説明

ハイブリッド電気自動車用パワートレイン及びその制御方法

【課題】エンジン12の始動の前にエンジン潤滑システム内の油圧を適正な値に設定可能な、ハイブリッド電気自動車用パワートレインを提供する。
【解決手段】エンジン潤滑オイルポンプ76が,電動オイルポンプ駆動モーターによって動力供給される。エンジン停止モードからエンジン作動モードへの移行の際のエンジンクランキングの開始時において、電動オイルポンプ駆動モーターを作動する準備が行われる。潤滑オイル圧信号が、潤滑オイル・フィルタ178のメンテナンスが必要であることを示すために使用される。電動オイルポンプ駆動モーターが、自動車パワートレイン用のバッテリ22によって動力供給され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機によって動力供給されるエンジンオイル潤滑用ポンプを備えた内燃機関(エンジン)を持つハイブリッド電気自動車用パワートレイン及びその制御方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle: HEV)は、二つの電気機械と一つの内燃機関(エンジン)を持つのが一般的である。動作モードの一つにおいて、エンジン及び電気機械は、自動車の駆動輪に対する二つの動力伝達経路を規定する。一方の電気機械が、一つの動作モードにおいて発電機として機能し、そして、別の動作モードにおいてモーターとして機能する。同様に、他方の電動機が、動作モードに応じて、モーター或いは発電機として動作する。電気機械は高電圧バッテリに電気的に結合される。
【0003】
所謂パワー・スプリット型のハイブリッド電気自動車用パワートレインにおいて、エンジン出力動力が、この場合において発電機として機能しているであろう第一電気機械を制御することによって二つの動力伝達経路に分割されるとき、第一の動力源が確立される。機械的な動力伝達経路が、エンジンから歯車機構を通り、駆動力を自動車の駆動輪に伝える歯車装置配列に延びる。電力伝達経路が、エンジンから発電機に延び、そして、この場合においてモーターとして機能しているであろう第二電気機械に延びる。モーターの出力トルクが、歯車によって駆動輪に伝えられる。エンジン出力が、所謂ポジティブ・パワー・スプリットを生じさせるため、発電機速度を制御することによって分割される。もし発電機がモーターとして機能するならば、発電機からギアに入力する動力は、所謂ネガティブ・パワー・スプリットを確立するであろう。このパワートレイン構成における発電機は、バッテリによって動力供給されるモーターによって電力伝達経路が構築されるときにエンジンが単一の機械的経路を介してトルクを伝えることが出来るよう、制動力をかけられ得る。
【0004】
パワートレインが第二の動力源を提供すべく構成されるとき、バッテリ出力を使用するモーターのみが、自動車の前進と後進の両方のため、駆動トルクを駆動輪に対して、エンジンから独立して供給可能である。その場合、モーターの働きをする発電機のみが、エンジン停止の状態でバッテリ出力を使用して自動車を推進可能である。
【0005】
前述の記載から、パワートレインが一方の動作モードから他方の動作モードに変わるたびに、エンジンが始動され、或いは、停止されることは明らかである。
【0006】
通常のパワートレイン装置の場合においてエンジンは、潤滑オイル(エンジンオイル)がエンジンオイル溜めからエンジンの可動部品を通って循環させられるとき、エンジンによって駆動されるのが一般的な潤滑オイルポンプを必要とする。その後、潤滑オイルはオイル溜めに戻される。この構成におけるオイル溜めは、湿式サンプ(wet sump)と呼ばれる。
【0007】
湿式サンプを備えたエンジンの例が、特許文献1(図7a)に示される。もしエンジンが、いわゆる乾式サンプ(dry sump)を備えているならば、エンジンに駆動されるオイルポンプは、潤滑オイルをエンジンを介して予備のオイル・リザーバーに迅速に移動させなくてはならない。そのような潤滑オイル流れ回路は、例えば特許文献1の図7bに示される。
