説明

バイパススロットを備えたプロセスチャンバーを有する試料処理装置

バイパススロットを有するプロセスチャンバーを含む試料処理装置、およびその使用方法を開示する。バイパススロットは、プロセスチャンバーの側壁に形成され、そしてプロセスチャンバーに流体試料物質を送達するために使用される分配チャンネルと流体接続する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多くの異なる化学反応、生化学反応および他の反応は、温度変化に敏感である。遺伝子増幅の分野の熱プロセスの例としては、限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)(PCR)、サンガー(Sanger)シークエンシング等が挙げられる。関連物質の温度に基づき、反応が増強され得るか、または抑制され得る。試料を個々に処理して正確な試料間の結果を得ることが可能であるが、個々の処理は、時間や費用がかかる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
上記反応を補助するために、様々な試料処理装置が開発されている。かかる装置の多くに共通の問題は、例えば、反応完了の前、間および後の反応の汚染を防止するために、反応が起こるチャンバーまたはウェルを密封することが望ましいことである。
【0003】
これらのアプローチの多くにおいて起こり得る、さらにもう1つの問題は、試料物質の体積が限定され、かつ/または試料物質と関連して使用される試薬の費用も限定され、かつ/または高価であることである。結果として、小体積の試料および関連試薬を使用することが望ましい。しかしながら、小体積のこれらの物質を使用する場合、試料物質を装置間で移動させる時に、試料物質および/または試薬体積等の損失に関連する付加的問題が起こり得る。
【0004】
1つのかかる問題は、装置がプロセスチャンバー中に挿入される時に、試料物質をプロセスチャンバーに送達するために使用される分配チャンネル中に戻される流体試料物質の損失である。分配チャンネル中に戻される試料物質は、さらなる処理のために利用可能ではなく、故に利用可能な試料物質の量が減少する。
【0005】
本発明は、バイパススロットを有するプロセスチャンバーを含む試料処理装置、およびその使用方法を提供する。バイパススロットは、プロセスチャンバーの側壁に形成され、そしてプロセスチャンバーに流体試料物質を送達するために使用される分配チャンネルと流体接続する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
バイパススロットは、プロセスチャンバー中への器具の挿入時に、プロセスチャンバーへと試料物質を送達するために使用される分配チャンネル中に戻されるプロセスチャンバーからの流体試料物質の移動を、好ましく減少するか、または防止する。圧力の解放および/またはプロセスチャンバーから空気を逃がすための流体通路の提供によって、バイパススロットはその機能を達成し得る。
【0007】
プロセスチャンバーが流体試料物質によって充填された後に、試料物質を運搬する流体がバイパススロットを湿潤させないように、プロセスチャンバーおよびバイパススロットは好ましく構成される。
【0008】
さらに、プロセスチャンバー中に挿入される器具が、毛管電極(電気泳動用に使用される)である場合、プロセスチャンバーおよびバイパススロットは、プロセスチャンバー中への挿入時に、流体試料物質が毛管電極を完全に包囲し、そして毛管電極の外面で金属電極を湿潤させることを確実にする大きさであることが好ましい。
【0009】
一態様において、本発明は、第1の長辺および該第1の長辺に対向する第2の長辺を含む本体と、前記本体内に配置される複数のプロセスチャンバーであって、前記プロセスチャンバーの各々が、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在する主空隙を含む、プロセスチャンバーと、前記複数のプロセスチャンバーの各々に入る分配チャンネルであって、前記本体の前記第1の長辺に最も近いプロセスチャンバーに入る、分配チャネルと、前記プロセスチャンバーの各々の側壁に形成され、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在するバイパススロットであって、前記プロセスチャンバーの前記主空隙から遠位の位置で前記本体の前記第1の長辺に最も近い分配チャンネル内で開口する、パイパススロットと、を含む、試料処理装置を提供する。
【0010】
