説明

ハードコートフィルム、偏光板、および画像表示装置

【課題】表面硬度が高く、脆性、カール防止性に優れるハードコートフィルムを提供すること。また、該ハードコートフィルムを具備した偏光板および画像表示装置を提供すること。
【解決手段】透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、ポリロタキサンを含有し、ポリロタキサンがハードコート層の表面に高濃度で存在することを特徴とするハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明プラスチックフィルム上にポリロタキサンを含有するハードコート層を積層したハードコートフィルムで、ポリロタキサンがハードコート層の表面側により高い濃度で存在するハードコートフィルムに関する。とりわけ、このようなハードコートフィルムを基材とし、反射防止層を積層した反射防止性ハードコートフィルム、並びにそのような反射防止性ハードコートフィルムを用いた偏光板及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透明プラスチックフィルム基材に防眩性ハードコート層や、ハードコート層と低反射層を積層した反射防止フィルム(前者は防眩フィルムとも称する)は、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような様々な液晶表示装置において、表面散乱や低表面反射により、外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するために、ディスプレイの表面に配置される。
【0003】
近年、液晶テレビ等の低価格化に伴い、反射防止フィルムを搭載した画像表示装置が広く普及してきた。これに伴い、搭載された反射防止フィルムは、画像表示装置と伴に、様々な環境下に晒される場面が増えてきている。特に表面がガラスであるブラウン管テレビのように扱われ、液晶表示装置の表面に傷が付く危険性が増えてきている。そのため、液晶表示装置の最表面に配置される反射防止フィルムには、従来から求められていた高い視認性改良効果に加えて、高い物理強度(耐傷性など)が要求される。
【0004】
近年、斬新な手法を用いて物理ゲル、化学ゲルのいずれにも分類されない新しい種類のゲル、即ち「環動ゲル又はトポロジカルゲル」が提案されており、このような環動ゲルにはポリロタキサンが用いられている。ポリロタキサンは環状化合物とこの環状化合物を複数貫通する直鎖状高分子体からなり、この直鎖状高分子体の両末端をキャップした構造を持つ概念的化合物である。
特許文献1には環状化合物としてα−シクロデキストリンを、直鎖状高分子としてポリエチレングリコールを用いたポリロタキサンが開示されている。
【0005】
特許文献2には、このポリロタキサンを複数架橋して、環動ゲルに適用可能な架橋ポリロタキサンが開示されている。
この架橋ポリロタキサンは、直鎖状分子に串刺し状に貫通されている環状分子が当該直鎖状に沿って移動可能(滑車効果)であるために、粘弾性を有し、張力が加わっても、この滑車効果によって当該張力を均一に分散させることができるので、従来の架橋ポリマーとは異なり、クラックや傷が極めて生じ難いという優れた性質を有するものである。
【0006】
このようなポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンはさまざまな分野への応用研究が進められているが、このようなポリロタキサンを液晶表示装置用ハードコートフィルムのハードコート層への適用研究は進められて来なかった。
【0007】
塗料への応用では、特許文献3にポリロタキサンを含有した自動車用の塗料が開示されている。しかしながら、液晶表示装置用ハードコートフィルムは支持体が可撓性を有するプラスチックフィルムであり、カールや脆性の問題が重要であるのに対し、上記の支持体は支持体が剛性のある鋼板であるために、カールや脆性の改善に対する示唆が、一切行われていなかった。
【特許文献1】特許第2810264号公報
【特許文献2】特許第3475252号公報
【特許文献3】特開2007−099989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ハードコート層にポリロタキサンを導入することで、高い表面硬度を有しつつ、ハードコート層の脆性悪化の問題や、それを積層したハードコートフィルムのカールの問題を改善したハードコートフィルムの提供にあり、そのようなハードコートフィルムを基材とした反射防止フィルムの提供にある。本発明の別の目的は、該反射防止フィルムを具備した偏光板および画像表示装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、透明プラスチックフィルム上にポリロタキサンを含有する硬化性組成物より形成したハードコート層においてポリロタキサンをハードコート層の表面により高濃度で存在させることで耐傷性を改良したハードコートフィルムが得られることを見出した。
また上記ハードコートフィルムを基材とし、反射防止層を積層することで反射防止性にも優れた、反射防止性ハードコートフィルムを作成できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明者は以下の各構成により、上記目的を達したものである。
(1)透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、ポリロタキサンを含有し、ポリロタキサンがハードコート層の表面に高濃度で存在することを特徴とするハードコートフィルム。
(2)上記ポリロタキサンが表面エネルギーを低下させる基を有することを特徴とする(1)に記載のハードコートフィルム。
(3)上記ポリロタキサンがフッ素アルキル基含有ポリロタキサンであることを特徴とする(1)または(2)に記載のハードコートフィルム。
(4)上記ポリロタキサンがジメチルシロキサン基含有ポリロタキサンであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
(5)上記ポリロタキサンが不飽和二重結合基を有するポリロタキサンであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
(6)前記硬化層上に更に直接または他の層を介して低屈折率層を積層していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
(7)前記透明な基材フィルムがセルロースアシレートを主成分とする透明プラスチックフィルム基材であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のハードコートフィルムが偏光板保護フィルムであることを特徴とする偏光板。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載のハードコートフィルムまたは(8)に記載の偏光板を有することを特徴とする画像表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面硬度が高く、脆性、カール防止性に優れるハードコートフィルムを作製することができる。また、本発明によれば、該ハードコートフィルム(ハードコートフィルムから得られる反射防止フィルム)を具備した偏光板および画像表示装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の光学フィルムの作製方法等について説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
なお、本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」という記載は、「数値1以上〜数値2以下」の意味を表す。
「樹脂」とは、モノマー、オリゴマー、プレポリマーを包含する意味を表す。
「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを意味する。
【0013】
本発明のハードコート層は、ポリロタキサンを含有し、ポリロタキサンはハードコート層の表面に高濃度に存在させることで脆性やカールを大幅に改善できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
本発明者らはハードコート層にポリロタキサンを導入すると、破断伸度(フィルム等を伸ばした時に破断する極限の伸び率)を大きくできることを見出した。しかしながら、一方で、ハードコート層が柔らかくなることで、表面硬度低下の問題が起きる。破断伸度を大きくしたまま、表面硬度を維持する方法を検討したところ、ポリロタキサンをハードコート層の表面に高濃度に存在させることが有効であることを見出した。
【0015】
プラスチックフィルム基材上にハードコート層を積層したハードコートフィルムで、ハードコート層を外側にして曲げた状態での膜厚方法にフィルムの伸縮を考えてみる。曲げた状態では、ハードコート層の最表面(表面)が最も引き伸ばされ、膜厚方向に沿って伸びを見てゆくと、基材側に向かって伸びが減少して行く。(裏面に対応する基材フィルムの表面では縮められている。)即ち、ハードコート層は最表面が最も引き伸ばされることになる。従って、ハードコート層を外側にして曲げた時に破断が起きるのは、ハードコート層の最表面が破断伸度を越えるためである。つまり、ハードコート層に、表面ほど伸びる(破断伸度が大きい)構造を導入すればハードコートフィルムの曲げに対する耐破断性、つまり脆性を強くすることができる。
【0016】
一方、ハードコートフィルムの表面硬度は基材フィルムの変形によって決まり、ハードコート層が表面の変形をいかに基材フィルムの伝えないかが重要な因子になる。つまり、ハードコートフィルムの表面硬度はハードコート層の表面の硬度ではなく、ハードコート層の厚み全体の硬度によって決まるものである。即ち、ポリロタキサンを導入によるハードコートフィルムの表面硬度の低下は、ハードコート層全体へのポリロタキサンの導入量に依存している。
以上2点のことから、ポリロタキサンをハードコート層の表面側により高濃度で導入し、ハードコート層全体への添加量を低下することで、脆性と表面硬度を両立できるとの結論に達し、本発明の完成に至った。
【0017】
[透明プラスチックフィルム基材]
本発明のハードコートフィルムは、透明プラスチックフィルム基材(以下、「透明支持体」とも称する。)上にハードコート層を形成して作製される。透明プラスチックフィルム基材の光透過率は、80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。透明プラスチックフィルム基材のヘイズは、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
透明プラスチックフィルムの材料の例には、セルロースエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4、4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリスチレン(例えばシンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン等)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート及びポリエーテルケトンが含まれる。セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートが好ましい。
特に、本発明のハードコートフィルムを(反射防止層を積層し、)液晶表示装置に用いる場合、セルロースアシレートフィルムが好ましい。
【0019】
プラスチックフィルムは一般に吸湿性が低く、高湿度環境下で保存されても殆ど、吸湿しない。これに対し、偏光板保護フィルムとして使用されるセルロースアシレートフィルムは吸湿性が高く、高湿度下で保存されると、吸湿膨張する。
これに対し、硬化性樹脂から形成されたハードコート層は一般に吸湿性が低く、セルロースアシレートフィルムを基材として硬化性樹脂から形成されたハードコート層を積層したハードコートフィルムでは、基材とハードコート層の吸湿膨張性の違いから基材が相対的に伸びて、基材が外側になるようにカールが発生する。
従って、本発明は基材としてセルロースアシレートフィルムを用いた場合に特に有効である。
【0020】
本発明において、前記透明プラスチックフィルム基材の厚みは、10〜500μmが好ましく、20〜300μmがより好ましく、30〜200μmが特に好ましい。この範囲であると膜強度と可撓性を両立する。
【0021】
[ハードコート層]
本発明のハードコート層はポリロタキサンが表面側に高濃度で存在する。
本発明で「ハードコート層はポリロタキサンが表面側に高濃度で存在する。」とはポリロタキサンの単位体積当たりの存在量を、ハードコート層の厚み方向に測定した時に、表面側30%に対応する膜厚部分の単位体積当たり平均存在量が、ハードコート層全体の、単位体積当たりの平均存在量の2倍以上であることを意味する。2.5倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましい。
【0022】
ポリロタキサンの厚み方向の偏在状態は例えば、TOF-SIMS(Time of Flight - Secondary Ion Mass Spectrometry)法が有効であり、例えばPhi Evans社製TRIFTII型TOF-SIMS(商品名)を用いて、ハードコート層の断面のポリシロキサンに起因するフラグメントを検出することで観察することができる。TOF-SIMS法については、具体的には日本表面科学会編「表面分析技術選書 二次イオン質量分析法」丸善株式会社(1999年発行)に記載されている。また、より精度を上げるためには、ハードコート層層の断面を斜めに切る斜め切削法が有効であり、厚さ方向の精度を上げることができる。
