説明

バッテリ監視装置および車両走行制御装置

【課題】バッテリの充電状態を示す指標値(SOC)の異常を診断する。
【解決手段】車両1は、走行用動力源としてのモータ25と、このモータ25に給電するバッテリ32と、制御系機器3とを備える。バッテリ監視部34は、バッテリ32の充電状態を示す指標値SOCを算出する。使用者によって起動スイッチ37が操作されると、起動制御部36は、診断指令信号をハイブリッド制御部35に送信する。ハイブリッド制御部35は、診断指令信号に応答して、バッテリ32の充電又は放電を実行する。起動制御部36は、バッテリ32の充電または放電が実行されたときに表れる指標値SOCの変化に基づいて、指標値SOCの異常を判定する。指標値SOCの異常が判定されると、起動制御部36は、モータ25による走行を禁止し、内燃機関24のみによる走行を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池(以下、バッテリという)の充電状態を監視し、バッテリからの放電、または充電を制御するバッテリ監視装置に関する。また、本発明は、上記バッテリ監視装置を備える車両走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の機器にバッテリが用いられている。また、バッテリの充電状態を監視し、バッテリからの放電、または充電を制御するバッテリ監視装置が知られている。例えば、特許文献1、および特許文献2は、車両の動力源として車両に搭載されたバッテリの充電状態を監視する装置を開示している。かかる装置では、バッテリの充電状態は、バッテリからモータへの給電量の制御、バッテリへの充電電力の制御など広範な用途に用いられる。
【0003】
バッテリの充電状態は、例えば、SOC(充電状態:State Of Charge)と呼ばれる指標によって示すことができる。SOCは、バッテリの充放電特性を観測することによって求めることができることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3607105号
【特許文献2】特許第3659068号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の構成では、バッテリの充電状態を検出する機器に異常を生じると、実際の充電状態と、検出された充電状態とが不一致になるという問題点があった。かかる場合に、検出された充電状態が異常な値を示せば、異常を検出して対策処理を実行することができる。ところが、検出された充電状態が、充電状態の正常範囲内である場合、もしその検出された充電状態が異常な値であっても、異常状態を検出することができないという問題点がある。例えば、なんらかの原因で、検出された充電状態が、固定値となり、しかもその固定値が、実際の充電状態が取りうる範囲内に位置する場合が想定される。
【0006】
このような場合、実際の充電状態に対応しない誤った値に基づいてバッテリ、バッテリから給電される機器、またはバッテリに充電する機器が制御される。この結果、バッテリの過充電、または過放電といった不具合を生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、バッテリの充電状態の異常を判定することができるバッテリ監視装置を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、バッテリおよびモータを走行用動力源の少なくとも一部とする車両において、車両の使用に与える影響を抑えながら、バッテリの充電状態の異常を判定することができるバッテリ監視装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0010】
請求項1に記載の発明は、車両の走行用動力源としてのモータに給電するバッテリ(32)の状態を監視するバッテリ監視装置において、バッテリの充電状態を示す指標値(SOC)を算出する充電状態算出手段(34)と、バッテリの充電又は放電を実行する通電制御手段(154)と、通電制御手段によりバッテリの充電または放電が実行されたときに表れる指標値の変化に基づいて、指標値の異常を判定する判定手段(156、157、158)とを備えることを特徴とする。この構成によると、バッテリの充電状態を示す指標値の変化に基づいて、当該指標値の異常を判定することができる。例えば、充電状態判定手段により算出される指標値が一定値に固定される異常を判定することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、さらに、車両の起動時を検出する起動検出手段(37、141)を備え、起動検出手段により車両の起動が検出されると、通電制御手段がバッテリの充電または放電を実行し、判定手段が指標値の異常を判定することを特徴とする。この構成によると、車両の起動時に指標値の診断を実行することができる。このため、車両の使用に与える影響を抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、判定手段(158)は、起動検出手段により車両の起動が検出された後の所定時間内に、指標値の異常を判定することを特徴とする。