もう1つの態様において、本発明は、第1の長辺および該第1の長辺に対向する第2の長辺を含む本体と、前記本体内に配置される複数のプロセスチャンバーであって、前記プロセスチャンバーの各々が、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在する主空隙を含む、プロセスチャンバーと、前記複数のプロセスチャンバーの各々に入る分配チャンネルであって、前記本体の前記第1の長辺に最も近いプロセスチャンバーに入る、分配チャネルと、前記プロセスチャンバーの各々の側壁に形成され、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在するバイパススロットであって、前記プロセスチャンバーの前記主空隙から遠位の位置で前記本体の前記第1の長辺に最も近い分配チャンネル内で開口する、パイパススロットと、を含む、試料処理装置であって、前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大であり、さらに前記バイパススロットが、前記本体の前記第1の長辺から遠位の終結点を含み、さらに前記バイパススロットの前記終結点は、前記本体の前記第2の長辺から間隔をあけている、試料処理装置を提供する。
【0011】
もう1つの態様において、本発明は、本発明に係る試料処理装置を用意する工程と、前記試料処理装置の複数のプロセスチャンバーのうちの少なくとも1つのプロセスチャンバー内に流体試料物質を充填する工程と、前記流体試料物質によって充填された少なくとも1つのプロセスチャンバー内に器具を挿入する工程と、を含む、プロセスチャンバー内に位置する試料物質の処理方法を提供する。
【0012】
本発明の様々な実例となる実施形態に関して、本発明のこれらおよび他の特徴および利点を以下に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、熱プロセス、例えば、PCR増幅、リガーゼ連鎖反応(LCR)、自立的(self−sustaining)配列複製、酵素反応動力学研究、均質配位子結合分析評価、ならびに正確な熱制御および/もしくは迅速な熱変動を必要とするより複雑な生化学プロセスまたは他のプロセスのような、敏感な化学プロセスを伴う方法において使用することができる試料処理装置を提供する。
【0014】
装置の様々な実例となる実施形態の構造を以下に記載するが、本発明の原理に従う試料処理装置は、2000年6月28日出願の「熱処理装置および方法(THERMAL PROCESSING DEVICES AND METHODS)」という表題の米国仮特許出願第60/214,508号明細書(代理人整理番号55265USA19.003)、2000年6月28日出願の「試料処理装置、システムおよび方法(SAMPLE PROCESSING DEVICES,SYSTEMS AND METHODS)」という表題の米国仮特許出願第60/214,642号明細書(代理人整理番号55266USA99.003)、2000年10月2日出願の「試料処理装置、システムおよび方法(SAMPLE PROCESSING DEVICES,SYSTEMS AND METHODS)」という表題の米国仮特許出願第60/237,072号明細書(代理人整理番号56047USA29)、および2001年6月28日出願の「増強された試料処理装置、システムおよび方法(ENHANCED SAMPLE PROCESSING DEVICES,SYSTEMS AND METHODS)」という表題の米国特許出願公開第2002/0047003 A1号明細書に記載の原理に従って製造されてよい。他の可能な装置構造は、例えば、2003年9月30日に発行された「試料処理装置の遠心充填(CENTRIFUGAL FILLING OF SAMPLE PROCESSING DEVICES)」という表題の米国特許第6,627,159号明細書、2001年6月28日に出願された「増強された試料処理装置システムおよび方法(ENHANCED SAMPLE PROCESSING DEVICES SYSTEMS AND METHODS)」という表題の米国特許出願公開第2002/0047003 A1号明細書、2001年6月28日に出願された「試料処理装置(SAMPLE PROCESSING DEVICES)」という表題の米国特許出願公開第2002/0064885 A1号明細書、および2001年6月28日に出願された「試料処理装置および担体(SAMPLE PROCESSING DEVICES AND CARRIERS)」という表題の米国特許出願公開第2002/0048533 A1号明細書、ならびに2002年12月19日に発行された「再封入可能なプロセスチャンバーを有する試料処理装置(SAMPLE PROCESSING DEVICE WITH RESEALABLE PROCESS CHAMBER)」という表題の米国特許出願公開第2003/0118804 A1号明細書に見出され得る。
【0015】
