説明

ハニカム触媒及び脱硝装置の脱硝触媒並びに排煙脱硝装置

効率的に使用することができるハニカム触媒及び脱硝装置の脱硝触媒並びに排煙脱硝装置を提供し、排煙脱硝システムの脱硝触媒に伴うランニングコストを半分程度に低減させる。入口側から出口側へ亘って被処理ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で処理を行うハニカム触媒であって、前記ガス流路内に送通される被処理ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の長さを有するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、自動車の排ガス処理やその他のガス浄化あるいは合成などの反応に用いられるハニカム触媒、特に、火力発電所などの排煙脱硝を効率よく高性能で行うための脱硝触媒及び排煙脱硝装置に関する。
【背景技術】
従来、石油、石炭、ガスなどを燃料とした火力発電所のボイラ及び各種大型ボイラ、その他の廃棄物焼却装置などには排ガスを処理する排煙脱硝装置が設けられており、排煙脱硝装置には、複数層の脱硝触媒が内蔵されている。
脱硝触媒としては、一般的には、担体としてTiO等、活性成分としてV等を用い、助触媒成分としてタングステンやモリブデンの酸化物が添加されたものであり、VO−WO−TiOやVO−MoO−TiOのような複合酸化物の形態のものが使用されている。
また、触媒形状としては、一般的には、ハニカムタイプや板状タイプが使用されている。ハニカムタイプには、基材でハニカム形状を製造した後、触媒成分をコーティングしたコート形、基材に触媒成分を混練して成形した混練形、ハニカム形状の基材に触媒成分を含浸させた含浸形などがある。板状のものとは、芯金又はセラミックスに触媒成分をコーティングしたものである。
何れにしても、このような脱硝触媒の使用を続けていくと、触媒表面及び内部に触媒性能を劣化させる物質(以下、劣化物質という)が付着又は溶解することにより、触媒性能が低下していくという問題がある。
そこで、従来においては、脱硝触媒の再生方法が種々検討されている。
例えば、摩耗剤により排ガス通路内面を研摩する方法(特許文献1等参照)、劣化した脱硝触媒の表面部分を削り落とし新たな触媒活性面を出現させる方法(特許文献2等参照)、微粒体を同伴した気体を貫通孔に通過させて異物を除去する方法(特許文献3等参照)など、物理的に劣化部位や異物を除去して活性面を出現させる方法が検討されている。
また、pH5以下の酸、またはpH8以上のアルカリにより洗浄する方法(特許文献4等参照)、水又は希無機酸水溶液で洗浄した後、0.1〜5重量%のしゅう酸水溶液で洗浄し、さらに水洗により触媒に残留するしゅう酸を除去する方法(特許文献5等参照)、50℃以上80℃以下の水で洗浄した後に乾燥する方法(特許文献6等参照)など洗浄により触媒性能を復元する方法が検討されている。
このように従来、種々の再生方法について検討されているが、脱硝触媒自体については長い間、同じ規格、性能の物が使用されている。
[特許文献1] 特開平1−119343号公報(特許請求の範囲等)
[特許文献2] 特開平4−197451号公報
[特許文献3] 特開平7−116523号公報
[特許文献4] 特開昭64−80444号公報
[特許文献5] 特開平7−222924号公報
[特許文献6] 特開平8−196920号公報
【発明の開示】
本発明では上述のような事情に鑑み、実際に劣化している脱硝触媒を把握すると共に、これに基づいて脱硝触媒を効率的に使用することができるハニカム触媒及び脱硝装置の脱硝触媒並びに排煙脱硝装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、入口側から出口側へ亘って被処理ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で処理を行うハニカム触媒であって、前記ガス流路内に送通される被処理ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の所定長さを有することを特徴とするハニカム触媒にある。
かかる第1の態様では、ハニカム触媒のガス流路の入口側から入った排ガスが整流されるまでは側壁と有効に接触して触媒反応が有効に生じ、したがって、ハニカム触媒の出口側近傍まで有効に触媒反応に寄与することができる。
