説明

バイオメディカル用途のための非極性固体インク

【課題】比較的安価なマイクロ流体デバイスおよびマイクロアレイを加工する方法として、非極性固体相変化インク、これらのインクを製造する方法、バイオメディカル用途でこれらのインクを使用する方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流体デバイスは、第1の基板5と、この第1の基板表面に堆積した相変化インクのパターン4とを含む。この相変化インクは、非極性ポリマー材料と、場合により、着色剤とを含み、相変化インクは、室温で固体であるが、約60〜約150℃の吐出温度では液体であり、前記堆積した相変化インクに対する水接触角が、約90°〜約175°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、固体相変化インクまたはホットメルトインクといった、多くの複写デバイスおよび印刷デバイスで使用可能なインクが記載されている。
【背景技術】
【0002】
マイクロフルイディックスは、断面の寸法が数ナノメートル〜数百マイクロメートルの範囲にある経路内で液体および気体を操作することに注目した微細加工の技術分野である。マイクロフルイディックスは、迅速に発達してきた技術であり、化学技術、バイオメディカル研究、薬物開発を含む多くの研究領域に衝撃を与えている。用途としては、限定されないが、ゲノミクス、プロテオミクス、医薬研究、核酸の処理、法医学的分析、細胞分析、環境モニタリングなどが挙げられる。
【0003】
マイクロ流体技術の主な関心のひとつは、より精巧な、流体の取り扱い性能を向上させた、複雑さを増した経路系を作ることに関する。
【0004】
最初のマイクロ流体デバイスの中には、マイクロエレクトロニクスおよび集積回路産業に由来する従来の技術を用いて加工したものがあった。このようなデバイスは、典型的には、ガラス、シリコン、石英で作られていた。次いで、モノリシックチップ上に、サンプルを輸送し、分離し、混合し、検出するシステムのための二次元経路網を構築するために、元々はマイクロエレクトロニクスのために設計されたプロセス(例えば、標準的なフォトリソグラフィ法)をガラス基板またはシリコン基板に適用した。例えば、シリコン基板およびガラス基板に由来するマイクロ流体デバイス加工のための初期プロセスの一例を示すために、望ましい経路を含む模様のネガ画像としてパターン化されている、透明領域と不透明領域とを有するマスクを調製する。UV光源は、このマスクから、従来のスピンコーティング法を用いて基板にあらかじめ堆積させたフォトレジスト(写真フィルムに似たもの)に模様を転写する。次いで、このフォトレジストを溶媒で現像し、露光した領域または露光していない領域のいずれかを選択的に除去する。次いで、露出した領域にある基板を化学エッチングし、エッチング時間、エッチング条件、基板の結晶配向によって、経路の深さ、側壁の形状をそれぞれ制御する。最後に、フォトレジストを除去し、パターン化された基板をカバープレートに熱によって結合することによって、経路系を閉じる。これらのパターン化された層を数枚結合させることによって、もっと複雑な三次元系を構築することができる。
【0005】
ガラス基板およびシリコン基板に由来する上述のマイクロ流体デバイス加工および層状にするプロセスには、いくつかの利点があるが、限定されないが、(1)ガラス基板を用いることに関する材料の制限;(2)材料コスト;(3)多くの処理工程が含まれること;(4)エッチングプロセスが等方性であることによる、幾何模様の制限;(5)シリコン基板に関する表面化学の制限といったいくつかの制限事項もある。さらに、典型的なマイクロ流体デバイスは、構築するためにクリーンルーム装置と、高価なMEMS/半導体微小加工装置とを必要とする。
【0006】
マイクロアレイは、パターン化された反応部位またはランダムな反応部位を有する基板の調製に着目した微小加工の別の分野である。また、一般的に、このようなマイクロアレイを作成するには、複雑なリソグラフィー技術が用いられる。マイクロアレイは、例えば、バイオメディカル研究、薬物開発、サンプル分析、センサー設計などの分野で重要である。
【0007】
したがって、これらの制限を克服し、特に、高価なマイクロリソグラフィー装置で処理を行う必要性を排除し、比較的安価なマイクロ流体デバイスおよびマイクロアレイを加工する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
既知の組成物およびプロセスは、これらの意図した目的に適しているが、マイクロ流体および関連するデバイス(例えば、マイクロアレイ)を製造する改良法は依然として必要とされている。また、このようなマイクロ流体デバイスおよび関連するデバイスを製造するための代替的な組成物も、今なお必要とされている。
【0009】
本開示は、非極性固体相変化インク、これらのインクを製造する方法、バイオメディカル用途でこれらのインクを使用する方法を提供することによって、これらの要求および他の要求に対処するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本開示のマイクロ流体構造の実施形態を示す。
【図2】図2は、本開示のマイクロ流体構造の実施形態を示す。
【図3】図3は、本開示のマイクロアレイの実施形態を示す。
【図4】図4は、本開示のマイクロアレイの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のインク組成物は、従来の固体インクまたは相変化インクに基づくものであるが、特定の用途に望ましい化学を与えるように改変される。例えば、マイクロ流体デバイスおよび関連するデバイス(例えば、マイクロアレイなど)のようなバイオメディカル用途では、非極性材料および非極性組成物は、その非極性の性質によって基板表面に疎水性を付与することができるため、望ましい。しかし、従来のインク配合物は、非極性ワックスのような成分だけではなく、アミド、ロジンエステル、ステアリルステアロアミドのような極性化合物も含んでおり、多くのバイオメディカル用途では十分に機能しない。これらの成分は、典型的に、透明度を高め、染料の溶解度、色安定性、機械強度などを高めるためにインク配合物に加えられるが、このような性質は、インクに染料または顔料を含む必要がない多くのバイオメディカル用途では必要とされず、インクの機能的な要求も、画像印刷のためのインクとはまったく異なる。
