説明

バイオマス固体発酵方法及び発酵装置

【課題】二相式固体メタン発酵法により、効率よくメタンを生成させるに当り、バイオマス原料に余分な物質を加えることなく、酸発酵時の好気的条件の制御とメタン発酵時の嫌気的条件の制御を行い、効率よくメタンを発生しうる方法を提供する。
【解決手段】外気を導入して酸素濃度0.01〜5.0%に維持した酸発酵帯域に、ペレット状に成形した固体バイオマス原料を、通性嫌気又は半好気条件下、酸発酵を行わせ、次いで上記の固体バイオマス原料ペレットを、圧縮緻密化して、その中の粒子間に存在する酸素を除去したのち、メタン発酵帯域に移し、嫌気的条件下でメタン発酵させ、バイオガスを生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを水を用いることなく固体状態で酸発酵及びメタン発酵させる方法及びその方法を好適に実施するための発酵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスを嫌気性条件下でメタン発酵する方法としては、固形状のバイオマスを水と混合して嫌気発酵する湿式メタン発酵法が広く実用化されている。
しかしながら、このような湿式メタン発酵法においては、原料バイオマス1体積当り、約15〜20倍体積の発酵槽を必要とするため、装置が大型化するのを免れず、設備コストが高くなるという欠点がある。
【0003】
このような欠点を改善するために、固形状バイオマスを嫌気菌によりメタン発酵させる乾式メタン発酵法が提案されている。この方法では原料1体積当りに必要な発酵槽体積は、約1.5倍程度であるので、装置をかなり小型化することができるが、固体状バイオマス原料中に存在する空気を排除してメタン発酵に必要な嫌気条件を確保するために、長時間を要するという欠点がある。そして、固体状バイオマス原料に水分の多い生ごみや食品残渣が共存すると、固形物間に存在する空気中の酸素が消費される間に、通性嫌気性菌群が短期間で増殖し、この通性嫌気性菌による分解が急速に進行して、有機酸が大量に生成する結果、pHが酸性側になる。そのため、アルカリ領域で増殖するメタン菌群の増殖が阻害されたり、増殖が停止される結果、バイオガスの生成に1年以上要することになる。
【0004】
そして、乾式メタン発酵方法においてバイオ原料の組成や反応条件に工夫を加えて、効率よくメタンを発生する方法としては、バイオマス原料を嫌気性条件下にメタン発酵させる際に、粒子状又はスラッジ状の有機性廃棄物に固形の副資材を混合して、通気性と流動性とを有する廃棄物混合物を調製し、これを嫌気性発酵工程に導く方法(特許文献1参照)
、有機性廃棄物のC/N比が20〜250になるように調整する方法(特許文献2参照)、有機性廃棄物に無機多孔体を混合し、メタン発酵槽に導入する方法(特許文献3参照)、有機性廃棄物に炭化物を混合し、これをメタン発酵させる方法(特許文献4参照)などが知られている。
しかしながら、これらの方法は、いずれもバイオマス原料に別の副資材を混合し、発酵条件の調整を行う方法であるため、副資材の入手費用や混合工程の付加によりコスト高になるのを免れない上に、メタン発酵に先立って行われる酸発酵の通性嫌気条件又は半好気条件の制御や、メタン発酵時の絶対嫌気条件の制御を完全に行うことは困難であった。
【0005】
他方、光合成菌を酸発酵槽の好気的条件下で培養し、この際発生する熱を利用して嫌気条件化で行うメタン発酵槽の反応を促進させて、効率よくメタンを発生させるいわゆる二相式メタン固体発酵法が知られている(特許文献5参照)。乾式メタン発酵法においては、酸発酵工程における酸素濃度の適度な制御と、メタン発酵工程での絶対嫌気性条件の維持が可能な二相式メタン固体発酵法が好ましいが、上記のような好気条件と嫌気条件を併用する方法において、たがいに相反する条件を設定することが困難であり、これまで実現できなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−309493号公報
