説明

ハードコートフィルム及びその製造方法

【課題】ハードコートの密着力を向上したハードコートフィルムを従来よりも効率よく製造する。
【解決手段】第1ドープ41が第2ドープ42の上に重なる流延膜46が形成されるように、第1ドープ41と第2ドープ42とを共流延する。第1ドープ41は第1セルロースアシレートと硬化性化合物と硬化剤とを含む。第1ドープ41での硬化性化合物の濃度は7質量%以上28質量%以下の範囲とする。第2ドープ42は第2セルロースアシレートを含む。流延膜46を剥ぎ取って湿潤フィルム47とし、乾燥して乾燥フィルム51にする。硬化装置55で乾燥フィルム51に紫外線を照射して硬化させる。得られるハードコートフィルム10は、ハードコートとフィルムベースと混在層とを備える。ハードコート及び混在層の厚みの和は全厚みの10%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートを備えるハードコートフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の光学機器に用いるシート部材の中には、ポリマーフィルムから製造されるものが数多くある。ポリマーフィルムの多くは、他の物との接触や摩擦により傷がつくので、シート部材の中には、光学機器の製造過程や使用中に擦り傷等がつかないように、ポリマーフィルムの上にハードコートが設けられているものが数多くある。
【0003】
このようないわゆる耐傷性をもつハードコートは、ポリマーフィルムの上に、ハードコートを形成する塗布液を塗布し、塗布膜に対して所定の硬化工程を実施して形成される。硬化工程としては、塗布膜に光を照射して塗布膜中に含まれる硬化成分を硬化する工程が挙げられる。例えば、特許文献1は、紫外線を照射して硬化する方法を開示する。
【0004】
光を照射することで硬化する組成物についても、これまで種々提案されており、例えば特許文献2は、近赤外光の照射で硬化するパテ組成物を提案している。このパテ組成物は、重合性不飽和基含有樹脂と、重合性不飽和化合物と、近赤外光重合開始剤とを含む。
【0005】
また、光の照射することにより硬化する成分を、溶液製膜のドープの成分として用いることも提案されている。例えば特許文献3には、エチレン性不飽和モノマーを含有するドープ組成物が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−205179号公報
【特許文献2】特開平9−137089号公報
【特許文献3】特開2002−20410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハードコートを形成する塗布液をポリマーフィルムに塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を硬化させるという従来の方法で製造したハードコートフィルムは、ハードコートとポリマーフィルムからなる支持体(フィルムベース)との密着力が小さく、ハードコートが支持体から剥がれることがある。
【0008】
さらに、従来は、支持体として用いるポリマーフィルムを形成する工程とハードコートを支持体上に形成する工程との両工程に要する時間が長く、ハードコートフィルムの製造効率の向上が望まれる。
【0009】
また、従来の塗布及び硬化で製造したハードコートを形成した場合には、硬度が低いという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、従来よりも効率的に製造することができ、ハードコートと支持体との密着力を高めたハードコートフィルム、及びその製造方法を提供することを目的とする。これらの目的に加えて、高い硬度のハードコートフィルムの製造方法を提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のハードコートフィルムは、第1のセルロースアシレートと紫外線の照射により硬化する硬化性化合物が硬化した重合体とを含むハードコートと、第2のセルロースアシレートを含み、前記重合体を非含有とするフィルムベースと、前記ハードコートと前記フィルムベースとの間に配され、前記重合体と前記第2のセルロースアシレートとが混在する混在層とを備え、前記ハードコートと前記混在層との厚みの和が、ハードコートフィルムの厚みに対して少なくとも10%であることを特徴として構成されている。
【0012】
混在層における第2のセルロースアシレートの量は、前記ハードコートから前記フィルムベースに向かうに従い連続的に漸増し、前記混在層における前記重合体の量は、前記ハードコートから前記フィルムベースに向かうに従い連続的に漸減することが好ましい。
【0013】
本発明は、第1のセルロースアシレートと紫外線の照射により硬化する硬化性化合物とこの硬化性化合物の硬化を促進する硬化剤とを含み、前記硬化性化合物の濃度が7質量%以上28質量%以下の範囲である第1ドープが、第2のセルロースアシレートを含み前記硬化剤を非含有とする第2ドープに重なるように、前記第1ドープと前記第2ドープとを支持体上に共流延して、流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥がして湿潤フィルムとする剥離工程と、前記支持体から剥がした後の前記流延膜を乾燥する剥離後乾燥工程と、前記支持体上の前記流延膜と前記支持体から剥がされた前記流延膜と前記剥離後乾燥工程以降の流延膜とのいずれかひとつに紫外線を照射して前記硬化性化合物を硬化する硬化工程とを有することを特徴として構成されている。
【0014】
硬化性化合物は、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとウレタンアクリレートとの少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0015】
硬化工程における紫外線の照射は、前記剥離後乾燥工程により乾燥したフィルムに対して行うことが好ましい。
【0016】
上記のハードコートフィルムの製造方法は、前記支持体上で流延膜を冷却してゲル化する冷却工程を有し、この冷却工程の間に前記流延膜に気体を送り前記流延膜の露出面を固めることが好ましい。
【0017】
上記のハードコートフィルムの製造方法は、前記支持体上の流延膜を乾燥し、流延膜が完全に乾燥する前に乾燥を終える剥離前乾燥工程と、前記剥離前乾燥工程を経た前記支持体上の前記流延膜に紫外線を照射して前記硬化性化合物を半硬化する半硬化工程とを有することが好ましい。
【0018】
