説明

バイアス回路を備えたパワーアンプ装置

【課題】ゲート電圧固定バイアス制御方式の歪み特性に優れている利点と、オートバイアス制御方式の個体差や温度変化によらずオペレーションのセット電流値を一定にすることが出来る利点を兼ね備えたパワーアンプ装置を提供する。
【解決手段】FETによる初段アンプ、後段アンプを含むパワーアンプと、入力段に第1のモニター抵抗を接続したオートバイアス回路とを備える。前記オートバイアス回路は前記初段アンプにだけオートバイアスを組み込むために、前記初段アンプ、後段アンプにそれぞれ、前記初段アンプのドレイン電流が一定になるようにセットされたゲート電圧がかかるように接続構成すると共に、主電源の電圧から前記初段アンプには前記第1のモニター抵抗を経由してドレイン電圧がかかり、かつ前記後段アンプには前記主電源の電圧を前記第1のモニター抵抗で分圧したドレイン電圧がかかるように接続構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイアス回路を備えたパワーアンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーアンプは、例えば送信装置について言えばその最終段に置かれ、装置全体の歪み特性を決めるために、パワーアンプのバイアスポイントは、もっとも歪み特性の良い動作点にセットすることが必要である。
【0003】
図4はパワーアンプを構成するFETのVd-Id(ドレイン電圧−ドレイン電流)特性の一例を示す。パワーアンプは、出力レベルが上がり、線形領域から飽和領域に近づくにつれて小信号動作から大信号動作になってくると、出力波形がクリッピングし、歪み特性が劣化するので、飽和領域で振幅が大きく歪み特性がよいA級動作点にバイアスをセットすることが望ましい。
【0004】
飽和領域で歪み特性が劣化しないパワーアンプのバイアス制御として、パワーアンプを構成するFETのゲート電圧を所望の電流値で固定する、ゲート電圧固定バイアス制御方式がある。ゲート電圧を固定してパワーアンプの電流値をA級動作点にセットした場合、飽和領域においてもA級動作点から変動させないので歪み劣化が少ない。
【0005】
しかし、図5に示すように、FETのVg-Id(ゲート電圧−ドレイン電流)特性は温度によって変化するため、ゲート電圧Vgを固定すると低温や、高温になった場合、セット電流値が変動してしまう。これによりバイアスポイントが変わってしまうので動作点がA級動作点からずれてしまい、歪み特性が劣化してしまう。
【0006】
また、図6に示すように、パワーアンプのドレイン−ソース間飽和電流Idssが範囲ΔIdss内(Idss1〜Idss2)、ピンチ・オフ電圧Vpが範囲ΔP内(Vp1〜Vp2)で個別のばらつきを持つ場合、範囲ΔIdssと範囲ΔVpの間でVg-Idカーブが変動するので、すべての個体を同じゲート電圧でA級動作点のバイアスポイントにセットすることは出来ない。
【0007】
この様に、ゲート電圧固定バイアス制御方式は歪み特性がよいメリットはあるが、個体差、温度変化によってセット電流値が変わるというデメリットがある。
【0008】
ゲート電圧固定バイアス制御方式の他に、パワーアンプのバイアス制御として任意の電流値に自動でバイアスをセットして、パワーアンプの電流値をセット値に一定に保つことが出来るオートバイアス制御方式がある。特許文献1には、オートバイアス回路を備えた通信装置に関する技術が記載されている。
【0009】
図7にオートバイアス回路の一例を示す。
【0010】
オートバイアス回路におけるオペアンプの出力電圧Voutは、送信装置等のパワーアンプを構成するFETのゲート電圧として使用する。
【0011】
主電源からの主電圧Vd21のラインにモニター抵抗Rm2が接続され、その両端電圧の高電位側が抵抗R1を介してオペアンプ40の反転入力端子に、低電位側が抵抗R2を介してオペアンプ40の非反転入力端子にそれぞれ接続されている。反転入力端子とグランドの間には抵抗R3、非反転入力端子とグランドの間には抵抗R4がそれぞれ接続されている。オペアンプ40の出力と反転入力端子の間には、抵抗R5と容量素子C1の並列回路が接続されている。
【0012】
オペアンプ40の出力電圧Voutはオペアンプ40の反転入力端子への入力電圧Vin-、非反転入力端子への入力電圧Vin+の差分で算出されるので、モニター抵抗Rm2を流れるモニター電流Imが増加すると入力電圧Vin-とVin+の電圧ドロップが大きくなり、出力電圧Voutの絶対値が大きくなる。一方、モニター電流Imが減少すると出力電圧Voutも小さくなる。
【0013】
