説明

バイオセンサー

【課題】非侵襲で且つ連続的にバイオマーカーを測定するバイオセンサーを実現できるようにする。
【解決手段】バイオセンサーは、バイオマーカーの濃度に応じて体積が変化する第1のゲル膜111及び、第1のゲル膜111と比べてバイオマーカーの濃度に対する体積の変化が小さい第2のゲル膜112を有する反応部101と、素子搭載面の上に反応部101を搭載し、第1のゲル膜111の体積の指標と、第2のゲル膜112の体積の指標との差を検出する検出部102とを備えている。第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とは、互いに並行に配置され且つ接続部113において互いに接続されている。検出部102は、接続部113から第1のゲル膜111における第1の部位115までの第1の長さと、接続部113から第2のゲル膜112における第2の部位までの第2の長さとの差を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサーに関し、特に皮膚表面に分泌されたバイオマーカーを連続的に測定するバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
診断のために種々のバイオマーカーの測定が行われている。バイオマーカーを測定することにより、迅速で正確な診断が可能となる。しかし、バイオマーカーは、種々の要因によってその濃度が変化する。このため、ある時点におけるバイオマーカーの濃度を測定しただけでは、正確な評価が行えない場合がある。従って、バイオマーカーを連続的に測定することが求められている。
【0003】
例えば、生活習慣病のバイオマーカーである血糖は、日内変動が大きい。このため、血糖値自己管理等の場合には血糖値を食後の所定の時間に測定することが求められる。しかし、現在の血糖計においては、測定の準備及びかたづけを含めると数分から十分程度の時間を必要とする。また、穿刺採血を行う必要もあり外出先等においては測定が困難であり、一定の測定条件を維持できないことがある。また、低血糖症状は糖尿病患者にとって大きなリスクであるが、1日数回の血糖値測定ではリスク管理が十分にできるとは言い難い。
【0004】
連続的に血糖値を測定する方法として、酵素電極埋め込み方法等が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかし、この場合には、電極の埋め込みが必要であり、穿刺採血を必要とはしないが、通常の血糖計以上に侵襲性が高い。また、経皮イオントフォレシス方式による血糖値測定も検討されているが、イオントフォレシスの電気刺激により皮膚に損傷を受ける(例えば、特許文献2を参照。)。このため、結果的に非侵襲測定ということはできない。
【0005】
このような問題は、血糖だけではなく、中性脂肪、コレステロール及びストレスマーカーといった他のバイオマーカーの測定においても同様に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−265444号公報
【特許文献2】特開2004−141332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、バイオマーカーの測定においては、非侵襲で且つ連続的に測定するためのセンサーが求められている。一方、血中に含まれるグルコース等のバイオマーカーは、自然拡散により皮膚表面に移動する。このため、皮膚表面におけるバイオマーカーを測定することにより、非侵襲的にバイオマーカーの測定が可能になると期待される。しかし、皮膚表面は、気温変化又は体温変化等に伴う温度変化や、発汗等による化学的な外乱要因が多く、高精度の測定が困難である。本願発明者らは、鋭意検討の結果、これらの外乱要因の影響を補償し、精度良く且つ連続的に皮膚表面におけるバイオマーカーを測定できることを見出した。
【0008】
本発明は、本願出願人らが見出した知見に基づき、非侵襲で且つ連続的にバイオマーカーを測定するバイオセンサーを実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明はバイオセンサーを皮膚表面に配置した2つのゲル膜の体積の差により、バイオマーカーの濃度を測定する構成とする。
【0010】
具体的に、本発明に係るバイオセンサーは、皮膚表面に分泌されるバイオマーカーの濃度に応じて体積が変化する第1のゲル膜及び、第1のゲル膜と比べてバイオマーカーの濃度に対する体積の変化が小さい第2のゲル膜を有する反応部と、素子搭載面の上に反応部を搭載し、第1のゲル膜の体積の指標と、第2のゲル膜の体積の指標との差を検出する検出部とを備え、第1のゲル膜と第2のゲル膜とは、互いに並行に配置され且つ接続部において互いに接続されており、検出部は、接続部から第1のゲル膜における第1の部位までの第1の長さと、接続部から第2のゲル膜における第2の部位までの第2の長さとの差を検出する。