この構成によると、使用者が車両の起動を求めてから所定時間内に指標値の診断を実行することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、通電制御手段(154)は、所定時間内に、バッテリの充電または放電を繰り返し実行し、判定手段(157)は、所定時間内に、指標値の異常を繰り返し判定することを特徴とする。この構成によると、使用者が車両の起動を求めてから早期に指標値の異常を判定することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、判定手段(156、157)は、通電制御手段がバッテリの充電または放電を実行する前の指標値の初期値(SOCi)と、通電制御手段がバッテリの充電または放電を実行した後の指標値の現在値(SOCn)との差に基づいて、指標値の異常を判定することを特徴とする。この構成によると、バッテリの充電または放電によって生じる指標値の差に基づいて、その指標値の異常を判定することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、バッテリ監視装置と、通電制御手段によりバッテリの充電または放電が実行されたときに車両の移動を阻止する移動阻止手段(152、153)とを備える車両走行制御装置であって、通電制御手段(154)は、モータを回転させることにより、バッテリの充電または放電を実行することを特徴とする。この構成によると、車両の走行用動力源としてのモータを回転させてバッテリの充電または放電が実行されても、車両の移動を阻止することができる。例えば、内燃機関などによってモータを回転させることにより、モータを発電機として使用し、その発電電力によりバッテリを充電する場合に、移動阻止手段を機能させることが望ましい。また、バッテリからモータに電力を供給してモータを回転させ、バッテリを放電させる場合に、移動阻止手段を機能させることが望ましい。
【0016】
請求項7に記載の発明は、移動阻止手段(152、153)は、モータと駆動輪との間の動力伝達経路を遮断する遮断手段を備えることを特徴とする。この構成によると、動力伝達経路が遮断されるから、確実に車両の移動を阻止することができる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、判定手段により指標値の異常が判定されたときに、バッテリからモータへの給電を制限する制限手段(173)を備えることを特徴とする。この構成によると、指標値が異常である場合に、バッテリからモータへの給電が制限される。この結果、異常な指標値に基づいてバッテリが制御されることにより生じるおそれのある不具合を抑制することができる。例えば、バッテリの過充電、または過放電の発生を抑制することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、制限手段は、バッテリからモータへの給電を禁止することを特徴とする。この構成によると、異常な指標値に基づいてバッテリが制御されることにより生じるおそれのある不具合を回避することができる。
【0019】
なお、特許請求の範囲および上記手段の項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る車両を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の車両において実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明を適用した第1実施形態に係る電動の車両1を示すブロック図である。車両1は、内燃機関と電動発電機(以下、モータという)とを搭載し、それらを組み合わせて走行用の動力を得るいわゆるハイブリッド車両である。車両1は、駆動系機器2と、制御系機器3とを備える。
【0023】
駆動系機器2は、駆動輪21に接続されたディファレンシャルギヤ(DF)22と、変速機(TRM)23とを備える。変速機23の入力軸は、内燃機関24およびモータ(MG)25の少なくともいずれか一方によって駆動される。すなわち、内燃機関24のみ、モータ25のみ、または内燃機関24とモータ25との両方が動力源として使用される。内燃機関24は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである。モータ25は、電動発電機である。モータ25は、電力を供給されるとき電動機として機能して、走行用動力を供給する。また、モータ25は、電力を供給されるとき電動機として機能して、内燃機関24を回転させ、内燃機関24を始動、またはアシストすることができる。さらに、モータ25は、モータ25が駆動輪21によって、または内燃機関24によって駆動されるとき発電機として機能することができる。この場合、モータ25は、車両1の減速装置、または後述するバッテリ32への充電装置として機能することができる。内燃機関24とモータ25とは、変速機23の入力軸に対して直列に接続されている。よって、内燃機関24の出力軸の動力は、モータ25を経由して変速機23の入力軸に伝達される。
