説明

ハードコートフィルムを用いた樹脂成型品

【課題】ハードコートフィルムを用いて成型された樹脂成型品であって、十分なハードコート性を備えかつクラックの発生のない樹脂成型品の提供。
【解決手段】基材フィルムの一方の面にハードコート層を備えたハードコートフィルムと、樹脂成型材料とを成型により一体化した樹脂成型品。ハードコートフィルムは、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムを用い、サンドブラスト処理が施された面には、少なくとも電離放射線硬化型樹脂組成物から形成されてなるハードコート層を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルや携帯電話機、ゲーム機、音声再生機、ノートパソコン等の機器の操作部(キーパッド部)等、各種樹脂成型品に関し、特に樹脂成型材料とハードコートフィルムとを一体化した樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂等からなる各種成型品の表面に模様を施したりハードコート層を設ける手法として、樹脂成型材料と基材フィルム上に印刷層やハードコート層が形成されたハードコートフィルムとを金型により一体的に成型(インサート成型)する方法がある。
【0003】
このようなインサート成型用のハードコートフィルムとして、例えばポリエステルフィルム等の基材フィルムの一方の面に金属蒸着層や印刷層を備え、他方の面にハードコート層を備えたハードコートフィルムが提案されている(特許文献1、特許文献2)
【特許文献1】特開2005−288720号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2005−305786号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に樹脂成型品の表面保護の目的で用いられるハードコート層は、ハードコート性が要求され、例えば鉛筆硬度でH以上、スチールウール試験で300g荷重以上の硬さであることが求められる。このためハードコート層は電離放射線硬化型樹脂等のハードコート性に優れた硬化型樹脂から構成されている。しかしこのようなハードコート層が形成されたハードコートフィルムをインサート成型に用いた場合、一般に成型品の表面は曲面や角等があるため成型時にハードコート層にクラックや白化、割れを生じやすい。
【0005】
この問題に対し、ハードコート層を構成する樹脂成分に熱可塑性樹脂を添加し、柔軟性を高めることが考えられる。しかし、その場合、柔軟性を高めることにより表面硬度が低下し、上述したようなスチールウール試験の荷重に耐えることができない。
【0006】
そこで本発明は、十分な表面硬度を備えつつ、ハードコートフィルムとの一体成型時においてハードコート層にクラックや白化、割れの生じない美観に優れた樹脂成型品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者は、インサート成型時におけるハードコートフィルムのハードコート層および基材フィルムについて鋭意研究を重ねた結果、基材フィルムにサンドブラスト処理を施すことによって、十分なハードコート性を備えつつ、曲面や角部分などへの追従性(柔軟性)にも優れたハードコートフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の樹脂成型品は、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂組成物から形成されてなるハードコート層を備えたハードコートフィルムと、樹脂成型材料とを成型により一体化してなり、表面に前記ハードコート層を備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の樹脂成型品は、前記基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.4μm以上、1.0μm以下であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の樹脂成型品は、例えば、前記樹脂成型材料がアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂から選ばれる1種である。
【0011】
また、本発明の樹脂成型品は、前記樹脂成型材料と前記ハードコート層との間に、金属蒸着層、印刷層および接着層を含む少なくとも一層が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のハードコートフィルムは、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂組成物から形成されてなるハードコート層を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のハードコートフィルムは、前記基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.4μm以上、1.0μm以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のハードコートフィルムは、円筒形マンドレル法(JIS