本発明に関連して、「上部」および「底部」のような相対的な位置に関する用語を使用する場合があるが、それらの用語が相対的な意味のみで使用されることは理解されるべきである。例えば、本発明の装置に関連して使用される場合、「上部」および「底部」は、装置の反対側を意味するために使用される。実際の使用において、「上部」または「底部」と記載される要素は、いずれの配向または位置でも見出されてよく、そして方法、システムおよび装置をいずれかの特定の配向または位置に限定するように考えられるべきではない。例えば、装置の上面は、実際には、使用時に装置の底面より低い位置にあってもよい(しかしながら、それは底面からの装置の対向面上で見出される)。
【0016】
また、本発明に従ってバイパススロットを含むチャンバーを記載するために「プロセスチャンバー」という用語を使用するが、プロセスチャンバーによって、処理(例えば、熱処理)が生じても生じなくてもよいことは理解されるべきである。いくつかの例において、プロセスチャンバーは、試料物質のための単なる貯蔵所であってもよく、その中に含まれる試料物質のさらなる処理を排除するために器具類を収容するように設計される。
【0017】
本発明の原理に従って製造される1つの実例となる装置を図1〜図3に示す。装置10は、図1に図示されるように円形ディスク形状であり得るが、いずれの他の形状も使用することができる。例えば、本発明の試料処理装置は、従来のマイクロタイタープレートのフットプリントと一致する長方形型で提供されてもよい。
【0018】
描写された装置10は、複数のプロセスチャンバー50を含み、それぞれのプロセスチャンバーは、試料、および試料によって処理されるいずれかの他の物質を含有するための体積を画定する。図示された装置10は、96個のプロセスチャンバー50を含むが、本発明に従って製造される装置に関連して提供されるプロセスチャンバーの正確な数は、所望により96より多くても、または96未満であってもよいことは理解されよう。
【0019】
さらに、プロセスチャンバー50は、円形配列に構成されて図示されているが、本発明のいずれの試料処理装置に対し、いかなる形状で提供されてもよい。例えば、プロセスチャンバー50は、従来のマイクロタイタープレート処理装置と一致する直線配列で提供されてもよい。かかる構造を有する試料処理装置のいくつかの例は、例えば、2001年4月18日出願の「マルチ−フォーマット試料処理装置、方法およびシステム(MULTI−FORMAT SAMPLE PROCESSING DEVICES,METHODS AND SYSTEMS)」という表題の米国特許出願公開第2002/0001848 A1号明細書に記載されている。
【0020】
図1〜図3の装置10は、第1の長辺22および第2の長辺24を含む本体20を含む多層複合構造である。第1の層30は、本体20の第1の長辺22に接着し、そして第2の層40は、本体20の第2の長辺24に接着する。例えば、その中に位置する構成要素が熱プロセス間に迅速に加熱される時に、プロセスチャンバー50内で生じ得る膨張性のある力の全てに抵抗する十分な強度で、第1の層30および第2の層40は、本体20上でそれぞれの長辺に接着するか、または結合することが好ましい。
【0021】
部品間の結合の強さは、装置10が熱サイクルプロセス、例えばPCR増幅に使用される場合、特に重要である。かかる熱サイクルに含まれる反復性の加熱および冷却のために、装置10の側面間は、より強く結合することが要求される。部品間のより強力な結合によって解決されるもう1つの潜在的な問題は、部品を製造するために使用される異なる物質間のあらゆる熱膨張係数差である。
【0022】
描写された装置10におけるプロセスチャンバー50は、分配チャンネル60と流体接続する。これにより、充填チャンバー62と協働して、プロセスチャンバー50へ試料を分配するための分配系が提供される。回転間に生じる遠心力のため、試料物質が外側へと移動するように、回転の中心軸に対して装置10を回転することによって、充填チャンバー62を通しての装置10中への試料の導入が可能になる。装置10を回転させる前に、分配チャンネル60を通して、プロセスチャンバー50への送達のための充填チャンバー62中に試料を導入することができる。プロセスチャンバー50および/または分配チャンネル60は、それを通して空気を逃がすことができるポートおよび/またはプロセスチャンバー50への試料物質の分配を補助する他の特徴を含み得る。あるいは、真空または圧力の補助のもとで、プロセスチャンバー50中に試料物質を充填することができる。
【0023】