【特許文献2】特開2001−347247号公報
【特許文献3】特開2002−320949号公報
【特許文献4】特開2005−230624号公報
【特許文献5】特開2005−81182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、二相式固体メタン発酵法により、効率よくメタンを生成させるに当り、バイオマス原料に余分な物質を加えることなく、酸発酵時の好気的条件の制御とメタン発酵時の嫌気的条件の制御を行い、効率よくメタンを発生しうる方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、二相式固体メタン発酵に際し、効率よく、かつ低コストでメタンを生成させる方法を開発するために鋭意研究を重ねた結果、空気を導入した酸発酵帯域に、粉砕したバイオマス原料をペレット状に成形して供給し、ここで通性嫌気又は半好気条件下で酸発酵を行ったのち、上記のペレットを圧縮緻密化により微量酸素を含む気体を除去してメタン発酵帯域に移し、ここで嫌気的条件下でペレットを圧縮緻密化し、微量な酸素を含む気体を除去してメタン発酵させることにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、外気を導入して酸素濃度0.01〜5.0%に維持した酸発酵帯域に、ペレット状に成形した固体バイオマス原料を、通性嫌気又は半好気条件下、酸発酵を行わせ、次いで上記の固体バイオマス原料ペレットを、圧縮緻密化して、その中の粒子間に存在する酸素を除去したのち、メタン発酵帯域に移し、嫌気的条件下でメタン発酵させ、バイオガスを生成させることを特徴とするバイオマス固体発酵方法、及びペレット成形手段及び可動弁付き空気導入口を備えた酸発酵槽と、隔離用可動弁を介して酸発酵槽と連結したペレット圧縮手段付きメタン発酵槽とを含むことを特徴とするバイオマス固体発酵装置を提供するものである。
上記の酸発酵帯域において、通性嫌気又は半好気条件下でペレット状に成形した固体バイオマス原料を用いるのは、ここで酸素分圧を調整して、過度の酸発酵が起り、温度が高くならないように適正化するためである。
【0010】
次に、添付図面に従って、本発明方法を説明する。
図1は、本発明方法の1例の工程図であって、この方法は粗粉砕工程(イ)、ペレット化工程(ロ)、酸発酵工程(ハ)、メタン発酵工程(ニ)、発酵残渣回収工程(ホ)、二次ペレット化工程(ヘ)及びエネルギー化工程(ト)から成っている。バイオマス原料(A)は、(イ)工程に供給され、それぞれの工程を経て処理され、最後に燃焼残渣(D)となって排出されるが、この間に(ニ)工程においては、バイオガス(B)が生成し、(ヘ)工程において、ペレット固体燃料(C)が得られる。
【0011】
(イ)工程に供給されるバイオマス原料としては、これまでメタン発酵原料として用いられてきた通常の動物質又は植物質の有機性廃棄物の中から任意に選んで用いることができる。このようなものとしては、ワラ、枯れ草のような農業廃棄物、例えば浄化槽汚泥、下水汚泥、食品廃棄物、伐採材、間伐材のような林産廃棄物、家畜糞尿、水産汚泥、古紙、し尿などがある。これらの中で、汚泥、糞尿のように水分を多く含むものは、乾燥して、固形化して用いる。
【0012】
これらは、(イ)工程において100mm以下のサイズに粗粉砕されたのち、(ロ)工程においてペレット化されるが、この際、必要に応じ消石灰又は生石灰を原料の質量に基づき0.001〜5%程度加えることができる。この(ロ)工程では、2軸エクストリューダー又はピストン圧入機などにより0.5MPa以上の圧力を加え、直径7〜100mmのダイスを通してペレット化される。上記の消石灰又は生石灰は、酸発酵後のメタン発酵におけるバイオマス原料のアルカリ度の調整を容易にするためである。
なお、バイオマス原料については、それを粉砕するに先立ってその中に混入している金属類例えば包丁の破片やホーク、スプーンなどの食器類を超永久磁石などを用いて除去するのが好ましい。