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記所定長さLb(mm)が、流入速度をUin(m/s)とし、任意のハニカム径をLy(mm)とし、ハニカム径の定数Lysを6mmとした場合に下記式(A)で特定される長さであることを特徴とするハニカム触媒にある。
Lb=a(Ly/Lys・22e0.035(Ly・Uin)) (A)
(aは、ハニカム径が6mmのハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。)
かかる第2の態様では、脱硝触媒の長さ方向の全体が脱硝反応に寄与することができる最適な長さを安定して且つ確実に特定することができる。
本発明の第3の態様は、排煙脱硝装置に用いられ且つ入口側から出口側へ亘って排ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で脱硝を行うハニカムタイプの脱硝触媒であって、前記ガス流路内に送通される排ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の所定長さを有することを特徴とする脱硝装置の脱硝触媒にある。
かかる第3の態様では、脱硝触媒のガス流路の入口側から入った排ガスが整流されるまでは側壁と有効に接触して脱硝反応が有効に生じ、したがって、脱硝触媒の出口側近傍まで有効に脱硝反応に寄与することができる。
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記所定長さLb(mm)が、流入速度をUin(m/s)とし、任意のハニカム径をLy(mm)とし、ハニカム径の定数Lysを6mmとした場合に下記式(A)で特定される長さであることを特徴とする排煙装置の脱硝触媒にある。
Lb=a(Ly/Lys・22e0.035(Ly・Uin)) (A)
(aは、ハニカム径が6mmのハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。)
かかる第4の態様では、脱硝触媒の長さ方向の全体が脱硝反応に寄与することができる最適な長さを安定して且つ確実に特定することができる。
本発明の第5の態様は、第3の態様において、前記脱硝触媒の長さが、300mm〜450mmの範囲であることを特徴とする脱硝装置の脱硝触媒にある。
かかる第5の態様では、脱硝触媒の長さ方向の全体が脱硝反応に寄与することができる。
本発明の第6の態様は、入口側から出口側へ亘って排ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で脱硝を行うハニカムタイプの脱硝触媒を流れ方向とは交差する方向へ複数個並べた脱硝触媒層を流れ方向へ複数段設けた排煙脱硝装置であって、各脱硝触媒層に配置された前記脱硝触媒の長さが前記ガス流路内に送通される排ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の所定長さであり、且つ各脱硝触媒層の間には各脱硝触媒から排出された排ガスの処理ガスが互いに混じり合う共通流路が形成されていることを特徴とする脱硝装置の排煙脱硝装置にある。
かかる第6の態様では、各脱硝触媒層のガス流路の入口側から入った排ガスが出口側近傍まで整流されずに流れて側壁と有効に接触して脱硝反応が有効に生じ、各脱硝触媒から出た排ガスの処理ガスが共通流路で乱流となって次の脱硝触媒層のガス流路に流れ込むので、次層の脱硝触媒も全体が有効に脱硝触媒反応に寄与できる。
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記所定長さLb(mm)が、流入速度をUin(m/s)とし、任意のハニカム径をLy(mm)とし、ハニカム径の定数Lysを6mmとした場合に下記式(A)で特定される長さであることを特徴とする排煙脱硝装置にある。
Lb=a(Ly/Lys・22e0.035(Ly・Uin)) (A)
(aは、ハニカム径が6mmのハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。)
かかる第7の態様では、脱硝触媒の長さ方向の全体が脱硝反応に寄与することができる最適な長さを安定して且つ確実に特定することができる。