前記流延工程では、前記第1ドープと前記第2ドープとを支持体上に連続的に共流延し、前記剥離前乾燥工程は、前記支持体から連続的に剥ぎ取った後の搬送が可能な程度で、前記流延膜の乾燥を終了することが好ましい。前記半硬化工程は、前記支持体から連続的に剥ぎ取った後の搬送が可能な程度で、前記硬化性化合物の半硬化を終了することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のハードコートフィルムは、従来よりも効率的に製造することができるとともにハードコートと支持体(フィルムベース)との密着力を高められているので、ハードコートが剥がれにくい。また本発明の製造方法によると、ハードコートと支持体との密着力が高められたハードコートフィルムを、従来よりも効率的に製造することができる。このような効果に加え、本発明の製造方法によると、硬度の高いハードコートフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のハードコートフィルムの断面図である。
【図2】ハードコートフィルムの飛行時間二次イオン質量分析結果のグラフである。実線はC6H5O2を示し、破線はC2H3を示す。
【図3】本発明のハードコートフィルムを製造するフィルム製造装置の概略図である。
【図4】本発明のハードコートフィルムを製造するフィルム製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明のハードコートフィルム10は、ハードコート11と、フィルムベース12と、混在層13とを備える。混在層13は、ハードコート11とフィルムベース12との間に形成される。このように、ハードコートフィルム10は、一方のフィルム面にハードコート11を備える。なお、図1では、ハードコート11と混在層13との境界、および、フィルムベース12と混在層13との境界を便宜上図示してある。しかし、この境界は構成する素材の組成に基づく概念的なものであり、視認できるものではない。
【0022】
ハードコート11は、第1のセルロースアシレートと硬化性化合物が重合した重合体とを含む。ハードコート11を形成するに際し硬化剤を用いるため、ハードコート11には硬化剤も残存している。硬化剤は、硬化性化合物の硬化を促進するものである。
【0023】
フィルムベース12は第2のセルロースアシレートを含み、前記硬化性化合物が重合した重合体は含まない。
【0024】
混在層13は、第2のセルロースアシレートと前記重合体との両方を含み、両者が混在する層である。混在層13には、第2のセルロースアシレートと前記重合体とに加えて、第1のセルロースアシレートが含まれていてもよい。
【0025】
ハードコートフィルム10の厚みをTA、ハードコート11の厚みをT11、フィルムベース12の厚みをT12、混在層13の厚みをT13とする。ハードコートフィルム10の厚みTAに対するハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和の割合を、塗布による従来のハードコートフィルムにおけるよりも大きくしてある。ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和は、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して、少なくとも10%としてある。これにより、ハードコート11の密着力が、従来の塗布によるものよりも高いものとなっている。なお、ハードコートフィルム10の厚みTAに対するハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和の割合とは、すなわち、{(T11+T13)/TA}×100で求める百分率(単位;%)である。ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和は、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して、10%以上30%以下の範囲であることがより好ましい。
【0026】
塗布により製造される従来のハードコートフィルムにおいても、塗布液が塗布されるフィルム状のセルロースアシレートと、ハードコートを形成する重合体とが混在した混在層が認められる場合がある。しかし、ハードコートフィルムの厚みに対するハードコートの厚みと混在層の厚みとの和の割合を、上記のように大きくするには、塗布液の塗布を逐次的に複数回行う必要がある。このように塗布回数を増やすにつれて、ハードコートフィルムを製造するための工程数は増え、また、ハードコートフィルムの厚みも大きくなってしまう。これに対し、本発明のハードコートフィルムは、後述の製造方法により、塗布による従来のハードコートフィルムと同等レベルの厚みを保持しており、さらに、製造に要する工程数は従来の塗布によるハードコートフィルムの製造方法に比べて少ない工程数で製造することができる。これらの利点に加えて、ハードコート11の密着力は、従来のハードコートフィルムにおけるものよりも大きい。
【0027】
図2の縦軸は、二次イオン強度(カウント数)であり、横軸はハードコートフィルム10の厚み方向を表す。横軸のA11はハードコート11の領域であり、A12はフィルムベース12の領域であり、A13は混在層13の領域である。
【0028】
飛行時間二次イオン質量分析計(Time−of−flight secondary ion mass spectrometer、以下TOF−SIMSと略す)は、周知の通り、一次イオンビームを分析対象物である試料に照射し、その際に試料の表面から放出されるイオン(二次イオン)を検出する二次イオン質量分析(SIMS)を行う装置のひとつである。分析のためには、分析対象物であるハードコートフィルム10からサンプリングしたサンプルを、エポキシ樹脂に包埋する。包埋した状態のサンプルを、ミクロトームを用いて、ハードコートフィルム10のフィルム面に対して約15度の角度で斜めに切削し、サンプルを表面に露出させて分析面を出す。一次イオンは表面露出させたフィルム部分に照射する。質量分析計には飛行時間質量分析計(TOF−MS)を用いる。本実施形態では、TOF−SIMSを行うに際し、ION−TOF社製TOF−SIMS5とBi3一次イオン銃を用いているが、本発明はこれに限られるものではない。
【0029】
図2における実線(A)のC6H5O2(TACのグルコピラノース骨格由来のフラグメント)のグラフは、セルロースアシレートとしてみなすものである。この実線(A)は、第1のセルロースアシレートと第2のセルロースアシレートとの両方の和として示してある。ハードコート11におけるセルロースアシレートは第1のセルロースアシレートである。混在層13におけるセルロースアシレートは第1のセルロースアシレートと第2のセルロースアシレートとである。フィルムベース12におけるセルロースアシレートは第2のセルロースアシレートである。