【特許文献1】米国特許第5606946号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した形式のハイブリッド電気自動車において、頻繁なエンジン停止及び始動は、燃料消費量を低減するであろうが、各始動の前において潤滑システム内の油圧が小さいという問題が有る。頻繁なエンジン始動/停止サイクルが、エンジンの相対的に可動な要素間の表面の油膜が薄いことに起因してエンジン磨耗を増加させ、エンジンの寿命に不利な影響を与える可能性がある。典型的なハイブリッド電気自動車のパワートレインにおいて、電気機械用の独特の負荷サイクルが、動作環境及びエンジン使用特性に基づいて変わる場合がある。また、エンジンの日常保守のために、いつエンジン内のオイルを交換すべきかを判定するのは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の記述された実施形態のパワートレイン構成が、バッテリ制御モジュールの制御下でパワートレイン・バッテリによって動力供給される電動機によって駆動されるエンジン潤滑用オイルポンプと流体的に連通する乾式オイル溜めを備えたエンジンを備える。オイルポンプは、パワートレイン内の適所に配設された、独立したオイル・リザーバーと連通する。
【0010】
バッテリ制御モジュールは、自動車システム制御器から適切な命令を受け、今度は、運転者に操作されるアクセルペダルによって判定される運転者の出力命令、バッテリの充電状態(state-of-charge: SOC)、運転者によって選択された自動車変速機動作範囲、及び、エンジン潤滑オイル圧、エンジン速度、エンジン潤滑オイル温度、エンジン負荷、エンジンが作動している時間、及び排気装置の触媒温度を含む環境入力、を含む入力信号に応答する。自動車システム制御器は潤滑オイルのフィルタ寿命も同様に監視するであろう。
【0011】
制御アルゴリズムが、メンテナンススケジュールに従って潤滑オイル・フィルタの交換の必要性を運転者に警報するために、自動車システム制御器を使用するであろう。この警報は、所定のオイルポンプ駆動トルク量に関するエンジン潤滑オイルポンプ圧を判定することにより達成される。もし潤滑オイル・フィルタが目詰まりの状態になったならば、オイル潤滑システムの流れ抵抗に打ち勝つ為に、より大きな電動モーター・トルクが必要とされる。電流引き込み量(current draw)又は電圧変化から計算され得る較正された最大モーター・トルク量において、自動車システム制御器内のフラグがセットされ、そして、運転者にオイル・フィルタが交換させるべきであることを知らせる為に乗員室内のインパネ・ディスプレイに警報信号が送られるであろう。
【0012】
潤滑オイルポンプ圧が最適値を下回るときにエンジンが始動するのを避けるため、本発明の制御ストラテジー(制御方法)は、エンジン始動の開始前にエンジンに油圧を満たすであろう。これは、エンジンのクランキング・モードの間において薄い油膜によるエンジン磨耗を避けることになる。
【0013】
もし、エンジンが油圧バルブ式ラッシュアジャスタ(lash adjuster)を持っているならば、エンジン始動時に油圧式ラッシュ・アジャスタが加圧されていないとき、望ましくないバルブ作動ノイズが発生するかもしれない。ラッシュ・アジャスタは、エンジン停止のとき、特に、エンジンが長時間停止状態のとき、そのオイル・リザーバーの中の油圧を流出、或いは、失う場合がある。この状態も、本発明の制御ストラテジーによって是正される。
【0014】
本発明のエンジンオイル潤滑システム及び制御方法は、通常の高速でのエンジン使用の間、従来のエンジンの場合におけるようなバイパス弁の使用を必要としない。これは、オイルポンプが、高い出力圧に抗して圧送することを必要とされないので、エンジンの動作効率を改善する。本発明の制御ストラテジーは、エンジン動作速度が高速であっても、ほとんどの動作状態においてオイル流バイパス回路が必要とされないように、エンジンを通るオイル流量を精密に調整することを可能とするであろう。
【0015】
もしエンジンが可変カムシャフト・タイミング機構を含むならば、エンジンのカムシャフトは、エンジンが始動する前に、潤滑オイル圧を使用して油圧的に事前位置設定され得る。これは、エンジン動作効率を更に改善し、エンジンのクランキング時間を更に低減するであろう。
【0016】
エンジンが停止している間、油圧が保持され得るので、エンジンがクランキングされ点火される前にオイル循環を継続しておくことが可能である。したがって、オイルがエンジンを通って潤滑させられるので、エンジンが停止される一方で、オイル温度を高い値に保持することが可能である。
【0017】
本発明の潤滑オイルポンプ・システム及びその制御方法は、湿式サンプ(オイル溜め)を持つエンジンにも同様に適用され得る。しかしながら、乾式サンプ・システムは、湿式サンプ・システムとは異なり、電動モーターで駆動されるオイルポンプ及びリザーバーを、エンジン・シリンダーの下方よりむしろ、自動車のエンジン・ルームの最も便利な場所に配設するのを可能とするであろう。
【0018】
エンジン潤滑オイルポンプに動力供給する電動オイルポンプ駆動モーターは、電圧変換器を備えたバッテリ制御モジュール(battery control module: BCM)により、リレー回路を介して、ハイブリッド電気自動車の電気自動車駆動モーターに高電圧を供給可能なバッテリ(トラクションバッテリ(traction battery))に電気的に結合される。ポンプモーターのために、別個の低圧バッテリを使用する必要はない。