【0023】
ポリロタキサンを表面に偏在させるためにいかなる方法を用いても構わない。表面自由エネルギーの差を利用してポリロタキサンを浮上させることが好ましい。より具体的には、フッ素化アルキル基や、ジメチルシロキサン基等の表面エネルギーを低下させる基をポリロタキサンに導入し、浮上させることが好ましい。
【0024】
本発明のハードコート層は、硬化性組成物より形成されることが好ましい、硬化性組成物にはポリロタキサン、バインダーとしてハードコート性を付与するための硬化樹脂を形成するための化合物、有機溶剤、その他必要に応じて防眩性又は内部散乱性を付与するためのマット粒子、及び高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機微粒子から形成される。
また、本発明のハードコート層の膜厚は1〜60μmであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、10〜30μmであることが特に好ましい。ハードコート層の膜厚を厚くすることで、鉛筆硬度試験などで評価することのできる、押し込みに対する表面硬度を確保することができる。一方、膜厚の上限を上記範囲に抑えることで、カールや脆性の悪化を抑制することができる。
【0025】
本発明のハードコート層は2層以上の複数層構成であっても構わない。この場合、複数層のハードコート層のいずれか一層がポリロタキサンを表面に高濃度で含有するハードコート層であることが好ましい。また、多層構成のハードコート層のうち、ポリロタキサンを含むハードコート層が、基材から最も遠い層であることがカールや脆性の改良の点で有利であり、より好ましい。
この場合、ハードコート層の膜厚は全て1μm〜59μmであることが好ましく、ハードコート層の膜厚の合計は上記の通り、1〜60μmであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、10〜30μmであることが特に好ましい。
【0026】
<ポリロタキサン>
本発明で必須の成分であるポリロタキサンについて説明する。
ポリロタキサンは、環状分子の開口部が直鎖状分子によって串刺し状に貫かれ、複数の環状分子が直鎖状分子を包接してなる擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)に、環状分子が遊離しないようにブロック基を配置してなる。
【0027】
(直鎖状分子)
本発明の化合物に含まれる直鎖状分子は、環状分子に包接され、非共有結合的に一体化することができる分子又は物質であって、直鎖状のものであれば、特に限定されない。なお、本発明において、「直鎖状分子」とは、高分子を含めた分子、及びその他上記の要件を満たす全ての物質をいう。
また、本発明において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。即ち、回転子である環状分子が回転可能、もしくは直鎖状分子上で環状分子が摺動又は移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。また、「直鎖」の長さは、直鎖状分子上で環状分子が摺動又は移動可能であれば、その長さに特に制限はない。
【0028】
本発明の直鎖状分子として、親水性ポリマー、例えばポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体など;疎水性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0029】
これらのうち、親水性ポリマーであることが好ましい。ハードコート層に吸湿性を付与し、特に基材がセルロースアシレートフィルムの場合、ハードコート層と基材フィルムの吸湿膨張性の差に起因するカールを低減することができる。
親水性のポリマーの中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンが好ましい。ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール及ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体がより好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0030】
本発明の直鎖状分子は、それ自体が高い破壊強度を有するのがよい。ハードコートフィルム層の破壊強度は、ブロック基と直鎖状分子との結合強度、環状分子とハードコート層のバインダーとの結合強度、環状分子同士の結合強度など、その他の因子にも依るが、本発明の直鎖状分子自体が高い破壊強度を有すれば、より高い破壊強度を提供することができる。
【0031】
本発明の直鎖状分子は、その分子量が1,000以上、例えば1,000〜1,000,000、好ましくは5,000以上、例えば5,000〜1,000,000又は5,000〜500,000、より好ましくは10,000以上、例えば10,000〜1,000,000、10,000〜500,000又は10,000〜300,000であるのがよい。
また、本発明の直鎖状分子が、生分解性分子であるのが「環境にやさしい」点で好ましい。
【0032】
本発明の直鎖状分子は、その両末端に反応基を有するのが好ましい。この反応基を有することにより、ブロック基と容易に反応することができる。反応基は、用いるブロック基に依存するが、例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などを挙げることができる。
【0033】
(環状分子)
本発明の環状分子は、上記直鎖状分子と包接可能な環状分子であれば、いずれの環状分子であっても用いることができる。
なお、本発明において、「環状分子」とは、環状分子を含めた種々の環状物質をいう。また、本発明において、「環状分子」とは、実質的に環状である分子又は物質をいう。即ち、「実質的に環状である」とは、英字の「C」のように、完全に閉環ではないものを含む意であり、英字の「C」の一端と多端とが結合しておらず重なった螺旋構造を有するものも含む意である。さらに、後述する「ビシクロ分子」についての環についても、「環状分子」の「実質的に環状である」と同様に定義することができる。即ち、「ビシクロ分子」の一方の環又は双方の環は、英字の「C」のように、完全に閉環ではないものであってもよく、英字の「C」の一端と他端とが結合しておらず重なった螺旋構造を有するものであってもよい。
【0034】
本発明の環状分子として例えば、種々のシクロデキストリン類(例えばα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、ジメチルシクロデキストリン及びグルコシルシクロデキストリン、これらの誘導体又は変性体など)、クラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、及びジシクロヘキサノクラウン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0035】
上述のシクロデキストリン類及びクラウンエーテル類などは、その種類により環状分子の開口部の大きさが異なる。したがって、用いる直鎖状分子の種類、具体的には用いる直鎖状分子を円柱状と見立てた場合、その円柱の断面の直径、直鎖状分子の疎水性又は親水性などにより、用いる環状分子を選択することができる。また、開口部が相対的に大きな環状分子と、相対的に直径が小さな円柱状の直鎖状分子を用いた場合、環状分子の開口部に2以上の直鎖状分子を包接することもできる。
このうち、シクロデキストリン類は、生分解性を有するため、上述の「環境にやさしい」点で好ましい。
【0036】
環状分子としてα−シクロデキストリンを用いるのが好ましい。
直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)は、環状分子がシクロデキストリンの場合、その最大包接量を1とすると、0.05〜0.60が好ましく、0.10〜0.50が更に好ましく、0.20〜0.40が更に好ましい。0.05未満では滑車効果が発現しないことがあり、0.60を超えると、環状分子であるシクロデキストリンが密に配置され過ぎてシクロデキストリンの可動性が低下することがあり、またシクロデキストリン自体の有機溶剤に対する非溶解性が強化されてしまい、得られるポリロタキサンの有機溶剤への溶解性も低下することがある。
【0037】
本発明の環状分子は、その環の外側に反応基を有するのが好ましい。環状分子同士を結合又は架橋する際、この反応基を用いて容易に反応を行うことができる。反応基は、用いる架橋剤などにも依存するが、例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができる。また、上述のブロック化反応の際にブロック基と反応しない基を用いるのがよい。
【0038】
(ブロック基)
本発明のブロック基は、環状分子が直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持する基であれば、いかなる基を用いてもよい。このような基として、例えば「嵩高さ」を有する基及び/又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。ここで、「基」というのは、分子基及び高分子基を含めた種々の基を意味する。また、「イオン性」を有する基の「イオン性」と、環状分子の有する「イオン性」とが影響しあうことにより、例えば反発しあうことにより、環状分子が直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持することができる。
【0039】
また、本発明のブロック基は、上述のように、串刺し状になった形態を保持するものであれば、高分子の主鎖であっても側鎖であってもよい。ブロック基が高分子Aである場合、マトリクスとして高分子Aがありその一部に本発明の化合物が含まれる形態であっても、逆にマトリクスとして本発明の化合物がありその一部に高分子Aが含まれる形態であってもよい。このように、種々の特性を有する高分子Aと組み合わせることにより、本発明の化合物の特性と高分子Aの特性とを組み合わせて有する複合材料を形成することができる。
【0040】
具体的には、分子基のブロック基として、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。より具体的には、環状分子としてα−シクロデキストリン、及び直鎖状分子としてポリエチレングリコールを用いる場合であっても、シクロデキストリン類、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0041】
次に本発明に好ましく用いることのできる変性ポリロタキサンについて説明する。本発明では以下に説明する変性を複数併用したポリロタキサンを好ましく用いることができる。
【0042】
<架橋ポリロタキサン>
架橋ポリロタキサンは、2つ以上のポリロタキサンがその環状分子同士が化学結合されている化合物をいい、この2つの環状分子は同じでも異なっていてもよい。この際、化学結合は、単なる結合であっても、種々の原子又は分子を介する結合であってもよい。
また、環状分子が架橋環構造を有する分子、即ち第1の及び第2の環を有する「ビシクロ分子」を用いることができる。この場合、例えば「ビシクロ分子」と直鎖状分子とを混合し、「ビシクロ分子」の第1環及び第2環に直鎖状分子を串刺し状に包接して架橋ポリロタキサンを得ることができる。
この架橋ポリロタキサンは直鎖状分子に串刺し状に貫通されている環状分子が当該直鎖状に沿って移動可能なために(滑車効果)、粘弾性を有し、張力が加わっても、この滑車効果によって当該張力を均一に分散させ、内部応力を緩和できる。
【0043】
<疎水化修飾ポリロタキサン>
ポリロタキサンの環状分子がα−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン類である場合、本発明ではシクロデキストリンの水酸基の少なくとも一つが他の有機基(疎水基)によって置換された疎水化修飾ポリロタキサンは、ハードコートフィルム層形成組成物に含まれる溶剤への溶解性が向上するため、さらに好ましく用いられる。
疎水基の具体例として、例えばアルキル基、ベンジル基、ベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基、光硬化部位としてアルキル置換エチレン性不飽和基、熱硬化部位としてアルキル置換エポキシ基などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、上記の疎水性修飾ポリロタキサンにおいては、上述の疎水基の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0044】
上記疎水性修飾基による修飾度は、シクロデキストリンの水酸基が修飾され得る最大数を1とすると、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.06以上であることが更に好ましい。
0.02未満であると、有機溶剤への溶解性が十分なものとならず、不溶性ブツ(異物付着などに由来する突起部)が生成することがある。
ここで、シクロデキストリンの水酸基が修飾され得る最大数とは、換言すれば、修飾する前にシクロデキストリンが有していた全水酸基数のことである。修飾度とは、換言すれば、修飾された水酸基数の全水酸基数に対する比のことである。
