場合を考慮したものである。つまり、クラッチ2が半クラッチで接続している場合、モータ回転数Nmとエンジン回転数Neとの差ΔNが過渡的に大きく(例えば、一定値ΔN0以上)なることが考えられるが、このとき、0トルク制御を実施すると、エンジン1がモータの負荷となってモータ回転数Nmが低下しエンジン回転数Neが上昇し、モータ回転数Nmとエンジン回転数Neとの差ΔNも一定値ΔN0未満に減少する。
【0043】
一方、クラッチ2が完全に切り離された遮断状態ならば、0トルク制御を実施しても、モータ回転数Nmは維持され、エンジン回転数センサ11により検出されるエンジン回転数Neはアイドリング回転数が維持されて、モータ回転数Nmとエンジン回転数Neとの差ΔNも維持される。
そして、差ΔNが一定値ΔN0以上の状態であれば、図示しないタイマのタイマ値Tをセットして作動させ、タイマカウントを開始する。差ΔNが一定値ΔN0以上状態でタイマ値Tが所定時間T0以上になると、クラッチ状態判定手段60cは、クラッチ2が遮断状態であると判定する。なお、上記の目標回転数Nmtや、クラッチ2が遮断状態であることを判定する閾値である所定回転数差ΔN0は、予め実験的,経験的に設定され、所定回転数差ΔN0はモータ3の回転数変化分(目標回転数Nmtとアイドル回転数との差)よりも小さく設定されている。また、上記の所定時間T0は、クラッチ2が遮断状態であることを判定する閾値として予め実験的,経験的に設定される。
【0044】
なお、一般的にモータを備えないクラッチフルードを使用した湿式クラッチを装備する車両では、クラッチの遮断状態を確実に判定するために高温時よりもクラッチが追従しやすい低温時のクラッチフルード特性に基づいて設定された時間Ta後に、クラッチが遮断状態であると判定される。この時間Taは、クラッチが接続されたままギヤ入れが実施されないように、ある程度の余裕を持って一律に設定される。一方、本発明における所定時間T0は、クラッチが追従しにくい高温時のクラッチフルード特性に基づいて設定される。
【0045】
一方、モータ3の回転数を目標回転数Nmtに制御する回転数制御した結果、図2(b)に示すように、変化するモータ3の回転数Nmにエンジン1の回転数Neが追従すると、クラッチ断接判定手段60cは、モータ制御手段60bに上記回転数制御を続行させる。
すなわち、クラッチ断接状態判定手段60cは、図2(b)に示すように、変化させたモータ3の回転数にエンジン1の回転数が追従すれば、クラッチ2はまだ接続状態であると判定する。
【0046】
なお、本実施形態では、クラッチ断接状態判定手段60cが、クラッチ2の断接判定をするにあたって、半クラッチ状態を想定してモータを0トルク制御して所定時間経過後に遮断状態であると判定するが、モータ0トルク制御を行なわず、所定時間の経過を待たずにクラッチ2が遮断状態であると判定してもよい。
例えば、モータ3の回転数を目標回転数Nmt′に制御する回転数制御を開始してから、この回転数制御を予め設定された所定時間T0′だけ続行して、所定時間T0′後に、モータ3の回転数Nmとエンジン回転数Neとの差ΔNが所定回転数差ΔN0′となったら、遮断状態であると判定してもよい。
【0047】
或いは、モータ3の目標回転数Nmt″をアイドル回転数から十分に離れた値とすれば、変化させたモータ3の回転数Nmとエンジン回転数Neとの差ΔNが所定回転数差ΔN0″(>ΔN0)となった段階で、変化させたモータ3の回転数Nmにエンジン1の回転数が追従しないとして、即座に遮断状態であると判定してもよい。
【0048】
〔作用・効果〕
本発明の一実施形態にかかるハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定制御装置は上述のように構成されるため、クラッチ状態判定手段60cにより、例えば、図3に示すような制御が行なわれる。この制御フローは、例えば数10ms毎に、周期的に行なわれる。
【0049】
図3において、フラグFは、クラッチ断接判定フラグであり、NレンジからDレンジへの切り替えが要求されるとF=1とされクラッチ断接判定を実施し、クラッチ断接判定の終了時にF=0にリセットされる。
まず、フラグFがたっている(F=1)か否かを判定する(ステップS10)。フラグFが1であれば、後述のステップS40の処理を行なう。
【0050】
フラグFが0であれば、シフトポジションスイッチ71により、NレンジからDレンジへの切り換えが要求されているか否かを判定する(ステップS20)。NレンジからDレンジへの切り替えが要求されていないと判定されると、制御フローを終了する(リターン)。
NレンジからDレンジへの切り替えが要求されていると判定されると、フラグFを1にする(ステップS30)。
【0051】
フラグFが1であると、モータ回転数制御を行なう(ステップS40)。このモータ回転数制御は、モータ回転数Nmをエンジン1のアイドル回転数とは異なる目標回転数Nmt(例えばアイドル回転数よりも高回転数)となるように制御する。