【0024】
変速機23の入力軸とモータ25の回転軸との間には、第1クラッチ26が設けられている。第1クラッチ26は、接続状態のとき、モータ25の回転軸と変速機23の入力軸とを完全に接続する。第1クラッチ26は、遮断状態のとき、変速機23の入力軸への動力入力を完全に遮断する。第1クラッチ26は、モータ25からの走行用動力の伝達経路を機械的に遮断する手段として機能する。
【0025】
内燃機関24の出力軸とモータ25の回転軸との間には、第2クラッチ27が設けられている。第2クラッチ27は、接続状態のとき、内燃機関24の出力軸とモータ25の回転軸とを完全に接続する。第2クラッチ27は、遮断状態のとき、内燃機関24の出力軸とモータ25の回転軸とを完全に遮断する。
【0026】
制御系機器3は、駆動系機器2を制御することによって車両1の走行を制御する車両走行制御装置を構成している。制御系機器3は、駆動系機器2に属する変速機23、内燃機関24、モータ25、第1クラッチ26、および第2クラッチ27といった複数の機器を制御する複数の制御装置を備える。制御装置は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを格納している。記憶媒体は、メモリによって提供されうる。プログラムは、制御装置によって実行されることによって、制御装置をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置を機能させる。制御装置が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0027】
制御系機器3は、インバータ回路(INV)31およびバッテリ(BATT)32を備える。インバータ回路31は、モータ25の消費電力、および発電電力を制御する。インバータ回路31は、例えば、3相フルブリッジ構成の回路によって提供される。バッテリ32は、繰り返して充電可能な二次電池である。バッテリ32は、車両1の走行用動力源としてのモータ25に給電する。バッテリ32は、さらに、車両1に搭載された他の電動機などの電気負荷にも給電することができる。例えば、バッテリ32は、比較的消費動力を大きい空調装置の圧縮機を駆動するための電動機などの大電力電動機に給電することができる。バッテリ32は、通常の車両に電源として搭載される12V〜24V程度の低電圧バッテリに比べて明らかに高い電圧を供給するから、高電圧バッテリとも呼ばれる。バッテリ32は、例えば、リチウムイオン電池によって提供される。インバータ回路31は、バッテリ32からモータ25へ供給される電力、またはモータ25からバッテリ32へ供給される電力を制御する。
【0028】
制御系機器3は、モータ制御部33を備える。モータ制御部33は、指令信号に応じてインバータ回路31をスイッチング制御するモータ制御装置によって提供される。モータ制御部33は、後述するハイブリッド制御部からの指令に応じて、インバータ回路31の複数のスイッチ素子を制御する。
【0029】
制御系機器3は、バッテリ監視部34を備える。バッテリ監視部34は、バッテリ32の充電状態を監視する。この実施例では、バッテリ32の充電状態を示す指標値としてSOCを用いる。バッテリ監視部34は、継続的にバッテリ32の充放電状態を監視することにより、バッテリ32のSOCを算出し、出力する。バッテリ監視部34は、バッテリ32の充電状態を示す指標値であるSOCを算出する充電状態算出手段を提供する。
【0030】
制御系機器3は、ハイブリッド制御部35を備える。ハイブリッド制御部35は、駆動系機器2を制御するとともに、モータ制御部33を制御する。ハイブリッド制御部35は、車両1の運転者の指示に応じて、駆動系機器2とモータ制御部33とを制御する。ハイブリッド制御部35はバッテリ32の充電状態から、モータ25の駆動モード、および駆動量を決定する。ハイブリッド制御部35は、例えば、モータ25を発電機として機能させる回生モード、またはモータ25を電動機として機能させる力行モードを決定する。回生モードでは、ハイブリッド制御部35は、モータ25での発電電力量とそれに応じた指令信号を決定する。さらに、力行モードでは、ハイブリッド制御部35は、モータ25への供給電力量とそれに応じた指令信号を決定する。指令信号は、モータ制御部33へ送信される。さらに、ハイブリッド制御部35は、SOCに基づいてモータ制御部33を制御する。起動制御部36は、例えば、SOCが適正範囲内に維持されるように、モータ制御部33などの機器を制御する。
【0031】
制御系機器3は、さらに、起動制御部36と、起動スイッチ37と、表示器38とを備える。起動制御部36とハイブリッド制御部35とは、マイクロコンピュータとして構成されたハイブリッド制御装置の一部である。バッテリ監視部34と、ハイブリッド制御部35と、起動制御部36とは、バッテリ32の充電状態を監視するとともに、充電状態を示す指標値としてのSOCの異常の有無を診断するバッテリ監視装置を提供する。
【0032】