【0011】
本発明のバイオセンサーは、皮膚表面に分泌されるバイオマーカーの濃度に応じて体積が変化する第1のゲル膜及び、第1のゲル膜と比べてバイオマーカーの濃度に対する体積の変化が小さい第2のゲル膜を有する反応部と、第1のゲル膜の体積の指標と、第2のゲル膜の体積の指標との差を検出する検出部とを備えている。このため、バイオマーカー以外の要因により生じるゲルの体積の変化を補償し、皮膚表面におけるバイオマーカーの量を正確に測定することができる。また、第1のゲル膜と第2のゲル膜とは、互いに並行に配置され且つ接続部において互いに接続されているため、接続部から第1のゲル膜における第1の部位までの第1の長さと、接続部から第2のゲル膜における第2の部位までの第2の長さとの差を検出することにより、バイオマーカーによるゲルの体積変化を検出することができる。従って、既存の半導体技術により形成したセンサーにより、ゲルの体積変化を容易に検出することができる。また、小型化も容易となる。従って、非侵襲で且つ連続的にバイオマーカーを測定することが可能となる。
【0012】
本発明のバイオセンサーにおいて、反応部は、第2のゲル膜における第2の部位が搭載面の上に固定され、検出部は、第1の部位の搭載面の上における位置を検出するセンサーを有している構成としてもよい。
【0013】
本発明のバイオセンサーにおいて、第1の部位は、磁性粒子を含み、センサーは、ホール素子としてもよい。
【0014】
本発明のバイオセンサーにおいて、第1の部位は、第1のゲル膜の他の部位よりも導電性が高く、センサーは、素子搭載面の上に互いに間隔をおいて設けられ、第1のゲル膜と同じ方向に延び、第1の部位を介して互いに電気的に接続された第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、第1の電極パッド、第1の部位及び第2の電極パッドにより形成される経路の抵抗値を測定する抵抗測定部とを有している構成としてもよい。
【0015】
本発明のバイオセンサーにおいて、第1の部位は、金属膜を含み、センサーは、金属膜と対向して設けられた金属配線と、金属膜と金属配線との間の静電容量を測定する静電容量測定部とを有している構成としてもよい。
【0016】
本発明のバイオセンサーにおいて、第1の部位は、第1のゲル膜の他の部位よりも透磁率が高く、センサーは、第1のゲル膜の両側方に設けられた第1の誘導コイル及び第2の誘導コイルと、第1の誘導コイルと第2の誘導コイルとの間の相互インダクタンスを測定する相互インダクタンス測定部とを有している構成としてもよい。
【0017】
本発明のバイオセンサーにおいて、第1の長さは、バイオマーカーの濃度が0の場合に第2の長さと等しいことが好ましい。
【0018】
本発明のバイオセンサーにおいて、第1の部位は、第1のゲル膜における一方の端部であり、第2の部位は、第2のゲル膜における第1の位置と同じ側の端部としてもよい。
【0019】
本発明のバイオセンサーにおいて、反応部は、検出部の上に複数搭載されており、検出部は、複数の反応部のそれぞれに対応してセンサーを複数有していてもよい。
【0020】
本発明のバイオセンサーにおいて、バイオマーカーは、グルコースであり、第1のゲル膜は、フェニルボロン酸基又はその誘導体を含む構成としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るバイオセンサーによれば、非侵襲で且つ連続的にバイオマーカーを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態に係るバイオセンサーの反応部を示す平面図である。
【図2】固定部において固定された反応部の動きを示す平面図である。
【図3】(a)及び(b)は一実施形態に係るバイオセンサーを示し、(a)は平面図であり、(b)はIIIb−IIIb線における断面図である。
【図4】(a)及び(b)は一実施形態に係るバイオセンサーの変形例を示し、(a)は平面図であり、(b)はIVb−IVb線における断面図である。
【図5】(a)及び(b)は一実施形態に係るバイオセンサーの変形例を示し、(a)は平面図であり、(b)はVb−Vb線における断面図である。
【図6】(a)及び(b)は一実施形態に係るバイオセンサーの変形例を示し、(a)は平面図であり、(b)はVIb−VIb線における断面図である。
【図7】一実施形態に係るバイオセンサーの変形例を示す平面図である。
【図8】グルコース濃度とゲルの重量との相関を示すグラフである。
【図9】グルコース濃度と、第1のゲル膜の長さと第2のゲル膜の長さとの差との相関を示すグラフである。