本発明の第8の態様は、第6の態様において、前記脱硝触媒の長さが、300mm〜450mmの範囲であることを特徴とする排煙脱硝装置にある。
かかる第8の態様では、脱硝触媒の長さ方向の全体が脱硝反応に寄与することができる。
本発明の第9の態様は、第7又は8の態様において、前記所定長さを有する脱硝触媒層が、3段〜5段設けられていることを特徴とする排煙脱硝装置にある。
かかる第9の態様では、複数段設けられた脱硝触媒層の全てが脱硝反応に有効に寄与することができる。
本発明は、従来から使用されている各種ハニカム触媒に適用可能である。ここで、ハニカム触媒とは、四角形や六角形あるいは三角形などの断面多角形状のガス流路を有し、ガス流路壁面で触媒反応を生じさせるものであり、代表的には断面六角形で全体は円筒形状のもの、あるいは断面四角形の格子状に画成されたガス流路を有する全体が四角柱状のものであるが、これらに限定されるものではない。
従来から使用されているハニカムタイプの脱硝触媒としては、ガス流路が7mmピッチ(ハニカム径は6mm程度)で長さが約700mm〜1000mmのものが主流であるが、使用後の長手方向に亘った各部位の劣化状態を調べた結果、入口側ほど劣化しており、出口側ほど劣化が少ないことは当然として、所定の長さ以降、すなわち、入口から300mm以降の部位では劣化状態がほとんど同じであり、特に出口側300mmの範囲では脱硝反応に対する寄与が入口側に比べ低いということを知見し、本発明を完成させた。すなわち、脱硝触媒に導入される排ガスは乱流状態で各ガス流路に入り、側壁と接触して脱硝反応が進行するが、排ガスは徐々に整流され、整流された後には側壁との接触が最低限となって有効に脱硝反応に寄与できないということを知見し、本発明を完成させた。
さらに詳言すると、脱硝触媒の上流側の排ガスの流路の広い空間から脱硝触媒内の各ガス流路に入ると、空間率は、例えば、1から0.6〜0.7に減少し、排ガスはかなりの乱れをもってガス流路の壁面(触媒表面)と接触して通過していくが、ガス流路を通過していくうちに徐々に整流化されてしまい拡散による物質の移動だけになると予想され、整流化された後に壁面に衝突するNOあるいはNHが極端に減少すると推測される。
したがって、本発明によると、例えば、ハニカム径6mm(7mm程度のピッチ)でガス流路が形成された脱硝触媒では、排ガスの流れによっても異なるが、300mm〜450mm程度で導入された排ガスが整流されてしまうので、300mm〜450mm程度の脱硝触媒として排煙脱硝装置に設置する。これは脱硝触媒を有効に使用するために最適な長さであり、それ以上の長さのものを使用しても脱硝性能の面では同じであるからである。すなわち、従来、700mm〜1000mmの長さの脱硝触媒を2段使用している場合が多く採用されているが、400mm〜500mmの長さの脱硝触媒を3段使用または300mm程度の脱硝触媒を4段以上使用した方が同一の脱硝性能が得られ、脱硝性能が格段に向上される。なお、各段の脱硝触媒層の間には、各脱硝触媒から出た排ガスの処理ガスが互いに混じり合う共通流路を設けるのが好ましく、その長さは、十分に乱流が形成される程度がよい。また、共通流路の中に積極的に乱流を形成する邪魔板等を設けてもよいことはいうまでもない。
なお、脱硝触媒では、排ガスのガス流速が5m/sec〜10m/sec程度であり、このようなガス流速で使用されるハニカム触媒については同様の作用効果が生じると考えられる。
また、本発明のハニカム触媒は、上述のように触媒反応がその形状に起因するため、排煙脱硝装置などの脱硝触媒に限らず、反応する流体がハニカム内部を通過し反応する形状を有する全ての触媒、さらにはその反応流体中に触媒反応を劣化させる要因となる物質が混入する形状を有する全ての触媒に適用することができる。
以上説明したように、本発明によれば、効率的に使用することができるハニカム触媒及び脱硝装置の脱硝触媒並びに排煙脱硝装置を提供することができ、排煙脱硝システムの脱硝触媒に伴うランニングコストを半分程度に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、一実施形態にかかる脱硝触媒管理装置を具備した排煙脱硝装置の概略構成を示す図である。
第2図は、本発明の試験例1の結果を示す図である。
第3図は、本発明の試験例2の結果を示す図である。
