説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】エンジンと電動機間に設けられた油圧作動式のクラッチを断接する油圧回路の信頼性、耐久性を向上し、ひいては車両の更なる小型化、省電力化、低燃費化を実現しながら、クラッチを介した電動機によるエンジンの始動の失敗を効果的に防止可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン自動始動手段は、作動油温度検出手段(18)により検出された作動油温度が所定温度よりも低いとき、電動オイルポンプ(16)を始動して電動オイルポンプ(16)により加圧された作動油の油圧によってクラッチ(6)を接続し、電動機(4)を始動して電動機(4)の駆動力によってエンジン(2)を始動し、一方、作動油温度検出手段(18)により検出された作動油温度が所定温度以上のとき、スタータモータ(10)を始動してスタータモータ(10)の駆動力によってエンジン(2)を始動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンと電動機とを備えたハイブリッド電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の駆動輪に連結される動力伝達機構にエンジンと発電可能な電動機とを連結し、車両の走行時に必要に応じて電動機による駆動アシストを行うとともに、減速時に駆動輪から入力される動力を電動機に伝達し、電動機により回生動作を行って減速エネルギーを回生エネルギーに変換し電気エネルギーとして蓄電装置に充電するハイブリッド電気自動車が開発されている。
【0003】
このようなハイブリッド電気自動車に油圧作動式の自動変速機を採用した場合、エンジンで駆動される機械式オイルポンプによって自動変速機における変速機構の作動油圧を確保しているが、例えば、信号待ちなどにおける車両停止時にエンジンを停止すると、これに伴い機械式オイルポンプも停止するため変速機構の作動油圧を確保することができなくなる。
【0004】
そこで、エンジン停止時にも変速機構の作動油圧を確保することができるように、エンジンで駆動される機械式オイルポンプとは別に電動オイルポンプを備えたエンジン自動停止車両の油圧制御装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−132321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の上記装置では、車両の運転状況によって作動油温が通常使用温度(例えば100℃)を超えて極端に高温(例えば150℃)になり、作動油の動粘度が著しく低下することにつき格別な配慮がなされていない。
詳しくは、作動油の温度上昇に伴い動粘度が低下すると、油圧回路を構成する機械式オイルポンプ、クラッチ制御用リニアソレノイドバルブ、油圧調整用リリーフバルブ等からの作動油の内部リーク量が増大する。この内部リーク量の増大により、エンジン停止中に電動オイルポンプを作動させても必要な作動油圧を確保できないおそれがある。
【0007】
ここで、ハイブリッド電気自動車に上記作動油圧で作動される油圧作動式のクラッチを採用した場合には、上記内部リーク量の増大により作動油圧が不足すると、エンジンの再始動時にクラッチの締結に要する作動油圧が不足し、電動機とエンジンとを完全に接続することができないため、電動機の駆動力によるエンジンの始動失敗を招くおそれがある。
そのため、上述した作動油の内部リークを想定した場合には、作動油圧を確保するべく、上記内部リーク以上の高流量、高出力の電動オイルポンプが必要になる。また、上述した作動油の極端な温度上昇は、夏場において車両を高負荷で運転した直後にのみ生じるものである。従って、極めて発生頻度の低い状況を想定して高出力の電動オイルポンプを採用し、電動オイルポンプにコストをかけ、そのサイズ、重量等を大きくするのは経済性に劣ると云わざるを得ない。
【0008】
更に、作動油高温時にポンプ内に高温の作動油が流れることによってポンプの熱劣化が生じたり、或いはエンジンの始動失敗によって電動オイルポンプを長時間に亘って不必要に作動させることによって、ポンプの寿命が著しく低下するおそれもある。
更にまた、高出力の電動オイルポンプを長時間に亘って作動させることによって、車両における電力使用量が増大し、ひいては車両の燃費が悪化するとの問題もある。