【0013】
(ロ)工程のペレット化は、バイオマス原料中に含まれる空気を脱気するために行われるのであるが、バイオマス原料の含水量によって、ペレット成形状態が異なるので、ダイスの直径の大きさを選択して適正な成形状態にする必要がある。このペレット化は40湿量基準%以下の低い含水量で行うのが好ましい。
ここで、「湿量基準%」とは、室温、常圧下におけるバイオマス原料に含まれている固形分の乾燥質量と水分量の和に対する水分量の百分比(%)を意味する。
【0014】
(ハ)工程の酸発酵及び(ニ)工程のメタン発酵は、これまでの公知のメタン発酵に際し、用いられている反応条件と同じようにして、すなわち(ハ)工程は、通常酸素濃度0.01〜5.0%に維持された嫌気又は半好気条件下で、また(ニ)工程は絶対嫌気条件下で行われる。ところで、従来のメタン固体発酵では、メタンを主とするバイオガスが生成し、メタン発酵後の残渣には、アンモニアや未消化の有機酸、例えば酪酸やプロピオン酸などが含まれ、強い臭気を発するため、炭化処理した後で得られる炭化物の有効利用はできなかったが、本発明方法において得られる残渣は、このような悪臭を生じないので、これを(ヘ)工程で二次ペレット化して、固体燃料ペレットとして有効利用することができるというメリットがある。
【0015】
上記の(ハ)工程及び(ニ)工程では、それぞれの酸素分圧がバイオガス収率やバイオガス発生速度を左右するので、これらの工程の間には、圧力差を設けることが必要である。この圧力差は、両工程の間に隔壁で仕切り、それに可動弁を設けてペレットを移動する場合以外は、これを閉止することによって保たれる。そして、酸発酵工程のメタン濃度を計測し、可動弁を適宜開閉することによって圧力差を調整する。この際の酸発酵帯域における酸素分圧は1〜5000Pa、メタン発酵帯域における酸素分圧は0.1〜1.0Paの範囲が好ましい。
【0016】
また、(ニ)工程では、わずかな酸素の存在も絶対嫌気性菌であるメタン菌の代謝に大きな影響を与えるので、原料ペレットを圧縮緻密化してバイオマス粒子間の空隙が無くなるようにする必要がある。これは、プレス方式の圧密機構を用いて圧力0.5〜10MPaで行うことができるが、この際、プレスのピストン部の可動部とメタン発酵槽上部の気密性を維持することが重要なので、液体封入又はラビリンスリング型のシールを施し、最大3000mmAqのガス圧力に対応できるようにするのが好ましい。しかし、これがなくてもメタンの収率の著しい低下は認められないので、所望ならば省くこともできる。
【0017】
(ハ)工程におけるバイオマス原料の水分は70湿量基準%付近が、また(ニ)工程におけるバイオマス原料の水分は80湿量基準%付近が適正であるので、これらの工程においては、それぞれ水分の調整を行うのが好ましい。この場合に補給する水分はメタン発酵残渣を乾燥する際に発生する蒸発水を回収して充当するのが好ましい。(ニ)工程における水分の補給は、(ニ)工程において発生するスラリーから滲出する水を環流させて行うことができる。
【0018】
メタン固体発酵における残渣の処理は非常に重要であり、バイオマス原料に異物の混入が全くない場合には、(ホ)工程において乾燥を経てペレット化し、固体燃料として外燃機関による熱電供給に利用することができる。
【0019】
しかしながら、通常バイオマス原料に化石燃料由来の異物が混入することは避けられない。そして、一般にエネルギー源として利用する場合には、ダイオキシンなどの有害物質を800℃以上の温度で熱分解しなければならないが、本発明方法によると(ヘ)工程において(ニ)工程から発酵残渣を回収し、二次ペレット化したのち、600℃、0.2MPa付近の高温低圧の過熱蒸気を加え、さらにバイオガスなどを利用して800℃以上で熱分解反応を行わせることにより、高カロリーの合成ガスを製造することができる。
また、この工程で生じた残渣は、(ト)工程において焼却される。
【0020】