このようにしてオートバイアス回路はモニター電流Imの増減に応じてオペアンプ40の出力電圧Voutが変動し、セット電流値を一定に保つことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−330934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、パワーアンプのバイアス回路として上記のようなオートバイアス回路を使用すると、セット電流値を一定にする制御を行っているので、図8の入力レベルPin−出力レベルPout及びドレイン電流値Id特性に示すように、飽和領域において電流が振れ込んだ時もセット電流値に戻そうとする制御がかかる。このときオートバイアス回路は振れ込んだ電流値を下げようとする動作をするので、ゲート電圧が深くかかり、セット電流値が下がることによりバイアスポイントからずれる。
【0016】
このことからパワーアンプを歪み特性の良いA級動作点にバイアスポイントをセットしても、飽和領域では動作点がずれてしまうので、歪み特性が劣化してしまう。
【0017】
この様にオートバイアス制御方式はFETの個体差、温度変化によらず電流値を一定に保つことが出来るメリットはあるが、飽和領域での歪み特性劣化のデメリットがある。
【0018】
本発明は、ゲート電圧固定バイアス制御方式の歪み特性に優れている利点と、オートバイアス制御方式の個体差や温度変化によらずオペレーションのセット電流値を一定にすることが出来る利点を兼ね備えたパワーアンプ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の態様によるパワーアンプ装置は、FETによる初段アンプ、後段アンプを含むパワーアンプと、入力段に第1のモニター抵抗を接続したオートバイアス回路とを備える。前記オートバイアス回路は前記初段アンプにだけオートバイアスを組み込むために、前記初段アンプ、後段アンプにそれぞれ、前記初段アンプのドレイン電流が一定になるようにセットされたゲート電圧がかかるように接続構成すると共に、主電源の電圧から前記初段アンプには前記第1のモニター抵抗を経由してドレイン電圧がかかり、かつ前記後段アンプには前記主電源の電圧を前記第1のモニター抵抗で分圧したドレイン電圧がかかるように接続構成した。
【0020】
上記のパワーアンプ装置においては、前記オートバイアス回路の入力段に前記第1のモニター抵抗が接続され、該オートバイアス回路の出力が前記初段アンプ、後段アンプに前記ゲート電圧として印加される。
【0021】
上記のパワーアンプ装置においてはまた、前記第1のモニター抵抗を可変抵抗とし、前記オートバイアス回路の前記入力段よりも前に、第2のモニター抵抗とスイッチング回路の並列回路を接続しても良い。
【0022】
なお、前記第1、第2のモニター抵抗はそれぞれ、前記初段アンプのFETのドレイン電流値、パワーアンプトータルの電流値をモニターするためのものであり、前記第2のモニター抵抗はセット完了後に前記スイッチング回路をオンにして前記オートバイアス回路から切り離される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ゲート電圧固定バイアス制御方式による、歪み特性に優れている利点と、オートバイアス制御方式による、FETの個体差や温度変化によらずオペレーションのセット電流値を一定にすることが出来る利点を兼ね備えたパワーアンプ装置を提供することができ、パワーアンプの個体差、温度変化による電流値の変化を補正し、歪み特性の劣化のないバイアス回路によるパワーアンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態による、オートバイアス回路を備えたパワーアンプ装置のブロック図である。
【図2】図1に示されたパワーアンプの入出力特性を説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による、オートバイアス回路を備えたパワーアンプ装置のブロック図である。
【図4】パワーアンプを構成するFETのドレイン電圧(Vd)−ドレイン電流(Id)特性を説明するための図である。
【図5】パワーアンプを構成するFETのゲート電圧(Vg)−ドレイン電流(Id)特性の温度特性について説明するための図である。
【図6】パワーアンプを構成するFETのドレイン−ソース間飽和電流Idss、ピンチ・オフ電圧Vpのばらつきによるゲート電圧(Vg)−ドレイン電流(Id)特性の変動について説明するための図である。
【図7】一般的なオートバイアス回路を示すブロック図である。
【図8】一般的なパワーアンプにおける、入力レベルPinに対する出力レベルPout及びドレイン電流値Idの関係を示した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