図示された装置10は、互いに単離された2つのサブチャンバー64を有する充填チャンバー62を含む。結果として、分配チャンネル60を通して充填チャンバー62のそれぞれのサブチャンバー64と流体接続するプロセスチャンバー50中に充填するために、各サブチャンバー64中に異なる試料を導入することができる。充填チャンバー62は1つのチャンバーのみを含有してもよいこと、またはいずれかの所望の数のサブチャンバー64、すなわち2つ以上のサブチャンバー64が装置10に関連して提供され得ることは理解されるであろう。
【0024】
本体20は、好ましくはポリマーであるが、ガラス、シリコン、石英、セラミック等のような他の物質から作製されてもよい。さらに、本体20は、均質な一体物の本体として図示されているが、あるいは、例えば、同一または異なる物質の層の非均質な本体として提供されてもよい。本体20が試料物質と直接接触しているそれらの装置10に関しては、本体20に使用される物質が試料物質と非反応性であることが好ましい。多くの異なるバイオ分析の応用において基材として使用することができるいくつかの適切なポリマー物質の例としては、限定されないが、ポリカーボネート、ポリプロピレン(例えば、アイソタクチックポリプロピレン)、ポリエチレン、ポリエステル等が挙げられる。
【0025】
第1の層30は、均質な一体物の層として図示されているが、あるいは、例えば、同一または異なる物質、例えば、ポリマー物質、金属層等の亜層の非均質層として提供されてもよい。
【0026】
また、第2の層40は、均質な一体物の層として図示されているが、あるいは、例えば、同一または異なる物質、例えば、ポリマー物質等の亜層の非均質層として提供されてもよい。第2の層40の適切な構造の一例は、例えば、2002年12月19日出願の「再封入可能なプロセスチャンバーを有する試料処理装置(SAMPLE PROCESSING DEVICE WITH RESEALABLE PROCESS CHAMBER)」という表題の米国特許出願公開第2003/0118804 A1号明細書、および「制御された穿刺フィルム(CONTROLLED−PUNCTURE FILMS)」という表題の国際公開第2002/090091 A1号パンフレット(2001年5月2日出願の米国特許出願公開第2003/0022010 A1号明細書に対応)に記載の再封入可能なフィルムである。
【0027】
プロセスチャンバー50の体積を画定する物質の少なくとも一部分は、選択された波長の電磁エネルギーに対して透過性であることが好ましい。描写された装置10において、本体20、第1の層30および/または第2の層40が、選択された波長の電磁エネルギーに対して透過性であってよい。
【0028】
しかしながら、いくつかの例において、プロセスチャンバー中への選択波長の電磁エネルギーの透過を防止することが望ましい。例えば、プロセスチャンバー内に位置するいずれかの試薬、試料物質等にエネルギーが逆影響を与えるため、プロセスチャンバー中への紫外線スペクトルの電磁エネルギーの透過を防止することが好ましい。
【0029】
図2は、例えば、装置10におけるプロセスチャンバー50の拡大断面図であり、そして図3は、図2の線3−3に沿ったプロセスチャンバー50の断面図である。上記の通り、本体20は、第1の長辺22および第2の長辺24を含む。本実施形態の少なくとも一部で、各プロセスチャンバー50は、本体20を通して形成される主空隙70によって形成される。主空隙70は、本体20の第1の長辺22および第2の長辺24を通して形成される。
【0030】
主空隙70は、第2の層40を通してプロセスチャンバー50の体積中への、例えばピペットチップ、毛管電極チップまたは他の器具の誘導を補助するため面取リム72のような特徴を含んでもよい。面取リム72は、首部73を通して主空隙70の主要部分中に至る。
【0031】
主空隙70はまた、側壁74を含む。図示された主空隙70は円形円筒形状を有するため、1つのみの側壁74を含む。しかしながら、主空隙70は、様々な形状、例えば、楕円形、長円形、六角形、八角形、三角形、正方形等であってよく、1以上の側壁を含んでもよいことは理解されるべきである。
【0032】
分配チャンネル60は、本体20の第1の長辺22に最も近いプロセスチャンバー50に入る。図示された実施形態において、分配チャンネル60は、本体20中に形成されて、第1の層30が分配チャンネル60を形成する。分配チャンネル60に関する多くの他の構造が考えられる。例えば、分配チャンネルは第1の層30内で形成されてよく、本体20の第1の長辺22は実質的に平坦なままである。分配チャンネル60の正確な構造にかかわらず、それが、本体20の第1の長辺22に最も近いプロセスチャンバーに入ることが好ましい。
【0033】
また図2に示されるように、バイパススロット80は、主空隙70の側壁74に形成される。バイパススロット80は、本体24の第1の長辺22と第2の長辺24との間に延在するが、第1の長辺22と第2の長辺24との間の距離の全てにわたって延在しなくてもよい。しかしながら、バイパススロット80は、プロセスチャンバー50の主空隙70から遠位の位置で本体20の第1の長辺22に最も近い分配チャンネル60中に開放する。