なお、疎水性修飾基は少なくとも1つでよいが、その場合、シクロデキストリン環1つに対して1つの疎水性修飾基を有するのが好ましい。
また、官能基を有している疎水性修飾基を導入することにより、他のポリマーとの反応性を向上させることが可能になる。後述する不飽和二重結合性基を有するポリロタキサンの不飽和二重結合性基は疎水性修飾基として振舞う。
【0045】
<表面エネルギーを低下させる基を含有するポリロタキサン>
本発明では、ハードコート層の表面側にポリロタキサンを高濃度で存在させるために、表面エネルギーを低下させる置換基を含有することが好ましい。このような置換基としては含フッ素アルキル基、ジメチルシロキサン基が挙げられ、環状分子相当部分、またはブロック基にこのような基を導入することで、表面エネルギーを低下させる基を含有するポリロタキサンを得ることができる。
【0046】
環状分子にこのような基を導入する場合、直鎖状分子を包接する前であっても、包接した後であっても構わない。また、ブロック基を導入する前の擬ポリロタキサンであっても構わないし、ブロック基を導入した後でも構わない。導入し易さの点で直鎖状分子を包接する前が好ましい。
ブロック基に導入する場合、直鎖状分子に結合する前でも、結合後でも構わない。また、2個あるブロック基のうちの一方にのみを前記置換基を導入するのも好ましい態様ある。ポリロタキサンの一端のみを浮上させることでポリロタキサンを深さ方向により深く分布させることができる。
ブロック基に導入する場合、直鎖状分子の分子量でハードコート層の厚さ方向の分布を制御することができる。
本発明では特開2005−306917号公報に開示されている方法を用いて、含フッ素アルキル基を環状分子鎖に導入することができる。
【0047】
<不飽和二重結合を有するポリロタキサン>
環状分子相当部分に不飽和結合基を導入することができる。この基の導入により、(B)成分である二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとの重合が可能となる。
不飽和結合基の導入は、例えば、シクロデキストリン等の水酸基(−OH)を有する環状分子の少なくとも一部を不飽和結合基、好ましくは不飽和二重結合基で置換することにより行うことができる。
不飽和結合基、例えば不飽和二重結合基として、オレフィニル基を挙げることができ、例えば、アクリル基、メタクリル(メタクリロイル)基、ビニルエーテル基、スチリル基などを挙げることができるが、これに限定されない。
【0048】
不飽和二重結合基の導入は、次に挙げる方法を用いることができる。即ち、イソシアネート化合物等によるカルバメート結合形成による方法;カルボン酸化合物、酸クロリド化合物又は酸無水物等によるエステル結合形成による方法;シラン化合物等によるシリルエーテル結合形成による方法;クロロ炭酸化合物等によるカーボネート結合形成による方法等を挙げることができる。
【0049】
カルバモイル結合を介して、不飽和二重結合基として(メタ)アクリロイル基を導入する場合、ポリロタキサンをDMSO、DMF等の脱水溶媒に溶解し、イソシアネート基を有する(メタ)アクリロイル化剤を加えることで行う。その他、エーテル結合やエステル結合を介して導入する場合、グリシジル基や酸クロライド等の活性基を有する(メタ)アクリル化剤を用いることもできる。
【0050】
環状分子が有する水酸基を不飽和二重結合基に置換する工程は、擬ポリロタキサンを調製する工程の前でも、工程間でも、工程の後でもよい。また、擬ポリロタキサンをブロック化してポリロタキサンを調製する工程の前でも、工程間でも、工程の後でもよい。さらには、ポリロタキサンが架橋ポリロタキサンの場合、ポリロタキサン同士を架橋させる工程の前でも、工程間でも、工程の後でもよい。これらの2以上の時期に設けることもできる。置換工程は、擬ポリロタキサンをブロック化してポリロタキサンを調製した後であって、ポリロタキサン同士の架橋前に設けるのが好ましい。置換工程において用いられる条件は、置換する不飽和二重結合基に依存するが、特に限定されず、種々の反応方法、反応条件を用いることができる。
【0051】
ポリロタキサンの配合量は、ハードコート層中の固形分100重量部に対し、1〜50重量部が好ましく、5〜40重量部がより好ましく、10〜30重量部が更に好ましい。この範囲で用いることで硬度と柔軟性を両立することができる。
本発明では用いるポリロタキサンは表面エネルギーを低下させる基を含有するポリロタキサンが好ましく、ポリロタキサンは表面エネルギーを低下させる基と不飽和二重結合の両方を有するポリロタキサンであることがさらに好ましい。
【0052】
[硬化樹脂]
硬化樹脂は、飽和炭化水素鎖またはポリエーテル鎖を主鎖として有するバインダーポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素鎖を主鎖として有するバインダーポリマーであることがさらに好ましい。また、バインダーポリマーは架橋構造を有することが好ましい。
飽和炭化水素鎖を主鎖として有するバインダーポリマーとしては、エチレン性不飽和モノマーの重合体が好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有し、かつ架橋構造を有するバインダーポリマーとしては、二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの(共)重合体が好ましい。
【0053】
<二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー>
本発明の(B)成分である二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル〔例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート〕、前記のエステルのエチレンオキサイド変性体、ポリエチレンオキサイド変性体やカプロラクトン変性体、ビニルベンゼンおよびその誘導体〔例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン〕、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが挙げられる。前記モノマーは2種以上併用してもよい。
【0054】
本発明の(A)成分であるポリロタキサンの直鎖状分子がポリアルキレングリコール類である場合、本発明の(B)成分である二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの少なくとも一部がエチレンオキサイド変性体またはポリエチレンオキサイド変性体であることが好ましい。
特に、ポリロタキサンの直鎖状分子がポリエチレングリコールである場合、(B)成分の少なくとも一部としてエチレンオキサイド変性体を含むことが好ましい。エチレンオキサイド変性体を含有することでポリロタキサンとの相溶性を上げることができ、不溶物に起因するハードコート層のヘイズ上昇を抑制できる。
【0055】
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射または加熱により行うことができる。
従って、前記ハードコート層は、上述のエチレン性不飽和モノマー等の硬化樹脂形成用のモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、低屈折率微粒子および必要に応じて後述するような低屈折率微粒子以外の無機フィラー、マット粒子、レべリング剤、を含有する塗液を調製し、該塗液を透明基材上に塗布後電離放射線または熱による重合反応により硬化させることにより形成することができる。
【0056】
<光ラジカル重合開始剤>
光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。
【0057】
アセトフェノン類の例には、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−ジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシ−ジメチル−p−イソプロピルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、が含まれる。
ベンゾイン類の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテルおよびベンゾインイソプロピルエーテルが含まれる。
ベンゾフェノン類の例には、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、2,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノンおよびp−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどが含まれる。
ホスフィンオキシド類の例には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドが含まれる。
活性エステル類の例には1,2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、スルホン酸エステル類、環状活性エステル化合物などが含まれる。
オニウム塩類の例には、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩が挙げられる。
ボレート塩の例にはカチオン性色素とのイオンコンプレックス類が挙げられる。
活性ハロゲン類の例にはS−トリアジンやオキサチアゾール化合物が知られており、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(p−スチリルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(3−Br−4−ジ(エチル酢酸エステル)アミノ)フェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−トリハロメチル−5−(p−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールが含まれる。
無機錯体の例にはビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムが挙げられる。
クマリン類の例には3−ケトクマリンが挙げられる。
【0058】
これらの開始剤は単独でも混合して用いても良い。
「最新UV硬化技術」、(株)技術情報協会、1991年、p.159にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(127,651,184,819,907,1870(CGI-403/Irg184=7/3混合開始剤、500,369,1173,2959,4265,4263など)、OXE01)等、日本化薬(株)製のKAYACURE(DETX-S,BP-100,BDMK,CTX,BMS,2-EAQ,ABQ,CPTX,EPD,ITX,QTX,BTC,MCAなど)、サートマー社製のEsacure(KIP100F,KB1,EB3,BP,X33,KT046,KT37,KIP150,TZT)等が好ましい例として挙げられる。
【0059】
光重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーケトンおよびチオキサントン、などを挙げることができる。
更にアジド化合物、チオ尿素化合物、メルカプト化合物などの助剤を1種以上組み合わせて用いてもよい。
市販の光増感剤としては、日本化薬(株)製のKAYACURE(DMBI,EPA)などが挙げられる。
【0060】
<熱ラジカル開始剤>
熱ラジカル開始剤としては、有機あるいは無機過酸化物、有機アゾ及びジアゾ化合物等を用いることができる。
具体的には、有機過酸化物として過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシド、無機過酸化物として、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等、アゾ化合物として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等、ジアゾ化合物としてジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0061】
(B)成分である二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーに加えて、架橋性官能基を有するモノマーを用いてポリマー中に架橋性官能基を導入し、この架橋性官能基の反応により、架橋構造をバインダーポリマーに導入してもよい。
架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。すなわち、本発明において架橋性官能基は、すぐには反応を示すものではなくとも、分解した結果反応性を示すものであってもよい。
これら架橋性官能基を有するバインダーポリマーは塗布後、加熱することによって架橋構造を形成することができる。
【0062】
[マット粒子]
ハードコート層には、防眩性又は内部散乱性を付与するために、必要に応じてマット粒子が含有される。上記マット剤の平均粒径は1.0〜15μmであることが好ましく、2.0〜12μmがより好ましく、3.0〜10μmが特に好ましい。平均粒径を1.0μm以上にすることで、光の散乱角度分布を適切な範囲に抑えることにより、ディスプレイの文字ボケを防止することができる。一方、平均粒径を15μm以下にすることで、ハードコート層の膜厚を適切な範囲に抑えることができ、カールを防止することができる。