(構成)
図1は、本発明の第1の実施形態による、オートバイアス回路を備えたパワーアンプ装置のブロック図である。パワーアンプ装置は、パワーアンプ10とオートバイアス回路20を備える。パワーアンプ10は多段アンプ構成を有するが、ここでは説明を簡単にするために、パワーアンプ10が初段アンプ11と後段アンプ12を含み、無線周波数信号入力RFinを増幅して出力RFoutを出力する例について説明する。初段アンプ11、後段アンプ12はそれぞれFETを含んで構成されるが、構成自体は良く知られているので、ここでは、詳しい説明は省略する。オートバイアス回路20は、初段アンプ11と後段アンプ12のそれぞれにゲート電圧Vgを印加する。すなわち、オートバイアス回路20の出力は初段アンプ11を構成するFETのドレイン電流Id1が一定になるようにセットされたゲート電圧Vgがかかるように初段アンプ11、後段アンプ12にそれぞれ接続されている。
【0026】
主電源からの電圧Vdのラインにモニター抵抗(第1のモニター抵抗)Rm1が挿入、接続され、その両端がオートバイアス回路20の入力側に接続されている。オートバイアス回路20はパワーアンプ10の初段アンプ11にだけオートバイアスを組み込み、初段アンプ11、後段アンプ12にはドレイン電流値Id1が一定になるようにセットされたゲート電圧Vgがかかるように接続している。また、電圧Vdの主電源から、オートバイアス回路20にかかる初段アンプ11のドレイン電圧Vd1と、モニター抵抗Rm1で分圧した後段アンプ12のドレイン電圧Vd2がパワーアンプ10にかかるように接続している。これにより、モニター抵抗Rm1の高電位側から後段アンプ12へドレイン電圧Vd2が印加され、モニター抵抗Rm1の低電位側から初段アンプ11へドレイン電圧Vd1が印加される。つまり、初段アンプ11にはオートバイアス回路20にフィードがかかるように初段のドレイン電圧Vd1を接続している。
【0027】
モニター抵抗Rm1によりモニターする電流は初段アンプ11のドレイン電流Id1なので、オートバイアス回路20のモニター抵抗Rm1に、所望のオペレーション電流値の初段アンプ11のドレイン電流Id1が一定に流れるようにする。
【0028】
パワーアンプ10は、同一チップ内のFETであればドレイン−ソース間飽和電流値IdssはFETのゲート幅Wgに比例し、またピンチ・オフ電圧Vpはゲート幅によらず一定と考えられるので、パワーアンプの電流値はゲート幅によって決まる。
【0029】
ここで、パワーアンプ10における初段アンプ11のFETのゲート幅Wg1、後段アンプ12のFETのゲート幅Wg2、初段アンプ11のドレイン電流値Id1、後段アンプ12のドレイン電流値Id2とする。この場合、ドレイン電流値はゲート幅に比例するので、パワーアンプ10のトータル電流値Itotal = Id1+Id2とすると、初段アンプ11のドレイン電流値はId1 = [Wg1/Wg2]*Itotalから計算することが出来る。
【0030】
(動作)
多段アンプからなるパワーアンプの場合について考え、パワーアンプ10の初段アンプ11にだけオートバイアスを組み込むバイアス回路を設計する。
【0031】
初段アンプ11のドレイン電圧Vd1と後段アンプ12のドレイン電圧Vd2のバイアス回路を切り分けて接続する。
【0032】
パワーアンプ10は初段アンプ11の歪みの寄与を少なくするために、初段アンプ11より後段アンプ12の方が早く飽和領域に達し電流変化量も大きいので、図2に示すように出力レベルPoutが上がりパワーアンプ10が飽和領域に達して同じICチップ内で後段アンプ12の電流が振れ込んでも、初段アンプ11のドレイン電流Id1は線形領域であるので電流変化量が少ない。
【0033】
よって初段アンプ11にだけオートバイアス回路を組み込んでドレイン電流値を一定にしても、飽和領域においてA級動作点にセットしたバイアスポイントのずれが少ない。
【0034】
温度変化によりパワーアンプ10のドレイン電流がセット電流値に対してずれが生じはじめても、オートバイアス回路20によりドレイン電流値Id1が一定に保たれる。
【0035】
パワーアンプ10の初段アンプ11のFETのゲート幅Wg1、後段アンプ12のFETのゲート幅Wg2は同一チップ内であれば製造プロセスの差異によるピンチ・オフ電圧Vpのばらつきは同じ特性であると考えられるので、初段アンプ11のドレイン電流値Id1と後段アンプ12のドレイン電流値Id2はそれぞれのゲート幅に比例する。
【0036】
よって温度によらずドレイン電流値Id1を一定に保ち、このときのゲート電圧Vgを後段アンプ12にかけることで、ドレイン電流値Id2の温度による変化を抑えることができる。
【0037】