起動制御部36は、SOCの異常を判定する診断手段を提供する。また、起動制御部36は、診断手段の診断結果に応じてバッテリ32の使用を制限する制限手段を提供する。起動制御部36は、車両1の運転者からの起動要求に応答して、SOCの異常を判定する診断処理を実行する。起動制御部36は、ハイブリッド制御部35に診断指令信号を出力することにより診断処理を実行する。よって、ハイブリッド制御部35は、診断指令信号に応答して、SOCの異常を判定するための診断処理の一部を実行する。起動スイッチ37の信号は、起動制御部36に入力される。起動スイッチ37は、車両1に搭載されたキースイッチ、またはプッシュ式のスタートスイッチである。起動スイッチ37は、車両1の使用者が車両1の使用を開始しようとするときに操作されるスイッチである。起動スイッチ37は、それが操作されると起動要求信号を起動制御部36に入力する。表示器38は、診断結果を使用者に対して表示するための表示手段を提供する。表示器38は、例えば、インジケータランプ、またはディスプレイ装置によって提供することができる。
【0033】
起動制御部36は、診断処理の結果に応じて、モータ25を走行用動力源として使用する電動車両として車両1を起動することの可否を示す起動可否信号を出力する。起動制御部36は、SOCが正常であると判定された場合、電動車両として車両1を起動することを許可する起動許可信号を出力する。起動制御部36は、SOCの異常が判定された場合、電動車両として車両1を起動することを禁止する起動禁止信号を出力する。起動可否信号は、ハイブリッド制御部35に入力される。
【0034】
ハイブリッド制御部35は、起動制御部36からの起動可否信号に応じて、車両1をハイブリッド車両として起動するか、または内燃機関24のみで駆動される内燃機関車両として起動するかを選択する。ハイブリッド制御部35は、診断結果に応じて駆動系機器2およびモータ制御部33を制御する。ハイブリッド制御部35は、起動制御部36から起動許可信号が入力されると、車両1をハイブリッド車両として起動し、ハイブリッド車両として機能するように駆動系機器2およびモータ制御部33を制御する。ハイブリッド制御部35は、起動制御部36から起動禁止信号が入力されると、インバータ31からモータ25への給電を禁止し、車両1を内燃機関車両として起動し、内燃機関車両として機能するように駆動系機器2およびモータ制御部33を制御する。
【0035】
図2は、第1実施形態の車両1において実行される処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、ハイブリッド制御部35と起動制御部36とによって実行される車両走行制御処理140を示している。車両走行制御処理140は、SOCの異常を判定するための診断処理と、その診断結果に応じて車両1の機能を切替える切替え処理とを含んでいる。車両走行制御処理140は、制御装置への電源投入の直後から繰り返して実行される。
【0036】
ステップ141では、起動スイッチ37によって起動操作がなされたか否かが判定される。ステップ141の処理は、起動スイッチ37が操作されるまで繰り返され、待機状態が提供される。ステップ141は、車両1の起動時を検出する起動検出手段を提供する。起動スイッチ37が操作されると、ステップ142に進む。ステップ142では、モータ制御部33と、バッテリ監視部34と、ハイブリッド制御部35とが起動される。これにより、制御系機器3が機能可能な状態におかれる。
【0037】
ステップ143では、バッテリ状態を検出する処理が実行される。この処理は、バッテリ監視部34からSOCを入力することによって実行される。入力されたSOCは、バッテリ状態の初期値として記憶される。以下、初期値はSOCiと呼ばれる。
【0038】
ステップ144では、ハイブリッド制御部35に診断指令信号が出力される。ハイブリッド制御部35は、診断指令信号に応答して、バッテリ32を電源とする電気負荷に通電することにより、バッテリ32の電力を消費する。
【0039】
ステップ151は、ハイブリッド制御部35によって実行される処理を示す。ステップ151は、バッテリ32の電力を消費するための電力消費制御処理を提供する。ステップ151では、モータ25から駆動輪21への動力伝達経路を遮断状態とするとともに、モータ25を駆動することによってバッテリ32の電力を消費する。ステップ152では、第1クラッチ26と、第2クラッチ27との両方を遮断状態に制御する。ステップ153では、変速機23のモードを駐車位置P(パーキング)、または中立位置N(ニュートラル)に制御する。これにより、モータ25から駆動輪21への動力伝達経路が完全な遮断状態となる。変速機23および第1クラッチ26の少なくとも一方は、モータ25と駆動輪21との間の動力伝達経路を遮断する遮断手段を提供する。ステップ152およびステップ153の少なくとも一方は、ステップ154によりバッテリ32の充電または放電が実行されたときに車両1の移動を阻止する移動阻止手段を提供する。ステップ152およびステップ153のいずれか一方だけを実行してもよい。また、車両1のブレーキ装置を併用して車両1の移動を阻止してもよい。
【0040】