【図10】測定に用いた反応部を形成するための鋳型を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書においてゲルとは、3次元網目構造を有する高分子からなる分散質が、水等の分散媒を保持している構造をいう。以下の説明においては、分散媒が水である場合について説明するが、分散媒は水に限らない。
【0024】
本実施形態においては、バイオマーカーとして血糖(グルコース)を例に挙げて説明する。
【0025】
まず、本実施形態のバイオセンサーにおいてグルコース濃度を測定する原理について説明する。グルコースは、中性の低分子である。従って、電気刺激等を積極的に与えなくても自然拡散により血液中から拡散して皮膚表面に移動する。このため、血中のグルコース濃度と、皮膚表面に存在するグルコースの量との間には相関があり、皮膚表面に存在するグルコースの量を測定することにより、血中のグルコース濃度(血糖値)を求めることが可能となる。
【0026】
フェニルボロン酸は、通常は荷電型と非荷電型との間で平衡状態となっている。グルコースが存在すると、荷電型のフェニルボロン酸とグルコースとが荷電型錯体を形成する。グルコースの存在量が増加すると、フェニルボロン酸の平衡状態は、荷電型に偏る。このため、フェニルボロン酸基を導入したゲルは、グルコースが存在するとゲル内の荷電基が増加し、ゲル内の浸透圧が上昇するため、体積が増加する(膨潤する)。皮膚の表面にフェニルボロン酸を導入したゲルを皮膚表面に貼り付けると、皮膚表面に存在するグルコースの量に応じて、ゲルの体積が変化する。従って、ゲルの体積を測定することにより血糖値を求めることができると期待される。
【0027】
しかし、ゲルの体積はグルコース濃度以外の、温度、水分量、塩濃度及び水素イオン濃度(pH)等の要因によっても変化する。このため、皮膚表面に存在するグルコースの量を正確に測定するためには、グルコース以外の要因による体積の変化を補償する必要がある。フェニルボロン酸基を導入していないゲルは、グルコースによる体積の変化はほとんど生じない。一方、温度、水分量及び塩濃度等による体積の変化は、フェニルボロン酸基を導入したゲルとほぼ同じになる。また、フェニルボロン酸をモノエステルとしたグルコースに対する応答性を有していない誘導体を導入したゲルは、フェニルボロン酸基を導入したゲルとpHによる体積変化をほぼ等しくすることができる。
【0028】
このため、フェニルボロン酸基を導入していないゲル又はグルコースに対する応答性を有していないフェニルボロン酸の誘導体を導入したゲル等をリファレンスとして、フェニルボロン酸を導入したゲルの体積変化を補正すれば、グルコース以外の要因による体積の変化を補償し、血糖値を正確に測定することができる。例えば、フェニルボロン酸基を導入したゲルとフェニルボロン酸基を導入していないゲルとを皮膚表面に貼り付け、両者の体積の差を測定すればよい。
【0029】
本実施形態のバイオセンサーは、図1に示すように、互いに間隔をおいて並行に配置された第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とが、接続部113において接続された反応部101を用いて血糖値を測定する。第1のゲル膜111は、フェニルボロン酸基等のグルコースと反応する官能基を有し、グルコース濃度に応じて体積(膨潤度)が変化する。第2のゲル膜112は、グルコースと反応する官能基を有しておらず、グルコース濃度によっては体積がほとんど変化しない。第1のゲル膜111は、例えばアクリルアミドフェニルボロン酸(AAPBA)とアクリルアミド(AAm)との共重合体(ポリAAPBA−AAm)のゲルとすればよい。第2のゲル膜112はAAmの重合体(ポリAAm)のゲルとすればよい。
【0030】
反応部101を被験者の皮膚表面に貼り付けると、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112の体積は、温度、水分量及び塩濃度等に応じてほぼ同じだけ変化する。また、皮膚表面に存在するグルコースの量に応じて第1のゲル膜111の体積が変化する。第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112の体積の変化は、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112の長さの変化として検出することができる。従って、第1のゲル膜111の長さの変化ΔL1は、皮膚表面のグルコースの量及び体温の変動及び発汗の影響等の変動要因の合計を表し、第2のゲル膜112の長さの変化ΔL2は、体温の変動及び発汗の影響等の変動要因を表している。従って、第1のゲル膜111の長さL1と第2のゲル膜112の長さL2との差L1−L2を測定することにより、変動要因の影響をほとんど受けることなく、皮膚表面におけるグルコースの量を検出することができる。さらに、皮膚表面のグルコースの量から、血糖値を求めることができる。
【0031】