【0012】
本明細書の相変化インクの例は、約23℃〜約27℃の温度、例えば、室温では固体であり、特に、約60℃未満の温度では固体であるようなインクビヒクルを含むインクである。しかし、このインクは、加熱すると相変化を起こし、吐出温度では溶融状態になる。したがって、このインクの粘度は、インクジェット印刷に適した高温(例えば、約60℃〜約150℃の温度)では、約1〜約20センチポイズ(cP)であり、例えば、約5〜約15cP、または約8〜約12cPである。
【0013】
この観点で、本明細書のインクは、低エネルギーインクであってもよく、高エネルギーインクであってもよい。低エネルギーインクは、約40℃より低い温度では固体であり、粘度は、約60℃〜約125℃(例えば、約80〜約125℃、例えば、約100〜約120℃)の吐出温度で、約1〜約20cP、例えば、約5〜約15cP、例えば、約8〜約12cPである。高エネルギーインクは、約40℃より低い温度では固体であり、粘度は、約100〜約180℃(例えば、約120〜約160℃、または約125〜約150℃)の吐出温度で、約5〜約15cPである。
【0014】
用語「インクビヒクル」は、一般的に、インクの他の成分を保有する材料を指す。インクビヒクルが非水系であり、いくつかの実施形態では、以下にさらに記載するように、完全に非水系であるか、実質的に非水系であるか、または大部分が非水系である限り、任意の適切なインクビヒクルを用いてもよい。相変化インク(または、固体インクと呼ばれることもある)の場合、インクを溶融した形態または液体形態で、媒体となる基板に堆積させる。インクを吐出させた後、インク画像を室温まで冷却すると、固体になる。このため、相変化インクと呼ばれ、インクは、液体相から固体相に変化する。相変化インクの場合、インクビヒクルは、一般的に、透明な低融点ポリマーを含み、着色剤を保有している。例えば、インクビヒクルは、ワックスであってもよく、非極性ポリマーであってもよい。適切なビヒクルとしては、パラフィン、微晶質ワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックス、アミド、炭素が少なくとも約30個の長鎖酸、脂肪酸および他のワックス状材料、脂肪族アミドを含有する材料、スルホンアミド材料、異なる天然源(例えば、トールオイルロジン、ロジンエステル)から作られる樹脂系材料、多くの合成樹脂、オリゴマー、ポリマー、以下にさらに記載するようなコポリマーを挙げることができる。
【0015】
適切なアミドの例としては、ジアミド、トリアミド、テトラアミド、環状アミドなどが挙げられる。適切なトリアミドとしては、米国特許公開第2004−0261656号に開示されているものが挙げられ、この開示内容全体は、本明細書に参考として組み込まれる。適切な他のアミド(例えば、モノアミド、テトラアミド、およびこれらの混合物を含む脂肪族アミド)を用いてもよい。
【0016】
固体インク組成物で使用可能な他の適切なビヒクル材料としては、イソシアネート系樹脂およびワックス、例えば、ウレタンイソシアネート系材料、尿素イソシアネート系材料、ウレタン/尿素イソシアネート系材料、これらの混合物などが挙げられる。
【0017】
適切なインクビヒクルの例としては、エチレン/プロピレンコポリマーが挙げられ、例えば、Baker Petroliteから入手可能なものが挙げられる。このようなコポリマーの市販の例としては、Petrolite CP−7(Mn=650)、Petrolite CP−11(Mn=1,100、Petrolite CP−12(Mn=1,200)などが挙げられる。コポリマーは、例えば、融点が約70℃〜約150℃であってもよく、例えば、約80℃〜約130℃、または約90℃〜約120℃であってもよく、分子量範囲(Mn)は、約500〜約4,000であってもよい。
【0018】
酸化された合成ワックスまたは石油ワックスのウレタン誘導体、例えば、一般式
【化1】


を有し、式中、Rが、式CH(CHのアルキル基であり、nは、約5〜約200、例えば、約10〜約150、または約10〜約100の整数であり、Rがアリーレン基である、Baker Petroliteから入手可能なものも、インクビヒクルとして用いてもよい。これらの材料は、融点が、約60℃〜約120℃であってもよく、例えば、約70℃〜約100℃、または約70℃〜約90℃であってもよい。このような材料の市販の例としては、Baker Petrolite CA−11(Mn=790、Mw/Mn=2.2)、Petrolite WB−5(Mn=650、Mw/Mn=1.7)、Petrolite WB−17(Mn=730、Mw/Mn=1.8)などが挙げられる。
【0019】
別の種類のインクビヒクルは、n−パラフィン系、分岐したパラフィン系、および/またはナフタレン系の炭化水素であってもよく、典型的には、炭素原子が約5〜約100個、例えば、約20〜約80個、または約30〜約60個であり、一般的には、天然に存在する炭化水素を精錬することによって調製され、例えば、BE SQUARE 185およびBE SQUARE 195であり、数平均分子量(Mn)が約100〜約5,000、例えば、約250〜約1,000、または約500〜約800であり、例えば、Baker Petroliteから入手可能なものである。
【0020】
典型的には、オレフィン重合によって調製される、高度に分岐した炭化水素(例えば、VYBAR 253(Mn=520)、VYBAR 5013(Mn=420)などを含む、Baker Petroliteから入手可能なVYBAR材料)を用いてもよい。それに加え、インクビヒクルは、エトキシル化アルコールであってもよく、例えば、一般式
【化2】