ステップ154では、モータ25への通電を実行する。ステップ154によるモータ25の駆動量は、ステップ154が数回繰り返して実行された場合に、バッテリ監視部34により算出されるSOCに変化が現れる程度の量に設定されている。ステップ154におけるモータ25の駆動は、車両1を走行させることはない。よって、ステップ154におけるモータ25の駆動制御は、モータ25を空転させる空転制御処理とも呼ぶことができる。ステップ154は、バッテリ32の充電又は放電を実行する通電制御手段を提供する。
【0041】
ステップ155では、ステップ154によってモータ25を駆動した後に、バッテリ状態を検出する処理が実行される。この処理は、バッテリ監視部34からSOCを入力することによって実行される。入力されたSOCは、バッテリ状態の現在値として記憶される。以下、現在値はSOCnと呼ばれる。
【0042】
ステップ156では、バッテリ状態の変化が検出される。この処理は、SOCiとSOCnとの差SOCdを、SOCd=SOCi−SOCnによって算出する。差SOCdは、ステップ154によるモータ25の駆動によって生じるバッテリ状態の変化を示す。
【0043】
ステップ157では、差SOCdがバッテリ状態の正常な変化を示しているか否かが判定される。差SOCdが所定の正常範囲内にあれば、SOCが正常に検出されていると考えることができる。そこで、ステップ157では、差SOCdが所定の閾値SOCth以上であるか否か、すなわちSOCが所定の閾値SOCth以上に変化したか否かを判定する。差SOCdが閾値SOCth以上(SOCd≧SOCth)である場合、ステップ161へ進む。一方、差SOCdが閾値SOCth未満(SOCd<SOCth)である場合、ステップ158へ進む。
【0044】
ステップ161では、バッテリ32の電力を消費するためのモータ25への通電が停止される。ステップ162では、起動制御部36から起動許可信号が出力される。起動許可信号は、表示器38に入力される。表示器38は、起動許可信号に応答して、モータ25を使用した走行が許可されたことを示す許可表示を表示する。これにより、車両1の使用者に対して、ハイブリッド車両としての正規の走行が可能であることを知らせる。起動許可信号は、ハイブリッド制御部35にも入力される。起動許可信号は、車両1をハイブリッド車両として起動し、機能させることを許可する信号である。
【0045】
ステップ163は、ハイブリッド制御部35によって実行される処理を示す。ステップ163では、車両1を通常のハイブリッド車両として機能させるための処理が実行される。ステップ164では、モータ25への通電が許可される。ステップ165では、車両1をハイブリッド車両として走行させるハイブリッド駆動制御が実行される。車両1の運転者の操作に応じて車両1を走行させるように、内燃機関24とモータ25とが制御される。また、ステップ165においては、ハイブリッド制御部35は、SOCに基づいてバッテリ32からモータ25への給電、すなわちバッテリ32からの放電、および/またはモータ25からバッテリ32への充電を制御する。
【0046】
ステップ158では、ステップ151、152、153、154、155、156、157および158を経由するループ150を繰り返す時間が所定時間以上継続したか否かを判定する。すなわち、ステップ157によって閾値SOCth以上の変化が検出されないまま、所定時間が経過したか否かが判定される。ループ150を所定時間以上継続したことは、ステップ154のモータ駆動を所定時間繰り返しても、SOCが変化していないことを意味する。この場合、バッテリ監視部34から出力されるSOCが、実際のバッテリ状態を反映していないと推定される。例えば、モータ25、インバータ回路31、バッテリ32、またはバッテリ監視部34に何らかの異常が発生し、SOCが固定されている場合が想定される。ループ150の繰り返し実行時間が所定時間以上になるとステップ171へ進む。ループ150の繰り返し実行時間が所定時間未満の場合、ステップ151へ戻る。この結果、ステップ156、157、158の処理は、バッテリ32の充電または放電が実行されたときに表れるSOCの変化に基づいて、SOCの異常を判定する判定手段を提供する。しかも、ステップ158の処理は、車両1の起動が検出された後の所定時間内に、SOCの異常を判定するように装置を構成している。
【0047】
ステップ158における所定時間は、車両1の使用者が起動スイッチ37を操作した後に、過剰に長い遅れを感じない程度の時間に設定されている。例えば、所定時間は、2秒程度に設定することができる。さらに、ループ150は、100ミリ秒以下の周期で実行される。より具体的には、ループ150は、例えば8ミリ秒以下の周期で実行することができる。この結果、ステップ141からステップ158の診断処理は、必ず2秒以内に完了する。また、ステップ155によってSOCnが短い周期で繰り返して検出されるから、SOCが正常に変化する場合には、その変化を迅速に検出することができる。よって、SOCが正常に算出されている場合にも、診断処理を短時間に完了することができる。
【0048】