K5600−5−1:1999)で測定した耐屈曲性試験の値が6mm以下であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のハードコートフィルムは、前記ハードコート層は、300gの荷重によるスチールウール#0000を10往復させたときに傷を生じることのないことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明のハードコートフィルムは、前記ハードコート層の厚みが1μm〜10μmであることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のハードコートフィルムは、前記基材フィルムの他方の面に、金属蒸着層、印刷層および接着層を含む少なくとも一層が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、ハードコート層を備えたハードコートフィルムとすることにより、ハードコート層は十分なハードコート性が得られ、かつ成型時においてクラックや白化、割れの生じない美観に優れた樹脂成型品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の樹脂成型品とハードコートフィルムの実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の樹脂成型品は、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、ハードコート層を備えたハードコートフィルムと、樹脂成型材料とを成型により一体化したもので、表面にハードコート層を備えている。樹脂成型材料としては、射出可能な樹脂であればよく、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂などの熱可塑性樹脂や熱硬化型樹脂が用いられる。
【0021】
本発明のハードコートフィルムは、基本的な構成としてサンドブラスト処理が施された基材フィルムとハードコート層からなり、このハードコート層が成型により本発明の樹脂成型品の表面に形成されるハードコート層となる。
【0022】
基材フィルムとしては、透明性、耐熱性および機械的強度に優れているものが好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、アクリル、ポリ塩化ビニル、ノルボルネン化合物等があげられる。特に、熱による寸法安定性が良いという観点から、二軸延伸加工されたポリエチレンテレフタレートフィルムを使用することが好ましい。
【0023】
また、基材フィルムは、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施されている。サンドブラスト処理とは、珪砂のような高硬度の砂状物(ショット材)を高速回転翼でフィルムの表面にたたきつけたり、水流中に混ぜて高圧ポンプでフィルムの表面にたたきつけたりして、フィルムの表面を物理的に削り取るというものである。
【0024】
本発明のハードコートフィルムは、上述の基材フィルムがこのようなサンドブラスト処理されることによって粗面化される。ここで、基材フィルムは、エンボス処理やバインダー樹脂にマット剤を添加した塗料をコーティングする(以下、ケミカルマット処理という)などして粗面化することもできるが、本発明においてはサンドブラスト処理をする必要がある。
【0025】
基材フィルム表面を粗面化した場合は、基材フィルムの表面積が大きくなるため、その上層にハードコート層をコーティングすると、基材フィルムとハードコート層との接触面積が大きくなり、ハードコート層との接着性が向上される。さらに粗面化の方法がサンドブラスト処理による場合には、基材フィルムにショット材をたたきつけるため、表面の形状はささくれ立った凹形状となっている。そのような表面にハードコート層をコーティングするとささくれ立った凹形状での面に塗膜が形成されるため、ささくれ立ちのない凹形状や凸形状での面で塗膜が形成される場合よりも、密着性が増すものと考えられる。このようなサンドブラスト処理によって、ハードコートフィルムにおける成型時のクラックや白化、割れの発生が抑制できる理由は定かではないが、上述したようにサンドブラスト処理によって生じる独特の表面形状、即ちささくれ立った凹形状で、塗膜が形成することによって得られる効果と考えられる。
【0026】
例えば、エンボス処理により粗面化した場合は、熱を加えて型押しするため、凹形状の表面を作製することはできるが、サンドブラスト処理のようなささくれ立った凹形状のものを作製することはできない。その結果、樹脂成型材料の曲面や角部に加圧されるとクラック等が生じてしまう。よって、エンボス処理による粗面化では、成型時のクラックや白化、割れの発生を抑制することはできない。また、基材フィルムの一方の面を凹形状とした場合、もう一方の面は凸形状となりフラットな表面とはならないため、後述する金属処理層や印刷層を設ける場合や樹脂成型材料との密着性など不都合が生じる場合もある。
【0027】
また例えば、ケミカルマット処理により粗面化した場合は、マット剤の種類や大きさ、マット層の厚みを適宜選択したとしても、サンドブラスト処理のようなささくれ立った凹形状を形成することはできない。その結果、樹脂成型材料の曲面や角部に加圧されるとクラック等が生じてしまう。よって、ケミカルマット処理による粗面化では、成型時のクラックや白化、割れの発生を抑制することはできない。また、選択するバインダー樹脂の種類によって接着性は変わるため、設計が煩雑なものとなる。
【0028】
また、例えば易接着処理層などを設けた場合は、基材フィルムとハードコート層の接着性を向上することはできるが、成型時のクラックや白化、割れの発生を抑制することはできない。
【0029】