第4図は、本発明の試験例2の結果を示す図である。
第5図は、本発明の試験例3の結果を示す図である。
第6図は、本発明の試験例4の結果を示す図である。
第7図は、本発明の試験例4の結果を示す図である。
第8図は、本発明の試験例5の結果を示す図である。
第9図は、本発明の試験例6の結果を示す図である。
本発明を実施するための最良の形態
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明の構成は以下の説明に限定されない。また、本実施形態では、ハニカムタイプの触媒を排煙脱硝装置の脱硝触媒に適用した場合を例示して説明するが、このような使用に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
第1図には、本発明の一実施例の脱硝触媒を具備した排煙脱硝装置の概略構成を示す。なお、この排煙脱硝装置は、火力発電所に設けられたものであるが、本実施形態の排煙脱硝装置はこれに限定されるものではない。
同図に示すように、排煙脱硝装置10は、装置本体11の上流側に接続されて火力発電所のボイラ装置に連通する排気ダクト12と、下流側に接続される処理ガスダクト13とを具備し、装置本体11内には、複数層、本実施形態では4層の脱硝触媒層14A〜14Dが所定の間隔をおいて配置されている。各脱硝触媒層14A〜14Dは、排気ダクト12から導入された排ガスが順次通過するように設けられており、通過した排ガスと接触して当該排ガス中に含まれる窒素酸化物(NO)を低減するものである。なお、ボイラ装置に連通する排気ダクト12には、ボイラ本体からの排ガス量に応じてNHが注入されるようになっている。
ここで、各脱硝触媒層14A〜14Dを構成する各脱硝触媒14の種類、形状等は特に限定されないが、一般的には、担体としてTiO、活性成分としてVが用いられ、ハニカム状タイプのものを用いた。本実施形態では、柱状のハニカムタイプ触媒を複数個並べて組み合わせることにより、各脱硝触媒層14A〜14Dが構成されている。なお、各脱硝触媒14は長さが350mmであり、複数のガス流路14aが7mmピッチで形成されたものである。また、各脱硝触媒層14A〜14Dの間隔は人が点検可能な高さあるいはサンプル触媒を取出せる高さ〜2,000mm程度であり、この部分が共通流路19となっている。
ここで、脱硝触媒管理装置20においては、各脱硝触媒層14A〜14Dの入口側及び出口側にはガス採取手段15A〜15Eが設けられており、ガス採取手段15A〜15EはそれぞれNO濃度測定手段16A〜16Eと、NH濃度測定手段17A〜17Eとに接続され、これらの測定結果は、各脱硝触媒層14A〜14Dの脱硝率及び脱硝負担率を算出する脱硝率測定手段18へ集められるようになっている。
ガス採取手段15A〜15Eは、所望のタイミングで所望の量のサンプリングガスをサンプリング管を介して採取し、採取したサンプリングガスをNO濃度測定手段16A〜16E及びNH濃度測定手段17A〜17Eへ供給するものである。
ガス採取手段15A〜15Eによるサンプリングガスの採取時は特に限定されないが、発電所の通常運転時に行い、できればガス量が最大になる定格負荷時に行うのが好ましい。また、ガスサンプリングの間隔は最大6ヶ月程度としても各脱硝触媒層14A〜14Dの性能の管理には十分であるが、頻度を上げれば管理精度が向上するので、例えば、1〜2ヶ月に1回ぐらいの頻度で行うのが好ましい。また、特に、下流側の触媒層では、NH濃度が低くなり変動幅が増加するので、管理評価を向上するためには、NH濃度の測定回数を増大して平均濃度から脱硝率を求めるようにするのが好ましい。
また、脱硝率測定手段18は、NO濃度測定手段16A〜16E及びNH濃度測定手段17A〜17Eからの測定結果を取得し、これらの測定結果から各脱硝触媒層14A〜14Dの脱硝率及び脱硝負担率を算出するものである。
ここで、各脱硝触媒層14A〜14Dの入口モル比=入口NH/入口NOを考慮して、NH濃度に基づいた脱硝率ηを下記式(1)に基づいて算出する。

なお、評価モル比とは、脱硝触媒を評価するために設定するモル比であり、任意のモル比を設定することができるが、例えば、発電所の運用モル比程度、例えば、0.8に設定すればよい。
(比較例)
脱硝触媒の長さを860mmとした以外は実施例と同様にして排煙脱硝装置とした。
(試験例1)