このように、バイオガス燃焼をブースターとする熱分解反応炉や、外燃機関による熱電装置を併設した場合には、二相式メタン固体発酵装置に水処理工程が不要になるので有利である。
【0021】
本発明方法の(ト)工程で生じる燃焼残渣すなわち灰分は、バイオマス原料中の不燃性無機物の含有量によって左右されるが、この中には有用なものと有用でないものとが含まれる。生ごみなどの家庭廃棄物や食品廃棄物などで分別が完全になされている場合には、再利用可能な有用なものが多いが、それ以外の有用でないものは、埋め立てなどに用いる以外の処分方法はない。
【0022】
二相式メタン固体発酵装置を用いる場合、(ハ)工程で用いる酸発酵槽と(ニ)工程で用いるメタン発酵槽との間の容積比を実験的に決めることが必要である。そして、(ニ)工程におけるバイオマス原料の見掛け密度と水分によってバイオガス発生量が異なる場合、ペレット化によって、原料の見掛け密度を高めると短時間でバイオガスが発生するが、水分を70湿量基準%前後にするとバイオガスの発生が遅くなり、単位質量当りのバイオガス発生量が低くなることが実験的に確かめられている。
【0023】
このように、本発明方法においては、(ハ)工程のバイオマス原料の水分を70湿量基準%前後に保持して、酸素濃度をある程度維持することにより、通性嫌気性菌の代謝による発熱を伴う酸発酵が可能になった。しかしながら、(ハ)工程を長時間行うと、バイオマス原料の種類によっては、有機酸の量が多くなり、(ニ)工程のメタン発酵が阻害されるおそれがある。したがって、(ハ)工程は10〜30日の範囲内に限るのが好ましい。このような反応時間の制御は、酸素濃度と反応温度を監視しながら、RO膜やPSAにより酸素濃度を制御したり、(イ)工程で生石灰や消石灰の投入量を増減することにより行うことができる。
【0024】
(ニ)工程におけるメタン濃度が定常状態になるのは約200日を要するので、(ニ)工程は、少なくとも200日以上継続するのが好ましい。また、(ニ)工程におけるバイオマス原料中の水分は80湿量基準%付近が好ましいので、この工程において回収されるスラリー液を環流し、散布することにより80湿量基準%付近の水分を維持する。特に好ましいバイオマス原料の含水量は80〜85湿量基準%である。
【0025】
本発明方法においては、所望に応じ、(ニ)工程に続けてメタン発酵の残渣を回収し、乾燥後、ペレット化し、固体燃料を製造することができる[(ホ)工程]。本発明方法においては、さらに所望に応じ、前記(ホ)工程で得た固体燃料を過熱水蒸気によって加熱し、さらに(ニ)工程で得たバイオガスにより800℃以上に加熱して熱分解ガスを製造することができる。
【0026】
次に、添付図面に従って本発明装置を説明する。図2は、本発明装置の側面略解図である。
この図において、固体バイオマス原料は、搬入ピット1から粉砕機2により粗粉砕され、下方向押込みスクリューコンベア3により駆動装置5で駆動されるエクストルーダー4に押込まれ、ペレット化したのち、調製室6を経て、ダイス20を通ってペレット化され、酸発酵槽7に供給される。ペレットは、熱媒体貯留室8の角度αで傾斜している上面に沿って上方へ押し上げられメタン発酵槽11に送り込まれる。酸発酵槽7とメタン発酵槽11との間は、角度制御アクチュエータ10により制御される可動弁9を備えた隔壁により分離されている。メタン発酵槽11の上面には、気密維持室13により、外気と遮断された圧密用ヘッド12が備えられ、酸発酵槽7から送られてくる原料ペレットは、ここで圧縮緻密化され、微量の酸素を含む気体が除去される。
メタン発酵残渣は、直立スクリューコンベア14及び平行スクリューコンベア15により、乾燥装置17に送られ、ブロアー21から吹き出される乾燥空気により乾燥後、取出口23から取り出される。
また、メタン発酵槽11で生成したバイオガスは、排気孔22から排出される。
一方、メタン発酵槽11の角度βで傾斜した底面に、捕集されたスラリ状生成物は、スラリ溜め19を経て循環ポンプ16により環流され散布ノズル18、…から酸発酵槽7及びメタン発酵槽11に環流される。