【0009】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、エンジンと電動機間に設けられた油圧作動式のクラッチを断接する油圧回路の信頼性、耐久性を向上し、ひいては車両の更なる小型化、省電力化、低燃費化を実現しながら、クラッチを介した電動機によるエンジンの始動の失敗を効果的に防止可能なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、スタータモータの駆動力により始動可能なエンジンと、上記エンジンによって駆動される機械式オイルポンプにより作動油が供給される油圧式のクラッチと、上記クラッチを介して上記エンジンに接続される電動機とを備え、上記エンジンの駆動力と上記電動機の駆動力とを車両の駆動輪に伝達可能なハイブリッド電気自動車の制御装置であって、自動停止したエンジンを自動始動するエンジン自動始動手段と、エンジン自動始動手段によって始動され、作動油を加圧してクラッチに供給する電動オイルポンプと、クラッチに供給される作動油の温度を検出する作動油温度検出手段とを備え、エンジン自動始動手段は、作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度よりも低いとき、電動オイルポンプを始動して電動オイルポンプにより加圧された作動油の油圧によってクラッチを接続し、電動機を始動して電動機の駆動力によってエンジンを始動し、一方、作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度以上のとき、スタータモータを始動してスタータモータの駆動力によってエンジンを始動することを特徴としている(請求項1)。
【0011】
好ましくは、エンジン自動始動手段は、作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度よりも低いときにエンジンを始動した後には電動オイルポンプを停止し、機械式オイルポンプにより加圧された作動油の油圧によってクラッチを断接する(請求項2)。
具体的には、機械式オイルポンプからクラッチに作動油を供給する第1油路と、電動オイルポンプから第1油路に作動油を供給する第2油路とを含む(請求項3)。
【0012】
また、第2油路には第1油路から電動オイルポンプへの作動油の逆流を阻止する逆止弁が介装される(請求項4)。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、エンジン自動始動手段は、作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度よりも低いとき、電動オイルポンプを始動して電動オイルポンプにより加圧された作動油の油圧によってクラッチを接続し、電動機を始動して電動機の駆動力によってエンジンを始動し、一方、作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度以上のとき、スタータモータを始動してスタータモータの駆動力によってエンジンを始動する。これにより、作動油温高温時においては、自動停止したエンジンの自動始動を通常の手動によるエンジンの始動と同様にスタータモータの駆動力で行うことができる。従って、作動油の動粘度低下によって機械式オイルポンプからの内部リークが増大し、ひいては作動油圧が不足してクラッチを接続することができず、その結果エンジンの始動が失敗することを効果的に防止することができる。
【0014】
また、電動オイルポンプの選定において作動油高温時の内部リーク増大を想定する必要がないため、電動オイルポンプを作動油の通常使用温度でのみの使用を想定した低出力のタイプにすることができる。従って、電動オイルポンプのコスト、寸法、重量等を必要最低限に抑えることができる。
更に、作動油高温時に電動オイルポンプを使用しないため、電動オイルポンプに高温の作動油が流れることによる電動オイルポンプの熱劣化や、エンジンの始動失敗に起因する電動オイルポンプの長時間に亘る無駄な使用によって、電動オイルポンプの寿命が著しく低下するのを防止することができる。
【0015】
更にまた、電動オイルポンプを不必要に長時間作動させることや、電動オイルポンプを高出力で継続して使用することによって、車両における電力使用量が増大し、ひいては車両の燃費が悪化するのを防止することができる。
以上により、低出力の電動オイルポンプを効率的に作動させ、簡易にして且つ低コストで電動オイルポンプ、ひいては油圧回路の信頼性、耐久性を高め、ひいては車両の更なる小型化、省電力化、低燃費化を実現することができるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、エンジン自動始動手段は、作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度よりも低いときにエンジンを始動した後には電動オイルポンプを停止し、機械式オイルポンプにより加圧された作動油の油圧によってクラッチを断接する。これにより、電動オイルポンプの使用はエンジンの始動時のみに限定されるため、電動オイルポンプを不必要に長時間使用することが防止され、電動オイルポンプの耐久性を更に高め、ひいては車両の更なる省電力化、低燃費化を実現することができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、機械式オイルポンプからクラッチに作動油を供給する第1油路と、電動オイルポンプから第1油路に作動油を供給する第2油路とを含む。これにより、機械式及び電動オイルポンプからクラッチに作動油を供給する油路の一部を共用して同一油圧系統とすることができ、油圧回路の構成が簡素化されるため、油圧回路からの作動油の漏洩を極力防止することができる。