このような粗面化された面の形状は、ショット材の種類(硬さ)、大きさ、噴射量、基材フィルムにたたきつける速度、時間、装置と基材フィルムまでの距離などの条件を変更することによって変えることができる。一例として、例えばポリエチレンテレフタレートの表面を算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.5μm程度に処理する場合の条件としては、ショット材の種類:珪砂、ショット材の大きさ:平均粒径200μm、噴射量:2.0〜2.5l/sec、周速:40〜50m/sec、処理時間:30〜60sec、装置とフィルムの距離:430mmである。
【0030】
このような基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)は、下限として好ましくは0.4μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、上限として好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.7μmである。Raを0.4μm以上とすることにより成型時にクラックや白化、割れを生じにくくすることができ、1.0μm以下とすることにより、透明性がむやみに低下することを防止することができる。
【0031】
基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面およびもう一方の面には、プラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理、下引き易接着層の形成等の易接着処理を施してもよい。また、基材フィルムのもう一方の面にもサンドブラスト処理を行なった場合、後述する金属蒸着層や印刷層からなる加飾層に独特の風合いを付与することができる。
【0032】
また、基材フィルムの厚みとしては、特に限定されるものではなく、適用される材料によって適宜選択されることになるが、一般には20μm〜200μmであり、好ましくは50μm〜150μmである。厚みを20μm以上とすることにより、基材フィルムの物理的強度を良好なものとすることができ、またサンドブラスト処理を行い易くすることができる。また厚みを200μm以下とすることにより、樹脂成型材料との成型により一体化し易くすることができる。
【0033】
次に、ハードコート層について説明する。ハードコート層は、少なくとも電離放射線硬化型樹脂組成物から形成される。電離放射線硬化型樹脂組成物としては、電離放射線(紫外線または電子線)の照射によって架橋硬化することができる光カチオン重合可能な光カチオン重合性樹脂、光ラジカル重合可能な光重合性プレポリマーを用いることができる。
【0034】
光カチオン重合性樹脂としては、ビスフェノール系エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂やビニルエーテル系樹脂などをあげることができる。
【0035】
光ラジカル重合可能な光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が使用でき、基材フィルムの種類や用途等に応じて適宜選択することができる。またハードコート性を維持しつつ耐クラック性を付与するという観点から、上記光重合性プレポリマーと共に、デンドリマー構造を持ち、3個以上の(メタ)アクリレート官能基を有する多官能オリゴマーを用いてもよい。また、これらのアクリル系プレポリマーは単独でも使用可能であるが、架橋硬化性の向上や、硬化収縮の調整等、種々の性能を付与するために、光重合性モノマーを加えることが好ましい。
【0036】
光重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等の単官能アクリルモノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリルモノマー、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能アクリルモノマー等の1種若しくは2種以上が使用される。
【0037】
また、ハードコート性を維持しつつ耐クラック性を付与するという観点から、光重合性モノマーとして、重合性反応基の他に分子中にシクロ環を持つ光重合性モノマーを用いてもよい。
【0038】
また、このようなハードコート層は、紫外線照射によって硬化させて使用する場合には、上述した光重合性プレポリマー及び光重合性モノマーの他、光重合開始剤、光重合促進剤、紫外線増感剤等の添加剤を用いることが好ましい。
【0039】
光重合開始剤としては、オニウム塩類、スルホン酸エステル、有機金属錯体などの光カチオン重合開始剤や、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α−アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等の光ラジカル重合開始剤があげられる。
【0040】
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合障害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルなどがあげられる。また、紫外線増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィンなどがあげられる。
【0041】