を有し、式中、xが約1〜50の整数、例えば、約5〜約40、または約11〜約24の整数であり、yは、約1〜約70の整数、例えば、約1〜約50、または約1〜約40の整数を有するような、Baker Petroliteから入手可能なものであってもよい。この材料は、融点が、約60〜約150℃、例えば、約70〜約120℃、または約80〜約110℃であってもよく、数平均分子量(Mn)範囲が、約100〜約5,000、例えば、約500〜約3,000、または約500〜約2,500であってもよい。市販の例としては、UNITHOX(登録商標)420(Mn=560)、UNITHOX(登録商標)450(Mn=900)、UNITHOX(登録商標)480(Mn=2,250)、UNITHOX(登録商標)520(Mn=700)、UNITHOX(登録商標)550(Mn=1,100)、UNITHOX(登録商標)720(Mn=875)、UNITHOX(登録商標)750(Mn=1,400)などが挙げられる。
【0021】
さらなる例として、インクビヒクルは、脂肪族アミド(例えば、モノアミド、テトラアミド、これらの混合物など)から作られていてもよく、例えば、米国特許第6,858,070号(本明細書に参考として組み込まれる)に記載されているものであってもよい。適切なモノアミドは、融点が、少なくとも約50℃、例えば、約50℃〜約150℃であってもよいが、融点は、これらの範囲からはずれていてもよい。適切なモノアミドの具体例としては、一級モノアミドおよび二級モノアミドが挙げられる。ステアロアミド、例えば、Witco Chemical Companyから入手可能なKEMAMIDE S、Crodaから入手可能なCRODAMIDE S、ベヘンアミド/アラキドアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE B、Crodaから入手可能なCRODAMIDE BR、オレアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE U、Crodaから入手可能なCRODAMIDE OR、工業グレードのオレアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE O、Crodaから入手可能なCRODAMIDE O、Uniqemaから入手可能なUNISLIP 1753、エルカ酸アミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE E、Crodaから入手可能なCRODAMIDE ERが、適切な一級アミドのいくつかの例である。ベヘニルベヘンアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE EX666、ステアリルステアロアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE S−180およびKEMAMIDE EX−672、ステアリルエルカ酸アミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE E−180、Crodaから入手可能なCRODAMIDE 212、エルシルエルカ酸アミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE E−221、オレイルパルミトアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE P−181、Crodaから入手可能なCRODAMIDE 203、エルシルステアロアミド、例えば、Witcoから入手可能なKEMAMIDE S−221が、適切な二級アミドのいくつかの例である。さらなる適切なアミド材料としては、KEMAMIDE W40(N,N’−エチレンビスステアロアミド)、KEMAMIDE P181(オレイルパルミトアミド)、KEMAMIDE W45(N,N’−チレンビスステアロアミド)、KEMAMIDE W20(N,N’−エチレンビスオレアミド)が挙げられる。
【0022】
高分子量直鎖アルコール、例えば、一般式
【化3】


を有し、式中、xが約1〜約50の整数、例えば、約5〜約35、または約11〜約23の整数であるような、Baker Petroliteから市販されているものを、インクビヒクルとして用いてもよい。これらの材料は、融点が、約50〜約150℃、例えば、約70〜約120℃、または約75〜約110℃であってもよく、数平均分子量(Mn)範囲が、約100〜約5,000、例えば、約200〜約2,500、または約300〜約1,500であってもよい。
【0023】
さらなる例としては、炭化水素系ワックス、例えば、一般式
【化4】


を有し、式中、xが、約1〜約200、例えば、約5〜約150、または約12〜約105であるような、Baker Petroliteから入手可能なポリエチレンホモポリマーが挙げられる。これらの材料は、融点が、約60℃〜約150℃であってもよく、例えば、約70℃〜約140℃、または約80℃〜約130℃であってもよく、分子量(Mn)が、約100〜約5,000、例えば、約200〜約4,000、または約400〜約3,000であってもよい。
【0024】
別の例としては、グラフト共重合によって調製された、ポリオレフィンの改変された無水マレイン酸炭化水素付加物、例えば、一般式
【化5】


を有し、式中、Rは、炭素原子が約1〜約50個、例えば、約5〜約35個、または約6〜約28個のアルキル基であり、R’は、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、または炭素原子が約5〜約500個、例えば、約10〜約300個、または約20〜約200個のアルキル基であり、xは、約9〜約13の整数であり、yは、約1〜約50、例えば、約5〜約25、または約9〜約13の整数であり、融点が、約50℃〜約150℃、例えば、約60℃〜約120℃、または約70℃〜約100℃であるような、Baker Petroliteから入手可能なもの;および、一般式
【化6】


を有し、RおよびRが、炭化水素基であり、Rが、一般式
【化7】