上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO粒子等の無機化合物の粒子及び架橋アクリル粒子、架橋アクリル−スチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋アクリル粒子、架橋アクリル−スチレン粒子、架橋スチレン粒子が好ましい。マット粒子の形状は、真球及び不定形のいずれも使用できる。また、異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。上記マット粒子は、形成される防眩性ハードコート層中のマット粒子量が、好ましくは10〜1000mg/m、より好ましくは30〜100mg/mとなるように防眩性ハードコート層に含有されるのがよい。また、特に好ましい態様は、マット粒子として架橋スチレン粒子を用い、ハードコート層の膜厚の2分の1よりも大きい粒径の架橋スチレン粒子が、該架橋スチレン粒子全体の40〜100%を占める態様である。ここで、マット粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。
【0063】
本発明ではポリロタキサンを樹脂粒子として導入することもできる。内部散乱性と脆性改良効果を同時に付与することができる。また、樹脂粒子として導入することで、局所的にポリロタキサンの濃度を上げることができ、脆性改良効果を上げることもできる。樹脂粒子に対するポリロタキサンの配合比は1〜80重量%が好ましく、5〜60重量%がより好ましく、10〜40重量%がより好ましい。
配合比が80重量%より多いと、ハードコート層に導入したときに軟らか過ぎて変形し、散乱性を制御しにくい、一方少なすぎると、脆性改良効果が得られない。
【0064】
[無機酸化物微粒子]
続いて本発明に用いることのできる無機酸化物微粒子について説明する。
無機酸化物粒子は、得られる硬化性組成物の硬化被膜の無色性の観点から、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物粒子であることが好ましい。
これらの無機微粒子はハードコート層の高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化等を目的に導入され、硬化膜中の厚み方向に均一に分散されていることが好ましい。
【0065】
これらの無機酸化物粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の粒子を挙げることができる。中でも、高硬度の観点から、シリカ、アルミナ、ジルコニアおよび酸化アンチモンの粒子が好ましい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。さらには、無機酸化物粒子は、有機溶媒分散物として用いるのが好ましい。有機溶媒分散物として用いる場合、他の成分との相溶性、分散性の観点から、分散媒は、有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンが好ましい。
【0066】
酸化物粒子の数平均粒子径は、1nm〜2000nmが好ましく、3nm〜200nmがさらに好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。数平均粒子径が2000nmを超えると、硬化物としたときの透明性が低下したり、被膜としたときの表面状態が悪化する傾向がある。また、粒子の分散性を改良するために各種の界面活性剤やアミン類を添加してもよい。
【0067】
ケイ素酸化物粒子分散液(例えば、シリカ粒子)として市販されている商品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製メタノ−ルシリカゾル、MA−ST−MS、IPA−ST、IPA−ST−MS、IPA−ST−L、IPA−ST−ZL、IPA−ST−UP、EG−ST、NPC−ST−30、MEK−ST、MEK−ST−L、MIBK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL等、触媒化成工業(株)製中空シリカCS60-IPA等を挙げることができる。また粉体シリカとしては、日本アエロジル(株)製アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50、旭硝子(株)製シルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122、日本シリカ工業(株)製E220A、E220、富士シリシア(株)製SYLYSIA470、日本板硝子(株)製SGフレ−ク等を挙げることができる。
【0068】
また、アルミナの水分散品としては、日産化学工業(株)製アルミナゾル−100、−200、−520;アルミナのイソプロパノール分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150I;アルミナのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150T;ジルコニアのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製HXU−110JC;アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品としては、日産化学工業(株)製セルナックス;アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の粉末および溶剤分散品としては、シーアイ化成(株)製ナノテック;アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾルとしては、石原産業(株)製SN−100D;ITO粉末としては、三菱マテリアル(株)製の製品;酸化セリウム水分散液としては、多木化学(株)製ニードラール等を挙げることができる。
【0069】
酸化物粒子の形状は、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、または不定形状であり、好ましくは、球状である。酸化物粒子の比表面積(窒素を用いたBET比表面積測定法による)は、好ましくは、10〜1000m2/gであり、さらに好ましくは、20〜500m2/gであり、最も好ましくは50〜300m2/gである。これら無機酸化物粒子は、乾燥状態の粉末を有機溶媒に分散することもできるが、例えば上記の酸化物の溶剤分散ゾルとして当業界に知られている微粒子状の酸化物粒子の分散液を直接用いることができる。
【0070】
[分散方法]
本発明において無機酸化物微粒子を粉体から溶媒中に分散して調製するには、分散剤を用いることもできる。本発明においては、アニオン性基を有する分散剤を用いることが好ましい。
アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基(スルホ)、リン酸基(ホスホノ)、スルホンアミド基等の酸性プロトンを有する基、またはその塩が有効であり、特にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基またはその塩が好ましく、カルボキシル基、リン酸基が特に好ましい。分散性をさらに改良する目的でアニオン性基は複数個が含有されていてもよい。平均で2個以上であることが好ましく、より好ましくは5個以上、特に好ましくは10個以上である。また、分散剤に含有されるアニオン性基は、1分子中に複数種類が含有されていてもよい。
分散剤は、さらに架橋又は重合性官能基を含有することもできる。架橋又は重合性官能基としては、ラジカル種による付加反応・重合反応が可能なエチレン性不飽和基(例えば(メタ)アクリロイル基、アリル基、スチリル基、ビニルオキシ基等)、カチオン重合性基(エポキシ基、オキサタニル基、ビニルオキシ基等)、重縮合反応性基(加水分解性シリル基等、N−メチロール基)等が挙げられ、好ましくはエチレン性不飽和基を有する官能基である。
本発明においては、無機酸化物粒子を粉砕するのに分散機を用いることができる。分散機の例には、サンドグラインダーミル(例、ピン付きビーズミル)、高速インペラーミル、ペッブルミル、ローラーミル、アトライターおよびコロイドミルが含まれる。サンドグラインダーミルおよび高速インペラーミルが特に好ましい。また、予備分散処理を実施してもよい。予備分散処理に用いる分散機の例には、ボールミル、三本ロールミル、ニーダーおよびエクストルーダーが含まれる。
【0071】
[高屈折率無機微粒子]
ハードコート層には、層の屈折率を高めるために、上記のマット粒子に加えて、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、平均粒径が0.001〜0.2μm以下、好ましくは0.001〜0.1μm、より好ましくは0.001〜0.06μm以下である無機微粒子が含有されることが好ましい。ハードコート層に用いられる無機微粒子の具体例としては、TiO2、ZrO2、Al23、In23、ZnO、SnO2、Sb23、スズをドープした酸化インジウム(ITO)等が挙げられる。TiO2及びZrO2が高屈折率化の点で特に好ましい。該無機微粒子は表面をシランカップリング処理又はチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。
【0072】
これらの無機微粒子の添加量は、ハードコート層の全質量の10〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜80質量%であり、特に好ましくは30〜75質量%である。
【0073】
なお、このような無機微粒子は、粒径が光の波長よりも十分小さいために散乱が生じず、バインダーポリマーに該フィラーが分散した分散体は光学的に均一な物質として振舞う。
【0074】
[塗布液の溶剤]
以上説明した本発明に係るポリロタキサンとバインダーと組み合わせてコーティング組成物となし、この組成物からハードコート層を形成することができる。コーティング組成物の溶剤に制限は無いが、少なくとも2種類の揮発性溶剤を含有することが好ましい。例えば、アルコールとその誘導体類、エーテル類、ケトン類、炭化水素類、エステル類、の中から選ばれる少なくとも2種を組み合わせて用いることが好ましい。バインダー成分の溶解度、無機微粒子の安定性、コーティング液の粘度調節などの観点から溶媒を選択することができる。
【0075】
特に好ましい組み合わせはアルコールとその誘導体類、ケトン類、エステル類の中から少なくとも2種類、更に好ましくは3種類用いることである。好ましい例としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−メトキシプロパノール、2−ブトキシエタノール、イソプロピルアルコール、トルエンの中から2種又は3種を併用して用いることができる。
【0076】
[ハードコートフィルムの層構成]
本発明のハードコートフィルムはハードコート層が最表面であっても構わないが、ポリロタキサンを導入することで耐擦傷性が低下することがあるため、耐擦傷性付与層が積層されていることが好ましい。耐擦傷性付与層には防汚機能を有する防汚層、反射防止機能を有する反射防止層も含まれる。中でも反射防止層を積層するのは、耐擦傷性に加えて反射防止性も付与することができ好ましい。
【0077】
この場合、対擦傷性付与層の膜厚は0.01〜1.0μmであることが好ましく、0.03〜0.5μmであることがより好ましく、0.05〜0.3μmであることが、さらに好ましい。膜厚を上記範囲にすることで、耐擦傷性を付与しつつ、ポリロタキサンを含有した層の脆性改良効果を充分に発現させることができる。
【0078】
本発明のハードコートフィルムが反射防止フィルムとして用いられる場合、ハードコート層の表面に一層または複数の反射防止層を積層することも好ましい態様である。以下に本発明に好ましく用いることができる反射防止層の構成を示す。
【0079】
<層構成>
イ:透明プラスチックフィルム基材/ハードコート層/低屈折率層
ロ:透明プラスチックフィルム基材/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
ハ:透明プラスチックフィルム基材/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
【0080】
[低屈折率層]
本発明においては、前記のように、前記のハードコート層より外側、すなわち透明支持体より遠い側に低屈折率層を設けることが好ましい態様の一つである。低屈折率層を有することで、ハードコートフィルムに反射防止機能を付与することができる。低屈折率層の屈折率は前記のハードコート層の屈折率より低く設定することが好ましい。低屈折率層とハードコート層との屈折率差が小さすぎる場合は反射防止性が低下し、大き過ぎると反射光の色味が強くなる傾向がある。低屈折率層とハードコート層との屈折率差は0.01以上0.40以下が好ましく、0.05以上0.30以下がより好ましい。
低屈折率層は、低屈折率素材を用いて形成することができる。低屈折率素材としては、低屈折率バインダーを用いることができる。また、バインダーに微粒子を加えて低屈折率層を形成することもできる。
また、低屈折率層形成用組成物は特開2007−301970号公報[0099]〜[0122]に記載のオルガノシラン化合物を含有することもできる。
【0081】
低屈折率バインダーとしては、含フッ素共重合体を好ましく用いることができる。含フッ素共重合体は、含フッ素ビニルモノマーから導かれる構成単位と架橋性付与のための構成単位を有することが好ましい。
【0082】
(含フッ素共重合体)