また、樹脂成分としては、以上のような電離放射線硬化型樹脂組成物の他、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、熱可塑性樹脂や熱硬化型樹脂等の他の樹脂を添加してもよい。具体的には、アクリル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、酢酸セルロース等の樹脂を、ハードコート層の構成する樹脂成分の30重量%以下程度であれば添加することができる。
【0042】
また、ハードコート層は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、マット剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、蛍光増白剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤、貯蔵安定剤、架橋剤、シランカップリング剤等の種々の添加材料を添加してもよい。
【0043】
本発明のハードコートフィルムの耐屈曲性試験の値は、ハードコート層の厚みや基材フィルムの種類や厚みによって異なってくるが、好ましくは6mm以下、より好ましくは5mm以下に調整されていることが望ましい。耐屈曲性試験値が所定値以下に調整されていることにより、ハードコート層の耐クラック性を向上させることができる。なお、耐屈曲性試験の値は、JIS K5600−5−1:1999に準拠した円筒形マンドレル法で測定した値である。
【0044】
また、このようなハードコート層は、300gの荷重、好ましくは500gの荷重によるスチールウール#0000を10往復させたときに傷を生じることがないように調整されていることが望ましい。このように調整することで、必要なハードコート性を確保することが可能となる。
【0045】
また、ハードコート層は、さらに鉛筆引っかき値(鉛筆硬度)が、H以上、より好ましくは、2H以上、さらに好ましくは3H以上に調整されていることが望ましい。鉛筆引っかき値が所定値以上に調整されていることにより、ハードコート層の表面が傷つくことを効果的に防止することができる。なお、鉛筆引っかき値は、JIS K5400:1990に準拠した方法で測定した値である。
【0046】
このようなハードコート層の厚みとしては、好ましくは1μm〜10μm、さらに好ましくは2μm〜7μmである。1μm以上にすることにより、ハードコート性を十分なものにしやすくできる。ハードコート層の厚みが10μmを超えると、形状によっては、クラックや白化、割れが生じやすくなっていくためである。
【0047】
以上のようなハードコート層は、上述したように少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、上述した電離放射線硬化型樹脂組成物および必要に応じて加えた添加材料、希釈溶媒などを混合してハードコート層用塗布液を調整し、従来公知のコーティング方法、例えば、バーコーター、ダイコーター、ブレードコーター、スピンコーター、ロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、スプレー、スクリーン印刷などによって塗布し、必要に応じて乾燥後、電離放射線の照射により電離放射線硬化型樹脂組成物を硬化させることにより形成される。
【0048】
また、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100nm〜400nm、好ましくは200nm〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、又は走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
【0049】
本発明のハードコートフィルムの基本的な構成は、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面にハードコート層を備えた構成であるが、さらに基材フィルムのハードコート層が設けられた面とは反対側の面に樹脂成型品を加飾するための金属蒸着層や印刷層が設けられていてもよい。図1にインサート成型方法で用いる典型的なハードコートフィルムの構造の一例を示す。
【0050】
図示するハードコートフィルム10は、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理16が施された基材フィルム11のサンドブラスト処理16が施された面にハードコート層12が形成され、他方の面に金属蒸着層13や印刷層14からなる加飾層および接着層15がこの順に形成された構造を有している。加飾層は図では基材フィルム11上に金属蒸着層13を形成し、その上に印刷層14を形成したものを示しているが、加飾層の構成は図示するものに限定されず種々の構成とすることができる。例えば基材フィルム11上に公知の印刷方法、シルクスクリーン法、グラビア法、インクジェット法等により所望の文字や模様を形成した後、その上に金属蒸着層13を形成してもよい。また印刷層14を省き、基材フィルム11に直接、金属蒸着層13を形成する場合や、印刷層14のみで金属蒸着層13がない場合もある。印刷層14を設ける場合、基材フィルム11の印刷層14が設けられる面には、印刷インクを受容するための受容層を設けてもよい。
【0051】
金属蒸着層13は、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、錫、インジウム、銀、チタニウム、鉛、または亜鉛などの金属、またはこれらの合金、もしくは化合物を公知の方法、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などで蒸着することにより形成することができる。