【0019】
本発明のシステム及び制御方法は、電気だけの駆動モードからエンジンを使用する駆動モードへの遷移のときに、電動オイルポンプ駆動モーターが始動されるべき瞬間を判定する為、運転者入力データ及び車両システム入力データを監視する。それは、オイルポンプ動作温度が較正された値にあるかどうかを判定する。
【0020】
もしエンジンが油圧式可変カムシャフト機構を備えているならば、エンジンは、ポンプ潤滑オイル圧が高いときに始動され得る。エンジン速度は上昇され、潤滑オイル流量が正確に供給される。潤滑オイルの流量は、エンジン負荷に応じて、高流量あるいは低流量で供給され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle: HEV)のパワートレインが図1に示されるが、本発明は、電動モーター及びバッテリに電気的に結合された発電機をエンジンが駆動し且つモーターの動力出力が多段式変速機を介して自動車の駆動輪に伝達される純粋なシリーズ式のパワートレインを含む他の形式のハイブリッド電気自動車用パワートレイン内の使用にも適用され得る。米国特許第7117964号明細書が、純粋なシリーズ式ハイブリッド電気自動車のパワートレインのみならず、パワー・スプリット式の動力伝達経路を備えたパワートレインを記述する。本発明は、電力がエンジン出力を補完可能なようにエンジン及びモーター/ジェネレーターが動力伝達ギア機構に独立して結合され、そして、エンジン出力分離クラッチがエンジンとモーター/ジェネレーターとの間に配設される、ハイブリッド電気自動車のパワートレインにも適用可能である。
【0022】
図1において、パワー・スプリット式変速機構が符号10において概略的に示され、そして、符号12でエンジンが示される。変速機構10は、遊星歯車機構14、発電機16、及び、電動モーター18(電気自動車駆動モーター)を含む。発電機16及びモーター18は、バッテリ制御モジュール(battery control module: BCM)を含む高電圧バッテリ22(トラクションバッテリ)に、高電圧バス20によって電気的に結合される。
【0023】
モーター18は、副軸歯車26、28及び30を介して、自動車の駆動輪24に駆動可能に結合される。副軸歯車26は、遊星歯車機構14の出力ギア32に駆動可能に係合する。モーター駆動ギア34が、副軸歯車28に駆動可能に係合する。
【0024】
遊星歯車機構14は、リングギア36、サンギア38、及び、リングギア36及びサンギア38と係合可能なプラネタリ・ピニオンを回転自在に支持するキャリア40を有する。キャリア40は、エンジン駆動軸42に駆動可能に連結される。
【0025】
発電機16が、発電機駆動軸44を介してサンギア38に機械的に結合される。
【0026】
発電機16は、エンジン12から副軸歯車26、28及び30を通って駆動輪24に至る純粋に機械的な動力伝達経路と、エンジン12からディファレンシャル及び軸組立体50を通って、駆動輪24に駆動可能に結合された動力出力歯車48に至る純粋に機械的な動力伝達経路とを達成すべく、選択的に係合可能なブレーキ46によって制動され得る。
【0027】
発電機16が、モーター18から駆動輪24への動力伝達経路に並列の動力伝達経路内において遊星歯車機構14を介して動力を駆動輪24に伝える為の動力源として作動するとき、オーバーラン・クラッチ・カップリング即ちブレーキ52が、遊星歯車機構14に反動点を供給するであろう。
【0028】
トルクスプリット動作モードにおいて、エンジントルクは、リングギア・トルクとサンギア・トルクに分割される。リングギア・トルクは、リングギア36に直接結合された歯車32に伝達される。サンギア・トルクは、バッテリ充電状態が低いときにバッテリ22を充電する発電機16を駆動する。もしバッテリ22が充電を必要としないならば、電気エネルギーは、駆動輪24に送られるエンジン出力を補完するために駆動輪24に動力供給するモーター18に送られる。エンジン速度は、自動車システム制御器54及びパワートレイン制御モジュール(PCM)70によって、それらが発電機16を制御するときに、制御される。発電機16はサンギア38に関するトルク反動として動作する。
【0029】
自動車システム制御器54は、アクセルペダル位置(APPS)56、バッテリ充電状態(SOC)58、運転者が選択した変速範囲(P、R、N、D)信号60、及び、エンジン点火装置の「キー・オン」信号及び「キー・オフ」信号62のような、入力データを受信する。
