説明

バタフライ弁

【課題】内燃機関に吸入される吸入空気を通す吸気路2を開閉するバタフライ弁1において、弁部3の下流側で軸受部6の近傍領域における淀みの発生を抑制する。
【解決手段】バタフライ弁1によれば、弁部3の上流面11には、上流面11に沿って一方側に向かう吸入空気の流れを放射状に分散させる溝18が設けられている。これにより、吸入空気は、上流面11に沿って一方側に流れても一端頂縁15に集中することなく、弁部3の周縁12に広く分散して弁部3の下流側に流れ込むので、弁部3の下流側では、軸受部6の近傍に流入する吸入空気が多くなる。このため、弁部3の下流側で軸受部6の近傍領域における淀みの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に吸入される吸入空気または内燃機関から排気される排気ガスを通す流路を開閉するバタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、内燃機関に吸入される吸入空気を通す吸気路を開閉するスロットル弁にはバタフライ弁が利用されている。
従来のバタフライ弁100は、例えば、図5および図6に示すように、吸気路101の開度を可変する円板状の弁部102、および吸気路101の壁部103に軸受される回転軸部104を備える。弁部102は、回転することで吸気路101に対する傾斜状態を可変して吸気路101の開度を可変する。また、回転軸部104は、弁部102の直径を形成する位置で弁部102を貫通している。そして、弁部102から突出する回転軸部104の両端部が、壁部103に軸受される軸受部105をなす。
【0003】
さらに、弁部102は、回転軸心よりも一方側の部分であって開方向への回転により下流側に突出する一方部106と、回転軸心よりも他方側の部分であって開方向への回転により上流側に突出する他方部107とを有する。また、弁部102の両面の内、上流側に面する上流面108は、一方部106および他方部107の両部に跨って形成されている。
【0004】
そして、弁部102の回転により、一方部106と壁部103との間、および他方部107と壁部103との間に、それぞれ、弁部102の上流側と下流側との間を連通する一方側、他方側連通口109、110が形成されて吸気路101が開状態になる(なお、以下の説明では、径方向、周方向と記載する場合、それぞれ、弁部102についての径方向、周方向を意味するものとする。)。
【0005】
ここで、開状態において、一方部106の周縁111は、軸受部105から周方向に遠ざかるほど壁部103との径方向の距離が離れていく。そして、周縁111の中で、軸受部105から周方向に最も遠くかつ等距離にある一端頂縁112において、壁部103との径方向の距離が最も大きくなる。これにより、吸入空気は、上流面108に沿って一方側に流れ、一端頂縁112に集中しようとする。そして、吸入空気は、主に、一端頂縁112の近傍の周縁111から一方側連通口109を通って弁部102の下流側に流れ込む。
【0006】
このため、弁部102の下流側では、軸受部105の近傍領域に吸入空気が充分に流入せず、淀みが発生しやすくなり、結果的に、軸受部105の近傍の壁部103にデポジットが堆積しやすくなってしまい、弁部102の摺動抵抗が増大する虞が高まる。
そこで、弁部102の下流側で軸受部105の近傍領域における淀みの発生を抑制することができる構造が要求されている。
【0007】
なお、特許文献1には、他方部に相当する部分の上流面に凹部を有するバタフライ弁が開示されている。しかし、このような凹部を設けても、弁部の下流側における淀みの発生を抑制することはできない。
【0008】
また、特許文献2には、上流面に複数本の溝を有するバタフライ弁が開示されている。しかし、これらの溝は、上流面に付着した燃料を一端頂縁の方に向かって集中させるように導くものである。このため、上流面に沿って流れる吸入空気も一端頂縁の方に向かって集中しやすくなっていると考えられ、弁部の下流側における淀みの発生を抑制する目的に反する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−162562号公報
【特許文献2】実開昭58−146048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関に吸入される吸入空気または内燃機関から排気される排気ガスを通す流路を開閉するバタフライ弁において、弁部の下流側で軸受部の近傍領域における淀みの発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、バタフライ弁は、内燃機関に吸入される吸入空気または内燃機関から排気される排気ガスを通す流路を開閉するものであり、流路の開度を可変する板状の弁部を備え、弁部は、回転することで流路に対する傾斜状態を可変して流路の開度を可変する。また、弁部は、回転軸心よりも一方側の部分であって開方向への回転により下流側に突出する一方部と、回転軸心よりも他方側の部分であって開方向への回転により上流側に突出する他方部とを有し、弁部の両面の内、上流側に面する上流面は、一方部および他方部の両部に跨って形成されている。