【0034】
バイパススロット80は、好ましくは、プロセスチャンバー50の主空隙70に相対的な角度であってよい。1つの様式において、バイパススロット80は、プロセスチャンバー50の縦軸51に直交する平面内で画定される断面積を有することを特徴とし得る。そのような特徴を有する場合、バイパススロット80の断面積は、好ましくは、バイパススロット80が分配チャンネル60内で開口する位置において最大である。バイパススロット80は、本体20の第1の長辺22から遠位に位置する最小断面積を有することが好ましい。
【0035】
もう1つの特徴において、バイパススロット80は、バイパススロット80が分配チャンネル60中へと開放する位置で最大である断面積(プロセスチャンバー50の縦軸51に対して平面直交で測定される)を有し、本体20の第1の長辺22から第2の長辺24に向かってバイパススロット80の断面積が減少する。
【0036】
あるいは、バイパススロット80は、バイパススロット80が分配チャンネル60内で開口する位置において最大である断面積(プロセスチャンバー50の縦軸51に直交する平面内で画定される)を有し、本体20の第1の長辺20から第2の長辺24に向かってバイパススロット80の断面積が滑らかに減少することを特徴とする。バイパススロット80は、線形の様式で減少するように図示されるが、バイパススロット80のプロファイルは、滑らかな曲線、例えば、放物線等であってもよい。
【0037】
図4は、バイパススロット180が、プロセスチャンバー150の縦軸151に直交する平面内で画定される断面積を有するもう1つの代替案を示す。バイパススロット180の断面積は、バイパススロット180が分配チャンネル160内で開口する位置において最大であり、本体120の第1の長辺122から第2の長辺124に向かってバイパススロット180の断面積が段階的に減少する。
【0038】
図5は、本発明に従うバイパススロット280に関するもう1つの代替構成を示す。バイパススロット280は、その最も外側の表面、すなわちプロセスチャンバー250の縦軸251から遠位に位置する表面が、縦軸251と本質的に平行であるか、または少なくとも概ね整合配置されるため、平行バイパススロットとして記載されてよい。結果として、バイパススロット280は、本体220の第1の長辺222から第2の長辺224に向かって実質的に一定である断面積(プロセスチャンバー250の縦軸251に直交する平面内で画定される)を有することを特徴とする。
【0039】
図5に示されるもう1つの特徴は、バイパススロット280が、本体220の第2の長辺222(第2の層240によって密封されている)まで延在することである。結果として、バイパススロット280は、分配チャンネル260(第1の層230によって密封されている)から、第2の長辺222まで延在し、(プロセスチャンバー250に関連して)上記から見られるように「かぎ穴」形状を本質的に形成する。
【0040】
図2および図3を再び参照すると、バイパススロット80は、本体20の第1の長辺22から遠位の終結点82を有する。バイパススロット80の終結点82は、本体20の第2の長辺24から間隔をあけていることが好ましく、すなわち、バイパススロット80は、第2の長辺24に達する前に終結することが好ましい。図示された実施形態において、バイパススロット80は、面取リム72によって占領された領域内で終結する。結果として、全首部73がプロセスチャンバー50中に挿入された器具によって占領された場合さえも、バイパススロット80を通して流体(例えば、空気)を逃がすことができる(バイパススロット80は面取リム72に形成される)。
【0041】
図3は、本発明を特徴付けるために使用可能な他の関係を示す。例えば、バイパススロット80は、好ましくは、主空隙70の幅より狭い幅を有することができる。さらに、バイパススロットは、好ましくは、分配チャンネルの幅と等しいか、またはそれより狭い幅を有することができる(図3に示す通り)。バイパススロット80は、一定の幅を有するように図3に示されているが、バイパススロット80の幅は変更可能である。例えば、バイパススロットは、分配チャンネルの幅に実質的に調和する分配チャンネルにおける幅を有してよいが、これは、本体20の第1の長辺22から第2の長辺24に向かうに従って広くなったり狭くなったりしてもよい。
【0042】