【0030】
自動車システム制御器54は、入力データによって動作し、そして、変速機制御モジュール(transmission control module: TCM)66用の変速機制御モジュール命令64、パワートレイン制御モジュール70用のエンジン出力命令68、及び、符号72におけるバッテリ制御モジュール接触器命令を含む出力命令を発するため、制御器54内のメモリーの中に記憶されたアルゴリズムを実行する。エンジン12は、パワートレイン制御モジュール70に対して符号74における油圧センサー信号を出す、油圧センサーを持つ。
【0031】
電動オイルポンプ駆動モーターによって駆動される電動モーターオイルポンプ76(エンジン潤滑オイルポンプ)が、オイル・リザーバー78(潤滑オイルリザーバー)から潤滑オイル(エンジンオイル)を供給されている。つまり、オイルポンプ76が、リザーバー78と連通する低圧潤滑オイル流入口を持っている。ここで、電動モーター駆動ポンプは一般的に知られている。このポンプの例の一つが、米国特許第6716009号明細書に示される。
【0032】
オイルポンプ76は、潤滑オイルを、高圧オイル吐出通路80を介して、潤滑オイル・フィルタ178に送る。オイル吐出圧の高側閾値が、エンジン12からオイル・リザーバー78へオイルを導く低圧オイルリターン通路84に連通する圧力リリーフ弁82によって設定される。
【0033】
オイルポンプ76を駆動する電動オイルポンプ駆動モーターへの電源供給は、パワートレイン制御モジュール70の制御下で、バッテリ22からリレー回路86を介して行われる。
【0034】
エンジン12がパワートレインの動作モードに応じて始動または停止させられ得ることが、図2から明らかである。図2において、エンジン出力(τeωe)が、符号88で示されるように遊星歯車機構14に伝達される。パワースプリット・モードでの動作の間、遊星歯車機構14は出力(τgωg)を発電機16に伝えることになる。エンジン12が停止状態にあるときの発電機駆動モードの間、動力は遊星歯車機構14に向かって逆方向に伝達される。
【0035】
発電機駆動の間、モーター18は出力(τmωm)を副軸(副軸歯車26、28及び30)に伝達可能である。モーター18はまた、バッテリ22を充電すべく駆動輪24から再生エネルギーを回収し得る。もし発電機16が制動をかけられたならば、バッテリ22のエネルギーを使用するモーター出力は、前進方向或いは後進方向のいずれかに駆動輪24を駆動可能である。
【0036】
駆動輪の出力(τsωs)が、図2において符号90で示される。
【0037】
バッテリ22の充電状態が高いとき、自動車はモーター出力のみを使用して駆動され得、そして、エンジン12は停止され得る。パワートレインの動作モードは、パワートレイン・システム全体の効率及び性能を最適化しながら運転者の出力要求を満たす為、二つの動力源を制御及び調整する自動車システム制御器54の制御下にある。自動車システム制御器54は、運転者の選択によって示される運転者の出力要求、即ち、アクセルペダル位置を機械言語に翻訳処理する。それから自動車システム制御器54は、運転者の要求を満たす為に、いつ、いくらのトルクを動力源の各々が供給する必要があるか判断する。
【0038】
自動車システム制御器54が、電力のみが使用される動作モードに続いてエンジン12に始動を命令したとき、本発明の制御ストラテジーは、エンジン12のクランキングが開始されたとき、電動モーターオイルポンプ76が、点火に先立って、エンジン12内に油圧を供給するのを可能とすることになる。流動損失を最小化することになるオイル流量要求を判定するため、そして、容認可能なエンジン寿命を提供するために、実験データが使用される。このデータは、本発明のソフトウエア制御ストラテジーにより、オープン・ループ制御の方法で、電動オイルポンプ駆動モーターに、全エンジン速度領域に亘って予め較正された油圧を供給するのに十分なトルクを命令する為に、使用される。
【0039】
エンジン12内に圧送されるオイルの体積が増加するとき、油圧が増大する。十分高い圧力になったとき、圧力リリーフ弁82が開き、それにより、潤滑システム(潤滑オイル流れ回路)を過度な圧力から保護する。しかしながら、後述する制御方法のため、通常の高速でのエンジン使用の間、バイパス弁が使用される必要はない。本発明の制御方法を使うことにより、エンジン12が高速におけるオイル流量が正確に調整されるだろう。潤滑オイルをリザーバー78に戻すバイパスが必要とされ無いので、エンジン動作効率が改善する。
【0040】