本実施形態の反応部101は、第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とが、互いに間隔をおいて並行に配置されており、一方の端部が接続部113により接続されている。このため、接続部113を固定した状態において、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112における接続部113と反対側の末端の位置を測定すれば、第1のゲル膜111の長さと第2のゲル膜112の長さとの差を求めることができる。
【0032】
また、図2に示すように第2のゲル膜112における接続部113と反対側の末端の位置を固定した状態とすれば、第1のゲル膜111の接続部113と反対側の末端の位置を測定するだけで、第1のゲル膜111の体積と第2のゲル膜112の体積との差を求めることができる。
【0033】
第2のゲル膜112の接続部113と反対側の末端は、位置が固定された固定部114であるため、第2のゲル膜112の体積が変化すると、第2のゲル膜112の接続部113側の末端の位置は、図2の−方向に移動する。接続部113において第2のゲル膜112と接続されている第1のゲル膜111も同様に移動する。温度、水分量又は塩濃度等が変化した場合には、第1のゲル膜111の体積の変化と第2のゲル膜112の体積の変化とはほぼ等しくなるため、第1のゲル膜111の接続部113と反対側の末端の位置は移動しない。一方、グルコース濃度が上昇した場合には、第1のゲル膜111の体積変化は、第2のゲル膜の体積変化よりも大きくなる。このため、第1のゲル膜111の接続部113と反対側の末端は、図2の+方向に移動する。従って、第1のゲル膜111の接続部113と反対側の末端の位置の変化量を測定すれば、第1のゲル膜111の長さL1と第2のゲル膜L2の長さの差L1−L2を求めることができる。これにより、温度、水分量又は塩濃度等の変化を補償した血糖値を求めることができる。
【0034】
なお、第2のゲル膜112の接続部113と反対側の末端を固定部114とする場合について説明したが、固定部114は必ずしも末端である必要はない。固定部114は第2のゲル膜112の任意の位置に設けることができる。固定部114が末端でない場合には、固定部114よりも接続部113側の部分は図2の−方向に移動し、接続部113と反対側の部分は+方向に移動する。このため、固定部114が末端でない場合には、補正が必要となる。しかし、固定部114と末端との位置のずれが小さい場合には誤差として無視することができる。
【0035】
また、第1のゲル膜111の末端部の位置の変化を測定する場合について説明したが、第1のゲル膜111はほぼ均一に膨張するため、第1のゲル膜111の任意の部位についてその位置の変化を測定すればよい。
【0036】
接続部113の位置も末端である必要はない。第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とが、任意の箇所において接続されていればよい。但し、接続部113と、位置の変化を測定する部位との間隔が大きい方が測定が容易となる。接続部113は、第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とが接続されていればどのような構成としてもよい。第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とが基本骨格が同じポリマーである場合には、モノマーを重合して第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112を形成する際に、接続部となる部分においてモノマーの相互拡散が生じるようにすれば容易に接続部113を形成することができる。また、接着材等により第1のゲル膜111と第2のゲル膜112とを接着してもよい。
【0037】
具体的には図3に示すように、反応部101を検出部102の上に配置したグルコースセンサーとすればよい。検出部102は、基板(図示せず)の上にホール素子122が形成された半導体チップとすればよい。半導体チップは、封止樹脂124等により封止されている。また、第1のゲル膜111は、接続部113と反対側の末端に磁性体の微粒子が埋め込まれた測位部115を有している構成とする。樹脂封止された検出部102の上面(反応部搭載面)には、第2のゲル膜112を固定するための固定ピン125が設けられている。第2のゲル膜112の接続部113と反対側の末端は、ホール素子122の上に位置するように固定ピン125により固定されており、第1のゲル膜111の測位部115もホール素子122の上に位置している。このような構成とすることにより、測位部115の位置をホール素子122により検出することができる。予め検量線を作成しておくことにより、測位部115の位置からグルコース濃度を求めることができる。半導体チップ121に、検量線の記憶部、演算部及び表示装置の駆動部等を設けておけば、グルコース濃度を容易に測定することができる。また、半導体チップ121に無線通信機能を付与し、得られたデータを別に設けられた測定機器本体に送信する構成としてもよい。この場合には、検量線の当てはめ等の演算は測定機器本体において行ってもよい。