比較例の装置で50,000時間使用した脱硝触媒の長手方向の各部位(入口から20mmの部位から850mmの部位)の触媒をサンプリングし、各触媒について、TiO及び表面に付着した劣化物質であるCaO、SOの表面濃度を測定した。
また、触媒は、各触媒層の各部位から、50mm×50mm×100mm(長さ)に切り出し、性能試験装置にセットし、100mmの部位、450mmの部位、800mmの部位のものについて、ガス条件をモル比(入口モル比=入口NH/入口NO)で0.82、AV値(触媒単位表面積あたりの処理量)を6.5として脱硝率ηを上述した式(1)に示すようにNH濃度に基づいて測定した。
これらの結果を第2図に示す。なお、比較対照品として、新品のものについても同様に脱硝率を測定した。
この結果、劣化状態が激しいのは入口から300mm程度までで、特に450mm以降は新品に近い脱硝率を示すことがわかった。
(試験例2)
比較例の装置で水洗再生後28,000時間使用した脱硝触媒を入口側と出口側を反対にしてセットし、脱硝率を測定したところ、第3図の結果が得られた。
この結果、逆さに配置した脱硝触媒は新品に近い脱硝性能を示すことがわかった。
さらに、再生後、30,000時間使用した際の脱硝率の変化を第4図に示す。この結果、出口側は新品同様に劣化せず、また、その部分のみで十分な脱硝能力を示すことがわかった。
(試験例3)
比較例の装置で使用した脱硝触媒からガスの流れ方向に対して入口側から600mm切り出した脱硝触媒を性能試験装置に設置し、モル比(入口モル比=入口NH/入口NO)を0.6、0.8、1.0、1.2とし、温度を360℃とし、流体の流入流速を6m/sとして100mm刻みにそれぞれの脱硝率を測定した。その結果を表1及び第5図に示す。
この結果、脱硝触媒の長さに比例して脱硝率が増加する傾向が認められるが、ある程度を経過した以降は脱硝率の増加が落ち着く傾向にあると認められる。この原因は、排ガスが徐々に整流化されることに関係すると推測できる。
【表1】

(試験例4)
全体の大きさが600mm×6mm×6mm、ハニカム径が6mm(7mmピッチ)であるハニカム触媒を用いて、温度条件を350℃とし、流体の流入速度Uinを4、6、及び10m/sとし、シミュレーション(数値解析手法)を行った。
その結果、ハニカム触媒において、乱流から層流へ遷移する際の乱流エネルギーがなくなるまでの距離(以下、乱流持続距離Ltsという)との間に、第6図に示すような結果が得られた。すなわち、流入流速Uinを4、6、及び10m/sとした場合の乱流持続距離Ltsは、それぞれ50、80、180mmと求められた。
また、通常、計算上における流体の状態は、流入速度Uinとハニカム径Lyを用いたパラメータであるレイノルズ数Re(Re=Uin・Ly/ν ν=5.67×10−5/S;定数)によって決定される。
したがって、ハニカム径6mmのハニカム触媒では、流入速度Uins(m/s)とハニカム径Lys(mm)の積によって、乱流持続距離Lts(mm)が決定することから、第6図に示すような流入速度Uins(Uin)及びハニカム径Lys(Ly)の積と乱流持続距離Ltsとの関係が求められる。この結果、最小自乗法から求めた概略式から、ハニカム径Lysが6mmの場合の乱流持続距離Ltsが下記式(2)で特定されると推測できる。

ここで、ハニカム径Lys=6mmを定数とし、ハニカム径Ly(mm)を任意とした場合、流入速度をUinとしたときの乱流持続距離Ltは下記式(3)で特定することができ、これが一般式となる。

ここで、このシミュレーション結果と実際の装置で使用する触媒のガス流路内で排ガスが整流化される程度の所定長さ(最適長さ)とを対比するために、乱流持続距離Ltと実際の装置で使用する触媒の最適長さ、すなわち、排ガスの整流化の要因である汚れ範囲の寸法(汚れ距離)との間の関係を求めたところ、第7図に示すような結果が得られた。すなわち、実際の装置では、流入速度の不均一や流体乱れの発達などの要因から、シミュレーションから求められる乱流持続距離Ltに対して乱流が長く持続していると推測される。
したがって、実際の装置で整流化されるまでの所定長さ、すなわち、触媒の最適長さは、汚れ範囲に余裕分のプラスαを考慮して特定する必要があり、式(3)に定数aを乗算することが必要となり、触媒の最適長さLbは下記式(4)で特定されると推定される。なお、定数aは、ハニカム径が6mm(7mmピッチ)のハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。