含フッ素共重合体を主として構成する含フッ素ビニルモノマーとしては、フルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類{例えば「ビスコート6FM」(商品名)、大阪有機化学工業(株)や“R−2020”(商品名)、ダイキン工業(株)製等}、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられるが、好ましくはペルフルオロオレフィン類であり、屈折率、溶解性、透明性、入手性等の観点から特に好ましくはヘキサフルオロプロピレンである。
【0083】
これらの含フッ素ビニルモノマーの組成比を上げれば屈折率を下げることができるが、皮膜強度は低下する傾向がある。本発明では共重合体のフッ素含率が20〜60質量%となるように含フッ素ビニルモノマーを導入することが好ましく、より好ましくは25〜55質量%の場合であり、特に好ましくは30〜50質量%の場合である。
【0084】
架橋反応性付与のための構成単位としては主として以下の(A)、(B)、(C)で示される単位が挙げられる。
(A):グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテルのように分子内に予め自己架橋性官能基を有するモノマーの重合によって得られる構成単位、
(B):カルボキシル基やヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等を有するモノマー{例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、マレイン酸、クロトン酸等}の重合によって得られる構成単位、
(C):分子内に上記(A)、(B)の官能基と反応する基とそれとは別に架橋性官能基を有する化合物を、上記(A)、(B)の構成単位と反応させて得られる構成単位(例えばヒドロキシル基に対してアクリル酸クロリドを作用させる等の手法で合成できる構成単位)が挙げられる。
【0085】
上記(C)の構成単位は、その架橋性官能基が光重合性基であることが好ましい。該光重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、アルケニル基、シンナモイル基、シンナミリデンアセチル基、ベンザルアセトフェノン基、スチリルピリジン基、α−フェニルマレイミド基、フェニルアジド基、スルフォニルアジド基、カルボニルアジド基、ジアゾ基、o-キノンジアジド基、フリルアクリロイル基、クマリン基、ピロン基、アントラセン基、ベンゾフェノン基、スチルベン基、ジチオカルバメート基、キサンテート基、1,2,3−チアジアゾール基、シクロプロペン基、アザジオキサビシクロ基などを挙げることができ、これらは1種のみでなく2種以上であってもよい。これらのうち、(メタ)アクリロイル基及びシンナモイル基が好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリロイル基である。
【0086】
光重合性基含有共重合体を調製するための具体的な方法としては、下記の方法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
a.水酸基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、(メタ)アクリル酸クロリドを反応させてエステル化する方法、
b.水酸基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、イソシアネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを反応させてウレタン化する方法、
c.エポキシ基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化する方法、
d.カルボキシル基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、エポキシ基を含有する含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させてエステル化する方法。
【0087】
なお、上記光重合性基の導入量は任意に調節することができ、塗膜面状安定性・無機粒子共存時の面状故障低下・膜強度向上などの点からカルボキシル基やヒドロキシル基等を残していても良い。
本発明では共重合体中の架橋性付与のための構成単位の導入量が10〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは15〜45モル%の場合であり、特に好ましくは20〜40モル%の場合である。
【0088】
本発明における低屈折率層に有用な共重合体では、上記含フッ素ビニルモノマーから導かれる繰返し単位及び、架橋性付与のための構成単位以外に、基材への密着性、ポリマーのTg(皮膜硬度に寄与する)、溶媒への溶解性、透明性、滑り性、防塵・防汚性等種々の観点から、適宜他のビニルモノマーを共重合することもできる。これらのビニルモノマーは、目的に応じて複数を組み合わせてもよく、合計で共重合体中の0〜65モル%の範囲で導入されていることが好ましく、0〜40モル%の範囲であることがより好ましく、0〜30モル%の範囲であることが特に好ましい。
【0089】
併用可能なビニルモノマー単位には、特に限定はなく、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2‐ヒドロキシエチル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等)、スチレン誘導体(スチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−メトキシスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、不飽和カルボン酸類(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等)、アクリルアミド類(N、N−ジメチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(N,N−ジメチルメタクリルアミド)、アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0090】
本発明で特に有用な含フッ素共重合体は、ペルフルオロオレフィンとビニルエーテル類又はビニルエステル類のランダム共重合体である。特に単独で架橋反応可能な基{(メタ)アクリロイル基等のラジカル反応性基、エポキシ基、オキセタニル基等の開環重合性基等}を有していることが好ましい。これらの架橋反応性基含有重合単位はポリマーの全重合単位の5〜70モル%を占めていることが好ましく、特に好ましくは30〜60モル%の場合である。好ましいポリマーについては、特開2002−243907号、特開2002−372601号、特開2003−26732号、特開2003−222702号、特開2003−294911号、特開2003−329804号、特開2004−4444、特開2004−45462号の各公報に記載のものを挙げることができる。
【0091】
また本発明で有用な含フッ素共重合体には、防汚性を付与する目的で、ポリシロキサン構造が導入されていることが好ましい。ポリシロキサン構造の導入方法に制限はないが、例えば特開平6−93100号、特開平11−189621号、同11−228631号、特開2000−313709号の各公報に記載のごとく、シリコーンマクロアゾ開始剤を用いてポリシロキサンブロック共重合成分を導入する方法;特開平2−251555号、同2−308806号の各公報に記載のごとくシリコーンマクロマーを用いてポリシロキサングラフト共重合成分を導入する方法が好ましい。特に好ましい化合物としては、特開平11−189621号公報の実施例1、2、及び3のポリマー、又は特開平2−251555号公報の共重合体A−2及びA−3を挙げることができる。これらのポリシロキサン成分は、ポリマー中の0.5〜10質量%であることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%である。
【0092】
本発明に好ましく用いることのできる共重合体の好ましい分子量は、質量平均分子量が5000以上、好ましくは10000〜500000、最も好ましくは15000〜200000である。平均分子量の異なるポリマーを併用することで塗膜面状の改良や耐傷性の改良を行うこともできる。
【0093】
上記の共重合体に対しては、特開平10−25388号公報及び特開2000−17028号公報に記載のごとく、適宜、重合性不飽和基を有する硬化剤を併用してもよい。また、特開2002−145952号公報に記載のごとく、含フッ素の多官能の重合性不飽和基を有する化合物との併用も好ましい。多官能の重合性不飽和基を有する化合物の例としては、前記防眩層で述べた多官能モノマーを挙げることができる。これら化合物は、特に共重合体本体に重合性不飽和基を有する化合物を用いた場合に耐擦傷性改良に対する併用効果が大きく好ましい。
【0094】
低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.46であることが好ましく、1.25〜1.42であることがより好ましく、1.30〜1.38であることが特に好ましい。また低屈折率層の厚さは、50〜150nmであることが好ましく、70〜120nmであることがさらに好ましい。
【0095】
(微粒子)
次に本発明における低屈折率層に好ましく用いることのできる微粒子について説明する。
【0096】
低屈折率層に含まれる微粒子の塗設量は、1〜100mg/m2が好ましく、より好ましくは5〜80mg/m2、更に好ましくは1〜70mg/m2である。微粒子の塗設量が該下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、該上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。該微粒子は、低屈折率層に含有させることから、低屈折率であることが好ましい。
【0097】
具体的には、低屈折率層に含まれる微粒子は、無機微粒子、中空の無機微粒子、又は中空の有機樹脂微粒子であって、低屈折率のものがあることが好ましく、中空の無機微粒子が特に好ましい。無機微粒子としては、例えば、シリカ又は中空シリカの微粒子が挙げられる。このような微粒子の平均粒径は、低屈折率層の厚みの30%以上100%以下が好ましく、より好ましくは30%以上80%以下、更に好ましくは35%以上70%以下である。すなわち、低屈折率層の厚みが100nmであれば、微粒子の粒径は30nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上80nm以下、更に好ましくは、35nm以上70nm以下である。
【0098】
上記のような(中空)シリカ微粒子は、その粒径が上記下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、上記上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。
【0099】
(中空)シリカ微粒子は、結晶質でも、アモルファスのいずれでもよく、また単分散粒子でも、凝集粒子(この場合は、2次粒子径が、低屈折率層の層厚の30%〜100%であることが好ましい)でも構わない。また、2種類以上の複数の粒子(種類又は粒径)を用いても構わない。粒子の形状は、球形が最も好ましいが、不定形であっても問題ない。
【0100】
低屈折率層の屈折率を低下させるために、中空のシリカ微粒子を用いることが特に好ましい。該中空シリカ微粒子は屈折率が1.17〜1.40、より好ましくは1.17〜1.35、さらに好ましくは1.17〜1.30である。ここでの屈折率は粒子全体としての屈折率を表し、中空シリカ粒子を形成している外殻のシリカのみの屈折率を表すものではない。この時、粒子内の空腔の半径をri、粒子外殻の半径をroとすると、空隙率xは下記数式(1)で算出される。
【0101】
数式(1): x=(4πri3/3)/(4πro3/3)×100
【0102】
空隙率xは、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは20〜60%、最も好ましくは30〜60%である。中空のシリカ粒子をより低屈折率に、より空隙率を大きくしようとすると、外殻の厚みが薄くなり、粒子の強度としては弱くなるため、耐擦傷性の観点から1.17未満の低屈折率の粒子は困難である。なお、これら中空シリカ粒子の屈折率はアッベ屈折率計{(株)アタゴ製}にて測定をおこなった。
【0103】
本発明においては、防汚性向上の観点から、更に、低屈折率層表面の表面自由エネルギーを下げることが好ましい。具体的には、含フッ素化合物やポリシロキサン構造を有する化合物を低屈折率層に使用することが好ましい。
【0104】
ポリシロキサン構造を有する添加剤としては、反応性基含有ポリシロキサン{例えば“KF−100T”,“X−22−169AS”,“KF−102”,“X−22−3701IE”,“X−22−164B”,“X−22−5002”,“X−22−173B”,“X−22−174D”,“X−22−167B”,“X−22−161AS” (商品名)、以上、信越化学工業(株)製;“AK−5”,“AK−30”,“AK−32”(商品名)、以上東亜合成(株)製;、「サイラプレーンFM0725」,「サイラプレーンFM0721」(商品名)、以上チッソ(株)製等}を添加するのも好ましい。また、特開2003−112383号公報の表2、表3に記載のシリコーン系化合物も好ましく使用できる。これらのポリシロキサンは低屈折率層全固形分の0.1〜10質量%の範囲で添加されることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%の場合である。