もしエンジン12が、可変カムシャフト・タイミング機構を使うことにより油圧的に事前配置され得るカムシャフトを含むならば、本発明によって供給される潤滑オイル圧は、点火に先立ってエンジン・クランキングトルク及びエンジン・クランキング時間を低減すべくカムシャフト位置を事前設定するために使用され得る。
【0041】
可変カムシャフト・タイミング機構を備えたエンジンの例は、Thomanek等によるSAE(The Society of Automotive Engineers)論文No. 199-01-0641に記述されている。
【0042】
エンジン12の冷間時は、潤滑オイルの高い粘性が、潤滑オイルをオイル・ギャラリーに圧送するのを難しくする。圧力リリーフ弁82は、過度な圧力が供給されるのを防止するであろう。潤滑オイルが暖まったとき、粘性は、圧力リリーフ弁82を閉じたままに保持しておくのに十分に低いのが一般的である。潤滑オイル圧(ΔP)は、潤滑オイルの粘性(μ)及び流量の関数である。これは、下記の式(1)のように表わすことが出来る。尚、式(1)中、Qはエンジン速度と潤滑オイル流量の関数である。また、潤滑オイルの粘性は潤滑オイル温度の関数である。
【0043】
【数1】

【0044】
エンジン12は、エンジン12をクランキングする前に最適な油圧が達成されるよう、電動オイルポンプ駆動モーターによる油圧を使用して潤滑オイルが準備される。殆どのエンジン磨耗は最初のエンジン・クランキングの間に生じるので、これは、エンジン12の磨耗を低減するだろう。さらに、前述したように、エンジン・クランキングに先立つ潤滑オイル圧の供給は、エンジン12が油圧式ラッシュ・アジャスタを備えているとき、バルブのラッシュ・ノイズを低減することになる。エンジン12が停止されたとき、ラッシュ・アジャスタ内の油圧はリザーバー78に戻り、油圧を低減することが出来る。
【0045】
潤滑オイルの温度は、エンジン12が動いている時間だけでなく、エンジントルク、エンジン速度、及び、車速に基づいて算出される。算出された油温は、コンピュータメモリ内に置かれたオイル流量アレイ(array)に分配される。オイル流量アレイは図3の符号92において概略的に示される。アレイ92は油圧も記憶する三次元アレイである。本発明の制御ストラテジーは、最適なオイル流量が達成されるように、電動モーターオイルポンプ76のモーター速度を計算すべく、このオイル流量アレイ内の情報を使用する。最適オイル流量の値が、図3のエンジン速度に対するオイル流量の関係を示すグラフ内に、符号94及び96において示される。図3に示すように、既存のデータに基づいて算出される修正因子が、オイル流量の値に適用される。低いエンジン負荷及びトルクに関する下側のグラフ、及び、高いエンジン負荷及びトルクに関する上側のグラフが、符号94及び96において夫々示されるように作り出される。
【0046】
前述に加えて、電動モーター・オイルポンプ圧の値は、潤滑オイル及び潤滑オイル・フィルタ178の交換間隔の基準のために、装置自身において使用され得る。所定速度における電動オイルポンプ駆動モーターの作動が、エンジン潤滑システムを加圧するための一定トルク量を必要とする。
【0047】
潤滑オイル・フィルタ178が目詰まりしたとき、より多くの電動モーター・トルクが、同じ速度を保持すべく潤滑システムの抵抗を克服する為に必要とされる。エンジン12が定常運転温度になったとき、潤滑オイルの粘性は線形特性となる。即ち、二次元グラフにおける潤滑オイルの粘性と潤滑オイルの温度との関係は、基本的に直線となるであろう。一定のオイル流量を持つので、流れに対する抵抗が増加したとき、電動オイルポンプ駆動モーターの電流引き込みを使用して計算され得る所定の最大モータートルク値において一定の流量を保持する為に、ポンプ圧は増加するはずである。電流引き込みが所定値に達したときフラグ・コードが自動車システム制御器54に送られ、それは、運転者にオイル交換の時期であることを知らせるため、図1の符号116で示す自動車インストルメント表示器(vehicle instrument cluster display)に警報信号を送ることになる。
【0048】
もしエンジン12が可変カムタイミング機構を備えるならば、電動モーターオイルポンプ76によって供給される油圧は、吸気バルブ閉じタイミングに遅延を設けるためにカムを調整可能である。これは、気筒圧縮ガスの力を低減し、自動車の乗員に伝えられる力(騒音、振動)を低減する。可変カムシャフト・タイミング機構を制御するために電動オイルポンプ圧を使用する能力は、エンジン触媒温度に基づいてエンジン始動の前、またはエンジン始動の際のエンジン・クランキングの開始時にカムシャフト位置を正確に設定することにより、望ましくない排気排出物を低減し得る。
【0049】