必要ではないが、本発明の試料処理装置は、分散チャンネル60を通してプロセスチャンバー50への流体送達を実行するために試料処理装置が回転される回転システムにおいて使用することができる。かかるシステムにおいて、本発明のプロセスチャンバー50の主空隙70およびバイパススロット80は、好ましくは、バイパススロット80が、流体送達の間に使用される回転軸の最も近くのプロセスチャンバー50の側に位置するように配向され得る。また典型的に、分配チャンネル60は、回転軸の最も近い側からプロセスチャンバー50に入る。
【0043】
かかる回転システム、およびそれに使用するために設計された試料処理装置において、毛管力、流体内の表面張力、および/またはプロセスチャンバーを構成するために使用される物質の表面エネルギーが、充填後の流体によるプロセススロット80の湿潤の可能性を防止するか、または減少するように、プロセスチャンバーの寸法、例えば、主空隙70の直径、バイパススロット80の幅等が選択されることが好ましい。
【0044】
図6および図7を用いて、本発明の潜在的な利点を図示する。図6は、本発明に関連して記載されるようなバイパススロットを含まないプロセスチャンバー350の断面図である。流体352は、遠心力によって分配チャンネル360を通してプロセスチャンバー350中に充填されている。試料処理装置の回転に対する回転軸は、矢印353の方向に位置する。プロセスチャンバー350内で生じた毛管力と流体352の表面張力との組み合わせは、流体352を回転軸から偏らせたままであるようなものである。結果として、流体352は、回転軸に最も近いプロセスチャンバーの表面に接触しないか、またはそれを湿潤させない。
【0045】
また図6は、プロセスチャンバー350の体積中に挿入するために平衡状態にある器具390も図示する。器具390は、例えば、流体352内の物質において電気泳動を実行するために使用される毛管電極であってよい。多くの例において、器具390およびプロセスチャンバー350の相対的な寸法は、器具390がプロセスチャンバー350中に導入される時に流体352が分配チャンネル360中に戻されるピストン効果を生じ得る。プロセスチャンバー内の流体352の量が相対的に少ないため、流体のいずれのかかる損失も、流体352中の試料物質の分析に悪影響を及ぼし得る。
【0046】
図7は、流体352中への器具390の挿入後のプロセスチャンバー350の断面図である。発明者によって実行された実験は、バイパススロットがない場合、実際に、プロセスチャンバー350中への器具390の挿入時に、流体352が分散チャンネル360中に戻されることを論証した。
【0047】
図8は、流体452が遠心力によって分配チャンネル460を通して充填された、本発明に従ってバイパススロット480を含むプロセスチャンバー450の断面図である。試料処理装置の回転に対する回転軸は、矢印453の方向に位置する。図示される通り、プロセスチャンバー450内で生じた毛管力と流体452の表面張力との組み合わせは、流体452を回転軸から偏らせたままであるようなものであることが好ましい。結果として、流体452は、回転軸に最も近く位置するバイパススロット480に接触しないか、またはそれを湿潤させない。
【0048】
プロセスチャンバー450の潜在的に適切な寸法のいくつかの例は、例えば、プロセスチャンバー直径1.7ミリメートルおよび高さ3ミリメートルである。かかるプロセスチャンバーに供給する分配チャンネルは、0.64ミリメートルの幅および0.38ミリメートルの深さを有してよい。バイパススロットが分配チャンネルの幅(すなわち、0.64ミリメートル)に等しい幅を有し、図8に図示されるような角度を有する場合、バイパススロットと分配チャンネルとの接合点は、プロセスチャンバーの側壁から0.4ミリメートルの位置にあってよい。
【0049】
また図8は、プロセスチャンバー450の体積中に挿入するために平衡状態にある器具490も図示する。器具490は、例えば、ピペットチップ、針、毛管電極等であってよい。1つの典型的な方法において、器具490は、例えば、流体452内の物質において電気泳動を実行するために使用される毛管電極であってよい。上記の通り、器具490とプロセスチャンバー450との相対的な寸法による1つの関心は、器具490がプロセスチャンバー450中に導入される時に分配チャンネル460中に戻される流体452の移動時に生じ得るピストン効果である。再び、プロセスチャンバー450内の流体452の量が相対的に少ないため、流体452のいずれのかかる損失も、流体452中の試料物質の分析に悪影響を及ぼし得る。
【0050】