【0105】
[高屈折率層/中屈折率層]
本発明のフィルムには、前記のように低屈折率層とハードコート層の間に屈折率の高い層を設け、反射防止性を高めることができる。
以下の本明細書では、この高屈折率層と中屈折率層を高屈折率層と総称して呼ぶことがある。なお、本発明において、高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層の「高」、「中」、「低」とは層相互の相対的な屈折率の大小関係を表す。また、透明支持体との関係で言えば屈性率は、透明支持体>低屈折率層、高屈折率層>透明支持体の関係を満たすことが好ましい。
また、本明細書では高屈折率層、中屈折率層、低屈折率層を総称して反射防止層と総称して呼ぶことがある。
【0106】
高屈折率層の上に低屈折率層を構築して、反射防止フィルムを作製するためには、高屈折率層の屈折率は1.55〜2.40であることが好ましく、より好ましくは1.60〜2.20、更に好ましくは、1.65〜2.10、最も好ましくは1.80〜2.00である。
【0107】
支持体から近い順に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層を塗設し、反射防止フィルムを作成する場合、高屈折率層の屈折率は、1.65乃至2.40であることが好ましく、1.70乃至2.20であることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.55乃至1.80であることが好ましい。
【0108】
高屈折率層および中屈折率層は高屈折無機微粒子とバインダーを含有する硬化性組成物から形成されることが好ましい。ここで使用することのできる高屈折率無機微粒子は前記、ハードコート層の屈折率を高めるために含有することのできる高屈折率無機微粒子を用いることができる。
【0109】
本発明に用いる高屈折率層および中屈折率層は、分散媒体中に無機粒子を分散した分散液に、好ましくは、さらにマトリックス形成に必要なバインダー前駆体(例えば、後述する電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーなど)、光重合開始剤等を加えて高屈折率層および中屈折率層形成用の塗布組成物とし、透明支持体上に高屈折率層および中屈折率層形成用の塗布組成物を塗布して、電離放射線硬化性化合物(例えば、多官能モノマーや多官能オリゴマーなど)の架橋反応又は重合反応により硬化させて形成することが好ましい。
【0110】
さらに、高屈折率層および中屈折率層のバインダーを層の塗布と同時または塗布後に、分散剤と架橋反応又は重合反応させることが好ましい。
このようにして作製した高屈折率層および中屈折率層のバインダーは、例えば、上記の好ましい分散剤と電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーとが、架橋又は重合反応し、バインダーに分散剤のアニオン性基が取りこまれた形となる。さらに高屈折率層および中屈折率層のバインダーは、アニオン性基が無機粒子の分散状態を維持する機能を有し、架橋又は重合構造がバインダーに皮膜形成能を付与して、無機粒子を含有する高屈折率層および中屈折率層の物理強度、耐薬品性、耐候性を改良する。
【0111】
高屈折率層のバインダーは、該層の塗布組成物の固形分量に対して、5〜80質量%添加する。
【0112】
高屈折率層における無機粒子の含有量は、高屈折率層の質量に対し10〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜80質量%、特に好ましくは15〜75質量%である。無機粒子は高屈折率層内で二種類以上を併用してもよい。
高屈折率層の上に低屈折率層を有する場合、高屈折率層の屈折率は透明支持体の屈折率より高いことが好ましい。
高屈折率層に、芳香環を含む電離放射線硬化性化合物、フッ素以外のハロゲン化元素(例えば、Br,I,Cl等)を含む電離放射線硬化性化合物、S,N,P等の原子を含む電離放射線硬化性化合物などの架橋又は重合反応で得られるバインダーも好ましく用いることができる。
【0113】
高屈折率層の膜厚は用途により適切に設計することができる。高屈折率層を光学干渉層として用いる場合、30〜200nmが好ましく、より好ましくは50〜170nm、特に好ましくは60〜150nmである。
【0114】
高屈折率層のヘイズは、防眩機能を付与する粒子を含有しない場合、低いほど好ましい。5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。
高屈折率層は、前記透明支持体上に直接、又は、他の層を介して構築することが好ましい。
【0115】
<層の形成>
本発明に用いられるハードコート層、及び必要に応じて反射防止層又はその他の層は、塗布液を透明基材フィルム上に塗布し、加熱・乾燥し、その後、必要に応じて、光照射及び/又は加熱して、各層を形成するためのモノマーや硬化性樹脂を硬化する。これにより各層が形成される。
【0116】
本発明のハードコートフィルム各層の塗布方法は特に制限されないが、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(ダイコート法)(米国特許2681294号明細書参照)、マイクログラビアコート法等の公知の方法が用いられ、その中でもマイクログラビアコート法、ダイコート法が好ましく、高い生産性で供給するために、ダイコート法が好ましく用いられる。
【0117】
乾燥は、塗布した液膜中の有機溶媒濃度が、乾燥後に5質量%以下になる条件が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
乾燥条件は、基材の熱的強度や搬送速度、乾燥工程の長さなどの影響を受けるが、できるだけ有機溶媒の含有率の低いほうが膜硬度や接着防止の点で好ましい。有機溶媒を含有しない場合には、乾燥工程を省略し塗布後すぐに紫外線照射することもできる。
【0118】
本発明のハードコート層は、結晶化度を高めるために熱処理を施してもよい。好ましい熱処理温度は、40〜130℃であり熱処理時間は必要とする結晶化度に応じ適宜決定することができるが通常5分〜48時間程度である。
【0119】
[表面処埋]
透明支持体に、表面処埋を実施してもよい。
表面処理の例には、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理及びオゾン酸化処理が含まれる。具体的には、例えば、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(発行2001年3月15日)p.30−31に記載の内容、特開2001−9973号公報に記載の内容等が挙げられる。好ましくは、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理及び火焔処理、更に好ましくはグロー放電処理と紫外線処理が挙げられる。
【0120】
[鹸化処理]
本発明のハードコートフィルムを液晶表示装置に用いる場合、片面に粘着層を設ける等してディスプレイの最表面に配置する。該透明プラスチックフィルム基材がトリアセチルセルロースの場合は偏光板の偏光層を保護する保護フィルムとしてトリアセチルセルロースが用いられるため、本発明のハードコートフィルムをそのまま保護フィルムに用いることがコストの上では好ましい。
【0121】
本発明のハードコートフィルムは、片面に粘着層を設ける等してディスプレイの最表面に配置したり、そのまま偏光板用保護フィルムとして使用される場合には、十分に接着させるためには透明プラスチックフィルム基材上に含フッ素ポリマーを主体とする最外層を形成した後、鹸化処理を実施することが好ましい。鹸化処理は、公知の手法、例えば、アルカリ液の中に該フィルムを適切な時間浸漬して実施される。アルカリ液に浸漬した後は、該フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
鹸化処理することにより、最外層を有する側とは反対側の透明プラスチックフィルム基材の表面が親水化される。
親水化された表面は、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光膜との接着性を改良するのに特に有効である。また、親水化された表面は、空気中の塵埃が付着しにくくなるため、偏光膜と接着させる際に偏光膜と光学フィルムの間に塵埃が入りにくく、塵埃による点欠陥を防止するのに有効である。
鹸化処理は、最外層を有する側とは反対側の透明プラスチックフィルム基材の表面の水に対する接触角が40゜以下になるように実施することが好ましい。更に好ましくは30゜以下、特に好ましくは20゜以下である。
【0122】
アルカリ鹸化処理の具体的手段としては、以下の(1)及び(2)の2つの手段から選択することができる。汎用のトリアセチルセルロースフィルムと同一の工程で処理できる点で(1)が優れているが、反射防止膜面まで鹸化処理されるため、表面がアルカリ加水分解されて膜が劣化する点、鹸化処理液が残ると汚れになる点が問題になり得る。その場合には、特別な工程となるが、(2)が優れる。
(1)透明プラスチックフィルム基材上にハードコート層を形成後に、アルカリ液中に少なくとも1回浸漬することで、該フィルムの裏面を鹸化処理する。
(2)透明プラスチックフィルム基材上にハードコート層を形成する前または後に、アルカリ液を該光学フィルムの光学フィルムを形成する面とは反対側の面に塗布し、加熱、水洗及び/又は中和することで、該フィルムの裏面だけを鹸化処理する。
【0123】
[塗膜形成方法]
本発明のハードコートフィルムは以下の方法で形成することができるが、この方法に制限されない。
まず、各層を形成するための成分を含有した塗布液が調製される。塗布液を、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書参照)により透明支持体上に塗布し、加熱・乾燥する。これらの塗布方式のうち、グラビアコート法で塗布すると反射防止膜の各層のような塗布量の少ない塗布液を膜厚均一性高く塗布することができ、好ましい。グラビアコート法の中でもマイクログラビア法は膜厚均一性が高く、より好ましい。
また、ダイコート法を用いても塗布量の少ない塗布液を膜厚均一性高く塗布することができ、さらにダイコート法は前計量方式のため膜厚制御が比較的容易であり、さらに塗布部における溶剤の蒸散が少ないため、好ましい。二層以上を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許第2761791号、同2941898号、同3508947号、同3526528号の各明細書および原崎勇次著、「コーティング工学」、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。
【0124】
[偏光板]
偏光板は、偏光膜を両面から挟む2枚の保護フィルムで主に構成される。本発明の光学フィルムは、偏光膜を両面から挟む2枚の保護フィルムのうち少なくとも1枚に用いることが好ましい。本発明のハードコートフィルムが保護フィルムを兼ねることで、偏光板の製造コストを低減できる。また、本発明のハードコートフィルムを最表層に使用することにより、外光の映り込み等が防止され、干渉斑がなく、耐擦傷性、ゴミ付着防止性等も優れた偏光板とすることができる。
【0125】
偏光膜としては公知の偏光膜や、偏光膜の吸収軸が長手方向に平行でも垂直でもない長尺の偏光膜から切り出された偏光膜を用いてもよい。偏光膜の吸収軸が長手方向に平行でも垂直でもない長尺の偏光膜は以下の方法により作成される。
即ち、連続的に供給されるポリマーフィルムの両端を保持手段により保持しつつ張力を付与して延伸した偏光膜で、少なくともフィルム幅方向に1.1〜20.0倍に延伸し、フィルム両端の保持装置の長手方向進行速度差が3%以内であり、フィルム両端を保持する工程の出口におけるフィルムの進行方向と、フィルムの実質延伸方向のなす角が、20〜70度傾斜するようにフィルム進行方向を、フィルム両端を保持させた状態で屈曲させてなる延伸方法によって製造することができる。特に45度傾斜させたものが生産性の観点から好ましく用いられる。
【0126】
ポリマーフィルムの延伸方法については、特開2002−86554号公報の段落〔0020〕〜〔0030〕に詳しい記載がある。
【0127】
本発明のハードコートフィルムは、偏光膜の表面保護フィルムの片側として用いた場合、ツイステットネマチック(TN)、スーパーツイステットネマチック(STN)、バーティカルアライメント(VA)、インプレインスイッチング(IPS)、オプティカリーコンペンセイテットベンドセル(OCB)等のモードの透過型、反射型、または半透過型の液晶表示装置に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0128】
本発明を詳細に説明するために、以下の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特別に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0129】
[フッ素アルキル基導入ポリロタキサン(PR−1)の調製]
<フッ素アルキル基含有α−シクロデキストリンの調製>
特開2005−306917号公報[0025]に準ずる方法でフッ化アルキル基を導入したα−シクロデキストリンを調製した。(F修飾α−CDと略記する)
【0130】
<ポリエチレングリコールの両末端の活性化>