【0012】
さらに、弁部の回転により弁部の上流側と下流側との間が連通して流路が開状態になったときに、吸入空気または排気ガスは上流面に沿って一方側に流れる。そして、上流面には、上流面に沿って一方側に向かう吸入空気または排気ガスの流れを放射状に分散させる隆起または溝が設けられている。
【0013】
これにより、吸入空気や排気ガスは、上流面に沿って一方側に流れても一端頂縁に集中することなく、弁部の周縁に広く分散して弁部の下流側に流れ込むので、弁部の下流側では、軸受部の近傍領域に流入する吸入空気や排気ガスが多くなる。このため、弁部の下流側で軸受部の近傍領域における淀みの発生を抑制することができる。
【0014】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、隆起または溝は、1つの頂部から異なる2方向に伸びる2つの辺部を有するV字状を呈している。そして、頂部は、上流面上で回転軸心を垂直に2等分する垂直2等分線上に配され、2つの辺部は、垂直2等分線を挟むように、かつ、一方側に向かうほど垂直2等分線から離れていくように設けられている。
この手段は、隆起または溝の1態様を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)はバタフライ弁の正面図であり、(b)はバタフライ弁の側面図である(実施例)。
【図2】(a)は上流面に沿う流れを示すバタフライ弁の正面図であり、(b)は上流面に沿う流れを示すバタフライ弁の平面図である(実施例)。
【図3】バタフライ弁を通過する流れを示すバタフライ弁の側面図である(実施例)。
【図4】バタフライ弁の正面図である(変形例)。
【図5】(a)は上流面に沿う流れを示すバタフライ弁の正面図であり、(b)は上流面に沿う流れを示すバタフライ弁の平面図である(従来例)。
【図6】バタフライ弁を通過する流れを示すバタフライ弁の側面図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態のバタフライ弁は、内燃機関に吸入される吸入空気または内燃機関から排気される排気ガスを通す流路を開閉するものであり、流路の開度を可変する板状の弁部を備え、弁部は、回転することで流路に対する傾斜状態を可変して流路の開度を可変する。また、弁部は、回転軸心よりも一方側の部分であって開方向への回転により下流側に突出する一方部と、回転軸心よりも他方側の部分であって開方向への回転により上流側に突出する他方部とを有し、弁部の両面の内、上流側に面する上流面は、一方部および他方部の両部に跨って形成されている。
【0017】
さらに、弁部の回転により弁部の上流側と下流側との間が連通して流路が開状態になったときに、吸入空気または排気ガスは上流面に沿って一方側に流れる。そして、上流面には、上流面に沿って一方側に向かう吸入空気または排気ガスの流れを放射状に分散させる隆起または溝が設けられている。
【0018】
また、隆起または溝は、1つの頂部から異なる2方向に伸びる2つの辺部を有するV字状を呈している。そして、頂部は、上流面上で回転軸心を垂直に2等分する垂直2等分線上に配され、2つの辺部は、垂直2等分線を挟むように、かつ、一方側に向かうほど垂直2等分線から離れていくように設けられている。
【実施例】
【0019】
〔実施例の構成〕
実施例のバタフライ弁1の構成を、図1〜図3を用いて説明する。
バタフライ弁1は、例えば、内燃機関(図示せず)に吸入される吸入空気を通す吸気路2を開閉するスロットル弁に利用されるものであり、周知の電動モータ(図示せず)から回転トルクを与えられて回転することで吸気路2の開度を可変するものである。
【0020】
また、バタフライ弁1は、吸気路2の開度を可変する円板状の弁部3、および吸気路2の壁部4に軸受される回転軸部5を備える。弁部3は、回転することで吸気路2に対する傾斜状態を可変して吸気路2の開度を可変する。また、回転軸部5は、弁部3の直径を形成する位置で弁部3を貫通している。そして、弁部3から突出する回転軸部5の両端部が、壁部4に軸受される軸受部6をなす。
【0021】
さらに、弁部3は、回転軸心よりも一方側の部分であって開方向への回転により下流側に突出する一方部9と、回転軸心よりも他方側の部分であって開方向への回転により上流側に突出する他方部10とを有する。また、弁部3の両面の内、上流側に面する上流面11は、一方部9および他方部10の両部に跨って形成されている。なお、一方部9および他方部10は、両方とも半円板状である。
【0022】
このようなバタフライ弁1によれば、閉状態では、弁部3の周縁12が全て壁部4に接して弁部3の上流側と下流側との間が遮断されている。そして、弁部3の回転により、一方部9が下流側に傾斜して突出するとともに他方部10が上流側に傾斜して突出すると、一方部9と壁部4との間、および他方部10と壁部4との間に、それぞれ、弁部3の上流側と下流側との間を連通する一方側、他方側連通口13、14が形成されて吸気路2が開状態になる(なお、以下の説明では、径方向、周方向と記載する場合、それぞれ、弁部3についての径方向、周方向を意味するものとする。)。
【0023】