【0018】
また、機械式オイルポンプを備えた基本油圧回路に電動オイルポンプを後から追加する場合には、上記基本油圧回路の構成を変更する必要はないため、油圧回路の製造コストを大幅に低減することができ、簡易にして且つ低コストで油圧回路の信頼性を高めることができる。
請求項4記載の発明によれば、第2油路には第1油路から電動オイルポンプへの作動油の逆流を阻止する逆止弁が介装される。これにより、上記基本油圧回路の構成を変更しなくとも、機械式オイルポンプ側から電動オイルポンプ側への作動油の逆流を確実に防止することができ、簡易にして且つ低コストで油圧回路の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用されるハイブリッド電気自動車の動力伝達系の要部縦断面を概略的に示した構成図である。
【図2】図1のECUが実行するエンジン自動始動制御の概要を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明が適用されるハイブリッド電気自動車1の動力伝達系の要部縦断面を概略的に示した構成図である。ハイブリッド電気自動車1は、エンジン2の駆動力と電動機4の駆動力とを車両の駆動輪に伝達し、エンジン2と電動機4とを断接するクラッチ6を備えている。
【0021】
エンジン2の出力軸にはクラッチ6の入力軸が連結され、クラッチ6の出力軸には電動機4の回転軸を介して自動変速機(以下変速機という)8の入力軸が連結されている。そして、変速機8の出力軸は、何れも図示は省略するが、プロペラシャフト、差動装置及び駆動軸を介して左右の駆動輪に接続されている。従って、クラッチ6が接続されているときには、エンジン2の出力軸と電動機4の回転軸との両方が駆動輪と機械的に接続され、クラッチ6が切断されているときには電動機4の回転軸のみが駆動輪と機械的に接続された状態となる。
【0022】
電動機4は、永久磁石式同期電動機であって、何れも図示は省略するが、バッテリに蓄えられた直流電力がインバータによって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動し、その駆動力が変速機8によって適切な速度に変速された後に駆動輪に伝達されるようになっている。また、車両減速時には、電動機4が発電機として作動し、駆動輪の回転による運動エネルギーが変速機8を介し電動機4に伝達されて交流電力に変換されることにより回生制動力を発生する。そして、この交流電力はインバータによって直流電力に変換された後、バッテリに充電され、駆動輪の回転による運動エネルギーが電気エネルギーとして回収される。
【0023】
一方、エンジン2はイグニッションキー(図示せず)を回すと通電されるスタータモータ10の駆動力により始動可能であり、エンジン2の駆動力は、クラッチ6が接続されているときに電動機4の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適切な速度に変速された後に駆動輪に伝達されるようになっている。従って、エンジン2の駆動力が駆動輪に伝達されているときに電動機4がモータとして作動する場合には、エンジン2の駆動力と電動機4の駆動力とがそれぞれ駆動輪に伝達されることになる。即ち、車両の駆動のために駆動輪に伝達されるべき駆動トルクの一部がエンジン2から供給され、上記駆動トルクの残りは電動機4から供給される。
【0024】
クラッチ6は、油圧作動式の湿式クラッチであって、エンジン2と電動機4とを油圧回路12を流れる作動油の油圧で断接している。油圧回路12は、エンジン2または電動機4によって駆動される機械式オイルポンプ14と、油圧回路12を流れる作動油の油圧を所定圧力に調整する油圧調整用リリーフバルブ13と、クラッチ6を断接制御するためのクラッチ制御用リニアソレノイドバルブ15と、後述するECU42からの指令によって始動される電動オイルポンプ16と、クラッチ6に供給される作動油の温度を検出する作動油温センサ(作動油温度検出手段)18とを備え、機械式オイルポンプ14または電動オイルポンプ16によって作動油を加圧してクラッチ6に供給する。
【0025】