100mlの三角フラスコにポリエチレングリコール(PEGと略記する。平均分子量20,000)4g及び乾燥塩化メチレン20mlを入れてPEGを溶解した。この溶液をアルゴン雰囲気下におき、1,1’−カルボニルジイミダゾール0.8gを加え、引き続きアルゴン雰囲気下、室温(20℃)で6時間、攪拌、反応させた。
上記で得られた反応物を、高速攪拌したジエチルエーテル300mlに注いだ。10分間静置後、沈殿物を有する液を10,000rpmで5分間、遠心分離した。沈殿物を取り出し、40℃で3時間真空乾燥した。
得られた生成物を塩化メチレン20mlに溶解した。この液をエチレンジアミン10mlに3時間かけて滴下し、滴下後40分間攪拌した。得られた反応物をロータリーエバポレーターにかけ塩化メチレンを除去し、その後、水50mlに溶解し、透析チューブ(分画分子量8,000)に入れ、水中で3日間透析した。得られた透析物をロータリーエバポレーターで乾燥し、さらにこの乾燥物を塩化メチレン20mlに溶解し、ジエチルエーテル180mlで再沈させた。沈殿物を有する液を100,000rpmで5分間、遠心分離し、40℃で2時間真空乾燥して、PEGの両末端にアミノ基を導入した生成物を2.83g得た。
【0131】
<末端封止したポリロタキサンの調製>
数平均分子量2万のポリエチレングリコールビスアミン4.5gと上記で調製したフッ素アルキル基導入α−シクロデキストリン(F修飾α−CD)0.8gと未修飾のα−シクロデキストリン10.0gとを水150mLに加え、80℃に加熱して溶解させた。その溶液を冷却し5℃で16時間静置した。生成した白いペースト状の沈殿を分取、乾燥した。
【0132】
前記乾燥物に、2,4−ジニトロフルオロベンゼン12.0gとジメチルホルムアミド50gの混合溶液に加えて室温で5時間攪拌した。その反応混合物にジメチルスルホキシド(DMSO)200mLを加えて溶解した後、水3750mLに注いで析出物を分取した。析出物を250mLのDMSOに再溶解した後、再び3500mLの0.1%食塩水へ注いで析出物を分取した。その析出物を水とメタノールで各3回ずつ洗浄後、50℃で12時間真空乾燥することで、ポリエチレングリコールビスアミンがα−シクロデキストリンに串刺し状に包接され、かつ両末端アミノ基に2,4−ジニトロフェニル基が結合した包接化合物2.0gを得た。
【0133】
得られた包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)の紫外光吸収測定及びH−NMR測定を行い、α−シクロデキストリンの包接量を算出したところ、包接量は72個であった。
包接量は、紫外光吸収測定およびH−NMR測定から算出できるが、具体的には紫外光吸収測定では、合成した包接化合物および2,4−ジニトロアニリンそれぞれの360nmにおけるモル吸光係数を測定することで、シクロデキストリンの包接量を算出した。また、H−NMR測定では、ポリエチレン部の水素原子とシクロデキストリン部の水素原子の積分比から算出した。
【0134】
<末端封止されたブロック化ポリロタキサンのアセチル修飾>
上記で合成した包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこに無水酢酸6.7g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて一晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、1.2gのアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
【0135】
<重合性基の導入>
上記で合成したアセチル修飾したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこにアクリル酸クロライド5.9g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて二晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、0.8gのアクリロイル、フッ化アルキル及びアセチルで修飾したポリロタキサン、すなわち、表面自由エネルギーを低下させる基と、不飽和二重結合を有するポリロタキサン(PR−1)が得られた。
【0136】
得られた重合性基導入前後のポリロタキサン(PR−1)のH−NMR測定を行から、アクリロイル導入量を算出したところ、導入量は12%であった。
【0137】
[フッ素置換基のないポリロタキサン(PR−2)の合成]
<末端封止したポリロタキサンの調製>
数平均分子量2万のポリエチレングリコールビスアミン4.5gと未修飾α−シクロデキストリン18.0gとを水150mLに加え、80℃に加熱して溶解させた。その溶液を冷却し5℃で16時間静置した。生成した白いペースト状の沈殿を分取、乾燥した。
【0138】
前記乾燥物に、2,4−ジニトロフルオロベンゼン12.0gとジメチルホルムアミド50gの混合溶液に加えて室温で5時間攪拌した。その反応混合物にジメチルスルホキシド(DMSO)200mLを加えて溶解した後、水3750mLに注いで析出物を分取した。析出物を250mLのDMSOに再溶解した後、再び3500mLの0.1%食塩水へ注いで析出物を分取した。その析出物を水とメタノールで各3回ずつ洗浄後、50℃で12時間真空乾燥することで、ポリエチレングリコールビスアミンがα−シクロデキストリンに串刺し状に包接され、かつ両末端アミノ基に2,4−ジニトロフェニル基が結合した包接化合物2.0gを得た。
【0139】
得られた包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)の紫外光吸収測定及びH−NMR測定を行い、α−シクロデキストリンの包接量を算出したところ、包接量は72個であった。
包接量は、紫外光吸収測定およびH−NMR測定から算出できるが、具体的には紫外光吸収測定では、合成した包接化合物および2,4-ジニトロアニリンそれぞれの360nmにおけるモル吸光係数を測定することで、シクロデキストリンの包接量を算出した。また、H−NMR測定では、ポリエチレン部の水素原子とシクロデキストリン部の水素原子の積分比から算出した。
【0140】
<末端封止されたブロック化ポリロタキサンのアセチル修飾>
上記で合成した包接化合物(末端封止されたブロック化ポリロタキサン)1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこに無水酢酸6.7g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて一晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、1.2gのアセチル修飾したポリロタキサンが得られた。
【0141】
得られたアセチル修飾したポリロタキサンのH−NMR測定を行い、アセチル導入量を算出したところ、導入量は75%であった。
【0142】
<重合性基の導入>
上記で合成したアセチル修飾したポリロタキサン1gを塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミド8%溶液50gに溶解させた。そこにアクリル酸クロライド5.9g、ピリジン5.2g、N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを加え、室温にて二晩攪拌した。反応溶液をメタノールに流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離した。分離した固体を乾燥した後、アセトンに溶解させた。溶液を水に流し込み、析出した固体を遠心分離にて分離し乾燥させることで、0.8gのアクリロイル及びアセチルで修飾したポリロタキサン、すなわち、表面自由エネルギーを低下させる基と、有する疎水化修飾ポリロタキサン(PR−2)が得られた。
【0143】
得られたアクリロイル及びアセチルで修飾したポリロタキサン(PR−2)のH−NMR測定を行い、アクリロイル及びアセチル導入量を算出したところ、導入量は87%であった。
【0144】
<ハードコート用塗布液の調製>
以下の組成に従って素材を混合し、孔径3μmのポリプロピレン製フィルターで濾過しハードコート用塗布液(HCL−1)〜(HCL−6)を調製した。
【0145】
【表1】

【0146】
上記ハードコート用塗布液に使用したポリロタキサン以外の化合物を以下に示す。
PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(日本化薬(株)製)
DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物“DPHA”(日本化薬(株)製)
ビスコート360:エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学(株)製)
イルガキュア907:光重合開始剤(チバ・ジャパン(株)製)
MIBK:メチルイソブチルケトン
MEK:メチルエチルケトン
【0147】
<低屈折率層用塗布液の調製>
[ゾル液aの調製]
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器に、メチルエチルケトン120質量部、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン“KBM−5103”{信越化学工業(株)製}100質量部、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート3質量部を加え混合したのち、イオン交換水30質量部を加え、60℃で4時間反応させたのち、室温まで冷却し、ゾル液aを得た。質量平均分子量は1800であり、オリゴマー成分以上の成分のうち、分子量が1000〜20000の成分は100質量%であった。ガスクロマトグラフィー分析から、原料のアクリロキシプロピルトリメトキシシランは全く残存していなかった。
【0148】
[中空シリカ微粒子分散液(A−1)の調製]
中空シリカ微粒子ゾル(粒子サイズ約40〜50nm、シェル厚6〜8nm、屈折率1.31、固形分濃度20質量%、主溶媒イソプロピルアルコール、特開2002−79616号公報の調製例4に準じて粒子サイズを変更して調製)500質量部に、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン“KBM−5103”{信越化学工業(株)製}30質量部、及びジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート「ケロープEP−12」{ホープ製薬(株)製}1.5質量部加え混合した後に、イオン交換水9質量部を加えた。60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8部を添加し、中空シリカ分散液(A−1)を得た。得られた中空シリカ分散液の固形分濃度は18質量%、溶媒乾燥後の屈折率は1.31であった。
【0149】
[低屈折率層用塗布液(LL−1)の調製]
メチルエチルケトン100質量部に対して、特開平2004−45462号公報に記載の含フッ素共重合体(P−3)(重量平均分子量約50000)44.0質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物“DPHA”{日本化薬(株)製}6.0質量部、末端メタクリレート基含有シリコーン“RMS−033”(Gelest社製)3.0質量部、「イルガキュア907」{チバ・ジャパン(株)製}を3.0質量部加えて溶解した。その後に中空シリカ微粒子分散液(A−1)を195質量部(シリカ+表面処理剤固形分として39.0質量部)、ゾル液a17.2質量部(固形分として5.0質量部)を添加した。塗布液全体の固形分濃度が6質量%になり、シクロヘキサンとメチルエチルケトンの比率が10対90になるようにシクロヘキサン、メチルエチルケトンで希釈して低屈折率層用塗布液(LL−1)を調製した。
なお、本塗布液を塗布して得られる塗布膜の硬化後の屈折率は1.38であった。
【0150】
<ハードコートフィルムの作製>
[ハードコート層の塗設]
特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム“TAC−TD80U”{富士フイルム(株)製}(屈折率:1.48)をロール形態で巻き出して、ハードコート層塗布液(HCL−1)〜(HCL−6)を、下記表2の乾燥膜厚になるように塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、さらに窒素パージにより、酸素濃度100ppm以下の雰囲気下で160W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量70mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させたハードコートフィルム(HC−1)〜(HC−12)を作製し、巻き取った。
【0151】
[低屈折率層の塗設]
上記で作製のハードコートフィルム(HC−1)〜(HC−12)のハードコート層の上にさらに、低屈折率層用塗布液(LL−1)を、特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、低屈折率層の乾燥膜厚が100nmになるようにウエット塗布し、60℃で50秒間乾燥の後、さらに窒素パージにより、酸素濃度100ppm以下の雰囲気下で240W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量400mJ/cm2の紫外線を照射し、低屈折率層を形成させて巻き取り、反射防止性ハードコートフィルム試料No.101〜112を作製した。
【0152】