電動モーターオイルポンプ76は、エンジン始動の際のエンジン12がクランキングされる前に、エンジン12に対して油圧を供給可能であり、そして、エンジン停止の間のオイル潤滑を維持するためのポンプ能力により、エンジン停止の間に温度が高いレベルに保持されるので、その時における油温は、望ましい高温レベルにある。
【0050】
本発明の制御ストラテジーは、図4のフローチャート図に示される。図4に示すように、自動車システム制御器54及びパワートレイン制御モジュール70は、アクセルペダル位置、潤滑オイル圧、エンジン速度、潤滑オイル温度、エンジン負荷、エンジン12が作動している時間、排気ガス処理触媒の温度、バッテリ22の充電状態を監視することにより、入力データを受け取る。この情報は、制御器54のメモリ・レジスタの一部の読み取り専用メモリ(read-only memory: ROM)内に記憶される。
【0051】
図3に示されるオイル流量アレイの情報が、上記読み取り専用メモリ内に含まれている。これは、種々の温度の値に関する、エンジン速度に対するオイル流量のグラフを有する。温度は、図3のグラフ内の3つの変数のうちの一つである。他の二つの変数は、エンジン速度及びオイル流量として示される。符号94において示されるエンジン高負荷での流量は、実際には二次元の線というよりは面であるが、図示の目的の為、第三の変数である温度が示されずに線状に伸びるグラフとして示される。同様に、図3におけるエンジン低負荷での流量が、種々のエンジン速度に関して二次元でプロットされる。実際には、第三の座標、すなわち温度が図3には示されていないので、グラフ96は3次元の面となるであろう。
【0052】
前述の「修正因子」は、符号94で示されるグラフと符号96で示されるグラフとの間の区別を決定する。この修正因子は、較正された値である。
【0053】
図3において符号98で示される直線は、エンジン用の従来のエンジン駆動の機械式潤滑オイルポンプと、図1に示す電動モーターオイルポンプ76の両方に関する、エンジン速度とオイル流量との関係を示す。
【0054】
機械式システムの場合、符号100においてバイパス弁が開かれることになり、そして、潤滑オイルはオイル溜めに戻るべくバイパスされるだろう。これは、望ましくない動力損失を生成する。本発明の場合、エンジン12の負荷に応じて符号94で示されるプロット、或いは、符号96で示されるプロットによって示されるように、オイル流は適切な速度で供給されるだろう。
【0055】
もし自動車システム制御器54及びパワートレイン制御モジュール70が、エンジン12が始動直前であることを示すならば、オイルポンプ76は図4のステップ102において始動される。そして、潤滑オイル温度が監視され、図4のステップ104において、その潤滑オイル温度がオイルポンプ76の較正された動作温度にあるかどうかを判定する。もしそうでなければ、ルーチンはスタートに戻る。もし潤滑オイル温度がオイルポンプ76の動作温度にあるならば、ステップ106において、可変カムシャフト・タイミングが調整されて吸気弁の閉じタイミングが遅延され、そして、エンジン12が始動される。
【0056】
エンジン始動に続いて、ステップ108において、エンジン速度が所望の速度に上昇する。このとき、エンジン速度が監視される。
【0057】
判定ステップ110において、運転者による自動車の出力要求が判定される。もし出力要求が高いならば、ステップ112に示すように、オイルポンプ76は作動したままである。もし出力要求が低いならば、ステップ114に示すように、自動車システム制御器54及びパワートレイン制御モジュール70はエンジン12を停止させ、オイルポンプ圧は低下することになる。
【0058】
本発明の実施形態を記述してきたが、本技術分野の当業者にとっては、特許請求の範囲によって規定された本発明の範囲から逸脱すること無しに修正を行うことが出来るのは明らかである。そのような修正及びその均等物もまた、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明を採用する、モーターによって駆動されるエンジン潤滑オイルポンプを備えた、トルク・スプリット型の動力伝達経路を持つハイブリッド電気自動車のパワートレイン・システムの構成を示す図である。
【図2】図1に示すパワートレインの構成要素を示す概略図である。
【図3】エンジン速度とオイル流量との間の関係を示すグラフである。
【図4】図1に示すパワートレインの自動車システム制御器によって使用される制御ストラテジーを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
10 変速機構
12 エンジン
14 遊星歯車機構
16 発電機
18 電動モーター(電気自動車駆動モーター)
54 自動車システム制御器