【0030】
図2における破線(B)のC2H3のグラフは、重合体としてみなすものである。
【0031】
混在層13におけるセルロースアシレートの量は、実線(A)に示すように、ハードコート11からフィルムベース12に向かうに従い漸増し、しかもこの漸増は連続的である。混在層13における重合体の量は、ハードコート11からフィルムベース12に向かうに従い漸減し、この漸減は連続的である。このようなセルロースアシレートと重合体との厚み方向における分布により、ハードコート11の密着力が確実に高くされている。さらにハードコート11から混在層13にかけてもセルロースアシレートの量の漸増と重合体の量の漸減とは連続的である。これにより、ハードコート11と混在層13との境界でハードコート11が剥がれることがより確実に防止される。
【0032】
また、混在層13における重合体の量は、破線(B)に示すように、ハードコート11からフィルムベース12に向かうに従い漸減する。さらに、ハードコート11から混在層13にかけても重合体の量の漸増は連続的である。重合体の厚み方向におけるこのような連続的分布は、ハードコート11の密着力に寄与する。
【0033】
塗布により製造される従来のハードコートフィルムでは、仮に複数回の塗布を実施して混在層におけるセルロースアシレートの量が、ハードコートからフィルムベースに向かうに従い漸増しても、この漸増は段階的で、ハードコートから混在層にかけての漸増も段階的なものとなる。
【0034】
ハードコートフィルムの製造方法の第1実施形態につき、図3を参照しながら説明する。図3に示すように、フィルム製造設備40は、溶液製膜により、第1ドープ41と第2ドープ42とからハードコートフィルム10をつくる溶液製膜設備である。第1ドープ41は、ハードコート11を形成する。第2ドープ42は、支持体としてのフィルムベース12を形成する。
【0035】
第1ドープ41は、第1のセルロースアシレートと、紫外線が照射されるとこの照射により硬化する成分としての硬化性化合物と、硬化性化合物の硬化を促進する硬化剤とを含む。このうち、第1のセルロースアシレートは、溶剤成分に溶解してある。
【0036】
第1ドープ41における第1セルロースアシレートの濃度は、2質量%以上20質量%以下の範囲の値としてある。第1ドープ41における硬化性化合物の濃度は、7質量%以上28質量%以下の範囲の値としてある。このように、本発明では、ハードコート11を形成する第1ドープ41における硬化性化合物の濃度は、従来の塗布によりハードコートを形成する塗布液に比べて極端に高い。このように硬化性化合物が、非常に高濃度で含まれるため、従来の塗布によりハードコートを形成する塗布液に比べて第1ドープ41は非常に高い粘度とされてある。硬化性化合物と硬化剤との詳細については後述する。
【0037】
第1ドープ41に上記濃度範囲で第1セルロースアシレートを含ませても、得られるハードコートフィルム10のハードコート11は、塗布による従来のハードコートフィルムのハードコートよりも硬度が低くならず、同レベル以上の硬度を発現する。また、硬化性化合物の濃度が7質量%未満であると、ハードコートとして十分といえるレベルの硬度にならない。以上のように第1ドープ41には大量の硬化性化合物を含ませるために、セルロースアシレートの量を少なくするが、それでも鉛筆硬度で2H以上の硬度のハードコート11が形成される。
【0038】
第1ドープ41における第1セルロースアシレートの上記濃度は、第1ドープ41の質量をX11、第1セルロースアシレートの質量をY11とするときに、{Y11/X11}×100で求める値である。また、第1ドープ41における硬化性化合物の上記濃度は、第1ドープ41の質量をX11、硬化性化合物の質量をZ11とするときに、{Z11/X11}×100で求める値である。
【0039】
第2ドープ42は、第2のセルロースアシレートを溶剤に溶解したものである。第2ドープ42には硬化剤は含ませていない。この第2ドープ42における第2セルロースアシレートの濃度は、16質量%以上25質量%以下としてある。また、第2ドープ42における第2セルロースアシレートの濃度は、第1ドープ41における第1セルロースアシレートの濃度よりも高くしてある。これにより、混在層13における第2セルロースアシレートの量がハードコート11からフィルムベース12に向かうに従い連続的に漸増したハードコートフィルムが、確実に得られる。
【0040】
第2ドープ42における第2セルロースアシレートの上記濃度は、第2ドープ42の質量をX12、第2セルロースアシレートの質量をY12とするときに、{Y12/X12}×100で求める値である。
【0041】
第1セルロースアシレートと第2セルロースアシレートとは互いに同じものであってもよいし、アシル基の種類、アシル基の置換度等が互いに異なっていてもよい。
【0042】
フィルム製造設備40は、第1ドープ41と第2ドープ42とからなる流延膜46を形成して溶剤を含んだ状態の湿潤フィルム47として剥がす流延部50と、湿潤フィルム47を乾燥して乾燥フィルム51とする乾燥部52と、紫外線を照射して硬化性化合物を硬化する硬化装置55と、得られたハードコートフィルム10を巻き取ってロール状にする巻取装置56とからなる。
【0043】
流延部50には、供給された第1ドープ41及び第2ドープ42を流出する流延ダイ61と、この流延ダイ61の下方に配されて周方向に回転する無端の流延支持体としてのドラム62と、流延膜46をドラム62から剥ぎ取るに際して湿潤フィルム47を支持するローラ63とが備えられている。
【0044】
第1ドープ41と第2ドープ42とは、ともにひとつの流延ダイ61からドラム62へ流延される。すなわちこの流延方式は、周知の共流延方式である。この共流延は、ドラム62で、第2ドープ42の上に第1ドープ41が重なる流延膜46が形成されるように、流延ダイ61から第1ドープ41と第2ドープ42とが流出されて行われる。ドラム62上に第1ドープ41が直接接するように流延膜を形成すると、流延膜をドラムから剥ぎ取りにくくなるので、第1ドープ41がドラム62に接するような共流延は実施しないことが好ましい。なお、剥ぎ取りのしやすさの観点では、ドラム62上における第2ドープ42の厚みは薄くてもよい。
【0045】