取出口23から取り出される残渣乾燥物は、ペレット化されたのち、固体燃料として利用される。24は、酸発酵槽7の内部温度をトレースするための放射温度計である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、バイオマス原料から効率よくバイオガスを生成させることができるとともに、メタン発酵残渣から良質のペレット固体燃料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0029】
参考例1
生ごみを粉砕脱水した固形分(水分40湿量基準%)に、消石灰0.01質量%(乾燥質量基準)を加え、直径7mm、長さ20mmのペレットに成形し、見掛け密度650kg/m3、800kg/m3、900kg/m3の3種の試料を調製した。
図2に示す構造をもつ200リットル容2相式メタン固体発酵装置に、上記のペレットを0.5kg/日の速度で供給し、酸発酵槽に5日目の水分が70湿量基準%になるように計算した量の水を2日間に分けて噴霧した。この状態でペレットを酸発酵槽に加水せずに5日間滞留させた。さらに、メタン発酵槽での計算上の加水量を求め、水分85湿量基準%に調整した。この間のメタン発酵槽の温度は25±5℃に維持した。
このようにして得た3種の試料について試験した結果を、発生したバイオガスの累積体積を投入した生ごみの質量基準に換算し、経日変化を示すグラフとして図3に示す。なお、このときの酸発酵槽におけるペレットの5日目の表面温度を、放射温度計で観測したところ40±5℃であった。
【0030】
参考例2
生ごみを粉砕脱水した固形分(水分40湿量基準%)に、消石灰0.01質量%(乾燥質量基準)を加え、直径7mm、長さ20mmのペレットに成形した。
図2に示す構造をもつ200リットル容2相式メタン固体発酵装置に、上記のペレットを0.5kg/日の速度で供給し、酸発酵槽に5日目の水分が70湿量基準%になるように計算した量の水を2日間に分けて噴霧した。この状態でペレットを酸発酵槽に加水せずに5日間滞留させた。さらに、メタン発酵槽での計算上の加水量を求め、水分70〜75湿量基準%に調整した。この間のメタン発酵槽の温度は25±5℃に維持した。このようにして、見掛け密度650kg/m3、800kg/m3、900kg/m3の3種の試料を調製した。
このようにして得た3種の試料について試験した結果を、発生したバイオガスの累積体積を投入した生ごみの質量基準に換算し、経日変化を示すグラフとして図4に示す。なお、このときの酸発酵槽におけるペレットの5日目の表面温度を、放射温度計で観測したところ40±5℃であった。
【0031】
参考例3
尿を除いた牛糞を自然乾燥して水分80〜85湿量基準%としたものと水分70〜75湿量基準%としたものについて、それぞれ見掛け密度が800kg/日になるようにペレット化したもの(7mmφ×15mm)を、1000リットル体積の2相式メタン固体発酵槽に、3.0kg/日の割合で供給した。このようにして得たバイオガス累積発生量とメタン濃度の関係を求め、グラフとして図5に示す。
この例においては、加水を行わず、投入口で水分の調整を行ったままでペレット化し、酸発酵槽及びメタン発酵槽に送入した。また、酸発酵槽とメタン発酵槽の間に設けた可動弁は手動で操作した。
この装置としては、圧密装置及び乾燥装置を備えないものを用いた。酸発酵槽での水分70〜75湿量基準%のペレット温度は、酵素濃度をPSAで2%に制御することによって40〜45℃、80〜85湿量基準%のペレット温度は30℃付近で、温度上昇は認められなかった。両方の水分におけるメタン濃度の変化はほとんど認められなかった。
【0032】
以上、参考例1及び2より、見掛け密度が大きいほど安定日までの日数が早いことが分る。また、参考例1と2から、水分を70〜75湿量基準%にすると80〜85湿量基準%の場合に比べ、バイオガスの累積発生量及びトン当りのバイオガス量が低くなる。