66 変速機制御モジュール
70 パワートレイン制御モジュール
76 電動モーターオイルポンプ(エンジン潤滑オイルポンプ)
78 オイル・リザーバー(潤滑オイルリザーバー)
116 ディスプレイ(潤滑オイル圧表示器)
178 潤滑オイル・フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、及び、自動車の駆動輪への独立した動力伝達経路の一部を規定する電気自動車駆動モーターを有するハイブリッド電気自動車用パワートレインにおいて、
上記エンジンの潤滑オイル流れ回路に流体的に連通するエンジン潤滑オイルポンプ、
上記エンジン潤滑オイルポンプに駆動可能に連結された電動オイルポンプ駆動モーター、及び、
上記電動オイルポンプ駆動モーターと電気的に接続されたパワートレイン制御モジュール及び自動車システム制御器を備え、
上記自動車システム制御器が、自動車動作が上記電気自動車駆動モーターの出力のみを使用している間に上記エンジンが停止され、そして、エンジン出力が要求されている間にエンジンが作動するように、システム動作入力変数及び運転者の出力要求に応じてエンジン出力命令を上記パワートレイン制御モジュールに供給するように構成され、
上記パワートレイン制御モジュールが、上記潤滑オイル流れ回路が上記エンジンの定常速度への加速に先立って加圧されるように、エンジン停止状態からエンジン始動状態への遷移の間に、上記電動オイルポンプ駆動モーターを始動するように構成された、
ハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項2】
上記潤滑オイル流れ回路が潤滑オイルリザーバーを含み、上記エンジン潤滑オイルポンプが、上記潤滑オイルリザーバーと連通する低圧潤滑オイル流入口を持つ、
請求項1に記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項3】
上記エンジンが、上記潤滑オイル流れ回路と連通する乾式オイル溜めを備える、
請求項1または2に記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項4】
エンジン、及び、自動車の駆動輪への独立した動力伝達経路の一部を規定する電気自動車駆動モーターを有するハイブリッド電気自動車用パワートレインにおいて、
上記エンジンの潤滑オイル流れ回路に流体的に連通するエンジン潤滑オイルポンプ、
上記エンジン潤滑オイルポンプに駆動可能に連結された電動オイルポンプ駆動モーター、
上記エンジンの潤滑オイル流れ回路内のエンジン潤滑オイル・フィルタ、
上記エンジンの潤滑オイル圧を判定するためのセンサー、及び、
上記エンジン潤滑オイル・フィルタの流入側の潤滑オイル圧が、較正された閾値レベルを上回る値まで増加したときに運転者が上記エンジン潤滑オイル・フィルタを交換する必要があることを警報されるように上記センサーと通信する、運転者が視認可能な潤滑オイル圧表示器、
を有する、ハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項5】
上記潤滑オイル流れ回路が潤滑オイルリザーバーを含み、上記エンジン潤滑オイルポンプが、上記潤滑オイルリザーバーと連通する低圧潤滑オイル流入口を持つ、
請求項4に記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項6】
上記エンジンが、上記潤滑オイル流れ回路と連通する乾式オイル溜めを備える、
請求項4または5に記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項7】
エンジン、及び、自動車の駆動輪への独立した動力伝達経路の一部を規定する電気自動車駆動モーターを有するハイブリッド電気自動車用パワートレインにおいて、
上記エンジンの潤滑オイル流れ回路に流体的に連通するエンジン潤滑オイルポンプ、
上記エンジン潤滑オイルポンプに駆動可能に連結された電動オイルポンプ駆動モーター、及び、
上記電動オイルポンプ駆動モーターと電気的に接続されたパワートレイン制御モジュール及び自動車システム制御器を備え、
上記自動車システム制御器が、自動車動作が上記電気自動車駆動モーターの出力のみを使用している間に上記エンジンが停止され、そして、エンジン出力が要求されている間にエンジンが作動するように、システム動作入力変数及び運転者の出力要求に応じてエンジン出力命令を上記パワートレイン制御モジュールに供給するように構成され、
上記パワートレイン制御モジュールが、上記潤滑オイル流れ回路が上記エンジンの定常速度への加速に先立って加圧されるように、エンジン停止状態からエンジン始動状態への遷移の間に、上記電動オイルポンプ駆動モーターを始動するように構成され、