流延ダイ61には、供給された第1ドープ41が流れる第1流路(図示無し)と、供給された第2ドープ42が流れる第2流路(図示無し)と、第1流路及び第2流路が合流位置で合流し、第1ドープ41と第2ドープ42とが共に流れる共流路(図示無し)とが内部に形成されてある。この流延ダイ61に第1ドープ41と第2ドープ42とを独立して供給し、流延ダイ61の内部で各ドープ11,12を合流させて流延ダイ61から流出させ、流延ダイ61から流出する。
【0046】
第1ドープ41と第2ドープ42とともに第3ドープ(図示せず)を共流延してもよい。例えば、第2ドープ42よりもセルロースアシレートの濃度が低い第3ドープがドラム62に接するように、第1ドープ41と第2ドープ42と第3ソープとを流延ダイから流出してもよい。すなわち、ドラム62上に、第3ドープの上に第2ドープ42が重なり、第2ドープ42の上に第1ドープ41が重なった態様の流延膜が形成されるように、流延ダイの内部でこれら3つのドープを合流させて流出する。これにより、ドラム62の回転速度をより高くして流延速度をさらに上げても流延膜とドラム62との間に空気が入り込むことがより確実に防止することができたり、平滑なフィルム面をもつハードコートフィルムをより製造しやすくなる。
【0047】
ドラム62には、周面温度を所定温度に制御する温度制御部(図示無し)を備える。流延膜46の温度を上げるように、ドラム62の周面を加熱してもよいし、流延膜46の温度を下げるように、ドラム62の周面を冷却してもよい。本実施形態では、流延膜46を所定の温度に冷却してゲル化させるように、ドラム13の周面は冷却している。
【0048】
ドラム62の回転方向における流延ダイ61の上流側には、減圧チャンバ64を設けることが好ましい。減圧チャンバ64は、減圧すべき空間を外部空間と仕切り、吸引手段により減圧すべき空間の気体を吸引する。これにより、流延ダイ61からドラム62に渡って形成されるビードよりも上流側のエリアの空気を吸引して減圧する。
【0049】
ドラム62の周面から一定の距離をもって、気体を流出する送風装置65が配されてもよい。送風装置65は、ドラム62の周面に沿って延びたダクト77と、ダクト77に接続する送風機78と、送風機78に接続し、送風機78からの気体の流量と温度とを制御するコントローラ79とを備える。ダクト77は、ドラム62の周面に対向する開口(図示無し)を有し、この開口から乾燥気体を出す。コントローラ79による送風機78の制御により、ダクト77から吹き出す気体の流速・流量および温度を制御する。
【0050】
送風装置65は、流延膜46に送風する。この送風における気体の流れ方向は、流延膜46が走行する向きに対して逆向きの対向風、すなわち向かい風であることが好ましい。この送風装置65からの送風により、流延膜46の露出面を固めることがより好ましい。流延膜36の露出面とは、流延膜46のドラム62に接した一方の膜面とは反対側の膜面であり、外部に露呈した膜面である。
【0051】
ローラ63は、流延膜46をドラム62から剥ぎ取るべき剥取位置近傍に備えられる。ローラ63は、長手方向がドラム62の長手方向に一致するように、ドラム62に対向して配される。ローラ63は、流延膜46をドラム62から剥ぎ取るに際して湿潤フィルム47を支持し、これにより、剥取位置が一定に保持される。
【0052】
流延膜46は、自己支持性をもつようになると、ドラム62から剥ぎ取られる。溶剤を含んだ状態でドラム62から剥ぎ取った流延膜、すなわち湿潤フィルム47は、乾燥部52のテンタ66に案内される。
【0053】
テンタ66には、湿潤フィルム47の側端部を保持する保持手段としてのクリップ67が、湿潤フィルム47の搬送路の両側にそれぞれ複数配されている。湿潤フィルム47が、クリップ67による把持に耐えられない場合、例えば、溶剤の含有率が高すぎて把持により裂けてしまう場合等には、クリップ67に代えてピンを用いて湿潤フィルム47の側端部にピンを突き刺し、これにより湿潤フィルム47を保持してもよい。
【0054】
複数のクリップ67は、連続走行する無端のチェーン(図示せず)に備えられてあり、このチェーンの走行路を変位することによりクリップ67の走行軌道を変えることができる。湿潤フィルム47の両側にそれぞれ配されてあるクリップ67とクリップ67との距離を適宜調整して湿潤フィルム47の幅を規制してもよい。
【0055】
テンタ66には、温度調整された乾燥空気を湿潤フィルム47に吹き付ける送風ダクト68が備えられており、この送風により、クリップ67で保持されて搬送されている間の湿潤フィルム47の乾燥を進める。
【0056】
なお、ローラの周面で支持して、ローラの回転により搬送することができる場合には、テンタ66を配さなくてもよい。
【0057】
クリップ67での把持を解除された湿潤フィルム47は、テンタ66の下流に備えられる切除装置70に案内される。湿潤フィルム47のクリップ67により把持された把持位置には、把持の跡が残っている。この把持跡が、ハードコートフィルム10の製品となる中央部と分離されるように、切除装置70は、湿潤フィルム47の側端部を連続的にカットする。
【0058】
切除装置70の下流には、両側端部が切除された湿潤フィルム47を周面で支持する複数のローラ72を備え、乾燥空気が供給される乾燥室73がある。ローラ72の中には、周方向に回転駆動することにより湿潤フィルム47を搬送する駆動ローラが含まれる。供給される乾燥空気は、所定温度及び湿度に調整されており、この乾燥空気により湿潤フィルム47はさらに乾燥をすすめられて完全に乾燥する。この「完全」の程度は、製品として問題無い程度の乾燥の程度であり、溶剤残留量が必ずしも0(ゼロ)でなくてもよい。このように完全乾燥したものを以下の説明においては乾燥フィルム51と称する。
【0059】
硬化装置55は、紫外線を射出する光源であり、案内されてきた乾燥フィルム51に対し、紫外線を照射する。この照射により、硬化性化合物を硬化させる。硬化性化合物が、照射により重合するものである場合には、この重合の進行が硬化の進行にあたる。
【0060】
なお、硬化装置55は、本実施形態のような乾燥部52の下流に代えて、流延部50、テンタ66、乾燥室73に設けてもよい。すなわち、流延膜46と、湿潤フィルム47と、乾燥フィルム51とのいずれに対して紫外線を照射してもよい。また、硬化装置55は、本実施形態のような乾燥部52の下流に加えて、流延部50、テンタ66、乾燥室73にも設けてもよい。このように、流延膜46と湿潤フィルム47と乾燥フィルム51との少なくともいずれかひとつに紫外線の照射を行えばよい。1つの硬化装置55による照射により1度の硬化工程を実施することでハードコートフィルム10を製造する場合には、より好ましくは、溶剤残留率が120質量%以下になった後の湿潤フィルムに対して紫外線を照射すること、さらに好ましくは、図3のフィルム製造設備40で製造する本実施形態のように、溶剤が蒸発した乾燥フィルム51に対して紫外線を照射することである。