ここで、開状態において、一方部9の周縁12Aは、軸受部6から周方向に遠ざかるほど壁部4との径方向の距離が離れていく。そして、周縁12Aの中で、軸受部6から周方向に最も遠くかつ等距離にある一端頂縁15において、壁部4との径方向の距離が最も大きくなる。そして、このような開状態において、大部分の吸入空気が上流面11に沿って一方側に流れて一方側連通口13から弁部3の下流側に流入し、少量の吸入空気が他方側連通口14から弁部3の下流側に流入する。
【0024】
〔実施例の特徴〕
実施例のバタフライ弁1の特徴を、図1〜図3を用いて説明する。
弁部3の上流面11には、上流面11に沿って一方側に向かう吸入空気の流れを放射状に分散させる溝18が設けられている。溝18は、例えば、1つの頂部19から異なる2方向に伸びる2つの辺部20を有するV字状を呈している。そして、頂部19は、上流面11上で回転軸心を垂直に2等分する垂直2等分線上に配され、2つの辺部20は、垂直2等分線を対称軸として線対称となるように、かつ、一方側に向かうほど垂直2等分線から離れていくように設けられている。
【0025】
ここで、V字状の溝18は3つ設けられている(これら3つの溝18を他方側から一方側に向かって順次、18a、18b、18cとする)。また、溝18a〜18cは、例えば、図1(a)において、図示右側にある辺部20が互いに平行であり、図示左側にある3つの辺部20も互いに平行である。なお、溝18a〜18cは、回転軸部5が貫通している部分は欠落するように設けられている。
【0026】
つまり、溝18bは、2つの辺部20が両方とも頂部19から一方側に向かう途中で回転軸部5の存在により欠落しており、溝18cは、頂部19が回転軸部5の存在により欠落している。
【0027】
〔実施例の効果〕
実施例のバタフライ弁1によれば、弁部3の上流面11には、上流面11に沿って一方側に向かう吸入空気の流れを放射状に分散させる溝18が設けられている。
これにより、吸入空気は、上流面11に沿って一方側に流れても一端頂縁15に集中することなく、弁部3の周縁12に広く分散して弁部3の下流側に流れ込むので、弁部3の下流側では、軸受部6の近傍に流入する吸入空気が多くなる。このため、弁部3の下流側で軸受部6の近傍領域における淀みの発生を抑制することができる。
【0028】
〔変形例〕
バタフライ弁1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例のバタフライ弁1によれば、溝18はV字状を呈していたが、図4に示すように、頂部19を有さず一方側に向かって凸を形成するように溝18を設けてもよい。
【0029】
また、実施例のバタフライ弁1によれば、吸入空気の流れを放射状に分散させるために溝18を設けていたが、溝18に替えて隆起を設けてもよい。
さらに、実施例のバタフライ弁1はスロットル弁に利用されて吸入空気を通す吸気路2を開閉するものであったが、例えば、排気ガスを吸気路2に還流するためのEGR流路を開閉するEGR弁等に利用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 バタフライ弁
2 吸気路(流路)
3 弁部
9 一方部
10 他方部
11 上流面
18、18a〜18c 溝
19 頂部
20 辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に吸入される吸入空気または前記内燃機関から排気される排気ガスを通す流路を開閉するバタフライ弁であって、
前記流路の開度を可変する板状の弁部を備え、
前記弁部は、回転することで前記流路に対する傾斜状態を可変して前記流路の開度を可変し、
前記弁部は、回転軸心よりも一方側の部分であって開方向への回転により下流側に突出する一方部と、回転軸心よりも他方側の部分であって開方向への回転により上流側に突出する他方部とを有し、
前記弁部の両面の内、上流側に面する上流面は、前記一方部および前記他方部の両部に跨って形成されており、
前記弁部の回転により前記弁部の上流側と下流側との間が連通して前記流路が開状態になったときに、吸入空気または排気ガスは前記上流面に沿って一方側に流れ、
前記上流面には、前記上流面に沿って一方側に向かう吸入空気または排気ガスの流れを放射状に分散させる隆起または溝が設けられていることを特徴とするバタフライ弁。
【請求項2】
請求項1に記載のバタフライ弁において、
前記隆起または前記溝は、1つの頂部から異なる2方向に伸びる2つの辺部を有するV字状を呈しており、
前記頂部は、前記上流面上で回転軸心を垂直に2等分する垂直2等分線上に配され、
前記2つの辺部は、前記垂直2等分線を挟むように、かつ、一方側に向かうほど前記垂直2等分線から離れていくように設けられていることを特徴とするバタフライ弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−47057(P2012−47057A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187179(P2010−187179)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】