また、参考例3より、メタン発酵槽の固体材料の通常時間としては、最低200日を必要とすることが分る。
【実施例1】
【0033】
参考例1において、メタン発酵槽に導入するに先立って、ペレットをプレス機を用いて1.0MPaの圧力で圧縮ち密化した。
それ以外は、参考例1と同様に処理したところ、各試料におけるバイオガスの累積体積は、図3に比べ、いずれも20〜30%増大することが分った。
【実施例2】
【0034】
あらかじめ永久磁石を用いて金属類を除去し、摩砕機を用いて粒径10mm以下に摩砕した生ごみについて、直径15mmのダイスを用い、生ごみのペレット化を行ったところ、バイオマス原料中の水分が40湿量基準%以上の塑性流動では圧入してもダイス孔を通過させることができなかった。しかし、生ごみに木屑を混合して水分を30湿量基準%付近に下げ、弾性変形内で押し込むことによって、ダイス孔を通過させることができた。
このようにして得たペレットに水を噴霧して水分を70湿量基準%付近に調節して、酸素濃度を1%付近に制御し、総体積1000リットルの2相式メタン固体発酵装置に供給し、連続運転したところ、5日目に原料温度は50℃に達し、この状態は10日目まで続いた。
次いで、この状態を維持したまま、メタン発酵槽の底面から得られた滲出水をメタン発酵槽に散水し、水分を80湿量基準%に保ちながら原料温度25〜35℃で実験を続行したところ、35日経過後にバイオガスが発生し、発生量は180日後に定常状態になった。
次に、この際得られたメタン発酵残渣を熱風乾燥して水分25湿量基準%まで乾燥した後、ダイス孔7mmのペレット製造機によりペレットに成形したところ、このペレット温度は80℃付近まで上昇するとともに、水分15〜18湿量基準%の固体燃料が得られた。また上記の乾燥工程中に発生した蒸気は、アンモニア臭を有していたが、これをバイオガスで燃焼したところ、排気ガスは無臭となった。
【実施例3】
【0035】
図2に示す構造の2相式メタン固体発酵装置に、参考例3で用いたのと同じ牛糞を供給し、バイオガスを生成させた。
この際に得られたメタン固体発酵残渣を実施例1と同様にしてペレット化し、水分12湿量基準%のペレット(7mmφ×20mm)からなる固体燃料を製造した。このものは約4000kcal/kgの低位発熱量を有していた。
これをスターリングエンジン社のST−5スターリングエンジンを最大出力5000kcal/hrのバーナーを用いて炉内温度を650±50℃で運転したところ、毎時6.5kgのメタン発酵残渣ペレットの燃料消費で3.0〜3.2kwの電力出力を得た。電力変換効率は約10%であり、廃熱温度が450℃にもなるので、空気−空気又は水−空気の熱交換によって排気空気温度を250℃に低下させると、温熱を50〜60%回収できることが分った。
【実施例4】
【0036】
実施例3で用いたメタン発酵残渣をペレット化した固体燃料を高周波加熱で得た過熱水蒸気を0.25MPaの圧力で50リットル体積のステンレス鋼製噴流層に送り、噴流層の外壁をバイオガスバーナーで約820±20℃に加熱した状態で、スクリューオーガで2kg送り込み、熱分解3分後の熱分解ガスを採取した。ガスの組成分析したところ、CO:18%,H2:45%,CH4:9%,N2及びO2:28%の合成ガスを得た。連続運転したところ、ガスのうちN2及びO2の濃度が減少した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明方法の1例の工程図。
【図2】本発明装置の側面略解図。
【図3】参考例1で得た3種の試料の経日変化を示すグラフ。
【図4】参考例2で得た3種の試料の経日変化を示すグラフ。
【図5】参考例3で得たバイオガス累積発生量とメタン濃度の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0038】
1 搬入ピット
2 粉砕機
3 下方向押込みスクリューコンベア
4 エクストルーダー
5 駆動装置
6 調製室