【0061】
硬化装置55の紫外線の照射により、乾燥フィルム51の一方のフィルム面にはハードコート11が形成される。
【0062】
得られたハードコートフィルム10は、巻取部56にセットされた巻き芯76にロール状に巻き取られる。
【0063】
以上のように製造されたハードコートフィルム10は、一方のフィルム面はハードコートとされている。そのハードコートは、非常に高い密着力を示す。例えば、JIS D0202−1988に準拠するクロスカット試験(碁盤目テープ剥離試験)の評価によると、90/100以上100/100以下の範囲の結果を得た。100/100とは、格子状のカットで形成された100マスのうち100マス全てが剥離せずに残ったことを意味する。分母に記載の数値が形成したマスの数、分子が剥離せずに残ったマスの数である。すなわち、90/100以上100/100以下とは、格子状のカットで形成された100マスのうち90マス以上100マス以下のマスが剥離せずに残ったことを意味する。
【0064】
従来は、フィルムベースをつくる製膜工程とハードコートを形成する塗布工程という少なくとも2段階の工程を実施し、このためハードコートフィルムの製造効率が低かった。これに対して本発明の方法によると、製膜過程でハードコートも形成するので、製造効率が従来の方法よりも明らかに高い。
【0065】
また、製膜過程でハードコートを形成することにより、ハードコートは従来の塗布により製造されるハードコートフィルムにおけるよりも高い密着力を示す。本発明では、共流延での製造の観点から、ドープの粘度を、塗布でハードコートを形成する場合の塗布液の粘度よりも非常に高いものとすることが好ましい。このように高粘度のドープをつくるために、分子量のより大きなモノマーやオリゴマーをドープの成分として用いるとよい。モノマーやオリゴマーの分子量としては、1000以上が好ましい。このような分子量の大きなモノマーやオリゴマーをドープの成分とすることで、高粘度のドープをつくることができる。これに対し、従来の塗布によりハードコートを形成する場合の塗布液では、分子量が小さいモノマーを塗布液の成分として用いている。分子量が小さいと均一性に欠けるハードコートが形成されてしまう場合があるが、共流延において分子量の高いモノマーやオリゴマーを用いることにより、より均一なハードコートが形成される。
【0066】
以下に、第1ドープ41と第2ドープ22との各成分及び処方について説明する。
【0067】
[第1セルロースアシレート及び第2セルロースアシレート]
第1セルロースアシレートと第2セルロースアシレートは、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(1)〜(3)の全ての条件を満足するものが特に好ましい。なお、(1)〜(3)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(1)
0≦A≦3.0・・・(2)
0≦B≦2.9・・・(3)
【0068】
セルロースを構成し、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、このようなセルロースの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換されたポリマーである。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位及び6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0069】
ここで、グルコース単位で2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6として「DS2+DS3+DS6」で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。さらに、「DS6/(DS2+DS3+DS6)」は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0070】
アシル基は1種類だけでもよいし、2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位、及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位、及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとするとき、「DSA+DSB」の値は、2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBは、その28%以上が6位水酸基の置換であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位の「DSA+DSB」の値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶液製膜に用いられるポリマー溶液をつくるために好ましい溶解性が得られ、また、ろ過性の好ましい粘度が低いポリマー溶液を製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0071】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0072】
[硬化性化合物]
硬化性化合物は、モノマーとオリゴマーとのいずれであってもよい。硬化性化合物は、多官能アクリレートを含むことが好ましい。モノマーとしてより好ましくは、下記式(I)に示すジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)が挙げられる。オリゴマーとしてより好ましくはウレタンアクリレートが挙げられる。DPHAとウレタンアクリレートとは併用してもよい。
【0073】
【化1】

【0074】
[硬化剤]
硬化剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができる。例えば、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンが好ましい。硬化剤の濃度は、硬化性化合物の質量に対して1質量%以上8質量%以下の範囲であることが好ましい。この硬化剤の濃度は、硬化性化合物の質量をZ11、硬化剤の質量をV11とするときに、{V11/Z11}×100で求める値である。