【0038】
測位部115に添加する磁性体の微粒子は、磁荷を帯びていればどのようなものであってもよい。例えば、フェライト等の強磁性体微粒子等とすればよい。図3においては第2のゲル膜112を固定ピン125により固定する方法を示したが、どのような方法により固定してもよい。例えば、接着剤等により反応部搭載面の上に固定してもよい。但し、固定ピン125により固定すれば、反応部101の交換を容易に行うことができる。また、固定ピン125はどのような方法により形成してもよいが、検出部102が樹脂封止された半導体チップである場合には、封止樹脂にバリを発生させることにより容易に固定ピン125を形成することができる。
【0039】
図8においては、測位部の位置をホール素子122により検出する例を示したが、測位部の位置を他の方法により検出してもよい。例えば、図4に示すように測位部の位置を電気的に検出する構成としてもよい。この場合、図4に示すように検出部102である半導体チップの上面には、互いに間隔をおいて平行に延びる第1の電極パッド131及び第2の電極パッド132が設けられている。第1の電極パッド1には定電流電源134及び電圧検出部135が接続されており、第2の電極パッド132は接地されている。第1のゲル膜111の接続部113と反対側の端部には、金属微粒子、グラファイト若しくはカーボンファイバー等の炭素微粒子又はその他の導電性微粒子等を埋め込んだ高電気伝導部である測位部116が設けられている。測位部116は、第1のゲル膜111の他の部分と比べて電気伝導度が高ければよい。
【0040】
第1のゲル膜111は、第1の電極パッド131及び第2の電極パッド132の上に配置されており、高電気伝導部である測位部116により第1の電極パッド131と第2の電極パッド132とは電気的に接続されている。このため、測位部116の位置が変化すると、第1の電極パッド131の所定の位置から第2の電極パッド131の所定の位置までの経路の長さが変化し、経路の抵抗値が変化する。このため、経路の抵抗値を検出部102に設けた抵抗値測定部により測定すれば、測位部116の位置を検出することができる。
【0041】
図4において、抵抗値測定部は定電流電源134及び電圧検出部135を有している。図4において第1の電極パッドの一端に、定電流電源134が接続され、第2の電極パッドの一端が接地されているため、経路の抵抗値の変化は電圧の変化として現れる。このため、電圧検出部135により経路に印加されている電圧を測定することにより、測位部116の位置を検出することができる。
【0042】
図4は、第1の電極パッド131及び第2の電極パッド132が、半導体チップの素子搭載面の上に設けられ、第1のゲル膜111の底面と接する例を示したが、第1の電極パッド131及び第2の電極パッド132は測位部116を介して導通すればよい。このため、第1の電極パッド131及び第2の電極パッド132の少なくとも一方が素子搭載面から突出しており、第1のゲル膜111の側面と接するような構成としてもかまわない。また、定電流電源134及び電圧検出部135は、第1の電極パッド131、測位部116及び第2の電極パッド132により形成される経路に一定の電流を供給し、経路に印加される電圧の変化を検出できればどのように接続されていてもよい。
【0043】
図5に示すように、静電容量により測位部の位置を検出してもよい。この場合、図5に示すように検出部102である半導体チップには、金属配線141が埋め込まれており、第1のゲル膜111の末端部には金属膜117Aが埋め込まれた測位部117が設けられており、第1のゲル膜111は金属配線141の上方に配置されている。測位部117の位置が移動すると、金属配線141と金属膜117Aとの対向する部分の面積が変化し、金属配線141と金属膜117Aとの間の静電容量が変化する。このため、検出部102に設けた静電容量測定部により金属配線141と測位部117との間の静電容量を測定することにより、測位部117の位置を検出することができる。
【0044】
図3において静電容量測定部は、金属配線141に接続された定電圧電源142及び電流検出部143を有している。電流検出部143は接地されており、金属膜117Aは被験者の体を介して接地されているため、金属配線141と金属膜117Aとの間の静電容量の変化は電流値の変化として現れる。従って、電流の値から測位部117の位置を検出することができる。
【0045】