[反射防止フィルムの評価]
上記反射防止性ハードコートフィルムにつき、下記方法で評価し、結果を表2に示した。
【0153】
(1)平均反射率
反射防止性ハードコートフィルムのハードコート層を積層していない面をサンドペーパーで粗面化した後、黒色のインクで光吸収処理(380〜780nmにおける透過率が10%未満)を行い黒色の台上で下記条件にて測定をおこなった。
分光光度計“V−550”(日本分光(株)製)にアダプター“ARV−474”を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における出射角−5°の鏡面反射率を測定し、結果には450〜650nmの平均反射率を用いた。
【0154】
(2)鉛筆硬度評価
耐傷性の指標としてJIS K 5400に記載の鉛筆硬度評価を行った。反射防止性ハードコートフィルムを温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿した後、JIS S 6006に規定する2H〜5Hの試験用鉛筆を用いて、4.9Nの荷重にて、鉛筆で引っ掻き試験を5回繰り返し、温度25℃、湿度60%RHの条件で24時間放置した後に、以下の基準で評価し、OKとなる最も高い硬度を評価値とした。
OK:n=5の評価において傷が2つ以下
NG:n=5の評価において傷が3つ以上
【0155】
(3)カールの評価
作成した反射防止性ハードコートフィルムを35mm×125mmに切断し、温度25℃、湿度60%RHで平板上2時間置後、4隅の浮いた高さを測定し、平均値を基に以下の4段階評価を行った。平均が15mm以上では実用性が低いレベルである。
◎ : 5mm未満
○ : 5mm以上10mm未満
△ : 10mm以上15mm未満
× : 15mm以上
【0156】
(4)屈曲性の評価
作成した反射防止性ハードコートフィルムを35mm×125mmに切断し、温度25℃、湿度60%RHで平板上2時間置後、ハードコート層を外側にして直径の異なるロールに巻きつけ、ハードコート層におけるヒビ割れの有無を判定し、ヒビ割れの入らなかった最も小さい直径を屈曲性の値とし、以下の4段階評価を行った。
◎ : 5mm未満
○ : 5mm以上10mm未満
△ : 10mm以上15mm未満
× : 15mm以上
【0157】
(5)ハードコート層の厚み
ミツトヨ社製のマイクロゲージ厚み計を用い、ハードコートフィルム全体の厚みと透明プラスチックフィルム基材の厚みを測定し、ハードコートフィルム全体の厚みから、透明プラスチックフィルム基材の厚みを差し引くことで、ハードコート層の厚みを算出した。
【0158】
(6)ポリロタキサン偏在状態の評価
(光学異方性層空気界面側表面層及び配向膜のカチオンの定量)
ハードコート層を斜め切削し、TOF-SIMS(Time of Flight-Secondary Ion Mass Spectrometry)法により、Phi Evans社製TRIFT II型TOF-SIMS(商品名)を用いてポリエチレングリコール由来のフラグメントを測定し、ハードコート層の膜厚方向に表面30%に対応する部分の単位面積当たりの存在量を、ハードコート層全体の単位面積当たりの存在量で割ることで算出し、その割合を百分率で表し、偏在状態の指標とした。
【0159】
【表2】

【0160】
表2に示される結果より、以下のことが明らかである。
ハードコート層にポリロタキサンを含まない反射防止性ハードコートフィルム(比較例1−5〜1−6)に対し、ハードコート層の表面側にポリロタキサンを含有する本発明の反射防止性ハードコートフィルム(実施例1−1〜1−6)は鉛筆硬度を維持したままカールと屈曲性を改良することができる。
【0161】
<偏光板の作製、液晶表示装置>
実施例11−1〜11−6
ポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させ、延伸して作製した偏光子の片面に、1.5mol/L、55℃のNaOH水溶液中に2分間浸漬したあと中和、水洗した、80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士フイルム(株)製)を接着し、偏光子のもう一方の面に実施例1−1〜1−6の本発明の反射防止フィルム試料No.101〜106を各々貼り合わせて反射防止付き偏光板を作製した。
この偏光板を用いて反射防止層を最表層に配置した液晶表示装置を作製したところ、反射率が低く、外光の映り込みが少なく、反射像が目立たず、優れた視認性を有していた。
【0162】
以上、表面が平滑で内部散乱のないハードコート層に低屈折率層を積層した反射防止性ハードコートフィルムを例に本発明を説明した。次に低屈折率層のないハードコートフィルムを例に本発明を説明する。
【0163】
<ハードコートフィルムの作製>
[ハードコート層の塗設]
特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム“TAC−TD80U”{富士フイルム(株)製}(屈折率:1.48)をロール形態で巻き出して、ハードコート層塗布液(HCL−1)〜(HCL−6)を、下記表3の乾燥膜厚になるように塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、さらに窒素パージ下により、酸素濃度が100ppm以下の雰囲気下で240W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量400mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させたハードコートフィルム試料No.201〜212を作製し、前記の反射防止性ハードコートフィルムと同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0164】
【表3】

【0165】
表3に示される結果より、以下のことが明らかである。
低屈折率層を積層しないハードコートフィルムでも低屈折率層を導入したハードコートフィルムと同様のカールと屈曲性の改良効果がえられ、ポリロタキサンをハードコート層に導入することでカールと屈曲性が改良できる。
【0166】
以上、表面が平坦なハードコート層を有するハードコートフィルムを実施例に挙げ、本発明を説明してきた。次に、表面凹凸による防眩性と内部散乱性を有する防眩性ハードコート層に反射防止層を積層した反射防止性ハードコートフィルムへの応用例を示す。
【0167】
<防眩性ハードコート用塗布液の調製>
以下の表4の組成に従って素材を混合し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターで濾過し防眩性ハードコート用塗布液を調製した。
【0168】
【表4】

【0169】
上記防眩性ハードコート用塗布液に使用した化合物を以下に示す。
PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(日本化薬(株)製)
ビスコート360:エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学(株)製)
8μm架橋アクリル粒子:平均粒径8.0μmの架橋アクリル粒子(屈折率1.500)の30重量%メチルイソブチルケトン分散液として使用した。
8μm架橋アクリル・スチレン粒子:平均粒径8.0μmの架橋アクリル・スチレン粒子(屈折率1.555)の30重量%メチルイソブチルケトン分散液として使用した。
イルガキュア127:光重合開始剤(チバ・ジャパン(株)製)
CAB:セルロースアセテートブチレート
MIBK:メチルイソブチルケトン
MEK:メチルエチルケトン
【0170】
SP−13:フッ素系レベリング剤
【0171】
【化1】

【0172】
<防眩性ハードコートフィルムの作製>
[防眩性ハードコート層の塗設]
特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム“TAC−TD80U”{富士フイルム(株)製}(屈折率:1.48)をロール形態で巻き出して、ハードコート層塗布液(HCL−11)〜(HCL−13)を、下記表4の乾燥膜厚になるように塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、さらに窒素パージ下で160W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量70mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させたハードコートフィルム(HC−21)〜(HC−26)を作製し、巻き取った。
【0173】
[低屈折率層の塗設]
上記で作製のハードコートフィルム(HC−21)〜(HC−26)のハードコート層の上にさらに、低屈折率層用塗布液(LL−1)を、特開2003−211052号公報の図1に記載されたスロットダイコーターを用いて、低屈折率層の乾燥膜厚が100nmになるようにウエット塗布し、60℃で50秒間乾燥の後、さらに窒素パージにより、酸素濃度100ppmの雰囲気下で240W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量400mJ/cm2の紫外線を照射し、低屈折率層を形成させて巻き取り、反射防止性ハードコートフィルム試料No.301〜306を作製した。
【0174】
[反射防止フィルムの評価]
上記反射防止性ハードコートフィルムにつき、下記方法で評価し、結果を表5に示した。
なお、(1)平均反射率、(2)鉛筆硬度、(3)カール、(4)屈曲性、(5)ハードコート層の厚み、(6)ポリロタキサンの偏在状態は前記の評価方法を用いて評価した。
【0175】
(7)ヘイズ
[1]JIS−K7136に準じて、得られた防眩フィルムの全ヘイズ(H)を測定する。
[2]防眩フィルムの表面および裏面にシリコーンオイルを数的滴下し、厚さ1mmのガラス板(ミクロスライドガラス、品番S9111、MATSUNAMI製)を2枚用いて表裏より挟んで、完全に2枚のガラス板と得られた光学フィルムを密着し、表面ヘイズを除去した状態でヘイズを測定し、別に測定したガラス板2枚の間にシリコーンオイルのみを挟み測定したヘイズを引いた値をフィルムの内部ヘイズ(Hi)として算出した。
[3]上記[1]で測定した全ヘイズ(H)から上記[2]で測定した内部ヘイズ(Hi)を引いた値をフィルムの表面ヘイズ(Hs)として算出した。
【0176】
【表5】

【0177】
表5に示される結果より、以下のことが明らかである。
樹脂粒子を含有した防眩性ハードコートフィルムにおいてもポリロタキサンを含有させることで、カールと屈曲性を改良することができる。
特に(B)成分の一部にエチレンオキサイド変性アクリレートを用いたものは、表面硬度が高くカール抑制効果と屈曲性に優れていた。
【0178】
<偏光板の作製、液晶表示装置>
実施例12−1〜12−4
ポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させ、延伸して作製した偏光子の片面に、1.5mol/L、55℃のNaOH水溶液中に2分間浸漬したあと中和、水洗した、80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士フイルム(株)製)を接着し、偏光子のもう一方の面に実施例3−1〜3−4の本発明の反射防止フィルム試料No.301〜304を各々貼り合わせて防眩性反射防フィルム付き偏光板を作製した。
【0179】
この偏光板を用いて防眩性反射防止層を最表層に配置した液晶表示装置を作製したところ、反射率が低く、外光の映り込みが少なく、反射像が目立たず、優れた視認性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、ハードコート層を有するハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、ポリロタキサンを含有し、ポリロタキサンがハードコート層の表面に高濃度で存在することを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
上記ポリロタキサンが表面エネルギーを低下させる基を有することを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
上記ポリロタキサンがフッ素アルキル基含有ポリロタキサンであることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
上記ポリロタキサンがジメチルシロキサン基含有ポリロタキサンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
上記ポリロタキサンが不飽和二重結合基を有するポリロタキサンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記硬化層上に更に直接または他の層を介して低屈折率層を積層していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のハードコートフィルムが偏光板保護フィルムであることを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のハードコートフィルムまたは請求項7に記載の偏光板を有することを特徴とする画像表示装置。

【公開番号】特開2009−204727(P2009−204727A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44791(P2008−44791)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】