【0052】
接着層15は、樹脂成型品材料と金属蒸着層13や印刷層14からなる加飾層との接着性を高めるために用いられる層で、樹脂成型材料に応じて、ポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、塩ビ・酢ビ共重合物、セルロース系等の接着剤を適宜使用することができる。
【0053】
次に本発明のハードコートフィルムを用いた樹脂成型品の製造方法の一例を説明する。
【0054】
まず、本発明のハードコートフィルムを樹脂成型品とした時にハードコート層が外側となるように配置してプレス加工し、所望の形状に成型する。次いで成型されたハードコートフィルムを成型金型に配置し、金型間に加熱し流動状態になった樹脂(樹脂成型材料)を流し込む。樹脂(樹脂成型材料)を硬化させると共にハードコートフィルムと一体化し、本発明の樹脂成型品を得る。成型の条件(温度、圧力、時間)は樹脂成型材料の種類や樹脂成型品の形状等に応じて適宜選択される。一般に型締圧力は樹脂成型品投影面積×型内樹脂圧力で算出される。一例として、射出成型する樹脂(樹脂成型材料)がABS樹脂で樹脂成型品寸法(L×W×H)が60×80×2(mm3)である場合、型締圧力60t、金型温度60℃、樹脂温度250℃、射出速度60mm/秒である。
【0055】
本発明の樹脂成型品は、少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、ハードコート層を備えたハードコートフィルムを用いているため、ハードコートフィルムのプレス加工時および金型による成型時においてクラックや白化、割れの発生がなく、美観に優れ、しかもハードコート性に優れている。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例について説明する。尚、「部」「%」は特記しない限り重量基準である。
【0057】
[実施例1]
基材フィルムとして厚み125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT60:東レ社)の一方の面に、回転羽根式噴射装置を用いて、算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.3μmとなるようにサンドブラスト処理(ショット材の種類:珪砂、ショット材の大きさ:平均粒径200μm、噴射量:1.5〜2.0l/sec、周速:40〜50m/sec、処理時間:30〜60sec、装置とフィルムの距離:430mm)を施した。
【0058】
次いで、基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、下記組成のハードコート層用塗布液をバーコーター法により塗布し、90℃、1分乾燥した後、高圧水銀灯で紫外線を照射して(照射量400mJ/cm2)、厚み約5μmのハードコート層を有する実施例1のハードコートフィルムを得た。
【0059】
<実施例1のハードコート層用塗布液>
・光重合性プレポリマー/光重合性モノマー(固形分100%)17部
(ビームセット575:荒川化学工業社)
・シクロ環を持つ光重合性モノマー(固形分100%) 3部
(SR368:サートマー社)
・光重合開始剤 0.4部
(イルガキュア651:チバ・ジャパン社)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 30部
【0060】
[実施例2]
実施例1と同様の基材フィルムの一方の面に、算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.4μmとなるようにサンドブラスト処理を施した(ショット材の種類:珪砂、ショット材の大きさ:平均粒径200μm、噴射量:1.8〜2.3l/sec、周速:35〜45m/sec、処理時間:30〜60sec、装置とフィルムの距離:430mm)。次いで、基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、実施例2のハードコートフィルムを得た。
【0061】
[実施例3]
実施例1と同様の基材フィルムの一方の面に、算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.5μmとなるようにサンドブラスト処理を施した(ショット材の種類:珪砂、ショット材の大きさ:平均粒径200μm、噴射量:2.0〜2.5l/sec、周速:40〜50m/sec、処理時間:30〜60sec、装置とフィルムの距離:430mm)。次いで、基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、実施例3のハードコートフィルムを得た。
【0062】
[実施例4]
実施例1と同様の基材フィルムの一方の面に、算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.7μmとなるようにサンドブラスト処理を施した(実施例3の条件で、2度処理を行なった)。次いで、基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、実施例4のハードコートフィルムを得た。
【0063】
[比較例1]
実施例1と同様の基材フィルムでサンドブラスト処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、比較例1のハードコートフィルムを得た。
【0064】
[比較例2]