のいずれか、またはこれらの混合物であり、R’が、イソプロピル基であり、この材料は、融点が、約70〜約150℃、例えば、約80〜約130℃、または約90〜約125℃であってもよい、Baker Petroliteから入手可能なものが挙げられ、改変された無水マレイン酸コポリマーの例としては、CERAMER 67(Mn=655、Mw/Mn=1.1)、CERAMER 1608(Mn=700、Mw/Mn=1.7)などが挙げられる。
【0025】
相変化インクに適したインクビヒクルのさらなる例としては、ロジンエステル;ポリアミド;ダイマー酸アミド;脂肪酸アミド(ARAMID Cを含む);エポキシ樹脂、例えば、Riechold Chemical Companyから入手可能なEPOTUF 37001;流動パラフィンワックス;流動微晶質ワックス;Fischer−Tropschワックス;ポリビニルアルコール樹脂;ポリオール;セルロースエステル;セルロースエーテル;ポリビニルピリジン樹脂;脂肪酸;脂肪酸エステル;ポリスルホンアミド(KETJENFLEX MHおよびKETJENFLEX MS80を含む);安息香酸エステル、例えば、Velsicol Chemical Companyから入手可能なBENZOFLEX S552;フタル酸系可塑剤;クエン酸系可塑剤;マレイン酸系可塑剤;スルホン、例えば、ジフェニルスルホン、n−デシルスルホン、n−アミル(n−arnyl)スルホン、クロロフェニルメチルスルホン;ポリビニルピロリジノンコポリマー;ポリビニルピロリドン/ポリビニルアセテートコポリマー;ノボラック樹脂、例えば、Occidental Chemical Companyから入手可能なDUREZ 12 686;天然産物であるワックス、例えば、蜜ロウ、モントンワックス、カンデリラロウ、GILSONITE(American Gilsonite Company)など;直鎖一級アルコールと、直鎖長鎖アミドまたは脂肪酸アミドとの混合物、例えば、炭素原子が約6〜約24個のもの(PARICIN 9(プロピレングリコールモノヒドロキシステアレート)、PARICIN 13(グリセロールモノヒドロキシステアレート)、PARICIN 15(エチレングリコールモノヒドロキシステアレート)、PARICIN 220(N(2−ヒドロキシエチル)−12−ヒドロキシステアロアミド)、PARICIN 285(N,N’−エチレン−ビス−12−ヒドロキシステアロアミド)、FLEXRICIN 185(N,N’−エチレン−ビス−リシンオレアミド)などが挙げられる。さらに、炭素原子が約4〜約16個の直鎖長鎖スルホン、例えば、n−プロピルスルホン、n−ペンチルスルホン、n−ヘキシルスルホン、n−ヘプチルスルホン、n−オクチルスルホン、n−ノニルスルホン、n−デシルスルホン、n−ウンデシルスルホン、n−ドデシルスルホン、n−トリデシルスルホン、n−テトラデシルスルホン、n−ペンタデシルスルホン、n−ヘキサデシルスルホンなどが、適切なインクビヒクル材料である。
【0026】
インクビヒクルは、分岐したトリアミド、例えば、
【化8】


を含んでいてもよく、式中、nは、平均値が約34以上40以下であり、x、y、zは、それぞれ、ゼロであるか、または整数であってもよく、x、y、zの合計は、約5以上6以下である。
【0027】
インクビヒクルは、上述の適切な材料を1つ以上含んでいてもよい。
【0028】
しかし、いくつかの実施形態では、印刷基板の望ましい疎水性は、インク中で用いられる材料、特に、これらの材料の極性を制御することによって制御される。したがって、例えば、反応性がヒドロキシル官能基によって付与されているマイクロアレイまたはマイクロ流体デバイスを印刷する場合、インク組成物が非極性成分を含むことが望ましい。すなわち、インクが、非極性ワックスなどのような非極性材料によって完全に構成されるか、または実質的に構成されるか、または大部分が構成されることが望ましい。例えば、いくつかの実施形態では、インクは、非極性ポリマーのような非極性成分を約50重量%、または約60重量%、または約70重量%、または約80〜100重量%含む。いくつかの実施形態では、インクは、非極性成分(例えば、非極性ポリマー)を約80重量%、または約90〜約98重量%、約99重量%、約99.09重量%、または100重量%含んでいてもよく、例えば、非極性成分を約95重量%〜約99重量%、または100重量%含んでいてもよい。さらに、いくつかの実施形態で、インクビヒクルが、エステル基、アミド基、酸基、ヒドロキシル基などのような他の反応性官能基を含んでいないことが望ましい。
【0029】
これらの実施形態では、上述の炭化水素系ワックス、例えば、Baker Petroliteから入手可能なPOLYWAX(登録商標)群は、インクビヒクルに用いるのに適し得る。ある実施形態では、例えば、もっと正確な平均分子量を得るため、またはもっと狭い分子量分布を得るため、またはその材料がもっと純粋に含まれるように、このような炭化水素系ワックスのうち、特定の分子量を取り出したものを用いてもよい。例えば、POLYWAX(登録商標)500のうち、ある分子量を正確に取り出したものを用い、実質的に純粋なポリエチレンを得ることができる。
【0030】
また、他の適切な非極性材料をインクビヒクルに用いてもよい。例えば、他の適切な材料としては、フッ素化エチレンコポリマー、低分子量ポリプロピレン、分岐したポリオレフィンなどが挙げられる。また、半フッ素化非極性化合物も適しており、例えば、P.M.TurbergおよびE.Bradey、「Semifluorinated hydrocarbons Primitive surfactant molecules」、J.Am.Chem.Soc.110、7797(1988)に開示されているものが挙げられる。それに加え、所望な場合、疎水性、粘度などのようなインクの性質を用途に応じて調節するために、材料の混合物を使用してもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、1種類以上(例えば、2種類、3種類、4種類、またはそれ以上の)異なる非極性材料、例えば、非極性ポリマーをインクビヒクルとして用いてもよい。例えば、インクビヒクルは、2種類以上の異なる非極性のフッ素化されていないポリマー;1種類以上の異なる非極性のフッ素化されていないポリマーと、1種類以上の異なる非極性のフッ素化ポリマー;などを含んでいてもよい。さらなる他の実施形態では、非極性ポリマーを、1種類以上の極性材料(例えば、1種類以上の極性ポリマー)と組み合わせて用いてもよい。しかし、極性材料を用いる場合、その極性材料が、インク組成物の5重量%を超えない量で、または4重量%を超えない量で、または3重量%を超えない量で存在することが望ましい。