【0075】
第1ドープ41と第2ドープ42との処方の一例は以下である。なお、下記の硬化剤成分である2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オンとしては、IRGACURE(登録商標)907がある。
[第1ドープの処方例]
セルロースアシレート;セルローストリアセテート(TAC)・・・100質量部
溶剤;ジクロロメタンを溶剤成分1、メタノールを溶剤成分2とする。
ジクロロメタン ・・・840質量部
メタノール ・・・210質量部
硬化性化合物;DPHA ・・・278質量部
硬化剤;2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン ・・・ 14質量部
[第2ドープの処方例]
セルロースアシレート;セルローストリアセテート(TAC)・・・100質量部
溶剤;ジクロロメタンを溶剤成分1、メタノールを溶剤成分2とする。
ジクロロメタン ・・・261質量部
メタノール ・・・ 65質量部
【0076】
なお、ハードコートフィルム10の厚みTAに対するハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和の割合を制御するためには、第1ドープ41と第2ドープ42との流延ダイ61における流量比を変えるとよい。流延ダイ61における流量比とは、前述の第1流路における第1ドープ41の流量と、第2流路における第2ドープ42の流量との比である。流延ダイ61における流量比を制御するには、第1流路に供給する第1ドープ41の流量と、第2流路に供給する第2ドープ42の流量とを制御するとよい。第1流路及び第2流路へ供給する第1ドープ41及び第2ドープ42の流量は、送液ポンプの回転数の調整等により行うとよい。
【0077】
上記の処方の例として挙げた第1ドープ41と第2ドープ42とを用いた場合について、第1ドープ41と第2ドープ42との流量比の例は以下である。ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和が、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して10%であるハードコートフィルム10を製造する場合には、(第1ドープ41の流量):(第2ドープ42の流量)を、概ね1:10.4にするとよい。また、ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和が、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して30%であるハードコートフィルム10を製造する場合には、(第1ドープ41の流量):(第2ドープ42の流量)を、概ね1:2.7にするとよい。このように、第2ドープ42に対する第1ドープ41の流量比を高くするほど、TAに対するT11とT13との和の割合を高くすることができる。また、第1ドープ41の流量を大きくするほど、ハードコート11の厚みT11を大きくすることができ、これにより硬度がより高いハードコート11が形成される。ただし、ハードコート11が過度に厚すぎると脆性が低くなる場合もあるので、脆性の観点からは、ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和が、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して30%以下の範囲とした上で、ハードコートの厚みを厚くすることがより好ましい。
【0078】
ハードコートフィルムの製造方法の第2実施形態につき、図4を参照しながら説明する。図4のフィルム製造設備140は、第1実施形態である図3のフィルム製造設備40と同様に、溶液製膜により、第1ドープ41と第2ドープ42とからハードコートフィルム10をつくる溶液製膜設備である。
【0079】
フィルム製造設備140は、図3のフィルム製造設備40の流延部50に代えて流延部150を備える。他の構成は図3のフィルム製造設備40と同じである。本実施形態のフィルム製造設備140は、乾燥部52の下流に加えて、流延部150にも硬化装置を備えるので、流延部150の硬化装置を第1硬化装置と称し、乾燥部52の下流の硬化装置を第2硬化装置と称する。
【0080】
流延部150は、ドラム62の回転方向における送風装置65の下流であって流延膜46がドラムから剥ぎ取られる剥取位置の上流に、第1硬化装置166を備える。すなわち、流延ダイ61から流出した第1ドープ41と第2ドープ42とがドラム62上に接触し始める流延開始位置、送風装置65、第1硬化装置166、剥取位置は、この順でドラム62の回転方向の上流側から位置する。
【0081】
送風装置65は、流延膜46に送風する。本実施形態においては、送風装置65からの送風における気体の流れ方向は、限定されない。この送風装置65からの送風は、流延膜46を乾燥するためのものではあるが、流延膜46が完全に乾燥してしまう前にこの乾燥を終える。すなわち、流延膜46が生乾きの状態で乾燥を終える。流延膜46が完全に乾燥する前に乾燥を停止するこの乾燥は、ドラム60からの剥ぎ取り以降の工程において湿潤フィルム47を搬送することができる程度で終了させ、搬送可能な程度以上に乾燥が進まないように乾燥を抑えておくことがより好ましい。
【0082】
流延膜46は、溶剤を含んだ状態でドラム60から剥ぎ取るので、剥ぎ取った湿潤フィルム47がローラ62やローラ62よりも下流の搬送手段に貼り付いてしまうことがある。搬送手段としては、本実施形態のような、テンタ76までの搬送路に配したローラ75や、後述のテンタ76のクリップ77等である。そこで、湿潤フィルム47の粘着性が失われる程度である搬送可能な程度にまで乾燥し、これらの搬送手段への貼り付きを防ぐ。
【0083】
送風装置65による乾燥を、流延膜46が完全に乾燥してしまう前に終了させることにより、流延膜46中で、第1ドープ41側から第2ドープ42側への硬化性化合物の拡散をすすめる。これにより、従来のような塗布により製造されるハードコートフィルムよりも密着力が大きく、高い硬度のハードコートフィルムが得られる。なお、本実施形態によると、第1実施形態よりも、密着力がより大きく、また、硬度がより高いハードコートフィルムが得られる。硬度については、3H以上の鉛筆硬度のハードコートフィルムが製造される。また、この拡散をすすめることで、第2ドープ42側から第1ドープ41側への硬化性化合物の濃度が漸増する。これにより、混在層において硬化性化合物から形成される重合体の濃度がフィルムベース側からハードコートに向けて漸増するハードコートフィルムが得られる。