更に、
上記エンジンの潤滑オイル流れ回路内のエンジン潤滑オイル・フィルタ、
上記エンジンの潤滑オイル圧を判定するためのセンサー、及び、
上記エンジン潤滑オイル・フィルタの流入側の潤滑オイル圧が、較正された閾値レベルを上回る値まで増加したときに運転者が上記エンジン潤滑オイル・フィルタを交換する必要があることを警報されるように上記センサーと通信する、運転者が視認可能な潤滑オイル圧表示器、
を有する、ハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項8】
上記潤滑オイル流れ回路が、上記エンジン潤滑オイルポンプと連通する低圧潤滑オイルリザーバーを含む、
請求項7に記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項9】
上記エンジンが、上記潤滑オイル流れ回路と連通する乾式オイル溜めを備える、
請求項7または8に記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項10】
上記パワートレインが、電気リレー回路を介して上記電動オイルポンプ駆動モーターと電気的に結合された高電圧バッテリを有する、
請求項1乃至9のいずれか一つに記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項11】
上記エンジンが、クランクシャフトによって駆動される吸気弁及び排気弁と、バルブタイミングを調整するための油圧作動式可変カムシャフト・タイミング・システムとを含み、
上記エンジン潤滑オイルポンプが、エンジン始動の際のエンジン・クランキングの開始時にカムシャフトが調整されるように、上記油圧作動式可変カムシャフト・タイミング・システムに油圧的に連結されている、
請求項1乃至10のいずれか一つに記載のハイブリッド電気自動車用パワートレイン。
【請求項12】
エンジンの推進力を電気駆動モーター出力で補完すべくバッテリに電気的に接続された電動モーター、エンジン潤滑オイル流れ回路内のエンジン潤滑オイルポンプ、及び、潤滑オイルポンプ駆動モーターを持つハイブリッド電気自動車用パワートレイン内のエンジンの潤滑オイル圧を設定する方法において、
運転者の出力要求を測定する工程、
運転者の出力要求、エンジン速度、潤滑オイル温度、及び、バッテリの充電状態を含むエンジン及び自動車の動作変数を監視する工程、
自動車動作変数がエンジン出力を必要としないとき、動作モードとして上記電動モーターのみの駆動モードを生じさせるべくエンジンを停止する工程、
自動車動作変数がエンジン出力を必要とするとき、動作モードとしてエンジンを始動させる工程、
エンジン停止モードからエンジン始動モードへの移行の間において、エンジン始動の際のエンジンクランキングの開始時にエンジン潤滑オイル圧が増加させられるように、上記潤滑オイルポンプ駆動モーターを作動させる工程、及び、
エンジン高回転において過度な潤滑オイル流量が供給されることなく潤滑オイル流量を調整することによって潤滑オイル流量要求が満たされるよう、エンジン速度の全範囲に亘って上記潤滑オイル流れ回路内の潤滑オイル流量を制御する工程、
を有する方法。
【請求項13】
上記潤滑オイル流量を制御する工程において、エンジン負荷が高いときに所定のエンジン速度に関して第一の流量に潤滑オイル流量を調整し、そして、エンジン負荷が低いときに所定のエンジン速度に関して、上記第一の流量よりも小さな第二の流量に潤滑オイル流量を調整する、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記潤滑オイル流量を制御する工程において、所定のエンジン速度における潤滑オイル流量が修正因子によって修正され、
上記修正因子が、エンジン低負荷における所定のエンジン速度に関する潤滑オイル流量が、エンジン高負荷における所定のエンジン速度に関する潤滑オイル流量に比べて小さくなるように、所定のエンジン速度における潤滑オイル流量を較正する、
請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
上記潤滑オイル流量が、潤滑オイル温度及び潤滑オイル圧の関数である、
請求項13または14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−114844(P2008−114844A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286315(P2007−286315)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】