機械式オイルポンプ14の吸入ポート14aには、第1吸入管(第1油路)20が接続され、第1吸入管20は作動油が溜められるオイルパン22まで延設されている。機械式オイルポンプ14の吐出ポート14bには、第1吐出管(第1油路)24が接続され、第1吐出管24はクラッチ6まで延設されている。機械式オイルポンプ14によってオイルパン22から吸い込まれた作動油は、図1中に矢印で示すように第1吸入管20を通過した後に機械式オイルポンプ14にて加圧され、更に第1吐出管24を通過する際に油圧調整用リリーフバルブ13により所定圧力に調整されて、クラッチ制御用リニアソレノイドバルブ15を介してクラッチ6に供給される。
【0026】
なお、機械式オイルポンプ14にて加圧された作動油の油圧が所定圧力よりも高い場合には、作動油の一部が油圧調整用リリーフバルブ13から排出管23を介してオイルパン22へ排出される。更に、第1吸入管20には、第1吸入管20と電動オイルポンプ16の吸入ポート16aとを連通する第2吸入管30が接続されている。
一方、電動オイルポンプ16の吐出ポート16bには、第2吐出管(第2油路)34が接続され、第2吐出管34の他端は第1吐出管24に接続されている。
【0027】
また、第2吐出管34には逆止弁36が介装され、逆止弁36は、第1吐出管24から第2吐出管34を順次通過して電動オイルポンプ16側へ流れる作動油の逆流を阻止している。
電動オイルポンプ16によってオイルパン22から吸い込まれた作動油は、図1中に矢印で示すように第2吸入管30を通過した後に電動オイルポンプ16にて加圧され、更に第2吐出管34、逆止弁36、第1吐出管24の一部を順次通過してクラッチ6に供給される。即ち、電動オイルポンプ16からクラッチ6への油路は第1吐出管24の一部を共用して形成される。
【0028】
ここで、エンジン2はその各気筒38に対する燃料噴射制御及び噴射燃料の点火制御を行う燃料噴射・点火制御装置40を有している。燃料噴射・点火制御装置40の作動は、車両を総合的に制御するECU42によって制御され、ECU42は所定条件の成立によって、いわゆるISS(アイドリングストップ&スタート)システムを作動させ、エンジン2の自動停止始動制御を実行する。
【0029】
具体的には、ECU42には、車速を検出する車速センサ44、エンジン2を冷却する冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ46、ブレーキペダルが踏み込まれたか否かを検出するブレーキスイッチ48、変速機8のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ50や、その他、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数センサ、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ、バッテリの残容量を検出する残容量センサ(何れも図示せず)などからの出力信号が入力される。
【0030】
そして、ECU42は、ISSシステムを作動させるためのISSスイッチ(図示せず)をオンにした状態で、例えば、車速センサ44にて検出された車速がゼロ、エンジン水温センサ46にて検出された冷却水温が60℃以上、ブレーキスイッチ48がオン、シフトポジションセンサ50にて検出されたシフトポジションがD(ドライブ)またはN(ニュートラル)の各条件が成立したとき、エンジン2のアイドリングを自動的に停止する。
【0031】
その後、ECU42は、例えば、シフトポジションがDのときはブレーキスイッチ48がオフとなるとき、或いは、シフトポジションがNのときはシフトポジションがDとなるときに、エンジン2の自動始動要求が有るものとしてエンジン2を自動的に再始動する。このように、上記エンジン自動停止始動制御は、燃料噴射・点火制御装置40を作動させて実行される。
【0032】
ここで、ECU42は、上記エンジン自動停止始動制御の実行に際して、エンジン2の自動始動時に作動油温度に応じて電動オイルポンプ16の駆動を制御することにより、エンジン2の自動始動手段として、電動機4またはスタータモータ10の何れか一方を選択可能なエンジン自動始動制御を実行している(エンジン自動始動手段)。即ち、ECU42、燃料噴射・点火制御装置40、油圧回路12はエンジン自動始動手段の制御装置52を構成している。
【0033】
以下、図2のフローチャートを参照して上記エンジン自動始動制御について説明する。
先ず本制御が開始されると、ステップS1では、ISSスイッチをオンとしたISSシステムの作動中に、上述した所定条件の成立によってエンジン2が自動停止したか否かを判定する。ISSでエンジン2が自動停止した(Yes)と判定された場合にはステップS2に移行し、ISSでエンジン2が自動停止していない(No)と判定された場合には再びステップS1に戻る。