図6に示すように、透磁率により測位部の位置を検出してもよい。この場合、図6に示すように検出部102である半導体チップには互いに対向する第1の誘導コイル151及び第2の誘導コイル152が設けられており、第1のゲル膜111の末端部には磁性粒子等を含む高透磁率部である測位部118が設けられており、第1のゲル膜111は第1の誘導コイル151及び第2の誘導コイル152の間に配置されている。測位部118の位置が移動すると、相互インダクタンスが変化する。このため、第1の誘導コイル151と第2の誘導コイル152との間の相互インダクタンスを検出部102に設けた相互インダクタンス測定部により測定すれば、測位部118の位置が検出できる。
【0046】
図6において相互インダクタンス測定部は、第1の誘導コイル151に接続された交流電源154と、第2の誘導コイル152に接続された電流検出部155とを有している。従って、相互インダクタンスの変化は、第2の誘導コイル152に流れる電流の変化として現れ、電流の変化を検出すれば、測位部118の位置を検出することができる。
【0047】
この他、第1のゲル膜111の膨潤による変位を測定できればどのような方法により測定を行ってもよい。例えば、温度変化を利用する方法等であってもよい。また、測位部を第1のゲル膜111の末端部に設ける場合について説明したが、測位部を末端に設ける必要はない。第1のゲル膜111の任意の位置に設けることができる。
【0048】
なお、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112の両方に測位部を設け、両方の測位部の位置を検出してもかまわない。この場合には、接続部113を固定すればよい。第1のゲル膜111の測位部と第2のゲル膜112の測位部とは、グルコースが存在していない場合に等しくなるように設定することが好ましい。しかし、異なっていてもかまわない。
【0049】
本実施形態のバイオセンサーは、ゲルにより形成された反応部を被験者の皮膚に貼り付けておくだけで、血糖値を測定することができる。このため、被験者への負担が少なく連続的に測定を行うことができる。連続的に収集したデータは、半導体チップ121にメモリ部等を設け蓄積すればよい。また、半導体チップ121に無線通信機能を付加し、診断機器等にデータを無線送信してもよい。例えば、ボディーエリアネットワーク等を用いて、バイオセンサーとは別に設けた携帯端末にデータを送信する構成とすればバイオセンサーをさらに小型化し、バイオセンサーの装着による違和感をより低減することができる。
【0050】
血糖値の変化をリアルタイムで追跡するためには、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112の内部へグルコースが迅速に拡散することが好ましい。また、温度変化等も迅速に第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112伝わることが好ましい。このため、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112は、できるだけ小さくすることが好ましい。特に、厚さを薄くした方が応答性が向上する。しかし、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112を微細化すると、第1のゲル膜111及び第2のゲル膜112の体積の変化量の絶対値も小さくなる。このため、測定誤差が大きくなるおそれがある。このため、図7に示すように、複数の反応部101を検出部102の上に設ける構成としてもよい。検出部102は、反応部101のそれぞれに対応するホール素子122を有している。複数の反応部101の変化を積算することにより反応部101を微細化した場合にも精度良く血糖値を測定することが可能となる。なお、ホール素子以外のセンサーを用いる構成としてもよい。
【0051】
例えば、1mm角程度の半導体チップである検出部102の上に、5×5個程度のマトリックス状に反応部101を配置すればよい。このようにすれば、各反応部101のサイズは0.1mm角程度とすることができる。第1のゲル膜111は、グルコース濃度の変化により1%〜10%程度の体積の変化が生じるため、十分に検出することが可能である。
【0052】
検出部102の上に複数の反応部101を配置する場合には、検出部102に各反応部101のデータを積算したり、平均を求めたりする演算部を設けてもよい。また、演算部はバイオセンサーとは別に設けてもよい。検出部は、測位部の位置の読み取りと、読み取ったデータを無線通信等により測定器本体に転送し、測定器本体において各種のデータ処理を行うようにした方が、バイオセンサーの小型化及び低消費電力化に有利である。
【0053】