(実施形態の効果)
上記実施形態によるパワーアンプ装置を用いれば、ゲート電圧固定バイアスとオートバイアス回路のメリットを生かすことが可能で、パワーアンプの歪み特性を劣化させることなく、かつ温度特性、個体差によらずセット電流値を一定にすることが出来る。
【0038】
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態として、可変抵抗を用いたオートバイアス回路を備えたパワーアンプ装置のブロック図である。
【0039】
オートバイアス回路20の入力段よりも前(高電位側)にパワーアンプトータルの電流Itotalをモニターできるようにモニター抵抗(第2のモニター抵抗)Rm3を設置している。
【0040】
初段アンプ11のドレイン電流値Id3と後段アンプ12のドレイン電流値Id4はそれぞれのFETのゲート幅Wg1、Wg2に比例するので、オートバイアス回路20の入力段に接続したモニター抵抗を可変抵抗Rvにして、この抵抗値を変化させてパワーアンプトータルの電流Itotalを所望のセット電流値に合わせ、このときの初段アンプ11のドレイン電流値Id3を一定にすることで後段アンプ12のドレイン電流値Id4も温度によらず一定にすることができる。
【0041】
セット完了後は飽和時に電圧ドロップが生じないように、モニター抵抗Rm3に並列に接続したスイッチング回路SWをオンとすることにより、モニター抵抗Rm3をオートバイアス回路20から切り離す。
【0042】
セット電流値に対して初段アンプと後段アンプのゲート幅に正比例するものとしてドレイン電流値を算出してオートバイアスを設計すると、同一チップ内のFETであれば製造プロセスの差異によるピンチ・オフ電圧Vpのばらつきは同じ特性であると考えられるが、チップ箇所により初段アンプと後段アンプでピンチ・オフ電圧Vpが異なった場合、セット電流値とずれてしまう。また、後段になるほどゲート幅が広がり、ゲート幅から算出したセット電流値とのずれが大きくなる。
【0043】
回路構成は複雑になるが、本実施形態の方法でバイアスセットを行えば、パワーアンプトータルの電流値をモニターしながらセット電流値にバイアスを合わせるので、ピンチ・オフ電圧Vpが初段アンプと後段アンプで差異があった場合に、セット電流値とのずれを少なく出来る効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
10 パワーアンプ
11 初段アンプ
12 後段アンプ
20 オートバイアス回路
SW スイッチング回路
40 オペアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FETによる初段アンプ、後段アンプを含むパワーアンプと、入力段に第1のモニター抵抗を接続したオートバイアス回路とを備えたパワーアンプ装置であって、
前記オートバイアス回路は前記初段アンプにだけオートバイアスを組み込むために、前記初段アンプ、後段アンプにそれぞれ、前記初段アンプのドレイン電流が一定になるようにセットされたゲート電圧がかかるように接続構成すると共に、主電源の電圧から前記初段アンプには前記第1のモニター抵抗を経由してドレイン電圧がかかり、かつ前記後段アンプには前記主電源の電圧を前記第1のモニター抵抗で分圧したドレイン電圧がかかるように接続構成したことを特徴とするパワーアンプ装置。
【請求項2】
前記オートバイアス回路の入力段に前記第1のモニター抵抗が接続され、該オートバイアス回路の出力が前記初段アンプ、後段アンプに前記ゲート電圧として印加されることを特徴とする請求項1に記載のパワーアンプ装置。
【請求項3】
前記第1のモニター抵抗を可変抵抗とし、前記オートバイアス回路の前記入力段よりも前に、第2のモニター抵抗とスイッチング回路の並列回路を接続したことを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーアンプ装置。
【請求項4】
前記第1、第2のモニター抵抗はそれぞれ、前記初段アンプのFETのドレイン電流値、パワーアンプトータルの電流値をモニターするためのものであり、前記第2のモニター抵抗はセット完了後に前記スイッチング回路をオンにして前記オートバイアス回路から切り離しされることを特徴とする請求項3に記載のパワーアンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−244559(P2012−244559A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115352(P2011−115352)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】