【0034】
次にステップS2では、上述した所定条件の成立によってエンジン2の自動始動要求が有るか否かを判定する。エンジン2の自動始動要求有り(Yes)と判定された場合にはステップS3に移行し、エンジン2の自動始動要求無し(No)と判定された場合には再びステップS2に戻る。
次に、作動油温センサ18にて作動油温度を検出し(ステップS3)、作動油温センサ18により検出された作動油温度Tが所定温度Tαよりも低い(T<Tα)か否かを判定する(ステップS4)。作動油温度Tが所定温度Tαよりも低い(Yes)と判定された場合にはステップS5に移行し、作動油温度Tが所定温度Tα以上である(No)と判定された場合にはステップS9に移行する。なお、所定温度Tαは作動油の通常使用温度(例えば100℃)よりも大きく、且つ、動粘度の低下による内部リークの増大がクラッチ6の締結に要する電動オイルポンプ16のポンプ性能を超えない程度の作動油の温度範囲(例えば110℃〜120℃程度)に設定される。
【0035】
次にステップS5では、電動オイルポンプ16を始動し、電動オイルポンプ16により加圧された作動油の油圧によってクラッチ6を接続し(ステップS6)、電動機4を始動し(ステップS7)、電動機4の駆動力によってエンジン2を始動し(ステップS8)、ステップS10に移行する。
一方、ステップS4にて作動油温度Tが所定温度Tα以上である(No)と判定された場合には、スタータモータ10を始動し(ステップS9)、スタータモータ10の駆動力によってエンジン2を始動し(ステップS8)、ステップS10に移行する。
【0036】
最後にステップS10では、ステップS5を経て電動オイルポンプ16が作動している場合には電動オイルポンプ16を停止し、本制御を終了する。
以上のように、本実施形態では、上述したエンジン自動始動制御を実行することにより、作動油温高温時においては、自動停止したエンジン2の自動始動を通常の手動によるエンジン2の始動と同様にスタータモータ10の駆動力で行うことができる。従って、作動油の動粘度低下によって油圧回路12を構成する機械式オイルポンプ14、油圧調整用リリーフバルブ13、クラッチ制御用リニアソレノイドバルブ15等からの内部リークが増大し、ひいては作動油圧が不足してクラッチ6を接続することができず、その結果エンジン2の始動が失敗することを効果的に防止することができる。
【0037】
また、電動オイルポンプ16の選定において作動油高温時の内部リーク増大を想定する必要がないため、電動オイルポンプ16を作動油の通常使用温度でのみの使用を想定した低出力のタイプにすることができる。従って、電動オイルポンプ16のコスト、寸法、重量等を必要最低限に抑えることができる。
更に、作動油高温時に電動オイルポンプ16を使用しないため、電動オイルポンプ16に高温の作動油が流れることによる電動オイルポンプ16の熱劣化や、エンジン2の始動失敗に起因する電動オイルポンプ16の長時間に亘る無駄な使用によって、電動オイルポンプ16の寿命が著しく低下するのを防止することができる。
【0038】
更にまた、電動オイルポンプ16を不必要に長時間作動させることや、電動オイルポンプ16を高出力で継続して使用することによって、車両における電力使用量が増大し、ひいては車両の燃費が悪化するのを防止することができる。
また、上述したエンジン自動始動制御を行うことにより、作動油温センサ18により検出された作動油温度Tが所定温度Tαよりも低いときにエンジン2を始動した後には、電動オイルポンプ16を停止する(ステップS10)。即ち、エンジン2の自動始動後は、機械式オイルポンプ14により加圧された作動油の油圧によってクラッチ6を断接する。これにより、電動オイルポンプ16の使用はエンジン2の始動時のみに限定されるため、電動オイルポンプ16を不必要に長時間使用することが防止され、電動オイルポンプ16の耐久性を高め、ひいては車両の更なる省電力化、低燃費化を実現することができる。
【0039】
更に、第1吐出管24には、第2吐出管34が接続されることにより、機械式及び電動オイルポンプ14,16からクラッチ6に作動油を供給する油路の一部を共用して同一油圧系統とすることができ、油圧回路12の構成が簡素化されるため、油圧回路12からの作動油の漏洩を極力防止することができる。
しかも、機械式オイルポンプ14を備え且つケース28内に配される基本油圧回路に、電動オイルポンプ16を後から追加する場合には、上記基本油圧回路以外の付加回路は電動オイルポンプ16と第1吸入管20との間に第2吸入管30を接続するだけで追加可能である。従って、上記基本油圧回路の構成を大幅に変更する必要はないため、油圧回路12の製造コストを大幅に低減することができる。
【0040】