第1のゲル膜111は、フェニルボロン酸基を有する、高分子のゲルにより形成すればよい。例えば、4−(ジヒドロキシボロノ)スチレン、3−(メタ)アクリルアミドフェニルボロン酸、N−(4’−ビニルベンジル)−4−フェニルボロン酸カルボキサミド、3−((メタ)アクリルアミジルグリシルアミド)フェニルボロン酸、3−(メタ)アクリルアミド−2−トリフルオロメチルフェニルボロン酸、3−(メタ)アクリルアミド−4−ペンタフルオロエチルフェニルボロン酸、5−(メタ)アクリルアミド−2−ヘプタフルオロプロピルフェニルボロン酸、5−((メタ)アクリルアミジルグリシルアミド)−2−ヘプタフルオロプロピルフェニルボロン酸、5−(メタ)アクリルアミド−2,4,6−ビス(ヘプタフルオロプロピル)フェニルボロン酸、3−(メタ)アクリルアミド−2−(1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロピル)フェニルボロン酸、3−(メタ)アクリルアミド−4−(1−クロロ−1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロピル)フェニルボロン酸、又は5−(メタ)アクリルアミド−2−(ペルフルオロ−1,4−ジメチル2,5−ジオキサオクチル)フェニルボロン酸等のモノマーを、他のモノマーと共重合した共重合体からなるゲルにより形成すればよい。共重合するモノマーは、基本構造が同じで側鎖にフェニルボロン酸基を有していないモノマーとすればよい。また、フェニルボロン酸の一部にフッ素等が導入されたフェニルボロン酸の誘導体等が導入されたモノマーを共重合した共重合体としてもよく、フェニルボロン酸基に代えてボロン酸基を含有している共重合体であってもよい。さらに、グルコースと結合してゲル内に荷電基を増加させることができれば、どのような官能基であってもよい。
【0054】
第2のゲル膜112は、温度、水分量、塩濃度及びpH等による体積の変化が第1のゲル膜111と等しく、グルコースにより体積の変化が生じないことが好ましい。但し、温度、水分量、塩濃度及びpH等による体積の変化が第1のゲル膜111と完全に一致している必要はない。また、グルコースによる体積変化が、完全に0でなくても、第1のゲル膜111よりも小さければよい。第2のゲル膜112は、基本骨格が第1のゲル膜111と同一で、側鎖にフェニルボロン酸基等を有していない重合体とすればよい。また、基本骨格が第1のゲル膜111と同一で、側鎖にグルコースに対する応答性を有していないフェニルボロン酸の誘導体等を導入した重合体としてもよい。但し、第1のゲル膜111とは全く異なった基本骨格を有する重合体であってもよい。
【0055】
具体的に、ポリAAPBA−AAmゲルのグルコースによる変化を測定した結果を以下に示す。ポリAAPBA−AAmゲルを水素イオン濃度(pH)が8.6のグルコース溶液に浸漬したところ、図8に示すように、グルコース濃度に応じてゲルの重量が増加することが確認された。なお、測定には、厚さが1mm、直径が3mmの円盤状に成型したゲルを8枚ずつ用いた。グルコース溶液への浸漬時間は90分間とし、溶液から取り出した直後の重量を電子天秤により測定した。
【0056】
次に、ポリAAPBA−AAmゲルからなる第1のゲル膜111と、ポリAAmゲルからなる第2のゲル膜112とを有する反応部101を形成し、第1のゲル膜111の長さL1と第2のゲル膜112の長さL2との差L1−L2を測定した結果を図9に示す。
【0057】
測定に用いたゲルは、図10に示すような鋳型を用いて形成した。まず、鋳型のA部分にAAm水溶液を注入し、重合開始剤を加えて重合を開始した。重合開始から5分後、AAPBA、AAm及び重合開始剤を含む混合水溶液を鋳型のB部分に注入した。A部分に注入されたAAmの未重合モノマーと、B部分に注入されたAAPBA及びAAmのモノマーとが互いに水溶液中を拡散しながら重合される。このため、ポリAAPBA−AAmからなる第1のゲル膜111とポリAAmからなる第2のゲル膜とを接続する接続部113が形成される。
【0058】
得られた反応部101をpH8.6のグルコース水溶液に3時間浸漬した後、第1のゲル膜111の長さL1と第2のゲル膜112の長さL2とを測定しその差L1−L2を求めた。図9に示すように、グルコース濃度に応じてL1−L2の値が変化した。
【0059】
このように、第1のゲル膜111と第2のゲル膜112との長さの差を測定することにより、グルコース以外の外的要因の影響をほとんど受けることなく、血糖値を正確に測定できることは明らかである。
【0060】
本実施形態において、バイオマーカーが血糖である例を示したが、皮膚表面に拡散するバイオマーカーであれば、同様の方法により測定することができる。例えば、中性脂肪、コレステロール及びストレスマーカーの測定を同様の方法により行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るバイオセンサーは、非侵襲で且つ連続的にバイオマーカーを測定でき、特に、皮膚表面に分泌されるバイオマーカーを連続的に測定する検査機器等に用いるバイオセンサーとして有用である。