モータ回転数制御がされると、モータ回転数センサ21により検出されたモータ回転数Nmが、エンジン回転数センサ11により検出されたエンジン回転数Neよりも所定回転数ΔN0以上離れているか否かを判定する(ステップS50)。
【0052】
エンジン1及びモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0以上であれば、モータ制御手段60bがモータ3に前述の0トルク制御を行なう(ステップS60)。
そして、タイムカウントを開始するタイム値Tを設定してタイマを作動させる(ステップS70)。
次に、エンジン1及びモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0以上である状態が、所定時間T0継続したかを判定する(ステップS80)。この継続状態の判定は、タイム値TがT0以上となるとエンジン1及びモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0以上であるかを判定することで行なう。
【0053】
エンジン1及びモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0以上である状態が所定時間T0継続すると、クラッチ2は遮断状態であると判定する(ステップS90)。
そして、フラグFを0にし、タイマを停止し、0にリセットし(ステップS100)、制御フローを終了する(リターン)。
一方、エンジン1及びモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0よりも小さいと判定されると(ステップS50のNO)、又は、所定時間T0経過時の回転数差ΔNが所定回転数よりも小さいと判定される(ステップS80)と、クラッチ2はまだ接続状態と判定される(ステップS200)。
【0054】
そして、タイマを停止し、0にリセットし(ステップS210)、制御フローを終了する(リターン)。
ここで、前述のように、ステップS60〜S80は省略してもよい。すなわち、エンジン1及びモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0以上であれば(ステップS50のYES)、クラッチ遮断と判定(ステップS90)してもよい。
【0055】
なお、発進時にクラッチ遮断と判定されて制御フローを終了すると、モータ制御手段60bはモータ回転数を0に制御し、変速機制御手段60dはギヤ入れ等を行なって変速機4の発進段を係合させる。
したがって、クラッチ状態判定手段60cは、モータ制御手段60bを通じてモータ3の回転数Nmを変化させ、クラッチ3の出力側回転数Nmに対するクラッチ2の入力側回転数Neの追従状態に基づいて、クラッチ2が遮断状態であるか接続状態であるかを判定するため、クラッチ2の断接判定を短時間で確実に行なうことができる。また、クラッチストロークセンサやクラッチ圧力センサを装備していないハイブリッド電気自動車においても、簡易な構成で、クラッチ2の遮断判定をすることができる。停車発進時であっても、クラッチ断接判定をすることができる。
【0056】
クラッチ状態判定手段60cは、モータ3の回転数Nmを変化させてから所定時間T0経過した時点で、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmに追従しなければ、クラッチ2が遮断状態であると判定し、所定時間経過した時点で、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmに追従したら、クラッチ2が接続状態と判定するため、クラッチ2の断接判定をより確実に行なうことができる。
【0057】
クラッチ制御手段60aは、変速機4がNレンジに設定されているとクラッチ2を接続状態とし、変速機4がNレンジからDレンジに切り替えられる際にはクラッチ2を遮断し、クラッチ状態判定手段60cは、NレンジからDレンジへの切り替えが要求された場合に、クラッチ2の断接状態判定を開始するため、Nレンジではクラッチ2が接続される駆動系において、NレンジからDレンジへの切り替え時に、クラッチ2の断接状態を判定することができる。車速が0とならない走行中の変速時にはクラッチ断接判定は行なわれず、ドライバの意図しないエンジン1及びモータ3のトルク変動や回転数変化が発生せず、ドライバへ違和感を与えることを防止することができる。また、発進時等にNレンジからDレンジへの要求がされた場合に、クラッチ2が遮断状態であることが、短時間で確実に判定できるため、速やかに変速機4のギヤ入れ等の動作を開始することができ、ドライバビリティを向上することができる。
【0058】
モータ制御手段60bによりモータ3が0トルク制御されて、所定時間T0経過後に、エンジン1とモータ3の回転数差ΔNが所定回転数ΔN0以上であるかを判定するため、クラッチフルードの温度,粘性又は劣化等により、モータ回転数Nmを変化した時点では、エンジン回転数Neが追従しておらず、その後所定時間T0経過時よりも前の時点において、エンジン回転数Neがモータ回転数Nmに追従した場合であっても、確実にクラッチ2の断接判定ができる。