【0084】
さらに、送風装置65による乾燥を、湿潤フィルム47を搬送可能な程度以上に進めない、すなわち、搬送可能な程度にとどめることにより、流延膜46における硬化性化合物の拡散が、第2ドープ側に確実により深く進行する。換言すれば、硬化性化合物が拡散するように溶剤を残しておくために、次工程である搬送の工程が可能な程度で乾燥を終了させてある。このように、次工程に支障をきたさない範囲で、送風装置65によりすすめる乾燥の程度を決定するとよい。これにより、より確実に密着力が大きく、高い硬度のハードコートフィルムが得られ、さらには、混在層において硬化性化合物から形成される重合体の濃度がフィルムベース側からハードコートに向けてより確実に漸増するものとなる。
【0085】
冷却流延方式は、周面が冷却されたドラム60により流延膜46を冷却して固める方式である。乾燥流延方式は、周面が加熱されたドラム60による流延膜46の加熱と、送風装置65による送風とにより、流延膜46を固める方式である。搬送可能な乾燥の程度は、冷却流延方式と乾燥流延方式とで異なる。冷却流延方式においては、乾燥がすすんで残留溶剤量が150質量%になったら搬送可能になり、乾燥流延方式においては、乾燥がすすんで残留溶剤量が30質量%になったら搬送可能になる。
【0086】
送風装置65により流延膜46が上記のような所期の乾燥状態に達したら、第1硬化装置166に流延膜46は案内される。第1硬化装置166は、紫外線を射出する光源である。第1ドープ41及び第2ドープ42がドラム60に接触し始める流延開始位置から、流延膜46がドラム60から剥ぎ取られる剥取位置までの距離をDとする。この距離Dは、流延開始位置と剥取位置とを結ぶ直線での距離ではなく、流延開始位置から剥取位置までのドラム60の周面に沿った周面上での距離である。第1硬化装置166は、流延位置からの距離が0.9×Dである位置から、剥取位置までのドラム60に対向するように配することがより好ましい。
【0087】
第1硬化装置166は、対向するドラム60上の流延膜46に紫外線を射出する。この第1硬化装置166により、ドラム60により案内されて剥取位置に向かう際に、第1硬化装置166を通過する流延膜46に対して紫外線が照射される。これにより、流延膜46中の硬化性化合物を半硬化させる。半硬化とは、硬化性化合物が、完全に硬化する前の状態である。硬化性化合物が完全に硬化しきってしまう前に、硬化を停止、すなわち硬化処理を終了することにより、硬化していない硬化性化合物や、硬化しても重合度が小さいままの重合体は、第2ドープ42側への拡散を以降も続け、混在層における重合体の濃度勾配の発現がより確実になる。
【0088】
この半硬化工程は、剥取以降における湿潤フィルム47の搬送が可能な程度で硬化を終了することが好ましい。これにより、混在層における重合体の濃度勾配の発現がさらに確実になる。
【0089】
なお、本実施形態では、流延膜46が通過する通過経路と第1硬化装置166とを覆うようにチャンバ(図示無し)を設けており、これにより、流延膜46から蒸発した気体の溶剤、すなわち溶剤ガスの爆発を防止する。
【0090】
流延膜46は、ローラ62による剥ぎ取りや、以降の搬送が可能な程度に乾燥と半硬化とをされると、ドラム60から剥ぎ取られる。溶剤を含んだ状態でドラム60から剥ぎ取った流延膜、すなわち湿潤フィルム47は、乾燥部52のテンタ76に案内される。
【0091】
乾燥室83の下流の第2硬化装置55は、対向するドラム60上の流延膜46に紫外線を射出する光源である。この第1硬化装置55により、案内されてきた乾燥フィルム51が巻取装置56に向かう際に、第2硬化装置55を通過する流延膜46に対して、紫外線を照射する。この照射により、完全には硬化していない硬化性化合物の硬化を、すすませる。硬化性化合物が、照射により重合するものである場合には、この重合の進行が硬化の進行にあたり、重合体の重合度のうち最大値が一定に保持されるようになったら完全に硬化したとみなしてよい。
【0092】
第2硬化装置55の紫外線の照射により、乾燥フィルム51の一方のフィルム面にはハードコートが形成される。
【0093】
また、製膜過程でハードコートを形成することにより、ハードコートは従来のハードコートフィルムにおけるよりも高い密着力を示す。また、流延膜46中で、第1ドープ41側から第2ドープ42側への硬化性化合物の拡散をすすめることにより、より高い硬度をもつハードコートフィルムが得られる。
【実施例】
【0094】
実施例1〜6では、図4に示すフィルム製造設備140により、ハードコートフィルム10を製造した。すなわち、実施例1〜6では、送風装置65による剥取前乾燥工程と、第1硬化装置166による半硬化工程と、テンタ66及び乾燥室73による剥取後乾燥工程と、第2硬化装置55による硬化工程とを実施した。製造したハードコートフィルム10は、ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和は、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して、10%のものである。
【0095】
流延方式は、冷却流延方式または乾燥流延方式とした。なお、冷却流延方式の場合であっても、送風装置65による送風は実施し、これにより流延膜46の乾燥もすすめた。各実施例の流延方式については、表1の「流延方式」欄に記載する。
【0096】
表1において、「半硬化工程開始時点における流延膜の残留溶媒量」(単位;質量%)は、乾量基準の値である。この値は、被測定物である流延膜46の質量をMB、流延膜46をほぼ完全に乾燥した後の質量をMAとするときに、{(MB−MA)/MA}×100で求める百分率である。この半硬化工程開始時点における流延膜の残留溶媒量は、第1硬化装置66の上流端の位置における残留溶媒量である。なお第1硬化装置66は、流延位置からの距離が0.9×Dである位置のドラム60周面に対向するように配した。また、表1には、ドラム62からの剥ぎ取り時点における流延膜の残留溶媒量を、「剥ぎ取り時点における流延膜の残留溶媒量(単位;質量%)」欄に記載する。
【0097】
得られたハードコートフィルム10について、硬度と、ハードコート11の密着力とを評価した。
【0098】