具体的には、ケース28内における上記基本油圧回路やそれを構成する各管の配置に大きな変更が生じると、上記基本油圧回路を含めたケース28内に配される各機器の耐圧及び耐熱上の設計変更を余儀なくされる。しかし、本実施形態では上記基本油圧回路の構成の大幅な変更は要しないため、簡易にして且つ低コストで油圧回路12の信頼性を高めることができる。
また、第2吐出管34に逆止弁36が介装されることにより、上記基本油圧回路の構成を変更しなくとも機械式オイルポンプ14側から電動オイルポンプ16側への作動油の逆流を確実に防止することができ、簡易にして且つ低コストで油圧回路12の信頼性を高めることができる。
【0041】
以上により、低出力の電動オイルポンプ16をエンジン2と電動機4との間に設けられたクラッチ6を断接するために効率的に作動させ、簡易にして且つ低コストで電動オイルポンプ16、ひいては油圧回路12の信頼性、耐久性を高め、ひいては車両の更なる小型化、省電力化、低燃費化を実現しながら、クラッチ6を介した電動機4によるエンジン2の始動の失敗を効果的に防止可能なハイブリッド電気自動車1の制御装置を提供することができる。
【0042】
本発明は上述の実施形態に制約されるものではなく、更に種々の変形が可能である。
例えば、所定温度Tαは作動油の通常使用温度(例えば100℃)よりも大きく、且つ、動粘度の低下による内部リークの増大がクラッチ6の締結に要する電動オイルポンプ16のポンプ性能を超えない程度の作動油の温度範囲として例えば110℃〜120℃程度に設定されるが、この温度範囲は使用する作動油の種類に応じて変わるのは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 ハイブリッド電気自動車
2 エンジン
4 電動機
6 クラッチ
10 スタータモータ
14 機械式オイルポンプ
16 電動オイルポンプ
18 作動油温センサ(作動油温度検出手段)
20 第1吸入管(第1油路)
24 第1吐出管(第1油路)
30 第2吸入管(第2油路)
34 第2吐出管(第2油路)
36 逆止弁
42 ECU(エンジン自動始動手段)
52 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタータモータの駆動力により始動可能なエンジンと、上記エンジンによって駆動される機械式オイルポンプにより作動油が供給される油圧式のクラッチと、上記クラッチを介して上記エンジンに接続される電動機とを備え、上記エンジンの駆動力と上記電動機の駆動力とを車両の駆動輪に伝達可能なハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
自動停止した上記エンジンを自動始動するエンジン自動始動手段と、
上記エンジン自動始動手段によって始動され、上記作動油を加圧して上記クラッチに供給する電動オイルポンプと、
上記クラッチに供給される作動油の温度を検出する作動油温度検出手段とを備え、
上記エンジン自動始動手段は、上記作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度よりも低いとき、上記電動オイルポンプを始動して上記電動オイルポンプにより加圧された作動油の油圧によって上記クラッチを接続し、上記電動機を始動して上記電動機の駆動力によって上記エンジンを始動し、一方、上記作動油温度検出手段により検出された作動油温度が上記所定温度以上のとき、上記スタータモータを始動して上記スタータモータの駆動力によって上記エンジンを始動することを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
上記エンジン自動始動手段は、上記作動油温度検出手段により検出された作動油温度が所定温度よりも低いときに上記エンジンを始動した後には上記電動オイルポンプを停止し、上記機械式オイルポンプにより加圧された作動油の油圧によって上記クラッチを断接することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
上記機械式オイルポンプから上記クラッチに作動油を供給する第1油路と、上記電動オイルポンプから上記第1油路に作動油を供給する第2油路とを含むことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
上記第2油路には上記第1油路から上記電動オイルポンプへの作動油の逆流を阻止する逆止弁が介装されることを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−131825(P2011−131825A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294774(P2009−294774)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】