【0032】
相変化インクのためのインクビヒクルは、例えば、高温顕微鏡で観察し、測定することによって決定した場合、融点が、約60〜約150℃、例えば、約80〜約120℃、または約85〜約110℃であってもよく、ここで、バインダ材料は、ガラススライド上で加熱され、顕微鏡で観察される。また、融点はもっと高くてもよいが、150℃よりも高い温度では、印刷ヘッドの寿命が短くなる場合がある。
【0033】
それに加え、インクの操作(吐出)温度で、インクの表面張力は、再充填速度を高め、色の混合を促進するために、約20〜約40ダイン/cm、例えば、約40〜約65ダイン/cmであるべきである。相変化インクの操作温度または吐出温度は、一般的に、約60〜約150℃である。インクの操作温度でのインクの粘度は、一般的に、約1〜約20cP、例えば、約1〜約15cP、または約5〜約15cPである。例えば、インクの操作温度が約120℃以上である場合のインクの粘度は、約10cP以下であってもよい。
【0034】
インク組成物は、全体として、一般的に、インクビヒクル(つまり、任意の望ましい着色剤、添加剤などを除外したもの)を、インクの約25重量%〜約99.5重量%、例えば、インクの約30重量%〜約90重量%、または約50重量%〜約85重量%含む。
【0035】
インクビヒクル成分(例えば、非極性ポリマー)は、望ましくは、印刷されたインクが、基板に高い接触角を付与するように選択される。したがって、例えば、印刷されたインクは、水接触角(つまり、画像形成されたインクに対する水の接触角)が少なくとも約90°である。水接触角は、例えば、約90°、または90°より大きくてもよく、または、約100°または110°から、約155°、または約165°、または約175°であってもよい。
【0036】
本開示の相変化インクは、場合により、少なくとも1つの着色剤を含んでいてもよい。従来の相変化インクは、典型的には、着色剤を含んでいるが、着色剤は、バイオメディカル用途では必要でない場合もあり、したがって、着色剤および任意の必要な分散剤などは、インク組成物を単純化するために省かれていてもよい。しかし、例えば、印刷した構造を視覚的に確認することが望ましい場合には、1種類以上の着色剤が含まれていてもよい。そのような着色剤が含まれる場合、着色剤は、顔料、染料、顔料の組み合わせ、染料の組み合わせ、顔料と染料の組み合わせなどであってもよい。着色剤は、視覚的に着色していてもよく(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなど)、または、他の波長で着色していてもよい(例えば、紫外線)。
【0037】
所望な場合、任意の適切な従来の着色剤または開発済の着色剤を従来の既知の量で用いてもよい。必要な場合、または望ましい場合、インクビヒクルに着色剤を分散させやすくするために、分散剤が含まれていてもよい。
【0038】
場合により、噴射剤が相変化インクに含まれていてもよいが、多くのインク組成物には必要ではない。相変化インクに適した噴射剤は、任意の有効な量で存在し、例えば、インクの約10〜約90重量%、例えば、約20〜約50重量%の量で存在し、一般的に、融点は、約50〜約150℃、例えば、約80〜約120℃である。別の実施形態では、噴射剤は、一般的に、沸点が、約180〜約250℃、例えば、約200〜約230℃である。さらに、インクの操作温度で液体状態である噴射剤の表面張力は、再充填速度を高め、紙の濡れ性を高め、色の混合を促進するために、約20〜約65ダイン/cm、例えば、約40〜約65ダイン/cmであってもよい。それに加え、噴射剤は、理想的には、再充填速度を高め、噴射性を上げるために、インクの操作温度での粘度が約1〜約20cP、例えば、約1〜約5センチポイズである。また、噴射剤は、分解して気体生成物を生じないように、または熱による沈着を形成しないように、溶融状態で熱に安定であってもよい。
【0039】
また、インクは、酸化防止剤を含んでいてもよい。インク組成物の酸化防止剤は、インク調製物の一部を加熱し、吐出するプロセスの間に、インク成分が酸化するのを防ぐ。適切な酸化防止剤の具体例は、米国特許第6,858,070号に記載されている。任意成分の酸化防止剤が存在する場合、酸化防止剤は、インク中に任意の望ましい量または任意の効果的な量で存在し、1つの実施形態では、インクビヒクルの少なくとも約0.01重量%、別の実施形態では、インクビヒクルの少なくとも約0.1重量%、さらに別の実施形態では、インクビヒクルの少なくとも約1重量%、1つの実施形態では、インクビヒクルの約20重量%以下、別の実施形態では、インクビヒクルの約5重量%以下、さらに別の実施形態では、インクビヒクルの約3重量%以下であってもよいが、これらの範囲から外れる量であってもよい。酸化防止剤を1種類だけ用いる場合、ヒンダードアミンが好ましく、例えば、Naugard 445酸化防止剤(Uniroyal Chemical Co.(Middlebury、CT)またはCrompton Corporationから得られる)が好ましい。他の実施形態では、溶融物の処理安定性および長期間にわたる熱安定性を高めるために用いられる酸化防止剤の混合物としては、限定されないが、ヒンダードアミン、亜リン酸塩、ヒンダードフェノール、ヒドロキシルアミン、ラクトン、トコフェロール、チオ共力剤などが挙げられる。
【0040】
実施形態のインクは、従来の添加剤と関連する既知の機能をうまく活かすために、従来の添加剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤としては、消泡剤、滑り剤およびレベリング剤、可塑剤、顔料分散剤などを挙げることができる。