実施例1の基材フィルムの代わりに、算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が1.0μmのケミカルマット処理されたフィルム(ケミカルマットPW:きもと社、厚み125μm)を用い、サンドブラスト処理を施さずにケミカルマット処理された面に、実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、比較例2のハードコートフィルムを得た。
【0065】
[比較例3]
実施例1と同様の基材フィルムでサンドブラスト処理を施さず、前記基材フィルムの一方の面に、下記組成のハードコート層用塗布液を塗布、乾燥した後、高圧水銀灯で紫外線を照射して、厚み5.5μmのハードコート層を有する比較例3のハードコートフィルムを得た。
【0066】
<比較例3のハードコート層用塗布液>
・光重合性プレポリマー/光重合性モノマー(固形分100%)12部
(ビームセット575:荒川化学工業社)
・熱可塑性アクリル樹脂(固形分40%) 20部
(アクリディックA195:大日本インキ化学工業社)
・光重合開始剤 0.4部
(イルガキュア651:チバ・ジャパン社)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 33部
【0067】
実施例及び比較例で得られたハードコートフィルムについて、接着性、ハードコート性および耐クラック性について、以下のように評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(1)接着性の評価
JIS K5600−5−6:1999に準拠したクロスカット法で、まず、ハードコート層に、隙間間隔1mmのマス目が100個できるように切れ目を入れる。次に、切れ目が入れられた面にJIS Z1522に準拠するセロハン粘着テープを貼り、剥がした後の塗膜の状態を目視で観察した。その結果、まったく剥離が起きていないものを「○」、わずかに剥離してしまうものを「△」、すべて剥離してしまうものを「×」として評価した。
【0069】
(2)ハードコート性の評価
(2)−1.耐スチールウール性(耐SW性)
ハードコート層の表面に500gの荷重でスチールウール#0000で10往復擦った後、その表面の傷の有無を目視で観察した。次に、500gの荷重で傷がついたものについては、300gの荷重で上記と同様にしてスチールウールで10往復擦り、表面の傷の有無を目視で観察した。その結果、500gの荷重で傷がつかなかったものを「◎」、300gの荷重で傷がつかなかったものを「○」、300gの荷重ではっきり傷がついたものを「×」として評価した。
【0070】
(2)−2.鉛筆硬度
JIS K5400:1990に準拠した方法で、ハードコート層表面の鉛筆引っかき値を測定した。そして、得られた測定値が3H以上であったものを「◎」、2H以上3H未満のものを「○」、H以上2H未満のものを「△」、H未満のものを「×」として評価した。
【0071】
(3)耐クラック性
JIS K5600−5−1:1999に準拠した耐屈曲性(円筒形マンドレル法)に基づき、直径約5mmの鉄棒にハードコート層が外側になるように折り返して巻きつけ、その巻きつけた部分のハードコート層にクラックが生じるか否かを目視で観察した。次に、直径約5mmの鉄棒でクラックが確認されたものについては、直径約6mmの鉄棒に上記と同様にして巻きつけ、ハードコート層にクラックが生じるか否かを目視で観察した。その結果、直径約5mmの鉄棒でクラックが確認できなかったものを「◎」、直径約6mmの鉄棒でクラックが確認できなかったものを「○」、直径約6mmの鉄棒でクラックが確認されたものを「×」として評価した。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示す結果からもわかるように、一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、電離放射線硬化型樹脂組成物から形成されてなるハードコート層を備えたハードコートフィルムである実施例1〜4は、ハードコート性および耐クラック性に優れたものであった。特に、基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面の算術平均粗さRaが0.4μm以上、1.0μm以下であった実施例2〜4は、最も耐クラック性に優れたものであり、円筒形マンドレル法による耐屈曲性試験において直径約5mmの鉄棒でもクラックを発生しないものであった。
【0074】
一方、基材フィルムとしてサンドブラスト処理が施されていないものを用いたハードコートフィルムである比較例1は、ハードコート性は優れているが、耐クラック性は実施例1〜4よりも劣り、円筒形マンドレル法による耐屈曲性試験において直径約6mmの鉄棒でもクラックを発生するものであった。また、ハードコート層と基材との接着性も低いものであった。
【0075】
また、基材フィルムとしてサンドブラスト処理を施さず、ケミカルマット処理されたものを用いたハードコートフィルムである比較例2は、ハードコート性は優れているが、耐クラック性は実施例1〜4よりも劣り、円筒形マンドレル法による耐屈曲性試験において直径約6mmの鉄棒でもクラックを発生するものであった。
【0076】
また、基材フィルムとしてサンドブラスト処理が施されていないものを用い、ハードコート層に熱可塑性樹脂を添加したハードコートフィルムである比較例3は、耐クラック性は改善されたが、同時にハードコート性が低下するものとなった。
【0077】
[実施例5、比較例4、5]