ここで、上述した試験例1では、ハニカム径6mm(7mmピッチ)のハニカム触媒を6m/sで使用しているので、Lt=80mmとなり、a≒3.8とすると、実際の劣化状態が激しい範囲である約300mmに一致し、a≒5.6とすると実際に新品同様となるまでの長さ450mmとなる。
また、同様のハニカム触媒において、a=3〜6の場合には、その最適長さLbは、約240〜480mmの範囲で選択され、ガス流路内で排ガスが整流化される程度の所定長さとされている約300mm〜450mmとほぼ一致する。したがって、最適長さLbは、a=3〜6に対応する240〜480mmの範囲から選択すればよい。
(試験例5)
試験例4で得られた最適長さLbに関する概念及び式(4)を装置設計において立証すべく、触媒長さと触媒層の組み合わせについて、SV値(触媒単位体積あたりの処理量)及びAV値(触媒単位表面積あたりの処理量)を基準とする従来の装置設計手法を用いて、それぞれの総合脱硝率と未反応NHを算出した。ここにいう触媒長さと触媒層の組み合わせとは、具体的に次に示す態様である。第一には、触媒長さが1000mmのものを1段設けた場合であり(表2に示すパターン1)、第二には、触媒長さが500mmのものを2段設けた場合であり(表2に示すパターン2)、第三には、触媒長さが333mmのものを3段設けた場合であり(表2に示すパターン3)、第四には、触媒長さが250mmのものを4段設けた場合であり(表2に示すパターン4)、第五には、触媒長さが200mmのものを5段設けた場合である(表2に示すパターン5)。これらについての結果を表2及び第8図に示す。
この結果、トータルの触媒長さが同じであっても、多段にすることで脱硝率が増加し、触媒長さが250mmのものを4段設けた場合に、最大の総合脱硝率を示すことがわかった。そして、触媒長さが1000mmのものを1段設けた場合(84.3%の脱硝率)に比べて、触媒長さが250mmのものを4段設けた場合には、90%という高脱硝率が得られることもわかった。さらに、同場合に、未反応NHが最小値を示すこともわかった。これにより、流入速度を6m/sとした場合のハニカム径6mm(7mmピッチ)のハニカム触媒では、250mm付近に最適長さが存在することになり、式(4)で算出される最適長さLb240mm〜480mmの範囲内となることがわかった。
また、最適長さLb程度の長さを有する触媒層が3段〜5段設けられている場合に、高い総合脱硝率が得られることもわかった。
【表2】

(試験例6)
試験例5に示す触媒長さと触媒層の組み合わせについて、入口NO=1000ppm、注入モル比=0.83、入口NH=830ppmとし、試験例5と同様に従来の装置設計手法を用いて、それぞれの装置出口NOと未反応NHを算出した。その結果を表3及び第9図に示す。
この結果、触媒長さが250mmのものを4段設けた場合に、装置出口NOと未反応NHが共に最小値を示すことがわかった。したがって、250mmの長さからなるハニカム触媒は、高濃度のNOを処理しなければならない装置(例えば、ディーゼル用脱硝装置)にも、有効に寄与する最適長さを有する触媒であることがわかった。
【表3】

(試験例7)
試験例5と同様に従来の装置設計手法を用いて、高濃度のNOを処理するディーゼル用脱硝装置に用いる触媒について、1段目を分割して多段にした場合と分割しない場合との双方の装置出口NO、総合脱硝率、及び未反応NHを算出した。その結果を表4に示す。
この結果、1段目を多段にしない場合に比べて、多段にした場合、すなわち、700mmの触媒を最適長さLbの範囲内である350mmに分割して多段にした場合の方が、わずかではあるが、装置出口NOと未反応NHが共に減少し、総合脱硝率が増加する傾向が認められた。すなわち、上述した式(4)から算出される最適長さLbの2倍程度の長さを有する触媒を分割して多段にして使用することで、装置出口NO、総合脱硝率、及び未反応NHに基づく全ての性能が向上するという結果が得られた。