ステップ171では、バッテリ32の電力を消費するためのモータ25への通電が停止される。ステップ172では、起動制御部36から起動禁止信号が出力される。起動禁止信号は、表示器38に入力される。表示器38は、起動禁止信号に応答して、モータ25を使用した走行が禁止されたことを示す禁止表示を表示する。これにより、車両1の使用者に対して、ハイブリッド車両としての正規の走行が不可能であることを知らせる。起動禁止信号は、ハイブリッド制御部35にも入力される。起動禁止信号は、車両1をハイブリッド車両として起動し、機能させることを禁止する信号である。
【0049】
この実施形態では、起動禁止信号が出力される場合、内燃機関24だけを使った走行が可能とされる。よって、ステップ172における表示は、内燃機関車両としての走行が可能であることを知らせることでもある。言い換えると、ステップ172の処理は、車両1に期待された正規の走行機能が発揮されないこと、すなわち車両1の走行機能が制限下におかれることを使用者に知らせる処理である。また、起動禁止信号は、車両1を内燃機関車両として起動し、機能させることを許可する信号でもある。言い換えると、起動禁止信号は、車両1を所定の制限下におくことを宣言し、他の制御装置に通知する信号である。
【0050】
ステップ173は、ハイブリッド制御部35によって実行される処理を示す。ステップ173では、車両1をハイブリッド車両として機能させることなく、そのモータ25を使用する機能を制限することによって、車両1を内燃機関車両として機能させるための制限制御処理が実行される。ステップ174では、モータ25への通電が禁止される。ステップ173およびステップ174は、バッテリ32からモータ25への給電を制限する制限手段を提供する。ここでは、制限手段は、バッテリ32からモータ25への給電を禁止する。ステップ175では、車両1を内燃機関車両として走行させる内燃機関駆動制御が実行される。ステップ175では、車両1の運転者の操作に応じて車両1を走行させるように、内燃機関24だけが制御される。ステップ175においては、ハイブリッド制御部35は、SOCに基づいてバッテリ32の充放電を制御しない。
【0051】
この実施形態によると、正常ではないSOCに基づいてバッテリ32の充放電が制御されることが回避される。この結果、異常なSOCに基づいてバッテリ32の充放電が制御されることに起因する不具合を抑制することができる。しかも、内燃機関24だけを用いた走行が許可されることにより、車両1の最低限の機能を確保することができる。
【0052】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0053】
例えば、上記実施形態では、所定時間の間に、SOCの変化が所定値SOCthを超えたか否かを繰り返して判定した。これに代えて、ステップ151による電力消費制御を所定時間継続した後に、SOCの変化が所定値SOCthを超えたか否かを判定してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第1クラッチ26および第2クラッチ27と、変速機23とを動力遮断状態とした。これに代えて、第1クラッチ26および第2クラッチ27と、変速機23とのいずれか一方だけを動力遮断状態としてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、SOCが異常であると診断された場合、モータ25への通電を禁止し、内燃機関のみによる走行を許容することによって、車両1の走行機能を制限した。これに代えて、一定の制限下でモータ25の駆動を許容してもよい。例えば、制限下でモータ25のみによる走行が許容されてもよい。また、制限下で通電されるモータ25と内燃機関24とによる走行が許容されてもよい。また、SOCが異常であると診断された場合に車両1の走行機能に課される制限は、車両1の走行可能な距離などによって設定されてもよい。例えば、SOCが異常であると診断された場合に、車両1を他の交通を妨げない位置へ移動させる程度、または修理工場へ移動させる程度の退避走行だけを許容するように構成することができる。また、SOCが異常であると診断された場合、車両1の走行を完全に禁止してもよい。
【0056】
また、バッテリ監視部34によって算出されるSOCが異常であると診断された場合、バッテリ32の充電状態を示すSOC以外の他の指標を用いてもよい。例えば、SOCに代替する指標を用いてモータ25を制御するように構成してもよい。この場合、SOCを用いる場合と比べて、バッテリ32の状態を正確に反映することができない場合がある。よって、バッテリ32の管理機能、および車両1の走行機能が間接的に制限される。
【0057】