図9は、流体452中への器具490の挿入後のプロセスチャンバー450の断面図である。(図示された方法において)器具490の挿入は、プロセスチャンバー450の層440の穿孔を伴う。図示された通り、バイパススロット480は、例えば、器具490の導入の前にプロセスチャンバー450内に含まれる空気を逃す流体通路を提供することによって、プロセスチャンバー450中への器具490の挿入時に他では生じ得るピストン効果を軽減し得る。バイパススロット480は、捕捉された空気が、面取リム472および/または分散チャンネル460を通して逃げることを可能にする。バイパススロット480が面取リム472中へと延在することによって、器具490の挿入時に、第2の層440が下方向に曲がる時のプロセスチャンバー450内の圧力は、流体452の表面を著しく歪むことなく解放される。
【0051】
本発明に対する様々な修正および変更は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明白となるであろう。本発明が、本明細書に明らかにされた実例となる実施形態によって過度に限定されるように意図されず、そしてかかる実施形態は、実例としてのみ提供されており、本発明の範囲は、請求項によってのみ限定されるように意図されることは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による1つの試料処理装置の平面図である。
【図2】図1の試料処理装置におけるプロセスチャンバーの拡大断面図である。
【図3】図2の線3−3に沿った、図2のプロセスチャンバーの断面図である。
【図4】段付きバイパススロットを含む別のプロセスチャンバーの拡大部分断面図である。
【図5】平行バイパススロットを含むプロセスチャンバーの拡大部分断面図である。
【図6】バイパススロットを含まない従来技術のプロセスチャンバーの拡大部分断面図である。
【図7】プロセスチャンバー中に器具を挿入した後の、図6の従来技術のプロセスチャンバーの拡大部分断面図である。
【図8】本発明によるバイパススロットを含むプロセスチャンバーの拡大部分断面図である(流体試料物質がプロセスチャンバーに位置する)。
【図9】プロセスチャンバー中に器具を挿入した後の、図8のプロセスチャンバーの拡大部分断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の長辺および該第1の長辺に対向する第2の長辺を含む本体と、
前記本体内に配置される複数のプロセスチャンバーであって、前記プロセスチャンバーの各々が、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在する主空隙を含む、プロセスチャンバーと、
前記複数のプロセスチャンバーの各々に入る分配チャンネルであって、前記本体の前記第1の長辺に最も近いプロセスチャンバーに入る、分配チャネルと、
前記プロセスチャンバーの各々の側壁に形成され、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在するバイパススロットであって、前記プロセスチャンバーの前記主空隙から遠位の位置で前記本体の前記第1の長辺に最も近い分配チャンネル内で開口する、パイパススロットと、
を含む、試料処理装置。
【請求項2】
前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大である、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項3】
前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大であり、さらに前記バイパススロットの最小断面積は、前記本体の前記第1の長辺から遠位に位置する、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項4】
前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大であり、さらに前記本体の前記第1の長辺から前記第2の長辺に向かって前記バイパススロットの断面積が減少する、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項5】
前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大であり、さらに前記本体の前記第1の長辺から前記第2の長辺に向かって前記バイパススロットの断面積が滑らかに減少する、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項6】
前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大であり、さらに前記本体の前記第1の長辺から前記第2の長辺に向かって前記バイパススロットの断面積が段階的に減少する、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項7】