【0041】
他の任意成分である添加剤(例えば、可塑剤)が、インク中に存在してもよい。使用可能な可塑剤としては、BENZOFLEX S552(Velsicol Chemical Corporation)として市販されているペンタエリスリトールテトラベンゾエート、CITROFLEX 1(Monflex Chemical Company)として市販されているクエン酸トリメチル(trymethyl titrate)、HALCOMID M−18−OL(C.P.Hall Company)として市販されているN,N−ジメチルオレアミドなどが挙げられてもよく、これらをインクビヒクルに加えてもよく、インクのインクビヒクル成分の約0.5〜20%を構成していてもよい。可塑剤は、インクビヒクルとして機能してもよく、または、一般的に極性のインク噴射剤と、一般的に非極性のインクビヒクルとの間の相溶性を付与する薬剤として作用してもよい。
【0042】
相変化インクは、種々の成分を混合するのに適した任意のプロセスによって調製することができ、調製プロセスは、特に限定されない。例えば、インク成分を、構成成分であるポリマーの融点を超える温度で、高剪断溶融ミキサで混合してもよい。
【0043】
印刷された画像は、インクジェットデバイス(例えば、熱インクジェットデバイス、音響インクジェットデバイス、または圧電式インクジェットデバイス)に用いるプリンタカートリッジにインクを入れ、同時に、画像を受け入れる基板(例えば、紙、透明材料、プラスチックフィルム、ガラススライドなど)上に、インクの液滴を、画像を形成する模様になるように吐出することによって、本明細書に記載したインクを用いて作成されてもよい。インクは、典型的には、インクジェットヘッドの対応する吐出チャネルに対し、任意の適切な供給デバイスで接続した容器に入っている。吐出手順において、インクジェットヘッドを、任意の適切な方法によって、インクの吐出温度まで加熱してもよい。
【0044】
また、インクを、印刷インクジェット用途で間接的に使用してもよく、溶融したインク液滴を、画像を受け入れる基板上に画像を形成する模様になるように吐出する場合、基板は、中間転写体であり、次いで、画像の模様を形成したインクを、中間転写体から、最終的な記録基板に転写する。中間転写体は、例えば、ドラムであってもよい。
【0045】
中間転写体を用いる実施形態では、中間転写体の表面温度が約45〜約80℃になるように中間転写体を加熱してもよい。表面温度を高温にすることによって、インクは溶融状態のまま存在し、転写体の表面でのオフセットまたはインクの割れを避け、それにより、最終画像を受け入れる基板(例えば、紙または透明物)に対し、画像を良好に転写することができる。

【0046】
いくつかの実施形態では、インクジェットシステムは、上述のインクを単独で備えていてもよく、少なくとも2種類の異なるインクから構成されるインクセットを備えていてもよい。例えば、インクシステムは、上述のインクを単独で備えていてもよく、上述のインクを、着色した相変化インクと組み合わせて備えていてもよく、この場合、本開示のインクを、マイクロアレイまたはマイクロ流体デバイスを印刷するために用いてもよく、着色したインクを、文字、ラベル、線などを基板上に印刷するために用いてもよい。また、システムは、インクセットの中で、異なるそれぞれの相変化インクのための1個のチャネルと、それぞれの異なる相変化インクを、例えば、異なるそれぞれの相変化インクを含む容器から、それぞれのインクヘッドのチャネルに供給する供給経路とを有する、インクジェットヘッドを含むインクジェットデバイスを備えている。
【0047】
任意の適切な基板または記録シートを用いてもよく、普通紙(例えば、XEROX(登録商標)4200紙、XEROX(登録商標)4024紙、XEROX(登録商標)Image Series紙、Courtland 4024 DP紙、罫線入りノートの紙、ボンド紙、シリカでコーティングされた紙(例えば、Sharp Company製のシリカでコーティングされた紙、JuJo紙、Hammermill Laserprint紙など)、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマーフィルムまたはプラスチックフィルム(例えば、ポリイミドフィルム)またはポリエチレン、無機基板、例えば、金属および木材、ガラススライドなどが挙げられる。
【0048】
上述のインクは、良好な濾過性を有すること、種々の連続的な凍結解凍サイクルで安定性を維持すること、120℃で少なくとも10日間、良好なレオロジー安定性を有することのような、ある特定の属性を有することが望ましい。さらに、上述のインクは、120℃で7日間、または120℃で14日間経過した後にも、任意の顕著な沈殿を生じない。開示されているインクは、いくつかの実施形態では、ニュートン流体のレオロジー性を示し、さらに、安定性が向上している。開示されているインクを、約100℃〜約150℃の温度範囲で印刷してもよいが、エネルギー消費量を減らすことによって、印刷費用をさらに減らすために、比較的低い温度で印刷することが有益である。
【0049】
所望な場合、まず、インクを用いて画像形成させる前に、例えば、画像形成させたインクが基板に付着しやすくなるように、基板を処理してもよい。この前処理は、インクを用いた画像形成の直前に行ってもよく、画像形成とは離れた時間帯に、例えば、すでに前処理しておいた基板を与えることによって行ってもよい。このような前処理は、バイオメディカル試験および分析の分野でよく知られており、望ましい結果を得るために、任意のこのような処理を本開示で簡単に実行することができる。例えば、基板へのインクの接着性を高めるための、1つの適切な前処理プロセスは、画像形成されていない基板を暴露してプラズマ処理することであり、このとき、イオン化したラジカル(例えば、イオン化したO、Ar、Heなど)を基板表面と反応させる。
【0050】