したがって、実際に最適長さLbの2倍以上の脱硝触媒を使用している装置においては、その脱硝触媒を最適長さLb程度に分割し多段にして使用することで、装置性能が向上すると推測できる。例えば、試験例7においては、表4に示す2段目、3段目の700mmの触媒についても、同様に最適長さLb程度に分割し多段にして使用することで、装置性能が確実に向上するものと推測される。
【表4】

【産業上の利用可能性】
本発明は、高脱硝及び高濃度NO処理が要求される触媒または装置などに特に有効である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口側から出口側へ亘って被処理ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で処理を行うハニカム触媒であって、
前記ガス流路内に送通される被処理ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の所定長さを有することを特徴とするハニカム触媒。
【請求項2】
請求の範囲1において、前記所定長さLb(mm)が、流入速度をUin(m/s)とし、任意のハニカム径をLy(mm)とし、ハニカム径の定数Lysを6mmとした場合に下記式(A)で特定される長さであることを特徴とするハニカム触媒。
Lb=a(Ly/Lys・22e0.035(Ly・Uin)) (A)
(aは、ハニカム径が6mmのハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。)
【請求項3】
排煙脱硝装置に用いられ且つ入口側から出口側へ亘って排ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で脱硝を行うハニカムタイプの脱硝触媒であって、
前記ガス流路内に送通される排ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の所定長さを有することを特徴とする脱硝装置の脱硝触媒。
【請求項4】
請求の範囲3において、前記所定長さLb(mm)が、流入速度をUin(m/s)とし、任意のハニカム径をLy(mm)とし、ハニカム径の定数Lysを6mmとした場合に下記式(A)で特定される長さであることを特徴とする排煙装置の脱硝触媒。
Lb=a(Ly/Lys・22e0.035(Ly・Uin)) (A)
(aは、ハニカム径が6mmのハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。)
【請求項5】
請求の範囲3において、前記脱硝触媒の長さが、300mm〜450mmの範囲であることを特徴とする脱硝装置の脱硝触媒。
【請求項6】
入口側から出口側へ亘って排ガスを送通するガス流路を有すると共に当該ガス流路の側壁で脱硝を行うハニカムタイプの脱硝触媒を流れ方向とは交差する方向へ複数個並べた脱硝触媒層を流れ方向へ複数段設けた排煙脱硝装置であって、各脱硝触媒層に配置された前記脱硝触媒の長さが前記ガス流路内に送通される排ガスの流れが出口側近傍で整流される程度の所定長さであり、且つ各脱硝触媒層の間には各脱硝触媒から排出された排ガスの処理ガスが互いに混じり合う共通流路が形成されていることを特徴とする排煙脱硝装置。
【請求項7】
請求の範囲6において、前記所定長さLb(mm)が、流入速度をUin(m/s)とし、任意のハニカム径をLy(mm)とし、ハニカム径の定数Lysを6mmとした場合に下記式(A)で特定される長さであることを特徴とする排煙脱硝装置。
Lb=a(Ly/Lys・22e0.035(Ly・Uin)) (A)
(aは、ハニカム径が6mmのハニカム触媒で流入速度が6m/sの場合には、3〜6の範囲から選択される定数である。)
【請求項8】
請求の範囲6において、前記脱硝触媒の長さが、300mm〜450mmの範囲であることを特徴とする排煙脱硝装置。
【請求項9】
請求の範囲7又は8において、前記所定長さを有する脱硝触媒層が、3段〜5段設けられていることを特徴とする排煙脱硝装置。

【国際公開番号】WO2004/060561
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564528(P2004−564528)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016773
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】