前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間で前記バイパススロットの断面積が一定である、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項8】
前記バイパススロットが、前記本体の前記第1の長辺から遠位の終結点を含み、さらに前記バイパススロットの前記終結点は、前記本体の前記第2の長辺から間隔をあけている、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項9】
前記バイパススロットが、前記本体の前記第2の長辺へと延在する、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項10】
前記プロセスチャンバーの前記主空隙が円形円筒空隙を含む、請求項1に記載の試料処理装置。
【請求項11】
第1の長辺および該第1の長辺に対向する第2の長辺を含む本体と、
前記本体内に配置される複数のプロセスチャンバーであって、前記プロセスチャンバーの各々が、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在する主空隙を含む、プロセスチャンバーと、
前記複数のプロセスチャンバーの各々に入る分配チャンネルであって、前記本体の前記第1の長辺に最も近いプロセスチャンバーに入る、分配チャネルと、
前記プロセスチャンバーの各々の側壁に形成され、前記本体の前記第1の長辺と前記第2の長辺との間に延在するバイパススロットであって、前記プロセスチャンバーの前記主空隙から遠位の位置で前記本体の前記第1の長辺に最も近い分配チャンネル内で開口する、パイパススロットと、
を含む、試料処理装置であって、
前記バイパススロットが、前記プロセスチャンバーの縦軸に直交する平面内で画定される断面積を含み、かつ前記バイパススロットの前記断面積が、前記バイパススロットが前記分配チャンネル内で開口する位置において最大であり、
さらに前記バイパススロットが、前記本体の前記第1の長辺から遠位の終結点を含み、さらに前記バイパススロットの前記終結点は、前記本体の前記第2の長辺から間隔をあけている、試料処理装置。
【請求項12】
前記本体の前記第1の長辺から前記第2の長辺に向かって前記バイパススロットの断面積が滑らかに減少する、請求項11に記載の試料処理装置。
【請求項13】
前記本体の前記第1の長辺から前記第2の長辺に向かって前記バイパススロットの断面積が段階的に減少する、請求項11に記載の試料処理装置。
【請求項14】
前記プロセスチャンバーの前記主空隙が円形円筒空隙を含む、請求項11に記載の試料処理装置。
【請求項15】
請求項1に記載の試料処理装置を用意する工程と、
前記試料処理装置の複数のプロセスチャンバーのうちの少なくとも1つのプロセスチャンバー内に流体試料物質を充填する工程と、
前記流体試料物質によって充填された少なくとも1つのプロセスチャンバー内に器具を挿入する工程と、
を含む、プロセスチャンバー内に位置する試料物質の処理方法。
【請求項16】
前記器具が、挿入時に少なくとも1つのプロセスチャンバーの層を穿孔する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記器具が毛管電極を含み、少なくとも1つのプロセスチャンバー内に位置する流体試料物質において毛管電気泳動を実行する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
請求項11に記載の試料処理装置を提供する工程と、
前記試料処理装置の複数のプロセスチャンバーのうちの少なくとも1つのプロセスチャンバー内に流体試料物質を充填する工程と、
前記流体試料物質によって充填された少なくとも1つのプロセスチャンバー内に器具を挿入する工程と、
を含む、プロセスチャンバー内に位置する試料物質の加工方法。
【請求項19】
前記器具が、挿入時に少なくとも1つのプロセスチャンバーの層を穿孔する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記器具が毛管電極を含み、少なくとも1つのプロセスチャンバー内に位置する流体試料物質において毛管電気泳動を実行する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−513421(P2006−513421A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566492(P2004−566492)
【出願日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/036954
【国際公開番号】WO2004/062802
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】