マイクロ流体デバイスおよび関連するデバイスは、種々の異なる方法によって製造することができる。例えば、図1は、三次元マイクロ流体の例示的なLab−on−a−Printプロセスを示す。図1に示されるように、望ましいリソグラフィパターン1を、従来のプロセスによって基板2(例えば、ポリマー基板)に製造する。接着性材料3を、リソグラフィパターン1の接触部分に塗布し、この部分が、対向する基板に接触することになる。これにより、マイクロ流体構造の上側半分10を形成する。本明細書に記載したインク組成物を望ましいパターン4になるように基板5(例えば、ポリマー基板またはガラス基板)上に印刷することによって、マイクロ流体構造の下側半分20を形成する。例えば、適切なインクジェットプリンタを用いることによって、任意の適切な方法によって印刷を行ってもよい。次いで、上側半分10および下側半分20を、矢印25に示すように組み立て、最終的なマイクロ流体構造を作成する。代替的な組み立て例を図2に示しており、この構造は図1とよく似ているが、但し、構造の下側半分20が、基板5とインクパターン4との間に金属層6を備えている。
【0051】
また、広範囲のバイオメディカル用途で有用な他のマイクロデバイス(例えば、マイクロアレイ)を製造するために、本明細書に記載されるようなインク、およびインクを組み込んだプリンタ装置を用いてもよい。例えば、その後に、生体材料への結合部位として使用するための基板上に印刷するために、このインクおよび装置を用いてもよい。このような印刷によって、連続的なフィルムを作成してもよく、または、結合部位として機能する別個の規則的な点またはランダムな点を作成してもよい。したがって、所望の要求(例えば、その後の、基板へのタンパク質、DNA、または他の生体材料の結合)に依存して、非極性インクを、基板表面の疎水性を制御するように印刷してもよい。
【0052】
図3および図4は、マイクロアレイの形成および使用の2種類の非限定的な例を示す。図3は、基板30を含むマイクロアレイの形成を示す。適切な方法(例えば、適切なインクジェットプリンタを用いること)によって、本明細書に記載されているインク組成物を印刷し、任意の適切な、望ましい印刷されたパターンを基板30上に作成してもよい。このパターンは、例えば、連続的な印刷されていない領域32によって空間的に隔てられた、不連続な印刷された領域31のパターンであってもよい。代替的な実施形態が図4に示されており、基板40は、連続的な印刷されている領域41によって空間的に隔てられた、不連続な印刷されていない領域42のパターンになるように印刷されている。他の連続的なパターン(例えば、線)を、点と組み合わせて用いてもよい。他の代替例は、本開示に基づいて明らかであろう。
【0053】
したがって、例えば、インクが基板上に印刷される場合、印刷された表面は、部分的または完全に疎水性インクで覆われている。このように、疎水性インクは、水系流体をはじき、水系液体を、望ましい(例えば、印刷されていない)領域に閉じ込め、マイクロアレイを通って水系流体を流す、といったことが可能な疎水性表面を作る。さらなる他の実施形態では、流体の流れを制御するパッシブバルブ、ゲート、ミキサ、サンプルデバイダ、サンプルコンソリデータなどを形成する、印刷された構造を与えるような様式で、インクを印刷することができる。あるいは、基板のうち、疎水性が低く、印刷されていない領域と比較して、他の材料を優先的に引きつけ、および/または他の材料に優先的に結合させるために、疎水性の画像形成された領域を用いてもよい。
【0054】
これらの実施形態では、疎水性領域は、好ましくは、マイクロ構造のインク以外の構造(すなわち、親水性領域)に流体を流すことが可能なような、流体にとって好ましくない経路を作成してもよい。流体は、特定の混合および反応のために、所定の領域内に留まっていてもよい。同様に、この構造によって、その表面が流体を特定の領域に引きつけるため、ほとんど力を加えないか、まったく力を加えずに、流体を簡単に流すことができる。例えば、インク領域が点である図3において、この点の上には、水系のインクは留まらず、そのため、この点によって流体が流れ、インク以外の領域に導かれるであろう。一方、インク領域がマトリックス状の線であり、孤立している点がインク以外の領域である図4において、インクは、インク以外の領域に留まり、流れ出ないであろう。この後者の構造によって、任意の構造的な壁が存在しなくても、所与の領域内に流動性の液体を閉じ込める簡単な様式がもたらされる。例えば、インク以外の領域に特定の流動性の液滴を運ぶために、特定のマイクロピペットを用いてもよく、この流体は、他の位置に動くことなく、その領域に制限されるであろう。図3において、図3に示されている特定のパターンを、例えば、三次元構造を作り出す基板および接着剤で覆ってもよい。
【0055】
このように用いられる場合、基板は、所望の用途に適した任意の基板であってもよい。例えば、普通紙、コーティングされた紙、透明材料、布地、繊維製品、プラスチック、ポリマーフィルム、無機基板、ガラスなどを含む上述の基板を用いてもよい。基板は、平滑であってもよく、平滑でなくてもよく、望ましい場合、インクが印刷されるべきウェル、またはインクが印刷されないウェルを有していてもよい。
【0056】
吐出可能な固体インクを製造するために以下の成分を用い、成分の量は、他に記載のない限り、重量部で表される。インクの濃縮基剤は、以下の成分を溶融し、オーバーヘッドスターラを用いて120℃で均一にブレンドして混合することによって調製される。Baker Petrolite製の蒸留したポリエチレンワックス500 80部、Baker Petrolite製の蒸留したポリエチレンワックス700 16部、トリアミドワックス(米国特許第6,860,930号に記載されているトリアミド)2部、Crompton Corporationから市販されているS−180(ステアリルステアロアミド)2部。卓上型のホットプレートと、上述の成分の入ったガラス容器をあらかじめ120℃に加熱しておく。メカニカルスターラを用い、ポリマー混合物を混合し、速度を調節し、30分後には十分に混合されているようにする。次いで、インク混合物を取り出し、室温まで冷却する。