硬度の評価は、JIS K5600−5−4に準拠する鉛筆硬度試験により実施した。この試験では、まず、所定硬度の鉛筆を試験装置の鉛筆保持部にセットする。鉛筆の芯先で被測定物であるハードコートフィルム10のハードコート11を押す。押した状態で、作業者が、鉛筆保持部を0.5mm/s〜1mm/sの速度で少なくとも7mm変位させる。変位後のハードコート11を肉眼で見て、傷跡の有無を調べる。硬度がより高い、すなわちより硬い鉛筆に交換して、同様に傷跡の有無を調べる。このようにして硬度レベルを上げていき、傷跡の有無の確認をする。変位により芯先が触れた試験部位に、3mm以上の傷跡が生じるまで、硬度レベルを上げていく。傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度が鉛筆硬度試験結果である。
【0099】
硬度は、以下の基準で評価した。A〜Cが合格にあたり、Dが不合格にあたる。なお、表1中でA〜Dの各表記に続く( )内の記載は、各硬度レベルが確認された鉛筆の硬度である。
A:4H以上
B:3H
C:2H
D:2H未満
【0100】
密着力の評価は、前述のクロスカット試験(JIS D0202−1988に準拠)で実施した。
【0101】
密着力の評価基準は以下である。なお、A〜Cが合格にあたり、Dが不合格にあたる。
A:100/100
B:(95/100)以上(99/100)以下
C:(90/100)以上(94/100)以下
D:(90/100)未満
【0102】
実施例7〜10では、図3に示すフィルム製造設備40により、ハードコートフィルム10を製造した。すなわち、実施例7〜10では、実施例1〜6で実施した第1硬化装置166による半硬化工程を実施せずに、送風装置65による剥取前乾燥工程と、テンタ76及び乾燥室83による剥取後乾燥工程と、硬化装置55(図4における第2硬化装置にあたる)による硬化工程とを実施した。半硬化工程は実施しないので、表1の「半硬化工程開始時点における流延膜の残留溶剤量」の欄には「−」と記載する。その他の条件は実施例と同じものとし、ハードコートフィルムの製造を検討した。結果は表1に示す。なお、製造したハードコートフィルム10は、ハードコート11の厚みT11と混在層13の厚みT13との和は、ハードコートフィルム10の厚みTAに対して、10%のものである。
【0103】
【表1】

【符号の説明】
【0104】
10 ハードコートフィルム
40,140 フィルム製造設備
41 第1ドープ
42 第2ドープ
46 流延膜
47 湿潤フィルム
50,150 流延部
51 乾燥フィルム
52 乾燥部
55,166 硬化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のセルロースアシレートと紫外線の照射により硬化する硬化性化合物が硬化した重合体とを含むハードコートと、
第2のセルロースアシレートを含み、前記重合体を非含有とするフィルムベースと、
前記ハードコートと前記フィルムベースとの間に配され、前記重合体と前記第2のセルロースアシレートとが混在する混在層とを備え、
前記ハードコートと前記混在層との厚みの和が、ハードコートフィルムの厚みに対して少なくとも10%であることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記混在層における前記第2のセルロースアシレートの量は、前記ハードコートから前記フィルムベースに向かうに従い連続的に漸増し、前記混在層における前記重合体の量は、前記ハードコートから前記フィルムベースに向かうに従い連続的に漸減することを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
第1のセルロースアシレートと紫外線の照射により硬化する硬化性化合物とこの硬化性化合物の硬化を促進する硬化剤とを含み、前記硬化性化合物の濃度が7質量%以上28質量%以下の範囲である第1ドープが、第2のセルロースアシレートを含み前記硬化剤を非含有とする第2ドープに重なるように、前記第1ドープと前記第2ドープとを支持体上に共流延して、流延膜を形成する流延工程と、
前記流延膜を前記支持体から剥がす剥離工程と、
前記支持体から剥がした後の前記流延膜を乾燥する剥離後乾燥工程と、
前記支持体上の前記流延膜と前記支持体から剥がされた前記流延膜と前記剥離後乾燥工程以降の流延膜とのいずれかひとつに紫外線を照射して前記硬化性化合物を硬化する硬化工程とを有することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記硬化性化合物は、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとウレタンアクリレートとの少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項3記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記硬化工程における紫外線の照射は、前記剥離後乾燥工程により乾燥したフィルムに対して行うことを特徴とする請求項3または4記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記支持体上で流延膜を冷却してゲル化する冷却工程を有し、
この冷却工程の間に前記流延膜に気体を送り前記流延膜の露出面を固めることを特徴とする請求項3ないし5いずれか1項記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記支持体上の流延膜を乾燥し、流延膜が完全に乾燥する前に乾燥を終える剥離前乾燥工程と、
前記剥離前乾燥工程を経た前記支持体上の前記流延膜に紫外線を照射して前記硬化性化合物を半硬化する半硬化工程とを有することを特徴とする請求項5または6記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記流延工程では、前記第1ドープと前記第2ドープとを支持体上に連続的に共流延し、
前記剥離前乾燥工程は、前記支持体から連続的に剥ぎ取った後の搬送が可能な程度で、前記流延膜の乾燥を終了することを特徴とする請求項7記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記半硬化工程は、前記支持体から連続的に剥ぎ取った後の搬送が可能な程度で、前記硬化性化合物の半硬化を終了することを特徴とする請求項8記載のハードコートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−96523(P2012−96523A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45956(P2011−45956)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】