7 酸発酵槽
8 熱媒体貯留室
9 可動弁
10 角度制御アクチュエータ
11 メタン発酵槽
12 圧密用ヘッド
13 気密維持室
14 直立スクリューコンベア
15 平行スクリューコンベア
16 循環ポンプ
17 乾燥装置
18 散布ノズル
19 スラリ溜め
20 ダイス
21 ブロアー
22 排気孔
23 取出口
24 放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気を導入して酸素濃度0.01〜5.0%に維持した酸発酵帯域に、ペレット状に成形した固体バイオマス原料を、通性嫌気又は半好気条件下、酸発酵を行わせ、次いで上記の固体バイオマス原料ペレットを、圧縮緻密化して、その中の粒子間に存在する酸素を除去したのち、メタン発酵帯域に移し、嫌気的条件下でメタン発酵させ、バイオガスを生成させることを特徴とするバイオマス固体発酵方法。
【請求項2】
(イ)固体状のバイオマス原料を粗砕化して100mm以下のサイズにする工程、
(ロ)粗砕化されたバイオマス原料をダイスから押出してペレットを形成する工程、
(ハ)上記のペレットを通性嫌気又は半好気条件下で酸発酵させる工程、及び
(ニ)酸発酵させたバイオマス原料ペレットを圧縮緻密化して、その中の粒子間に存在する酸素を除去したのち、嫌気性条件下でメタン発酵させ、バイオガスを発生させる工程
を含む請求項1記載のバイオマス固体発酵方法。
【請求項3】
(ロ)工程のペレット形成を0.5MPa以上の高い圧力で7〜100mmの径のダイスに圧入して行う請求項2記載のバイオマス固体発酵方法。
【請求項4】
ペレット形成に際し、バイオマス原料に対し、その質量に基づき0.001〜5質量%の消石灰又は生石灰を混合する請求項3記載のバイオマス固体発酵方法。
【請求項5】
(ニ)工程におけるバイオマス原料ペレットの水分を80〜85湿量基準%に調整する請求項2ないし4のいずれかに記載のバイオマス固体発酵方法。
【請求項6】
(ニ)工程に続けて、メタン発酵後の残渣を回収し、乾燥後、ペレット化し、固体燃料とする(ホ)工程を行う請求項2ないし5のいずれかに記載のバイオマス固体発酵方法。
【請求項7】
(ホ)工程で得た固体燃料を過熱水蒸気によって加熱し、さらに(ニ)工程で得たバイオガスにより800℃以上に加熱して熱分解ガスを得る請求項6記載のバイオマス固体発酵方法。
【請求項8】
ペレット成形手段及び可動弁付き空気導入口を備えた酸発酵槽と、隔離用可動弁を介して酸発酵槽と連結したペレット圧縮手段付きメタン発酵槽とを含むことを特徴とするバイオマス固体発酵装置。
【請求項9】
スクリューコンベアに接続したバイオマス原料供給口をもち、先端をダイスに形成した圧入機と、そのダイスを介して圧入機に連結している、上方向け傾斜底面を有する酸発酵槽と、この酸発酵槽と角度制御アクチュエータにより開閉される可動弁を介して連結している、天井面に圧密用ヘッドを備え、かつ底面をスラリー溜めに向けて下方傾斜面に形成したメタン発酵槽と、スラリー溜めに捕集されたスラリーをメタン発酵槽に返送するための環流機構とから構成されている請求項8記載のバイオマス固体発酵装置。
【請求項10】
前処理用として、金属除去機構を付設した請求項8又は9記載のバイオマス固体発酵装置。
【請求項11】
メタン発酵槽の発酵残渣取出口に連結して乾燥炉を備えた請求項9又は10記載のバイオマス固体発酵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188538(P2008−188538A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26206(P2007−26206)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(505112152)有限会社筑波バイオテック研究所 (6)
【出願人】(507039349)株式会社西尾興産 (1)
【Fターム(参考)】