【符号の説明】
【0062】
101 反応部
102 検出部
111 第1のゲル膜
112 第2のゲル膜
113 接続部
114 固定部
115 測位部
116 測位部
117 測位部
117A 金属膜
118 測位部
121 半導体チップ
122 ホール素子
124 封止樹脂
125 固定ピン
131 第1の電極パッド
131 第2の電極パッド
132 第2の電極パッド
134 定電流電源
135 電圧検出部
141 金属配線
142 定電圧電源
143 電流検出部
151 第1の誘導コイル
152 第2の誘導コイル
154 交流電源
155 電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面に分泌されるバイオマーカーの濃度に応じて体積が変化する第1のゲル膜及び、前記第1のゲル膜と比べて前記バイオマーカーの濃度に対する体積の変化が小さい第2のゲル膜を有する反応部と、
素子搭載面の上に前記反応部を搭載し、前記第1のゲル膜の体積の指標と、前記第2のゲル膜の体積の指標との差を検出する検出部とを備え、
前記第1のゲル膜と前記第2のゲル膜とは、互いに並行に配置され且つ接続部において互いに接続されており、
前記検出部は、前記接続部から第1のゲル膜における第1の部位までの第1の長さと、前記接続部から第2のゲル膜における第2の部位までの第2の長さとの差を検出することを特徴とするバイオセンサー。
【請求項2】
前記反応部は、前記第2のゲル膜における前記第2の部位が前記搭載面の上に固定され、
前記検出部は、前記第1の部位の前記搭載面の上における位置を検出するセンサーを有していることを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項3】
前記第1の部位は、磁性粒子を含み、
前記センサーは、ホール素子を含むことを特徴とする請求項2に記載のバイオセンサー。
【請求項4】
前記第1の部位は、前記第1のゲル膜の他の部位よりも導電性が高く、
前記センサーは、
前記素子搭載面の上に互いに間隔をおいて設けられ、前記第1のゲル膜と同じ方向に延び、第1の部位を介して互いに電気的に接続された第1の電極パッド及び第2の電極パッドと、
前記第1の電極パッド、前記第1の部位及び前記第2の電極パッドにより形成される経路の抵抗値を測定する抵抗測定部とを有していることを特徴とする請求項2に記載のバイオセンサー。
【請求項5】
前記第1の部位は、金属膜を含み、
前記センサーは、
前記金属膜と対向して設けられた金属配線と、
前記金属膜と前記金属配線との間の静電容量を測定する静電容量測定部とを有していることを特徴とする請求項2に記載のバイオセンサー。
【請求項6】
前記第1の部位は、前記第1のゲル膜の他の部位よりも透磁率が高く、
前記センサーは、
前記第1のゲル膜の両側方に設けられた第1の誘導コイル及び第2の誘導コイルと、
前記第1の誘導コイルと第2の誘導コイルとの間の相互インダクタンスを測定する相互インダクタンス測定部とを有していることを特徴とする請求項2に記載のバイオセンサー。
【請求項7】
前記第1の長さは、前記バイオマーカーの濃度が0の場合に前記第2の長さと等しいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のバイオセンサー。
【請求項8】
前記第1の部位は、前記第1のゲル膜における一方の端部であり、
前記第2の部位は、前記第2のゲル膜における前記第1の位置と同じ側の端部であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のバイオセンサー。
【請求項9】
前記反応部は、前記検出部の上に複数搭載されており、
前記検出部は、複数の前記反応部のそれぞれに対応して前記センサーを複数有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のバイオセンサー。
【請求項10】
前記バイオマーカーは、グルコースであり、
前記第1のゲル膜は、フェニルボロン酸基又はその誘導体を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のバイオセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−27623(P2013−27623A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167082(P2011−167082)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(511185597)株式会社トップウェーブ (2)
【Fターム(参考)】