【0057】
インクをXerox printer Phaserプリンタに入れる。post−scriptフォーマットでパターンを作成する。このパターンには、線、点、ベタ領域(インクで覆われた領域)が含まれる。使用する基板は、ポリイミド(DuPont製のKapton)、無色透明のシート(Xerox製)である。この基板上にパターンを印刷し、インク画像を印刷する。インク領域の接触角を、DataPhysics GmbH製の装置を用いて測定する。接触角は105°である。インク以外の領域は、60°と測定される。規則的なインク(つまり、従来のベタ状の相変化インク)の接触角は、82°と測定される。
【0058】
次いで、比較例1のインクを、インク顔料濃縮物から製造する。具体的には、以下の成分の混合物を溶融させた均一溶液70.1gを調製する。Baker Petrolite製の蒸留したポリエチレンワックス72.98部、トリアミドワックス(米国特許第6,860,930号に記載されているトリアミド)3.70部、Crompton Corporationから市販されているS−180(ステアリルステアロアミド)17.11部、Arakawa Corporationから市販されているKE−100樹脂(Arakawa Chemical Industries,Ltd.製の水素化アビエチン(ロジン)酸トリグリセリド)5.20部、Crompton Corporationから入手可能なNaugard 445 0.23部、Lubrizol Corporationから入手可能なSolsperse 17000 0.78部。この溶液を、120℃のオーブンで、400RPMで撹拌しつつ、インク顔料濃縮物74.9gにゆっくりと加える。得られた顔料インクを、Pall Corporationから市販されている6ミクロンガラス繊維フィルターを用い、120℃で粗く濾過する。その後、このインクを、Pall Corporationから市販されている1ミクロンガラス繊維フィルターで濾過する。115℃の剪断速度での粘度を、Rheometrics Scientificから入手可能なRFS3レオメーターで、円錐形および平板を用いた方法で、インクの1ミクロン通過物によって測定する。このインクは、ニュートン流体であり、剪断速度での粘度が、1s−1および100s−1でそれぞれ10.0cPおよび9.9cPであることがわかっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイスであって、
第1の基板と、
この第1の基板表面に堆積した相変化インクとを含み、この相変化インクが、非極性ポリマー材料と、場合により、着色剤とを含み、
この相変化インクが、室温で固体であるが、約60〜約150℃の吐出温度では液体であり、前記堆積した相変化インクの水接触角が、約90°〜約175°である、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記相変化インクが、非極性ポリマー材料と極性ポリマー材料との混合物を含み、前記極性ポリマー材料が、前記インクの約5重量%以下の量で存在する、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記非極性ポリマー材料が、非極性炭化水素系ワックスを含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記非極性ポリマー材料が、一般式
【化1】


を有するポリエチレンホモポリマーを含み、式中、xは、約1〜約200の整数である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記非極性ポリマー材料が、フッ素化エチレンコポリマー、低分子量ポリプロピレン、分岐したポリオレフィン、半フッ素化非極性化合物からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記疎水性インクパターンが、前記マイクロ流体デバイス中で、水系流体で濡れることを防止する、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
吐出温度で、前記相変化インクの表面張力が約20〜約65ダイン/cmであり、粘度が約1〜約20cPである、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
厚み方向に、前記第1の基板に接着された第2の基板を備える、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
マイクロアレイであって、
基板と、
相変化インクを用いて、前記基板上に印刷された画像とを含み、この相変化インクが、非極性ポリマー材料と、場合により、着色剤とを含み、
この相変化インクが、室温で固体であるが、約60〜約150℃の吐出温度では液体であり、前記画像に対する水接触角が、約90°〜約175°であり、この接触角が、前記基板の画像形成されていない領域の水接触角よりも大きい、マイクロアレイ。
【請求項10】
マイクロアレイを製造する方法であって、
基板を与えることと;
インクジェットプリンタから、前記基板上に相変化インクの液滴を吐出させ、画像を形成することと;
前記液滴によって前記基板表面上に疎水性の領域を形成するように、前記画像を固化させることと;を含み、
この相変化インクが、非極性ポリマー材料と、場合により、着色剤とを含み、室温で固体であるが、約60〜約150℃の吐出温度では液体であり、前記画像に対する水接触角が、約90°〜約175°であり、この接触角が、前記基板の画像形成されていない領域の水接触角よりも大きい、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37511(P2012−37511A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159478(P2011−159478)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】