また、上記実施形態では、ハイブリッド車両に本発明を適用した。これに代えて、内燃機関24を持たない電動車両に本発明を適用してもよい。また、上記実施形態では、診断処理を実行するときに、第1クラッチ26と第2クラッチ27との両方を遮断状態とした。これに代えて、電動車両では、第1クラッチ26だけを設け、この第1クラッチ26だけを遮断状態としてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、SOCの変化を検出するために、走行用のモータ25に通電した。これに代えて、バッテリ32を電源とする他の電気負荷へ通電してもよい。例えば、空調装置の圧縮機を駆動するモータへ通電することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、SOCの変化を検出するために、電気負荷によって電力を消費した。これに代えて、バッテリ32への充電によってSOCの変化を検出してもよい。例えば、ステップ151に代えて、バッテリ32を充電する充電処理を実行する。この処理では、内燃機関24を動力源とし、モータ25を発電機とすることができる。例えば、起動スイッチ37が操作された後に、内燃機関24によってモータ25を回転させ、モータ25によって発電された電力によってバッテリ32を充電する。この場合、ステップ156および157における処理は、SOCが所定以上の増加を示す場合に、ステップ161へ分岐するように構成する。また、この場合、第1クラッチ26は遮断状態に制御され、第2クラッチ27は接続状態に制御される。かかる構成においても、バッテリ監視部34によって算出されるSOCの異常の有無を診断することができる。
【0060】
また、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 車両、2 駆動系機器、21 駆動輪、22 ディファレンシャルギヤ、23 変速機、24 内燃機関、25 モータ(電動発電機)、26 第1クラッチ、27 第2クラッチ、3 制御系機器、31 インバータ回路、32 バッテリ、33 モータ制御部、34 バッテリ監視部、35 ハイブリッド制御部、36 起動制御部、37 起動スイッチ、38 表示器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行用動力源としてのモータに給電するバッテリ(32)の状態を監視するバッテリ監視装置において、
前記バッテリの充電状態を示す指標値(SOC)を算出する充電状態算出手段(34)と、
前記バッテリの充電又は放電を実行する通電制御手段(154)と、
前記通電制御手段により前記バッテリの充電または放電が実行されたときに表れる前記指標値の変化に基づいて、前記指標値の異常を判定する判定手段(156、157、158)とを備えることを特徴とするバッテリ監視装置。
【請求項2】
さらに、前記車両の起動時を検出する起動検出手段(37、141)を備え、
前記起動検出手段により前記車両の起動が検出されると、前記通電制御手段が前記バッテリの充電または放電を実行し、前記判定手段が前記指標値の異常を判定することを特徴とする請求項1に記載のバッテリ監視装置。
【請求項3】
前記判定手段(158)は、前記起動検出手段により前記車両の起動が検出された後の所定時間内に、前記指標値の異常を判定することを特徴とする請求項2に記載のバッテリ監視装置。
【請求項4】
前記通電制御手段(154)は、前記所定時間内に、前記バッテリの充電または放電を繰り返し実行し、
前記判定手段(157)は、前記所定時間内に、前記指標値の異常を繰り返し判定することを特徴とする請求項3に記載のバッテリ監視装置。
【請求項5】
前記判定手段(156、157)は、前記通電制御手段が前記バッテリの充電または放電を実行する前の前記指標値の初期値(SOCi)と、前記通電制御手段が前記バッテリの充電または放電を実行した後の前記指標値の現在値(SOCn)との差に基づいて、前記指標値の異常を判定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のバッテリ監視装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のバッテリ監視装置と、
前記通電制御手段により前記バッテリの充電または放電が実行されたときに前記車両の移動を阻止する移動阻止手段(152、153)とを備え、
前記通電制御手段(154)は、前記モータを回転させることにより、前記バッテリの充電または放電を実行することを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項7】
前記移動阻止手段(152、153)は、前記モータと駆動輪との間の動力伝達経路を遮断する遮断手段を備えることを特徴とする請求項6に記載の車両走行制御装置。
【請求項8】
前記判定手段により前記指標値の異常が判定されたときに、前記バッテリから前記モータへの給電を制限する制限手段(173)を備えることを特徴とする請求項7に記載の車両走行制御装置。
【請求項9】
前記制限手段は、前記バッテリから前記モータへの給電を禁止することを特徴とする請求項8に記載の車両走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−139043(P2012−139043A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290122(P2010−290122)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】