【0059】
所定時間T0は、高温時のクラッチフルード特性に基づいて設定されるため、低温時のクラッチフルード特性も考慮でき、かつ高温時には速やかにクラッチの遮断を判定することができる。
【0060】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0061】
上述の実施形態では、モータ3の回転数をエンジン1のアイドリング回転数よりも大きくする制御をして、クラッチの遮断判定を行なったが、エアコン等のアクセサリ使用時にエンジンのアイドリング回転数が上昇している(アイドルアップ)状態では、エンジン1のアイドルアップ回転数よりもエンジンストップしない程度にモータ回転数Nmを小さくして、クラッチの断接判定を行なってもよい。
【0062】
これによれば、モータの回転数制御で消費される電力をより抑制して、クラッチの断接判定を行なうことができる。
また、車両に搭載されるエンジンもディーゼルエンジンに限定されない。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン
2 クラッチ
3 モータ
4 変速機
5 プロペラシャフト
6 ディファレンシャル
7 ドライブシャフト
11 エンジン回転数センサ(入力側回転速度検出手段)
21 モータ回転数センサ(出力側回転速度検出手段)
31 インバータ
32 バッテリ
51 バッテリ電流センサ
52 バッテリ電圧センサ
54 バッテリ充放電カウンタ
58 アクセルポジションセンサ
60 車両ECU
60a クラッチ制御手段
60b モータ制御手段
60c クラッチ状態判定手段
60d 変速機制御手段
61 エンジンECU
62 インバータECU
63 バッテリECU
71 シフトポジションスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に介装されたクラッチと、入力軸に前記モータが配設され、前記エンジン及び前記モータの少なくとも何れかの入力回転を変速して駆動輪に伝達する変速機と、を備えたハイブリッド電気自動車における、前記クラッチの断接を判定する装置であって、
前記クラッチの入力側の回転速度を検出する入力側回転速度検出手段と、
前記クラッチの出力側の回転速度を検出する出力側回転速度検出手段と、
前記クラッチを断接制御するクラッチ制御手段と、
前記モータの作動を制御するモータ制御手段と、
前記クラッチ制御手段に前記クラッチを接続状態から遮断状態への切り替えを要求すると共に、前記モータ制御手段を通じて前記モータの回転速度を変化させて、前記出力側回転速度検出手段により検出された出力側回転速度に対する前記入力側回転速度検出手段により検出された入力側回転速度の追従状態に基づいて、前記クラッチが遮断状態であるか接続状態であるかを判定するクラッチ状態判定手段と、を備えている
ことを特徴とする、ハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置。
【請求項2】
前記クラッチ状態判定手段は、
前記モータの回転速度を変化させてから、前記モータの前記出力側回転速度と前記入力側回転速度との回転速差が予め設定された所定回転数差以上になったら、前記モータ制御手段によって前記モータを0トルク状態に制御して、この制御中に前記回転速差が前記所定回転数差以上の状態が所定時間経過したら前記クラッチが遮断状態であると判定する
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置。
【請求項3】
前記クラッチ状態判定手段は、
前記モータの回転速度を変化させてから所定時間経過した時点で、前記入力側回転速度が前記出力側回転速度に追従しなければ、前記クラッチが遮断状態であると判定し、前記所定時間経過した時点で、前記入力側回転速度が前記出力側回転速度に追従したら、前記クラッチが接続状態であると判定する
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置。
【請求項4】
前記クラッチ制御手段は、
前記変速機が非走行状態に設定されていると前記クラッチを接続状態とし、前記変速機が非走行状態から走行状態に切り替えられる際には前記クラッチを遮断し、
前記クラッチ状態判定手段は、前記変速機に対して非走行状態から走行状態への切り替えが要求された場合に前記判定を開始する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド電気自動車のクラッチ断接判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−116409(P2012−116409A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269685(P2010−269685)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】