実施例3、比較例1、3で得られたハードコートフィルムをそれぞれ樹脂成型品としたときにハードコート層が外側となるように射出成型用金型に組み込み、真空成型によって三次元の形状に成型した後、溶融したアクリル樹脂を金型内に充填し、金型を冷却させ、ハードコートフィルムと一体的に硬化したアクリル樹脂成型品を取り出した。
【0078】
これらの樹脂成型品について、樹脂成型品表面のエッジ部分(曲面および角部分)を目視で観察した。また、表面のハードコート性(耐スチールウール性)について、上述したハードコートフィルムと同様の評価を行なった。
【0079】
その結果、実施例3のハードコートフィルムを用いた樹脂成型品(実施例5)については、エッジ部分にクラックの発生や白化はなく、ハードコート性(耐スチールウール性)についても上述のハードコートフィルムと同様の良好な結果が得られた。
【0080】
これに対し、比較例1のハードコートフィルムを用いた樹脂成型品(比較例4)については、ハードコート性については良好な結果が得られたが、エッジ部分にクラックの発生や白化が確認された。
【0081】
また、比較例3のハードコートフィルムを用いた樹脂成型品(比較例5)については、エッジ部分にクラックの発生や白化はなかったが、ハードコート性については、実施例3のハードコートフィルムを用いた樹脂成型品(実施例5)よりも劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明よれば、ハードコートフィルムを用いた樹脂成型品であって、成型時のクラックの発生や白化がなく、かつハードコート性に優れた樹脂成型品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明が適用されるハードコートフィルムの構造の一例を示す図
【符号の説明】
【0084】
10・・・ハードコートフィルム
11・・・基材フィルム
12・・・ハードコート層
13・・・金属蒸着層
14・・・印刷層
15・・・接着層
16・・・サンドブラスト処理面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂組成物から形成されてなるハードコート層を備えたハードコートフィルムと、樹脂成型材料とを成型により一体化してなり、表面に前記ハードコート層を備えることを特徴とする樹脂成型品。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂成型品であって、前記基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.4μm以上、1.0μm以下であることを特徴とする樹脂成型品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂成型品であって、前記樹脂成型材料はアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂から選ばれる1種である樹脂成型品。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の樹脂成型品であって、前記樹脂成型材料と前記ハードコート層との間に、金属蒸着層、印刷層および接着層を含む少なくとも一層が形成されていることを特徴とする樹脂成型品。
【請求項5】
少なくとも一方の面にサンドブラスト処理が施された基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面に、少なくとも電離放射線硬化型樹脂組成物から形成されてなるハードコート層を備えたことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項6】
請求項5記載のハードコートフィルムであって、前記基材フィルムのサンドブラスト処理が施された面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が0.4μm以上、1.0μm以下であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のハードコートフィルムであって、円筒形マンドレル法(JIS K5600−5−1:1999)に準拠した方法で測定した耐屈曲性試験の値が6mm以下であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項8】
請求項7記載のハードコートフィルムであって、前記ハードコート層は、300gの荷重によるスチールウール#0000を10往復させたときに傷を生じることのないことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載のハードコートフィルムであって、前記ハードコート層の厚みが1μm〜10μmであることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか1項に記載のハードコートフィルムであって、前記基材フィルムの他方の面に、金属蒸着層、印刷層および接着層を含む少なくとも一層が形成されていることを特徴とするハードコートフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−241368(P2009−241368A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89707(P2008−89707)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】